IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本バイリーン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/446 20210101AFI20221212BHJP
   H01M 50/44 20210101ALI20221212BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20221212BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221212BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20221212BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M50/446
H01M50/44
H01M50/443 M
H01M50/434
H01G9/02
H01G11/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018066219
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019175827
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-302341(JP,A)
【文献】特開2012-256478(JP,A)
【文献】特開2013-235809(JP,A)
【文献】特開2002-042867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 9/02
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているとともに、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、電池構成時に電解液を吸液し、膨潤する高分子電解質ポリマーを有する電気化学素子用セパレータであり、前記高分子電解質ポリマー量が、電気化学素子用セパレータ全体の2~18mass%を占めることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項2】
不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているとともに、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、電池構成時に電解液を吸液し、膨潤する高分子電解質ポリマーを有する電気化学素子用セパレータであり、前記不織布基材が、ベース不織布の空隙に、短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ複合不織布であることを特徴とする、電気化学素子用セパレータ。
【請求項3】
高分子電解質ポリマー量が、電気化学素子用セパレータ全体の2~18mass%を占めることを特徴とする、請求項記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項4】
無機粒子がシリカ及び/又はアルミナであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータ。
【請求項5】
不織布基材構成繊維として、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型、軽量化に伴い、その電源である電池に対しても、小型、軽量、かつ、高エネルギー密度化の要望が強い。リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いため、このような要望を満足できる電池として期待されている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池のセパレータとして、ポリオレフィン微孔膜を使用するのが一般的であった。これは、電池の外部短絡等により異常な大電流が流れたときに電池温度が著しく上昇して、可燃性ガスの発生や電池の破裂や発火を防ぐため、その熱によってポリオレフィン微孔膜が収縮又は溶融し、微孔を閉塞してイオン透過性を遮断する機能(シャットダウン機能)を兼ね備えていると考えられているためである。しかしながら、温度の上昇とともに、セパレータの幅方向に熱収縮して幅方向の寸法が小さくなり、セパレータの幅方向端部と接触していた電極が露出してしまい、短絡を引き起す懸念があった。或いは、温度の上昇によりセパレータが溶融してしまい、発火に至ることがあった。
【0004】
そのため、ポリオレフィン微孔膜に無機粒子をコーティングすることで、温度が上昇した場合であっても、ポリオレフィン微孔膜の熱収縮を抑え、短絡を防止することが提案されている。
【0005】
しかしながら、このように無機粒子をコーティングしたセパレータは電極との結着性に劣るため、「多孔性基材と、前記多孔性基材の少なくとも一面に形成され、かつ、無機物粒子と第1バインダー高分子との混合物を備えてなる多孔性有機-無機コーティング層と、及び前記多孔性有機-無機コーティング層の表面に第2バインダー高分子が分散され、散在した多数の非コーティング領域を有してなる有機コーティング層とを備えてなり、前記第1バインダー高分子が、(a)側鎖にアミン基またはアミド基の少なくとも1つ以上を含む第1単量体ユニットと、及び(b)炭素数が1ないし14のアルキル基を有する(メタ)アクリレートからなる第2単量体ユニットとを備えた共重合体を含んでなるセパレータ。」(特許文献1)が提案されている。このセパレータは電極との結着力を増大できるものであると考えられるが、過放電時におけるリチウムのデンドライトを防止することができず、別の意味での短絡を防止することができないものであった。
【0006】
別の電気化学素子として、例えば、リチウムイオンキャパシタがあり、負極活物質として、負極電位を十分に低下させる観点から、リチウムをドープすることが望ましいが、充放電によりリチウムのデンドライトが成長し、内部短絡が発生しやすくなるように、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子においても、デンドライトを防止することができず、短絡が発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2014-505344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況下においてなされたもので、デンドライトによる短絡防止性に優れる電気化学素子用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、[1]不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているとともに、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを有することを特徴とする、電気化学素子用セパレータである。
【0010】
なお、[2]高分子電解質ポリマー量が、電気化学素子用セパレータ全体の2~18mass%を占めるのが好ましい。
【0011】
また、[3]無機粒子がシリカ及び/又はアルミナであるのが好ましい。
【0012】
更に、[4]不織布基材が、ベース不織布の空隙に、短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ複合不織布であるのが好ましい。
【0013】
更に、[5]不織布基材構成繊維として、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を含むのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
[1]詳細な機序は不明であるが、過放電となった場合であっても、リチウムのデンドライトを防止することができ、再度、充放電が可能であるという、従来の常識に反する著しく優れた効果を奏する。また、不織布基材の緻密化には限界があるが、不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているとともに、不織布基材の内部空隙における、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを有し、緻密な構造であり、高分子電解質ポリマーと電解液の組合せによっては、高分子電解質ポリマーが電池構成時に電解液を吸液し、膨潤することで空隙を有効に塞ぎ、金属イオンの拡散を防ぐバリア層として機能するため、デンドライトによる短絡防止性に優れている。更に、無機粒子を含んでいるため、耐熱性に優れ、電気化学素子用セパレータが溶融又は収縮しにくいため、安全性に優れている。
【0015】
[2]高分子電解質ポリマー量が、電気化学素子用セパレータ全体の2~18mass%を占めると、過放電となった場合であっても、リチウムのデンドライトを防止することができ、再度、充放電が可能であるという、著しく優れた効果を奏する。
【0016】
[3]無機粒子がシリカ及び/又はアルミナであると、過放電となった場合であっても、リチウムのデンドライトを防止することができ、再度、充放電が可能であるという、著しく優れた効果を奏する。
【0017】
[4]不織布基材が、ベース不織布の空隙に、短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ複合不織布であると、不織布基材の孔径が均一かつ緻密な構造であるため、デンドライトによる短絡防止性により優れている。
【0018】
[5]不織布基材構成繊維として、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を含んでいると、電気化学素子用セパレータの収縮又は溶融による短絡又は発火がより生じにくい。また、電気化学素子用セパレータ製造時に充分に乾燥し、水分を除去できるため、サクイル寿命の長い電気化学素子を製造しやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」と表記することがある)は、電解液の保持性に優れているように、また、セパレータの強度を保持することができるように、不織布基材を有する。
【0020】
この不織布基材を構成する繊維の樹脂組成は特に限定するものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ユリア系樹脂、エポキシ系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)などの有機樹脂を挙げることができる。これらの中でも、低水分率で、耐電解液性に優れる、繊維表面が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂から構成された繊維(繊維両末端部を除く)であるのが好ましい。
【0021】
なお、不織布基材構成繊維は前述のような有機樹脂1種類から構成されていても、2種類以上から構成されていても良い。例えば、2種類以上から構成されている場合、繊維の横断面における樹脂の配置状態としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。本発明の不織布基材においては、繊維同士が結合した状態にあり、不織布基材の内部空隙を保持しやすいことによって、無機粒子、バインダポリマー及び高分子電解質ポリマーの保持性に優れているように、不織布基材構成繊維は2種類以上の有機樹脂から構成されており、繊維表面が低融点樹脂から構成されている繊維を含んでいるのが好ましい。特に、繊維の横断面における樹脂の配置状態が芯鞘型又は海島型であると、芯成分又は島成分によって繊維形態を維持しつつ、繊維表面全体(繊維両末端部を除く)を占める低融点樹脂によって充分に融着することができるため好適である。
【0022】
また、セパレータの収縮又は溶融による短絡又は発火がより生じにくく、また、セパレータ製造時に充分に乾燥して水分を除去でき、サクイル寿命の長い電気化学素子を製造しやすいように、不織布基材構成繊維として、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を含んでいるのが好ましい。このような耐熱性繊維としては、例えば、スチレン系繊維、ポリエーテル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリイミド系繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリアミド系繊維、エポキシ系繊維、ポリスルホン系繊維、フッ素系繊維、セルロース、ポリベンゾイミダゾール繊維を挙げることができ、特に、ポリアミド系繊維である全芳香族ポリアミド繊維、又はポリエステル系繊維である全芳香族ポリエステル繊維であると、耐熱性に優れ、低水分率で耐電解液性に優れていることに加えて、繊維径の小さい繊維、又はフィブリルを有するパルプ状繊維であることができることにより、不織布基材の孔径が均一かつ緻密な構造となり、デンドライトによる短絡防止性に優れているため好適である。このような耐熱性繊維は前記性能に優れているように、不織布基材構成繊維の5mass%以上含まれているのが好ましく、10mass%以上含まれているのがより好ましく、15mass%以上含まれているのが更に好ましく、20mass%以上含まれているのが更に好ましい。なお、「融点」はJIS K 7121-1987に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる融解温度をいい、「分解温度」はJIS K 7120-1987に規定されている熱重量測定を行い、絶乾状態の試験片の質量が5%減量した時点での温度をいう。
【0023】
また、不織布基材構成繊維の横断面形状は円形であっても良いし、非円形であっても良い。非円形の例としては、例えば、略三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などを挙げることができる。
【0024】
本発明の不織布基材を構成する繊維の繊維径は特に限定するものではないが、電気絶縁性に優れているように、また、電解液の保持性に優れているように、0.1~20μmであるのが好ましく、0.5~16μmであるのがより好ましく、0.5~13μmであるのが更に好ましい。なお、繊維径の異なる2種類以上の繊維を含んでいると、緻密な構造の不織布基材であることができるため好適である。例えば、繊維径が0.1~4μmの繊維と繊維径が4~20μmの繊維とを含んでいると、緻密な構造を有し、電気絶縁性に優れるセパレータとなりやすい。なお、「繊維径」は不織布基材又はセパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の最も短い長さを意味する。
【0025】
また、不織布基材構成繊維の繊維長は繊維が均一に分散しており、均一に電解液を保持しやすいように、0.1~20mmであるのが好ましく、0.5~15mmであるのがより好ましく、1~10mmであるのが更に好ましい。なお、「繊維長」は不織布基材又はセパレータの主面における電子顕微鏡写真を観察した時の、繊維の伸長する方向における長さを意味する。
【0026】
なお、不織布基材構成繊維はフィブリルを有するパルプ状繊維であっても良いし、フィブリルを有しない繊維であっても良いが、パルプ状繊維であると、不織布基材の孔径が均一かつ緻密な構造であり、デンドライトによる短絡防止性により優れているため好適である。
【0027】
更に、不織布基材の構成繊維は繊維同士が結合した状態にあっても良いし、結合していない状態にあっても良いが、繊維同士が結合していると、形態安定性に優れるセパレータであることができるため、好適な態様である。このような繊維同士の結合は、例えば、前述のような低融点樹脂が繊維表面を構成する繊維による融着、未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)の加熱加圧による結晶配向に伴う変形による接着作用、繊維同士の絡合、及び/又はバインダによる接着であることができる。
【0028】
更に、本発明の不織布基材が電解液との親和性に優れ、電解液を均一に保持しやすいように、また、無機粒子がバインダポリマーによって均一に接着した状態にありやすいように、不織布基材構成繊維がポリエステル系繊維を含む場合のように疎水性繊維を含む場合、親和性基が付与されているのが好ましい。例えば、酸素及び/又は硫黄含有官能基(例えば、スルホン酸基、スルホン酸塩基、スルホフルオライド基、水酸基、カルボキシル基、又はカルボニル基など)が導入されていたり、親水性モノマーがグラフト重合されていたり、界面活性剤が付与されていたり、或いは親水性樹脂が付与されているのが好ましい。
【0029】
本発明の不織布基材を構成する繊維は、樹脂組成、樹脂組成の数、繊維の横断面における樹脂の配置状態、繊維径、繊維長、フィブリルの有無、及び/又は親和性の程度などの点で相違する、2種類以上の繊維から構成されていても良い。
【0030】
本発明の不織布基材は一層構造であっても良いし、二層以上の多層構造であっても良い。特に、ベース不織布の空隙に、短繊維及び/又はパルプ状繊維が入り込んだ一層構造又は二層構造の複合不織布であると、不織布基材の孔径が均一かつ緻密な構造であり、デンドライトによる短絡防止性により優れているため好適である。なお、この複合不織布において入り込んだ短繊維及び/又はパルプ状繊維はベース不織布構成繊維に絡合していることにより、バインダで接着していることにより、又は、入り込んだ短繊維又はパルプ状繊維とベース不織布構成繊維の少なくとも一方が融着して、ベース不織布に短繊維及び/又はパルプ状繊維が固定されていることができる。なお、ベース不織布は不織布基材の強度を保持できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、前述のような不織布構成繊維を含む湿式不織布であることができる。また、前述の通り、不織布基材は耐熱性繊維を含んでいるのが好ましいため、ベース不織布及び/又は入り込んだ短繊維及び/又はパルプ状繊維として耐熱性繊維を含んでいるのが好ましく、ベース不織布と入り込んだ短繊維及び/又はパルプ状繊維のいずれも耐熱性繊維を含んでいるのがより好ましい。
【0031】
本発明の不織布基材の目付は特に限定するものではないが、後述の無機粒子の保持性に優れているように、1g/m以上であるのが好ましく、3g/m以上であるのがより好ましく、5g/m以上であるのが更に好ましく、6g/m以上であるのが更に好ましい。なお、目付の上限は特に限定するものではないが、目付が高く、繊維量が多いと、内部抵抗が高くなる傾向があるため、30g/m以下であるのが好ましく、25g/m以下であるのがより好ましく、20g/m以下であるのが更に好ましい。なお、本発明において「目付」はJIS P8124(紙及び板紙-坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量を意味する。
【0032】
本発明の不織布基材の厚さは特に限定するものではないが、厚さが薄いことで内部抵抗が低い電気化学素子を作製しやすいように、50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、30μm以下であるのが更に好ましい。一方、厚さがが薄過ぎると強度が低下して、セパレータに亀裂が生じるなど、取り扱い性に劣る傾向があるため、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。本発明における「厚さ」は、JIS B 7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均した値をいう。
【0033】
本発明のセパレータは前述のような不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着しているため、耐熱性に優れ、セパレータが溶融又は収縮しにくいため、安全性に優れている。
【0034】
無機粒子の粒子径は不織布基材における内部空隙に存在することができ、不織布基材の内部空隙を小さくできるものであれば良く、特に限定するものではないが、3μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましく、0.8μm以下であるのが更に好ましい。なお、無機粒子の粒子径の下限値は特に限定するものではないが、0.01μm以上であるのが現実的である。
【0035】
本発明における「粒子径」とは、大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)により、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求めた値をいう。より具体的には、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示した粒子径測定データにおける、粒子の累積値50%点の粒子径D50(以降、D50と略して称する)を粒子径とする。なお、測定に使用する測定液は温度25℃に調整し、25℃の純水を散乱強度のブランクとして用いる。
【0036】
なお、無機粒子の粒子径分布は特に限定するものではないが、無機粒子の粒子径分布が広過ぎると、無機粒子が不均一に存在し、セパレータの孔径にバラツキが生じ、電気絶縁性が低下する傾向があるため、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上、かつ(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、本発明における「粒子径分布」は、前述した動的光散乱法で測定し、測定強度から得られた粒子径測定データから求める。
【0037】
本発明で使用する無機粒子の組成は特に限定するものではないが、例えば、SiO(シリカ)、Al(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、TiO、SnO、BaTiO、ZrO、スズ-インジウム酸化物(ITO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物などを挙げることができる。これらの中でも、シリカ、アルミナは過放電となった場合であっても、リチウムのデンドライトを防止することができ、再度、充放電が可能になりやすいため好適である。なお、不織布基材中に、上述のような組成の異なる2種類以上の無機粒子が含まれていても良い。例えば、シリカ粒子及びアルミナ粒子が含まれていても良い。また、上述のような2種類以上の組成からなる無機粒子、例えば、シリカ-アルミナ粒子が含まれていても良い。
【0038】
なお、無機粒子の形状は特に限定するものではないが、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状(例えば、テトラポット状など)、平板状、多面体形状、羽毛状、不定形形状などを挙げることができる。特に、真球状であると、不織布基材の内部空隙に最密充填しやすく、セパレータの孔径を小さくすることができるため好適である。
【0039】
特に、無機粒子として、無機粒子を調製可能な原料の粉塵雲を、例えば、空気、酸素、塩素、窒素などの反応ガス雰囲気下で爆燃させ、無機粒子を製造する方法(例えば、特開昭60-255602号公報に開示の方法など)により得た無機粒子(以下、「爆燃無機粒子」と表記することがある)であるのが好ましい。爆燃無機粒子は真球状形状を有し、また、水分量が少なく、電気化学素子の性能を低下させにくいためである。
【0040】
本発明のセパレータは不織布基材の内部空隙に無機粒子を有するものであるが、内部空隙だけではなく、不織布基材の表面を構成する繊維上に堆積した無機粒子を含んでいても良い。
【0041】
このような無機粒子量は比重により無機粒子の総体積が異なるため、特に限定するものではないが、不織布基材の内部空隙に無機粒子が充分に充填された状態であり、好ましくは不織布基材表面に無機粒子が堆積した状態にあり、電解液の保持性に優れているように、次の式で定義される無機粒子体積比率(Vr)が0.1以上であるのが好ましく、0.15以上であるのがより好ましい。
【0042】
Vr=Iv/Fv
式中、Ivは無機粒子の総体積を意味し、次の式から得られる値であり、Fvは不織布基材構成繊維の総体積を意味し、次の式から得られる値である。
Iv=It/Is
Fv=Ft/Fs
式中、Itは無機粒子の総質量、Isは無機粒子の比重、Ftは不織布基材構成繊維の総質量、Fsは不織布基材構成繊維の比重を、それぞれ意味する。
【0043】
本発明のセパレータにおいては、このような無機粒子が脱落せず、耐熱性、緻密性に優れているように、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着している。このバインダポリマーは無機粒子を不織布基材構成繊維に接着することができ、耐電解液性のものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ポリオレフィン、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体などのエチレン-アクリレート共重合体、各種ゴム又はその誘導体[スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)など]、セルロース誘導体[カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなど]、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、PVDF、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、アクリル系樹脂などを挙げることができ、これらを単独で、又は2種以上であることができる。これらの中でも、アクリル系樹脂からなるバインダポリマーは無機粒子の接着性に優れるばかりでなく、電解液の浸透性及び耐電圧にも優れているため好適である。
【0044】
なお、バインダポリマーは無機粒子を充分に接着できるように、無機粒子とバインダポリマーの総量の0.5mass%以上を占めているのが好ましく、1mass%以上を占めているのがより好ましく、2mass%以上を占めているのが更に好ましい。一方でバインダポリマーの割合が高過ぎると、セパレータの内部抵抗が高くなる傾向があるため、10mass%以下であるのが好ましい。
【0045】
本発明のセパレータは上述のような無機粒子とバインダポリマーに加えて、不織布基材の内部空隙における、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを有することによって緻密な構造であり、高分子電解質ポリマーと電解液の組合せによっては、高分子電解質ポリマーが電池構成時に電解液を吸液し、膨潤することで空隙を有効に塞ぎ、金属イオンの拡散を防ぐバリア層として機能するため、デンドライトによる短絡防止性に優れている。更に、過放電となった場合であっても、デンドライトを防止することができ、再度、充放電が可能であるという、従来の常識に反する著しく優れた効果を奏することを見出した。
【0046】
このように、本発明のセパレータにおける高分子電解質ポリマーは、不織布基材の内部空隙における、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に存在しているが、不織布基材表面に無機粒子とバインダポリマーとを有している場合には、その無機粒子とバインダポリマー間の空隙に存在していても良い。
【0047】
この高分子電解質ポリマーは特に限定するものではないが、例えば、アイオノマー樹脂であることができ、例えば、四級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等の陰イオン交換基を有する炭化水素系樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアリーレンエーテル、ポリエチレンオキサイド等)であることができる。また、高分子電解質ポリマーはフッ素系樹脂であることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)共重合体、ポリフッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン(PVDF-CTFE)共重合体、ポリフッ化ビニリデン-4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン(PVDF-TFE-HFP)共重合体などの、非水溶媒(電解液)と接触することにより膨潤してゲルを形成するものであることができる。また、フッ素系樹脂として、ポリテトラフルオロエチレンよりなる主鎖とスルホン酸基を有する側鎖とからなるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であることもできる。より具体的には、次の一般式で表わされるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂であることができる。
【0048】
【化1】
[式中、mは5~13.5であり、nは5~10000(好ましくは約1000)であり、zは1~30である]
【0049】
これら高分子電解質ポリマーの中でも、高分子電解質ポリマーが電池構成時に電解液を吸液し、膨潤することで空隙を有効に塞ぎ、金属イオンの拡散を防ぐバリア層として機能することによって、デンドライトによる短絡防止性に優れており、しかも再度、充放電が可能となりやすい、非水溶媒(電解液)と接触によりゲル形成できるフッ素系樹脂であるのが好ましく、特に、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるのが好ましい。
【0050】
なお、高分子電解質ポリマーはデンドライトを防止することができ、過放電後であっても、再度、充放電が可能となりやすいように、高分子電解質ポリマーはセパレータ全体の2~18mass%を占めているのが好ましく、3mass%以上を占めているのがより好ましく、3.5mass%以上を占めているのが更に好ましい。一方で、高分子電解質ポリマー量が多過ぎると、電気化学素子の内部抵抗が高くなる傾向があるため、高分子電解質ポリマーはセパレータ全体の18mass%以下を占めているのが好ましく、17.5mass%以下を占めているのがより好ましく、17mass%以下を占めているのが更に好ましい。
【0051】
本発明の高分子電解質ポリマーは上述の通り、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に有する。なお、バインダポリマーと高分子電解質ポリマーとは混在した状態にあっても良いが、バインダポリマーと高分子電解質ポリマーとは混在していない、分かれた状態にあるのが好ましい。混在していると、高分子電解質ポリマーが電解液を吸液し、膨潤することによって空隙を塞ぐ作用が弱くなり、結果としてバリア層としての機能が低下し、デンドライトによる短絡防止性が低下する傾向があるためである。例えば、高分子電解質ポリマーはバインダポリマーを被覆した状態、バインダポリマーと部分的に接触した状態にあるのが好ましい。このようにバインダポリマーと高分子電解質ポリマーとが分かれた状態は、例えば、バインダポリマーにより無機粒子を不織布基材構成繊維に接着させた後、高分子電解質ポリマーを付与することによって形成できる。
【0052】
本発明のセパレータの目付は特に限定するものではないが、5~35g/mであるのが好ましく、10~30g/mであるのがより好ましく、15~25g/mであるのが更に好ましい。また、セパレータの厚さは特に限定するものではないが、内部抵抗の低い電気化学素子を作製しやすいように、50μm以下であるのが好ましく、40μm以下であるのがより好ましく、35μm以下であるのが更に好ましく、30μm以下であるのが更に好ましい。一方、厚さがが薄過ぎると強度が低下して、セパレータに亀裂が生じるなど、取り扱い性に劣る傾向があるため、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。
【0053】
本発明のセパレータはデンドライトによる短絡防止性に優れるものであるため、各種電気化学素子のセパレータとして好適に使用できる。例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサなどの電解コンデンサ、固体高分子型アルミ電解コンデンサなどのセパレータとして好適に使用でき、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして好適である。なお、その形態は特に限定されず、例えば、コイン型、パウチ型、又は円筒型であることができる。また、電解液の種類も特に限定されず、水系、有機系、又はイオン液体の電解液に対して適用できる。
【0054】
本発明のセパレータは、例えば、次の方法により製造することができる。
【0055】
まず、セパレータの骨格となる不織布基材を作製するために、繊維を用意する。この繊維としては、前述のような繊維を使用することができる。つまり、低水分率で、耐電解液性に優れる、繊維表面が、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド系樹脂から構成された繊維(繊維両末端部を除く)、融点又は分解温度が180℃以上の耐熱性繊維を用意するのが好ましい。特に、全芳香族ポリアミド繊維又は全芳香族ポリエステル繊維を用意するのが好ましい。
【0056】
なお、繊維同士が結合した状態にあり、不織布基材の内部空隙を保持しやすいことによって、無機粒子、バインダポリマー及び高分子電解質ポリマーの保持性に優れているように、2種類以上の有機樹脂から構成されており、繊維表面が低融点樹脂から構成されている繊維(例えば、繊維の横断面における樹脂の配置状態が芯鞘型又は海島型の複合繊維)、又は未延伸繊維(例えば、未延伸ポリエステル繊維)などの加熱加圧による結晶配向に伴う変形によって接着作用を奏する繊維を用意するのが好ましい。
【0057】
また、繊維の横断面形状は円形であっても良いし、非円形であっても良い。
【0058】
更に、繊維の繊維径は電気絶縁性に優れているように、また、電解液の保持性に優れているように、0.1~20μmであるのが好ましく、0.5~16μmであるのがより好ましく、0.5~13μmであるのが更に好ましい。また、繊維の繊維長は0.1~20mmであるのが好ましく、0.5~15mmであるのがより好ましく、1~10mmであるのが更に好ましい。更に、フィブリルを有するパルプ状繊維であっても良いし、フィブリルを有しない繊維であっても良いが、パルプ状繊維であると、孔径が均一かつ緻密な構造の不織布基材を作製できるため好適である。
【0059】
次いで、このような繊維を1種類、又は2種類以上を使用して、繊維ウエブを形成する。なお、繊維ウエブの形成方法は、例えば、乾式法、湿式法、メルトブロー法などの直接法を挙げることができるが、繊維が均一に分散して、均一に電解液を保持できるように、湿式法により繊維ウエブを形成するのが好ましい。この好適である湿式法として、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式を挙げることができる。なお、繊維ウエブが二層以上であると、緻密な構造であることができ、より短絡防止性に優れているため好適である。
【0060】
また、繊維ウエブとベース不織布とを積層又は複合した複合繊維ウエブを形成しても良い。例えば、ベース不織布を用意した後、このベース不織布の一方の主面上に、形成した繊維ウエブを積層する、又はベース不織布の一方の主面上に、短繊維および/またはパルプ状繊維を含んだ分散液を抄き上げることで、ベース不織布の空隙に短繊維および/またはパルプ状繊維が入り込んだ複合繊維ウエブを形成しても良い。なお、複合繊維ウエブを形成する場合、ベース不織布と繊維ウエブ又は分散液中の少なくとも一方に耐熱性繊維を含んでいるのが好ましく、両方に耐熱性繊維を含んでいるのがより好ましい。
【0061】
次いで、繊維ウエブ構成繊維同士を結合して不織布基材を形成できる。繊維同士の結合は、例えば、繊維の融着、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形による接着作用、繊維同士の絡合、及び/又はバインダポリマーの接着により実施することができる。繊維同士を融着させる場合、無圧下で行なっても良いし、加圧下で行なっても良いし、無圧下で溶融させた後に加圧しても良い。このような融着を実施できる装置として、例えば、熱カレンダー、熱風貫通式熱処理器、シリンダ接触型熱処理器などがある。また、未延伸繊維の結晶配向に伴う変形により接着させる場合、繊維ウエブを加熱加圧することにより実施でき、例えば、熱カレンダーを使用することにより実施できる。更に、繊維同士を絡合する場合、例えば、水流などの流体流、ニードルを繊維ウエブに対して作用させることによって実施できる。更に、バインダポリマーで繊維同士を接着する場合、繊維ウエブにバインダポリマーを付与し、バインダポリマーの接着作用を発揮させることによって実施できる。なお、バインダポリマーは前述の無機粒子の不織布基材構成繊維との結合に関与できるバインダポリマーと同様のバインダポリマーであることができる。なお、バインダポリマーはエマルジョン、サスペンジョン、ディスパージョン、又は溶液の状態であることができ、繊維ウエブに含浸、塗布、又は散布して付与した後、乾燥して接着することができる。
【0062】
このように形成した不織布基材の、バインダポリマー又は無機粒子との親和性が不充分な場合には、不織布基材に親和性を付与又は向上させるのが好ましい。この親和性を付与又は向上させる方法として、例えば、スルホン化処理(特に、無水硫酸ガスによるスルホン化処理)、フッ素ガス処理、グラフト重合処理、放電処理(特に、プラズマ処理)、界面活性剤処理、或いは親水性樹脂付与処理などを挙げることができる。
【0063】
一方で、不織布基材に対して付与する無機粒子を用意する。この無機粒子は前述の通り、粒子径が0.01~3μmであるのが好ましく、0,01~1μmであるのがより好ましく、0.01~0.5μmであるのが更に好ましい。また、無機粒子の粒子径分布は(D50/2)以上、かつ(D50×2)以下の範囲内にあるのが好ましい。なお、無機粒子の組成はシリカ及び/又はアルミナであるのが好ましい。更に無機粒子の形状は真球状であるのが好ましい。特に、爆燃無機粒子であるのが好ましい。
【0064】
更に、無機粒子を不織布基材構成繊維に接着するためのバインダポリマーを用意する。このバインダポリマーは前述のバインダポリマーであることができ、無機粒子の接着性に優れるばかりでなく、電解液の浸透性及び耐電圧にも優れている、アクリル系樹脂からなるバインダポリマーが好適である。このバインダポリマーはエマルジョン、サスペンジョン、ディスパージョン、又は溶液の状態であることができる。
【0065】
次いで、無機粒子とバインダポリマーとを混合したバインダ溶液を不織布基材に付与した後、乾燥して、不織布基材の内部空隙において、無機粒子がバインダポリマーによって不織布基材構成繊維に接着した前駆セパレータを調製することができる。この前駆セパレータにおける無機粒子の体積比率(Vr)が0.1以上、より好ましくは0.15以上であるように、また、バインダポリマーが無機粒子とバインダポリマーの総量の0.5~10mass%(好ましくは1~10mass%、より好ましくは2~10mass%)を占めるようにバインダ溶液を付与する。
【0066】
なお、バインダ溶液の不織布基材への付与は、不織布基材の内部空隙に無機粒子を付与できる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、不織布基材をバインダ溶液に浸漬する方法、バインダ溶液を不織布基材に塗布又は散布する方法、により実施できる。
【0067】
以上は不織布基材を形成した後に、バインダ溶液を付与する前駆セパレータの作製方法であるが、繊維ウエブをバインダポリマーにより接着して不織布基材を作製する場合には、繊維ウエブに対して、無機粒子とバインダポリマーとを含むバインダ溶液を付与し、バインダーポリマーで繊維同士を接着すると同時に、バインダーポリマーで無機粒子を繊維に接着し、不織布基材の形成と同時に前駆セパレータを作製することもできる。
【0068】
更に、前駆セパレータに対して付与する高分子電解質ポリマーを用意する。この高分子電解質ポリマーは前述の通り、非水溶媒(電解液)と接触によりゲル形成できるフッ素系樹脂であるのが好ましく、特に、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であるのが好ましい。この高分子電解質ポリマーはエマルジョン、サスペンジョン、ディスパージョン、又は溶液の状態であることができる。
【0069】
そして、この高分子電解質ポリマー溶液を前駆セパレータに付与した後、乾燥して、不織布基材の内部空隙における、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを有するセパレータを調製することができる。このセパレータにおける高分子電解質ポリマー量が、セパレータ全体の好ましくは2~18mass%、より好ましくは3~17.5mass%、更に好ましくは3.5~17mass%、更に好ましくは3.5~17mass%を占めるように、高分子電解質ポリマー溶液を付与する。
【0070】
なお、高分子電解質ポリマー溶液の前駆セパレータへの付与は、前駆セパレータの内部空隙に高分子電解質ポリマーを付与できる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、前駆セパレータを高分子電解質ポリマー溶液に浸漬する方法、高分子電解質ポリマー溶液を前駆セパレータに塗布又は散布する方法、により実施できる。特に、高分子電解質ポリマー溶液を前駆セパレータに塗布する方法によれば、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に高分子電解質ポリマーが存在する緻密な構造、また、高分子電解質ポリマーが電池構成時に電解液を吸液し、膨潤してバリア層を形成しやすい構造としやすいため、好適である。
【0071】
また、セパレータにおける水分量が多いと、電気化学素子の充放電特性が悪くなる傾向があるため、水分量が少なくなるように乾燥するのが好ましい。例えば、120℃以上の温度で乾燥するのが好ましく、130℃以上の温度で乾燥するのがより好ましく、140℃以上の温度で乾燥するのが特に好ましい。一方、乾燥温度の上限はセパレータの耐熱性によって異なり、特に限定するものではないが、水分を除去するという観点から、180℃までであれば充分であり、170℃以下、或いは160℃以下であっても良い。
【0072】
以上のような方法によれば、バインダ溶液を不織布基材に付与し、乾燥して、前駆セパレータを調製した後、前駆セパレータに高分子電解質ポリマー溶液を付与し、乾燥して、不織布基材の内部空隙における、不織布基材構成繊維と無機粒子とバインダポリマーとによって形成された空隙に、高分子電解質ポリマーを、バインダポリマーとは分かれた状態にあるセパレータを製造することができる。
【実施例
【0073】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
(基材の準備)
(1)不織布基材Aの準備;
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4.3μm、繊維長:3mm、融点:260℃、横断面形状:円形)を未延伸ポリエチレンテレフタレート短繊維(融点:260℃)に由来する樹脂で接着固定した湿式不織布(目付:9g/m、厚さ:10μm、空隙率:56%)をベース不織布として用意した。
【0075】
次いで、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4.3μm、繊維長:3mm、融点:260℃、横断面形状:円形)とパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:50mlCSF、分解温度:約500℃)とを、20:80の質量比率で水中に分散させた分散液を調製した。
【0076】
そして、ベース不織布の一方の主面上に前記分散液を抄き上げた後、ベース不織布側から分散媒である水をサクションして除去し、ベース不織布の一方の主面上に、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維とパルプ状全芳香族ポリアミド繊維が混合した繊維堆積層を有し、この繊維堆積層構成繊維の一部がベース不織布の空隙に入り込み、ベース不織布構成繊維に絡んで一体化した複合繊維ウエブを形成した。
【0077】
続いて、複合繊維ウエブをコンベアで支持したまま、温度145℃の雰囲気下で熱処理して複合繊維ウエブを乾燥した後、表面温度を180℃に調整したヒートロール間を通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維自体及びパルプ状全芳香族ポリアミド繊維をベース不織布に接着して、二層構造の複合不織布(=不織布基材A、目付:12g/m、厚さ:17μm、耐熱性繊維比率:20mass%)を調製した。
【0078】
(2)不織布基材Bの準備;
ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維(繊度:0.2dtex、繊維径:4.3μm、繊維長:3mm、融点:260℃、横断面形状:円形)とパルプ状全芳香族ポリアミド繊維(濾水度:80mlCSF、分解温度:約500℃)とを、30:70の質量比率で水中に分散させた分散液を調製した。
【0079】
そして、前記分散液を抄き上げた後、分散媒である水をサクションして除去し、繊維ウエブを形成した後、繊維ウエブをコンベアで支持したまま、温度145℃の雰囲気下で熱処理して繊維ウエブを乾燥した後、表面温度を180℃に調整したヒートロール間を通して加熱加圧し、ポリエチレンテレフタレート未延伸短繊維により、パルプ状全芳香族ポリアミド繊維間を接着して、単層構造の不織布(=不織布基材B、目付:12g/m、厚さ:17μm、耐熱性繊維比率:70mass%))を調製した。
【0080】
(3)不織布基材Cの準備;
芯成分がポリプロピレン(融点:168℃)からなり、鞘成分が高密度ポリエチレン(融点:135℃)からなる融着繊維(平均繊維径:0.8dtex、繊維径:10.5μm、繊維長:5mm、横断面形状:円形)のみを使用し、傾斜ワイヤー型短網湿式法により湿式繊維ウエブを形成した。
【0081】
次いで、この湿式繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して湿式繊維ウエブをコンベアと密着させた状態で搬送しながら、湿式繊維ウエブを温度138℃に設定した熱風貫通式乾燥機により熱処理して、融着繊維の鞘成分のみを融着させて、融着不織布(=ベース不織布、目付:10g/m)を製造した。
【0082】
他方、ポリプロピレン極細繊維(繊度:0.02dtex、繊維径:1.7μm、繊維長:2mm、融点:168℃、横断面形状:円形)を準備した後、ポリプロピレン極細繊維が分散した分散液を調製した。
【0083】
そして、ベース不織布の一方の主面上に前記分散液を抄き上げた後、ベース不織布側から分散媒である水をサクションして除去し、ベース不織布の一方の主面上に、ポリプロピレン極細繊維堆積層を有するとともに、ポリプロピレン極細繊維の一部がベース不織布の空隙に入り込み、ベース不織布構成繊維に絡んで一体化した複合繊維ウエブを形成した。
【0084】
続いて、複合繊維ウエブをコンベアで支持したまま、温度138℃の雰囲気下で熱処理して複合繊維ウエブを乾燥すると同時に、ベース不織布を構成する融着繊維を再融着させ、ポリプロピレン極細繊維をベース不織布に融着して、二層構造の複合不織布(=不織布基材C、目付:13g/m、厚さ:25μm)を調製した。
【0085】
(4)微多孔膜基材Dの準備;
市販のポリプロピレン製微多孔膜(登録商標:セルガード、品番:2400、目付:15g/m、厚さ:25μm)を微多孔膜基材Dとして用意した。
【0086】
(バインダ溶液の準備)
(1)バインダ溶液aの準備;
無機粒子として、爆燃シリカ粒子分散液[形状:真球状、粒子径:450nm、粒子径分布:225~900nm、2-プロパノール水溶液(10wt%)、固形分濃度:45mass%]を用意した。また、バインダポリマーとして、アクリル系樹脂ディスパージョン(固形分濃度:45%)を用意した。
【0087】
次いで、次の配合でバインダ溶液a(アクリル系樹脂は爆燃シリカ粒子とアクリル系樹脂の総量の3mass%)を調製した。
【0088】
(ア)アクリル系樹脂ディスパージョン : 1.5mass%
(イ)爆燃シリカ粒子分散液 : 48.5mass%
(ウ)水 : 50mass%
【0089】
(2)バインダ溶液bの準備;
無機粒子として、アルミナ粒子分散液[形状:破砕状、粒子径:790nm、粒子径分布:395~1580nm、2-プロパノール水溶液(10wt%)、固形分濃度:45mass%]を用意した。また、バインダポリマーとして、アクリル系樹脂ディスパージョン(固形分濃度:45%)を用意した。
【0090】
次いで、次の配合でバインダ溶液b(アクリル系樹脂はアルミナ粒子とアクリル系樹脂の総量の3mass%)を調製した。
【0091】
(ア)アクリル系樹脂ディスパージョン : 1.5mass%
(イ)アルミナ粒子分散液 : 48.5mass%
(ウ)水 : 50mass%
【0092】
(3)バインダ溶液cの準備;
無機粒子として、爆燃シリカ粒子分散液[形状:真球状、粒子径:450nm、粒子径分布:225~900nm、2-プロパノール水溶液(10wt%)、固形分濃度:45mass%]を用意した。また、バインダポリマーとして、アクリル系樹脂ディスパージョン(固形分濃度:45%)を用意した。更に、高分子電解質ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)粒子[平均粒子径:1μm]を用意した。
【0093】
次いで、次の配合でバインダ溶液c(アクリル系樹脂は爆燃シリカ粒子とアクリル系樹脂の総量の3mass%)を調製した。
【0094】
(ア)アクリル系樹脂ディスパージョン : 1.5mass%
(イ)爆燃シリカ粒子分散液 : 48.5mass%
(ウ)水 : 49.6mass%
(エ)PVDF-HFP粒子 : 0.4mass%
【0095】
(高分子電解質ポリマー溶液の準備)
(1)高分子電解質ポリマー溶液iの準備;
高分子電解質ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン(PVDF-HFP)を用意した。次いで、PVDF-HFPをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、高分子電解質ポリマー溶液i(固形分濃度:3mass%)を調製した。
【0096】
(2)高分子電解質ポリマー溶液iiの準備;
高分子電解質ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用意した。次いで、PVDFをN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、高分子電解質ポリマー溶液ii(固形分濃度:3mass%)を調製した。
【0097】
(実施例1~6)
前記バインダ溶液a(爆燃シリカ粒子含有)を、グラビアロール塗工機を用いて不織布基材Aの繊維堆積層面に塗布した後、ドライヤーで乾燥し、前駆セパレータ(目付:17.5g/m、厚さ:27μm、無機粒子体積比率:0.28)を調製した。なお、この前駆セパレータにおいては、不織布基材Aの内部空隙に、爆燃シリカ粒子がアクリル系樹脂バインダによって、不織布基材Aの構成繊維に接着しており、また、不織布基材Aの繊維堆積層面を構成する繊維上に、アクリル系樹脂バインダによって爆燃シリカ粒子が接着していた。
【0098】
次いで、不織布基材Aのバインダ溶液aの塗布面に、グラビアロール塗工機を用いて前記高分子電解質ポリマー溶液iを塗布し、続いて、ドライヤーで乾燥し、表1に示す目付、厚さを有する本発明のセパレータを調製した。なお、PVDF-HFP量(固形分量)は、塗布量を調節することにより、0.2g/m(実施例1)、0.4g/m(実施例2)、0.7g/m(実施例3)、1.7g/m(実施例4)、3.4g/m(実施例5)、4.0g/m(実施例6)とした。これらセパレータは不織布基材Aの内部空隙における、不織布基材Aの構成繊維と爆燃シリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとによって形成された空隙に、PVDF-HFPを有し、PVDF-HFPはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0099】
【表1】
【0100】
(実施例7)
不織布基材Aに替えて、不織布基材Bを使用したこと以外は実施例3と同様にして、表2に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。このセパレータは不織布基材Bの内部空隙における、不織布基材Bの構成繊維と爆燃シリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとによって形成された空隙に、PVDF-HFPを有し、PVDF-HFPはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0101】
(実施例8)
バインダ溶液a(爆燃シリカ粒子含有)に替えて、バインダ溶液b(アルミナ粒子含有)を使用したこと以外は実施例3と同様にして、表2に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。このセパレータは不織布基材Aの内部空隙における、不織布基材Aの構成繊維とアルミナ粒子とアクリル系樹脂バインダとによって形成された空隙に、PVDF-HFPを有し、PVDF-HFPはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0102】
(実施例9)
高分子電解質ポリマー溶液i(PVDF-HFP)に替えて、高分子電解質ポリマー溶液ii(PVDF)を使用したこと以外は実施例2と同様にして、表2に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。このセパレータは不織布基材Aの内部空隙における、不織布基材Aの構成繊維とシリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとによって形成された空隙に、PVDFを有し、PVDFはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0103】
【表2】
【0104】
(比較例1)
高分子電解質ポリマー溶液iを前駆セパレータに付与しなかったこと以外は実施例3と同様にして、表3に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。つまり、前駆セパレータをセパレータとした。
【0105】
(比較例2)
不織布基材Aに替えて、微多孔膜基材Dを使用したこと以外は実施例3と同様の操作により、表3に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。なお、微多孔膜基材Dの微孔にシリカ粒子が充填されると、イオンの移動が阻害されるため、このセパレータを調製する際には、微多孔膜基材Dの微孔にシリカ粒子が充填されないように、微多孔膜基材Dの表面にシリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとの層を形成した。そのため、このセパレータはシリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとの層の空隙に、PVDF-HFPを有し、PVDF-HFPはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0106】
(比較例3)
高分子電解質ポリマー溶液iを前駆セパレータに付与しなかったこと以外は比較例2と同様にして、表3に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。つまり、前駆セパレータをセパレータとした。
【0107】
(参考例1)
不織布基材Aに替えて、不織布基材Cを使用したこと以外は実施例3と同様にして、表3に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。このセパレータは不織布基材Cの内部空隙における、不織布基材Cの構成繊維と爆燃シリカ粒子とアクリル系樹脂バインダとによって形成された空隙に、PVDF-HFPを有し、PVDF-HFPはアクリル系樹脂バインダを被覆し、アクリル系樹脂バインダと分かれた状態にあった。
【0108】
(参考例2)
バインダ溶液cに替えて、バインダ溶液cを使用したこと、及び高分子電解質ポリマー溶液iを付与しなかったこと以外は実施例2と同様にして、表3に示す目付、厚さを有するセパレータを調製した。このセパレータは、不織布基材Aの内部空隙における不織布基材Aの構成繊維に、シリカ粒子及びPVDF-HFP粒子がアクリル系樹脂バインダによって不織布基材Aの構成繊維に接着した状態にあった。このように、アクリル系樹脂バインダとPVDF-HFP粒子とは混在した状態にあった。
【0109】
【表3】
【0110】
(リチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の電極の作製;
ニッケルコバルト酸リチウム[Li(NiCoAl)O](=NCA)及びアセチレンブラック(=AB)を用意した。また、ポリフッ化ビニリデン(=PVDF)を用意し、PVDFをN-メチルピロリドン(=NMP)に溶解させることにより、PVDF溶液(固形分濃度:13mass%)を調製した。
【0111】
次いで、NCA、AB及びPVDFの固形分質量比率で、NCA:AB:PVDF=93:4:3となるように、NCA、AB及びPVDFを混合して正極材ペーストを調製した。
【0112】
続いて、この正極材ペーストを厚さ20μmのアルミ箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、正極の電極(容量:2.43mAh/cm)を作製した。次いで、電極のアルミ箔部分に、超音波溶接機にて端子を接続した。
【0113】
(2)負極の電極の作製;
天然黒鉛粉末、ハードカーボン(=HC)、及びアクリル系バインダ(固形分濃度:13mass%)を用意した。
【0114】
次いで、天然黒鉛粉末、HC及びアクリル系バインダの固形分質量比率で、(天然黒鉛粉末):HC:(アクリル系バインダ)=87.3:9.7:3となるように、天然黒鉛粉末、HC及びアクリル系バインダを混合して負極材ペーストを調製した。
【0115】
続いて、この負極材ペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、負極の電極(容量:2.51mAh/cm)を作製した。次いで、作製した負極の電極の銅箔部分に、超音波溶接機にて端子を接続した。
【0116】
(3)非水系電解液の用意;
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比率が(50:50)となるように混合した混合溶媒に、1モル/Lの濃度となるようにLiPFを溶解させて、非水系電解液を調製した。
【0117】
(4)リチウムイオン二次電池の作製;
前記正極の電極の正極材ペースト塗付面と負極の電極の負極材ペースト塗付面との間に各セパレータを挟むように積層した後、温度150℃で12時間乾燥して、電極積層物とした。
【0118】
その後、ポリエステル樹脂がコーティングされたアルミラミネート袋内に、前記電極積層物を挿入し、前記非水系電解液を注液した後に、真空ラミネートすることで、ラミネート型リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。
【0119】
(電池性能試験)
(1)初期容量の確認;
各リチウムイオン二次電池を、2.0Vから4.2Vまで0.2Cの定電流・定電圧充電することにより活性化させ、初期電池容量を確認した。これらの結果は表1~3に示す通りであった。
【0120】
(2)過放電後の電池容量の確認;
(2.0Vから4.2Vまで0.2Cの定電流・定電圧充電)-(0.06Cで0Vまで定電流放電)-(回路電圧での1時間放置)を1サイクルとする充放電を10サイクル行なった後、2.0Vから4.2Vまで0.2Cの定電流・定電圧充電を行い、0V放電後、つまり過放電後の電池容量を確認した。これらの結果は表1~3に示す通りであった。
【0121】
(考察)
これら表1~3から、次のことが分かった。
(イ)実施例3と比較例1との対比から、高分子電解質ポリマーを含んでいることによって、過放電後の電池容量が維持されることが分かった。つまり、デンドライトによる短絡防止性に優れていることが分かった。
(ロ)実施例2、3と比較例2との対比から、無機粒子等を担持する基材が不織布構造であることによって、初期電池容量、過放電後の電池容量ともに大きい電気化学素子を製造できることが分かった。
(ハ)実施例2、3と参考例1との対比から、水分を除去するために120℃以上の温度で乾燥するのが好ましいが、不織布基材の耐熱性が不充分であると、初期電池容量、過放電後の電池容量ともに小さくなる傾向があるため、不織布基材は耐熱性繊維を含んでいるのが好ましいことが分かった。
(ニ)実施例1~6の結果から、高分子電解質ポリマー量がセパレータ全体の2~18mass%であるのが好ましいことが分かった。
(ホ)実施例3と実施例7の結果から、不織布基材は単層構造であっても、二層構造であっても、初期電池容量、過放電後の電池容量ともに大きいため、デンドライトによる短絡防止性に不織布基材の構造は影響を与えないことが分かった。
(ヘ)実施例3と実施例7の結果から、無機粒子がシリカであっても、アルミナであっても、初期電池容量、過放電後の電池容量ともに大きいため、デンドライトによる短絡防止性に無機粒子の組成は影響を与えないことが分かった。
(ト)実施例2と実施例9の結果から、いずれも過放電後の電池容量が維持されたことから、高分子電解質ポリマーの種類に関係なく、デンドライトによる短絡防止性に優れていることが分かった。
(チ)実施例2と参考例2の結果から、高分子電解質ポリマーはバインダポリマーと混在しておらず、バインダポリマーを被覆し、バインダポリマーと分かれた状態にあるのが好ましいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のセパレータはデンドライトによる短絡防止性及び耐熱性の優れるものであるため、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサなどの電解コンデンサ、固体高分子型アルミ電解コンデンサなどのセパレータとして好適に使用でき、特にリチウムイオン二次電池のセパレータとして好適に使用できる。