(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】識別タグ、その干渉波形検出方法及びその真贋判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3581 20140101AFI20221212BHJP
G06K 19/02 20060101ALI20221212BHJP
G06K 7/10 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G01N21/3581
G06K19/02
G06K7/10
(21)【出願番号】P 2018063791
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】230117259
【氏名又は名称】綿貫 敬典
(72)【発明者】
【氏名】旭野 欣也
(72)【発明者】
【氏名】小田木 俊
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141296(JP,A)
【文献】特表2016-536162(JP,A)
【文献】特開2016-197295(JP,A)
【文献】特開2016-095195(JP,A)
【文献】特開2016-034698(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0231625(US,A1)
【文献】特表2016-530741(JP,A)
【文献】特開2013-193758(JP,A)
【文献】特開2013-178212(JP,A)
【文献】特開2009-098102(JP,A)
【文献】特開2009-300279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G06K 19/00 - G06K 19/18
G06K 7/10 - G06K 7/14
B42D 25/00 - B42D 25/485
B41M 3/14
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ波が反射
及び透過可能
で、その内部でテラヘルツ波が干渉する素材からなり、
厚さの異なる複数の領域を組み合わせた平板構造を持ち、その片面又は両面に、金属粉末を含有する金属塗料
を塗布することにより、干渉波形を増幅したことを特徴とする識別タグ。
【請求項2】
前記素材が熱可塑性素材であって、前記複数の領域が、サーマル加工により厚み調整されたものであることを特徴とする請求項1に記載の識別タグ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の識別タグに、周波数の異なるテラヘルツ波を照射し、
前記識別タグの表面及び裏面で反射及び透過し、光路差により干渉するテラヘルツ波を前記識別タグの照射側またはその裏面側から検出し、
検出されたテラヘルツ波を周波数ごとの反射率又は透過率を表す波形データに変換することを特徴とする識別タグの干渉波形検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載の波形検出方法によって得られた波形データを、予め記憶された基準波形データと対比して、識別タグの真贋を判定することを特徴とする識別タグの真贋判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種商品のタグとして用いるに適した識別タグ、その干渉波形検出方法及びその真贋判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
商品のタグには様々な種類があるが、単に商品名や商品番号、値段などの情報を記載するだけのタグは偽造され易い。このため従来から、商品のタグを識別する為に、バーコードやQRコード(登録商標)のようにタグに複雑なパターンを設けたものや、RFタグのようにタグ内にメモリ、制御回路及びアンテナを内蔵させて、それを電磁波で読取ることで、商品識別が出来る偽造防止構造を備えたタグが開発されている。
【0003】
本発明における識別タグとは、前記商品タグのように、商品又は物に識別力を持たせることで、偽造防止効果を有する構造体を指す。識別力及び偽造防止効果を持たせる識別タグの対象は、広義に解釈され、製造業、鉱業、農業、漁業及び運輸、金融、商業、サービス業などで流通する製品を識別する為のものが含まれる。また、衣服や食品など一般需要者に大量流通する商品を識別する為のもの限定されず、大量流通しない美術品や工芸品を識別する為のものにも及ぶ。さらに、対象は、一般消費者に流通する完成品を識別する為のものには限定されず、例えば、製造業における製造工程中の半製品の識別を行う為のものであっても良い。また、識別タグの形状は、商品に直接貼り付けられるものや、タグホルダーなどを介して商品に付随させる形状のものなど、幾多の形態が考えられる。
【0004】
例えば特許文献1には、基準面からの深さの異なる多数の凹部を組み合わせて情報コードを構成し、その表面にレーザ光線を照射して反射光を受光し、基準面からの距離を測定することによって情報コードを読み取る偽造防止構造体が記載されている。しかしレーザ距離計は一般的な装置であるので、比較的容易に情報コードを読み取られ、偽造される可能性がある。
【0005】
そこで特許文献2に示されるように、タグにテラヘルツ波を照射し、その干渉によって得られる波形データを利用して真贋を判定する技術が開発されている。テラヘルツ波の発生装置は特許文献3などに示されているが、レーザ距離計ほど一般的ではないので、情報コードを読み取られにくい。
【0006】
しかし特許文献2でタグの基材として用いられているPET樹脂やポリエチレン樹脂は、表面加工が容易で多彩なパターンを形成し易いという利点がある反面、Siなどの素材に比べてテラヘルツ波に対する屈折率が低いため、波形データの振幅が小さい。逆にSi素材は屈折率が高いが表面加工が容易ではないという問題がある。
【0007】
また、遮蔽物越しに読取り可能なタグとして、RFタグがあるが、これはタグ材料内に電波または磁界を受信する為のアンテナを設けなくてはならない為、複数のRFタグが重なるなど、複数のアンテナ間の距離が近いと、タグ内のアンテナ間の干渉により読み書きができなくなる等の問題が生じるなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4967778号公報
【文献】特許第5119566号公報
【文献】特開2002-72269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は上記した従来の問題を解決し、表面加工が容易で多彩なパターンを形成し易く、しかもテラヘルツ波を照射したときに振幅の大きい波形データを得ることができる識別タグとその製造方法、その干渉波形検出方法及びその真贋判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明では次の(1)から(4)の手段を採用する。
(1)テラヘルツ波が反射及び透過可能で、その内部でテラヘルツ波が干渉する素材からなり、厚さの異なる複数の領域を組み合わせた平板構造を持ち、その片面又は両面に、金属粉末を含有する金属塗料を塗布することにより、干渉波形を増幅したことを特徴とする識別タグ。
(2)前記素材が熱可塑性素材であって、前記複数の領域が、サーマル加工により厚み調整されたものであることを特徴とする(1)に記載の識別タグ。
(3)上記の(1)または(2)の識別タグに、周波数の異なるテラヘルツ波を照射し、前記識別タグの表面及び裏面で反射または透過し、光路差により干渉するテラヘルツ波を前記識別タグの照射側またはその裏面側から検出し、検出されたテラヘルツ波を周波数ごとの反射率又は透過率を表す波形データに変換することを特徴とする識別タグの干渉波形検出方法。
(4)上記の(3)の波形検出方法によって得られた波形データを、予め記憶された基準波形データと対比して、識別タグの真贋を判定することを特徴とする識別タグの真贋判定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の偽造防止構造体は、テラヘルツ波が反射及び透過可能で、その内部でテラヘルツ波が干渉する素材の片面又は両面に、金属粉末を含有する塗料を塗布したものであり、これによってテラヘルツ波を照射した場合に振幅の大きい波形データを得ることができる。このため厚さの検出精度が高まり、真贋判定の精度を高めることができる。また、本発明によれば、厚さの異なる多数の領域を複雑に組み合わせた識別タグを、サーマル加工により経済的に製造することができる。
【0012】
また、テラヘルツ波は、紙、プラスチック、ビニール、繊維、半導体、粉体など種々の物質を、適度に透過する為、遮蔽物越しでの読み取りが可能となり、例えば、商品包装の内側に識別タグを配置し、商品識別や偽造防止を行うことが可能である。さらに、本発明の識別タグは、識別タグ内部に電波または磁界を受信する為のアンテナを設けておらず、アンテナ間で電波又は磁界による干渉を起こすことがない為、識別タグを重ねたり、近づけたりした状態においても、商品識別や偽造防止を行うことが可能である。
【0013】
本発明の識別タグは、商品のタグ等として用いるに適したものである。テラヘルツ波を利用すれば、ごく僅かな厚みの違いを正確に検出することができるので、各領域の厚さの差をごく小さくすることも可能であり、従って本発明の識別タグは、基材を分解してパターンを解読することが極めて困難である。また前記したように、テラヘルツ波は各種物質を透過できるので、本発明の識別タグを内部に封入した状態でも、使用することができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】テラヘルツ波の反射と透過を示す説明図である。
【
図2】透過波を周波数分析して得られた干渉波形のグラフである。
【
図4】異なる周波数に対応する干渉波形のグラフである。
【
図5】金属塗料のスプレーを行った場合と行わない場合の干渉波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明する。
本発明の識別タグは、テラヘルツ波が反射及び透過可能な素材からなる平板状のものである。本発明におけるテラヘルツ波とは波長が100μm~3mm(周波数100GHz~3THz)の電磁波であり、電波のように紙,プラスチック,ビニール,繊維,半導体,粉体など種々の物質を透過する性質を持つ。また光のように、ミラーやレンズにより反射させたり集光させることができる性質も持つ。
【0016】
図1に示されるように、ある厚さの基材10の表面に照射源1からテラヘルツ波を照射すると、照射波11の一部は基材表面で反射して反射波12となり、一部は透過波13となるが、残部は基材10の裏面や表面で多重反射して図示のように反射波14、透過波15となる。基材10の裏面からの反射波14は基材10の内部を往復しているので基材10の表面からの反射波12よりも厚さ相当分だけ光路が長くなり、この光路差によって反射波12と反射波14との間に位相差が生じる。位相差のある2種類のテラヘルツ波は干渉し、その干渉波形は基材10の厚さとテラヘルツ波の周波数とにより変化する。透過波13、透過波15についても同様であり、基材10の厚さにより変化する干渉波形が得られる。
【0017】
この原理は従来から干渉膜厚計に用いられており、通常は照射側にセンサを設置して反射波を利用するが、テラヘルツ波は基材10を透過し易いので、
図1に示すように照射源1のある照射側とは反対側にセンサ2を設置して透過波を検出することもできる。
図2は検出された透過波を周波数分析して得られた干渉波形のグラフであり、縦軸は透過率、横軸は周波数である。周波数間隔Xは基材10の厚さに応じて変化する。また波の高さYは、位相差による干渉の強さを表している。
【0018】
本発明ではこの干渉波形を用いて識別タグの真贋判定を行う。その原理は次のとおりである。
図3は本発明の識別タグの模式図である。ここでは説明を簡略化するために、(1)(2)(3)(4)の4つの領域に分割された識別タグが示されている。これらの4つの領域は厚さが異なるもので、例えば1mm、1.5mmの2種類の厚さに加工されている。なおこれらの厚さは以下の説明の便宜上のものである。
【0019】
図3に示す識別タグでは、左上の(1)と左下の(3)の領域の厚さが1.5mm、右上の(2)と右下の(4)の領域の厚さが1mmとなっている。この識別タグに膜厚が1.5mmのときに透過率が最大となる周波数A・B・C・Dのテラヘルツ波を照射し、得られたデータをグラフ化すると、
図4に実線で示すように周波数A・B・C・Dにおいて透過率が最大となる領域(1)と(3)特有の波形1データが得られる。次に膜厚が1mmの領域(2)、(4)に周波数A・B・C・Dの周波数のテラヘルツ波を照射すると、
図4に破線で示すように周波数A・Cで透過率が最大となる領域(2)と(4)特有の波形データ2が得られる。なお、この説明では各領域の厚さの差を0.5mmとしたが、実際には厚さの差をさらに小さくしたり、厚さの種類を3種類以上設けて、偽造防止効果を高めることが好ましい。
【0020】
このように本発明では、厚さの異なる複数の領域を組み合わせた識別タグに周波数の異なるテラヘルツ波を照射し、検出されたテラヘルツ波を周波数ごとの透過率を表す波形データに変換する。なお、本発明における波形データとは、任意の周波数に対する透過率をプロットした離散的なデータをつないでグラフ化したものに過ぎず、前記波形データには、この離散的なデータ自体も含まれる。そして検出された波形を予め記憶された基準波形データと対比すれば、識別タグの真贋を判定することができる。
【0021】
上記した真贋判定の精度を高めるためには、
図2に示した干渉波形の振幅、すなわち波の高さYが大きいことが望ましい。このために本発明では、基材の片面又は両面に、金属粉末を含有する金属塗料を塗布することにより、エタロン効果による干渉を強くすることができる。
図5はその具体例を示す透過スペクトル図である。ポリエチレンからなる基材にテラヘルツ波を照射して得られた波形は破線で示すとおりであるが、亜鉛粉末を含むジンクスプレーを吹きかけると、
図5に実線で示すように干渉が強くなり、振幅が大きい鮮明な波形となった。なおこのジンクスプレーとしては、亜鉛粉末55重量部、エポキシエステル樹脂5重量部、有機溶剤40部からなる市販のスプレーを用いた。乾燥すると有機溶剤は蒸発し、亜鉛粉末92重量部、エポキシエステル樹脂8重量部の塗膜となるものである。
【0022】
しかし本発明において、金属粉末の種類は亜鉛粉末に限られるものではなく、金、銀、アルミニウム、銅、錫、インジウム、鉄、マグネシウム等のその他の金属粉末を用いることもできる。しかしタグとして使用する場合には長期間空気と接触した状態に放置されるので、空気中で安定な金属であることが好ましい。また経済的な観点からは、高価な金や銀よりも、亜鉛や錫などを用いることが好ましい。
【0023】
塗布の方法も必ずしもスプレーに限定されるものではなく、ディッピングやスクリーン印刷など、その他の手段を採用することもできる。しかし均一で薄い金属粉末層を形成することが好ましいため、スプレー法が最適である。その膜厚は5μm~200μmとすることが好ましい。膜厚がこの範囲よりも薄いと剥離し易く、逆にこの範囲を超えると金属粒子が応答材料表面に、整然と配置されず、テラヘルツ波が適度に透過しない為である。また金属粉末の粒径は、2μm~20μmとすることが好ましい。
【0024】
金属粉末を含有する金属塗料の層20は、
図6に示すように基材10の凹凸面に形成しても、あるいは
図7に示すように基材10の平坦面に形成しても、
図8のように前期凹凸面と平坦面の両面に形成してもよい。
図6の場合には以下に説明する方法で基材10に厚さの異なる複数の領域を形成した後に金属塗料をスプレーする方法で製造することができる。また
図7の場合には予め基材10の片面に金属塗料の層20を形成した後に、反対面に厚さの異なる複数の領域を形成する方法で製造することができる。
【0025】
上記した識別タグは、基材に形成される領域の数を増加させることによって、偽造の困難性を高めることができる。しかし前述したとおり、ブロックを貼り合わせる方法や金型を用いる方法では、領域の数を増加させた識別タグを経済的に製造することは困難である。これに対して本発明では以下に示すように、印鑑製造の技術を応用することによって、識別タグを経済的に製造することができる。
【0026】
すなわち本発明の製造方法では、先ず複数の領域を複雑に組み合わせたパターンの版下を作成する。そしてテラヘルツ波が反射または透過可能な熱可塑性素材からなる板状の基材10に、版下のとおりにサーマルヘッドを押し当ててサーマル加工を行う。サーマルヘッドは直線状に配置された多数の発熱素子を備えており、その位置、押し当てる圧力、時間、熱量などがコンピュータによって制御されるものである。発熱素子の熱制御データは組版ソフトで作成した画像データに従って作成されており、そのデータに基づいて基材10に厚さの異なる複数の領域を、サーマル加工により形成することができる。なお、サーマルヘッドを用いた印面形成技術は本出願人の特許第6205731号などに記載されている。
【0027】
上記した製造方法を用いれば、厚さの異なる多数の領域を持つ識別タグを、経済的に製作することができる。素材10としてはサーマル加工し易い熱可塑性素材が用いられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどを挙げることができる。またサーマルヘッドによる加工性の観点からは、多孔質素材を用いることがより好ましい。
【0028】
以上に説明したように、本発明の識別タグは、金属粉末を含有する金属塗料を塗布することにより、テラヘルツ波を照射した場合に振幅の大きい波形データを得ることができる。このため厚さの検出精度が高まり、真贋判定の精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 照射源
2 センサ
10 基材
11 照射波
12 反射波
13 透過波
14 反射波
15 透過波
20 金属塗料の層