(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】高い電気エネルギー変換率のための電気分解システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20221212BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20221212BHJP
C25B 9/17 20210101ALI20221212BHJP
C25B 11/02 20210101ALI20221212BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20221212BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B1/04
C25B9/17
C25B11/02 302
C25B11/03
(21)【出願番号】P 2019510353
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(86)【国際出願番号】 CL2017050040
(87)【国際公開番号】W WO2018032120
(87)【国際公開日】2018-02-22
【審査請求日】2020-08-11
(32)【優先日】2016-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519051252
【氏名又は名称】ガルセス バロン ホルヘ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196612
【氏名又は名称】鎌田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】ガルセス バロン ホルヘ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特表平03-500042(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0284244(US,A1)
【文献】特開2011-042855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/02
C25B 1/04
C25B 9/17
C25B 11/02
C25B 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化及び還元反応を行うための水の電気分解システムであって、
電気分解セルの2以上のグループを有する電解槽であって、各電気分解セルは少なくとも一対の電極と該電極の間に設けられた電解質とによって形成される、電解槽と、
前記電解槽に接続されて電気信号を供給するエネルギー源であって、該電気信号は複数の電流パルスを含む直流電流パルスに対応し、該直流電流パルスは周波数(f)及び周期(T)により特徴付けられる、エネルギー源と、
前記エネルギー源に接続されて前記エネルギー源を制御する又は前記エネルギー源と前記電解槽との間に接続されて配置されている1又は複数のスイッチに接続されて該1又は複数のスイッチを制御する制御ユニットであって、該制御することは、
前記電気信号の逐次的な供給を与えることと、
前記電気信号を、複数の所定時間の中の第1の所定時間にわたって前記電気分解セルの第1のグループに分配することであって、該複数の所定時間は前記直流電流パルスの持続時間を形成する、分配することと、
ひとたび前記第1の所定時間が終わると、前記電気信号を、前記複数の所定時間の中の第2の所定時間にわたって前記電気分解セルの第2のグループに分配することと、
前記直流電流パルスの周期(T)内で前記電気分解セルの各グループに対して前記複数の電流パルスにおける電流パルスを発生させることと、を含む、
制御ユニットと、
を備え、
前記電気分解セルは、円筒形プレートを有するキャパシタを形成し、該円筒形プレートは、中心電極と、外部電極と、電極間空間とを定めるように、互いに実質的に同心に配置された管によって形成された前記電気分解セルの前記電極によって定められ、前記中心電極はキャパシタのアノードに対応し、前記外部電極はキャパシタのカソードに対応し、前記電解質はキャパシタの誘電手段に対応し、
前記電解槽の各電気分解セルは、前記直流電流パルス中、
-前記複数の電流パルスにおける各電流パルス中の充電過渡的レジームの下で、かつ
-前記複数の電流パルスにおける隣接電流パルス間の放電過渡的レジームの下で、
動作するように構成され、
前記充電過渡的レジーム及び前記放電過渡的レジームは、各電気分解セルの構造によって定められ、
前記直流電流パルスは、前記電解槽の各電気分解セルがその対応する充電過渡的レジーム及び放電過渡的レジームで通電されるように決定される振幅、持続時間、及び周波数(f)を含
み、
前記直流電流パルスの振幅は、前記エネルギー源の最大電圧又はピーク電圧(V
max
)と、実効平均電圧(V
average
)とによって定められ、前記実効平均電圧は、各電気分解セルの生成に好都合な最適電圧(V
optimal
)として定められ、前記最適電圧(V
optimal
)は、1gのH
2
を生成するための電流(I)と、下記の式とに基づいて得られ、
【数1】
ここで入力エネルギーは出力エネルギーと一致し、出力エネルギーは1gのH
2
に含まれるエネルギーとして定められ、
前記直流電流パルスの持続時間は、前記直流電流パルスの周期(T)に関連して、前記直流電流パルスの持続時間係数(D)又はワーキングサイクルによって定められ、前記直流電流パルスの持続時間は、DとTとの間の積に対応し、前記持続時間係数Dは、
【数2】
で定められ、
前記直流電流パルスの周波数(f)又は周期(T)は、
【数3】
として定められ、ここでRCは、各電気分解セルの容量的及び共振的挙動を表す時定数であり、V
cell
(T)は、キャパシタの放電中に新たな直流電流パルスを受ける前の時間t=Tのときの各電気分解セルの電圧であり、V
cell
(DT)は、キャパシタの充電中に前記直流電流パルスが終了したときの時間t=DTのときの各電気分解セルの電圧であり、Dは前記持続時間係数であり、
前記直流電流パルスは、各電気分解セルを通って循環する実効平均電流フローを発生させ、前記電流フローは、
【数4】
として定められ、ここで、I
average
は、各電気分解セルを通って流れる平均電流であり、Cは、各電気分解セルのキャパシタンスであり、V
cell
(DT)は、キャパシタの充電中に前記直流電流パルスが終了したときの時間t=DTのときの各電気分解セルの電圧であり、eはオイラー数であり、RCは、各電気分解セルの容量的及び共振的挙動を表す時定数であり、V
cell
(T)は、時間t=Tのときの各電気分解セルの電圧である、
ことを特徴とする、システム。
【請求項2】
前記中心電極は、内部空間を定める中空の円筒形電極であり、
還元反応は、前記外部電極の内側で起こり、酸化反応は、前記中心電極の外側で起こり、前記酸化反応は、前記中心電極の内側で代替的に起こるものであり、
前記システムは
前記酸化反応の生成物の抽出のための1又は複数の第1の抽出ダクトであって、該第1の抽出ダクトの各々は前記中心電極の前記内部空間と連通する、1又は複数の第1の抽出ダクトと、
前記還元反応の生成物の抽出のための1又は複数の第2の抽出ダクトであって、該第2の抽出ダクトの各々は前記電極間空間と連通する、1又は複数の第2の抽出ダクトと、を更に備える、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御ユニットは、前記電解槽の前記電気分解セルが受ける前記直流電流パルスを提供するために前記エネルギー源を動作させる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記制御ユニットは、前記電気分解セルの各々が受ける前記直流電流パルスの持続時間及び周波数を制御することによって前記1又は複数のスイッチにおける各スイッチの投入及び開放を動作させ、前記制御ユニットは、前記エネルギー源によって提供される前記電気信号を逐次的に供給するために前記1又は複数のスイッチを投入及び開放し、前記電気信号を前記電気分解セルの前記第1のグループ及び前記第2のグループに分配し、
前記電気分解セルの各グループは、直列接続された2以上の前記電気分解セルによって形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記電気分解セルの前記2以上のグループは、並列接続される、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記中心電極は、その表面に、前記電極間空間と前記中心電極の前記内部空間とを連通させる1又は複数の開口部を備え、前記1又は複数の開口部は、前記電極間空間と前記中心電極の前記内部空間との間での前記電解質の自由な循環を可能にし、前記中心電極の前記1又は複数の開口部は、前記酸化反応の生成物が前記中心電極の外側から前記中心電極の前記内部空間に循環することを可能にするように設けられる、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
前記1又は複数の開口部は、前記中心電極の異なる抽出ゾーン内に配置され、該抽出ゾーンは、前記中心電極の少なくとも1つの部分に沿って分布しており、各抽出ゾーンは、前記中心電極の外側に配置された少なくとも1つの止め機構を備え、該少なくとも1つの止め機構は、前記中心電極の外側での前記酸化反応の
生成物の循環を防止し、前記生成物を前記1又は複数の開口部を通して前記中心電極の前記内部空間に搬送し、該少なくとも1つの止め機構は、前記外部電極の内側付近に前記電解質のための循環空間を残して前記電極間空間内に延びており、該循環空間は、前記還元反応の生成物の自由な循環のために設けられる、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
前記中心電極は、分離メッシュによって囲まれている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記電気分解セルは、垂直方向に配置され、大気圧で動作し、前記セルを構成する前記電極は、中空の垂直な管によって形成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
1又は複数の酸化反応及び還元反応を行うための水の電気分解方法であって、
前記方法は、
-水の電気分解システムを設けることであって、該電気分解システムは、
・2以上の電気分解セルを有する電解槽であって、各電気分解セルは少なくとも一対の電極と該電極の間に設けられた電解質とによって形成される、電解槽と、
・前記電解槽に接続されて電気信号を供給するエネルギー源と、
・前記エネルギー源に接続されている又は前記エネルギー源と前記電解槽との間に接続されて配置されている1又は複数のスイッチに接続されている制御ユニットと、を備え、
前記電気分解セルは、円筒形プレートを有するキャパシタを形成し、該円筒形プレートは、中心電極と、外部電極と、電極間空間とを定めるように、互いに実質的に同心に配置された管によって形成された前記電気分解セルの前記電極によって定められ、前記中心電極はキャパシタのアノードに対応し、前記外部電極はキャパシタのカソードに対応し、前記電解質はキャパシタの誘電手段に対応する、
設けることと、
-前記電気分解セルに前記電気信号を印加することであって、前記電気信号は複数の電流パルスを含む直流電流パルスに対応し、該直流電流パルスは周波数(f)及び周期(T)により特徴付けられる、印加することと、
-前記エネルギー源又は前記1又は複数のスイッチを制御することであって、該制御することは、
前記電気信号の逐次的な供給を与えることと、
前記電気信号を、複数の所定時間の中の第1の所定時間にわたって前記電気分解セルの第1のグループに分配することであって、該複数の所定時間は前記直流電流パルスの持続時間を形成する、分配することと、
ひとたび前記第1の所定時間が終わると、前記電気信号を、前記複数の所定時間の中の第2の所定時間にわたって前記電気分解セルの第2のグループに分配することと、
前記直流電流パルスの周期(T)内で前記電気分解セルの各グループに対して前記複数の電流パルスにおける前記電流パルスのパルスを発生させることと、
を含む、制御することと、
-前記直流電流パルス中、
・前記複数の電流パルスにおける各電流パルス中の充電過渡的レジームの下で、かつ
・前記複数の電流パルスにおける隣接電流パルス間の放電過渡的レジームの下で、
動作するように前記電解槽の各電気分解セルを構成することと、
を含み、
前記充電過渡的レジーム及び前記放電過渡的レジームは、各電気分解セルの構造によって定められ、
前記構成することは、前記電解槽の各電気分解セルがその対応する充電過渡的レジーム及び放電過渡的レジームで通電されるように、前記直流電流パルスの振幅、持続時間、及び周波数を決定することを含
み、
前記構成することは、
前記エネルギー源の最大電圧又はピーク電圧(V
max
)と、実効平均電圧(V
average
)とによって前記直流電流パルスの振幅を定めることであって、前記実効平均電圧は、各電気分解セルの生成に好都合な最適電圧(V
optimal
)として定められ、前記最適電圧(V
optimal
)は、1gのH
2
を生成するための電流と、下記の式とに基づいて得られ、
【数5】
ここで入力エネルギーは出力エネルギーと一致し、出力エネルギーは1gのH
2
に含まれるエネルギーとして定められる、定めることと、
前記直流電流パルスの周期(T)に関連して、前記直流電流パルスの持続時間係数(D)又はワーキングサイクルによって前記直流電流パルスの持続時間を定めることであって、前記直流電流パルスの持続時間は、DとTとの間の積に対応し、ここで前記持続時間係数Dは、
【数6】
で定められる、定めることと、
を更に含み、
前記構成することは、
【数7】
として前記直流電流パルスの周波数(f)又は周期(T)を定めることを更に含み、ここでRCは、各電気分解セルの容量的及び共振的挙動を表す時定数であり、V
cell
(T)は、キャパシタの放電中に新たな直流電流パルスを受ける前の時間t=Tのときの各電気分解セルの電圧であり、V
cell
(DT)は、キャパシタの充電中に前記直流電流パルスが終了したときの時間t=DTのときの各電気分解セルの電圧であり、Dは前記持続時間係数であり、
前記構成することは、
【数8】
によって定められる、各電気分解セルを通って循環する平均実効電流フローを印加することを更に含み、ここで、I
average
は、各電気分解セルを通って流れる平均電流であり、Cは、各電気分解セルのキャパシタンスであり、V
cell
(DT)は、キャパシタの充電中に前記直流電流パルスが終了したときの時間t=DTのときの各電気分解セルの電圧であり、eはオイラー数であり、RCは、各電気分解セルの容量的及び共振的挙動を表す時定数であり、V
cell
(T)は、時間t=Tのときの各電気分解セルの電圧である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記制御することは、前記電解槽の前記電気分解セルの各々が受ける前記直流電流パルスを提供することを更に含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記制御することは、
前記直流電流パルスの持続時間及び周波数を制御することにより、前記エネルギー源と前記電解槽との間に配置された前記1又は複数のスイッチの投入及び開放を動作させることと、
前記エネルギー源によって提供される前記電気信号を逐次的に供給する前記1又は複数のスイッチを投入及び開放することと、
前記電気信号を前記電気分解セルの前記第1のグループ及び前記第2のグループに分配することであって、
各グループは、直列接続された2以上の電気分解セルによって形成され、前記所定時間は前記直流電流パルスの持続時間に対応する、分配することと、
を更に含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記1又は複数の酸化反応の生成物を1又は複数の第1の抽出ダクトを通して抽出することであって、該1又は複数の抽出ダクトの各々は前記中心電極の内部空間と連通する、抽出することと、
前記1又は複数の還元反応の生成物を1又は複数の第2の抽出ダクトを通して抽出することであって、該1又は複数の第2の抽出ダクトの各々は前記電極間空間と連通する、抽出することと、
を更に含む、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された脈動電流(pulsating current)が実現されるとともに、セルの容量的及び誘導的挙動を最適化する電気分解セル設計が提供される、改善された電気分解方法及びシステムに関する。本発明の方法及びシステムは、電気分解セル(electrolytic cell)における電気化学的プロセスの電気的効率を最大化するように電流パルスの最良の振幅及び印加周期の比を調整することを可能にし、このセルの生成は、回路の共振特性を利用した過渡的レジメ(過渡的レジーム)(transient regime)の下で維持される。
【背景技術】
【0002】
最新技術において、電気分解システム及び方法に関連した幾つかの解決策があり、これらは、このようなシステム及び方法を特別な電極設計と関連付けることにより、脈動信号を供給電流として実現する。例えば、特許文献1は、パルス化DC電流をその電極に供給することによって効率を改善する電気分解セルを教示する。この文献は、溝付きの外面を有する概ね円筒形のアノードが、アノードの活性領域と等しい活性領域を有するセグメント化されたカソードで囲まれたものを示唆する。電流のパルシングは、5,000パルス毎分と40,000パルス毎分との間の速度で実行される。この文献によれば、このような配置において、電流レベルは約220アンペアとすることができ、電極電圧は約3ボルトとすることができる。それにもかかわらず、特許文献1は、電気的効率を最大化するように又は電気分解セルの設計局面を利用するように調整することができない電流パルスで稼動すること示唆しており、それゆえ不必要なエネルギー消費をもたらす結果となり、この解決策を競争的な工業的規模で実施すること実現不可能である。さらに、特許文献1の技術は、電気分解セルを、その過渡的状態を利用することなく、その定常状態に焦点を合わせて動作させるものである。
【0003】
他方、特許文献2は、電気共振回路における誘電媒体としての水から得られる水素と酸素との混合物を含む燃料ガスの製造方法を規定する。この文献は、回路の共振的特徴を利用することにより脈動電流を実現するものであるが、この解決策における方法は、電磁場によって発生する媒体の振動による水分子の分解から水素と酸素との混合物を得るものであり、このことがこの解決策を複雑なものとしている。さらに、この文献は、水を誘電媒体として用いた容量的設計を示唆し、1つ又は複数のキャパシタと直列に接続したインダクタンスを含む。この設計は、水分子がキャパシタプレート間の電場を受けることを可能にし、したがって水分子内の共振が誘導され、それにより分子の原子間結合が破壊され、かくして水素原子及び酸素原子を元素気体として遊離し、酸化還元反応を促進する。このとき、特許文献2の解決策は、電気的効率を最大化するための動作パラメータの制御を提案せず、したがって水素及び酸素を発生させる際のエネルギー消費を削減するために電気分解セルの設計を利用するものではない。そのうえ、特許文献2の技術は、主として定常状態の手法の下で電気分解セルを動作させるものであり、その過渡的条件特性を利用していない。
【0004】
水素及び酸素の発生における発明に焦点を合わせることによれば、現行の電気分解方法及びシステムの最も関連した使用の1つは、電気分解による水素及び酸素の発生のために以下のプロセス:
-アルカリ電解
-ポリマー電解質膜(PEM)による電気分解
-高温又は蒸気ステップにおける電気分解
を特定することである。
【0005】
電気分解反応において、現在の条件で生成される水素の効率は、生成される水素1m3当たり約4.9~5.6kWh、すなわち(H2の低位発熱量(lower heat value)又はLHVを考慮すると)ほぼ50%から60%のエネルギー効率であり、これは化石燃料から得られる水素よりも高価であり得る。そのうえ、カソードにおいて生成される水素は、酸素不純物及びある程度の量の水分を含み得るので、精製しなければならない。水素ストリームは、吸着剤を通して乾燥され、酸素不純物はDeOxoコンバータで除去される。しかしながら、アルカリプロセスは、水素の製造のための最も簡単かつ経済的なプロセスの1つである。
【0006】
さらに、昨今ではアルカリ電気分解よりもPEMによる電気分解プロセスの方が収率(yields)が高いとはいえ、PEMと比べたアルカリ・エレクトロライザ(電解槽)(electrolyzer)の利点の1つは、ニッケル又はステンレス鋼のような電極材料の安定性を許容するという事実であり、それゆえ高価な材料を必要としない遥かに低コストの構造が可能になる。さらに、PEM手順の使用は、膜の交換が不純物に対して極めて敏感であり、また貯蔵寿命が限られているという不利点を有する。
【0007】
最後に、高温又は蒸気ステップにおける電気分解のプロセスに関して、その主たる利点は、通常のエレクトロライザよりも高い効率にあり、その主たる不利点は、高い動作温度で処理するための工業的プラントの設備の可用性、及び、高温のプロセスための重要なエネルギー供給の送達であることに留意されたい。
【0008】
そして、今日これらの電気分解技術に付随する共通の問題は、エネルギーキャリアとしてのH2の製造のためのエネルギー源の変換における低いエネルギー効率である。したがって、現在に至るまで、これらの電気分解システム及び方法に関する共通の目的は、エネルギー輸送の観点からよりエネルギー効率的にするために電圧サージを低減する努力であり、それにより製造コストが削減される。
【0009】
その理由で、主として水素製造用の電気分解セル、装置、システム及び方法を改善するための現在の努力は、抵抗率又は抵抗が低い電解質(electrolyte)及び構成要素の実現に焦点を合わせおり、これは、より高い電流に到達するのに用いられる電圧を低減する(オームの法則)。この意味で、電気分解モデルは、主として電気分解セルの抵抗的モデル化に基づくものであり、その場合の主目的は、媒体(電解質)の抵抗を低減して、エネルギー輸送の効率の観点からプロセスを最適化することに対処する。この種のモデル化においては、大きい電圧サージをプロセスに適用することが通例であり、この電位は、電解質の抵抗をかなり小さくすることよってのみ低減されてきた。
【0010】
したがって、電気分解プロセスの電気的効率を最大化するための改善された電気分解方法及びシステムであって、過渡的レジメ下での製造モデルにおいて強化される電気分解セルの設計に従って動作パラメータを調整することによる方法及びシステムが必要とされている。さらに、水素及び酸素の製造において、それら気体を別々にかつ低エネルギーコストで発生させることが可能な方法及び装置が必要であり、それにより電気エネルギーの使用が最大化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許第3,954,592号明細書
【文献】米国特許第4,936,961号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、電気分解方法及びシステムであって、電気分解セルの動作を最適化して、電気分解プロセスのエネルギー効率を最大化する、電気分解方法及びシステムを提供することであり、そのことは次式に従って生成プロセスの電気的効率を最大化することに反映される。
【数1】
【0013】
水の電気分解の場合、生成される生成物のエネルギーは、H2の低位発熱量(LHB)とみなすことができ、その値は120[MJ/kg]である。
【0014】
本発明の別の目的は、電気分解方法及びシステムであって、プロセスをモデル化することによる電気分解セルの設計局面を利用して電源の動作パラメータが調整される、電気分解方法及びシステムを提供することであり、これは主に従来の抵抗的手法ではない。
【0015】
本発明の別の目的は、電気分解方法及びシステムであって、電気分解セルにおける生成プロセスの電気的効率を最大化するように動作パラメータ、電力の最大振幅、周波数及びパルス幅を定めることで、セルの容量的、誘導的及び抵抗的特徴を最大化する電気分解セル設計を実装する、電気分解方法及びシステムを提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、動作パラメータを最適化し、電気分解セルの設計を利用して電気的効率を最大化することで、アルカリ電気分解による水素及び酸素発生のための方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の解決策は、電圧源により脈動電流が供給される特別な電気分解装置すなわちエレクトロライザを伴う方法及びシステムを含み、これは一般に電気を用いて電解質の分解を引き起こす。簡単に言うと、電気分解は、酸化還元による電気化学的分離プロセスであり、それは電気分解セルの電極間に存在する溶融電解質又は水溶液を電力が通過するときに起こる。
【0018】
この文脈において、電気分解プロセスの生成を最大化するためには、セルを通って循環する電流を最大化すべきであり、これにはエネルギー消費を最小化するために低い電圧の印加が伴うべきである。本発明は、電気分解セルを容量的に、すなわちキャパシタの様にモデル化し、このときセル内の電解質がキャパシタの誘電媒体とみなされる。電気分解セルこの種のモデル化は、既に知られており、その最も一般的な形態は、セルが、電解質で隔てられた互いにある程度の距離に位置する2つの平行な電極プレートで構成されることを規定することにある。それにもかかわらず、本発明は、セルの容量的挙動を最大化すること、及びこれを現実のキャパシタとしてモデル化すること、すなわち容量的、抵抗的及び誘導的要素を電気分解セルの一部として含めること、並びにキャパシタとして作用するセルの充電及び放電の過渡的レジメにその動作の焦点を合わせることを検討する。
【0019】
この点において、本発明は、その過渡的レジメ下での電気分解セルの生成を検討し、すなわちそのモデル化によって与えられる、主として容量的及び誘導的な、セルの電気的挙動における過渡的周期を利用する。その一時的又は過渡的レジメの下で、電気分解セルは、キャパシタ内の電圧及び電流の進展に従って挙動し、その過渡的レジメにおける電気化学的生成を確立する。本発明の好ましい実施形態によれば、セルは、過渡的レジメ下で完全に動作し、ファラデーの法則の差動的モデル化を適用して、このレジメ下での電気化学的生成を複製する。統一ファラデーの法則(unified Faraday’s law)の差動的モデル化は、生成プロセスにおいて得られる質量が、次式に従う時間の関数であることを述べる:
【数2】
【0020】
次いで、パルス波の周期Tにおいて得られる質量を計算すると、それは以下のように得られる:
【数3】
【0021】
ここで、i(t)は、時間における電流密度変数を表す。この手法は、直流電流において用いられるものと同様であり、その場合、システムに印加される電流が一定であるという性質により、上記の式は元の形態のままであり、得られる質量0→T=K*I*Tとなる。
【0022】
したがって、電気分解セルの容量的特徴は、キャパシタの充電の上昇及び下降時間中に慣性的挙動をもたらし、そこではモデルの抵抗的及び容量的効果のみを見ることができ、それは、キャパシタ及びその充電挙動に関連付けられた式によって再現することができる。例えば、電気分解セルの容量的挙動は、各々の初期キャパシタ充電において生じる電流ピークを利用することを可能にし、それゆえ、セルの実効抵抗は、そのピーク中は実質的に低減される。そのうえ、電気分解セルは、その構造及び誘導的挙動によって与えられるそれ自体の固有共振周波数を有する共振的挙動を有し、これが容量的設計によって与えられる慣性定数と組み合わされる。
【0023】
次いで、本発明は、電気的及び構造的アーキテクチャに基づくものであり、これは、セルの共振的及び容量的モデルによってもたらされるキャパシタンス及びインダクタンスパラメータ及び条件を強調し、それゆえ、気体生成表面上での生成気体と電解質との共存には都合が良くない設計(例えば、工業のスタック又は標準的ドライヒープ(dry heap))ではあるが、幾何学的形状により、生成気体の抽出には好都合な設計を提供し、セルプレートからの気泡の放出に好都合な過減衰過渡(over-damping transient)を伴う電流パルスを実現する。さらに、共振条件においてセルに注入されるエネルギーの投与(dosing)が実現され、エネルギー印加の周期、その持続時間及び振幅は、最適点に近い電気的性能でセルを動作させるように定められる。
【0024】
一実施形態によれば、本発明は、例えば方形波のパルス波電圧を有する直流電流(DC)レジメの実施を提案し、そのパルス幅及び振幅は、波の平均電圧(Vaverage)が、セル電位として前もって特定されたそれぞれの電気分解プロセスに対するセル生成の最適電圧(Voptimum)となるようにされる。
【0025】
この点において、セル電位として知られる電気分解セルの生成のための最適電圧が存在し、この最適又は電位電圧は、セルの生成におけるエネルギー転移の最大効率を得るための、すなわちセルがそのために設けられた電気化学反応がプロセス中に損失を伴わずに実行されるための、可能な最小電圧に対応する。このパラメータは、最適電圧を上回る電圧は、過電圧又は過電位とみなされること、したがってプロセス中の電気的効率の損失とみなされることを定める。セルの最適生成電圧は、電気分解関連の生産的プロセスに従って、例として酸化還元電位を考慮して、容易に計算することができる。
【0026】
波パルスの最大電圧(Vmax)、持続時間(Δ)及び周波数(f)は、セルに電流が供給されていない間の、すなわち脈動電流の供給区間の間の、その容量的挙動に依存したセルの放電が、特定の値、例えば脈動電流の供給周期の終わりに達成される充電値(電圧)の10%より高くならないようなものとされる。
【0027】
したがって、パルス波の周期に従ってパルスの持続時間を決定するために電流パルスの持続時間係数(D)が定められる。この点で、パルス持続時間はΔ=D*Tによって与えられ、ここでTはパルス波の周期である。パルス波の持続時間係数は、デューティサイクル(Duty Cycle)としても知られ、下記式に従い、エネルギー源によって発生されるパルスの平均電圧及び最大電圧によって保持され、
【数4】
ここで実効平均電圧は、電気分解プロセスの最適電圧と等価であるとみなされる。
【0028】
本発明により給送される電流を検討すると、
図1aのチャートは、本発明の好ましい実施形態による電流源側から得られる電圧信号(V
source)のスキームを示す。
図1bのチャートは、本発明の好ましい実施形態による充電側から得られる電圧信号(V
cell)を示す。
【0029】
図1bの図において、その充電又は電圧(tension)の進展によってもたらされるセルの電気的挙動は、時間範囲[xT;xT+DT](ここでx=0,1,2, ...,n)内で印加される電流パルス、電流パルスの終了直後に生じる過減衰により与えられるその共振的又は誘導的挙動、及び、電流パルス区間の間]xT+DT;(x+1)T[に生じる、セルの放電中のその容量的挙動、によって支配されることを観察することができる。したがって、電気分解セルの生成は、充電過渡的レジメ下で保持さる一方で、電流パルスは、電流パルス区間の間、放電過渡的レジメ下にあるときに持続し、ここで電流密度は、セルの放電電流によってもたらされる。したがって、セルの生成は、電気分解セルの容量的挙動に起因して放電及び充電の全サイクル中、アクティブである。
【0030】
次いで、キャパシタの放電方程式を用い、設計パラメータとしてt=DT及びt=Tのときのセルの充電電圧をそれぞれV
cell(DT)及びV
cell(T)として定めると、パルス波の周期/周波数を以下の展開により求めることができ:
【数5】
ここでV
cellmaxは、充電中のセルによって達成される最大電圧であり、
【数6】
ここで
fはパルス周波数、
Rはキャパシタとしてモデル化されたセルの抵抗パラメータ、
Cはキャパシタとしてモデル化されたセルのキャパシタンス又は容量、
V
cell(T)及びV
cell(DT)は、電気分解セルの設計パラメータ
である。
【0031】
パラメータVcell(T)及びVcell(DT)は、そのキャパシタとしての設計に基づく各電気分解セルの構造的特性に従って、キャパシタの充電及び放電レジメ下、並びに電流パルスの特性に従うこれらのレジメの持続時間下での、充電の進展を考慮して決定される。さらに、これらの設計パラメータは、放電周期を通じた生成を保証する電気分解プロセスの最適電圧を考慮すべきである。
【0032】
次いで、キャパシタとしてのセルによって提供されるポテンシャルエネルギーに関連した手法を用い、キャパシタの充電方程式と組合せると、t=0とt=DTとの間にセルに貯えられるポテンシャルエネルギー(U)を計算することが可能である。
【数7】
【0033】
t=0のときのセルの電圧がT=Tのときのセルの電圧と等しいとみなされることに留意することが重要であり、その理由は、初期動作中レジメ以外のnパルスが考慮されること、又はキャパシタとしての電気分解セルの初期充電がVcell(T)に対応することを考慮することのいずれかである。いずれにしても、電流パルスの動作に関して、キャパシタとしてのセルの最小充電は、Vcell(T)に対応するとみなされる。
【0034】
次いで、パルス波の印加周期中に電源によって提供される実効エネルギーは、実効平均電圧(V
average)及び実効平均電流(I
average)に従って、下記のように表現することができることを考慮する。
【数8】
【0035】
キャパシタとしてのセルによって提供されるエネルギーを、パルス持続時間中に電源によって提供される実効エネルギーと適合させることにより、セルの電流をD及びT(又は周波数)に関して得ることが可能であり、なぜなら、
【数9】
だからである。
【0036】
したがって、持続時間係数D及び周波数fに関する式を考慮すると、パルス最大電圧Vmaxの幾つかの値に対する実効平均電流の値を、設計パラメータとして以下のものを用いて、得ることが可能である。
-実効平均電圧Vaverageは、当該電気分解プロセスのVoptimumと等しいこと、
-充電過渡事象の終わりにおけるセルの対応する電圧Vcell(DT)及び放電過渡事象の終わりにおけるセルの対応する電圧Vcell(T)、及び
-そのキャパシタとしての構造的設計に従って、セルの抵抗(R)及びキャパシタンス(C)をもたらす、セルの構造的パラメータ。
【0037】
前述の設計を通じて、全周期Tにわたって生成する又は動作する電気分解セルを提供することが可能であり、これは、初期には充電過渡的レジメ下でセル(キャパシタ)を充電するために供給される脈動電流によって支配され、t=DTのときにパルスが終了した後、放電過渡的レジメ下でキャパシタの放電電流によって支配される。結果として、適正な電流インパルスを通じて、セルの容量的システムは動作し続け、パルスが途絶えても、セルを通る電流フローが存在し、充電及び放電過渡的レジメ下で電気分解プロセスの連続的な動作を維持するその容量的及び誘導的モデル化によって与えられるその共振的特徴を利用し、かくして生成プロセスのエネルギー効率が最大化される。
【0038】
上記に基づいて、本発明は、電気分解システムを含み、その設計は、電気分解セルの共振的特性及び容量的特性を利用し、本発明の目的に従って、電気分解プロセスを改善する。好ましい実施形態において、電気分解システムは、
各々が少なくとも一対の電極と該電極の間に設けられた電解質とによって形成された1又は複数の電気分解セルであって、該1又は複数の電気分解セルの組立体がエレクトロライザを定める、1又は複数の電気分解セルと、
エレクトロライザに電気信号を供給するエネルギー源と、を備え、
電気分解セルは、円筒プレートのキャパシタの形態で構築され、円筒プレートは、互いに実質的に中心を共有するように(concentric way)配置された管によって形成された電気分解セルの電極によって定められ、それにより、中心電極と、外部電極と、電極間空間とを定め、中心電極は、キャパシタのアノードに対応し、外部電極はキャパシタのカソードに対応し、電解質は、キャパシタの誘電手段に対応し、
エレクトロライザを形成する1つ又は複数の電気分解セルが受ける電気信号は、直流電流パルスに対応し、このパルスは、各エレクトロライザの電気分解セルを、
-電流パルス中の各セルの充電過渡的レジメと、
-電流パルス間の時間中の各セルの放電過渡的レジメと、
で動作させるように構成され、
充電過渡的レジメ及び放電過渡的レジメは、円筒プレートキャパシタの形態の各電気分解セルの構造によって定められる。
【0039】
直流電流パルスの構成並びに電気分解セルの充電及び放電過渡的レジメの決定は、波連としての、パルス信号の前のキャパシタの挙動を定める式の展開に対応し、これにより、セルの内部で生じる酸化還元反応に好都合な供給信号パラメータの最適な調整の決定が可能であることに留意することが重要である。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、直流電流パルスは、エレクトロライザの各電気分解セルがその対応する充電及び放電過渡的レジメで通電されるような振幅、持続時間及び周波数を含む。直流電流パルスは、エネルギー源の最大電圧又はピーク電圧(Vmax)と、実効平均電圧(Vaverage)とによって定められる振幅を有し、この実効平均電圧は、セル電位として知られる、電気分解セルの生成に好都合な最適電圧として定められる。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、直流電流パルスは、パルスの周期(T)に関連して、直流電流パルス持続時間の係数(D)又はワーキングサイクルによって定められる持続時間を有し、直流電流パルスの持続時間は、DとTとの間の積に対応し、ここでワーキングサイクルDは、以下の関係
【数10】
で定められる。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、直流電流パルスは、
【数11】
として定められる周波数(f)又は周期(T)を有し、ここでRCは、電気分解セルの容量的及び共振的挙動を表す時定数であり、V
cell(T)は、キャパシタの放電中に新たな直流電流パルスを受ける前のt=Tのときの各電気分解セルの電圧であり、V
cell(DT)は、キャパシタの充電中に電流パルスが終了したときのt=DTのときの電気分解セルの電圧である。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、直流電流パルスは、各電気分解セルを通って循環する電流フローを発生させ、電流フローは、
【数12】
として定められる。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、電気分解システムは、エネルギー源と通信する制御ユニットをさらに備え、制御ユニットは、エレクトロライザの1つ又は複数の電気分解セルが受ける直流電流パルスを提供するためにエネルギー源を動作させる。
【0045】
本発明の別の実施形態によれば、電気分解システムは、エネルギー源とエレクトロライザとの間に配置された1又は複数のスイッチと通信する制御ユニットをさらに備え、制御ユニットは、エレクトロライザの1つ又は複数の電気分解セルが受ける電流パルスの持続時間及び周波数を制御することによって各スイッチの投入又は開放を動作させる。制御ユニットは、エネルギー源によって提供される電気信号を逐次的に供給し、電気信号を所定時間にわたって電気分解セルに分配することにより、各電気分解セルに対する直流電流パルスを発生させることによって、スイッチを投入し又は開放することができ、この所定時間がパルス持続時間に対応する。さらに、制御ユニットは、エネルギー源によって提供される電気信号を逐次的に供給し、電気信号を所定時間にわたって電気分解セルの第1の群(グループ)(group)に分配し、ひとたびこの時間が終わると電気信号を電気分解セルの第2の群に所定時間にわたって分配し、以下同様に、周期T内で、動作している全群に対して行うことにより、スイッチを投入し又は開放することができる。この構成を通じて、直流電流パルスを、エレクトロライザの一部を形成する電気分解セルの各群に対して発生させ、ここで各群は、直列接続された1又は複数の電気分解セルによって形成される。決定された時間が、パルス持続時間に対応する。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、エレクトロライザは、電気分解セルの2以上の群を含み、電気分解セルの群同士は、並列接続される。本発明の一実施形態によれば、エネルギー源は、AC/DC変換器に接続された交流電流エネルギー源を含む。
【0047】
本発明の一実施形態によれば、還元反応は、外部電極の内側で起こり、酸化反応は、中心電極の外側で起こり、ここで酸化反応は、中心電極の内側でも代替的に起こる。本発明のこの実施形態によれば、中心電極は、その表面に、電極間空間と中心電極の内部空間とを連通させる1又は複数の開口部を備え、この開口部は、電極間空間と中心電極の内部空間との間での電解質の自由な循環を可能にする。中心電極の開口部(単数又は複数)は、酸化反応の生成物が中心電極の外側から中心電極の内部空間に循環することを可能にするように設けられる。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、開口部(複数)は、中心電極の異なる抽出ゾーン内に配置され、抽出ゾーンは、電極の少なくとも1つの部分、好ましくはその上部に沿って分布している。各抽出ゾーンは、中心電極の外側に配置された少なくとも1つの止め機構(stopping device)を備え、止め機構は、中心電極の外側での酸化反応の生成物の循環を防止し、生成物を穴又は開口部を通して中心電極の内部空間に搬送する。本発明の一実施形態によれば、電極間空間内の止め機構(単数又は複数)は、外部電極の内側付近に電解質のための循環空間を残して電極間空間内に延びており、循環空間は、還元反応の生成物の自由な循環のために設けられる。止め機構(単数又は複数)は、中心電極の外側に設けられた溝内に収容されたOリングに対応する。代替的な実施形態によれば、中心電極は、セルの内部で起こる反応の生成物の分離を促進する分離メッシュによって囲まれている。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、電気分解システムは、酸化反応生成物の1又は複数の抽出ダクトをさらに備え、ダクトの各々は、中心電極の内部空間と連通する。本発明のこの実施形態によれば、電気分解システムは、還元反応生成物の1又は複数の抽出ダクトをさらに備え、ダクトの各々は、電極間空間と連通する。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、エレクトロライザは、複数の電気分解セルによって形成され、電気分解セルは、1群以上の、直列接続したセルの群にグループ分けされ、直列接続した電気分解セルの群同士は、互いに並列接続する。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、電気分解セル(単数又は複数)は、垂直方向に配置され、大気圧で動作し、セルを構成する電極は、中空の垂直な管によって形成される。
【0052】
さらに、本発明は、上述のシステム内で酸化反応及び還元反応を行うための電気分解方法を含み、以下のステップ:
-既に説明した電気分解システムを設けるステップと、
-電気分解システムのエレクトロライザを形成する電気分解セル(単数又は複数)に直流電流パルスを印加するステップと、
-直流電流パルスを構成するステップであって、エレクトロライザの各電気分解セルが、
-各セルの充電過渡的レジメ下で電流パルスの持続時間にわたって動作し、
-各セルの放電過渡的レジメ下で電流パルス間の時間にわたって動作する
ように直流電流パルスを構成するステップと
が含まれ、充電過渡的レジメ及び放電過渡的レジメは、円筒プレートキャパシタの形態の各電気分解セルの構造によって定められる。
【0053】
最後に、本発明は、電気分解による水素及び酸素の生成のためのシステム及び方法、又はこの目的で以前に説明されたシステム及び方法の使用を含む。電気分解による水素及び酸素の生成の場合、溶融電解質は水ベースのものであり、電気分解システム及び装置は、水分子を分離することを可能にして、カソードにおいて水素及びアノードにおいて酸素を得る。水素及び酸素を得るための水の電気分解の場合、下記のように、酸化反応はアノードで起こり、還元はカソードで起こる:
アノード(酸化) 2H2O → O2 +4H+ + 4e
カソード(還元) 4H+ + 4e → 2H2
全反応 2H2O → 2H2(気体) + O2(気体)
【0054】
ここで生成される水素及び酸素は、それぞれカソード表面及びアノード表面上に気泡の形態で発生し、この気泡は、セル表面から脱離して上方に移動し、該当する気体の抽出ポイントに至る。
【0055】
本発明のシステム及び方法を通じて、改善された電気分解プロセスが達成され、これは、電気分解セルの共振的及び容量的設計に従って、エネルギー消費を最小化するため及び電気分解プロセスを最適化するために動作パラメータを調整することによって、プロセスの電気的効率を最大化する。さらに、これは、水素及び酸素の製造のための例えばアルカリ電気分解のような低コストの電気化学的プロセスの効率を改善することを可能にし、それゆえ、このようなプロセスの効率を改善し、その工業的規模での実施を可能にする。
【0056】
本出願の一部として、以下の図面が示され、これらは本発明の代表例であり、その好ましい実施形態を教示するものであり、したがって本出願によって特許請求される事項の定義を限定するものと解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1a】電流供給側から得られる電圧信号の挙動についてのチャート及び充電からの電圧信号の挙動についてのチャートである。
【
図1b】電流供給側から得られる電圧信号の挙動についてのチャート及び充電からの電圧信号の挙動についてのチャートである。
【
図2a】本発明の実施形態による電気分解システムのスキームを示す。
【
図2b】本発明の実施形態による電気分解システムのスキームを示す。
【
図3】本発明の実施形態による電気分解セルの電極の断面図を示す。
【
図4】本発明の実施形態による電気分解セルの下部の断面図を示す。
【
図5】本発明の実施形態による2つの電気分解セルの下部の断面図を示す。
【
図6】本発明の実施形態による電気分解セルの上部の断面図を示す。
【
図7】本発明の実施形態による電気分解システムの斜視図を示す。
【
図8】本発明の実施形態による電気分解プラントの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1a及び
図1bは、供給側(
図1a)及び充電側すなわち電気分解セル側(
図1b)双方での電気信号の挙動を示す、電圧対時間チャートを示す。
図1aから明らかなように、供給側の電圧信号の形態は、電流のパルシングの性質を反映し、D*Tの積によって与えられる持続時間(Δ)にわたって維持される最大電圧(V
max)を示し、ここでDは電流パルスの持続時間係数であり、Tはパルシング波の周期である。したがって、エネルギー源によって送達される電流の分布は、各電気分解セル上の電流区間のスキームで示され、波の周期の一部の間の最大電圧と、その周期の残りの部分の間のゼロ電圧とを示す。さらに、
図1bは、最大電圧が送達される波の周期の一部の間、電気分解システムによって形成される各電気分解セルが、t=DTのとき、キャパシタとして作用するセルの充電によって与えられるセル電圧V
cell(DT)に達することを反映する。
図1bのチャートにおいて、ひとたび電流パルスの持続時間が終わると、供給源によって送達される電圧がゼロになるステップにおいて、電気分解セルは、その放電相を開始し、これはt=Tにおいて、波の周期が終わり新たなパルスが始まると終了することもまた見てとることができる。このとき、セル電圧は、V
cell(T)によって与えられる。セル電圧の観点でキャパシタの充電及び放電プロセスを支配する式は、
【数13】
である。
【0059】
図2aは、エネルギー源11及びエレクトロライザを含む本発明の実施形態による電気分解システム10のスキームを示す。エレクトロライザは、同心円筒電極によって形成された第1の電気分解セル13.1を含む。この実施形態の下で、エネルギー源11は、本発明によるパルシング電流波で構成された電気信号を提供し、この信号をエレクトロライザ12の第1の電気分解セル13.1が受ける。この信号は、第1の電気分解セル13.1が、その設計特性に従って充電及び放電の過渡的レジメで動作するような、振幅、持続時間及び周波数を含む。
図2aはまた、エレクトロライザ12が、この事例では第1の電気分解セル13.1と直列に接続された、第2の随意的な電気分解セル13.2を含むことができることも示す。この実施形態の下で、エネルギー源11は、第1の電気分解セル13.1及び第2の電気分解セル13.2の両方が充電及び放電過渡的レジメで動作することを保証し得るパルシング電流波の振幅に合わせて設計されるべきである。この事例では両方のセルが直列接続されていることを考慮すると、その動作は同時である。両方のセル13.1、13.2が同一であるならば、エネルギー源11によって供給される電圧の分布は、等価な形態で動作する両方のセルで公平になるであろう。ここで、付加的な電気分解セルが直列接続された場合、エネルギー源11は、直列のすべてのセルが同時に動作するのに必要なエネルギーを提供するためのサイズとすべきであることに留意することが重要である。
【0060】
さらに、
図2bは、エネルギー源11’、エレクトロライザ12’、制御ユニット15及び少なくとも1つのスイッチ16.1を含む電気分解システム10’のスキームを示す。エレクトロライザ12’は、電気分解セルの第1の組14.1を含み、ここで本発明による2つ以上の電気分解セルによって形成されたこの組は、直列接続されている。この実施形態の下で、エネルギー源11’は、電気分解セルの第1の組14.1を動作させるための特定の強さ及び振幅の直流電流を提供する直流電流源とすることができる。制御ユニット15は、セルの第1の組に接続された第1のスイッチ16.1の投入又は開放を制御するように構成され、このスイッチは、回路を開いたとき又は閉じたときにセルの第1の組14.1に電流パルスを印加する役割を担う。第1のスイッチ16.1の投入又は開放により、セルの第1の組14.1の直列接続された電気分解セルに供給される電流パルスが発生する。別の実施形態によれば、電気分解システム10’は、セルの第1の組14.1に並列接続された電気分解セルの第2の組14.2を含むことができ、第2の組は第1の組と等価な形態で形成される。この実施形態によれば、電気分解システム10’は、セルの第2の組に接続された第2のスイッチ16.2も含み、これは第1のスイッチと同様の形態で、但しセルの第2の組14.2に関して動作を担当する。この実施形態によれば、制御ユニット15は、単一のエネルギー源11’に並列接続していることを利用してセルの第1の組14.1とセルの第2の組14.2とが逐次的に動作するように、第1のスイッチ16.1及び第2のスイッチ16.2の投入及び開放を連係させる。そのため、直列の一組のセルを動作させる電流電圧及びフローを提供するためのサイズの同じエネルギー源11’を、並列接続された二組のセルに供給するように動作させることができ、最初にセルの第1の組14.1を動作させるために第1のスイッチ16.1を投入し、ひとたびパルスに要する持続時間に従ってスイッチが開放されると、セルの第2の組14.2を動作させるために第2のスイッチ16.2が投入される。本実施形態を通じて、複数組の電気分解セルを用いた電気分解システムの設計が可能であり、複数の連係したスイッチの投入及び開放によってそれらのセルに給電し、単一のエネルギー源から複数組のセルにわたって直流電流を分配する。この電気分解プラントの設計は、特に本発明の手法に従って得られるパルス持続時間及び周波数の係数に関して、電流パルスの最適な持続時間及び特性に依存することに留意することが重要である。
【0061】
一例として、エレクトロライザ12’が直列接続された50個のセルで形成された電気分解セルの第1の組14.1を含み、各セルがピーク電圧2.5vを要する場合、これら50個のセルに給電するには125vの直流電流源が必要とされ、その125vを50個のセルの各々に対して等価な形態で分配する。この構成は、第1の群に並列接続される電気分解セルの付加的な群14.2で補充することができ、各群は、エネルギー源によって提供される直流電流のパルス化された分配のために、制御ユニットと通信するスイッチを有する。並列接続されるセルの群の数は、好ましくは、電流パルスの持続時間係数に従って定められる。
【0062】
図3は、本発明の好ましい実施形態による円筒電極21、22によって形成される電気分解セル20の電極のスキームを示す。この電極は、実質的に同心の円筒電極の配置によって構成され、中空の中心円筒電極21と、中心円筒電極21を取り囲む円筒形のマントルである外部電極22とが存在する。中心電極21は、内部空間23を定める。中心電極21において、酸化反応(水の電気分解の場合はO
2の発生)がある。外部電極22の内側22’で、還元反応(水の電気分解の場合H
2の発生)が起こる。双方の電極は、空間によって互いに隔てられ、その空間内に電解質が供給される(水素及び酸素の生成の場合には、電解質は水ベースである)。
【0063】
一実施形態によれば、中心電極21は、その表面に開口部を備え、電解質が中心電極の内部空間23に入ること及びイオンの循環を可能にするとともに、酸化反応が中心電極21の外側21’とその内側21”の両方で生じることを可能にする。付加的に、及び代替的に、中心電極21は、酸化ゾーン(中心電極21)を還元ゾーン(外部電極22)から分離するために設けられた物理的分離障壁を有する分離メッシュ24で囲まれてもよく、これにより電気分解セル内で生成される気体の分離を促進する。この配置下で、中心電極21は、分離メッシュ24と中心電極21の外側21’との間の距離を保つ分離手段(図示せず)を備え、外側21’の表面上での酸化生成物の生成を可能にする。さらに、この距離は、中心電極21の外側21’で発生した気体が、開口部を通って中心電極21の内部空間23に入ること、又は電極の外側21’を循環して、還元生成物の発生ゾーンに移動することなく抽出点に入ることのいずれによって、その抽出点まで循環することを可能にする。
【0064】
開口部に関して、代替的な実施形態によれば、これらは円形穴25’及び/又は連続溝25”によって形成することができる。開口部は中心電極21の少なくとも一部、好ましくはその上部に沿って分布し、電極間空間と中心電極21の内部空間とを連通させるために設けられた抽出ゾーン27内に分配される。
【0065】
好ましい実施形態による電極の構造的局面は、電気分解セルの容量的及び共振的特性を利用することを可能にし、セルの共振的局面を最大化することによって発生した気体で電極の壁が飽和することを防止し、過減衰の効果を含め、セルの容量的局面を利用したパルシング波の電流サプライにおける区間によって与えられるスタンバイサイクルにおいて一方の電極から他方の電極へのイオンの拡散及び移動を利用することを可能にする。
【0066】
図4は、電気分解セル20の下部の断面図を示し、中心電極21、外部電極22、分離メッシュ24及び内部空間23の好ましい配置を示す。さらに、中心電極21の延長部の上に分布した2つの抽出ゾーン25と、そのゾーン内の、この事例ではOリングとして形成された、止め機構26の配置とが示されている。他方、
図4に示された電気分解セルの下端部には、電解質の給送ダクト30の断面が見られ、このダクトは、電解質を電気分解セルに給送するために中心空間23及び/又は電極間空間と連通している。
【0067】
図5は、
図4による2つの電気分解セル20’及び20”の代表的スキームを電解質給送ダクト30の方向に沿った断面で示し、両方のセルが同じ電解質給送ダクト30を通じて接続している。この実施形態の下で、電気分解セル20’及び20”は、直列又は並列で電気的に接続することができるが、好ましい接続は、同じ電解質給送を共有することによる、それゆえ同時に電解質を分解するように動作することによる、直列の電気的接続である。
【0068】
図6は、その中で生じる酸化及び還元反応生成物の抽出点を示した電気分解セル20の上部の断面図を示す。実際、還元生成物の抽出ダクト31は、外部電極22の表面上で形成される還元生成物の回収のために外部電極22と連通するように示されている。さらに、中心電極21が還元生成物の抽出ダクト31を通って酸化生成物の抽出ダクト32まで延びている様子が示され、中心電極21の内部空間23は、酸化生成物の抽出ダクトと32連通している。この構成によれば、酸化反応生成物が循環して中心電極21の内部空間23に入るのに好都合な開口部及び止め機構26を有する抽出ゾーン25は、各生成物が異なる電極のサブ側(subside)で形成される電気分解プロセスの特性と相まって、電気分解生成物双方の分離を促進にすることを可能にし、これら生成物は、例えば圧縮及び貯蔵のための後のステップで用いるために、分離した抽出ダクト31、32で抽出される。
【0069】
図7は、複数の給送及び抽出ダクトと連通して設けられた複数の電気分解セルを含む、電気分解システム10”のスキームを示す。具体的には、
図7で表される実施形態は、
図5及び
図6と同様のスキームの下で、適用可能な電解質の給送ダクト(30.1、30.2、30.3、30.4及び30.5)並びに対応する還元反応生成物の抽出ダクト(31.1、31.2、31.3、31.4及び31.5)及び対応する酸化反応生成物の抽出ダクト(32.1、32.2、32.3、32.4及び32.5)によって結合された、電気分解セルの5つの群を示す。さらに、
図7は、電気分解セル内部の電解質の動作水位(operating level)41を保持し、それにより主給送ダクト30.0を通して電解質の給送ダクトへの給送を提供するように配置された給送タンク40を示す。給送タンク40は、プロセス中の電解質の分解を補償するために、外部からの電解質の給送通路42を備えてもよい。
図7の電気分解セルの配置は、本発明を利用するのに有用であり得、直列接続されてセルの群を形成するセルを含み、そのセルの群は、
図2bのスキームで述べたのと同様の方式で適正なサイズの電流パルスをセルの各群に提供するために、スイッチと、電流信号を分配する少なくとも1つの制御ユニットとを用いて並列接続される。
【0070】
最後に、
図8は、本発明のシステムを含む電気分解プラント50のスキームを示し、本発明において提示されたものと同じ概念の下で動作することができるセルの配置を生成し、主給送ダクト30.0’、30.0”と、反応生成物の主抽出ダクト31.0’、31.0”と、酸化反応生成物の主抽出ダクト32.0’、32.0”とを用いる。このスキームは、本発明の記述に従う電流及び電圧の要求をカバーするために、及び、本発明の記述に従う電流パルスの周波数及び持続時間の要件に従ってセルの各組の逐次的な生成をもたらするために、セルの各配置の給送のための1又は複数の給送源を設計することを可能にする。これにより、電気分解セルにおける電気分解プロセスの動作的局面が最適化されるのみならず、このタイプのシステムを例えば水素及び酸素を工業的規模で製造するための小型の電気分解プラントに設置することの工業的局面もまた最適化される。
【実施例】
【0071】
本発明によって提案される解決策の実施を例示するために、本発明のシステム及び方法を用いる、水の電気分解による水素及び酸素の製造を検討する。
【0072】
H2及びO2を発生させる水のアルカリ電気分解において、酸化及び還元のプロセスは、以下のように起こる。
酸化(アノード) 2H2O → O2+4H++4e
還元(カソード) 4H+ + 4e→2H2
全反応 2H2O → 2H2+O2
【0073】
1モルの水の電気分解は、1モルの水素気体及び0.5モルの酸素気体をその通常の二原子形態で生成する。プロセスの詳細な分析は、熱力学ポテンシャル及び熱力学の第1法則の使用を示す。このプロセスは、298°K及び圧力1気圧で行われるものとし、関連の値は、以下の熱力学的性質の表(表1)から取るものとする
表1
【0074】
プロセスは、解離のためのエネルギーに加えて、生成気体を膨張させるエネルギーを提供しなければならない。両方とも、上記表のエンタルピー変化に含まれる。温度298°K及び圧力1気圧において、システムの動作は下記の通りである。
【数14】
エンタルピーH=U+PVなので、内部エネルギーUの変化は、
【数15】
となる。
【0075】
この内部エネルギーの変化には、生成された気体の膨張が必ず伴うので、エンタルピーの変化が、電気分解を行うのに必要なエネルギーを表す。それにもかかわらず、エネルギー源がこのエネルギーの総計を電力として挿入することは必ずしも必要ではなく、なぜなら解離プロセス中にエントロピーが増大するからであり、温度Tの環境によってTΔS量が与えられ得る。このとき、エネルギー源が供給すべきエネルギーの量は、実際にはギブスの自由エネルギーの変化であり、これは以下のように表される。
【数16】
【0076】
電気分解プロセスの結果として、エントロピーが増大し、環境は、TΔS量を提供することによってプロセスを「助ける」。ギブスの自由エネルギーの有用性は、プロセスを実行するために供給されなければならない他のエネルギー形態の量を示すことにある。
【0077】
電気分解プロセスにおいて得られる質量を計算する実用的目的で、統一ファラデーの法則及び定電流の分布を考慮すると、式は下記のように表すことができる。
【数17】
【0078】
水素の場合、電気化学当量(electro-chemical equivalent)は、
【数18】
である。
【0079】
H2の化学当量及びファラデー定数の既知の値を用い、1秒間に1gのH2が発生すると考えると、以下が得られる。
I=95724.9A
【0080】
この情報により、セルの入力エネルギーを出力エネルギーと適合させる最適電圧を計算することが可能である。この場合、ひとたび1質量単位の反応生成物を生成するのに必要な電流が、その目的でこの生成物に対する化学当量を用いて得られると、1グラムのH
2の生成のためにセル入力において1秒間に必要とされる電気エネルギーを以下の式により求めることが可能である。
【数19】
【0081】
次いで、反応の熱生成物としての出力エネルギーを考え、この場合、1グラムのH2に含まれるエネルギーが120011J(低位発熱量)であることを考え、かつ100%電気的効率を考えると、以下の結果が得られる。
Voptimal=1.24[v]
【0082】
ここで、水素の生成のための電気分解プロセスは広く知られていることに留意することが重要であり、それゆえ該プロセスに付随する熱力学収支及び方程式を再び述べることは本発明の目的ではない。その権利を損なうことなく、この適用例によって示されるように、電気分解による水素の生成における反応に好都合な最適な印加は、約1.24ボルトであり、その結果、エネルギー転換の最大効率が得られる。
【0083】
最適電圧はまた、標準状態下での還元及び酸化プロセスに好都合な、各電極において測定される電位に対応する標準還元電位を適用することによって得ることができる。標準還元電位を用いて、アノードにおける酸化反応
【数20】
が1.229Vの還元電位を有すること、一方、カソードにおける還元反応(4H
++4e→2H
2)が0Vの電位を有することを定めることができ、この値が基準の還元電位として定められる。次いで、セルの電位(E°
cell)は下記のように計算することができる。
【0084】
ここでE°cathode及びE°anodeは、それぞれ、この反応についてのカソード及びアノードの電位標準に対応する。このとき、当該電気分解セルについて、セルの電位は、-1.229Vになり、これは水の電気分解による水素及び酸素の生成の非自発的反応を行うために必要な電位である。
【0085】
この電気分解プロセスの最適電圧及びセル設計の検討により、パルス持続時間、その周波数及び振幅といった電流電源供給の動作パラメータを得ることができ、このようにして電気分解セルを共振的及び容量的方式で動作させるのに必要な電圧を最小化することによって電流の印加が最適化される。実際、この値及び上記定義の式を用いることによって、電流パルスの持続時間係数は
【数21】
となる。次いで、設計パラメータを検討し、ここでt=DTにおけるセル充電電圧は、V
cell(DT)=2[v]であり、t=Tにおけるセル電圧は、V
cell(T)=1.8[v]であり、これらのパラメータは、セルの構造的局面に従って定められ、パルス波の周波数パラメータ(周期)は、
【数22】
である。したがって、パルス波の持続時間は、
【数23】
である。
【0086】
次いで、これらの設計パラメータの下でセルを通って流れる電流は、
【数24】
として構成される。
【0087】
Vmaxの幾つかの値に対してこの電流値を得る。
【0088】
V
max=2.52vの電源を考えると、所望される最適電圧に対してパルス持続時間係数は
【数25】
と決定することが可能である。次いで、周期及び周波数についての式、並びに設計パラメータに従う高キャパシタンスの電気分解セル、例えば1.1Fのキャパシタンスと、0.18オームのデューティサイクルをもたらす抵抗とを有する電気分解セルを検討すると、システムに電力を供給するパルス波周波数は約50Hz(周期0.02秒)であることを得ることができる。
【0089】
この情報から、セルを通って循環する電流を計算することが可能であり、それはこの場合、約7.19Aである。次いで、オームの法則を用いて、高キャパシタンスキャパシタの構造的パラメータの下、及び過渡的レジメにおける本発明の動作パラメータの下で、電気分解セルに最適電圧を印加すると、結果として、システムの見掛け抵抗0.17オームが得られることを立証することが可能であり、これは標準的な電気分解セルと比べて有利な状況である。実際、両方とも同じ振幅及び電流フローのパラメータの下で、直流電流を用いて標準的方式で動作する標準セル(表2)と、上述の解決策に従って動作する本発明によるセル(表3)との間で、下記の比較値が提示される。
表2
表3
【0090】
上記に鑑みて、同じレベルのH2製造に対して、本発明の電気分解システムを従来のシステムと比較して検討すると、セルのエネルギー消費を約40%削減することが可能であり、これはアルカリ電気分解を工業的規模で実施することの不利点を実質的に減らすことになる。従来の解決策の実施と本発明の解決策との間でもたらされる大きな違いは、キャパシタとしてのセルの構造的検討によって与えられ、セルを充電過渡的レジメ及び放電過渡的レジメの下で動作させるために、抵抗的局面に加えて、容量的及び誘導的局面を検討する。この手法の結果として各充電周期の開始時に電気分解セルに対して電流ピークが与えられ、これは見掛け又は換算実効抵抗に反映され、この場合には約0.17オームである。パルス波の供給によるこの電流ピーク及び過渡的レジメ下での動作を利用することが効率の増大につながり、これは従来のセルの動作を超えるものであり、アルカリ方式での水素及び酸素の製造のためのこの工業的解決策を競争力のあるものにする。
【0091】
ここで、前述の適用の例を他の電気分解プロセスに外挿することができることを強調しておくべきであり、このプロセスの最適電圧を計算するのに妥当なものとし、セルの容量的、誘導的及び共振的局面を強調すべき、充電及び放電双方での電気分解セルの過渡的レジメを検討する。
【符号の説明】
【0092】
10、10”:電気分解システム
11、11’:エネルギー源
12、12’:エレクトロライザ
13.1:第1の電気分解セル
13.2:第2の電気分解セル
14.1:電気分解セルの第1の組
14.2:電気分解セルの第2の組
15:制御ユニット
16.1:第1のスイッチ
16.2:第2のスイッチ
20、20’、20”:電気分解セル
21:中心電極
21’:中心電極の外側
21”:中心電極の内側
22:外部電極
22’:外部電極の内側
23:内部空間
24:分離メッシュ
25:抽出ゾーン
25’:円形穴
25”:連続溝
26:止め機構
30:電解質の給送ダクト
31:還元生成物の抽出ダクト
32:酸化生成物の抽出ダクト
40:給送タンク
41:動作水位
50:電気分解プラント