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特許7191499ファスナーチェーン、及びファスナーチェーンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ファスナーチェーン、及びファスナーチェーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/34 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
A44B19/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021552031
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040625
(87)【国際公開番号】W WO2021074992
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】魚住 典央
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 崇
【審査官】金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-261246(JP,A)
【文献】国際公開第2011/121702(WO,A1)
【文献】特開2005-230040(JP,A)
【文献】特公昭54-006940(JP,B2)
【文献】特開2000-312604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの編込みファスナーストリンガー(10)を有するファスナーチェーンにあって、前記編込みファスナーストリンガー(10)は、経編組織を有するファスナーテープ(20)と、合成樹脂製のモノフィラメントから形成される複数のファスナーエレメント(12)とを有し、前記ファスナーテープ(20)は、テープ本体部(21)と、前記テープ本体部(21)の一方の側縁部からテープ幅方向に延びるとともに前記ファスナーエレメント(12)の一部が編み込まれるエレメント取付部(22)とを有し、前記ファスナーテープ(20)は、ウェール方向に沿って複数のニードルループを鎖状に形成する複数の鎖編糸(31)を含むファスナーチェーンにおいて、
前記エレメント取付部(22)の前記テープ本体部(21)から最も離れた最内縁のウェール(W1)に配される前記鎖編糸(31)は、前記ファスナーテープ(20)に用いられる全ての前記鎖編糸(31)の中で最も太い糸であり、
前記ファスナーテープ(20)は、前記ファスナーエレメント(12)が編み込まれる側の第1テープ面と、前記第1テープ面の反対側の第2テープ面とを有し、
前記ファスナーテープ(20)の前記第2テープ面に、合成樹脂製のフィルム部材が付着されてい
ことを特徴とするファスナーチェーン
【請求項2】
前記ファスナーテープ(20)は、前記鎖編糸(31)と、互いに3列離れた位置に配される2つのウェールにニードルループを交互に形成するシングルサテン編糸(32)と、複数のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸(33)とによりシングル組織で編成される地組織を有し、
前記ファスナーエレメント(12)は、前記ファスナーテープ(20)の前記地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸(34)との間に挿入されて編み込まれている
請求項1記載のファスナーチェーン
【請求項3】
前記テープ本体部(21)と前記エレメント取付部(22)の境界部(23)となるウェール間において、少なくとも3本の前記シングルサテン編糸(32)と、少なくとも2本の前記緯挿入糸(33)とが互いに交差する方向に配されている請求項2記載のファスナーチェーン
【請求項4】
前記シングルサテン編糸(32)は、前記エレメント取付部(22)のウェールと前記テープ本体部(21)のウェールとにニードルループを交互に形成する第1シングルサテン編糸(32a)と、前記テープ本体部(21)における2つのウェールにニードルループを交互に形成する第2シングルサテン編糸(32b)とを有し、
前記第1シングルサテン編糸(32a)は、前記第2シングルサテン編糸(32b)よりも太い糸である
請求項2又は3記載のファスナーチェーン
【請求項5】
前記テープ本体部(21)の前記エレメント取付部(22)から最も離れた位置に配される最外縁のウェールを形成するニードルループは、前記鎖編糸(31)のニードルループのみを有し、
前記テープ本体部(21)における前記最外縁のウェール以外のウェールを形成するニードルループは、前記鎖編糸(31)のニードルループと、前記シングルサテン編糸(32)のニードルループとを有する
請求項2~4のいずれかに記載のファスナーチェーン
【請求項6】
2つの前記ファスナーテープ(20)間の間隔は、0.35mm以下である請求項1~5のいずれかに記載のファスナーチェーン。
【請求項7】
2つの編込みファスナーストリンガー(10)を有するファスナーチェーンの製造方法にあって、前記編込みファスナーストリンガー(10)は、経編組織を有するファスナーテープ(20)と、合成樹脂製のモノフィラメントから形成される複数のファスナーエレメント(12)とを有し、前記ファスナーテープ(20)は、テープ本体部(21)と、前記テープ本体部(21)の一方の側縁部からテープ幅方向に延びるとともに前記ファスナーエレメント(12)の一部が編み込まれるエレメント取付部(22)とを有し、前記ファスナーテープ(20)は、ウェール方向に沿って複数のニードルループを鎖状に形成する複数の鎖編糸(31)を含むファスナーチェーンの製造方法において、
前記エレメント取付部(22)の前記テープ本体部(21)から最も離れた最内縁のウェール(W1)に配される前記鎖編糸(31)に、前記ファスナーテープ(20)に用いられる全ての前記鎖編糸(31)の中で最も太い糸を用いて前記編込みファスナーストリンガー(10)を製造すること
得られた前記編込みファスナーストリンガー(10)を2つ一組で組み合わせて前記ファスナーチェーンを形成すること、及び、
前記ファスナーテープ(20)における前記ファスナーエレメント(12)が編み込まれる第1テープ面とは反対側の第2テープ面に、合成樹脂製のフィルム部材を付着すること
を含むことを特徴とするファスナーチェーンの製造方法。
【請求項8】
前記ファスナーテープ(20)の地組織を、前記鎖編糸(31)と、互いに3列離れた位置に配される2つのウェールにニードルループを交互に形成するシングルサテン編糸(32)と、複数のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸(33)とを用いてシングル組織で編成しながら、前記ファスナーエレメント(12)を、前記ファスナーテープ(20)の前記地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸(34)との間に挿入して編み込むこと
を含む請求項記載のファスナーチェーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファスナーエレメントがファスナーテープに編み込まれる編込みファスナーストリンガー有するファスナーチェーン、及び、そのファスナーチェーンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナー用ファスナーストリンガーの一つとして、編込みファスナーストリンガーが知られている。編込みファスナーストリンガーでは、合成樹脂製のモノフィラメントから形成される連続した複数のファスナーエレメントが、ファスナーテープのテープ側縁部に編み込まれている。
【0003】
この場合、ファスナーテープのファスナーエレメントが編み込まれる部分は、エレメント取付部と呼ばれている。編込みファスナーストリンガーは、例えば2列の針床をもったダブル経編機を用いて、ファスナーテープを編成しながら、連続したファスナーエレメントをファスナーテープのエレメント取付部に編み込むことによって製造される。
【0004】
編込みファスナーストリンガーの一例が、例えば国際公開第2011/077568号(特許文献1)及び国際公開第2013/011559号(特許文献2)等に記載されている。
特許文献1の編込みファスナーストリンガーでは、ファスナーテープにおけるエレメント取付部の地組織が、鎖編糸と、トリコット編糸と、二目編糸とによって、シングル組織で編成されている。このエレメント取付部の地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸とによって、各ファスナーエレメントが挟持されて固定されている。
【0005】
特許文献2の編込みファスナーストリンガーでは、エレメント取付部の地組織が、鎖編糸と、二目編糸又はトリコット編糸と、2つのウェールにジグザグ状に挿入される緯疎入糸とによって、シングル組織で編成されている。また、ファスナーエレメントを固定する固定用鎖編糸は、地組織のニードルループに絡む第1ニードルループと、ファスナーエレメントを押さえ付ける第2ニードルループとを形成するダブル組織で編み込まれている。
【0006】
編込みファスナーストリンガーは、経編組織を有するファスナーテープにファスナーエレメントが直接編み込まれて形成されている。このため、編込みファスナーストリンガーを用いて製造されるスライドファスナーは、厚さが薄く、柔軟性に優れているため、肌着や生地が薄い上着のような衣料品等に好適に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/077568号
【文献】国際公開第2013/011559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、衣料品などの衣類を含む様々な製品では、それぞれの用途に応じて性質を改善すること、又は、様々な機能の付与によって付加価値を高めること等が行われている。例えば日常的に使用される衣料品等の場合、軽量化、柔軟性の向上、肌触りの良さ、及び着心地の良さ等が求められることが多い。
【0009】
このため、衣料品に取り付けられるスライドファスナーに対しても、様々な要望が寄せられている。例えば編込みファスナーストリンガーを有するスライドファスナーについては、スライドファスナーをより薄くすること、柔軟性を更に高めること、肌触りを更に良くすること、又はファスナーテープのテープ強度を高めること等が望まれている。
【0010】
ところで、スライドファスナーの形態の一つとして、ファスナーエレメントが、スライドファスナーの閉鎖時に見えなくなるように、ファスナーテープのテープ裏面側に取り付けられる所謂裏使いタイプのスライドファスナーが知られている。このような裏使いタイプのスライドファスナーが編込みファスナーストリンガーを用いて製造される場合には、例えば織組織のファスナーテープにファスナーエレメントが縫着された一般的な裏使いタイプのスライドファスナーに比べて、スライドファスナーの閉鎖時に左右のファスナーテープ間に隙間が形成され易くなる。その結果、編込みファスナーストリンガーを有する裏使いタイプのスライドファスナーの場合、ファスナーテープの裏側に隠すように配されるファスナーエレメントの一部が、左右のファスナーテープ間の隙間から容易に見える可能性がある。
【0011】
更に、裏使いタイプのスライドファスナーの場合、ファスナーテープに合成樹脂製のフィルム部材を貼り付けるとともに、ファスナーテープに撥水処理を施すことによって、スライドファスナーの閉鎖時に、水などの液体をファスナーテープの一方のテープ面側から他方のテープ面側に浸入させ難くする止水性をスライドファスナーに持たせることが可能となる。このような止水性を備えるスライドファスナーは、一般的に、止水性スライドファスナーと呼ばれる。
【0012】
しかし、編込みファスナーストリンガーを有する裏使いタイプのスライドファスナーの場合、左右のファスナーテープ間に上述したような隙間が形成されることによって、ファスナーテープに合成樹脂製のフィルム部材を貼り付けたときに、ファスナーテープ間の隙間の上にフィルム部材がファスナーテープから飛び出して配されることがある。その結果、フィルム部材のファスナーテープから飛び出した部分が、テープ長さ方向に沿った直線状の白い線のように見えるため、スライドファスナーの外観品質の低下を招く虞がある。また、左右のファスナーテープ間に上述したような隙間が形成されると、スライドファスナーの止水性を低下させることも考えられる。従って、裏使いタイプの止水性スライドファスナーには、編込みファスナーストリンガーが用いられることは殆どなかった。
【0013】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、スライドファスナーの閉鎖時に左右のファスナーテープ間に形成される隙間を小さくすることが可能な編込みファスナーストリンガー有するファスナーチェーンと、そのファスナーチェーンを製造する方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるファスナーチェーンは、2つの編込みファスナーストリンガーを有するファスナーチェーンにあって、前記編込みファスナーストリンガーは、経編組織を有するファスナーテープと、合成樹脂製のモノフィラメントから形成される複数のファスナーエレメントとを有し、前記ファスナーテープは、テープ本体部と、前記テープ本体部の一方の側縁部からテープ幅方向に延びるとともに前記ファスナーエレメントの一部が編み込まれるエレメント取付部とを有し、前記ファスナーテープは、ウェール方向に沿って複数のニードルループを鎖状に形成する複数の鎖編糸を含むファスナーチェーンにおいて、前記エレメント取付部の前記テープ本体部から最も離れた最内縁のウェールに配される前記鎖編糸は、前記ファスナーテープに用いられる全ての前記鎖編糸の中で最も太い糸であり、前記ファスナーテープは、前記ファスナーエレメントが編み込まれる側の第1テープ面と、前記第1テープ面の反対側の第2テープ面とを有し、前記ファスナーテープの前記第2テープ面に、合成樹脂製のフィルム部材が付着されていることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係るファスナーチェーンにおいて、前記ファスナーテープは、前記鎖編糸と、互いに3列離れた位置に配される2つのウェールにニードルループを交互に形成するシングルサテン編糸と、複数のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸とによりシングル組織で編成される地組織を有し、前記ファスナーエレメントは、前記ファスナーテープの前記地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸との間に挿入されて編み込まれていることが好ましい。
【0016】
この場合、前記テープ本体部と前記エレメント取付部の境界部となるウェール間において、少なくとも3本の前記シングルサテン編糸と、少なくとも2本の前記緯挿入糸とが互いに交差する方向に配されていることが好ましい。
【0017】
また、前記シングルサテン編糸は、前記エレメント取付部のウェールと前記テープ本体部のウェールとにニードルループを交互に形成する第1シングルサテン編糸と、前記テープ本体部における2つのウェールにニードルループを交互に形成する第2シングルサテン編糸とを有し、前記第1シングルサテン編糸は、前記第2シングルサテン編糸よりも太い糸であることが好ましい。
【0018】
更に、前記テープ本体部の前記エレメント取付部から最も離れた位置に配される最外縁のウェールを形成するニードルループは、前記鎖編糸のニードルループのみを有し、前記テープ本体部における前記最外縁のウェール以外のウェールを形成するニードルループは、前記鎖編糸のニードルループと、前記シングルサテン編糸のニードルループとを有することが好ましい。
【0019】
発明のファスナーチェーンにおいて、2つの前記ファスナーテープ間の間隔は、0.35mm以下であることが好ましい。
【0021】
次に、本発明により提供されるファスナーチェーンの製造方法は、2つの編込みファスナーストリンガーを有するファスナーチェーンの製造方法にあって、前記編込みファスナーストリンガーは、経編組織を有するファスナーテープと、合成樹脂製のモノフィラメントから形成される複数のファスナーエレメントとを有し、前記ファスナーテープは、テープ本体部と、前記テープ本体部の一方の側縁部からテープ幅方向に延びるとともに前記ファスナーエレメントの一部が編み込まれるエレメント取付部とを有し、前記ファスナーテープは、ウェール方向に沿って複数のニードルループを鎖状に形成する複数の鎖編糸を含むファスナーチェーンの製造方法において、前記エレメント取付部の前記テープ本体部から最も離れた最内縁のウェールに配される前記鎖編糸に、前記ファスナーテープに用いられる全ての前記鎖編糸の中で最も太い糸を用いて前記編込みファスナーストリンガーを製造すること、得られた前記編込みファスナーストリンガーを2つ一組で組み合わせて前記ファスナーチェーンを形成すること、及び、前記ファスナーテープにおける前記ファスナーエレメントが編み込まれる第1テープ面とは反対側の第2テープ面に、合成樹脂製のフィルム部材を付着することを含むことを特徴とするものである。
【0022】
本発明に係るファスナーチェーンの製造方法は、前記ファスナーテープの地組織を、前記鎖編糸と、互いに3列離れた位置に配される2つのウェールにニードルループを交互に形成するシングルサテン編糸と、複数のウェールに亘ってジグザグ状に挿入される緯挿入糸とを用いてシングル組織で編成しながら、前記ファスナーエレメントを、前記ファスナーテープの前記地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸との間に挿入して編み込むことを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る編込みファスナーストリンガーでは、一方向に長尺に形成される帯状のファスナーテープが複数の鎖編糸を含んでいる。また、エレメント取付部のテープ本体部から最も離れた最内縁のウェールに配される鎖編糸に、ファスナーテープに用いられる全ての鎖編糸の中で最も太い糸が用いられている。これにより、例えば最内縁のウェールに配される鎖編糸をその他の鎖編糸と同じ太さにする場合に比べて、テープ幅方向における最内縁のウェールの位置をファスナーテープのテープ本体部から遠ざけることができる。それによって、2つの編込みファスナーストリンガーを組み合わせてファスナーチェーン又はスライドファスナーを形成したときに、左右のファスナーテープ間に形成される隙間の間隔を小さくすること、具体的には、当該隙間の間隔を0.35mm以下に小さくすることができる。
【0024】
本発明に係る編込みファスナーストリンガーにおいて、ファスナーテープは、鎖編糸と、シングルサテン編糸と、緯挿入糸とを用いてシングル組織で編成される地組織を有する。ここで、シングルサテン編糸は、互いに3つのウェール分だけ離れた位置に配される2つのウェールに(言い換えると、その間に2つのウェールが設けられる2つのウェール)、ニードルループを交互に形成する編糸を言う。このシングルサテン編糸は、簡単にサテン編糸と呼ばれることもある。本発明では、このようなファスナーテープの編成時に、ファスナーテープのシングル組織の地組織と、地組織とは別の針床で編み込まれるシングル組織の固定用鎖編との間に、ファスナーエレメントが1つずつ順番に挿入されて編み込まれている。
【0025】
本発明のファスナーテープの地組織には、トリコット編糸及び二目編糸が編み込まれてなく、上述したシングルサテン編糸が編み込まれている。これによって、各シングルサテン編糸の2つのウェールに形成されるニードルループが相互に適切に離れ、それによって、これらの離れたウェールのニードルループ間に配されるシングルサテン編糸のシンカーループを長くすることができる。その結果、本発明の編込みファスナーストリンガーは、例えば特許文献1及び特許文献2等のトリコット編糸及び二目編糸を有する編込みファスナーストリンガーに比べて、柔軟性を高めることができる。更に、本発明の編込みファスナーストリンガーは、例えば編成されたファスナーテープ(ニットテープ)にファスナーエレメントを縫製加工で別途に取り付けるファスナーストリンガー(すなわち、非編込みのファスナーストリンガー)と比較しても、高い柔軟性を有する。
【0026】
また本発明では、編込みファスナーストリンガーの肌触りに関して、以下のような効果が得られることが新たに明らかになった。すなわち、本発明の編込みファスナーストリンガーでは、シングルサテン編糸のシンカーループが、各コース間において、コース方向に対して傾斜した方向に長く配されている。このようなコース方向に対して斜めに長いシンカーループをファスナーテープが有することによって、ファスナーテープのシンカーループが表出する側のテープ面を、例えば繻子織の織物のような滑らかな面に形成できる。このため、本発明における編込みファスナーストリンガーのファスナーテープは、例えば特許文献1及び特許文献2等の編込みファスナーストリンガーに比べて、良好な肌触りを有することができる。
【0027】
このような本発明の編込みファスナーストリンガーにおいて、テープ本体部とエレメント取付部の境界部となるウェール間において、少なくとも3本のシングルサテン編糸と、少なくとも2本の緯挿入糸とが互いに交差する方向に配されている。これにより、ファスナーテープのテープ強度を、特にファスナーテープにおけるテープ本体部とエレメント取付部との間のテープ強度を効果的に高めることができる。
【0028】
本発明のシングルサテン編糸は、エレメント取付部のウェールとテープ本体部のウェールとにニードルループを交互に形成する第1シングルサテン編糸と、テープ本体部における2つのウェールにニードルループを交互に形成する第2シングルサテン編糸とを有する。また、第1シングルサテン編糸は、第2シングルサテン編糸よりも太い糸である。これにより、ファスナーテープにおけるエレメント取付部のテープ強度と、テープ本体部とエレメント取付部との間のテープ強度をより効果的に高めることができる。
【0029】
本発明の編込みファスナーストリンガーにおいて、テープ本体部のエレメント取付部から最も離れた位置に配される最外縁のウェールを形成するニードルループは、鎖編糸のニードルループのみを有する。また、テープ本体部における最外縁のウェール以外のウェールを形成するニードルループは、鎖編糸のニードルループと、シングルサテン編糸のニードルループとを有する。これにより、ファスナーテープの適切なテープ強度を確保するとともに、ファスナーテープの最外縁のウェールに形成されるニードルループの数を最も少なくして、ファスナーテープのエレメント取付部とは反対側の一方のテープ側端縁を薄くすることができる。このようにファスナーテープの一方のテープ側端縁を薄くすることによって、ファスナーテープを指で触ったときに、ファスナーテープを薄く感じさせ易くすることができる。
【0030】
次に、本発明により提供されるファスナーチェーンは、上述した形態を備えた2つの編込みファスナーストリンガーを有するものである。このような本発明のファスナーチェーンは、高い柔軟性と良好な肌触りとを有することができる。
【0031】
また、本発明のファスナーチェーンでは、2つのファスナーテープ間の隙間の間隔が、0.35mm以下と小さいものになる。これにより、本発明のファスナーチェーンを用いて形成される裏使いタイプのスライドファスナーは、例えば従来のファスナーチェーンを用いて形成される裏使いタイプのスライドファスナーに比べて、2つのファスナーテープ間の隙間から、ファスナーテープの裏側に配されるファスナーエレメントを見え難くすることができる。
【0032】
また、上述の裏使いタイプのスライドファスナーに合成樹脂製のフィルム部材を貼り付けるとともに撥水処理を施すことによって、止水性スライドファスナーを製造したときに、従来の止水性スライドファスナーにおいて左右のファスナーテープ間に観察されるような白い線(すなわち、フィルム部材のファスナーテープから飛び出した部分)を生じさせ難くすることができる。
【0033】
更に本発明のファスナーチェーンにおいて、ファスナーテープは、ファスナーエレメントが編み込まれる側の第1テープ面と、第1テープ面の反対側の第2テープ面とを有しており、ファスナーテープの第2テープ面に、合成樹脂製のフィルム部材が付着されている。これにより、例えばファスナーチェーンに撥水処理を施すこと等によって、止水性スライドファスナーを製造できる。
【0034】
次に、本発明により提供される編込みファスナーストリンガーの製造方法は、エレメント取付部のテープ本体部から最も離れた最内縁のウェールに配される鎖編糸に、ファスナーテープに用いられる全ての鎖編糸の中で最も太い糸を用いる。これにより、2つの編込みファスナーストリンガーを組み合わせてファスナーチェーン又はスライドファスナーを形成したときに、左右のファスナーテープ間に形成される隙間の間隔を小さくできる編込みファスナーストリンガーを安定して製造できる。
【0035】
また、本発明の編込みファスナーストリンガーの製造方法では、ファスナーテープの地組織を、鎖編糸と、シングルサテン編糸と、緯挿入糸とを用いてシングル組織で編成しながら、ファスナーエレメントを、ファスナーテープの地組織と、シングル組織で編み込まれる固定用鎖編糸との間に挿入して編み込む。これにより、高い柔軟性と良好な肌触りとを有する編込みファスナーストリンガーを安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態に係る止水性スライドファスナーを模式的に示す平面図である。
図2図1に示した止水性スライドファスナーに用いられる編込みファスナーストリンガーの編組織を示す組織図である。
図3】編込みファスナーストリンガーを形成する各糸の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。例えば本発明において、編込みファスナーストリンガーのファスナーテープを形成する各種の編糸及び緯挿入糸の太さは特に限定されるものではなく、必要に応じて太さを変更することが可能である。
【0038】
図1は、本実施形態の止水性スライドファスナーを模式的に示す平面図である。図2は、本実施形態の編込みファスナーストリンガーの編組織を示す組織図であり、図3は、編込みファスナーストリンガーを形成する各糸の組織図である。なお、図2及び図3において、緯挿入は、見やすくするために、組織図の点と重ならないように屈曲させて描かれている。
【0039】
以下の説明において、前後方向とは、スライダーの摺動方向に平行なファスナーテープのテープ長さ方向を言い、特に、スライダーが左右のエレメント列を噛合させるように摺動する方向(閉鎖方向)を前方とし、左右のエレメント列を分離させるように摺動する方向(分離方向)を後方とする。
【0040】
左右方向とは、ファスナーテープのテープ幅方向を言い、例えば、スライダーの摺動方向に直交し、且つ、ファスナーテープの表面(上面)及び裏面(下面)に平行な方向である。上下方向とは、前後方向と左右方向とに直交する方向を言い、例えばファスナーテープの表面及び裏面に直交するテープ表裏方向を言う。特に以下の実施例では、ファスナーテープに対してスライダーの引手が配される側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
また、編込みファスナーストリンガーの編組織において、ファスナーテープの長さ方向に平行な方向をウェール方向とし、また、ウェール方向に直交する方向をコース方向とする。
【0041】
図1に示した本実施形態のスライドファスナー1は、左右一対の編込みファスナーストリンガー10と、編込みファスナーストリンガー10に設けられた左右のエレメント列11に取り付けられるスライダー40とを有する。この場合、左右の編込みファスナーストリンガー10のエレメント列11が長さ方向の全体に亘って互いに噛み合わされることによって、ファスナーチェーンが形成される。
【0042】
本実施形態のスライドファスナー1では、編込みファスナーストリンガー10のファスナーテープ20が、外部に露呈する側の面となるテープ表面(第1テープ面)と、その反対側に配されるテープ裏面(第2テープ面)とを有する。エレメント列11は、ファスナーテープ20のテープ裏面側に設けられている。このため、本実施形態のスライドファスナー1は、スライドファスナー1を閉じたときにエレメント列11がファスナーテープ20の裏側に隠れて見えなくなる又は見え難くなる所謂裏使いタイプのスライドファスナーとして形成されている。
【0043】
本実施形態のスライダー40は、従来の裏使いタイプのスライドファスナーに用いられているスライダーと実質的に同様に形成されている。このため、本実施形態では、スライダー40の詳しい説明を省略する。
【0044】
左右の各編込みファスナーストリンガー10は、テープ本体部21及びエレメント取付部22を備えたファスナーテープ20と、エレメント取付部22に編み込まれた複数のコイル状に連続したファスナーエレメント12とを有する。この場合、ファスナーテープ20に編み込まれた複数のファスナーエレメント12によって、エレメント列11がファスナーテープ20の長さ方向に沿って形成されている。
【0045】
このファスナーテープ20のテープ表面には、図示しない合成樹脂製のフィルム部材が接着により付着されている。更に、フィルム部材を含むファスナーテープ20には、撥水処理が施されている。これにより、スライドファスナー1は止水性を備えている。なお、本発明の編込みファスナーストリンガーは、撥水処理を施さないことによって、止水性を備えない通常タイプの編込みファスナーストリンガーとして形成されていてもよい。また本発明の編込みファスナーストリンガーは、ファスナーテープ20にフィルム部材を貼り付けずに形成されていてもよい。
【0046】
本実施形態の各編込みスライドファスナー1は、バック列Bとフロント列Fからなる2列の針床を備えた経編機(例えばダブルラッセル編機)によって編成されている。針床のバック列B及びフロント列Fは、それぞれバックニードル列及びフロントニードル列とも言われる。
【0047】
本実施形態のファスナーエレメント12は、1本の合成樹脂製のモノフィラメントから形成されており、従来の編込みファスナーストリンガーで用いられている一般的なファスナーエレメントと実質的に同様の形態を有する。簡単に説明すると、本実施形態の各ファスナーエレメント12は、噛合頭部と、噛合頭部の上端部からテープ幅方向に延びる上脚部と、噛合頭部の下端部からテープ幅方向に延びる下脚部と、テープ長さ方向に隣り合うファスナーエレメント12間を連結する連結部(反転部とも言う)とを有する。
【0048】
ファスナーエレメント12は、ファスナーテープ20の編成と同時に、噛合頭部をファスナーテープ20におけるエレメント取付部22側のテープ側縁から外方に突出させて、上脚部及び下脚部がエレメント取付部22に編み込まれて固定されている。なお、本発明では、ファスナーテープ20におけるエレメント取付部22側のテープ側縁をテープ内側縁とし、その反対側のテープ側縁をテープ外側縁とする。この場合、ファスナーテープ20のテープ内側縁は、噛合相手の編込みファスナーストリンガー10のファスナーテープ20に対向する対向側縁である。
【0049】
本実施形態のファスナーテープ20は、上述した経編機により編成される経編組織を有する。このファスナーテープ20は、テープ内側縁からテープ外側縁まで、第1ウェールW1~第14ウェールW14の14列のウェールを有する。この場合、ファスナーテープ20の最もテープ内側縁寄りに配されるウェールを第1ウェールW1とし、この第1ウェールW1からテープ外側縁に向けて、第2ウェールW2~第14ウェールW14がコース方向に順番に形成されている。なお本発明において、ファスナーテープ20に形成されるウェールの列数は特に限定されず、編込みファスナーストリンガー10の用途等に応じてウェールの列数を増減させることが可能である。
【0050】
ファスナーテープ20は、テープ本体部21と、テープ本体部21の内側の側縁部から噛合相手側に向けてテープ幅方向に延びるエレメント取付部22とを有する。この場合、ファスナーテープ20のエレメント取付部22は、第1ウェールW1~第3ウェールW3の3列のウェールにより形成されている。テープ本体部21は、第4ウェールW4~第14ウェールW14の11列のウェールにより形成されている。また、テープ本体部21のテープ外側縁寄りに配される3列の第12ウェールW12~第14ウェールW14によって、ファスナーテープ20の耳部が形成されている。
【0051】
ファスナーテープ20の地組織(すなわち、テープ本体部21の地組織とエレメント取付部22の地組織)は、経編機のバック列Bによってシングル組織で編成されている。エレメント取付部22に配される後述の固定用鎖編糸34は、経編機のフロント列Fによって、シングル組織でエレメント取付部22の地組織に絡ませて編み込まれている。
【0052】
ファスナーテープ20の地組織は、鎖編糸31、シングルサテン編糸32、及び緯挿入糸33の3種類の糸を用いて編成されている。
鎖編糸31は、(0-1/1-1/1-0/0-0)の編組織で編み込まれており、第1ウェールW1~第14ウェールW14の各ウェールに配されている。各ウェールの鎖編糸31は、各コースに形成される開き目のニードルループと、ウェール方向に隣接するニードルループを繋ぐシンカーループとを有しており、各ウェールでは、複数のニードルループが、シンカーループによって連結されてウェール方向に沿って鎖状に形成されている。
【0053】
本実施形態の編込みファスナーストリンガー10では、テープ内側縁の第1ウェールW1に配される鎖編糸31aとして、第1ウェールW1~第14ウェールW14に配される鎖編糸31の中で最も太い糸が配されている。例えば本実施形態の場合、第1ウェールW1に配される鎖編糸31aは、エレメント取付部22に配されるその他の鎖編糸31b(本実施形態の場合、第2及び第3ウェールW2,W3に配される鎖編糸31b)の1.5倍以上4倍以下の太さを、好ましくは3倍の太さを有する。具体的には、第1ウェールW1に配される鎖編糸31aは、310デシテックスの太さを有しており、第2及び第3ウェールW2,W3に配される鎖編糸31bは、110デシテックスの太さを有する。
【0054】
これにより、例えばファスナーエレメント12を実際に固定する第2及び第3ウェールW2,W3に配される鎖編糸31bを太くしなくても、ファスナーテープ20のエレメント取付部22とテープ本体部21の境界部23からエレメント取付部22のテープ内側縁までのテープ幅方向の寸法(幅寸法)を容易に大きく確保できる。その結果、スライドファスナー1の閉鎖状態において、左右のファスナーテープ20間に形成される隙間の間隔を、0.35mm以下に、好ましくは0.30mm以下に小さくすることができる。
【0055】
また本実施形態において、テープ本体部21の耳部を形成する第12ウェールW12~第14ウェールW14に配される鎖編糸31cは、テープ本体部21の耳部以外に配される鎖編糸31d(本実施形態の場合、第4ウェールW4~第11ウェールW11に配される鎖編糸31d)よりも太く形成されている。
【0056】
例えば本実施形態の場合、第4ウェールW4~第11ウェールW11に配される鎖編糸31dは、110デシテックスの太さを有し、第12ウェールW12~第14ウェールW14に配される鎖編糸31cは、110デシテックスの太さを有する糸を2本引き揃えて形成されている。すなわち、第12ウェールW12~第14ウェールW14に配される鎖編糸31cは、220デシテックスの太さを有する。このように耳部に配される鎖編糸31cに太い糸が用いられることによって、ファスナーテープ20の細長い帯状の形態を安定して維持できる。
【0057】
シングルサテン編糸32は、(1-0/2-2/3-4/2-2)の編組織で編み込まれている。各シングルサテン編糸32は、隣り合う4列のウェールに亘って配されている。また、シングルサテン編糸32は、4列のうちの左右両端となる2列のウェールに交互に形成される閉じ目のニードルループと、両端のウェールのニードルループ間を連結するシンカーループとを有する。
【0058】
シングルサテン編糸32のニードルループは、互いにコース方向に3列離れた位置に配される2列のウェールに、ウェール方向に交互に形成されている。従って、シングルサテン編糸32のニードルループが形成される2つのウェール間には、そのシングルサテン編糸32によってはニードルループが形成されない2つのウェールが配されている。
【0059】
シングルサテン編糸32のシンカーループは、一方のウェールに形成されるニードルループと他方のウェールに形成されるニードルループとを繋いでいる。このため、シングルサテン編糸32のシンカーループは、各コース間において、2ウェールを跨ぐように、3針間の距離に亘って長く配されている。本実施形態において、シングルサテン編糸32のシンカーループは、ファスナーテープ20のテープ裏面(フィルム部材が貼り付けられていない側のテープ面)に表れる。
【0060】
本実施形態では、10本のシングルサテン編糸32が、第1ウェールW1~第13ウェールW13の各ウェールに、シングルサテン編糸32のニードルループが形成されるように配されている。このため、第1ウェールW1~第13ウェールW13の各ウェールを形成するニードルループには、鎖編糸31のニードルループと、シングルサテン編糸32のニードルループの両方のニードルループが含まれている。特に、テープ本体部21を形成する第4ウェールW4~第13ウェールW13の各ウェールでは、バック列Bで形成する全ての編み目において、鎖編糸31のニードルループとシングルサテン編糸32のニードルループの両方が形成されている。これにより、ファスナーテープ20は、適切なテープ強度を安定して有することができる。
【0061】
ファスナーテープ20の最外縁に形成される第14ウェールW14には、シングルサテン編糸32のニードルループが形成されてなく、鎖編糸31のニードルループのみが形成されている。これにより、ファスナーテープ20の外縁部を薄く形成できるため、編込みファスナーストリンガー10を見たときに、ファスナーテープ20から薄い印象又は軽い印象を受け易くなる。また、ファスナーテープ20を指で触ったときに、ファスナーテープ20を薄く感じさせ易くすることができる。更に、第14ウェールW14に形成されるニードルループの数を、テープ本体部21のその他のウェールよりも少なくすることによって、ファスナーテープ20の柔軟性を向上させることができる。
【0062】
本実施形態のシングルサテン編糸32は、エレメント取付部22のウェール(第1ウェールW1、第2ウェールW2、又は第3ウェールW3)とテープ本体部21のウェール(第4ウェールW4、第5ウェールW5、又は第6ウェールW6)とにニードルループを交互に形成する第1シングルサテン編糸32aと、テープ本体部21のウェールのみにニードルループを形成する第2シングルサテン編糸32bとを有する。
【0063】
この場合、第1シングルサテン編糸32aのシンカーループは、テープ本体部21とエレメント取付部22の境界部23を横切って配される。なお、テープ本体部21とエレメント取付部22の境界部23は、第3ウェールW3と第4ウェールW4との間に位置する。すなわち、本実施形態では、3本の第1シングルサテン編糸32aのシンカーループと、2本の緯挿入糸33とが、各コース間において、テープ本体部21とエレメント取付部22の境界部23を横切るよう配されている。更にこの場合、第1シングルサテン編糸32aのシンカーループと、2本の緯挿入糸33とは、各コース間で後述するように交差している。これによって、テープ本体部21とエレメント取付部22の境界部23のテープ強度と、境界部23の近傍の部分のテープ強度とが高められている。
【0064】
更に本実施形態では、境界部23を横切る第1シングルサテン編糸32aは、第2シングルサテン編糸32bよりも太く形成されている。例えば、第1シングルサテン編糸32aは、第2シングルサテン編糸32bの1.1倍以上2.0倍以下の太さを、好ましくは、1.4倍以上1.6倍以下の太さを有する。具体的には、本実施形態の第1シングルサテン編糸32aは、167デシテックスの太さを有し、第2シングルサテン編糸32bは、110デシテックスの太さを有する。
【0065】
これにより、テープ本体部21とエレメント取付部22の境界部23及びその近傍の部分のテープ強度をより効果的に高めることができる。このような第1シングルサテン編糸32aによってテープ強度が高められる部分は、スライドファスナー1においてスライダー40のフランジ部が接触し易い部分である。このため、ファスナーテープ20が、第1シングルサテン編糸32aを含んで上述のように高いテープ強度を有することによって、スライダー40の摺動操作が繰り返されても、ファスナーテープ20に損傷を生じさせ難くすることができる。
【0066】
本実施形態のファスナーテープ20では、複数の緯挿入糸33が第1ウェールW1~第14ウェールW14の全体に挿入されている。各緯挿入糸33は、それぞれ3ウェールに亘ってジグザグ状に挿入されている。このように緯挿入糸33を3ウェールに亘って挿入することにより、例えば緯挿入糸を4ウェールに亘って挿入する場合に比べて、編込みファスナーエレメント12を編成する編成加工のスピードを高めることができ、それによって、スライドファスナー1の生産性や生産効率の向上を図ることができる。
【0067】
本実施形態の緯挿入糸33は、シングルサテン編糸32のシンカーループと各コース間で交差する方向に挿入されている。ここで、緯挿入糸33とシングルサテン編糸32のシンカーループとがコース間で交差するとは、緯挿入糸33がニードルループで折り返される向きと、シングルサテン編糸32のシンカーループがニードルループから延びる向きとが、コース1つ分ウェール方向にずれていることを言う。このような緯挿入糸33がファスナーテープ20に挿入されていることにより、ファスナーテープ20の柔軟性や風合いを適切に保持しながら、ファスナーテープ20を補強できる。
【0068】
この場合、第1ウェールW1で折り返される最もテープ内側縁寄りに配される緯挿入糸33aは、ファスナーテープ20に配されるその他の緯挿入糸33よりも細く形成されている。これにより、当該緯挿入糸33aによって、第1ウェールW1に配される太い鎖編糸31aをテープ本体部21に近付く方向に引っ張る力(テンション)を弱めることができる。このため、境界部23からエレメント取付部22のテープ内側縁までのテープ幅方向の寸法を大きく確保し易くなり、その結果、左右のファスナーテープ20間に形成される隙間の間隔を小さくできる。
【0069】
固定用鎖編糸34は、上述したように経編機のフロント列Fによって、(0-0/0-1/1-1/1-0)の編組織でエレメント取付部22の第2ウェールW2と第3ウェールW3とに編み込まれている。すなわち、ファスナーテープ20の地組織と固定用鎖編糸34の編成部分とは、経編機のバック列Bとフロント列Fとにより、それぞれ別々のシングル組織で編成されている。これにより、ファスナーテープ20の柔軟性を高めるとともに、編込みファスナーストリンガー10の軽量化、及び生産性の向上を図ることができる。
【0070】
エレメント取付部22の地組織と固定用鎖編糸34との間には、ファスナーエレメント12の上脚部及び下脚部が挟まれるように挿入されている。また、固定用鎖編糸34のシンカーループは、エレメント取付部22の地組織に交差して絡んでいる。より具体的には、固定用鎖編糸34のシンカーループは、地組織を形成する鎖編糸31及びシングルサテン編糸32の少なくとも一方のシンカーループに絡んで編み込まれている。これによって、固定用鎖編糸34がエレメント取付部22の地組織に一体化される。更に、ファスナーエレメント12は、エレメント取付部22に固定用鎖編糸34とともに編み込まれてしっかりと固定される。この場合、ファスナーエレメント12は、ファスナーエレメント12の上脚部及び下脚部が固定用鎖編糸34とエレメント取付部22の地組織とによって挟持されることによって固定される。
【0071】
本実施形態において、固定用鎖編糸34は、第2ウェールW2に配されるテープ内側縁寄りの第1固定用鎖編糸34aと、第3ウェールW3に配されるテープ本体部21寄りの第2固定用鎖編糸34bとを有する。第1固定用鎖編糸34a及び第2固定用鎖編糸34bには、ファスナーテープ20の地組織を形成する何れの糸よりも太い糸が用いられている。例えば本実施形態の場合、第1固定用鎖編糸34a及び第2固定用鎖編糸34bは、220デシテックスの太さを有する糸が2本引き揃えられて形成されている。これにより、ファスナーエレメント12を、ファスナーテープ20のエレメント取付部22に、ファスナーエレメント12の位置がずれないようにしっかりと固定できる。
【0072】
更に、本実施形態の第2固定用鎖編糸34bは、後述するような編込みファスナーストリンガー10を編成する経編の編成加工を行う際に、220デシテックスの太さを有する2本の糸と除去される補助的な繊維とを含んで形成されている。この補助的な繊維は、編成加工の終了後に、ファスナーテープ20から抜かれて存在しなくなる。このため、製造された編込みファスナーストリンガー10において、第2固定用鎖編糸34bは、220デシテックスの太さを有する2本の糸によって形成される。なお、本実施形態の第1固定用鎖編糸34aについては、補助的な繊維を含むことなく、編込みファスナーストリンガー10の編成加工が行われる。
【0073】
このような補助的な繊維が除去された第2固定用鎖編糸34bを有する本実施形態の編込みファスナーストリンガー10においては、第2固定用鎖編糸34bでファスナーエレメント12を押さえ付ける力を、第1固定用鎖編糸34aでファスナーエレメント12を押さえ付ける力よりも弱めることができる。これにより、本実施形態の場合、例えば第1固定用鎖編糸34a及び第2固定用鎖編糸34bに除去される繊維を含むことなく編成加工が行われた場合に比べて、ファスナーテープ20に編み込まれた各ファスナーエレメント12の動きを許容し易くなる。その結果、本実施形態では、編込みファスナーストリンガー10の柔軟性をより効果的に高めることができ、また、スライドファスナー1におけるスライダー40の摺動性をより向上させることができる。
【0074】
更にこの場合、第1固定用鎖編糸34aには補助的な繊維を含むことなく編込みファスナーストリンガー10が編成されるため、ファスナーエレメント12をエレメント取付部22に安定して固定できる。これにより、ファスナーチェーンの噛合強度(横引き強度)、及びファスナーチェーンをテープ表裏方向に折り曲げたときの噛合強度(折り曲げ強度)を適切に確保できる。
【0075】
次に、本実施形態の編込みファスナーストリンガー10を製造する方法について説明する。
先ず、バック列Bとフロント列Fからなる2列の針床を備えた経編機を用いて、編込みファスナーストリンガー10を編成する経編の編成加工を行う。この編成加工では、経編機のバック列Bによってファスナーテープ20の地組織をシングル組織で編成しながら、フロント列Fによって固定用鎖編糸34のニードルループを形成するとともに、固定用鎖編糸34のシンカーループをファスナーテープ20の地組織に絡ませる。また同時に、モノフィラメントから成形されたファスナーエレメント12をファスナーテープ20の地組織と固定用鎖編糸34との間に挿入する。
【0076】
このとき、ファスナーテープ20の地組織は、上述した鎖編糸31、シングルサテン編糸32、及び緯挿入糸33を用いて編成される。また、固定用鎖編糸34として、220デシテックスの太さを有する糸を2本引き揃えて形成される第1固定用鎖編糸34a、及び、引き揃えられた220デシテックスの太さを有する2本の糸と補助的な繊維とを含む第2固定用鎖編糸34bを用いて、ファスナーエレメント12をファスナーテープ20に編み込む。
【0077】
これにより、ファスナーテープ20のエレメント取付部22に複数のファスナーエレメント12が一定の間隔で編み込まれた編込みファスナーストリンガー10が編成される。このとき得られる編込みファスナーストリンガー10は、図2及び図3に示したような経編組織を有する。なお、この編成加工では、1本の編込みファスナーストリンガー10を連続的に製造してもよく、又は、2本の編込みファスナーストリンガー10を左右のエレメント列11を噛み合わせた状態で編成してファスナーチェーンを連続的に製造してもよい。
【0078】
次に、得られた編込みファスナーストリンガー10を2つ一組で組み合わせてファスナーチェーンを形成し、第2固定用鎖編糸34bに含まれている補助的な繊維を抜く。それから、そのファスナーチェーンにおける左右のファスナーテープ20のテープ表面に接着剤を塗布する。続いて、接着剤を塗布したテープ表面に、合成樹脂製の1枚のフィルム部材を重ね合せて貼り付ける。これによって、フィルム部材がファスナーテープ20に接着される。
【0079】
なお、本発明において、フィルム部材を接着する接着剤の種類や材質は特に限定されない。また、フィルム部材をファスナーテープ20に貼り付ける方法及び手段も特に限定されるものではなく、接着以外の方法又は手段でフィルム部材をファスナーテープ20に貼り付けてもよい。
【0080】
フィルム部材の接着後、フィルム部材が付着されたファスナーチェーンに対して撥水処理を施す。その後、フィルム部材を左右のファスナーテープ20の境界部でファスナーチェーンの長さ方向に沿って切ることによって、止水性を備えたファスナーチェーンが製造される。
更に、製造したファスナーチェーンの左右のエレメント列11に、スライダー40を取り付けることによって、図1に示した止水性を備えるスライドファスナー1が製造される。
【0081】
以上のように製造された本実施形態の止水性スライドファスナー1では、左右のファスナーテープ20の地組織が、シンカーループを各コース間で長く形成するシングルサテン編糸32を用いて編成されている。このため、左右の編込みファスナーストリンガー10が高い柔軟性を有する。
【0082】
また本実施形態では、ファスナーテープ20のファスナーエレメント12が編み込まれる側のテープ裏面(言い換えると、フィルム部材が貼り付けられていない側のテープ面)に、シングルサテン編糸32のシンカーループが、ファスナーテープ20のテープ幅方向に対して傾斜した方向に長く表出する。これにより、ファスナーテープ20のテープ裏面が、良好な肌触りが得られる滑らかな面に形成される。また、ファスナーテープ20は、シングルサテン編糸32によって良好な風合いを有することができる。
【0083】
更に本実施形態の編込みファスナーストリンガー10では、ファスナーテープ20のテープ本体部21とエレメント取付部22との境界部23及びその近傍のテープ強度が、上述したように、3本の太い第1シングルサテン編糸32aと2本の緯挿入糸33とによって高められている。これにより、ファスナーテープ20のスライダー40との擦れ等により生じる損傷を抑制できる。
【0084】
このような柔らかくて、肌触りが良く、更に適切なテープ強度を備える本実施形態のスライドファスナー1は、肌に直接触れるような衣料品や、薄い生地で形成される衣料品等に好適に用いられる。
【0085】
また本実施形態では、第1ウェールW1に最も太い鎖編糸31aが配されていることにより、スライドファスナー1を閉鎖させたときに形成される左右のファスナーテープ20間の隙間の間隔を0.35mm以下に、好ましくは0.30mm以下に小さくできる。これにより、噛合した左右のエレメント列11を、ファスナーテープ20のテープ表面側から、左右のファスナーテープ20間の隙間を介して見え難くすることができる。
【0086】
また左右のファスナーテープ20間の隙間の間隔が小さくなることにより、ファスナーテープ20に接着したフィルム部材が、ファスナーテープ20の内側縁からテープ幅方向の噛合頭部側に延出するフィルム部材の長さを短くできる。これにより、例えば従来の止水性スライドファスナーにおいて左右のファスナーテープ間に観察される白い線のような外観上の不具合を発生させ難くすることができる。その結果、止水性スライドファスナー1の外観品質を向上できる。更に、左右のファスナーテープ20間の隙間の間隔が小さくなることにより、スライドファスナー1が良好な止水性を安定して備えることができる。
【0087】
なお、上述した実施形態の編込みファスナーストリンガー10は、裏使いタイプのスライドファスナー1に用いられているが、本発明の編込みファスナーストリンガーは、エレメント列が外部に露出する通常タイプのスライドファスナーにも同様に適用できる。
【0088】
また、上述した実施形態では、編込みファスナーストリンガー10の編成加工を行う際に、固定用鎖編糸34の第2固定用鎖編糸34bのみに補助的な繊維を予め含ませておき、その編成加工後に補助的な繊維を抜いて除去している。しかし本発明では、編込みファスナーストリンガー10の編成加工時に、固定用鎖編糸34の第1固定用鎖編糸34aのみに補助的な繊維を含ませておいてもよく、又は、第1固定用鎖編糸34aと第2固定用鎖編糸34bの両方に補助的な繊維を含ませておいてもよい。或いは、補助的な繊維を含ませることなく編込みファスナーストリンガー10の編成加工を行ってもよい。この場合、補助的な繊維として例えば水溶性繊維が用いられ、編成加工後に繊維を抜くことには、水溶性繊維を液体で溶解することが含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 スライドファスナー
10 編込みファスナーストリンガー
11 エレメント列
12 ファスナーエレメント
20 ファスナーテープ
21 テープ本体部
22 エレメント取付部
23 テープ本体部とエレメント取付部の境界部
31 鎖編糸
31a 第1ウェールに配される鎖編糸
31b 第2及び第3ウェールに配される鎖編糸
31c 第12ウェール~第14ウェールに配される鎖編糸
31d 第4ウェール~第11ウェールに配される鎖編糸
32 シングルサテン編糸
32a 第1シングルサテン編糸
32b 第2シングルサテン編糸
33 緯挿入糸
33a 最もテープ内側縁寄りに配される緯挿入糸
34 固定用鎖編糸
34a 第1固定用鎖編糸
34b 第2固定用鎖編糸
40 スライダー
B 針床のバック列
F 針床のフロント列
W1~W14 第1ウェール~第14ウェール
図1
図2
図3