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特許7191411フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来のナノ小胞およびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来のナノ小胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/741 20150101AFI20221212BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221212BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20221212BHJP
【FI】
A61K35/741 ZNA
A61P29/00
A23L33/135
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021164124
(22)【出願日】2021-10-05
(62)【分割の表示】P 2020538572の分割
【原出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2022008864
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】10-2018-0004604
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0002607
(32)【優先日】2019-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516348577
【氏名又は名称】エムディー ヘルスケア インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MD HEALTHCARE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ユン-クン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511272(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008895(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/144139(WO,A1)
【文献】特表2013-530216(JP,A)
【文献】特開2013-147469(JP,A)
【文献】Vaccine Res., (2017), 4, [3], p.51-54
【文献】Front. Microbiol., (2017), 8, Article.1226<DOI:10.3389/fmicb.2017.01226>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 36/06-36/068
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
REGISTRY/CASREACCT/MARPAT/KOSMET/GSTA/RDISCLOSURE/ReaxysFile/CHEMCATS/AGRICOLA/BIOTEHNO/CABA/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)由来の小胞を有効成分として含む、抗炎症組成物。
【請求項2】
前記小胞の平均直径が10~200nmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記小胞が、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)から自然的または人工的に分泌される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
薬学的組成物又は食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)由来の小胞の、抗炎症組成物の製造のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)由来のナノ小胞およびその用途に関し、より具体的に、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイに由来するナノ小胞を用いた胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病などの診断方法、および前記小胞を含む前記疾患に対する予防、改善または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
21世紀に入ってから、過去には伝染病と認識された急性感染性疾患の重要性が減る一方、ヒトとマイクロバイオームとの不調和により発生する免疫機能の異常を伴った慢性炎症性疾患が生活の質とヒト寿命を決定する主な疾患となり疾患パターンが変わった。21世紀の難治性慢性炎症性疾患として、癌、心血管疾患、慢性肺疾患、代謝疾患、および神経精神疾患がヒトの寿命と生活の質を決定する主な疾患として国民保健に大きな問題となっている。
【0003】
人体に共生する微生物は100兆に至り、ヒト細胞より10倍多く、微生物の遺伝子数は、ヒトの遺伝子数の100倍を越えることが知られている。微生物叢(microbiotaあるいはmicrobiome)は、与えられた生息地に存在する真正細菌(bacteria)、古細菌(archaea)、真核生物(eukarya)を含んだ微生物群集(microbial community)を言う。
【0004】
人体に共生する細菌及び周辺環境に存在する細菌は、他の細胞への遺伝子、低分子化合物、タンパク質などの情報を交換するためにナノメートルサイズの小胞(vesicle)を分泌する。粘膜は、200ナノメートル(nm)サイズ以上の粒子が通過できない物理的な防御膜を形成する。粘膜に共生する細菌の場合には粘膜を通過できないが、細菌由来の小胞は、サイズが100ナノメートル以下であるので、比較的自由に粘膜を通じて上皮細胞を通過した後に人体に吸収される。局所的に分泌された細菌由来の小胞は、粘膜の上皮細胞あるいは皮膚角質細胞を通じて吸収されて局所炎症反応を誘導するだけでなく、人体に吸収されて各臓器に分布する。そして、吸収された臓器で免疫及び炎症反応を調節する。例えば、大腸菌(Eshcherichia coli)のような病原性グラム陰性菌に由来する小胞は、気道を通じて吸入されて肺気腫を誘発して慢性閉鎖性肺疾患(COPD)を誘導する。腸を通じて吸収された場合には、局所的に大腸炎を起こす。血管内では、血管内皮細胞炎症反応を通じて全身的な炎症反応及び血液凝固を促進させる。また、インシュリンが作用する筋肉細胞などに吸収されてインシュリン抵抗性と糖尿病を誘発する。一方、有益な細菌に由来する小胞は、病原性小胞による免疫機能の異常を調節して疾病を調節することができる。
【0005】
細菌に由来する小胞などの因子に対する免疫反応は、インターロイキン(Interleukin、以下、IL)-17サイトカインの分泌を特徴とするTh17免疫反応が発生する。これは、細菌由来の小胞に曝露されると、IL-6が分泌され、これがTh17免疫反応を誘導する。Th17免疫反応による炎症は、好中球浸潤を特徴とし、炎症が発生する過程でマクロファージ、好中球などのような炎症細胞から分泌される腫瘍怪死因子-α(tumor necrosis factor-alpha、以下、TNF-α)が疾病の発生に重要な役割を担う。
【0006】
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイは、ヒトの大腸に共生するグラム陽性細菌であって、食物繊維を発酵して酪酸のような短鎖脂肪酸を生産する細菌と知られている。前記細菌が減少しているとき、クローン病、肥満、喘息、およびうつ病と関連があると報告された。しかしながら、まだフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイが細胞外に小胞を分泌するという事実が報告されておらず、特に癌または心血管-脳疾患などのような難治性疾患の診断および治療に応用した事例は報告されたことがない。
【0007】
これより、本発明では、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が、正常ヒトに比べて胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者の臨床サンプルで有意に減少していることを確認して、疾患を診断することができることを確認した。また、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイから小胞を分離し特性を分析した結果、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病などの疾患に対する予防または治療用組成物として用いられることを確認した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、前記のような従来の問題点を解決するために、鋭意研究した結果、メタゲノム分析を通して正常ヒトに比べて胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者由来のサンプルでフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の含量が有意に減少していることを確認した。また、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ菌から小胞を分離してマクロファージに処理したとき、病原性小胞によるIL-6およびTNF-alphaの分泌を顕著に抑制することを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0009】
これより、本発明は、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防、改善、または治療用組成物を提供することを他の目的とする。
【0011】
しかしながら、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記の段階を含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0013】
また、本発明は、下記の段階を含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病の診断方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した細胞外小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNAに存在する遺伝子配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0014】
本発明の一具現例において、前記段階(a)でのサンプルは、便、血液、または尿でありうる。
【0015】
本発明の他の具現例において、前記段階(b)でのプライマーペアは、配列番号1および配列番号2のプライマーでありうる。
【0016】
また、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0018】
また、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または治療方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または治療用途を提供する。
【0020】
本発明の一具現例において、前記小胞は、平均直径が10~200nmのものでありうる。
【0021】
本発明の他の具現例において、前記小胞は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイから自然的または人工的に分泌されるものでありうる。
【発明の効果】
【0022】
本発明者らは、腸内細菌である場合には、体内に吸収されないが、細菌由来の小胞である場合には、上皮細胞を介して体内に吸収されて、全身的に分布し、腎臓、肝臓、肺を介して体外に排泄されることを確認し、患者の便、血液、または尿に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を通して胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者の便、血液、または尿に存在するフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が、正常ヒトに比べて有意に減少していることを確認した。また、腸内に共生するフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを分離して、これを体外で培養して小胞を分離し、体外で炎症細胞に投与したとき、病原性小胞による炎症メディエーターの分泌を有意に抑制することを観察したところ、本発明によるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞は、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病に対する診断方法、および前記疾患に対する食品または薬物などの予防、改善または治療用組成物に有用に用いられるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1a図1aは、マウスに細菌と細菌由来の小胞(EV)を経口投与した後、時間別に細菌と小胞の分布様相を撮影した写真であり、図1bは、経口投与した後12時間目に、血液、腎臓、肝、および様々な臓器を摘出して、細菌と小胞の体内分布様相を評価した結果である。
図2図2は、胃癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図3図3は、大腸癌患者および正常ヒトの便に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図4図4は、肝臓癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図5図5は、すい臓癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図6図6は、胆管癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図7図7は、卵巣癌患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図8図8は、膀胱癌患者および正常ヒトの血液存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図9図9は、リンパ腫患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図10図10は、心筋梗塞患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図11図11は、心房細動患者および正常ヒトの血液に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図12図12は、パーキンソン病患者および正常ヒトの尿に存在する細菌由来の小胞のメタゲノム分析を実施した後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を比較した結果である。
図13図13aおよび図13bは、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の炎症誘導効果を評価するために、様々な濃度のフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞をマクロファージに処理して、炎症メディエーターの分泌を病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)処理した場合と比較した結果であり、図13aは、IL-6の分泌を比較したものであり、図13bは、TNF-αの分泌を比較した結果である。
図14図14aおよび図14bは、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の抗炎症および免疫調節効果を評価するために、病原性小胞である大腸菌小胞(E.coli EV)の処理前にフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を前処理して、大腸菌小胞による炎症メディエーターの分泌に及ぼす影響を評価した結果であって、図14aは、IL-6の分泌を比較したものであり、図14bは、TNF-αの分泌を比較した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞およびその用途に関する。
【0025】
本発明者らは、メタゲノム分析を通して正常ヒトに比べて胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者由来のサンプルでフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の含量が顕著に減少していることを確認したところ、これに基づいて本発明を完成した。
【0026】
これより、本発明は、下記の段階を含む胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病の診断のための情報提供方法を提供する:
(a)正常ヒトおよび被検者のサンプルから分離した小胞からDNAを抽出する段階;
(b)前記抽出したDNAに対して16S rDNA塩基配列に基づいて作製したプライマーペアを用いてPCRを行った後、それぞれのPCR産物を収得する段階;および
(c)前記PCR産物の定量分析を通して正常ヒトに比べてフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の含量が低い場合、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病と判定する段階。
【0027】
本発明において使用される用語「診断」とは、広い意味では、患者の病の実態をすべての面にわたって判断することを意味する。判断の内容は、病名、病因、病型、軽重、病床の詳細な様態、合併症の有無、および予後などである。本発明において診断は、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、および/またはパーキンソン病などの発病の有無および疾患のレベルなどを判断することである。
【0028】
本発明において使用される用語「ナノ小胞(Nanovesicle)」あるいは「小胞(Vesicle)」とは、多様な細菌から分泌されるナノサイズの膜からなる構造物を意味する。グラム陰性菌(gram-negative bacteria)由来の小胞、または外膜小胞(outer membrane vesicles,OMVs)は、リポ多糖(lipopolysaccharide)だけでなく、毒性タンパク質および細菌DNAとRNAも有しており、グラム陽性菌(gram-positive bacteria)由来の小胞は、タンパク質と核酸の他にも、細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカン(peptidoglycan)とリポタイコ酸(lipoteichoic acid)も有している。本発明において、ナノ小胞あるいは小胞は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイから自然的に分泌されるかまたは人工的に生産されるものであって、球形の形態であり、10~200nmの平均直径を有している。
【0029】
本発明で用いられる用語「メタゲノム」とは、「群遺伝子」とも言い、土壌、動物の腸など孤立した地域内の全てのウイルス、細菌、カビなどを含む遺伝子の総和を意味するものであり、主に培養されない微生物を分析するために配列分析器を用いて一度に多くの微生物を同定することを説明する遺伝子の概念として用いられる。特に、メタゲノムは、一種のゲノム、遺伝子を言うものでなく、1つの環境単位の全ての種の遺伝子であって、一種の混合遺伝子を言う。これは、オミックス的に生物学が発展する過程で1つの種を定義するとき、機能的に既存の一種だけでなく、多様な種が互いに相互作用して完全な種を作るという観点から生じた用語である。技術的には、迅速な配列分析法を用いて種に関係なく全てのDNA、RNAを分析して、1つの環境内での全ての種を同定し、相互作用、代謝作用を解明する技法の対象である。
【0030】
本発明において、前記患者由来のサンプルは、便、血液、または尿でありうるが、これに制限されるものではない。
【0031】
本発明の他の様態として、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0032】
本発明のさらに他の様態として、本発明は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を有効成分として含む、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病よりなる群から選ばれる1つ以上の疾患の予防または改善用食品組成物を提供する。
【0033】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明による食品または薬物組成物の投与により胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、および/またはパーキンソン病などを抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0034】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明による食品または薬物組成物の投与により胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、および/またはパーキンソン病などに対する症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0035】
本発明において使用される用語「改善」とは、治療される状態と関連したパラメーター、例えば症状の程度を少なくとも減少させるすべての行為を意味する。
【0036】
前記小胞は、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを含む培養液を遠心分離、超高速遠心分離、高圧処理、押出、超音波分解、細胞溶解、均質化、冷凍-解凍、電気穿孔、機械的分解、化学物質処理、フィルターによる濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、フリーフロー電気泳動、およびキャピラリー電気泳動よりなる群から選ばれる1つ以上の方法を用いて分離することができる。また、不純物の除去のための洗浄、収得された小胞の濃縮などの過程をさらに含むことができる。
【0037】
本発明の実施例では、細菌および細菌由来の小胞をマウス経口で投与して細菌および小胞の体内吸収、分布、および排泄様相を評価して、細菌である場合には、腸粘膜を介して吸収されないのに対し、小胞は、投与5分以内に吸収されて全身的に分布し、腎臓、肝臓などを介して排泄されることを確認した(実施例1参照)。
【0038】
本発明の一実施例では、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者と、年齢と性別をマッチングした正常ヒトの便、血液、または尿から分離した小胞を用いて細菌メタゲノム分析を実施した。その結果、正常ヒトのサンプルに比べて、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、およびパーキンソン病患者の臨床サンプルでフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(実施例3~13参照)。
【0039】
本発明の他の実施例では、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを培養して、これから分泌された小胞が免疫調節および抗炎症効果を示すかを評価したが、多様な濃度のフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞でマクロファージを処理した後、炎症疾患の原因因子である大腸菌由来の小胞を処理して炎症メディエーターの分泌を評価した結果、大腸菌由来の小胞によるIL-6およびTNF-αの分泌をフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が効率的に抑制することを確認した(実施例15参照)。
【0040】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常的に用いられるものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、シクロデキストリン、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、リポソームなどを含むが、これに限定されず、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液など他の通常の添加剤をさらに含むことができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、潤滑剤などを付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒、または錠剤に製剤化することができる。適合な薬学的に許容される担体および製剤化については、レミントンの文献に開示されている方法を用いて各成分によって好適に製剤化することができる。本発明の薬学的組成物は、剤形に特別な制限はないが、注射剤、吸入剤、皮膚外用剤、または経口摂取剤などに製剤化することができる。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与するか非経口投与(例えば、静脈内、皮下、皮膚、鼻腔、気道に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者により適宜選択され得る。
【0042】
本発明による薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、薬学的に有効な量は、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時に用いられる薬物を含んだ要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による組成物は、個別治療剤で投与されるか他の治療剤と併用して投与され得、従来の治療剤とは順次または同時に投与され得、単一または多重投与され得る。上記した要素を全て考慮して副作用なしに最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者によって容易に決定され得る。
【0043】
具体的に、本発明による薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、体重によって変わることができ、一般的には、体重1kg当たり0.001~150mg、好ましくは0.01~100mgを毎日または隔日投与するか、1日1~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減することができるのであって、前記投与量はいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0044】
本発明の食品組成物は、健康機能食品組成物を含む。本発明による食品組成物は、有効成分を食品にそのまま添加するか、他の食品または食品成分と共に使用され得、通常の方法によって適切に使用され得る。有効成分の混合量は、その使用目的(予防または改善用)によって適宜決定され得る。一般的に、食品または飲料の製造時に、本発明の組成物は、原料に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかしながら、健康および衛生を目的とするか、または健康調節を目的とする長期間の摂取である場合には、前記量は、前記範囲以下であってもよい。
【0045】
本発明の食品組成物は、指示された割合で必須成分として前記有効成分を含有すること以外に他の成分には特別な制限がなく、通常の飲料のように様々な香味剤または天然炭水化物などを追加成分として含有することができる。上述した天然炭水化物の例は、単糖、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えばマルトース、スクロースなど;および多糖類、例えばデキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖、およびキシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールである。上述したもの以外の香味剤として天然香味剤(ソーマチン、ステビア抽出物(例えば、レバウディオサイドA、グリチルリチンなど)および合成香味剤(サッカリン、アスパルテームなど)を好適に用いることができる。前記天然炭水化物の割合は、当業者の選択によって適切に決定され得る。
【0046】
上記のほか、本発明の食品組成物は、様々な栄養剤、ビタミン、ミネラル(電解質)、合成風味剤および天然風味剤などの風味剤、着色剤および充填剤(チーズ、チョコレートなど)、ペクチン酸およびその塩、アルギン酸およびその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含有することができる。このような成分は、独立して、または組み合わせて用いることができる。このような添加剤の割合も、当業者によって適宜選択され得る。
【0047】
以下、本発明の理解を助けるための好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記の実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0048】
[実施例1.腸内細菌および細菌由来の小胞の体内吸収、分布、および排泄様相の分析]
腸内細菌と細菌由来の小胞が胃腸管を介して全身的に吸収されるかを評価するために、次のような方法で実験を行った。マウスの胃腸に蛍光で標識した腸内細菌と腸内細菌由来の小胞をそれぞれ50μgの用量で胃腸管に投与し、0分、5分、3時間、6時間、12時間後に蛍光を測定した。マウスの全体イメージを観察した結果、図1aに示されたように、細菌である場合には、全身的に吸収されなかったが、細菌由来の小胞である場合には、投与5分後に全身的に吸収され、投与3時間後には、膀胱で蛍光が濃く観察されて、小胞が泌尿器系に排泄されることが分かった。また、小胞は、投与12時間まで体内に存在することが分かった(図1a参照)。
【0049】
腸内細菌と腸内細菌由来の小胞が全身的に吸収された後、様々な臓器に浸潤された様相を評価するために、蛍光で標識した50μgの細菌と細菌由来の小胞を上記の方法のように投与した後、投与12時間後に便、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉を採取した。採取した組織で蛍光を観察した結果、図1bに示されたように、細菌由来の小胞が、便、血液、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、脂肪、筋肉、腎臓に分布したが、細菌は、吸収されないことが分かった(図1b参照)。
【0050】
[実施例2.臨床サンプルで細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
便、血液、尿などの臨床サンプルをまず10mlのチューブに入れ、遠心分離法(3,500×g、10min、4℃)で浮遊物を沈めて上澄み液のみを新しい10mlのチューブに移した。0.22μmのフィルタを用いて細菌および異物を除去した後、セントリプレップチューブ(centrifugal filters 50kD)に移し、1500×g、4℃で15分間遠心分離して50kDより小さい物質は捨てて10mlまで濃縮させた。さらに、0.22μmのフィルタ(filter)を用いてバクテリアおよび異物を除去した後、Type90tiローターで150,000×g、4℃で3時間の間超高速遠心分離方法を用いて上澄み液を捨て、固まったペレット(pellet)を生理食塩水(PBS)で溶かした。
【0051】
上記方法で分離した小胞100μlを100℃でボイルして内部のDNAを脂質の外に出るようにし、その後、氷に5分間冷ました後、残った浮遊物を除去するために、10,000×g、4℃で30分間遠心分離して上澄み液のみを集めて、Nanodropを用いてDNA量を定量した。以後、前記抽出されたDNAに細菌由来のDNAが存在するかを確認するために、下記表1に示した16S rDNAプライマー(primer)でPCRを行って、前記抽出された遺伝子に細菌由来の遺伝子が存在することを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
前記方法で抽出したDNAを前記の16S rDNAプライマーを用いて増幅した後にシーケンシングを行い(Illumina MiSeq sequencer)、その結果をStandard Flowgram Format(SFF)ファイルに出力し、GS FLX software(v2.9)を用いてSFFファイルをsequenceファイル(.fasta)とnucleotide quality scoreファイルに変換した後、リードの信用度評価を確認し、window(20bps)平均base call accuracyが99%未満(Phred score<20)である部分を除去した。Operational Taxonomy Unit(OTU)分析のためには、UCLUSTとUSEARCHを用いてシーケンス類似度によってクラスタリングを行い、属(genus)は94%、科(family)は90%、目(order)は85%、綱(class)は80%、門(phylum)は75%シーケンス類似度を基準にクラスタリングし、各OTUの門(phylum)、綱(class)、目(order)、 科(family)、属(genus)レベルの分類を行い、BLASTNとGreenGenesの16S RNAシーケンスデータベース(108,453シーケンス)を用いて属レベルで97%以上のシーケンス類似度を有する細菌をプロファイリングした(QIIME)。
【0054】
[実施例3.胃癌患者の血液内細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で胃癌患者66人および、年齢と性別をマッチングした正常ヒト198人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胃癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表2および図2参照)。
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例4.大腸癌患者の便細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で大腸癌患者29人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト358人の便を対象として、便内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの便に比べて大腸癌患者の便でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表3および図3参照)。
【0057】
【表3】
【0058】
[実施例5.肝臓癌患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で肝臓癌患者86人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト331人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて肝臓癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表4および図4参照)。
【0059】
【表4】
【0060】
[実施例6.すい臓癌患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法ですい臓癌患者176人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト271人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてすい臓癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表5および図5参照)。
【0061】
【表5】
【0062】
[実施例7.胆管癌患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で胆管癌患者79人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト259人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて胆管癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表6および図6参照)。
【0063】
【表6】
【0064】
[実施例8.卵巣癌患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で卵巣癌患者137人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト139人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて卵巣癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表7および図7参照)。
【0065】
【表7】
【0066】
[実施例9.膀胱癌患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で膀胱癌患者91人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト176人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて膀胱癌患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表8および図8参照)。
【0067】
【表8】
【0068】
[実施例10.リンパ腫患者の尿細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法でリンパ腫患者63人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト53人の血液に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べてリンパ腫患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表9および図9参照)。
【0069】
【表9】
【0070】
[実施例11.心筋梗塞患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で心筋梗塞患者57人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト163人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心筋梗塞患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表10および図10参照)。
【0071】
【表10】
【0072】
[実施例12.心房細動患者の血液細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法で心房細動患者34人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト62人の血液を対象として、血液内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの血液に比べて心房細動患者の血液でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表11および図11参照)。
【0073】
【表11】
【0074】
[実施例13.パーキンソン病患者の尿細菌由来の小胞のメタゲノム分析]
実施例2の方法でパーキンソン病患者39人と、年齢と性別をマッチングした正常ヒト76人の尿を対象として、尿内に存在する小胞から遺伝子を抽出してメタゲノム分析を行った後、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の分布を評価した。その結果、正常ヒトの尿に比べてパーキンソン病患者の尿でフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が有意に減少していることを確認した(表12および図12参照)。
【0075】
【表12】
【0076】
[実施例14.フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞分離および炎症誘導効果]
前記実施例の結果に基づいて、便からフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイを分離して培養した後、小胞を分離した。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ菌株を37℃嫌気性チャンバで吸光度(OD600)が1.0~1.5になるまでBHI(brain heart infusion)培地で培養した後、サブカルチャー(sub-culture)した。以後、菌株が含まれていない培地の上澄み液を回収して10,000g、4℃で15分間遠心分離し、0.45μmのフィルタに濾過した後、濾過した上澄み液を100kDa hollowフィルタメンブレインでQuixStand benchtop system(GE Healthcare,UK)を用いて限外濾過(ultrafiltration)を通じて200mlの体積に濃縮した。以後、濃縮した上澄み液をさらに0.22μmのフィルタで濾過し、濾過された上澄み液を150,000g、4℃で3時間の間超遠心分離した後、ペレットをDPBS(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)で懸濁した。次に、10%、40%、および50%オプティプレップ溶液(Axis-Shield PoC AS,Norway)を用いて密度勾配遠心分離を行い、低密度溶液の製造のためにオプティプレップ溶液をHEPES-buffered saline(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)に希釈して用いた。200,000g、4℃条件で2時間の間遠心分離を行った後、上層から1mlの同じボリュームで分画された各溶液を150,000g、4℃条件で3時間の間さらに超遠心分離を実施した。以後、BCA(Bicinchoninic acid)アッセイを用いてタンパク質を定量し、得られた小胞に対して実験を実施した。
【0077】
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が、炎症細胞で炎症メディエーターの分泌に対する影響を確認するために、マウスマクロファージ株であるRaw 264.7細胞にフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、炎症メディエーター(IL-6、TNF-α)の分泌量を測定した。より具体的に、Raw 264.7細胞を1×10個ずつ24-well細胞培養プレートに分注した後、24時間の間DMEM(Dulbeco’s Modified Eagle’s Medium)完全培地で培養した。以後、培養の上層液を1.5mlチューブに集めて、3000gで5分間遠心分離して、上層液を集めて4℃に保管しておいた後、ELISA分析を進めた。
【0078】
その結果、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞(FPN EV)を前処理した場合、大腸菌由来の小胞によるIL-6およびTNF-αの分泌に比べて炎症メディエーターの分泌が顕著に低いことを確認した(図13aおよび図13b参照)。
【0079】
[実施例15.フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞の抗炎症効果]
前記実施例の結果に基づいて、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が、炎症細胞で病原性小胞による炎症メディエーターの分泌に対する抗炎症効果を確認するために、マウスマクロファージ株であるRaw 264.7細胞にフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞を多様な濃度(0.1、1、10μg/ml)で処理した後、炎症疾患病原性小胞である大腸菌由来の小胞(E.coli EV)を処理して、炎症メディエーター(IL-6、TNF-α)の分泌量を測定した。より具体的に、Raw 264.7細胞を1×10個ずつ24-well細胞培養プレートに分注した後、24時間の間DMEM完全培地で培養した。以後、培養の上層液を1.5mlのチューブに集めて、3000gで5分間遠心分離して、上層液を集めて4℃に保管しておいた後、ELISA分析を進めた。
【0080】
その結果、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞(FPN EV)を前処理した場合、大腸菌由来の小胞によるIL-6およびTNF-αの分泌が顕著に抑制されることを確認した(図14aおよび図14b参照)。これは、大腸菌由来の小胞のような病原性原因因子により誘導される炎症の発生をフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞が効率的に抑制することができることを意味する。
【0081】
上述した本発明の説明は例示のためのもので、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更しなくても他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できる。したがって、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないものと理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ由来の小胞は、胃癌、大腸癌、肝臓癌、すい臓癌、胆管癌、卵巣癌、膀胱癌、リンパ腫、心筋梗塞、心房細動、またはパーキンソン病に対する診断方法、および前記疾患に対する食品または薬品などの予防、改善または治療用組成物として用いられるので、関連医薬品産業および食品産業に有用に活用され得るものと期待される。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14a
図14b
【配列表】
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