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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】酵素又は微生物固定化用担体
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/08 20200101AFI20221212BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20221212BHJP
   C02F 1/00 20060101ALI20221212BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20221212BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C12N11/08
C02F3/34 101A
C02F3/34 101D
C02F1/00 P
C02F3/10 A
C08F290/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018067564
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019176773
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大西 賢午
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-157582(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103194436(CN,A)
【文献】特開2010-142723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和基含有樹脂(A)、1分子中に少なくとも1個の重合性不飽和結合と第2級もしくは第3級アミノ基とを有するアミン化合物(B)、重合開始剤(C)、アルカリ金属イオン又は多価金属イオンとの接触によりゲル化する能力のある水溶性高分子多糖類(D)及び平均粒子径1μm~5μmのポリマー系中空粒子(E)を含む組成物(I)であって、重合性不飽和基含有樹脂(A)の固形分合計100質量部に対して、ポリマー系中空粒子(E)を0.1~60質量部含む組成物(I)をゲル化させ、次いで該ゲル化物を硬化させることで得られる、酵素又は微生物固定化用担体の製造方法であって、
平均比重が1.00~1.03の範囲内で、かつ比重分布値が0.21%以下であることを特徴とする酵素又は微生物固定化用担体の製造方法
【請求項2】
硝化槽と脱窒槽との間を循環通水させて生物学的処理を行なう有機性廃水の処理方法において、請求項に記載の酵素又は微生物固定化用担体を硝化槽に投入してなる有機性廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素又は微生物固定化用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素又は微生物の固定化法としては、従来から、包括法、付着法、担体結合法等が行なわれているが、なかでも包括法、付着法は菌体固有の生理、代謝にもとづく反応を効率良く利用できるため、発酵、微生物変換、廃水処理等の分野で注目されている。上記酵素又は微生物を固定化するためには、通常、酵素又は微生物固定化用担体が利用されるが、該固定化用担体として多孔質無機担体を用いた場合、担体への微生物の付着性が悪く、さらに付着後担体上で増殖した菌体が剥離しやすいという欠点を有する。また、無機質担体は一般に水より比重が大きく、流動層型バイオリアクターの固定化物粒子として用いると流動操作が難しいという欠点を有する。
【0003】
一方、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の親水性樹脂、高酸価不飽和アクリル樹脂、不飽和ポリエチレングリコール等の親水性光硬化樹脂は、包括固定化法等に好適な固定化用担体であり、これらの樹脂水溶液や水分散液に微生物菌体を分散して粒状にゲル化させた固定化物粒子は含水ゲル化物のために比重が水の比重に近く、微生物の付着性や増殖性も良好であり、流動層型バイオリアクターの固定化物粒子として提案され、広く利用されている(特許文献1参照)。このようなバイオリアクターでは、槽内部において担体を流動させるために行なわれる攪拌や曝気のエネルギーを最小限に抑えて運用コストを削減するため、反応槽内に部分的に滞留することなく十分に流動できる低比重の担体が求められる場合があり、比重調整用の無機質系中空ビーズ(中空ガラスビーズ又は中空セライト)や中空ポリマー粒子を担体に含有させることが提案されている(特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの親水性樹脂を用いる固定化用担体は含水ゲル化物として使用されるため、機械的強度が弱く、リアクターの操業中に破損しやすく作業性が悪いという欠点があり、また無機質系中空ビーズを担体に含有させる方法では比重が均一な担体を製造することが容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭62-19837号公報
【文献】特開平10-168105号公報
【文献】特開2002-265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、比重が均一でかつ貯蔵安定性に優れる酵素又は微生物固定化用担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、
重合性不飽和基含有樹脂(A)、1分子中に少なくとも1個の重合性不飽和結合と第2級もしくは第3級アミノ基とを有するアミン化合物(B)、重合開始剤(C)、アルカリ金属イオン又は多価金属イオンとの接触によりゲル化する能力のある水溶性高分子多糖類(D)及び平均粒子径1μm~5μmのポリマー系中空粒子(E)を含む組成物(I)を用いた酵素又は微生物固定化用担体であって、
平均比重が1.00~1.03の範囲内で、かつ比重分布値が0.21%以下であることを特徴とする酵素又は微生物固定化用担体に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、比重が均一でかつ貯蔵安定性に優れる酵素又は微生物固定化用担体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の酵素又は微生物固定化用担体について、さらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の酵素又は微生物固定化用担体は、平均比重が1.00~1.03、好ましくは1.005~1.025の範囲内であり、かつ比重分布値が0.21%以下、好ましくは0.20%以下である。
【0011】
比重分布値は、各担体粒子の比重の最大値と最小値の差引値をRとし、全担体粒子の比重の平均値をXとして、次式によって表される数値である。
【0012】
比重分布値(%)=〔R/X〕×100
比重分布値は、ポリマー系中空粒子(E)の粒径及び粒径分布等によって制御される。
【0013】
また、全担体粒子の比重は上記X±0.001、好ましくはX±0.0009の範囲内であることが好ましい。
【0014】
(A)重合性不飽和基含有樹脂
本発明において、微生物固定化用担体の製造に用いられる重合性不飽和基含有樹脂(A)は1分子中に少なくとも2個の重合性不飽和結合を有する親水性樹脂である。
【0015】
重合性不飽和基含有樹脂(A)としては、一般に、300~30000、好ましくは500~20000の範囲内の数平均分子量を有し、水性媒体中に均一に分散するに充分なイオン性又は非イオン性の親水性基、例えば水酸基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、エーテル結合等を含むものが好適に使用される。そのような重合性不飽和基含有樹脂(A)としては、包括固定化用の光硬化性樹脂として既に知られているものを同様に用いることができるが、代表的なものとしては以下に記載するものを挙げることができる。
(i) ポリアルキレングリコールの両末端に光重合又は熱重合可能なエチレン性不飽和基を有する化合物:例えば、
(i-1) 分子量200~20000のポリエチレングリコールの両末端水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化したポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類。
(i-2) 分子量200~6000のポリプロピレングリコールの両末端水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化したポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類。
(i-3) 分子量200~20000のポリエチレングリコールの両末端水酸基をトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物でウレタン化し、次いで(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の不飽和モノヒドロキシエチル化合物を付加した不飽和ポリエチレングリコールウレタン化物。
(i-4) 分子量200~6000のポリプロピレングリコールの両末端水酸基をトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物2モルでウレタン化し、次いで(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の不飽和モノヒドロキシ化合物を付加した不飽和ポリプロピレングリコールウレタン化物、
(i-5) 分子量200~20000のポリエチレングリコール及び分子量200~6000のポリプロピレングリコールのランダム共重合体の両末端水酸基をトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物でウレタン化し、次いで(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の不飽和モノヒドロキシエチル化合物を付加した不飽和ポリエチレングリコールウレタン化物、など。
(ii) 高酸価不飽和ポリエステル樹脂:
例えば、不飽和多価カルボン酸を含む多価カルボン酸成分と多価アルコールとのエステル化により得られる酸価が40~200の不飽和ポリエステルの塩類など。
(iii) 高酸価不飽和エポキシ樹脂:
例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボキシル化合物との付加反応物に残存するヒドロキシル基に酸無水物を付加して得られる酸価40~200の不飽和エポキシ樹脂など。
(iv) アニオン性不飽和アクリル樹脂:
例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる少なくとも2種の(メタ)アクリル系モノマーを共重合させて得られるカルボキシル基、リン酸基及び/又はスルホン酸基を含有する共重合体に熱重合可能なエチレン性不飽和基を導入した樹脂など。
(v) 不飽和ポリアミド:
例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどのジイソシアネートとアクリル酸2-ヒドロキシエチルなどのエチレン性不飽和ヒドロキシ化合物との付加物をゼラチンなどの水溶性ポリアミドに付加反応させた不飽和ポリアミドなど。
【0016】
以上に例示した如き親水性樹脂はそれぞれ単独で使用することができ、或いは2種もしくはそれ以上組み合わせて使用してもよい。
【0017】
これらの親水性樹脂のうち、本発明において特に有利に使用しうるものは、前記(i)のポリアルキレングリコールの両末端に光重合又は熱重合可能な重合性不飽和基を有する化合物である。
【0018】
重合性不飽和基含有樹脂(A)の市販品としては、関西ペイント株式会社からENT-1000、ENT-2000、ENT-4000、ENTG-2000、ENTG-3800等の商品名で販売されているものを挙げることができる。
(B)アミン化合物
本発明において使用するアミン化合物(B)としては、1分子中に少なくとも1個、好ましくは1~2個の不飽和結合と、第2級もしくは第3級アミノ基とを有するアミン化合物が包含され、具体的には、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの含窒素アルキル(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどの含窒素重合性不飽和アミド;アルカノールアミン(例えば、N-メチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミンなど)とイソシアネート基含有エチレン性不飽和モノマー(例えば、イソシアン酸エチルメタクリレート、イソホロンジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物と(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとのモノアダクトなど)との付加物などを挙げることができる。
【0019】
これらのアミン化合物(B)のうち、本発明において特に好適なものとしては、アルカノールアミンとイソシアネート基含有エチレン性不飽和モノマーとの付加物が挙げられる。
(C)重合開始剤
本発明において用いる重合開始剤(C)としては、光重合開始剤又はレドックス系熱重合開始剤を挙げることができる。
【0020】
光重合開始剤としては、エチレン性不飽和化合物の重合に有用なものとして従来から知られているものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ベンゾフェノン、O-ベンゾイル安息香酸メチル、ヒドロキシベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-S-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロ)-S-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-S-トリアジンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は単独でもしくは2種類以上を混合して使用することができる。
【0021】
また、これらの光重合開始剤による光重合反応を促進させるために、光増感促進剤を光重合開始剤と併用してもよい。併用し得る光増感促進剤としては、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、ミヒラーケトン、4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノン等の3級アミン系;トリフェニルホスフィン等のアルキルホスフィン系;β-チオジグリコール等のチオエーテル系などが挙げられる。これらの光増感促進剤はそれぞれ単独でもしくは2種類以上を混合して使用することができる。
【0022】
さらに、レドックス系熱重合開始剤としては、従来から既知のものを使用することができ、例えば、-10℃~50℃程度の比較的低温でラジカル重合を行ない得る、酸化剤と還元剤の組み合わせからなる重合開始剤が好適に使用される。
【0023】
酸化剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロペルオキシドなどの有機過酸化物類;ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸塩類;過酸化水素等が挙げられる。また、還元剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウムなどの亜硫酸水素塩類;硫酸第一鉄、塩化第一鉄などの二価の鉄塩類;N,N-ジメチルアニリン、フエニルモルホリンなどのアミン類;ナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸銅などのナフテン酸金属塩類等を挙げることができる。
【0024】
これらのレドックス系熱重合開始剤のうち、本発明において特に有利に使用しうるものは、酸化剤がペルオキソ二硫酸塩類又は過酸化水素からなり、還元剤が亜硫酸水素塩類又は二価の鉄塩からなる組み合わせのものである。
(D)水溶性高分子多糖類
本発明において使用する水溶性高分子多糖類(D)は、水溶性であり、かつ水性媒体中でアルカリ金属イオン又は多価金属イオンと接触したときに水に不溶性又は難溶性のゲルに変化する能力のある高分子多糖類であって、一般に約3000~約2000000の範囲内の数平均分子量を有し、また、アルカリ金属イオン又は多価金属イオンと接触させる前の水溶性の状態で、通常少なくとも約10g/l(25℃)の溶解度を示すものが好適に使用される。
【0025】
かかる特性をもつ水溶性高分子多糖類の具体例には、アルギン酸のアルカリ金属塩、カラギーナン等が包含される。
【0026】
これら水溶性高分子多糖類は、水性媒体中に溶解した状態で、カラギーナンの場合は、カリウムイオン、ナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンと接触することによって、また、アルギン酸のアルカリ金属塩の場合は、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;或いはアルミニウムイオン、セリウムイオン、ニッケルイオン等の他の多価金属イオンのうちの少なくとも1種の多価金属イオンと接触することによってゲル化しうるものである。ゲル化が起るアルカリ金属イオン又は多価金属イオンの濃度は水溶性高分子多糖類の種類等により異なるが、一般には0.01~5mol/l、特に0.01~3mol/lの範囲内である。
(E)ポリマー系中空粒子
本発明において使用するポリマー系中空粒子(E)は、平均粒子径が1μm以上5μm未満である。
【0027】
該ポリマーは、アクリル、ポリエステルなど既知のポリマーを1種又は2種以上を組み合わせて適宜選択することができるが、粒子径が均一でかつ貯蔵安定性に優れる担体を得る点から中でもアクリルが好ましい。
【0028】
中空粒子を得る方法としては発泡、ガス充填など既知の方法を適宜用いることができるが、粒子径が均一でかつ貯蔵安定性に優れる担体を得る点から中でもガス充填が好ましい。
【0029】
中空粒子を比重調整材として重合性不飽和基含有樹脂(A)の固形分100質量部を基準として0.1~60質量部の割合で添加することによって粒状成形物の比重が1.00~1.03の範囲になるように調整することができる。
【0030】
また、比重調整はポリマー系中空粒子(E)の他に、ガラスビーズ、微細硫酸バリウム等によっても行うことができる。
【0031】
以上に述べた(A)~(E)の各成分は水性媒体中に溶解ないし分散させることにより、水性で液状の組成物(I)が調製される。この組成物(I)の固形分濃度は一般に5~30重量%の範囲内が適当である。なお、(C)成分でレドックス系熱重合開始剤を使用する場合は酸化剤又は還元剤のいずれか一方を、必要に応じて、アルカリ金属イオン又は多価金属イオンを含有する水性媒体中に、例えば0.05~5重量%、好ましくは0.1~2重量%の濃度で含有させるようにしてもよい。
【0032】
上記(A)~(E)の各成分の相互の使用割合は厳密に制限されるものではなく、各成分の種類等に応じて広範にわたって変えることができるが、一般には、(A)成分の重合性不飽和基含有樹脂固形分100質量部に対し、(B)、(C)、(D)及び(E)の各成分はそれぞれ下記の割合で使用するのが適当である。
(B)アミン化合物:5~100質量部、好ましくは10~50質量部、
(C)重合開始剤:0.1~5質量部、好ましくは0.3~3質量部、
(D)水溶性高分子多糖類:0.5~15質量部、好ましくは1~8質量部、
(E)ポリマー系中空粒子:0.1~60質量部、好ましくは1~40質量部。
【0033】
また、上記(C)の重合開始剤のうち、レドックス系熱重合開始剤は酸化剤と還元剤とを組み合わせて使用されるが、両者の混合割合はモル比で一般に5:1~1:5、好適には2.5:1~1:2.5の範囲内とするのが適当である。
【0034】
このようにして調製される組成物(I)は、次いで、前述した如き種類のアルカリ金属イオン又は多価金属イオンを含有する水性媒体中に滴下するか、又は平均粒子径が5mm以上の粒状物を得る場合には、該水性媒体表面上に所定の時間連続的に注加して液滴を所望の粒径になるまで生長させた後、その液滴を沈降させることにより、該組成物が粒状でゲル化せしめられる。
【0035】
アルカリ金属イオン又は多価金属イオンを含有する水性媒体中への組成物(I)の滴下は、例えば、注射器の先端から該組成物を滴下する方法、遠心力を利用して該組成物を粒状に飛散させる方法、スプレーノズルの先端から該組成物を霧化して粒状とし滴下する方法などの方法により行なうことができる。また、組成物(I)の水性媒体表面への注加は、所望の孔径のノズル口から細い液流として連続的に供給することによって行うことができる。液滴の大きさは、最終の粒状固定化物に望まれる粒径に応じて自由に変えることができるが、通常、滴下法では、直径が約0.1~約5mm、好ましくは約0.5~約4mmの範囲内の液滴として滴下させるのが、また注加法では、約0.5~3cmの範囲内の液滴とするのが好都合である。
【0036】
上記の如くして生成せしめた粒状ゲルは、そのまま水性媒体中に分散させた状態で、或いは水性媒体から分離した後、光重合又は熱重合させることにより、該粒状ゲル中の親水性樹脂を硬化せしめる。これにより粒状ゲルは水に実質的に不溶性で機械的強度の大きい微生物菌体固定化用粒状成形物を得ることができる。
【0037】
上記の硬化を光重合によって行う場合、使用しうる活性光線の波長は、該粒状ゲル中に含まれる重合性不飽和基含有樹脂(A)の種類等に応じて異なるが、一般には、約250~約600nmの範囲内の波長の光を発する光源を照射に使用するのが有利である。そのような光源の例としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、蛍光灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯、太陽光等が挙げられる。照射時間は光源の光の強さ、光源からの距離等に応じて変える必要があるが、一般には約0.5~約10分間の範囲内とすることができる。
【0038】
また、重合性不飽和基含有樹脂(A)の硬化を熱重合によって行う場合、粒状ゲルはレドックス系熱重合開始剤を含有しているので、室温で放置しておくだけでも熱重合が進行して必要な機械的強度が得られるまでに硬化されるが、必要に応じ、恒温雰囲気中で硬化させてもよい。恒温雰囲気の温度は一般に0℃~50℃、特に20℃~40℃の範囲内が好適である。また、必要な機械的強度を得るためには、少なくとも熱硬化に10分~30分の時間をかけることが望ましい。
【0039】
このように光重合又は熱重合による硬化処理が終った粒状ゲルは水又は緩衝水溶液で洗浄し、そのまま、あるいは凍結乾燥して保存することができる。
【0040】
本発明によって製造される微生物固定化用担体は、表面の構造が特に微生物の付着に適しており、微生物を大量に付着させることができる。該担体に付着させうる微生物は、嫌気性微生物、好気性微生物のどちらでも用いることができ、微生物の種類としては、例えば、アスパルギルス属、ペニシリウム属、フザリウム属などのカビ類、サッカロミセス属、ファフィア属、カンジダ属などの酵母類;ザイモモナス属、シュードモナス属、ニトロソモナス属、ニトロバクター属、パラコッカス属、ビブリオ属、メタノサルシナ属、バチルス属などの細菌類等を挙げることができる。本発明に従って製造される粒状成形物は、就中、シュードモナス属、ニトロモナス属及びパラコッカス属の微生物に対する付着性改良の効果が大きい。
【0041】
なお、上記した微生物は、重合性不飽和基含有樹脂(A)の硬化温度が常温のような低温度であれば、予め(A)~(E)の各成分からなる水性液状物に混合しておいて包括固定化してもよい。
【0042】
かくして、本発明の微生物固定化用担体の製造方法によれば、得られる担体の強度が大きく、微生物菌体の付着性に優れたものを得ることができる。しかも、本発明の方法により提供される微生物固定化用担体は、水中における流動性に優れているため、流動床型のバイオリアクターまたは攪拌型の発酵槽等に使用するのに最も適しているが、固定床型のバイオリアクター、発酵槽等に応用することも可能である。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において「部」および「%」は質量基準である。
【0044】
製造例1
数平均分子量約4000のポリエチレングリコール4000部およびイソホロンジイソシアネート444部を反応容器に入れ、80℃で2時間反応させた。さらに、アクリル酸2-ヒドロキシエチル132部およびハイドロキノン2部を反応容器に入れ、空気を吹き込みながら80℃で3時間反応させ、重合性不飽和基含有樹脂(A-1)を得た。
【0045】
製造例2
固形分20重量%のコロイダルシリカ80g、ジエタノールアミン-アジピン酸縮合物1g、塩化ナトリウム150gおよびイオン交換水460gを加え混合後、pH3.5に調整し水系分散媒体を調製した。
【0046】
アクリロニトリル100g、メタクリロニトリル100g、メタクリル酸10g、エチレングリコールジメタクリレート1g、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1gを混合して均一溶液の単量体混合物とし、これをイソブタン、イソペンタンとともにオートクレーブ中に仕込み混合した。その後、水系分散媒体をオートクレーブ中に仕込み、5分間700rpmで攪拌後、窒素置換し、反応温度60℃で8時間反応させた。反応圧力は0.5MPa、攪拌は350rpmで行った。
【0047】
この反応により作成されたポリマー系中空粒子の平均粒子径は4μmであり、真比重は0.10であった。
【0048】
実施例1
重合性不飽和基含有樹脂(A-1)100部、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート30部、ベンゾインイソブチルエーテル2部、蒸留水100部、2%アルギン酸ナトリウム水溶液100部及び製造例2で得られたポリマー系中空粒子30部をよく混合して得られる水性液状組成物を、5%塩化カルシウム水溶液中に、注射器の先端から液面高さ約10cmより滴下したところ、粒径約2mmの粒状物が得られた。この粒状物を平らなペトリ皿にとり、ペトリ皿の上面および下面から波長300~400nmの活性光線を3分照射して微生物固定化用担体を得た。
【0049】
実施例2~7、比較例1~6
実施例1において配合組成を下記の表1に示す通りとする以外は、実施例1と同様にして酵素及び微生物固定化用担体を得た。
【0050】
尚、表1においてポリマー中空粒子(E)はそれぞれ下記の通りである。
「マツモトマイクロスフェアM201」(商品名、松本油脂社製、真比重1.17及び平均粒径1~5μmの中空ポリマー粒子、架橋アクリルタイプ)、
「マツモトマイクロスフェアM200」(商品名、松本油脂社製、真比重1.17及び平均粒径1~5μmの中空ポリマー粒子、アクリルタイプ)、
「エクスパンセル551-WE」(商品名、日本フィライト社製、真比重0.03及び平均粒径20μmの中空ポリマー粒子)、
「マツモトマイクロスフェアM610」(商品名、松本油脂社製、真比重0.9及び平均粒径15~40μmの中空ポリマー粒子、架橋アクリルタイプ)。
【0051】
担体性能評価試験
上記実施例1~7及び比較例1~6で得た酵素及び微生物固定化用担体のそれぞれについて、以下に示した試験方法で各種性能を評価した。結果を下記表1に示す。
(1)生物活性試験
各担体試料を、大過剰の脱イオン水中に室温で24時間浸漬し、十分に洗浄したものを
硝化活性試験の試料として用いた。
【0052】
容積各1Lの反応槽に160mg/Lのアンモニア性窒素を含む無機塩培地及び硝化菌
含有活性汚泥を満たし、各担体試料250mL(見かけ体積)をそれぞれ投入した後、ア
ンモニア性窒素負荷が0.1kg/m3/日、0.3kg/m3/日、0.5kg/m3
/日、となるように順次培地の流入速度を変化させて連続処理試験を行った。各負荷での
処理時間はそれぞれ15日間とした。試験期間を通じて培地のpHは7.0~8.0の範
囲、液温は18~25℃の範囲に調節した。更に曝気を行うことにより培地の溶存酸素濃
度を常に5mg/L以上になるようにした。0.5kg/m3/日のアンモニア性窒素負
荷で7日間連続処理を行った時点で担体をサンプリングした。これを50mLの無機塩培
地(連続処理に用いたのと同じもの)中に10gの担体を投入し、三角フラスコ中で12
0rpm、8時間往復振盪した後の、培地中のアンモニア性窒素の減少量から1gの担体
当たりの硝化速度を計算して生物活性[mg-N/g-担体/日]を評価した。培地のアンモニア性窒素濃度の定量は
インドフェノール法(比色法)を用いて行った。
(2)圧縮破壊強度試験
各担体試料について50回ずつ、「Ez-Test」(商品名、島津製作所社製、小型
卓上試験機)を用いて圧縮破壊強度を測定した。圧縮破壊強度は圧縮速度10mm/mi
nで測定したときの破断応力値とした。破断応力(kgf/cm2)は目視で破断の開始
した時点を観察してそのときの圧縮荷重値(kgf)を読み取り、担体の平均粒子径より
計算した断面積でその荷重値を除することにより算出した。この値を初期圧縮破壊強度値とする。
【0053】
各担体試料を、大過剰の脱イオン水中に室温で24時間浸漬し、十分に洗浄したものを
硝化活性試験の試料として用いた。
【0054】
容積各1Lの反応槽に160mg/Lのアンモニア性窒素を含む無機塩培地及び硝化菌
含有活性汚泥を満たし、各担体試料250mL(見かけ体積)をそれぞれ投入した後、ア
ンモニア性窒素負荷が0.1kg/m3/日、0.3kg/m3/日、0.5kg/m3
/日、となるように順次培地の流入速度を変化させて連続処理試験を行った。各負荷での
処理時間はそれぞれ15日間とした。試験期間を通じて培地のpHは7.0~8.0の範
囲、液温は18~25℃の範囲に調節した。更に曝気を行うことにより培地の溶存酸素濃
度を常に5mg/L以上になるようにした。0.5kg/m3/日のアンモニア性窒素負
荷で90日間連続処理を行った時点で担体をサンプリングし圧縮破壊強度を測定した。この値を90日後の圧縮破壊強度値とする。
(3)貯蔵安定性
上記圧縮破壊強度から計算して以下の基準で評価した。
【0055】
A判定:90日後の圧縮破壊強度値が初期圧縮破壊強度値の90%以上、
B判定:90日後の圧縮破壊強度値が初期圧縮破壊強度値の80%以上89%未満、
C判定(不合格):90日後の圧縮破壊強度値が初期圧縮破壊強度値の79%未満。
【0056】
(4)比重分布値
浮きばかり(JIS B7525に規定)を用いて100個の担体粒子の比重を測定し、各担体粒子の比重の最大値と最小値の差引値をRとし、全担体粒子の比重の平均値をXとして、次式によって比重分布値を算出した。
【0057】
比重分布値(%)=〔R/X〕×100
【0058】
【表1】