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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/16 20210101AFI20221212BHJP
   B22F 10/43 20210101ALI20221212BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20221212BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20221212BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20221212BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221212BHJP
【FI】
B22F10/16
B22F10/43
B22F10/64
B29C64/165
B29C64/40
B33Y10/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018102240
(22)【出願日】2018-05-29
(65)【公開番号】P2018204105
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2017108246
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 享
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 博一
(72)【発明者】
【氏名】政田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】青谷 貴治
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-192468(JP,A)
【文献】特開2005-144870(JP,A)
【文献】特開2007-270227(JP,A)
【文献】特開2013-161544(JP,A)
【文献】特開2015-147984(JP,A)
【文献】特開2015-205485(JP,A)
【文献】国際公開第2015/141032(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006610(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0014910(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105
B22F 3/16
B22F 10/00 - 12/90
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の粉末を用いて粉末層を形成する工程と、
前記粉末層の一部の領域に、前記第一の粉末よりも平均粒子径が小さい第二の粉末を配置する工程と、
前記第二の粉末が配置された前記粉末層を加熱する第一の加熱工程と、
前記第一の加熱工程の後に、前記一部の領域外の前記第一の粉末を取り除く工程と、
を含み、
前記第二の粉末の平均粒子径が1nm以上、500nm以下であり、
前記第一の加熱工程は、前記第一の粉末の焼結開始温度より低く前記第二の粉末が焼結または溶融する温度で加熱する
ことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項2】
前記一部の領域外の前記第一の粉末を取り除く工程の後に、前記一部の領域の粉末を加熱する加熱工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項に記載の物品の製造方法。
【請求項3】
前記一部の領域外の前記第一の粉末を取り除く工程の後に、前記第一の粉末が焼結するように前記粉末層を加熱する加熱工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項に記載の物品の製造方法。
【請求項4】
前記粉末層を形成する工程と、前記第二の粉末を配置する工程と、を交互に複数回繰り返したのち、前記第一の加熱工程を行う、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項5】
前記第一の粉末の平均粒子径は1μm以上、500μm以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項6】
前記第二の粉末の平均粒子径は1nm以上、200nm以下である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項7】
前記第一の粉末を構成する粒子と前記第二の粉末を構成する粒子とが少なくとも一種類
の同じ成分を含む
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項8】
前記第一の粉末と前記第二の粉末とが、共に、金属又はセラミックスの粒子を含む粉末である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項9】
前記第二の粉末を配置する工程は、前記一部の領域に、前記第二の粉末を含む液体を付与する工程である
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項10】
前記液体が結合剤を含む
ことを特徴とする請求項に記載の物品の製造方法。
【請求項11】
前記液体に含まれる前記結合剤の体積濃度が50vol%以下である
ことを特徴とする請求項10に記載の物品の製造方法。
【請求項12】
前記液体を付与する工程と前記第一の加熱工程のあいだに、前記液体を乾燥させる工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項から11のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項13】
前記液体の粘度が50cP以下である
ことを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項14】
前記粉末層を形成する工程と前記第二の粉末を配置する工程のあいだに、前記粉末層を加圧する工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項15】
前記粉末層を形成する工程と前記第一の加熱工程のあいだに、前記粉末層に対し結合剤を付与する工程をさらに含む
ことを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項16】
前記結合剤を付与する領域が、前記粉末層のうちの前記一部の領域外の領域である
ことを特徴とする請求項15に記載の物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状の材料を用いて立体物を造形する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
立体物を造形する方法として、造形対象物である立体物モデルのスライスデータに従って造形材料を積層する積層造形法が注目されている。従来は樹脂材料を用いた造形が主流であったが、最近では、金属やセラミックスなど、樹脂以外の造形材料を用いた造形を行う装置も増えてきている。
【0003】
特許文献1では、基板上に粉末材料の薄層を形成した後にレーザで局所的に高温加熱を行い、粉末材料を焼結する、という工程を繰り返すことで造形物を得る方法が開示されている。特許文献1の手法では、オーバーハング構造や可動部のある構造など、粉末材料が焼結されていない領域(以下「非造形領域」とよぶ)の上に構造体を形成する場合、非造形領域の上部に存在する粉末材料を焼結しなければならない。その際の局所的な熱収縮により反りが発生することがあるため、構造体の形状によっては、反りを抑制するサポート体(サポート構造とも称す)を付加して造形する必要がある。サポート体は、本来不要な構造であるため、立体物モデルの形状次第では、造形後に除去が必要となる場合があるため、サポート体の除去が困難な形状ないし構造をもつ立体物モデルは造形が困難である。特に、金属の造形物からサポート体を除去する際には金属加工機を用いる必要があるため、金属加工機による除去が物理的に困難な微細構造は造形することができなかった。また、セラミックスは負荷により破損しやすいため、セラミックスの造形物から選択的にサポート体を除去することは困難であった。
【0004】
また、金属又はセラミックスなどの粒子と樹脂バインダーとの混合材料を用いて造形物の形状を作製した後に、樹脂を除去(脱脂)し焼結することで、金属又はセラミックスの造形物を得る手法が知られている。特許文献2では、金属粒子含有層に液状結合剤を塗布して固化する工程を繰り返した後に、固化していない領域を取り除くことで、樹脂と金属粒子の複合造形物を作製する手法が開示されている。得られた複合造形物を、熱処理により脱脂、焼結することで金属造形物を得ている。
【0005】
特許文献2の方法では、オーバーハング構造や可動部のある構造などを有する形状を作製する場合、結合剤を塗布していない粉末(固化していない粉末)をサポート体の代わりとして造形している。しかし、サポート体代わりの粉末は、脱脂及び焼結の前に除去しなければならないため、脱脂後に形状を維持できず、変形、破損することがある。また、造形物中に厚さが異なる造形形状が混在する場合には、厚い箇所での脱脂が不十分だと造形物中の不純物が増え、厚い箇所の脱脂を十分にすると薄い部分が変形、破損することがある。したがって、特許文献2の造形方法では、造形可能な形状、サイズに制限があった。とはいえ、形状維持のためにサポート体代わりの粉末を除去しないで熱処理を行うと、非造形領域の金属粒子が造形領域の金属粒子に合一してしまい、求める形状が得られない可能性がある。
【0006】
また、樹脂と金属の複合造形物の形状は樹脂成分によって維持されるが、樹脂成分が多いと脱脂時の変形や破損、形成した造形物中の空隙の原因となる。一方で、樹脂成分が少ないと樹脂と金属の複合造形物の強度が弱くなるため、非造形領域の粒子を取り除く際に造形物が破損することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-38237号公報
【文献】特開2015-205485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の造形方法では造形可能な形状に制限がある。特に金属やセラミックスなどの造形材料を用いる方法では、所望の物性あるいは形状が造形できるとは言い難い状況である。
そこで本発明は、造形可能な形状の制限が少ない造形技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一態様は、
第一の粉末を用いて粉末層を形成する工程と、
前記粉末層の一部の領域に、前記第一の粉末よりも平均粒子径が小さい第二の粉末を配置する工程と、
前記第二の粉末が配置された前記粉末層を加熱する第一の加熱工程と、
前記第一の加熱工程の後に、前記一部の領域外の前記第一の粉末を取り除く工程と、
を含み、
前記第二の粉末の平均粒子径が1nm以上、500nm以下であり、
前記第一の加熱工程は、前記第一の粉末の焼結開始温度より低く前記第二の粉末が焼結または溶融する温度で加熱する
ことを特徴とする物品の製造方法を提供する。
【0010】
本発明の第二態様は、
第一の粉末を用いて粉末層を形成する粉末層形成手段と、
前記粉末層のうちの一部の領域に、平均粒子径が前記第一の粉末よりも小さい第二の粉末を配置する配置手段と、
前記第一の粉末に含まれる第一の粒子どうしは焼結せず前記第二の粉末に含まれる粒子
どうしが焼結または溶融するように前記粉末層を加熱する加熱手段と、
を有することを特徴とする造形装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、造形可能な形状の制限が少ない造形技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態の造形方法を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態の造形方法を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態の造形方法を模式的に示す図である。
図4】実施例1に係る造形方法のフローを示す図である。
図5】実施例2に係る造形方法のフローを示す図である。
図6】実施例3に係る造形方法のフローを示す図である。
図7】実施例8に係る造形装置を模式的に示す図である。
図8】実施例9に係る造形装置を模式的に示す図である。
図9】実施例11に係る造形装置を模式的に示す図である。
図10】実施例12に係る造形装置を模式的に示す図である。
図11】実施例14に係る造形装置を模式的に示す図である。
図12】実施例15に係る造形装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、粒子状の材料を用いて立体的な造形物を作製するための造形方法に関する。本発明の方法は、アディティブマニファクチャリング(AM)システム、三次元プリンタ、ラピッドプロトタイピングシステムなどと呼ばれる造形装置における造形プロセスに好ましく利用可能である。
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態及び実施例を示して、本発明を詳細に説明する。各図面において、同一部材あるいは対応する部材を示す箇所には、同一の符号を付与している。特に図示あるいは記述をしない構成や工程には、当該技術分野の周知技術又は公知技術を適用することが可能である。また、重複する説明は省略する場合がある。
【0015】
(造形方法)
本発明の実施形態に係る造形方法は、概略、下記の(工程1)~(工程4)を有する。
(工程1)第一の粒子を用いて粉末層を形成する工程
(工程2)粉末層のうちの造形領域に、第二の粒子を付与する工程
(工程3)第二の粒子を焼結し、造形領域内の第一の粒子どうしを固定する工程
(工程4)造形領域外の第一の粒子を取り除く工程
【0016】
上記の(工程1)~(工程4)を行うことにより、粉末層1層分の厚みを有するシート状(又は板状)の造形物を形成することができる。さらに、上記の(工程1)~(工程2)を繰り返して多数の粉末層を積層することで、3次元的な造形物を形成することができる。
【0017】
(各工程の説明)
以下、図1A図1H図2A図2G図3を用いて、造形方法の各工程について説明する。図1A図1H図2A図2Gは、本実施形態の造形方法の流れを模式的に示している。図1A図1Hは(工程1)~(工程3)を複数回繰り返したのち(工程4)を実行するシーケンスの例、図2A図2Gは(工程1)と(工程2)を交互に複数回繰り返したのち(工程3)と(工程4)を実行するシーケンスの例である。図3は粉末層の構造を模式的に示す拡大図である。
【0018】
なお、造形を開始する前に、造形装置又は外部装置(例えばパーソナルコンピュータなど)によって、造形対象物の3次元形状データから、各層を形成するためのスライスデータが生成されているものとする。3次元形状データとしては、3次元CAD、3次元モデラー、3次元スキャナなどで作成されたデータを用いることができ、例えば、STLファイルなどを好ましく利用できる。スライスデータは、造形対象物の3次元形状を所定の間隔(厚み)でスライスして得られるデータであり、断面の形状、層の厚み、材料の配置などの情報を含むデータである。層の厚みは造形精度に影響するため、要求される造形精度や造形に用いる粒子の粒径に応じて層の厚みを決めると良い。
【0019】
(工程1)第一の粉末を用いて粉末層を形成する工程
本工程では、造形対象物のスライスデータに基づき、第一の粒子1を含む第一の粉末を用いて粉末層11が形成される(図1A図2A)。本明細書では、複数の粒子の集合体を「粉末」と称し、粉末を所定の厚さに均したものを「粉末層」と称し、複数の粉末層を積層したものを「積層体」と称す。本工程の段階では、粉末層11を構成する個々の粒子は固定されていないが、粒子間に作用する摩擦力により粉末層11の形態は保持される。
【0020】
粉末層11を形成する第一の粉末を構成する第一の粒子1としては、例えば、樹脂粒子、金属粒子、セラミックス粒子などを使用することができる。前述したように、従来の造形方法では後加工(サポート体の除去など)が困難という理由から、金属又はセラミックスで造形可能な形状に制限があった。これに対し、本実施形態の方法は後述するように金
属やセラミックスでも複雑形状や微細形状の造形が容易である。したがって、第一の粒子に金属粒子やセラミックス粒子を用いる造形は、本実施形態の造形方法を好ましく適用できる対象の一つである。
【0021】
第一の粒子1として使用可能な金属としては、例えば、銅、錫、鉛、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、チタン、タンタル、鉄などが挙げられる。
また、ステンレス合金、チタン合金、コバルト合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、鉄合金、ニッケル合金、クロム合金、シリコン合金、ジルコニウム合金などの金属合金を、第一の粒子1として用いてもよい。
また、炭素鋼など金属に炭素などの非金属元素を添加したものを、第一の粒子1として用いてもよい。
また、第一の粒子としては、酸化物セラミックスを用いてもよいし、非酸化物セラミックスを用いてもよい。酸化物セラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ウラン、チタン酸バリウム、バリウムヘキサフェライト、ムライトなどの金属酸化物が挙げられる。非酸化物セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化ホウ素、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ランタン、モリブデンシリサイド、鉄シリサイド、バリウムシリサイドなどが挙げられる。第一の粒子は、複数種類の金属の複合粒子や、複数種類のセラミックスの複合粒子であってもよい。
【0022】
第一の粉末は、第一の粒子1以外の物質を含んでいてもよい。例えば、粉末層11の成形を容易にすること、粉末層11の形態を保持すること、あるいは後述する(工程2)で付与する液体の拡散を良好に制御すること、などを目的として、第一の粉末に添加剤を添加してもよい。これにより造形の容易化及び造形精度の向上を図ることができる。また、第一の粉末の中に、異なる材料からなる複数種類の第一の粒子1を混合してもよい。
【0023】
第一の粉末の平均粒子径は、粉末層11を良好に形成するために、凝集が起こらない程度の寸法にすることが好ましい。また、第一の粒子1の平均粒子径は、(工程2)で付与する液体の拡散、(工程3)の加熱処理における粒子固定、さらには造形物の強度や機能の要求に適した寸法にすることが好ましい。具体的には、第一の粒子1の体積基準の平均粒子径が、1μm以上、500μm以下の範囲から選択されるとよく、好ましくは、1μm以上、100μm以下の範囲から選択されるとよい。平均粒子径が1μm以上であることで、粉末層形成時の粒子の凝集が抑えられ、欠陥の少ない層形成が容易になる傾向にある。
【0024】
平均粒子径の測定は、レーザ回折/散乱式粒径分布測定装置 LA-950(HORIBA社製)を用いて行うことができる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフトを用いる。具体的な測定方法としては、まず、測定溶媒が入ったバッチ式セルをレーザ回折/散乱式粒径分布測定装置 LA-950(HORIBA社製)にセットし、光軸の調整、バックグラウンドの調整を行う。ここで、使用する溶媒は測定する粒子が溶解しないものを選択する必要がある。また、測定する粒子の分散向上のために必要に応じて適宜分散剤を溶媒中に添加してもよい。測定対象の粉末を、タングステンランプの透過率が95%~90%になるまでバッチ式セルに添加し、粒子径分布の測定を行い、得られた測定結果から体積基準の平均粒子径を算出することができる。
【0025】
第一の粉末が、平均粒子径の異なる複数群の第一の粒子1を含んでいてもよい(もちろん、各々の群の平均粒子径はいずれも上述した数値範囲に設定されることが好ましい。)。第一の粉末に平均粒子径の異なる複数群の粒子が含まれる場合、第一の粉末の粒子径分布を測定すると、それぞれの群の平均粒子径近傍に存在比率が高いことを示すピークが現
れる。
例えば、相対的に平均粒子径の大きい第一群の粒子と、相対的に平均粒子径の小さい第二群の粒子とを混合することで、粉末層11を形成したときに第一群の粒子どうしの間隙に第二群の粒子が入り込み、粉末層11の空隙を減らすことができる。このとき、第二群の粒子の平均粒子径が、後述する第二の粒子の平均粒子径よりも大きく、第一群の粒子の平均粒子径の0.41倍以下であることが好ましい。第一群の粒子と第二群の粒子の平均粒子径の比をこのように設定すると、第一群の粒子が最密構造を形成した場合の粒子間隙(八面体サイト)に第二群の粒子を配置できるため、粉末層11の空間充填率を可及的に大きくすることができる。これにより、結果的に空隙率の小さい造形物を作製することができる。なお、第一群の粒子と第二群の粒子は同じ材料の粒子であることが好ましいが、異なる材料の粒子でも構わない。
【0026】
第一の粒子1は、平均円形度が0.94以上であることが好ましく、より好ましくは0.96以上である。第一の粒子1の平均円形度が0.94以上であれば、粒子が球に近い構造を有することになり、粒子同士が点接触する点を少なくすることができる。そうなると、第一の粒子1を含む第一の粉末の流動性が向上し、粉末層11を形成するときに第一の粒子1が最密充填されやすくなるため、空隙が少ない粉末層11を形成しやすくなる。
【0027】
粒子の円形度は、以下のように測定することができ、平均円形度は、任意の粒子10個以上について測定して得られた円形度を平均して得ることができる。

円形度=(粒子の投影面積と同じ面積の円の周囲長)/(粒子の投影像の周囲長)

ここで、「粒子の投影像」は、粒子画像を二値化することで得ることができる。「粒子の投影面積」は粒子の投影像の面積であり、「粒子の投影像の周囲長」は粒子の投影像の輪郭線の長さである。
【0028】
円形度は粒子の形状の複雑さを示す指標であり、粒子が完全な球形の場合に1.00を示し、粒子の投影像が円形から外れる程、円形度は小さな値となる。なお、粒子の円形度は、電子顕微鏡などの観察画像の画像処理及び、フロー式粒子像測定装置(例えば、東亜医用電子社製FPIA-3000型)などを用いて測定を行うことができる。
【0029】
粉末層11の形成は、例えば、特開平8-281807号公報に開示されているように、上方開口したコンテナと、コンテナの内部に設定された昇降可能な支持体と、ワイパーを備えた材料供給装置とを用いて形成することができる。具体的には、支持体の上面がコンテナの上縁より一層の厚さ分だけ下方となる位置に調整し、材料供給装置により平板上に材料を供給した後、ワイパーによって平坦化することにより1層分の粉末層11を形成することができる。あるいは、平面(ステージ又は作製中の造形物の表面)上に第一の粉末を供給し、層厚規制手段(例えばブレードなど)で粉末の表面を均すことにより、所望の厚さの粉末層11を形成してもよい。さらに、加圧手段(例えば加圧ローラ、加圧板など)で粉末層11を加圧してもよい。加圧することによって粒子間の接触点数が増加することで、造形物の欠陥が形成されにくくなる傾向にある。また、粉末層中の第一の粒子1が緻密に存在することで、後段の(工程2)及び(工程3)の処理中に第一の粒子1が動くこと(粉末層11の形態が崩れること)が抑制され、形状精度の高い造形物を作製することができる。
【0030】
造形装置が組成の異なる複数種類の第一の粉末を備えており(つまり、異なる種類の第一の粉末を収容可能な複数の粉末供給部を有し)、使用する第一の粉末を切り替え可能であってもよい。例えば、複数の粉末層11を積層する場合に、層ごとに粉末の組成を変えてもよい。
【0031】
(工程2)粉末層のうちの造形領域に、第二の粉末を配置する工程
本工程では、造形対象物のスライスデータに基づき、液体付与装置によって、粉末層11のうちの造形領域Sに、第二の粒子2を含み、平均粒子径が1nm以上、500nm以下の第二の粉末を含む液体12(「粒子分散液12」とも呼ぶ)を付与する(図1B図2B)。ここで「造形領域S」とは、造形対象物の断面に対応する領域(つまり、粉末層11のうち粉末を固めて造形物として取り出すべき部分)をさす。なお、造形領域S外の領域(つまり、最終的には粉末が除去されるべき部分)は「非造形領域N」と呼ぶ。
【0032】
第二の粉末は、少なくとも、第一の粉末よりも低い温度及び/又は短い時間で焼結および溶融が可能な粉末である。言い換えると、第一の粉末と第二の粉末の混合粉末を加熱する場合、第一の粉末を構成する少なくとも一部の第一の粒子1どうしは焼結(当然ながら溶融も)せず、第二の粉末を構成する第二の粒子どうしが焼結または溶融する、加熱条件(温度や時間など)が設定できる。ここで「焼結」とは、粒子どうしが接触する状態で粉末を融点以下の温度で加熱し、粒子どうしを固定(結合)させる処理をいう。また、「焼結せず」とは、粒子どうしが、固定していない状態、および、弱い力で固定されており、弱い力で固定されている粒子間の境界が電子顕微鏡で確認できる状態を含む。
【0033】
詳しくは後述するが、本実施形態の造形方法は、第二の粉末に含まれる粒子どうしが焼結または溶融する温度で加熱することで、第二の粒子2によって造形領域S内の第一の粒子1どうしを固定した後に、非造形領域N内の第一の粉末を取り除くという点に特徴を有する。
【0034】
平均粒子径が1nm以上、500nm以下の第二の粒子2を含む第二の粉末を用いることは、第二の粉末の焼結または溶融開始温度を第一の粉末の焼結開始温度に比べて十分に小さくする効果がある。本発明者の実験により、第二の粉末の焼結または溶融開始温度が、平均粒子径が1μm以上の第一の粒子を含む第一の粉末の焼結開始温度に比べて、有意に低下することが確認できた。第二の粉末の焼結開始温度は、第一の粉末の焼結開始温度よりに100℃以上低いと良く、300℃以上低いとより好ましい。
第二の粉末に含まれる第二の粒子2の平均粒子径は、更に好ましくは1nm以上200nm以下である。以下、第二の粒子2をナノ粒子2と呼ぶ場合がある。
平均粒子径が200nm以下であることで、焼結温度が低下するだけでなく、液体12中でのナノ粒子2の分散性が良くなり、液体12を付与する際の均一性が向上するため好ましい。
ナノ粒子2の平均粒子径は第一の粒子1の平均粒子径よりも小さい。これにより、ナノ粒子2が第一の粒子1の間隙に充填され、ナノ粒子2による第一の粒子1どうしの固定が図られやすくなる。
ナノ粒子2の平均粒子径は、液体付与時にナノ粒子2が第一の粒子1の間隙に容易に入り込むことができる程度のサイズに設定するとよい。
【0035】
ナノ粒子2としては、例えば、樹脂粒子、金属粒子、セラミックス粒子などを使用することができる。その中でも、第一の粒子1として、金属粒子又はセラミックス粒子を用いた場合には、ナノ粒子2として金属粒子又はセラミックス粒子を用いることが好ましい。ナノ粒子2として使用可能な金属としては、例えば、銅、錫、鉛、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、チタン、タンタル、鉄、ニッケルなどが挙げられる。また、ステンレス合金、チタン合金、コバルト合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金、鉄合金、ニッケル合金、クロム合金、シリコン合金、ジルコニウム合金などの金属合金を、ナノ粒子2として用いてもよい。
また、炭素鋼など金属に炭素などの非金属元素を添加したものを、ナノ粒子2として用いてもよい。
また、ナノ粒子2としては、酸化物セラミックスを用いてもよいし、非酸化物セラミックスを用いてもよい。酸化物セラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ウラン、チタン酸バリウム、バリウムヘキサフェライト、ムライトなどの金属酸化物が挙げられる。非酸化物セラミックスとしては、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化タングステン、炭化ホウ素、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム、ホウ化ランタン、モリブデンシリサイド、鉄シリサイド、バリウムシリサイドなどが挙げられる。ナノ粒子2は、複数種類の金属の複合粒子や、複数種類のセラミックスの複合粒子であってもよい。
【0036】
ナノ粒子2は、第一の粒子1と少なくとも一種類の同じ成分を含有することが好ましい。同じ成分を含有することで、ナノ粒子2の焼結時にナノ粒子2表面と第一の粒子1表面とが結合しやすくなり、強固に第一の粒子1を固定することができる。さらには、ナノ粒子2が、第一の粒子1に含有されている成分を主成分として構成されているとより好ましい。最終的な造形物は第一の粒子1とナノ粒子2の混合物になるところ、ナノ粒子2が第一の粒子1と同じ成分(材料)で構成されていれば、造形物内の不純物の量が少なくなり、造形物の材質が均質化されるので、造形物の強度や品質を向上することができる。例えば、第一の粒子1が鉄を含有するステンレス合金である場合、ナノ粒子2としては鉄粒子や酸化鉄粒子などを好適に使用できる。
【0037】
前述のように、領域ごと又は層ごとに第一の粉末の組成を変更可能な構成の場合、ナノ粒子2の組成及び液体12の種類を、第一の粉末の組成に合わせて領域ごと又は層ごとに変えてもよいし、あるいはすべて同じ種類の液体12を用いてもよい。液体12の濃度及び量は、造形物の空隙率に影響するため、要求される造形物の空隙率に応じて決めるとよい。
【0038】
液体12を粉末層11に付与する工程と(工程3)のあいだに、液体12を乾燥させる工程を設けるとよい。液体12を乾燥させる工程は、1層ごとに行うのが好ましい。乾燥が進むにつれて徐々に濃縮される液体12が、その表面張力によって、第一の粒子1間の粒界に集まる。液体中のナノ粒子2は液体12の動きに伴い、選択的に第一の粒子1間の粒界に集まり、凝集する。乾燥工程の結果として、第一の粒子1の粒界にナノ粒子2が集積することによって後述するナノ粒子2の焼結時に第一の粒子1を効率的にかつ強固に固定することができる。液体を乾燥する際には、液体12の濃度や量などに応じて最適な温度、時間などの乾燥条件を選ぶとよい。
【0039】
また、液体12の均一性を増すために、溶媒を添加してもよい。具体的な溶媒として水溶媒、有機溶媒若しくは水溶媒と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。水溶媒としては、純水等を用いることができる。また、有機溶媒としては、メタノールやエタノール等のアルコール、メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素等が用いられる。液体12に溶媒を添加すると、乾燥時に適切な速度で溶媒の蒸発が行われるため、ナノ粒子2の分散ムラが発生しにくい傾向にある。
【0040】
液体12中のナノ粒子2の分散性を制御するために添加剤を適宜添加することもできる。液体12は、必要に応じて顔料などの機能性物質を含んでいても良い。
また、液体12は、粒子を固定するための結合剤を含んでもよい。結合剤としては既存の物質が使用可能であるが、後述する(工程3)の加熱処理により分解される物質、即ち、ナノ粒子が焼結する温度または溶融する温度よりも低い分解温度を有する物質が好ましい。加熱により分解されることで、(工程3)までは造形領域S内の第一の粒子1及び/又は造形領域S内のナノ粒子2を固定しながらも、(工程3)で除去できるため、造形物
中の不純物となりにくい。具体的な結合剤としては、樹脂材料や水溶性炭水化物が挙げられる。結合剤は液体中に溶解することが好ましい。
【0041】
また、結合剤の付与を液体12の付与工程とは分け、(工程2)の後かつ(工程3)の前に、粉末層11に対し結合剤を付与する工程を設けてもよい。この場合、結合剤は、造形領域Sまたは/および非造形領域Nに付与することができる。結合剤を付与することにより、第一の粒子1を仮固定することができ、次の粉末層形成が容易になる傾向にある。結合剤の付与方法としては、液体に結合剤を溶かした液体結合剤を、液体付与装置を用いて付与する方法が好ましい。液体結合剤には、樹脂材料を溶剤に溶かした樹脂溶液、水溶性物質を水に溶かした溶液などを用いることができる。
ナノ粒子を分散させた液体12と結合剤を含有する液とを分けて付与すれば、それぞれの付与装置を付与する液体に応じて独立して最適化することができるため、付与装置の耐久性が優れる傾向にあり、好ましい。
【0042】
結合剤は、(工程2)を行っている間は第一の粒子1及び/又は造形領域S内のナノ粒子2の固定に寄与し、(工程3)での加熱により分解され除去される。従って、造形領域S内に付与された結合剤は、(工程2)の間は造形物の形状を保ち、(工程3)において、熱によって分解され、分解物が第一の粒子間の隙間を通って除去される。その結果、結合剤が造形物中の不純物として残りにくく、非造形領域N内の第一の粒子1の除去も容易である。結合剤の残留が生じないように結合剤の種類及び量を決定することが好ましい。
【0043】
液体12あるいは液体結合剤の付与に用いる液体付与装置としては、所望の位置に所望の量で液体を付与できる装置であればどのようなものを用いてもよい。液量や配置位置が精度良く制御可能な点から、インクジェット装置を好ましく利用できる。
粒子分散液である液体12と液体結合剤とを分けて付与する場合は、それぞれの液を吐出するノズルが設けられたヘッドを有するインクジェット装置により、造形領域Sへの粒子分散液12の付与と液体結合剤の付与を一度に行う構成も好ましい。
【0044】
インクジェット装置にて吐出する場合には液体12の粘度は適切な値とすることが必要であり、50cP以下が好ましく、より好ましくは20cP以下である。一方で、第一の粒子1間に液体12を速やかに拡散させるため、また乾燥時に液体12を第一の粒子1間に凝集させるために、液体12の粘度を適切な値とする必要があるが、20cP以下であることで流体組成物吐出をより制御しやすくなる傾向にある。
【0045】
造形物の体積密度を上げて強度をより高めるためには、液体12中のナノ粒子2の体積濃度は、上記粘度の範囲内で、高い方が好ましい。しかしながら、液体12を乾燥する過程において、第一の粒子1間の接触点近傍にナノ粒子2を集積させやすくする観点では、液体12の体積濃度は低い方が望ましい。これらの条件から、液体12の体積濃度が50vol%以下であることが好ましく、より好ましくは30vol%以下である。固形分濃度が50vol%以下であることで、液体12が乾燥する際に第一の粒子1間にナノ粒子2が集積する傾向があり、効率よく第一の粒子1の固定に寄与するため好ましい。
また、液体12は複数回付与してもよく、付与するごとに乾燥させてもよい。複数回付与することで造形領域における粉末層11中のナノ粒子2の濃度を制御することができる。
【0046】
(工程3)第二の粉末を焼結または溶融し、造形領域内の第一の粒子どうしを固定する工程
本工程では、第二の粉末が焼結または溶融する条件にて粉末層11を加熱することで、焼結または溶融するナノ粒子2を介して、造形領域S内の第一の粒子1どうしを固定する(図1C図1F図2F)。
【0047】
図1C図1Fの符号13は粒子どうしが固定された領域を示している。図1A図1Hの造形プロセスでは、(工程1)から(工程3)、即ち、図1D図1Fを繰り返し、造形領域S内の粒子のみを固定しながら粉末層を積層することで、造形物を内部に含む積層体14が形成される。また、図2A図2Gの造形プロセスでは、(工程1)と(工程2)、即ち、図2C図2Dを繰り返し、造形領域S内にナノ粒子2を付与した状態の粉末層を積層したのち、複数の粉末層からなる積層体16をまとめて加熱する。この造形プロセスでも、図1Gと同じように、造形物を内部に含む積層体14が形成される。なお、積層体16を加熱する前に、積層体16を加圧する工程を設けてもよい。積層体16を加圧することによって、第一の粒子1間の接点数が増加し、加熱時の粒子間結着が効率よく進む傾向にあるからである。
【0048】
加熱時の雰囲気は材料の種類に応じて任意に定めることができる。例えば金属の場合、Ar、N2などの不活性ガスや、水素ガス雰囲気、真空雰囲気などの酸素が少ない雰囲気で加熱することが、焼結時の金属の酸化を抑えることができるため好ましい。
工程3の工程で、周囲に第一の粒子が存在する状況下で、有機成分、樹脂を熱により除去することができるため、造形物の形状を維持しながら、造形物中の残炭素成分を減らすことができる。特に造形物中に厚さが異なる造形形状が混在する場合でも、内部の有機成分、樹脂成分を除去することができるため、造形物の形状の自由度に優れる。
【0049】
(工程4)造形領域外の第一の粒子を取り除く工程
本工程では、(工程3)で得られた積層体14から造形領域S外の粉末を除去し、造形物15を得る(図1F図2G)。積層体14から不要な粉末を除去する方法としては、公知の方法含め、いかなる方法を用いてもよい。例えば、洗浄、エア吹付、吸引、加振などが挙げられる。
本実施形態の造形方法では除去対象となる粉末に含まれる第一の粒子1は固定されていないか、固定されていたとしても、造形領域Sと比較して弱く固定されているため、除去が極めて容易である。また、除去した粉末は回収して造形材料として再利用することもできる。
【0050】
以上述べた本実施形態の造形方法は、次のような特徴を有する。
・主たる造形材料である第一の粒子1どうしを直接結合させるのではなく、ナノ粒子2を焼結または溶融させ、ナノ粒子2の結合作用によってその周囲に存在する第一の粒子1を間接的に結合させる。したがって、ナノ粒子2を付与する位置及び範囲を制御することで、造形物の形状を制御することができる。しかも粒子分散液12の状態でナノ粒子2を付与するため、インクジェット装置などの液体付与装置を利用することでナノ粒子2を付与する位置、範囲、量などを簡単にかつ高精度に制御することができる。
【0051】
・ナノ粒子2を焼結または溶融させるので、第一の粒子1どうしを強固に結合させることができる。また、ナノ粒子2が第一の粒子1の間隙を埋める作用があるので、造形物の空隙率を低減することができる。
【0052】
・(工程3)ではナノ粒子2が存在する箇所が選択的に固定されるので、非造形領域Nの粒子の除去が容易である。また、非造形領域Nの粒子を除去する際に、大きな力を加える必要がないので、造形物を破損したり傷つけたりするおそれも少ない。
【0053】
・(工程4)の直前まで造形領域S外の第一の粒子1が形態を保持したまま残っているため、オーバーハング構造がある場合には、オーバーハング構造の下の第一の粒子1をサポート体として利用することができる。これにより、造形物の変形、割れを抑制することができる。しかも、サポート体として利用される第一の粒子1は、除去が容易である。し
たがって、本実施形態の造形方法によれば、金属やセラミックスなどの材料を用いて、従来手法では造形が困難だった複雑形状や微細形状の造形を容易にかつ高品質に行うことが可能である。
【0054】
図2A図2Gのように積層体16を形成し、まとめて加熱する場合には、造形物の全体が均一に加熱される。したがって、局所的な熱衝撃が少なくなり、造形物形成時のひずみや割れが低減する。
【0055】
・樹脂を使用しなくても造形ができるため、脱脂による造形物の縮みや変形を回避できる。また、樹脂を使用しない、もしくは樹脂を使用しても工程2で除去することで、不純物の少ない造形物を作製できる。
【0056】
上述した(工程1)~(工程4)は本実施形態の造形方法のうちの基本的な工程を例示するものにすぎず、本発明の範囲は上述した内容に限定されるものではない。上述した各工程の具体的な処理内容を適宜変更したり、上述した各工程以外の工程を追加しても構わない。
【0057】
例えば、(工程4)の後に、(工程3)での加熱温度よりも高い温度で造形物15を加熱する工程を設けてもよい。このような追加加熱処理を行うことで、造形物15の密度を高めることができる。この場合に、第一の粒子1が焼結する条件(加熱温度、加熱時間など)で造形物15を加熱してもよい。第一の粒子1どうしを焼結させることにより、造形物15の特性を向上させ、強度をより高めることができる。本実施形態の方法で得られる造形物15は基本的に造形材料のみ(第一の粒子1とナノ粒子2)で構成されており、従来方法の造形物のように樹脂バインダーのような結合剤を含まなくてよい。したがって、造形物15を追加で加熱(焼結)したとしても、加熱処理の前後で造形物15の組成変化が小さい。また、従来方法では加熱処理で樹脂を脱脂する際に造形物の形状が変化するおそれがあったが、本実施形態の造形物15の場合はそのような問題も生じにくい。
【0058】
(粒子の製造方法)
第一の粒子1及びナノ粒子2は、公知の方法を含む、いかなる方法で作製してもよい。例えば、金属粒子の製造方法としては、略球形の粒子を得ることができる点で、ガスアトマイズ法及び水アトマイズ法を好ましく用いることができる。また、セラミックス粒子の製造方法としては、略球形の粒子を得ることができる点で、ゾルゲル法などの湿式での製法や、高温の気中で液化させた金属酸化物を冷却し固化させる乾式での製法を、好ましく用いることができる。
【0059】
(粒子分散液の製造方法)
粒子分散液12は、多数のナノ粒子2を溶液中に分散させることができれば、公知の方法を含む、いかなる方法で作製してもよい。例えば、ナノ粒子2を溶液中に添加し撹拌することで作製してもよい。
【0060】
(実施例)
次に、上記実施形態にかかる製造方法の具体的な実施例について説明する。
<粉末Aの調整>
平均粒子径が7μmのSUS粒子を含むSUS粉末(SUS316L エプソンアトミックス社製)を粉末Aとする。
<粉末Bの調整>
平均粒子径が30μmのSUS粒子を含むSUS粉末(SUS316L LPW社)を粉末Bとする。
<粉末Cの調製>
平均粒子径が11μmのSUS粒子を含む粉末(SUS316L 山陽特殊製鋼株式会社製)を粉末Cとする。
<粉末Dの調製>
平均粒径が8μmの銅粒子を含む銅粉末(SFR-Cu 日本アトマイズ加工株式会社製)を粉末Dとする。
【0061】
<溶液Aの調整>
平均粒子径が25nmの鉄ナノ粒子の粉末(シグマアルドリッチ社製)5.0gをエタノール(特級 キシダ化学社製)45.0g中に分散させ、溶液Aを得た。得られた溶液A中の鉄ナノ粒子の体積濃度は1.1vol%であった。溶液Aの粘度は1.2cPであった。
【0062】
<溶液Bの調整>
エチルセルロース(STD-4 日新化成株式会社製)5.0gをエタノール(特級 キシダ化学社製)45.0g中に添加、混合した後に7時間常温で撹拌し、溶液Bを得た。得られた溶液B中のエチルセルロースの体積濃度は8.1vol%であった。溶液Bの粘度は12.2cPであった。
【0063】
<溶液Cの調整>
エチルセルロース(STD-4 日新化成株式会社製)0.007gをエタノール(特級 キシダ化学社製)0.493g中に添加、混合した後に7時間常温で撹拌し、溶液Cを得た。得られた溶液C中のエチルセルロースの体積濃度は1.1vol%であった。
<溶液Dの調整>
鉄ナノコロイド(H10 立山マシン株式会社製)を溶液Dとした。溶液Dは平均粒子径3.6nmの鉄ナノ粒子の粉末を体積濃度0.9vol%となるように、n-ヘキサン中に界面活性剤を使用して分散したものである。溶液Dの粘度は0.5cPであった。
<溶液Eの調整>
水に銀ナノ粒子を分散させた銀インク(NBSIJ-KC01 三菱製紙株式会社製)を溶液Eとした。溶液Eは平均粒子径34nmの銀ナノ粒子を含有しており、体積濃度は0.8vоl%であった。粘度は 4.0cPであった。
<溶液Fの調整>
液相還元法で作製した平均粒子径が160nmのニッケルナノ粒子水分散体を溶液Fとした。得られた溶液F中のニッケルナノ粒子の体積濃度は0.6vol%であった。粘度は7.1cPであった。
【0064】
<焼結開始温度の測定>
それぞれの粉末の焼成開始温度を、以下の手順で取得した。
直径5mm、高さ2.5mmのアルミナ容器に、底が見えなくなる程度の量の粉末を詰める。上記アルミナ容器を電気炉にて60分間加熱し、粉末の状態を観察した。粉末の焼結が確認できない場合は更に温度を10℃上げた条件で加熱し、観察することを繰り返し、粉末の焼結が確認されたときの温度を粉末の焼結開始温度とする。
焼結したかどうかは、下記手法にて確認した。
熱処理前に電子顕微鏡で粉末に含まれる平均粒子径程度の二つ以上の粒子が視野内に概ね収まる倍率の視野を定め、熱処理後の粉末に含まれるSUS粒子を、前記倍率にて30か所以上で観察した。半数以上の観察視野で、平均粒子径程度(平均粒子径以下)の粒子が結合し、もとの粒子間の境界が観察できなくなるまで粒子間が固定(結合)している場合に、粉末が焼結していると判断した。
また、平均粒子径が25nmの鉄ナノ粒子(シグマアルドリッチ社製)の粉末についても同様の実験を行い、焼結開始温度を取得した。鉄ナノ粒子の粉末の焼結開始温度は、500℃以下であり、鉄(融点1538℃)よりも融点の低いSUS316L(融点140
0℃)の粉末(粉末B)の焼結開始温度800℃に比べても有意に低かった。溶液Dを乾燥し、銀ナノ粒子についても同様の実験を行ったところ、焼結開始温度が300℃以下であった。
【0065】
以下、粉末Aもしくは粉末Bで形成した粉末層に対し溶液Aもしくは溶液Bもしくは溶液Dを塗布し加熱処理を施すことで、所望の形状を有する造形物を作製した例を説明する。
<実施例1>
図4を参照しながら、実施例について説明する。
粉末Aを用いてアルミナ基板の上に20mm×10mm、厚さ2mmの粉末層を形成した(ステップS301)後に、6mmΦの領域に溶液Aを浸透深さ2mmとなるように付与した(ステップS302)。得られた粉末層を電気炉に入れ、鉄ナノ粒子の粉末の焼結開始温度以上、SUS粒子の粉末の焼結開始温度未満の600℃で1時間熱処理した(ステップS303)。熱処理後の粉末層のうち、溶液Aを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子は鉄ナノ粒子によって固化していた。溶液Aを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子を除去する(ステップS304)ことで板状の造形物を得ることができた。
【0066】
<実施例2>
図5を参照しながら、粉末Aを用いてアルミナ基板の上に20mm×10mm、厚さ2mmの粉末層を形成(ステップS401)した後に、6mmΦの領域に溶液Dを浸透深さ2mmとなるように付与した(ステップS402)。得られた粉末層を電気炉に入れ、鉄ナノ粒子の焼結開始温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の600℃で1時間熱処理した(ステップS403)。熱処理後の粉末層のうち、溶液Dを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子は鉄ナノ粒子によって固化していた。溶液Dを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子を除去(ステップS404)することで板状の造形物を得ることができた。
【0067】
<実施例3>
図6を参照しながら、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した(ステップS501)後に、10mm×10mmの範囲に溶液Dを付与した(ステップS502)。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成(ステップS503)し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Dを付与し(ステップS504)、積層体を得た。得られた積層体を電気炉に入れ、鉄ナノ粒子の焼結開始温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の温度である700℃で1時間熱処理した(ステップS505)。熱処理後の積層体のうち、溶液Dを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子は鉄ナノ粒子によって固化していた。溶液Dを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子を除去することで所望の造形物を得ることができた(ステップS506)。得られた造形物は、第一層よりも第二層の方が大きいオーバーハング構造を有していた。
【0068】
<実施例4>
実施例3と同様の手順で造形を行った。まず粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した後に、10mm×10mmの範囲に溶液Fを付与した。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Fを付与し、積層体を得た。得られた積層体を電気炉に入れ、ニッケルナノ粒子の焼結開始温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の温度である700℃で1時間熱処理した。熱処理後の積層体のうち、溶液Fを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子はニッケルナノ粒子によって固化していた。溶液Fを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子
を除去することで所望の造形物を得ることができた。得られた造形物は、第一層よりも第二層の方が大きいオーバーハング構造を有していた。
【0069】
上記実施例1乃至4により、SUS粒子からなる粉末で形成した粉末層の所望の領域に鉄ナノ粒子を付与し、鉄ナノ粒子を焼結させることにより、SUS粒子による所望形状の造形物を得ることができることが確認できた。
【0070】
比較例として、従来の樹脂バインダーで粉末を固化する造形を行った。
<比較例1>
粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した後に、10mm×10mmの範囲に溶液Bを付与した。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Bを付与し、樹脂金属複合体である積層体を得た。得られた積層体から、溶液Bを付与していない領域の粉末Bを除去した後に、積層体を電気炉に入れ、SUS粒子の焼結開始温度以上の温度で加熱し、造形物を得た。
【0071】
この方法では、溶液Bを付与していない領域の粉末Bを除去する際に、樹脂金属複合体の一部で破損が発生した。また、最終的に得られた金属の造形物の一部でも破損が確認され、造形物の一部では反りが確認された。この方法では、オーバーハング構造を形成することができず、所望の造形物は得られなかった。
【0072】
<比較例2>
粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した後に、10mm×10mmの範囲に溶液Bを付与した。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Bを付与し、樹脂金属複合体である積層体を得た。得られた積層体をそのまま電気炉に入れ、エチルセルロースの分解温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の温度で1時間熱処理した。加熱処理後の積層体は依然として粉末の状態(粒子どうしが結合していない状態)であり、所望の造形物は得られなかった。
【0073】
<比較例3>
粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した後に、10mm×10mmの範囲に溶液Bを付与した。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Bを付与し、樹脂金属複合体である積層体を得た。得られた積層体をそのまま電気炉に入れ、SUS粒子の焼結開始温度以上の温度で1時間熱処理した。溶液Bを付与した領域及び溶液Bを付与しない領域のいずれの領域のSUS粒子も焼結し、積層体全体で金属焼結体が形成されてしまい、所望の造形物は得られなかった。
【0074】
<比較例4>
粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第一の粉末層を形成した後に、10mm×10mmの範囲に溶液Dを付与した。次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて20mm×10mm、厚さ2mmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層の全体に浸透深さ2mmとなるまで溶液Dを付与し、積層体を得た。得られた積層体をそのまま電気炉に入れ、鉄ナノ粒子の焼結開始温度より低い温度で1時間熱処理した。加熱処理後の積層体は依然として粉末の状態(粒子どうしが結合していない状態)であり、所望の造形物は得られなかった。
【0075】
<実施例5>
粉末Bを用いて15mmφ、厚さ400μmの第一の粉末層を形成した後に、インクジ
ェットヘッドを用いて溶液Eを吐出し、15mmφの円パターンを描画した。
次いで、第一の粉末層の上に、粉末Bを用いて15mmφ、厚さ400μmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層上に、インクジェットヘッドを用いて溶液Eを吐出し、文字パターンを描画し、積層体を得た。
得られた積層体を電気炉に入れ、銀ナノ粒子の焼結開始温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の温度である650℃で3時間熱処理した。
熱処理後の積層体のうち、溶液Eを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子は銀ナノ粒子によって固化していた。
溶液Eを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子を除去することで所望の造形物を得ることができた。
【0076】
<実施例6>
粉末Dを用いて15mmφ、厚さ400μmの第一の粉末層を形成した後に、インクジェットヘッドを用いて溶液Eを吐出し、15mmφの円パターンを描画した。
次いで、第一の粉末層の上に、粉末Dを用いて15mmφ、厚さ400μmの第二の粉末層を形成し、第二の粉末層上に、インクジェットヘッドを用いて溶液Eを吐出し、文字パターンを描画し、積層体を得た。
得られた積層体を電気炉に入れ、銀ナノ粒子の焼結開始温度以上、銅粒子の焼結開始温度400℃未満の温度である300℃で1時間熱処理した。
熱処理後の積層体のうち、溶液Eを塗布した部分(造形領域Sに相当)の銅粒子は銀ナノ粒子によって固化していた。
溶液Eを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)の銅粒子を除去することで所望の造形物を得ることができた。
【0077】
<実施例7>
粉末Cを用いて厚さ200μmの粉末層を形成した後に、インクジェットヘッドを用いて溶液Eを吐出し、2.5mm×25mmの長方形パターン二本を間隔7mmで水平に描画した。上記粉末層上に、長方形のパターンが重なるように粉末層上へ粉末層を形成する工程と溶液Eを吐出工程を11回繰り返した。
続いて、上記描画パターンを各長方形間の中心で85°回転させ、同様に溶液Eでパターンを描画する工程と、粉末層形成工程を12回繰り返した。
同様に、描画パターンを85°回転させ、溶液Eでパターンを描画する工程と、粉末層形成工程を12回繰り返す工程をさらに2回繰り返し、積層体を得た。
得られた積層体を電気炉に入れ、銀ナノ粒子の焼結開始温度以上、SUS粒子の焼結開始温度未満の温度である650℃で1.5時間熱処理した。
熱処理後の積層体のうち、溶液Eを塗布した部分(造形領域Sに相当)のSUS粒子は銀ナノ粒子によって固化していた。
溶液Eを塗布していない部分(非造形領域Nに相当)のSUS粒子を除去することで所望の造形物を得ることができた。得られた造形物を、Ar97%、水素3%の雰囲気において、SUS粒子の焼結開始温度以上である1300℃で1時間(1hr)さらに加熱した。
得られた造形物は、複数の直方体によるオーバーハング構造を有していた。また、SUS粒子同士の焼結により、1300℃で加熱する前よりも強度が高くなっていた。
【0078】
以上述べた実施例及び比較例から、本実施形態の造形方法によれば、オーバーハング構造などの複雑な形状を含む造形物を、サポート体を形成することなく簡単に作製できることがわかる。続いて、本発明の造形方法及び造形装置のさらなる実施形態を説明する。
【0079】
<実施例8>
図7に実施例8に係る造形装置を示す。この造形装置は、粉末を収容し供給する粉末供
給部103と、層厚規制ブレード105と、粒子分散液を収容する液体供給部104と、粒子分散液を付与する液体付与部106と、粉末層を加熱するヒーター102とを有する。粉末供給部103、層厚規制ブレード105、液体供給部104、液体付与部106、及びヒーター102は、移動可能なヘッドに設けられている。また、造形装置は、ヘッドを図7の矢印方向に移動させる駆動機構201と、作製中の造形物が配置され、上下に移動可能なステージ107とを有する。図7ではステージ107のみを示しているが、粉末層は、粉末の量に応じてステージからの高さが可変な不図示の壁面を有するコンテナ内に形成される。以下、実施例9~15も同様である。駆動機構201は例えばボールねじとモータにより構成される。図7では1軸の駆動機構201を示したが、多軸の駆動機構を設けてヘッドを多方向に走査できるようにしてもよい。液体付与部106としては例えばインクジェット装置を好ましく利用できる。なお本実施例では、粉末供給部103及び層厚規制ブレード105が、第一の粉末を用いて粉末層を形成する粉末層形成手段を構成し、液体供給部104及び液体付与部106が、粉末層に対し第二の粉末を付与する付与手段を構成する。また、ヒーター102が、粉末層に加熱処理を施す加熱手段を構成する。
【0080】
造形を開始する前に、第一の粒子1からなる第一の粉末を粉末供給部103に、第二の粉末(第二の粒子2)を含有する粒子分散液を液体供給部104に、それぞれ収容しておく。また、ベース基板101をステージ107に設置する。続いて、ベース基板101上に粉末供給部103から第一の粉末を供給し、層厚規制ブレード105によってその表面を均すことで、ベース基板101上に厚さ100μmの第一の粉末の粉末層を形成する。この粉末層は積層体108の下敷きとなる層であり、以下「ベース層」と呼ぶ。
【0081】
次いで、スライスデータで定義される厚みに基づいて、1層分の量の第一の粉末を粉末供給部103からベース層上に供給し、層厚規制ブレード105によってその表面を均すことで、第一の粉末の粉末層を形成する。これにより、造形物の1スライス分の粉末層が形成される。
【0082】
次いで、液体付与部106を用いて、スライスデータで定義される造形対象物の断面形状に基づいて、粉末層内の造形領域Sに溶液Aを付与する。このときの液量は、第二の粉末を分散させた分散液が粉末層の厚みと略等しい深さまで浸透する量に制御される。これにより、造形領域S内の第一の粒子1の間隙に第二の粒子2が入り込んだ状態の粉末層が形成される。次いで、ヒーター102を用いて、第一の粒子どうしの少なくとも一部は焼結せず、かつ、第二の粒子どうしは焼結または溶融する条件にて粉末層を加熱し、焼結または溶融する第二の粒子によって第一の粒子どうしを固定する。
【0083】
各層のスライスデータに基づいて、第一の粉末の粉末層の形成、分散液の付与、粉末層の加熱といった一連の処理を層ごとに繰り返すことで、複数の粉末層が重ねられた積層体108が作製される。その後、積層体108から非造形領域Nの第一の粉末を取り除くことで、所望形状の造形物が得られる。
【0084】
本実施例の造形装置によれば、オーバーハング構造や微細構造などを含む造形物を高品質に作製することができる。また、第一の粉末による粉末層の形成、第二の粉末の配置、粉末層の加熱の一連のプロセスを、1回の走査で実施できるので、高速な造形が可能であるとともに、造形装置の小型化を図ることができる。また、ベース基板101と造形物の間にベース層を敷くので、造形物をベース基板101から取り外すための特別な加工が必要ない。
【0085】
<実施例9>
図8に実施例9に係る造形装置を示す。実施例8との構成上の違いは、ヒーター102を設ける代わりに、積層体全体を加熱処理するための加熱エリア(加熱室)110を設け
た点である。
【0086】
実施例8と同様にして、ベース基板101上に厚さ100μmのベース層を形成する。次いで、スライスデータで定義される厚みに基づいて、1層分の量の第一の粉末を粉末供給部103からベース層上に供給し、層厚規制ブレード105によってその表面を均すことで、粉末層を形成する。これにより、造形物の1スライス分の粉末層が形成される。次いで、液体付与部106を用いて、スライスデータで定義される造形対象物の断面形状に基づいて、粉末層内の造形領域Sに第二の粉末を分散させた分散液を付与する。このときの液量は、分散液が粉末層の厚みと略等しい深さまで浸透する量に制御される。これにより、造形領域S内の第一の粒子1の間隙に第二の粒子2が入り込んだ状態の粉末層が形成される。
【0087】
各層のスライスデータに基づいて、第一の粉末(第一の粒子)からなる粉末層の形成と第二の粉末(第二の粒子)を含む分散液の付与を繰り返すことで、複数の粉末層が重ねられた積層体109が作製される。その後、積層体109を加熱エリア110に移動させ、第一の粒子どうしの少なくとも一部は焼結せず、かつ、第二の粒子どうしは焼結または溶融する条件にて積層体109を加熱する。これにより、第二の粒子が焼結し、焼結または溶融した第二の粒子によって造形領域S内の第一の粒子どうしが固定される。その後、積層体109から非造形領域Nの第一の粉末を取り除くことで、所望形状の造形物が得られる。
【0088】
本実施例の造形装置によれば、オーバーハング構造や微細構造などを含む造形物を高品質に作製することができる。また、層ごとではなく、積層体109の全体を加熱するため、熱処理時に積層体109の全体を均一に加熱でき、局所的な熱衝撃が少なくなり、造形物形成時のひずみや割れが抑制される。また、第一の粒子1からなる粉末層の形成と第二の粒子2の配置の一連のプロセスを、1回の走査で実施できるので、高速な造形が可能であるとともに、造形装置の小型化を図ることができる。また、層ごとに加熱処理するのに比べ、加熱処理の回数を大幅に削減できるので、造形時間の短縮を図ることができる。また、ベース基板101と造形物の間にベース層を敷くので、造形物をベース基板101から取り外すための特別な加工が必要ない。
【0089】
<実施例10>
実施例10では、粉末層に第二の粉末(第二の粒子)を含む分散液を付与した後に一分間静置することで、溶液Aのエタノールを乾燥させる。それ以外の造形プロセスは実施例8又は実施例9と同じでよい。また、造形装置の構成も実施例8又は実施例9と同じでよい。乾燥工程を設けることにより分散液の浸透を制御できるため、前述の実施形態よりもさらに精度が高い造形物を作製することができる。また、乾燥工程を設けることにより、第一の粒子1の粒界に第二の粒子2が集積することによって、前述の実施形態よりも更に強度が高い造形物を作製することができる。
【0090】
<実施例11>
図9に実施例11に係る造形装置を示す。実施例9との構成上の違いは、粉末供給部103と液体付与部106の間に乾燥用ヒーター111を設けた点である。乾燥用ヒーター111は粉末層に付与された第二の粉末(第二の粒子)を含む分散液の乾燥を促進するための乾燥補助手段である。本実施形態では、粉末層を形成した後に、乾燥用ヒーター111によって粉末層を加熱する。その後、加熱された粉末層に対し分散液Aの付与を行う。このような構成により、実施例10のような自然乾燥に比べて、分散液に含まれる溶媒の乾燥が促進され、乾燥時間を短縮することができ、造形時間の短縮を図ることができる。なお、図9では乾燥補助手段を液体付与部106の前段に設けたが、液体付与部106の後段に乾燥補助手段(ヒーターなど)を設けてもよい。
【0091】
<実施例12>
図10に実施例12に係る造形装置を示す。実施例9との構成上の違いは、粉末供給部103と液体付与部106の間に加圧手段112を設けた点である。加圧手段112としては、図10に示すような加圧ローラを用いてもよいし、加圧板を用いてもよい。本実施例では、第一の粉末の粉末層を形成した後に、加圧手段112によって粉末層を加圧する。粉末層を加圧することにより、第一の粉末の粒子どうしが密に接触するようになるため、造形物の空隙率や欠陥を低減し、造形物の機械強度を高めることができる。
【0092】
<実施例13>
実施例13では、造形物(不要な粒子が除去された状態の物)を加熱エリア110に配置し、SUS粒子どうしが焼結可能な条件にて造形物を加熱する。これにより、造形物の主たる材料であるSUS粒子の焼結が進行するので、造形物の空隙が少なくなり、造形物の機械強度を一層高めることができる。
【0093】
<実施例14>
図11に実施例14に係る造形装置を示す。実施例9との構成上の違いは、第二の粉末の分散液を吐出する液体付与部106の後段に、結合剤を吐出する第二の液体付与部113を設けた点である。
【0094】
造形を開始する前に、第一の粒子1からなる第一の粉末を粉末供給部103に、第二の粒子2(ナノ粒子)を含有する溶液を液体供給部104に、樹脂結合剤を含有する液体結合剤である溶液を液体供給部114に、それぞれ収容しておく。
【0095】
実施例9と同様にして、ベース基板101上に厚さ100μmのベース層を形成する。次いで、スライスデータで定義される厚みに基づいて、1層分の量の第一の粉末を粉末供給部103からベース層上に供給し、層厚規制ブレード105によってその表面を均すことで、第一の粉末の粉末層を形成する。これにより、造形物の1スライス分の粉末層が形成される。
【0096】
次いで、液体付与部106を用いて、スライスデータで定義される造形対象物の断面形状に基づいて、粉末層内の造形領域Sに第二の粉末を含む溶液を付与する。このときの液量は、溶液が粉末層の厚みと略等しい深さまで浸透する量に制御される。これにより、造形領域S内の第一の粒子1の間隙にナノ粒子(第二の粒子2)が入り込む。
【0097】
次いで、液体付与部113を用いて、粉末層に溶液Cを付与する。これにより、第一の粒子1が結合剤で仮固定される。
【0098】
各層のスライスデータに基づいて、第一の粉末の粉末層の形成と溶液Cの付与を層ごとに繰り返すことで、複数の粉末層が重ねられた積層体109が作製される。その後、積層体109を加熱エリア110に移動させ、第一の粒子どうしの少なくとも一部は焼結せず、かつ、ナノ粒子どうしは焼結または溶融する条件にて積層体109を加熱する。これにより、ナノ粒子どうしが焼結または溶融し、焼結または溶融したナノ粒子によって第一の粒子どうしが固定される。その後、積層体109から非造形領域Nの第一の粒子を取り除くことで、所望形状の造形物が得られる。
【0099】
本実施例では、粉末層の第一の粒子どうしがエチルセルロースによっても固定されるため、粉末層の成形及び積層を精度良く行うことができ、造形物中の欠陥が少なくなる。なお、エチルセルロースの分解温度はナノ粒子の焼結開始温度よりも低いため、加熱時にエチルセルロースは分解される。
また、ナノ粒子を含有する溶液と結合剤を含有する溶液を独立して付与することで、各液体付与部106と113をそれぞれ独立して最適化することができるため、液体付与部の耐久性が優れる。
【0100】
<実施例15>
図12に実施例15に係る造形装置を示す。実施例9との構成上の違いは、積層体109を作製する第1のユニットと積層体109を加熱する第2のユニットとを分けて設けた点である。
このような構成により、実施例9に比べて、加熱エリア110の遮熱が必要なくなるため、装置の小型化を図ることができる。
また、積層体109の作製と積層体109の加熱を同時に実施できるため、複数の造形物を作製する際には造形速度が向上する。
【0101】
(その他)
以上、本発明について具体的な形態を挙げて説明してきたが、本発明は上記形態に制限されるものではなく、本発明の技術思想から離脱しない範囲で、様々の変更を行ってもよい。例えば上記実施例では、熱処理の温度を制御することで第二の粒子2のみを選択的に焼結または溶融させたが、熱処理の時間、又は、温度と時間の両方を適切に制御することで第二の粒子2のみを選択的に焼結または溶融させてもよい。また上記実施例では、第二の粒子を含む分散液により第二の粒子2の配置を行ったが、液体ではなく、粉末の状態で第二の粒子2の配置を行ってもよい。また実施例14では、液体付与部106の後段に第二の液体付与部113を設けたが、液体付与部106の前段に第二の液体付与部113を設けてもよい。また、液体付与部106で造形領域Sに対し第二の粒子を含む溶液(結合剤を含まない分散液)を付与し、第二の液体付与部113で造形領域Sと非造形領域Nの両方に液体結合剤を付与してもよい。また、上記実施例1~15の構成は、技術的な矛盾や物理的な制約がない限り、互いに組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1:第一の粒子
2:第二の粒子(ナノ粒子)
11:粉末層
12:液体(粒子分散液)
15:造形物
S:造形領域
N:非造形領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12