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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/19 20160101AFI20221212BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20221212BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20221212BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20221212BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20221212BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20221212BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20221212BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20221212BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/46 ZHV
B60K6/442
B60K6/445
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/61
B60W10/08
B60W10/06
B60W10/26
F02D29/06 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018224151
(22)【出願日】2018-11-29
(65)【公開番号】P2020083219
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】谷内 智紀
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-000537(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047224(WO,A1)
【文献】特開2010-174775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 10/30
B60W 20/00 - 20/50
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
F02D 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機と、
走行用電動機に供給するべき電力を発電する発電機に発電のための駆動力を供給できる、または駆動輪に走行のための駆動力を供給できる、駆動輪とは独立して回転可能な内燃機関と、
内燃機関に当該内燃機関を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機とを具備するハイブリッド車両を制御するものであって、
当該ハイブリッド車両は、通常の走行モードと、通常の走行モードと比較して駆動輪に供給する駆動力を迅速に増大させるモードとを選択可能であり、
通常の走行モードと比較して駆動輪に供給する駆動力を迅速に増大させるモードが選択されている場合において、運転者によるアクセルペダルの踏込量如何によらず内燃機関にて燃料を燃焼させずモータリング用電動機により予め内燃機関を回転駆動するモータリングを実行することとし、その際の内燃機関の回転速度を現在の車速に応じて増減させるハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記モータリングの実行中に、前記走行用電動機及び前記モータリング用電動機に電力を供給する蓄電装置が現在蓄えている電荷の量が閾値を下回ったならば、前記内燃機関にて燃料を燃焼させて当該内燃機関を運転し前記発電機による発電を行って蓄電装置を充電する請求項1記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用の電動機及び内燃機関を搭載したハイブリッド車両を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献を参照)は、内燃機関により発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置(バッテリ及び/またはキャパシタ)に蓄えるとともに走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の車軸ひいては駆動輪を回転させて走行する。
【0003】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動することで、余剰の電力を消費する。
【0004】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の運転を停止している状態が継続することがある。
【0005】
蓄電装置が現在蓄えている電荷の量が所定量を下回っている場合、または走行用モータジェネレータに要求される出力駆動力が極大である場合には、内燃機関を始動し気筒に燃料を供給してこれを燃焼させ、内燃機関の出力する回転駆動力を以て発電用モータジェネレータを駆動し、発電を実施して蓄電装置を充電し、または走行用モータジェネレータに供給する電力を増強する。
【0006】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング(または、クランキング)する役割を兼ねる。モータリング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【0007】
内燃機関が燃料を燃焼させて自立的に回転できるようになるためには、内燃機関の各気筒の現在の行程またはピストンの位置を知得した上で、各気筒の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させる必要がある。
【0008】
既存のシステムでは、内燃機関のクランクシャフトが所定角度(例えば、10°CA(クランク角度))回転する都度パルス信号を発するクランク角センサの出力信号と、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトが所定角度(カムシャフトの一回転を気筒数で割った角度。三気筒エンジンであれば、120°(240°CA))回転する都度パルス信号を発するカム角センサの出力信号とを用いて、気筒判別を行っている。気筒判別を完了するには、停止していた内燃機関のクランクシャフトが二回転程度回転する必要がある。その分だけ、内燃機関の始動に時間を要することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-064735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両にあって、速やかなる加速を要求する運転者の意思に合致したレスポンスを実現しながらも、エネルギ消費をできる限り抑制することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、駆動輪に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機と、走行用電動機に供給するべき電力を発電する発電機に発電のための駆動力を供給できる、または駆動輪に走行のための駆動力を供給できる、駆動輪とは独立して回転可能な内燃機関と、内燃機関に当該内燃機関を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機とを具備するハイブリッド車両を制御するものであって、ハイブリッド車両は、通常の走行モードと、通常の走行モードと比較して駆動輪に供給する駆動力を迅速に増大させるモードとを選択可能であり、通常の走行モードと比較して駆動輪に供給する駆動力を迅速に増大させるモードが選択されている場合において、運転者によるアクセルペダルの踏込量如何によらず内燃機関にて燃料を燃焼させずモータリング用電動機により予め内燃機関を回転駆動するモータリングを実行することとし、その際の内燃機関の回転速度を現在の車速に応じて増減させるハイブリッド車両の制御装置を構成した。
【0012】
前記モータリングの実行中に、前記走行用電動機及び前記モータリング用電動機に電力を供給する蓄電装置が現在蓄えている電荷の量が閾値を下回ったならば、前記内燃機関にて燃料を燃焼させて当該内燃機関を運転し前記発電機による発電を行って蓄電装置を充電することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハイブリッド車両にあって、速やかなる加速を要求する運転者の意思に合致したレスポンスを実現しながらも、エネルギ消費をできる限り抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概要を示す図。
図2】同実施形態のハイブリッド車両の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
図3】同実施形態のハイブリッド車両の制御装置によるモータリング中の内燃機関の回転速度と車速との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態におけるハイブリッド車両の主要システムの概略構成を示している。このハイブリッド車両は、内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の車軸ひいては駆動輪62を駆動する走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0016】
本実施形態のハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。つまり、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、換言すれば運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が充分な電荷を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0017】
内燃機関1は、例えば複数の気筒を包有する4ストロークエンジンである。内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構を介して機械的に接続している。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動する電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのモータリング(クランキング)を実行する。
【0018】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0019】
但し、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を敢えて発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として稼働させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0020】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0021】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。
【0022】
発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)の一部をなす。
【0023】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0024】
内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4の制御を司る制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するエンジンコントローラ01、発電用モータジェネレータ2及び発電機インバータ21を制御する発電機コントローラ02、蓄電装置3を制御するバッテリコントローラ03、走行用モータジェネレータ4及び駆動機インバータ41を制御する駆動機コントローラ04等が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。
【0025】
ECU0は、センサを介してセンシングしている、運転者によるアクセルペダルの踏込量や、シフトポジション即ちシフトレバー若しくはセレクタレバーの位置またはスイッチのON/OFF、現在の車両の車速、路面の勾配、蓄電装置3の蓄電量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさを増減制御する。
【0026】
運転者は、シフトレバー若しくはセレクタレバーまたはスイッチの操作を通じて、車両の走行モードを複数の中から選択、変更することができる。走行モードには、通常の走行モードであるDモードと、Dモードと比較して燃費性能が低下する可能性があるが駆動輪62に供給する駆動力をより迅速に増大させることのできる加速性能重視の走行モードであるSモード(スポーツモード、またはパワー優先モード)とが含まれる。
【0027】
蓄電装置3が現在充分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に要求される出力駆動力が極大でない場合、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が現在蓄えている電荷の量が所定量を下回っている場合、または走行用モータジェネレータ4に要求される出力駆動力が極大である場合には、内燃機関1を始動し気筒に燃料を供給してこれを燃焼させ、内燃機関1の出力する回転駆動力を以て発電量モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0028】
内燃機関1の気筒に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動しようとするとき、発電用モータジェネレータ2が内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。内燃機関1の始動のためのモータリングは、内燃機関1が燃料を燃焼させて自立的に回転できるようになるまで続行する。より具体的には、センシングしている内燃機関1のクランクシャフトの回転速度が始動に必要な最低限度の値以上に高まり、かつモータリングの開始から内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転した時点で、モータリングを終了する。内燃機関1の始動が完了し、内燃機関1のモータリングを終了して以降は、発電用モータジェネレータ2への電力供給を0まで低下させる。
【0029】
クランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転した、という条件は、内燃機関1の各気筒の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了した、と置き換えてもよい。当然ながら、各気筒の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、また適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるためには、各気筒の現在の行程を知る必要がある。気筒判別は、内燃機関1のクランクシャフトが所定角度回転する都度パルス信号を発するクランク角センサと、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトが所定角度回転する都度パルス信号を発するカム角センサとを用いて行う。気筒判別の手法は周知であるので、ここではその説明を割愛する。
【0030】
クランク角センサ及びカム角センサの短所として、内燃機関1のクランクシャフト及びカムシャフトの回転速度が著しく低下すると、信号対雑音比の高い信号を出力できなくなる点が挙げられる。内燃機関1が回転を停止したときの各気筒の行程またはピストンの位置は、内燃機関1の始動を開始する時点では分からない。ECU0がクランク角信号及びカム角信号を参照して各気筒の行程を判別するためには、停止していた内燃機関1のクランクシャフトが二回転程度回転する必要がある。それもあって、停止した内燃機関1の始動を開始してから、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を走行用モータジェネレータ4に供給し始めるまでには、ある程度の時間を要する。
【0031】
運転者が強くアクセルペダルを踏み込んで車両の速やかなる加速を要求したときに、内燃機関1が停止していると、その運転者の意思に合致した迅速な加速を実現できない可能性がある。とりわけ、車両に搭載している蓄電装置3が小型軽量で小容量のものであり、蓄電装置3単独で走行用モータジェネレータ4に供給できる電力の大きさに制限があると、発電用モータジェネレータ2の発電電力を合わせて走行用モータジェネレータ4に供給しなければ、要求された加速度を達成するのに必要十分な駆動力を発生させて駆動輪62に入力することができない。
【0032】
そこで、図2に示すように、本実施形態のECU0は、運転者が走行モードとしてSモードを選択している場合(ステップS1)、運転者によるアクセルペダルの踏込量如何によらず(踏込量の多寡に関わりなく)発電用モータジェネレータ2により内燃機関1のクランクシャフトを回転させるモータリングを継続的に実行しておく(ステップS3)。このモータリング中は、内燃機関1の気筒に燃料を供給せず、気筒において燃料を燃焼させない。さらに、ECU0は、このモータリング中に内燃機関1の気筒判別を完了し、各気筒の現在の行程を恒常的に把握している。
【0033】
運転者による加速要求に先んじて予め内燃機関1をモータリングしておけば、加速要求があったときに(ステップS5)即時に燃料供給及び着火燃焼を開始して内燃機関1を始動し、内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を駆動して発電を行い(ステップS6)、その発電した電力を走行用モータジェネレータ4に供給することができる。従って、運転者による加速要求に見合った駆動力を迅速に走行用モータジェネレータ4が出力し、これを駆動輪62に入力して車速を適時に加速させることが可能となる。
【0034】
Sモードでのモータリング中の内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の回転速度は、気筒に燃料を供給することで速やかに内燃機関1を始動し得る程度の速度に保っておく。走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して走行する車両は、その車速が約40km/hの状況から加速するときに最も大きな出力を必要とする。図3に示すように、ECU0は、Sモードでのモータリングにおいて、現在の車速に応じて内燃機関1の回転速度を増減調整する。即ち、車速が約40km/hのときに、内燃機関1の回転速度を最も高く設定する。Sモードで具現するべき車速の最大加速度を約0.2Gと仮定すると、上述の最大出力点となる車速約40km/hにて内燃機関1を約500rpmの回転数でモータリングしておくことになる。無論、これらの具体的な数値は、あくまでも一例である。
【0035】
そして、図3に示しているように、ECU0は、車速が約40km/hから低下するほど、モータリングによる内燃機関1の回転速度を低下させる。並びに、ECU0は、車速が約40km/hから上昇するほど、僅かではあるがモータリングによる内燃機関1の回転速度を低下させる。モータリング中は蓄電装置3に蓄えた電力を発電用モータジェネレータ2において消費することとなるので、モータリングによる内燃機関1の回転速度をできるだけ低速化することでその消費電力量を低減する意図である。
【0036】
但し、Sモードでのモータリング中に、蓄電装置3に蓄えている電荷の量が閾値を下回ったならば(ステップS2)、気筒1に燃料を供給して内燃機関1を始動し、内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を駆動して発電を行い(ステップS4)、その発電した電力を蓄電装置3に充電する。
【0037】
本実施形態では、駆動輪62に走行のための駆動力を供給できる走行用電動機4と、走行用電動機4に供給するべき電力を発電する発電機2に発電のための駆動力を供給できる、駆動輪62とは独立して回転可能な内燃機関1と、内燃機関1に当該内燃機関1を回転させるための駆動力を供給できるモータリング用電動機2とを具備するハイブリッド車両を制御するものであって、通常の走行モードと比較して駆動輪62に供給する駆動力を迅速に増大させるSモードにおいて、内燃機関1にて燃料を燃焼させずモータリング用電動機2により予め内燃機関1を回転駆動するモータリングを実行することとし、その際の内燃機関1の回転速度を現在の車速に応じて増減させるハイブリッド車両の制御装置0を構成した。
【0038】
本実施形態によれば、Sモードにあって、運転者がアクセルペダルを踏み込んだときに速やかに内燃機関1を始動して発電機2による発電を開始し、走行用電動機4に供給する電力を増大させて、走行用電動機4が出力し車両の駆動輪62に入力する駆動力を迅速に増強することが可能となる。従って、速やかなる加速を要求する運転者の意思に合致した加速レスポンスを実現できる。
【0039】
その上で、Sモードでのモータリング中の内燃機関1の回転速度を、現在の車速に応じて調整することとし、車速が最大出力点である約40km/hから離れるほど内燃機関1の回転速度を低下させて、モータリング用電動機2によるエネルギ消費をできる限り抑制する。
【0040】
加えて、前記モータリングの実行中に、前記走行用電動機4及び前記モータリング用電動機2に電力を供給する蓄電装置3が現在蓄えている電荷の量が閾値を下回ったならば、前記内燃機関1にて燃料を燃焼させて当該内燃機関1を運転し前記発電機2による発電を行って蓄電装置3を充電する。さすれば、モータリングによって蓄電装置3の蓄電量が欠乏することを適正に回避できる。
【0041】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、Sモードにあって、原則として(蓄電装置3が蓄えている電荷の量が閾値を下回らない限り)常に内燃機関1をモータリングすることとしていたが、蓄電装置3に蓄えている電荷の量が所定量を下回っている場合に限り、発電に備えて内燃機関1をモータリングすることとし、蓄電装置3が十分な量の蓄えている場合には内燃機関1をモータリングせずに停止させておくことも考えられる。
【0042】
また、上記実施形態における車両はシリーズハイブリッド車両であり、内燃機関1が出力する駆動力を発電機2ではなく駆動輪62に入力することは想定していなかった。だが、内燃機関が出力する駆動力を車両の走行のために駆動輪に供給し得る態様のハイブリッド車両に、本発明を適用することも可能である。その場合には、内燃機関と駆動輪との間に、両者の間で駆動力を伝達可能な状態と、両者の間で駆動力を伝達せず内燃機関が駆動輪から独立して回転可能な状態とを切換可能な動力伝達機構(断接切換可能なクラッチや、遊星歯車を利用した伝達機構等)を介設しておく。そして、Sモードにて、動力伝達機構を後者の状態として予め内燃機関のモータリングを行い、運転者がアクセルペダルを踏み込み加速を要求したときに気筒に燃料を供給して速やかに内燃機関を始動し、かつ動力伝達機構を前者の状態として内燃機関が出力する駆動力を駆動輪に供給できるようにする。
【0043】
その他、各部の具体的な構成や処理の内容は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ハイブリッド車両の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
2…発電機、モータリング用電動機(発電用モータジェネレータ)
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)
3…蓄電装置
62…駆動輪
図1
図2
図3