(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】セロオリゴ糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
C13K 13/00 20060101AFI20221212BHJP
B01J 21/18 20060101ALI20221212BHJP
B01J 37/14 20060101ALI20221212BHJP
C08B 1/00 20060101ALI20221212BHJP
C07H 3/06 20060101ALI20221212BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
C13K13/00
B01J21/18 M
B01J37/14
C08B1/00
C07H3/06
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018173782
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-05-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「新規高性能触媒の開発と流通式反応の適用およびリグニンの回収・利用」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【氏名又は名称】林 篤史
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【氏名又は名称】日浅 里美
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】シュロトリ アビジット
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 信
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104687(WO,A1)
【文献】特開2011-144336(JP,A)
【文献】特開2011-142893(JP,A)
【文献】特開2014-205751(JP,A)
【文献】特開2013-63051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H
B01J
C08B
C13K
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素触媒と植物性バイオマスの混合物
に、さらにシリカを混合した混合物を固定床として充填した反応容器に、加熱水を流通させてバイオマス中のセルロースを加水分解し、生成するグルコース重合度が3以上のセロオリゴ糖を取得することを特徴と
し、
前記加熱水の温度が180~240℃、反応滞留時間が20~600秒であり、
前記加熱水の線速度(LV)が0.4~5.0m/Hr、空間速度(SV)が5~100/Hrである、
セロオリゴ糖の製造方法。
【請求項2】
前記炭素触媒と植物性バイオマスの混合物が、前記炭素触媒と植物性バイオマス原料を予め混合し同時粉砕した混合物である請求項1に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【請求項3】
前記植物性バイオマス原料が、粒径が20~1000μmの粉体である、請求項2に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【請求項4】
前記炭素触媒が、アルカリ賦活活性炭、水蒸気賦活活性炭、薬剤賦活活性炭、及びメソポーラスカーボンからなる群から選択される1種以上の炭素触媒である請求項1~
3のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【請求項5】
前記炭素触媒が、空気酸化処理された炭素触媒である請求項1~
4のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセロオリゴ糖の製造方法に関する。さらに詳しく言えば、炭素触媒を用いた植物性バイオマスの加水分解による、グルコースの重合度(G)が3以上のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖の選択的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セロオリゴ糖は、グルコースがβ-1,4結合して重合した短鎖線状ポリマーであり、保湿性、べたつき抑制、清味付与、でんぷん老化低減、タンパク変性抑制などの機能性を有し、食品及び化粧品産業において添加剤として幅広く利用されている。例えば、セロオリゴ糖はヒト消化器官内の善玉バクテリアの成育を刺激することによって、糖尿病や肥満症のような生活習慣病の予防に有効であり(非特許文献1)、農業分野においても、セロオリゴ糖を低濃度で投与すると、植物の免疫防御能を活性化する誘導因子として働き、作物の収量を改善することが報告されている(非特許文献2)。
特に、グルコースの重合度が3~8程度のセロオリゴ糖は水に適度な溶解性を示し、上記の機能の持続性の増大、新たな機能性賦与という点でより大きな期待が寄せられている。
【0003】
現在工業的に利用されているセロオリゴ糖は、酵素反応によって製造されているが、主成分はグルコースと二量体のセロビオースであり、三量体のセロトリオース以上のオリゴマーはほとんど含有していない(特開2009-189293号公報;特許文献1)。
【0004】
酵素法以外のセロオリゴ糖製造技術としては、水熱処理方法(国際公開第2012/128055パンフレット(US9284614B2);特許文献2等)、次亜塩素酸を含有する酸化水による水熱処理方法(特開2006-320261号公報;特許文献3)が知られているが、いずれもセロオリゴ糖は、セルロースをグルコースに分解する過程の中間産物として取り扱われており、収率など具体的データは開示されていない。すなわち、グルコースの重合度が3以上のオリゴマーを工業的に効率よく製造する方法は確立されておらず、現状工業生産されていないグルコースの重合度(G)が3以上のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖が高収率で得られる製造方法の確立が望まれている。
【0005】
本発明に関連する技術として、セルロースを加水分解する固体触媒を用い、セルロースを含有するバイオマスなどの原料を加水分解し糖類を製造する方法が提案されている。
特許第4604194号公報(特許文献4)には、効率よくセルロースを加水分解してグルコースを得ることができる方法として、セルロースの加水分解反応を触媒する酸性官能基または塩基性官能基を有する活性炭固体触媒を用いる方法が開示されているが、セロオリゴ糖の生成については記載していない。
【0006】
本発明者らは、植物性バイオマスと炭素触媒のスラリーを連続的に反応液流通管に通して水熱反応を行い生成物として、主としてグルコースを連続的に取得する方法を開示している(特開2017-109187号公報;特許文献5)。特許文献5では、反応条件によっては、G2以上のセロオリゴ糖が生成しているが、G3以上のオリゴ糖の収率及び選択率については開示されていない。
【0007】
また、本発明者らは炭素触媒を用いた植物性バイオマスの加水分解反応において、反応温度(縦軸)と反応時間(横軸)との関係を表すグラフにおける170~230℃の範囲の温度時間積を特定の範囲となる条件に制御して水熱反応をさせてG3~G6のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖を製造する方法を開示している(国際公開第2017/104687パンフレット;特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-189293号公報
【文献】国際公開第2012/128055パンフレット
【文献】特開2006-320261号公報
【文献】特許第4604194号公報
【文献】特開2017-109187号公報
【文献】国際公開第2017/104687パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】Polym.Int.,66,1227(2017)
【文献】Plant Physiol.,173,2383(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、炭素触媒を用いて植物性バイオマスを加水分解する方法において、特許文献6のような煩雑な制御を行うことなく、グルコースの重合度(G)が3以上のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖を高収率、高選択率で得ることのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、セルロースの加水分解によって、グルコースの重合度(G)が3以上のオリゴマーを選択的に高収率で得るためには、セルロースが逐次的に解重合し生成したG3以上のオリゴマーを、すみやかにそれ以上解重合しない環境下におくこと(炭素触媒系から解放すること)が有効であると考え鋭意検討を重ねた。その結果、炭素触媒と植物性バイオマスの混合物を固定床として充填したカラム(反応容器)に、セルロース成分がG3以上のオリゴマーとなる条件で加熱水を流通させることによって、生成したG3以上のオリゴマーを含む水溶液が触媒系から解放され、目的とするセロオリゴ糖が高収率(高選択率)で得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]のセロオリゴ糖の製造方法に関する。
[1] 炭素触媒と植物性バイオマスの混合物を固定床として充填した反応容器に、加熱水を流通させてバイオマス中のセルロースを加水分解し、生成するグルコース重合度が3以上のセロオリゴ糖を取得することを特徴とするセロオリゴ糖の製造方法。
[2] 前記加熱水の温度が180~240℃、反応滞留時間が20~600秒である前項1に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
[3] 前記加熱水の線速度(LV)が0.4~5.0m/Hr、空間速度(SV)が5~100/Hrである前項1または2に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
[4] 前記炭素触媒と前記植物性バイオマス原料を予め混合し同時粉砕した混合物を固定床として用いる前項1~3のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
[5] 前記炭素触媒が、アルカリ賦活活性炭、水蒸気賦活活性炭、薬剤賦活活性炭、及びメソポーラスカーボンからなる群から選択される1種以上の炭素触媒である前項1~4のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
[6] 前記炭素触媒が、空気酸化処理された炭素触媒である前項1~5のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
[7] 前記炭素触媒と前記植物性バイオマスに、さらにシリカを混合した混合物を固定床として用いる前項1~6のいずれか1項に記載のセロオリゴ糖の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、植物性バイオマスから、炭素触媒を用いてグルコースの重合度が3以上のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖を高収率・高選択率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例で使用した反応系(実験装置)の概要を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の方法の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な一例を示したものであり、本発明はそれらに限定されるものではなく、それらにより本発明の範囲が狭く解釈されるべきでない。
【0016】
[植物性バイオマス(固体基質)]
バイオマスとは一般的には「再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」を指すが、本発明で使用する「植物性バイオマス」(以下、固体基質ということがある。)は、例えば、稲わら、麦わら、サトウキビわら、籾殻、バガス、広葉樹、竹、針葉樹、ケナフ、家具廃材、建築廃材、古紙、食品残渣等の主にセルロースやヘミセルロースを含むバイオマスである。
【0017】
植物性バイオマスは、精製処理してあるものでも、精製処理してないものでも用いることができる。精製処理してあるものとしては、アルカリ蒸煮、アルカリ性亜硫酸塩蒸煮、中性亜硫酸塩蒸煮、アルカリ性硫化ソーダ蒸煮、アンモニア蒸煮などの処理をした後に固液分離し水洗することにより脱リグニン処理を行い、セルロースを含有するものが挙げられる。さらに、工業的に調製したセルロースなどでもよい。
植物性バイオマスは、不純物として原料由来の珪素、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどの灰分を含有してもよい。
【0018】
植物性バイオマスは、乾体でも湿体でもよく、結晶性でも非結晶性でもよい。植物性バイオマスは反応に先立ち粉砕することが望ましい。粉砕により炭素触媒との接触性が増加して、加水分解反応が促進される。したがって、植物性バイオマスの形状・大きさは、粉砕するのに適していることが好ましい。そのような形状・大きさとしては、例えば粒径が20~1000μmの粉体状が挙げられる。
【0019】
[炭素触媒]
炭素触媒は、植物性バイオマスの加水分解を触媒できるものであればよく、特に限定されるものではないが、主成分であるセルロースを形成しているグルコース間のβ-1,4グリコシド結合に代表されるグリコシド結合を加水分解する活性を有する炭素材料が好ましい。
【0020】
炭素材料としては、例えば活性炭、カーボンブラック、グラファイト、空気酸化した木粉などが挙げられる。これら炭素材料は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。炭素材料の形状は、基質との接触面積の拡大により反応性を向上させるという点で、多孔性及び/または微粒子であることが好ましく、酸点を発現して加水分解を促進させるという点で、その表面にフェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などの官能基を有する炭素材料が好ましい。
【0021】
官能基を表面に有する多孔性炭素材料としては、ヤシガラ、ユーカリ、竹、松、くるみガラ、バガスなどの木質材料や、コークス、フェノールなどを、水蒸気、二酸化炭素、空気などのガスを用いて高温処理する方法(物理法)や、アルカリ、塩化亜鉛などの薬剤を用いて高温処理する方法(化学法)により調製した活性炭が挙げられる。さらに木質材料や活性炭を空気存在下で均一に加熱処理した(空気酸化処理された)炭素材料も挙げられる。
【0022】
セロトリオース以上の重合度のオリゴ糖収率が高いという観点から水蒸気賦活活性炭、薬剤賦活活性炭、空気酸化した木粉、空気酸化した水蒸気賦活活性炭、空気酸化した薬剤賦活活性炭を用いることが好ましい。
【0023】
[植物性バイオマスの粉砕]
植物性バイオマスの主成分であるセルロースは、2本またはそれ以上のセルロース分子が水素結合により結合して結晶性を示す。本発明では、そのような結晶性を有するセルロースをそのまま原料として使用することができるが、結晶性低下処理を施して結晶性を低下させたセルロースを用いることが好ましい。結晶性を低下させたセルロースは、結晶性を部分的に低下させたものでも、完全にまたはほぼ完全に消失させたものでもよい。結晶性低下処理の種類には特に制限はないが、上記水素結合を切断して、1本鎖のセルロース分子を少なくとも部分的に生成できる結晶性低下処理が好ましい。少なくとも部分的に1本鎖のセルロース分子を含むセルロースを原料とすることで、加水分解の効率を大幅に向上することができる。
【0024】
物理的にセルロース分子間の水素結合を切断する方法は、例えば粉砕処理が挙げられる。粉砕手段は微粉化できる機能を備えているものであれば特に限定されない。例えば、粉砕装置の方式は乾式、湿式のいずれでもよく、また装置の粉砕システムは回分式、連続式いずれでもよい。さらに、装置の粉砕力は、衝撃、圧縮、せん断、摩擦などのいかなるものでも用いることができる。
【0025】
粉砕処理に用いる装置としては、ポットミル、チューブミル、コニカルミルなどの転動ボールミル、円振動型振動ミル、旋回型振動ミル、遠心ミルなどの振動ボールミル、撹拌槽ミル、アニュラミル、流通型ミル、塔式粉砕機などの撹拌ミル、旋回流型ジェットミル、衝突タイプジェットミル、流動層型ジェットミル、湿式タイプジェットミルなどのジェット粉砕機、らいかい機(擂潰機)、オングミルなどのせん断ミル、乳鉢、石うすなどのコロイドミル、ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、ディスインテグレータ、スクリーンミル、ターボ型ミル、遠心分級ミルなどの衝撃式粉砕機、さらには自転及び公転の運動を採用した種類の粉砕機である遊星ボールミルなどが挙げられる。
【0026】
炭素触媒を用いる植物性バイオマスを加水分解する反応は、固体基質と固体触媒の反応であり、基質と触媒の接触が律速となるため、反応性を向上させる方法として、固体基質と固体触媒を予め混合し同時粉砕処理をすることが有効である。
同時粉砕処理は、混合に加え、基質の結晶性を低下させる前処理を兼ねることができる。その観点から、用いる粉砕装置は、基質の結晶性を低下させる前処理に用いられる、転動ボールミル、振動ボールミル、撹拌ミル、遊星ボールミルが好ましく、転動ボールミルに分類されるポットミル、撹拌ミルに分類される撹拌槽ミル、遊星ボールミルがより好ましい。さらに、固体触媒と固体基質とを同時粉砕処理した嵩密度の大きい原料の方が反応性が高い傾向が認められることから、固体触媒の粉砕物と固体基質の粉砕物とが食い込むような圧縮力が強く加わる転動ボールミル、撹拌ミル、遊星ボールミルを用いることがさらに好ましい。
【0027】
個別に基質を粉砕した固体基質と触媒を同時粉砕した原料は、微粉砕後の平均粒径(累計中位径(メジアン径):粉体の集団の全体積を100%として求めた累計カーブが50%となる点の粒子径(D50))は1~100μmであり、反応性をより高めるという観点から、1~30μmが好ましく、1~20μmがより好ましい。
微粉砕処理する原料の粒径が大きい場合は、微粉砕を効率的に行うために、微粉砕の前に予備的粉砕処理を行うことが好ましい。予備的粉砕処理は、例えば、シュレッダー、ジョークラッシャー、ジャイレトリクラッシャー、コーンクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、及びロールミルなどの粗粉砕機、スタンプミル、エッジランナ、切断・せん断ミル、ロッドミル、自生粉砕機及びローラミルなどの中粉砕機を用いて実施することができる。原料の処理時間は、処理後原料が均一に微粉化されるのであれば特に限定されない。
【0028】
炭素触媒と固体基質の比率は、個別に基質を粉砕する場合及び基質と触媒を同時粉砕する場合のいずれにおいても、特に限定されるものではないが、反応時の加水分解効率、反応後の基質残渣低減、生成糖の回収率の観点から、固体基質100質量部に対して炭素触媒1~100質量部が好ましく、2~50質量部がより好ましく、5~30質量部がさらに好ましく、10~20質量部が特に好ましい。
【0029】
[シリカの混合]
粉砕処理した炭素触媒と固体基質を反応容器に充填するときには、これらをシリカと混合して充填することが好ましい。粉砕処理した炭素触媒と固体基質は微粉末であるため、直接反応容器に充填すると、反応容器中の水の流通が阻害される。炭素触媒と固体基質にシリカを混合して充填することにより、反応容器中の水の流路が確保され、反応容器における圧力の低下を緩和することができる。使用するシリカの種類は、特に限定されず、石英などの結晶性シリカを用いても、非結晶性シリカを用いてもよい。
【0030】
シリカの混合量は、炭素触媒と固体基質の合計量に対して、質量比(炭素触媒+固体基質:シリカ)で1:0.1~1:10となる量が好ましく、1:0.5~1:5となる量がより好ましく、1:0.7~1:2となる量がさらに好ましい。
シリカの混合方法は、特に限定されないが、例えば同時粉砕した炭素触媒と固体基質をバイアルに入れてシリカを加え、シリカが均一に分散するまでスパチュラで混合する方法が挙げられる。
なお、炭素触媒及び固体基質と混合する物質は、シリカに限定されず、他の不活性な粒状物質を用いてもよい。シリカを代替する物質として、例えば、ジルコニア、ステンレス鋼、ガラスビーズなどを挙げることができる。
【0031】
[加水分解反応]
植物性バイオマスを基質として、グルコースの重合度が3以上のオリゴマーを含有するセロオリゴ糖を生成する加水分解反応は、固体基質と炭素触媒を前述の同時粉砕によって、好ましくは炭素触媒表面に固体基質が吸着した混合物の状態で反応容器に充填する。より好ましくは、同時粉砕した固体基質と炭素触媒を、シリカと混合した混合物の状態で、反応容器に充填する。この反応容器は
図1に概要を示す(半流動式の)反応システムに取り付ける。
【0032】
加熱部3は、加熱水を反応容器4に流通し、加水分解反応を行う装置である。加水分解反応は、後述する条件下で行うことができる。
冷却部6は、加熱部から流出したセロオリゴ糖含有水溶液を冷却する装置である。
背圧調整器5の圧力は、0.7~50MPaが好ましく、0.8~30MPaがより好ましく、1~15MPaがさらに好ましい。
【0033】
反応容器には、バイオマス中のセルロースが主としてG3以上のセロオリゴ糖に加水分解される条件で加熱水を流通させる。反応で生成したG3以上のセロオリゴ糖は加熱水中に溶解した状態で反応容器系外に出るために(したがって、触媒系から解放されるために)、生成したG3以上のセロオリゴ糖はそれ以上加水分解を受けないので、安定した収率でG3以上のセロオリゴ糖を得ることができる。
【0034】
本発明の加水分解反応により、重合度(G)が3以上のセロオリゴ糖が生成する。生成するオリゴ糖の重合度(G)は、例えば3~15であってもよく、5~14であってもよく、7~13であってもよい。好ましくは3~10であり、より好ましくは4~9であり、さらに好ましくは5~8である。オリゴ糖の重合度(G)が3~10の範囲内であると、水への溶解性が高く回収しやすい。
【0035】
以下に、セルロースが主としてG3以上のセロオリゴ糖に加水分解される条件について詳しく説明する。
【0036】
加水分解反応に用いる反応容器は、特に限定されず、例えば市販のチューブを用いることができる。チューブの大きさは目的に応じ、適宜、長さ・内径を選択して使用することができる。反応容器の長さをL、内径をDとすると、長さLと内径Dの比(L/D)は、1~100が好ましく、2~50がより好ましく、3~30がさらに好ましい。
反応容器への固体基質及び炭素触媒の充填方法は、特に限定されないが、前述のようにあらかじめ固体基質、炭素触媒、及びシリカの混合物を調製して、反応容器に充填することができる。反応容器へのこれら混合物の充填率は、80~100%が好ましく、90~100%がより好ましく、95~100%がさらに好ましい。
【0037】
固定床に流通させる加熱水の温度は170~250℃であり、180℃~240℃が好ましい。加熱水の温度は、より好ましくは180℃~230℃、さらに好ましくは190℃~220℃、特に好ましくは190℃~210℃である。
固定床に流通させる水の加熱方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器と反応容器に接続する手前の流路をヒーターにより加熱することができる。
【0038】
固定床に流通する加熱水の線速度(LV)は、0.4~5.0m/Hrが好ましい。線速度(LV)は、より好ましくは0.5~4.5m/Hr、さらに好ましくは0.8~4.0m/Hr、特に好ましくは2.0~4.0m/Hrである。
線速度(LV)は、以下の式により算出することができる。
LV(m/Hr)={(流速(cm3/min))/(反応容器の断面積(cm2))}×60/100
【0039】
固定床に流通する加熱水の空間速度(SV)は、5~100/Hrが好ましい。空間速度(SV)は、より好ましくは10~90/Hr、さらに好ましくは20~80/Hr、特に好ましくは50~80/Hrである。
空間速度(SV)は、以下の式により算出することができる。
SV(1/Hr)={(流速(cm3/min))/(反応容器の容積(cm3))}×60
【0040】
なお、加水分解はpHの影響を受ける。本発明では、pH2~9の条件で加水分解反応を行うことができるが、好ましくは、pH調整を行うことなく、加熱水を直接反応容器に流通させる。
【0041】
加熱水が反応容器に滞留する時間(以下、「反応滞留時間」という。)は、20~600秒であることが好ましい。反応滞留時間は、より好ましくは20~400秒、さらに好ましくは30~300秒、特に好ましくは30~100秒である。
【0042】
反応滞留時間は、以下の式により算出することができる。
(反応滞留時間(秒))={(VolR-VolS)/(流速(cm3/分))}×60
ここで、VolRは反応容器の容積(cm3)を示し、VolSはサンプルの容積(cm3)を示す。VolSは以下の式により求めることができる。
VolS=WtS/ρS
ここで、WtSはサンプルとシリカの混合物の質量(g)を示し、ρSはサンプルとシリカの混合物の真密度(g/cm3)を示す。
【0043】
なお、真密度ρSは、以下の方法により求めることができる。サンプルとシリカの混合物を一定量、メスシリンダーに入れ、水面が固体の上面より高くなるまで水を加える。加えた水の質量(g)を水の密度(1g/cm3)で割って、加えた水の体積(cm3)を求め、以下の式により真密度ρS(g/cm3)を算出することができる。
ρS=(混合物の質量(g))/{(メスシリンダーで測った体積(cm3))-(加えた水の体積(cm3))}
【0044】
本発明のセロオリゴ糖の製造方法は、さらに、他の工程を含んでもよい。例えば、セロオリゴ糖含有水溶液のろ過工程、セロオリゴ糖の分画工程、セロオリゴ糖の精製工程などを含むことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0046】
(1)固体基質
固体基質として、アビセル(Merck社製結晶性微粉セルロース)を以下の(3)の方法で粉砕処理したものを用いた。
【0047】
(2)炭素触媒
炭素触媒として、比較例2~5では、水蒸気賦活活性炭であるBA50(味の素ファインテクノ株式会社製)を、以下の(3)の方法で粉砕処理したものを用いた。実施例1~4及び比較例1では、BA50を425℃で10時間、電気炉中で加熱して空気酸化したもの(以下、空気酸化BA50と略記する。)を、以下の(3)の方法で粉砕処理したものを用いた。
【0048】
(3)混合粉砕原料
実施例1~4では、固体基質としてアビセル5.00gと炭素触媒として空気酸化BA50 0.771gを混合し、遊星ボールミル粉砕機(Fritsch P-6、アルミナボール)を用い、500rpmで1時間、粉砕処理を行った。その後、150μm以下にふるい分けした。得られた原料を、以下、混合粉砕原料と略記する。
比較例1では、粉砕処理時間を2時間とした以外は、実施例1~4と同様にして粉砕処理を行った。
比較例2~5では、固体基質としてアビセル10.00gと炭素触媒としてBA50 1.54gを混合し、60rpmで48時間、ボールミル処理した。
【0049】
[生成物の定量]
得られたセロオリゴ糖含有水溶液は、(株)島津製作所製高速液体クロマトグラフ(カラム:Shodex(登録商標)SH-1011、移動相:水0.5mL/min、カラム温度:50℃、検出:示差屈折率)により、グルコース、セロビオース(G2)、及びG3以上のセロオリゴ糖を定量分析した。 以下に収率の計算式を示す。
生成物収率(%)={(対象成分の炭素の物質量)/(加えたセルロースの炭素の物質量)}×100
【0050】
[線速度(LV)、空間速度(SV)、反応滞留時間の算出]
線速度(LV)、空間速度(SV)及び反応滞留時間は、明細書に記載の式に基づいて算出した。なお、反応滞留時間は、真密度ρSを1.68g/cm3として算出している。
【0051】
実施例1:
真空乾燥した混合粉砕原料0.175gをバイアルに入れ、同質量のシリカ(富士シリシア化学株式会社、CARiACT Q30、粒径75~150μm)を加えた。シリカが均一に分散するまでスパチュラで混合し、混合粉砕原料/シリカの混合物を得た。反応容器(長さ5.15cm、内径0.39cm(外径0.25インチのSwagelokチューブを切断して作製))の一端を石英ウールで塞ぎ、上記の混合粉砕原料/シリカ混合物をすべて反応容器に充填した。反応容器の他端を石英ウールで塞いだ後、加水分解反応システムに装着した。
反応容器装着後、背圧調整器(Swagelok、KPB1N0G422P20000)により反応システムの圧力を3MPaに設定した。次にHPLCポンプを起動し、水の流速を0.75mL/minに設定した。反応システムの圧力がゆっくりと3MPaまで上昇し、液体が反応システムの出口から流出し始めてから、さらに20分間この状態を維持した。その後、ヒーター(アサヒ理化製作所、セラミック電気管状炉、ARF-30KC)の電源を入れ、温度を180℃に設定した。この時間を回収時間0分とし、セロオリゴ糖含有水溶液の回収を開始した。
回収時間40分の時点でセロオリゴ糖含有水溶液の回収を終了した。回収したセロオリゴ糖含有水溶液(30mL)はろ過後、HPLC分析を行い、生成物の収率を算出した。結果を表1に示す。
【0052】
実施例2:
固定床を通る加熱水の温度(反応温度)を、実施例1の180℃から200℃に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0053】
実施例3:
固定床を通る加熱水の温度(反応温度)を、実施例1の180℃から220℃に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0054】
実施例4:
固定床を通る加熱水の温度(反応温度)を、実施例1の180℃から240℃に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0055】
比較例1:
特許文献5の実施例1の記載に従って、触媒と基質の混合スラリーの流通反応を実施した。反応条件及び結果を表2に示す。
【0056】
比較例2:
特許文献6の比較例1の記載に準じて、触媒と基質のバッチ撹拌反応を実施した。反応条件及び結果を表2に示す。
【0057】
比較例3:
特許文献6の実施例1の記載に従って、触媒と基質のバッチ撹拌反応を実施した。反応条件は、比較例2で反応温度を200℃、反応時間を3分としたほかは、比較例2と同一である。反応条件及び結果を表2に示す。
【0058】
比較例4:
特許文献6の実施例3の記載に従って、触媒と基質のバッチ撹拌反応を実施した。反応条件は、反応温度を190℃、反応時間を5分としたほかは、比較例2と同一である。反応条件及び結果を表2に示す。
【0059】
比較例5:
特許文献6の実施例4の記載に従って、触媒と基質のバッチ撹拌反応を実施した。反応条件は、反応温度を180℃、反応時間を20分としたほかは、比較例2と同一である。反応条件及び結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、炭素触媒を用いた植物性バイオマスの加水分解反応により、食品及び化粧品産業において有用なG3以上のオリゴ糖を高収率、高選択率で製造することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 水
2 ポンプ
3 加熱部
4 反応容器(セルロース/触媒固定床)
5 背圧調整器
6 冷却部
7 セロオリゴ糖含有水溶液