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特許7191361産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助するための方法、産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法、及び産婦人科疾患の診断用キット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助するための方法、産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法、及び産婦人科疾患の診断用キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20221212BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20221212BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALI20221212BHJP
   C12N 9/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/573 A
C12Q1/00
C12N9/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018152478
(22)【出願日】2018-08-13
(65)【公開番号】P2020027052
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】水野 由美
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健
(72)【発明者】
【氏名】田丸 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】三井 智美
(72)【発明者】
【氏名】栗▲崎▼ 智美
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0295803(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0251718(US,A1)
【文献】RUAN, H.-Y. et al.,Downregulation of ACSM3 promotes metastasis and predicts poor prognosis in hepatocellular carcinoma,Am J Cancer Res,2017年,Vol.7, No.3,p.543-553
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/68
G01N 33/573
C12Q 1/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体由来の試料における中鎖アシル補酵素A合成酵素3(ACSM3)及び中鎖アシル補酵素A合成酵素5(ACSM5)の少なくともいずれかの量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性に関する医師による判定を補助するための指標として提供する提供工程とを含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助するための方法。
【請求項2】
前記提供工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量以上の場合及びACSM5の量が同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記提供工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が多い場合及びACSM5の量が少ない場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記提供工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量の場合及びACSM5の量が同量の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体由来の試料が、子宮内膜組織、子宮内膜間質細胞、及び子宮内腔液からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記産婦人科疾患が、不妊症及び習慣性流産のいずれかである請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
更に、前記被験体由来の脱落膜化した試料におけるIGFBP1の量を、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性に関する医師による判定を補助するための指標として提供する工程を含む請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
被験体由来の試料における中鎖アシル補酵素A合成酵素3(ACSM3)及び中鎖アシル補酵素A合成酵素5(ACSM5)の少なくともいずれかの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法。
【請求項9】
更に、前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を参照量と比較する比較工程を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記比較工程における参照量が、脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量以上の場合及びACSM5の量が同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記比較工程における参照量が、産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が多い場合及びACSM5の量が少ない場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記比較工程における参照量が、産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量の場合及びACSM5の量が同量の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記被験体由来の試料が、子宮内膜組織、子宮内膜間質細胞、及び子宮内腔液からなる群から選択される少なくとも1種である請求項8から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記産婦人科疾患が、不妊症及び習慣性流産のいずれかである請求項8から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
更に、前記被験体由来の脱落膜化した試料におけるIGFBP1の量を測定する工程を含む請求項8から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
中鎖アシル補酵素A合成酵素3(ACSM3)遺伝子検出用プライマーセット、中鎖アシル補酵素A合成酵素5(ACSM5)遺伝子検出用プライマーセット、ACSM3タンパク質検出用抗体、及びACSM5タンパク質検出用抗体からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする産婦人科疾患の診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法、産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法、及び産婦人科疾患の診断用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生殖補助医療の発達により、良好胚の選択が可能になり、多くの不妊症カップルの妊娠・出産が可能となった。しかし、良好胚を移植しても着床・妊娠に至らない着床不全と考えられる症例や、うまく着床しても流産を繰り返す習慣性流産とみられる症例が多く存在している。これらのような症例を明確に診断できる診断マーカーや直接的に治療する方法は確立されていないのが現状である。
【0003】
脱落膜は妊娠の成立に伴い変化し、妊娠の終結に伴い胎盤とともに剥脱する子宮内膜組織の一部と定義される。子宮内膜間質細胞が妊卵の着床に伴い形態学的及び機能的に分化する過程を脱落膜化といい、この分化過程は絨毛細胞の浸潤の制御、さらには胎盤形成に重要な役割を果たしている。着床不全や習慣性流産等の産婦人科疾患には、この脱落膜化過程での異常が関わっていると考えられるが、その詳細な発症メカニズムに関してはまだ解明されていない。
【0004】
これまでに、着床前期胚の正常な発育には、中鎖脂肪酸であるオクタン酸が必要であることが報告されている(非特許文献1参照)。この報告では、胚培養に使う培地中の中鎖脂肪酸の有無が胚発生の進行・停止に関わることが示されている。
しかしながら、生体内において胚への中鎖脂肪酸の供給が、どこからどのように行われているのかは不明である。
【0005】
以上のように、着床不全や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の発症メカニズムは未だ解明されておらず、また、それらの疾患の診断に有用な方法も未だ提供されていないのが現状であり、産婦人科疾患の診断に有用な方法の速やかな提供が強く求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Scientific Reports volume 2, Article number: 930 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、産婦人科疾患の罹患可能性を判定することができる産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法、産婦人科疾患の罹患可能性の診断に有用なデータを収集することができる産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法、及び産婦人科疾患の診断に用いることができる産婦人科疾患の診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、複数存在する中鎖脂肪酸合成酵素のうち、中鎖アシル補酵素A合成酵素3(acyl-CoA synthetase medium chain family member3:ACSM3)及び中鎖アシル補酵素A合成酵素5(acyl-CoA synthetase medium chain family member5:ACSM5)が子宮内膜間質細胞において発現していること、並びにこれらの発現量が、脱落膜化していない子宮内膜間質細胞と、脱落膜化した子宮内膜間質細胞とで有意に異なることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を指標として、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性の判定を補助する判定補助工程とを含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法である。
<2> 被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法である。
<3> ACSM3遺伝子検出用プライマーセット、ACSM5遺伝子検出用プライマーセット、ACSM3タンパク質検出用抗体、及びACSM5タンパク質検出用抗体からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする産婦人科疾患の診断用キットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、産婦人科疾患の罹患可能性を判定することができる産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法、産婦人科疾患の罹患可能性の診断に有用なデータを収集することができる産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法、及び産婦人科疾患の診断に用いることができる産婦人科疾患の診断用キットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、試験例1において脱落膜化処理を行っていない対照の細胞の一例を示す図である。
図1B図1Bは、試験例1において脱落膜化処理を行った細胞の一例を示す図である。
図1C図1Cは、試験例1において、定量PCRによりIGFBP1の発現量を測定した結果を示す図である。
図1D図1Dは、試験例1において、定量PCRによりPRLの発現量を測定した結果を示す図である。
図1E図1Eは、試験例1において、定量PCRによりWNT4の発現量を測定した結果を示す図である。
図2A図2Aは、試験例2において、定量PCRによりACSM3の発現量を測定した結果を示す図である。
図2B図2Bは、試験例2において、定量PCRによりACSM5の発現量を測定した結果を示す図である。
図3A図3Aは、試験例3において、IGFBP1の発現量を比較した結果を示す図である。
図3B図3Bは、試験例3において、ACSM3の発現量を比較した結果を示す図である。
図3C図3Cは、試験例3において、ACSM5の発現量を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法)
本発明の産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法(以下、「判定補助方法」と称することがある。)は、測定工程と、判定補助工程とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0013】
<測定工程>
前記判定補助方法における測定工程は、被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する工程である。
【0014】
-被験体由来の試料-
前記被験体としては、産婦人科疾患に罹患しているか否か不明な被験体が挙げられる。
前記被験体の種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどが挙げられるが、これらの中でも、ヒトが特に好ましい。
【0015】
前記被験体由来の試料としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、子宮内膜組織、子宮内膜間質細胞、及び子宮内腔液からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記試料は、脱落膜化した状態の被験体由来のものが好ましい。
前記被験体由来の試料の調製方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
前記試料は、更にRNA調製処理、cDNA調製処理、タンパク質調製処理などが施されてもよい。
【0016】
-ACSM3-
前記ACSM3は、中鎖脂肪酸合成酵素の1つである。前記ACSM3遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列は、GenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、ヒトACSM3遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列は、NCBIにおいて、NM_005622、NM_202000で登録されている。前記ACSM3にはアイソフォームが存在するが、前記測定工程ではいずれのアイソフォームを測定してもよい。
【0017】
-ACSM5-
前記ACSM3は、中鎖脂肪酸合成酵素の1つである。前記ACSM5遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列は、GenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、ヒトACSM5遺伝子の塩基配列やアミノ酸配列は、NCBIにおいて、NM_001324371、NM_001324372、NM_001324373、NM_017888で登録されている。前記ACSM5にはアイソフォームが存在するが、前記測定工程ではいずれのアイソフォームを測定してもよい。
【0018】
-測定-
前記被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、mRNAの量を測定する態様、タンパク質の量を測定する態様などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記mRNAの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、PCR法などが挙げられる。
【0020】
前記PCR法の具体例としては、前記試料から抽出したトータルRNAからcDNAを調製し、定量PCRにより測定する方法などが挙げられる。
前記定量PCRでは、測定したデータから、デルタデルタcT法により、GAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)やβ-アクチン等の内在性コントロール遺伝子の発現量と目的遺伝子の発現量の比により、mRNAの量を算出することができる。
前記定量PCRに用いるプライマーセットとしては、対象とする遺伝子の塩基配列を増幅することができるものであれば、特に制限はなく、適宜設計したものや市販品を用いることができ、例えば、後述する実施例の項目に記載のプライマーセットなどが挙げられる。
【0021】
前記タンパク質の量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、免疫学的測定法、質量分析法などが挙げられる。
【0022】
前記免疫学的測定法の具体例としては、ELISA法、EIA法、RIA法、ウェスタンブロット法、免疫組織化学染色法、フローサイトメトリーなどが挙げられる。
前記免疫学的測定法に用いる抗体としては、対象とするタンパク質を検出することができるものであれば、特に制限はなく、公知の方法により調製したものや市販品を用いることができ、例えば、ACSM3の抗体としては「Proteintech;10168-2-AP」、ACSM5の抗体としては「Proteintec;16591-1-AP」などが挙げられる。前記抗体は、必要に応じて蛍光物質の標識などを含んでいてもよい。また、前記抗体の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などが挙げられる。
【0023】
<判定補助工程>
前記判定補助工程は、前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を指標(以下、「基準」と称することもある。)として、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性の判定を補助する工程である。
【0024】
後述する実施例の項目で示すように、ACSM3及びACSM5は脱落膜化によって発現量が変動する。したがって、被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を指標とすることで、被験体が産婦人科疾患に罹患する可能性があるか否か(罹患しているか否かを含む)の判定を補助することができる。
前記指標は、ACSM3の量及びACSM5の量のいずれか一方を用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0025】
-参照量と比較する処理-
前記判定補助工程は、参照量と比較する処理を含むことが好ましい。
【0026】
前記参照量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(I)脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量、(II)産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量、(III)産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量などが挙げられる。
【0027】
前記処理では、前記参照量が(I)脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量の場合には、(i)前記測定工程で測定されたACSM3の量が前記対照由来の試料におけるACSM3の量と同量以上の場合、及び(ii)前記測定工程で測定されたACSM5の量が前記対照由来の試料におけるACSM5の量と同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする。
前記脱落膜化していない対照は、前記被験体と同一の個体であってもよいし、異なる個体であってもよいが、同一の個体が好ましい。
【0028】
また、前記参照量が(II)産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量の場合には、(iii)前記測定工程で測定されたACSM3の量が前記対照由来の試料におけるACSM3の量より多い場合、及び(iv)前記測定工程で測定されたACSM5の量が前記対照由来の試料におけるACSM5の量より少ない場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする。
前記産婦人科疾患に罹患していない対照は、脱落膜化した状態のものであってもよいし、脱落膜化していない状態のものであってもよいが、脱落膜化した状態のものが好ましい。
【0029】
また、前記参照量が(III)産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量の場合には、(v)前記測定工程で測定されたACSM3の量が前記対照由来の試料におけるACSM3の量と同量の場合、及び(vi)前記測定工程で測定されたACSM5の量が前記対照由来の試料におけるACSM5の量と同量の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする。
前記産婦人科疾患に罹患している対照は、脱落膜化した状態のものであってもよいし、脱落膜化していない状態のものであってもよいが、脱落膜化した状態のものが好ましい。
【0030】
前記参照量は、前記判定補助方法を実施する際に測定したものを用いてもよいし、予め測定したものを用いてもよい。
【0031】
-産婦人科疾患-
前記産婦人科疾患とは、産婦人科領域の疾患をいう。前記産婦人科疾患としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不妊症、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、習慣性流産、子宮内膜症、子宮体癌などが挙げられる。
前記不妊症としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、着床不全(「着床障害」と称することもある。)などが挙げられる。
これらの中でも、本発明の方法は不妊症、習慣性流産に好適に用いることができ、着床不全、習慣性流産により好適に用いることができる。
【0032】
<その他の工程>
前記判定補助方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試料調製工程などが挙げられる。
【0033】
<<試料調製工程>>
前記判定補助方法における試料調製工程は、前記被験体由来の試料を調製する工程であり、試料の種類に応じて、公知の方法を適宜選択することができる。
【0034】
本発明の判定補助方法は、前記ACSM3及びACSM5以外の遺伝子の前記被験体由来の試料における量と組み合わせて行ってもよい。
【0035】
本発明の判定補助方法によれば、着床不全や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の罹患可能性を簡易に精度高く判定することを補助することができる。
【0036】
(産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法)
本発明の産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法(以下、「データ収集方法」と称することがある。)は、測定工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0037】
<測定工程>
前記データ収集方法における測定工程は、被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する工程であり、上記した本発明の判定補助方法における測定工程と同様にして行うことができる。
【0038】
<その他の工程>
前記データ収集方法における前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、比較工程、試料調製工程などが挙げられる。
【0039】
<<比較工程>>
前記比較工程は、前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を参照量と比較する工程であり、上記した本発明の判定補助方法における判定補助工程の参照量と比較する処理と同様にして行うことができる。
【0040】
<<試料調製工程>>
前記データ収集方法における試料調製工程は、被験体由来の試料を調製する工程であり、上記した本発明の判定補助方法における試料調製工程と同様にして行うことができる。
【0041】
本発明のデータ収集方法は、前記ACSM3及びACSM5以外の遺伝子の前記被験体由来の試料における量の測定と組み合わせて行ってもよい。
【0042】
本発明のデータ収集方法によれば、着床不全や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の罹患可能性を簡易に精度高く診断するために有用なデータを収集することができる。
【0043】
(産婦人科疾患の診断用キット)
本発明の産婦人科疾患の診断用キットは、ACSM3遺伝子検出用プライマーセット、ACSM5遺伝子検出用プライマーセット、ACSM3タンパク質検出用抗体、及びACSM5タンパク質検出用抗体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0044】
<産婦人科疾患>
前記産婦人科疾患は、上記した本発明の判定補助方法における判定補助工程の項目に記載したものと同様のものが挙げられる。
【0045】
<ACSM3遺伝子検出用プライマーセット>
前記ACSM3遺伝子検出用プライマーセットとしては、ACSM3遺伝子の塩基配列を増幅することができるものであれば、特に制限はなく、適宜設計したものや市販品を用いることができ、例えば、以下のプライマーセットなどが挙げられる。
・ フォワードプライマー : 5’-CGGATTGTCAGACTGCTCCT-3’(配列番号11)
・ リバースプライマー : 5’-GCACTCAGGATTTGCACAGA-3’(配列番号12)
【0046】
<ACSM5遺伝子検出用プライマーセット>
前記ACSM5遺伝子検出用プライマーセットとしては、ACSM5遺伝子の塩基配列を増幅することができるものであれば、特に制限はなく、適宜設計したものや市販品を用いることができ、例えば、以下のプライマーセットなどが挙げられる。
・ フォワードプライマー : 5’-CATCAGGGGAGAGGTGGTAA-3’(配列番号15)
・ リバースプライマー : 5’-GGAGCAGTCACCCTTTTCAC-3’(配列番号16)
【0047】
<ACSM3タンパク質検出用抗体>
前記ACSM3タンパク質検出用抗体としては、ACSM3タンパク質を検出することができるものであれば、特に制限はなく、適宜調製したものや市販品を用いることができ例えば、「Proteintech;10168-2-AP」などが挙げられる。
【0048】
<ACSM5タンパク質検出用抗体>
前記ACSM5タンパク質検出用抗体としては、ACSM5タンパク質を検出することができるものであれば、特に制限はなく、適宜調製したものや市販品を用いることができ例えば、「Proteintec;16591-1-AP」などが挙げられる。
【0049】
前記各抗体は、必要に応じて蛍光物質の標識などを含んでいてもよい。また、前記各抗体の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などが挙げられる。
【0050】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法に用いる試薬、免疫学的測定法に用いる試薬、キットの取扱説明書、産婦人科疾患を診断するための説明書等の添付文書などが挙げられる。
【0051】
本発明の産婦人科疾患の診断用キットによれば、着床不全や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の罹患可能性を簡易に精度高く診断することができる。
【実施例
【0052】
以下に本発明の試験例等を説明するが、本発明は、これらの試験例等に何ら限定されるものではない。
【0053】
(調製例1)
<ヒト子宮内膜組織の採取>
ヒト子宮内膜組織は、埼玉医科大学病院IRBの承認を受け、採取した。採取は、埼玉医科大学病院にて子宮全摘出を受ける良性疾患の患者で、ホルモン治療を受けていない症例を対象として行った。採取した子宮内膜組織は、下記組成の継代用培養液に直ちに入れた。
[継代用培養液組成]
・ D-MEM/F-12(ナカライテスク) ・・・ 500mL
・ ウシ胎児血清(Dextran Coated Charcoal(DCC) treated FBS) ・・・ 50mL
・ Antibiotic-Antimycotic×100(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5mL
・ L-グルタミン×100(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5mL
・ 10mg/mL インスリン(SigmaI1882) ・・・ 100μL
・ 10-4M β-エストラジオール(Sigma E2758) ・・・ 10μL
【0054】
<ヒト子宮内膜間質細胞の分離・培養>
前記ヒト子宮内膜組織を前記継代用培養液から取り出し、メスで細かく刻んだ。
培養用フラスコに、DNaseIとコラゲナーゼIaが入ったFBS不含培養液(下記組成参照)を用意し、刻んだヒト子宮内膜組織を入れ、37℃のCOインキュベーターに60分置いた。なお、途中、2回ほど激しく振って細胞が均一に別れるようにした。
次いで、100μmのナイロンメッシュでろ過した。
その後、1000rpmで5分間遠心分離した。
分離したヒト子宮内膜間質細胞(以下、「子宮内膜細胞」と称することがある。)は、前記継代用培養液が入った培養フラスコにて培養した。
[FBS不含培養液組成]
・ D-MEM/F-12(ナカライテスク) ・・・ 500mL
・ Antibiotic-Antimycotic×100(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5mL
・ 10mg/mL DNaseI(Sigma D5025) ・・・ 100μL
・ 50mg/mL コラゲナーゼIa(Sigma C2674) ・・・ 100μL
【0055】
(試験例1)
<子宮内膜細胞の脱落膜化>
継代した子宮内膜細胞の培養液を下記組成の脱落膜化用培養液に交換して、3日間又は6日間培養し、脱落膜化処理を行った。なお、6日間培養した場合は、培養開始から3日目に培地交換を行った。
また、下記脱落膜化用培養液組成からbr-cAMP及びメドロキシプロゲステロンを除いた培養液を用いて培養したものを対照とした。
[脱落膜化用培養液組成]
・ D-MEM/F-12(ナカライテスク) ・・・ 500mL
・ ウシ胎児血清(Dextran Coated Charcoal(DCC) treated FBS) ・・・ 10mL
・ Antibiotic-Antimycotic×100(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5mL
・ L-グルタミン×100(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5mL
・ 100mM 8br-cAMP(Sigma B7880) ・・・ 培養液総量の1/200
・ 10-2M メドロキシプロゲステロン(MPA)(Sigma M1629) ・・・ 培養液総量の/1,000
【0056】
<<脱落膜化の確認>>
-形態学的評価-
顕微鏡(ニコンTS-100)を用いて培養した細胞を観察した。脱落膜化処理を行っていない対照の細胞の一例を図1Aに示し、脱落膜化処理を行った細胞の一例を図1Bに示す。
図1A及び1Bから、8br-cAMP及びMPA刺激により、使用したヒト子宮内膜細胞が確かに脱落膜化したことが形態学的に確認された。
【0057】
-脱落膜化マーカーの発現量による評価-
既知の脱落膜化マーカーであるインスリン様増殖因子結合たん白質1(IGFBP1)、プロラクチン(PRL)及びWNT4(Wnt family member 4)のmRNAの発現量を、定量PCR法を用い、以下のようにして測定した。
【0058】
--トータルRNAの抽出--
培養液を除いた後、miRNeasy mini kit(キアゲン社)に付属のQIAzol Lysis Reagentにて培養した細胞を融解した。次いで、miRNeasy mini kitの説明書の記載に従って、トータルRNAを抽出した。
【0059】
--cDNA合成--
抽出したトータルRNAの濃度をNano Dropにて測定した。トータルRNA 1μgに対しOligo dT12-18Primer(ThermoFisher Scientific, 18418012) 1μL、10mM dNTP(TAKARA) 1μLを入れ、滅菌水で総量を10μLにした。70℃で5分間置いた後、4℃まで温度を下げた。BioScript(Bioline, BIO-27036)に付属の5×Reaction buffer 4μL、BioScript Reverse Transcriptaseを1μL、RNase Inhibitor(TAKARA) 1μL、及び滅菌水 4μLを加えて、42℃で30分間、次いで85℃で10分間置いた後、4℃に温度を下げた。
得られたcDNAは、5ng/μLに濃度を調節した。
【0060】
--定量PCR--
下記組成の反応液をマイクロプレートに入れ、PikoReal96 Real-time PCR system(ThermoFisher Scientific)を用い、下記プログラムでPCRを行い、各遺伝子の発現量を測定した。
測定したデータは、デルタデルタcT法により、GAPDHの発現量と目的遺伝子の発現量の比により計算した。結果を図1C~1Eに示す。
[反応液組成]
・ cDNA(5ng/μL) ・・・ 2.5μL
・ フォワードプライマー(1μM) ・・・ 1.0μL
・ リバースプライマー(1μM) ・・・ 1.0μL
・ PowerUP Syber Green(ThermoFisher Scientific) ・・・ 5.0μL
・ DNase-RNase free Water ・・・ 0.5μL
[プログラム]
・ 50℃、2分 → 95℃、2分 → 「95℃、15秒 → 60℃、1分」を40サイクル
・ Ramp rate 1.6℃/秒
[プライマー]
・ IGFBP1
フォワードプライマー : 5’-CTGCGTGCAGGAGTCTGA-3’(配列番号1)
リバースプライマー : 5’-CCCAAAGGATGGAATGATCC-3’(配列番号2)
・ PRL
フォワードプライマー : 5’-CTACATCCATAACCTCTCCTCA-3’(配列番号3)
リバースプライマー : 5’-GGGCTTGCTCCTTGTCTTC-3’(配列番号4)
・ WNT4
フォワードプライマー : 5’-CATGCAACAAGACGTCCAAG-3’(配列番号5)
リバースプライマー : 5’-AAGCAGCACCAGTGGAATTT-3’(配列番号6)
・ GAPDH
フォワードプライマー : 5’-CGACCACTTTGTCAAGCTCA-3’(配列番号7)
リバースプライマー : 5’-AGGGGTCTACATGGCAACTG-3’(配列番号8)
【0061】
図1C~1Eは、それぞれIGFBP1、PRL、WNT4の発現量を測定した結果を示す。各図中、「CTL」は脱落膜化処理を行っていない対照の細胞を示し、「8-br-cAMP/MPA」は脱落膜化処理を行った細胞を示し、「**」はp<0.01を示し、「***」はp<0.001を示す。
図1C~1Eから、対照と比べて、8br-cAMP及びMPA刺激を行った細胞では、既知の脱落膜化マーカーであるIGFBP1、PRL及びWNT4の発現量が有意に上昇しており、定量PCRによっても、使用したヒト子宮内膜細胞が確かに脱落膜化したこと確認された。
【0062】
(試験例2)
胚の正常な発生にはオクタン酸が必要であることが知られている(Scientific Reports volume 2, Article number: 930 (2012))。
オクタン酸は中鎖脂肪酸の1種であることから、試験例1で得られた脱落膜化処理を行った細胞及び脱落膜化処理を行っていない対照の細胞における中鎖脂肪酸合成酵素をコードする遺伝子の発現量を定量PCRにて測定した。
測定した中鎖脂肪酸合成酵素は、ACSM2A、ACSM3、ACSM4及びACSM5であり、定量PCRは下記プライマーを用いた以外は試験例1と同様にして行った。結果を図2A及び2Bに示す。
[プライマー]
・ ACSM2A
フォワードプライマー : 5’-ACTGGGCTGACATGGAGAAG-3’(配列番号9)
リバースプライマー : 5’-CTGCTGGCTGTTTTCACTCA-3’(配列番号10)
・ ACSM3
フォワードプライマー : 5’-CGGATTGTCAGACTGCTCCT-3’(配列番号11)
リバースプライマー : 5’-GCACTCAGGATTTGCACAGA-3’(配列番号12)
・ ACSM4
フォワードプライマー : 5’-GCGGTGGAGTCCATTGTATT-3’(配列番号13)
リバースプライマー : 5’-TGGTCCCACTGGTGAAATAA-3’(配列番号14)
・ ACSM5
フォワードプライマー : 5’-CATCAGGGGAGAGGTGGTAA-3’(配列番号15)
リバースプライマー : 5’-GGAGCAGTCACCCTTTTCAC-3’(配列番号16)
【0063】
図2A及び2Bは、それぞれACSM3、ACSM5の発現量を測定した結果を示す。各図中、「CTL1」は脱落膜化処理を行っていない対照の細胞を示し、「8-br-cAMP/MPA」は脱落膜化処理を行った細胞を示し、「*」はp<0.05を示す。
図2A及び2Bから、中鎖脂肪酸合成酵素のうち、ACSM3とACSM5が脱落膜化によって発現が変動することがわかった。また、ACSM3は脱落膜化により発現量が低下し、一方、ACSM5は脱落膜化により発現量が上昇していた。
ACSM2AとACSM4は、脱落膜化の有無に関わらず、ヒト子宮内膜細胞での発現は見られなかった。
【0064】
(試験例3)
試験例1で示したように、IGFBP1は脱落膜化に伴い発現量が上昇する遺伝子である。このIGFBP1の脱落膜化における役割は明確ではないが、その発現量には個体差があることが知られている。また、IGFBP1の発現量が低値の場合には、着床不全を含む不妊症や習慣性流産等が生じる傾向にあることも知られている。
そこで、試験例1の脱落膜化処理された細胞において、IGFBP1の発現量が高値であった検体1と、IGFBP1の発現量が低値であった検体2のそれぞれにおけるACSM3とACSM5の発現量を比較した。結果を図3A~3Cに示す。
【0065】
図3Aは、IGFBP1の発現量を比較した結果を示し、図3B及び3Cは、それぞれACSM3、ACSM5の発現量を比較した結果を示す。各図中、黒の棒グラフはIGFBP1の発現量が高値であった検体1の結果を示し、白の棒グラフは発現量が低値であった検体2の結果を示し、「CTL」は脱落膜化処理を行っていない対照の細胞を示し、「8-br-cAMP/MPA」は脱落膜化処理を行った細胞を示す。
図3A~3Cの結果から、試験例2において脱落膜化によって発現量が低下することが確認されたIGFBP1の発現量と逆相関を示すACSM3は、IGFBP1が高値の検体1では、IGFBP1が低値の検体2よりも低い発現量となっており、関連が見られた。また、試験例2において脱落膜化によって発現量が亢進することが確認されたIGFBP1の発現量と相関を示すACSM5は、IGFBP1が高値の検体1では、IGFBP1が低値の検体2よりも高い発現量となっており、こちらも関連が見られた。
以上のように、IGFBP1の発現量が低値であり、着床不全が生じる傾向にあると考えられる検体2では、着床不全が生じる傾向にないと考えられる検体1と比べて、ACSM3の発現量が多く、またACSM5の発現量が少ないことが確認された。
【0066】
以上の結果から、ACSM3及びACSM5は、着床障害や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の患者で異常値が出ると想定される。そのため、被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定することで、産婦人科疾患の罹患可能性を診断するために有用なデータを収集したり、ACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を指標とすることで、産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助したりすることが可能となると考えられる。
また、これまでの脱落膜化マーカーと異なる点として、ACSM5は胚へ供給されるオクタン酸の合成、ACSM3は胚の着床に関わる細胞の遊走能という着床に対する直接的な役割が想定されるため、着床障害や習慣性流産等を含む産婦人科疾患の明確な診断に繋げられることが可能と考えられる。また、ACSM5やACSM3は治療標的の因子となり得るとも考えられる。
【0067】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を指標として、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性の判定を補助する判定補助工程とを含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性の判定を補助する方法である。
<2> 前記判定補助工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量以上の場合及びACSM5の量が同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<1>に記載の方法である。
<3> 前記判定補助工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が多い場合及びACSM5の量が少ない場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<1>に記載の方法である。
<4> 前記判定補助工程が参照量と比較する処理を含み、
前記参照量が、産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量の場合及びACSM5の量が同量の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<1>に記載の方法である。
<5> 前記被験体由来の試料が、子宮内膜組織、子宮内膜間質細胞、及び子宮内腔液からなる群から選択される少なくとも1種である前記<1>から<4>のいずれかに記載の方法である。
<6> 前記産婦人科疾患が、不妊症及び習慣性流産のいずれかである前記<1>から<5>のいずれかに記載の方法である。
<7> 被験体由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする産婦人科疾患の罹患可能性を診断するためのデータを収集する方法である。
<8> 更に、前記測定工程で測定されたACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量を参照量と比較する比較工程を含む前記<7>に記載の方法である。
<9> 前記比較工程における参照量が、脱落膜化していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量以上の場合及びACSM5の量が同量以下の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<8>に記載の方法である。
<10> 前記比較工程における参照量が、産婦人科疾患に罹患していない対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が多い場合及びACSM5の量が少ない場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<8>に記載の方法である。
<11> 前記比較工程における参照量が、産婦人科疾患に罹患している対照由来の試料におけるACSM3及びACSM5の少なくともいずれかの量であり、
前記参照量と比較して、ACSM3の量が同量の場合及びACSM5の量が同量の場合の少なくともいずれかの場合に、被験体の産婦人科疾患への罹患可能性が高いとする工程である前記<8>に記載の方法である。
<12> 前前記被験体由来の試料が、子宮内膜組織、子宮内膜間質細胞、及び子宮内腔液からなる群から選択される少なくとも1種である前記<7>から<11>のいずれかに記載の方法である。
<13> 前記産婦人科疾患が、不妊症及び習慣性流産のいずれかである前記<7>から<12>のいずれかに記載の方法である。
<14> ACSM3遺伝子検出用プライマーセット、ACSM5遺伝子検出用プライマーセット、ACSM3タンパク質検出用抗体、及びACSM5タンパク質検出用抗体からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする産婦人科疾患の診断用キットである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
【配列表】
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