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  • 特許-冷却体の加工治具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】冷却体の加工治具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/08 20060101AFI20221212BHJP
   B23Q 3/02 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B23Q3/08 A
B23Q3/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019044394
(22)【出願日】2019-03-12
(65)【公開番号】P2020146771
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】391061163
【氏名又は名称】株式会社片山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳留 竜一
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-76504(JP,A)
【文献】特開平10-15815(JP,A)
【文献】実開平3-123638(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-0875212(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0082731(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/08
B23Q 3/02
B25B 11/00
B23P 15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体の表面を切削加工するための冷却体の加工治具であって、
治具本体の上面には冷却体を上向きで所定位置にセットする載置面を設けるとともに、この載置面の下部には前記冷却フィンを受け入れ可能で、かつ負圧に設定可能な空洞室を設け、
この空洞室には前記冷却フィンに上向きに弾発した状態で当接し、かつ自在に昇降動する裏アテ板と、この裏アテ板の高さを調整した後に、この位置に裏アテ板を固定する固定手段を設けたことを特徴とする冷却体の加工治具。
【請求項2】
載置面には、冷却体を基準面に沿わせて固定する押さえ金具が取り付けてある請求項1に記載の冷却体の加工治具。
【請求項3】
空洞室には、室内を負圧にする真空ポンプが連結してある請求項1または2に記載の冷却体の加工治具。
【請求項4】
固定手段は、裏アテ板の裏面から下方に垂設した垂直軸と、この垂直軸をプラス圧の作用で押圧固定するストッパー部材と、このストッパー部材に圧縮空気を供給するコンプレッサで構成されている請求項1~3のいずれかに記載の冷却体の加工治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質金属からなり裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体の表面を高精度に切削加工できる冷却体の加工治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電動式車両には電力変換を行うためにコンバータやインバータが多数使用されている。これらのコンバータやインバータは、変換回路を構成する半導体素子の温度上昇がほぼ均一になるように、全体を冷却してやる必要があり、例えば、特許文献1に示されるように、裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体が使用されている。
【0003】
この冷却体は、加工性、軽量性および熱伝導率の高い材質が要求されており、一般的にはアルミニウムのような軟質金属が広く用いられている。また、冷却体としては、裏面に複数の冷却フィンを形成した一次製品を成形後に、次の切削加工工程において表面に穿孔処理や切削処理等を施して最終製品としている。
【0004】
しかしながら、一次製品は裏面に複数の冷却フィンを有しているため、切削加工工程においてしっかりと固定することが難しく、切削加工を施すと被加工品がバタついて高精度に切削加工することができず不良品の発生率が高くなるという問題があった。一方、職人が一個ずつ手作業で切削加工したのでは生産性に劣るうえ生産コストも高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-85357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような従来の問題点を解決して、軟質金属からなり裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体の表面を高精度に切削加工することができ、また、マシニングセンタと組み合わせて寸法精度の高い製品を短時間かつ低コストで量産することができる冷却体の加工治具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の冷却体の加工治具は、裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体の表面を切削加工するための冷却体の加工治具であって、
治具本体の上面には冷却体を上向きで所定位置にセットする載置面を設けるとともに、この載置面の下部には前記冷却フィンを受け入れ可能で、かつ負圧に設定可能な空洞室を設け、
この空洞室には前記冷却フィンに上向きに弾発した状態で当接し、かつ自在に昇降動する裏アテ板と、この裏アテ板の高さを調整した後に、この位置に裏アテ板を固定する固定手段を設けたことを特徴とするものであり、これを請求項1に係る発明とする。
【0008】
好ましい実施形態によれば、前記載置面には、冷却体を基準面に沿わせて固定する押さえ金具が取り付けてあるものが好ましく、これを請求項2に係る発明とする。
【0009】
また、好ましい実施形態によれば、前記空洞室には、室内を負圧にする真空ポンプが連結してあるものが好ましく、これを請求項3に係る発明とする。
【0010】
その他の好ましい実施形態によれば、前記固定手段は、裏アテ板の裏面から下方に垂設した垂直軸と、この垂直軸をプラス圧の作用で押圧固定するストッパー部材と、このストッパー部材に圧縮空気を供給するコンプレッサで構成されているものが好ましく、これを請求項4に係る発明とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明では、裏面に複数の冷却フィンを有する冷却体の表面を切削加工するための冷却体の加工治具であって、治具本体の上面には冷却体を上向きで所定位置にセットする載置面を設けるとともに、この載置面の下部には前記冷却フィンを受け入れ可能で、かつ負圧に設定可能な空洞室を設け、この空洞室には前記冷却フィンに上向きに弾発した状態で当接し、かつ自在に昇降動する裏アテ板と、この裏アテ板の高さを調整した後に、この位置に裏アテ板を固定する固定手段を設けたものとしたので、冷却体は載置面の所定位置に正確にセットされたうえ、更には、冷却フィンが裏アテ板で支持された状態となるため、切削加工を施した場合に被加工品がバタつくことがなく、高精度に切削加工することができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明では、前記載置面には、冷却体を基準面に沿わせて固定する押さえ金具が取り付けてあるものとしたので、冷却体を簡単かつ正確に所定位置へセットすることができる。
【0013】
また、請求項3に係る発明では、前記空洞室には、室内を負圧にする真空ポンプが連結してあるものとしたので、バキューム力により治具本体の上面に冷却体を単に載置するだけでなく、しっかりと固定することができ高精度に切削加工することができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明では、前記固定手段は、裏アテ板の裏面から下方に垂設した垂直軸と、この垂直軸をプラス圧の作用で押圧固定するストッパー部材と、このストッパー部材に圧縮空気を供給するコンプレッサで構成されているものとしたので、裏アテ板の高さを正確に調整した後、その位置をストッパー部材の加圧作用によって確実に保持した状態で加工するため、高精度に切削加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態を示す概略断面図である。
図2】本発明の実施の形態を示す斜視図である。
図3】切削加工後の冷却体を示す斜視図である。
図4】切削加工前の冷却体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1は本発明に係る加工治具の一例を示す概略断面図、図2はその斜視図である。また、図3は本発明の加工治具で切削加工して得られた冷却体21の斜視図、図4は切削加工を施す前の冷却体21の一次製品を示す斜視図である。前記冷却体21は、裏面に複数の冷却フィン22を有しており、また表面には取り付け用の孔23やコンバータ等の載置用の凹部24が切削加工により形成されている。
なお、冷却体21の一次製品は切削加工が施されておらず、表面が平板状態のものであり、本発明の加工治具は、この一次製品にマシニングセンタにより前記孔23や凹部24等を高精度に切削加工するためのものである。
【0017】
図1図2に示されるように、治具本体1の上面には一次製品の冷却体21を上向きで所定位置にセットするための載置面2が設けられている。この載置面2は、凹み段差部となっており、冷却体21の側面を基準面2aに合わせて位置設定した後、押さえ金具2bで締め付けて冷却体21を所定位置にセットするように構成されている。図示のものでは、前記基準面2aは冷却体21の一つの角を含んだ2辺を位置合わせするように設けられており、前記基準面2aに押し当てた状態で他片部を2個の押さえ金具2bでネジ締めして固定する構造となっている。これにより、治具本体1の上面の所定位置に冷却体21を正しくセットすることができる。
なお、前記基準面2aや押さえ金具2bの個数、設定位置等はこれに限定されるものではなく、任意に設定できることは勿論である。
【0018】
前記載置面2の下部には、冷却体21の裏面にある冷却フィン22を受け入れ可能な空洞室3が設けられている。この空洞室3は、冷却体21の板状周縁部を載置面2にセットした際に、裏面に突設された冷却フィン22が治具本体1に当たらないようにすることを目的としている。更には、前記空洞室3は、セットした冷却体21が次工程でマシニングセンタにより切削加工する際に、被加工物である冷却体21が所定位置に正確かつバタつきを発生しないように固定することを目的としており、以下のように構成されている。
【0019】
前記空洞室3は、負圧に設定可能となっている。即ち、内部を負圧に設定することにより、被加工物である冷却体21を空洞室3側へバキューム吸引して載置面2にしっかりと固定するのである。なお、前記冷却体21と載置面2との間にはOリング4が介在されており、エア漏れが生じないように構成されている。
また、図示のものでは、空洞室3に真空ポンプ5が連結してあり室内を負圧にする構造となっているが、内部を負圧に設定できるものであれば手段は問わない。
【0020】
また、前記空洞室3には、前記冷却フィン22に上向きに弾発した状態で当接し、かつ自在に昇降動する裏アテ板6が設けられている。この裏アテ板6は、前記冷却フィン22の下端に当接して冷却体21を下面から支持するものであり、裏面中央から下方に垂設した垂直軸7を有している。なお、垂直軸7の下方部はサポート部材8内に挿入されている。また、前記垂直軸7の上部(裏アテ板6の下面とサポート部材8の上面の間)にはコイルバネ9が装着してあり、弾発力により裏アテ板6が常に上向きに付勢された状態となっている。
【0021】
上記の構成とすることで、軟質金属からなる冷却体21は、空洞室3側へバキューム吸引した際に中央部が下向きの円弧状に変形される場合があるが、前記裏アテ板6が上向きに弾発しているため、冷却体21は裏アテ板6に沿って常に水平状の板形状を保持できることとなる。また、冷却フィン22が裏アテ板6で常に支持された状態となるため、切削加工を施した場合に被加工品の加工面がバタつくことも防止できることとなる。
【0022】
更には、前記裏アテ板6の高さを調整した後に、この位置に裏アテ板6を固定するための固定手段が設けられている。即ち、次の切削加工工程では被加工品の加工面を固定しておく必要があり、単に、裏アテ板6を当接させただけの状態では弾発力に反して裏アテ板6が動く可能性が高い。そこで、前記裏アテ板6の高さを調整した後には、この位置に裏アテ板6を固定する固定手段が必要となる。
【0023】
前記固定手段は、図示のものでは、裏アテ板6の裏面から下方に垂設した垂直軸7と、この垂直軸7をプラス圧の作用で押圧固定するストッパー部材10(例えば、圧縮空気の供給により膨張する袋状のもの)と、このストッパー部材10に圧縮空気を供給するコンプレッサ11で構成されている。なお、ストッパー部材10とコンプレッサ11とは、供給管12によって連結されている。
【0024】
前記垂直軸7の下方部とストッパー部材10とは、サポート部材8の内部に密閉状態にセットされており、コンプレッサ11の作動によって圧縮空気が供給されると、ストッパー部材10が膨張して垂直軸7を押圧固定し、その位置を確実に保持する構造となっている。このように、前記固定手段はストッパー部材10によって垂直軸7を固定する状態と、昇降動自在にする状態を任意に切り替えることができるものであり、同様の処理ができるものであれば、図示の構造に限られない。
【0025】
次に、本発明の加工治具の操作手順について説明する。
先ず、被加工品である冷却体21の方向を確認した後、この冷却体21の側面を治具本体1の上面の基準面2aに合わせて位置設定する。この状態で、真空ポンプ5を作動させて空洞室3内を負圧とし、冷却体21を空洞室3側へバキューム吸引して載置面2にしっかりと固定する。更に、冷却体21の縁部を押さえ金具2bで締め付けて冷却体21を所定位置に固定する。
【0026】
前記冷却体21は、薄い軟質金属からなり変形しやすいため、負圧の吸引力によって空洞室3側へ弧状に変形させられる。しかし、空洞室3にある裏アテ板6が冷却フィン22に上向きに弾発した状態で当接しているため、冷却体21は裏アテ板6に押されて徐々に上昇し、最終的には裏アテ板6に沿って水平状の板形状に自動調整される。
【0027】
この状態でコンプレッサ11を作動して、加圧力によりストッパー部材10を作用させ垂直軸7を固定する。この結果、被加工品である冷却体21は、治具本体1の載置面2の所定位置に正確にセットされ、しかも裏面側は裏アテ板6が上向きに弾発した状態で当接して支持固定されることとなる。
【0028】
この後、マシニングセンタにより切削加工が施され、加工終了後に治具本体1の加圧と負圧が開放されて製品が取り出されるが、本発明の加工治具の場合は、被加工品である冷却体21が載置面2の所定位置に正確にセットされたうえ、更には、冷却フィン22が裏アテ板6で支持された状態となるため、切削加工を施した場合に被加工品がバタつくことがなく、高精度に切削加工することができる。しかも、マシニングセンタとの組み合わせにより短時間かつ低コストで加工処理を行うことができる。
【0029】
なお、以上の説明は、アルミニウムのような軟質金属からなる冷却体の場合について行ったが、その他、裏面に凹凸がある合成樹脂からなる軟質部材の切削加工にも適用することができるものである。
【符号の説明】
【0030】
1 治具本体
2 載置面
2a 基準面
2b 押さえ金具
3 空洞室
4 Oリング
5 真空ポンプ
6 裏アテ板
7 垂直軸
8 サポート部材
9 コイルバネ
10 ストッパー部材
11 コンプレッサ
12 供給管
21 冷却体
22 冷却フィン
23 孔
24 凹部
図1
図2
図3
図4