(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/887 20060101AFI20221212BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221212BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221212BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20221212BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
B01J23/887 Z
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J37/00 E
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019116505
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥村 成喜
(72)【発明者】
【氏名】河村 智志
(72)【発明者】
【氏名】小畑 友洋
(72)【発明者】
【氏名】西沢 文吾
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-273228(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161703(WO,A1)
【文献】特開2018-199127(JP,A)
【文献】特表2014-520067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノオレフィンを原料とする共役ジオレフィン化合物製造用のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒であって、1触媒粒子中に、下記式(1)で表される活性成分組成を有する2種以上の触媒を含有することを特徴とするビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒
の製造方法であって、
Mo
12Bi
a1Fe
b1Co
c1Ni
d1X
e1Y
f1Z
g1・・・・(1)
(式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムから選ばれるアルカリ金属の少なくとも1種の元素を示し、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選ばれるアルカリ土類金属の少なくとも1種の元素を示し、Zはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、アンチモン、タングステン、鉛、亜鉛、タリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、
a1、b1、c1、d1、e1、f1、およびg1は各々モリブデン12に対するビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、X、Y、Zの原子比を示し、0.3<a1<3.5、0.6<b1<3.4、5.0<c1<8.0、0.0<d1<3.0、0.0<e1<0.5、0.0≦f1≦4.0、0≦g1≦2.0の範囲にあり、式(1)中に記載はないが酸素原子Oは他の元素の酸化状態を満足させる適当な原子比となる)。
前記2種以上の触媒が、前記式(1)における(I)0<e1<0.1である触媒(触媒I)と、(II)0.1≦e1<0.5である触媒(触媒II)であり、
原料であるモノオレフィン中のα-オレフィン濃度の分析値より2種の触媒の含有比率を決定するビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
1触媒粒子の平均粒子径が2.50mm以上4.49mm以下である、請求項1に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒
の製造方法。
【請求項3】
不活性担体であるシリカ及び/又はアルミナ上に、前記式(1)で表される活性成分組成を有する2種以上の触媒が担持されている請求項1
又は2に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒
の製造方法。
【請求項4】
下記工程を含むことを特徴とする請求項
3に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
工程(A1):2種の活性成分組成それぞれについて、複合金属酸化物の各金属を含有する化合物を含む混合溶液またはスラリーを20℃以上90℃以下の条件下で調製し、スプレー乾燥して乾燥粉体を得る工程、
工程(A2):工程(A1)で得られた乾燥粉体それぞれを予備焼成し、予備焼成粉体を得る工程、
工程(A3):工程(A2)で得られた各予備焼成粉体を混合した後、担持成形し、成形品を得る工程、
工程(A4):工程(A3)で得られた成形品を本焼成する工程。
【請求項5】
予備焼成の温度が200℃以上600℃以下であり、本焼成温度が200℃以上600℃以下である請求項
4に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジオレフィンを酸化的に製造する際に、高活性かつ高収率で目的物を得られる新規触媒およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、炭素原子数4以上のモノオレフィン原料から酸化脱水素反応により共役ジオレフィン、具体的にはn-ブテン原料から酸化脱水素反応によりブタジエンを製造する際に効果が大きく、高活性かつ高収率な運転を可能とする触媒およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、合成ゴム等の原料であるブタジエンは、工業的にはナフサ留分の熱分解および抽出により製造されているが、今後、ブタジエンの市場への安定供給の悪化が懸念されることから、新たなブタジエンの製造方法が求められている。そこで、n-ブテンと分子状酸素を含む混合ガスから、触媒の存在下でn-ブテンを酸化脱水素する方法が注目されている。
【0003】
工業プラントでの経済性の観点から、(1)原料であるブテンに対して高活性、および/または(2)目的生成物であるブタジエンを高い収率および選択率で得られる触媒が求められている。すなわち、(1)に関しては、通常(以下、通常とは一般的なビスマスモリブデート触媒を使用する酸化脱水素反応での反応浴温度を示す。)より低い反応浴温度においても高活性を維持できる触媒、または通常の反応浴温度でより高いブテン転化率を示す触媒が求められ、(2)に関しては目的生成物であるブタジエンが、リサイクルプロセスを適用する/しないに関わらず、より少ないブテン原料から多くのブタジエンを得られる触媒が求められる、と言える。
【0004】
上記n-ブテン原料から酸化脱水素反応によるブタジエン製造プロセスにおいて、殊に高活性または高選択率を示す触媒の研究については既に数多くの報告がなされている。特許文献1は、特定の元素比におけるビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒に関するものである。
【0005】
特許文献2は、触媒の製法及び組成比を規定したビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法に関するものである。
【0006】
特許文献3は、触媒細孔の大きさを制御したビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒に関するものである。
【0007】
特許文献4は、触媒のXRDピーク比及び組成比を規定したビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒に関するものである。
【0008】
特許文献5は、特定の元素比におけるビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒に関するものである。
【0009】
特許文献6は、特定の元素比におけるビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒による共役ジオレフィンの製造方法に関するものである。
【0010】
さらに特許文献7は、1-ブテン原料および2-ブテン原料(cis-2-ブテンおよびtrans-2-ブテンのいずれか一方又は任意の比率で混合した混合ブテン)のうち反応性の高い1-ブテン原料をビスマスモリブデート触媒で反応させ、反応性の低い残りの2-ブテン原料をより高活性なフェライト触媒で反応させる、1,3-ブタジエンの製造方法に関する特許である。
【0011】
しかしながら、特許文献1~7の触媒およびそれらを用いた共役ジオレフィンの製造方法では反応条件が異なる上に、原料は各プラント固有のナフサ留分等を使用しているため、ブテン原料のうち1-ブテンの比率が各文献で大きく異なり、その結果として各々のブテン原料にとって最適な触媒組成が大きく異なる点が課題として挙げられる。すなわち1-ブテン原料は相対的に反応しやすい原料である一方、2-ブテン原料は反応しにくい原料であることは公知であるが、原料ブテン中の1-ブテンまたは2-ブテンの比率に応じいかにして高活性、高収率な触媒を得るかは公知でなく、そのために例えば原料ブテン中の1-ブテンの比率が何らかの要因により変化した場合に、高活性かつ高収率な触媒をいかにして効率的に得るか、公知ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2014/086641号
【文献】特許第6229201号公報
【文献】国際公開第2013/161702号
【文献】特許第5908595号公報
【文献】特許第6049156号公報
【文献】特許第5825981号公報
【文献】国際公開第2009/119975号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、共役ジオレフィンを酸化的に製造する際に、高活性かつ高収率で目的物を得られる新規触媒およびその製造方法に関するものであり、より詳細には、炭素原子数4以上のモノオレフィン原料から酸化脱水素反応により共役ジオレフィン、具体的にはn-ブテン原料から酸化脱水素反応によりブタジエンを製造する際に効果が大きく、高活性かつ高収率な運転を可能とする触媒およびその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、活性成分として2種以上の異なる触媒組成を含み、少なくとも一方の活性成分の触媒組成に含まれるアルカリ金属量が少なく、さらに少なくとも別の一方の活性成分の触媒組成に含まれるアルカリ金属量が相対的に多いことを特徴とする、モノオレフィンを原料とした共役ジオレフィン化合物製造用のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒を使用することで、より高活性かつ高収率で共役ジオレフィンを製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、本発明の触媒は、ビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒であるが、本明細書中では単に共役ジオレフィン製造用触媒、又は触媒と表現する場合もある。
また本明細書中「~」は以上以下を意味する。すなわち「~」を挟む前後の数値は含むものとする。
【0015】
即ち、本願発明は、以下1)~8)に関する。
1)
モノオレフィンを原料とする共役ジオレフィン化合物製造用のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒であって、1触媒粒子中に、下記式(1)で表される活性成分組成を有する2種以上の触媒を含有することを特徴とするビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒。
Mo12Bia1Feb1Coc1Nid1Xe1Yf1Zg1・・・・(1)
(式中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムから選ばれるアルカリ金属の少なくとも1種の元素を示し、Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選ばれるアルカリ土類金属の少なくとも1種の元素を示し、Zはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、アンチモン、タングステン、鉛、亜鉛、タリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、
a1、b1、c1、d1、e1、f1、およびg1は各々モリブデン12に対するビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、X、Y、Zの原子比を示し、0.3<a1<3.5、0.6<b1<3.4、5.0<c1<8.0、0.0<d1<3.0、0.0<e1<0.5、0.0≦f1≦4.0、0≦g1≦2.0の範囲にあり、式(1)中に記載はないが酸素原子Oは他の元素の酸化状態を満足させる適当な原子比となる)。
2)
1触媒粒子中に、前記式(1)における(I)0<e1<0.1である触媒(触媒I)と、(II)0<e1<0.5である触媒(触媒II)を含有する請求項1に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒。
3)
1触媒粒子中に、前記式(1)における(I)0<e1<0.1である触媒(触媒I)と、(II)0.1≦e1<0.5である触媒(触媒II)を含有する請求項1に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒。
4)
1触媒粒子の平均粒子径が2.50mm以上4.49mm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒。
5)
不活性担体であるシリカ及び/又はアルミナ上に、前記式(1)で表される活性成分組成を有する2種以上の触媒が担持されている請求項1乃至4のいずれか一項に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒。
6)
原料であるモノオレフィン中のα-オレフィン濃度の分析値より2種の触媒の含有比率を決定する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
7)
下記工程を含むことを特徴とする請求項6に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
工程(A1):2種の活性成分組成それぞれについて、複合金属酸化物の各金属を含有する化合物を含む混合溶液またはスラリーを20℃以上90℃以下の条件下で調製し、スプレー乾燥して乾燥粉体を得る工程、
工程(A2):工程(A1)で得られた乾燥粉体それぞれを予備焼成し、予備焼成粉体を得る工程、
工程(A3):工程(A2)で得られた各予備焼成粉体を混合した後、担持成形し、成形品を得る工程、
工程(A4):工程(A3)で得られた成形品を本焼成する工程。
8)
予備焼成の温度が200℃以上600℃以下であり、本焼成温度が200℃以上600℃以下である請求項5に記載のビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の触媒は、酸化反応用触媒として非常に有用である。特に酸化脱水素反応に好適に用いられ、モノオレフィンからジオレフィンを製造する触媒として有用な機能を有する。 従って、本発明の触媒を使用することにより、製造効率及び生産性が高く、高収率にブタジエンを生成することができる。 本発明の触媒の別の利点として、反応の長期安定性が挙げられる。特にモノオレフィンからジオレフィンを製造する触媒においては、反応中に炭素(コーク状物質)の析出(コーキング)が生じ、特に固定床型反応器においては触媒が破損される、あるいは反応管内の圧力損失が増大し安定に反応が継続できなくなる点が課題として挙げられる。本発明の触媒を使用することで、炭素析出の前駆体物質の触媒内部の滞留およびそれらの堆積によるコーキングを抑制することができ、高収率かつ安定に反応を長期間継続させることができる。 また本発明の別の利点として、原料ブテン中の1-ブテンの比率が何らかの要因により変化した際に、高活性かつ高収率な触媒を効率的に得られる点が挙げられる。一般に1-ブテンと2-ブテンのような極端に反応性の異なる原料が混合された原料向けに触媒を開発、選定する際は、触媒の基礎となる活性成分の組成比を変更したうえで、各工程を最適化することにより開発を進めるが、開発の期間は非常に長くなる課題が挙げられる。本発明の触媒の製造方法を使用することで、原料中の1-ブテンの比率に応じて既存の触媒組成の配合比率を変えることで、より簡便かつ効率的に高活性かつ高収率な触媒を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
炭素原子数4以上のモノオレフィンと分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応により共役ジオレフィンを製造する反応に使用でき、好ましくはn-ブテンと分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応によりブタジエンを製造する反応に使用できる触媒およびその製造方法であり、以下その詳細について説明する。
【0018】
本発明における炭素原子数4以上のモノオレフィンとは、炭素-炭素二重結合1個を含む炭素原子数4以上の不飽和炭化水素であり、ブテン、ペンテン、へキセン、ヘプテン、オクテン、ノネンおよびデセン等が挙げられ、n-ブテンとは1-ブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、イソブチレンのうち、単一成分のガス、もしくは少なくとも一つの成分を含む混合ガスを意味するものとし、共役ジオレフィン化合物とは、1つの単結合を介して結合している2つの炭素-炭素二重結合をもつ炭化水素化合物であり、好ましくはブタジエン、特に好ましくは1,3-ブタジエンを意味するものとし、本発明におけるα―オレフィンとは、炭素-炭素二重結合を分子鎖の末端に少なくとも一個有するオレフィンを意味する。一般的に、α―オレフィンはそれ以外のモノオレフィンと比べ、酸化脱水素反応において反応性が高いことが公知である。
【0019】
本発明において高活性とは、通常より低い反応浴温度において、後述するn-ブテン転化率が一定以上の値を示すこと、および同じ反応浴温度においてより高いn-ブテン転化率の値を示すこと、のいずれかまたはその両方を意味し、本発明において活性および転化率とは、特に断りがない限り後述するn-ブテン転化率と同義、また収率とは後述するブタジエン収率と同義、さらに選択率とは後述するブタジエン選択率と同義である。後述するようにn-ブテン転化率が低い反応浴温度および反応条件で触媒を運転する場合、商業プラントでは一般にリサイクルプロセスを行う。リサイクルプロセスとは、反応器を通過した生成ガスおよび/または生成液の一部または全部より、生成物および副生成物を一定量除去した後のガス成分(リサイクルガス)を、再度反応器に流通反応させるプロセスのことを意味し、リサイクルガスはその他原料ガスと混合されて必要に応じ適宜加温されるプロセスを含む。後述する実施例で示すような、リサイクルプロセスを使用しない(ワンパス)での選択率とは、リサイクルプロセスにおける収率と同義であり、それゆえ本発明における高収率とは、ワンパスにおける選択率が高いことを含む。すなわち、一般的に原料中の(反応性の高い)1-ブテンの比率が高い場合には、高活性な反応となるので、触媒の性能は収率で判断できるが、逆に1-ブテンの比率が低い場合には、活性は十分高くならず、リサイクルプロセスを取るため、触媒の性能は選択率で判断することとなる。この収率または選択率のいずれで触媒の性能を判断するかは、精製系含めた後工程の能力や実プラントのキャピタルコストおよびオペレーションコスト含めた総合的な判断によるため、プラント毎により判断基準は異なるものではあるが、一般的には転化率が85%以上の場合はリサイクルプロセスを適用しないため収率により触媒性能を判断し、逆に転化率が85%に満たない場合はリサイクルプロセスを適用するため選択率により触媒性能を判断する。
本発明において2-ブテンとは、cis-2-ブテンおよびtrans-2-ブテンのいずれか一方又は任意の比率で混合した混合ブテンを意味する。また本発明において反応性が高いとは、同等の反応浴温度で反応させた際に相対的に高い転化率を与えるような、原料の性質を意味する。さらに本発明においてブテン原料とは1-ブテンと2-ブテンを混合した混合ブテンを意味し、特に断りがない限り単にブテンとも記載する。
【0020】
[触媒組成]
本発明の共役ジオレフィン化合物製造用触媒は、1触媒粒子中に、活性成分として2種以上の異なる触媒組成を含む。例えば一方の活性成分の触媒組成に含まれるアルカリ金属量が少なく、さらに少なくとも別の一方の活性成分の触媒組成に含まれるアルカリ金属量が相対的に多いことが例示される。この場合上記式(1)においてe1の値が異なる2種の触媒を含有するものである。なお、本明細書中では、e1が小さい値をとる触媒を触媒Iと、e1が大きい値をとるもう一方の触媒を触媒IIと表現し、また触媒Iのe1、触媒IIのe1をそれぞれe1(I)、e1(II)と表現する場合がある。
アルカリ金属量以外にもビスマス、鉄、コバルト、ニッケルの量を変更しても良いし、複数の金属量を同時に変更して、異なる触媒組成を形成させても良い。
本発明の粉体(顆粒)とは、後述する成形工程より以前の、平均粒径が10μmから700μm程度の粉状の触媒前駆体を意味する。また、1触媒粒子とは、顆粒の成形後における粒子1つを意味する。すなわち本発明は、成形された2種以上の触媒粒子を使用前に混合したものではなく、1つの触媒粒子中に、活性成分として2種以上の組成の顆粒が存在することが特徴である。
【0021】
上記式(1)について、好ましい態様を含めて、以下に詳述する。
式(1)中、Xはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムから選ばれるアルカリ金属の少なくとも1種の元素を示す。このうち好ましくはカリウム、ルビジウム、セシウムであり、さらに好ましくはカリウム及びセシウムである。
Yはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選ばれるアルカリ土類金属の少なくとも1種の元素を示す。このうち好ましくはマグネシウム、カルシウム、ストロンチウムであり、さらに好ましくはマグネシウム、カルシウムである。
Zはランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロビウム、アンチモン、タングステン、鉛、亜鉛、タリウムから選ばれる少なくとも1 種の元素を示す。このうち好ましくはランタン、セリウム、プラセオジム、サマリウム、アンチモン、タングステン、鉛、亜鉛、タリウムであり、さらに好ましくはラセリウム、プラセオジム、タングステン、鉛、タリウムである。
a1、b1、c1、d1、e1、f1、およびg1は各々モリブデン12に対するビスマス、鉄、コバルト、ニッケル、X、Y、Zの原子比を示す。それぞれの範囲として、0.3<a1<3.5、0.6<b1<3.4、5.0<c1<8.0、0.0<d1<3.0、0.0<e1<0.5、0.0≦f1≦4.0、0.0≦g1≦2.0が好ましいが、さらに好ましくは以下の範囲となる。
a1の好ましい上限として1.70、より好ましい上限として1.50、最も好ましい上限として1.20、a1の好ましい下限として0.50、より好ましい下限として0.65、最も好ましい下限として0.75となる。
b1の好ましい上限として3.00、より好ましい上限として2.50、最も好ましい上限として2.10、b1の好ましい下限として1.20、より好ましい下限として1.50、最も好ましい下限として1.70となる。
c1の好ましい上限として7.20、より好ましい上限として6.90、最も好ましい上限として6.70、c1の好ましい下限として5.50、より好ましい下限として5.90、最も好ましい下限として6.30となる。
d1の好ましい上限として2.90、より好ましい上限として2.80、最も好ましい上限として2.60、d1の好ましい下限として0.80、より好ましい下限として1.20、最も好ましい下限として1.60となる。
e1の好ましい上限として0.35、より好ましい上限として0.25、e1の好ましい下限として0.01、より好ましい下限として0.02となる。
またその他好ましい範囲として0.0≦f1≦1.5、0.0≦g1≦1.5であり、式(1)中に記載はないが酸素原子Oは他の元素の酸化状態を満足させる適当な原子比となる。
【0022】
本願発明について、より好ましい態様は、異なる活性成分を有する上記2種の触媒が、(I)0<e1<0.1である触媒(触媒I)と、
(II)0<e1<0.5である触媒(触媒II)の2種である場合である。なお、e1について、e1(I)<e1(II)の関係にある。
e1(I)の好ましい上限は0.06、より好ましい上限として0.05、好ましい下限は0.01、より好ましい下限として0.02である。すなわちe1(I)として、最も好ましい範囲は、0.02以上0.05以下である。
また、e1(II)として好ましい上限は0.35、より好ましい上限は0.25、最も好ましい上限は、0.20である。さらに、好ましい下限は0.05、より好ましい下限は0.09、最も好ましい下限は0.12である。すなわちe1(II)として、最も好ましい範囲は、0.12以上0.20以下である。
【0023】
また、本願発明のさらに好ましい態様としては、上記2種の触媒が、
(I)0<e1<0.1である触媒(触媒I)と、
(II)0.1≦e1<0.5である触媒(触媒II)の2種である場合である。
【0024】
また、e1(I)とe1(II)の含有量比は、1:2~1:6である場合が好ましく、更に好ましくは1:3~1:5である場合であり、特に好ましくは、1:3.5~1:4である場合である。
【0025】
[原料に対して2種以上の活性成分の含有比率を変更]
本発明は、反応の原料であるモノオレフィン中のα-オレフィン濃度の分析値より、触媒I、触媒IIの各々の含有比率(活性成分ベースでの容積比率)を決定する触媒の製造方法と、それにより製造された触媒を含む。ここで、α-オレフィンは、好ましくは1-ブテンを指すものとする。
触媒Iは、相対的に高活性であるが一方で選択率は低くなる傾向があり、特に2-ブテンが豊富な原料ではその含有比率が高い方が、触媒活性を挙げられる点で好ましい。また触媒IIは、相対的に低活性であるものの選択率は高い傾向があり、特に1-ブテンが豊富な原料ではその含有率が高い方が、適度な触媒活性で高い選択率を示すことができ、好ましい。後述するように、本発明の触媒(2種以上の活性成分を含有する触媒)を使用した方が、2種以上の活性成分が混合されず個別に各々触媒として、多層で充填および/または混合して充填した場合よりも、高活性かつ高収率を示すことができる。
また触媒IIの触媒全体中の含有率は、以下のように決定されると、より好適である。すなわち触媒IIの触媒全体中の含有率([容積%])を(T2)、反応の原料であるモノオレフィン中のα―オレフィン濃度([mol%])を(S)としたとき、(S)-0.5×(T2)というパラメーターを用いて、α-オレフィン濃度(S)に応じた最適組成(T2)を決定できる。(S)-0.5×(T2)は0以上である場合が好ましく、10以上である場合が更に好ましく、20以上である場合が特に好ましく、更に好ましくは50以上、最も好ましくは65以上となる。なお上限は、100であるが、90以下が好ましく、80以下が更に好ましい。
さらに上述のモノオレフィン中のα-オレフィン濃度の分析は、原料中の全オレフィン種中のα―モノオレフィンをモル濃度比で分析する方法であれば特に限定はしないが、後述するように、各種の純ガスで校正されたガスクロマトグラフィーにより算出する方法が好ましい。
【0026】
[シリカの含有量とアルミナの含有量の重量比率]
本発明の共役ジオレフィン化合物製造用触媒は、触媒中にシリカ(SiO2)とアルミナ(AlO3)を含有し、その重量比率(SiO2:Al2O3)が1:0.01~1:50.00である場合が好ましい。シリカとアルミナは一般的には、不活性成分とされ、過度な反応の進行を抑え、適切にコントロールしたり、触媒の物理的硬度を調整したりする成分とされている。従って、シリカやアルミナの触媒中での含有量については従来から鋭意検討されてきた。しかし、本発明者は、シリカとアルミナの反応をコントロールする程度の違い、それぞれの物理的硬度に与える影響の違い等に着目し、鋭意検討した結果、その重量比率が1:0.01~1:50.00である場合に、触媒の性能を大幅に向上できることを見出している。
【0027】
本発明において、シリカとアルミナの重量比率とは、触媒中に含有するシリカの重量を1としたアルミナとの重量比率を意味し、不活性成分としてのシリカおよび不活性成分としてのアルミナの化学状態は触媒反応において当業者にとって触媒反応に対して不活性と見なされるならば、結晶相や表面粗さ等物性含めその詳細を問わないが、たとえばシリカに関しては結晶性シリカ、シリカゲルや非結晶性シリカが挙げられ、特に結晶性シリカが好ましく、アルミナに関してはアランダムやα-アルミナが挙げられ、特にα-アルミナが好ましい。また本発明においてシリカ及びアルミナが前記の化学状態を満たすための製法も当業者であれば明らかなように、1000℃以上の温度で焼成されたものを指す。すなわちたとえば、シリカゾルを出発原料の一部として600℃以下の温度で焼成された触媒のシリカは、不活性成分としてのシリカではなく活性成分としてのシリカとなる。そして、シリカとアルミナの比率は1:0.01~1:50.00であれば良いが、好ましくは1:0.10~1:25.00であり、更に好ましくは1:0.20~1:10.00であり、特に好ましくは1:0.30~1:6.00、最も好ましくは1:2.00~1:3.50である。また本発明において不活性成分とは、当業者にとって触媒反応に対して不活性と見なされるならばその詳細を定義しないが、たとえば後述する反応条件において転化率が0.1%以下のものを指す。
本発明においてシリカとアルミナの重量比率は、その他の不活性成分も含め内部標準を加えた、あるいは絶対検量線にて当業者にとって自明な方法で校正された各種元素分析装置にて測定される実測値により算出されるものとする。その詳細な測定方法は、上記の範囲内であれば問わないが、例えば蛍光X線測定による以下方法となる。測定装置として、リガク社製Pri miniを用い、測定温度は35℃、測定圧力は1Pa、測定時間45分、光源としてPd管球を用い、X線強度は40keV(1.25mA)、分光結晶としてLiFlを使用し、検出器としてSCおよびF-PCの両方を使用する。
本発明においてシリカ、アルミナは触媒活性成分と共存しても、後記するように、不活性担体として触媒活性成分を担持させた形で存在しても良い。なお、共存するとは活性成分と合せて、例えば混練された場合等を意味する。
【0028】
[平均粒子径]
本発明の触媒の1触媒粒子の形状は、特に制限されるものではく、球状、円柱状、リング状等を挙げることができるが、好ましくは球状である。球状とは、実質的に球状であることを意味し、真球である必要はない。
そしてその平均粒子径は、無作為にサンプリングした一部の触媒について測定したものであればその詳細を問わないが、例えば300個以上の触媒を測定すれば良い。
なお、測定方法としては、各触媒球の長さ(L)、幅(B)、厚さ(T)の平均から求めた三軸平均径による。
本発明の触媒は、上記方法で求めた1触媒粒子の平均粒子径が2.50mm以上4.49mm以下である場合が好ましい。そして、より好ましい上限は4.47mmであり、更に好ましくは4.45mmであり、特に好ましくは4.43mmである。またより好ましい下限は3.00mmであり、更に好ましくは3.30mmであり、特に好ましくは3.60mmである。従って、最も好ましい平均粒子径は3.60mm以上4.43mm以下である。
この平均粒子径は、大きくなると酸化的脱水素反応自体が発熱反応であるがために触媒内部の蓄熱効果が高くなり、目的生成物のブタジエン選択率が低下する傾向があり、平均粒子径が小さくなると反応器内のガスの流れ方が複雑かつ不均一になり、望ましくない副反応が生じるために目的生成物のブタジエン選択率が低下する傾向がある。このため前述の通り、酸化的脱水素反応における球状触媒の平均粒子径には、望ましい数値範囲が生じることになることが本発明者らによって明らかにされた。
【0029】
[気孔率]
本発明において使用される不活性担体の気孔率は、0%以上60%以下であることが好ましく、より好ましい上限は55%、さらに好ましい上限は50%、最も好ましい上限は47%であり、より好ましい下限は10%、さらに好ましい下限は20%、最も好ましい下限は30%である。本気孔率の測定は、当業者であれば容易に知りえる一般的な方法であればその詳細を問わないが、好ましくはJIS R2205に規定される方法となる。
【0030】
[吸水率]
本発明において使用される不活性担体の吸水率は、2%以上50%以下であることが好ましく、より好ましい上限は30%、さらに好ましい上限は28%、最も好ましい上限は25%であり、より好ましい下限は8%、さらに好ましい下限は15%、最も好ましい下限は18%である。本吸水率の測定は、当業者であれば容易に知りえる一般的な方法であればその詳細を問わないが、好ましくはJIS R2205に規定される方法となる。
【0031】
[不活性担体]
本発明の共役ジオレフィン化合物製造用触媒は、不活性担体に担持された触媒であっても良い。不活性担体としてはシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア、シリカアルミナ、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物など公知の物質が挙げられる。そして、不活性担体としてシリカ及び/又はアルミナを使用する場合、活性成分と共存するシリカ、アルミナと合せて、上記シリカの含有量とアルミナの含有量の重量比率を算出する。なお、シリカ及びアルミナが不活性担体として触媒に含有されている場合が好ましい。上記含有比率の範囲内であれば、シリカ及びアルミナの一方のみが不活性担体として用いられていても、双方が不活性担体として用いられていても良く、またシリカの一部やアルミナの一部が不活性担体として使用されていても良いが、シリカ及びアルミナの双方が全量不活性担体として使用されている場合が最も好ましい。その好ましい組成比については上述の通りである。
不活性担体への担持の方法は特に制限はないが、バインダーを用いた転動造粒法によりコーティングさせる方法が好ましい。
またその際の担持率は、以下式によって算出される。
担持率(質量%)=(成形に使用した予備焼成粉体の質量)/{(成形に使用した予備焼成粉体の質量)+(成形に使用した担体の質量)}×100
上記担持率としての好ましい上限は、70%であり、さらに好ましくは60%である。担持率が高くなると、触媒中の活性成分の厚みは増す傾向にあり、その内部で蓄熱または発熱反応が生じ、好ましくない副反応により選択率は低下し、さらに副反応により原料ガス中の分子状酸素を消費するために触媒層の下層側で反応に必要な分子状酸素が不足し、入口ガス組成にもよるが結果として転化率が下がることがある。これは、不活性担体として本発明の範囲外の担体を使用した場合にも触媒内部で蓄熱または発熱が生じるため同様の結果を招く。
また好ましい下限は、25%であり、さらに好ましくは35%である。担持率が低くなると充填体積当たりの活性成分が減るために低活性となり、商業プラントとして必要な転化率で反応をするには反応浴温度を上げる必要があり、結果的にランニングコストの増加及び反応浴温度上昇による選択率低下が生じることとなる。なお不活性担体としては、シリカ及びアルミナを含有し、その比率が上記の範囲内であれば他の不活性成分を含有しても良い。他の不活性成分とは例えばチタニア、ジルコニア、ニオビア、炭化ケイ素、炭化物、およびこれらの混合物などである。
なお本発明の実施例においては、最終形態の触媒の粒径を揃えるよう調製しているが、不活性担体の嵩比重が異なるために、上記式の定義の通り担持率が若干変わりうる。
【0032】
本発明の触媒を得るための各金属元素の原料としては特に制限はないが、各金属元素を少なくとも一種含む硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、有機酸塩、酢酸塩、炭酸塩、次炭酸塩、塩化物、無機酸、無機酸の塩、ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸の塩、水酸化物、酸化物、金属、合金等、またはこれらの混合物を用いることができる。このうち好ましいのは硝酸塩原料である。硝酸塩原料を用いることにより、本発明のように調合液にアルカリ溶液を添加した場合でも、調合液は共沈または沈殿を生じず、適度な粘度のスラリーとなり、スプレー乾燥による乾燥が可能となり、高い生産性で触媒の製造が可能となり、製造コストを低く抑えることが可能となる。すなわち、本発明では原料において硝酸塩原料またはそれに準ずる酸成分を適度に含んだ原料を使用することにより、上記の通り製造コストを低く抑えることが可能となる。各金属元素の酸成分の含有率としては、各金属元素単独での原料の飽和水溶液のpHで規定でき、-2.0以上10.0以下が好ましく、-1.0以上7.0以下がさらに好ましく、0.0以上5.0以下が最も好ましい。
【0033】
本発明の触媒の調製法としては特に制限はないが、好ましいのは触媒活性成分を粉末として得た後、有機助剤を添加または使用することなく成形する方法であり、以下に詳細を記載する。なお、以下では各工程の順を好ましい例として記載しているが、最終的な触媒製品を得るための各工程の順番、工程数、各工程の組み合わせについて制限はないものとする。
【0034】
本発明の製造方法に使用する調合液とは、後述する触媒の製造工程(A1)または(B1)において調製される、触媒活性成分である複合金属酸化物の原料のうち少なくとも一成分を含む混合溶液またはスラリーを意味するものとする。
【0035】
本発明の触媒の製造方法としては、その詳細は後述するが、下記工程を含むことを特徴とする:
工程(A1):複合金属酸化物の各金属を含有する化合物を含む混合溶液またはスラリーを20℃以上90℃以下の条件下で調製し、該混合溶液またはスラリーのpHを前記の範囲内に適宜制御するようアルカリ溶液を添加し、スプレー乾燥して乾燥粉体を得る工程。
上記工程(A1)において調合液のpHが高すぎると後述する乾燥噴霧(スプレー乾燥)法においては、触媒活性成分原料が共沈または一部沈殿が生じるために流路での目詰まり等が発生し均一な乾燥粉体が得られない、またはスプレー乾燥設備(スプレードライヤー)が安定して実施できない点が課題として生じうる。調合液のpHが高すぎることによる触媒活性成分原料の共沈または一部沈殿を避ける目的で、公知である分散剤を必要に応じて必要量投入する方法も本発明に包括される。
【0036】
さらに下記工程を含むことを特徴とする:
工程(A2):工程(A1)で得られた乾燥粉体を予備焼成し、予備焼成粉体を得る工程、
工程(A3):工程(A2)で得られた予備焼成粉体を成形し、成形品を得る工程、
工程(A4):工程(A3)で得られた成形品を本焼成する工程。
【0037】
[工程(A1)調合と乾燥]
触媒活性成分原料の混合溶液またはスラリーを調製し、沈殿法、ゲル化法、共沈法、水熱合成法等の工程を経た後、乾燥噴霧(スプレー乾燥、スプレードライ)法、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて、本発明の乾燥粉体を得る。この混合溶液またはスラリーは、溶媒として水、有機溶剤、またはこれらの混合溶液のいずれでも良く、また適宜混合溶液またはスラリーにpH調整をする目的でアルカリ溶液を添加することが可能であり、触媒活性成分の原料濃度も制限はなく、さらに、この混合溶液またはスラリーの液温、雰囲気等の調合条件および乾燥条件について特に制限はないが、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、20℃から90℃の条件下で触媒活性成分の原料の混合溶液またはスラリーを形成させ、適宜アルカリ溶液によりpHを調整し、これを噴霧乾燥器に導入して乾燥器出口温度が70℃から150℃、得られる乾燥粉体の平均粒径が10μmから700μmとなるよう熱風入口温度、噴霧乾燥器内部の圧力、およびスラリーの流量を調節する方法である。また、本工程の混合溶液またはスラリーの調製から前記乾燥までにおいて、後述する無機助剤または/および有機助剤を任意の量で添加することも本発明の触媒の製造方法に属するものとする。さらに、上記アルカリ溶液の種類に関しても公知なアルカリ溶液であればその濃度や成分および溶媒に制限はないが、アンモニア水や炭酸アンモニウム水溶液が好ましい。
【0038】
[工程(A2)予備焼成]
こうして得られた乾燥粉体を200℃以上600℃以下で予備焼成し、平均粒径が10μmから100μmである予備焼成粉体を得ることができる。この予備焼成の条件に関しても、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において300℃以上600℃以下の範囲で1時間以上12時間以下、空気雰囲気下による方法である。また、本工程の予備焼成前または予備焼成後において、後述する無機助剤または/および有機助剤を任意の量で添加することも本発明の触媒の製造方法に属するものとする。
【0039】
[工程(A3)成形]
こうして得られた予備焼成粉体をそのまま触媒として使用することもできるが、成形して使用することもできる。成形品の形状は球状、円柱状、リング状など特に制限されないが、一連の調製で最終的に得られる触媒における機械的強度、反応器、調製の生産効率等を考慮して選択するべきである。成形方法についても特に制限はないが、以下に示す担体や有機助剤、無機助剤、バインダー等を予備焼成粉体に添加して円柱状、リング状に成形する際には打錠成形機や押出成形機などを用い、球状に成形する際には造粒機などを用いて成形品を得る。予備焼成粉体を不活性球状担体に担持した球状の被覆成形品を得る方法が好ましい。また上述の通り、本発明の触媒は活性成分として2種以上の異なる触媒組成の予備焼成粉体を混合し、本工程で成形したものである。またこの混合の際に用いる、顆粒の容積比とはメスシリンダーでタップして得られる嵩比重の比率を指しその詳細を問わないが、例えばJIS Z2512による測定方法が挙げられる。
【0040】
無機助剤の添加量は、予備焼成粉体の質量に対して0.1質量%から25質量%であり、0.3質量%から10質量%が好ましく、0.5質量%から5質量%が最も好ましい。また無機助剤の材質および成分組成にも特に制限はないが、たとえばEガラスのような無アルカリガラスや、シラン処理等各種化学的な不活性化処理を行ったガラスが、触媒反応に対する副生成物の生成などの悪影響を与えない点でより好ましい。また、無機助剤は、成形の前に粉砕工程を実施しても良く、粉砕の方法としては特に制限はないが、例えばボールミル、ロッドミル、SAGミル、ジェットミル、自主粉砕ミル、ハンマーミル、ペレットミル、ディスクミル、ローラーミル、高圧粉砕ロール、VSIミルなどを単独または組み合わせて実施され、この粉砕の対象は無機助剤単独でもよいが、予備焼成粉体その他成形工程に添加される触媒原料を混合したものでもよい。
【0041】
本発明の触媒に使用する無機助剤とは、主に600℃の熱処理においても焼失しない任意の無機物による任意の形状の助剤であり、後述する本焼成工程によりそのすべてが焼失しないものとする。無機助剤は、後述する本焼成工程においても残留するため、予備焼成粉体同士を結びつける役割があり、破損にかかる負荷が触媒に生じた際にも破損を抑制する効果が生じる。本発明において無機助剤の材質としてモース硬度は特に限定されないが、たとえば任意の硫化鉱物、酸化鉱物、ハロゲン化鉱物、無機酸塩鉱物、有機鉱物等を単独または組み合わせたものをガラス転移温度以上で熱処理したもののうちモース硬度が2以上のものが好ましく、これら材質の原料としては無機酸塩鉱物がさらに好ましい。また無機助剤に対して、酸処理、アルカリ処理、およびシラン処理等を各々単独または組み合わせて実施することで、触媒反応に不活性となる点で好適となる。
【0042】
本発明の触媒に使用する有機助剤とは、主に200℃以上600℃以下の熱処理により焼失する有機物よりなる任意の粉状、顆粒状、繊維状、鱗片状の助剤とし、後述する本焼成工程によりその一部またはすべてが焼失するものとし、たとえばポリエチレングリコールや各種エステルなどの重合物またはポリマービーズ、高吸水性樹脂の乾燥体または任意の吸水率による吸水物、各種界面活性剤、小麦粉または精製デンプン等の各種デンプン類、および結晶性またはアモルファス状のセルロースおよびその誘導体、が挙げられる。
【0043】
ここで、本発明の触媒に使用するバインダーとは、その分子直径が予備焼成粉体の平均粒径に対して0.001以下の範囲である化合物群からなる単独または組み合わせにより構成される液体とし、例えば次のようなものが挙げられる。すなわち、液状の有機溶剤、有機物の分散体、水溶性有機溶剤、およびそれらと水の任意の割合での混合物であり、特に制限はないが、グリセリン等の多価アルコールの水溶液またはイオン交換水が好ましく、さらにイオン交換水が成形性の観点から最も好ましい。バインダーは水または有機物を含むため、後述する本焼成工程にてその一部またはすべてが焼失するが、一般にバインダーに使用される有機物の分子直径は予備焼成粉体の平均粒径と比較すると十分に小さい。また、このバインダーに前記触媒原料の溶液を使用することで、工程(A1)とは異なる態様で触媒の最表面に元素を導入することも可能である。
【0044】
コーティングによる担持成形の方法としてバインダーの使用量は、予備焼成粉体100質量部に対して2質量部から60質量部であり、10質量部から50質量部がより好ましい。本発明の反応は酸化的脱水素であり発熱反応であるため、触媒内部の放熱のため、さらには生成した共役ジオレフィンの効率的な拡散による、コーク状物質の生成および/または滞留の抑制のため、担持成形が最も好ましい成形方法である。
【0045】
[工程(A4)本焼成]
このようにして得られた予備焼成粉体または成形品は、比表面積パラメータSを特定の範囲内にするために反応に使用する前に200℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、さらに好ましくは500℃以上600℃以下で再度焼成(本焼成)することが好ましい。本焼成に関しても、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において480℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上580℃以下、さらに好ましくは510℃以上550℃以下、最も好ましくは515℃以上535℃以下の温度範囲で1時間から12時間、好ましくは1時間から8時間、さらに好ましくは2時間から6時間、好ましくは空気雰囲気下による方法である。
【0046】
次に、以下では(B)法による触媒調製方法を記載する。以下では各工程を順に記載しているが、最終的な触媒を得るための各工程の順番、工程数、各工程の組み合わせについて制限はないものとする。
【0047】
[工程(B1)含浸]
触媒活性成分が導入された溶液またはスラリーを調製し、ここに成形担体または(A)法で得た触媒を含浸させ、成形品を得る。ここで、含浸による触媒活性成分の担持手法はディップ法、インシピエントウェットネス法、イオン交換法、pHスイング法など特に制限はなく、前記溶液または前記スラリーの溶媒として水、有機溶剤、またはこれらの混合溶液のいずれでも良く、触媒活性成分の原料濃度も制限はなく、さらに、前記混合溶液または前記スラリーの液温、液にかかる圧力、液の周囲の雰囲気についても特に制限はないが、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。また、前記成形担体および前記(A)法で得た触媒のいずれも形状は球状、円柱状、リング状、粉末状など特に制限はなく、さらに材質、粒径、吸水率、機械的強度も特に制限はない。
【0048】
[工程(B2)乾燥]
こうして得られた前記成形品を、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて20℃以上200℃以下の範囲において熱処理を行い、本発明の触媒成形乾燥体を得る。焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。
【0049】
[工程(B3)本焼成]
こうして得られた前記触媒成形乾燥体を、蒸発乾固法、ドラム乾燥法、凍結乾燥法等の公知の乾燥方法を用いて200℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上600℃以下、さらに好ましくは500℃以上600℃以下で熱処理を行い、本発明の触媒を得る。ここで、焼成時間や焼成時の雰囲気について特に制限はなく、焼成の手法も流動床、ロータリーキルン、マッフル炉、トンネル焼成炉など特に制限はなく、最終的な触媒の性能、機械的強度、成形性や生産効率等を考慮して適切な範囲を選択されるべきである。このうち本発明において最も好ましいのは、トンネル焼成炉において480℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上580℃以下、さらに好ましくは510℃以上550℃以下、最も好ましくは515℃以上535℃以下の温度範囲で1時間から12時間、好ましくは1時間から8時間、さらに好ましくは2時間から6時間、好ましくは空気雰囲気下による方法である。
【0050】
本発明において全製造工程とは、触媒原料から本発明の触媒を得るまでの、工程(A1)から工程(A4)および工程(B1)から工程(B3)の単独または組み合わせによる全ての工程である。本発明において成形工程とは、工程(A3)のうちその一部またはその全部である。
【0051】
[調合液のpHの測定]
pHの測定方法に関しては、公知である方法を適用すればその制限はないが、例えば次の方法が挙げられる。HANNA製pHep5を、pH4.01および7.01のpH標準液により2点校正し、測定対象に10秒以上浸漬させ浸漬中にそのpHを確認する。この作業を1セットとし、測定箇所を変えて2セット以上確認したpHを平均化し、その触媒の調合液のpHとする。校正は、必要に応じてpH10.01のpH標準液を加えて3点校正とし、また校正から測定作業までの時間間隔が3時間以上経過した場合には再校正することとする。
【0052】
本発明の触媒を使用すれば、炭素原子数4以上のモノオレフィンと分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応により共役ジオレフィンを製造するプロセス、特にn-ブテン原料から酸化脱水素反応によりブタジエンを製造するプロセスにおいて、高活性かつ高収率でブタジエンを得ることが可能である。また、本発明の触媒を使用すれば、上記の通り、炭素析出の前駆体物質の触媒内部の滞留およびそれらの堆積によるコーキングを抑制することができ、高収率かつ安定に反応を長期間継続させることができる。
【0053】
本発明の触媒を使用して炭素原子数4以上のモノオレフィンから共役ジオレフィンを製造する反応の条件は、原料ガス組成として1容量%から20容量%のモノオレフィン、5容量%から20容量%の分子状酸素、0容量%から60容量%の水蒸気及び0容量%から94容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスを含む混合ガスを用い、反応浴温度としては200℃から500℃の範囲であり、反応圧力としては常圧から10気圧の圧力下、本発明の触媒成形体に対する原料ガスの空間速度(GHSV)は350hr-1から7000hr-1の範囲、より好ましくは500hr-1から4000hr-1の範囲となる。反応の形態として固定床、移動床、および流動床の中で制約はないが、固定床が好ましい。さらにn-ブテンに含まれる1-ブテンのモル組成比は0以上90未満、好ましくは1以上60未満、より好ましくは1以上40未満であり、シス-2-ブテンのモル組成比は0以上90未満、好ましくは1以上60未満、より好ましくは1以上40未満であり、トランス-2-ブテンのモル組成比は0以上90未満、好ましくは1以上60未満、より好ましくは1以上40未満である。また、ブテン原料には調達元によりn-ブタンが含まれることがあるが、n-ブタンは前記反応浴温度領域にて本発明の触媒のようなビスマスモリブデート複合金属酸化物触媒においては反応性がなく、前記不活性ガスと同様に扱うこととし、そのモノオレフィンにおけるモル組成比は0以上90未満、好ましくは0以上50未満、さらに好ましくは0以上10未満である。
【0054】
本発明の触媒を炭素原子数4以上のモノオレフィンから共役ジオレフィンを製造する反応、特にn-ブテンからブタジエンを製造する反応において使用することで、高活性かつ高収率で共役ジオレフィンを製造することができ、これらの結果として公知のブタジエン製造プロセスと比較して、本プロセスによるブタジエンの価格競争力の向上が期待できる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、%は特に断りがない限りモル%を意味する。また、以下においてn-ブテン転化率、ブタジエン収率、TOSの定義とは、以下の通りである。当業者にとって明らかなように、以下の触媒性能の計算にあたっては、校正された純標準ガス等によって、十分な精度で校正を行った各種ガスクロマトグラフィーを用いることとする。
【0056】
n-ブテン転化率(モル%)=(反応したn-ブテンのモル数/供給したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン収率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数/供給したn-ブテンのモル数)×100
ブタジエン選択率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数/反応したn-ブテンのモル数)×100
TOS=混合ガス流通時間(時間)
【0057】
[実施例1(触媒1の調製)]
ヘプタモリブデン酸アンモニウム800質量部を80℃に加温した純水3000質量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸セシウム2.9質量部を純水33mlに溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄320質量部、硝酸コバルト714質量部及び硝酸ニッケル252質量部を60℃に加温した純水682mlに溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス165質量部を60℃に加温した純水174mlに硝酸(60質量%)42質量部を加えて調製した硝酸水溶液に溶解させ母液1に加えた。前述の母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、5時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:0.9:2.1:6.5:2.3:0.04)を、予備焼成粉体1とする。
さらに、ヘプタモリブデン酸アンモニウム800重量部を80℃に加温した純水3000重量部に完全溶解させた(母液1)。次に、硝酸セシウム11重量部を純水124mlに溶解させて、母液1に加えた。次に、硝酸第二鉄275重量部、硝酸コバルト769重量部及び硝酸ニッケル110重量部を60℃に加温した純水612mlに溶解させ、母液1に加えた。続いて硝酸ビスマス311重量部を60℃に加温した純水330mlに硝酸(60重量%)79重量部を加えて調製した硝酸ビスマス水溶液に溶解させ、母液1に加えた。この母液1をスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥粉体を440℃、5時間の条件で予備焼成した。こうして得られた予備焼成粉体(仕込み原料から計算される原子比はMo:Bi:Fe:Co:Ni:Cs=12:1.7:1.8:7.0:1.0:0.15)を、予備焼成粉体2とする。
次に、予備焼成粉体1と予備焼成粉体2を容積比で1:1となるよう混合し、得られた混合顆粒に対して5質量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして33質量%グリセリン溶液を用い、平均粒径3.8mmの不活性の担体に、担持率が50質量%となるように球状に担持成形し、得られた球状成形品を510℃、5時間の条件で焼成し、本発明の触媒1を得た。触媒1の平均粒子径は、4.35mmであった。
【0058】
[実施例2(触媒2の調製)]
実施例1で得られた予備焼成粉体1と予備焼成粉体2を容積比で2:1となるよう混合し、実施例1と同様に不活性の担体に担持成形し、得られた球状成形品を510℃、5時間の条件で焼成し、本発明の触媒2を得た。触媒2の平均粒子径は、4.37mmであった。
【0059】
[実施例3(触媒3の調製)]
実施例1で得られた球状成形品を500℃、5時間の条件で焼成し、本発明の触媒3を得た。
【0060】
[参考例1(触媒10の調製)]
実施例1で得られた予備焼成粉体1のみを、実施例1と同様に不活性の担体に担持成形し、得られた球状成形品を510℃、5時間の条件で焼成し、参考用の触媒10を得た。触媒10の平均粒子径は、4.34mmであった。
【0061】
[参考例2(触媒11の調製)]
実施例1で得られた予備焼成粉体2のみを、実施例1と同様に不活性の担体に担持成形し、得られた球状成形品を500℃、5時間の条件で焼成し、参考用の触媒11を得た。触媒11の平均粒子径は、4.36mmであった。
【0062】
[参考例3(触媒10と触媒11の多層充填)]
参考例1、参考例2で得られた触媒10と触媒11を、反応管入口側が触媒10、反応管出口側が触媒11とし、その容積比が1:1、全体の触媒の容積が53mlとなるようステンレス鋼反応管に充填した。
【0063】
[参考例4(触媒10と触媒11の多層充填)]
参考例1、参考例2で得られた触媒10と触媒11を、反応管入口側が触媒10、反応管出口側が触媒11とし、その容積比が2:1、全体の触媒の容積が53mlとなるようステンレス鋼反応管に充填した。
【0064】
[参考例5(触媒10と触媒11の多層充填)]
参考例1、参考例2で得られた触媒10と触媒11を、反応管入口側が触媒11、反応管出口側が触媒10とし、その容積比が1:1、全体の触媒の容積が53mlとなるようステンレス鋼反応管に充填した。
【0065】
[比較例1(触媒12の調製)]
参考例1、参考例2で得られた触媒10と触媒11を、それぞれ容積比で1:1となるよう混合し、比較用の触媒12を得た。
【0066】
[比較例2(触媒13の調製)]
参考例1、参考例2で得られた触媒10と触媒11を、それぞれ容積比で2:1となるよう混合し、比較用の触媒14を得た。
【0067】
上記実施例、比較例、および参考例1~2で得られた触媒を、以下の方法により反応評価した。各触媒53mlをステンレス鋼反応管に充填した。ガス体積比率がn-ブテン:酸素:窒素:水蒸気=1:0.8:6:1の混合ガスを用い、常圧下、GHSV1200hr-1の条件で、反応浴温度(BT)340℃にてTOS20時間以上のエージング反応後、反応管出口で、コンデンサーにより液成分とガス成分を分離し、ガス成分中の各成分を各々水素炎イオン化検出器と熱伝導検出器が装着されたガスクロマトグラフで定量分析した。ガスクロマトグラフにより得られた各データは純ガスによりファクター補正し、n-ブテン転化率、ブタジエン収率、ブタジエン選択率を算出した。さらに、本反応で使用したn-ブテンのモル組成比は、1-ブテン:シス-2-ブテン:トランス-2-ブテン=10:0:0、4:3:3、0:5:5、0:10:0、0:0:10等と変化させて各原料ブテン組成比に対して反応と定量分析を行った。各ブテン原料組成比の変更と制御は、校正されたマスフローコントローラーにより実施した。なお、上記参考例3~5の通り充填した触媒も、全く同様に各原料ブテン組成比に対して反応と定量分析を行った。
ブタジエン転化率、ブタジエン収率、ブタジエン選択率に関する結果を表1に示す。また、実施例1、2について原料比率と触媒中の組成比率に関しては、(S)-0.5×(T2)に対するブタジエン収率を表2に散布図と共に示す。
【0068】
表1より、まず参考例1、参考例2の触媒10および触媒11はそれぞれ2-ブテンおよび1-ブテン原料に好適な触媒であると言える。この触媒10および触媒11の活性成分を使用して触媒反応をさせる場合、実施例に示すような顆粒で混合し成形し焼成した触媒、比較例に示すような成形し焼成した触媒の混合、参考例3~5に示すような成形し焼成した触媒の多層充填が考えられるが、触媒中の触媒10または触媒11の含有比率が同じ水準で比較すれば、特にブテン転化率が低い反応領域ではリサイクルを前提として考えると、高いブタジエン選択率を示すことが分かった。 また、表2より原料比率と触媒中の組成比率に関しては、(S)-0.5×(T2)に対するブタジエン収率の関係について、優れた相関関係を確認する事ができ、原料中の1-ブテンの量の分析値から触媒組成の設計が可能であることが分かる。
【0069】
【0070】
【0071】
表1の結果より、本願発明の構成を充足する実施例1~3はBT340℃におけるn-ブテン転化率およびブタジエン収率、またはブタジエン選択率が高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、炭素原子数4以上のモノオレフィンと分子状酸素を含む混合ガスから接触酸化脱水素反応により共役ジオレフィンを高活性かつ高収率で製造することが可能である。