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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】圧延機及び圧延鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/62 20060101AFI20221212BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B21B37/62 A
B21C51/00 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018054478
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019166531
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】藤津 修
(72)【発明者】
【氏名】萩原 俊太
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山本 昇一
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】大山 健
【審判官】中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-88520(JP,A)
【文献】特開昭58-101307(JP,A)
【文献】特開平3-86303(JP,A)
【文献】特開2012-81507(JP,A)
【文献】特表2004-509763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/62
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第1の圧延ロール及び第2の圧延ロールと、
前記第1の圧延ロールを前記第2の圧延ロールに対して近接及び離間させるように構成された油圧シリンダと、
前記第1及び第2の圧延ロールにより圧延されている鋼材の有無を検出可能に構成された検出部と、
制御部とを備え、
前記制御部は、
比例演算手段と、
第1の積分演算手段と、
第2の積分演算手段とを備え、
圧延中の鋼材があることが前記検出部によって検出されている場合に、前記油圧シリンダの目標位置と現在位置との偏差と比例ゲインとを前記比例演算手段に乗算演算させた出力値を用いて前記第1の積分演算手段に積分演算させると共に、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力させる第1の処理と、
圧延中の鋼材があることが前記検出部によって検出されておらず且つ前記油圧シリンダを目標位置に静止させる静止制御中である場合に、前記比例演算手段の出力値を用いて前記第2の積分演算手段に積分演算させると共に、前記比例演算手段の出力値と前記第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力させる第2の処理とを実行し、
前記第1の積分演算手段における第1の時定数は前記第2の積分演算手段における第2の時定数よりも短い、圧延機。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の処理に際して、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力させることに代えて、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値と前記第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力する、請求項1に記載の圧延機。
【請求項3】
前記制御部は、鋼材の圧延が終了したことが前記検出部によって検出された場合、前記第1の積分演算手段の積分値をリセットする第3の処理をさらに実行する請求項1又は2に記載の圧延機。
【請求項4】
前記第1の時定数は0.01秒~0.5秒である、請求項1~3のいずれか一項に記載の圧延機。
【請求項5】
前記第2の時定数は1秒~30秒である、請求項1~4のいずれか一項に記載の圧延機。
【請求項6】
前記検出部は、前記第1及び第2の圧延ロールの前後にそれぞれ配置された一対のセンサである、請求項1~5のいずれか一項に記載の圧延機。
【請求項7】
一対の第1の圧延ロール及び第2の圧延ロールによる圧延中の鋼材がある場合に、前記第1の圧延ロールを前記第2の圧延ロールに対して近接及び離間させるように構成された油圧シリンダの目標位置と現在位置との偏差と、比例ゲインとを、比例演算手段に乗算演算させた出力値を用いて第1の積分演算手段が積分演算すると共に、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力する第1の工程と、
前記第1及び第2の圧延ロールによる圧延中の鋼材がなく且つ前記油圧シリンダを目標位置に静止させる静止制御中である場合に、前記比例演算手段の出力値を用いて第2の積分演算手段が積分演算すると共に、前記比例演算手段の出力値と前記第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力させる第2の工程とを含み、
前記第1の積分演算手段の第1の時定数は前記第2の積分演算手段の第2の時定数よりも短いこととを含む、圧延鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記第1の工程は、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力することに代えて、前記比例演算手段の出力値と前記第1の積分演算手段の積分値と前記第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を前記油圧シリンダに出力することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1及び第2の圧延ロールによる鋼材の圧延が終了した場合、第1の積分演算手段の積分値をリセットする第3の工程をさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の時定数は0.01秒~0.5秒である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の時定数は1秒~30秒である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1及び第2の工程では、前記第1及び第2の圧延ロールの前後にそれぞれ配置された一対のセンサにより圧延中の鋼材の有無を検出する、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧延機及び圧延鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、一対の上側ワークロール及び下側ワークロールと、バックアップロールを介して下側ワークロールを上下動させるように構成された油圧シリンダと、油圧シリンダの位置制御装置とを備える圧延機を開示している。位置制御装置は、油圧シリンダの指令位置と検出位置との差である制御偏差を比例演算する比例器と、当該制御偏差を積分する積分器と、比例器及び積分器から出力される値を加算する加算器とを含み、加算機からの出力値に基づいて油圧シリンダの位置制御を行うように構成されている。
【0003】
このように、制御部が制御偏差に対して比例演算することに加え積分演算もするので、弁中立点ずれや電気的ゼロ点ずれ等に起因するオフセット偏差が抑制される。そのため、圧延機で製造される鋼板(鋼材)の板厚精度が向上する。
【0004】
特許文献1において抑制しようとするオフセット偏差の起因となる弁中立点ずれや電気的ゼロ点ずれは、一般に、比較的長い時間をかけて徐々に生ずる傾向にある。そのため、積分器の時定数は数十秒という比較的長いオーダーで設定される(段落0024参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-088520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鋼板(鋼材)が一対のワークロールに導入されて噛み込まれる時には、鋼板(鋼材)からの反力がワークロールに急激に作用する。そのため、この場合、油圧シリンダのシリンダ位置が短時間に大きく変化する。従って、時定数の長い積分器では、このような急峻なシリンダ位置の変化に素早く対応することができない。
【0007】
そこで、特許文献1においては、急峻なシリンダ位置の変化に対して比例器を用いることとなる。しかしながら、応答性を高めるために比例ゲインを大きくしていくと、ハンチングが生じやすくなり、安定性が失われる傾向にある。従って、特許文献1の圧延機の制御系は、鋼板(鋼材)の圧延開始時において、制御量であるシリンダ位置を早期に安定状態とすることが困難であった。
【0008】
速応性を高めるためには、微分器をさらに導入することも考えられる。しかしながら、微分器は制御偏差の変化量に基づいて即座に制御量を調節するので、鋼材の違いや圧延量の違いによって偏差変化量が振動的になりやすい(ハンチングが生じやすい)懸念がある。
【0009】
そこで、本開示は、鋼材の圧延開始時において制御量の速応性及び安定性を高めることが可能な圧延機及び圧延鋼材の製造方法を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例1.本開示の一つの例に係る圧延機は、一対の第1の圧延ロール及び第2の圧延ロールと、第1の圧延ロールを第2の圧延ロールに対して近接及び離間させるように構成された油圧シリンダと、第1及び第2の圧延ロールにより圧延されている鋼材の有無を検出可能に構成された検出部と、制御部とを備える。制御部は、圧延中の鋼材があることが検出部によって検出されている場合に、油圧シリンダの目標位置と現在位置との偏差に対応する偏差量を用いて第1の積分演算手段に積分演算させると共に、第1の積分演算手段の積分値を油圧シリンダに出力させる第1の処理と、圧延中の鋼材があることが検出部によって検出されておらず且つ油圧シリンダを目標位置に静止させる静止制御中である場合に、偏差量を用いて第2の積分演算手段に積分演算させると共に、第2の積分演算手段の積分値を油圧シリンダに出力させる第2の処理とを実行する。第1の積分演算手段における第1の時定数は第2の積分演算手段における第2の時定数よりも短い。
【0011】
この場合、鋼材の非圧延時で且つ油圧シリンダの静止制御中では、比較的長い第2の時定数を有する第2の積分演算手段による第2の処理が制御部によって実行される。そのため、鋼材の非圧延時において、第2の積分演算手段は、シリンダ位置制御に長期的な変化をもたらす要素(例えば、弁中立点ずれ、電気的ゼロ点ずれ、油圧シリンダが圧延ロールから受ける荷重、油圧シリンダのヘッド側とロッド側とにそれぞれ作用する油圧の面積差、サーボ弁スプールの経年劣化によるスプールの摩耗など)が発生したときに、オーバーシュートの発生を抑制しつつシリンダ位置を目標位置に静止させておくことができる。
【0012】
一方、鋼材の圧延中では、シリンダは鋼材からの反力を受ける。そのため、鋼材の非圧延時と比較して、系の共振周波数が高くなることに伴い、系の安定性が高くなる。従って、鋼材の圧延中に用いられる第1の積分演算手段の第1の時定数を、比較的短く設定することが可能となる。そして、鋼材の圧延中にのみ、比較的短い第1の時定数を有する第1の積分演算手段による第1の処理が制御部によって実行される。そのため、第1の積分演算手段は、鋼材の圧延開始時に圧延反力により生ずるシリンダ位置の急峻な変化に素早く追従して、偏差量を適切に補正することができる。
【0013】
ところで、先述のとおり、比例器や微分器を用いる場合には、偏差変化量に即座に応答するものの時間的な調整要素が存在せず、鋼材の違いや圧延量の違いによって偏差変化量が振動的になってしまう(ハンチングが生じやすくなってしまう)。しかしながら、例1に係る圧延機によれば、比較的短い第1の時定数を有する第1の積分演算手段を用いることにより、鋼材の違いや圧延量の違いによって偏差変化量が振動的となるリスク(ハンチングが生ずるリスク)を低減しつつ、偏差量を補正することができる。
【0014】
以上、例1に係る圧延機によれば、鋼材の非圧延時において安定的にシリンダ位置を静止制御することが可能であると共に、鋼材の圧延開始時において制御量の速応性及び安定性を高めることが可能である。
【0015】
例2.例1に記載の圧延機において、制御部は、第1の処理に際して、第1の積分演算手段の積分値と第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を油圧シリンダに出力してもよい。この場合、鋼材の圧延中も、シリンダ位置を目標位置に静止させるために用いられる信号が第2の積分演算手段から出力される。換言すれば、第1の積分演算手段は、鋼材の圧延開始時における制御量の急峻な変化を制御すればよく、シリンダ位置の静止制御を行う必要がない。そのため、異なる種類の制御を第1及び第2の積分演算手段が分担して行える。従って、より精度よくシリンダ位置の制御を行うことが可能となる。
【0016】
例3.例1又は例2に記載の圧延機において、制御部は、鋼材の圧延が終了したことが検出部によって検出された場合、第1の積分演算手段の積分値をリセットする第3の処理をさらに実行してもよい。この場合、鋼材が圧延機で圧延されるたびに積分値が第1の積分演算手段から除去される。そのため、圧延機から鋼材が通り抜けた後の非圧延時にシリンダ位置の静止制御を行う場合、第1の積分演算手段の積分値が当該静止制御に影響を及ぼさない。従って、鋼材の圧延時には鋼材からの反力によるシリンダ位置の変動を抑制しつつ、非圧延時には安定的にシリンダ位置の制御を行うことが可能となる。
【0017】
例4.例1~例3のいずれか一つに記載の圧延機において、第1の時定数は0.01秒~0.5秒であってもよい。この場合、鋼材の圧延開始時において急峻に変化する制御量を第1の積分演算手段によりさらに適切に補正することが可能となる。
【0018】
例5.例1~例4のいずれか一つに記載の圧延機において、第2の時定数は1秒~30秒であってもよい。この場合、長期的に変化する制御量を第2の積分演算手段によりさらに適切に補正することが可能となる。
【0019】
例6.例1~例5のいずれか一つに記載の圧延機において、検出部は、第1及び第2の圧延ロールの前後にそれぞれ配置された一対のセンサであってもよい。
【0020】
例7.本開示の他の例に係る圧延鋼材の製造方法は、一対の第1の圧延ロール及び第2の圧延ロールによる圧延中の鋼材がある場合に、第1の圧延ロールを第2の圧延ロールに対して近接及び離間させるように構成された油圧シリンダの目標位置と現在位置との偏差量を用いて第1の積分演算手段が積分演算すると共に、第1の積分演算手段の積分値を油圧シリンダに出力する第1の工程と、第1及び第2の圧延ロールによる圧延中の鋼材がなく且つ油圧シリンダを目標位置に静止させる静止制御中である場合に、偏差量を用いて第2の積分演算手段が積分演算すると共に、第2の積分演算手段の積分値を油圧シリンダに出力させる第2の工程とを含む。第1の積分演算手段における第1の時定数は第2の積分演算手段における第2の時定数よりも短い。この場合、例1に記載の圧延機と同様の作用効果が得られる。
【0021】
例8.例7に記載の方法において、第1の工程は、第1の積分演算手段の積分値と第2の積分演算手段の積分値とを加算した値を油圧シリンダに出力することを含んでもよい。この場合、例2に記載の圧延機と同様の作用効果が得られる。
【0022】
例9.例7又は例8に記載の方法は、第1及び第2の圧延ロールによる鋼材の圧延が終了した場合、第1の積分演算手段の積分値をリセットする第3の工程をさらに含んでもよい。この場合、例3に記載の圧延機と同様の作用効果が得られる。
【0023】
例10.例7~例9のいずれか一つに記載の方法において、第1の時定数は0.01秒~0.5秒であってもよい。この場合、例4に記載の圧延機と同様の作用効果が得られる。
【0024】
例11.例7~例10のいずれか一つに記載の方法において、第2の時定数は1秒~30秒であってもよい。この場合、例5に記載の圧延機と同様の作用効果が得られる。
【0025】
例12.例7~例11のいずれか一つに記載の方法において、第1及び第2の工程では、第1及び第2の圧延ロールの前後にそれぞれ配置された一対のセンサにより圧延中の鋼材の有無を検出してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本開示に係る圧延機及び圧延鋼材の製造方法によれば、鋼材の圧延開始時において制御量の速応性及び安定性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、圧延機の概要構成を示す図である。
図2図2は、コントローラの機能構成を中心に示すブロック図である。
図3図3は、コントローラのハードウェア構成を中心に示す概略図である。
図4図4は、図1の後続の圧延機の動作を説明するための図である。
図5図5は、図4の後続の圧延機の動作を説明するための図である。
図6図6は、図5の後続の圧延機の動作を説明するための図である。
図7図7は、圧延機の動作を説明するためのフローチャートである。
図8図8(a)は時定数T1を0.1秒とし且つ時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフであり、図8(b)は時定数T1を0.2秒とし且つ時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフである。
図9図9(a)は時定数T1を0.35秒とし且つ時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフであり、図9(b)は時定数T1を0.4秒とし且つ時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフである。
図10図10(a)は時定数T1を0.45秒とし且つ時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフであり、図10(b)は積分演算手段Int1を使用せず時定数T2を1秒としたときの偏差の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に説明される本開示に係る実施形態は本発明を説明するための例示であるので、本発明は以下の内容に限定されるべきではない。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0029】
[圧延機の構成]
まず、図1及び図2を参照して、圧延機1の構成について説明する。圧延機1は、図1に示されるように、鋼材M1を圧延して圧延鋼材M2を製造するように構成されている。圧延機1は、フレーム10と、圧延ロール12,14と、油圧駆動装置16と、複数の支持ロール18と、センサSE1,SE2と、コントローラCtr(制御部)を備える。
【0030】
フレーム10は、例えば略矩形環状を呈している。フレーム10は、フレーム10の開口が鋼材M1の搬送方向と交差するように、床面上に接地されている。
【0031】
圧延ロール12(第1の圧延ロール)は、油圧駆動装置16を介してフレーム10に取り付けられている。圧延ロール12と後述する油圧シリンダ16aとの間に、少なくとも一つのバックアップロールが介在していてもよい。圧延ロール14(第2の圧延ロール)は、支持部材14aを介してフレーム10に取り付けられている。圧延ロール14は、圧延ロール12の上方に位置している。圧延ロール14と支持部材14aとの間に、少なくとも一つのバックアップロールが介在していてもよい。なお、図示しない駆動機構(例えば、油圧シリンダ、直動スクリューなど)が圧延ロール14に接続されており、コントローラCtrが当該駆動機構に指示して圧延ロール14を上下動させてもよい。
【0032】
油圧駆動装置16は、圧延ロール12を上下動させるように構成されている。すなわち、油圧駆動装置16は、圧延ロール12を圧延ロール14に対して近接及び離間させるように構成されている。油圧駆動装置16は、油圧シリンダ16aと、バルブ16bと、センサ16cとを含む。
【0033】
油圧シリンダ16aは、図2に示されるように、スリーブ16dと、シリンダヘッド16eと、ロッド16fとを含む。スリーブ16dは、内部に駆動オイルを貯留している。
シリンダヘッド16eは、スリーブ16d内においてスライド可能に構成されている。シリンダヘッド16eは、スリーブ16dのシリンダヘッド16e側の空間V1に貯留されている駆動オイルとスリーブ16dのロッド16f側の空間V2に貯留されている駆動オイルとからそれぞれ圧力を受け、これらの圧力がバランスする位置で静止する。ロッド16fの一端は、シリンダヘッド16eに取り付けられている。ロッド16fの他端は、圧延ロール12に接続されている。
【0034】
バルブ16bは、例えばサーボ弁であり、図1及び図2に示されるように、コントローラCtrからの指示に基づいて動作する。バルブ16bは、図2に示されるように、駆動オイルの空間V1,V2への供給量を調節するように構成されている。バルブ16bの動作に伴い空間V1,V2への駆動オイルの供給量が変化すると、空間V1,V2内の油圧が変化する。その結果、バルブ16bを制御することで、シリンダヘッド16eの位置(シリンダ位置)を制御できる。
【0035】
センサ16cは、図1及び図2に示されるように、シリンダヘッド16eの位置(シリンダ位置)を検出可能に構成されている。センサ16cは、例えば、シリンダヘッド16eの移動に伴う磁気的な変化を検出可能な磁気センサであってもよい。センサ16cは、検出したシリンダ位置のデータをコントローラCtrに送信する。
【0036】
複数の支持ロール18は、図1に示されるように、鋼材M1の搬送方向に沿って並ぶように配置されている。複数の支持ロール18は、コントローラCtrからの指示に基づいて、正回転又は逆回転することが可能に構成されている。そのため、複数の支持ロール18は、載置されている鋼材M1を図1の右方向及び左方向の一方向に搬送する機能を有する。
【0037】
センサSE1,SE2は、複数の支持ロール18の上方に配置されていると共に、鋼材M1の搬送方向においてフレーム10を間に置くようにフレーム10の両側近傍に配置されている。センサSE1,SE2は、これらの下方に鋼材M1が存在するか否かを検出可能に構成されている。センサSE1,SE2は、例えば赤外線センサであってもよい。
【0038】
センサSE1,SE2は、検出したデータをコントローラCtrに送信する。センサSE1,SE2の少なくとも一方が鋼材M1の存在を検出した場合、鋼材M1が一対の圧延ロール12,14の近傍に位置しているから、コントローラCtrは、鋼材M1が一対の圧延ロール12,14によって圧延されている蓋然性が高いと判断する。
【0039】
コントローラCtrは、センサ16c及びセンサSE1,SE2から受信したデータを処理して、バルブ16b及び支持ロール18の動作を制御するように構成されている。
【0040】
[コントローラの詳細]
ここで、図2を参照して、コントローラCtrの詳細について説明する。コントローラCtrのハードウェアは、例えば一つ又は複数の制御用のコンピュータにより構成される。コントローラCtrは、ハードウェア上の構成として、例えば図3に示されるように、プロセッサCtr1(演算部)と、メモリCtr2(記憶部)と、入力ポートCtr3(入力部)と、出力ポートCtr4(出力部)とを有する。コントローラCtrは、電気回路要素(circuitry)で構成されていてもよい。
【0041】
プロセッサCtr1は、メモリCtr2と協働してプログラムを実行し、入力ポートCtr3及び出力ポートCtr4を介した信号の入出力を実行することで、後述する各機能モジュールを構成する。すなわち、プロセッサCtr1は、センサ16c,SE1,SE2からの入力信号に基づいて、バルブ16b及び支持ロール18を駆動するための出力信号を生成するように構成されている。メモリCtr2は、プログラム、入力信号、出力信号等を記憶するように構成されている。入力ポートCtr3は、センサ16c,SE1,SE2からの入力信号をプロセッサCtr1に送信するように構成されている。出力ポートCtr4は、プロセッサCtr1で生成された出力信号をバルブ16b及び支持ロール18に送信するように構成されている。
【0042】
コントローラCtrは、図2に示されるように、機能モジュールとして、比較手段20と、比例演算手段Prと、積分演算手段Int1,Int2と、加算器22,24と、スイッチSW1,SW2,SW3と、リセット手段REとを含む。なお、これらの機能モジュールは、プログラムによりソフトウェア上で実現されていてもよいし、電気回路要素(例えば論理回路)又はこれを集積した集積回路により実現されていてもよい。
【0043】
比較手段20は、シリンダ位置の目標値R(目標位置)と、センサ16cによって検出されたシリンダ位置の現在値Y(現在位置)との偏差Eを算出するように構成されている。すなわち、比較手段20は、目標値Rから現在値Yを減算することで、偏差E(偏差量)を算出する(式1参照)。
E=R-Y ・・・(1)
【0044】
比例演算手段Prは、比較手段20の後段において比較手段20と直列に接続されている。比例演算手段Prは、偏差Eに比例ゲインKpを乗算して、出力値Q1(偏差量)を算出するように構成されている(式2参照)。
Q1=Kp×E ・・・(2)
【0045】
積分演算手段Int1(第1の積分演算手段)は、比例演算手段Prの後段において比例演算手段Prと直列に接続されている。積分演算手段Int1は、出力値Q1を制御開始(τ=0秒)から現時点(τ=t秒)まで時間で積分した値に、積分ゲインKi1を乗算して、積分値I1を算出するように構成されている(式3参照)。
【数1】

積分演算手段Int1の時定数T1(第1の時定数)は、後述する積分演算手段Int2の時定数T2(第2の時定数)よりも短く設定されている。時定数T1は、例えば、0.01秒~0.5秒であってもよいし、0.1秒~0.3秒であってもよい。
【0046】
加算器22は、比例演算手段Pr及び積分演算手段Int1の後段においてこれらと直列に接続されている。加算器22は、出力値Q1と積分値I1とを加算して、出力値Q2を算出するように構成されている(式4参照)。
Q2=Q1+I1 ・・・(4)
【0047】
積分演算手段Int2(第2の積分演算手段)は、加算器22の後段において加算器22と直列に接続されている。積分演算手段Int2は、出力値Q2を制御開始(τ=0秒)から現時点(τ=t秒)まで時間で積分した値に、積分ゲインKi2を乗算して、積分値I2を算出するように構成されている(式5参照)。
【数2】

上記のとおり、積分演算手段Int2の時定数T2は、積分演算手段Int1の時定数T1よりも長く設定されている。時定数T2は、例えば、1秒~30秒であってもよいし、5秒~10秒であってもよい。
【0048】
加算器24は、加算器22及び積分演算手段Int2の後段においてこれらと直列に接続されている。加算器24は、出力値Q2と積分値I2とを加算して、指令値Qを算出するように構成されている(式6参照)。
Q=Q2+I2 ・・・(6)
【0049】
スイッチSW1は、比例演算手段Prの後段で且つ積分演算手段Int1の前段に配置されている。スイッチSW1は、センサSE1,SE2の検出状態に応じてON及びOFFが切り替わるように構成されている。そのため、スイッチSW1がOFFの場合には、出力値Q1が積分演算手段Int1に入力されない。なお、加算器22には、スイッチSW1のON/OFFにかかわらず、比例演算手段Prからの出力値Q1と、積分演算手段Int1から出力された積分値I1とが入力される。
【0050】
スイッチSW2は、加算器22の後段で且つ積分演算手段Int2の前段に配置されている。スイッチSW2は、センサSE1,SE2の検出状態に応じてON及びOFFが切り替わるように構成されている。そのため、スイッチSW2がOFFの場合には、出力値Q2が積分演算手段Int2に入力されない。
【0051】
スイッチSW3は、加算器22の後段で且つ積分演算手段Int2の前段に配置されている。図2に示される形態では、スイッチSW3は、スイッチSW2の後段で且つ積分演算手段Int2の前段に配置されている。スイッチSW3は、油圧シリンダ16aが静止制御中であるか否かに応じてON及びOFFが切り替わるように構成されている。具体的には、油圧シリンダ16aが静止制御中である場合には、スイッチSW3がONに切り替えられる。一方、油圧シリンダ16aが静止制御中でない場合(例えば、油圧シリンダ16aの移動制御中である場合)には、スイッチSW3がOFFに切り替えられる。スイッチSW3がOFFの場合には、出力値Q2が積分演算手段Int2に入力されない。なお、加算器24には、スイッチSW2,SW3のON/OFFにかかわらず、加算器22からの出力値Q2と、積分演算手段Int2から出力された積分値I2とが入力される。
【0052】
ここで、油圧シリンダ16aの静止制御とは、圧延ロール12からの重量が油圧シリンダ16aに作用した状態で、油圧シリンダ16aが所定の目標位置に静止するように、コントローラCtrによって油圧シリンダ16aを制御することをいう。一方、油圧シリンダ16aの移動制御とは、圧延ロール12,14の間隔を変更するために、シリンダ位置の目標値Rを所望の目標値に徐々に変更しつつ、シリンダ位置を変位させる制御をいう。
【0053】
リセット手段REは、積分演算手段Int1に接続されている。リセット手段REは、センサSE1,SE2の検出状態に応じて、積分演算手段Int1の積分値I1を0にリセットするように構成されている。リセット手段REは、条件が満たされたときに、積分値I1を直ちに0にリセットしてもよいし、積分値I1が徐々に0に近づくように積分値I1を変化させながら積分値I1を0にリセットしてもよい。
【0054】
[圧延鋼材の製造方法]
続いて、図1図2及び図4図7を参照して、圧延機1により鋼材M1を圧延して圧延鋼材M2を製造する方法について説明する。
【0055】
まず、コントローラCtrは、油圧シリンダ16aが静止制御中であるか否かを判断する(図7のステップS11参照)。例えば、コントローラCtrは、シリンダ位置の目標値Rが所望の目標値に到達しているか否かにより、油圧シリンダ16aが静止制御中であるか否かを判断してもよい。
【0056】
シリンダ位置の目標値Rが所望の目標値に到達していない場合には、コントローラCtrは、油圧シリンダ16aが移動制御中であると判断して(図7のステップS11でNO)、スイッチSW3をOFFに切り替える(図7のステップS12参照)。その後、ステップS11に戻り、油圧シリンダ16aが静止制御中でない場合(移動制御中である場合)には、ステップS11,S12の処理が繰り返される。この場合、積分演算手段Int1,Int2への入力が0となり、積分演算手段Int1,Int2において積分演算処理が行われない。そのため、油圧シリンダ16aの移動制御中における制御量の変化によって積分値I1,I2が影響を受けないので、鋼材M1の圧延開始時に圧延反力により生ずるシリンダ位置の急峻な変化を適切に補正することができる。
【0057】
一方、シリンダ位置の目標値Rが所望の目標値に到達している場合には、コントローラCtrは、油圧シリンダ16aが静止制御中であると判断して(図7のステップS11でYES)、スイッチSW3をONに切り替える(図7のステップS13参照)。
【0058】
次に、コントローラCtrは、センサSE1,SE2が共にOFFであるか否かを判断する(図7のステップS14参照)。例えば図1に示されるように、支持ロール18によって鋼材M1が一対の圧延ロール12,14に向けて搬送されているものの圧延ロール12,14に到達していない場合、センサSE1,SE2が共にOFFとなる(図7のステップS14でYES)。この場合、コントローラCtrは、鋼材M1が非圧延中であると判断する。
【0059】
コントローラCtrは、鋼材M1が非圧延中であると判断すると、スイッチSW1をOFFとし且つスイッチSW2をONにする(図7のステップS15参照;第2の処理;第2の工程)。このとき、出力値Q1は積分演算手段Int1によって積分されないが、出力値Q2は積分演算手段Int2によって積分される。そのため、出力値Q2が出力値Q1に等しくなるので、指令値Qは出力値Q1と積分値I2とが加算された値となる(式7参照)。
Q=Q1+I2 ・・・(7)
その後、再びステップS14に戻り、鋼材M1が非圧延中である間、ステップS14,S15の処理が繰り返される。
【0060】
なお、鋼材M1の非圧延中で且つ油圧シリンダ16aの静止制御中では、出力値Q1が全て積分演算手段Int2に記憶される。その後、油圧シリンダ16aの静止制御によりシリンダ位置が定常状態となった場合、目標値Rと現在値Yとが一致することとなるので、出力値Q1がゼロになり、指令値Qは積分値I2と等しくなる。そのため、積分演算手段Int2は、油圧シリンダ16aを所定位置に静止させるための出力を全て記憶する。
【0061】
一方、例えば図4及び図5に示されるように、支持ロール18によって搬送された鋼材M1が一対の圧延ロール12,14に到達している場合、センサSE1,SE2の少なくとも一方がONとなる(図7のステップS14でNO)。この場合、コントローラCtrは、鋼材M1が圧延中であると判断する。
【0062】
コントローラCtrは、鋼材M1が圧延中であると判断すると、スイッチSW1をONとし且つスイッチSW2をOFFにする(図7のステップS16参照;第1の処理;第1の工程)。このとき、出力値Q2は積分演算手段Int2によって積分されないが、積分演算手段Int2の積分値I2の加算器24への出力は継続される。そのため、指令値Qは、出力値Q1と、積分値I1と、積分値I2とが加算された値となる(式8参照)。
Q=Q1+I1+I2 ・・・(8)
なお、ここでの積分値I2は、スイッチSW2がOFFであるので、鋼材M1の非圧延中に積分演算手段Int2に入力された出力値Q2のみに基づく。すなわち、積分値I2は、鋼材M1の圧延開始直前における油圧シリンダ16aの静止制御のための出力を保持し続ける。
【0063】
次に、コントローラCtrは、センサSE1,SE2が共にOFFであるか否かを判断する(図7のステップS17参照)。鋼材M1が圧延中であれば(図7のステップS17でNO)、再びステップS16に戻る。すなわち、鋼材M1の圧延中は、ステップS16,S17の処理が繰り返される。
【0064】
このとき、積分演算手段Int1は、相対的に短く設定された時定数T1で出力値Q1を積分するので、油圧シリンダ16aに作用する圧延反力に対抗する油圧シリンダ16aにおける出力を短時間で記憶して出力する。この動作により、積分演算手段Int1は、鋼材M1の圧延開始時に圧延反力により生ずるシリンダ位置の急峻な変化に素早く追従して、偏差量を適切に補正することができるようになる。
【0065】
一方、例えば、図6に示されるように、一対の圧延ロール12,14で圧延された圧延鋼材M2が支持ロール18によって圧延ロール12,14の下流側に搬送されると、センサSE1,SE2が共にOFFとなる(図7のステップS17でYES)。この場合、コントローラCtrは、鋼材M1の圧延が完了して圧延鋼材M2が製造され、鋼材M1の非圧延中になったと判断する。
【0066】
このとき、コントローラCtrは、リセット手段REに指示して、積分演算手段Int1の積分値I1を0にリセットする(図7のステップS18参照;第3の処理;第3の工程)。次に、コントローラCtrは、ステップ11に戻り、スイッチSW1をOFFとし且つスイッチSW2をONにする。以降は、支持ロール18によって後続の鋼材M1が圧延ロール12,14に搬送されると、上述の処理が繰り返される。
【0067】
[作用]
以上のような本実施形態では、鋼材M1の非圧延時で且つ油圧シリンダ16aの静止制御中では、比較的長い時定数T2を有する積分演算手段Int2による積分演算が行われる。そのため、鋼材M1の非圧延時において、積分演算手段Int2は、シリンダ位置制御に長期的な変化をもたらす要素が発生したときに、オーバーシュートの発生を抑制しつつシリンダ位置を目標位置に静止させておくことができる。
【0068】
一方、鋼材M1の圧延中では、油圧シリンダ16aは鋼材M1からの反力を受ける。そのため、鋼材M1の非圧延時と比較して、系の共振周波数が高くなることに伴い、系の安定性が高くなる。従って、鋼材M1の圧延中に用いられる積分演算手段Int1の時定数T1を、比較的短く設定することが可能となる。そして、鋼材M1の圧延中にのみ、比較的短い時定数T1を有する積分演算手段Int1による積分演算が行われる。そのため、積分演算手段Int1は、鋼材M1の圧延開始時に圧延反力により生ずるシリンダ位置の急峻な変化に素早く追従して、出力値Q1を適切に補正することができる。
【0069】
ところで、先述のとおり、比例器や微分器を用いる場合には、偏差変化量に即座に応答するものの時間的な調整要素が存在せず、鋼材M1の違いや圧延量の違いによって偏差変化量が振動的になってしまう(ハンチングが生じやすくなってしまう)。しかしながら、本実施形態に係る圧延機によれば、比較的短い時定数T1を有する積分演算手段Int1を用いることにより、鋼材M1の違いや圧延量の違いによって偏差変化量が振動的となるリスク(ハンチングが生ずるリスク)を低減しつつ、偏差量を補正することができる。
【0070】
以上より、本実施形態に係る圧延機1によれば、鋼材M1の非圧延時において安定的にシリンダ位置を静止制御することが可能であると共に、鋼材M1の圧延開始時において制御量の速応性及び安定性を高めることが可能である。
【0071】
本実施形態では、鋼材M1の圧延中において、積分演算手段Int1の積分値I1と積分演算手段Int2の積分値I2とを加算した値が油圧シリンダ16aのバルブ16bに出力される。そのため、鋼材M1の圧延中も、シリンダ位置を目標位置に静止させるために用いられる信号が積分演算手段Int2から出力される。換言すれば、積分演算手段Int1は、鋼材M1の圧延開始時における制御量の急峻な変化を制御すればよく、シリンダ位置の静止制御を行う必要がない。従って、異なる種類の制御を積分演算手段Int1,Int2が分担して行える。その結果、より精度よくシリンダ位置の制御を行うことが可能となる。
【0072】
本実施形態では、鋼材M1の圧延が終了したことがセンサSE1,SE2によって検出された場合、積分演算手段Int1の積分値I1をリセット手段REが0にリセットしている。そのため、鋼材M1が圧延機1で圧延されるたびに積分値I1が積分演算手段Int1から除去される。従って、圧延機1から鋼材M1が通り抜けた後の非圧延時にシリンダ位置の静止制御を行う場合、積分値I1が当該静止制御に影響を及ぼさない。その結果、鋼材M1の圧延時には鋼材M1からの反力によるシリンダ位置の変動を抑制しつつ、非圧延時には安定的にシリンダ位置の制御を行うことが可能となる。
【0073】
本実施形態では、時定数T1が0.01秒~0.5秒の間で設定されうる。そのため、鋼材M1の圧延開始時において急峻に変化する制御量を積分演算手段Int1によりさらに適切に補正することが可能となる。
【0074】
本実施形態では、時定数T2が1秒~30秒の間で設定されうる。そのため、長期的に変化する制御量を積分演算手段Int2によりさらに適切に補正することが可能となる。
【0075】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。例えば、上記の実施形態では、比例演算手段Pr及び積分演算手段Int1,Int2が直列に接続されていたが、比例演算手段Prが積分演算手段Int1,Int2に対して並列に接続されていてもよい。すなわち、積分演算手段Int1,Int2が偏差Eを積分してもよい。
【0076】
本実施形態では、下方に位置する圧延ロール12に油圧駆動装置16が接続されていたが、上方に位置する圧延ロール14に油圧駆動装置16が駆動されており、本実施形態と同様の制御が圧延ロール14に対して実行されてもよい。圧延ロール12,14の双方にそれぞれ油圧駆動装置16が駆動されており、本実施形態と同様の制御が圧延ロール12,14に対して実行されてもよい。
【0077】
本実施形態では、センサSE1,SE2によって圧延中の鋼材の存在を検出していたが、圧延中の鋼材の存在を検出することが可能な他の種々の検出部を用いてもよい。例えば、支持ロール18の動作(例えば、回転角、回転速度など)を監視し、当該動作に基づいて鋼材の位置を推定するように構成された検出部を用いてもよい。あるいは、検出部は、圧延荷重を検出可能に構成された荷重センサと、荷重センサで検出された荷重が所定の閾値(例えば、50トン)を超えた場合に鋼材の圧延中であると判断するように構成されたプロセッサCtr1とを含んでいてもよい。またあるいは、検出部は、油圧シリンダの圧力を検出可能に構成された圧力検出器と、圧力検出器で検出された圧力に基づいて荷重を算出し、当該算出した荷重が所定の閾値(例えば、50トン)を超えた場合に鋼材の圧延中であると判断するように構成されたプロセッサCtr1とを含んでいてもよい。
【実施例
【0078】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
上記の実施形態に係る圧延機1の実機を用いて、以下に示す条件で鋼材M1を圧延ロール12,14で圧延し、鋼材M1の圧延開始時における偏差Eの収束の様子を確認した。
実施例1:時定数T1=0.1秒、 時定数T2=1秒
実施例2:時定数T1=0.2秒、 時定数T2=1秒
実施例3:時定数T1=0.35秒、時定数T2=1秒
実施例4:時定数T1=0.4秒、 時定数T2=1秒
実施例5:時定数T1=0.45秒、時定数T2=1秒
比較例 :積分演算手段Int1を無効とし且つ積分演算手段Int2を常に有効とし、時定数T2を1秒に設定
【0080】
実施例1の結果を図8(a)に示す。実施例1では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが139msecで収束した。実施例2の結果を図8(b)に示す。実施例2では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが360msecで収束した。
【0081】
実施例3の結果を図9(a)に示す。実施例3では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが432msecで収束した。実施例4の結果を図9(b)に示す。実施例4では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが464msecで収束した。実施例5の結果を図10(a)に示す。実施例5では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが475msecで収束した。比較例の結果を図10(b)に示す。比較例では、鋼材M1の圧延開始時において、偏差Eが907msecで収束した。
【0082】
以上より、実施例1~5によれば、鋼材M1の圧延開始時において制御量の速応性及び安定性を高められることが確認された。
【符号の説明】
【0083】
1…圧延機、12…圧延ロール(第1の圧延ロール)、14…圧延ロール(第2の圧延ロール)、16…油圧駆動装置、16a…油圧シリンダ、16b…バルブ、16c…センサ、Ctr…コントローラ(制御部)、E…偏差(偏差量)、Int1…積分演算手段(第1の積分演算手段)、Int2…積分演算手段(第2の積分演算手段)、Pr…比例演算手段、Q1…出力値(偏差量)、RE…リセット手段、SE1,SE2…センサ(検出部)、SW1,SW2…スイッチ、T1…時定数(第1の時定数)、T2…時定数(第2の時定数)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10