IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電気機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/00 20060101AFI20221212BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20221212BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20221212BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221212BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20221212BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H01B3/00 A
C08L101/00
C08K3/34
C08K3/36
C08L21/00
H01B3/40 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018011717
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019129121
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 金也
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 敦
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-177006(JP,A)
【文献】国際公開第2013/186872(WO,A1)
【文献】特開2004-250482(JP,A)
【文献】特開2017-105883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/00
C08L 101/00
C08K 3/34
C08K 3/36
C08L 21/00
H01B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、前記樹脂にマイカと、シリカ粒子とがそれぞれ分散された絶縁材料を有し、
前記マイカは、粒径が2μm以上40μm以下であり、アスペクト比が1/200以上1/4以下であり、
前記シリカ粒子は、粒径が1nm以上200nm以下であり、前記シリカ粒子の添加量が前記絶縁材料の0.1~5質量%であることを特徴とする電気機器。
【請求項2】
前記マイカの粒径が2~25μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項3】
前記マイカの粒径が3~10μmであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項4】
前記マイカのアスペクト比が1/200以上1/6以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項5】
前記マイカのアスペクト比が1/150以上1/19以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項6】
前記シリカ粒子の粒径が1~100nmであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項7】
前記シリカ粒子の粒径が1~20nmであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項8】
前記マイカがシリカを主骨格とするものであることを特徴とする請求項1に記載の電気機器。
【請求項9】
前記シリカ粒子は前記樹脂においてデンドライト構造を形成していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電気機器。
【請求項10】
さらに、前記樹脂にエラストマー粒子または鱗片状添加材が含まれていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電気機器。
【請求項11】
前記樹脂がエポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェノール樹脂、ノボラック樹脂、ABS樹脂、ポリアセタール樹脂またはこれらの複合材であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電気機器。
【請求項12】
前記電気機器は、変圧器、開閉器、スイッチギヤ、回転機または電動機であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器を構成する絶縁材料の特性(絶縁寿命、破壊靭性および耐熱性等)を向上するために、絶縁材料の母材(マトリックス)となる樹脂に種々の添加材が添加されている。添加材としては、マイカ、エラストマーおよびナノ粒子等の機能性材料が挙げられる。
【0003】
添加材としてマイカを使用した絶縁材料は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1には、「マイカと該マイカを接合する第1の熱硬化性樹脂を有するマイカ層と、粒子状または短繊維状の充填材と該充填材を接合する第2の熱硬化性樹脂を有する充填材層とを積層させてなるプリプレグ材であって、プリプレグ材の単位面積あたりの第1及び第2の熱硬化性樹脂の体積をC、単位面積あたりに含まれる粒子状または短繊維状の充填材の体積をD及び単位面積あたりに含まれる充填材のアスペクト比の平方根をEとすると、C、D及びEが、式(1)(1>C/(D・E))に示す関係であることを特徴とするプリプレグ材」が開示されている(請求項1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、「マイカ層と、マイカ層上に形成された補強材層と、補強材層上に形成されたナノフィラー層とを有するマイカテープであって、マイカ層、補強材層及びナノフィラー層が、反応性希釈剤を用いた樹脂組成物から形成されるBステージ状態の樹脂マトリックスを含むことを特徴とするマイカテープ」が開示されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-27819号公報
【文献】特開2015-231322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁部材としてマイカの効果を十分に発揮するためには、添加材が樹脂中で均一に分散している必要があるが、絶縁材料の特性向上のために添加材の添加量を大きくするほど、添加材が硬化前の樹脂中で凝集して沈殿しやすくなる。また、添加材の沈殿を解消するためには、絶縁材料を加熱する機器が別途必要となり、設備と維持管理コストが増大する。
【0007】
上述した特許文献1および2では、硬化の際における樹脂中のマイカの凝集・沈殿を低下させることについては言及されていない。すなわち、特許文献1および2の技術では、硬化後の樹脂中のマイカは凝集・沈殿が生じる場合について考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、樹脂に含まれるマイカの沈殿を低下させ、従来よりも電気特性または機械特性が向上する絶縁材料を備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一例を挙げるならば、樹脂と、樹脂にマイカと、シリカ粒子とがそれぞれ分散された絶縁材料を有し、マイカは、粒径が2μm以上40μm以下であり、アスペクト比が1/200以上1/4以下であり、シリカ粒子は、粒径が1nm以上200nm以下であり、前記シリカ粒子の添加量が前記絶縁材料の0.1~5質量%であることを特徴とする電気機器である。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲および明細書に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂に含まれるマイカの沈殿を低下させ、従来よりも電気特性または機械特性が向上する絶縁材料を備えた電気機器を提供することができる。
【0012】
上述した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電気機器が備える絶縁材料の一例を示す模式図
図2(a)】従来の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展(初期)を示す模式図
図2(b)】従来の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展(中期)を示す模式図
図2(c)】従来の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展(後期)を示す模式図
図3(a)】従来の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展(初期)を示す模式図
図3(b)】従来の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展(中期)を示す模式図
図3(c)】従来の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展(後期)を示す模式図
図4】本発明の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展を示す模式図
図5】本発明の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展を示す模式図
図6】絶縁破壊耐性とマイカの粒径との関係を示すグラフ
図7図1のマイカ1および粒子2の界面の一部を拡大する模式図
図8】絶縁材料の絶縁破壊寿命および添加材の沈殿量と粒子の粒径との関係を示すグラフ
図9】乾式破砕シリカを模式的に示す図
図10】湿式破砕シリカを模式的に示す図
図11】絶縁破壊寿命と粒子の粒径との関係を示すグラフ
図12】変圧器の一例の外観を示す模式図
図13図12の横断面図
図14】スイッチギヤの一例の断面を示す模式図
図15】回転機の一例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
[絶縁材料]
本発明の電気機器を構成する絶縁材料について説明する。図1は本発明の電気機器が備える絶縁材料の一例を示す模式図である。図1に示すように、本発明の絶縁材料100は、マトリックスとなる樹脂3に、充填材(フィラー)としてマイカ1および粒子2が分散されている。
【0016】
マイカ1は絶縁材料100の電気的トリーおよびクラックの発生を防止する。粒子(ナノ粒子、微粒子)2は絶縁材料100において樹枝状の結晶(デンドライト)6を形成し、電気的トリーおよびクラックの発生を防止する。また、粒子2はマイカ1の周囲に配置され、マイカ1の凝集・沈殿を防止する。
【0017】
絶縁材料100には、マイカ1および粒子2の他に、樹脂の高熱伝導率化、低線膨張化および靱性向上等を目的に、種々の添加材を含んでいてもよい。以下、マイカ1、粒子2を含めて、樹脂3に添加される材料を「添加材」と称することがある。
【0018】
なお、本発明において「絶縁材料」とは、樹脂3が硬化する前の樹脂組成物および樹脂3を硬化した後の硬化物の両方を意味するものとする。すなわち、絶縁材料は、硬化前も硬化後も図1に示す構成を有する。硬化物が図1に示す構成を有していることは、断面SEM(Scanning Electron Microscope)写真の観察によって確認することができる。以下、絶縁材料の各成分について説明する。
【0019】
(1)マイカ
近年、電気機器の小型化に伴って、樹脂3の量を減少させる傾向にある。そこで、樹脂3の量を減少しつつも十分な絶縁破壊耐性を確保するために、フィラーとしてマイカ1を使用することが有効である。マイカ1は、電気的トリーおよびクラックの発生および進展を効果的に防止する役割を果たし、かつ天然鉱物であるためコストの面でも有利なものである。
【0020】
マイカ1が絶縁材料において電気的トリーおよびクラックの発生および進展を効果的に防止する役割を果たす理由を説明する。図2(a)~図2(c)は従来の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展を示す模式図である。図2(a)は電気的トリー進展の初期、図2(b)は電気的トリー進展の中期、図2(c)は電気的トリー進展の後期を示す図である。
【0021】
図2(a)に示すように、電気的トリー23は電極21の端部から発生する。そして、電極21からアース22に向かって樹脂20中で進展し(図2(b))、アース22に到達して絶縁破壊に至る(図2(c))。
【0022】
図3(a)~図3(c)は従来の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展を示す模式図である。図3(a)はクラック進展の初期、図3(b)はクラック進展の中期、図3(c)はクラック進展の後期を示す図である。図3(a)~(c)に示すように、クラック33は、樹脂30中で応力が印加される方向31,32に垂直な方向に進展し、機械破壊を引き起こす(図3(c))。
【0023】
図4は本発明の電気機器を構成する絶縁材料の電気的トリーの進展を示す模式図であり、図5は本発明の電気機器を構成する絶縁材料のクラックの進展を示す模式図である。図4および図5に示すように、マイカ1はファンデルワールス力によって一定方向に配向される。
【0024】
図4ではマイカ1の積層方向が電極21からアース22に向かう方向に略平行となるようにマイカ1が配向されている。
【0025】
マイカ1は縦(積層方向)の長さよりも横(平面方向)の幅が大きい形状である。このようにマイカ1の縦の長さよりも横幅を大きくすることで、クラック33のパスを生じにくくすることができる。詳細なアスペクト比は後述する。
【0026】
つまり、クラック33のパスは水平方向に生じやすいが、マイカ1にパスが接近した場合に、パスは一旦垂直方向に伸びマイカ1を回り込むよう水平方向に伸びるパスが形成される。マイカ1を回り込むようにクラック33のパスが延長されることにより、左右方向にクラック33が接続されにくくなり機械的強度が向上する。
【0027】
図5ではマイカ1の積層方向が応力の印加方向31,32に平行となるようにマイカ1が配向している。このため、電気的トリー23およびクラック33はマイカ1を回避するように進展し、電気的トリー23およびクラック33の横断を妨げ、絶縁破壊および機械破壊を防ぐことができる。
【0028】
マイカ1は層状ケイ酸塩であり、種々の組成があるが、特に限定は無い。例えば、6SiO・4Alが好適である。
【0029】
図6は絶縁破壊耐性とマイカの粒径との関係を示すグラフである。図6に示すように、マイカ1の粒径が小さいほど絶縁破壊耐性が高くなる。これは、マイカ1の粒径が小さいほどマイカ1の粒子の比表面積が大きくなり、電気的トリーおよびクラックを回避する効果が大きくなるためであると考えられる。
【0030】
マイカ1の粒径は、十分な絶縁破壊耐性を確保するために、2~130μm(2μm以上130μm以下)が好ましく、2~40μmがより好ましく、2~25μm以下がさらに好ましく、3~10μmが最も好ましい。2μm以上であると、硬化前の絶縁材料の粘度が低下しづらいため有効である。また、130μm以下であれば、絶縁破壊耐性を確保できるため有効である。
【0031】
マイカ1のアスペクト比は、1/200~1/4が好ましい。本明細書において、アスペクト比はマイカ1の最小長/最大長で得られる値を意味するものとする。アスペクト比が1/200よりも大きい場合、電気的トリー23またはクラック33の直線的な進展を低下させることができる。アスペクト比が1/4よりも小さくなると、粒子2がマイカ1の周囲に配置されやすくなる。1/200~1/6がより好ましく、1/150~1/20がさらに好ましい。
【0032】
なお、粒径およびアスペクト比は、マイカ1を電子顕微鏡等の観察手段で観察した場合に平面像で測定することができる。上記アスペクト比は、所定の倍率の観察写真において表示される所定の個数のマイカのスペクト比を平均した値(平均アスペクト比)であってもよい。また、上記粒径は、所定の倍率の観察写真において表示される所定の個数のマイカの粒径を平均した値(平均粒径)であってもよい。
【0033】
(2)粒子
次に、粒子2について説明する。粒子2は、樹脂3内でデンドライト6を形成し、電気的トリーおよびクラックの進展を防止して、絶縁材料の絶縁破壊寿命と破壊靭性の向上を図ることが可能となる。さらに、粒子2はマイカ1の周囲に配置され、マイカ1の凝集・沈殿を防止し、マイカ1の効果を十分に引き出す役割を果たす。
【0034】
図7図1のマイカ1および粒子2の界面の一部を拡大する模式図である。図7ではマイカ1として6SiO・4Alを用い、粒子2としてシリカ(SiO)を用いた場合について説明する。
【0035】
図7に示すように、マイカ1および粒子2を構成するプラスの極性を持つシリコン原子4と、マイナスの極性を持つ酸素原子5とがクーロン力によって引き合い、水素結合のように強く結合する。このため、粒子2がマイカ1の表面に引き付けられ、マイカ1の周囲に配置される。
【0036】
上記のように、マイカ1と粒子2が引きつけ合い、マイカ1の周囲に粒子2が配置されるためには、マイカ1と粒子2が同一の主骨格を有していることが好ましい。マイカ1と粒子2の主骨格は、上述したシリカの他、アルミナ(Al)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)または金属酸化物を含むものであることが好ましい。
【0037】
この中でもシリカおよびアルミナがより好ましく、シリカが特に好ましい。アルミナは2次元の結合を有する平面が積層された構造を有し、積層方向の結合は比較的結合力が弱いファンデルワールス力によるものである。
【0038】
一方、シリカは3次元に強固な結合を有するものであるため、クラックまたは電気トリーの進展を抑制し、樹脂3の機械特性または電気特性をより向上することができる。
【0039】
図8は絶縁材料の絶縁破壊寿命および添加材の沈殿量と粒子の粒径との関係を示すグラフである。図8において、添加材はマイカ1であり、粒子2はシリカである。図8の各プロットにおける試料は、粒子の粒径以外は同じ条件としている。沈殿量は、樹脂溶媒を取り除いた沈殿物の重量を測定することによって求めた。図8において、粒子2を含まない場合の沈殿量は「1」である。
【0040】
図8に示すように、添加材の沈殿量は、粒子2の粒径が小さいほど少なくなる。これは、粒子2の粒径が小さいほど粒子2のブラウン運動による拡散係数が大きくなり、粒子2がマイカ1の周囲に配置されやすくなるためである。具体的には、以下の式1のように、溶液内の粒子のブラウン運動理論ではD(拡散係数)は温度/(半径×粘性)に比例する。
D(拡散係数)∝温度/(半径×粘性)…式1
したがって、粒子2のサイズ(半径)が小さいほど拡散係数が大きくなり、粒子2が溶媒内のマイカ1の周囲に配置され、マイカ1の凝集・沈殿を防止することができることがわかる。
【0041】
マイカ1の凝集・沈殿防止効果を十分に得るために、粒子2の粒径は200nm以下が好ましい。100nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。1nm以上であると、粒子の取り扱いが容易となる。また、200nm以下であると、粒子2がマイカ1の周囲に配置され易くなり、マイカ1の凝集・沈殿防止効果を十分に得ることができる。
【0042】
なお、粒子2の粒径は、粒子2を電子顕微鏡等の観察手段で観察した場合に平面像で測定することができる。上記粒径は、所定の倍率の観察写真において表示される所定の個数のマイカの粒径を平均した値(平均粒径)であってもよい。
【0043】
絶縁破壊寿命についても添加材の沈殿量と同様に、粒子2の粒径が小さくなるほど向上する。これは、粒子2の粒径が小さくなるほどマイカ1の沈殿・凝集が抑制されるためである。
【0044】
粒子2の添加量は、絶縁材料100の0.1~5質量%が好ましい。0.1質量%以上であると、粒子2の添加効果(マイカ1の沈殿抑制と破壊靭性または絶縁破壊寿命の向上)を十分に得ることができる。また、5質量%以下であると、粘度が上昇し過ぎないため好ましい。
【0045】
通常、粒子は樹脂の粘度を上昇させるので、樹脂にマイカ等の添加材を添加した上でさらに粒子を積極的に添加することは、当業者の間では考えられない。本発明は、樹脂の粘度とのバランスを取りつつ粒子を添加し、その効果(マイカの沈殿抑制および気特的特性・機械的特性の向上)を得るものであり、このような効果を得ることは従来技術では達成することができなかったことであり、本発明は新規な技術である。
【0046】
(3)添加材
以下に、マイカ1および粒子2以外の添加材について述べる。上述したように、添加材としては絶縁材料100に与えたい特性を考慮して種々のものが挙げられる。例えば、3次元構造によって機械的特性向上をより期待することができるシリカおよび熱伝導性が高いAl、BN、AlNまたは金属酸化物が好ましい。また、添加材の沈殿・凝集を抑制するために、粒子2と同一の主骨格を有するものを用いることが好ましい。
【0047】
粒子2としてシリカを用いた場合、添加材の好ましい例として、樹脂の熱伝導性を高める高熱伝導材である破砕シリカおよび高温度差環境での残留熱応力を低減する低線膨張材である溶融球状シリカを挙げることができる。
【0048】
破砕シリカは、安価であり、絶縁材料の熱伝導率を増大させることができる。破砕シリカには湿式法と乾式法の二種の方法において破砕したものが存在する。図9は乾式破砕シリカを模式的に示す図であり、図10は湿式破砕シリカを模式的に示す図である。
【0049】
図9および図10との比較から、一般的に乾式破砕シリカ9の方が湿式破砕シリカ10よりも表面におけるOH基や残留水が少なく、樹脂製造における水の悪影響(硬化阻害および副反応の誘発等)を避けることが可能となる。また、この効果により樹脂の熱伝導度を高めるのにも役立つ。
【0050】
湿式破砕シリカ10の表面にはHO等の付着があるほか、OH基が多くなる傾向にあり、またOH基によってHOが水素結合を引き起こして表面に水が多くなっている可能性がある。水は1分子あたり20kJ/mol以上のエネルギーで発熱的に結合(分子軌道計算にて求めた値を後述する表1に示す。)しており、この水を除去するには100℃以上で一昼夜にわたる乾燥工程を必要とする。また水の存在は、樹脂3の重合にとっては望ましくない効果を与える可能性がある。このことから、破砕シリカとしては湿式破砕シリカよりも乾式破砕シリカを用いることが好ましい。
【0051】
【表1】
【0052】
添加材として、破砕シリカのみならず、溶融シリカ(溶融球状シリカ)を含んでもよい。破砕シリカは熱伝導率を向上させることができるが、線膨張係数を増加させてしまう可能性があり、アルミニウム、セラミックスまたは絶縁紙等で封止する場合にクラックの原因になり得るので、これを補うために溶融シリカを加えることが好ましい。
【0053】
また、温度差が大きな環境では、絶縁材料を封止するアルミニウム、セラミックスまたは絶縁紙の様な他材料との線膨係数との差により、樹脂に残留熱応力が発生する。このとき、線膨張係数の小さい溶融シリカによりこの残留熱応力を低減することができ、耐クラック性を向上することができる。本発明においては、上述した粒子2の添加量を絶縁材料100の5質量%以下として粘度上昇を抑えているため、他の添加材を添加することができる。
【0054】
さらに、溶融シリカを溶融球状シリカとすることで、線膨張係数の低減効果が等方的となり、線膨張係数の樹脂製造方向依存性が低くなる効果がある。
【0055】
添加材1,2の含有量は、絶縁材料100の0.1~70質量%であることが好ましい。添加材の含有量が0.1質量%以上であると添加材の効果を十分に得ることができる。70質量%以下であれば、粘度が高くなり過ぎることを防止できる。また、70質量%以下であれば、粒子2によって添加材の沈殿を十分に抑制することができる。上記含有量の範囲において、絶縁材料100に付与したい熱伝導性および耐クラック性の程度を考慮して添加材の含有量を決定することが好ましい。
【0056】
図11は絶縁破壊寿命と粒子の粒径との関係を示すグラフである。図11では粒子2として乾式破砕シリカ9および溶融球状シリカ11を用いた場合の結果を示している。図11に示すように、乾式破砕シリカ9および溶融球状シリカ11のどちらのシリカを用いた場合にも図8の場合と同様の傾向を示す。すなわち、粒子2の粒径が小さいほど絶縁破壊寿命が向上していることがわかる。
【0057】
上述した高熱伝導材と低線膨張材のほかに、上記添加材の含有量の範囲でエラストマー粒子または鱗片状添加材(フィラー)を添加してもよい。樹脂の耐クラック性を向上することで、樹脂の破壊靭性を向上し、クラック進展を阻害することができる。エラストマーは樹脂の高靭性を大幅に向上させることが期待できる。
【0058】
これには小さなエラストマーが特に好ましく、沈降や他の数密度を上げることによるクラック進展阻害作用が期待できる。また、同様に鱗片状フィラーにも同様の作用および効果を期待することができる。
【0059】
さらに、ポリオキシエチレン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンフェニルエーテルを、添加材100質量部に対して1.5質量部以下含んでいてもよい。
【0060】
マイカ1と粒子2の場合と同様に、添加材と粒子2の主骨格は同一であることが好ましい。添加材の周囲に粒子2が配置されることで添加材の重合・沈殿が抑制され、添加材の効果を十分に発揮することができるためである。なお、本明細書において「主骨格」とは、成分または組成の半分以上、複数成分のうち最も多い成分または組成のことを意味するものとする。
【0061】
(3)樹脂
絶縁材料100のマトリックスとなる樹脂3としては、熱硬化性を有するものであれば特に限定は無く、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェノール樹脂、ノボラック樹脂、ABS(アクリロニトリル‐スチレン‐ブタジエン共重合体)樹脂、ポリアセタール樹脂およびこれらの複合材が挙げられる。エポキシ樹脂を用いる場合、プレポリマーの主骨格はビスフェノールA型が好ましい。
【0062】
上記樹脂3にマイカ1等の添加材および粒子2を混合し、十分に長い時間撹拌することで粒子2を添加材の周囲に配置し、図1に示す構成を有する絶縁材料100を得ることができる。
【0063】
絶縁材料100中のマイカ1の粒径、アスペクト比および粒子2の粒径は、SEM(Scanning Electron Microscope)、TEM(Transmission Electron Microscope)および光学顕微鏡で測定して確認することが可能である。
【0064】
[電気機器]
以下に、上述した絶縁材料100を用いた電気機器の例について説明する。図12は変圧器の一例の外観を示す模式図であり、図13図12の横断面図である。図12および図13に示すように、変圧器120は、鉄心121に巻線122,123が設けられ、絶縁材料124によってモールドされている。絶縁材料124に、上述した絶縁材料100を用いることで、電気特性(耐絶縁破壊性)または機械特性(耐クラック性)に優れた変圧器を実現することができる。
【0065】
図14はスイッチギヤの一例の断面を示す模式図である。図14に示すように、スイッチギヤ600は、接離自在な接点を有する真空バルブ61と、大気中に設けられ、直線状に3位置に変位させられる接地断路部可動電極62と、可動電極が閉位置において可動電極を介して電気的に導通させられるブッシング側固定電極63と中間固定電極64を有する。
【0066】
また、可動電極が接地位置において可動電極を介して中間固定電極64と導通させられる接地側固定電極65を備えた接地断路部66と、真空バルブ61の固定側に接続されたケーブル用ブッシング67と、接地断路部66のブッシング側固定電極63に接続された母線用ブッシング68を有する。
【0067】
さらに、接地断路部66の中間固定電極64と真空バルブ61の可動側を接続するフレキシブル導体69と、真空バルブ61の可動側電極70に機械的に接続された真空バルブ用操作ロッド71と、接地断路部の可動側電極70に機械的に接続された接地断路部用操作ロッド72を有する。
【0068】
真空バルブ61、接地断路部用ブッシング側固定電極63、母線用ブッシング68およびケーブル用ブッシング67は、固体絶縁物73によって一体に注型されている。
【0069】
固体絶縁物73に上述した絶縁材料100を用いることで、電気特性(耐絶縁破壊性)および機械特性(耐クラック性)に優れた変圧器を実現することができる。
【0070】
図15は回転機の一例を示す模式図である。図15に示すように、回転機150は、固定子151および回転子152を有し、固定子151は、図示していないがコイル導体と、コイル導体を絶縁する絶縁材料を有する。この絶縁材料に、上述した絶縁材料100を用いることで、電気特性(耐絶縁破壊性)および機械特性(耐クラック性)に優れた回転子を実現することができる。本発明の電気機器は、上述した変圧器、スイッチギヤおよび回転機に限られるものではなく、電動機などの他の種々の製品にも適用可能なものである。
【0071】
以上、説明したように、本発明によれば、樹脂に含まれるマイカの沈殿を抑制し、従来よりも優れた電気特性または機械特性を達成する絶縁材料を備えた電気機器を提供できることが示された。
【0072】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
100,124…絶縁材料、1…マイカ、2…粒子、3…樹脂、4…シリコン原子、5…酸素原子、6…粒子のデンドライト、9…乾式破砕シリカ、10…湿式破砕シリカ、11…溶融球状、20…樹脂、21…電極、22…アース、23…電気的トリー、30…樹脂、31,32…応力印加方向、33…クラック、600…スイッチギヤ、61…真空バルブ、62…接地断路部可動電極、63…ブッシング側固定電極、64…中間固定電極、65…接地側固定電極、66…接地断路部、67…ケーブル用ブッシング、68…母線用ブッシング、69…フレキシブル導体、70…可動側電極、71…真空バルブ用操作ロッド、72…接地断路部用操作ロッド、73…固体絶縁物、120…変圧器、121…鉄心、122,123…巻線、150…回転機、151…固定子、152…回転子。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図2(c)】
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15