(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】金属・誘電体・金属の3層構造を有する光変調構造体、その製造方法及び用途
(51)【国際特許分類】
G01L 1/24 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
G01L1/24 Z
(21)【出願番号】P 2018234473
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人応用物理学会、2018年第79回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,03-430頁,平成30年9月5日発行 (2)2018年第79回応用物理学会秋季学術講演会、平成30年9月18~21日開催 (3)2018(平成30)年11月5日掲載、https://www.i-product.biz/mnc2018/download/ (4)MNC 2018,November 13-16,2018/31st International Microprocesses and Nanotechnology Conference(第31回マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議)、2018年11月13~16日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】金森 義明
(72)【発明者】
【氏名】羽根 一博
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-126303(JP,A)
【文献】特許第5854350(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板上の導電体層(第1導電体層)が誘電体層を介して第2の基板上の導電体層(第2導電体層)と対向し、前記誘電体層の厚みが外力により変化する構造を有し
、
第1導電体層及び第2導電体層の片方または両方が、表面プラズモンが発現する厚みを有する導電体格子層である、光変調構造体。
【請求項2】
前記誘電体層の一部または全てが、気体層、液体層または外力により変形可能な固体層である請求項
1に記載の光変調構造体。
【請求項3】
前記誘電体層の一部または全てが空気層である請求項1
又は2に記載の光変調構造体。
【請求項4】
前記導電体層の導電体が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、及び遷移金属系窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~
3のいずれかに記載の光変調構造体。
【請求項5】
前記導電体が、金(Au)またはアルミニウム(Al)である請求項
4に記載の光変調構造体。
【請求項6】
第1導電体層または第2導電体層が、基板にバネ構造で支持されている請求項1~
5のいずれかに記載の光変調構造体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)基板上に導電体を格子状に配置した導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)基板上に導電体とスペーサ材料を形成し、次いでフォトリソグラフィ、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、CVD法及びエッチング法からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法によりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)透明基板上に導電体層と透明誘電体層をこの順に成膜した後、導電体格子のパターニングを行い、次いでドライエ
ッチングして透明基板上に表面プラズモンが発現する厚みの導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)透明基板上に導電体層とスペーサ材料のフォトレジスト樹脂層をこの順に積層し、次いでフォトリソグラフィによりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
【請求項9】
導電体がアルミニウム(Al)であり、透明誘電体層がSiO
2層である請求項
8に記載の光変調構造体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)ウェハ上にレジストを格子状にパターニングし、その上にクロム(Cr)と金(Au)をこの順に積層し、レジストを除去してAu格子層(Auドット層)を有する第1構造体を作成する工程、(2)SiO
2ウェハ上にCrとAuとCrをこの順に積層し、その上の周辺部にレジストを積層し、次いでCrエッチングとレジスト樹脂の除去によりAu層を有する第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体のAu格子層(Auドット層)と前記第2構造体のAu層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれかに記載の光変調構造体を用いた装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、誘電体及び金属(金属・誘電体・金属と略記)の3層構造を有する光メタマテリアル(光変調構造体)に関する。さらに詳しく言えば、金属・誘電体・金属の3層構造を有し、誘電体層の厚みが可動性である(外力により変化する)光変調構造体、その製造方法及び光構造体の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
光メタマテリアルとは、光を含む電磁波に対して自然界には存在しない特性を示す微小人工構造物を言う。微小な金属構造物に光を当てると、光の電場により金属表面の電子が振動する。このとき電子の振動と共振する波長の光は金属構造体に吸収される。この現象(表面プラズモン共鳴)で吸収される光の波長は微小金属構造の形状によって変化する。
【0003】
金属(Metal)、誘電体(Insulator)及び金属(Metal)の3層からなるメタマテリアル(以下、MIMメタマテリアルと略記)は表面プラズモン共振波長(以下、単に共振波長)において優れた波長選択吸収体として機能することが知られている。共振波長は、誘電体の厚さ、誘電率、金属微細周期構造体の形状や周期によって、可視、近赤外、赤外、テラヘルツ、マイクロ波に及ぶ広範囲の任意の波長で設計することができる。
【0004】
また、微小金属構造体と金属膜を上下にして、その間に誘電体からなる誘電体層(ギャップ)を介して配置すると、そのギャップの厚み(距離)に応じて共振する波長が変化することが知られている(High performance optical absorber based on a plasmonic metamaterial, Appl. Phys. Lett. Vol.96, (2010), 251104;非特許文献1)。
誘電体層(ギャップ)の厚みの変化に応じて光学特性が変化する同様の構造として、誘電体層(ギャップ)を介して光学的平面ガラスが対向する構造の多重反射による干渉を用いたファブリ・ペロー干渉計が知られている。ファブリ・ペロー干渉計では、共振波長が光路差に依存し、垂直入射の場合1nmのギャップ変化に対し、共振波長は2nm変化する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】High performance optical absorber based on a plasmonic metamaterial, Appl. Phys. Lett. Vol.96, (2010), 251104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ファブリ・ペロー干渉と比べ誘電体層の厚み(ギャップ)に対する感度が高く、圧力センサや変位センサなどに応用できる、金属・誘電体・金属の3層構造を有する光メタマテリアル(光変調構造体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、金属微小構造と金属薄膜とのギャップを外力によって変化させることができるエアギャップ構造をもつ光メタマテリアルについて、エアギャップ構造をもつ光メタマテリアルを構成する金属(金及びアルミニウム)微小構造の設計をRCWA法でシミュレーションにより行い、これに基づき金(Au)及びアルミニウム(Al)の微小構造体(Au及びAlロッドアレイ)及びギャップ構造を持つ光変調構造体の製作を行い、金属微小構造と金属薄膜のギャップ変化による構造体の共振波長の変化を実験的に確認して本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の光変調構造体、光変調構造体の製造方法、及び光変調構造体を用いた装置に関する。
[1] 第1の基板上の導電体層(第1導電体層)が誘電体層を介して第2の基板上の導電体層(第2導電体層))と対向し、前記誘電体層の厚みが外力により変化する構造を有することを特徴とする光変調構造体。
[2] 第1導電体層及び第2導電体層の片方または両方が、表面プラズモンが発現する厚みを有する導電体格子層である前項1に記載の光変調構造体。
[3] 前記誘電体層の一部または全てが、気体層、液体層または外力により変形可能な固体層である前項1または2に記載の光変調構造体。
[4] 前記誘電体層の一部または全てが空気層である前項1~3のいずれかに記載の光変調構造体。
[5] 前記導電体層の導電体が、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、及び遷移金属系窒化物からなる群から選択される少なくとも1種である前項1~4のいずれかに記載の光変調構造体。
[6]前記導電体が、金(Au)またはアルミニウム(Al)である前項5に記載の光変調構造体。
[7] 第1導電体層または第2導電体層が、基板にバネ構造で支持されている前項1~6のいずれかに記載の光変調構造体。
[8] 前項1~7のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)基板上に導電体を格子状に配置した導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)基板上に導電体とスペーサ材料を形成し、次いでフォトリソグラフィ、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、CVD法及びエッチング法からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法によりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
[9] 前項1~7のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)透明基板上に導電体層と透明誘電体層をこの順に成膜した後、導電体格子のパターニングを行い、次いでドライエチングして透明基板上に表面プラズモンが発現する厚みの導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)透明基板上に導電体層とスペーサ材料のフォトレジスト樹脂層をこの順に積層し、次いでフォトリソグラフィによりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層(導電体ドット層)と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
[10] 導電体がアルミニウム(Al)であり、透明誘電体層がSiO2層である前項9に記載の光変調構造体の製造方法。
[11] 前項1~7のいずれかに記載の光変調構造体の製造方法であって、(1)ウェハ上にレジストを格子状にパターニングし、その上にクロム(Cr)と金(Au)をこの順に積層し、レジストを除去してAu格子層(Auドット層)を有する第1構造体を作成する工程、(2)SiO2ウェハ上にCrとAuとCrをこの順に積層し、その上の周辺部にレジストを積層し、次いでCrエッチングとレジスト樹脂の除去によりAu層を有する第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体のAu格子層(Auドット層)と前記第2構造体のAu層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含むことを特徴とする光変調構造体の製造方法。
[12] 前項1~7のいずれかに記載の光変調構造体を用いた装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明構造の類似構造としてファブリ・ペローフィルタ(構造体)があるが、本発明の光変調構造体は誘電体層(例えば空気層)の厚み(ギャップ)が外力により変わる共振波長変化量をファブリ・ペロー構造体より大きくとることができる。このことは、例えばファブリ・ペローフィルタの応用例としての圧力センサでは、本発明によればセンサ感度を大幅に向上できることを意味する。他の応用例として超高感度なフォースゲージ、接触センサ、タッチパネル、バイオセンサなどにも利用できる。
本発明は光学式センサであることから、これまでセンサとして普及している電気式のものに比べて、電磁干渉に強いこと、あるいは高温環境下で使えること、センサ部と光源部がワイヤレスで使えること、配線の取り回しが不要のためアレイ化が容易であること、アレイ化により面分布のセンシングが可能であること、電気を使わないので発火環境でも安全に使えるなどの多くの優位性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】設計するエアギャップ構造をもつ光メタマテリアルの一例の概略図。
【
図3】
図2のAuロッドアレイとAu薄膜を
図1の状態に配置し、ギャップを0~30nmの範囲において変化させた反射率のシミュレーション結果を示す。
【
図4】ギャップ20nmで入射光の電場の向き(偏光方向)を変化させた共振波長のシミュレーション結果を示す。
【
図5】ギャップ30nmで入射光の入射角度を変化させた反射率のシミュレーション結果であり、Aは電場を入射面と平行にして入射角度を変えた場合、Bは磁場を平行にして入射角度を変えた場合である。
【
図6】AはAuロッドアレイを1方向のみ配置した概略図、BはAuロッドアレイに対する入射光の電場振動の動きを示す。
【
図7】
図6の構成で入射光の電場を長辺方向と短辺方向で変化させシミュレーションした結果を示す。
【
図8】共振波長759nm、1064nmでのAuロッドアレイ断面(A,B)についての磁場(H)分布及び電場(E)分布のシミュレーションの一例の説明図であり、(a)は上面図、(b)は
図Aに示す線A,B上の断面図である。
【
図9】電子振動による磁場・電場発生の概略図である。Hは磁場、Eは電場の方向を示す。
【
図11】提案したデバイスのギャップ対共振波長曲線で、(a)長波長側、(b)は短波長側である。
【
図12】提案デバイスのギャップ―Δλ/Δgap曲線で、(a)は長波長側 (b)は短波長側である。
【
図13】一様等分布荷重を受ける平板の計算モデル。
【
図17】Auロッドアレイの測定法の一例の概略図である。
【
図18】Auロッドアレイの設計値でのシミュレーション結果を示す。
【
図19】(a)は寸法の異なるパターン1(Ver.1)の測定反射率、(b)はVer.1の実寸値でのシミュレーション反射率を示す。
【
図20】(a)は寸法の異なるパターン2(Ver.2)の測定反射率、(b)はVer.2の実寸値でのシミュレーション反射率を示す。
【
図21】Au薄膜とAuロッドアレイを重ねた全体図である。
【
図22】エアギャップ構造をもつメタマテリアルの反射率を示す。
【
図23】(a)は外力を加えたときのエアギャップ構造をもつメタマテリアルの反射率(Ver.2)、(b)はギャップ6μmでのシミュレーション結果を示す。
【
図25】エアギャップ(d)に対する反射率の変化を示す。
【
図27】設計したAl・エアギャップ・Alデバイスの製作工程の一例を示す。
【
図28】製作デバイスの荷重なし(オフ状態)と荷重有り(オン状態)の概略図とそれぞれ測定された反射対波長曲線を示す。
【
図29】製作デバイスの一例の荷重(W)とエアギャップ(d)の説明図である。
【
図30】荷重(W)の負荷で測定した波長と反射率の関係を示すグラフ。
【
図31】荷重(W)・エアギャップ(d)と共振波長との関係の計算結果(曲線)と測定結果(ドット)を示す。
【
図32】エアギャップの変位量(d)に対する共振波長λのシフト率(Δλ/Δd)との関係の計算結果(曲線)と測定結果(ドット)を示す。
【
図33】バネ構造でAu属膜を支持した構造例(A)及び(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、導電体層として金(Au)を用いた態様(実施形態1)、アルミニウム(Al)を用いた態様(実施形態2)及びそれらに関連する態様について、添付図面を参照しつつ説明するが、下記の態様は請求項の記載に含まれる発明の例示であって、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0012】
実施形態1:金(Au)・誘電体・金(Au)3層構造メタマテリアル
設計するエアギャップ構造をもつ光メタマテリアルの一例の概略図を
図1に示す。メタマテリアルはAu薄膜とAuロッドアレイで構成され、この2層を向かい合うように配置する。Auロッドアレイ側から光を入射し、表面プラズモン共鳴により共振波長の光が吸収される。Auロッドアレイウェハに外力を加えウェハをたわませる。たわみにより2層間のギャップを変化させることで共振波長を変え、メタマテリアルによる光学特性を変化させる。
【0013】
表面プラズモン共鳴による光学特性をもつメタマテリアルを設計するために、RCWA(Rigorous Coupled-Wave Analysis)法(J.Opt.Soc.Am.,vol.71,(1981),pp.811-818)によるシミュレーションを用いて、メタマテリアルを構成するAu微小構造の形状設計を行い、また、SiO2基板における外力と変位の関係を計算し、デバイスの設計を行った。
【0014】
[金属微小構造の設計]
表面プラズモン共鳴が生じる金属微小構造として金(Au)ロッドアレイの設計を行った。表面プラズモン共鳴による共振波長は金属微小構造の形状によって変化する。本設計では波長500~1800nmで共振が生じるようにAuロッドの寸法を決定した。設計したAuロッドアレイ(配列)の一例の概略図を
図2に示す。なお、ロッドの配列は
図2の例に限定されるものではなく、所望の任意の配列を採用することができる。
例えば、SiO
2ウェハ上に短辺120nm、長辺200nm、Crの厚さ3nm、Auの厚さ30nmのロッドを周期480nmで配置する。CrはSiO
2ウェハとAuの接着材として機能する。また偏光依存性を持たないようにAuロッドアレイは2方向に向きを変えて配置する。
【0015】
このAuロッドアレイとAu薄膜を
図1のように配置し、ギャップを0~30nmまで変化させ反射率のシミュレーションを行った。シミュレーション結果を
図3に示す。各ギャップで共振波長が2つ存在し反射率のディップが生じている。ギャップを大きくすると共振波長が短波長側にシフトしていることが確認できた。
【0016】
図4にギャップ20nmで入射光の電場の向き(偏光方向)を変化させたときの、共振波長のシミュレーション結果を示す。角度を変化させても共振波長は780nm、1123nm付近から変化せず、設計するAuロッドアレイは偏光依存性が少ないことが分かる。
【0017】
図5(A)及び(B)は、例えばギャップ30nmで入射光の入射角度を変化させたときの反射率のシミュレーション結果を示す。電場を入射面と平行にして入射角度を変えた場合の
図5(A)では共振波長、吸収率ともに変化しているがグラフの傾向は一致していることが分かる。磁場を平行にして入射角度を変えた場合の
図5(B)ではθ=30°、45°のとき短波長側で大きな変化が確認できた。
【0018】
[共振波長の考察]
図3のシミュレーション結果からAuロッドアレイには共振波長が2つ存在する。これはAuロッドが短辺方向と長辺方向でそれぞれ異なる波長で共振することに起因する。
図6(A)、(B)に示す光メタマテリアル構造体において、ギャップ30nmでAuロッドアレイを1方向のみ配置し、入射光の電場を長辺方向と短辺方向で変化させたシミュレーション結果を
図7に示す。
図7の設計パターンのスペクトルは
図3に示すギャップ30nmでのシミュレーション結果である。この設計パターンでは反射率のディップが2か所で生じているのが、Auロッドアレイを1方向のみに配置した場合はそれぞれ1か所のみでディップが生じている。
図7から設計パターンの長波長側はAuロッドアレイの長辺方向の電子振動による共振であり、短波長側は短辺方向の電子振動による共振であると考えられる。Auロッドの長辺と短辺の寸法によって、同一デバイスで長波長と短波長の2つの範囲で測定が可能であると考えられる。
【0019】
[共振波長における電波・磁場分布]
図3のシミュレーション結果からギャップ30nmでは波長759nmと1064nm付近で共振していることが分かる。共振波長759nm、1064nmでの磁場(H)分布、電場(E)分布を
図8(a)、(b)のように金(Au)ロッドの長辺方向、短辺方向のそれぞれに断面をとりシミュレーションを行った。その結果1064nmでは断面AのときにAu薄膜とAuロッドアレイのギャップに強いY方向の磁場H
Yが生じていること、及びAuロッドアレイの両端に強いZ方向の電場E
Zが生じていることが確認できた。
図9に示すようにAu薄膜とAuロッドアレイのそれぞれの電子振動により電場E
Zが生じ、この周回する電場によって磁場H
Yが発生しているのだと考えられる。以上の結果から設計したデバイスではAu膜とAuロッドアレイの間に電子振動による相互作用が生じていることが分かる。
【0020】
[ファブリ・ペロー干渉との比較]
提案するデバイスと同様にギャップの変化に応じて光学特性が変化する現象としてファブリ・ペロー干渉が挙げられる。ファブリ・ペロー干渉は高い反射率の2つの平面鏡の間で生じる多重反射による干渉を利用したものである(光工学,コロナ社,2006年,Ag合金ミラーを用いた可視光帯域MEMSファブリ・ペローチューナブルフィルタ,電気学会論文誌E,vol.132,No.2,2012年,25~30頁)。ファブリ・ペロー干渉の概略図を
図10に示す.ファブリ・ペロー干渉の共振波長変化は光路差による位相変化が起因するため、垂直入射の場合はギャップ1nmの変化に対し共振波長は2nm変化する。
【0021】
図3から得られた、提案するデバイスのギャップ変化に対する長波長側(a)、短波長側(b)それぞれの共振波長の変化を
図11に示す。また、ギャップNnmにおけるギャップ変化量1nmに対する共振波長λ
Nの変化量Δλ
NをΔλ
N=λ
N-λ
N-1として算出した単位ギャップ変化量あたりの共振波長の変化量Δλ/Δgapの結果を
図12に示す。
図11、
図12からギャップ25nm以下の範囲では長波長側と短波長側のどちらの共振波長でもギャップ1nmに対し、共振波長が2nm以上変化していることが分かる。以上の結果からギャップが25nm以下になるように設計するとことでファブリ・ペロー干渉計よりもギャップに対する感度が良くなる。
【0022】
[SiO
2ウェハの力学計算]
提案するデバイスは外力によってウェハをたわませることでAu薄膜とAuロッドアレイのギャップを変化させ、SiO
2ウェハが等荷重分布を受ける場合を「材料力学 基礎と強度設計」(裳華房,2006年)に基づいて、
図13のように長辺a(mm)、短辺b(mm)、板厚t(mm)、ヤング率E(N/mm
2)の長方形板が一様等荷重分布p(N/mm
2)を受ける場合、最大応力S
x(N/mm
2)、S
y(N/mm
2)及び平板中央で生じる最大たわみy
max(mm)をa=bの正方形で周辺支持の場合について計算を行った。その結果、変位量0~30nmの範囲では十分な強度をもつ設計となっていることを確認した。
【0023】
[デバイスの設計]
以上の結果から設計したデバイスの一例の概略図を
図14に示す。Au薄膜上にCrを成膜し、ウェハ中央の4mm×4mmの領域をエッチングすることで段差を製作する。Crの厚さによって初期ギャップを制御する。Auロッドアレイはウェハ中央の56μm×56μmの領域に製作する。
【0024】
[製作及び結果]
製作の概要:
図15に製作工程の一例を示す。本例では、ガラスウェハとSiO
2ウェハのそれぞれにAuロッドアレイをリフトオフプロセスにより製作する。20mm×20mm角、厚さ0.5mmのガラスウェハ、SiO
2ウェハに対してピラニア洗浄を行う。EB(Electron Beam)レジストを塗布し、EB描画装置(JBX-5000LS,JEOL製)を用いてAuロッドアレイ形状にEB描画を行う。次にEB蒸着によりCr/Auを成膜する。テトラヒドロフランを用いてEBレジストを除去することでAuロッドアレイを得る。
同様に洗浄したSiO
2ウェハにスパッタ装置(芝浦メカトロニクス)を用いてCr/Au/Crを成膜する。フォトレジストを塗布しウェットエッチングでCrをエッチングすることでCrの段差をもつAu薄膜を製作する。
【0025】
[リフトオフプロセス]
リフトオフプロセスとはレジストで製作したパターンに金属を成膜した後レジストを除去することで、レジストのなかった箇所に金属パターンが残るという手法である。
本例ではリフトオフプロセスによってAuロッドアレイを製作した(
図15)。
【0026】
[製作工程]
ウェハをピラニア洗浄し、EBレジストとしてgL2000-Mを塗布する。またEB描画する際のチャージアップを防止するためレジストの上にチャージアップ防止剤エスペイサー(昭和電工製)を塗布する。現像の際は最初にDI(DeIonized)水を用いてエスペイサーを除去し、現像液としてZED-N50を使用する。またリンスとしてIPA(イソプロピルアルコール)とMIBK(メチルイソブチルケトン)をそれぞれ使用する。
次にEB蒸着でCrを3nm厚、Auを30nm厚成膜する。テトラヒドロフランを用いてEBレジストを剥離し、アセトン、エタノールで洗浄する。
【0027】
[製作結果]
リンスとしてイソプロピルアルコール(IPA)を用いたものをVer.1、メチルイソブチルケトン(MIBK)を用いたものをVer.2とする。Ver.1はSiO2ウェハ上、Ver.2はガラスウェハ上に製作した。Ver.1、Ver.2ともにパターニングした全領域で提案したロッド形状を作成することができた。
【0028】
[設計値との比較]
Ver.1、Ver.2のEBレジストパターン及びEBレジスト剥離後のAuロッドアレイのSEM観察から実寸値を求め、設計値との比較を行った。EBレジストパターンの実寸値と設計値から求めたVer.1、Ver.2の製作誤差を表1に示す。Ver.1とVer.2を比較すると、リンスとしてIPAを用いたVer.1の方が精度良くEBレジストパターンを製作できている。これはMIBKでは現像を十分に止めきれていないことが原因だと考えられる。
【0029】
【0030】
次にEBレジスト剥離後のAuロッドアレイの実寸値と設計値から求めたVer.1,Ver.2の設計誤差を表2に示す。Ver.1、Ver.2のどちらもEBレジストパターンと比べAuロッドアレイが小さくなっていることが確認できた。これはドーズ量が小さく、ウェハ付近のレジストまで完全に露光することができず、レジストパターンのテーパーができてしまったことが原因だと考えられる。またVer.2はX方向とY方向で大きさが違っていた。より精度よく製作するためにはレジストパターニング条件を再考する必要がある。
【0031】
【0032】
[金薄膜の製作工程]
設計したAu薄膜の一例の概略図を
図16に示す。SiO
2ウェハをピラニア洗浄し、スパッタ装置(芝浦メカトロニクス製)を用いて接着材としてのCrを3nm厚、Auを60nm厚成膜する。段差となるCrを40nm厚、120nm厚成膜したものそれぞれ製作する。フォトレジストとしてOFPR800LB-34CPを塗布しフォトリソグラフィを行う。次にウェットエッチングによりCrの段差を作成し、ピラニア洗浄によりフォトレジストを剥離する。
【0033】
[Auドットアレイの測定]
設計値におけるAuロッドアレイの光学特性:
Auロッドアレイの設計値を用いたシミュレーションを行った。
図17に示すAuロッドアレイ(配列)を設計した。なお、ロッドの形状及び配列は
図17の例に限定されるものでなく、円形等のロッドや六方格子状の配列等、所望の任意の形状及び配列を採用することができる。
図17のAuロッドアレイに垂直に光を入射し、吸収率・反射率・透過率をシミュレーションした結果を
図18に示す。波長700nm、980nm付近のそれぞれで共振による吸収が生じ、それに応じて反射率、透過率も変化していることが確認できた。
【0034】
[製作したAuロッドアレイの光学特性の測定]
製作した寸法の異なるAuロッドアレイのパターン1(明細書中、Ver.1と記載する。)、パターン2(明細書中、Ver.2と記載する。)それぞれについて、SEM観察で得られた実寸値を用いたシミュレーションと実際の反射率の光学測定を行った。シミュレーション及び測定結果を
図19、
図20に示す。Ver.1、Ver.2ともに設計値のシミュレーション結果と似た傾向の反射特性が得られた。また、実寸値を用いたシミュレーション結果と測定結果も良く一致していることが分かる。しかしVer.1は設計値のシミュレーション結果と比べ、ピークでの反射率が20%程低く、共振波長が150nm程短波長側にシフトしていることが確認できた。これはVer.1が設計値と比べ10%以上小さくなってしまったことが原因だと考えられる。
【0035】
[製作したAuロッドアレイの光学特性の測定]
図21のようにCrによる段差が40nmの金(Au)薄膜と金(Au)ロッドアレイを重ね、4辺をポリイミドテープで固定した状態で反射率の特性を行った。このとき設計上のAu薄膜とAuロッドアレイとのギャップは10~20nm付近である。Ver.1、Ver.2それぞれの測定結果図、及びギャップ10nm、20nmでのシミュレーション結果を
図22に示す。Ver.1、Ver.2ともに600~1000nmの領域の2つの波長で反射率のディップが確認できた。
【0036】
[まとめ]
Au薄膜とAu微小構造のギャップを外力によって変化可能なエアギャップ構造をもつメタマテリアルの設計を、RCWA法を用いたシミュレーションにより行い、Au微小構造としてAuロッドアレイを提案し、ギャップ3~30nmの範囲で、600~1200nmの短波長側と1000nm~1800nmの長波長側の2領域での共振波長の変化を示した。共振波長がAuロッドの形状に依存していることを確認し、共振時の電場・磁場分布を示した。単位ギャップ変化量に対する共振波長の変化率が3~130nm程度であり、光を垂直入射した場合のファブリ・ペロー干渉よりもギャップに対する感度が高いことを確認した。
【0037】
シミュレーションによる設計に基づきAuロッドアレイ及びエアギャップ構造をもつメタマテリアルの製作を行った。リフトオフプロセスを行うことで製作した全ての領域でAuロッドアレイをパターニングすることができた。
製作したAuロッドアレイのみの状態とAuロッドアレイをAu薄膜に重ねた状態でそれぞれ測定を行った。Auロッドアレイのみでは波長600~800nm、800~1000nmの2つ領域で反射率のピークが確認できた。測定結果はシミュレーション結果の傾向と一致していた。AuロッドアレイとAu薄膜を重ねて測定を行うと波長600~800nm、800~1000nmの2つ領域で反射率のディップが確認できた。
【0038】
実施形態2:アルミニウム(Al)・誘電体・アルミニウム(Al)3層構造メタマテリアル
実施形態1で詳述したAu・誘電体・Au3層構造メタマテリアルと同様にしてアルミニウム(Al)・誘電体・アルミニウム(Al)3層構造メタマテリアルについてRCWA法によるシミュレーションを行い、Al微小構造(デバイス)の形状設計に基づき光学特性の計算を行った。Al微小構造の単位セルの一例を
図24に示す。本例では厚み30nmのAlドットの上に設けた厚み25nmのSiO
2とギャップ(空気)とが誘電体層となり、SiO
2は両導電体層の接続防止のストッパーの役割を果たす。また、このようなストッパー層の機能は、
図24中に記載のガラス基板上に形成した下部Al層の厚みを超える直径の絶縁性粒子(例えば、SiO
2粒子)を用いることによって、両導電体層の接続防止を果たすことができる。エアギャップ(d)に対する反射率の変化を
図25に、共振波長のシフトを
図26に示す。エアギャップ(d)が0~30mmで共振波長が大きく変化する結果が得られた。
【0039】
以上の結果から設計したデバイスを
図27に示す工程により製作した。なお、デバイスの製作工程は本例に限定されるものではない。
すなわち、(1)透明基板としてのガラス基板上にAl層とSiO
2層をこの順に電子ビーム蒸着し(2-a)、電子ビームリソグラフィーにてアルミニウム(Al)格子のパターニングを行い(2-b)、次いでドライエッチングしてガラス基板上に表面プラズモンが発現する厚みを有するAl+SiO
2の格子層(Alドット層)を有する第1構造体を作成した(2-c)。なお、上記の電子ビーム蒸着による成膜の他に、スパッタリングや熱蒸着などの成膜方法を採用することもできる。また上記電子ビームリソグラフィーの他にナノインプリントリソグラフィーやステッパー露光でもパターニングを行うことができる。
【0040】
(2)透明基板としてのガラス基板上にスパッタリングにより(1-a)Al層とスペーサ材のフォトレジスト樹脂層を所定の厚みでこの順に成膜(積層)し、次いでフォトリソグラフィによりスペーサ部を形成して第2構造体を作成した(1-b)。なお、上記
スパッタリングの他に電子ビーム蒸着法や熱蒸着法を採用できる。
次いで、(3)前記第1構造体のAl格子層(Alドット層)と前記第2構造体のAl層とを、両者が対向するよう重ね合わせ接合した。
【0041】
製作したデバイスについて、荷重なし(オフ状態)と荷重あり(オン状態)の測定結果を
図28に示す。
次に、荷重(W)をより精密に制御しながらかけてエアギャップ(d)を変えて測定を行った(
図29)。荷重を1.4N、1.6N、1.8N及び2.0Nかけてエアギャップ(d)を変化せたときの光学特性変化(波長と反射率の関係)を
図30に示す。
図31に示す、荷重(W)とエアギャップ(d)と共振波長の関係のように、エアギャップd=20~60nmの範囲で計算結果と測定結果がほぼ一致している。
【0042】
荷重Wに対する共振波長のシフト率(感度)(Δλ/ΔW)と、エアギャップの変位量に対する共振波長のシフト率(Δλ/Δd)と荷重に対するギャップの変化率(Δd/ΔW)との関係は下記の式で示すことができる。
Δλ/ΔW=(Δd/ΔW)×(Δλ/Δd)
エアギャップの変位量に対する共振波長のシフト率(Δλ/Δd)をエアギャップ(d)に対してプロットしたものを
図32に示す。図中、曲線は計算値であり、ドットは測定値である。エアギャップ(d)が20~60nmでシフト率(Δλ/Δd)の測定値は0.8~3.0である。エアギャップ(d)が20~60nmの範囲で共振波長のシフトを測定することにより荷重測定が可能であるが、
図32からエアギャップ(d)をより0に近づけることによって感度(Δλ/ΔW)を上げることが期待できる。
【0043】
他の実施形態:
実施態様1及び2では、本発明の光変調構造体下部の第1導電体層が導電体格子層(Auドット層またはAlドット層)を示し、上部(荷重を負荷する側)の第2導電体層が導電体薄膜(Au層またはAl層)の例について説明したが、導電体格子層と導電体層との配置は逆でもよい。また、第1導電体層及び第2導電体層が共に導電体格子層の態様も本発明に含まれる。
【0044】
このように、本発明は、第1の基板上の導電体層(第1導電体層)が誘電体層を介して第2の基板上の導電体層(第2導電体層)と対向し、前記誘電体層の厚みが外力により変化する構造を有する光変調構造体を提供する。前記誘電体層の厚みが外力により変化する範囲は特に限定されず、本発明が目的とする機能を有する条件であればよい。その範囲としては、例えば光変調構造体の動作波長域の1/10~0の範囲が適用される。
また、本発明の光変調構造体では、第1導電体層及び第2導電体層の片方、または両方が、表面プラズモンが発現する厚みを有することが好ましい。
ここで、誘電体層としては、例えばその一部または全てが空気のような気体層、または液体層または外力により変形可能なゴム、ゲル及びシリコーンなどの固体層が用いられる。
【0045】
本発明の光変調構造体の導電体層に使用できる金属は特に限定されないが、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、及び遷移金属系窒化物(例えば、TiN、ZrN、HfN、TaN)が好ましく、特に金(Au)とアルミニウム(Al)が好ましい。
【0046】
導電体膜の支持構造:
実施態様1及び2の光変調構造体では、中心に金属格子層を配置して、周辺部を固定して荷重をかけると中心部がたわむ。このたわみは、バネ構造を利用して荷重をかけたときに金属膜(金属層)が対向導電体格子層面に平行に移動する構造として、荷重(W)に対するエアギャップ(d)の変化率Δd/ΔW(感度)を上げることができる。バネ構造で金属膜を支持した構造の例を
図33(A)及び(B)に示すが、バネ構造の例は
図33に限定されない。例えば、金属膜を有する基板の厚みを周縁部に沿って薄くすることで、金属膜を有する基板自体にバネ作用の機能を付与することもできる。
従って、本発明の光変調構造体は第1導電体層または第2導電体層が、基板にバネ構造で支持されているのが望ましいが、前記誘電体層の厚みが外力により変化する構造は、前記バネ構造に限定されない。
【0047】
また、本発明では、(1)基板上に導電体を格子状に配置した導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)基板上に導電体とスペーサ材料を形成し、次いでフォトリソグラフィ、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、CVD法及びエッチング法からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法によりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含む光変調構造体の製造方法を提供できる。
【0048】
また、本発明では、(1)透明基板上に導電体層と透明誘電体層をこの順に成膜した後、導電体格子のパターニングを行い、次いでドライエッチングして透明基板上に表面プラズモンが発現する厚みの導電体格子層を有する第1構造体を作成する工程、(2)透明基板上に導電体層とスペーサ材料のフォトレジスト樹脂層をこの順に積層し、次いでフォトリソグラフィによりスペーサを形成して第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体の導電体格子層(導電体ドット層)と前記第2構造体の導電体層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含む光変調構造体の製造方法を提供できる。ここで、導電体としてアルミニウム(Al)が用いられ、透明誘電体層としてSiO2層が好ましく形成される。
【0049】
また、本発明では、(1)ウェハ上にレジストを格子状にパターニングし、その上にクロム(Cr)と金(Au)をこの順に積層し、レジストを除去してAu格子層(Auドット層)を有する第1構造体を作成する工程、(2)SiO2ウェハ上にCrとAuとCrをこの順に積層し、その上の周辺部にレジストを積層し、次いでCrエッチングとレジスト樹脂の除去によりAu層を有する第2構造体を作成する工程、及び(3)前記第1構造体のAu格子層(Auドット層)と前記第2構造体のAu層とが対向するよう両構造体を合わせる工程を含む光変調構造体の製造方法を提供できる。
【0050】
基板またはウェハには公知の透明材料を用いることができる。例えば、石英、ガラス、サファイア、SiC、シリコン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン亜鉛鉄、酸化マグネシウムアルミニウム、ホウ化ジルコニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化リチウムガリウム、酸化リチウムアルミニウム、酸化ネオジウムガリウム、酸化ランタンストロンチウムアルミニウムタンタル、酸化ストロンチウムチタン、酸化チタン及びプラスチックからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料が用いられる。また、基板またはウェハには、石英、ガラス、サファイア、SiC、シリコン、シリコーン及びプラスチックからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料がより好ましく用いられる。
前記スペーサ材料には、例えばSiO2等のセラミックス層またはセラミックス粒子が好ましく用いられる。
また、前記両構造体を合わせる工程(手段)は限定されるものではないが、例えば接合または接着、圧着等の手段が適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の光変調構造体は、誘電体層の厚みが外力により変化する構造を有するため、誘電体層の厚み変化(例えば、エアギャップ変化)に対する共振波長変化量をファブリ・ペロー構造体より大きくできることから、センサ感度を大幅に向上できる。
本発明の光変調構造体を用いた装置等の応用例は特に限定されない。具体例としては超高感度なフォースゲージ、接触センサ、タッチパネル、バイオセンサ、センサをシリコーンゴムやゲルに充填した防水型圧力センサ、光ファイバ先端に形成し光ファイバ型超小型センサとしてカテーテルに組み込み体内の圧力センシング(局所領域や手の届かないところの圧力センシングが可能)、ロボットの光学式触覚センサ、小型軽量なウェアラブルの圧力センサ、血圧、呼吸、心拍の生体計測センシングなどに応用可能である。