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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】血管パンチ
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/3205 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
A61B17/3205
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020548687
(86)(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-08
(86)【国際出願番号】 US2018057625
(87)【国際公開番号】W WO2020086089
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-09-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521359346
【氏名又は名称】スリーアール ライフ サイエンシズ コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】520346527
【氏名又は名称】シャオ‐チエン、リン
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】ポン‐ジェウ、ル
(72)【発明者】
【氏名】シャオ‐チエン、リン
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0039740(US,A1)
【文献】米国特許第04961430(US,A)
【文献】米国特許第05570700(US,A)
【文献】特開平05-309097(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01985239(EP,A1)
【文献】特表2006-513737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/00-17/3209
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管パンチであって、
U字形の形態に湾曲したかみそり刃を具備し、該かみそり刃をカッタ座部に取り付けられる鋭利なかみそり状のカッタ、
パッド表面が前記カッタのかみそり刃の縁の全体を受け入れて前記かみそり刃の縁の全体とパッド表面との線接触を許容し得特性を有する硬質のパッドが取り付けられるバックストップ要素、
前記カッタ座部及び前記バックストップ要素にその遠位端において係合可能である連結ハンドラであって、かみそり刃の縁の前記係合は、前記バックストップの表面と位置合わせされ、一方で、前記連結ハンドラの近位端では、手の把持力を印加し、連結要素を通じて、切開することが意図される遠位のカッタの端に伝達できる、連結ハンドラ、を備える、
血管パンチ。
【請求項2】
前記パンチは、手の把持及び切開力の伝達のために四節回転機構型のハンドラを有して作製され、前記ハンドラは、一端において前記カッタ座部にしっかりと接合される第1の細長いレバー、及び、同様に、前記バックストップに固定される第2の細長いレバーを備え、前記第1のレバー及び前記第2のレバーは、回転可能に蝶着されて平行四辺形の四節回転機構になり、前記第1のレバーを前記第2のレバーに近づけ、前記かみそり刃の縁と前記バックストップの表面との線接触を形成し、前記第1のレバー及び前記第2のレバーは、ハンドセット及びトリガを備えるピストル状のハンドルに連結され、前記第2の(バックストップ)レバーは前記ハンドセットにしっかりと接続され、一方で、前記第1の(カッタ)レバーは、前記ハンドルの前記トリガに摺動可能に接合されることを特徴とする、請求項1に記載の血管パンチ。
【請求項3】
前記トリガは、遠位端に、前記第1のレバーのピボットを受け入れるスロットであって、前記ピボットの直線運動は、手が把持して力を印加するためのフィンガアームとともに、前記トリガのスロット内で可能となる、スロット、及び、前記トリガを、使用の準備が整った起動位置にするばね要素を備えることを特徴とする、請求項2に記載の血管パンチ。
【請求項4】
前記バックストップは調整可能であり、前記硬質のパッド、剛性の支持座部、及び、表面配向機構が設けられるパッドプラットフォームを備える、請求項1に記載の血管パンチ。
【請求項5】
前記表面配向機構は、前記バックストップの内側からねじ留めされるロックねじを備え、一方で、3つの止めねじが外側から反対にねじ留めされ、前記3つの止めねじは、独立して調整でき、結果として、前記かみそりの縁と前記半硬質のパッドの表面との間に全体的に接触線が形成されることを特徴とする、請求項4に記載の血管パンチ。
【請求項6】
前記パンチは、手で把持して切開力を伝達する単一ピボット連結型のハンドラを有して作製され、前記ハンドラは、遠位端において前記カッタ座部にしっかりと接合される第1の細長いレバー、及び、同様に、前記バックストップに固定される第2の細長いレバーを備え、前記第1のレバー及び前記第2のレバーは、回転可能に蝶着されてハサミ状の連結機構になり、前記第1の(カッタ)レバーを前記第2の(バックストップ)レバーに近づけることを可能にし、前記第1のレバー及び前記第2のレバーの遠位端において前記かみそり刃の縁と前記バックストップの表面との線接触を形成し、一方で、前記第1のレバー及び前記第2のレバーの近位端は、ばね要素に連結され、前記ハサミ状のパンチを、使用の準備が整った位置において開くことを可能にすることを特徴とする、請求項1に記載の血管パンチ。
【請求項7】
前記バックストップは調整可能であり、前記硬質のパッド、剛性の支持座部、及び、表面配向機構が設けられるパッドプラットフォームを備える、請求項6に記載の血管パンチ。
【請求項8】
前記表面配向機構は、前記バックストップの内側からねじ留めされるロックねじを備え、一方で、3つの止めねじが外側から反対にねじ留めされ、前記3つの止めねじは、独立して調整でき、結果として、前記かみそりの縁と前記半硬質のパッドの表面との間に全体的に接触線が形成されることを特徴とする、請求項7に記載の血管パンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包括的には、心臓血管手術に関連する血管の孔形成に関し、より詳細には、大きい円形の開口部、通常は、市場で入手可能な血管パンチを使用して満足に形成できない、6mmよりも大きい直径を有する孔を形成することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
補助人工心臓(VAD)は、重症心不全を治療するための標準治療とみなされるように成熟した段階まで進歩した、機械的循環補助モダリティである。循環補助は、パルスの又は連続的な流れの血液ポンプによって達成され、この場合、血液は最初に心臓から引き出され、次に、VADによって加圧されるか又は賦活化され、最終的に、ヒトの循環に戻される。この機械的な血流の賦活化プロセスは、補助装置に隣接するその第1の(流入)端、及び、動脈の壁に吻合されるその第2の(流出)端を接続する、人工流路(グラフト)を必要とする。VAD埋め込みの成功は、多くの要因に依拠するが、特に、グラフト吻合は、外科的スキル、及び、適格な吻合を達成することを助けるように提供される特別な器具によって影響されやすい重要な要素である。
【0003】
通常はDacron、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はシリコン等によって作製されるVADグラフト導管は、上行大動脈又は下行大動脈において動脈に端側接続できる。上記グラフトの直径は大きく、通常はおよそ15mm~20mmの範囲の直径である。手術中、外科医は最初にメスを使用して、大動脈壁に形成される孔の直径に匹敵するかなりの切開部を切り、続いて、ハサミを使用して切開部の縁をトリミングし、最後に、血管の開口部の、切開され、拡張された縁に、グラフトの周囲を縫い付けることによって縫合する。端側吻合の質は通常、提供される血管器具、外科医のスキル、及び、許可された外科的アプローチ分野に依拠する。
外科医がそのような吻合を達成するためには、切開部のサイズ及びきれいさ、並びに、開口される血管壁のトリミングされる縁が重要である。大きすぎるか若しくは小さすぎる切開部、又は、不規則に拡張された孔の外周は、縫合中の接続されるグラフトとホストとの縁の不一致を引き起こす可能性があり、結果として、吻合される組織層が歪んで又はしわが寄って接続される。下手な端側吻合は、周術期の出血につながるか、又は、一様でないしわが寄ったグラフトとホストとの接続部位における手術後の血栓形成の原因となる可能性がある。質が高いグラフト接続を保証する良好な基礎として、外科医が大きくがたつきのない孔を安全かつ効果的に形成することを助けることが可能な、大きい大動脈パンチが現在存在しないことは残念である。
【0004】
今日まで、大動脈壁に小さい孔(直径自体が6mm未満)を形成する大動脈パンチが発明されており、臨床用途、特に、冠動脈バイパス手術において使用されている。通常、これらの小さい外科的パンチは、分離手段として切開チューブに摺動可能に係合するアンビルロッドを含む。アンビルは、壁に形成される小さい切開部を通して大動脈に最初に挿入される。次に、アンビル及びその支持ロッドを密な隙間を有して収容する切開チューブに対して、アンビルを一緒に引っ張ることによって、せん断力が形成される。所与の孔形成ミッションを達成するためには、指及び掌によってかなりの力が加えられなければならない。血管の外膜がきれいに分離するのに最も困難であることが臨床的に分かっている。特に、切開中のせん断力を増大させるためのかみそり状のチューブ又はアンビルカッタ、アンビル及び切開チューブの係合によって寄与される摺動切開作用に対する相対的な回転運動の導入、並びに、ピストル状ハンドル及びトリガ機構を介したせん断力の増幅を含む、外科的な孔形成において直面するこれらの困難を克服するための方法が提案されている。
【0005】
小さい血管パンチに関連する、従来技術において提案されている上記の機械的な原理及び方法は、動脈に大きい孔を穿孔するように拡張できない。その理由は主に2つある。
第1に、10mm~20mmの大きい切開部を動脈に形成するときに、止血が問題となる。大きい開口部の存在下では高い動脈圧に起因して大量出血が発生し、通常、この出血のタイプは心臓血管手術において許されない。一時的に出血の停止を達成できたとしても、後続のアンビルの挿入によって、切開部を必然的に大きく開き、より深刻な制御不可能な出血を引き起こす。
第2に、組織の分離のためにせん断力を提供する機構は、はるかにより大きい孔を切開するためには適用可能でなく、この理由は、せん断力が印加される切開領域が実質的に増大する可能性があり、より多くの手の圧力が加えられることを必要とし、これは多くの場合に、ヒトの手が容易に供給できる手動の力を超えるためである。
【0006】
上述した理由から、異なる切開機構及び設計原理を採用する大きい血管パンチを発明する必要がある。動脈に大きい開口部を形成する間に、迅速かつきれいな組織の分離が所望されるだけではなく、制御不可能な大量出血を回避するために、止血も絶対的に確実にされなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許請求される本発明の目的は、血管に大きい孔を形成する外科的器具を提供することであり、切り取り部はきれいであり、がたつきなく適切に構成される。
【0008】
本発明の別の目的は、上記で記載した器具に関して、穿孔動作を容易にするために必要とされる力が過度ではなく、手で容易に提供できることである。
【0009】
上記で記載した器具のまた別の目的は、切り取った組織を、穿孔後に器具に保持できることである。
【0010】
本発明のまた別の目的は、部分遮断(止血鉗子)とともに相互に干渉することなく使用される場合、特許請求される本発明が動作可能であるときに止血(出血がないこと)が確実となることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の設計の要件に従って、本発明は、側咬(side-biting)カッタセット、及び、手によって手動で加えられる切開力を増幅させるハンドラを備える血管パンチを想定する。側咬カッタセットは、図1a及び図1bにおいて概略的に示されているように、U字形のかみそり刃及びバックストップからなる。組織を分離するためにせん断力を使用する従来の血管パンチとは異なり、本発明の側咬パンチは、きれいな切れ目を得るために垂直な力を使用する。切り取られる対象の組織に作用する垂直な応力は、かみそり刃の縁の最前の垂直な接触面積Aによって分けられる、印加される力Fである。この切開接触力は、概して極めて大きく、この理由は、刃の縁が通常は極めて薄いためである。側咬カッタの設計では、支持バックストップに対する切開縁の接触パターン及び特徴が、きれいな切れ目を達成する鍵を握る。
【0012】
図2a、図2b及び図2cにおいて示されているのは、側咬の切開の有効性に悪影響を与える3つの基本的な失敗モードである。失敗モードAは、かみそり刃とバックストップとの接触が不完全である状況を示している。バックストップの表面が完全に剛性ではなく、かみそり刃がバックストップの浅い表面層に切り込むことができ、接触点ではなくゾーンを形成することが想定される。接触ゾーン内では、きれいな切れ目が得られるが、この部分的な接触は、切開縁の残りの部分がバックストップの表面に係合することを防止する反力を生成し、それによって、きれいな切れ目の失敗につながる。失敗モードAは、かみそりの縁及びバックストップの表面が完全に真っすぐであるにもかかわらず、かみそりの切開縁に対するバックストップの表面の平行度が重要であることを示している。失敗モードAは実際には、製造における不正確さ及び/又はハンドラの組み付けにおいて生じる誤差に起因する。
【0013】
他方で、失敗モードBは、かみそりの鋸刃状の切開縁によって生じる不完全な接触を示している。同様に、失敗モードCは、完璧に位置合わせされた真っ直ぐなかみそり縁と接触するときに、バックストップの表面が不十分な表面の平坦性を有することを表している。
【0014】
失敗モードB及びCの双方において、切開力は接触ゾーンのみに加わり、非接触ゾーンには切開力が発生しないままであり、したがって、きれいな切れ目の失敗につながる。失敗モードAは、かみそり刃の縁及びバックストップの表面の構造が理想的であると想定されながらも、製造の不正確さ及びハンドラの組み付けのずれに関連付けられる。失敗モードB及びCは、カッタセットの製造の不正確さによって生じ、これは原則として排除できず、機械の正確さに加えて、実際には製造方法に依存する。なお、上記の失敗モードにおいて示されている不完全な接触の隙間は、説明のために誇張されている。切開の失敗につながる実際の隙間のサイズは概して、100ミクロン未満の範囲である。
【0015】
側咬パンチの実際の用途では、これらの3つの失敗モードが切開において共存する。失敗の根本原因は、バックストップ及びかみそりの縁に関連する滑らかではないか又は波形の縁プロファイルとともに、かみそりカッタ及びバックストップがそれぞれ取り付けられる接合されるレバーの非平行にまとめて由来する。ハンドラ、かみそり刃及びバックストップを製造するときに特定の厳密な公差が満足されなければならない。それにもかかわらず、製造及び組み付けプロセスにおいてかなり厳密な公差を要求することは非現実的である。
この実際的な困難を克服するために、上述した組み合わせの失敗モードを軽減する効果的な救済策が想起され、これは、例えば、バックストップに取り付けられる半剛性パッドの据え付けに由来する。このパッドは、適切な表面硬さを有しなければならない。パッドの硬さが柔らかすぎると、組織を切開線に沿って切断するのではなく、組織が形成された割れ目に詰まることによって生じる切開の失敗につながる可能性がある。しかし、パッドの硬さが硬すぎると、切開時に完全な接触ゾーンが形成されることが阻止され、これは、硬いパッドが、きれいな切れ目のために必要とされる全体的な接触係合をカバーするようにさらに拡張するよう最初の接触着地ゾーンに抵抗するためである。
【0016】
代表的な側咬カッタ及びバックストップの設計が図3a、図3b及び図4a、図4bにそれぞれ示されている。カッタは、図3aの分解図及び図3bの一体的な図に示されているように、U字形のかみそり刃、座部及びロック機構を備える。U字形のかみそりは予め形成され、血管壁に様々な孔のサイズを穿孔する必要性に合わせるために種々のサイズを有する。
図4a及び図4bに示されているバックストップは、半剛性(半硬質)のパッドが取り付けられている中実のベース支持体、及び、調整可能なベース機構を備える。この切開モジュールの対は、以下ではハンドラと称される、力生成及び伝達連結構造に取り付けでき、側咬血管パンチを構成する。
【0017】
側咬パンチを達成するために使用されるハンドラは、限定はされないが、図5及び図6にそれぞれ示されているような、四節回転機構型及び単一ピボット型の機構を含む。図5に示されているような四節回転機構型の場合、上記かみそり刃及び上記バックストップをそれぞれ収容する2つのレバーが平行に係合する。2つのレバーを接続する2つの蝶着された棒を回転させることによって、かみそりの縁とバックストップの表面との間の距離が徐々に縮まり、接触係合が確立されるとゼロになる。かみそり縁は、半円形又は何らかの湾曲した形状であり、その2つの後アームは開いている。切開中に、カッタ及びバックストップは互いに近づき、文字通り接触線を形成する。この接触線に沿う、結果として生じる垂直な応力は、概して極めて大きく、接触線に沿って圧縮される組織を切り取るのに十分である。
【0018】
かみそりカッタの縁とバックストップとの間のそのような線接触は、図9及び図10に示されているような、2つの接合されたレバーの特定のハサミ状の角度の付いた設計を介して、単一ピボット機構によっても達成できる。切開時に、かみそりの縁及びバックストップの表面の線接触が、回動したレバーの閉位置において形成される。次に、四節回転機構パンチにおいて説明される同じ側咬切開原理に基づいて、組織の分離が達成される。
【0019】
各ハンドラ設計に特徴的な連結機構に従って、所望の力増幅を生成できる。図5図6図9及び図10に示されている四節回転機構及び単一ピボット機構はともに、理想的には剛性であることが想定される。実際には、構成要素であるビーム状のレバーは、印加される力に供されるときに完全に剛性ではない。どの材料及びレバーの構造(中実のロッド、薄壁のIビーム、Uビーム等)がパーツの設計及び製造において採用されるかに応じて、異なる程度の曲げ変形が生じる。材料の弾性に起因するレバーの変形は、接触力を吸収して構造的な変形となり、結果として、接触線に沿って分散される不均一な、不十分な場合もある切開力、又は、標的の組織のきれいな切れ目を台無しにする、接触線係合のずれを生じる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態は、図5に示されているように、カッタレバー及びバックストップレバー、並びに、これらの2つのレバーを接続するハンドラを備える側咬血管パンチを想定する。バックストップレバーは、ユーザの掌に保持されることになるピストル状のベースフレームにしっかりと接合される。カッタレバー及びバックストップレバーと連通する2つの短いヒンジ棒があり、切開動作を容易にするように平行四辺形の四節回転機構を形成する。スロットに入ったピボットの機構によってカッタレバーと摺動可能に係合するトリガレバーが、図7及び図8に示されているように、バックストップレバーに対するカッタレバーの並進移動を生じるように2つのヒンジ棒を回転させる力を与える。カッタレバーの前方への並進運動は、かみそりの縁とバックストップの表面との合流時に形成される接触線で終了する。
【0021】
接触線が形成されると、ヒンジ棒の回転は、四節回転機構を通じた手の把持力の伝達を介して生成される切開力によって停止する。したがって、組織の切開が達成され、その後、接触線が形成されて切開力が発生する。バックストップ上の半剛性のパッドは、かみそり刃を全て受け入れ、製造及び組み付けにおいて生じる不完全さを軽減する。概して、提供されるパッドの適切な硬さによって、かみそり刃は、圧縮された組織を通って、半剛性のパッドの幾らかの深さにさらに切り込む。したがって、血管から切り取られた組織は、ユーザが切開を終了し、トリガレバーを閉位置に保持するときには、かみそり刃及びバックストップによって囲まれるスペース内に捕捉されたままとなる。このように、血管における孔のきれいな切れ目が達成され、切り取られた組織は、本発明の回収とともにヒトの体外に安全に運ばれることが可能である。
【0022】
一対のハサミと同様の、ピボットによって一緒に蝶着されるカッタレバー及びバックストップレバーを備える側咬血管パンチを想定する本発明の代替的な実施形態に関して、図9及び図10を参照する。これらの2つのレバーは、把持力を印加してこれらの2つのレバーを切開するための閉位置にすると、かみそり刃及びバックストップの表面の線接触が形成されるように、配置される。単一ピボット型のパンチ設計は、四節回転機構型よりも、製造及び組み付けにおいて生じる誤差をより受けやすい。誤差は、ピボットに対して遠位に位置付けられる位置において増幅される傾向にある。そのようなハサミ状のパンチが組織の分離のために適用される場合、形成される最初の接触点又はセグメントは、多くの場合に、ピボットに対して近位の領域にわたって、すなわち、U字形のかみそり刃の2つのアーム端にわたって着地する。
【0023】
かみそりの縁とバックストップの表面との間の隙間は、ピボットから離れるほどより大きく拡張し、ピボットに対して遠位の残りの刃部分に関しては、具体的には、かみそりの半円形の部分にわたって拡張する。その結果、切開は不完全になり、これはしばしば、ピボットに対して遠位のかみそり刃の半円形の部分において失敗する。組織のきれいな切れ目は、パーツの非常に正確な製造及び組み付けスキームも要求する。接触線の形成におけるこの固有の失敗を軽減するために、バックストップは、調整可能であるように設計されるべきである。具体的には、表面配向機構が提供されなければならない。パンチの組み付け中に、カッタレバー及びバックストップレバーが最初にピボットの周りに一体化され、次に、2つのレバーは、最初の接触点又はセグメントが確立された状態でそれらの閉位置にされる。バックストップの表面の向きを調整することにより、所望の完全な接触線の形成を、かみそりの縁全体にわたって最大限に得られる切開係合によって近似できる。誤差の軽減のために半剛性のパッドをさらに用いて、期待通りのきれいな切れ目を概して達成できる。
【0024】
血管に穿孔される孔の異なるサイズに合わせてU字形のかみそり刃を構成するように、異なる曲率半径を割り当てできる。グラフト接続の特定の要件を満たすために楕円形の刃も特注できる。端側吻合の臨床用途において、グラフトとホストとの接続のどの角度が好ましいかに応じて、接続される血管又はグラフトは異なる断面形状を呈する。本発明は、縫合されることになる接続される外周の突出した形状及びサイズに一致する、予め形成されるかみそり刃のセットを提供することによって、この吻合の目的を果たすことが可能である。
【0025】
手術においては、孔形成中に止血を維持することが最重要である。本発明の側咬パンチは、既存の部分的な閉塞器具と理想的に協働する。図11及び図12において、止血の部分遮断を伴う本発明の側咬パンチの一体的な使用が示されている。血管の孔を形成する前に、標的の血管を最初に部分遮断し、穿孔の準備が整った隔離されたエリアを形成する。この隔離されたエリアにおいて、血管壁は平坦化され、動脈血流は、この隔離されたエリアに入ることが阻止される。側咬パンチは、かみそりの縁が、遮断されたエリアの境界に対して限定された距離を有して着地した状態で(点線、図12)、隔離されたエリア内に適用できる。そのような併用構成は、現在設計されている孔形成処置中及び後に、かなり信頼性の高い止血を提供可能である。
【0026】
本発明に関わる切開の有効性及び機械的な原理、並びに、他の目的、特徴及びその利点は、添付の図面と併せて読まれる以下の説明を参照することによって理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1a】切開時における垂直な力の生成のための、U字形のかみそりカッタ及びバックストップ支持ベースを伴う、側咬パンチ機構の概略図である。
図1b】組織分離に関与するかみそり刃の断面図であり、垂直な切開応力は、縁領域Aによって分けられる印加される力Fによって生成される。
図2a】側咬パンチの失敗モードAを示しており、ハンドラの構成要素の製造又は据え付けにおいて生じる誤差に起因して、かみそりの縁及びバックストップの表面がずれており、不完全な切開線接触及び組織分離につながる。
図2b】側咬パンチの失敗モードBを示しており、かみそりの縁が、製造誤差に起因して波形であり、不完全な切開線接触及び組織分離につながる。
図2c】側咬パンチの失敗モードCを示しており、バックストップの表面が、製造誤差に起因して一様に平坦ではなく、不完全な切開線接触及び組織分離につながる。
図3a】分解図で示されている、U字形のかみそり刃、座部及びロック機構を備える代表的な側咬カッタの設計を示している。
図3b】断面図で示されている、U字形のかみそり刃、座部及びロック機構を備える代表的な側咬カッタの設計を示している。
図4a】分解図で示されている、中実のベース、半剛性のパッド及び調整可能なパッドプラットフォームを備える代表的なバックストップの設計を示している。
図4b】断面図で示されている、中実のベース、半剛性のパッド及び調整可能なパッドプラットフォームを備える代表的なバックストップの設計を示している。
図5】四節回転機構型の側咬パンチ設計の好ましい実施形態の分解図である。
図6】四節回転機構型の側咬パンチ設計の好ましい実施形態の断面図である。
図7】使用の準備が整った開位置にある四節回転機構型の血管パンチを示す斜視図である。
図8】側咬パンチ動作が完了した状態の、閉位置にある四節回転機構型の血管パンチを示す斜視図である。
図9】単一ピボット型の側咬パンチ設計の別の実施形態の分解図である。
図10】単一ピボット型の側咬パンチ設計の別の実施形態の断面図である。
図11】血管壁における孔形成中に止血を達成するための部分遮断と併せた、本発明の側咬パンチの組み合わせた使用を示す斜視図である。
図12】切開線と、血管の部分遮断によって形成される止血ゾーンとの間の限定された距離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図5及び図6を参照する。四節回転機構型の側咬血管パンチは、かみそり刃カッタ10、バックストップ20、カッタレバー30、バックストップレバー40、一対のヒンジ棒50及びハンドラ60を備える。かみそり刃カッタは、U字形のかみそり刃11、座部12及びロック機構13をさらに備える。
図3a及び図3bに詳述されているように、座部12は、ねじ14によってカッタ10にねじ固定されており、かみそり刃11は、ロック板13を使用して上記座部12の側部フランジに対して押し当てられている。かみそり刃11の据え付けにおいて、刃の鈍縁が最初に、座部12の側部フランジの角部に接触して配置され、次に、刃の側壁がロック板13によって適所に押し当てられて保持され、続いて、2つのロックねじ15を使用してロック板13を固定する。カッタ10及びバックストップ20は血液に接触するため、使い捨てで作製し、感染の可能性を排除することが好ましい。一体化されると、カッタ10はカッタレバー30の一体的な延長部となり、かみそり刃の縁11がカッタレバー30に対して平行であることを確実にするために厳密な組立公差を必要とする。
【0029】
一方で、バックストップ20は、半剛性のパッド22が糊付けされた支持ベース21を含む。図4a及び図4bにおいて、上記バックストップ20の構成が示されている。支持ベース21は、ロックねじ23を使用することによってバックストップ20に接続され、切開中の最適化された接触線を得るように、表面の向きの調整のために3組のねじ24によってさらに増強される。カッタレバー12へのカッタ10の一体化と同様に、バックストップ20及びバックストップレバー40の組み付けにおける位置合わせも、特定の厳密な公差内にあることが必要とされる。
【0030】
バックストップレバー40はハンドラ60にしっかりと接続され、カッタレバー30は、スロット内のピボット状にハンドラ60に摺動可能に連結される。その2つの端に孔あけされた2つの貫通孔51を有する短いピンをそれぞれ含む一対のヒンジ棒50が、カッタレバー30及びバックストップレバー40に回転可能に接合され、四節回転機構を形成する。ヒンジ棒の回転運動は、二対のピボット52及びそのロックねじ53の使用によって提供され、回転拘束によってカッタレバー30及びバックストップレバー40を一緒に接続する。
【0031】
起動され使用準備が整った開位置、及び、後退して切開が完了した閉位置にある四節回転機構が、図7及び図8にそれぞれ示されている。この四節回転機構は、2つのヒンジ棒50の同時の回転によって、バックストップレバー40に対して平行なカッタレバー30の並進運動を生じる。接合されたレバー30と40とが平行であることが、手術中に血管組織を除去することが意図される効果的な側咬パンチの鍵を握る。平行に影響を与えるパラメータとしては、ヒンジ棒50、カッタレバー30及びバックストップレバー40に孔あけされるピボット孔の位置、回転係合するパーツ30、40に組み付けられるヒンジ50の嵌合公差、並びに、ハンドラ60のハンドセット62に向かってトリガ61を手動で把持することから生じる切開力を受けたときの、接続されているレバー30、40の剛性が挙げられる。
【0032】
Uビーム構造が、カッタレバー30及びバックストップレバー40を構成するために好ましく、この理由は、これらの薄壁構造が、レバーの剛性のために達成される最大限の曲げ剛性に対する重量ペナルティを最適化できるためである。ピボット63及びそのピボットねじ64によってハンドラ60に回転取り付けされるトリガ61は、上記側咬パンチのカッタレバー30に関連付けられる切開力及び並進運動を与える機構を構成する。カッタレバー30には、ねじ66によってカッタレバー30に固定されるピボット65によってトリガ61内のスロットに接合され、トリガ61の遠位部分とスロットに入ったピボットの関係を形成し、スロットはピボット65を収容するために提供される。
【0033】
したがって、カッタレバー30は、起動位置から閉位置に前方に押し、また閉位置から起動位置に逆に戻すことが可能である。前方への運動に必要な力は、手の把持によって提供され、一方で、後方への運動は、ハンドセット62及びトリガ61上のねじ68によってそれぞれその脚が固定されている板ばね67の対によって生成される跳ね返り力によって提供される。
トリガ61が、ピボット63の周りに中心決めされる誘発される円運動によって作動されると、トリガ61の遠位スロットはカッタレバー30をガイドして前方又は後方に移動させ、作動されたピボット64を駆動してスロット内で摺動させ、その結果、ヒンジ棒50が回転し、カッタレバーが対応して上下する。トリガ61をハンドセット62に向かって手で把持することで、切開動作が開始し、接触線の下の圧縮された組織を切開するようにかみそり刃の縁11がバックストップの表面に着地するまで、カッタレバー30を下方に移動させる。切開が完了すると、ユーザは本発明を閉位置で保持し、したがって、除去された血管組織を固定し、かみそり刃11の内側及びバックストップ20によって画成されるスペース内に良好に捕捉する。その結果として、本発明を患者の身体の外に引き出した後で、組織を安全に回収できる。
【0034】
本発明の別の実施形態は、図9及び図10に示されているように、単一ピボット型の機構を介する。この単一ピボット型の側咬パンチは、かみそり刃カッタ70、調整可能であることが好ましいバックストップ80、カッタレバー90、バックストップレバー100、板ばねの対101、並びに、ピボット102及びそのロックねじ103を備える。かみそり刃カッタ70は、かみそり刃71、座部72、ロック板73、ロックねじ74及び2つの止めねじ75を備え、四節回転機構側咬パンチにおいて前述したものと同じ設計である。このかみそり刃カッタ70は、カッタレバー90の遠位端としっかりと一体化され、そのようにバックストップ80がバックストップレバー100にしっかりと一体化される。カッタレバー90及びバックストップレバー100は、ピボット102及びピボットねじ103によって一緒に接合され、把持力を増幅させてかみそりの切開縁に伝達することを可能にするハサミ状の構造になる。そのような単一ピボット型の側咬パンチは、当該パンチが切開のために閉位置になると、かみそりの縁の接触線とバックストップの表面とを位置合わせする。
【0035】
調整可能なバックストップ80は、四節回転機構の実現において上述したバックストップ20と同じ設計である。この調整可能なバックストップ80に関して、パッドの向きの調整を、限定はされないが、半剛性のパッド81が糊付けされるパッドプラットフォーム82によって達成でき、パッドプラットフォーム82は、パッドプラットフォーム82の外側からねじ留めされるロックねじ83を使用して、バックストップ80の支持ベースと最初に緩く接合される。
3つの付加的な止めねじ84があり、それぞれが、表面の向きの調整のためにバックストップ80の支持ベースにねじ留めされる三角形の頂点を占める。ロックねじ83とともにねじ山付きの止めねじ84の深さを独立して調整することによって、切開の接触線の向きを、結果としてかみそりの縁が半剛性のパッド81と全体的に接触するように直すことが可能であり、したがって、切開の有効性を高める。
【0036】
大きい血管の孔形成中に止血を確実にすることは、手術にとって最重要である。動脈又は静脈内の血流の部分的な閉塞は、一般的に、部分遮断を使用して達成されてきた。本発明のパンチは、これらの臨床的に証明された部分遮断と簡便に協働し、孔あけ中又は後に出血が生じることを防止できる。
図11及び図12において、本発明と部分遮断との組み合わせた使用を実証する。最初に、部分遮断を、血流から除外される領域を形成するように適用する。次に、側咬血管パンチを使用して、この止血領域から組織片を切開する。図12に示されている切開線は、遮断する止血線と穿孔される周囲との間に依然として十分な余地があることを示している。端側吻合はしたがって、グラフトの端と孔の周囲とを連続的に縫合することによって安全に実施でき、一方で、部分遮断は、出血の懸念を排除するために適所にロックされる。
【0037】
チューブカッタに入ったアンビルの形態の現代の血管パンチは主に、アンビルとその受け入れ側のチューブカッタとの直線的又は螺旋状の係合を介して生成されるせん断力に基づくことが、血管外科医には一般的に知られている。組織の分離は、実際のところ、6mm未満ほどの孔の直径しか得ることができない。血管により大きい孔を形成するためには、必要とされる力は、ヒトの把持強さの限界を実質的に超えて増大し、概して止血を維持するのが困難である。多くの場合に、実際の用途において、外科医は、所望のより大きい孔のサイズが達成されるまで、多数の漸進的な側咬みの移動を小さい孔の外周で印加するべきである。その結果、作業負荷は高いが、穿孔の質は必ずしも保証されない。
本発明は、完全に異なる垂直な力による組織分離原理に基づく側咬パンチ設計を想定し、これは、部分遮断とも簡便に協働し、孔形成中及び孔形成後の止血を維持できる。2つの実施形態を紹介し記載したが、当業者は、添付の特許請求の範囲によって画成されるような本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、種々の変更形態又は均等物を考案できることが理解される。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12