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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】インジケータおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
G01N31/22 121G
G01N31/22 121P
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2018145406
(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公開番号】P2019032313
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017152021
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今西 ひとみ
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-014685(JP,A)
【文献】特開2016-118476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00-31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップ状の基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備え、
前記多孔質層は、前記基材シートの長さ方向の一端部に配置され、前記一端部側の第1エッジ部と、前記第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、前記第1エッジ部および前記第2エッジ部の間に位置する中央部と、を備え、
前記多孔質層は、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを含み、
前記第2エッジ部における前記第1呈色成分の濃度C12の、前記中央部における前記第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)は、2.2以下であり、
前記多孔質層の前記第2エッジ部の側端面がハーフカット面であり、
前記基材シートは、前記ハーフカット面の直下にハーフカット痕を有する、インジケータ。
【請求項2】
前記多孔質層は、前記第2エッジ部に隣接して配置された帯状部を備え
前記帯状部は、前記基材シートに対して取り外し可能である、請求項1に記載のインジケータ。
【請求項3】
ストリップ状の基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備え、
前記多孔質層は、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを含み、
前記多孔質層は、前記基材シートの長さ方向の一端部に配置され、前記一端部側の第1エッジ部と、前記第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、前記第1エッジ部および前記第2エッジ部の間に位置する中央部と、前記第2エッジ部に隣接して配置された帯状部と、を備え、
前記第2エッジ部における前記第1呈色成分の濃度C12の、前記中央部における前記第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)は、2.2以下であり、
前記帯状部は、前記基材シートに対して取り外し可能である、インジケータ。
【請求項4】
前記帯状部は、前記第1呈色成分および前記第2呈色成分を含む、請求項2または3に記載のインジケータ。
【請求項5】
前記比R1と、前記帯状部における前記第1呈色成分の濃度C13の、前記濃度C1cに対する比R3(=C13/C1c)とは、R3>R1を充足する、請求項2~4のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項6】
前記比R1と、前記第2エッジ部における前記第2呈色成分の濃度C22の、前記中央部における前記第2呈色成分の濃度C2cに対する比R2(=C22/C2c)とが、R1>R2の関係を充足する、請求項1~5のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項7】
前記比R1は、1.7以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項8】
ストリップ状の基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備え、
前記多孔質層は、前記基材シートの長さ方向の一端部に配置され、前記一端部側の第1エッジ部と、前記第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、前記第1エッジ部および前記第2エッジ部の間に位置する中央部と、を備え、
前記多孔質層は、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを含み、
前記基材シートは、前記多孔質層の前記第2エッジ部の側端面がハーフカット面であり、前記ハーフカット面の直下にハーフカット痕を有する、インジケータ。
【請求項9】
前記多孔質層は、繊維集合体を備え、
前記繊維集合体が、前記第1呈色成分および前記第2呈色成分を含んでいる、請求項1~8のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項10】
前記繊維集合体は、紙または不織布である、請求項に記載のインジケータ。
【請求項11】
前記多孔質層において、前記第1呈色成分の濃度は、前記第1エッジ部から前記第2エッジ部に向かって増加している、請求項1~10のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項12】
前記対象成分は、酸化剤であり、
前記第1呈色成分は、前記酸化剤の存在下でヨウ素を生成するヨウ化物であり、
前記第2呈色成分は、デンプンである、請求項1~11のいずれか1項に記載のインジケータ。
【請求項13】
前記ヨウ化物は、ヨウ化カリウムである、請求項12に記載のインジケータ。
【請求項14】
前記多孔質層は、前記ヨウ素を還元するための還元剤をさらに含む、請求項12または13に記載のインジケータ。
【請求項15】
前記第2エッジ部における前記還元剤の濃度Cr2の、前記中央部における前記還元剤の濃度Crcに対する比R4(=Cr2/Crc)は、1.5未満である、請求項14に記載のインジケータ。
【請求項16】
基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を準備する準備工程と、
前記多孔質層に、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを拡散させる拡散工程と、
前記多孔質層における前記第1呈色成分の濃度が相対的に高い端部領域と残部とをハーフカットで区分する区分工程と、を有する、インジケータの製造方法。
【請求項17】
前記端部領域を前記基材シートから除去する工程、を更に有する、請求項16に記載のインジケータの製造方法。
【請求項18】
前記拡散工程では、前記第1呈色成分と前記第2呈色成分とを、同時または個別に、前記多孔質層の一部に付与し、前記多孔質層内に拡散させる、請求項16または17に記載のインジケータの製造方法。
【請求項19】
前記拡散工程では、前記第1呈色成分と前記第2呈色成分とを、同時または個別に、前記多孔質層に滴下して拡散させる、請求項16~18のいずれか1項に記載のインジケータの製造方法。
【請求項20】
前記区分工程において、前記基材シートにハーフカット痕を形成する、請求項16~19のいずれか1項に記載のインジケータの製造方法。
【請求項21】
前記準備工程において、
幅W1および長さL1を有する前記基材シートと、前記基材シートの幅W1方向における両端以外の領域に長さL1方向に沿って貼り付けられた幅W2(ただし、W2<W1)および長さL2を有する帯状の前記多孔質層と、を準備し、
前記端部領域が、帯状の前記多孔質層の幅W2方向における両端を含む、請求項16~20のいずれか1項に記載のインジケータの製造方法。
【請求項22】
前記基材シートを幅W3(ただし、W3<L1)および長さL3(ただし、L3<W1)を有するストリップ状に切断して、長さL3方向の一端部に前記多孔質層が配置されたインジケータを切り出す工程、を更に備える、請求項21に記載のインジケータの製造方法。
【請求項23】
前記インジケータを切り出す工程において、
帯状の前記多孔質層の中央部分を横切るように、前記多孔質層とともに前記基材シートを幅W1方向に二分割し、かつ長さL1方向に複数に分割する、請求項22に記載のインジケータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象成分を検知して呈色する呈色成分を含むインジケータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジケータは、例えば、試験の対象となる液体に所定濃度以上の対象成分(例えば、H、OH、酸化剤など)が含まれるか否かをチェックするために使用される。典型的なインジケータとして、酸化剤用インジケータ(例えば、酸化剤用試験紙)が挙げられる。例えば、医療用器具などの器具を消毒するための消毒液には、消毒剤として酸化剤が利用されている。消毒液に有効濃度の消毒剤が含まれるか否かを確認するためにインジケータが使用されている。酸化剤用インジケータとしては、例えば、ヨウ素デンプン反応を利用するものが挙げられる。
【0003】
酸化剤用インジケータは、ストリップ状の基材シートと、この表面に形成された多孔質層(紙や不織布など)とを備えている。多孔質層には、対象成分を検知して呈色する呈色成分(例えば、ヨウ化カリウムおよびデンプン)が含まれている。多孔質層は、基材シートの長さ方向の一端部に形成されている。酸化剤用インジケータでは、多孔質層部分を、試験対象となる液体に浸漬すると、酸化剤によりヨウ化カリウムが酸化されてヨウ素分子が生成し、ヨウ素分子とデンプンとが反応して呈色する。このときの変色の程度により、酸化剤が所定濃度以上含まれているかどうかを確認することができる。
【0004】
ストリップ状のインジケータ(試験紙など)は、基材シートの端部において表面に、多孔質層を形成し、多孔質層に薬剤を含む溶液を含浸させ、乾燥させることにより製造される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-275716号公報(段落[0065])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ストリップ状のインジケータを作製し、このようなインジケータを用いて、液体中の対象成分の濃度を確認する場合、検査精度が低下することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面は、ストリップ状の基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備え、
前記多孔質層は、前記基材シートの長さ方向の一端部に配置され、前記一端部側の第1エッジ部と、前記第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、前記第1エッジ部および前記第2エッジ部の間に位置する中央部と、を備え、
前記多孔質層は、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを含み、
前記第2エッジ部における前記第1呈色成分の濃度C12の、前記中央部における前記第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)は、2.2以下である、インジケータに関する。
【0008】
本発明の他の局面は、ストリップ状の基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備え、
前記多孔質層は、前記基材シートの長さ方向の一端部に配置され、前記一端部側の第1エッジ部と、前記第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、前記第1エッジ部および前記第2エッジ部の間に位置する中央部と、を備え、
前記多孔質層は、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを含み、
前記基材シートは、前記多孔質層の前記第2エッジ部側の側端面の直下にハーフカット痕を有する、インジケータに関する。
【0009】
本発明の更に他の局面は、基材シートと、前記基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を準備する準備工程と、
前記多孔質層に、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と前記第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを拡散させる拡散工程と、
前記多孔質層における前記第1呈色成分の濃度が相対的に高い端部領域と残部とをハーフカットで区分する区分工程と、を有する、インジケータの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
呈色成分を含むインジケータの検査精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るストリップ状のインジケータの概略平面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係るインジケータの概略平面図である。
図3】本発明のさらに他の実施形態に係るインジケータの概略平面図である。
図4】本発明の実施形態に係るインジケータの製造方法を説明するための工程図である。
図5】インジケータを工業的に製造する場合の手順を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[インジケータ]
本発明の一実施形態に係るインジケータは、ストリップ状(つまり、短冊状)の基材シートと、基材シートの一方の面に形成された多孔質層と、を備える。多孔質層は、基材シートの長さ方向の一端部に配置され、一端部側の第1エッジ部と、第1エッジ部とは反対側の第2エッジ部と、第1エッジ部および第2エッジ部の間に位置する中央部とを備える。多孔質層は、対象成分を検知し、互いに反応して呈色する第1呈色成分と第2呈色成分とを含む。第2エッジ部における第1呈色成分の濃度C12の、中央部における第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)は、2.2以下である。
【0013】
ストリップ状の基材シートと、この表面に形成された多孔質層とを備えるインジケータでは、一般に、多孔質層に、対象成分を検知して呈色する呈色成分が含まれている。このようなインジケータを工業的に製造する場合、以下のような方法が効率的であることが判明した。
【0014】
まず、図5に示すように、サイズの大きな(より具体的には、インジケータ複数個分の)基材シートS0の幅方向の中央部分に帯状の多孔質層P0を設け、呈色成分を含む溶液を多孔質層P0に付与し(例えば、含浸させ)、乾燥させる(工程(a))。次いで、破線で示すように、多孔質層P0とともに、基材シートS0を幅方向に二分割し、長さ方向に細かくカットすることにより、ストリップ状(つまり、短冊状)のインジケータが得られる(工程(b))。ストリップ状のインジケータでは、ストリップ状の基材シートSの一端部において、一方の表面に多孔質層Pが配置されている。
【0015】
しかし、このように、インジケータ複数個分の基材シートS0を用い、多孔質層P0を形成した後に溶液を付与する方法では、工程(a)において多孔質層P0全体に一度に呈色成分を付与することは難しい。そのため、通常、多孔質層P0の一部の領域(例えば、多孔質層P0の幅方向の中央部分)に溶液を付与して、多孔質層P0全体に呈色成分を拡散させる。付与された溶液は、付与された部分から周囲に多孔質層の面方向に拡散していくことになる。このような方法では、多孔質層P0内の位置によって呈色成分が拡散されるタイミングがずれるため、呈色成分の分布にばらつきが生じやすい。溶液の付与は、例えば、滴下や塗布などによって行われる。このとき、例えば、多孔質層P0の幅方向の中央部分に、多孔質層P0の長さ方向の一端部から他端部に向かって連続的に溶液を付与することがある、また、間隔を開けて配置された複数の吐出口から、多孔質層P0の幅方向の中央部分に溶液が付与されることもある。これらの場合、さらに呈色成分の分布にばらつきが生じることになる。
【0016】
工程(a)において、多孔質層P0において呈色成分が存在しない領域が形成されることを抑制するには、多孔質層P0内で呈色成分を十分に拡散させる必要がある。しかし、多孔質層P0全体に呈色成分を拡散させている間に、多孔質層P0の端部において、呈色成分が溜り、呈色成分の濃度が過度に高くなることがある。このような状態の多孔質層P0を基材シートS0とともに工程(b)でカットして得られるインジケータでは、多孔質層Pは、基材シートSの長さ方向の一端部に配置されることとなる。そして、基材シートSの長さ方向の他端部側の多孔質層Pのエッジ部において、呈色成分の濃度が過度に高くなることになる。このような状態のインジケータを用いて、試験対象となる液体中の対象成分の濃度を検査すると、呈色成分の濃度が高いエッジ部において、呈色反応が過剰に起こり、検査精度が低下する。特に、多孔質層に呈色反応に関与する複数の呈色成分が含まれる場合には、これらの呈色成分の分子量が異なると、多孔質層における拡散性が異なる。そのため、拡散性が低い呈色成分を多孔質層P0内に均一に拡散させている間、拡散性がより高い呈色成分が多孔質層P0の端部に溜り、濃度が過度に高くなり易く、検査程度が低下し易い。また、呈色成分の種類によっては、試験に供する前の状態において、呈色成分の濃度が高い多孔質層のエッジ部分の色が他の領域よりも濃くなることがあり、この場合にも、検査精度の低下を招くことがある。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るインジケータの概略平面図である。
インジケータは、ストリップ状の基材シートSと、基材シートSの一方の面に形成された多孔質層Pとを備えている。多孔質層Pは、基材シートSの長さ方向の一端部に配置されている。多孔質層Pは、基材シートSの一端部側の第1エッジ部E1と、第1エッジ部E1とは反対側の第2エッジ部E2と、第1エッジ部E1および第2エッジ部E2の間に位置する中央部Cと、を備えている。
【0018】
本実施形態では、インジケータの多孔質層Pの第2エッジ部E2における第1呈色成分の濃度C12の、中央部Cにおける第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)を2.2以下とする。つまり、多孔質層Pの第2エッジ部E2において第1呈色成分の濃度が過度に高くなることが抑制されている。そのため、第2エッジ部E2が第1呈色成分により濃く着色された状態となることが抑制されるとともに、第2エッジ部E2において呈色反応が過剰に起こることが抑制される。よって、インジケータの検査精度を高めることができる。
【0019】
なお、ストリップ状のインジケータにおいて、基材シートの長さ方向の一端部に多孔質層が配置されているとき、基材シートの一端部側の多孔質層の端部(例えば、端から幅2mmの部分)を第1エッジ部といい、多孔質層の第1エッジ部とは反対側の端部(例えば、端から幅2mmの部分)を第2エッジ部というものとする。中央部は、多孔質層の、基材シートの長さ方向に沿う方向において中央に位置する部分をいう。中央部における各成分の濃度は、例えば、多孔質層の、基材シートの長さ方向に沿う方向において中央に位置する幅2mmの帯状の部分について求めてもよく、多孔質層の、基材シートの長さ方向に沿う方向における中心線を挟む2つの隣接する幅2mmの帯状の部分について求めて平均化した値としてもよい。
以下、本実施形態に係るインジケータについて適宜図面を参照しながらより詳細に説明する。
【0020】
(多孔質層)
インジケータにおいて、多孔質層は、ストリップ状の基材シートの一方の面に形成されている。多孔質層は、基材シートよりも長さが短く、基材シートの長さ方向の一端部に配置されている。多孔質層は、対象成分を検知し、互いに反応して呈色する第1呈色成分と第2呈色成分とを含んでいる。このようなインジケータでは、対象成分を含む液体を、インジケータの多孔質層に接触させることで、第1呈色成分および第2呈色成分が関与する呈色反応が起こり、液体中の対象成分の濃度を確認することができる。
【0021】
多孔質層は、基材シートの一方の面に形成されていればよいが、必要に応じて、基材シートの双方の面に形成されていてもよい。また、図1の例のように、基材シートの長さ方向における一方の端部だけでなく、双方の端部に形成されていてもよい。このとき、基材シートの一方の面において、双方の端部に多孔質層を設けてもよく、基材シートの一方の面において、一方の端部に多孔質層を設けるとともに、他方の面において、他方の端部に多孔質層を設けてもよい。
【0022】
多孔質層は、例えば、多孔質フィルムであってもよいが、呈色成分を含む溶液や試験対象となる液体を含浸し易い観点から、繊維集合体を備えることが好ましい。また、多孔質フィルムと繊維集合体との積層体を多孔質層として用いてもよい。繊維集合体としては、例えば、紙(ろ紙なども含む)、不織布、織布、編物などが挙げられる。これらのうち、液体に対する含浸性が高い観点から、紙や不織布が好ましい。
【0023】
多孔質層の材料としては、用途に合わせて選択すればよく、例えば、セルロースまたはその誘導体(セルロースエステル、セルロースエーテルなど)、樹脂(ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂など)などが挙げられる。多孔質層は、これらの材料を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0024】
多孔質層(具体的には、繊維集合体)は、第1呈色成分と、第1呈色成分より分子量が大きな第2呈色成分を含んでいる。より具体的には、第1呈色成分および第2呈色成分は、多孔質層(具体的には、繊維集合体)に含浸または担持されている。第1呈色成分および第2呈色成分は、それぞれ、多孔質層(具体的には、繊維集合体)中に拡散している(または分散した状態で分布している)。第1呈色成分および第2呈色成分としては、例えば、インジケータの用途に合わせて様々なものが使用できる。
【0025】
第1呈色成分としては、例えば、対象成分の存在下で、後述の第2呈色成分との反応により呈色する成分などが挙げられる。第1呈色成分としては、例えば、酸化還元指示薬、吸着指示薬、TLC(薄層クロマトグラフィー)呈色指示薬などが挙げられる。第1呈色成分としては、これらのうち二種類以上を必要に応じて用いてもよいが、第2エッジ部や中央部など、多孔質層に含まれる各部における第1呈色成分の濃度は、一種類の第1呈色成分に着目して算出するものとする。
【0026】
第2呈色成分としては、例えば、対象成分の存在下で、第1呈色成分と反応して呈色するものが使用できる。第2呈色成分は、第1呈色成分よりも分子量が大きいため、多孔質層に含浸させる際の拡散性が第1呈色成分より低い。なお、第2呈色成分が高分子である場合には、第2呈色成分の平均分子量(例えば、重量平均分子量)が、第1呈色成分の分子量より大きければよい。
【0027】
第2呈色成分は、第1呈色成分および/または対象成分の種類に応じて選択すればよい。例えば、対象成分が酸化剤である場合、第1呈色成分として、酸化剤の存在下でヨウ素を生成するヨウ化物を用い、第2呈色成分として、デンプンを用いてもよい。この場合、酸化剤の存在下でヨウ化物が酸化されて生成したヨウ素と、デンプンとが、ヨウ素デンプン反応を起こすことで、呈色し、酸化剤の存在を検知することができる。ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどが好ましい。中でも、酸化剤の作用により、ヨウ素を生成し易い観点から、ヨウ化カリウムが好ましい。
【0028】
なお、本明細書において、第1呈色成分は、第2呈色成分と実際に反応して呈色する成分A(ヨウ素など)、および対象成分の存在下で成分Aを生成することが可能な成分Aの前駆体(ヨウ化物など)のいずれか一方を含むものとする。つまり、第2エッジ部や中央部などの各部における第1呈色成分の濃度は、成分Aまたはその前駆体のいずれか一方に着目して算出すればよい。
【0029】
多孔質層は、必要に応じて、用途に応じた添加剤を含むことができる。例えば、多孔質層は、第1呈色成分と第2呈色成分との呈色反応を確認し易くするための添加剤を含んでもよい。例えば、第1呈色成分としてヨウ化物を用い、第2呈色成分としてデンプンを用いる場合には、多孔質層は、さらに還元剤を含むことが好ましい。還元剤は、対象成分としての酸化剤によりヨウ化物が酸化されて生成するヨウ素を還元する働きを有し、過度な呈色反応を抑制することができるため、検査精度をさらに向上することができる。還元剤としては、鉄(II)イオン、スズ(II)イオン、水素化物などを用いてもよいが、ヨウ素を還元しやすい観点から、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩などを用いることが好ましい。チオ硫酸塩、亜硫酸塩、次亜硫酸塩としては、それぞれ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩が好ましい。還元剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
本実施形態では、第2エッジ部における第1呈色成分の濃度C12の、中央部における第1呈色成分の濃度C1cに対する比R1(=C12/C1c)を、2.2以下とすることが重要である。これにより、第2エッジ部およびその近傍において呈色反応が過度に起こることが抑制されるため、インジケータの検査精度を高めることができる。多孔質層における呈色反応のばらつきを低減する観点からは、比R1は、2以下であることが好ましく、1.7以下であることがさらに好ましい。多孔質層が還元剤を含む場合には、比R1は、1.3以下または1.2以下であることがより好ましく、1.1以下としてもよい。
【0031】
インジケータにおいて、第1呈色成分を含む溶液を多孔質層に付与し(例えば、含浸させ)、乾燥させることにより、第1呈色成分が多孔質層に担持される。よって、多孔質層は、第1呈色成分の分布に傾斜を有していてもよい。例えば、多孔質層では、第1エッジ部から第2エッジ部に向かって、第1呈色成分の濃度が増加した状態となっていてもよい。ただし、このような濃度分布の傾斜を有するインジケータでは、第2エッジ部において、中央部や第1エッジ部に比べて、第1呈色成分の濃度が過度に高くなり易い。本実施形態では、このような濃度分布を有する場合でも、第1呈色成分の濃度比R1を上記のような範囲に抑えることで、インジケータの高い検査精度を確保することができる。なお、第1呈色成分の濃度は、第1エッジ部から第2エッジ部に向かって、連続的に増加していてもよく、段階的に増加していてもよい。
【0032】
第1呈色成分の濃度比R1は、次のようにして求めることができる。まず、各部から抽出した第1呈色成分を核磁気共鳴スペクトルやマススペクトルなどを用いて同定する。次に、各部から抽出した第1呈色成分を所定量の溶媒に溶解させて、第1呈色成分に特徴的な波長における吸光度を測定する。そして、濃度既知の第1呈色成分を含む溶液のサンプルの吸光度と比較することで、第2エッジ部および中央部のそれぞれにおける第1呈色成分の含有量(g)を求め、第2エッジ部における第1呈色成分の含有量(g)の、中央部における第1呈色成分の含有量(g)に対する比を算出し、この含有量の比を、濃度比R1とすることができる。なお、第1呈色成分は、インジケータから第2エッジ部および中央部を切り出し、各部から、溶媒(水および/または有機溶媒など)を用いて抽出できる。
【0033】
実際に各部における第1呈色成分の濃度(質量%)を求める際には、各部について、第1呈色成分の含有量(g)が多孔質層の質量(g)に占める割合(質量%)を算出し、各部における第1呈色成分の実際の濃度(質量%)とすることができる。なお、各部における多孔質層の質量は、各部において基材シートから多孔質層を剥離した後に多孔質層の乾燥質量を測定することで求めてもよく、各部において基材シートと多孔質層との合計の乾燥質量を測定し、多孔質層を基材シートからきれいに剥離して計量した基材シートの質量を差し引くことで求めてもよい。
【0034】
また、実際に各部における第1呈色成分の含有量や濃度を求める代わりに、第2エッジ部から抽出した第1呈色成分の吸光度の、中央部から抽出した第1呈色成分の吸光度に対する比を求め、この吸光度比を濃度比R1としてもよい。この場合には、各部から第1呈色成分を抽出して得られる液体の質量が同じになるように、得られる液体を濃縮または希釈すれば、各液体における濃度のばらつきに伴う補正が不要となる。
【0035】
インジケータに含まれる第1呈色成分自体の吸光度が小さく、濃度比を算出し難い場合には、抽出した第1呈色成分に、呈色させる成分(例えば、酸化剤や還元剤など)を添加して、着色させた状態で濃度比R1を求めてもよい。この場合、第1成分と呈色させる成分との反応式から、呈色した成分と第1呈色成分とのモル比の関係を考慮して、吸光度比から濃度比R1を求めればよい。
【0036】
なお、吸光度から濃度比R1を求めることが難しい場合には、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いて、濃度既知の第1呈色成分を含む溶液のサンプルを元に求めた検量線から、各部における第1呈色成分の濃度を求め、R1を算出してもよい。
【0037】
第1呈色成分の濃度の傾斜については、濃度比R1の場合に準じて求めることができる。例えば、濃度比R1を求める場合に準じて、第1エッジ部、第2エッジ部、および中央部における第1呈色成分の濃度を求めてもよい。また、各部について、濃度比R1の場合に準じて、吸光度を測定し、吸光度の傾斜を濃度の傾斜として求めれば簡便である。また、吸光度の傾斜を求める際に、濃度比R1の場合のように、第1呈色成分に呈色させる成分を添加して着色させた状態の吸光度を利用してもよい。
【0038】
第2エッジ部における第2呈色成分の濃度C22の、中央部における第2呈色成分の濃度C2cに対する比R2(=C22/C2c)は、第1呈色成分の濃度比R1と同じであってもよく、R1より大きくてもよいが、R1>R2の関係を充足することが好ましい。第2呈色成分は、第1呈色成分よりも分子量が大きいため、第1呈色成分に比べて多孔質層内に拡散し難く、第2呈色成分を多孔質層全体に拡散させている間に、第2エッジ部およびその近傍において第1呈色成分の濃度が高くなることがある。この場合には、R1>R2となり易く、呈色反応が過度になり易い。例えば、第1呈色成分としてのヨウ化物と第2呈色成分としてのデンプンとを用いる場合には、デンプンに比べてヨウ化物の分子量が小さく、拡散速度が高いため、第2エッジ部およびその近傍におけるヨウ化物の濃度が高くなり易い。このような場合でも、本実施形態によれば、濃度比R1を上記のような範囲に抑えることで、インジケータの高い検査精度を確保し易くなる。つまり、本実施形態に係るインジケータは、特に、第1呈色成分と、第1呈色成分よりも分子量が大きい(または拡散速度が低い)第2呈色成分とを用いる場合に適している。
なお、第2呈色成分の濃度比R2は、R1の場合に準じて、各部から第2呈色成分を抽出し、第2呈色成分を同定し、各部における第2呈色成分の含有量比、濃度比、または吸光度比などから求めることができる。
【0039】
多孔質層が、還元剤などの呈色反応を確認し易くするための添加剤を含む場合、第2エッジ部におけるこの添加剤(還元剤など)の濃度Cr2の、中央部における添加剤(還元剤など)の濃度Crcに対する比R4(=Cr2/Crc)は、1.5未満であることが好ましく、1.2以下または1.1以下であることがさらに好ましい。添加剤の濃度比R4がこのような範囲である場合、呈色反応の呈色の程度を調節し易く、検査精度をさらに高め易くなる。
なお、添加剤の濃度比R4は、R1の場合に準じて、各部から添加剤を抽出し、添加剤を同定し、各部における添加剤の含有量比、濃度比、または吸光度比などから求めることができる。
【0040】
第2呈色成分および添加剤(還元剤など)も、それぞれ、第1呈色成分の場合のように、多孔質層における分布状態が傾斜していてもよい。例えば、多孔質層では、第1エッジ部から第2エッジ部に向かって、第2呈色成分および/または添加剤の濃度が増加した状態となっていてもよい。なお、第2呈色成分の多孔質層における拡散速度が、第1呈色成分の拡散速度が小さい場合には、第1呈色成分の分布の傾斜に比べて、第2呈色成分の分布の傾斜は緩やかになる。第2呈色成分および添加剤の各成分の多孔質層における濃度の傾斜については、第1呈色成分の場合に準じて、吸光度の傾斜の状態を指標とすることができる。
【0041】
多孔質層の長さは、インジケータの用途やサイズに応じて決定すればよい。多孔質層の長さは、例えば、4mm以上70mm以下であり、5mm以上10mm以下であることが好ましい。
多孔質層の長さとは、ストリップ状のインジケータの長さ方向に沿う方向における多孔質層の長さである。
【0042】
多孔質層の厚みは、多孔質層の材料やインジケータの用途などに応じて決定すればよい。多孔質層の厚みは、例えば、100μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0043】
インジケータは、さらに、多孔質層に隣接して配置された帯状部を備えていてもよい。図2は、帯状部を備えるインジケータの概略平面図である。帯状部Bは、基材シートSの一方の面において、多孔質層Pの第2エッジ部E2に隣接して配置されている。帯状部Bは、第1呈色成分および第2呈色成分を含んでおり、基材シートSに対して取り外し可能である。このような帯状部Bは、元々、多孔質層Pの一部を構成しており、多孔質層Pの第2エッジ部E2の外側に切れ目を入れて、多孔質層Pから区分もしくは分割されることで形成される。そのため、帯状部Bは、多孔質層Pと同じ材料で形成されている。
【0044】
帯状部Bは、元々は多孔質層Pと連続した状態であるため、帯状部Bにおける第1呈色成分の濃度は、多孔質層Pの第2エッジ部E2、中央部C、および第1エッジ部E1における第1呈色成分の濃度よりも高くなっている。従って、比R1と、帯状部Bにおける第1呈色成分の濃度C13の、中央部Cにおける第1呈色成分の濃度C1cに対する比R3(=C13/C1c)とは、R3>R1を充足する。同様に、多孔質層Pが第2呈色成分や還元剤などの添加剤を含む場合にも、これらの成分の帯状部Bにおける濃度は、多孔質層Pの第1エッジ部E1、中央部Cや第2エッジ部E2における各成分の濃度よりも高くなっている。
なお、第1呈色成分の濃度比R3は、R1の場合に準じて、帯状部および中央部から第1呈色成分を抽出し、第1呈色成分を同定し、各部における第1呈色成分の含有量比、濃度比、または吸光度比などから求めることができる。
【0045】
帯状部Bは、インジケータをストリップ状にカットする前に取り除くことができるが、取り除かずに、ストリップ状にカットした場合には、インジケータに、図2のように残った状態となる。より高い検査精度を確保する観点からは、帯状部Bは、インジケータを試験に供する前の適当な段階で、取り除くことが好ましい。
【0046】
帯状部Bの幅は、特に制限されないが、例えば、1mm以上5mm以下であり、1mm以上4mm以下であることが好ましく、1mm以上3mm以下(特に、1mm以上2mm以下)であることがさらに好ましい。帯状部Bがこのような幅を有する場合、多孔質層Pにおける第1呈色成分の濃度勾配を小さくし易くなるため、インジケータの検査精度をさらに高めることができる。
なお、帯状部Bの幅とは、ストリップ状のインジケータの長さ方向に沿う方向における帯状部Bの長さである。
【0047】
(基材シート)
基材シートは、多孔質層を保持できればよいが、インジケータの取り扱い性を確保する観点からは適度な強度を有することが好ましい。基材シートの材質は、インジケータの用途に応じて選択すればよい。基材シートとしては、例えば、フィルムや繊維集合体などが挙げられる。フィルムは、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよい。また、繊維集合体としては、紙、不織布、織布、編物などが挙げられる。基材シートとして、フィルムと繊維集合体との積層体を用いてもよい。
【0048】
基材シートの材質としては、例えば、セルロースまたはその誘導体(セルロースエステル、セルロースエーテルなど)、樹脂(ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂など)などが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが例示できる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレートなどが例示できる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXDなどが挙げられる。基材シートは、これらの材料を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0049】
基材シートは、ストリップ状であればよく、基材シートの幅W3および長さL3は、インジケータの用途に応じて選択すればよい。基材シートの幅W3は、例えば、4mm以上30mm以下であることが好ましい。基材シートの長さL3は、例えば、40mm以上100mm以下であることが好ましい。
基材シートの厚みは、特に制限されないが、例えば、100μm以上300μm以下である。
【0050】
基材シートは、ハーフカット痕を有していてもよい。図3は、ハーフカット痕を有するインジケータの概略平面図である。図3のインジケータは、基材シートSがハーフカット痕を有すること以外は、図1のインジケータと同じである。ハーフカット痕Hは、図3に示すように、基材シートSにおいて、多孔質層Pの第2エッジ部E2側の側端面の直下に形成されている。
【0051】
ハーフカット痕Hは、例えば、帯状部を多孔質層から区分もしくは分割する際に形成される。帯状部は、多孔質層Pの第2エッジ部の外側の端部をカットすることで多孔質層Pから分離される。この時、基材シートSは、カットしないようにする(つまり、ハーフカットにより、多孔質層をカットする)が、通常、基材シートSの表面に痕跡(つまり、ハーフカット痕H)が残る。
【0052】
試験対象となる液体にインジケータを浸漬させて引き上げた際や液体をインジケータの多孔質層部分に滴下した際に、多孔質層に吸収しきれない余剰の液体が、多孔質層Pの第2エッジ部E2の外側の基材シートS上(つまり、インジケータの長さ方向における厚み方向の断面において、多孔質層Pの表面と基材シートSの表面との高低差により形成される段差部分)に溜り、検査精度に影響することがある。ハーフカット痕Hを有するインジケータでは、余剰の液体が多孔質層Pに供給されても、ハーフカット痕Hに沿って液体が流れやすくなる(つまり、液切れがよくなる)ため、段差部分に液体が溜ることが抑制される。よって、高い検査精度をさらに確保しやすくなる。
【0053】
ハーフカット痕Hは、基材シートSの幅方向に沿って間欠的(例えば、破線状)に形成されていてもよい。より高い液切れ性を確保する観点からは、ハーフカット痕Hは、基材シートSの幅方向の一方の端部から他方の端部まで連続的(例えば、線状(特に、直線状))に形成されていることが好ましい。
【0054】
(対象成分)
本実施形態に係るインジケータでは、優れた検査精度が確保されるため、第1呈色成分の種類に応じて、第1呈色成分の呈色反応に関与する様々な対象成分の濃度を検査することができる。例えば、第1呈色成分がヨウ化物であり、第2呈色成分がデンプンである場合には、インジケータにより、対象成分としての酸化剤(例えば、過酸化水素、過酢酸などの過酸化物など)の濃度を検査することができる。
【0055】
(インジケータの製造方法)
本実施形態に係るインジケータの製造方法は、基材シートと、基材シートの一方の面に形成された多孔質層とを準備する準備工程(i)と、多孔質層に、対象成分を検知し、相互に反応して呈色する第1呈色成分と第1呈色成分よりも分子量が大きい第2呈色成分とを拡散させる拡散工程(ii)と、多孔質層における第1呈色成分の濃度が相対的に高い端部領域と残部とをハーフカットで区分する区分工程(iii)とを有する。通常は、準備工程(i)でインジケータ複数個分の基材シートが用いられるため、さらに、ストリップ状のインジケータ(より具体的には、幅W3および長さL3を有するストリップ状のインジケータ)を切り出す工程(iv)が行われる。
【0056】
図4は、本実施形態に係るインジケータの製造方法の一例を説明するための工程図である。
準備工程(i)では、サイズの大きな基材シートS0を用いる。基材シートS0は、ストリップ状のインジケータの長さL3より十分に大きい(例えばL3の2倍以上の)幅W1を有し、かつ幅W3より十分に大きい(例えばW3の10倍以上の)長さL1を有する。
【0057】
基材シートS0の幅W1方向における両端以外の領域には、長さL1方向に沿って帯状の多孔質層P0が貼り付けられている。帯状の多孔質層P0は、幅W1よりも十分に小さい幅W2を有し、かつ長さL2を有する。帯状の多孔質層P0は、例えば、基材シートS0の幅W1方向の中央部分に貼り付けられる。
【0058】
なお、準備工程(i)では、帯状の多孔質層P0をサイズの大きな基材シートS0の所定位置に貼り付ければよい。貼付には、接着剤や両面テープなどを利用してもよく、熱溶着やレーザー溶着などを利用してもよい。
【0059】
そして、第1呈色成分および第2呈色成分(必要に応じて、さらに、添加剤)を多孔質層P0に拡散させる工程(ii)が行われる。拡散工程(ii)では、第1呈色成分および第2呈色成分を多孔質層P0に付与し、多孔質層P0内に拡散させる。上述のように、多孔質層P0の一部(例えば、帯状の多孔質層P0の幅方向の中央部分に)に呈色成分を付与して、多孔質層内に拡散させる場合、特に、呈色成分の分布にばらつきが生じ易い。例えば、滴下を利用して呈色成分を多孔質層P0に付与すると、通常、呈色成分が多孔質層P0の一部に付与され、拡散されることになる。複数の呈色成分を用いる場合には、各呈色成分の分布のばらつきがさらに大きくなり易い。このように呈色成分の分布のばらつきが生じやすい場合でも、本実施形態によれば、区分工程(iii)を行うことで、検査精度が向上したインジケータを提供することができる。
【0060】
拡散工程(ii)において、多孔質層P0に第1呈色成分を拡散させる場合、多孔質層P0全体に第1呈色成分が分布するように、第1呈色成分を含む溶液を、例えば、少なくとも、帯状の多孔質層P0の幅方向の中央部分に供給または付与する。第1呈色成分は、徐々に拡散されて、多孔質層全体に広がる。そのため、帯状の多孔質層Pの端部における第1呈色成分の濃度が過度に高くなり易い。
【0061】
拡散工程(ii)において、呈色成分および/または添加剤は、例えば、溶液の形態で多孔質層P0に付与される。呈色成分や添加剤の付与は、各成分を多孔質層P0に含浸させることができればよいが、浸漬よりも、例えば、滴下、散布、塗布などの多孔質層P0に対して直接液体を付与できるような方法を利用することが好ましい。呈色成分を含む溶液への多孔質層の浸漬などを利用して呈色成分を多孔質層に含浸させる場合、多孔質層の密度や厚み、および表面張力による溶液の保持量がばらつくことで、多孔質層に担持される成分の量にもばらつきが生じ易くなるためである。一方、滴下等を利用すれば多孔質層に付与する溶液量の制御が容易であるため、浸漬を利用する場合と比べて、多孔質層における単位面積当たりの呈色成分の量を一定に制御し易い。よって、インジケータの品質を安定化させることができる。しかし、上述のように、滴下等を利用して呈色成分を多孔質層に付与する(または含浸させる)場合、呈色成分が多孔質層の一部に付与されることになるため、多孔質層における呈色成分の分布を制御することが難しい。本実施形態によれば、このように呈色成分の分布を制御し難い場合であっても、区分工程(iii)により、インジケータの検査精度を向上できる。
【0062】
多孔質層P0に付与された成分は、多孔質層P0内に拡散される。溶液を多孔質層P0に付与した後、通常、乾燥させることにより、呈色成分および/または添加剤が多孔質層P0に担持される。第1呈色成分および第2呈色成分は、多孔質層P0に、同時に付与してもよく、個別に付与してもよい。添加剤は、多孔質層P0に、少なくとも一方の呈色成分と同時に付与してもよく、呈色成分とは別に付与してもよい。例えば、第1呈色成分と第2呈色成分とを含む溶液を多孔質層P0に付与してもよく、第1呈色成分を含む溶液と第2呈色成分とを含む溶液とをそれぞれ多孔質層P0に付与してもよい。後者の場合、多孔質層P0に、各溶液を同時に付与してもよく、別々に付与してもよい(例えば、一方の溶液を付与した後、他方の溶液を付与してもよい)。添加剤を用いる場合には、呈色成分の溶液に添加してもよく、呈色成分の溶液とは別に添加剤を多孔質層P0に付与してもよい。それぞれ呈色成分を含む複数の溶液を用いる場合には、添加剤は一部の溶液に添加してもよく、全ての溶液に添加してもよい。
【0063】
より具体的に説明すると、拡散工程(ii)では、第1呈色成分を含む溶液を、多孔質層P0に含浸させ、乾燥させることにより、第1呈色成分を多孔質層P0に含浸または担持させることができる。第2呈色成分は、第1呈色成分の場合と同様に、拡散工程(ii)で多孔質層P0に含浸または担持させればよい。添加剤を用いる場合にも、第1呈色成分の場合と同様に、拡散工程(ii)で多孔質層P0に含浸または担持させればよい。第2呈色成分および/または添加剤は、第1呈色成分を含む溶液に混合してもよく、第1呈色成分を含む溶液とは別に、第2呈色成分および/または添加剤を含む溶液を調製し、多孔質層P0に含浸させてもよい。
【0064】
区分工程(iii)では、第1呈色部分の濃度が過度に高い、帯状の多孔質層P0の端部(つまり、ストリップ状インジケータでは、多孔質層Pの第2エッジ部E2より外側の部分(端部領域))を、一点破線で示されるカット位置(ハーフカット位置)hに沿ってカットして上述の帯状部Bを形成する。端部領域は、基材シートから除去してもよい。端部領域を取り除くことにより、インジケータの多孔質層Pにおいて、第1呈色成分の濃度比R1を、上記の範囲に調節することができる。
【0065】
端部領域(帯状部B)のカットは、基材シートSは切断せずに、多孔質層P部分を切断するハーフカットにより行なうことができる。このとき、基材シートSの表面にはハーフカット痕Hが残る場合がある。ハーフカット痕Hにより、高い検査精度を確保し得るインジケータを得ることができる。ハーフカット後の帯状部Bは、インジケータの切り出しの際に、取り除くことができ、図1に示すようなインジケータや、ハーフカット痕Hを有する図3のインジケータが得られる。また、切り出した後のインジケータに、帯状部Bが残されていてもよい。この場合、図2に示すようなインジケータが得られる。
【0066】
インジケータを切り出す工程(iv)は、拡散工程(ii)の後に行ってもよいが、区分工程(iii)の後および/または区分工程(iii)と並行して行う方が区分工程(iii)において端部領域のカットを容易に行うことができる。インジケータを切り出す工程(iv)では、幅W3および長さL3を有するストリップ状のインジケータが切り出される。インジケータを切り出す工程(iv)では、例えば、帯状の多孔質層の中央部分を横切るように、多孔質層とともに基材シートを幅W1方向に二分割し、かつ長さL1方向に複数に分割すればよい。例えば、図5の場合と同様に、図4に破線で示すように、帯状の多孔質層P0の中央部分を横切るように、多孔質層P0とともに基材シートS0を幅W1方向に二分割し、かつ長さL1方向に細かくカットすることによりストリップ状のインジケータが得られる。長さL1方向におけるカットは、区分工程(iii)の後に行った方が区分工程(iii)におけるカットを容易にできる観点からは好ましい。しかし、幅W1方向における二分割は、拡散工程(ii)の後、かつ区分工程(iii)の前に行ってもよく、区分工程(iii)と並行して(例えば、区分工程(iii)で端部領域のカットと並行して)行ってもよい。
【0067】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
<実施例1および比較例1>
(インジケータの作製)
第1呈色成分としてのヨウ化カリウムを0.23質量%濃度で含む水溶液aと、第2呈色成分としてのデンプンを3.53質量%濃度で含む水溶液bとを、それぞれ調製した。
PETフィルム(長さ150mm×幅100mm×厚み200μm)の幅方向の中央部分に、帯状のろ紙(ADVANTEC社製、No.1ろ紙、長さ150mm×幅16mm)を、PETフィルムとろ紙の長さ方向を揃えて、両面テープで貼り付けた。ろ紙(具体的には、ろ紙の幅方向の中央部分)に、水溶液aおよび水溶液bをそれぞれ滴下し、ろ紙全体に溶液を行き渡らせた。次いで、80℃の恒温槽で10分間乾燥させた。
【0069】
ろ紙をPETフィルムごと、ろ紙の幅方向の中央部分で二分割した。一方の分割片について、図4の(B)に破線で示すように、長さ方向において細かく切断し、幅6mmのストリップ状のインジケータを作製した。このとき、インジケータの半分(実施例1)については、インジケータのろ紙が配置されている端部とは反対側のろ紙の端部(幅2mm)を図4の(B)の一点破線で示すようにハーフカット位置hでハーフカットして除去した。インジケータの残りの半分(比較例1)については、ろ紙のハーフカットは行なわなかった。
【0070】
(評価)
(1)濃度比R1およびR2、ならびに第1呈色成分の濃度の傾斜
二分割した他方の分割片について、ろ紙の部分をPETフィルムごと、ろ紙の配置されている側の端部から幅2mmの帯状に4分割し、端部から順に、第1サンプル、第2サンプル、第3サンプル、および第4サンプルとした。実施例1では、第1サンプルが第1エッジ部、第2サンプルが中央部、第3サンプルが第2エッジ部に相当する。比較例1では、第1サンプルが第1エッジ部に相当し、第4サンプルが第2エッジ部に相当する。比較例1では、中央部における各成分の濃度や吸光度は、第2サンプルと第3サンプルとにおける数値の平均値を用いた。
【0071】
そして、各サンプルから、第1呈色成分をイオン交換水で抽出し、各サンプルから得られた液体の質量が同じになるように、得られた液体を濃縮または希釈した。そして、各液体に、35質量%濃度の過酸化水素水0.1gを加えて呈色させた。なお、ここで加えた過酸化水素の量は、各液体に含まれるヨウ化物を全てヨウ素に変換することができる十分な量である。第1サンプル~第4サンプルから得られた液体を呈色させた液体を、それぞれ、サンプル1~サンプル4とし、350nmの吸光度を測定した。350nmは、デンプンに、過酸化水素によりヨウ化カリウムが酸化されることにより生成するヨウ素が取り込まれた成分に特徴的な吸収波長である。サンプル3の吸光度の、サンプル2の吸光度に対する比を求め、実施例1におけるR1比とした。また、サンプル2とサンプル3との吸光度の平均値を求め、この平均値に対するサンプル4の吸光度の比を求め、比較例1におけるR1比とした。実施例1のR1比は、1.40であり、比較例1のR1比は、3.69であった。
【0072】
実施例1について、サンプル1、サンプル2、およびサンプル3の350nmの吸光度は、それぞれ、0.030、0.035、および0.049であり、第1エッジ部から第2エッジ部に向かって吸光度(すなわち、第1呈色成分の濃度)が増加していた。なお、サンプル1~サンプル3の吸光度から既述の手順で算出した、各部における、ヨウ素が取り込まれたデンプンの濃度(つまり、生成したヨウ素の濃度)は、それぞれ、第1サンプル0.009質量%、第2サンプル0.010質量%、第3サンプル0.015質量%であった。
【0073】
(2)インジケータの検査精度
実施例1および比較例1のそれぞれについて、スリット状のインジケータのろ紙部分を、35質量%濃度の過酸化水素水溶液に浸漬し、引き上げた。
実施例1のインジケータでは、ろ紙部分全体がほぼ均一に呈色しており、過酸化水素水溶液が有効な濃度で過酸化水素を含むことが確認された。一方、比較例1のインジケータでは、過酸化水素水溶液への浸漬前に、第2エッジ部が、黄色く着色していた。また、比較例1のインジケータでは、過酸化水素水溶液に浸漬した後は、ろ紙の第2エッジ部およびその近傍が濃く呈色し、過酸化水素が有効濃度で含まれているのかどうかの判断がつきにくかった。
【0074】
<実施例2および比較例2>
還元剤としての亜硫酸ナトリウムを2質量%濃度で含む水溶液cを調製した。
ろ紙に、水溶液aおよび水溶液bに加えて、さらに水溶液cを滴下して、ろ紙全体に各溶液を行き渡らせた。これ以外は、実施例1および比較例1とそれぞれ同様にして、インジケータを作製し、評価を行なった。実施例2のR1比は、1.04であり、比較例2のR1比は、2.25であった。
【0075】
また、サンプル1~サンプル4につき、実施例1および比較例1の場合と同様にして、各部におけるヨウ素の濃度を求め、このヨウ素濃度を、実施例1および比較例1における各部において求めたヨウ素濃度から差し引くことで、各部における還元剤の濃度(質量%)を求めた。そして、実施例2および比較例2におけるR4比を求めたところ、実施例2のR4比は、0.92(≒1)であり、比較例2のR4比は、1.50であった。
【0076】
実施例2について、サンプル1、サンプル2、およびサンプル3の350nmの吸光度は、それぞれ、0.112、0.119、および0.124であり、第1エッジ部から第2エッジ部に向かって吸光度(すなわち、第1呈色成分の濃度)が増加していた。なお、サンプル1~サンプル3の吸光度から既述の手順で算出した、各部における、ヨウ素が取り込まれたデンプンの濃度(つまり、生成したヨウ素の濃度)は、それぞれ、第1サンプル0.035質量%、第2サンプル0.037質量%、第3サンプル0.086質量%であった。
【0077】
実施例2および比較例2のそれぞれについて、評価(2)を実施したところ、実施例2のインジケータでは、ろ紙部分全体がほぼ均一に呈色しており、過酸化水素水溶液が有効な濃度で過酸化水素を含むことが確認された。一方、比較例2のインジケータでは、ろ紙の第2エッジ部およびその近傍に白っぽい斑点が見られ、過酸化水素が有効濃度で含まれているかどうかの判断がつきにくかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本実施形態に係るインジケータでは、高い検査精度を確保することができる。そのため、インジケータは、酸化剤インジケータなどの各種対象成分の濃度を検査するための用途に適している。
【符号の説明】
【0079】
P:多孔質層、S:基材シート、E1:第1エッジ部、E2:第2エッジ部、C:中央部、B:帯状部、H:ハーフカット痕、h:ハーフカット位置
図1
図2
図3
図4
図5