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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】シームレスシフト機構および変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/083 20060101AFI20221212BHJP
   F16D 11/10 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
F16H3/083
F16D11/10 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018217130
(22)【出願日】2018-11-20
(65)【公開番号】P2020085067
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 崇志
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 嘉裕
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-127471(JP,A)
【文献】特開2018-76905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/083
F16D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力側の回転軸と出力側の回転軸のうちの一方の回転軸と一体に回転する一方のカムリングと、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸のうちの他方の回転軸と一体に回転する他方のカムリングと、
前記カムリングに外挿されて設けられていると共に、前記カムリングの外周のカム溝に係合させた突起により、前記回転軸の軸方向に移動可能、かつ前記カムリングと一体回転可能に設けられたスリーブと、
前記一方の回転軸で回転可能に支持された変速用のギヤと、
前記変速用のギヤに回転伝達可能に噛合すると共に、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸のうちの他方の回転軸と一体に回転する伝達用のギヤと、を有し、
前記スリーブの前記回転軸方向の変位により、前記スリーブと前記変速用のギヤの互いの対向部に設けた歯部同士を係脱させて、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸との間での前記変速用のギヤを介した回転の伝達/非伝達を切替えるシームレスシフト機構であって、
前記回転軸の径方向から見て前記カム溝では、前記突起が摺動するカム面が、前記回転軸に交差する向きで設けられており、前記スリーブは、前記回転軸方向に変位する際に、前記カム面の前記回転軸に対する交差角に応じた角度範囲内で前記カムリングに対して相対的に回転可能であり、
前記一方のカムリングは、前記スリーブ側の歯部と前記変速用のギヤ側の歯部とを係合させる際に、前記スリーブと前記変速用のギヤとの差回転を減少させ、前記他方のカムリングは、前記差回転を増加させ、
前記差回転を増加させる他方のカムリングでは、前記カム面の前記回転軸に対する交差角が、前記差回転を減少させる一方のカムリングのカム面の前記回転軸に対する交差角よりも小さい、ことを特徴とするシームレスシフト機構。
【請求項2】
請求項1に記載のシームレスシフト機構を用いて、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸との間での回転の伝達を行う変速機であって、
前記変速機は、前記変速用のギヤと前記伝達用のギヤを、複数組備えており、
前記変速機では、
前記歯部同士を係合させる前記変速用のギヤと前記スリーブとの組み合わせを、変速段の順番で切替えることで、前記変速段が順番に変更されるように構成されており、
アップシフト変速の過程で、前記歯部同士を係合させる前記変速用のギヤと前記スリーブとの組み合わせを変更する際に、変更後の変速段に対応するカムリングが、前記差回転を増加させる前記他方のカムリングである場合には、
前記他方のカムリングのカム面の前記回転軸に対する交差角が、前記差回転を減少させる前記一方のカムリングのカム面の前記回転軸に際する交差角よりも小さい角度に設定される、
ことを特徴とする変速機。
【請求項3】
前記変更後の変速段が、当該変更後の変速段に対応する前記スリーブと前記変速用のギヤを、互いの前記差回転を増加させつつ前記歯部同士を係合させる変速段である場合には、
前記変更後の変速段での変速比と変更前の変速段での変速比との段間比を、
前記変更後の変速段が、前記差回転を減少させつつ前記歯部同士を係合させる変速段の場合の段間比よりも小さい段間比に設定することを特徴とする請求項2に記載の変速機。
【請求項4】
シームレスシフト機構を用いて、入力側の回転軸と出力側の回転軸との間での回転の伝達を行う変速機であって、
前記シームレスシフト機構は、
前記入力側の回転軸と一体に回転する一方のカムリングと、
前記出力側の回転軸と一体に回転する他方のカムリングと、
前記カムリングに外挿されて設けられていると共に、前記カムリングの外周のカム溝に係合させた突起により、前記回転軸の軸方向に移動可能、かつ前記カムリングと一体回転可能に設けられたスリーブと、
前記一方の回転軸で回転可能に支持された変速用のギヤと、
前記変速用のギヤに回転伝達可能に噛合すると共に、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸のうちの他方の回転軸と一体に回転する伝達用のギヤと、を有し、
前記スリーブの前記回転軸方向の変位により、前記スリーブと前記変速用のギヤの互いの対向部に設けた歯部同士を係脱させて、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸との間での前記変速用のギヤを介した回転の伝達/非伝達を切替えるように構成されており、
前記回転軸の径方向から見て前記カム溝では、前記突起が摺動するカム面が、前記回転軸に交差する向きで設けられており、前記スリーブは、前記回転軸方向に変位する際に、前記カム面の前記回転軸に対する交差角に応じた角度範囲内で前記カムリングに対して相対的に回転可能であり、
前記変速機は、前記変速用のギヤと前記伝達用のギヤを、複数組備えており、
前記変速機では、
前記歯部同士を係合させる前記変速用のギヤと前記スリーブとの組み合わせを、変速段の順番で切替えることで、前記変速段が順番に変更されるように構成されており、
1速から2速へのアップシフト変速では、前記2速に対応するカムリングが、前記出力側の回転軸と一体回転する前記他方のカムリングであり、
前記他方のカムリングは、前記アップシフト変速時に、前記スリーブ側の歯部と前記変速用のギヤ側の歯部とを係合させる際に、前記スリーブと前記変速用のギヤとの差回転を増加させ、
前記1速に対応するカムリングが、前記入力側の回転軸と一体回転する前記一方のカムリングであり、
前記差回転を増加させる他方のカムリングでは、前記カム面の前記回転軸に対する交差角が、前記一方のカムリングのカム面の前記回転軸に対する交差角よりも小さい、
ことを特徴とする変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスシフト機構および変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シームレスシフト機構を備える変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-127471号公報
【0004】
図9は、従来例にかかる変速機100のシームレスシフト機構14に関わる部分を説明する図である。
シームレスシフト機構14は、入力軸2と一体に回転するカムリング42、43と、出力軸3と一体に回転するカムリング41と、を有している。
【0005】
入力軸2では、カムリング42、43に隣接して、変速用のギヤ(2速ギヤ22、3速ギヤ23)が回転可能に設けられている。変速用のギヤ(2速ギヤ22、3速ギヤ23)の各々は、出力軸3と一体に回転する伝達用のギヤ(第2伝達ギヤ32、第3伝達ギヤ33)に、回転伝達可能に噛合している。
【0006】
出力軸3では、カムリング41に隣接して、変速用のギヤ(1速ギヤ21)が回転可能に設けられている。変速用のギヤ(1速ギヤ21)は、入力軸2と一体に回転する伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31)に、回転伝達可能に噛合している。
【0007】
カムリング41、42、43の各々には、リング状のスリーブ51、52、53が外挿されている。
スリーブ51、52、53の各々は、カムリング41、42、43の外周のカム溝45に係合する係合突起55を有している。
スリーブ51、52、53の各々は、カム溝45に係合させた係合突起55により、カムリング41、42、43の外周で、回転軸方向に移動可能、かつカムリング41、42、43と一体回転可能に設けられている。
【0008】
スリーブ51、52、53の外周には、シフトフォーク61、62、63が係合している。シフトフォーク61、62、63は、図示しない駆動機構により、変速段の順番で回転軸方向に往復変位する。
これにより、スリーブ51、52、53が、変速段の順番で、回転軸方向に往復変位して、変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)とスリーブ51、52、53の互いの対向部に設けた歯部(ドグ)26、56同士が、変速段の順番で係脱する。
【0009】
シームレスシフト機構14を備える変速機100では、歯部26、56同士を互いに係合させた変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)とスリーブ51、52、53との組み合わせを変更することで、変速段が変更される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
シームレスシフト機構14では、低速段から高速段へのアップシフト変速時に、変速の進行に伴い発生する回転差と、カムリングのカム溝45(カム面の傾斜)を利用して、低速段側のスリーブを速やかに移動させる。
【0011】
シームレスシフト機構14では、低速段から高速段へのアップシフト変速時に、高速段側のスリーブの歯部56と、高速段側のギヤの歯部26とが、差回転がある状態で係合する。
この際に、歯部56、26同士の衝突に起因する音が発生し、発生する音の大きさは、回転差が大きくなるほど大きくなる。
そのため、発生する音の程度によっては、変速機100を搭載した車両の運転者に違和感を与えてしまうことがある。
そこで、スリーブ側の歯部とギヤ側の歯部とを係合させる際の音の発生を抑えられるようにすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のある態様は、
入力側の回転軸と出力側の回転軸のうちの一方の回転軸と一体に回転する一方のカムリングと、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸のうちの他方の回転軸と一体に回転する他方のカムリングと、
前記カムリングに外挿されて設けられていると共に、前記カムリングの外周のカム溝に係合させた突起により、前記回転軸の軸方向に移動可能、かつ前記カムリングと一体回転可能に設けられたスリーブと、
前記一方の回転軸で回転可能に支持された変速用のギヤと、
前記変速用のギヤに回転伝達可能に噛合すると共に、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸のうちの他方の回転軸と一体に回転する伝達用のギヤと、を有し、
前記スリーブの前記回転軸方向の変位により、前記スリーブと前記変速用のギヤの互いの対向部に設けた歯部同士を係脱させて、前記入力側の回転軸と前記出力側の回転軸との間での前記変速用のギヤを介した回転の伝達/非伝達を切替えるシームレスシフト機構であって、
前記回転軸の径方向から見て前記カム溝では、前記突起が摺動するカム面が、前記回転軸に交差する向きで設けられており、前記スリーブは、前記回転軸方向に変位する際に、前記カム面の前記回転軸に対する交差角に応じた角度範囲内で前記カムリングに対して相対的に回転可能であり、
前記一方のカムリングは、前記スリーブ側の歯部と前記変速用のギヤ側の歯部とを係合させる際に、前記スリーブと前記変速用のギヤとの差回転を減少させ、前記他方のカムリングは、前記差回転を増加させ、
前記差回転を増加させる他方のカムリングでは、前記カム面の前記回転軸に対する交差角が、前記差回転を減少させる一方のカムリングのカム面の前記回転軸に対する交差角よりも小さい、構成のシームレスシフト機構とした。
【発明の効果】
【0013】
アップシフト変速で変速段が変更されると、変更後の変速段での回転数は、変更前の変速段での回転数よりも低くなる。
そのため、変更後の変速段を実現するカムリングと変速用のギヤは、変速段の変更にあたり、差回転(回転差)が大きい状態で歯部同士を係合させることになるが、差回転が大きくなるほど、歯部同士を係合させた際の異音が大きくなる。
カムリングに設けたカム面の傾きが、スリーブ側の歯部と変速用のギヤ側の歯部とをアップシフト変速時に係合させる際に、スリーブとギヤとの差回転を増加させる向きである場合には、カム面の回転軸に対する傾きを小さくすることで、差回転の増加量を抑えることができる。
これにより、歯部同士が係合する際の衝突力が、回転差が抑えられた分だけ小さくなるので、アップシフト変速時に、スリーブ側の歯部と変速用のギヤ側の歯部と係合する際に発生する音を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】シームレスシフト機構を備える変速機の構成を説明する模式図である。
図2】シームレスシフト機構のカムリングとスリーブを説明する図である。
図3】カム駆動機構を説明する図である。
図4】入力軸側のカムリングの外周のカム溝を説明する図である。
図5】カム溝の作用を説明する図である。
図6】カムリングのカム溝による差回転の吸収/増大を説明する図である。
図7】出力軸側のカムリングの外周のカム溝の形状と作用を説明する図である。
図8】各変速段での変速比と、変速段の間の段間比を説明する図である。
図9】従来例にかかる変速機を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、シームレスシフト機構14を備える変速機10の場合を例に挙げて説明する。
図1は、シームレスシフト機構14を備える変速機10の構成を説明する模式図である。図2は、シームレスシフト機構14のカムリング43とスリーブ53を説明する図である。図2の(a)は、入力軸2と一体に回転するカムリング43にスリーブ53を組み付けた状態を示す斜視図である。図2の(b)は、カムリング43とスリーブ53を入力軸2の軸方向で離間して示した分解斜視図である。
なお、図2においては、入力軸2で支持された変速用のギヤ(3速ギヤ23)を仮想線で示しており、仮想線で示した3速ギヤ23は、外周の歯部の図示を省略している。
【0016】
図1に示すように、変速機10は、互いに平行に配置された入力軸2と出力軸3を有している。
入力軸2には、駆動源11の出力回転が、メインクラッチ12を介して入力される。
入力軸2には、複数の変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)と、伝達用のギヤ(第2伝達ギヤ32)が設けらている。
変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)の各々は、入力軸2で回転可能に支持されている。伝達用のギヤ(第2伝達ギヤ32)は、入力軸2と一体回転可能に設けらている。
入力軸2では、メインクラッチ12側から、1速ギヤ21と、第2伝達ギヤ32と、3速ギヤ23とが、間隔をあけて並んでいる。
【0017】
出力軸3には、複数の伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31、第3伝達ギヤ33)と、変速用のギヤ(2速ギヤ22)が設けられている。
伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31、第3伝達ギヤ33)は、出力軸3と一体回転可能に設けられている。変速用のギヤ(2速ギヤ22)は、出力軸3で回転可能に支持されている。
出力軸3では、ファイナルギヤ35側から、第1伝達ギヤ31と、2速ギヤ22と、第3伝達ギヤ33とが、間隔をあけて並んでいる。
【0018】
入力軸2では、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)に隣接する位置に、入力軸2と一体に回転するカムリング41、43が設けられている。図1では、カムリング41、43が、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)から見てメインクラッチ12側(図中、右側)に位置している。
【0019】
出力軸3では、変速用のギヤ(2速ギヤ22)に隣接する位置に、出力軸3と一体に回転するカムリング42が設けられている。図1では、カムリング42が、変速用のギヤ(2速ギヤ22)側から見てファイナルギヤ35側(図中、右側)に位置している。
【0020】
カムリング41、43の外周には、当該カムリング41、43の外周を回転軸方向(入力軸2の回転軸Xa方向)に延びるカム溝45が設けられている。
カムリング41、43の外周においてカム溝45は、回転軸Xa周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
カムリング42の外周には、当該カムリング42の外周を回転軸方向(出力軸3の回転軸Xb方向)に延びるカム溝45’が設けられている。カムリング42の外周においてカム溝45’は、回転軸Xb周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0021】
カムリング41、43の外周には、回転軸Xa方向から見てリング状を成すスリーブ51、53(図2参照)が外挿されている。
カムリング42の外周にも、回転軸Xb方向から見てリング状を成すスリーブ52が外挿されている。
【0022】
スリーブ51、53の各々は、カムリング41、43のカム溝45に係合する係合突起55を、カム溝45と同数有している。なお、図2では、カムリング43の係合突起55が示されている。
スリーブ52は、カムリング42のカム溝45’に係合する係合突起55を、カム溝45’と同数有している。
【0023】
スリーブ51、53の各々は、カム溝45に係合させた係合突起55により、カムリング41、43の外周で、入力軸2の軸方向(回転軸Xa方向)に移動可能、かつカムリング41、43と一体回転可能に設けられている。
スリーブ52は、カム溝45’に係合させた係合突起55により、カムリング42の外周で、出力軸3の軸方向(回転軸Xb方向)に移動可能、かつカムリング42と一体回転可能に設けられている。
【0024】
図1に示すように、スリーブ51、52、53の外周には、シフトフォーク61、62、63の一端部61a、62a、63aが係合している。
シフトフォーク61、62、63の他端部61b、62b、63bは、入力軸2(回転軸Xa)および出力軸3(回転軸Xb)に対して平行に配置されたシフトロッド71、72、73に連結されている。
【0025】
シフトロッド71、72、73は、軸線X1、X2、X3方向に変位可能である。シフトフォーク61、62、63は、シフトロッド71、72、73の軸線X1、X2、X3方向の変位に連動して、入力軸2および出力軸3の軸方向に変位する。
【0026】
よって、シフトフォーク61、62、63が外周に係合したスリーブ51、52、53もまた、シフトロッド71、72、73の軸線X1、X2、X3方向の変位に連動して、入力軸2および出力軸3の軸方向に変位する。
【0027】
前記したように、入力軸2では、カムリング41、43に隣接して、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)が設けられている。出力軸3では、カムリング42に隣接して、変速用のギヤ(2速ギヤ22)が設けられている。
カムリング41、43に外挿されたスリーブ51、53は、入力軸2の軸方向で、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)に対向している。
カムリング42に外挿されたスリーブ52は、出力軸3の軸方向で、変速用のギヤ(2速ギヤ22)に対向している。
【0028】
スリーブ51、52、53と、変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)の互いの対向部には、歯部(ドグ)56、26が設けられている(図2参照)。これら歯部56、26は、入力軸2周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0029】
変速機10では、シフトフォーク61、62、63により、スリーブ51、52、53を入力軸2と出力軸3の軸方向に変位させる。そうすると、変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)と、スリーブ51、52、53の互いの対向部に設けた歯部56、26同士が係脱する。
これにより、入力軸2と変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)との間での回転の伝達/非伝達と、出力軸3と変速用のギヤ(2速ギヤ22)との間での回転の伝達/非伝達と、が切替えられる。
【0030】
変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)の各々は、対応する伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31、第2伝達ギヤ32、第3伝達ギヤ33)に、それぞれ噛合している。
伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31、第3伝達ギヤ33)は、出力軸3で相対回転不能に設けられており、伝達用のギヤ(第2伝達ギヤ32)は、入力軸2で相対回転不能に設けられている。
【0031】
実施の形態にかかる変速機10では、例えば1速ギヤ21の歯部26と、スリーブ51の歯部56とを係合させて、1速ギヤ21とスリーブ51とを一体回転可能に連結すると、入力軸2に入力された回転が、第1伝達ギヤ31を介して出力軸3に伝達される。
これにより、入力軸2に入力された回転が、1速ギヤ21のギヤ比(変速比)で変速されて、出力軸3に伝達されたのち、ファイナルギヤ35と、差動装置36を介して、駆動輪37に伝達される。
【0032】
また、2速ギヤ22の歯部26と、スリーブ52の歯部56とを係合させて、2速ギヤ22とスリーブ52とを一体回転可能に連結すると、入力軸2に入力された回転が、2速ギヤ22のギヤ比(変速比)で変速されて、出力軸3に伝達されたのち、ファイナルギヤ35と、差動装置36を介して、駆動輪37に伝達される。
【0033】
変速機10では、歯部26、56同士(ドグ同士)を係合させた変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)と、スリーブ51、52、53との組み合わせを変更することで、複数の変速段が実現される。
【0034】
変速機10は、変速段の変更時に、スリーブ51、52、53を入力軸2および出力軸3の軸方向に変位させる駆動装置1を有している。
駆動装置1は、前記したシフトフォーク61、62、63と、シフトロッド71、72、73の他に、カム駆動機構9と、制御装置15を有している。
【0035】
図3は、カム駆動機構9の構成を説明する図である。
なお、図3では、カム溝91、92、93の位置を判り易くするために、シフトドラム90の外周にハッチングを付して示している。
【0036】
図3に示すように、カム駆動機構9は、円柱形状のシフトドラム90を有している。シフトドラム90は、軸線X1、X2、X3に対して平行な回転軸Xcに沿う向きで設けられている。シフトドラム90は、制御装置15によりモータM1が駆動されると、モータM1の回転動力で、回転軸Xc回りの一方向に回動する。
【0037】
シフトドラム90の外周には、カム溝91、92、93が設けられている。カム溝91、92、93は、シフトドラム90の外周を、回転軸Xc周りの周方向に沿って設けられている。
カム溝91、92、93は、シフトドラム90の回転軸Xc回りの角度位置に応じて、回転軸Xc方向の位置が変化する形状で形成されている。
【0038】
シフトドラム90では、カム溝91、92、93が、変速機10が備えるシフトフォーク61、62、63(図1参照)と同数設けられている。
カム溝91、92、93は、回転軸Xc方向に間隔をあけて設けられている。本実施形態では、カム溝91、92、93が、それぞれ1速、2速、3速の変速段に対応するカム溝である。
【0039】
カム溝91、92、93には、シフトアーム81、82、83に設けた係合ピン851、852、853が、回転軸Xcの径方向から係合している。
回転軸Xcの径方向から見て、係合ピン851、852、853の各々は、回転軸Xcと重なる位置で、カム溝91、92、93に係合している。
回転軸Xcの径方向から見て、係合ピン851、852、853の各々は、回転軸Xc上で直列に並んでいる。
【0040】
カム駆動機構9では、シフトドラム90が回転軸Xc回りに回動すると、カム溝91、92、93に係合させた係合ピン851、852、853の位置が、変速段の順番で、回転軸Xc方向に往復変位する。
【0041】
これにより、変位した係合ピン851、852、853を備えるシフトアーム81、82、83が、対応するシフトロッド71、72、73と共に、軸線X1、X2、X3方向に往復変位する。
そして、変位したシフトロッド71、72、73に連結されたシフトフォーク61、62、63が、対応するスリーブ51、52、53を、入力軸2の回転軸Xa方向または出力軸3の回転軸Xb方向に変位させる。
【0042】
カム駆動機構9は、シフトロッド71、72、73の各々を、軸線X1、X2、X3方向の所定位置に位置決めする位置決め機構70を有している。
この位置決め機構70は、軸線X1、X2、X3の径方向(直交方向)からシフトロッド71、72、73の外周に向けて弾性的に付勢されたチェックボールBと、シフトロッド71、72、73の外周に開口する凹溝70a、70b、70cと、を有している。
【0043】
チェックボールBは、シフトロッド71、72、73の軸線X1、X2、X3方向の所定位置に配置されおり、スプリングSpにより、シフトロッド71、72、73の外周に向けて付勢されている。
シフトロッド71、72、73において凹溝70a、70b、70cは、シフトロッド71、72、73の軸線X1、X2、X3方向で直列に連なって配置されている。
【0044】
本実施形態では、3つの凹溝70a、70b、70cのうちの何れかひとつに、スプリングSpで付勢されたチェックボールBが弾発的に係合する
【0045】
図3に示す場合を例に挙げて説明すると、シフトロッド71は、チェックボールBを凹溝70cに係合させた位置(回転伝達位置)で保持されている。この状態では、シフトロッド71に対応するスリーブ51は、当該スリーブ51の歯部56と1速ギヤ21の歯部26とを係合させた位置に保持される。
すなわち、入力軸2に入力された回転が1速ギヤ21のギヤ比で変速されて出力軸3に伝達される位置でスリーブ51が保持される。
【0046】
また、シフトロッド73は、チェックボールBを凹溝70bに係合させた位置(回転非伝達位置)で保持されている。この状態では、シフトロッド73に対応するスリーブ53は、当該スリーブ53の歯部56と3速ギヤ23の歯部26とを離間させた位置に保持される。すなわち、入力軸2に入力された回転が3速ギヤ23を介して、出力軸3に伝達されない位置で、スリーブ53が保持される。
【0047】
なお、実施の形態では、図1に示すように、スリーブ51、52、53の一方側にのみ変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)が配置されているが、他の変速用のギヤが、他方側に配置されている構成としても良い。
この場合には、シフトロッドを、チェックボールBを凹溝70aに係合させた位置で保持することで、スリーブの歯部56を、他の変速用のギヤの歯部に係合させた位置で保持することができる。
【0048】
変速機10のシームレスシフト機構14は、低速段から高速段へのアップシフト変速を、回転駆動力の伝達を途切れさせることなくシームレスに行えるようにするために設けられている。
シームレスシフト機構14では、変速の進行に伴い発生する差回転(回転差)と、カムリングのカム溝45、45’(カム面の傾斜)を利用して、低速段側のスリーブを速やかに移動させる一方で、高速段側のスリーブと高速段側のギヤの歯部同士が係合する際の音を抑制している。
【0049】
図4は、入力軸2側のカムリングの外周のカム溝45を説明する図である。図4では、カムリング41のカム溝45を構成するカム面451、452の形状が示されている。
【0050】
入力軸2に固定されたカムリング41、43と、各カムリング41、43のカム溝45は、同一の形状を有している。ここでは、「1速」の変速段に対応するカムリング41を例に挙げて説明する。
【0051】
図4に示すように、カムリング41の外周のカム溝45は、一対のカム面451、452の間に形成されている。
一方のカム面451と、他方のカム面452は、カムリング41の回転方向に間隔をあけて設けられている。
【0052】
一方のカム面451は、カムリング41の回転軸Xa方向の中心を通る線分(以下、中心線Cと標記する)を挟んで対称となる形状で形成されている。
カム面451は、回転軸Xaに対して平行な平坦部451aと、回転軸Xaに対して所定角度θ傾斜する傾斜部451bと、を有している。
カム面451は、平坦部451aと、傾斜部451bと、傾斜部451bと、平坦部451aと、が回転軸Xa方向の一方側から他方側に順番に連なって形成されている。
【0053】
他方のカム面452もまた、カムリング41の回転軸Xa方向の中心線Cを挟んで対称となる形状で形成されている。
カム面452は、回転軸Xaに対して平行な平坦部452aと、回転軸Xaに対して所定角度θ傾斜する第1傾斜部452bと、回転軸Xaに対して所定角度θ1傾斜する第2傾斜部452cと、を有している。
【0054】
カム面452は、平坦部452aと、第1傾斜部452bと、第2傾斜部452cと、第2傾斜部452cと、第1傾斜部452bと、平坦部451aと、が回転軸Xa方向の一方側から他方側に順番に連なって形成されている。
カム面452では、第1傾斜部452bの回転軸Xaに対する傾きθのほうが、第2傾斜部452cの回転軸Xaに対する傾きθ1よりも大きくなっている。
【0055】
回転軸Xaの径方向から見て、カム面451は、回転軸Xa方向で隣接する傾斜部451b、451bの境界P1を、カムリング41の回転方向において、平坦部451aよりも上流側に位置させた向きで設けられている。
同様に、カム面452は、回転軸Xa方向で隣接する第2傾斜部452c、452cの境界P2を、カムリング41の回転方向において、平坦部452aよりも上流側に位置させた向きで設けられている。
【0056】
実施の形態では、図4における左側に、1速ギヤ21が位置している。そのため、カム溝45に係合した係合突起55は、カム溝45における中心線Cよりも左側の領域を摺動する。
【0057】
カム溝45における中心線Cよりも右側の領域は、図4における右側に他の変速用のギヤが位置している場合に、係合突起55が摺動する。
この場合には、スリーブ51の歯部56を、他の変速用のギヤ側の歯部26に係合させる際に、スリーブ51を図4における右側に向けて変位させることになる。
本実施形態では、回転軸Xaの径方向から見て、カム溝45は、略V字形状を成している。これは、回転軸Xa方向におけるスリーブ51の一方側と他方側の何れに変速用のギヤが配置された場合であっても対応できるようにするためである。
【0058】
図5は、カム溝45のカム面451、452の作用を説明する図である。図5の(a)では、スリーブ側の歯部と変速用のギヤ側の歯部とが係合する場合におけるカム面451による係合突起55の変位が示されている。
図5の(b)では、スリーブ側の歯部と変速用のギヤ側の歯部との係合が解消される場合におけるカム面452による係合突起55の変位が示されている。
【0059】
カムリングに外挿されたスリーブが、アップシフト変速時の変更後の変速段(高速段)に対応するスリーブである場合には、スリーブが備える係合突起55は、アップシフト変速の過程で、図5の(a)における左側に変位する。
【0060】
この場合、係合突起55は、回転するカムリングのカム面451(傾斜部451b)を摺動しながら、図中左側に変位して、平坦部451aに到達した時点で、スリーブの歯部56が、変更後の変速段に対応する変速用のギヤの歯部26に係合する。
ここで、傾斜部451bの回転軸Xaに対する傾きは、傾斜部451bの位置が、変速用のギヤ側(図中、左側)に向かうに連れて、カムリングの回転方向における下流側となる向きに設定されている。
【0061】
そのため、係合突起55は、傾斜部451bを摺動しながら変速用のギヤに近づく方向に速やかに変位して、変更後の変速段に対応するスリーブ側の歯部56と変速用のギヤ側の歯部26とが速やかに係合する。
【0062】
カムリングに外挿されたスリーブが、アップシフト変速時の変更前の変速段(低速段)に対応するスリーブである場合には、スリーブが備える係合突起55は、アップシフト変速の過程で、図5の(b)における右側に変位する。
【0063】
この場合、係合突起55は、回転するカムリング42のカム面452(第1傾斜部452b)を摺動しながら、図中、右側に変位して、第2傾斜部452cに到達した時点で、スリーブの歯部56が、変速用のギヤの歯部26から完全に離脱する。
ここで、第1傾斜部452bの回転軸Xaに対する傾きは、第1傾斜部452bの位置が、変速用のギヤ側(図中、左側)から離れるに連れて、カムリングの回転方向における上流側となる向きに設定されている。
【0064】
アップシフト変速時に変更後の変速段(高速段)での回転の伝達が開始されると、入力軸2の回転数が低下する。そうすると、変更前の変速段(低速段)に対応する係合突起55が接触するカム面が、下流側のカム面451から、上流側のカム面452に切り替わる。
【0065】
係合突起55が接触した新たなカム面452は、変速用のギヤ側(図中、左側)から離れるに連れて、カムリングの回転方向における上流側となる向きに設定されている。
そのため、係合突起55は、回転するカムリングの第1傾斜部452bにより押されて、変速用のギヤ側から離れる方向(図中、右方向)に速やかに変位する。その結果、カムリングもまた、変速用のギヤから離れる方向に速やかに変位して、変更前の変速段(低速段)に対応するスリーブ側の歯部56と変速用ギヤ側の歯部26との係合が速やかに解消される。
【0066】
このように、回転軸に対して傾斜するカム面451、452を持つカム溝45により、変更後の変速段(高速段)に対応する歯部同士の係合と、変更前の変速段(低速段)に対応する歯部同士の係合の解消が速やかに行われる。
これにより、低速段から高速段へのアップシフト変速が、回転駆動力の伝達を途切れさせることなくシームレスに行われる。
【0067】
前記したように、シームレスシフト機構14では、変速の進行に伴い発生する差回転(回転差)と、カムリングのカム溝45(カム面の傾斜)を利用して、高速段側のスリーブと変速用のギヤの歯部同士が係合する際の音を抑制している。
以下、音の抑制を説明する。
図6は、カムリングのカム溝45による差回転の吸収/増大を説明する図である。
図6の(a)は、カムリングが入力軸2に設けられている場合における差回転の吸収を説明する図であり、図6の(b)は、カムリングが出力軸3に設けられている場合における差回転の増大を説明する図である。
図7は、スリーブ52と変速用ギヤ(2速ギヤ22)の歯部同士が係合する際の音を抑制するためのカム溝45’の形状と作用を説明する図である。図7の(a)は、カム溝45’のカム面452Aを説明する図である。図7の(b)は、カム溝45’におけるカム面452Aの作用を説明する図である。
【0068】
カムリング43が設けられた入力軸2の回転が、2速から3速へのアップシフト変速において、1000rpmから700rpmになる場合を例に挙げて説明する。
図6の(a)に示すように、アップシフト変速前の変速段が2速である場合には、入力軸2に設けられたカムリング42は、1000rpmで回転している。
【0069】
この状態で、3速に対応するスリーブ53が、変速用のギヤ(3速ギヤ23)に近づく方向に変位すると、スリーブ53の係合突起55は、カム面451(傾斜部451b)に沿って変速用のギヤ(3速ギヤ23)に近づく方向に変位する。
【0070】
ここで、傾斜部451bの回転軸Xaに対する傾きは、傾斜部451bの位置が、変速用のギヤ側(図中、左側)に向かうに連れて、カムリング43の回転方向における下流側となる向きに設定されている。
【0071】
そのため、係合突起55が、回転するカムリング43の傾斜部451bにより押されて、変速用のギヤ側に速やかに変位する際に、スリーブ52は、傾斜部451bの部分の周方向の幅Wxに相当する分だけ、カムリング43に対して相対的に回転する(図5の(a)、相対回転可能な範囲を参照)。
この際のスリーブ53の回転方向は、カムリング43の回転方向に対して逆方向であり、スリーブ53の回転速度が、傾斜部451bの部分の周方向の幅Wxに相当する分だけ低下する。
これにより、歯部同士を係合させようとしているスリーブ53と3速ギヤ23との差回転が小さくなる結果、スリーブ53側の歯部56と3速ギヤ23側の歯部26とが係合する際の衝突音が抑制される。図6の(a)では、スリーブ53の回転速度が1000rpmから900rpmまで低下することが示されている。
【0072】
ここで、図6の(b)に示すように、カムリング43が出力軸3に設けられている場合、出力軸3の回転方向は、入力軸2の回転方向とは逆である。
そのため、スリーブ53が、変速用のギヤ(3速ギヤ23)に近づく方向に変位すると、スリーブ53の係合突起55は、カム面452(第1傾斜部452b)に沿って変速用のギヤに近づく方向に変位する。
【0073】
そして、出力軸3に設けたカムリング42のカム溝45が、入力軸2に設けたカムリング42のカム溝45と同じ向きある場合には、次のような問題が生じる可能性がある。
すなわち、第1傾斜部452bの回転軸Xaに対する傾きは、第1傾斜部452bの位置が、変速用のギヤ側(図中、左側)に向かうに連れて、カムリング43の回転方向における上流側となる向きに設定されている。
【0074】
そのため、係合突起55が、回転するカムリングの第1傾斜部452bを摺動しながら変速用のギヤ側に変位する際に、スリーブ52は、第1傾斜部452bの部分の周方向の幅Wxに相当する分だけ、カムリング43に対して相対的に回転する(図5の(b)、相対回転可能な範囲を参照)。
この際のスリーブ53の回転方向は、カムリング43の回転方向に対して同じ方向であり、スリーブ53の回転速度が、第1傾斜部452bの部分の周方向の幅Wxに相当する分だけ増加する。図6の(b)では、スリーブ53の回転速度が1000rpmから1100rpmまで増加する。
これにより、歯部同士を係合させようとしているスリーブ53と3速ギヤ23との差回転が大きくなる結果、スリーブ53側の歯部56と3速ギヤ23側の歯部26とが係合する際の衝突音が大きくなる。図6の(b)では、スリーブ53の回転速度が1000rpmから1100rpmまで増加することが示されている。
【0075】
図1に示すように、本実施の形態にかかる変速機10では、2速の変速段に対応するカムリング42が出力軸3に設けられている。
出力軸3に設けられたカムリング42のカム溝45’は、他のカムリング41、43におけるカム溝45と略同じV字形状で、かつ向きも同じであるが、衝突音を低減させるために、カム面452Aの形状が、前記した他のカム溝45のカム面452の形状と異なっている。
【0076】
具体的には、図7の(a)に示すように、カム面452Aは、平坦部452aと、第1傾斜部452b’と、第2傾斜部452c’と、第2傾斜部452c’と、第1傾斜部452b’と、平坦部452aと、が回転軸Xb方向の一方側から他方側に順番に連なって形成されている。
【0077】
回転軸Xbの径方向から見て、カム面452Aは、回転軸Xb方向で隣接する第2傾斜部452c’、452c’の境界P3を、カムリング42の回転方向において、平坦部452aよりも下流側に位置させた向きで設けられている。
実施の形態では、図7の(a)における左側に、2速ギヤ22が位置している。そのため、係合突起55は、1速から2速へのアップシフト変速の過程で、カム溝45における中心線Cよりも左側の領域を摺動する。
【0078】
カム面452Aの第1傾斜部452b’は、回転軸Xbに対する傾きθ2が、前記したカム面452の第1傾斜部452b(図中、破線参照)の回転軸Xaに対する傾きθよりも小さくなっている。
【0079】
ここで、第1傾斜部452b’の回転軸Xbに対する傾きは、第1傾斜部452b’の位置が、変速用のギヤ(2速ギヤ22)側に向かうに連れて、カムリングの回転方向における上流側となる向きに設定されている。
【0080】
そのため、係合突起55は、変速用のギヤ側(図中、左側)に変位する際に、回転するカムリング42の第1傾斜部452b’より、カムリング42の回転方向側(上流側に)押されることになる。
そのため、スリーブ52は、第1傾斜部452b’の部分の周方向の幅Wx’に相当する分だけ、カムリング42に対して相対的に回転する(図7の(a)、相対回転可能な範囲を参照)。
この際のスリーブ52の回転方向は、カムリング42の回転方向と同じ方向であり、スリーブ52の回転速度が、第1傾斜部452b’の部分の周方向の幅Wx’に相当する分だけ増加する。
【0081】
ここで、カム面452Aの第1傾斜部452b’は、回転軸Xbに対する傾きθ2(交差角)が、前記したカム面452の第1傾斜部452bの回転軸Xaに対する傾きθ(交差角)よりも小さくなっている。
そのため、形状を変更する前のカム面452よりも、第1傾斜部452b’を持つカム面452Aのほうが、スリーブ52がカムリング42に対して相対的に回転する量が少なくなる。さらに、スリーブ52の回転軸Xbの変位速度も遅くなる。
図7の(b)では、スリーブ52の回転速度が1000rpmから1050rpmまで増加しており、カム面452(第1傾斜部452b)の場合よりもカム面452A(第1傾斜部452b’)のほうが、回転速度の増加量が抑えられていることが示されている。
【0082】
その結果、歯部同士を係合させようとしているスリーブ52と2速ギヤ22との差回転の増加量が抑えられて、スリーブ52側の歯部56と2速ギヤ22側の歯部26とが係合する際の衝突音が低減される。
【0083】
図8は、各変速段での変速比と、変速段の間の段間比を説明する図であって、比較例の場合と本願の場合の設定例との関係を説明する図である。なお、図8に示す各数値は、説明の便宜上示したものである。
【0084】
変速機10では、各変速段での変速比が予め設定されている。例えば、比較例に示すような変速比が設定されている場合、1速から2速へのアップシフト変速の場合には、変速比が8.0から4.0に変更される。この場合の段間比は2.0となる。
そして、段間比が大きくなるほど、変更前の変速段(例えば、1速)での入力軸2の回転数と、変更後の変速段(例えば、2速)での入力軸2の回転数との差が大きくなる。
【0085】
前記したように、アップシフト変速での変速段の変更の前後での回転数の差(差回転)が大きくなると、変更後の変速段に対応するスリーブの歯部56と、変速用のギヤの歯部26とが係合する際の衝突力が大きくなって、係合時に発生する音もまた大きくなる。
【0086】
本実施形態では、図1に示すように、2速に対応するカムリング42が出力軸3に設けられている。
そして、カムリング42のカム溝45’は、回転軸の径方向から見たカム面の傾きが、スリーブ52の歯部56を2速ギヤ22の歯部26に係合させる際に、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転を増加させる向きである。そのため、差回転が増加する分だけ、歯部26、56同士を係合させる際に発生する音が大きくなる。
【0087】
そのため、本実施形態では、1速と2速との間の段間比が、比較例よりも小さくなるように2速での変速比が設定されている。
段間比が小さくなると、変速段の変更の前後での回転数の差(差回転)が、段間比が小さくなった分だけ小さくなる。これにより、変速後の変速段に対応するスリーブの歯部56と、変速用のギヤの歯部26とが係合する際の衝突力が小さくなって、係合時に発生する音もまた小さくなるようにしている。
【0088】
なお、本実施形態では、段間比を比較例よりも小さくするにあたり、2速の変速比のみを調整した場合を例示したが、1速の変速比と2速の変速比の少なくとも一方を調整することで、1速と2速との間の段間比を、比較例よりも小さくできる。
【0089】
さらに、本実施形態では、説明の便宜上、変速機10の変速段の総数が3段である場合を例示したが、変速段の総数は4段以上であっても良い。
この場合には、差回転を増加させる向きでカム溝(カム面)が設けられたカムリングを特定し、特定したカムリングに対応する変速段にアップシフト変速する際の段間比が小さくなるように、各変速段の変速比と、変速段の間の段間比を設定すれば良い。
【0090】
上記した実施形態では、以下の2つの手段により、アップシフト変速において、変更後の変速段に対応するスリーブと変速用のギヤとが、互いの歯部同士を係合させる際の衝突力を抑制して、係合時に発生する音を抑制する場合を例示した。
(a)カム溝45’のカム面452A(第1傾斜部452b’)の回転軸に対する傾きθ2を、他のカム溝45のカム面451(傾斜部451b)の回転軸に対する傾きθや、カム面452(第1傾斜部452b)の回転軸に対する傾きθよりも小さくする。
(b)アップシフト変速において、変速段の変更の前後での段間比を、既存の場合よりも小さくする。
【0091】
変速機10では、回転軸の径方向から見たカム溝45(カム面)の傾きが、スリーブ側の歯部56と変速用のギヤ側の歯部26とをアップシフト変速時に係合させる際に、スリーブと変速用のギヤとの差回転を増加させる向きである場合には、上記(a)、(b)の少なくとも一方の手段を採用することで、互いの歯部同士を係合させる際の衝突力を抑制して、係合時に発生する音を抑制できる。
【0092】
以上の通り、本実施形態にかかるシームレスシフト機構14は、以下のような構成を有している。
(1)シームレスシフト機構14は、
入力軸2(入力側の回転軸)と出力軸3(出力側の回転軸)のうちの一方の回転軸と一体に回転するカムリング41、42、43と、
カムリング41、42、43に外挿されて設けられていると共に、カムリング41、42、43の外周のカム溝45、45’、45に係合させた係合突起55(突起)により、回転軸Xa、Xb方向(回転軸の軸方向)に移動可能、かつカムリング41、42、43と一体回転可能に設けられたスリーブ51、52、53と、
カムリング41、42、43が設けられた一方の回転軸で回転可能に支持されていると共に、カムリング41、42、43に隣接する位置に配置された変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)と、を有する。
シームレスシフト機構14では、スリーブ51、52、53の回転軸方向の変位により、スリーブ51、52、53と、変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)の互いの対向部に設けた歯部56、26同士を係脱させて、入力軸2と出力軸3との間での変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)を介した回転の伝達/非伝達が切替えられる。
回転軸(回転軸Xa、Xb)の径方向から見てカム溝45、45’では、係合突起55が摺動するカム面451、452、452Aが、回転軸(回転軸Xa、Xb)に交差する向きで設けられている。
スリーブ51、52、53は、回転軸(回転軸Xa、Xb)方向に変位する際に、カム面451、452、452Aの回転軸(回転軸Xa、Xb)に対する交差角θに応じた角度範囲内でカムリング41、42、43に対して相対的に回転可能である。
出力軸3に設けたカムリング42では、回転軸(回転軸Xb)の径方向から見たカム面452A(第1傾斜部452b’)の回転軸Xbに対する傾きθ2(交差角)を、入力軸2に設けたカムリング41、43のカム面452(第1傾斜部452b)の回転軸Xaに対する傾きθ(交差角)よりも小さくしている。
【0093】
アップシフト変速で変速段が変更されると、変更後の変速段(高速段)での回転数は、変更前の変速段(低速段)での回転数よりも低くなる。
そのため、変更後の変速段を実現するカムリングと変速用のギヤは、回転差が大きい状態で歯部同士を係合させることになるが、差回転が大きくなるほど、歯部同士を係合させた際の異音が大きくなる。
【0094】
出力軸3に設けたカムリング42では、回転軸(回転軸Xb)の径方向から見たカム面452A(第1傾斜部452b’)の傾きを、入力軸2に設けたカムリング41、43のカム面452(第1傾斜部452b)の傾きと同じにすると、スリーブ52側の歯部56と変速用のギヤ(2速ギヤ22)側の歯部26とを係合させる際に、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転が増加する。
そのため、出力軸3に設けたカムリング42では、回転軸(回転軸Xb)の径方向から見たカム面452A(第1傾斜部452b’)の回転軸Xbに対する傾きθ2を、入力軸2に設けたカムリング41、43のカム面452(第1傾斜部452b)の回転軸Xaに対する傾きθよりも小さくしている。
これにより、スリーブ52側の歯部56と2速ギヤ22側の歯部26とを係合させる際のスリーブ52と2速ギヤ22との差回転の増加が抑制される。
これにより、歯部同士が係合する際の衝突力が、回転差が抑えられた分だけ小さくなるので、アップシフト変速時に、スリーブ側の歯部と変速用のギヤ側の歯部と係合する際に発生する音を抑制できる。
【0095】
本件発明は、変速機10としても特定できる。本実施形態にかかる変速機10は、以下の構成を有している。
(2)変速機10は、上記(1)に記載したシームレスシフト機構14を用いて、入力軸2(入力側の回転軸)と出力軸3(出力側の回転軸)との間での回転の伝達を行う変速機である。
変速機10は、変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)と、伝達用のギヤ(第1伝達ギヤ31、第2伝達ギヤ32、第3伝達ギヤ33)を、複数組備えている。
変速機10では、歯部26、56同士を係合させる変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)とスリーブ51、52、53との組み合わせを、変速段の順番で切替えることで、変速段が順番に変更される仕様となっている。例えば、アップシフト変速では、1速→2速→3速の順番で変速段が変更される。
アップシフト変速の過程で、歯部26、56同士を係合させる変速用のギヤ(1速ギヤ21、2速ギヤ22、3速ギヤ23)とスリーブ51、52、53との組み合わせを変更する際に、変更後の変速段(例えば、2速)に対応するスリーブ52の係合突起55が摺動するカム面452(第1傾斜部452b)が、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転を増加させる向きである場合には、変更後の変速段に対応するスリーブ52の係合突起55が摺動するカム面452を、回転軸Xbに対する交差角θ2が、他のスリーブ51、53のカム面452(第1傾斜部452b)の回転軸Xaに対する交差角θや、カム面451(傾斜部451b)の回転軸Xaに対する交差角θよりも小さい交差角θ2のカム面452A(第1傾斜部452b’)にする。
【0096】
変速機10では、入力軸2と出力軸3が互いに平行に設けられている。そして、カムリング41、42、43は、入力軸2と出力軸3の何れか一方に設けられており、入力軸2に設けられたカムリング41、43のカム溝45と、出力軸3に設けられたカムリング42のカム溝45は、同じ向きで設けられている。
ここで、カムリング41、43のカム溝45(傾斜部451b)は、スリーブ51、53の歯部56と、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)の歯部26とを係合させる際に、スリーブ51、53と、変速用のギヤ(1速ギヤ21、3速ギヤ23)との差回転を減少させる。
一方で、カムリング42のカム溝45(カム面452)は、スリーブ52の歯部56と2速ギヤ22の歯部26とを係合させる際に、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転を増大させる。
そのため、1速から2速へのアップシフト変速の過程で、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転が大きくなって、歯部56、26同士を係合させる際の衝突力が大きくなる結果、係合時に発生する音もまた大きくなる。
【0097】
上記のように、スリーブ52におけるカム面452A(第1傾斜部452b’)の回転軸Xbに対する交差角θ2を、他のスリーブ51、53のカム面452(第1傾斜部452b)の回転軸Xbに対する交差角θや、カム面451(傾斜部451b)の回転軸Xaに対する交差角θよりも小さくすることで、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転の増加量を抑制できる。これにより、スリーブ52の歯部56と、2速ギヤ22の歯部26とが係合する際の衝突力が小さくなって、係合時に発生する音を抑制できる。
【0098】
本実施形態にかかる変速機10は、以下の構成を有している。
(3)新たに実現する変更後の変速段(高速段)が、当該変更後の変速段に対応するスリーブ52と変速用のギヤ(2速ギヤ22)を、互いの差回転を増加させつつ歯部56、26同士を係合させる変速段である場合には、変更後の変速段での変速比と変更前の変速段での変速比との間の段間比が、予め決められた段間比よりも小さい段間比に設定されている。
【0099】
例えば、変更後の変速段に対応するスリーブ52の係合突起が摺動するカムリング42のカム面452の向きが、スリーブ52と2速ギヤ22との差回転を増加させつつ歯部56、26同士を係合させる向きである場合には、スリーブ52の歯部56と、2速ギヤ22の歯部26とが係合する際の衝突力が大きくなって、係合時に発生する音が大きくなる。
変速機10では、各変速段での変速比が予め設定されている。そして、段間比が大きくなるほど、変更前の変速段(例えば、1速)での入力軸2の回転数と、変更後の変速段(例えば、2速)での入力軸2の回転数との差が大きくなる。
上記のように、変更前の変速段(例えば、1速)と変更後の変速段(例えば、2速)との間の段間比が、比較例(図8の(a)参照)よりも小さくなるように設定すると、変速段の変更の前後での回転数の差(差回転)が、段間比が小さくなった分だけ小さくなる。
これにより、変更後の変速段に対応するスリーブの歯部と、変速用のギヤの歯部とが係合する際の衝突力が小さくなって、係合時に発生する音もまた小さくなるようにしている。
【0100】
このように、以下の2つの手段を併用することで、アップシフト変速において、変更後の変速段に対応するスリーブと変速用のギヤとが、互いの歯部同士を係合させる際の衝突力を抑制して、係合時に発生する音を抑制できる。
(a)カム溝45のカム面452A(第1傾斜部452b’)の回転軸に対する傾きθ2を、他のカム溝45のカム面451(傾斜部451b)の回転軸に対する傾きθや、カム面452(第1傾斜部452b)の回転軸に対する傾きθよりも小さくする。
(b)アップシフト変速において、変速段の変更の前後での段間比を、既存の場合よりも小さくする。
【0101】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 駆動装置
10 変速機
11 駆動源
12 メインクラッチ
14 シームレスシフト機構
15 制御装置
2 入力軸
21 1速ギヤ(変速用のギヤ)
22 2速ギヤ(変速用のギヤ)
23 3速ギヤ(変速用のギヤ)
26 歯部
3 出力軸
31 第1伝達ギヤ(伝達用のギヤ)
32 第2伝達ギヤ(伝達用のギヤ)
33 第3伝達ギヤ(伝達用のギヤ)
35 ファイナルギヤ
36 差動装置
37 駆動輪
41、42、43、 カムリング
45 カム溝
51、52、53 スリーブ
55 係合突起
56 歯部
61、62、63 シフトフォーク
70 位置決め機構
71、72、73 シフトロッド
81、81、83 シフトアーム
9 カム駆動機構
90 シフトドラム
91、92、93 カム溝
451 カム面
451a 平坦部
451b 傾斜部
452、452A カム面
452a 平坦部
452b、452b’ 第1傾斜部
452c、452c’ 第2傾斜部
B チェックボール
C 中心線
M1 モータ
Sp スプリング
X1、X2、X3 軸線
Xa、Xb、Xc 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9