(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】緑内障排水用インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
A61F9/007 160
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018037733
(22)【出願日】2018-03-02
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】10 2017 104 543.0
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506252990
【氏名又は名称】ロヴィアック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Rowiak GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ニコリチ
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・ルバチョフスキー
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-501177(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0013555(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0058615(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0257931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
房水を排出可能な減圧弁(11)を備えた緑内障排水用インプラント(10、10’)において、
前記減圧弁(11)が減圧蓋(13)を有し、前記減圧蓋は、強膜(101)中に埋め込まれうる前記インプラント(10、10’)のベースプレート(12)と可動に連結されていて、
前記減圧蓋(13)は、前記減圧蓋(13)を、手術後の定着段階の最中またはその後に非侵襲で動かすことができる操作領域を有し、
前記操作領域が、とりわけ二方向記憶効果を備えた形状記憶材料(17’)の形態での熱機械効果を有する領域(17)を有し、その結果、前記減圧蓋(13)は、非侵襲で温度変化を用いて動かされうるものであって、
前記温度変化は、熱、光、赤外線放射、又は、誘導によって引き起こされることを特徴とする、インプラント(10、10’)。
【請求項2】
前記インプラント(10、10’)は、最大0.6mmの厚さの円板形状で形成されていることを特徴とする、請求項
1に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項3】
前記減圧蓋(13)は、弾性ヒンジとして機能するストッパ領域(12’)を介して、可動で前記ベースプレート(12)と連結されていることを特徴とする請求項1
又は2に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項4】
前記ベースプレート(12)は、段付き形状で形成されていて、前記ベースプレート(12)は、前記減圧蓋(13)のストッパ領域(12’)中で、前記ストッパ領域(12’)に対向する前記減圧蓋(13)の開口領域(12”)中よりも厚さが大きいことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項5】
前記減圧蓋(13)は、前記ベースプレート(12)により取り囲まれていることを特徴とする請求項1から
4のいずれか1項に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項6】
前記減圧蓋(13)はシリコンを有することを特徴とする請求項1から
5のいずれか1項に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項7】
前記減圧蓋(13)は、角膜(107)の側で表面構造を有することを特徴とする請求項1から
6のいずれか1項に記載のインプラント(10、10’)。
【請求項8】
前記減圧弁(11)は、眼圧が20mBar(15mmHg)を上回る場合に初めて房水を排出するように形成されていることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか1項に記載のインプラント(10、10’)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、房水が排出されうる減圧弁を備えた緑内障排水用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は世界中で最も頻度の高い失明原因のうちの一つである。これにより、網膜神経節細胞が不可逆的に死滅する。この原因となる眼内圧力上昇には、薬剤またはレーザ治療が機能しない場合には、手術介入により対応せねばならない。この場合、線維柱帯切除術は、最も頻繁に用いられる方法である。しかし、この方法が失敗した場合または禁忌の場合には、排水用インプラント手段の採用が選択肢となる。
【0003】
一般的に、現在のインプラントシステムは、弁の有無で区別されうる。弁なしのインプラントは、降圧後の閉鎖が欠如していることにより、手術後に低圧症となる危険性が追加的に存在する。いわゆるアーメドインプラントは、従来技術で公知の低圧症を予防する弁を備えたインプラントである。しかし、長期的な経過から見ると線維柱帯切除術と比較して有意な差異は示されない。
【0004】
特許文献1からは、水路を用いて房水がフィルタ部材に供給され、かつスリット弁を用いて排出される緑内障インプラントが公知である。スリット弁は、房内空間から眼の外側表面への流れを制御するために機能する。眼内圧力が、この弁が開いて房水の排水が行われるまたは強化される圧力に達するまでは、このスリット弁は閉じられたままである。この公知の装置のスリット弁は、圧力に応じた排水制御を行うために形成されている。このスリット弁は、タンパク質の堆積により塞がれることがありえ、このような場合には、この塞がりを解消するために外部からの作用により動かされるようには形成されていない。大きさの比率、インプラント固定の損傷の危険性および感染の危険性がゆえに、この種の外部からの操作の目的で、この弁を機械的に触ることはできず、もしこれを行うと、患者にとって危険となるであろう。とりわけ本発明の意味合いでは、機械的に変形可能な構造のスリットを備えたこの種の構造形式の弁は、弁を開かせることができる操作領域を有する弁としては理解されえないが、この理由は、この種の弁は、このように設けられておらず、このように使えないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開2016/0058615A1号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明の課題は、長期での経過が改良された緑内障排水用インプラントを作ることである。
【0007】
この課題は、房水を排出可能な減圧弁を備えた緑内障排水用インプラントであって、この減圧弁が減圧蓋を有し、この減圧蓋が、強膜中に埋め込まれうるインプラントのベースプレートと可動に連結されていて、この減圧蓋は、この減圧蓋を、手術後の定着段階の最中またはその後に非侵襲で動かすことができる操作領域を有する、緑内障排水用インプラントにより達成される。
【0008】
本発明に含まれる認識は、インプラントという異物に対する反応として、しばしば(コラーゲン形成により引き起こされる)線維血管性のインプラントの被包が生じ、これが重大な合併症となるという点である。人体は、傷ついた後に(すなわち手術介入後にも)、欠陥のある傷口領域を閉じようとする。この理由から、手術における傷の領域においてより多くの炎症メディエータが送られ、これにより、欠損がある場合であっても組織の治癒を引き起こすことができる。炎症メディエータの形成により、房水(これは、栄養供給と共に眼圧を制御するために、眼中に形成される液体である)中に線維が生じる(コラーゲン線維の形成)とともにタンパク質が増加し、かつ炎症細胞が形成される。これは、眼中に置かれた緑内障排水用インプラントを塞ぐことにもつながり、また手術で作られたろ過を確保するべきスクレラ蓋が大きくなりすぎることにも至りうる。これにより、房水の所望の排水が遮断され、この結果、さらに圧力が上昇する。
【0009】
本発明による緑内障排水用インプラントは、従来技術とは異なり、減圧蓋中に設けられた操作領域により、線維被包を遮断することができるとの利点を提供する。これにより、非侵襲移動により、減圧弁の望ましくない機能制限を小さくしまたはこれを完全に避けることが可能になる。有利なことに、細胞毒素、例えばマイトマイシンCまたは5フルオロウラシルの採用を省くことができ、したがって、後の段階で恐れられる無菌性眼内炎を防ぐことができる。
【0010】
減圧蓋とベースプレートとは、共になって減圧弁を形成する。減圧蓋は、この際、弁の閉鎖部分として作用する。減圧蓋のベースプレートに対する相対移動を介して弁が開閉される。減圧蓋が開くとは、本発明の意味合いでは、減圧蓋が、所定の領域中ではベースプレートから持ち上げられる一方で、別の領域中では可動でこのベースプレートと連結され続けることを意味する。
【0011】
ある好適な構成では、操作領域は熱機械効果を有する領域を有し、その結果、減圧蓋は、非侵襲で温度変化を用いて動かされうる。好ましくは、操作領域は形状記憶材料の形態で提供され、またはこの種の材料を有する。この形状記憶材料が二方向記憶効果を有する場合に有利である。形状記憶材料は、形状記憶ポリマーまたは形状記憶合金であり、またはそれぞれこれらを有しうる。
【0012】
減圧蓋を動かすとは、本発明の枠内では、とりわけ減圧蓋の付近において熱を導入することにより減圧蓋を開き、冷却時に減圧蓋が自動的に閉じることであると理解される。自動的に閉じるとは、必ずしも減圧蓋の完全な閉鎖を意味するには及ばない。むしろ、インプラントまたは減圧蓋が、冷却時に必要に応じてわずかに開いた状態を採り、これにより、房水を十分に排水させるように設けることができる。
【0013】
減圧蓋を動かすとは本発明の枠内では、熱機械効果を有する領域として形成された操作領域に対して、とりわけ、効果的にこの領域中に入れられる熱量を用いて減圧蓋を開くこと、および、熱機械効果を有する領域から熱量を取り去った後に、減圧蓋を自動的に閉じることであると理解されうる。あるいは、効果的にこの領域から取り除かれる熱量を用いて減圧蓋を開くこと、およびこれに対応して熱量をこの領域中に再び供給することにより減圧蓋を自動的に閉じることが実現されうる。
【0014】
自動的に閉じるとは、必ずしも減圧蓋の完全な閉鎖を意味するには及ばない。むしろ、インプラントまたは減圧蓋が、人間の体温において、必要に応じて、わずかに開いた状態を採り、これにより、房水を十分に排水させるように設けることができる。
【0015】
ある好適な構成では、緑内障排水用インプラントの減圧蓋は、操作領域を有することができ、これが、熱機械効果を有する領域として形成されている。このために、有利な場合には、形状記憶合金を用いることができる。この場合、とりわけ安全性における利点がある。このようにして、減圧蓋は、入れられた熱量により活性化され、かつ開けられうる。
【0016】
ある好適な構成では、インプラントには、排水ホースはない。
【0017】
熱機械領域が形状記憶合金として形成されている場合に有利であることが明らかである。熱機械領域、とりわけ金属プレートレットとして形成された熱機械領域は、減圧蓋中に完全に閉じ込めることができる。熱弾性領域は、例えばニチノールを有することができ、または金属合金を有することができる。有利な場合には、形状記憶材料形態での熱機械効果を有する領域は、減圧蓋中に完全に閉じ込めることができる。
【0018】
インプラントは、円板形状で形成されている場合に有利であることが明らかである。このインプラントは、好ましくは厚さが最大0.8mmであり、および/または、幅もしくは直径が最大6mmである。このようにして、インプラントは、縁領域またはシュレム管の付近に置くことができ、コスト高となる排水管を省くことができる。
【0019】
さらなるある好適な構成では、減圧蓋は、弾性ヒンジを介して、可動でベースプレートと連結されている。これにより、特に小型で保守があまり必要ではないインプラントの構成が可能になる。減圧蓋とベースプレートとは、一体的に形成することが可能である。
【0020】
ベースプレートが段付き形状で形成されている場合に特に有利であることが明らかになる。ベースプレートが段付き形状で形成されていて、このベースプレートの段が、眼の半径方向に付けられている場合、結膜またはテノン嚢と減圧蓋との癒着を回避するのに好都合である。
【0021】
さらなるある好適な構成では、減圧蓋は、ベースプレートにより取り囲まれている。好ましくは、ベースプレートはリング形状で形成されていて、減圧蓋が円形で形成されている。あるいは、ベースプレートは枠形状に形成することができる。この場合、減圧蓋は長方形形状または正方形の外側輪郭を有する。
【0022】
減圧蓋が、シリコンを有する場合、特に好適には、熱機械効果を有する領域を除いて、シリコンからなる場合に有利であることが明らかである。同様に、全緑内障排水用インプラントが、熱機械効果を有する領域を除いて、シリコンからなりうる。
【0023】
減圧蓋は、角膜の側で表面構造を有する場合に有利であることが明らかである。基本的に、この表面構造は、角膜とは逆の側にも設けることができ、または両側に設けられていることもできる。
【0024】
特に好適なある構成では、減圧弁は、眼圧が15mmHg(約20mBar)を上回る場合に初めて房水を排出するように形成されている。換言すれば、この減圧弁は、眼圧を制御するように形成されている。
【0025】
本発明の課題は、緑内障排水用インプラントを人間のまたは動物の眼中に埋め込む方法であって、以下の工程、すなわち、
・ 排水路を有する強膜床を眼の強膜中に置く工程と、
・ 緑内障排水用インプラントを強膜床に入れる工程であって、ベースプレートが強膜床を水密で閉じるようにする、工程と、
・ 手術後のインプラントの定着段階の最中またはその後で、温度勾配を生成するエネルギー源を用いて減圧蓋を動かす工程と
を備えた方法によっても達成されうる。
【0026】
この方法は、緑内障排水用インプラントに関連して記載された特徴によっても相応の仕方で有利に構成されうる。
【0027】
したがって、この方法中で用いられた緑内障排水用インプラントの減圧蓋は、熱機械効果を有する領域として形成された操作領域を有する。
【0028】
この方法のある好適な構成では、熱量の供給(熱機械効果を有する領域の温度上昇)は、光、好ましくは赤外光の照射により行われ、この光は、周囲の組織によって吸収されないまたはわずかしか吸収されない。インプラントの材料またはインプラントの一部分を通る光線の吸収により、温度が上昇する。熱的作用は、所望の方法で局所的に集中させることができるが、これは、インプラントの温められるべき領域で用いられる波長を強く吸収する色付けを行うことにより行われる。
【0029】
あるいはまたは追加的に、温度上昇を、電流を介して誘導的に行うことも可能である。この場合、形状記憶材料が導電性を有して構成され、その結果外から加えられた高周波磁場を介して渦電流が中で誘導可能で、この渦電流が加熱を引き起こす。この際、力線を集中させるために、磁極片を採用し、相応に配置することが可能である。
【0030】
さらなる利点が、以下の図の描写から明らかになる。図中には、本発明の様々な実施形態が図示されている。図、説明および請求項は、多数の特徴を組み合わせて含んでいる。当業者は、これらの特徴を目的に合わせて個々で顧慮し、かつ有意義なさらなる組み合わせにまとめるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1A】眼の中の埋め込み位置にある本発明による緑内障排水用インプラントの第1の好適な実施形態を示す側方断面図である。
【
図1B】本発明による緑内障排水用インプラントの好適な実施形態の概略平面図である。
【
図2A】欠点を有する経路を備えた従来技術による緑内障排水用インプラントであって、これが埋め込み後の通常位置にあるところを示す側方断面図である。
【
図2B】欠点を有する経路を備えた従来技術による緑内障排水用インプラントであって、これが埋め込み後の通常位置にあるところを示す側方断面図である。
【
図2C】欠点を有する経路を備えた従来技術による緑内障排水用インプラントであって、これが埋め込み後の通常位置にあるところを示す側方断面図である。
【
図3A】有利な経路を備えた、埋め込み後の本発明による緑内障排水用インプラントの第2の好適な実施形態を示す図である。
【
図3B】有利な経路を備えた、埋め込み後の本発明による緑内障排水用インプラントの第2の好適な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明による緑内障排水用インプラントのある好適な構成を、ここで、
図1Aおよび
図1Bを参照して例示的に説明する。
【0033】
図1Aは、人間の眼100の縁領域付近の断面図である。
図1の上方の部分では、角膜107が認識可能であり、その下方部分では、シュレム管105が記されている。
【0034】
強膜101中には、排水路109を備えた強膜床102が作られている。この強膜床102は、例えばレーザを用いて作ることができ、または手動でも準備可能である。
【0035】
強膜床102中に埋め込まれているのは、緑内障排水用インプラント10である。このインプラント10は減圧弁として作用し、この減圧弁を介して房水が排出可能である。減圧弁として作用するインプラント10は、減圧蓋13を有し、この減圧蓋が、強膜101中に埋め込まれたインプラント10のベースプレート12と可動に連結されている。
【0036】
図1Aから見て取れるように、ベースプレート12は、強膜床102中にぴったりはめ込まれていて、側面で強膜101に対して密閉されていて、その結果、排水路109および減圧蓋13を介した経路を除いては、房水が排水されえない。
【0037】
排水路109は、強膜床102の底部に作られている。
図1A中で図示された実施形態では、インプラント10は円板形状で形成されていて、ここでは断面図で示されている。インプラントの厚さは(眼100の半径方向で)最大0.8mmであり、幅は(接線方向で)最大6mmである。
【0038】
リング形状に形成されたベースプレート12は、側方で減圧蓋13を取り囲む。減圧蓋13は、可動でストッパ領域12’を介してベースプレート12と連結されている。このストッパ領域は、弾性ヒンジとして機能する。対向する側には、減圧蓋13の開口領域12”がある。この減圧蓋13とベースプレート12とが減圧弁を形成する。減圧蓋13が開く際、これは、開口領域12”中ではベースプレートから持ち上げられる一方で、ストッパ領域12’中では可動でベースプレートと連結され続ける。
【0039】
これも同様に
図1から見て取れるように、ベースプレート12は、半径方向Rで、段付き形状で形成されていて、ベースプレート12は、ストッパ領域12’中では、ストッパ領域12’に対向する開口領域12”中よりも厚さが大きい。
【0040】
図1A中で図示された状態では、減圧蓋13はわずかに開いていて、その結果、ある房水量が、排水路109と、弁として作用するインプラントとを通って排水されうる。
【0041】
これも同様に
図1Aからわかるように、減圧蓋13は少なくとも部分的に排水路109を越えて突出していて、その結果、減圧蓋13を用いて排水路が閉鎖され、または圧力が過剰な際には解放されうる。減圧弁として作用するインプラントは、眼圧が20mBarを上回る場合に初めて房水を排出するように形成されている。
【0042】
図1Bからわかるように、減圧蓋13は、熱機械効果を有する領域17を有し、その結果、減圧蓋13を、手術後の定着段階の最中で、非侵襲で(レーザ照射または誘導的に生成された)熱を用いて動かすことができる。
【0043】
熱機械効果を有する領域17は、この図示した実施形態中では、形状記憶合金製の金属プレートレットとして形成されていて、かつ減圧蓋13とストッパ領域12’との中に完全に閉じ込められている。減圧蓋13とストッパ領域12’とは、熱機械領域を除いてシリコンからなる。
【0044】
取り付けられた通し穴20を介して、インプラントは、糸でスクレラに固定されうる。
【0045】
例えば赤外レーザ光線が熱機械効果を有する領域17の方向に照射されると、トルクが減圧蓋13に作用し、その結果、減圧蓋は、半径方向で(
図1Aでは上方向に)動き、かつこのように動かされて開かれる。
【0046】
弁の熱機械効果を有する領域が体温にまで冷えると、減圧蓋13は、弾性ヒンジとして機能するストッパ領域12’(これを介して減圧蓋13はベースプレート12と連結されている)の相応の復元により、自動的に閉じる。眼圧が20mBar未満の場合は、減圧蓋13は完全に閉じている。
【0047】
図2A~Cは、欠点のある経路を備えた従来技術による緑内障排水用インプラントであって、これが埋め込み後の通常位置にあるところを示す図である。
【0048】
ここで、
図2Aは、房水3を排水するためのインプラント4の眼中での通常位置を示す。この際、スクレラ2と小柱網5とは、外科的に穿孔9が開けられた。前眼房からインプラント開口を通って流れ出る房水3は、結膜1により押しとどめられ、通常この結膜の下に対応する水泡が形成される。さらに眼の角膜6と、虹彩8と、眼のレンズ7とが図示されている。
【0049】
図2Bには、インプラントの埋め込み直後の状態が図示されている。インプラント4は、結膜1とスクレラ2との間にある。スクレラは、外科的に設けた開口により中断され、この中で、房水3がインプラントの開口を通って外側に向かって結膜の下に達し、ここで水泡を形成する。
【0050】
図2Cは、埋め込みを行ってから数週間後の状態を示す図である。インプラントの開口は、線維堆積5’により塞がれている。房水3の自由な排水はもはや行われない。
【0051】
図3A~Bは、有利な経路を備えた埋め込み後の本発明による緑内障排水用インプラント10’の第2の好適な実施形態を示す図である。
【0052】
図3Aから見て取れるように、この緑内障排水用インプラント10’は減圧弁11’として作用し、これを介して房水3が排出されうる。減圧弁11’は減圧蓋13’を有し、これが、強膜2中に埋め込まれたインプラント10’のベースプレート12’と可動に連結されている。減圧蓋13’は、二方向記憶効果を有する形状記憶材料17’を有する熱機械効果を有する領域の形態での操作領域を有し、これを用いて減圧蓋13’を、手術後の定着段階の最中またはその後に、非侵襲で動かすことができる。減圧蓋13は、弾性ヒンジとして機能するストッパ領域を介して、可動でベースプレート12’と連結されている。減圧蓋13とベースプレート12とは、減圧弁を形成する。減圧蓋13’が開くと、この減圧蓋は、開口領域中でベースプレートから押し上げられる一方で、ストッパ領域中では、可動でベースプレートと連結され続ける。
【0053】
図3A中では、減圧蓋13’により解放されるべきインプラント10’の開口が、線維堆積5’により塞がれている。
【0054】
図3Bは、可動の減圧蓋13’が一度または数回動いた後の状態を示す図である。この移動は、堆積した線維を裂き、房水3の外側(矢印方向)への経路を解放するのに役立った。
【0055】
この際、減圧蓋13’の移動は赤外源300を用いて行われ、これを介して、熱量Wが形状記憶材料を備えた熱機械効果を有する領域17’中に入れられる。
【符号の説明】
【0056】
3 房水
5 小柱網
5’ 線維の堆積
6、107 角膜
7 眼のレンズ
8 虹彩
10、10’ 緑内障排水用インプラント
11、11’ 減圧弁として作用するインプラントの一部分
12 ベースプレート
12’ ストッパ領域
12” 開口領域
13、13’ 減圧蓋
17、17’ 熱機械効果を有する領域(形状記憶材料)
20 通り穴
100 眼
2、101 強膜(スクレラ)
102 強膜床
1、103 結膜
105 シュレム管
9、109 外科的な穿孔、排水路
300 赤外源
W 熱量