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特許7191519圧電素子の製造方法、振動波モータの製造方法、光学機器の製造方法および電子機器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】圧電素子の製造方法、振動波モータの製造方法、光学機器の製造方法および電子機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/43 20130101AFI20221212BHJP
   H01L 41/253 20130101ALI20221212BHJP
   H01L 41/187 20060101ALI20221212BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20221212BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20221212BHJP
   H01L 41/083 20060101ALI20221212BHJP
   H02N 2/16 20060101ALI20221212BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20221212BHJP
【FI】
H01L41/43
H01L41/253
H01L41/187
H01L41/047
H01L41/09
H01L41/083
H02N2/16
G02B7/04 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018019435
(22)【出願日】2018-02-06
(65)【公開番号】P2018148203
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017040256
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】上林 彰
(72)【発明者】
【氏名】古田 達雄
(72)【発明者】
【氏名】大志万 香菜子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆之
(72)【発明者】
【氏名】林 潤平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 知志
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 裕己
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-322420(JP,A)
【文献】特開昭57-090986(JP,A)
【文献】特開2017-017157(JP,A)
【文献】特開2014-128114(JP,A)
【文献】特開2005-119944(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/43
H01L 41/253
H01L 41/187
H01L 41/047
H01L 41/09
H01L 41/083
H02N 2/16
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料に複数の電極を設け、該複数の電極のうち2つ以上の電極を電気的に短絡して、前記圧電材料をそのキュリー温度Tcより高い到達最高温度に達するように加熱することで該圧電材料を熱処理する第一の工程と、
その後、前記圧電材料の温度が該圧電材料のキュリー温度Tcより7℃以上低い温度に下がった時点で前記2つ以上の電極の短絡を電気的に開放する第二の工程と、
を備えることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記圧電素子を構成する圧電材料は、一定方向にそろった分極軸を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
電気的に短絡する前記2つ以上の電極は、前記分極軸と交わる方向に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記第二の工程における前記電極の短絡の電気的な開放は、圧電素子の温度が(Tc/2)以下に下がった時に実施することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
前記圧電素子を構成する圧電材料の圧電定数の絶対値dafterが、該圧電材料の熱処理前の圧電定数の絶対値dbeforeの80%以上であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記圧電材料は非鉛系であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
前記圧電材料は、チタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物であることを特徴とする請求項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧電材料は、ニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの固溶体を含む金属酸化物であることを特徴とする請求項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記2つ以上の電極は、フレキシブルプリント基板を介して電気的に短絡されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記Tc以上の温度で前記熱処理がなされる請求項1乃至のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を振動体に配し、該振動体に移動体を接触させることを含む振動波モータの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の振動波モータの前記移動体に光学部材を力学的に接続することを特徴とする光学機器の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を含む部材を設けることを特徴とする電子機器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子の製造方法、ならびに、その方法により製造した圧電素子を用いる振動波モータ、光学機器および電子機器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(以下「PZT」という)のようなABO型ペロブスカイト型金属酸化物がよく用いられる。しかしながら、PZTはAサイト元素として鉛を含有するために、環境に対する影響が問題視されている。このため、鉛を含有しないペロブスカイト型金属酸化物を用いた圧電材料が求められている。
【0003】
鉛を含有しないペロブスカイト型金属酸化物の圧電材料としては、チタン酸バリウムが知られている。また、その圧電特性を改良する目的で、チタン酸バリウムの組成をベースとした材料開発が行われている。しかし、これまでに開発された鉛を含まないペロブスカイト型金属酸化物には次のような問題がある。
【0004】
たとえば、特許文献1には、チタン酸バリウムのAサイトの元素であるBaの一部をCaで置換し、Bサイトの元素であるTiの一部をZrで置換することにより、圧電特性を向上させたチタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料が開示されている。しかし、これらの材料は特許文献1の図1によるとキュリー温度が100℃以下と低いため、キュリー温度以上の高温に曝されて圧電特性が低下するというリスクを抱えている。
【0005】
他方、圧電素子を用いる装置の製造に際しては、特許文献2に開示されるように、フレキシブルプリント基板のような給電部材を圧電素子に熱圧着することで、複雑な配線を簡便に製造することが多い。このとき、圧電素子を構成する圧電材料は給電部材を熱圧着する際に高温に曝されることになる。
【0006】
これらのことを考慮すると、たとえ圧電定数が大きい非鉛系の(すなわち実質的に鉛を含有しない)圧電材料であっても、そのキュリー温度が低い場合には、当該圧電素子に給電部材を熱圧着する際に加熱された部位が脱分極してしまい、圧電特性が大幅に低下してしまう可能性が少なくないといえる。
【0007】
また、圧電材料のキュリー温度がそれほど低くない場合であっても、その圧電材料が圧電素子の製造時や使用時にキュリー温度よりも高い温度に曝されれば、その圧電材料は脱分極を起こし、圧電特性が大幅に低下してしまう可能性があるため、製造時や使用時の温度条件には常に注意が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-215111号公報
【文献】特開2009-268182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑み、圧電素子を製造する際における当該圧電材料の圧電定数の大幅な低下を防ぐことができる、新たな熱処理方法を用いた圧電素子の製造方法を提供しようとするものである。また、本発明は、そのような方法により製造した圧電素子を用いて、振動波モータ、光学機器あるいは電子機器を製造する方法を提供しようとするものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の圧電素子の製造方法は、圧電材料に複数の電極を設け、該複数の電極のうち2つ以上の電極を電気的に短絡して圧電材料を熱処理する第一の工程と、該第一の工程の後、前記圧電材料の温度が熱処理の際の温度より下がった時点で前記2つ以上の電極の短絡を電気的に開放する第二の工程と、を備えるものである。
【0011】
また、本発明の振動波モータの製造方法は、前記圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を振動体に配し、その振動体に移動体を接触させて振動波モータを構成するものである。
【0012】
また、本発明の光学機器の製造方法は、前記振動波モータの製造方法により製造した振動波モータの移動体に、光学部材を力学的に接続して光学機器を構成するものである。
【0013】
また、本発明の電子機器の製造方法は、前記圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を含む部材を設けて電子機器を構成するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧電素子を製造する際における当該圧電材料の圧電定数の大幅な低下を防ぐことができる。特にキュリー温度よりも高い温度での熱処理工程においても、圧電材料の圧電定数の大幅な低下を防ぐことができる。従って、本発明の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を用いて振動波モータ、光学機器あるいは電子機器を製造すれば、その圧電素子の優れた圧電特性を利用することにより、機能的に優れた製品が得られることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の製造方法により製造される圧電素子の構成の一例を模式的に示す概略斜視図である。
図2】本発明の製造方法により製造される積層圧電素子の各種構成の例をそれぞれ模式的に示す概略断面図である。
図3】本発明の製造方法により製造される振動波モータの各種構成の例をそれぞれ模式的に示す概略(一部)断面図である。
図4】本発明の製造方法により製造される光学機器の一例を模式的に示す概略断面図およびその一部をより詳細に示す図である。
図5】本発明の製造方法により製造される光学機器の一例を模式的に示す概略分解斜視図である。
図6】本発明の製造方法により製造される電子機器の一例を模式的に示す概略斜視図である。
図7】本発明の圧電素子の製造方法の一例を示す概略工程図である。
図8】本発明の製造方法により圧電素子に給電部材を設けて給電部材付き圧電素子を製造する手順の一例を示す概略工程図である。
図9】本発明の製造方法により振動波モータ用ステータを製造する手順の一例を示す概略工程図である。
図10】本発明の製造方法の実施例および比較例において製造された圧電素子について、熱処理条件と熱処理前後圧電定数保持率との関係を示す図である。
図11】本発明の製造方法の実施例および比較例において製造された圧電素子について、熱処理条件と熱処理前後圧電定数保持率との関係を示す図である。
図12】本発明の圧電素子の製造方法の製造フローを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の圧電素子の製造方法、ならびに、その製造方法により製造される圧電素子を用いて振動波モータ、光学機器および電子機器を製造する方法の各種形態について説明する。
【0017】
本発明の圧電素子の製造方法は、圧電材料に複数の電極を設け、前記複数の電極のうち2つ以上の電極を電気的に短絡して圧電材料を熱処理する第一の工程と、前記第一の工程の後に前記2つ以上の電極の短絡を電気的に開放する第二の工程と、を有する。図12は本発明の圧電素子の製造方法の製造フローを示したものである。
【0018】
(圧電材料)
本発明の製造方法で製造される圧電素子を構成する圧電材料は、セラミックス(多結晶のバルク体)、単結晶、薄膜等のいずれの形態であってもよく、材質や製造方法は特に限定されないが、セラミックスであることが好ましい。本明細書中で「セラミックス」というときは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒子の凝集体、すなわち多結晶のバルク体を指す。なお、焼結後に加工されたものも含まれる。以下では、圧電材料としてセラミックスを用いる好ましい形態を例にとって、本発明を説明する。
【0019】
本発明の圧電素子の製造方法に用いる圧電材料としてのセラミックスは特に限定されず、たとえば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムカルシウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、鉄酸ビスマスなどの圧電セラミックスや、これらを主成分とした圧電セラミックス、あるいはニオブ酸ナトリウムと少量のチタン酸バリウムの固溶体からなる圧電セラミックスを用いることができる。ここで、前記固溶体におけるニオブ酸ナトリウムとチタン酸バリウムの比は特に限定されないが、例えばニオブ酸ナトリウム:チタン酸バリウムが88:12や、90:10で表すことができる。
【0020】
ただし、本発明の圧電素子の製造方法が特に好ましく適用される圧電材料は鉛の含有量が1000ppm未満である非鉛系の圧電材料である。そのなかでも特に好ましいものは、チタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電セラミックスである。従来、圧電素子を構成する圧電材料はそのほとんどがチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電セラミックスであるが、これを用いた場合には、例えば圧電素子が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりした際、圧電材料中の鉛成分が土壌に溶け出し生態系に害を成す可能性が指摘されている。鉛の含有量が1000ppm未満であるチタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料であれば、圧電素子が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりしても、圧電材料中の鉛成分が環境に悪影響を及ぼす可能性は低い。また鉛成分を含まない圧電セラミックスの中で、チタン酸バリウムを主成分とする圧電セラミックスは圧電定数dの絶対値が大きい。従って、同じ歪量を得るために必要な電圧を小さくすることができる。
【0021】
(圧電素子)
図1は本発明の製造方法で製造される圧電素子の構成の一例を示す概略斜視図である。図1の圧電素子は、第一の電極1と第二の電極3の間に、圧電材料2が挟まれた構造を少なくとも有する。以下、図1の圧電素子について説明するが、本発明の製造方法で製造される圧電素子は図1の圧電素子の構成に限定されず、例えば3つ以上の電極を有しても良いし、圧電材料の一つの面に2つの電極を有していてもよい。例えば振動波モータのステータに用いられる円環形状の圧電素子は図8に例示されるように3つ以上の電極を有している。少なくとも第一の電極と第二の電極とで圧電材料を挟んだ構造を有する圧電素子にすることにより、例えばその圧電材料に交番電圧を印加することが可能となる。また、第一の電極と第二の電極の間に電圧をかけたときの挙動を調べることでそれらの電極間に挟まれた圧電材料の圧電特性を評価することもできる。前記第一の電極および第二の電極は、5nm~10μm程度の厚さを有する導電層よりなり、厚さ方向の抵抗値が10Ω未満、好ましくは1Ω未満であるとよい。
【0022】
圧電層に設ける電極の材料は、上に述べた抵抗値を示すものが好ましいことを除けば特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものでよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの金属を含む化合物を挙げることができる。前記第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また、第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
【0023】
前記第一の電極と第二の電極の形成方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成してもよいし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また、第一の電極および第二の電極ともに、所望の形状にパターニングしてもよい。
【0024】
本発明に係る圧電素子は圧電材料層と、内部電極(層)を含む電極層とが交互に積層された積層圧電素子であってもよい。
【0025】
図2(a)(b)は、本発明の製造方法により製造される積層圧電素子の各種構成の例をそれぞれ模式的に示す概略断面図である。図2(a)の積層圧電素子は、2層の圧電材料層と、3層の電極層とで構成されており、圧電材料層と電極層とが交互に積層された構造を有している。2層の圧電材料層54は上に述べたような圧電材料よりなる。3層の電極層は、外部電極である第一の電極51および第二の電極53に加えて内部電極55を含んでいる。
【0026】
一方、図2(b)の積層圧電素子は、9層の圧電材料層504と8層の内部電極505(505aおよび505b)が交互に積層されている。その積層構造体は、さらに第一の電極501と第二の電極503で挟持され、加えて、交互に形成された内部電極を短絡するための外部電極506(506aおよび506b)を有する。このように、本発明の製造方法で製造される積層圧電素子においては、圧電材料層と内部電極の数に上限はない。
【0027】
図2(a)(b)に示される積層圧電素子において、内部電極55、505、外部電極506、第一の電極51、501および第二の電極53、503の大きさや形状は必ずしも圧電材料層54、504と同一である必要はなく、またそれぞれの電極は複数に分割されていてもよい。
【0028】
内部電極55、505、外部電極506、第一の電極51、501および第二の電極53、503は、それぞれ5nmから10μm程度の厚さを有する導電層よりなる。その材料は特に限定されず、上に述べたように、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの金属を含む化合物を挙げることができる。内部電極55、505および外部電極506は、これらのうちの1種からなるものであっても2種以上の混合物あるいは合金であってもよく、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。また複数の電極が、それぞれ異なる材料であってもよい。
【0029】
内部電極55、505はAgとPdを含み、Agの含有重量M1とPdの含有重量M2の比M1/M2は、0.25≦M1/M2≦4.0であることが好ましい。前記重量比M1/M2が0.25未満であると内部電極の焼結温度が高くなるので望ましくない。一方で、前記重量比M1/M2が4.0よりも大きくなると、内部電極が島状になり面内で不均一になるので望ましくない。より好ましくは0.3≦M1/M2≦3.0である。
【0030】
電極材料が安価であるという観点に立つと、内部電極55、505はNiおよびCuの少なくともいずれか1種を主成分として含むことが好ましい。内部電極55、505にNiおよびCuの少なくともいずれか1種を用いる場合、本発明の積層圧電素子は還元雰囲気で焼成することが好ましい。
【0031】
図2(b)に示すように、内部電極505を含む複数の電極は、駆動電圧の位相をそろえる目的で互いに短絡させてもよい。例えば、内部電極505aの全てと第一の電極501を外部電極506aで短絡させ、内部電極505bの全てと第二の電極503を外部電極506bで短絡させてもよい。複数の内部電極505aと複数の内部電極505bが交互に配置されていることが好ましい。また、電極同士を短絡させる形態は限定されない。積層圧電素子の側面に短絡のための電極や配線を設けてもよいし、圧電材料層504を貫通するスルーホールを設け、その内側に導電材料を設けて電極同士を短絡させてもよい。
【0032】
(分極軸と分極処理)
本発明の圧電素子の製造方法に用いる圧電材料は残留分極(外部電場を0にした時に残っている分極)を有し、特に一定方向に分極軸が揃っていることが好ましい。ここで、分極軸とは圧電材料であるセラミックスを構成する多結晶の各結晶粒における自発分極の向きのことである。前記分極軸が一定方向に揃っているとは、前記各結晶における自発分極が概ね同じ方向を向いていることを意味する。分極軸が一定方向に揃っていることで前記圧電素子の圧電定数は大きくなる。分極軸が一定方向に揃っているかは、例えばd33メータを用いて応力を加えたときに発生する電荷量を測定することにより確認することができる。当該圧電素子を、第一の電極が上になるように設置してd33メータで測定したときの電荷量の符号と、第二の電極が上になるように設置してd33メータで測定したときの電荷量の符号が、逆向きであれば、分極軸が一定方向に揃っているといえる。
【0033】
セラミックスは一般的に細かい結晶(粒)の集まりであり、1つ1つの結晶は正の電荷を持つ原子と負の電荷を持つ原子とから構成されている。セラミックスの多くはこの正の電荷の中心と負の電荷の中心が各結晶中でずれていない状態になっている。しかし、セラミックスの中には、強誘電体と言って、自然状態(外部電界が印加されていない状態)でも、各結晶中の正負の電荷の中心がずれていて、電荷の偏り(自発分極)を生じているものがある。
【0034】
焼成後の強誘電体セラミックスは、この自発分極の向きがバラバラで、セラミックス全体としては、見かけ上、電荷の偏りがないように見える。しかし、これに高い電圧を加えると、自発分極の向きが一定の方向にそろい、電圧を取り除いても元に戻らなくなる。このように自発分極の向きをそろえ、一定方向に分極軸を揃えることを一般に分極処理という。また、分極処理が施された強誘電体セラミックスに外部から電圧を加えると、セラミックス内部の正負それぞれの電荷の中心が外部電荷と引き合ったり、しりぞけ合ったりして、セラミックス本体が伸びたり縮んだりする(逆圧電効果)。
【0035】
圧電素子を構成する圧電材料の分極処理方法は特に限定されない。分極処理は、大気中で行ってもよいし、シリコーンオイル中で行ってもよい。分極処理の温度は、前記圧電素子を構成する圧電材料の組成によって最適な条件は異なり、たとえばチタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料においては、キュリー温度近傍の80℃~150℃の温度で分極処理を行うことが好ましい。また、分極処理をするために印加する電界は800V/mmから2.0kV/mmが好ましい。
【0036】
(キュリー温度)
キュリー温度Tcとは、一般的にその温度以上で当該圧電材料の圧電性が消失する摂氏表記(℃)での温度である。本明細書においては、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTcとする。チタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料のTcはだいたい100℃~130℃くらいである。誘電率は、たとえばインピーダンスアナライザを用いて周波数が1kHz、電界強度が10V/cmの交流電界を印加して測定することができる。
【0037】
(圧電定数)
前記圧電素子の圧電定数は、市販のインピーダンスアナライザを用いて得られる共振周波数および反共振周波数の測定結果から、電子情報技術産業協会規格(JEITA EM-4501)に基づいて、計算により求めることができる。以下、この方法を共振-反共振法と呼ぶ。また本明細書において前記熱処理を行う前の圧電定数dの値をdbefore、前記熱処理を行った後の圧電定数dの値をdafter、dbeforeに対するdafterの割合dafter/dbeforeを熱処理前後圧電定数保持率と定義する。熱処理前後圧電定数保持率は50%以上であることが好ましい。より好ましくは80%以上である。熱処理前後圧電定数保持率が80%以上であると、圧電材料の圧電特性を十分に発現することができる。
【0038】
(短絡)
電極を電気的に短絡するとは、たとえば図1の圧電素子にあっては、前記第一の電極1と前記第二の電極3を圧電材料2の抵抗値よりも相対的に抵抗の小さい導体で接続することである。導体の抵抗の絶対値は特に限定されない。その材料は特に限定されず、後で取り除くことができる材料であればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Ag、Cuなどの金属およびこれらの金属を含む化合物を挙げることができる。別の方法として、フレキシブルプリント基板の様なパターニングされた部材を前記各電極に接触させ、そのフレキシブルプリント基板の導体露出部を、例えばアルミホイルで包むことで短絡したり、コネクタにより短絡処理を行ってもよい。あるいは、前記各電極に直接接触することができる工具を用いて短絡処理をおこなっても良い。
【0039】
(熱処理)
熱処理とは圧電材料に外部から熱を加え、圧電材料の温度を室温(例えば25℃)以上にすることをいう。昇温方法等は限定されない。熱処理の温度は、例えばフレキシブルプリント基板の接続に異方性導電ペースト(ACP)や異方性導電フィルム(ACF)を熱圧着する場合、前記圧電材料の温度は120℃~160℃に達する。また、例えば鉛フリーはんだを用いたリフローはんだ付け方法を用いて圧電素子を製造する場合、圧電材料は150℃~260℃に加熱される。なお、圧電材料の温度は熱電対等の公知の温度計測手段を用いて計測することができる。以下では圧電材料表面の温度を挙げることがあるが、圧電材料の温度を代表する限り、どのように計測してもよい。
【0040】
圧電材料に設けた電極材料にAgを用いた場合、電極表面が大気中の硫黄化合物と反応し硫化銀を生成してしまうことがある。生成された硫化銀は導電性がないため、電極の抵抗値が上昇し圧電特性への影響を引き起こす可能性がある。前記電極表面に生成された硫化銀を除去する方法としては、例えば還元雰囲気において300℃程度の温度におけるアニールを行うことが挙げられる。
【0041】
昇温方法としては、例えばホットプレートの上で直接加熱する方法や、乾燥炉や還元炉のように加熱されている空間に設置する方法がある。
【0042】
本発明の圧電素子の製造方法においては、熱処理における圧電材料の到達最高温度は、前記圧電材料のキュリー温度Tcを多少超えてもよいが、あまり大きく超えるべきではない。具体的には、熱処理における圧電材料の到達最高温度は、前記圧電材料のキュリー温度Tcに対してTc+50℃以下の範囲が好ましい。さらに前記圧電材料のキュリー温度Tcに対してTc-50℃からTc+30℃の範囲がより好ましい。圧電材料の到達最高温度がこの範囲であれば、熱処理における脱分極を大幅に抑制することができる。
【0043】
従って、許容される到達最高温度は、熱処理を受ける圧電材料のキュリー温度によって異なる。チタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料の場合は、80℃以上150℃以下であることが好ましい。ニオブ酸ナトリウムと少量のチタン酸バリウムの固溶体からなる圧電材料の場合は、150℃以上250℃以下であることが好ましい。また、非鉛系の材料ではないが、チタン酸ジルコン酸鉛系の場合は、280℃以上350℃以下であることが好ましい。
【0044】
熱処理における到達最高温度での保持時間は脱分極の観点から短い方がよい。到達最高温度と当該圧電材料のキュリー温度Tcとの関係にもよるが、たとえば1秒~10分程度が好ましい範囲である。
【0045】
なお、分極処理を施した圧電材料を熱処理するとキュリー温度以下であっても部分的に脱分極することがある。脱分極とは一定方向に揃った分極軸の整列状態が熱振動によって乱れる現象のことである。脱分極が生じると圧電定数が低下する。
【0046】
本発明の圧電素子の製造方法においては、熱処理時に圧電材料に設けた2つ以上の電極を短絡してから熱処理を行い、好ましくは冷却後に電極の短絡を電気的に開放することにより、脱分極を大幅に抑制できる。
【0047】
これは、圧電材料が焦電効果によって生じた電位差を短絡で消滅させることにより、分極軸の整列状態を乱すエネルギーを減少させているためであると考えられる。なお、短絡に用いる一対の電極は、分極軸と交わる方向、より好ましくは分極軸と垂直な方向に配置されていると好ましい。
【0048】
(開放)
電極の短絡を電気的に開放するとは、前記短絡した材料や工具を取り除き、前記電極間が圧電材料を介して絶縁されている状態に戻すことをいう。ここで絶縁されている状態とは、たとえば図1の圧電素子の場合には、第一の電極1と第二の電極3の間の抵抗値が1MΩ以上であることを意味する。より好ましくは、前記抵抗値は1GΩ以上である。
【0049】
本発明の圧電素子の製造方法においては、前記電極の短絡を電気的に開放する時点の温度を変化させることで、熱処理前後圧電定数保持率を任意に変化させることが可能である。すなわち、当該圧電材料の温度が、熱処理において到達最高温度に達した後、所定の温度まで下がった時点で電極の短絡を開放する際の、その所定の温度を変えることで、熱処理前後圧電定数保持率を変えることができる。
【0050】
前記電極の短絡を電気的に開放するのは、一般に当該圧電材料の温度がキュリー温度Tc以下に下がった時点で行うことが好ましい。キュリー温度以下で電極の短絡を電気的に開放することで熱処理前後圧電定数保持率を大きくすることができる。
【0051】
前記電極の短絡を電気的に開放する温度はTc/2以下であることがより好ましい。Tc/2以下の温度になった時点で電極の短絡を電気的に開放することで、熱処理前後圧電定数保持率を80%以上にすることができる。たとえばチタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料の場合、55℃以下で開放すると保持率を80%以上にできる。
【0052】
(フレキシブルプリント基板)
フレキシブルプリント基板とは、薄くてやわらかい絶縁材(プラスチックフィルム、ポリイミド等)と銅箔などの導電性金属から構成され、簡単に曲げることができる構造のプリント配線基板のことを意味し、特許文献2に開示されるように、電子機器に数多く使われているものである。
【0053】
フレキシブルプリント基板は本発明の圧電素子の製造方法において、圧電素子への給電部材として使用することができる。フレキシブルプリント基板は寸法精度も高く、治具等を用いることで位置決めも容易である。このため、給電部材を圧電素子に接続する位置のばらつき等によって生じる圧電性能のばらつきに起因した品質低下を抑制することができる。フレキシブルプリント基板を圧電素子に接続するには、エポキシ系接着剤等を用いて熱圧着することも可能であるが、好ましくは導電性を有する異方性導電ペースト(ACP)や異方性導電フィルム(ACF)を熱圧着することで導通不良の軽減やプロセス速度の向上を図ることができるため、量産性の点で好ましい。
【0054】
フレキシブルプリント基板の導体露出部を、例えばアルミホイルで包む、または前記導体露出部をコネクタ端子を用いた工具により短絡させた状態でフレキシブルプリント基板を熱圧着することで、本発明の圧電素子の製造方法を実現することができる。
【0055】
そして、たとえばチタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物のようにキュリー温度がフレキシブルプリント基板の熱圧着温度よりも低い圧電材料にフレキシブル基板を熱圧着する場合においても、本発明の圧電素子の製造方法を適用すると圧電定数dafterの低下を防ぐことができる。
【0056】
(振動波モータ)
本発明の振動波モータの製造方法は、本発明の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を振動体に配し、前記振動体に移動体を接触させることからなる。
【0057】
圧電素子を振動体に配するとは、例えば圧電素子と振動体を有機系接着剤により接着した状態を意味する。また振動体に移動体を接触させるとは、振動体表面と移動体表面の間に摩擦力が発生している状態を意味し、例えば加圧バネによる加圧力を用いて振動体と移動体とが互いに圧接しあうように構成することができる。
【0058】
図3は、本発明の振動波モータの製造方法により製造される振動波モータの各種構成の例をそれぞれ模式的に示す概略(一部)断面図である。圧電素子が単板からなる振動波モータを、図3(a)に示す。図3(a)の振動波モータは、振動子201、振動子201の摺動面に不図示の加圧バネによる加圧力で接触しているロータ202、ロータ202と一体的に設けられた出力軸203を有する。前記振動子201は、金属の弾性体リング2011、本発明の製造方法で製造される圧電素子2012、圧電素子2012を弾性体リング2011に接着する有機系接着剤2013(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で構成される。本発明の製造方法で製造される圧電素子2012は、不図示の第一の電極と第二の電極によって挟まれた圧電材料で構成される。
【0059】
本発明の製造方法で製造される圧電素子に位相がπ/2の奇数倍異なる二相の交番電圧を印加すると、振動子201に屈曲進行波が発生し、振動子201の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動子201の摺動面にロータ202が圧接されていると、ロータ202は振動子201から摩擦力を受け、屈曲進行波とは逆の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、出力軸203と接合されており、ロータ202の回転力で駆動される。
【0060】
圧電材料に電圧を印加すると、圧電横効果によって圧電材料は伸縮する。金属などの弾性体が圧電素子に接合している場合、弾性体は圧電材料の伸縮によって曲げられる。ここで説明された種類の振動波モータは、この原理を利用したものである。
【0061】
次に、積層構造を有した積層圧電素子を含む振動波モータを図3(b)に例示する。振動子204は、筒状の金属弾性体2041に挟まれた積層圧電素子2042よりなる。積層圧電素子2042は、不図示の複数の積層された圧電材料層と電極層により構成される素子であり、積層構造の外面(最上層と最下層)に第一の電極と第二の電極、積層構造の内面(圧電材料層間)に内部電極を有する。積層構造の上下の金属弾性体2041はボルトによって締結され、積層圧電素子2042を挟持固定し、振動子204となる。
【0062】
積層圧電素子2042に位相の異なる交番電圧を印加することにより、振動子204は互いに直交する2つの振動を励起する。この二つの振動は合成され、振動子204の先端部(金属弾性体2041の上端)を駆動するための円振動を形成する。なお、振動子204の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
【0063】
ロータ205は、加圧用のバネ206により振動子204と加圧接触し、駆動のための摩擦力を得る。ロータ205はベアリングによって回転可能に支持されている。
【0064】
(光学機器)
本発明の光学機器の製造方法は、本発明の製造方法により製造した駆動波モータの移動体に光学部材を力学的に接続することからなる。
【0065】
前記移動体に光学部材を力学的に接続するとは、移動体(ロータ)の動きを駆動力として、たとえばレンズのような光学部材を摩擦力を用いて動かすことができる状態にすることを意味する。
【0066】
図4は、本発明の光学機器の製造方法により製造される光学機器の好適な例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の主要部を模式的に示す概略断面図である。また、図5は本発明の光学機器の製造方法により製造される光学機器の好適な例である一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒の構成を模式的に示す概略分解斜視図である。カメラとの着脱マウント711には、固定筒712と、直進案内筒713、前群鏡筒714が固定されており、前群鏡筒714により前群レンズ701が保持されている。これらは交換レンズ鏡筒の固定部材である。
【0067】
直進案内筒713には、フォーカスレンズ702用の光軸方向の直進案内溝713aが形成されている。フォーカスレンズ702を保持した後群鏡筒716には、径方向外方に突出するカムローラ717a、717bが軸ビス718により固定されており、このカムローラ717aがこの直進案内溝713aに嵌まっている。
【0068】
直進案内筒713の内周には、カム環715が回動自在に嵌まっている。直進案内筒713とカム環715とは、カム環715に固定されたローラ719が、直進案内筒713の周溝713bに嵌まることで、光軸方向への相対移動が規制されている。このカム環715には、フォーカスレンズ702用のカム溝715aが形成されていて、カム溝715aには、前述のカムローラ717bが同時に嵌まっている。
【0069】
固定筒712の外周側にはボールレース727により固定筒712に対して定位置回転可能に保持された回転伝達環720が配置されている。回転伝達環720には、回転伝達環720から放射状に延びた軸720fにコロ722が回転自由に保持されており、このコロ722の径大部722aがマニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bと接触している。またコロ722の径小部722bは接合部材729と接触している。コロ722は回転伝達環720の外周に等間隔に6つ配置されており、それぞれのコロが上術の関係で構成されている。
【0070】
マニュアルフォーカス環724の内径部には低摩擦シート(ワッシャ部材)733が配置され、この低摩擦シートが固定筒712のマウント側端面712aとマニュアルフォーカス環724の前側端面724aとの間に挟持されている。また、低摩擦シート733の外径面はリング状とされマニュアルフォーカス環724の内径724cと径嵌合しており、さらにマニュアルフォーカス環724の内径724cは固定筒712の外径部712bと径嵌合している。低摩擦シート733は、マニュアルフォーカス環724が固定筒712に対して光軸周りに相対回転する構成の回転環機構における摩擦を軽減する役割を果たす。
【0071】
なお、コロ722の径大部722aとマニュアルフォーカス環のマウント側端面724bとは、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、加圧力が付与された状態で接触している。また同じく、波ワッシャ726が振動波モータ725をレンズ前方に押圧する力により、コロ722の径小部722bと接合部材729の間も適度な加圧力が付与された状態で接触している。波ワッシャ726は、固定筒712に対してバヨネット結合したワッシャ732によりマウント方向への移動を規制されている。波ワッシャ726が発生するバネ力(付勢力)は、振動波モータ725、さらにはコロ722に伝わり、マニュアルフォーカス環724を固定筒712のマウント側端面712aに押し付ける力ともなる。つまり、マニュアルフォーカス環724は、低摩擦シート733を介して固定筒712のマウント側端面712aに押し付けられた状態で組み込まれている。
【0072】
従って、不図示の制御部により振動波モータ725が固定筒712に対して回転駆動されると、接合部材729がコロ722の径小部722bと摩擦接触しているため、コロ722が軸720f中心周りに回転する。コロ722が軸720f回りに回転すると、結果として回転伝達環720が光軸周りに回転する(オートフォーカス動作)。
また、不図示のマニュアル操作入力部からマニュアルフォーカス環724に光軸周りの回転力が与えられると以下のように作用する。
【0073】
すなわち、マニュアルフォーカス環724のマウント側端面724bがコロ722の径大部722aと加圧接触しているため、摩擦力によりコロ722が軸720f周りに回転する。コロ722の径大部722aが軸720f周りに回転すると、回転伝達環720が光軸周りに回転する。このとき振動波モータ725は、ロータ725cとステータ725bの摩擦保持力により回転しないようになっている(マニュアルフォーカス動作)。
【0074】
回転伝達環720には、フォーカスキー728が2つ互いに対向する位置に取り付けられており、フォーカスキー728がカム環715の先端に設けられた切り欠き部715bと嵌合している。従って、オートフォーカス動作或いはマニュアルフォーカス動作が行われて、回転伝達環720が光軸周りに回転させられると、その回転力がフォーカスキー728を介してカム環715に伝達される。カム環が光軸周りに回転させられると、カムローラ717aと直進案内溝713aにより回転規制された後群鏡筒716が、カムローラ717bによってカム環715のカム溝715aに沿って進退する。これにより、フォーカスレンズ702が駆動され、フォーカス動作が行われる。
【0075】
ここで本発明の製造方法により製造される光学機器として、一眼レフカメラの交換レンズ鏡筒について説明したが、コンパクトカメラ、電子スチルカメラ等、カメラの種類を問わず、駆動部に振動波モータを有する光学機器の製造方法に適用することができる。
【0076】
(電子機器)
本発明の電子機器の製造方法は、部材に圧電素子を備えた電子機器の製造方法であって、本発明の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を部材に設けることからなる。
【0077】
すなわち、本発明の製造方法により製造される電子機器は、本発明の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子を備えた圧電音響部品を含むものである。そのような圧電音響部品にはスピーカ、ブザー、マイク、表面弾性波(SAW)素子が含まれる。
【0078】
図6は、本発明の製造方法により製造される電子機器の好適な一例であるデジタルカメラを、その本体931の前方から見た様子を模式的に示す全体斜視図である。本体931の前面には光学装置901、マイク914、ストロボ発光部909、補助発光部916が配置されている。マイク914は本体内部に組み込まれているため、破線で示している。マイク914の前方には外部からの音を拾うための穴が設けられている。
【0079】
本体931の上面には電源ボタン933、スピーカ912、ズームレバー932、合焦動作を実行するためのレリーズボタン908が配置される。スピーカ912は本体931内部に組み込まれており、破線で示してある。スピーカ912の前方には音声を外部へ伝えるための穴が設けられている。
【0080】
本発明の製造方法により製造される圧電素子は、マイク914、スピーカ912、また表面弾性波素子、の少なくとも一つに用いられる。
【0081】
本発明の製造方法により製造される電子機器としてデジタルカメラについて説明したが、本発明の製造方法により製造される電子機器としては、音声再生機器、音声録音機器、携帯電話、情報端末等各種の圧電音響部品を有する電子機器の製造方法にも適用することができる。
【0082】
以上のとおり、本発明の圧電素子の製造方法により製造した圧電素子は、振動波モータ、光学機器および電子機器の製造方法に好適に用いられる。
【実施例
【0083】
次に、実施例を挙げて本発明の圧電素子の製造方法を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0084】
圧電材料としてPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、NN-BT(ニオブ酸ナトリウムと少量のチタン酸バリウムの固溶体)およびBCTZ-Mn(Ca、ZrおよびMnを添加したチタン酸バリウム)を用い、熱処理の際に電極の短絡を行う本発明の圧電素子の製造方法の実施例および熱処理の際に電極の短絡を行わない比較例において、それぞれ圧電素子を製造した。製造に用いた圧電材料の圧電特性として、キュリー温度Tcおよび室温(25℃)での圧電定数d31を評価した。キュリー温度Tcは、周波数1kHzの微小交流電界を用いて測定温度を変えながら誘電率を測定し、誘電率が極大を示す温度から求めた。また、圧電定数d31は熱処理の前後において共振-反共振法によって測定し、熱処理を行う前の圧電定数d31の絶対値dbeforeと熱処理を行った後の圧電定数d31の絶対値dafterを求めた。そして、dbeforeに対するdafterの割合dbefore/dafter×100(これを「熱処理前後圧電定数保持率」(%)とよぶ)を用いて、それぞれの製造方法を評価した。各実施例または比較例における製造条件および評価結果を表1および表2に示す。
【0085】
(圧電素子の製造)
(実施例1)
本実施例および以下の各実施例における操作手順を図7に模式的に示す。図7(a)に示す圧電材料2としては市販のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用い、これに図7(b)に示すように銀ペーストによって上下2つの電極1、3を設けた。次に、図7(c)に示すように、導電性の金属部および金属板で構成された工具4を用いて2つの電極1、3を短絡させ、その状態で加熱処理を行って圧電素子を製造した。加熱処理はホットプレートの上に工具4を置いて行った。加熱処理時の圧電材料2に設けた上側の電極1の表面の最高到達温度は315℃であり、そのまま315℃において1分間の温度保持を行った。加熱処理後、圧電素子を載せたまま工具4をホットプレートから降ろし、金属板の上で自然冷却を行った。前記電極表面の温度が35℃となった時点で図7(d)に示すように工具を取り外すことで前記2つの電極の短絡を電気的に開放した。
【0086】
(実施例2)
加熱処理時の電極表面の最高到達温度を325℃としたこと以外は実施例1と同様にして圧電素子を製造した。
【0087】
(実施例3)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を155℃としたこと以外は実施例2と同様にして圧電素子を製造した。
【0088】
(実施例4)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を250℃としたこと以外は実施例2と同様にして圧電素子を製造した。
【0089】
(実施例5)
図7(a)に示す圧電材料2として、Ca、ZrおよびMnを添加したチタン酸バリウム(BCTZ-Mn)を用い、これに図7(b)に示すように銀ペーストによって上下2つの電極1、3を設けた。次に、図7(c)に示すように工具4を用いて2つの電極1、3を短絡させ、その状態で加熱処理を行って圧電素子を製造した。加熱処理はホットプレートの上に工具4を置いて行った。加熱処理時の圧電材料2に設けた上側の電極1の表面の最高到達温度は115℃であり、そのまま115℃において1分間の温度保持を行った。加熱処理後、圧電素子を載せたまま工具4をホットプレートから降ろし、金属板の上で自然冷却を行った。前記電極表面の温度が35℃となった時点で図7(d)に示すように工具を取り外すことで前記2つの電極の短絡を電気的に開放した。なお、GDMS(グロー放電質量分析)を用いた半定量分析により圧電材料2に含まれる不純物元素を測定したところ、圧電材料2に含まれるPbは50ppm未満であった。
【0090】
(実施例6)
加熱処理時の電極表面の最高到達温度を128℃としたこと以外は実施例5と同様にして圧電素子を製造した。
【0091】
(実施例7)
加熱処理時の電極表面の最高到達温度を140℃としたこと以外は実施例5と同様にして圧電素子を製造した。
【0092】
(実施例8)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を103℃としたこと以外は実施例7と同様にして圧電素子を製造した。
【0093】
(実施例9)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を89℃としたこと以外は実施例7と同様にして圧電素子を製造した。
【0094】
(実施例10)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を75℃としたこと以外は実施例7と同様にして圧電素子を製造した。
【0095】
(実施例11)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を63℃としたこと以外は実施例7と同様にして圧電素子を製造した。
【0096】
(実施例12)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を55℃としたこと以外は実施例7と同様にして圧電素子を製造した。
【0097】
(比較例1)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例1と同様にして圧電素子を製造した。
【0098】
(比較例2)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例2と同様にして圧電素子を製造した。
【0099】
(比較例3)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例5と同様にして圧電素子を製造した。
【0100】
(比較例4)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例7と同様に圧電素子を製造した。
【0101】
また、実施例1~12および比較例1~4における圧電材料表面(電極表面)の最高到達温度および電極間短絡開放温度(電極間の短絡を開放した時点での温度)と熱処理前後圧電定数保持率との関係を図10に示す。
【0102】
【表1】
(注)材料は下記の化合物を示す。
PZT=Pb(Zr,Ti)O
BCTZ-Mn=(Ba0.84Ca0.16)(Ti0.94Zr0.06)O (100重量部+Mn(0.26重量部))
【0103】
(実施例1~12および比較例1~4の各製造方法の評価)
(実施例1と比較例1との比較)
実施例1および比較例1では、圧電材料の到達最高温度315℃はPZTのキュリー温度310℃よりも高かったが、実施例1では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は98%であり、80%を大きく超える良好な結果が得られた。一方、比較例1では、熱処理において電極間を開放させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は42%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に低下した。
【0104】
(実施例2と比較例2との比較)
実施例2では、圧電材料の到達最高温度325℃はPZTのキュリー温度310℃よりも15℃高かったが、実施例2では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は86%であり、80%を十分に超える良好な結果が得られた。一方比較例2では、熱処理前後圧電定数保持率は34%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に大きく低下した。
【0105】
(実施例1と実施例2との比較)
実施例2では、圧電材料の到達最高温度325℃は実施例1の製造方法(315℃)よりも高かったが、熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は86%であり、実施例1の98%には及ばないが80%以上を維持している。
【0106】
(実施例2から実施例4の比較)
実施例2から実施例4では、圧電材料の到達最高温度325℃はPZTのキュリー温度310℃よりも15℃高かったが、これらの実施例ではいずれも熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は86%、82%、61%と全て50%以上であった。また、電極の短絡を開放させる温度によって、熱処理前後圧電定数保持率は変化した。特に、電極の短絡の電気的な開放を圧電材料の温度が(Tc/2)以下に下がった時点で実施することで熱処理前後圧電定数保持率が80%以上となり、圧電材料の圧電定数の低下を抑制して圧電特性を十分に発現させることが可能である。
【0107】
(実施例5と比較例3との比較)
実施例5および比較例3では、圧電材料の到達最高温度115℃はBCTZ-Mnのキュリー温度110℃よりも5℃高かったが、実施例5では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は99%であり、80%を大きく超える良好な結果が得られた。一方、比較例3では、熱処理において電極間を開放させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は43%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に低下した。
【0108】
(実施例5から実施例7の比較)
実施例5から実施例7の製造方法では、圧電材料の到達最高温度115℃、128℃、140℃といずれもBCTZ-Mnのキュリー温度110℃よりも高かったが、これらの実施例では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率はそれぞれ99%、99%、95%であり、全て80%を大きく超える良好な結果が得られた。
【0109】
(実施例7と比較例4との比較)
実施例7および比較例4では、圧電材料の到達最高温度140℃はBCTZ-Mnのキュリー温度110℃よりも30℃も高かったが、実施例7では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は95%であり、80%を超える良好な結果が得られた。一方、比較例4では、熱処理において電極間を開放させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は23%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に大きく低下した。
【0110】
(実施例7から実施例12の比較)
実施例7から実施例12の製造方法では、圧電材料の到達最高温度140℃はBCTZ-Mnのキュリー温度110℃よりも30℃高かったが、これらの実施例ではいずれも熱処理において電極間を短絡させているため、熱処理前後圧電定数保持率はそれぞれ95%、54%、65%、74%、79%、87%であり、全て50%以上だった。また、短絡を開放させる温度によって熱処理前後圧電定数保持率は変化した。特に、電極の短絡の電気的な開放を圧電素子の温度が(Tc/2)以下に下がった時点で実施することで熱処理前後圧電定数保持率が80%以上となり、圧電材料の圧電定数の低下を抑制して圧電特性を十分に発現させることが可能である。
【0111】
(実施例14)
図7(a)に示す圧電材料2として、ニオブ酸ナトリウムと少量のチタン酸バリウムの固溶体(NN-BT)を用い、これに図7(b)に示すように銀ペーストによって上下2つの電極1、3を設けた。次に、図7(c)に示すように工具4を用いて2つの電極1、3を短絡させ、その状態で加熱処理を行って圧電素子を製造した。加熱処理はホットプレートの上に工具4を置いて行った。加熱処理時の圧電材料2に設けた上側の電極1の表面の最高到達温度は195℃であり、そのまま195℃において1分間の温度保持を行った。加熱処理後、圧電素子を載せたまま工具4をホットプレートから降ろし、金属板の上で自然冷却を行った。前記電極表面の温度が35℃となった時点で図7(d)に示すように工具を取り外すことで前記2つの電極の短絡を電気的に開放した。なお、GDMS(グロー放電質量分析)を用いた半定量分析により圧電材料2に含まれる不純物元素を測定したところ、圧電材料2に含まれるPbは50ppm未満であった。
【0112】
(実施例15)
加熱処理時の電極表面の最高到達温度を200℃としたこと以外は実施例14と同様にして圧電素子を製造した。
【0113】
(実施例16)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を95℃としたこと以外は実施例15と同様にして圧電素子を製造した。
【0114】
(実施例17)
電極の短絡を電気的に開放する時点の電極表面の温度を110℃としたこと以外は実施例15と同様にして圧電素子を製造した。
【0115】
(比較例6)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例14と同様にして圧電素子を製造した。
【0116】
(比較例7)
圧電材料2に設けた2つの電極1、3を開放したまま加熱処理したこと以外は実施例15と同様にして圧電素子を製造した。
【0117】
また、実施例14~17および比較例6~7における圧電材料表面(電極表面)の最高到達温度および電極間短絡開放温度(電極間の短絡を開放した時点での温度)と熱処理前後圧電定数保持率との関係を図11に示す。
【0118】
【表2】
(注)材料は下記の化合物を示す。
NN-BT=0.88NaNbO+0.12BaTiO
【0119】
(実施例14~17および比較例6~7の各製造方法の評価)
(実施例14と比較例6との比較)
実施例14および比較例6では、圧電材料の到達最高温度195℃はNN-BTのキュリー温度190℃よりも高かったが、実施例14では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は98%であり、80%を大きく超える良好な結果が得られた。一方、比較例6では、熱処理において電極間を開放させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は42%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に低下した。
【0120】
(実施例15と比較例7との比較)
実施例15では、圧電材料の到達最高温度200℃はNN-BTのキュリー温度190℃よりも10℃高かったが、実施例15では熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は93%であり、80%を十分に超える良好な結果が得られた。一方比較例7では、熱処理前後圧電定数保持率は32%であり、圧電定数は熱処理前の50%未満に大きく低下した。
【0121】
(実施例14と実施例15との比較)
実施例15では、圧電材料の到達最高温度200℃は実施例14の製造方法(195℃)よりも高かったが、熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は93%であり、実施例14の98%には及ばないが80%以上を維持している。
【0122】
(実施例15から実施例17の比較)
実施例15から実施例17では、圧電材料の到達最高温度200℃はNN-BTのキュリー温度190℃よりも10℃高かったが、これらの実施例ではいずれも熱処理において電極間を短絡させていたため、熱処理前後圧電定数保持率は93%、83%、70%と全て50%以上であった。また、電極の短絡を開放させる温度によって、熱処理前後圧電定数保持率は変化した。特に、電極の短絡の電気的な開放を圧電材料の温度が(Tc/2)以下に下がった時点で実施することで熱処理前後圧電定数保持率が80%以上となり、圧電材料の圧電定数の低下を抑制して圧電特性を十分に発現させることが可能である。
【0123】
(振動波モータの製造)
(実施例13)
圧電材料としてBCTZ-Mnを用いて図8(a)に示す円環形状の圧電材料1001を作製した。円環形状の圧電材料1001に、銀ペーストのスクリーン印刷によって、一方の面には図8(c)に示すように共通電極1002を、もう一方の面には図8(b)に示すように、12の分極用電極1033、3つのグランド電極1005、および1つの検知相電極1008を形成した。この時、図8(b)に示す各電極の隣り合う電極間の距離は0.5mmとした。
【0124】
次に、共通電極1002と、分極用電極1033、グランド電極1005、および検知相電極1008の間に、直流電源を用いて空気中で分極処理を行った。電圧は1.0kV/mmの電界がかかる大きさとし、温度および電圧印加時間はそれぞれ100℃、60分とした。また、電圧は降温中40℃になるまで印加した。
【0125】
次にグランド電極1005に設けてあるスルーホール1041の内側に導電材料を設けて、共通電極1002と短絡させた。
【0126】
次に図8(d)に示すように、分極用電極1033を繋ぐため、銀ペーストによって接続電極1019a,1019bを形成し、圧電素子1020を得た。銀ペーストの乾燥は圧電材料1001のキュリー温度より十分低い温度で行った。ここで、駆動相電極1003の抵抗値を回路計(電気テスター)で測定した。テスターの一方は検知相電極1008に最も近い分極用電極1033上に、もう一方は駆動相電極1003のうち円環形状の周方向に最も離れた分極用電極1033上に接触させた。その結果、電極の抵抗値は0.6Ωであった。
【0127】
次に、図8(e)に示すように、圧電素子1020に、異方性導電ペースト(ACP)を用いてフレキシブルプリント基板1009を熱圧着し給電部材付き圧電素子1030を作製した。前記熱圧着の際にはフレキシブルプリント基板の先端部分の配線をコネクタにより短絡処理を行い、前記熱圧着後の冷却工程において駆動相電極の表面の温度が40℃になってから前記コネクタを外し電極を開放させた。また給電部材を配した駆動相電極の表面は、前記熱圧着の際に140℃に到達していた。
【0128】
続けて、上で作製した給電部材付き圧電素子1030に、図9に示すように、SUS製の振動板1013を熱圧着し、振動板1013とすべてのグランド電極1005を銀ペーストからなる短絡配線1010で接続し、振動波モータ用ステータ1040を作製した。振動板の熱圧着および銀ペーストの乾燥は圧電材料1001のキュリー温度より十分低い温度で行った。図9(a)は振動波モータ用ステータ1040の一方の面の概略平面図、図9(b)は図9(a)中のB-B線の位置の振動波モータ用ステータ1040の断面図、図9(c)は、図9(a)と圧電素子1020を挟んで反対側から見たもう一方の面の概略平面図である。
【0129】
以上のようにして作製した振動波モータ用ステータ1040に移動体を加圧接触させて振動波モータを製造した。駆動相電極への交番電圧の印加に応じたモータの回転数が確認された。また検知相電極からは回転数に応じた電圧値が検出され、検知相電極から検出される電圧値を用いてモータの回転数を制御することができた。
【0130】
実施例1~12および実施例14~17で製造した圧電素子に同様の条件でフレキシブルプリント基板を熱圧着して製造した振動波モータも同様なモータ回転挙動を示した。
【0131】
(比較例5)
グランド電極1005と共通電極1002を開放した状態でフレキシブルプリント基板を熱圧着したこと以外は実施例13と同様にして給電部材付き圧電素子を作製した。
【0132】
続けて、上で作製した給電部材付き圧電素子1030に、図9に示すように、SUS製の振動板1013を熱圧着し、振動板1013とすべてのグランド電極1005を銀ペーストからなる短絡配線1010で接続し、振動波モータ用ステータ1040を作製した。振動板の熱圧着および銀ペーストの乾燥は圧電材料1001のキュリー温度より十分低い温度で行った。図9(a)は振動波モータ用ステータ1040の一方の面の概略平面図、図9(b)は図9(a)中のB-B線の位置の振動波モータ用ステータ1040の断面図、図9(c)は図9(a)と圧電素子1020を挟んで反対側から見たもう一方の面の概略平面図である。
【0133】
以上のようにして作製した振動波モータ用ステータ1040に移動体を加圧接触させて振動波モータを製造した。駆動相電極への交番電圧の印加に応じたモータの回転数は実施例13による圧電素子の製造方法を用いた振動波モータよりも小さかった。また検知相電極からは回転数に応じた電圧値が検出できず、検知相電極から検出される電圧値を用いたモータの回転数の制御はできなかった。
【0134】
(光学機器の製造)
実施例13と同様にして製造した振動波モータの移動体に光学部材を力学的に接続して図4(a)に示される光学機器を製造した。交番電圧の印加に応じたオートフォーカス動作が確認された。
【0135】
(電子機器の製造)
実施例13と同様にして製造した給電部材付き圧電素子を部材として設けた、図6に示される電子機器を作製した。交番電圧の印加に応じたスピーカ動作が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の圧電素子の製造方法を用いることで、高温での熱処理における圧電材料の圧電定数の大幅な低下を防ぐことができる。特にキュリー温度よりも高い温度での熱処理工程においても、圧電材料の圧電定数の大幅な低下を防ぐことができる。本発明の圧電素子の製造方法は、圧電素子を用いた振動波モータ、光学機器、電子機器の製造においても利用することができる。
【符号の説明】
【0137】
1 第一の電極
2 圧電材料
3 第二の電極
4 工具
51 第一の電極
53 第二の電極
54 圧電材料層
55 内部電極
501 第一の電極
503 第二の電極
504 圧電材料層
505 内部電極
201 振動子
2011 弾性体リング
2012 圧電素子
2013 有機系接着剤
202 ロータ
203 出力軸
204 振動子
2041 金属弾性体
2042 積層圧電素子
205 ロータ
206 加圧用のバネ
701 前群レンズ
702 フォーカスレンズ
711 着脱マウント
712 固定筒
713 直進案内筒
714 前群鏡筒
715 カム環
716 後群鏡筒
717 カムローラ
718 軸ビス
719 ローラ
720 回転伝達環
722 コロ
724 マニュアルフォーカス環
725 振動波モータ
726 波ワッシャ
727 ボールレース
728 フォーカスキー
729 接合部材
732 ワッシャ
733 低摩擦シート
901 光学装置
908 レリーズボタン
909 ストロボ発光部
912 スピーカ
914 マイク
916 補助発光部
931 本体
932 ズームレバー
933 電源ボタン
1001 圧電材料
1002 共通電極
1003 分極用電極
1004 分極用電極
1005 グランド電極
1008 短絡配線
1009 フレキシブルプリント基板
1010 短絡配線
1013 振動板
1019 接続電極
1020 圧電素子
1030 給電部材付き圧電素子
1033 分極用電極
1040 振動波モータ用ステータ
1041 スルーホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12