(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20221212BHJP
H01G 9/20 20060101ALI20221212BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01L31/04 130
H01L31/04 112Z
H01G9/20 111D
H01G9/20 115A
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
(21)【出願番号】P 2016546681
(86)(22)【出願日】2015-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2015074999
(87)【国際公開番号】W WO2016035832
(87)【国際公開日】2016-03-10
【審査請求日】2018-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2014178204
(32)【優先日】2014-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 <1>・予稿集の公開日 :2015年6月27日 ・主催者 :国立大学法人名古屋大学 ・集会名、開催場所 :The Sixteenth International Conference on the Science and Application of Nanotubes(NT15) 名古屋大学東山キャンパス(名古屋市千種区不老町1 国立大学法人名古屋大学内) ・公開者 :ジョン イル、千葉 考昭、デラコウ クレメント、カウピネン エスコ アイ.、丸山 茂夫、松尾 豊 ・公開された発明の内容:ジョン イル、千葉 考昭、デラコウ クレメント、カウピネン エスコ アイ.、丸山 茂夫及び松尾 豊が、The Sixteenth International Conference on the Science and Application of Nanotubes(NT15)の予稿集(頁275)にて、「Single-walled Carbon Nanotube film as Electrode in Indium-Free Planar Heterojunction Perovskite Solar Cells:Investigation of Hole-transporting Layers,Dopants,and Flexible Application」について公開した。 <2>・予稿集の発行日 :2015年6月27日 ・主催者 :国立大学法人名古屋大学 ・集会名、開催場所 :Third Carbon Nanotube Thin Film Electronics and Applications Satellite(CNTFA15) 名古屋大学東山キャンパス(名古屋市千種区不老町1 国立大学法人名古屋大学内) ・公開者 :松尾 豊 ・公開された発明の内容:松尾 豊が、Third Carbon Nanotube Thin Film Electronics and Applications Satellite(CNTFA15)の予稿集(頁403)にて、「Organic Solar Cells Using Carbon Nanotube Films as Transparent Hole-selective Electrodes」について公開した。 ー以下省略ー
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】510238649
【氏名又は名称】アールト ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Aalto University
【住所又は居所原語表記】P.O.Box 11000 FI-00076 Aalto Finland
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】丸山 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】松尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】ジョン イル
(72)【発明者】
【氏名】ツイ コハン
(72)【発明者】
【氏名】カウピネン エスコ アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ナシブリン アルバート ジー.
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】吉野 三寛
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-89627(JP,A)
【文献】特開2010-93099(JP,A)
【文献】特開2012-80091(JP,A)
【文献】国際公開第2014/022580(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002113(WO,A1)
【文献】S. L. Hellstrom et al., ”Strong and Stable Doping of Carbon Nanotubes and Graphene by MoOx for Transparent Electrodes”, Nano Letters, Vol.12, No.7 (2012), pp.3574-3580
【文献】Chen Tao et al., ”Semitransparent inverted polymer solar cells with MoO3 /Ag/MoO3 as transparent electrode”, APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol. 95 (2009), 053303
【文献】Z.Li,”Laminated Carbon Nanotube Networks for Metal Electrode-Free Efficient Perovskite Solar Cells”,ACS Nano,Vol.8, No.7 (June 13, 2014),pp.6797-6804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/20, H01L 51/42-51/48, H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、
前記透光性基板上に直接設けられた第1の酸化モリブデン膜と、
前記第1の酸化モリブデン膜上に直接設けられた単層カーボンナノチューブ膜と、
前記単層カーボンナノチューブ膜上に直接設けられた第2の酸化モリブデン膜と、
前記第2の酸化モリブデン膜上に直接設けられた第1のバッファ層であって、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)からなる前記第1のバッファ層と、
前記第1のバッファ層上に直接設けられた活性層であって、PTB7とPC71BMの混合物からなる前記活性層と、
前記活性層上に直接設けられた第2のバッファ層であって、LiFからなる前記第2のバッファ層と、
前記第2のバッファ層上に直接設けられた対向電極と
を備えた太陽電池。
【請求項2】
前記単層カーボンナノチューブ膜は、波長550nmの光に対して65%、80%、または90%の透過率を有する、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記第1の酸化モリブデン膜及び前記第2の酸化モリブデン膜が蒸着膜である、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項4】
透光性基板と、
前記透光性基板上に直接設けられた、
35%硝酸でドープされた単層カーボンナノチューブ膜と、
前記単層カーボンナノチューブ膜上に直接設けられたバッファ層であって、
0.5質量%のポリオキシエチレン(6)トリデシルエーテルを、水に分散したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸塩)の液体中に添加して生成されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)からなる前記バッファ層と、
前記バッファ層上に直接設けられた活性層であって、ペロブスカイト構造を有するCH
3NH
3PbI
3化合物からなる前記活性層と、
前記活性層上に直接設けられたフラーレン電子受容体層と、
前記フラーレン電子受容体層上に直接設けられたアルミニウム層と
を備えた太陽電池。
【請求項5】
前記透光性基板は、ガラス基板またはポリエチレンテレフタレート(PET)基板である、請求項4に記載の太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ膜を有する透光性電極およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、当該透光性電極を用いる太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多結晶シリコンを用いた太陽電池が開発され実用化されている。このような太陽電池の製造には高純度シリコンが必要であり、その製造工程は高温プロセスを要する。したがって、多結晶シリコンを用いた太陽電池を製造に要するエネルギーを考慮すると、必ずしも、省エネルギー技術への貢献度は十分に高いものとは言えない。
また、一般的な屋外の発電用途以外の太陽電池に要求されるプラスチック基板上への素子作製にも課題がある。
【0003】
近年、上記問題点の改良のため、省エネルギーで製造が可能であり、低コストで製造可能な有機材料を用いた太陽電池の開発が行われるようになってきた。太陽電池において、透光性電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)が広く用いられている。インジウムは希少元素であるため、入手容易性や価格の点からITOに代わる透光性電極が求められている。
【0004】
カーボンナノチューブ膜は透光性電極材料として期待されているが、その導電性が十分高くない。そこで、カーボンナノチューブ膜の導電性を向上させるために、硫酸や硝酸等のブレンステッド酸等を用いてカーボンナノチューブをドープすることが知られている。しかしながら、硝酸等を用いるドープは大変危険な作業である。また、硝酸等でドープしたカーボンナノチューブを用いた透光性電極を備える有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は2~3%に留まっていた(非特許文献1)。
また、透光性基板に酸化モリブデンの膜を設けその上に、カーボンナノチューブ粉末を添加して製造される透光性電極も知られている(非特許文献2)。しかしながら、このような透光性電極は導電性等が十分ではなく、太陽電池への使用に適していない。
さらに、カーボンナノチューブに酸化チタンを担持または被覆されたカーボンナノチューブ構造体を基板上に形成し、それを太陽電池の電極に用いることが知られている(特許文献1)。
【0005】
また、カーボンナのチューブとして、単層構造を有するカーボンナのチューブおよびその製造方法が知られている(特許文献2、特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-118127号公報
【文献】特開2014-162672号公報
【文献】WO2003/068676
【非特許文献】
【0007】
【文献】J. Du et al. Adv. Mater. 2014, 26, 1958
【文献】Nano Letters 2012, 12, 3574-3580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の状況の下、導電性および電子ブロック性が高い透光性電極が求められている。また、低コストで、高いエネルギー変換効率が実現できる太陽電池が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、カーボンナノチューブ膜に接する状態で酸化金属膜を設けた透光性電極およびその製造方法を発明するに至った。また、本発明者等は、透光性基板、および前記透光性基板上に設けられた導電性のカーボンナノチューブ膜を有する透光性電極と、ペロブスカイト構造を有する化合物からなる活性層と前記活性層上に設けられた電極とを有する太陽電池を発明するに至った。
【0010】
本発明は、たとえば以下の態様の発明を含む。
[1]
透光性基板、
前記透光性基板上に直接または間接に設けられたカーボンナノチューブ膜、および、
前記カーボンナノチューブ膜上に直接設けられ、周期表第4族、第5族または第6族に属する金属元素と酸素とを含む酸化金属膜、
を有する透光性電極。
[2]
前記金属元素がモリブデンである、[1]に記載の透光性電極。
[3]
前記酸化金属膜が蒸着膜である、[1]または[2]に記載の透光性電極。
[4]
前記透光性基板とカーボンナノチューブ膜との間にさらに酸化金属膜が設けられた、[1]~[3]のいずれかに記載の透光性電極。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の透光性電極の前記酸化金属膜上に、直接または間接に設けられた活性層を有し、
前記活性層上に直接または間接に設けられた電極を有する太陽電池。
[6]
前記活性層と前記電極との間にバッファ層を有する[5]に記載の太陽電池。
[7]
前記活性層は、ペロブスカイト構造を有するCH3NH3PbI3化合物またはCH3NH3PbI3-xClx化合物からなる(式中、xは1~3)、[5]または[6]に記載の太陽電池。
[8]
前記活性層上に直接または間接に設けられた前記電極は、ITO膜を含む透光性電極である、[5]に記載の太陽電池。
[9]
透光性基板、前記透光性基板上に直接または間接に設けられたカーボンナノチューブ膜、および、前記カーボンナノチューブ膜上に直接設けられた酸化金属膜を有する透光性電極の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ膜の片面または両面に、周期表第4族、第5族または第6族に属する金属元素と酸素とを含む前記酸化金属膜を蒸着させる工程を有する製造方法。
[10]
前記金属元素がモリブデンである、[7]に記載の製造方法。
[11]
透光性基板、前記透光性基板上に直接または間接に設けられたカーボンナノチューブ膜、前記カーボンナノチューブ膜上に直接設けられた酸化金属膜、前記酸化金属膜の上に直接または間接に設けられた活性層、前記活性層の上に設けられたバッファ層、および、前記バッファ層の上に設けられた電極を有する太陽電池の製造方法であって、
前記カーボンナノチューブ膜の片面または両面に、周期表第4族、第5族または第6族に属する金属元素と酸素とを含む前記酸化金属膜を蒸着させる工程を有する製造方法。
[12]
前記活性層は、ペロブスカイト構造を有するCH3NH3PbI3化合物またはCH3NH3PbI3-xClx化合物からなる(式中、xは1~3)、[11]に記載の製造方法。
[13]
バッファ層の上に設けられた前記電極は、ITO膜を含む透光性電極である、[11]または[12]に記載の製造方法。
[14]
透光性基板、および前記透光性基板上に直接または間接に設けられた導電性のカーボンナノチューブ膜を有する透光性電極と、
前記透光性電極上に設けられた、ペロブスカイト構造を有する化合物からなる活性層と、
前記活性層上に設けられた電極とを有する太陽電池。
[15]
前記カーボンナノチューブ膜上にPEDOT:PSS層をさらに有する[14]に記載の太陽電池。
[16]
透光性基板、および
前記透光性基板上に直接または間接に設けられた導電性のカーボンナノチューブ膜を有する透光性電極。
【0011】
本明細書中、「層または膜上に設けられる」とは、特に限定のない限り、層または膜上に接して直接に設けられる場合と、他の層を介在して間接に設けられる場合を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の好ましい態様の透光性電極は、高い導電性および高い電子ブロック性を示す。本発明の好ましい態様の製造方法では、カーボンナノチューブ膜に高い導電性および高い電子ブロック性を同時に付与することができる。
また、本発明の好ましい態様の透光性電極または太陽電池の製造方法は安全で低コストであり、環境への付加が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の一実施例の太陽電池を示す模式断面図
【
図3】本発明の一実施例の太陽電池を示す模式断面図
【
図4】本発明の一実施例の太陽電池を示す模式断面図
【
図5】本発明の一実施例の太陽電池を示す模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
1 透光性電極
本発明の透光性電極10は
図1に示すように、透光性基板1、カーボンナノチューブ膜2および酸化金属膜3を含む電極である。以下に、各構成について説明する。
【0015】
(1) 透光性基板
透光性基板1は透光性を有する基板であれば特に限定されず、たとえば、石英、ソーダライムガラス、無アルカリガラス等の透明ガラス基板、セラミック基板、透光性プラスチック基板が用いられる。透光性プラスチック基板としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニルまたはポリエチレン等のポリオレフィン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネンまたはエポキシ樹脂等の基板が挙げられる。
【0016】
透光性基板1の形状に制限はなく、たとえば、板状、フィルム状またはシート状等のものを用いることができる。また、透光性基板1の膜厚に制限はないが、一般的に、5μm~20mmが好ましく、20μm~10mmがさらに好ましい。基板の膜厚が5μm以上であれば有機薄膜太陽電池素子の強度が不足する可能性が低くなるために好ましい。基板の膜厚が20mm以下であれば、コストが抑えられ、かつ重量が重くならないために好ましい。
透光性基板1の材料がガラスである場合の膜厚は、一般的に、0.01mm~10mmが好ましく、0.1mm~5mmがさらに好ましい。
【0017】
(2) カーボンナノチューブ膜
カーボンナノチューブ膜は、公知の方法であるアーク放電法、レーザ蒸発法、およびCVD法等で製造できる。
アーク放電法は、大気圧よりやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒間にアーク放電を行うことにより、陰極堆積物中に多層カーボンナノチューブを生成するという方法である。
レーザ蒸発法は、900℃~1300℃の高温雰囲気下で、Ni/Coなどの触媒を混ぜた炭素にYAGレーザなどの強いパルス光を照射することによりカーボンナノチューブを生成する方法である。
CVD法は、炭素源となる炭素化合物を500℃~1200℃で触媒金属微粒子と接触させることによりカーボンナノチューブを生成する方法である。触媒金属の種類およびその配置の仕方、炭素化合物の種類などに種々のバリエーションがあり、条件の変更により多層カーボンナノチューブと単層カーボンナノチューブの何れも合成することができる。また、触媒を基板上に配置することにより、基板面に垂直に配向した多層カーボンナノチューブや単層カーボンナノチューブを得ることも可能である。
【0018】
カーボンナノチューブ膜2は透光性を有すれば特に限定されない。カーボンナノチューブ膜2のカーボンナノチューブは、基板面に垂直に配向したものでも非垂直に配置されたものでもよい。カーボンナノチューブ膜2は、市販の膜を利用できるが、これらの中でも、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)膜を用いることが好ましい。
また、本発明においては、カーボンナノチューブ膜2は、導電性のカーボンナノチューブ膜であってもよく、またドーパントを含むカーボンナノチューブ膜を有するようにしてもよい。
カーボンナノチューブ膜2が、周期表第4族、第5族または第6族に属する金属元素と酸素とを含む酸化金属膜を含むことにより、カーボンナノチューブ膜2が導電性を有するようにしてもよい。
カーボンナノチューブ膜2を酸(例えば硝酸、硫酸、リン酸等)でドープすることによりカーボンナノチューブ膜2が導電性を有するようにしてもよい。また、カーボンナノチューブ膜2(又は酸でドープされたカーボンナノチューブ膜2)上にポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)等の導電性高分子の膜を形成することにより、カーボンナノチューブ膜2と導電性高分子膜とが混在する層が導電性を有するようにしてもよい。
【0019】
SWCNTは、一酸化炭素雰囲気下、フェロセン蒸気を分解することによる浮遊触媒を用いたエアロゾル化学蒸気堆積法により作製できる(Moisala, A.; Nasibulin, A. G.; Brown, D. P.; Jiang, H.; Khriachtchev, L.; Kauppinen, E. I. Single-Walled Carbon Nanotube Synthesis Using Ferrocene and Iron Pentacarbonyl in a Laminar Flow Reactor. Chem. Eng. Sci. 2006, 61, 4393-4402.;Nasibulin, A. G.; Brown, D. P.; Queipo, P.; Gonzalez, D.; Jiang, H.; Kauppinen, E. I. An Essential Role of CO2and H2O during Single-Walled CNT Synthesis from Carbon Monoxide. Chem. Phys. Lett. 2006, 417, 179-184.)。具体的には、SWCNTを製造するエアロゾル化学蒸気堆積法において、触媒前駆体蒸気は、常温の一酸化炭素ガスがフェロセン粉末を入れたカートリッジを通ることにより得られる。フェロセン蒸気を含んだ流体は、水冷プローブを通ってセラミックチューブ反応器の高温領域に導入され、追加の一酸化炭素ガスと混合される。安定に成長させたSWCNT膜を得るため、制御された量の二酸化炭素も一緒に炭素源(一酸化炭素)に加えられる。SWCNT膜は、反応器の下方でニトロセルロースまたは銀メンブレン膜 (Millipore Corp., USA; HAWP, 0.45 μm pore diameter)により集められる。このようにして、メンブレン膜上にSWCNT膜を作製できる。
【0020】
前記エアロゾル化学蒸気堆積法の他に、酸素を有する化合物からなる炭素源または酸素を有する化合物と炭素を有する化合物の混合物を減圧条件で加熱温度下に触媒と接触させることによりSWCNTを製造することもできる(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)(S. Maruyama*, R. Kojima, Y. Miyauchi, S. Chiashi and M. Kohno, "Low-Temperature Synthesis of High-Purity Single-Walled Carbon Nanotubes from Alcohol, "Chem. Phys. Lett., (2002), 360, (3-4), 229-234.; WO2003/068676,)。
【0021】
また、基材および該基材上に形成された垂直配向カーボンナノチューブ膜を有する構成体を、該構成体の温度よりも25℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは35℃以上の高い温度の水に浸漬することにより、垂直配向カーボンナノチューブ膜を剥離して、単層または多層のカーボンナノチューブ膜を製造できる(Y. Murakami, Y. Miyauchi, S. Chiashi and S. Maruyama*, "Direct synthesis of high-quality single-walled carbon nanotubes on silicon and quartz substrates, "Chem. Phys. Lett., (2003), 377, (1-2), 49-54.; Y. Murakami, S. Chiashi, Y. Miyauchi, M. Hu, M. Ogura, T. Okubo, S. Maruyama*, "Growth of vertically aligned single-walled carbon nanotube films on quartz substrates and their optical anisotropy, "Chem. Phys. Lett., (2004), 385, (3-4), 298-303.; 特開平2007-182342号公報)
【0022】
一般に、カーボンナノチューブ膜2の厚さは特に限定されないが、5nm~100nmであることが好ましい。
また、カーボンナノチューブ膜2は透光性基板1の上に直接設けられても、他の膜を介して設けられてもよい。
【0023】
(3) 酸化金属膜
酸化金属膜3は、周期表第4族(チタン、ジルコニウム、ハフニウム)、第5族(バナジウム、ニオブ、タンタル)または第6族(クロム、モリブデン、タングステン)に属する金属元素と酸素を含む膜であれば特に限定されないが、金属としてモリブデンを用いることが特に好ましい。
また、酸化金属膜3は、蒸着膜であることが好ましい。真空蒸着で形成された蒸着膜は、カーボンナノチューブ膜2の表面に均一に金属膜を形成でき、またカーボンナノチューブ膜2の表面の凹凸を平滑にする効果が高いからである。
酸化金属膜3は少なくとも、活性層5に近い面に設けられるが、カーボンナノチューブ膜2の両面に設けられることが好ましい。
【0024】
酸化金属膜3の厚さは1nm~50nmであることが好ましく、5nm~15nmがさらに好ましい。
【0025】
2 太陽電池
本発明の好ましい態様の太陽電池は、透光性基板、カーボンナノチューブ膜、酸化金属膜、活性層、バッファ層(任意)および対向電極を含む。本発明の好ましい態様の太陽電池20は、
図2に示すように、本発明の透光性電極10の酸化金属膜3の上にさらに、バッファ層4、活性層5、バッファ層6および対向電極7がこの順に形成された素子である。本発明の太陽電池は、透光性基板、透光性基板上に直接または間接に設けられたカーボンナノチューブ膜、および、カーボンナノチューブ膜上に直接設けられ、周期表第4族、第5族または第6族に属する金属元素と酸素とを含む酸化金属膜を有する透光性電極を有し、透光性電極の酸化金属膜上に、直接または間接に設けられた活性層を有し、活性層上に直接または間接に設けられた電極を有する太陽電池であればよく、限定されない。
以下に、各構成について説明する。
【0026】
(1) 活性層
活性層5は光電変換を行うことができる物質を含めば特に限定されないが、一般的に、電子受容体化合物および電子供与体化合物を含む層である。活性層5に光が照射されると、光が活性層5に吸収され、電子受容体化合物と電子供与体化合物との界面で電子移動が起こり,電子および正孔が発生し、発生した電子および正孔がそれぞれ両側電極から取り出される。
活性層5の材料は無機化合物と有機化合物のいずれを用いてもよいが、有機化合物を用いることが好ましい。
【0027】
電子供与体化合物としては、たとえば、ナフタセン、ペンタセンまたはピレン等の縮合芳香族炭化水素;α-セキシチオフェン等のチオフェン環をチオフェン類(ポリチオフェン);ペンタセンやテトラセン等の縮合多環芳香族化合物;フタロシアニン化合物およびその金属錯体、またはテトラベンゾポルフィリン等のポルフィリン化合物およびその金属錯体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の大環状化合物、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレンまたはポリアニリン等の共役ポリマー半導体;アルキル基やその他の置換基が置換されたオリゴチオフェン等のオリゴマー半導体;ジケトピロロピロール誘導体やスクアライン誘導体などの有機色素等が挙げられる。また、具体的な電子供与体化合物として、たとえば、ベンゾポルフィリン(BP)、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリシラン、ポリカルバゾール、ポリビニルカルバゾール、ポルフィリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、チオフェン-フルオレン共重合体、ポリアルキルチオフェン、フェニレンエチニレン-フェニレンビニレン共重合体、フェニレンエチニレン-チオフェン共重合体、フェニレンエチニレン-フルオレン共重合体、フルオレン-フェニレンビニレン共重合体、チオフェン-フェニレンビニレン共重合体、フタロシアニン含有ポリマー、カルバゾール含有ポリマー、または有機金属ポリマー等が挙げられる。
【0028】
電子受容体化合物としては、たとえば、フラーレンまたはフラーレン誘導体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドまたはペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ペリレン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体等の縮合多環芳香族炭化水素等が挙げられる。また、具体的な電子受容体化合物として、たとえば、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体、これらの共重合体、カーボンナノチューブ(CNT)、フェニルC61-ブチリック酸メチルエスタ(PCBM)等のフラーレン誘導体、シアノ(CN)基若しくはトリフルオロメチル(CF3)基含有ポリマー、CF3基置換ポリマー、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物(PTCDA)等が挙げられる。フラーレン誘導体としては、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、アミノ化フラーレン、硫化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、フレロイド、メタノフラーレン、ピロリジノフラーレン、アルキル化フラーレン類、またはアリール化フラーレン等が挙げられる。
【0029】
本明細書中「フラーレン」としては、たとえば、フラーレンC60(いわゆるバックミンスター・フラーレン)、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC94、フラーレンC96等が挙げられる。
【0030】
活性層5の構成としては、(1)電子供与体化合物からなる層と電子受容体化合物からなる層を積層して、接合界面における光誘起による電荷移動を利用するヘテロ接合型、(2)電子受容体化合物と電子供与体化合物とが混合した層を有するバルクヘテロ接合型等が挙げられる。
【0031】
ヘテロ接合型の活性層は、電子供与体からなる層と電子受容体からなる層を積層して、接合界面における光誘起による電荷移動を利用するものである。たとえば、ヘテロ接合型活性層において、電子供与体化合物として銅フタロシアニンを、電子受容体化合物としてペリレン誘導体を用いることができる。また、ヘテロ接合型の活性層において、電子供与体化合物としてペンタセンやテトラセン等の縮合多環芳香族化合物を、電子受容体化合物としてはC60のようなフラーレンまたはフラーレン誘導体を使用することができる。
【0032】
バルクへテロ接合型の活性層は、電子供与体化合物と電子受容体化合物の接合が混合活性層のバルク中に一様に存在し、光を有効に活用することができる。このバルクへテロ接合型素子を作製する方法として、真空蒸着により電子供与体化合物と電子受容体化合物を共蒸着して活性層を形成するものと(真空蒸着法)、両者の混合溶液からスピンコートや印刷法により塗布して形成するものとがある(湿式塗布法)。真空蒸着法で形成できる活性層には、たとえば、銅フタロシアニンとフラーレンからなる活性層を挙げることができ、湿式塗布法で形成できる活性層には、たとえば、共役系高分子であるポリ(3-ヘキシルチオフェン)(P3HT)とフラーレンの可溶性誘導体である[6,6]-phenyl C61-butyric acid methyl esterブチリックアシッドメチルエステル(PCBM)を混合した系、PTB7(poly(thieno[3,4-b]thiophene/benzodithiophene))とPC71BM([6,6]-phenyl C71-butyric acid methyl ester)とを混合した系、P3HT(regioregular, Sigma Aldrich Chemical Co., Inc.)とmix-PCBM(Frontier Carbon Co., Nanom spectra E124)とを混合した系が代表的なものとしてあげられる。
【0033】
また、活性層5には、ペロブスカイト構造を有する化合物(ペロブスカイト化合物)を用いることができる。ペロブスカイト化合物としては、たとえば、CH3NH3PbI3-xClx(式中、xは1~3)、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbBrI2、CH3NH3PbBr2I、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnI3、CH(=NH)NH3PbI3、(C2H5NH3)2PbI4、(CH2=CHNH3)2PbI4、(CH≡CNH3)2PbI4、(C6H5NH3)2PbI4、(C6H3F2NH3)2PbI4、(C6F5NH3)2PbI4、(C4H3SNH3)2PbI4等の化合物が挙げられる。これらの化合物の中でも、CH3NH3PbI3化合物またはCH3NH3PbI3-xClx化合物(式中、xは1~3)を活性層5に用いることが好ましい。
【0034】
バルクへテロ接合型の活性層において、変換効率をさらに高めるために、活性層を、電子供与体層(活性層(p-層))、電子供与体化合物と電子受容体化合物の混合層(活性層(i-層))、電子受容体層(活性層(n-層))とp-i-n型の3層構造にすることも行われている。
【0035】
活性層5の膜厚は特に限定されないが、10nm~1000nmであり、好ましくは、50nm~500nmである。活性層5の膜厚が10nm以上であると厚さの均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため好ましい。また、活性層5の厚さが1000nm以下であると、内部抵抗が小さくなり、電極間が離れすぎず電荷の拡散が良好となるため好ましい。
【0036】
なお、活性層5は酸化金属膜3の上に直接設けられても、バッファ層4を介して設けられてもよい。
【0037】
(2) バッファ層
活性層の片面または両面にバッファ層(4,6)を設けることができる。
光吸収により生成した電荷(正孔と電子)を、選択的に電極まで効率良く輸送して高い変換効率を得るために、陰極と活性層との間または陽極と活性層との間にバッファ層(4,6)が設けられてもよい。
【0038】
陽極と活性層との間には導電性高分子が使われることが多く、ポリ(3, 4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)などが挙げられる。これらは正孔輸送特性(または電子ブロック特性)をもつ。
また、陰極と活性層との間には、カルシウム、フッ化リチウムのような無機物、バソクプロイン(BCP)、下記式(I)で表わされるシンノリン骨格を有する化合物や下記式(II)で表される化合物等を含む陰極バッファ層を設けることができる。
【化1】
【0039】
したがって、本発明の太陽電池において対向電極7が陰極の場合、バッファ層6が陰極バッファ層となり、バッファ層4が陽極バッファ層となる。
【0040】
たとえば、活性層5と酸化金属膜3との間に陽極バッファ層4を設ける場合、すなわち、酸化金属膜3の上に設ける場合、当該バッファ層4は酸化金属膜3のピンホールを塞ぎより平坦な膜が得られ、また、酸化金属膜3の電子ブロック機能を強化することができる。
また、活性層5と対向電極7との間に陰極バッファ層6を設ける場合、すなわち、活性層5の上に設ける場合、当該バッファ層6は励起子ブロック機能またはホールブロック機能を強化することができる。バッファ層として、CdS、ZnS,Zn(S,O)および/またはZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)および/またはSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)および/またはIn(S,O,OH)、TiO2、In2S3等の化合物を用いてもよい。
【0041】
(3) 電極等
太陽電池20は、一対の電極(陰極、陰極)を有する。カーボンナノチューブ膜2が陰極の機能を有し、対向電極7が陽極であってもよいし、カーボンナノチューブ膜2が陽極の機能を有し、対向電極7が陰極であってもよい。
対向電極7が陰極の場合、陰極の材料として好ましくは、白金、金、銀、銅、鉄、スズ、アルミニウム、カルシウム若しくはインジウム等の金属、または前記金属の一種を含む合金、または酸化インジウムスズ等の公知な金属を含む導電性酸化物が用いられる。
【0042】
陰極は金属板であっても、蒸着法若しくはスパッタ法等の真空成膜方法、またはナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する湿式塗布法で形成された膜であってもよい。
【0043】
図2に示していないが、本発明の太陽電池20は、さらに、耐候性保護フィルム、紫外線カットフィルム、ガスバリアフィルム、ゲッター材フィルム、封止材、バックシート等が設けられてもよい。
【0044】
(4) 有機系太陽電池
本発明の太陽電池は、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池等の有機系太陽電池が好ましい。
【0045】
3 透光性電極および太陽電池の製造方法
3.1 透光性電極の製造方法
透光性電極10は透光性基板1へのカーボンナノチューブ膜2の固定工程および酸化金属膜3の形成工程によって製造できる。
【0046】
(1) 基板へのカーボンナノチューブ膜の固定工程
透光性基板1に付着した異物を除去するため、界面活性剤や有機溶剤等を用いて洗浄し、その後オーブン等で乾燥させる。その後、透光性基板1に付着する異物をより確実に除去するため、さらにUVオゾン処理を行うことが好ましい。
次に、異物が除去された透光性基板1の上に、カーボンナノチューブ膜2を転写する。転写は、カーボンナノチューブ膜を透光性基板上に載置してから押し付けて行われる。
透光性基板1として何ら膜が設けられていないガラス基板を用いる場合、カーボンナノチューブ膜2のガラス基板に対する固定力を高めるため、エタノール等のアルコール類を透光性基板上に滴下してからカーボンナノチューブ膜の載置することが好ましい。なお、アルコール類の滴下量は後に作製できる透光性電極10または太陽電池において光電変換特性に影響を及ぼさない範囲内に留めることが好ましい。具体的には、多量にアルコール類を滴下すると、酸化モリブデンが溶解する恐れがあるので、注意が必要である。
【0047】
また、予め酸化金属膜が片面または両面に形成されたカーボンナノチューブ膜を基板へ固定させてもよい。カーボンナノチューブ膜への酸化金属膜の形成方法は(2)に記載されるように真空蒸着が好ましい。
【0048】
(2) 酸化金属膜の形成工程
カーボンナノチューブ膜2が設けられた基板を真空蒸着装置が連結された素子作製装置の中に入れ、酸化金属をカーボンナノチューブ膜2上に真空蒸着する。蒸着レートは0.01nm/秒~0.3nm/秒が好ましく、さらに0.01nm/秒~0.1nm/秒が好ましい。
真空蒸着後にアニールすることが好ましい。アニールは、100℃~400℃で5分~200分間行うことが好ましい。また、アニールは2回以上に分けて行ってもよい。このような酸化金属膜の形成工程により、透光性基板上に直接または間接に設けられたカーボンナノチューブ膜上に酸化金属膜が直接設けられるが、カーボンナノチューブ膜と酸化金属膜との界面は両成分が混在する状態であってもよい。
【0049】
基板に固定されるカーボンナノチューブ膜として、表面に予め酸化金属膜が形成された膜を用いることもできる。透光性電極におけるカーボンナノチューブ膜2の片面または上下両面に酸化金属膜が形成されることになる。
【0050】
このように、カーボンナノチューブ膜2に酸化金属膜3が片面または上下両面に形成されることによって、カーボンナノチューブ膜2が正孔ドープされ、カーボンナノチューブ膜2の導電性と電子ブロック性が高まり、優れた透光性電極10が提供できる。
【0051】
その他の態様として、透光性基板1に酸化金属膜を真空蒸着してから、その上にカーボンナノチューブ膜を形成することもできる。
【0052】
3.2 太陽電池の製造方法
本発明の好ましい態様の太陽電池は、前記透光性電極10の酸化金属膜3の上に、バッファ層4、活性層5、バッファ層6および対向電極7を順に構成することによって作製できる。
【0053】
(1) バッファ層の形成工程(1)
本発明の透光性電極10の酸化金属膜3の上に、バッファ層4を設けることが好ましい。
酸化金属膜3の上にピンホールをふさいで平坦な膜を得る目的と酸化金属の電子ブロック機能を補助する目的で、poly-(3,4-ethylenedioxythiophene)-polystyrenesulfonic acid (PEDOT:PSS) の水分散液 (Clevios PVP, Heraeus Precious Metals GmbH & Co.) 等を酸化金属膜3上にスピンコート等によって塗布し、バッファ層4を作製できる。
【0054】
(2) 活性層の形成工程
本発明の透光性電極10の酸化金属膜3の上またはバッファ層4の上に、活性層5を設ける。
活性層5にフラーレン誘導体を用いる場合、フラーレン誘導体をオルトジクロロベンゼン等の有機溶媒に溶解してフラーレン誘導体溶液を調製し、完全に溶解させた後に、スピンコートを用いて活性層5を作製する。
【0055】
(3) バッファ層の形成工程(2)
活性層5の上に、バッファ層6を設けることが好ましい。
バッファ層6の形成方法は特に限定されないが、カルシウム、フッ化リチウムのような無機物をバッファ層に用いる場合、真空蒸着法を用いることが好ましい。具体的には、活性層5が設けられた後に、真空蒸着装置が連結された素子作製装置の中に入れ、カルシウム、フッ化リチウムのような無機物原料を活性層5上に真空蒸着できる。
【0056】
(4) 対向電極の形成工程
対向電極7の形成方法は特に限定されないが、アルミニウム等の金属を対向電極7に用いる場合、真空蒸着を用いることが好ましい。具体的には、バッファ層6が設けられた後に、真空蒸着装置が連結された素子作製装置の中に入れ、アルミニウム等の金属を活性層5上に真空蒸着することが好ましい。
【0057】
このように、バッファ層4の形成工程、活性層5の形成工程、バッファ層6の形成工程および対向電極7の形成工程を経て太陽電池20が製造できる。
【0058】
なお、このようにして製造された太陽電池に、さらに、耐候性保護フィルム、紫外線カットフィルム、ガスバリアフィルム、ゲッター材フィルム、封止材、バックシート等を、公知技術を用いて設けてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、下記実施例1~3、7~11は参考例である。
【0060】
[単層カーボンナノチューブ膜の作製](エアロゾル化学蒸気堆積法)
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)膜は、一酸化炭素雰囲気下,フェロセン蒸気を分解することによる浮遊触媒を用いたエアロゾル化学蒸気堆積法により合成した。触媒前駆体蒸気は、常温の一酸化炭素ガスがフェロセン粉末を入れたカートリッジを通ることにより得た。フェロセン蒸気を含んだ流体は、水冷プローブを通ってセラミックチューブ反応器の高温領域に導入され、追加の一酸化炭素ガスと混合された。
安定に成長させたSWCNT膜を得るため、制御された量の二酸化炭素も一緒に炭素源(一酸化炭素)に加えられ得る。SWCNT膜は、反応器の下方でニトロセルロースまたは銀メンブレン膜 (Millipore Corp., USA; HAWP, 0.45 μm pore diameter)により集められた。このようにして、メンブレン膜上に単層カーボンナノチューブ膜(SWCNT膜)を作製した。
SWCNT膜としては、3種類の厚さの膜を準備した。具体的には、550nmの光の透過率が90%、80%および65%の3種類のSWCNT膜を作製した。
【0061】
[実施例1]透光性電極
ガラス基板(透光性基板1)(15 × 15 mm2)を洗浄し、オーブンにて70 ℃で乾燥させた。さらに基板に付着する有機物を取り除くため、SWCNT膜(カーボンナノチューブ膜2)を乗せる直前に、UVオゾン処理を30分間行った。
【0062】
90%透過率のSWCNT膜を所定の大きさに切り取り、当該SWCNT膜を、窒素ガスが封入されたグローブボックスと真空蒸着装置が連結された素子作製装置の中に入れ、ガラス基板上に酸化モリブデンを真空蒸着した。その後,SWCNT膜を基板に転写し、その上から酸化モリブデンを真空蒸着した。真空蒸着工程の蒸着レートは0.02nm/秒であった。また、SWCNT膜の両面に設けられた酸化モリブデン膜(酸化金属膜3)は共に10nmの厚さであった。このようにして、透光性電極を作製した。
受光面積は切り取ったカーボンナノチューブ膜の大きさで規定される。この実験では,約3mm x 3mm(面積:9mm2)にカーボンナノチューブ膜を切り取った。
【0063】
[実施例2および3]透光性電極
SWCNT膜として、80%透過率のSWCNT膜を用いた以外は、実施例1と同じ条件で透光性電極を作製した(実施例2)。
同様に、SWCNT膜として、65%透過率のSWCNT膜を用いた以外は、実施例1と同じ条件で透光性電極を作製した(実施例3)。
【0064】
[実施例4]太陽電池
実施例1の透光性電極の酸化金属膜3の上にpoly-(3,4-ethylenedioxythiophene)-polystyrenesulfonic acid (PEDOT:PSS) の水分散液 (Clevios PVP, Heraeus Precious Metals GmbH & Co.) をスピンコートしてバッファ層4を設けた。
【0065】
PTB7(poly(thieno[3,4-b]thiophene/benzodithiophene))とPC71BM([6,6]-phenyl C71-butyric acid methyl ester)をそれぞれ10 mg、 15 mg混合し、当該混合物を、クロロベンゼンと1,8-ジヨードオクタンを97:3の体積比(それぞれ0.970mL,0.030mL)で混合した溶液に投入した。投入後、当該溶液を、1時間、70 °Cで撹拌して前記混合物を溶媒に完全に溶解させ活性層溶液を調製した。
【0066】
このようにして得られた活性層溶液をスピンコート(2000 rpm,90秒)によりバッファ層4の上に塗布し、約140 nmの膜厚の活性層5を形成した。
【0067】
活性層5の上に、LiF (約1 nm)のバッファ層6を真空蒸着により積層し、アルミニウム製の対向電極7(100 nm)を真空蒸着により取り付け、太陽電池を作製した。
【0068】
ソースメータ(Keithley 2400)により、遮光下および疑似太陽光(AM 1.5G, 100 mW/cm
2; EMS-35AAA, Ushio Spax Inc.)照射下において、Voc(開放端電圧)、Jsc(短絡電流密度)、FF(フィルファクタ)、Rs(直列抵抗)、Rsh(並列抵抗)およびPCE(エネルギー変換効率)を測定した。測定結果は表1のとおりであった。
【表1】
【0069】
[実施例5~6]太陽電池
実施例2の透光性電極を用いたこと以外は実施例4と同じ条件で太陽電池を作製した(実施例5)。また、実施例3の透光性電極を用いたこと以外は実施例4と同じ条件で太陽電池を作製した(実施例6)。これらの太陽電池の測定結果は表1のとおりであった。
【0070】
実施例4~6を比較すると、膜厚が大きい(透過率が低い)SWCNT膜はホールの移動を制御する機能が高くなるためFF(フィルファクタ)が大きくなり、PCE(エネルギー変換効率)が高くなると考えられる。
【0071】
[実施例7]太陽電池
実施例4と同様に、実施例1の透光性電極の酸化金属膜3の上にpoly-(3,4-ethylenedioxythiophene)-polystyrenesulfonic acid (PEDOT:PSS) の水分散液 (Clevios PVP, Heraeus Precious Metals GmbH & Co.) をスピンコートしてバッファ層4を設けた。
【0072】
P3HT(regioregular, Sigma Aldrich Chemical Co., Inc.)とmix-PCBM(Frontier Carbon Co., Nanom spectra E124)を重量比5:3で混合し、当該混合物を40 mg/mLの濃度でオルトジクロロベンゼン(無水,99%, Sigma Aldrich Chemical Co., Inc.)に投入した。投入後、当該溶液を2時間、65 ℃で撹拌して前記混合物を溶媒に完全に溶解させ活性層溶液を調製した。
【0073】
このようにして得られた活性層溶液をスピンコート(1500 rpm,60秒)により実施例1の透光性電極のPEDOT:PSS上に塗布し、約80 nmの膜厚の活性層5を形成した。その後、150℃、14分間熱アニールした。
【0074】
実施例4と同じ条件で、活性層5の上に、バッファ層6を積層し、アルミニウム製の対向電極7を真空蒸着により取り付け、太陽電池を作製した。
【0075】
このようにして得られた太陽電池のVoc等を実施例4と同様に測定した。測定結果は表1のとおりであった。
【0076】
[実施例8]太陽電池
実施例1の透光性電極の上に、PEDOT:PSSを用いてバッファ層4を形成しなかったこと以外は実施例7と同様に太陽電池を作製した。
このようにして得られた太陽電池のVoc等を実施例4と同様に測定した。測定結果は表1のとおりであった。
【0077】
[実施例9]太陽電池
酸化モリブデン膜をカーボンナノチューブ膜の片面のみに形成したこと以外、すなわち、透光性基板とカーボンナノチューブ膜との間に酸化モリブデン膜を設けなかったこと以外は、実施例4と同じ条件で太陽電池を作製した。
このようにして得られた太陽電池のVoc等を実施例4と同様に測定した。測定結果は表1のとおりであった。
【0078】
[実施例10]太陽電池
本発明の実施例10では、太陽電池の対向電極として、ガラス基板31a上にITO膜31bが形成された電極31、およびガラス基板32a上に硝酸でドープされた単層カーボンナノチューブ(SWCNT)膜32bが形成され、SWCNT膜32b上にMoO
3層32cが形成された透光性電極32を用いた太陽電池30を作製した(
図3)。太陽電池30は、電極31および透光性電極32の両側から光を入射することができる。太陽電池30は次のようにして作製した。
【0079】
ガラス基板31a上にITO膜31bが形成された電極31(株式会社倉元製作所社製)を準備した。電極31の活性領域の面積は約3mm×3mmであり、そのシート抵抗は6Ω/squareであった。ガラス基板用洗浄剤(横浜油脂工業株式会社、製品名「セミクリーン(登録商標)M-LO」)、水、アセトン、および2-イソプロパノールの混合溶液中で15分間、電極31を超音波洗浄し、70℃のオーブン内で乾燥させた。残っている有機不純物を取り除くために、電極31を30分間UVオゾン処理した後、窒素で満たしたグローブボックス内に移した。
【0080】
Heegerらにより報告された方法を用いて(A. K. K. Kyaw, D. H. Wang, V. Gupta, J. Zhang, S. Chand, G. C. Bazan and A. J. Heeger, Advanced Materials, 2013, 25, 2397-2402.)、ZnOゾル-ゲル膜33を電極31上に形成し、200℃でベークした。その後、ZnOゾル-ゲル膜33上に活性層5を形成した。活性層5およびその形成方法は実施例4と同じであり、説明を省略する。真空にした熱蒸着器内で、0.2オングストローム/秒の平均レートで300℃でアニールしながら15分間、三酸化モリブデン(MoO3)層32cを活性層5上に堆積させた。
【0081】
次に、SWCNT膜32bをガラス基板32a上に転写し、エタノールを滴下して吸着を強固にし、70%硝酸(HNO3)水溶液をSWCNT膜32b上に滴下し、80℃下で乾燥させて、硝酸でドープされたSWCNT膜32bを得た。硝酸でドープされたSWCNT膜32bが形成されたガラス基板32aを、SWCNT膜32bがMoO3層32c上に設けられるように、MoO3層32c上に転写(transfer)し、透光性電極32を形成した。このとき、MoO3層32cまで形成された電極31側の基板とSWCNT膜32bが形成されたガラス基板32aとを保持および封入するために、UV樹脂で端部を覆うようにしてもよい。このようにして、太陽電池30を作製した。
【0082】
グローブボックス内から太陽電池30を取り出し、太陽電池30のPCE(エネルギー変換効率)を測定すると、PCE=4.58%であった。
【0083】
実施例10の太陽電池は、いずれの電極(31、32)も透光性であるため、太陽電池自体が一定の透光性を有する。すなわち、太陽電池の一方の面に入射した光の一部はもう一方の面から出射する。したがって、たとえば、当該太陽電池をガラス等に貼り付けた場合、太陽電池として発電しながら、ガラスの内側を明るく保つことができる。
【0084】
[実施例11]太陽電池
本発明の実施例11の太陽電池40は、実施例10のMoO
3層32c上にドープされていないSWCNT膜41とSWCNT膜41上にPEDOT:PSS層42を設けた構成を有する(
図4)。
【0085】
実施例10で説明したように電極31上にZnOゾル-ゲル膜33、活性層5、およびMoO3層32cを形成し、MoO3層32c上にSWCNT膜41を転写した。その後、SWCNT層41上にポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)の液体を滴下し、スピンコーティング(4500rpm、60秒間)することで、SWCNT膜41上に透光性基板としてのPEDOT:PSS層42を形成した。
【0086】
実施例11の太陽電池40のPCE(エネルギー変換効率)を測定すると、PCE=3.77%であった。
【0087】
[実施例12]太陽電池
本発明の実施例12では、活性層にペロブスカイト化合物を用い、透光性電極としてガラス基板(又はPET基板)上に硝酸でドープされ形成されたSWCNT膜を含む透光性電極を用いた太陽電池50を作製した(
図5)。太陽電池50は次のようにして作製した。
【0088】
ガラス基板51を上記ガラス基板用洗浄剤を含む溶液で洗浄した後、30分間UVオゾン処理で不要な有機物質を取り除いた。なお、ガラス基板51の代わりにまたはポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂性フィルムを用いると、柔軟性のある太陽電池を作製できる。窒素で充填したグローブボックス内に基板を移し、ガラス基板51上にSWCNT膜52を転写し、エタノールを滴下して吸着を強固にし、35%硝酸(HNO3)水溶液をSWCNT膜52上に滴下し、80℃下で乾燥させて、硝酸でドープされたSWCNT膜52を得た。本発明者らは、35%HNO3によるSWCNTのドープが、SWCNTの光学伝導度を最も効率的に向上させることができる方法であることを発見した。
【0089】
0.5質量%のポリオキシエチレン(6)トリデシルエーテル(シグマアルドリッチ社製)を、水に分散したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)(Clevios PVP, Heraeus Precious Metals GmbH & Co.社製)の液体中に添加し、界面活性剤含有PEDOT:PSSを生成した。生成した界面活性剤含有PEDOT:PSSの液体をSWCNT膜52上に滴下し、スピンコーティング(4500rpm、45秒間)することにより、SWCNT膜52上に改良PEDOT:PSS層53を形成した。改良PEDOT:PSS層53は、電子ブロッキング層として機能し、有機薄膜太陽電池に類似のドーパントのようにも機能する。
【0090】
活性層のペロブスカイト化合物は次のようにして作製した。合成された0.172gのCH3NH3I化合物と0.500gのPbI2化合物とを1.07mlの無水N,Nジメチルホルムアミド中で、60℃に保ったまま一晩中撹拌して、濃度45質量%のクリアなCH3NH3PbI3溶液を生成した。25μlのCH3NH3PbI3溶液を改良PEDOT:PSS層53上に滴下し、スピンコーティング(4500rpm、8秒間)した後、10μlの無水クロロベンゼンを基板の中心部に素早く滴下した。この時、該基板の色が透明から明るい茶色に変化した。このようにして、活性層としてのペロブスカイト層54を形成した。なお、ペロブスカイト層54として、CH3NH3PbI3-xClx(式中、xは1~3)、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbBrI2、CH3NH3PbBr2I、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnI3、CH(=NH)NH3PbI3、(C2H5NH3)2PbI4、(CH2=CHNH3)2PbI4、(CH≡CNH3)2PbI4、(C6H5NH3)2PbI4、(C6H3F2NH3)2PbI4、(C6F5NH3)2PbI4、(C4H3SNH3)2PbI4等の化合物を用いてもよい。好ましくは、太陽電池50の活性層は、ペロブスカイト構造を有するCH3NH3PbI3化合物またはCH3NH3PbI3-xClx化合物からなる(式中、xは1~3)。
【0091】
その後、1000μlのクロロベンゼン中に20mgのPC61BMが溶解した溶液を、ペロブスカイト層54上に滴下し、スピンコーティング(1500rpm、30秒間)により電子輸送層としてのフラーレン電子受容体層55を形成した。最後に、熱蒸着器を用いて、フラーレン電子受容体層55上に陰極としての70nm厚のアルミニウム層56を蒸着することにより、太陽電池50を作製した。
【0092】
グローブボックスから太陽電池50を取り出し、太陽電池50のPCE(エネルギー変換効率)を測定すると、PCE=6.32%であった。
【0093】
[実施例13]太陽電池
本発明の実施例13では、実施例12のガラス基板51のみをPET基板に変更し、他の層52~56は実施例12と同じである太陽電池を作製した。実施例13の太陽電池のPCEを測定すると、PCE=5.38%であった。
【0094】
【0095】
実施例1~13に示すように、本発明の好ましい態様の透光性電極がカーボンナノチューブ膜に高い導電性および高い電子ブロック性を付与することができることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の活用法として、たとえば、太陽電池が挙げられる。
【符号の説明】
【0097】
1 透光性基板
2 カーボンナノチューブ膜
3 酸化金属膜
4 バッファ層
5 活性層
6 バッファ層
7 対向電極
10 透光性電極
20 太陽電池
30 太陽電池
40 太陽電池
50 太陽電池