(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】カルボキシメチル化セルロース
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
C08B11/12
(21)【出願番号】P 2018094631
(22)【出願日】2018-05-16
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】西ヶ谷 霞
(72)【発明者】
【氏名】井上 一彦
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199924(WO,A1)
【文献】特開2012-012553(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0014721(US,A1)
【文献】国際公開第2014/088072(WO,A1)
【文献】特許第6404516(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチル置換度が0.40以下であり、
セルロースI型の結晶化度が50%以上であり、かつ、
水500gにカルボキシメチル化セルロース
5gを投入し、400rpmで5秒間撹拌した後、20メッシュのフィルターを用いて自然濾過した際のフィルター上の濾過残渣の乾燥質量が、上記水に投入したカルボキシメチル化セルロースの乾燥質量に対して、0~30質量%である、カルボキシメチル化セルロース。
【請求項2】
セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部に、カルボキシメチル基がエーテル結合した構造を有する、請求項1に記載のカルボキシメチル化セルロース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチル化セルロースに関する。詳細には、水分散体としたときにダマ(塊)になりにくいカルボキシメチル化セルロースに関する。
【背景技術】
【0002】
カルボキシメチル化セルロースは、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコース残基中の水酸基の一部にカルボキシメチル基をエーテル結合させたものである。カルボキシメチル基の量が増えると(すなわち、カルボキシメチル置換度が増加すると)、カルボキシメチル化セルロースは水に溶解するようになる。一方、カルボキシメチル置換度を適度な範囲に調整することにより、水中でもカルボキシメチル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができるようになる。
【0003】
カルボキシメチル化セルロースの製造方法としては、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、エーテル化剤(カルボキシメチル化剤ともいう。)で処理(カルボキシメチル化。エーテル化とも呼ぶ。)する方法が知られており、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法と、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法(特許文献1~4)が知られており、前者は「水媒法」、後者は「溶媒法」と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-149901号公報
【文献】特開2008-222859号公報
【文献】特開2007-191558号公報
【文献】特開2002-194001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルボキシメチル化セルロースは、その増粘性、吸水性、保水性等の性質から、飲食品、化粧品、水系塗料など、様々な分野において添加剤として使用されている。これらの汎用されるカルボキシメチル化セルロースは、通常、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)が0.55以上の水溶性高分子である。一方、カルボキシメチル置換度を0.50以下とし、セルロースの結晶性を残存させ、水中で完全には溶解せずに繊維状の形状を一部維持するようなカルボキシメチル化セルロースの研究も近年行われており、その形状や結晶性等の特徴を利用した新たな用途の探索が行なわれている。本発明は、特に、カルボキシメチル置換度が低く(0.50以下)、セルロースI型の結晶化度が高い(50%以上)カルボキシメチル化セルロースにおいて、新規な特徴を有するカルボキシメチル化セルロースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このようなカルボキシメチル置換度が低く、結晶化度が高いカルボキシメチル化セルロースは、分散媒中で繊維状の形状を維持しやすく、一般には塊(ダマ)を形成しやすい。特に、カルボキシメチル置換度が低い、すなわち、少ないカルボキシメチル基を有する際、少ない量のカルボキシメチル基をセルロース鎖に均一に(すなわち、一箇所または数箇所に密集するような局所的な形態ではなく)導入することは困難であり、カルボキシメチル基がセルロース鎖に対して不均一に導入されると、カルボキシメチル化セルロースにおいて局所的に分散媒に溶解する部分と溶解しない部分とが生じ、溶解しない部分がダマとして残存する傾向にあると考えられる。カルボキシメチル化セルロースを添加剤として用いる場合、均一に分散してダマが生じないものが取り扱いやすく好ましい。
【0007】
また、例えば、0.20以上0.50以下といったカルボキシメチル置換度の範囲では、セルロースI型の結晶化度50%以上を維持すること自体が困難であった。これは、カルボキシメチル基がセルロースに局所的に導入されることにより、置換基が集中した部分から水に溶解するようになり、カルボキシメチル化セルロース全体としての結晶性が低くなるためと推測された。
【0008】
本発明者らは、カルボキシメチル置換度が低く(0.50以下)、セルロースI型の結晶化度が高い(50%以上)カルボキシメチル化セルロースを製造する際、セルロースのマーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシメチル化セルロースに比べて、カルボキシメチル置換度が低く(0.50以下)、セルロースI型の結晶化度が高い(50%以上)カルボキシメチル化セルロースにおいて、水に分散させた際にダマ(塊)になりにくいカルボキシメチル化セルロースを製造することができることを見出した。
【0009】
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)カルボキシメチル置換度が0.50以下であり、
セルロースI型の結晶化度が50%以上であり、かつ、
水500gにカルボキシメチル化セルロースを投入し、400rpmで5秒間撹拌した後、20メッシュのフィルターを用いて自然濾過した際のフィルター上の濾過残渣の乾燥質量が、上記水に投入したカルボキシメチル化セルロースの乾燥質量に対して、0~30質量%である、カルボキシメチル化セルロース。
(2)セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部に、カルボキシメチル基がエーテル結合した構造を有する、(1)に記載のカルボキシメチル化セルロース。
【発明の効果】
【0010】
本発明のカルボキシメチル置換度が0.50以下であり、セルロースI型の結晶化度が50%以上であり、水に投入したカルボキシメチル化セルロースの乾燥質量に対する自然濾過後の濾過残渣の乾燥質量の割合(濾過残渣の割合)が0~30%であるカルボキシメチル化セルロースは、カルボキシメチル置換度と結晶化度が上記範囲にあるにもかかわらず分散体とした際にダマになりにくく、さらに適度なカルボキシメチル置換度を有しながら結晶性が残存することから、カルボキシメチル化セルロースに特有の効果、例えば、保形性、吸水性付与等を利用した添加剤として使用する場合に、それらの高い効果を呈しながら、分散媒中でダマになりにくく使いやすいという利点を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<カルボキシメチル化セルロース>
本発明は、カルボキシメチル化セルロースに関する。カルボキシメチル化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有する。カルボキシメチル化セルロースは、塩の形態をとる場合もあり、本発明のカルボキシメチル化セルロースには、カルボキシメチル化セルロースの塩も含まれるものとする。カルボキシメチル化セルロースの塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などが挙げられる。
【0012】
本発明のカルボキシメチル化セルロースは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものが好ましい。すなわち、カルボキシメチル化セルロースの水分散体を電子顕微鏡等で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものが好ましい。また、本発明のカルボキシメチル化セルロースをX線回折で測定すると、セルロースI型結晶のピークを観測することができる。
【0013】
<カルボキシメチル置換度>
本発明のカルボキシメチル化セルロースは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.50以下であり、好ましくは0.40以下である。当該置換度が0.50を超えると水への溶解が起こりやすくなり、水中で繊維形態を維持できなくなり、保形性付与等の効果が低減する可能性がある。カルボキシメチル化セルロースによる保形性や吸水性付与等の効果を得るためには、一定程度のカルボキシメチル置換度を有することは必要であり、例えば、カルボキシメチル置換度が0.02より小さいと、用途によっては、カルボキシメチル基を導入したことによる利点が得られない場合がある。したがって、カルボキシメチル置換度は、0.02以上であることが好ましく、0.05以上であることが更に好ましく、0.10以上であることが更に好ましく、0.15以上であることが更に好ましく、0.20以上であることがさらに好ましく、0.25以上であることがさらに好ましい。なお、特に、カルボキシメチル置換度が0.20以上0.50以下の範囲では、後述するセルロースI型の結晶化度が50%以上であるカルボキシメチル化セルロースを得ること自体が特に従来の水媒法では困難であったが、本発明者らは、例えば後述する製法により、カルボキシメチル置換度0.20以上0.50以下であり、セルロースI型の結晶化度が50%以上であり、品質の安定したダマの形成されにくいカルボキシメチル化セルロースを製造できることを見出した。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
【0014】
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
【0015】
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースの塩(CMC)をH-CMC(水素型カルボキシメチル化セルロース)に変換する。その絶乾H-CMCを1.5~2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH-CMCを湿潤し、0.1N-NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N-H2SO4で過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’-0.1N-H2SO4(mL)×F)×0.1]/(H-CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1-0.058×A)
F’:0.1N-H2SO4のファクター
F:0.1N-NaOHのファクター。
【0016】
<セルロースI型の結晶化度>
本発明のカルボキシメチル化セルロース繊維におけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であり、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、カルボキシメチル化セルロースによる保形性付与等の効果が高く得られるようになる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御できる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
【0017】
カルボキシメチル化セルロースのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
【0018】
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
【0019】
カルボキシメチル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。
【0020】
<濾過残渣の割合>
本発明のカルボキシメチル化セルロースは、水を分散媒として分散体としたときに(水分散体)、ダマ(塊)の形成が少ない(すなわち、濾過残渣を形成する割合が少ない)という特徴を有する。具体的には、水500gにカルボキシメチル化セルロースを投入し、400rpmで5秒間撹拌した後、20メッシュのフィルターを用いて自然濾過した際のフィルター上の濾過残渣の乾燥質量が、水に投入したカルボキシメチル化セルロースの乾燥質量に対して、0~30質量%である(本明細書において、上記の方法で算出される水に投入したカルボキシメチル化セルロースの乾燥質量に対する自然濾過後の濾過残渣の乾燥質量の割合を、「濾過残渣の割合」と呼ぶ。)。本発明において、濾過残渣の割合の測定方法は、以下の通りである:
(1)濾過残渣の量の測定
1Lのビーカーに500gの水を採取する。カルボキシメチル化セルロース5gを分取し、質量を記録する(カルボキシメチル化セルロースの質量)。撹拌器(IKA(登録商標)EUROSTAR P CV S1(IKA社製))に撹拌羽をセットし、400rpmで水を撹拌しておく。質量を記録しておいたカルボキシメチル化セルロースを、撹拌している水中に一気に投入し、投入後5秒間撹拌する。撹拌終了後、撹拌器の電源を切る。撹拌終了後、迅速に、あらかじめ質量を測定しておいた20メッシュのフィルターを用いて自然濾過を行う。自然濾過後、フィルターとその上の残渣をともに、バット上で100℃で2時間乾燥させる。フィルターとその上の残渣の質量を測定し、フィルターの質量を差し引くことで残渣の絶乾質量(g)を計算する(絶乾残渣質量)。
(2)カルボキシメチル化セルロースの水分量の計算
秤量瓶を100℃で2時間加熱し、シリカゲルの入ったデシケーター内で冷却し、秤量瓶の絶乾質量を精秤する(絶乾秤量瓶質量)。カルボキシメチル化セルロースを秤量瓶中に約1.5g量り取り、精秤する(乾燥前CMC質量)。秤量瓶のふたを開け、105℃で2時間加熱乾燥する。秤量瓶のふたを閉め、シリカゲルの入ったデシケーター内で15分間冷却する。乾燥後の秤量瓶質量(乾燥後のカルボキシメチル化セルロースを含む)を精秤する(乾燥後CMC入り秤量瓶質量)。以下の式を用いて、カルボキシメチル化セルロースの水分量を計算する:
カルボキシメチル化セルロースの水分(%)=[{乾燥前CMC質量(g)-(乾燥後CMC入り秤量瓶質量(g)-絶乾秤量瓶質量(g))}/乾燥前CMC質量(g)]×100。
(3)濾過残渣の割合の計算
(1)で測定したカルボキシメチル化セルロースの質量(g)及び絶乾残渣質量(g)、ならびに(2)で計算したカルボキシメチル化セルロースの水分(%)を用いて、以下の式により、カルボキシメチル化セルロースの濾過残渣の割合を計算する:
カルボキシメチル化セルロースの濾過残渣の割合(%)=[絶乾残渣質量(g)/{カルボキシメチル化セルロースの質量(g)×(100-カルボキシメチル化セルロースの水分(%))/100}]×100。
【0021】
本発明のカルボキシメチル化セルロースの濾過残渣の割合は、0~30%である。より好ましくは0~20%であり、さらに好ましくは0~10%である。濾過残渣の割合の少ないカルボキシメチル化セルロースは、分散させやすく、取扱い性に優れる。
【0022】
<その他>
カルボキシメチル化セルロースは、製造後に得られる分散体の状態であってもよいが、必要に応じて乾燥してもよく、また水に再分散してもよい。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
【0023】
カルボキシメチル化セルロースは、解繊することによりナノファイバー化することもできる。しかし、ナノファイバー化にはコストがかかることから、特に必要がなければ、ナノファイバー化せずに用いればよい。
【0024】
カルボキシメチル化セルロースの用途は、特に限定されないが、本発明のカルボキシメチル化セルロースは、カルボキシメチル置換度が0.50以下かつセルロースI型の結晶化度が50%以上であり、保形性と吸水性に優れており、また、濾過残渣の割合が少なく、ダマを形成しにくいことから、保形性や吸水性が必要とされる用途の添加剤として特に最適に用いることができると考えられる。しかし、それ以外の用途に用いてもよい。カルボキシメチル化セルロースが用いられる分野は限定されず、一般的に添加剤が用いられる様々な分野、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。
【0025】
<カルボキシメチル化セルロースの製造方法>
カルボキシメチル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。
【0026】
本発明のカルボキシメチル置換度が0.50以下であり、セルロースI型の結晶化度が50%以上であり、濾過残渣の割合が0~30%であるカルボキシメチル化セルロースは、これに限定されないが、例えば、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、製造することができる。このようにして得たカルボキシメチル化セルロースは、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシメチル化セルロースに比べて、水分散体としたときにダマを形成しにくいという特徴を有する。また、上記の方法は、カルボキシメチル化剤の有効利用率が高いという利点がある。
【0027】
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D-グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ-1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができるが、カルボキシメチル化セルロースにおいて50%以上のセルロースI型の結晶化度を維持するためには、セルロースI型の結晶化度が高いセルロースを原料として用いることが好ましい。原料となるセルロースのセルロースI型の結晶化度は、好ましくは、70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。セルロースI型の結晶化度の測定方法は、上述した通りである。
【0028】
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
【0029】
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
【0030】
<マーセル化>
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本明細書に記載の方法にしたがって、このマーセル化反応における溶媒に水を主として用い、次のカルボキシメチル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、水分散体としたときにダマの形成の少ない(すなわち、濾過残渣を生じる割合が少ない)カルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0031】
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50質量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55質量%以上あり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。マーセル化時の水の割合が多いほど、カルボキシメチル基がセルロースにより均一に導入されるという利点が得られる。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシメチル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50質量%未満の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0032】
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1~60質量%、好ましくは2~45質量%、より好ましくは3~25質量%の水溶液として反応器に添加することができる。
【0033】
マーセル化剤の使用量は、カルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度0.50以下及びセルロースI型の結晶化度50%以上を両立できる量であればよく特に限定されないが、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上2.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上1.5モル以下であることがさらに好ましい。
【0034】
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料の撹拌混合が可能な量であればよく特に限定されないが、セルロース原料に対し、1.5~20質量倍が好ましく、2~10質量倍であることがより好ましい。
【0035】
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0~70℃、好ましくは10~60℃、より好ましくは10~40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分~8時間、好ましくは30分~7時間、より好ましくは30分~3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
【0036】
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
【0037】
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型攪拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
【0038】
<カルボキシメチル化>
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチル化セルロースを得る。本明細書に記載の方法にしたがって、マーセル化の際は水を主とする溶媒として用い、カルボキシメチル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、水分散体とした際にダマになりにくい(すなわち、濾過残渣を形成する割合が少ない)カルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
【0039】
カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。
【0040】
カルボキシメチル化剤の使用量は、カルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度0.50以下及びセルロースI型の結晶化度50%以上を両立できる量であればよく特に限定されないが、一実施形態において、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5~1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5~80質量%、より好ましくは30~60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
【0041】
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.90~2.45が一般的に採用される。その理由は、0.90未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
【0042】
カルボキシメチル化において、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、15%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。カルボキシメチル化剤の有効利用率とは、カルボキシメチル化剤におけるカルボキシメチル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシメチル基の割合を指す。マーセル化の際に水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、高いカルボキシメチル化剤の有効利用率で(すなわち、カルボキシメチル化剤の使用量を大きく増やすことなく、経済的に)、本発明のカルボキシメチル化セルロースを得ることができる。カルボキシメチル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
【0043】
カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM = (DS ×セルロースのモル数)/ カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は後述する)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
【0044】
カルボキシメチル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、カルボキシメチル化剤の有効利用率を高める観点から、1~40%(w/v)であることが好ましい。
【0045】
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
【0046】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシメチル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1~4の一価アルコールが好ましく、炭素数1~3の一価アルコールがさらに好ましい。
【0047】
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。有機溶媒の割合が高いほど、均一なカルボキシメチル基の置換が起こりやすいなど、品質の安定したダマが形成されにくいカルボキシメチル化セルロースが得られるという利点が得られる。有機溶媒の割合の上限は限定されず、例えば、99質量%以下であってよい。添加する有機溶媒のコストを考慮すると、好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。
【0048】
カルボキシメチル化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、得られるカルボキシメチル化セルロースの結晶化度を維持しやすくなり、本発明のカルボキシメチル化セルロースを、より効率的に得ることができるようになる。また、カルボキシメチル化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からカルボキシメチル化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でカルボキシメチル化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
【0049】
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を好ましくは10~40℃の範囲で一定に保ったまま15分~4時間、好ましくは15分~1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシメチル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシメチル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30~90℃、好ましくは40~90℃、さらに好ましくは60~80℃として、30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化(カルボキシメチル化)反応を行い、カルボキシメチル化セルロースを得る。カルボキシメチル化反応時に昇温することにより、エーテル化反応を短時間で効率的に行えるという利点が得られる。
【0050】
カルボキシメチル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
【0051】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシメチル化セルロース又はその塩としてもよい。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0052】
上記の製法により、カルボキシメチル置換度が0.50以下かつセルロースI型の結晶化度が50%以上であるにもかかわらず濾過残渣の割合が少ないカルボキシメチル化セルロースが得られる理由は明らかではないが、本発明者らは、次のように推測している:マーセル化反応を水を主とする溶媒を用いて行うことによりマーセル化剤が均一に混ざりやすくなり、マーセル化反応がより均一に生じるようになり、また、カルボキシメチル化において有機溶媒が存在することにより、カルボキシメチル化剤の有効利用率が向上し、その結果余剰のカルボキシメチル化剤による副反応(例えば、グリコール酸アルカリ金属塩の生成等)が生じにくくなり、品質が安定化すると考えられる。これにより均一にカルボキシメチル化が起き、カルボキシメチル化セルロースが均一に分散しやすくなり、濾過残渣が生じる割合が減少したと考えられる。しかし、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
【0054】
(実施例1)
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)100部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、30%である。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル置換度0.24、セルロースI型の結晶化度73%のカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、29%であり、濾過残渣の割合は7%であった。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率及び濾過残渣の割合の算出方法は、上述の通りである。
【0055】
(実施例2)
IPAの添加量を変えることによりカルボキシメチル化反応時の反応液中のIPAの濃度を50%とした以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.31、セルロースI型の結晶化度は66%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は37%、濾過残渣の割合は2%であった。
【0056】
(実施例3)
IPAの添加量を変えることによりカルボキシメチル化反応時の反応液中のIPAの濃度を65%とした以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.20、セルロースI型の結晶化度は74%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は25%、濾過残渣の割合は3%であった。
【0057】
(比較例1)
マーセル化反応時の溶媒を水10%、IPA90%とし、カルボキシメチル化反応時にも同じ組成の溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.29、セルロースI型の結晶化度は66%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は35%、濾過残渣の割合は48%であった。
【0058】
(比較例2)
マーセル化反応時の溶媒を水19%、IPA81%とし、カルボキシメチル化反応時にも同じ組成の溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。カルボキシメチル置換度は0.60、セルロースI型の結晶化度は0%、カルボキシメチル化剤の有効利用率は67%、濾過残渣の割合は91%であった。
【0059】
【0060】
表1の結果より、マーセル化を水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより得た実施例1~3のカルボキシメチル化セルロースは、従来法である、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行うことにより得た比較例1及び2(溶媒法)のカルボキシメチル化セルロースに比べて、濾過残渣の割合が有意に少ない(すなわち、水に分散した際にダマになりにくい)ことができることがわかる。また、比較例1及び2で得られたカルボキシメチル化セルロースは局所的に水を含んで局所的に膨潤している様子が見られたが、実施例1~3で得られたカルボキシメチル化セルロースは、より均質な分散体を形成していた。