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特許7191456パーソナルモビリティ、障害物検出システム及び車椅子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】パーソナルモビリティ、障害物検出システム及び車椅子
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20221212BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G08G1/00 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018125745
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2020004312
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000101732
【氏名又は名称】アルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英樹
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-277063(JP,A)
【文献】特開2016-207160(JP,A)
【文献】特開2012-098939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者の移動に用いられるパーソナルモビリティであって、
前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を前記パーソナルモビリティが通過したときの、前記パーソナルモビリティの挙動と、当該部分の、前記パーソナルモビリティの走行の障害の度合いに影響する属性とを登録した通過履歴を記録する通過履歴記録手段と、
前記パーソナルモビリティの前方にある前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を障害物候補として検知する障害物候補検知手段と、
前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴に登録されている前記パーソナルモビリティの挙動が、予め定めた挙動の許容範囲外である場合に当該障害物候補を障害物として検出し、予め定めた前記挙動の許容範囲内である場合に当該障害物候補を障害物として検出しない障害物検出手段と、
前記障害物検出手段が前記障害物を検出したときに、前記パーソナルモビリティの当該障害物の回避を支援する障害物回避支援手段とを有することを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項2】
請求項1記載のパーソナルモビリティであって、
前記通過履歴記録手段は、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補を、前記パーソナルモビリティが通過したときに、前記パーソナルモビリティの挙動と、当該障害物候補の前記属性とを登録した通過履歴を記録することを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項3】
請求項1または2記載のパーソナルモビリティであって、
前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、段差である部分を含み、
当該段差である前記部分の前記属性は段差の高さを含むことを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のパーソナルモビリティであって、
前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、溝である部分を含み、
当該溝である前記部分の前記属性は溝の深さを含むことを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のパーソナルモビリティであって、
前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、坂である部分を含み、
当該坂である前記部分の前記属性は坂の勾配を含むことを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載のパーソナルモビリティであって、
前記障害物回避支援手段は、障害物検出手段が前記障害物を検出したときに、警報の出力、もしくは、パーソナルモビリティの走行の停止を行うことを特徴とするパーソナルモビリティ。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5または6記載のパーソナルモビリティと、前記パーソナルモビリティが無線通信を介してアクセス可能な管理サーバとを備えた障害物検出システムであって、
前記管理サーバは、前記通過履歴を当該管理サーバ内に記録する通過履歴記録サービスと、当該管理サーバ内に記録した前記通過履歴を提供する通過履歴提供サービスを提供し、
前記パーソナルモビリティの、前記通過履歴記録手段は、前記通過履歴記録サービスを利用して前記通過履歴を前記管理サーバ内に記録し、
前記障害物検出手段は、前記通過履歴提供サービスを利用して、前記管理サーバ内に記録されている、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴を取得することを特徴とする障害物検出システム。
【請求項8】
請求項7記載の障害物検出システムであって、
前記管理サーバは、各通過履歴を、当該通過履歴を記録した前記通過履歴記録手段を備える前記パーソナルモビリティまたは前記パーソナルモビリティの利用者の前記パーソナルモビリティの挙動に影響を与える特性である個別特性が属する分類を表すクラスと対応づけて記録しており、
前記パーソナルモビリティの前記障害物検出手段は、当該パーソナルモビリティの前記個別特性が属するクラスに対応づけて記録されている前記通過履歴であって、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴を前記管理サーバから取得することを特徴とする障害物検出システム。
【請求項9】
車椅子であって、
前記車椅子の走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を前記車椅子が通過したときの、前記車椅子の挙動と、当該部分の、前記車椅子の走行の障害の度合いに影響する属性とを登録した通過履歴を記録する通過履歴記録手段と、
前記車椅子の前方にある前記車椅子の走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を障害物候補として検知する障害物候補検知手段と、
前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴に登録されている前記車椅子の挙動が、予め定めた挙動の許容範囲外である場合に当該障害物候補を障害物として検出し、予め定めた前記挙動の許容範囲内である場合に当該障害物候補を障害物として検出しない障害物検出手段とを有することを特徴とする車椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、電動式車椅子などのパーソナルモビリティにおいて障害物を検出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パーソナルモビリティにおいて障害物を検出する技術としては、電動式車椅子の前方を3Dスキャナを用いて三次元測定し、電動式車椅子前方の所定距離内に段差等の障害物が検出された場合には電動式車椅子を停止させる技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-117205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば同じ段差であっても、当該段差がパーソナルモビリティの利用者の進行を妨げる障害となるかどうかは、パーソナルモビリティの特性やパーソナルモビリティの利用者の特性毎に異なったものとなる。
【0005】
そして、パーソナルモビリティの利用者の進行を妨げない段差等を障害物として検出してしまい、パーソナルモビリティを停止等させてしまうと、利用者のパーソナルモビリティ利用の便益を減じてしまうこととなる。
しかし、上述した技術によれば、パーソナルモビリティの特性やパーソナルモビリティの利用者の特性を考慮せずに障害物を検出するので、利用者にとって真に進行を妨げる障害物を検出することはできない。
【0006】
そこで、本発明は、パーソナルモビリティや車椅子の利用者にとって真に進行を妨げることとなる障害物を検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題達成のために、本発明は、利用者の移動に用いられるパーソナルモビリティでに、前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を前記パーソナルモビリティが通過したときの、前記パーソナルモビリティの挙動と、当該部分の、前記パーソナルモビリティの走行の障害の度合いに影響する属性とを登録した通過履歴を記録する通過履歴記録手段と、前記パーソナルモビリティの前方にある前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を障害物候補として検知する障害物候補検知手段と、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴に登録されている前記パーソナルモビリティの挙動が、予め定めた挙動の許容範囲外である場合に当該障害物候補を障害物として検出し、予め定めた前記挙動の許容範囲内である場合に当該障害物候補を障害物として検出しない障害物検出手段と、前記障害物検出手段が前記障害物を検出したときに、前記パーソナルモビリティの当該障害物の回避を支援する障害物回避支援手段とを備えたものである。
【0008】
ここで、このようなパーソナルモビリティは、前記通過履歴記録手段は、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補において、前記パーソナルモビリティが通過したときに、前記パーソナルモビリティの挙動と、当該障害物候補の前記属性とを登録した通過履歴を記録するように構成してもよい。
【0009】
また、以上のパーソナルモビリティにおいて、前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、段差である部分を含んでいてよく、この場合、当該段差である前記部分の前記属性は段差の高さを含むようにしてもよい。
【0010】
また、以上のパーソナルモビリティにおいて、前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、溝である部分を含んでいてよく、この場合、当該溝である前記部分の前記属性は溝の深さを含むようにしてよい。
【0011】
また、以上のパーソナルモビリティにおいて、前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分は、坂である部分を含んでいてよく、この場合、当該坂である前記部分の前記属性は坂の勾配を含むようにしてよい。
【0012】
また、以上のパーソナルモビリティは、前記障害物回避支援手段において、障害物検出手段が前記障害物を検出したときに、警報の出力、もしくは、パーソナルモビリティの走行の停止を行うように構成してもよい。
【0013】
以上のようなパーソナルモビリティによれば、前記パーソナルモビリティの走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を前記パーソナルモビリティが過去に通過したときの前記パーソナルモビリティの実際に挙動に基づいて、パーソナルモビリティの前方にある障害物候補を通過したときのパーソナルモビリティの挙動を精度良く予測することができる。そして、このように精度良く予測した挙動が許容範囲外である場合に障害物を検出するので、利用者にとって真に進行を妨げることとなる障害物を検出することができる。
【0014】
また、本発明は、併せて、以上のパーソナルモビリティと、前記パーソナルモビリティが無線通信を介してアクセス可能な管理サーバとを備えた障害物検出システムも提供する。ここで、前記管理サーバは、前記通過履歴を当該管理サーバ内に記録する通過履歴記録サービスと、当該管理サーバ内に記録した前記通過履歴を提供する通過履歴提供サービスを提供する。また、前記パーソナルモビリティの、前記通過履歴記録手段は、前記通過履歴記録サービスを利用して前記通過履歴を前記管理サーバ内に記録し、前記障害物検出手段は、前記通過履歴提供サービスを利用して、前記管理サーバ内に記録されている、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴を取得する。
【0015】
このような障害物検出システムによれば、各パーソナルモビリティにおいて生成された通過履歴を相互に共用することができるようになる。
ここで、このような障害物検出システムは、前記管理サーバにおいて、各通過履歴を、当該通過履歴を記録した前記通過履歴記録手段を備える前記パーソナルモビリティまたは前記パーソナルモビリティの利用者の前記パーソナルモビリティの挙動に影響を与える特性である個別特性が属する分類を表すクラスと対応づけて記録し、前記パーソナルモビリティの前記障害物検出手段において、当該パーソナルモビリティの前記個別特性が属するクラスに対応づけて記録されている前記通過履歴であって、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴を前記管理サーバから取得するように構成してもよい。
【0016】
このようにすることにより、各パーソナルモビリティにおいて、自パーソナルモビリティとはパーソナルモビリティの挙動に影響を与えるパーソナルモビリティや利用者の特性が異なる他のパーソナルモビリティにおいて生成された通過履歴の利用を抑止して、より適切に真に進行を妨げることとなる障害物を検出することができるようになる。
【0017】
また、本発明は、併せて、車椅子の走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を前記車椅子が通過したときの、前記車椅子の挙動と、当該部分の、前記車椅子の走行の障害の度合いに影響する属性とを登録した通過履歴を記録する通過履歴記録手段と、前記車椅子の前方にある前記車椅子の走行の障害となる可能性のある形体を有する部分を障害物候補として検知する障害物候補検知手段と、前記障害物候補検知手段が検知した前記障害物候補の前記属性とマッチする属性が登録されている前記通過履歴に登録されている前記車椅子の挙動が、予め定めた挙動の許容範囲外である場合に当該障害物候補を障害物として検出し、予め定めた前記挙動の許容範囲内である場合に当該障害物候補を障害物として検出しない障害物検出手段とを備えた車椅子も提供する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、パーソナルモビリティや車椅子の利用者にとって真に進行を妨げることとなる障害物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電動式車椅子を示す図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電動式車椅子の走行システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の第1の実施形態において検出する障害物候補と挙動検出期間を示す図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る通過履歴テーブルを示す図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る通過履歴登録処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の第1の実施形態に係る障害物検出処理を示すフローチャートである。
図7】本発明の第2の実施形態に係る電動式車椅子の走行システムと障害物情報管理システムの構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る通過履歴データベースと障害物データベースを示すである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、電動式車椅子への適用を例にとり説明する。
まず、第1の実施形態について説明する。
図1aに第1の実施形態に係る電動式車椅子を示す。
図示するように、電動式車椅子は、利用者が着座する椅子を備えた四輪の装置であり、人力によらずに走行するための走行システムを備えている。
ただし、本第1実施形態に係る電動式車椅子は、たとえば、図1bに示すようなカート形式などの、他の形式による電動式車椅子であってもよい。
図2に、電動式車椅子の走行システムの構成を示す。
図示するように、走行システムは、自走システム1、モーションセンサ2、3次元測定器3、制御装置4を備えている。
自走システム1は、電動式車椅子をユーザの運転操作に応じて走行させるシステムであり、バッテリや、バッテリを電源として用いて電動式車椅子の駆動輪を回転させるモータや、ユーザの運転操作を受け付けるレバーやスイッチや、ブレーキなどより構成される。
【0021】
また、モーションセンサ2は、電動式車椅子の傾きや加速度などの電動式車椅子の各種の挙動を検出するセンサである。
また、3次元測定器3は、図1a、bに示すように電動式車椅子の前方をスキャンし、電動式車椅子の前方にある物体の位置や形体を三次元測定する装置である。ここで、3次元測定器3としては、3Dスキャナやステレオカメラを用いて前方を三次元測定する3次元測定装置などを用いることができる。
【0022】
次に、制御装置4は、電動式車椅子の前方にある障害物を検出して警報を出力したり自走システム1を介して電動式車椅子の走行を停止する装置であり、図示するように、通過履歴登録部41、通過履歴記憶部42、障害物候補検出部43、障害物検出部44、警報装置45、許容レベルメモリ46を備えている。
【0023】
障害物候補検出部43は、3次元測定器3が測定した電動式車椅子の前方の物体の位置や形体より、電動式車椅子の走行の障害となる可能性のある物体を障害物候補として、その3次元構造と電動式車椅子に対する相対位置を検出する。
【0024】
ここで、障害物候補検出部43は、図3a1に示すような電動式車椅子の前方にある段差301や、図3b1に示すような電動式車椅子の前方にある溝302や、図3c1に示すような電動式車椅子の前方にある坂303などを、3次元測定器3が測定した前方の物体の形体に基づいて障害物候補として検出する。
【0025】
次に、通過履歴記憶部42には、図4に示す通過履歴テーブルが登録される。
図示するように、通過履歴テーブルには、障害物候補検出部43が検出した障害物候補を電動式車椅子が通過した各回に対応する通過履歴(図の各行)が登録される。
また、各通過履歴には、対応する回において通過した障害物候補の障害物としての属性を示す障害物属性と、対応する回において障害物候補を通過した際の電動式車椅子の挙動を示す通過時挙動が登録される。
【0026】
また、障害物属性としては、対応する回において通過した障害物候補の障害物としての種類を示す障害物種別と、対応する回において通過した障害物候補の障害となる構造の属性を示す構造属性が登録される。ここで、障害物種別としては、段差(上り)、段差(下り)、溝、坂(上り)、坂(下り)などを登録する。また、構造属性としては、段差(上り)や段差(下り)については段差の高さを、溝に対しては溝の深さと幅を、坂(上り)坂(下り)については勾配と長さを登録する。
【0027】
次に、通過時挙動としては、対応する回において障害物候補を通過した際の電動式車椅子の振動の最大値MaxF、平均値AveF、継続時間TFや、対応する回において障害物候補を通過した際の電動式車椅子の傾斜角の最大値Maxθなどを登録する。
【0028】
さて、通過履歴登録部41は、図5に示す通過履歴登録処理を行って、通過履歴テーブルへの各通過履歴の登録を行う。
図示するように、通過履歴登録処理において、通過履歴登録部41は、障害物候補検出部43が検出している障害物候補の相対位置に基づいて、電動式車椅子の障害物候補への前方所定距離以内(たとえば、50cm以内)の接近を監視し、障害物候補に接近したならば(ステップ502)、モーションセンサ2が検出している電動式車椅子の挙動の記録を開始する(ステップ504)。
【0029】
そして、障害物候補検出部43が検出している障害物候補の相対位置と、電動式車椅子の走行の軌跡に基づいて、接近した障害物候補を回避する電動式車椅子の走行の発生と(ステップ506)、接近した障害物候補の通過の発生を監視する(ステップ508)。
【0030】
なお、自走システム1は、電動式車椅子を、どのように走行させているのかの情報を走行情報として通過履歴登録部41と障害物検出部44に通知し、通過履歴登録部41は通知された走行情報より電動式車椅子の走行の軌跡を算定する。
【0031】
そして、接近した障害物候補を回避する電動式車椅子の走行が発生した場合には(ステップ506)、モーションセンサ2が検出している電動式車椅子の挙動の記録を停止し(ステップ514)、ステップ502からの処理に戻る。
【0032】
一方、接近した障害物候補の通過が発生した場合には(ステップ508)、電動式車椅子の挙動の記録を停止する(ステップ510)。
この結果、記録された電動式車椅子の挙動は、図3a2、b2、c3に示すような障害物候補301、302、303の通過期間中の電動式車椅子の挙動となる。
そこで、次に、記録されている電動式車椅子の挙動から、通過履歴を生成し、通過履歴を通過履歴テーブルに登録する(ステップ512)。
ここで、ステップ512では、ステップ508で通過を検出した障害物候補について、障害物候補検出部43が算定した3次元構造より、上述した障害物種別や構造属性を算定し、生成する通過履歴の障害物属性とする。
【0033】
ただし、構造属性は、記録されている電動式車椅子の挙動から算定するようにしてもよい。すなわち、記録されている電動式車椅子の挙動が示す電動式車椅子の傾斜の履歴から坂の勾配や段差の高さやなどを算定して構造属性とするようにしてもよい。
【0034】
また、ステップ512では、記録しておいたモーションセンサ2が検出している電動式車椅子の挙動から、ステップ508で通過を検出した障害物候補を通過した際の、電動式車椅子の振動の最大値MaxF、平均値AveF、継続時間TF、電動式車椅子の傾斜角の最大値Maxθ、障害物候補を通過するのに要した時間Tなどを算定し、生成する通過履歴の通過時挙動とする。
【0035】
そして、通過履歴を通過履歴テーブルに登録したならばステップ502からの処理に戻る。
以上、通過履歴登録部41が行う通過履歴登録処理について説明した。
次に、障害物検出部44が行う障害物検出処理について説明する。
図6に、この障害物検出処理の手順を示す。
図示するように、障害物検出部44は、障害物検出処理において、障害物候補検出部43が検出している障害物候補の相対位置に基づいて、電動式車椅子の障害物候補への前方所定距離以内(たとえば、1.5m以内)の接近の発生を監視する(ステップ602)。
【0036】
そして、障害物候補に接近したならば(ステップ602)、接近した障害物候補について、障害物候補検出部43が算定した3次元構造より、上述した障害物種別や構造属性を障害物属性として算定し、算定した障害物属性とマッチする障害物属性が登録されている通過履歴が通過履歴テーブルに存在するかどうかを調べる(ステップ604)。
【0037】
ここで、算定した障害物属性とマッチする障害物属性とは、算定した障害物属性が示す障害物種別と同じ障害物種別が登録されており、算定した障害物属性が示す構造属性と一致する構造属性が登録されている障害物属性とする。ただし、算定した障害物属性が示す障害物種別と同じ障害物種別が登録されており、算定した障害物属性が示す構造属性よりも障害の程度が低いことを示す構造属性であって、算定した障害物属性が示す構造属性と近似する構造属性が登録されている障害物属性も、算定した障害物属性とマッチする障害物属性とするようにしてもよい。なお、障害種別が段差の構造属性であれば、高さがより小さい構造属性が、障害の程度がより低い構造属性となり、障害種別が溝の構造属性であれば、深さがより小さい構造属性が、障害の程度がより低い構造属性となり、障害種別が坂の構造属性であれば、勾配がより小さい構造属性が、障害の程度がより低い構造属性となる。
【0038】
そして、通過履歴が存在しなければ(ステップ606)、警報装置45からブザー音などの警報を出力し(ステップ622)、ステップ602からの処理に戻る。
一方、通過履歴が存在した場合には、存在した通過履歴の通過時挙動が、許容レベルメモリ46に予め登録されている許容レベル以内であるかどうかを調べる(ステップ608)。
【0039】
ここで、許容レベルメモリ46には、電動式車椅子の利用者の障害や体力の程度などに応じて設定した、電動式車椅子の利用者に許容される振動の最大値や平均値や継続時間の範囲や、電動式車椅子の利用者に許容される電動式車椅子の傾斜角の範囲や、電動式車椅子の利用者に許容される段差や溝を通過するのに要する時間の範囲などが許容レベルとして予め登録されている。
【0040】
そして、障害物検出部44は、存在した通過履歴の通過時挙動が示す振動の最大値MaxFや平均値AveFや継続時間TFや、電動式車椅子の傾斜角の最大値Maxθや、障害物候補を通過するのに要した時間Tが、許容レベルが示す電動式車椅子の利用者に許容される範囲内にあれば、存在した通過履歴の通過時挙動が許容レベル以内と判定し、範囲内になければ存在した通過履歴の通過時挙動が許容レベル以内でないと判定する。
【0041】
そして、存在した通過履歴の通過時挙動が、許容レベルメモリ46に予め登録されている許容レベル以内であれば(ステップ608)、ステップ602からの処理に戻る。
一方、存在した通過履歴の通過時挙動が、許容レベルメモリ46に予め登録されている許容レベル以内でなければ(ステップ608)、警報装置45からブザー音などの警報を出力する(ステップ610)。
【0042】
そして、自走システム1から通知される走行情報に基づいて、電動式車椅子が、接近した障害物候補の方向に走行を継続しているかどうかを調べ(ステップ612)、障害物候補の方向への走行を行っていなければステップ602からの処理に戻る。
【0043】
一方、接近した障害物候補の方向に走行を継続している場合には(ステップ612)、自走システム1に命令し電動式車椅子の走行を停止させる(ステップ614)。
そして、利用者による電動式車椅子の進行方向変更操作の発生(ステップ616)と、利用者による停止解除操作の発生(ステップ618)とを監視し、いずれかが発生したならば自走システム1に命令し電動式車椅子の走行の停止を解除する(ステップ620)。
【0044】
そして、ステップ602からの処理に戻る。
以上、障害検出部が行う障害検出処理について説明した。
以上のような第1実施形態によれば、電動式車椅子の走行の障害となる可能性のある部分を電動式車椅子が過去に通過したときの電動式車椅子の実際の挙動に基づいて、電動式車椅子の前方にある障害物候補を通過したときのパーソナルモビリティの挙動を精度良く予測することができる。そして、このように精度良く予測した挙動が許容範囲外である場合に障害物を検出するので、利用者にとって真に進行を妨げることとなる障害物を検出することができる。
【0045】
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
本第2実施形態は、障害物情報管理システムを設け、各電動式車椅子で算定した通過履歴を、障害物情報管理システムにおいて統括的に管理し、各電動式車椅子で共用できるようにしたものである。
【0046】
すなわち、本第2実施形態では、図7に示すように、各電動式車椅子の走行システム100が無線通信を介してアクセス可能な障害物情報管理システム200を設ける。
そして、障害物情報管理システム200に、障害物情報サーバ101、ユーザデータベース202、通過履歴データベース203、障害物データベース204、地図情報を蓄積した地図データベース205を設ける。
【0047】
そして、ユーザデータベース202には、各電動式車椅子のユーザクラスの情報を格納する。ここで、ユーザクラスは、電動式車椅子の利用者の体重や身長や標準的な電動式車椅子の運転速度や、電動式車椅子の車種や年式などの、電動式車椅子の挙動に影響を与える電動式車椅子の属性が属する分類を表す
【0048】
また、通過履歴データベース203には、図8aに示すように、各ユーザクラス毎の履歴データを格納しており、各ユーザクラスの履歴データには上述した通過履歴を蓄積する。
【0049】
また、障害物データベース204には、図8bに示すように、各障害物の上述した障害物属性と当該障害物の地点と方向の情報を含む障害物情報を蓄積する。ここで、障害物の方向は、どの方位に向かって当該障害物に接近したときに、当該障害物が、障害物属性の障害物種別が示す種別の障害物となるかを示している。
【0050】
次に、本第2実施形態に係る各電動式車椅子の走行システム100の制御装置4は、図7に示すように、第1実施形態の図1に示した制御装置4の構成において、通過履歴メモリを廃して、代わりに、電動式車椅子の現在位置や進行方位の衛星測位を行うGPS受信器などのGNNS受信器401と、障害物情報管理システム200へのアクセスに用いる無線通信を行う無線通信装置402とを設けた構成を備えている。
【0051】
このような制御装置4の構成において、障害物候補検出部43は、3次元測定器3が測定した電動式車椅子の前方の物体の形体より、電動式車椅子の走行の障害となる可能性のある構造物を障害物候補として、その3次元構造と電動式車椅子に対する相対位置を検出する。また、障害物候補検出部43は、GNNS受信器401の算定している電動式車椅子の現在位置や進行方位を伴う前方障害物情報要求を障害物情報サーバ101に発行する。そして、当該要求に応答して、障害物情報サーバ101は、障害物データベース204を参照し、要求元の電動式車椅子の前方にある障害物の障害物情報を抽出し、抽出した障害物情報を前方障害物情報として、要求元の電動式車椅子の障害物候補検出部43に応答する。そして、障害物候補検出部43は、応答された前方障害物情報から求まる3次元構造と電動式車椅子に対する相対位置を持つ障害物候補が、3次元測定器3が測定結果より検出されていない場合には、そのような3次元構造と電動式車椅子に対する相対位置を持つ障害物候補を障害物候補の検出結果に加える。
【0052】
次に、通過履歴登録部41は、上述のように生成した通過履歴を、GNNS受信器401の算定している電動式車椅子の現在位置や進行方位を伴わせて障害物情報サーバ101に送信する。
【0053】
通過履歴を受信した障害物情報サーバ101は、受信した通過履歴を、ユーザデータベース202を参照して求まる送信元の電動式車椅子のユーザクラスの履歴データに登録する。
【0054】
また、通過履歴を受信した障害物情報サーバ101は、送信元の電動式車椅子の現在位置や進行方位と通過履歴とより、送信元の電動式車椅子が通過した障害物の地点と方向を、地図データベース205の地図情報を照会して算定し、通過履歴が示す送信元の電動式車椅子が通過した障害物の障害物属性と、算定した障害物の地点と方向の情報を含む障害物情報を生成し、障害物データベース204に格納する。
【0055】
そして、障害物検出部44は、図6に示した障害物検出処理のステップ604を、以下の処理に置き換えた障害物検出処理を行う。
すなわち、障害物検出処理のステップ604において、障害物検出部44は、接近した障害物候補の障害物属性を伴わせた、通過履歴要求を障害物情報サーバ101に要求する。そして、障害物情報サーバ101から通過履歴が応答された場合には、応答された通過履歴を、接近した障害物候補の障害物属性とマッチする障害物属性の通過履歴とし、障害物情報サーバ101から通過履歴該当無しが応答された場合には、接近した害物候補の障害物属性とマッチする障害物属性の通過履歴は無かったものとする。
【0056】
一方、通過履歴要求を受けた障害物情報サーバ101は、通過履歴要求に伴う障害物属性にマッチする通過履歴が、ユーザデータベース202を参照して求まる送信元の電動式車椅子のユーザクラスの履歴データに登録されているかどうかを調べ、登録されていた場合には、登録されていた通話履歴を、通過履歴要求の発行元の障害物検出部44に応答し、登録されていない場合には、通過履歴該当無しを通過履歴要求の発行元の障害物検出部44に応答する。
【0057】
以上のような第2実施形態によれば、各電動式車椅子において生成された通過履歴を相互に共用することができるようになる。また、各電動式車椅子において、自電動式車椅子とは電動式車椅子の挙動に影響を与える属性が異なる他の電動式車椅子において生成された通過履歴の利用を抑止して、より適切に真に進行を妨げることとなる障害物を検出することができるようになる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明した。
なお、以上の実施形態は、電動式車椅子以外の任意のパーソナルモビリティに同様に適用することができる。
また、以上の実施形態で示した障害物検出の技術は、電動式でない自走式や介助式の車椅子にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1…自走システム、2…モーションセンサ、3…3次元測定器、4…制御装置、41…通過履歴登録部、42…通過履歴記憶部、43…障害物候補検出部、44…障害物検出部、45…警報装置、46…許容レベルメモリ、100…走行システム、101…障害物情報サーバ、200…障害物情報管理システム、202…ユーザデータベース、203…通過履歴データベース、204…障害物データベース、205…地図データベース、401…GNNS受信器、402…無線通信装置。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8