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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】円管の端部加工機
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/12 20060101AFI20221212BHJP
   B23C 1/20 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B23C3/12 D
B23C1/20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022090381
(22)【出願日】2022-06-02
【審査請求日】2022-06-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513080760
【氏名又は名称】日商テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095717
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 博文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恵智郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義夫
(72)【発明者】
【氏名】小川 正人
(72)【発明者】
【氏名】横山 達也
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-052402(JP,A)
【文献】特開2013-035102(JP,A)
【文献】実開昭57-126956(JP,U)
【文献】特開平11-114715(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1616370(KR,B1)
【文献】特表平02-500893(JP,A)
【文献】国際公開第2015/051111(WO,A1)
【文献】特開平07-276124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 3/04、 3/12
B23C 1/14、 1/20
B23B 5/16
B24B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
躯体フレームに設置されて加工対象の円管の管軸(以下、「円管軸」と言う。)前後水平方向に配置して軸回転自在に保持する円管保持機構部と、
前記躯体フレームの上部位置に設置して前記円管の上端縁部の削り代を設定する削り代設定手段を具備すると共に、前記円管に対して前後移動及び鉛直移動を可能とする機構をもった支持機構部と、
該支持機構部に吊り下げ状に支持されて前記円管の軸方向へ揺動可能に支持したエンドミルを備えた切削機構部と、
から成り、
前記支持機構部は、前記躯体フレームの上部位置に設置した支持基台フレームに支持され、該前記支持基台フレームに前後水平方向に取付けた平行2本のスライド支持ロッドに環装して摺動固定可能とする共に、2種の鉛直移動手段を具備して成ることを特徴とする円管の端部加工機。
【請求項2】
前記2種の鉛直移動手段が、
鉛直溝内のスライド移動によるスライド移動手段と、
立設配置した長ネジに沿った螺合移動による微細移動手段と、
から成ることを特徴とする請求項1記載の円管の端部加工機。
【請求項3】
前記円管保持機構部は、
前記躯体フレームに保持されて、かつ該躯体フレームに沿って鉛直移動可能に設置した載置盤の上面において、
前記円管軸と平行な回転軸をもって平行離隔配置した2本の下部ローラと、
該2本の下部ローラの上部位置の躯体フレームに配設した1本の上部ローラと、
により前記円管を3点支持するように構成し、
かつ、前記下部ローラの一方側に手動又は電動による軸回転駆動手段を連係させたことを特徴とする請求項1又は2記載の円管の端部加工機。
【請求項4】
前記2本の下部ローラの平行間隔を変更可能としたことを特徴とする請求項3記載の円管の端部加工機。
【請求項5】
前記切削機構部に保持されたエンドミルが、
円管軸に対して平行から垂直の範囲で揺動可能とすると共に、その適宜の揺動位置で固定可能としたことを特徴とする請求項1又は2記載の円管の端部加工機。
【請求項6】
前記載置盤の鉛直移動が、
手動、電動、又は油圧によるジャッキ手段によるものであることを特徴とする請求項3記載の円管の端部加工機。
【請求項7】
前記円管保持機構部で保持した円管において
その軸回転を維持しながら水平に支持する管受け支柱体を、円管延長方向の適宜の位置に配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の円管の端部加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る発明(以下、「本発明」という。)は、上水道、都市ガス、プラント設備の配管に用いる鋼製の断面円形の管体(以下、「円管」と称する。)について、その端部に対し溶接用の前処理を施す加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、円管の端部どうしを溶接する際には、管径に適した端部加工や開先加工などの前処理が施工されていた。これらの施工には、作業者がグライダーを用いて施工する方法が用いられていた。しかし、作業者の技量次第で開先の加工精度にバラツキがあり、かつ作業時間も長くなる課題があった。したがって、この課題を解消するために持ち運びが可能で、現場作業が可能な加工機が用いられていた。
【0003】
例えば、特許文献1に示す「金属管の開先切断装置」と称する加工機が提案されていた。この加工機は、金属管の側面を挟む一対のフレームを、間隔調整手段により連結し、該フレームの内面に、金属管の内面と当接して金属管の円周方向における一方向又は両方向に回転する回転ローラを有し、一方のフレームに回転モータを取り付け、該回転モータに金属管の断面方向に沿って回転する開先加工可能な回転刃を取り付けた構成である。この構成により、径が異なる複数サイズの鋼管の切断及び開先加工を施工することができるものであった。
【0004】
また、特許文献2に示す「開先の倣い加工装置」と称する別な加工機も提案されていた。この加工機は、ハウジングと、ハウジング前面に回転可能に設けられた面板と、面板に取付けられ、バイトを保持する工具ホルダとを備えて構成している。この構成により、同一バイトによって配管内面が切削できると共に、配管外面に対しても任意の形状に開先加工を施工することができるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-232514号公報
【文献】特開2005-138207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、昨今は表面にメッキ処理が施されている鋼製の円管、例えば、亜鉛メッキ鋼管を溶接する場合、溶接品質や溶接環境の向上を目的として、開先加工や端面処理の他に溶接近傍の管端部の外周面及び内周面のメッキ剥離加工が必要となっていた。また、このような溶接用の円管の配置場所は多岐にわたるため、当然に径が異なる複数サイズの円管に対する加工も必要とされていた。
【0007】
この観点に基づくと、上記の各特許文献の加工機は、以下の課題があった。
すなわち、特許文献1で開示された加工機は、フレームの間隔調整手段によって大きく異なる管サイズに対して開先加工を施工できるものであるが、回転刃の形状と管端部への接触姿勢若しくは態様が固定されているため、管端部の外周面及び内周面のメッキ剥離加工が困難であった。
【0008】
一方、特許文献2で開示された加工機は、開先加工及び管端部の外周面及び内周面のメッキ剥離加工も可能であるが、加工対象の管サイズに適応するようにハウジングと面板の大きさが設定されているため、外径が大きく異なる複数サイズの円管(例えば、管径65A~350A)に対する加工は困難であった。したがって、複数の管サイズに対応するためには、管サイズに適合した複数のハウジング及び面板を用意する必要があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、表層面に亜鉛メッキ処理等が施された鋼製の円管に対し、その端部における外周面及び内周面のメッキを剥離する程度の切削加工に加えて開先加工や端面加工を可能とし、さらに、複数の管サイズに適応可能な円管の端部加工機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため本発明に係る円管の端部加工機は、以下のように構成している。
【0011】
すなわち、円管の端部加工機は、躯体フレームに設置されて加工対象の円管の管軸(以下、「円管軸」と言う。)前後水平方向に配置して軸回転自在に保持する円管保持機構部と、前記躯体フレームの上部位置に設置して前記円管の上端縁部の削り代を設定する削り代設定手段を具備すると共に、前記円管に対して前後移動及び鉛直移動を可能とする機構をもった支持機構部と、該支持機構部に吊り下げ状に支持されて前記円管の軸方向へ揺動可能に支持したエンドミルを備えた切削機構部と、から成前記支持機構部は、前記躯体フレームの上部位置に設置した支持基台フレームに支持され、該前記支持基台フレームに前後水平方向に取付けた平行2本のスライド支持ロッドに環装して摺動固定可能とすると共に、2種の鉛直移動手段を具備して成ることを特徴としている。
【0012】
また、前記2種の鉛直移動手段は、鉛直溝内のスライド移動によるスライド移動手段と、立設配置した長ネジに沿った螺合移動による微細移動手段と、から成ることを特徴としている。
【0013】
さらに、前記円管保持機構部の一態様としては、前記躯体フレームに保持されて、かつ該躯体フレームに沿って鉛直移動可能に設置した載置盤の上面において、前記円管軸と平行な回転軸をもって平行離隔配置した2本の下部ローラと、該2本の下部ローラの上部位置の躯体フレームに配設した1本の上部ローラと、により前記円管を3点支持するように構成し、かつ、前記下部ローラの一方側に手動又は電動による軸回転駆動手段を連係させたことを特徴としている。なお、前記2本の下部ローラの平行間隔は変更可能な構成としてもよい。
【0014】
なお、前記切削機構部に保持されたエンドミルは、円管軸に対して平行から垂直の範囲で揺動可能とすると共に、その適宜の揺動位置で固定可能としてもよい。
【0015】
さらにまた、前記載置盤の鉛直移動は、手動、電動、又は油圧によるジャッキ手段から選択することが好ましい。
【0016】
加えて、前記円管保持機構部で保持した円管において、その軸回転を維持しながら水平に支持するための管受け支柱体を、円管延長方向の適宜の位置に配置してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、上記構成により、以下に挙げた効果を奏する。
ア)加工対象の円管を軸回転させながら、エンドミルを具備した切削機構部を、支持機構部で吊り下げ状にして支持すると共に、円管軸に対して平行から垂直の範囲で揺動可能ともしているため、円管の端面、端部の外内周面、及び開先加工を連続的に行なうことができる。
【0018】
イ)全体構成を移動可能な躯体フレームへ取付けて構成しているため、種々の作業現場に移動させて迅速な切削加工を行なうことができる。
【0019】
ウ)上記円管保持機構部は、円管の載置盤がジャッキ手段によって2本の下部ローラ体と上部ローラの平行間隔距離を可変可能としているため、径の異なる管径に対応することができ、汎用性を高めることできる効果を奏する。
【0020】
エ)支持機構部は、前後水平移動に加えて、2種の鉛直移動手段を具備しているため、異なる管径に迅速かつ適格な削り代を設定して切削加工を行なうことができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の円管の端部加工機の全体の外観を示す斜視図である。
図2図1のAA線断面図である。
図3】本発明の円管の端部加工機の円管保持機構部の作用を示す説明図(A)、(B)である。
図4】本発明の円管の端部加工機の支持機構部及び切削機構部を示す斜視図である。
図5】本発明の円管の端部加工機の支持機構部及び切削機構部を示す組立斜視図である。
図6】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の一部を示す縦断面図である。
図7】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の一部を示す組立斜視図である。
図8】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の一部と切削機構部を示す組立斜視図である。
図9】本発明の円管の端部加工機に付帯する管受け支柱体を示す斜視図である。
図10】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の作用を示す説明図(A)、(B)である。
図11】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の作用を示す説明図(A)、(B)である。
図12】本発明の円管の端部加工機の切削機構部の作用を示す説明図(A)、(B)である。
図13】本発明の円管の端部加工機の支持機構部の一部の作用を示す説明図(A)、(B)である。
図14】本発明の円管の端部加工機の加工バリエーションを示す説明図(A)、(B)、(C)、(D)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る円管の端部加工機1(以下、「本加工機」と称する。)の実施形態例(以下、「本実施例」という。)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明においては、本加工機1の全体を斜視図として表した図1において、図面右下側から図面左上方向への望視を正面(又は前面)とし、この正面側から図面左上方向を前後方向として定義する。また、左右は正面を基準とする。
【0023】
[本加工機の概要]
まず、本加工機1は、全体構成の基礎となる躯体フレーム2と、該躯体フレーム2の所定高さ位置で加工対象の円管Pを前後方向に軸回転可能にして水平保持する円管保持機構部3と、該円管保持機構部3の上部位置で躯体フレーム2に設置固定した支持機構部4と、該支持機構部4に吊り下げ状に支持されかつ鉛直方向及び前後方向への移動手段を備えた切削機構部5と、を主要構成要素として構成している。
以下に、上記各構成要素に分けて詳細に説明する。
【0024】
[躯体フレーム]
前記躯体フレーム2は、設置面(通常、床面)に平行配置した2本の設置ベース21と、設置ベース21の中央付近から立設させた支柱体22と、支柱体22の所定高さ位置に水平面をもって架設固定した略矩形状のベース盤24と、前記支柱体22の上端部どうしを架設固定してなる支持基台フレーム23と、から構成している。
【0025】
前記2本の設置ベース21の両端部付近には、水平調節用のアジャスタ21aを配置すると共に、設置ベース21と支柱体22とを連結する補強フレーム21bを配置している。なお、設置ベース21には、本加工機1の移動性を考慮して各アジャスタ21aの近傍にキャスター(図示省略)を配置してもよい。
【0026】
また、前記ベース盤24は、後述する円管保持機構部3を保持するために高剛性材から形成されており、前記支持基台フレーム23は後述する支持機構部4の全体を支持するため、高い剛性耐力をもった部材(例えば、鋳造品)で形成している。なお、支持基台フレーム23は、剛性耐力を損なわない程度に適宜形状の肉抜き加工(図面上、三角形開口)を施している。
【0027】
[円管保持機構部]
前記円管保持機構部3は、前記ベース盤24を基礎としてその上部に配置している。ベース盤24の所定高さ位置には、加工対象となる円管Pを載置状に保持するための載置盤31を配設している。さらに、載置盤31は、ベース盤24に設置したジャッキ手段32によって昇降可能に構成されている。
【0028】
なお、本実施例では、ジャッキ手段32として上下に伸縮する油圧ジャッキを用いているが、その他パンタグラフ型ジャッキ等、従来技術手段を適宜に選択可能である。また、載置盤31は、平行に立設対向させた支柱体22に沿わせるように配置したガイド体32aに嵌合して摺動昇降する構成となっている。
【0029】
載置盤31の上面には、回転軸を水平前後方向として2本の下部ローラ33、33を平行にして設置している。この2本の下部ローラ33の中間位置から鉛直上方位置に、軸平行にした上部ローラ35を支持基台フレーム23の下端部に垂下状に取付けている。この上部ローラ35と2本の下部ローラ33、33とが、円管Pの母線に接触して三点支持を成している。ここで、下部ローラ33と上部ローラ35の位置関係は、二等辺三角形を成し、これによって定位置での円管Pの保持と軸回転を維持するようにしている。
【0030】
さらに、一方側の下部ローラ33は、駆動手段と連係させて駆動ローラとしている。本実施例では、この駆動手段をモータ34と連係したべルト駆動としているが、ギア連係(図面省略)による駆動、または手動力による駆動としてもよい。
【0031】
かかる構成の円管保持機構部3は、図3に示すように、載置盤31の昇降によって異なる径の円管Pの保持と軸回転を可能としている。本実施例では、管径65A~350Aの円管の保持と軸回転を可能としている。なお、上記の下部ローラ間隔は、円管Pの定位置での軸回転の安定化を図るため、管径の大小に対応して拡狭する構成としてもよい。
【0032】
[支持機構部]
支持機構部4は、支持基台フレーム23の前面側に取付け配置している。支持基台フレーム23には、その中央左右位置で前面側に平行に突出させた2本の円柱状のスライド支持ロッド41、41と、スライド支持ロッド41に環装して水平前後方向にスライドする前後スライド支持体42と、この前後スライド支持体42に立設状に貫通保持されて円管端部の削り代を適宜に設定する削り代設定手段43と、削り代設定手段43の前後スライド支持体42を貫通して下方に露出した下端部に連結した連結ブロック44と、連結ブロック44に取付けられて切削機構部5を支持すると共に鉛直方向に移動可能に構成した鉛直移動支持体45と、から構成している。
【0033】
[前後スライド支持体]
前記した前後スライド支持体42は、逆凹形状の矩形ブロック状を成し、その前面からは前後方向に水平貫通させた平行2個の挿通口42a、42aを形成し、その一方側の開口縁部にはストッパー手段42bを設けている。本実施例では、このストッパー手段42bをレバー操作によってスライド支持ロッド41へ係合を締緩させて行っている。この構成により、前後スライド支持体42の水平前後方向の移動を適宜の位置で固定可能としている。
【0034】
また、前後スライド支持体42の上面の中央部には、鉛直方向に貫通させた取付口42cを形成し、これに削り代設定手段43を立設状に取り付けている。
[削り代設定手段]
【0035】
本実施例では、削り代設定手段43に螺合移動機構を採用しており、下端側を取付口42cに貫入させて立設保持している。詳しくは、取付口42cの上接部側にハウジング43aを介して当接させ、ハウジング43aに内接して鉛直方向に摺動する円柱状の移動体43bを設けている。この移動体43bは、下端部を前記の前後スライド支持体42を貫通して下面から露出させる一方、上端部はハウジング43aの上位部に軸受をもって回動自在に支持された長ネジからなるネジ部43cと所定の長さ(移動距離となる)をもって螺合させている。この移動体43bには、ハウジング43aの内周面と相俟って軸回転を防止する手段、例えば、軸方向の面取りやキー溝等を設けている。
【0036】
なお、削り代設定手段43は、軸回転を阻止して上下の鉛直移動のみを確保することを目的としているため、上記構成に限定することなく、他の従来公知の構成、例えば、ハウジング内周面に適合して摺動する移動体を矩形筒状に形成するようにしてもよい。
【0037】
また、ハウジング43aから上方に延出した前記ネジ部43cの上端部付近には、軸回転用の手動ハンドル43dを取付けている。一方、前記移動体43bの前後スライド支持体42から露出した下端部には、後述する切削機構部5と連係するための連結ブロック44を取付けている。
【0038】
さらに、上記ハウジング43aの円筒部分の側面には、移動体43bをハウジング43aに対し適宜位置での固定と解除を行うための締緩レバー43eを配設している。
【0039】
上記構成の削り代設定手段43は、手動ハンドル43dの回転操作によりネジ部43cと螺合した移動体43bを上下動させ、さらにその下端部に取付けた連結ブロック44を鉛直方向に移動させるようにしている。この操作による鉛直移動距離は、ネジ部43cのピッチに応じた微細な移動手段として機能する。これにより、後述の切削機構部5を構成するエンドミル51による削り代を的確に設定することができる。
【0040】
[連結ブロック]
連結ブロック44は、水平上面と直角な鉛直面を正面とした略三角柱体状(一部肉抜き有)を呈しており、正面側の鉛直面には、鉛直移動支持体45を保持固定するための締結孔44aを形成している。なお、この締結孔44aは雌ネジに形成している。
【0041】
また、連結ブロック44の水平上面の前側には、鉛直移動支持体45の鉛直移動を補助する所定長さのコイルバネ44cを環装したガイドポスト44bを立設している。
【0042】
[鉛直移動支持体]
鉛直移動支持体45は、前記の連結ブロック44を介して前後スライド支持体42及び削り代設定手段43と連結すると共に、切削機構部5の取付け基礎として機能するものである。
【0043】
詳しくは、図4図8に示したように、鉛直移動支持体45は、正面に向かって矩形フレーム状を成す支持基礎フレーム45aと、その左右両側からそれぞれ前面側に延出させた両翼部材45bとを一体的に形成している。両翼部材45bは、支持基礎フレーム45aから直角にかつ鉛直な側面をもって延出するように形成しており、側面視で略三角形状を呈している。本実施例での鉛直移動支持体45は、高剛性耐力を目的として鋳造形成品を採用すると共に、剛性を損なわない程度に適宜形の肉抜きをして軽量化を図っている。
【0044】
また、鉛直移動支持体45は、支持基礎フレーム45aの前面中央部に鉛直方向に沿って開口した縦長孔45cを形成している。この縦長孔45cには、これを貫通して前記連結ブロック44の締結孔44aと螺合する固定レバー45dを取付けている。詳述すると、固定レバー45dの雄ネジを連結ブロック44の締結孔44aに締緩自在にして固定している。加えて、連結ブロック44の正面両側の隅角部を削除して正面凸部に形成し、この凸部に倣う凹部を支持基礎フレーム45aの後方面側に形成して適合させることにより、上下摺動時の振れを解消するようにしている。
【0045】
さらに、支持基礎フレーム45aの両翼部材45bの手前側の対向位置に、架け渡すようにして鉛直操作バー45jを取付け配置している。
【0046】
上記のように構成することにより、鉛直移動支持体45は、鉛直操作バー45jを把持して鉛直移動をさせると共に、これに従って支持基礎フレーム45aに形成した縦長孔45cを移動する固定レバー45dを締結することにより、連結ブロック44に対して所望位置での固定を可能としている。
【0047】
さらにまた、鉛直移動支持体45の支持基礎フレーム45aの上端部には、連結ブロック44に立設したガイドポスト44bの上端と連係する上部鍵状にしたガイド板45eを配置している。この連係によって、ガイドポスト44bは、鉛直移動支持体45の鉛直移動時のガイドとして機能すると共に、環装したコイルバネ44cの弾発力より、鉛直移動支持体45の下降移動時の緩和と上昇移動時の補助を図っている。また、コイルバネ44cは切削機構部5からの振動の吸収にも寄与している。
【0048】
鉛直移動支持体45の各両翼部材45bの手前側端部付近には、ピン状の揺動軸45fを貫挿するための通孔45gを形成している。この揺動軸45fの取付けにより、後述する切削機構部5の支持部材53を揺動自在に支持している。加えて、通孔45gを回転中心とする円弧状の揺動開口45hを各両翼部材45bに形成し、その揺動開口45hを両側から水平対向状に貫通させた位置固定レバー45iを配設している。この位置固定レバー45iは、支持部材53に締結(螺合)させて支持部材53を所定の揺動位置にて固定及び解除する手段として機能する。
【0049】
なお、前記鉛直操作バー45jの操作によって、鉛直移動支持体45だけでなく切削機構部5の全体を適宜の位置まで昇降させることも可能となっている。
【0050】
[切削機構部]
切削機構部5は、前記したように鉛直移動支持体45に揺動自在に取付けられている。詳しくは、切削機構部5は切削刃となるエンドミル51を回転駆動させる駆動源を内蔵する駆動本体52と、駆動本体52を鉛直移動支持体45に対し揺動可能に支持するための支持部材53と、から構成している。この切削機構部5は、専用に設計して構成してもよいが、その他、既製のディスクグラインダー(通称)のディスクを専用のエンドミル51に交換して用いてもよい。
【0051】
支持部材53は、図4、5、8に示したように、駆動本体52のエンドミル配置部付近の両側を挟持すると共に外側に翼状または角状に突出した対向翼部53aと、この対向翼部53aを駆動本体52の背部側(手前側)で結び、かつ背部に沿って下方に延設してなる略T字状の支持盤53bと、から成り、全体の保形性を高めるためT字の端部付近どうしを結ぶ補強部材を配置して一体成形化している。全体の概観視としては、略逆三角形状を呈している。
【0052】
また、対向翼部53aには、鉛直移動支持体45の両翼部材45bに形成した通孔45gと同通して揺動軸45fが貫入する軸支孔53dを形成している。また、この軸支孔53dの上部位置には、前記した両翼部材45bの揺動開口45hを移動する位置固定レバー45iが締緩自在に螺合する取付孔53eを形成している。
【0053】
さらに、支持盤53bの前面側には、切削機構部5に配設保持したエンドミル51の揺動操作を行なうため把持棒状の揺動操作バー53cを取付けている。これによりエンドミル51の円管端部への接触位置や状態を的確に設定することを容易にしている。そして、位置固定レバー45iの螺合締結状態を操作することにより、設定した揺動位置で切削機構部5を強固に維持固定している。
【0054】
[管受け支柱体]
本加工機1には、長尺な円管Pを対象として、躯体フレーム2から外側に突出した部分の受け手段として管受け支柱体6を適宜に付帯させている。この管受け支柱体6は、三脚61の支持により立設された柱体と、この柱体から進退出する昇降ロッド62と、その上端部に配置した転動自在な2個の支持球63と、から構成している。
【0055】
[作用]
次に、本加工機1の作用、つまり円管端部への加工処理手順を説明する。
【0056】
[円管の設置と保持力の調整]
まず、円管保持機構部3に加工対象の円管Pを搬入して保持する。円管Pは躯体フレーム2の開放した後側から搬入し、水平状態をもって2本の下部ローラ上に載置する。載置後は載置盤31をジャッキ手段32によって上昇させて、円管Pの上部側面を上部ローラ35に当接させて挟持する。この挟持具合は、下部ローラ33の駆動ローラを介してモータ34からの回転駆動力が円管Pに伝達して円滑に回転する程度としている。
【0057】
なお、切削機構部5は支持機構部4によって、円管搬入や載置の障害とならない位置に予め退避させておくとよい。また、円管Pが躯体フレーム2から後方に大きく突出する長尺の場合には、高さ調整した管受け支柱体6を配置して突出側の端部を回転自在に保持するようにする。
【0058】
[支持機構部の調節]
円管Pの載置及び挟持による保持状態の調節後には、切削機構部5のエンドミル51と円管端部との接触度合いについて支持機構部4を介して調節する。
[円管軸に対し平行の前後スライド支持体の調節]
【0059】
まず、水平前後方向の調節は、支持機構部4の前後スライド支持体42をもって行う。具体的には、支持基台フレーム23に固定したスライド支持ロッド41に対して前後スライド支持体42を摺動させ(図10、dx)、ストッパー手段42bにて適宜の位置で固定する。ここで、水平前後方向の調節は、円管Pを水平状態に載置及び保持しているため、円管軸に対して平行な移動及び調節となる。
[円管軸に対し垂直の鉛直移動支持体の調節]
【0060】
次に、鉛直方向の調節は、支持機構部4の鉛直移動支持体45をもって行う。具体的には、連結ブロック44と締結した固定レバー45dを緩めて、鉛直移動支持体45の全体を縦長孔45cの形成範囲内で鉛直操作バー45jを把持しながら上下動させ(図11、dy)、移動後は固定レバー45dを締めて固定する。この移動時にはガイドポスト44bのコイルバネ44cの弾発力がクッションになり、急激な落下防止や上昇補助に資することになる。ここで、鉛直方向の調節は、円管Pを水平状態に載置及び保持しているため、円管軸に対して垂直な移動及び調節となる。
【0061】
[円管軸に対して傾斜角の調整]
最後に、エンドミル51の円管端部に対する接触状態を調整する。ここで、円管端部の端面を加工する場合は、エンドミル51の底面を接触させて加工する。外周面及び内周面を加工する場合は、エンドミル51の側面を接触させて加工する。このため、円管Pの端面、外周面、及び内周面を加工する場合は、エンドミルの回転軸と円管軸は平行となり、支持機構部4の鉛直移動支持体45に対して切削機構部5は揺動角θを設定する必要がない。
【0062】
一方、円管端部に対して開先加工をする場合には、揺動角θを設定する必要がある。この場合、切削機構部5の支持部材53を支持機構部4の鉛直移動支持体45に対して揺動させる。具体的には、支持部材53と締結によって固定した位置固定レバー45iを緩めて、支持部材53の全体を揺動軸中心に揺動開口45hの範囲内で揺動させ(図12、θ)、揺動後は位置固定レバー45iを締めて固定する。この揺動調節の際には、支持部材53の揺動操作バー53cを把持すると調節作業が容易となる。
【0063】
[削り代の設定と加工処理]
エンドミル51の円管端部への接触度合いの調節後は、以下のように削り代設定手段43を操作して削り代量を調節する。
【0064】
まず、締緩レバー43eを緩めてハウジング43aに対する移動体43bの固定を解除する。次に手動ハンドル43dを回転操作して移動体43bの降下を介してエンドミル51を降下させ、円管端部へ削り代量を調節する(図13、dz及び図14、dz)。
【0065】
調節後は、締緩レバー43eを締めて移動体43bをハウジング43aに固定し、エンドミル51を回転駆動させると共に円管保持機構部3によって円管Pを回転させて切削加工処理を行う。なお、削り代が大きい場合は、エンドミル51に対する反動により加工機全体へのビビリが大きくなる恐れがあるので、手動ハンドル43dの操作と締緩レバー43eの操作を組み合わせ、つまり、移動体43bの微小移動と固定を適宜に組み合わせて行うようにする。
【0066】
本加工機1は、上記の調節及び操作によって、円管端部に対して図14の(A)~(D)に示す加工処理が可能となっている。すなわち、端面Ptの加工であれば、(A)のように、エンドミル51の底面を接触させての下方移動となる。外周面Poの加工であれば、(B)のように、エンドミル51の側面を上方から接触させての下方移動となる。内周面Piの加工であれば、(C)のように、エンドミル51の側面を下方から接触させての上方移動となる。外周縁の開先面Pkの加工であれば、(D)のように、揺動させたエンドミル51の底面を接触させての下方移動となる。
【0067】
[保持力の解除と搬出]
円管Pに対する加工処理の終了後は、円管保持機構部3による円管Pの回転、及びエンドミル51の回転駆動を停止する。次に、エンドミル51を支持機構部4による接触状態を回避する程度に退避させる。エンドミル51の退避後は載置盤31を降下させて円管Pの挟持を緩めて保持力を解除すると共に搬出作業のスペースを確保する。その後、円管Pを後側へ搬出させると共に、適宜に新たな加工対象の円管Pを搬入する。
【符号の説明】
【0068】
1 本加工機
2 躯体フレーム
21 設置ベース
21a アジャスタ
21b 補強フレーム
22 支柱体
23 支持基台フレーム
24 ベース盤
3 円管保持機構部
31 載置盤
32 ジャッキ手段
32a ガイド体
33 下部ローラ(1本は駆動ローラ)
34 モータ
35 上部ローラ
4 支持機構部
41 スライド支持ロッド
42 前後スライド支持体
42a 挿通口
42b ストッパー手段
42c 取付口
43 削り代設定手段
43a ハウジング
43b 移動体
43c ネジ部
43d 手動ハンドル
43e 締緩レバー
44 連結ブロック
44a 締結孔
44b ガイドポスト
44c コイルバネ
45 鉛直移動支持体
45a 支持基礎フレーム
45b 両翼部材
45c 縦長孔
45d 固定レバー
45e ガイド板
45f 揺動軸
45g 通孔
45h 揺動開口
45i 位置固定レバー
45j 鉛直操作バー
5 切削機構部
51 エンドミル
52 駆動本体
53 支持部材
53a 対向翼部
53b 支持盤
53c 揺動操作バー
53d 軸支孔
53e 取付孔
6 管受け支柱体
61 三脚
62 昇降ロッド
63 支持球
P 円管
Pt 端面
Po 外周面
Pi 内周面
Pk 開先面
θ 揺動角
【要約】
【課題】亜鉛メッキ処理された鋼製円管の端部の外内周面のメッキを剥離する切削加工に加えて開先及び端面加工を可能とし、複数の管サイズにも適応する円管の端部加工機を提供する。
【解決手段】当該加工機1は、躯体フレーム2に設置されて加工対象の円管Pを管軸前後方向を水平配置して軸回転自在に保持する円管保持機構部3と、躯体フレームの上部に設置して円管上端縁部の削り代を設定する削り代設定手段を具備すると共に、円管に対し前後移動及び鉛直移動可能な機構をもった支持機構部4と、支持機構部に吊り下げ状に支持されて円管軸方向へ揺動可能に支持したエンドミルを備えた切削機構部5と、から構成する。支持機構部は、躯体フレームの上部位置に設置した支持基台フレーム23に支持され、前後水平方向移動手段と2種の鉛直移動手段を具備する。また、必要により管軸延長方向に管受け支柱体6を配置している。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14