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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】鋼管杭の撤去方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 9/02 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
E02D9/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019112670
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204194
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】598027847
【氏名又は名称】株式会社設計室ソイル
(73)【特許権者】
【識別番号】511230543
【氏名又は名称】日建商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅一
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-146789(JP,A)
【文献】特開昭56-073722(JP,A)
【文献】特開2005-207081(JP,A)
【文献】特開2013-079533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設した鋼管杭であって、細径鋼管である少なくとも2本の鋼管杭単体を長手方向に連結してなる継手式の鋼管杭を引抜き撤去する、鋼管杭の撤去方法であって、
前記鋼管杭の頭部から管内に送液管を挿入し、前記送液管から水を噴射して管内の土砂を排除しつつ、前記送液管を前記鋼管杭の先端へ到達させる、掘進工程と、
前記鋼管杭の先端に配置した前記送液管から前記鋼管杭の管内に固化材を充填し、充填後に前記送液管を回収する、固化材充填工程と、
前記鋼管杭の頭部から管内に長尺の引張材を挿入し、前記引張材の先端を前記鋼管杭の先端付近まで到達させる、挿入工程と、
前記固化材を硬化させる、固化工程と、
前記引張材を介して前記鋼管杭を地中から引き抜く、引き抜き工程と、を備え、
前記鋼管杭の管内に一体に固着した前記引張材によって、前記鋼管杭単体同士の連結を補強可能に構成したことを特徴とする、
鋼管杭の撤去方法。
【請求項2】
前記鋼管杭が、前記鋼管杭単体の端部付近を直交方向に連通した連結ピンと、2本の前記鋼管杭単体の連結部に位置し管内から前記連結ピンに係合する継手材と、を有し、前記送液管が、先端に回転切削手段を有し、前記掘進工程において、前記回転切削手段によって前記連結ピンを管内から切断することを特徴とする、請求項1に記載の鋼管杭の撤去方法。
【請求項3】
前記挿入工程において、前記鋼管杭の頭部から管内に注入管を挿入し、前記鋼管杭の先端付近に到達させ、前記引き抜き工程において、前記鋼管杭を地中から引き抜きつつ、前記注入管から引抜き後の跡穴内へ充填材を充填することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼管杭の撤去方法。
【請求項4】
前記充填材が、配合によって強度調整可能な流動性の混合材であることを特徴とする、請求項3に記載の鋼管杭の撤去方法。
【請求項5】
前記挿入工程において、前記注入管の先端に、前記固化材浸入防止用の閉塞体を離脱可能に装着していることを特徴とする、請求項3又は4に記載の鋼管杭の撤去方法。
【請求項6】
前記引張材の先端に定着部を設けたことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の鋼管杭の撤去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼管杭の撤去方法に関し、特に細径鋼管を連結してなる継手式の鋼管杭を分離させることなく引抜き撤去可能な、鋼管杭の撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅地盤の補強工法として、基礎地盤に鋼管杭を打設する方法や、セメント系固化材を地盤と混合撹拌して柱状体を構築する方法が採用されている。
基礎地盤にφ48.6mmの細径鋼管(単管パイプ)を貫入して補強する、RES-P工法(登録商標)と呼ばれる工法が知られている。これは、地中に細径鋼管を密に打設することにより、細径鋼管の周面摩擦力、先端支持力、及び地盤の支持力の複合作用によって地盤の沈下を防ぐ工法である(特許文献1、2)。
【0003】
軟弱な地盤の場合には、細径鋼管を長手方向に連結してなる継手式の鋼管杭を地盤に深く打ち継いでゆく。
継手式の鋼管杭には、例えば細径鋼管の端部付近に直交方向に連通した連結用のピンを介して細径鋼管を連結する構造がある。この構造では、先行の細径鋼管を頭部まで打設した後、細径鋼管の頭部に継手材を内挿し、管内で回動することで連結ピンを継手材の鍵溝に係合して連結する。続いて後行の細径鋼管を先行の細径鋼管の上部に下ろし、後行の細径鋼管の下端を継手材に外挿して回転・係合することで、上下の細径鋼管を連結する(図5)。
なお、この連結ピンは細径鋼管を圧入する際に、把持して回転するために利用することもある。
【0004】
ところで、このように地盤補強を施した土地を売買する場合、地中に打設した鋼管杭や柱状体等の地中障害物は、売主である土地所有者が撤去する義務を負うことが多い。これらの地中障害物は、将来問題が生じないように確実に撤去する必要がある。
【0005】
地中に打設した継手式の鋼管杭を撤去する方法として、以下のような方法が考えられる。
[1]把持装置で引抜く方法
地盤から露出させた鋼管杭の頭部に把持装置を固定してワイヤを連結し、揚重機でワイヤを吊り上げて鋼管杭を引き抜く。引抜き後の跡穴に地上から砂などを投入する。
[2]鞘管を用いる方法
鋼管杭の外径より内径が大きい鞘管を、水またはエアを送りながら鋼管杭の外側に回転圧入する。鞘管によって鋼管杭の周囲を鞘管外側の地盤と縁切りした状態で鋼管杭の頭部を把持装置で把持し、クレーン等の揚重機で鋼管杭を引き抜く。引抜き後の跡穴に地上から砂などを投入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平9-13359号公報
【文献】特開平10-237854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術には以下の問題点がある。
<1>把持装置で引抜く方法は、地中に拘束された鋼管杭を直線状に引き抜く方法であるため、長尺の細径鋼管の周面摩擦力を上回る大きな揚上力が必要となる。一方、継手式の鋼管杭は、上下の細径鋼管を継手部のみで連結しているため、揚上に伴い継手部で連結ピンが破損することで、先端側の細径鋼管が地中に残される可能性がある。この場合、地中の細径鋼管を掘り起こして撤去するのは困難で、多大な手間とコストがかかる。
<2>鞘管を用いる方法は、鋼管杭の肉厚が2mm程度と薄いため、圧入時に鞘管の先端が鋼管杭の外周と接触することで、鋼管杭が切断されるおそれがある。鋼管杭の先端が地中に残った場合、<1>と同様の問題が生じる。
<3>鞘管と鋼管杭の接触を防ぐためには、鞘管の内面と鋼管杭の外面の間に十分なクリアランスを確保する必要がある。このため、鋼管杭打設時の穴曲がりや削孔機との軸心のずれなどを考慮すると、鋼管杭が長尺になるほど鞘管の内径を大きくする必要が生じる。これにより、大型の回転圧入装置が必要となるため、施工コストが高騰する。また、装置が大型化すると狭隘な住宅現場で施工することができない。
<4>鞘管の外径が大きくなることで、広範囲の地盤を乱して、地盤強度の低下を惹起するおそれがある。
<5>細径鋼管は細長比が大きいため、引抜き後の跡穴は狭くて長いものとなる。このような跡穴へ地上から砂等を投入すると、孔壁との摩擦等によって途中で目詰まりを生じたり、孔壁の崩落によって穴が閉塞されることが多く、跡穴の全長にわたって隙間なく充填するのが難しい。このため、地中に空隙が生じやすい。また、孔壁の崩落によって、周辺地盤に緩みが生じるおそれがある。このように、空隙の発生や崩落によって、地盤強度を大幅に低下させるおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決可能な鋼管杭の撤去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、鋼管杭の管内に送液管を挿入して鋼管杭の先端へ到達させる掘進工程と、送液管から管内に固化材を充填する固化材充填工程と、管内に長尺の引張材を挿入する挿入工程と、固化材を硬化させる固化工程と、引張材を介して鋼管杭を引き抜く引き抜き工程と、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、固化材と引張材の連結補強効果により、継手式の鋼管杭を分離させずに引抜き撤去することができる。
【0010】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、送液管先端の回転切削手段によって連結ピンを切断してもよい。
この構成によれば、継手部内に広い通路を確保することで、比較的太径の引張材等を挿入することができる。
【0011】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、挿入工程において管内に注入管を挿入し、引き抜き時に跡穴内へ充填材を充填してもよい。
この構成によれば、細長比の大きい細径鋼管の跡穴であっても確実に充填することができる。
【0012】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、充填材が強度調整可能な流動性の混合材であってもよい。
この構成によれば、空隙の発生を防ぎ、跡穴を隙間なく充填することができる。
【0013】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、注入管の先端に閉塞体を装着していてもよい。この構成によれば、注入管内への固化材の浸入を防止することができる。
【0014】
本発明の鋼管杭の撤去方法は、引張材の先端に定着部を設けてもよい。
この構成によれば、固化材内における引張材の付着を強化して、引張材の引き抜けを抑止することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上の構成より、本発明の鋼管杭の撤去方法は次の効果の少なくともひとつを備える。
<1>上下の細径鋼管を継手部のみで連結していた継手式の鋼管杭について、管内に充填した固化材と引張材とを介して管内から全長にわたって連結補強することで、鋼管杭の一体性を強化し、引抜きによる鋼管杭の分離を抑止することができる。
<2>鞘管を使用しないため、鋼管杭の切断による先端の残置、施工コストの高騰、広範囲の地盤を乱すことによる地盤強度の低下、等の問題の発生を抑止することができる。
<3>鋼管杭の引抜きと同時に跡穴内に充填材を充填することで、細長比の大きい細径鋼管の跡穴であっても、孔壁の崩壊を予防しつつ隙間なく埋めることができる。このため、地盤強度の低下を引き起こすことなく鋼管杭を撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の鋼管杭の撤去方法のフロー図。
図2】本発明の鋼管杭の撤去方法の説明図(1)。
図3】本発明の鋼管杭の撤去方法の説明図(2)。
図4】回転切削手段の説明図。
図5】細径鋼管の連結作業の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の鋼管杭の撤去方法について詳細に説明する。
なお、本明細書中における「上」「下」「縦」「横」等の各方位は、本発明の実施時における各方位、すなわち図2、3における各方位を意味する。また、説明の便宜のため、図面上、各部材の寸法(例えば鋼管杭の長さ)は適宜変更して表示している。
【実施例1】
【0018】
[鋼管杭の撤去方法]
<1>全体の構成(図1)。
本発明の鋼管杭の撤去方法は、地中に貫入した継手式の鋼管杭を引抜き撤去する方法である。
本発明の鋼管杭の撤去方法は、少なくとも、送液管Aを鋼管杭Pの管内先端へ到達させる掘進工程と、送液管Aから管内に固化材Bを充填する固化材充填工程と、管内に引張材Cを挿入する挿入工程と、固化材Bを硬化させる硬化工程と、鋼管杭Pを引抜く引き抜き工程と、を備える。
本例ではさらに、掘進工程の前に杭頭出し工程を備える。
【0019】
<1.1>鋼管杭。
本発明の鋼管杭の撤去方法が適用される鋼管杭について説明する。
本発明に係る鋼管杭Pは、複数の鋼管単体P1を継手材P3によって長手方向に連結してなる、継手式の杭体である。
鋼管単体P1は、中空の細径鋼管である。本例では、鋼管単体P1として、外径φ48.6mm、肉厚2.4mm、長さ2mの一般構造用炭素鋼製の単管パイプを採用する。鋼管単体P1の端部には、長軸に直交する方向に連結ピンP2を連通する。
継手材P3は、2本の鋼管単体P1を連結する構造である。本例では、継手材P3として、両端を鋼管単体P1に内挿可能な筒状体であって、内挿部の周面に連結ピンP2を係合可能な鍵溝を備えた部材を採用する。
鋼管単体P1の端部に継手材P3内挿し、管内で継手材P3を回転させることで、継手材P3の鍵溝内に連結ピンP2を係合して、鋼管単体P1同士を連結することができる。
【0020】
<1.2>適用地盤。
本発明の鋼管杭の撤去方法が適用される地盤について説明する。
本発明に係る地盤は、主として住宅の基礎地盤であって、住宅の新築時に地盤補強目的で鋼管杭Pを打設した地盤である(図2[1])。鋼管杭Pは、地表から地中の支持層にわたって格子状に配置している。
なお、上記の構成は一例にすぎず、例えば地盤補強は土木工事その他の用途であってもよい。
【0021】
<2>杭頭出し工程。
地盤に頭部まで埋まっている鋼管杭Pの周囲をバックホウ等の重機Gによって掘り下げ、杭頭を地盤から20cmほど露出させる(図2[2])。
鋼管杭Pの頭部に杭頭キャップが被せられている場合には、これを取り外す。
【0022】
<3>掘進工程。
鋼管杭Pの内部には土砂が詰まっている。そこで、送液管Aを用いて管内の土砂を排除しながら管内を先端側へ掘進する。
送液管Aは、ウォータースイベル等から液体の供給を受け、先端から液体を噴射可能な管状の部材であって、鋼管や塩ビ管、ポリエチレンホース等からなる。
鋼管杭Pの頭部に送液管Aを差し入れ、送液管Aの先端から水を噴射して管内の土砂を洗堀する。洗堀された土砂はスラリー状となって順次鋼管杭Pの頭部から外へ排除される。
土砂を排除しながら送液管Aを挿入してゆき(図2[3])、鋼管杭Pの先端へ到達させる(図2[4])。
【0023】
<3.1>回転切削手段。
継手式の鋼管杭Pは、継手部付近で連結ピンP2が管内を横断している。
鋼管杭Pの継手が1か所だけの場合には、引張材C及び注入管Dを直接挿入できるが、ピン部の状態の確認ができないため不確実である。また、複数の継手が使用される場合には、連結ピンP2の取付けに軸直角方向のズレがあることがあり、直線的に複数個所にわたって注入管Dを挿入することが困難である。
このため、ピン部箇所内に広い通路を確保するために送液管Aを使用する。本例では送液管Aとして、先端に回転切削手段A1を備えた鋼管を採用する。回転切削手段A1は送液管Aの先端に設けたビットである。
本例では、送液管Aが管内の継手部まで到達したら(図4[1])長軸を中心に送液管Aを高速回転させる。これによって、回転切削手段A1のビットが連結ピンP2に接触し、連結ピンP2を切断することで(図4[2])、継手部を通過して鋼管杭Pの先端側に掘進することが可能となる(図4[3])。
また、継手部内に広い通路を確保することで、後述する挿入工程で比較的太径の引張材Cを挿入することが可能になり、鋼管杭Pの引抜き力の増大及び連結補強効果を高めることができる。
【0024】
<4>固化材充填工程。
送液管Aが鋼管杭Pの先端に到達したら、送液管Aの先端から鋼管杭P内に固化材Bを吐出して管内に充填させる(図2[5])。
固化材Bは、後述する引張材Cを鋼管杭Pの管内に固定するための部材である。本例では、固化材Bとして、セメントペーストを採用する。
固化材Bは、管内に存在する地下水等によって材料が分離しないように鋼管杭Pの先端側から管内を上方へ満たしてゆく。これによって、掘進工程によって管内に溜まったスラリーが固化材Bに置き換えられる。
鋼管杭Pの頭部まで固化材Bを充填したら、送液管Aを引き抜く(図3[6])。
【0025】
<5>挿入工程。
管内の固化材Bが硬化する前に、鋼管杭Pの頭部から管内に引張材Cと注入管Dを挿入する(図3[7])。
引張材Cは鋼管杭Pの先端付近まで到達させ、上部を鋼管杭Pの頭部より上方に突出させる。
注入管Dは鋼管杭Pの先端に到達させ、固化材Bの硬化後に吐出口が固化材Bの下方に開放される向きに配置する。
本例では、注入管Dの吐出口内に固化材Bが浸入して詰まるのを防止するため、予め吐出口内に閉塞体D1を挿入しておく。閉塞体D1として、例えば木栓、ゴム栓、ネジ部にテープや布を巻いたボルト等を採用することができる。あるいは吐出口の先端をキャップ状の閉塞体D1で覆ってもよい。
【0026】
<5.1>引張材。
引張材Cは、固化材Bと協働して鋼管杭Pの連結補強機能を分担する線状の引張抵抗材である。
引張材Cの長さは鋼管杭Pの全長に対応させる。
本例では、引張材Cとして、φ12.7mm7本よりのPC鋼より線を採用する。ただし、引張材Cはこれに限らず、例えば19本よりのPC鋼より線、PC鋼線、PC鋼棒等を採用してもよい。
また、引張材Cの先端に付着力強化のための定着部C1を設けてもよい。定着部C1としては、例えば引張材Cがネジ鋼棒の場合、その先端に螺着するナットなどがある。
【0027】
<5.2>注入管。
注入管Dは、引抜きの跡穴内に充填材Fを吐出するための管状又は筒状の部材である。
本例では、注入管Dとして、φ16mmのポリエチレンホースを採用する。ただし、注入管Dはこれに限らず、例えば塩化ビニル管等を採用してもよい。
注入管Dの先端を斜めにカットしておくことで、注入管Dの先端が管内の付着物や連結ピンP2等に干渉した際、これらを回避する形状に変形しやすくなり、注入管Dより円滑に挿入することが可能となる
【0028】
<6>固化工程。
引張材Cと注入管Dを管内に保持したまま、固化材Bの硬化を待つ(図3[8])。
固化材Bが硬化して強度発現することで、鋼管杭Pを構成する上下の鋼管単体P1が固化材B及び引張材Cを介して一体に連結し、引抜力による分解を防止可能な連結補強構造を構成する。
【0029】
<6.1>固化材の充填量について。
固化材Bとして用いるセメントペーストの圧縮強度fcは、アースアンカーの分野ではW/C=60%の配合で18N/mm程度である。よって、異形鉄筋を使用した鉄筋コンクリートの場合、許容付着応力τc≒fc/10として、以下のように算出される。
τc=1.8N/mm
また本例のように、引張材Cとして、一般的なφ12.7mmの7本よりのPC鋼より線を採用すると、降伏荷重Pyは約156kNとなる。
降伏荷重を最大引上げ荷重と仮定して以下、引張材Cの必要付着長を検討する。
鋼管杭P撤去を考慮してPyを満たすのに必要な付着長Laは、外径d=12.7mmとして、以下のように算出される。
La=Py/(π×d×τc)=2172.2mm(余裕をみて3.00m)
必要付着長Laにおける鋼管内容積V/mをセメントペースト注入量Qとすれば、Q=V×La×1000(L)となる。
鋼管杭Pが、直径D=48.6mm、肉厚t=2.4mmの場合、Qは以下のように算出される。
Q=(π×D2/4)×La×1000=4.5(L)以上
また、許容付着応力τsを丸鋼の場合のτs=fc×1/30とすれば、Laにおける鋼管杭Pの内壁と固化材B(セメント)の付着力Fは、以下のように算出される。
τs=0.6N/mm
F=π×(D-2×t)×La×τs=247683.2N
以上より、247.7kN>Pyとなり、安全側の判定となる。
このように、固化材Bの必要充填量を引張材Cの強度及び固化材Bとの付着力から算出することで、固化材Bを鋼管杭Pの全長にわたって充填する必要がなくなり、固化材Bの材料コストを節減することができる。
また、回収後の鋼管杭Pの内、セメントが付着した部分は産業廃棄物として処理する必要があるが、固化材Bの充填量を最小限とすることで、産業廃棄物としての処理長を削減し、セメントの付着しない部分を鉄材として低コストで廃棄することができる。
【0030】
<7>引き抜き工程。
引抜手段Eによって鋼管杭Pを地中から引き抜く。
本例では、引抜手段Eとして、油圧ジャッキと反力桁(形鋼)の組み合わせを採用する。
油圧ジャッキで鋼管杭Pの上方に突出した引張材Cの頭部を把持し、組み上げた形鋼に反力を取ってジャッキアップすることで、鋼管杭Pが上方に引き上げられる(図3[9])。
形鋼を上方に組み上げながら同様の作業を繰り返すことで、鋼管杭Pが地中から引き抜かれる。
この際、引張材Cと上下の鋼管単体P1は固結した固化材Bで一体化されているため、引抜きの途中で鋼管単体P1の先端が分離して地中に取り残されるのを防止することができる。
また、仮に上下の鋼管杭単体P1が分離しても、下方の鋼管杭単体P1内に引張材Cが固着していれば、引張材Cを利用してそのまま引き上げることができる。
なお、引抜手段Eは油圧ジャッキに限らず、例えば引張材Cを介して重機で吊り上げる等の手段であってもよい。
【0031】
<7.1>充填材の充填。
本例では、引抜手段Eによって鋼管杭Pを地中から引抜きつつ、同時に注入管Dの先端から引抜き後の跡穴内へ充填材Fを充填してゆく。
本例では、充填材Fとして、セメント・ベントナイト系の自硬性混合材を採用する。セメント・ベントナイト系の自硬性混合材は、水、セメント、及びベントナイトを配合してなる混合材であって、極めて流動性が高く、地盤内への優れた充填性及び止水性を併有する。さらに配合調整によって固化後の強度を広範囲に容易に変えることができる。
ただし、充填材Fはこれに限らず、例えば流動化処理土、適切に強度調整したセメントペースト、砂などに増粘剤を加えて流動調整したスラリー等を採用してもよい。
充填材Fの強度は、地盤強度より極端に大きくすると将来地中障害物となる可能性があるので、地盤強度より少し高めに設定する。
充填材Fは、鋼管杭Pの引抜きと同時に注入管Dの先端から吐出して、跡穴内を上方へ満たしてゆく(図3[9])。これによって、引抜き後の跡穴内に充填材Fが充填される。
充填材Fの硬化によって跡穴は完全に塞がれ、地盤が原状回復する(図3[10])。
【実施例2】
【0032】
[引抜き後に充填材を充填する例]
実施例1では、鋼管杭Pの引抜きと同時に跡穴内に充填材Fを充填したが、充填材Fは引抜き後に充填してもよい。
具体的には、鋼管杭P引抜き後の跡穴に地上から注入管Dを挿入し、孔底付近から充填材Fを吐出して跡穴内を上方へ充填してゆく。充填後に注入管Dを引き上げて回収する。
本例では、挿入工程で、引張材Cと共に注入管Dを管内に挿入する必要がないため、引張材Cの挿入作業が比較的容易である。
【符号の説明】
【0033】
P 鋼管杭
P1 鋼管単体
P2 連結ピン
P3 継手材
A 送液管
A1 回転切削手段
B 固化材
C 引張材
C1 定着部
D 注入管
D1 閉塞体
E 引抜手段
F 充填材
G 重機
H ガイド管
図1
図2
図3
図4
図5