(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】スライドファスナー用スライダー
(51)【国際特許分類】
A44B 19/30 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
A44B19/30
(21)【出願番号】P 2020560729
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2018047047
(87)【国際公開番号】W WO2020129217
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2020-12-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 陽平
(72)【発明者】
【氏名】山岸 宏次
(72)【発明者】
【氏名】濱田 嘉一
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】実公昭62-032415(JP,Y2)
【文献】実開昭55-000443(JP,U)
【文献】実開平01-168767(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上翼板(11)と、前記上翼板(11)との間にエレメント案内路(14)を形成する下翼板(12)と、前記上翼板(11)及び前記下翼板(12)間を連結する連結柱(13)とを備えたスライダー本体部(10,10a,10b)、前記スライダー本体部(10,10a,10b)に揺動可能に保持される停止爪体(40)、及び、前記停止爪体(40)を付勢して前記停止爪体(40)の一部を前記エレメント案内路(14)内に突出させる爪用弾性部材(6) を有するスライドファスナー用スライダー(1,2,3) であって、
前記上翼板(11)に一体的に形成されるベース部(20,50,70)と、前記ベース部(20,50,70)に対して回転可能に取着される操作カバー部(30,60,80)とが配され、
前記操作カバー部(30,60,80)は、前記ベース部(20,50,70)の上面に対向して配される天板部(31)と、前記天板部(31)の内面から突出し、前記停止爪体(40)を前記爪用弾性部材(6) の付勢力に抗して押圧する押圧突出部(34)とを有し、
前記スライダー本体部(10,10a,10b)は、前記操作カバー部(30,60,80)により覆われ、
前記押圧突出部(34)は、前記操作カバー部(30,60,80)の回転により、前記爪用弾性部材(6) の付勢により前記停止爪体(40)の一部が前記エレメント案内路(14)内に突出するロック状態と、前記押圧突出部(34)で前記停止爪体(40)を押圧して前記停止爪体(40)の一部を前記エレメント案内路(14)から退出させるアンロック状態とを切り換えることが可能な構造を有
し、
前記押圧突出部(34)は、前記操作カバー部(30,60,80)の底面視にて前記操作カバー部(30,60,80)の回転軸を中心とする円弧状に形成され、
前記ベース部(20,50,70)は、前記ベース部(20,50,70)の平面視にて円弧状に形成されるとともに前記押圧突出部(34)を収容する収容凹溝部(21)を有し、
前記停止爪体(40)は、前記収容凹溝部(21)の少なくとも一部に重なって配され、
前記押圧突出部(34)は、前記停止爪体(40)を押圧して前記アンロック状態を保持する解除用突出部(34a,34e) を有する、
ことを特徴とするスライダー。
【請求項2】
前記押圧突出部(34)は
、前記天板部(31)からの突出寸法を前記解除用突出部(34a,34e) よりも小さくしたロック用突出部(34c)
を有する、
請求項1記載のスライダー。
【請求項3】
前記押圧突出部(34)は、前記解除用突出部(34a,34e) と前記ロック用突出部(34c) との間に連続して形成される連結突出部(34b,34d) を有し、
前記連結突出部(34b,34d) の頂端面は、前記解除用突出部(34a,34e) から前記ロック用突出部(34c) に向けて滑らかに傾斜する傾斜面に形成されている、
請求項2記載のスライダー。
【請求項4】
前記解除用突出部(34a,34e) は、円弧状の前記押圧突出部(34)の両端部に配される第1解除用突出部(34a) 及び第2解除用突出部(34e) を有し、
前記ロック用突出部(34c) は、円弧状の前記押圧突出部(34)の中央部に配され、
前記連結突出部(34b,34d) は、前記第1解除用突出部(34a) 及び前記ロック用突出部(34c) 間に形成される第1連結突出部(34b) と、前記第2解除用突出部(34e) 及び前記ロック用突出部(34c) 間に形成される第2連結突出部(34d) とを有する、
請求項3記載のスライダー。
【請求項5】
前記ベース部(20,50,70)の前記収容凹溝部(21)は、前記操作カバー部(30,60,80)の回転を、前記ロック状態となる基準位置から時計回り方向と反時計回り方向とにそれぞれ90°以下の所定の回転角度で規制する規制端面(21a) を有する請求項2~4のいずれかに記載のスライダー。
【請求項6】
前記操作カバー部(30,60,80)は、前記天板部(31)の内面から突出し、且つ、前記操作カ
バー部(30,60,80)の底面視にて前記操作カバー部(30,60,80)の回転軸を中心とする円弧状に形成される少なくとも1つのガイド突出部(36,66)を有し、
前記ベース部(20,50,70)は、前記ベース部(20,50,70)の平面視にて円弧状に形成されるとともに前記ガイド突出部(36,66)を収容するガイド凹溝部(23,53) と、前記ガイド凹溝部(23,53)に連結する少なくとも1つのバネ収容部(24,54) とを有し、
前記バネ収容部(24,54) に、前記ガイド突出部(36,66) を付勢する少なくとも1つのガイド用弾性部材(7) が収容され、
前記操作カバー部(30,60,80)の前記ガイド突出部(36,66) は、前記操作カバー部(30,60,80)が前記ロック状態となる基準位置にあるときに前記ガイド凹溝部(23,53) 内に保持され、且つ、前記操作カバー部(30,60,80)が前記基準位置から回転したときに前記バネ収容部(24,54) 内に進入するとともに、前記ガイド用弾性部材(7) により付勢される位置に配される、
請求項1~5のいずれかに記載のスライダー。
【請求項7】
前記ガイド突出部(66)は、前記操作カバー部(60,80)の底面視にて、互いに対称的な形状を有するとともに対称的な位置に配される一対の第1及び第2ガイド突出部(66) を有し、
1つの前記ガイド用弾性部材(7) が、スライダー幅方向の中央部に配されるとともに、前記操作カバー部(60,80)が前記基準位置から回転したときに前記第1又は第2ガイド突出部(66)を付勢する、
請求項6記載のスライダー。
【請求項8】
前記ガイド用弾性部材(7) は、前記ベース部(20)の平面視にて、前記ベース部(20)の互いに対称的な位置に収容される一対の第1及び第2ガイド用弾性部材(7) を有し、
1つの前記ガイド突出部(36)が、スライダー幅方向の中央部に配されるとともに、前記操作カバー部(30)が前記基準位置から回転したときに第1又は第2ガイド用弾性部材(7) により付勢される、
請求項6記載のスライダー。
【請求項9】
前記ベース部(20,50) は、前記停止爪体(40)を収容する爪体収容凹部(18)を有し、
前記操作カバー部(30,60) は、前記天板部(31)の内面から突出し、且つ、前記爪体収容凹部(18)に収容された前記停止爪体(40)の一部を押さえる爪用突出部(35)を有し、
前記爪用突出部(35)は、前記操作カバー部(30,60) の底面視にて、前記押圧突出部(34)よりも内側に、且つ、前記操作カバー部(30,60) の回転軸を中心とする円弧状に形成される、
請求項1~8のいずれかに記載のスライダー。
【請求項10】
前記ベース部(70)は、前記停止爪体(40)を収容する爪体収容凹部(18)と、前記停止爪体(40)の揺動軸部を回転可能に保持する一対の爪体保持部(72)とを有する請求項1~8のいずれかに記載のスライダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナーに用いられるスライダーに関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーに用いられるスライダーは、ファスナーテープに設けられた左右のエレメント列に沿って摺動させることにより、エレメント列を噛合又は分離させることができる。このようなスライダーは、一般的に、スライダー胴体と、スライダー胴体に対して回動可能に保持された引手とを有しており、スライダー胴体の上下翼板間には、左右のエレメント列が案内される略Y字状のエレメント案内路が形成されている。
【0003】
スライダーの1つとして、エレメント列上の任意の位置でスライダーを停止させたときに、スライダー胴体のエレメント案内路内に停止爪体の一部を自動的に突出させてエレメント列のファスナーエレメントと係合させることにより、スライダーの停止状態を保持する(言い換えると、スライダーをエレメント列の停止位置で保持する)ことが可能な自動停止機構を備えたスライダーが知られている。
【0004】
また、上述のような引手の代わりに、スライダー胴体に対して回転可能に設けられる回転体を有するスライダーが、実公平7―28369号公報(特許文献1)や、中国特許第105231602号明細書(特許文献2)に記載されている。特許文献1及び2に記載されている回転体を有するスライダーは、スライダー胴体に対して回転体を回転させることにより、停止爪又は停止爪体の一部をスライダー胴体のエレメント案内路内に突出させてスライダーの停止状態を保持するロック状態と、停止爪又は停止爪体の一部をエレメント案内路から退出させてロック状態を解除したアンロック状態(ロック解除状態)とを切り換えることが可能に形成されている。
【0005】
ここで、スライダーをロック状態に切り換える場合、停止爪又は停止爪体の一部を左右のエレメント列のうちの一方のエレメント列に対して突出させることにより、その停止爪又は停止爪体の一部を、当該エレメント列の互いに隣接するファスナーエレメント間の隙間(特に、ファスナーエレメントの噛合頭部間の隙間)に挿入する。これにより、停止爪又は停止爪体の一部とファスナーエレメントとが係合して、スライダーをエレメント列の停止位置で移動しないように保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公平7―28369号公報
【文献】中国特許第105231602号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載されているスライダーでは、上述のように回転体を回転させることにより、ロック状態とアンロック状態とを切り換えることが可能な停止機構を備えているが、その停止機構が複雑な構造で形成されている。その結果、例えば特許文献1の場合、スライダーの構成部品が増大するとともに、スライダーの組み立て作業が煩雑になるため、製造コストの増大や生産性の低下を招いていた。また、特許文献2の場合、スライダーの構成部品自体が複雑で細かな形状で形成されているため、部品の製造や管理が煩雑化し、製造コストの増大を招いていた。
【0008】
更に特許文献1及び2に記載されているスライダーでは、回転体を含む停止機構の構成部分が、スライダー全体に対して大きく形成されていて、スライダーの外観に大きな影響を与えるため、スライダーの外観品質の低下を招くことや、スライダーのデザインが制限されることがあった。
【0009】
また、特許文献1及び2のスライダーの場合、使用者がスライダーを停止させた後に回転体を回転させてスライダーのアンロック状態からロック状態に切り換える操作を行う必要がある。このような回転体の切り換え操作は、使用者に煩わしさを感じさせるため、スライダーの操作性を向上させることが求められていた。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、ロック状態からアンロック状態に回転操作で切り換えられる停止機構が比較的簡単な構造で形成され、また、容易に組み立てることが可能で、更には、従来の回転体を有するスライダーとは全く異なる外観品質やデザインを備えることが可能なスライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナー用スライダーは、上翼板と、前記上翼板との間にエレメント案内路を形成する下翼板と、前記上翼板及び前記下翼板間を連結する連結柱とを備えたスライダー本体部、前記スライダー本体部に揺動可能に保持される停止爪体、及び、前記停止爪体を付勢して前記停止爪体の一部を前記エレメント案内路内に突出させる爪用弾性部材を有するスライドファスナー用スライダーであって、前記上翼板に一体的に形成されるベース部と、前記ベース部に対して回転可能に取着される操作カバー部とが配され、前記操作カバー部は、前記ベース部の上面に対向して配される天板部と、前記天板部の内面から突出し、前記停止爪体を前記爪用弾性部材の付勢力に抗して押圧する押圧突出部とを有し、前記スライダー本体部は、前記操作カバー部により覆われ、前記押圧突出部は、前記操作カバー部の回転により、前記爪用弾性部材の付勢により前記停止爪体の一部が前記エレメント案内路内に突出するロック状態と、前記押圧突出部で前記停止爪体を押圧して前記停止爪体の一部を前記エレメント案内路から退出させるアンロック状態とを切り換えることが可能な構造を有し、前記押圧突出部は、前記操作カバー部の底面視にて前記操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成され、前記ベース部は、前記ベース部の平面視にて円弧状に形成されるとともに前記押圧突出部を収容する収容凹溝部を有し、前記停止爪体は、前記収容凹溝部の少なくとも一部に重なって配され、前記押圧突出部は、前記停止爪体を押圧して前記アンロック状態を保持する解除用突出部を有することを最も主要な特徴とするものである。
【0012】
本発明に係るスライダーにおいて、前記押圧突出部は、前記天板部からの突出寸法を前記解除用突出部よりも小さくしたロック用突出部を有することが好ましい。
【0013】
この場合、前記押圧突出部は、前記解除用突出部と前記ロック用突出部との間に連続して形成される連結突出部を有し、前記連結突出部の頂端面は、前記解除用突出部から前記ロック用突出部に向けて滑らかに傾斜する傾斜面に形成されていることが好ましい。
【0014】
また、前記解除用突出部は、円弧状の前記押圧突出部の両端部に配される第1解除用突出部及び第2解除用突出部を有し、前記ロック用突出部は、円弧状の前記押圧突出部の中央部に配され、前記連結突出部は、前記第1解除用突出部及び前記ロック用突出部間に形成される第1連結突出部と、前記第2解除用突出部及び前記ロック用突出部間に形成される第2連結突出部とを有することが特に好ましい。
【0015】
更に、前記ベース部の前記収容凹溝部は、前記操作カバー部の回転を、前記ロック状態となる基準位置から時計回り方向と反時計回り方向とにそれぞれ90°以下の所定の回転角度で規制する規制端面を有することが好ましい。
【0016】
また、本発明のスライダーにおいて、前記操作カバー部は、前記天板部の内面から突出し、且つ、前記操作カバー部の底面視にて前記操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成される少なくとも1つのガイド突出部を有し、前記ベース部は、前記ベース部の平面視にて円弧状に形成されるとともに前記ガイド突出部を収容するガイド凹溝部と、前記ガイド凹溝部に連結する少なくとも1つのバネ収容部とを有し、前記バネ収容部に、前記ガイド突出部を付勢する少なくとも1つのガイド用弾性部材が収容され、前記操作カバー部の前記ガイド突出部は、前記操作カバー部が前記ロック状態となる基準位置にあるときに前記ガイド凹溝部内に保持され、且つ、前記操作カバー部が前記基準位置から回転したときに前記バネ収容部内に進入するとともに、前記ガイド用弾性部材により付勢される位置に配されることが好ましい。
【0017】
この場合、前記ガイド突出部は、前記操作カバー部の底面視にて、互いに対称的な形状を有するとともに対称的な位置に配される一対の第1ガイド突出部及び第2ガイド突出部を有し、1つの前記ガイド用弾性部材が、スライダー幅方向の中央部に配されるとともに、前記操作カバー部が前記基準位置から回転したときに前記第1ガイド突出部又は前記第2ガイド突出部を付勢することが好ましい。
【0018】
また本発明において、前記ガイド用弾性部材は、前記ベース部の平面視にて、前記ベース部の互いに対称的な位置に収容される一対の第1ガイド用弾性部材及び第2ガイド用弾性部材を有し、1つの前記ガイド突出部が、スライダー幅方向の中央部に配されるとともに、前記操作カバー部が前記基準位置から回転したときに第1ガイド用弾性部材又は第2ガイド用弾性部材により付勢されていても良い。
【0019】
更に、本発明のスライダーにおいて、前記ベース部は、前記停止爪体を収容する爪体収容凹部を有し、前記操作カバー部は、前記天板部の内面から突出し、且つ、前記爪体収容凹部に収容された前記停止爪体の一部を押さえる爪用突出部を有し、前記爪用突出部は、前記操作カバー部の底面視にて、前記押圧突出部よりも内側に、且つ、前記操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成されることが好ましい。
【0020】
また本発明において、前記ベース部は、前記停止爪体を収容する爪体収容凹部と、前記停止爪体の揺動軸部を回転可能に保持する一対の爪体保持部とを有していても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るスライダーは、上翼板、下翼板、及び連結柱を備えたスライダー本体部と、スライダー本体部に揺動可能に保持される停止爪体と、その停止爪体を付勢する爪用弾性部材を有するとともに、スライダー本体部の上翼板に一体的に形成されるとともに例えばスライダー本体部の平面視で円形を呈するベース部と、ベース部の外周側面に摺接してベース部に対して回転可能に取着される操作カバー部とを有する。操作カバー部は、ベース部の上面に対向して配される薄板状の天板部と、天板部の内面から突出し、停止爪体を爪用弾性部材の付勢力に抗して押圧する押圧突出部とを有しており、押圧突出部は、操作カバー部の回転により、爪用弾性部材の付勢により停止爪体の一部がエレメント案内路内に突出するロック状態と、押圧突出部で停止爪体を押圧して停止爪体の一部をエレメント案内路から退出させるアンロック状態(ロック解除状態)とを切り換えることが可能な構造を有する。
【0022】
このような本発明のスライダーであれば、操作カバー部の回転操作でスライダーのロック状態とアンロック状態とが切り換えられる停止機構を、比較的簡単で特徴的な形状を有する押圧突出部によって形成できる。また、このような停止機構を備える本発明のスライダーは、停止爪体及び爪用弾性部材がスライダーの所定の位置にセット(収容又は保持)された状態で、操作カバー部をベース部の上面に対向させるとともにベース部に対して回転可能に取り付けることによって、容易に組み立てることが可能である。
【0023】
更に、本発明のスライダーでは、スライダー本体部が操作カバー部によって上方から覆われるため、スライダー本体部をスライダーの上面側から見えなくする又は見え難くすることが可能である。このため、本発明では、前述の特許文献1及び2に記載されているスライダーとは全く異なる外観品質や、従来のスライダーにはない新しいデザインでスライダーを形成することが可能となる。
【0024】
このような本発明のスライダーにおいて、操作カバー部の押圧突出部は、操作カバー部の底面視にて操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成されている。また、ベース部は、ベース部の平面視にて円弧状に形成されるとともに押圧突出部を収容する収容凹溝部を有しており、停止爪体は、ベース部の収容凹溝部の少なくとも一部に重なって設置され、好ましくは、収容凹溝部を横断して設置される。更に、押圧突出部は、天板部からの突出寸法が互いに異なる解除用突出部及びロック用突出部を有する。このようにベース部及び操作カバー部が形成されていることにより、操作カバー部の回転操作でスライダーのロック状態とアンロック状態とを容易に切り換えることができる。
【0025】
この場合、押圧突出部は、解除用突出部とロック用突出部との間に連続して形成される連結突出部を有しており、この連結突出部は、天板部からの突出寸法を解除用突出部からロック用突出部に向けて漸減させて形成されている。更に、連結突出部の天板部から離れて配される頂端面(突出端面)は、解除用突出部からロック用突出部に向けて滑らかに傾斜する傾斜面に形成されている。このような連結突出部が押圧突出部に設けられていることにより、操作カバー部を回転させるときに押圧突出部が停止爪体に引っ掛かり難くなるため、押圧突出部の解除用突出部で停止爪体を押圧するアンロック状態と、押圧突出部のロック用突出部で保持されるロック状態とを円滑に切り換えることができる。
【0026】
またこの場合、押圧突出部は、押圧突出部の両端部に配される第1解除用突出部及び第2解除用突出部と、押圧突出部の中央部に配されるロック用突出部と、第1解除用突出部及びロック用突出部間に形成される第1連結突出部と、第2解除用突出部及びロック用突出部間に形成される第2連結突出部とを有することにより、スライダーの平面視において、操作カバー部をロック状態となる基準位置から時計回り方向に回転させても、また、反時計回り方向に回転させても、ロック状態からアンロック状態に切り換えることができる。
【0027】
更に、ベース部の収容凹溝部によって、操作カバー部の回転を基準位置から時計回り方向と反時計回り方向とにそれぞれ90°以下の所定の回転角度で規制することができる。これにより、90°以下の所定の角度まで操作カバー部を回転させることによって、スライダーをロック状態からアンロック状態に安定して切り換えることができるため、アンロック状態への切り換え操作を容易に且つ確実に行うことができ、スライダーの操作性を向上させることができる。
【0028】
また本発明のスライダーにおいて、操作カバー部は、天板部の内面から突出し、且つ、操作カバー部の底面視にて操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成される少なくとも1つのガイド突出部を有する。ベース部は、ベース部の平面視にて円弧状に形成されるとともにガイド突出部を収容するガイド凹溝部と、ガイド凹溝部に連結する少なくとも1つのバネ収容部とを有しており、そのバネ収容部には、ガイド突出部を付勢する少なくとも1つのガイド用弾性部材が収容されている。更に、操作カバー部のガイド突出部は、操作カバー部がロック状態となる基準位置にあるときにガイド凹溝部内に保持され、且つ、操作カバー部が基準位置から回転したときにバネ収容部内に進入し、ガイド用弾性部材により前記回転を戻す方向に付勢されるような位置に配されている。
【0029】
これにより、例えば使用者がスライダーの摺動操作を終了させて指を操作カバー部から離したときに、ガイド用弾性部材の付勢力によって操作カバー部を上述した基準位置に戻すことができるため、スライダーをアンロック状態からロック状態に自動的に切り換える自動停止機構を形成することができる。この自動停止機構により、使用者が意識しなくても、スライダーを摺動可能なアンロック状態からロック状態に自動的に切り換えることができるため、スライダーの操作性を大きく向上させることができる。
【0030】
この場合、ガイド突出部は、互いに対称的な一対の第1ガイド突出部及び第2ガイド突出部を有しており、また、1つのガイド用弾性部材は、スライダー幅方向の中央部に配されている。これにより、操作カバー部が基準位置から時計回り方向又は反時計回り方向に回転したときに、第1ガイド突出部及び第2ガイド突出部の何れか一方をガイド用弾性部材で安定して付勢することができるため、操作カバー部を基準位置からどちらの方向に回転させても、上述した自動停止機構を安定して発揮させることができる。
【0031】
なお本発明において、ガイド用弾性部材は、ベース部の平面視にて、ベース部の互いに対称的な位置に収容される一対の第1ガイド用弾性部材及び第2ガイド用弾性部材を有しており、また、1つのガイド突出部が、スライダー幅方向の中央部に配されていても良い。これによっても、操作カバー部が基準位置から時計回り方向又は反時計回り方向に回転したときに、1つのガイド突出部を第1ガイド用弾性部材及び第2ガイド用弾性部材の何れか一方で安定して付勢することができるため、操作カバー部を基準位置からどちらの方向に回転させても、上述した自動停止機構を安定して発揮させることができる。
【0032】
更に本発明のスライダーにおいて、ベース部は、停止爪体を収容する爪体収容凹部を有しており、また、操作カバー部は、天板部の内面から突出し、且つ、爪体収容凹部に収容された停止爪体の一部を押さえる爪用突出部を有する。更に、爪用突出部は、操作カバー部の底面視にて、押圧突出部よりも内側に、且つ、操作カバー部の回転軸を中心とする円弧状に形成されている。これにより、停止爪体を上翼板に対して揺動可能に容易に且つ安定して取り付けることができる。
【0033】
なお本発明では、操作カバー部が上述のような爪用突出部を有する代わりに、ベース部が、停止爪体の揺動軸部を回転可能に保持する一対の爪体保持部を有していても良い。これによっても、停止爪体を上翼板に対して揺動可能に容易に且つ安定して取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施例1に係るスライダーを模式的に示す斜視図である。
【
図2】実施例1のスライダーが分解された状態を模式的に示す分解斜視図である。
【
図3】実施例1のスライダーにおいて、操作カバー部が取り付けられる前の状態を模式的に示す斜視図である。
【
図4】実施例1の操作カバー部を内面側から見た斜視図である。
【
図5】実施例1のスライダーを下方側から見た底面図である。
【
図6】実施例1のスライダーを右側から見た右側面図である。
【
図7】
図5に示したVII-VII線における断面図である。
【
図8】
図6に示したVIII-VIII線における断面図である。
【
図9】
図8に示したIX-IX線における断面図である。
【
図10】本発明の実施例2に係るスライダーが分解された状態を模式的に示す分解斜視図である。
【
図11】実施例2のスライダーにおいて、操作カバー部が取り付けられる前の状態を模式的に示す斜視図である。
【
図12】実施例2の操作カバー部を内面側から見た斜視図である。
【
図13】本発明の実施例3に係るスライダーにおいて、操作カバー部が取り付けられる前の状態を模式的に示す斜視図である。
【
図14】実施例3の操作カバー部を内面側から見た斜視図である。
【
図15】実施例3のスライダーにおいて、停止爪体の取り付けを模式的に説明する説明図である。
【
図16】実施例3のスライダーにおける幅方向に直交する断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0036】
例えば、以下の実施形態で説明するスライダーは、複数のファスナーエレメントがコイル状に連続するエレメント列を備えたスライドファスナーに使用されるスライダーである。しかし、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば合成樹脂製の複数の独立したファスナーエレメントを備えたスライドファスナーに使用されるスライダーや、金属製の複数のファスナーエレメントを備えたスライドファスナーに使用されるスライダー等にも同様に適用することができる。
【実施例1】
【0037】
図1は、本実施例1に係るスライダーを模式的に示す斜視図であり、
図2は、スライダーが分解された状態を模式的に示す分解斜視図である。
【0038】
なお、以下の説明において、スライダー摺動方向を前後方向又はスライダー長さ方向と規定し、特に、スライダーがスライドファスナーのエレメント列を噛合させるために移動する方向を前方とし、エレメント列を分離させるために移動する方向を後方とする。また、スライダーの高さ方向を上下方向と規定し、特に、スライダーの下翼板から上翼板に向かう方向又はスライダーのベース部に対して操作カバー部が取り付けられる側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。更に、スライダーの摺動方向及び高さ方向に対して直交する幅方向を左右方向と規定する。
【0039】
本実施例1のスライドファスナー用スライダー1は、
図2に示すように、スライダー本体部10と、スライダー本体部10に収容されて揺動可能に保持される停止爪体40と、スライダー本体部10の所定の位置に保持される1つの爪用コイルバネ(爪用弾性部材)6及び2つのガイド用コイルバネ(ガイド用弾性部材)7、スライダー本体部10に回転可能に係着する操作カバー部30とを有する。ここで、爪用コイルバネ6及びガイド用コイルバネ7には、鋼材をラセン状にした一般的な圧縮コイルバネが使用される。
【0040】
本実施例1のスライダー1において、スライダー本体部10及び操作カバー部30は、アルミニウム合金、亜鉛合金などの金属をダイキャスト成形することにより製造される。停止爪体40は、ステンレスや銅合金等の金属をプレス成形又はダイキャスト成形することにより製造される。なお本発明において、スライダーの材質や各部品の製造方法は特に限定されず、例えばスライダー本体部10や操作カバー部30を、上述のような金属に代えて、それぞれポリアミドやポリアセタール等の熱可塑性樹脂などを射出成形して製造することもできる。
【0041】
本実施例1のスライダー本体部10は、上翼板11と、上翼板11と平行に配される下翼板12と、上翼板11及び下翼板12の前端部(肩口側端部)を連結する連結柱13と、上翼板11の上面側に上翼板11と一体的に形成されるベース部20とを有する。スライダー本体部10の前端部には、連結柱13を間に挟んで左右の肩口が形成されており、スライダー本体部10の後端部には1つの後口が形成されている。また、スライダー本体部10の上翼板11と下翼板12の間には、左右の肩口と後口とを連通する略Y字形状のエレメント案内路14が形成されている。
【0042】
更に、上翼板11の左右側部には、下翼板12に向けて延出する左右のフランジ部15が設けられており、下翼板12の左右側部には、上翼板11に向けて突出する左右のリブ部16が設けられている。この場合、左右のフランジ部15と左右のリブ部16との間には、スライドファスナーを形成したときにファスナーテープを挿通させるためのテープ挿通間隙が、スライダー本体部10の肩口から後口にかけて連続して形成されている。
【0043】
スライダー本体部10のベース部20は、高さ方向に直交する断面形状の外形が円形となる円盤状の形態で上翼板11と一体的に形成されている。本実施例1の場合、エレメント案内路14の上壁面を形成する部分を上翼板11とし、円盤状の部分をベース部20とするが、必要に応じて、上翼板11とベース部20をまとめて、ベース部(又は上翼板)と称しても良い。
【0044】
ベース部20は、高さ方向に直交して配される平坦な上面20aと、筒状の外周側面と、上面20aの反対側に配される下面とを有しており、上面20a及び下面に対して稜線部を介して形成される外周側面は、ベース部20の周方向の全体に亘って一定の高さ寸法(上下方向における寸法)を有するとともに、凹凸のない滑らかな曲面に形成されている。
【0045】
本実施例1のベース部20の直径は、例えば
図5に示すように、下翼板12の幅寸法(左右方向における寸法)の最大値よりも大きく、且つ、下翼板12の長さ寸法(前後方向における寸法)の最大値よりも小さくなるように設定されている。ベース部20が上述のような直径を有することにより、スライダー1の製造工程において、ベース部20に操作カバー部30を取り付ける作業を行い易くすることができる。また、ベース部20に対して操作カバー部30を回転させるときに操作カバー部30の回転操作を行い易くすることができる。
【0046】
ベース部20の下面側の外周縁部には、操作カバー部30の後述する左右の取付片部37の少なくとも一部が挿入されるとともに、その取付片部37を摺接させる摺接部(摺接凹部)20bが設けられている。この摺接部20bは、例えばスライダー本体部10の底面視(
図5)において、ベース部20の下翼板12と重ならない領域に配されており、且つ、ベース部20の中央側の下面に対し、段差を介してベース部20の厚さ寸法を減少させる位置(ベース部20の上面20aに近い位置)に配されている。
【0047】
スライダー本体部10の前端部には、
図7及び
図9に示したように、爪用コイルバネ6を収容して保持する有底収容孔部17が高さ方向に沿って形成されている。この有底収容孔部17は、スライダー本体部10の平面視において連結柱13が形成される領域内に設けられ、また、ベース部20の上面20aに開口している。有底収容孔部17の大きさは、有底収容孔部17内に保持する爪用コイルバネ6の大きさに対応して任意に変更できる。
【0048】
また、スライダー本体部10には、停止爪体40を挿入して収容する爪体収容凹部18が、ベース部20の上面20aに開口して形成されている。この爪体収容凹部18は、スライダー1の長さ方向に沿って形成されるとともに停止爪体40の後述する爪体本体部を収容する本体収容凹部18aと、本体収容凹部18aから幅方向に沿って形成され停止爪体40の後述する揺動軸部43を収容する左右の軸収容凹部18bと、本体収容凹部18aの後端部に形成されるとともにエレメント案内路14に連通する爪孔部18cとを有する。
【0049】
爪体収容凹部18の本体収容凹部18aは、スライダー本体部10の有底収容孔部17に連通している。この本体収容凹部18aの底面は、
図7に示すように、停止爪体40の揺動動作を許容するために、爪孔から前方に向けて本体収容凹部18aの深さ寸法が漸減するように上り傾斜する上り傾斜部と、有底収容孔部17に向けて(前方に向けて)本体収容凹部18aの深さ寸法が漸増するように下り傾斜する下り傾斜部とを有する。
【0050】
更に本実施例1のベース部20は、ベース部20の前半部に円弧状に形成される収容凹溝部21と、収容凹溝部21よりも半径方向の内側に半円形状に凹設される中央収容凹部22と、ベース部20の後端部に円弧状に形成されるガイド凹溝部23と、ガイド凹溝部23の左右両側に直線状に凹設される左右一対のバネ収容部24とを有する。
【0051】
この場合、円弧状の収容凹溝部21と、中央収容凹部22を形成する円弧状の前側内壁面と、円弧状のガイド凹溝部23とは、ベース部20の平面視にて、操作カバー部30の回転軸を中心とする同心円状に形成されている。また、収容凹溝部21、中央収容凹部22、ガイド凹溝部23、及び左右のバネ収容部24における各底面は、スライダー本体部10の高さ方向に関して、上述した本体収容凹部18aの底面よりも浅い位置(ベース部20の上面20aに近い高さ位置)に配されている。
【0052】
収容凹溝部21は、ベース部20に操作カバー部30を所定の向きで取り付けたときに、操作カバー部30の後述する押圧突出部34を挿入して収容可能で、且つ、操作カバー部30を回転させても押圧突出部34の収容状態を維持可能な位置及び大きさで形成されている。また、収容凹溝部21は、上述した爪体収容凹部18の本体収容凹部18aを略幅方向に横切って形成されている。このため、爪体収容凹部18に停止爪体40が収容されたときに、その停止爪体40は、収容凹溝部21を長さ方向に沿って交差する状態で保持される。
【0053】
収容凹溝部21における収容凹溝部21の深さ寸法、すなわち、ベース部20の上面20aの位置から収容凹溝部21の底面までの上下方向における寸法(以下、このような底面までの寸法を深さ寸法と略記する)は、収容凹溝部21の本体収容凹部18aを横切る部分を除く領域で一定である。
【0054】
また、収容凹溝部21は、収容凹溝部21の左右の両端部に、ベース部20の周方向に対して直交するとともに上下方向に平行な平面で形成される左右の側端面21aを有しており、このような左右の側端面21aは、操作カバー部30の回転可能な角度を規制する左右の規制端面として利用される。すなわち、収容凹溝部21に形成される左右の側端面(規制端面)21aは、ベース部20の収容凹溝部21に操作カバー部30の押圧突出部34が挿入されて収容された場合において、操作カバー部30を回転させたときに操作カバー部30の押圧突出部34を当接させることによって、操作カバー部30の回転可能な角度を規制することができる。
【0055】
本実施例1において、収容凹溝部21の左右の側端面(規制端面)21aは、操作カバー部30が、スライダー1を後述するようにロック状態に保持できる基準位置から、スライダー1の平面視における時計回り方向と反時計回り方向の両方に、それぞれ30°まで回転可能な位置に設定されている。すなわち、本実施例1における操作カバー部30の基準位置からの回転可能範囲は、時計回り方向及び反時計回り方向ともに30°以下に設定されている。言い換えると、操作カバー部30の基準位置からの回転限界角度は、時計回り方向及び反時計回り方向ともに30°である。
【0056】
なお本発明において、操作カバー部30の時計回り方向及び反時計回り方向の回転可能範囲は、収容凹溝部21の左右の側端面(規制端面)21aによって、ベース部20の構造上、基準位置から90°以下に設定され、好ましくは45°以下に設定される。回転可能範囲を90°以下にすることにより、ベース部20にガイド凹溝部23やバネ収容部24を安定して形成できるため、スライダー1に、後述するように回転させた操作カバー部30を基準位置に自動的に戻す機能を持たせることができる。また、スライダー1をアンロック状態(すなわち、操作カバー部30を回転限界角度まで回転させた状態)で摺動させる際の操作性を良好にすることができる。
【0057】
更に、回転可能範囲を45°以下にすることにより、使用者が手首又は指をひねって操作カバー部30を回転限界角度まで容易に回転させることができるため、スライダー1の上述したアンロック状態での操作性をより向上させることができる。その上、例えば操作カバー部30の回転不足によりアンロック状態への切換えが適切にできなくなる等の不具合を生じさせ難くし、操作カバー部30による切換え操作の操作性も向上させることができる。
【0058】
なお、操作カバー部30の回転限界角度が、10°以上、好ましくは20°以上に設定されることにより、操作カバー部30の後述する押圧突出部34による停止爪体40の押し下げ量を円滑に変化させることができ、それによって、スライダー1のロック状態からアンロック状態への切り換えを安定して行うことができる。特に、操作カバー部30の回転限界角度は、上述したようなスライダー1のアンロック状態での操作性、切換え操作の操作性、アンロック状態への切り換えの円滑さや安定性を総合的に考慮すると、本実施例1のように30°に設定されることが好ましい。
【0059】
ベース部20に凹設される半円形状の中央収容凹部22は、ベース部20に操作カバー部30を所定の向きで取り付けたときに、操作カバー部30の後述する爪用突出部35を挿入して収容可能で、且つ、操作カバー部30を回転させても爪用突出部35の収容状態を維持可能な位置及び大きさで形成されている。なお、この中央収容凹部22は、操作カバー部30の爪用突出部35を収容可能であれば、操作カバー部30の回転軸を中心とする円弧状の形態で形成されていても良い。
【0060】
円弧状のガイド凹溝部23は、ベース部20の後端部における幅方向の中央領域に凹設されており、ベース部20に操作カバー部30を所定の向きで取り付けたときに、操作カバー部30の後述するガイド突出部36を挿入して収容することが可能である。このガイド凹溝部23は、左右一対のバネ収容部24に連通している。この場合、ガイド凹溝部23の底面と左右のバネ収容部24の各底面とは、連続する単一の平坦面に形成されており、ガイド凹溝部23の深さ寸法と、左右のバネ収容部24の深さ寸法とは同じ大きさである。
【0061】
左右のバネ収容部24は、スライダー本体部10の平面視において矩形を呈するように形成されている。この場合、バネ収容部24は、ガイド用コイルバネ7の大きさに対応して形成されており、各バネ収容部24に1つのガイド用コイルバネ7を収容したときに、当該ガイド用コイルバネ7をがたつかないように保持することができる。また、左右のバネ収容部24は、ベース部20に取り付けられた操作カバー部30を上述した所定の回転角度範囲で回転させても、操作カバー部30のガイド突出部36がベース部20に干渉しない大きさで形成されている。
【0062】
停止爪体40は、平板状の基板部41と、基板部41の後端部から下方に屈曲して延出する爪部42と、基板部41の長さ方向における略中央部から幅方向に延出する左右一対の円柱状の揺動軸部43とを有する。基板部41の長手方向の寸法(すなわち、基板部41の前端縁から爪部42との境界部(屈曲部)までの寸法)は、スライダー本体部10の下翼板12における長さ寸法の最大値の半分よりも大きく設定されている。これにより、スライダー1において停止爪体40の基板部41の前端部を押し下げたときに、停止爪体40の爪部42をエレメント案内路14から安定して退出させることができる。
【0063】
爪部42の先端部は、爪部42の基板部41に連結する基端部に対して幅寸法を小さくして形成されており、且つ、基端部に対して右側又は左側に変位して設けられている。このように爪部42の先端部が左右方向に変位していることにより、当該爪部42の先端部を、噛合した左右のエレメント列の一方に安定して挿入させて係合させることができる。
【0064】
操作カバー部30は、スライダー本体部10に取り付ける前の状態において、
図4に示すように、円盤状の天板部31と、天板部31の外周縁部から天板部31の内面31aに対して直交する方向に突出するリング状の摺接壁部32と、摺接壁部32の先端面から更に突出する左右一対の円弧状の突条部33と、天板部31の前半部における内面31aから突出する押圧突出部34及び爪用突出部35と、天板部31の後端部における内面31aから突出するガイド突出部36とを有する。
【0065】
操作カバー部30の天板部31は、スライダー1の平面視にて円形を呈するとともに、平坦な外面(上面)及び内面(下面)31aを有する。この場合、円形状の天板部31における直径は、ベース部20の直径よりも大きく、更には、下翼板12の長さ寸法の最大値よりも大きい。これにより、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けたときに、天板部31でスライダー本体部10を上方から覆うことができるため、例えば組み立てられた本実施例1のスライダー1を上方から見たときに、スライダー本体部10を天板部31の裏面側に隠して、円形の天板部31のみを視認させることができる。
【0066】
その結果、本実施例1のスライダー1は、従来のスライダーでは得られなかったシンプルで洗練された外観を有することができ、例えば他のスライダーとの差別化を容易に図ることができる。また本実施例1では、天板部31の外面(上面)に、文字やロゴを印字したり、刻んだりすることや、様々な装飾等を施すことが可能であり、それによって、スライダー1の外観品質を高めることや、オリジナル性や希少性を高めることが可能となる。
【0067】
摺接壁部32は、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けたときに、摺接壁部32の内周壁面がベース部20の外周側面の全体に接するように形成されている。これによって、スライダー本体部10に取り付けられた操作カバー部30ががたつくことを防止できる。また、摺接壁部32の内周壁面は、スライダー本体部10に取り付けられた操作カバー部30が回転するときに、ベース部20の外周側面に摺接させることができる。これにより、操作カバー部30をスライダー本体部10に対して一定の回転軸で安定して回転させることができる。
【0068】
本実施例1の摺接壁部32では、摺接壁部32の外周側面が滑らかな筒状に形成されており、それによって、スライダー1の良好な肌触りが得られるとともに、スライダー1の洗練された外観が保持されている。一方、操作カバー部30における摺接壁部32の外周側面は、操作カバー部30を後述するように回転操作する場合に、使用者が指で摘まむ部分となる。このため、本発明では、操作カバー部30を回転させる操作の操作性を高めるために、摺接壁部32の外周側面に、例えば滑り止め用の微小な凹凸、指の太さに対応するような窪み部、又は、指の引っ掛かりを付ける突起部等を形成することや、摺接壁部32の外周側面に滑り止め用のゴムなどを取り付けることも可能である。
【0069】
本実施例1において、操作カバー部30に設けられる左右の突条部33は、操作カバー部30をスライダー本体部10のベース部20に被せた後、突条部33を操作カバー部30の回転軸となる中心部に向けて倒すように押圧する、又は、突条部33を摺接壁部32に向けて潰すように押圧することにより、
図5に示した左右の薄板状の取付片部37に塑性変形させることができる。
【0070】
このように突条部33を取付片部37に塑性変形させることにより、操作カバー部30をスライダー本体部10のベース部20に回転可能に安定して取着でき、また、取り付けられた操作カバー部30がスライダー本体部10から外れることを効果的に防止できる。なお本発明において、操作カバー部30をスライダー本体部10のベース部20に回転可能に取り付ける手段又は方法は特に限定されず、その他の取付手段又は取付方法を採用することも可能である。
【0071】
操作カバー部30の押圧突出部34は、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けたときにベース部20の収容凹溝部21に挿入されるように、収容凹溝部21の形成位置に対応して設けられている。この押圧突出部34は、操作カバー部30の底面視にて、操作カバー部30の回転軸を中心とする円弧状に形成されており、それによって、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けて回転させたときに、ベース部20の円弧状の収容凹溝部21内を引っ掛かることなく円滑に移動することができる。
【0072】
この押圧突出部34は、押圧突出部34の左右両端部に配されるとともに天板部31の内面31aからの突出寸法(上下方向における寸法)が最も大きい左側の第1解除用突出部34a及び右側の第2解除用突出部34eと、押圧突出部34の中央部に配されるとともに天板部31の内面31aからの突出寸法が最も小さいロック用突出部34cと、第1解除用突出部34a及びロック用突出部34c間に連続的に形成される第1連結突出部34bと、第2解除用突出部34e及びロック用突出部34c間に連続的に形成される第2連結突出部34dとを有する。
【0073】
この場合、第1連結突出部34b及び第2連結突出部34dは、第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eからロック用突出部34cに向けて天板部31からの突出寸法を漸減させて形成されている。また、第1連結突出部34bの頂端面及び第2連結突出部34dの頂端面は、第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eからロック用突出部34cに向けて連続的に傾斜する傾斜面に形成されており、このように一方に向けて傾斜する各頂端面は、段差のない滑らかに連続する表面に形成されている。ここで、第1連結突出部34bの頂端面及び第2連結突出部34dの頂端面とは、天板部31から突出する第1連結突出部34b及び第2連結突出部34dの突出先端部に、天板部31から上下方向に離れて形成される表面(突出端面)を言う。
【0074】
押圧突出部34が上述のように形成されていることにより、本実施例1のスライダー1において、例えば操作カバー部30が、押圧突出部34のロック用突出部34cを停止爪体40の直上に位置させる基準位置で保持されている状態では、例えば
図9に示すように押圧突出部34のロック用突出部34cが停止爪体40から僅かに離間する(又は停止爪体40を下方に押圧しない程度に停止爪体40に接触する)ため、停止爪体40の前端部が爪用コイルバネ6によって上方に付勢されて最も高い位置に保持される状態が維持される。それにより、停止爪体40の爪部42がスライダー本体部10のエレメント案内路14内に突出するため、スライダー1をエレメント列に対して摺動不能にするロック状態に保持できる。
【0075】
一方、例えば操作カバー部30を時計回り方向又は反時計回り方向に回転させることにより、押圧突出部34の第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eを停止爪体40の直上に移動させることができる。これによって、当該第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eを停止爪体40の前端部に当接させ、当該停止爪体40の前端部を爪用コイルバネ6の付勢力に抗して下方に押圧して押し下げることができる。その結果、停止爪体40の爪部42をスライダー本体部10のエレメント案内路14内から退出させて、スライダー1をエレメント列に対して摺動可能なアンロック状態にすることができる。
【0076】
更に本実施例1の押圧突出部34には、上述したように段差のない滑らかに傾斜する頂端面を備えた第1連結突出部34b及び第2連結突出部34dが設けられているため、操作カバー部30を基準位置(スライダー1のロック状態)から回転させて押圧突出部34の第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eを停止爪体40の直上位置に移動させるときに、停止爪体40の前端部を第1連結突出部34b又は第2連結突出部34dに摺接させることができ、それによって、停止爪体40の前端部を少しずつ下方に押し下げることができる。その結果、スライダー1をロック状態からアンロック状態に円滑に且つ安定して切り換えることができる。
【0077】
また同様に、スライダー1のアンロック状態から操作カバー部30を回転させて押圧突出部34のロック用突出部34cを停止爪体40の直上位置に移動させるときに、停止爪体40の前端部を、第1連結突出部34b又は第2連結突出部34dに摺接させることができ、それによって、爪用コイルバネ6の付勢力によって少しずつ上昇させることができる。その結果、スライダー1をアンロック状態からロック状態に円滑に且つ安定して切り換えることができる。
【0078】
操作カバー部30の爪用突出部35は、操作カバー部30の底面視にて、押圧突出部34よりも半径方向内側に、且つ、操作カバー部30の回転軸を中心とする円弧状に形成されている。また、爪用突出部35は、天板部31の内面31aからの突出寸法を一定の大きさにして形成されている。この場合、爪用突出部35における天板部31の内面31aからの突出寸法は、押圧突出部34のロック用突出部34cにおける天板部31の内面31aからの突出寸法よりも大きく、且つ押圧突出部34の第1解除用突出部34a及び第2解除用突出部34eにおける天板部31の内面31aからの突出寸法よりも小さく設定されている。
【0079】
この爪用突出部35は、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けたときにベース部20の中央収容凹部22に挿入されて収容され、且つ、ベース部20の爪体収容凹部18に収容されている停止爪体40の上面に当接する。また、爪用突出部35は、操作カバー部30をスライダー本体部10に取り付けて回転させたときに、ベース部20の中央収容凹部22内を引っ掛かることなく円滑に移動できる。更に、爪用突出部35は、操作カバー部30を上述した所定の回転可能範囲内で回転させても、爪体収容凹部18に収容されている停止爪体40の上面に当接している状態を常に保持することができ、それによって、停止爪体40が爪体収容凹部18から抜け出すことを防止して、停止爪体40を爪体収容凹部18内に上下方向に揺動可能に安定して保持できる。
【0080】
操作カバー部30のガイド突出部36は、操作カバー部30の後端部に操作カバー部30の回転軸を中心とする円弧状に形成されており、且つ、天板部31の内面31aからの突出寸法を一定の大きさにして形成されている。また、ガイド突出部36は、操作カバー部30をスライダー本体部10に基準位置で取り付けたときに、ベース部20のガイド凹溝部23に挿入されて収容される。更に、ガイド突出部36は、操作カバー部30を上述した所定の回転可能範囲内で時計回り方向又は反時計回り方向に回転させることにより、ベース部20の左右のバネ収容部24の一方に進入すると同時に、バネ収容部24内に保持されているガイド用コイルバネ7によって、ガイド凹溝部23に戻る方向(回転を戻す方向)の付勢力が加えられる。
【0081】
本実施例1の操作カバー部30において、ガイド突出部36の左右両側には、操作カバー部30の内面31aがガイド用コイルバネ7に接することを回避する左右の回避用凹部38が凹設されている。この場合、左右の回避用凹部38は、操作カバー部30の回転軸を中心とする円弧状に設けられている。
【0082】
次に、上述のようなスライダー本体部10、停止爪体40、爪用コイルバネ6、2つのガイド用コイルバネ7、及び、操作カバー部30を用いて、本実施例1のスライダー1を組み立てる方法について説明する。
【0083】
先ず、
図2に仮想線の矢印で示すように、爪用コイルバネ6をスライダー本体部10の有底収容孔部17に上方から挿入し、更に、停止爪体40をスライダー本体部10の爪体収容凹部18に挿入して収容する。このとき、停止爪体40における基板部41の前端部が爪用コイルバネ6の上に載置される。更に、2つのガイド用コイルバネ7を、ベース部20の左右のバネ収容部24にそれぞれ1つずつ挿入する。これにより、爪用コイルバネ6、停止爪体40、及び2つのガイド用コイルバネ7が、
図3に示すように、スライダー本体部10に組み付けられる。
【0084】
次に、スライダー本体部10のベース部20に操作カバー部30を被せるように取り付ける。このとき、操作カバー部30の摺接壁部32をベース部20の外周側面の全体に接触させるとともに、操作カバー部30の向きを少なくともガイド突出部36をベース部20のガイド凹溝部23内に収容するように合せる。これにより、操作カバー部30を、スライダー本体部10のベース部20に対し、スライダー1のロック状態が維持される基準位置で仮保持できる。
【0085】
操作カバー部30をスライダー本体部10に仮保持した後、操作カバー部30に設けた左右の突条部33を、幅方向の内側に向けて倒すように、又は、突条部33を摺接壁部32に向けて潰すように押圧する。これにより、左右の突条部33が塑性変形して、
図5に示したように、左右の取付片部37がリング状摺接壁部32の中心部に向けて延びるように形成され、その形成された各取付片部37が、ベース部20の下面側に設けた摺接部(摺接凹部)20bの一部に重なる。このような左右の取付片部37の形成により、操作カバー部30が、スライダー本体部10に、スライダー1の平面視で時計回り方向及び反時計回り方向の両方に回転可能に取り付けられるため、
図1に示した本実施例1のスライダー1が製造される。
以上のように、本実施例1のスライダー1は、比較的簡単な組み立て工程で容易に製造することができる。
【0086】
その後、上述のようにして製造された本実施例1のスライダー1を、左右一対のファスナーストリンガーに設けられたコイル状のファスナーエレメントからなるエレメント列に摺動可能に取り付けることによって、スライドファスナーを製造することができる。
【0087】
製造された本実施例1のスライダー1では、操作カバー部30が操作されていない非操作状態のときに、例えば
図8に示すように、操作カバー部30のガイド突出部36が、ベース部20のガイド凹溝部23に収容され、且つ、左右のガイド用コイルバネ7に挟まれた状態でそれぞれに当接している。これにより、操作カバー部30のガイド突出部36が、ガイド用コイルバネ7が収容されている左右のバネ収容部24内に勝手に進入することを防止し、ガイド凹溝部23内に留めておくことができる。
【0088】
また、上述のように操作カバー部30のガイド突出部36がベース部20のガイド凹溝部23内で保持されている場合、
図9に示したように、操作カバー部30における押圧突出部34の中央部に配されたロック用突出部34cが、停止爪体40の直上に停止爪体40から僅かに離間した状態で配されており、また、停止爪体40の基板部41の前端部が、爪用コイルバネ6に当接して保持されている。これにより、停止爪体40の爪部42を、スライダー本体部10の爪孔部18cを介してエレメント案内路14内に突出させるとともに、爪部42がエレメント案内路14内に突出している状態を維持できる。その結果、スライドファスナーのスライダー1を、エレメント列に対して移動しないように停止爪体40によってロックされたロック状態に保持することができる。
【0089】
本発明では、スライダー1が上述のようにロック状態に保持されているときの操作カバー部30の位置(回転位置)を基準位置と規定する。また、この操作カバー部30の基準位置では、上述のように操作カバー部30のガイド突出部36が、左右のガイド用コイルバネ7によってガイド凹溝部23からバネ収容部24に移動しないように保持されているため、操作カバー部30を基準位置から回転しないように安定して保持できる。
【0090】
一方、本実施例1のスライダー1をスライドファスナーのエレメント列に沿って摺動させる場合は、使用者がスライダー1の操作カバー部30(特に操作カバー部30の摺接壁部32の外周面)を指で保持し、操作カバー部30を上記基準位置から、スライダー1の平面視における時計回り方向及び反時計回り方向の何れか一方に回転させる。
【0091】
これにより、操作カバー部30のガイド突出部36がガイド用コイルバネ7の付勢力に抗して左右のバネ収容部24の一方の内部に進入する。また、操作カバー部30の押圧突出部34が、操作カバー部30の回転に伴って、ベース部20の円弧状に形成された収容凹溝部21内を移動する。このとき、押圧突出部34は、当該押圧突出部34の第1連結突出部34b又は第2連結突出部34dと、第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eとを停止爪体40の基板部41に順番に当接させて、基板部41の前端部を爪用コイルバネ6の付勢力に抗して押し下げることができる。
【0092】
特に本実施例1では、第1連結突出部34b及び第2連結突出部34dにおける天板部31の内面31aからの突出寸法を、押圧突出部34のロック用突出部34cから第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eに向けて漸増するように変化させているため、操作カバー部30の回転角度が大きくなるにつれて、基板部41の前端部を爪用コイルバネ6の付勢力に抗して徐々に大きく押し下げて、停止爪体40を揺動軸部43を中心として回転させることができる。
【0093】
そして、押圧突出部34の第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eを停止爪体40の基板部41に当接させることにより、基板部41の前端部が押圧突出部34によって大きく押し下げられるため、停止爪体40の爪部42をスライダー本体部10のエレメント案内路14から退出させて、スライダー1をエレメント列に沿って摺動可能なアンロック状態(ロック解除状態)にすることができる。
【0094】
また本実施例1の場合、上述のように操作カバー部30を回転させて、押圧突出部34の第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eを停止爪体40に当接させたときに、当該押圧突出部34が、収容凹溝部21に形成された左右の側端面(規制端面)21aの一方に当接するため、操作カバー部30がそれ以上回転しないように操作カバー部30の回転を制限できる。これにより、押圧突出部34の第1解除用突出部34a又は第2解除用突出部34eが停止爪体40に当接している状態が保持されるため、スライダー1のアンロック状態を安定して維持することができる。
【0095】
その後、使用者がスライダー1の操作カバー部30から指を離すことによって、ベース部20に収容されている左右のガイド用コイルバネ7の一方が操作カバー部30のガイド突出部36を付勢して、当該ガイド突出部36をベース部20のガイド凹溝部23に移動させる。それによって、操作カバー部30を上述した基準位置まで自動的に回転させることができる。更に、操作カバー部30のガイド突出部36がベース部20のガイド凹溝部23に収容されて操作カバー部30が基準位置で保持されることにより、
図9に示したように停止爪体40の直上に押圧突出部34のロック用突出部34cが配置されるため、スライダー1をロック状態にすることができる。
【0096】
以上のように本実施例1のスライダー1では、操作カバー部30を操作しない非操作状態のときには、操作カバー部30が基準位置から回転しないように保持されて、スライダー1をロック状態に維持できる。また、操作カバー部30を基準位置から回転させることによって、スライダー1をロック状態からアンロック状態に容易に切り換えることができ、それによって、スライダー1をエレメント列に沿って円滑に摺動させることができる。更に、スライダー1の摺動操作後には、使用者が操作カバー部30から指を離すだけで、スライダー1のロック状態に自動的に切り換えることができる。
【0097】
このように本実施例1のスライダー1では、上述のようなロック状態とアンロック状態とを操作カバー部30の回転で容易にまた円滑に切り換えでき、且つ、ロック状態への切換えを自動的に行うことができる自動停止機構を、比較的少ない部品点数で、また、比較的簡単な構造で設けることができる。その結果、本発明のスライダー1は、上述したような簡単な組み立て作業で容易に製造することが可能となるため、製造コストの削減や生産性の向上を図ることができる。
【実施例2】
【0098】
図10は、本実施例2に係るスライダーの分解斜視図である。
図11は、操作カバー部が取り付けられる前の状態を模式的に示す斜視図である。
図12は、操作カバー部を内面側から見た斜視図である。
【0099】
本実施例2のスライダー2は、操作カバー部60を基準位置に保持するとともに回転した操作カバー部60を基準位置に戻すための機構を、前述の実施例1のスライダー1とは異なる形態で形成されているが、本実施例2のスライダー2において、当該機構を形成する部分以外の形態は、前述の実施例1のスライダー1と実質的に同様に形成されている。従って、本実施例2では、前述の実施例1のスライダー1と異なる部分について主に説明し、実施例1のスライダー1と実質的に同じ形態又は構成を有する部分には、実施例1と同じ符号を用いて表すことによって、当該部分の説明を省略する。
【0100】
本実施例2のスライダー2は、スライダー本体部10aと、停止爪体40と、スライダー本体部10aの所定の位置に保持される1つの爪用コイルバネ6及び1つのガイド用コイルバネ7と、操作カバー部60とを有する。スライダー本体部10aは、上翼板11と一体的に形成される円盤状のベース部50を有し、このベース部50の後半部には、ガイド用コイルバネ7を収容する1つのバネ収容部54と、バネ収容部54に連結する左右一対の円弧状のガイド凹溝部53とが設けられている。
【0101】
本実施例2のバネ収容部54は、ベース部50の後端部における幅方向の中央領域に、スライダー本体部10aの平面視において矩形を呈するように形成されている。左右のガイド凹溝部53は、バネ収容部54の両端部からベース部50の周方向に沿って延びるとともに、操作カバー部60の回転軸を中心とする円弧状に形成されている。また、左右のガイド凹溝部53は、ベース部50に操作カバー部60を基準位置で取り付けたときに、操作カバー部60のガイド突出部66をそれぞれ挿入して収容することが可能である。
【0102】
本実施例2において、操作カバー部60の後半部には、幅方向の中央部に配されるとともに操作カバー部60がガイド用コイルバネ7に接することを回避する回避用凹部68と、回避用凹部68の左右両端側に配されるとともに天板部31の内面31aから突出する左右一対のガイド突出部(第1ガイド突出部及び第2ガイド突出部)66とが設けられている。この場合、回避用凹部68と左右のガイド突出部66とは、操作カバー部60の回転軸を中心とする円弧状に形成されている。
【0103】
上述のようなスライダー本体部10a及び操作カバー部60を有する本実施例2のスライダー2では、操作カバー部60が操作されていない非操作状態の場合、操作カバー部60の左右一対のガイド突出部66がベース部50の左右のガイド凹溝部53にそれぞれ収容され、且つ、左右のガイド突出部66が、幅方向の中央部に収容される1つのガイド用コイルバネ7を間に挟むように当接して保持されている。これにより、操作カバー部60の左右のガイド突出部66が、ベース部50のガイド凹溝部53内を勝手に移動することや、中央のバネ収容部54内に勝手に進入することを防止できる。これにより、操作カバー部60が基準位置で安定して保持されるため、スライダー2のロック状態を維持できる。
【0104】
また、使用者がスライダー2の操作カバー部60を指で保持し、操作カバー部60を基準位置から、スライダー2の平面視における時計回り方向及び反時計回り方向の何れか一方に回転させることによって、左右のガイド突出部66の一方を、ガイド用コイルバネ7の付勢力に抗して中央のバネ収容部54内に進入させるとともに、押圧突出部34で停止爪体40の基板部41の前端部を押圧して押し下げることができる。それによって、スライダー2をロック状態からアンロック状態に容易に切り換えることができる。更にその後、使用者が操作カバー部60から指を離すことによって、スライダー2をロック状態に自動的に切り換えることができる。
従って、本実施例2のスライダー2では、前述の実施例1のスライダー1と同様の効果を得ることができる。
【実施例3】
【0105】
図13は、本実施例3に係るスライダーの操作カバー部が取り付けられる前の状態を模式的に示す斜視図である。
図14は、操作カバー部を内面側から見た斜視図である。
【0106】
本実施例3のスライダー3は、スライダー本体部10bに停止爪体40を揺動可能に保持するための構造が、前述の実施例2のスライダー2と異なるが、本実施例3のスライダー3において、停止爪体40の保持構造以外の形態は、前述の実施例2のスライダー2と実質的に同様に形成されている。
【0107】
本実施例3のスライダー3は、スライダー本体部10bと、停止爪体40と、スライダー本体部10bの所定の位置に保持される1つの爪用コイルバネ6及び1つのガイド用コイルバネ7と、操作カバー部80とを有する。スライダー本体部10bは、上翼板11と一体的に形成される円盤状のベース部70を有する。
【0108】
本実施例3のベース部70には、円弧状の収容凹溝部21と、ガイド用コイルバネ7を収容するバネ収容部54と、バネ収容部54に連結する左右一対の円弧状のガイド凹溝部53とが設けられているものの、前述の実施例1及び2のベース部20,50に凹設されている半円形状の中央収容凹部22が形成されていない。
【0109】
また、このベース部70には、爪体収容凹部18の左右両側に、スライダー本体部10bの平面視にて矩形状を呈する左右一対の爪体固定用凹部71が穿設されているとともに、各爪体固定用凹部71内には、例えば
図15に示すように、停止爪体40の揺動軸部43を回転可能に保持する爪体保持部72がそれぞれ設けられている。
【0110】
この場合、各爪体保持部72は、爪体固定用凹部71の底面から起立する前後一対の前方固定柱72a及び後方固定柱72bを有する。前方固定柱72a及び後方固定柱72bは、前方固定柱72aと後方固定柱72bとの間に停止爪体40の揺動軸部43を挿入可能な間隙を形成するように離間して配されている。また、前方固定柱72a及び後方固定柱72bは、上方に向けて長さ寸法を漸減させるような先細状の形態を有するとともに、互いに面対称となる形態を有する。
【0111】
本実施例3の操作カバー部80は、前述の実施例2の操作カバー部60から爪用突出部35が排除された形態で形成されている。すなわち、この操作カバー部80は、爪用突出部35が排除されていることを除いて、前述の実施例2の操作カバー部60と同様に形成されている。
【0112】
本実施例3のスライダー本体部10bに設けられた左右の爪体保持部72は、
図15に示すように、前方固定柱72aと後方固定柱72bの間に停止爪体40の揺動軸部43を挿入し、その後、前方固定柱72aと後方固定柱72bの上端部を互いに接近する方向に押圧して塑性変形させ、前方固定柱72aの上端部と後方固定柱72bの上端部とを
図16に示すように接近又は当接させる。これにより、停止爪体40をスライダー本体部10bの爪体収容凹部18内に揺動可能に安定して保持することができる。
【0113】
以上のような本実施例3のスライダー3においても、前述の実施例1及び実施例2のスライダー1,2と同様の効果を得ることができる。
【0114】
なお、実施例1~実施例3のスライダー1,2,3では、操作カバー部30,60,80が金属により形成されているとともに、操作カバー部30,60,80に左右の突条部33が設けられている(
図4等を参照)。そして、操作カバー部30,60,80をスライダー本体部10,10a,10bに回動可能に取り付ける場合には、操作カバー部30,60,80に設けた左右の突条部33を押圧して薄板状の取付片部37に塑性変形させる作業が行われる。
【0115】
しかし本発明では、操作カバー部が、合成樹脂で形成されるとともに、左右の突条部の代わりに左右の薄板状の取付片部を始めから備えている形態で形成されていても良い。このような合成樹脂性の操作カバー部であれば、操作カバー部を僅かに弾性変形させながらベース部20,50,70に嵌め込むことにより、その操作カバー部をスナップ係合でスライダー本体部10,10a,10bに回転可能に取り付けることが可能となる。
【0116】
また、実施例1~実施例3のスライダー1,2,3では、操作カバー部30,60,80が、ベース部20,50,70に対してスライダー1,2,3の正面視で時計回り方向と反時計回り方向の両方向に回転することが可能に取り付けられている。しかし、本発明では、操作カバー部が、ベース部に対してスライダーの正面視で時計回り方向と反時計回り方向の何れか一方向のみに回転するようにスライダーを形成することも可能である。この場合、操作カバー部の天板部の裏面に設けられる押圧突出部は、実施例1~実施例3で形成される2つの第1及び第2解除用突出部34a,34eを備えた押圧突出部34とは異なる形態に、すなわち、アンロック状態を保持する1つの解除用突出部と、解除用突出部よりも天板部からの突出寸法を小さくした1つのロック用突出部と、解除用突出部及びロック用突出部間に連続して形成される1つの連結突出部とを有する形態に形成される。更にこの場合、ベース部に形成される収容凹溝部も、上述の押圧突出部の形態に対応して、例えば、停止爪体と少なくとも一部が重なる位置から、時計回り方向と反時計回り方向の何れか一方向に円周方向に沿って延びるように形成される。
【0117】
更に、実施例1~実施例3のスライダー1,2,3では、スライダー本体部10,10a,10bのベース部20,50,70に少なくとも1つのバネ収容部24,54を設けてガイド用コイルバネ7を収容するとともに、そのバネ収容部24,54に連結する少なくとも1つのガイド凹溝部23,53を設け、且つ、操作カバー部30,60,80の天板部31内面31aに、ガイド凹溝部23,53に収容される少なくとも1つのガイド突出部36,66を突設することにより、操作カバー部30,60,80を基準位置に保持するとともに回転した操作カバー部30,60,80を基準位置に戻すための機構が形成されている。
【0118】
しかし本発明では、操作カバー部の回転操作でロック状態とアンロック状態を切り換えることが可能であれば、操作カバー部を基準位置に保持し、且つ戻すための機構を設けずに(すなわち、スライダー本体部のベース部に収容するガイド用コイルバネや、操作カバー部のガイド突出部などを設けずに)、スライダーを形成することも可能である。
【符号の説明】
【0119】
1,2,3 スライダー
6 爪用コイルバネ(爪用弾性部材)
7 ガイド用コイルバネ(ガイド用弾性部材)
10 スライダー本体部
10a,10b スライダー本体部
11 上翼板
12 下翼板
13 連結柱
14 エレメント案内路
15 フランジ部
16 リブ部
17 有底収容孔部
18 爪体収容凹部
18a 本体収容凹部
18b 軸収容凹部
18c 爪孔部
20 ベース部
20a 上面
20b 摺接部(摺接凹部)
21 収容凹溝部
21a 側端面(規制端面)
22 中央収容凹部
23 ガイド凹溝部
24 バネ収容部
30 操作カバー部
31 天板部
31a 内面(下面)
32 摺接壁部
33 突条部
34 押圧突出部
34a 第1解除用突出部
34b 第1連結突出部
34c ロック用突出部
34d 第2連結突出部
34e 第2解除用突出部
35 爪用突出部
36 ガイド突出部
37 取付片部
38 回避用凹部
40 停止爪体
41 基板部
42 爪部
43 揺動軸部
50 ベース部
53 ガイド凹溝部
54 バネ収容部
60 操作カバー部
66 ガイド突出部
68 回避用凹部
70 ベース部
71 爪体固定用凹部
72 爪体保持部
72a 前方固定柱
72b 後方固定柱
80 操作カバー部