(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】振動型駆動装置、電子機器及び振動型アクチュエータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02N 2/14 20060101AFI20221212BHJP
H02N 2/12 20060101ALI20221212BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20221212BHJP
G03B 5/00 20210101ALI20221212BHJP
G02B 7/04 20210101ALI20221212BHJP
【FI】
H02N2/14
H02N2/12
G02B7/08 Z
G03B5/00 J
G02B7/04 E
(21)【出願番号】P 2018092293
(22)【出願日】2018-05-11
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(72)【発明者】
【氏名】熱田 暁生
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-178792(JP,A)
【文献】特開2007-215390(JP,A)
【文献】特開平10-146072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/14
H02N 2/12
G02B 7/08
G03B 5/00
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体と、該振動体と接触する接触体と、を有する振動型アクチュエータと、
前記振動型アクチュエータの駆動を制御する制御装置と、を備える振動型駆動装置であって、
前記制御装置は、
前記振動型アクチュエータに接続された電源電圧の値または所定の時刻の前記振動型アクチュエータの検出電力に応じて、前記振動型アクチュエータを制御する信号のパルス幅を予め設定された制限電力または制限電流を超えないように設定し、設定された前記パルス幅に対応して前記振動型アクチュエータの周波数制御でのゲインとパルス幅制御でのゲイ
ンを設定することを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、直流電圧のスイッチングによりパルスを生成することを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記振動型アクチュエータの駆動条件に基づいて前記パルスの最大デューティ比を決定することを特徴とする請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記パルスの周波数を制御することを特徴とする請求項2又は3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記パルスのデューティ比を制御することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項6】
前記制御装置は、記憶装置に記憶された、前記最大デューティ比と前記パルス幅制御に設定するゲインの値との関係に基づいて、前記最大デューティ比に対して前記パルス幅制御でのゲインを設定することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記直流電圧の値に応じて前記最大デューティ比を決定することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記振動型アクチュエータの起動時に駆動周波数が固定された状態で前記パルスのデューティ比を増加させ、前記パルスを生成するための電力または電流の値が予め定められた制限値に達したときのデューティ比を前記最大デューティ比として決定し、前記パルス幅制御でのゲインを前記決定された最大デューティ比に応じて再設定することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記振動型アクチュエータが前記最大デューティ比で前記周波数制御により駆動されている際に前記パルスを生成するための電力または電流の値が予め定められた制限値に達した場合に、前記最大デューティ比を前記電力または前記電流が前記制限値を超えないデューティ比に変更し、前記変更されたデューティ比を新しい最大デューティ比に決定し、前記新しい最大デューティ比に応じて前記パルス幅制御でのゲインを再設定することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記振動型アクチュエータが前記最大デューティ比で前記パルス幅制御により駆動されている際に前記パルスを生成するための電力または電流の値が予め定められた制限値に達した場合に、前記最大デューティ比を前記電力または前記電流が前記制限値を超えないデューティ比に変更し、前記変更されたデューティ比を新しい最大デューティ比に決定し、前記新しい最大デューティ比に応じて前記パルス幅制御でのゲインを再設定することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記周波数制御での制御特性と前記パルス幅制御での制御特性とが略一致するように制御することを特徴とする請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項12】
前記周波数制御での制御特性とは、前記振動型アクチュエータの駆動速度の駆動周波数に対する傾きであり、
前記パルス幅制御での制御特性とは、前記駆動速度の前記パルスのデューティ比に対する傾きであり、
前記制御装置は、周波数制御を行っているときの前記駆動速度の前記駆動周波数に対する傾きと第1のゲインとの積と、前記パルス幅制御を行っているときの最大デューティ比の付近での前記駆動速度の前記デューティ比に対する傾きと第2のゲインとの積と、が等しくなるように前記第1のゲインと前記第2のゲインを設定することを特徴とする請求項11に記載の振動型駆動装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記振動型アクチュエータに接続された電源電圧の大きさに応じた第1の設定と、前記第1の設定より低い電圧に対応する第2の設定を備え、
前記第1の設定に対応するゲインは前記第2の設定に対応するゲインよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の振動型駆動装置。
【請求項14】
部材と、
前記部材を移動させる請求項1乃至13のいずれか1項に記載の振動型駆動装置と、を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項15】
振動体と接触体とを有する振動型アクチュエータの制御方法であって、
前記振動型アクチュエータに交番電圧を供給して前記振動型アクチュエータの駆動を制御する際に、
前記振動型アクチュエータに接続された電源電圧の値または所定の時刻の前記振動型アクチュエータの検出電力に応じて、前記振動型アクチュエータを制御する信号のパルス幅を予め設定された制限電力または制限電流を超えないように設定し、設定された前記パルス幅に対応して前記振動型アクチュエータの周波数制御でのゲインとパルス幅制御でのゲイ
ンを設定することを特徴とする振動型アクチュエータの制御方法。
【請求項16】
前記交番電圧を生成するためのパルスの最大デューティ比を前記振動型アクチュエータの駆動条件に基づいて決定することを特徴とする請求項15に記載の振動型アクチュエータの制御方法。
【請求項17】
前記周波数制御でのゲインと前記パルス幅制御でのゲインとを、電力又は電流が前記制限電力または前記制限電流を超えないように、前記最大デューティ比に応じて設定し、前記交番電圧を前記振動型アクチュエータに供給することを特徴とする請求項16に記載の振動型アクチュエータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型駆動装置、電子機器及び振動型アクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気-機械エネルギ変換素子を弾性体に接着して構成される振動体にその振動体が持つ振動モードの交流信号を印加することによって振動を発生させ、振動体に接触させた被駆動体(接触体)を摩擦駆動させることで駆動力を得る振動型アクチュエータが知られている。このような振動型アクチュエータをAF駆動やズーム駆動に用いたカメラやビデオカメラ等の撮像装置が知られている。撮像装置におけるズーム動作では滑らかにレンズを移動させる必要があり、よって、レンズを駆動する振動型アクチュエータには、一定の駆動速度で安定して動作する制御性が求められている。また、振動型アクチュエータを駆動する際の消費電力を低く抑えることが可能な制御方法が求められている。
【0003】
振動型アクチュエータの速度制御方法としては、駆動周波数を変更する方法(周波数制御)やパルス幅を変更する方法(パルス幅制御)等が知られている。例えば、特許文献1は、共振周波数から離れた周波数から目標速度に近い駆動速度となる周波数まで駆動周波数をスイープする周波数制御と、目標速度付近に達した後に駆動周波数を固定してパルス幅を制御するパルス幅制御を併用した速度制御方法を提案している。特許文献2は、駆動電流が最小となる駆動周波数を探し出し、その周波数に駆動周波数を固定することで消費電力を抑制し、消費電力を更に下げる場合(駆動速度を下げる)場合には、周波数を変えずにパルス幅を短くする制御方法を提案している。特許文献3は、スイッチング素子の電源電圧に応じてパルス幅を変更することにより、電源電圧が変化しても同じ電力が供給される制御方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第03382454号公報
【文献】特開2006-115583号公報
【文献】特開平10-146072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の振動型アクチュエータの制御方法では、周波数制御とパルス幅制御とを切り替える際に制御性が不安定になるという問題がある。また、周波数制御とパルス幅制御の切り替えを限られた消費電力の範囲内で行う必要もある。
【0006】
本発明は、制限電力の範囲内で周波数制御とパルス幅制御とを切り替えた際に制御性が不安定になるのを回避することが可能な振動型駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る振動型駆動装置は、振動体と、該振動体と接触する接触体と、を有する振動型アクチュエータと、前記振動型アクチュエータの駆動を制御する制御装置と、を備える振動型駆動装置であって、前記制御装置は、前記振動型アクチュエータに接続された電源電圧の値または所定の時刻の前記振動型アクチュエータの検出電力に応じて、前記振動型アクチュエータを制御する信号のパルス幅を予め設定された制限電力または制限電流を超えないように設定し、設定された前記パルス幅に対応して前記振動型アクチュエータの周波数制御でのゲインとパルス幅制御でのゲインを設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制限電力の範囲内で周波数制御とパルス幅制御とを切り替えた際に制御性が不安定になるのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る振動型アクチュエータの制御方法が適用される振動型アクチュエータの一例を説明する外観斜視図及び分解斜視図である。
【
図2】従来の振動型駆動装置の構成を示す図である。
【
図3】
図2の制御装置を用いた振動型アクチュエータの駆動時の周波数-速度特性と電力-周波数特性を説明する図である。
【
図4】スイッチングパルスのデューティ比と基本波成分との関係を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る振動型駆動装置の構成を示す図である。
【
図6】第1実施形態での制御装置を用いた振動型アクチュエータの駆動時の周波数-速度特性とパルス幅-速度特性を説明する図である。
【
図7】電源電圧に対する制御切り替わり点での最大デューティ比の例を示すグラフと、最大デューティ比とパルス幅制御時のゲインとの関係を示すグラフである。
【
図8】第1実施形態での振動型アクチュエータの制御方法を説明するフローチャートである。
【
図9】振動型アクチュエータに対する周波数制御とパルス幅制御の切り替わりでの駆動速度の変化を説明する模式図である。
【
図10】振動型アクチュエータの駆動制御中に目標速度を変更したときの制御パラメータの変化を示す図である。
【
図11】第2実施形態に係る振動型アクチュエータの制御方法を説明するフローチャートである。
【
図12】第2実施形態に係る振動型アクチュエータの制御方法での、検出電力、駆動周波数、スイッチングパルスのデューティ比、駆動速度の関係を示す図である。
【
図13】第3実施形態に係る振動型アクチュエータの制御方法での、検出電力、駆動周波数、スイッチングパルスのデューティ比、駆動速度の関係を示す図である。
【
図14】振動型駆動装置を搭載した撮像装置の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0011】
<振動型アクチュエータの構成>
最初に、本発明に係る振動型アクチュエータの制御方法を適用することができる振動型アクチュエータの一例について説明する。
図1(a)は、振動型アクチュエータ200の外観斜視図である。
図1(b)は、振動型アクチュエータ200の分解斜視図である。振動型アクチュエータ200は、第1の弾性体201、圧電素子202、フレキシブル基板203、下ナット204及び第2の弾性体205を備える。また、振動型アクチュエータ200は、シャフト206、移動体207、接触バネ208、ギア209、コイルバネ210、固定部材211及び上ナット212を備える。
【0012】
第1の弾性体201は、板状(円板状)の形状を有し、金属等の振動減衰損失の小さい材料からなる。圧電素子202は、電気-機械エネルギ変換素子である。フレキシブル基板203は、制御装置(不図示)と接続され、圧電素子202に交番信号を印加する。下ナット204は、シャフト206の下端に形成されたネジ部と嵌合する。第1の弾性体201、圧電素子202、フレキシブル基板203及び第2の弾性体205の中心部に設けられた貫通孔にシャフト206が挿入される。シャフト206の中央部には段差が設けられており、この段差が第2の弾性体205の内壁に設けられた段差に突き当たる。シャフト206の先端(下端)部にはネジ部が形成され、このネジ部に下ナット204を嵌合させて締め付けることで、第2の弾性体205、第1の弾性体201、圧電素子202及びフレキシブル基板203が固定される。
【0013】
第1の弾性体201において圧電素子202と接触していない側の表面には、被駆動体(接触体)である移動体207に固定された接触バネ208が接触する。接触バネ208は弾性を有しており、移動体207に固定されて、移動体207と一体となって回転する。ギア209は、回転駆動力の出力手段であり、移動体207の回転軸方向の移動を許容し、移動体207と一体的に回転するように移動体207と嵌合している。コイルバネ210は、移動体207のバネ受け部とギア209との間に配置され、移動体207を第1の弾性体201の方向に押し下げるように加圧する。ギア209はシャフト206と結合した固定部材211に軸支されており、ギア209の軸方向における位置が固定部材211によって規制されている。シャフト206において下ナット204と嵌合しない側の先端部にもネジ部が形成されており、このネジ部に上ナット212が螺合することで、固定部材211はシャフト206に固定される。固定部材211には固定用ネジ穴が設けられており、固定部材211を所望の場所にネジを用いて固定することで、振動型アクチュエータを所望の場所に取り付けることができる。
【0014】
圧電素子202には、第1の曲げ振動を発生させるための不図示の駆動電極Aと、第1の曲げ振動とは移動体207の回転方向に位相が90°ずれた不図示の駆動電極Bが設けられている。これらの駆動電極A,Bのそれぞれに第1の弾性体201と圧電素子202を含む振動体の共振周波数に近く、位相の異なる駆動電圧(交番電圧)を印加すると、第1の弾性体201には回転方向に力を発生させる振動が発生する。このとき、第1の弾性体201上の駆動方向の各位置では、回転方向に対して直交する上下方向(軸方向)の運動と回転方向(横方向)の運動からなる楕円運動が発生している。こうして楕円運動が励起された第1の弾性体201の表面に接触バネ208を加圧接触させると、楕円運動の駆動力(推力)により、接触バネ208、移動体207及びギア209が一体的に回転する。
【0015】
本発明の実施形態に係る振動型駆動装置について説明する前に、振動型アクチュエータ200の駆動制御に用いられる従来の制御装置の回路構成について説明する。
図2は、従来の振動型駆動装置の構成を示す図である。なお、本説明において、振動型駆動装置とは、振動型アクチュエータ200と、振動型アクチュエータ200の駆動を制御する制御装置を含むものと定義する。制御装置は、MPU11、信号発生部10a,10b、電源電圧検出回路12及びモニタ8を有する。
【0016】
MPU11は、駆動装置の全体的な動作を制御するマイクロコンピュータである。信号発生部10aは、MPU11からの制御信号(指令値)に応じてAモードのパルス信号を発生させる発振器部と、発振器部から出力されるパルス信号に従って直流電圧をスイッチングするスイッチング電圧発生部を有する。なお、
図2では、発振器部を「LOGIC PORTION」と示している。発振器部は、生成するパルス信号の位相差を0°~360°の範囲で変更することができる。スイッチング電圧発生部は、発振器部から出力されたパルス信号に従ってFET1a~FET4aが直流電圧である電源電圧(Vbat)をスイッチングすることにより、スイッチングパルスA,A´(第1のスイッチングパルス)を生成する。スイッチング電圧発生部から出力されるスイッチングパルスA,A´は、コイル6aとコンデンサ7aとの組み合わせた増幅部で昇圧、増幅されて正弦波の駆動電圧(交番電圧)に変換され、振動型アクチュエータ200のAモード駆動端子に印加される。
【0017】
同様に、信号発生部10bは、MPU11からの制御信号(指令値)に応じてBモードのパルス信号を発生させる発振器部と、発振器部から出力されるパルス信号に従って直流電圧をスイッチングするスイッチング電圧発生部を有する。発振器部は、パルス信号の位相差を0°~360°の範囲で変更することができる。スイッチング電圧発生部は、発振器部から出力されたパルス信号に従ってFET1b~FET4bが電源電圧をスイッチングすることにより、スイッチングパルスB,B´(第2のスイッチングパルス)を生成する。スイッチングパルスB,B´は、コイル6bとコンデンサ7bとの組み合わせた増幅部で昇圧、増幅されて正弦波の駆動電圧に変換され、振動型アクチュエータ200のBモード駆動端子に印加される。
【0018】
電源電圧検出回路12は、電源電圧の大きさを検出してMPU11へ通知する。振動型アクチュエータ200の圧電素子202には不図示の電圧検出用電極が設けられており、モニタ8は、スイッチングパルスAを増幅させた駆動電圧と電圧検出用電極の電圧信号Sとの位相差を求めて、振動型アクチュエータ200での共振状態をモニタする。MPU11は、電源電圧検出回路12が検出した電源電圧とモニタ8が検出した共振状態に応じて、消費電力が大きくなり過ぎないように発振器部で発生させるパルス信号のパルス幅(デューティ比)を変更する等して、駆動条件を制御する。
【0019】
なお、信号発生部10a,10bの各発振器部で発生させるパルス信号のパルス幅は、スイッチングパルスA,A´,B,B´のパルス幅と同じになる。そして、スイッチングパルスA,A´,B,B´のデューティ比は、信号発生部10a,10bの各発振器部で発生させるパルス信号のデューティ比と同じとなる。本説明では、デューティ比とは、信号発生部10a,10bから出力される各スイッチングパルスにおけるデューティ比、つまり、スイッチングパルスの1周期(オン時間+オフ時間)に対するオン時間の比率を指すものとする。よって、本説明では、振動型アクチュエータ200をオン(駆動)している時間とオフ(停止)している時間との比を意味する文言として「デューティ比」を用いることはない。
【0020】
図3は、
図2に示す振動型駆動装置での周波数-速度特性と電力-周波数特性を電源電圧とスイッチングパルスのデューティ比(25%,50%)の組み合わせで示す図である。周波数制御領域では、電源電圧が異なるときに振動型アクチュエータ200に投入される電力と周波数制御の特性が変わらないようにする。そのため、電源電圧が大きい(高い)場合にはスイッチングパルスのデューティ比を25%に設定し(設定1)、電源電圧が小さい(低い)場合にはスイッチングパルスのデューティ比を50%に設定している(設定2)。なお、電源電圧が大きい場合にデューティ比を50%にした場合(設定3の場合)、投入電力が大きくなり過ぎて、周波数-速度特性と電力-周波数特性が、設定1,2と比較して、大きく異なるものとなってしまう。そのため、電源電圧が大きい場合には、デューティ比を25%に設定している。
【0021】
振動型アクチュエータ200の駆動速度を下げるために駆動周波数を上げていった場合に駆動周波数を上げ過ぎてしまうと、電力が増えてしまう周波数領域に入ってしまう。このことは特開2006-115583号公報(特許文献2)にも記載されている。そこで、制限電力を超えないように、駆動周波数の上限を所定の周波数に定めている。こうして定めた周波数でも目標速度に対して検出速度が大きい場合には、駆動周波数を固定してスイッチングパルスのデューティ比を小さくするパルス幅制御を実施する。電源電圧が大きい場合には、周波数制御からパルス幅制御へ切り替えるときのスイッチングパルスの最大デューティ比を25%として、スイッチングパルスのデューティ比を25%~0%の範囲で制御するパルス幅制御が実施される。一方、電源電圧が小さい場合には、周波数制御からパルス幅制御へ切り替えるときのスイッチングパルスの最大デューティ比を50%として、スイッチングパルスのデューティ比を50%~0%の範囲で制御するパルス幅制御が実施される。
【0022】
図4は、スイッチングパルスのデューティ比と基本波成分(Power)との関係を示す図である。50%付近のデューティ比では、基本波成分の変化が少なく、デューティ比に対する基本波成分の変化量を示す傾きCは小さくなっている。25%付近のデューティ比では、基本波成分の変化が大きいため、デューティ比が50%付近の場合と比較すると、傾きBが大きくなっている。デューティ比と基本波成分との間にはこのようか関係があるため、周波数制御からパルス幅制御に切り替わるときのスイッチングパルスのデューティ比が大きいと、デューティ比を変更したときの振動型アクチュエータ200での駆動速度の変化が小さくなる。つまり、振動型アクチュエータ200に印加される駆動電圧のゲインが小さくなったことと同等になってしまう。よって、スイッチングパルスのデューティ比が25%のときに周波数制御からパルス幅制御に切り替わるときのゲインが設定されていると、デューティ比が大きいところで制御が切り替わるときにはゲインが小さくなり、制御性が低下してしまう。その詳細については、
図9(a)を参照して後述する。以下、この問題の解決が可能な本発明の実施形態に係る振動型駆動装置について説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図5は、本発明の第1実施形態に係る振動型駆動装置100の構成を示す図である。振動型駆動装置100は、振動型アクチュエータ200と、振動型アクチュエータ200の駆動を制御する制御回路と、を含む。なお、
図5では、振動型駆動装置100を構成する制御装置の構成要素のうち
図2に示した制御装置の構成要素と同じものについては、
図2と同じ符号を付しており、それらについての共通する説明を省略する。
【0024】
図5の制御装置は、
図2の制御装置が備える電源電圧検出回路12に代えて電力検出回路14を備えており、また、
図2の制御装置が備えていない位置検出部13を更に備えている点で、
図2の制御装置と異なる。そして、このような構成の相違に起因して、
図5の制御装置でのMPU11と
図2の制御装置でのMPU11とでは、実行する制御の内容に差異が生じ、その詳細については追って説明する。
【0025】
位置検出部13は、例えば、フォトインタラプタとスリット板からなり、移動体207(回転部)の回転位置を検出する。MPU11は、位置検出部13からの出力信号に基づいて、移動体207の回転位置と速度(駆動速度(回転速度))を演算し、移動体207の回転位置と駆動速度を制御する。具体的には、MPU11は、移動体207の回転位置と駆動速度に基づいて、スイッチング周波数、スイッチングパルス幅、スイッチングパルスの位相差等をパラメータとして、駆動速度を制御する制御信号(指令値)を作成する。信号発生部10a,10bは、MPU11により生成された制御信号に基づいてスイッチングパルスA,A´,B,B´を生成する。スイッチングパルスA,A´,B,B´は増幅部によって正弦波の駆動電圧に変換されて、振動型アクチュエータ200に印加される。
【0026】
電力検出回路14は、振動型駆動装置100がポータブルで持ち運びが可能な電子機器に搭載されるケースを想定し、また、そのような電子機器では電源として二次電池等が用いられるケースが多いことを想定して、設けられている。一般的に、電池では、充電完了後や未使用の状態から使用した場合には最初は供給電圧が大きいが、使用時間の経過にしたがって供給電圧が小さくなってくる。電力検出回路14は直流電源に接続されて直流電圧である電源電圧を検出すると共に、信号発生部10a,10bに接続されて、スイッチング回路で消費される(スイッチングパルスの生成に用いられる)電力(又は電流を検出している。MPU11は、電力検出回路14から出力される検出信号に基づき、電源電圧の著しい低下や信号発生部10a,10bで消費される電力(電流)に異常が認められたときに、振動型駆動装置100の動作を緊急停止させる等の制御を行うことが可能となっている。
【0027】
図6(a)は、振動型駆動装置100での周波数-速度特性を示す図である。ここでは、
図3の説明と同様に、電源電圧(大,小)と信号発生部10a,10bから出力されるスイッチングパルスのデューティ比(25%,50%)の2通りの組み合わせを示している。なお、設定1,2はそれぞれ、
図3を参照して説明した設定1,2と同じ設定である。つまり、設定1は、電源電圧が「大」で、スイッチングパルスのデューティ比は25%に設定され、設定2は、電源電圧が「小」で、スイッチングパルスのデューティ比は50%に設定されている。なお、
図3を参照して説明したように、電源電圧が大きい場合にスイッチングパルスのデューティ比を50%に設定すると投入電力が大き過ぎる状態となってしまうため、電源電圧が大きい場合にはデューティ比を25%に設定している。これにより、
図6(a)に示されるように、設定1と設定2とでは同等の特性カーブとなっている。
【0028】
電源電圧が大きい場合であっても、スイッチングパルスのデューティ比を小さくすることで、電源電圧が小さい場合と同じく、周波数変化に対する駆動速度の変化は傾きAとなる。つまり、周波数制御領域では、スイッチングパルスのデューティ比を電源電圧の値に応じて設定することにより、同等の周波数-速度特性が得られることがわかる。なお、周波数制御では、スイッチングパルスの周波数(周期)をスイープするが、その際のスイッチングパルスのデューティ比は不変である。目標速度を小さくする際には駆動周波数を高くしていくが、その際、電力増加を避けるために、所定の速度Xとなる周波数(以下「制御切り替わり点」と言う)で駆動周波数を固定し、更に駆動速度を下げたい場合にはパルス幅制御を行うようにする。
【0029】
図6(b)は、周波数制御からパルス幅制御に切り替えた後のスイッチングパルスのデューティ比と駆動速度との関係を説明する図である。パルス幅制御では、スイッチングパルスの周波数を固定して、スイッチングパルスのデューティ比を変える(つまり、スイッチングパルスの周期を変えずに、1周期内でのオン時間であるパルス幅を変える)。駆動周波数は速度Xとなる周波数に固定されているため、スイッチングパルスのデューティ比の大小関係はスイッチングパルスのパルス幅の大小関係と同様に扱うことができる。
【0030】
図6(b)中、パルス幅制御領域Bは設定1でのパルス幅(デューティ比)の設定可能範囲を、パルス幅制御領域Aは設定2でのパルス幅(デューティ比)の設定可能範囲を示している。設定1と設定2とでは、制御切り替わり点での最大デューティ比の値が異なっている。これは、次の理由による。即ち、
図4にスイッチングパルスのデューティ比と基本波成分(Power)の関係を示したように、スイッチングパルスのデューティ比が50%付近の場合には基本波成分の変化が少なく、傾きCは小さい。一方、スイッチングパルスのデューティ比が25%付近の場合には、50%の場合に比べて基本波成分の変化が大きく、よって、傾きBは傾きCより大きくなっている。電源電圧の値に基づいて最大デューティ比を決定し、その値より小さい範囲でデューティ比を変化させる場合において電源電圧が「大」の場合には最大デューティ比が25%となっているため、デューティ比の変化に対する速度変化(傾きB)が大きくなる。逆に、電源電圧が「小」の場合には最大デューティ比が50%となっているため、デューティ比の変化に対する速度変化(傾きC)は小さくなっている。よって、周波数制御での速度変化は電源電圧が異なっても傾きAで同じであるのに対して、周波数制御からパルス幅制御に切り替わると、パルス幅制御の傾きが、傾きB>傾きC、という関係で変わってしまう。そこで、本実施形態では、次に説明する制御により、この関係を改善する。
【0031】
図7(a)は、電源電圧に対する制御切り替わり点でのスイッチングパルスの最大デューティ比の設定例を示すグラフである。電源電圧は、振動型アクチュエータ200の駆動に用いられるバッテリの電圧であり、ここでは3.7V~6.0Vの範囲で変動している。なお、
図7(a)のデータは、制御切り替わり周波数で速度Xが出るようにした状態で電源電圧と最大デューティ比との関係を測定することで得られる。
図7(a)中の多項式については、
図8のフローチャート(振動型アクチュエータ200の制御のためのアルゴリズム)について説明する際に併せて説明する。
【0032】
図7(b)は、設定された最大デューティ比とパルス幅制御時のゲインとの関係を示すグラフである。
図7(b)は、
図7(a)の関係に基づいて最大デューティ比が決まったときに、周波数制御とパルス幅制御との切り替わりをスムーズに行う(制御性の低下を抑制する)ためのゲイン設定値を表している。なお、
図7(b)では、最大デューティ比が35%の場合に、周波数制御とパルス幅制御の操作量と駆動速度との関係を略一致させるゲインを「1」としている。ゲインを大きくすると、駆動速度の変化に対してスイッチングパルス(信号発生部10a,10bの各発振器部から出力されるパルス信号)のデューティ比が大きく反応(変化)する。
図7(b)中の多項式については、
図8のフローチャートについて説明する際に併せて説明する。
【0033】
図8は、振動型アクチュエータ200のMPU11による第1実施形態に係る制御方法を説明するフローチャートである。
図8にS番号で示す各処理(ステップ)は、MPU11が所定のプログラムを実行して振動型駆動装置100の全体的な制御を行うことにより実現される。
【0034】
なお、MPU11は、振動型アクチュエータ200の駆動開始前に、
図7(a)の電源電圧と最大デューティ比との関係、及び、
図7(b)の最大デューティ比とパルス幅制御でのゲインとの関係、を取得しておく。MPU11は、これらの関係をMPU11が有するメモリにテーブルとして記憶するか又は電源電圧と最大デューティ比との関係を数式化してメモリに記憶しておく。例えば、
図7(a),(b)の各データは、
図7(a),(b)のそれぞれに記されている下記式1、下記式2での数式化が可能である。
【0035】
【0036】
S1ではMPU11は、電力検出回路14により電源電圧を検出する。S2ではMPU11は、S1で得られた電源電圧に基づき、
図7(a),(b)に対応に対するテーブル又は数式から、スイッチングパルスの最大デューティ比とゲインを決定する。続くS3ではMPU11は、S2で設定した最大デューティ比と予め定められたスタート周波数で、振動型アクチュエータ200の駆動を開始する。なお、スタート周波数は予め定められているため、S2で最大デューティ比を定めることは、スタート周波数でのパルス幅(1周期でのオン時間)を定めることと同義である。S4ではMPU11は、位置検出部13からの出力信号に基づき、検出速度(移動体207の駆動速度(回転速度))が目標速度より小さいか否かを判定する。MPU11は、検出速度が目標速度より小さいと判定した場合(S4でYES)、処理をS5へ進め、検出速度が目標速度以上であると判定した場合(S4でNO)、処理をS10へ進める。
【0037】
S5ではMPU11は、検出速度が大きくなるように駆動周波数を下げる周波数制御を行う。S6ではMPU11は、検出速度が目標速度の90%を超えたか否か、つまり、検出速度が目標速度に近付いたか否かを判定する。なお、ここでは、判定基準を90%に設定しているが、これに限られるものではない。MPU11は、検出速度が目標速度の90%を超えていないと判定した場合(S6でNO)、処理をS5に戻し、検出速度が目標速度の90%を超えたと判定した場合(S6でYES)、処理をS7へ進める。
【0038】
S7ではMPU11は、移動体207の検出速度と目標速度との差に応じて、検出速度が目標速度に近付くように駆動周波数を変更する周波数制御を行う。S8ではMPU11は、周波数制御からパルス幅制御へ切り替えるか否かを判定する。S8の判定の基準は、S7で検出速度が目標速度以上となった場合には駆動周波数を上げて検出速度を下げるが、その過程で駆動周波数がスタート周波数に達したか否かで判定する。MPU11は、駆動周波数がスタート周波数に達したと判定した場合には駆動周波数をスタート周波数に固定して、周波数制御からパルス幅制御へ切り替えるために(S8でYES)、処理をS10へ進める。一方、MPU11は、駆動周波数がスタート周波数に達していない判定した場合には、周波数制御を継続するために(S8でNO)、処理をS9へ進める。
【0039】
S9ではMPU11は、周波数制御のまま位置検出部13からの出力信号に基づいて移動体207が停止位置に到達したか否かを判定する。MPU11は、移動体207が停止位置に到達していないと判定した場合(S9でNO)、処理をS7へ戻し、移動体207が停止位置に到達したと判定した場合(S9でYES)、振動型アクチュエータ200の駆動を停止させて、本処理を終了させる。
【0040】
S10ではMPU11は、周波数制御からパルス幅制御へ切り替えて、パルス幅制御を行う。S10のパルス幅制御では、駆動周波数はスタート周波数に固定され、検出速度が小さいときにはスイッチングパルスのデューティ比を大きくし、検出速度が大きいときにはスイッチングパルスのデューティ比を小さくする。なお、S10のパルス幅制御でのゲインは、S2で設定された最大デューティ比に応じてS2で設定された値となる。
【0041】
S11ではMPU11は、パルス幅制御から周波数制御へ切り替えるか否かを判定する。これは、パルス幅制御を行っている際に、スイッチングパルスのデューティ比が最大デューティ比に達しても検出速度が目標速度よりも小さい場合には、周波数制御に切り替える必要があるためである。パルス幅制御から周波数制御に切り替えるときのスイッチングパルスのデューティ比は、最大デューティ比に固定されることなる。MPU11は、パルス幅制御から周波数制御へ切り替える必要があると判定した場合(S11でYES)、処理をS7へ戻し、パルス幅制御から周波数制御へ切り替える必要はないと判定した場合(S11でNO)、処理をS12へ進める。
【0042】
S12ではMPU11は、パルス幅制御のまま位置検出部13からの出力信号に基づいて移動体207が停止位置に到達したか否かを判定する。MPU11は、移動体207が停止位置に到達していないと判定した場合(S12でNO)、処理をS10へ戻し、移動体207が停止位置に到達したと判定した場合(S12でYES)、振動型アクチュエータ200の駆動を停止させて、本処理を終了させる。
【0043】
このように、振動型駆動装置100(
図5の制御装置)によれば、電源電圧に応じたスイッチングパルスの最大デューティ比を設定し、設定された最大デューティ比に応じてパルス幅制御でのゲインを設定する。これにより、周波数制御とパルス幅制御とを切り替えても、高速から低速の広範囲での速度制御をスムーズに実行することができる。
【0044】
図9は、振動型アクチュエータ200に対する周波数制御とパルス幅制御の切り替わりでの駆動速度の変化の様子を説明する模式図である。
図9(a)は、従来の制御方法を説明する図である。一方、
図9(b)は、
図7及び
図8を参照して説明した本実施形態に係る制御方法を説明する図である。各図において、横軸は速度偏差から計算した操作量であり、縦軸は振動型アクチュエータ200における移動体207の駆動速度である。また、各図における黒丸点は、周波数制御とパルス幅制御の切り替わり点を示している。
【0045】
図9(a)は、電源電圧が「大」の場合において、周波数制御時の傾きAとゲインG1(第1のゲイン)との積が、パルス幅制御の傾きBとゲインG2(第2のゲイン)と等しい状態を示している。ゲインG1,G2を。G1×A=G2×Bとなるように設定すると、操作量に対する駆動速度の変化割合を示す実線の傾きは切り替わり点で変化しない、つまり、制御特性が変化しないために滑らかな制御となる。しかし、電源電圧が「小」の場合には、パルス幅制御時の傾きCは電源電圧が「大」の場合の傾きBより小さいため、同じゲインG2で制御すると、G1×A>G2×C、となるため、破線で示すように、切り替わり点で制御特性が変化してしまう。
【0046】
図9(b)は、電源電圧が「大」の場合の周波数制御時の傾きAとゲインG1との積及びパルス幅制御時の傾きBとゲインG2の積と、電源電圧が「小」の場合のパルス幅制御時の傾きCとゲインG3(第3のゲイン)の積とが等しい状態を示している。なお、電源電圧が「小」での周波数制御時の傾きは、電源電圧が「大」での周波数制御時の傾きAと同じである(
図6(a)参照)。このように、A×G1=B×G2=C×G3、となるようにゲインG1~G3を設定すれば、操作量に対する駆動速度の変化割合(電源電圧が「大」・「小」のそれぞれの場合を示す実線と破線の傾き)は同じとなる。よって、電源電圧が変化しても、切り替わり点で制御特性が変化しない滑らかな制御を実現することができる。
【0047】
図10は、振動型アクチュエータ200の駆動制御中に目標速度Pを目標速度Qへ変更したときの制御パラメータの変化を示す図である。ここでは、電源電圧が「小」のときの最大デューティ比を50%、電源電圧が「大」のときの最大デューティ比を35%としている。よって、電源電圧が「小」のときのスイッチングパルスのデューティ比の設定可能範囲は50%~0%の範囲となり、電源電圧が「大」のときのスイッチングパルスのデューティ比の設定可能範囲は35%~0%の範囲となる。目標速度Pから目標速度Qへの変更に伴って周波数制御からパルス幅制御へ移行しており、電源電圧が「大」のときが細実線で、電源電圧が「小」のときが太実線で示されている。また、電源電圧が「小」でゲイン設定が適正な値でない場合の制御を細破線で示している。
【0048】
電源電圧が「大」のときには、パルス信号のデューティ比は最大デューティ比の35%に設定され、目標速度の変更に伴って周波数制御からパルス幅制御へ移行しても、操作量に対する駆動速度の変化割合が変わらないようにゲインが設定されている。そのため、細実線で示されるように、速度ムラが大きくなることなく、目標速度Pから目標速度Qへ変化し、目標速度Qで略一定に制御されている。
【0049】
電源電圧が「小」のときには、スイッチングパルスのデューティ比は最大デューティ比の50%に設定されている。このときのゲインを電源電圧が「大」のときのゲインと同じにすると、目標速度Pから目標速度Qへの変更に伴って周波数制御からパルス幅制御へ移行したときに操作量に対する駆動速度の変化割合が小さくなり、制御ゲインが不足した状態となる。この状態が細破線で示されており、駆動速度の目標速度に対する追尾が弱く、速度ムラが大きくなってしまう。そこで、電源電圧が「小」でスイッチングパルスのデューティ比が50%のときには、電源電圧が「大」のときよりもゲインを大きくして、操作量に対する駆動速度の変化割合が変わらないようにしている。ゲインを大きくすると、太実線で示すように、駆動速度の変化に対してスイッチングパルス(信号発生部10a,10bの各発振器部から出力されるパルス信号)のデューティ比が大きく反応(変化)することで、駆動速度の変動が小さくなっている。つまり、目標速度Qで略一定に制御されていることがわかる。
【0050】
<第2実施形態>
第1実施形態では、電源電圧に応じてスイッチングパルスの最大デューティ比を固定したが、第2実施形態では、振動型アクチュエータ200の起動時に検出した電力に基づいて、制限電力を超えないように、スイッチングパルスの最大デューティ比を設定する。
【0051】
図11は、振動型アクチュエータ200のMPU11による第2実施形態に係る制御方法を説明するフローチャートである。
図8にS番号で示す各処理(ステップ)は、MPU11が所定のプログラムを実行して振動型駆動装置100の全体的な制御を行うことにより実現される。
【0052】
S21ではMPU11は、起動周波数をf1に固定し、スイッチングパルス(信号発生部10a,10bの各発振器部から出力されるパルス信号)のデューティ比を0%に設定して電源をオンにして、振動型アクチュエータ200を起動する。
図12は、振動型アクチュエータ200の起動時の検出電力、駆動周波数、スイッチングパルスのデューティ比、駆動速度(検出速度)の関係を示す図である。S22ではMPU11は、電源電圧と駆動速度を監視した状態で、
図12に示されるようにスイッチングパルスのデューティ比を徐々に上げていく。ここでは、スイッチングパルスのデューティ比を1%ずつ上げるようにしているが、デューティ比の上げ方は必ずしも1%ずつとする必要はない。
【0053】
S23ではMPU11は、検出電力が予め定められた制限電力を超えたか否かを判定する。MPU11は、検出電力が制限電力を超えたと判定した場合(S23でYES)、処理をS24へ進め、検出電力が制限電力以下であると判定した場合(S23でNO)、処理をS25へ進める。S24ではMPU11は、スイッチングパルスのデューティ比とゲインを設定する。具体的には、
図12に実線で示す電源電圧が「大」の場合、スイッチングパルスのデューティ比が25%となった時刻t1で検出電力が制限電力に達している。そのため、スイッチングパルスのデューティ比は25%に設定され、これに応じてゲインは1.0(
図7(b))に設定される。また、
図12に破線で示す電源電圧が「小」の場合、スイッチングパルスのデューティ比が50%となった時刻t2で検出電力が制限電力に達している。そのため、スイッチングパルスのデューティ比は50%に設定され、これに応じてゲインは3.0(
図7(b))に設定される。なお、電源電圧が「小」の場合においてスイッチングパルスのデューティ比を50%まで上げても検出電力が制限電力に達しない場合には、最大限の電力を入力可能な50%のデューティ比で固定し、それより大きなデューティ比を設定しないようにする。
【0054】
S25ではMPU11は、検出速度が目標速度に到達したか否かを判定する。MPU11は、検出速度が目標速度に到達したと判定した場合(S25でYES)、処理をS29へ進め、検出速度が目標速度に到達していないと判定した場合(S25でNO)、処理をS26へ進める。S26ではMPU11は、スイッチングパルスの現在のデューティ比が最大デューティ比以上となったか否かを判定する。MPU11は、現在のデューティ比が最大デューティ比以上であると判定した場合(S26でYES)、処理をS27へ進め、現在のデューティ比が最大デューティ比未満であると判定した場合(S26でNO)、処理をS22へ戻す。
【0055】
MPU11は、S27,S28では周波数制御を行い、S29,S30ではパルス幅制御を行う。これらのS27,S28,S29,S30の処理はそれぞれ、
図9のフローチャートで説明したS7,S9,S10,S12の処理と同じであるため、説明を省略する。MPU11は、S28,S30で移動体207が停止位置に到達したと判定すると、振動型アクチュエータ200の駆動を停止させて、本処理を終了させる。
【0056】
消費電力は、電源電圧のみならず環境温度等によっても上下する。第1実施形態では、電源電圧の値を検出しているが、電源から出力される電力を直接検出しているわけではないので、環境温度等の影響で制限電力を超えてしまう事態が生じるおそれがある。これに対して、第2実施形態では、電力を直接監視して制限をかけるため、制限電力を超えてしまうのを回避することができる。また、スイッチングパルスの最大デューティ比が電源電圧の値によって決められた場合、環境温度等によっては電力消費が少なくなって、設定された出力が出せない事態が生じる可能性がある。しかし、第2実施形態では、制限電力に近付けた駆動制御が可能となるため、最大限の出力を出すことが可能となる。更に、スイッチングパルスの最大デューティ比が決定されると、これに応じたゲインが設定されるため、第1実施形態と同様に、周波数制御とパルス幅制御の切り替わりを滑らかに行うことができる。
【0057】
なお、上記説明では、振動型アクチュエータ200の起動時に検出した電力が制限電力を超えないように、スイッチングパルスの最大デューティ比を設定した。これに対して、振動型アクチュエータ200の起動時に検出した電流の値が制限値を超えないように、スイッチングパルスの最大デューティ比を設定してもよい。
【0058】
<第3実施形態>
上記の第2実施形態では、振動型アクチュエータ200の起動時に起動周波数を固定して、スイッチングパルスのデューティ比(パルス幅)を徐々に大きくして、制限電力を超えない最大デューティ比を決定した。これに対して第3実施形態では、振動型アクチュエータ200の起動後の周波数制御時又はパルス幅制御時にも消費電力を監視し、制限電力を超えたときにスイッチングパルスの最大デューティ比の設定値を変更する。
【0059】
図13(a)は、第1実施形態及び第2実施形態で説明したようにしてスイッチングパルスの最大デューティ比を設定した後、周波数制御時に最大デューティ比を変更する動作を説明する図である。振動型駆動装置100の制御装置は、電力検出回路14により、駆動中は常に電力値を監視している。時刻t1近くまでの間は、起動時に設定された最大デューティ比に固定され、最大デューティ比に合わせたゲインが設定された状態で、駆動周波数を制御して駆動速度を制御している。時刻t1において、監視していた電力値が制限電力を超えてしまっている。なお、この原因としては、例えば、環境温度の変化や電源特性(バッテリ特性)の変化等が考えられる。そこで、電力制限を超えないように最大デューティ比を数%下げた新たな最大デューティ比を設定すると共に、新たに設定された最大デューティ比に応じてゲインを再設定する。周波数制御では最大デューティ比を変更しても周波数に対する速度特性は変わらないため、ゲインを変えても影響はない。
【0060】
図13(b)は、第1実施形態及び第2実施形態で説明したようにして最大デューティ比を設定した後、パルス幅制御時に最大デューティ比を変更する動作を説明する図である。振動型駆動装置100の制御装置は、電力検出回路14により、駆動中は常に電力値を監視している。時刻t1近くまでの間は、起動時に設定された最大デューティ比(旧)と最低デューティ比(0%)の間のデューティ比設定可能範囲でデューティ比が制御されることで駆動速度が制御されている。時刻t1において監視していた電力値が制限電力を超えたときに最大デューティ比を下げ、且つ、下げた最大デューティ比に応じたゲインを再設定する。これにより、パルス幅制御におけるスイッチングパルスのデューティ比の設定可能範囲が最大デューティ比(新)と最低デューティ比(0%)の間に変わり、周波数制御との切り替わりも滑らかに行うことができる。つまり、最大デューティ比を変更しても、変更前と同じように周波数制御との切り替わり点での操作量に対する速度特性は変わらず、制御方法が変わったことの影響を受けない駆動(制御)が可能となる。
【0061】
第3実施形態では、駆動制御中は常に電力を検出して、制限電力を超えないようにしながら、電源電圧が高くなったのと同様の状況となった場合には最大デューティ比を下げ、これと同時に新たな最大デューティ比に応じたゲインに再設定している。これにより、電源電圧の変動や環境変化があっても常に電力を制限電力以下に維持することができると共に、周波数制御とパルス幅制御との切り替わり点においても操作量に対する駆動速度の変化特性を変えることなく、駆動速度を制御することが可能となる。なお、ここでは、駆動制御中に常に電力を検出して、制限電力を超えないように制御を行ったが、電力に代えて電流を検出して、制限電流を超えないように制御を行うようにしてもよい。
【0062】
<第4実施形態>
第4実施形態では、上述した各実施形態に係る振動型駆動装置を搭載して撮像装置について説明する。
図14は、上記の各実施形態に係る振動型駆動装置を搭載した撮像装置400の概略構成を、一部を透過した状態で示す斜視図である。撮像装置400は、具体的には、デジタルカメラである。撮像装置400の前面には、レンズ鏡筒410が取り付けられている。レンズ鏡筒410の内部には、フォーカスレンズ407を含む複数のレンズ(不図示)と、手ぶれ補正光学系403が配置されている。手ぶれ補正光学系403は、2軸のコアレスモータ404,405の回転が伝達されることによって、上下方向(Y方向)と左右方向(X方向)に振動可能となっている。
【0063】
撮像装置400の本体側には撮像素子408が配置されており、レンズ鏡筒410を通過した光が光学像として撮像素子408に結像する。撮像素子408は、CMOSセンサ或いはCCDセンサ等の光電変換デバイスであり、光学像をアナログ電気信号に変換する。撮像素子408から出力されるアナログ電気信号は、不図示のA/D変換器によってデジタル信号に変換された後、不図示の画像処理回路による所定の画像処理を経て、画像データ(映像データ)として不図示の半導体メモリ等の記憶媒体に記憶される。
【0064】
また、撮像装置400の本体側には、内部装置として、上下方向(ピッチング)の手ぶれ量(振動)を検出するジャイロセンサ401と、左右方向(ヨーイング)の手ぶれ量(振動)を検出するジャイロセンサ402が配置されている。ジャイロセンサ401,402によって検出された振動の逆方向にコアレスモータ404,405が駆動され、手ぶれ補正光学系403のZ方向に延びる光軸を振動させる。その結果、手ぶれによる光軸の振動が打ち消され、手ぶれが補正された良好な写真を撮影することができる。
【0065】
振動型アクチュエータ200は、第1乃至第3実施形態で説明した制御方法(駆動方法)によって駆動され、不図示のギア列を介して、レンズ鏡筒410に配置されたフォーカスレンズ407を光軸方向(Z方向)に駆動する。但し、これに限定されず、振動型アクチュエータ200は、ズームレンズ(不図示)の駆動等、任意のレンズの駆動に用いることができる。振動型アクチュエータ200を第1乃至第3実施形態で説明した駆動方法で駆動するための制御回路409は、撮像装置400の本体側に組み込まれている。
【0066】
上記の各実施形態に係る振動型駆動装置をレンズ駆動装置として撮像装置に搭載することで、電池等の電源の電圧の変化を影響を受けずに高速から低速の広範囲でスムーズなレンズ駆動が可能になり、画質の良好な写真や動画を撮影することが可能となる。
【0067】
ところで、最近の撮像装置には、静止画と動画の両方を撮影する機能が組み込まれている。静止画撮影ではより速く被写体にピントを合わせる必要があるため、振動型アクチュエータを高速駆動する必要がある。一方、動画撮影での被写体追尾では、振動型アクチュエータを低速で駆動させる必要がある。よって、振動型アクチュエータには、高速駆動と低速駆動を両立させて、レンズを速度ムラを小さくして駆動させることが必要となってきている。特に、低速時の速度変化は撮影動画に違和感を与えるため、低速駆動での速度安定性が強く求められる。このような要求に対して、本発明は特に有効である。つまり、上記の各実施形態で説明したように、振動型駆動装置100では従来に比べて速度ムラの発生を抑制した駆動が可能となることで、動画撮影の品質を高めることが可能となる。
【0068】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。更に、上述した各実施形態は本発明の一実施形態を示すものにすぎず、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。例えば、上記実施形態では、本発明に係る振動型駆動装置を撮像装置に適用した例について説明した。しかし、本発明に係る振動型駆動装置は、撮像装置に限定されず、位置決めや一定速度での駆動が要求される移動体を有する電子機器に、移動体を駆動するための駆動装置として広く適用が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10a,10b 信号発生部
11 MPU
13 位置検出部
14 電力検出回路
100 振動型駆動装置
200 振動型アクチュエータ
400 撮像装置