(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】生体信号計測装置、及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/26 20210101AFI20221212BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20221212BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20221212BHJP
B62D 1/06 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
A61B5/26 200
A61B5/0245 C
A61B5/26 100
B60N2/90
B62D1/06
(21)【出願番号】P 2018143579
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】須志原 公治
(72)【発明者】
【氏名】奥野 圭祐
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-102710(JP,A)
【文献】特開2014-204849(JP,A)
【文献】特表2009-502399(JP,A)
【文献】国際公開第2015/045763(WO,A1)
【文献】特開2013-052138(JP,A)
【文献】特開2013-220322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/024-5/0255
A61B 5/24 -5/398
B60N 2/90
B62D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象者の生体信号を検出する複数の信号検出部と、
前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続され、前記複数の信号検出部のそれぞれと前記計測対象者との接触状態を検出する複数の接触状態検出部と、
前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続され、前記複数の信号検出部のそれぞれが検出した複数の生体信号を前処理する複数の生体信号生成部と、
前記複数の接触状態検出部のそれぞれが検出した接触状態に応じて、前記複数の生体信号生成部の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する信号判定部と、
前記信号判定部が選定した前記有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算部と、を備え、
前記複数の接触状態検出部のそれぞれは、前記接触状態として、当該接触状態検出部に接続された信号検出部から前記計測対象者までのインピーダンスを検出し、
前記信号判定部は、前記インピーダンスの値が一定の値以下である2以上の信号検出部に接続された2以上の生体信号生成部それぞれの出力信号
のうち、振幅が最も大きい出力信号と、振幅が最も小さい出力信号とを前記有効な出力信号として選定する
生体信号計測装置。
【請求項2】
前記複数の生体信号生成部のそれぞれは、
当該生体信号生成部と接続された信号検出部が検出した生体信号をバッファするバッファ部と、
前記バッファ部から出力された信号を前処理する生体信号処理部と、を有し、
前記バッファ部は、前記信号検出部に固定されている
請求項
1に記載の生体信号計測装置。
【請求項3】
前記複数の信号検出部は、車両のステアリングホイールの左右の把持部と、前記車両の座席シートの背面部及び座面部とに配置されている信号検出部を含む
請求項
1に記載の生体信号計測装置。
【請求項4】
前記複数の信号検出部のそれぞれは、電極を有し、
前記複数の信号検出部の少なくとも1つは、前記計測対象者の生体信号を非接触で検出する容量結合型電極を有する
請求項
3に記載の生体信号計測装置。
【請求項5】
前記ステアリングホイールに配置される信号検出部のそれぞれは、前記容量結合型電極を有する
請求項
4に記載の生体信号計測装置。
【請求項6】
計測対象者の生体信号を計測する生体信号計測装置の制御方法であって、
複数の信号検出部のそれぞれにおいて、前記計測対象者の生体信号を検出する生体信号検出ステップと、
前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一で接続された複数の接触状態検出部のそれぞれにおいて、当該接触状態検出部と接続された信号検出部と前記計測対象者との接触状態を検出する接触状態検出ステップと、
前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続された複数の生体信号生成部のそれぞれにおいて、当該生体信号生成部と接続された信号検出部が検出した生体信号を前処理することで出力信号を生成する生成ステップと、
前記接触状態検出ステップで検出された前記接触状態に応じて、前記複数の生体信号生成部の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する選定ステップと、
選定された前記有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算ステップとを含み、
前記接触状態検出ステップでは、前記複数の接触状態検出部のそれぞれが、前記接触状態として、当該接触状態検出部に接続された信号検出部から前記計測対象者までのインピーダンスを検出し、
前記選定ステップでは、前記インピーダンスの値が一定の値以下である2以上の信号検出部に接続された2以上の生体信号生成部それぞれの出力信号
のうち、振幅が最も大きい出力信号と、振幅が最も小さい出力信号とを前記有効な出力信号として選定する
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の搭乗者の生体信号を計測する生体信号計測装置、及び、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人の覚醒度の変化などを知るために、心電計測が有効であることが知られている。特許文献1には、車両のステアリングホイールのリング部の左右に複数の電極部を設け、複数の電極部の接触インピーダンスから生体信号の計測に適した電極部を選択して、運転者(搭乗者の一例)の心電波形を計測する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置は、左右の各電極部と差動増幅手段又はインピーダンス測定手段とがスイッチング回路を介して接続されている。スイッチング回路を介して左右の電極部を差動増幅手段に接続すれば心電信号(生体信号の一例)を測定することができ、各電極部の第1電極と第2電極とをインビーダンス測定手段に接続すれば、運転者の手の接触インピーダンスを測定することができる。
【0005】
しかしながら、心電信号の測定と接触インピーダンスの測定とを切り替える、及び、接触インピーダンスを測定する各電極部を切り替えるときのスイッチングにより、ノイズが発生することがある。よって、特許文献1に記載の装置は、安定して高精度の生体信号を計測することができない。
【0006】
本開示は、安定して高精度に生体信号を計測することができる生体信号計測装置、及び、制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る生体信号計測装置は、車両の搭乗者の生体信号を検出する複数の信号検出部と、前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続され、前記複数の信号検出部のそれぞれと前記搭乗者との接触状態を検出する複数の接触状態検出部と、前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続され、前記複数の信号検出部のそれぞれが検出した複数の生体信号を前処理する複数の生体信号生成部と、前記複数の接触状態検出部のそれぞれが検出した接触状態に応じて、前記複数の生体信号生成部の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する信号判定部と、前記信号判定部が選定した前記有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算部と、を備える。
【0008】
本開示の一態様に係る制御方法は、車両の搭乗者の生体信号を計測する生体信号計測装置の制御方法であって、複数の信号検出部のそれぞれにおいて、前記搭乗者の生体信号を検出する生体信号検出ステップと、前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一で接続された複数の接触状態検出部のそれぞれにおいて、当該接触状態検出部と接続された信号検出部と前記搭乗者との接触状態を検出する接触状態検出ステップと、前記複数の信号検出部のそれぞれと一対一に接続された複数の生体信号生成部のそれぞれにおいて、当該生体信号生成部と接続された信号検出部が検出した生体信号を前処理することで出力信号を生成する生成ステップと、前記接触状態検出ステップで検出された前記接触状態に応じて、前記複数の生体信号生成部の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する選定ステップと、選定された前記有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算ステップとを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、安定して高精度に生体信号を計測することができる生体信号計測装置、及び、制御方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る生体信号計測装置の全体構成を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施の形態に係るステアリングホイールに設けられる計測用電極の一例を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施の形態に係る座席シートに設けられる計測用電極の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る接触状態検出部の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る電流DACから出力される電流の波形を示す図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る第二バッファ部の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る生体信号処理部の構成を示す図である。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る生体信号計測装置の処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施の形態に係る信号判定部における処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、実施の形態の変形例に係るアクティブ電極の外観を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0013】
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略または簡略化される場合がある。
【0014】
また、本明細書において、同じなどの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の差異をも含むことを意味する表現である。
【0015】
(実施の形態)
以下、本実施の形態に係る生体信号計測装置について、
図1~
図8を参照しながら説明する。本実施の形態に係る生体信号計測装置は、車両に搭載され、当該車両の搭乗者の生体信号を計測する。本明細書において、車両は、人を運ぶ乗り物を意味する。車両には、自動車、列車、バス、コミュータ等の一般的に車両と呼ばれるものだけでなく、フェリー等の船舶、及び、飛行機等の航空機が含まれる。また、生体信号には、心電位、筋電位、神経活動電位、脳波、呼吸数、及び、心拍数などが含まれる。
【0016】
以下では、本実施の形態に係る生体信号計測装置を車両の運転者(搭乗者の一例)の心電計測に適用した例について説明する。なお、搭乗者は、車両を運転する運転者に限定されず、車両内にいる人であればよい。車両が自動車である場合、搭乗者には、自動車の助手席又は後部座席にいる人も含まれる。また、車両が列車である場合、搭乗者には、列車の運転士及び乗客が含まれる。
【0017】
[1.生体信号計測装置の概要]
まず、本実施の形態に係る生体信号計測装置の構成について、
図1~
図6を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係る生体信号計測装置10の全体構成を示す図である。
【0018】
図1に示すように、生体信号計測装置10は、車両に搭載され、ステアリングホイール100を把持した、又は、座席シート110に着座した運転者から発せられる生体信号を検出し、その生体信号に基づいて、心電波形などの出力情報を生成する装置である。生体信号計測装置10は、計測用電極20と、接触状態検出部30と、生体信号生成部40と、信号判定部70と、演算部80とを備える。生体信号計測装置10は、複数の計測用電極20のそれぞれと、接触状態検出部30及び生体信号生成部40とが一対一に接続されている。言い換えると、生体信号計測装置10は、計測用電極20と接触状態検出部30及び生体信号生成部40とを同数備える。
【0019】
計測用電極20は、運転者の人体と直接接触する、又は、衣服等の絶縁物を介して接触することで、当該搭乗者の生命活動に伴って生じる微弱な生体信号を検出する。なお、以下において、生体信号は、心電位である例について説明する。また、接触するとは、直接接触する、及び、絶縁物を介して接触することを含む。
【0020】
計測用電極20の材料は、導電性の物質によって構成される。計測用電極20の材料の一例は、金、又は、銀である。望ましい測定用電極20の材料は、銀-塩化銀(Ag/AgCl)である。銀-塩化銀は人体と接触した場合の分極が少なく、かつ分極電圧が安定しているためである。なお、測定用電極20は、信号検出部の一例である。
【0021】
計測用電極20は、複数設けられる。計測用電極20は、運転者の体の部位のうち、少なくとも2以上の部位から生体信号を検出することができるように設けられる。計測用電極20の設置例について、
図2A及び
図2Bを参照しながら、説明する。なお、体の部位とは、例えば、手(例えば、掌)、体幹(例えば、背中)、及び、下肢(例えば、大腿)などである。
図2Aは、本実施の形態に係るステアリングホイール100に設けられる計測用電極20の一例を示す図である。
図2Bは、本実施の形態に係る座席シート110に設けられる計測用電極20の一例を示す図である。なお、図示していないが、生体信号計測装置10は、計測用電極20で計測した電位との差を計算するために用いられる基準電位を計測する参照用電極を備える。参照用電極は、
図2A及び
図2Bに示す計測用電極20とは別に設けられてもよいし、計測用電極20の中から1つ選択されてもよい。
【0022】
図2Aに示すように、運転席のステアリングホイール100には、運転者の左手が直接接触する計測用電極20(以降において、左手電極とも記載する)と、右手が直接接触する計測用電極20(以降において、右手電極とも記載される)が設置される。
図2Aでは、左手電極と右手電極とが一対設置されている例を示しているが、左手電極及び右手電極は複数対設置されていてもよい。
【0023】
左手電極及び右手電極は運転者の人体(例えば、掌)と直接接触する構成であってもよい。つまり、運転者の人体は、左手電極及び右手電極の表面と直接接触してもよい。この場合は、計測用電極20と人体との間(例えば、計測用電極20と参照用電極との間)にインピーダンスとして接触抵抗が発生する。
【0024】
なお、左手電極及び右手電極の表面には、左手電極及び右手電極を覆うカバー部材が設けられてもよい。カバー部材は、例えば、左手電極及び右手電極の表面にコーティングされた絶縁膜であってもよい。信号検出部は、例えば、計測用電極20の表面に絶縁層をコーティングして構成された容量性結合型電極であってもよい。この場合、計測用電極20と人体との間(例えば、計測用電極20と参照用電極との間)にインピーダンスとして結合容量が発生する。計測用電極20は、例えば、絶縁膜の表面に接触した人体と当該計測用電極20との間の容量性結合により運転者の生体信号を検出する。これにより、ステアリングホイール100に設置される計測用電極20は、運転者の人体(例えば、皮膚)に接触せずに当該運転者の生体信号を検出することができる。なお、本明細書におけるインピーダンス(接触インピーダンス)には、接触抵抗及び接触容量(結合容量を含む)の少なくとも一方によるインピーダンスが含まれる。
【0025】
図2Bに示すように、座席シート110は、運転者の後頭部を支えるヘッドレスト110a、運転者の背中を支える背面部110b、及び、運転者の下半身を支える座面部110cから構成される。運転席の座席シート110の背面部110bには、運転者の背中左部が接触する計測用電極20(以降において、背もたれ左側電極とも記載する)と、背中右部が接触する計測用電極20(以降において、背もたれ右側電極とも記載する)が設置される。なお、背もたれ左側電極と背もたれ右側電極とは、座席シート110に着座した運転者の心臓の位置を挟んで、左右に位置するように配置される。また、座席シート110の座面部110cには、運転者の大腿左部が接触する計測用電極20と、大腿右部が接触する計測用電極20とが設置される。
図2Bでは、背面部110b及び座面部110cのそれぞれに、一対の計測用電極20が設置されている例を示しているが、計測用電極20は複数対設置されていてもよい。また、計測用電極20が設置される位置は、検出する生体信号に応じて、適宜決定されるとよい。
【0026】
そして、被験者である運転者が座席シート110に着座すると、衣服を挟んで計測用電極20と人体との間に容量性結合が形成され、運転者から発せられる生体信号が計測用電極20を介して検出される。言い換えると、座席シート110に設置される計測用電極20は、運転者の人体に直接接触せずに(つまり、非接触で)運転者の生体電位を検出する容量結合型電極である。容量結合型電極は、絶縁物を介して、運転者の人体と接触する。なお、本実施の形態では、座席シート110に設置される計測用電極20が容量結合型電極である例について説明したが、これに限定されない。複数の計測用電極20の少なくとも1つが、容量結合型電極であればよい。
【0027】
なお、本実施の形態では、座席シート110のヘッドレスト110aに計測用電極20は設けられていないが、これに限定されない。また、計測用電極20は、シートベルト(例えば、シートベルトの肩掛けベルト部)などに設けられていてもよい。
【0028】
図2A及び
図2Bに示すように、本実施の形態では、複数の計測用電極20は、車両のステアリングホイール100の左右の把持部と、車両の座席シート110の背面部110b及び座面部110cとに設置されている。複数の計測用電極20のそれぞれが、接触状態検出部30及び生体信号生成部40と電気的に接続されている。また、
図2A及び
図2Bでは、計測用電極20の形状は、矩形である例を図示しているが、これに限定されない。計測用電極20の形状は、円形、楕円形、及び、多角形であってもよい。また、計測用電極20は、例えば、板状である。
【0029】
図1を再び参照して、接触状態検出部30は、計測用電極20と運転者との接触状態を検出する。接触状態検出部30は、複数設けられており、当該接触状態検出部30が接続されている計測用電極20と運転者との接触状態を検出する。接触状態検出部30は、計測用電極20と生体信号生成部40とを電気的に接続する配線と接続される。接触状態検出部30の構成について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、本実施の形態に係る接触状態検出部30の構成を示す図である。
【0030】
図3に示すように、接触状態検出部30は、電流DAC(Digital to Analog Converter)31と、第一バッファ部32と、ADC(Analog to Digital Converter)33とを有する。電流DAC31、第一バッファ部32、及び、ADC33のそれぞれは、公知のものを使用することができる。
【0031】
電流DAC31は、信号判定部70から出力された制御信号に応じて、接触インピーダンスを計測するための電流を計測用電極20に出力する。
図4は、本実施の形態に係る電流DAC31から出力される電流の波形を示す図である。
【0032】
図4に示すように、電流DAC31は、信号判定部70からの制御信号に応じて、最大電流値I
DAC、最小電流値0のパルス電流波形を生成し、計測用電極20に出力する。パルス電流の周期Tは、例えば、0.25ms~1.0msである。すなわち、パルス電流の周波数は、例えば1kHz~4kHzである。パルス電流の周波数は、例えば、計測する生体信号の周波数より高い値が設定される。パルス電流は、計測用電極20と人体との接触インピーダンスからパルス電圧に変換される。
【0033】
第一バッファ部32は、パルス電流及び接触インピーダンスに応じて発生するパルス電圧信号が入力される増幅器である。第一バッファ部32は、公知のオペアンプ32aで構成されており、非反転入力端子は計測用電極20に接続され、反転入力端子はオペアンプ32aの出力端子に接続され、出力端子はADC33の入力に接続されるボルテージフォロア回路として動作する。具体的には、第一バッファ部32は、パルス電圧信号と同電位の信号を出力端子から出力するとともに、計測用電極20の高いインピーダンスを低インピーダンスに変換する。つまり、第一バッファ部32は、いわゆるバッファアンプとして機能し、インピーダンス変換を行う。第一バッファ部32は、電圧増幅を行わない(電圧増幅率は1である)が、電圧増幅を行ってもよい。なお、本明細書において、「アンプ」(又は、「増幅器」)との用語は、必ずしも1よりも大きな電圧増幅率をもつアンプだけに限られず、電圧増幅率が1以下であるアンプも含まれる。
【0034】
ADC33は、第一バッファ部32から入力されたパルス電圧信号(アナログ信号)をサンプリングしてデジタル信号に変換する変換機であり、変換したデジタル信号(電位差を示す信号)を接触状態信号として、信号判定部70に出力する。本実施の形態では、ADC33がAD変換を行うタイミングは、電流DAC31の電流印加のタイミングと同期している。言い換えると、ADC33のサンプリング周波数と、電流DAC31の電流印加の周波数とは、同じである。ADC33のサンプリング周波数は、例えば1kHz~4kHzである。これにより、パルス電圧信号をDC情報に変換することができる。
【0035】
上記のように、接触状態検出部30は、接触状態を接触インピーダンスにより検出するインピーダンス計測センサである。接触状態検出部30は、電流DAC31の電流印加により生じるパルス電圧信号をDC情報に変換した後に、AD変換を行う。なお、接触状態検出部30は、インピーダンス計測センサに限定されない。接触状態検出部30は、例えば、計測用電極20と人体との接触状態を圧力により検出する圧力計測センサであってもよい。例えば、計測用電極20と人体との間に抵抗式の圧力センサ(圧力を受けて変形することで抵抗値が変化するセンサ)が設けられており、接触状態検出部30は、接触状態を圧力(具体的には、抵抗値)により検出してもよい。
【0036】
図1を再び参照して、生体信号生成部40は、計測用電極20から得られた生体信号を前処理し、信号判定部70に出力する。生体信号生成部40は、第二バッファ部50と、生体信号処理部60とを有する。
【0037】
第二バッファ部50は、測定用電極20に接続され、人体に接触する計測用電極20によって検出される生体信号(具体的には、計測用電極20と参照用電極との間の電位差に相当する生体信号)が入力される増幅器である。第二バッファ部50の構成について、
図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施の形態に係る第二バッファ部50の構成を示す図である。
【0038】
図5に示すように、第二バッファ部50は、公知のオペアンプ51で構成されており、非反転入力端子は計測用電極20に接続され、反転入力端子はオペアンプ51の出力端子に接続され、出力端子は生体信号処理部60の入力に接続されるボルテージフォロア回路として動作する。つまり、第二バッファ部50は、いわゆるバッファアンプとして機能し、インピーダンス変換を行う。具体的には、第二バッファ部50は、計測用電極20を介して運転者から発せられる生体信号と同電位の信号を出力端子から出力するとともに、計測用電極20の高いインピーダンスを低インピーダンスに変換する。第二バッファ部50は、電圧増幅を行わない(電圧増幅率は1である)が、電圧増幅を行ってもよい。なお、第二バッファ部50は、生体信号をバッファするバッファ部の一例である。
【0039】
図1を再び参照して、生体信号処理部60は、第二バッファ部50から出力された生体信号を前処理する処理部である。第二バッファ部50は、第二バッファ部50から入力されたアナログの生体信号をデジタルの生体信号に変換し、信号判定部70に出力する。生体信号処理部60の構成について、
図6を参照しながら説明する。
図6は、本実施の形態に係る生体信号処理部60の構成を示す図である。
【0040】
図6に示すように、生体信号処理部60は、LNA(Low Noise Amplifier)61と、VGA(Variable Gain Amplifier)62と、フィルタ63と、ADC64とを有する。LNA61、VGA62、フィルタ63、及び、ADC64のそれぞれは、公知のものを使用することができる。
【0041】
LNA61は、第二バッファ部50から入力された微弱な生体信号にノイズを付加することなく増幅し、VGA62に出力する。
【0042】
VGA62は、入力端子がLNA61に接続され、出力端子がフィルタ63に接続されており、取得したい信号振幅に合わせて利得を調整可能な可変利得アンプから構成されている。VGA62は、LNA61から入力された生体信号を、後段のADC64の入力ダイナミックレンジ内に収まる程度の所定の利得(例えば100~1000倍)で増幅して、フィルタ63に出力する。VGA62の利得は、信号判定部70から出力される制御信号により調整される。
【0043】
フィルタ63は、取得したい信号周波数に合わせて設定されたカットオフ周波数を有するローパスフィルタ、又は、バンドパスフィルタの少なくとも1つにより実現される。フィルタ63は、VGA62から入力された信号について、例えば、心電信号帯域(例えば0.2~20[Hz])の成分を通過させるとともに、これ以外の帯域の成分を衰退させたるアクティブフィルタである。なお、通過させる帯域は、心電信号の帯域に限定されず、取得する信号(例えば、筋電信号、又は、呼吸信号など)に応じて適宜決定される。また、電灯線ノイズなどの影響を受ける場合、それに応じた周波数帯域(例えば、50Hz~60Hz)を減衰帯域に含むようにカットオフ周波数が設定されてもよい。また、フィルタ63は、生体信号として取得され得る帯域より高域側(例えば、200Hz以上など)の成分を除去するフィルタであってもよい。
【0044】
本実施の形態では、フィルタ63は、心電信号帯域以外の帯域の成分を減衰する。これにより、フィルタ63は、例えば、VGA62から出力された信号に電流DAC31が出力したパルス電流によるパルス電圧の成分が含まれている場合、当該成分を除去することができる。
【0045】
ADC64は、入力端子がフィルタ63に接続されており、フィルタ63から入力されたアナログ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する変換機であり、変換されたデジタル信号を、計測用電極20を介して検出された生体信号として信号判定部70に出力する。ADC64のサンプリング周波数は、フィルタ63がパルス電流による影響を除去可能なフィルタである場合、任意に設定可能である。ADC64のサンプリング周波数は、例えば、1kHzである。
【0046】
上記のように、生体信号処理部60は、第二バッファ部50から入力された生体信号(本実施の形態では、心電位を示す信号)を増幅し、ノイズ成分を除去し、デジタル信号に変換する。つまり、生体信号生成部40は、計測用電極20を介して運転者から発せられた微弱な生体信号であって、ノイズ成分を多く含む生体信号を調整(増幅及びノイズ除去等)し、デジタル信号に変換するように構成されている。ADC64に入力される前に生体信号に行われる調整は、前処理の一例である。また、生体信号生成部40から信号判定部70に出力される、前処理が行われた生体信号は、出力信号の一例である。
【0047】
図1を再び参照して、信号判定部70は、複数の接触状態検出部30のそれぞれ及び複数の生体信号生成部40それぞれからの出力信号から有効な出力信号を選定して、演算部80に出力する。具体的には、信号判定部70は、複数の接触状態検出部30それぞれで検出された接触状態に応じて、複数の生体信号生成部40の中から少なくとも2つを選定して、選定された少なくとも2つの生体信号生成部40から得られた出力信号に基づいて運転者の生体信号を検出する。つまり、信号判定部70は、複数の接触状態検出部30それぞれからの出力信号に基づいて、有効な計測用電極20を選定する。有効な計測用電極20とは、複数の計測用電極20のうち、人体と接触している(具体的には、接触インピーダンスが所定閾値以下である)計測用電極20を意味する。
【0048】
演算部80は、信号判定部70から得られた生体信号に基づいて演算(例えば、差分又は加算)を行い、増幅する増幅器である。本実施の形態では、演算部80は、信号判定部70から得られた生体信号(後述する有効生体電位信号、及び、有効リファレンス信号)の差分を増幅する差動増幅部である。
【0049】
なお、接触状態検出部30、第二バッファ部50、生体信号処理部60、信号判定部70、及び、演算部80は、1つの半導体集積回路にコンピュータプログラムを組み込んだDSP(Digital Signal Processor)等のハードウェアとして実現されてもよい。1つの半導体集積回路に実装すると、実装面積が削減され、消費電力が低減される効果も得られる。
【0050】
[2.生体信号計測装置の動作]
次に、本実施の形態に係る生体信号計測装置10の動作について、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
図7は、本実施の形態に係る生体信号計測装置10の処理を示すフローチャートである。
【0051】
図7に示すように、生体信号計測装置10は、車両の運転者の生体信号を検出する(S11)。具体的には、複数の計測用電極20のそれぞれは、運転者の生体信号を検出する。なお、ステップS11は、生体信号検出ステップの一例である。
【0052】
そして、生体信号計測装置10は、複数の計測用電極20のそれぞれと運転者との接触状態を検出する(S12)。具体的には、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一に接続された複数の接触状態検出部30は、複数の計測用電極20と運転者との接触状態を検出する。なお、ステップS12は、接触状態検出ステップの一例である。
【0053】
ステップS12において、信号判定部70は、電流DAC31にパルス電流を発生させるための制御信号を出力する。信号判定部70は、例えば、複数の電流DAC31のそれぞれに同一のタイミングでパルス電流を発生させてもよい。電流DAC31は、信号判定部70からの制御信号に基づいて、対応する計測用電極20と搭乗者の人体(例えば、皮膚)との接触インピーダンスを計測するためのパルス電流を発生する。なお、電流DAC31と対応する計測用電極20とは、電流DAC31と接続されている、つまり接触状態検出30と接続されている計測用電極20を意味する。また、電流DAC31は、少なくともステップS12において、パルス電流を発生すればよい。例えば、電流DAC31は、ステップS11においても、パルス電流を発生していてもよい。複数の計測用電極20は、計測用電極20と人体との接触インピーダンスに応じたパルス電圧を検出する。
【0054】
そして、生体信号計測装置10は、生体信号から出力信号を生成する(S13)。具体的には、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一に接続された複数の生体信号生成部40のそれぞれは、対応する計測用電極20が検出した生体信号に前処理することで出力信号を生成する。なお、ステップS13は、生成ステップの一例である。
【0055】
そして、生体信号計測装置10は、複数の生体信号生成部40のそれぞれから取得された複数の出力信号から有効な出力信号を選定する(S14)。具体的には、信号判定部70は、ステップS12(接触状態検出ステップ)で検出された接触状態に応じて、複数の出力信号から少なくとも2つを有効な出力信号として選定する。有効な出力信号を選定する方法は、後述する。なお、ステップS14は、選定ステップの一例である。また、信号判定部70は、複数の生体信号生成部40と当該信号判定部70との電気的な接続を切り替えることなく、複数の生体信号生成部40のそれぞれから出力信号を取得する。
【0056】
そして、生体信号計測装置10は、ステップS14で選定された有効な出力信号に基づいて演算を行う(S15)。具体的には、演算部80は、有効な出力信号に基づいて差分又は加算を行う。演算部80は、例えば、2つの有効な出力信号の差分を増幅する。これにより、例えば、心電波形が生成される。なお、ステップS15は、演算ステップの一例である。
【0057】
そして、生体信号計測装置10は、演算結果(例えば、心電波形)を出力する(S16)。生体信号生成装置10は、例えば、演算結果を表示部(図示しない)に表示してもよいし、車両外の装置に送信してもよい。
【0058】
なお、
図8に示すステップS11~S13の順序は、入れ替えられてもよい。ステップS14の時点で、接触状態が検出され、かつ出力信号を生成されていればよい。
【0059】
続いて、信号判定部70の処理について、
図8を参照しながら説明する。
図8は、本実施の形態に係る信号判定部70における処理を示すフローチャートである。なお、
図8におけるステップS101およびS102は、複数の接触状態検出部30それぞれから取得した接触状態信号に基づく処理であり、ステップS103~S110は、選定された生体信号生成部40それぞれから取得した、前処理された生体信号に基づく処理である。また、
図8に示すステップは、
図7に示すステップS14を詳細に説明したものである。
【0060】
図8に示すように、信号判定部70は、接触状態を表す接触インピーダンスデータを取得する(S101)。ステップS101では、信号判定部70は、複数の接触状態検出部30のそれぞれから接触状態信号を取得し、取得した接触状態信号と電流DAC31から出力されたパルス電流の最大電流値I
DACとからインピーダンスを算出することで、複数の接触状態検出部30それぞれにおけるインピーダンスを取得してもよい。つまり、信号判定部70は、複数の計測用電極20のそれぞれと人体との接触インピーダンスを取得する。
【0061】
そして、信号判定部70は、複数の電極(具体的には、複数の計測用電極20)から有効電極を抽出する(S102)。具体的には、信号判定部70は、複数の計測用電極20の中で、接触インピーダンスが予め設定された所定閾値(所定の値の一例)以下となるものを有効電極として抽出する。言い換えると、信号判定部70は、接触インピーダンスの値が所定閾値以下のときに、運転者と計測用電極20とが接触していると判定する。なお、ここでの接触しているとは、生体信号の計測に影響のない程度に運転者の人体と計測用電極20とが接触していることを意味する。また、信号判定部70は、複数の計測用電極20のうち、接触インピーダンスが所定閾値より高い計測用電極20で取得された生体信号を演算部80に出力するために用いない。言い換えると、信号判定部70は、接触インピーダンスが所定閾値より高い計測用電極20で計測された生体信号について、ステップS103以降の処理を行わない。また、信号判定部70は、有効電極の個数(以降において、有効電極数とも記載する)を抽出する。なお、所定閾値は、計測用電極20の大きさ及び材質などにより適宜決定される。
【0062】
以降の処理は、ステップS102で3つの計測用電極20が抽出されたものとして説明する。そして、信号判定部70は、抽出された計測用電極20と接続されている生体信号生成部40から取得した生体信号に基づいて処理を行うものとする。
【0063】
ステップS103では、信号判定部70は、繰り返し数を記憶するカウンタ変数i(初期値=1)が、有効電極数(例えば、3つ)より大きいか否かを判定する。信号判定部70は、カウンタ変数iが有効電極数以下である場合(S103でNo)、一定期間に取得された、計測用電極20と参照用電極との電位差に相当する電圧波形(生体信号)の振幅Vampを取得する(S104)。振幅Vampは、電圧波形の最大値(例えば、頂部の電圧値)と最小値(例えば、谷部の電圧値)との差分から取得されてもよいし、電圧波形の最大値と基準電位との差分から取得されてもよい。電圧波形が心電波形である場合、振幅Vampは、例えば、R波の高さで示される。
【0064】
また、振幅Vampは、一定期間に取得された電圧波形に複数の頂部及び谷部が含まれる場合、例えば、複数の頂部のそれぞれにおける、当該頂部と当該頂部と隣り合う谷部との差の平均値であってもよいし、任意の1つの頂部と谷部との差であってもよいし、頂部と谷部との差の最大値又は最小値であってもよいし、中央値であってもよい。電圧波形が心電波形である場合、振幅Vampは、一定期間に取得された心電波形に含まれる複数のR波の高さの平均値であってもよいし、任意の1つのR波の高さであってもよいし、複数のR波の高さのうちの最大値又は最小値であってもよいし、中央値であってもよい。
【0065】
そして、信号判定部70は、振幅Vampが振幅最大値Vmaxより大きいか否かを判定する(S105)。信号判定部70は、振幅Vampが振幅最大値Vmaxより大きい場合(S105でYes)、振幅最大値Vmaxの値を振幅Vampの値に更新し(S106)、更新した振幅Vampを有する電圧波形を有効生体信号に設定する。そして、ステップS107に進む。なお、有効生体信号とは、信号判定部70から演算部80に出力される電圧波形である。
【0066】
振幅最大値Vmaxの初期値は、振幅Vampとして取得される値の最小値(本実施の形態では、0)に設定されている。1つ目の計測用電極20において、ステップS104が実行された場合、当該計測用電圧20で計測された電圧波形の振幅Vampが振幅最大値Vmaxとして設定される。
【0067】
信号判定部70は、振幅Vampが振幅最大値Vmax以下であった場合(S105でNo)、ステップS107に進む。
【0068】
次に、信号判定部70は、振幅Vampが振幅最小値Vminより小さい否かを判定する(S107)。信号判定部70は、振幅Vampが振幅最小値Vminより小さい場合(S107でYes)、振幅最小値Vminの値を振幅Vampの値に更新し(S108)、更新した振幅Vampを有する電圧波形を有効リファレンス信号に設定する。そして、ステップS109に進む。なお、有効リファレンス信号とは、信号判定部70から演算部80に出力される電圧波形である。
【0069】
振幅最小値Vminの初期値は、振幅Vampとして取得される値が取り得る最大値(本実施の形態では、9999)に設定されている。1つ目の計測用電極20において、ステップS107が実行された場合、当該計測用電極20で計測された電圧波形の振幅Vampが振幅最小値Vminとして設定される。
【0070】
信号判定部70は、振幅Vampが振幅最小値Vmin以上であった場合(S107でNo)、ステップS109に進む。
【0071】
信号判定部70は、カウンタ変数iに1を加算した値を新たなカウンタ変数iとして更新する(S109)。そして、ステップS103に戻り、ステップS103がYesとなるまで、ステップS103~S109の処理が繰り返し継続される。計測用電極20が3つ選定されている場合、ステップS103~ステップS109の処理が3回繰り返し行われる。これにより、3つの計測用電極20を介して取得された電圧波形のうち振幅Vampが最大である電圧波形が有効生体信号に設定され、振幅Vampが最小である電圧波形が有効リファレンス信号に設定される。信号判定部70は、2つ以上の生体信号生成部40を選定した際に、選定された生体信号生成部40から入力された信号の振幅Vampに応じて、最も振幅が大きい信号(有効生体電位信号)と、最も振幅が小さい信号(有効リファレンス信号)とを選定する。なお、有効生体電位信号及び有効リファレンス信号は、有効な出力信号の一例である。
【0072】
信号判定部70は、有効電極の全てにおいてステップS103~S109が行われた場合(S103でYes)、有効生体電位信号、及び、有効リファレンス信号を演算部80に出力する(S110)。そして、演算部80は、有効生体電位信号と有効リファレンス信号との差分を増幅することで、運転者の心電波形などを算出する。
【0073】
なお、演算部80では、信号判定部70から出力された2つ以上の信号を加算してから増幅してもよい。この場合の信号判定部70の処理について、説明する。
【0074】
信号判定部70は、例えば、ステップS103でYesであった場合、振幅最大値Vmaxが振幅閾値以上であるか否かを判定してもよい。そして、振幅最大値Vmaxが振幅閾値以上である場合、ステップS110に進む。一方、振幅最大値Vmaxが振幅閾値より小さい場合、演算部80に出力する信号を再度選定してもよい。この場合、複数の有効電極の中から、振幅Vampが大きい計測用電極20が選定される。信号判定部70は、例えば、複数の有効電極の中から、振幅Vmaxが大きい有効電極(計測用電極20)を2つ以上選定する。信号判定部70は、複数の有効電極の中から、最も振幅Vmaxが大きい計測用電極20と、2番目に振幅Vmaxが大きい計測用電極20とを含む2つ以上の計測用電極20を選定してもよいし、2番目に振幅Vmaxが大きい計測用電極20と3番目に振幅Vmaxが大きい計測用電極20とを含む2つ以上の計測用電極20を選定してもよい。信号判定部70は、例えば、複数の有効電極それぞれの振幅Vmaxの平均値より大きい振幅Vmaxを有する有効電極の中から、2つ以上の有効電極を選定してもよい。
【0075】
そして、信号判定部70は、選定した2つ以上の計測用電圧20の電圧波形を演算部80に出力する。これにより、振幅Vampが小さい場合に、演算部80において電圧波形が加算されるので、振幅Vampを大きくすることができる。よって、計測用電極20を介して取得された振幅Vampが小さい場合であっても、より正確な生体信号を得ることができる。
【0076】
また、信号判定部70は、ステップS102で有効電極が1つ以下であった場合、運転者に生体信号が取得できていないこと、つまり人体が計測用電極20と接触していないことを報知する信号を出力してもよい。信号判定部70は、例えば、生体信号計測装置10が備える報知部(図示しない)に生体信号が取得できていないことを報知させてもよい。報知部は、表示装置又は出音装置などにより実現される。
【0077】
[3.効果など]
以上説明したように、生体信号計測装置10は、車両の運転者(搭乗者の一例)の生体信号を検出する複数の計測用電極20(信号検出部の一例)と、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一に接続され、複数の計測用電極20のそれぞれと運転者との接触状態を検出する複数の接触状態検出部30と、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一に接続され、複数の計測用電極20のそれぞれが検出した複数の生体信号を前処理する複数の生体信号生成部40と、複数の接触状態検出部30のそれぞれが検出した接触状態に応じて、複数の生体信号生成部40の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する信号判定部70と、信号判定部70が選定した有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算部80と、を備える。
【0078】
これにより、生体信号計測装置10は、複数の計測用電極20のそれぞれに接触状態検出部30及び生体信号生成部40が接続されるので、複数の計測用電極20と接触状態検出部30及び生体信号生成部40との接続を切り替えるためのスイッチを備えていない。つまり、生体信号計測装置10は、複数の計測用電極20と接触状態検出部30及び生体信号生成部40との接続を切り替えるときのスイッチングによるノイズが生じない。よって、本実施の形態に係る生体信号計測装置10は、安定して高精度に生体信号を計測することができる。
【0079】
また、特許文献1に記載の装置は、回路上にスイッチングによるノイズを除去するためのフィルタ(例えば、ローパスフィルタ)を設けることは可能であるが、装置の部品点数が増加し、装置も大型化してしまう。生体信号計測装置10は、スイッチングによるノイズが発生しないので、当該ノイズを除去するためのフィルタを設ける必要がない。
【0080】
また、複数の接触状態検出部30のそれぞれは、接触状態として、当該接触状態検出部30に接続された計測用電極20と運転者との間のインピーダンスを検出する。そして、信号判定部70は、インピーダンスの値が一定の値以下である2以上の計測用電極20に接続された2以上の生体信号生成部40それぞれの出力信号から少なくとも2つを有効な出力信号として選定する。
【0081】
これにより、信号判定部70は、インピーダンス(接触インピーダンス)の値を用いて、複数の生体信号生成部40の中から少なくとも2つの生体信号生成部40を選定することができる。信号判定部70は、インピーダンスの値が所定の値以下である計測用電極20と接続されている生体信号生成部40を選定するので、運転者との接触状態が良好である(つまり、運転者の人体と接触している)計測用電極20により検出された生体信号を取得することができる。よって、本実施の形態に係る生体信号計測装置10は、より高精度に生体信号を計測することができる。
【0082】
また、信号判定部70は、2以上の生体信号生成部40それぞれの出力信号のうち、振幅が最も大きい出力信号と、振幅が最も小さい出力信号とを有効な出力信号として選定する。
【0083】
これにより、信号判定部70は、演算部80の出力信号の振幅が最も大きくなる生体信号の組み合わせを演算部80に出力することができるので、生体信号の検出精度をさらに向上することができる。
【0084】
また、複数の計測用電極20は、車両のステアリングホイール100の左右の把持部と、車両の座席シート110の背面部110b及び座面部110cとに配置されている計測用電極20を含む。
【0085】
これにより、計測用電極20と運転者の人体との間に絶縁物(例えば、衣服等)がある場合であっても、計測用電極20と人体との容量性結合により当該搭乗者の生体信号を検出することができる。つまり、生体信号計測装置10は、運転者が衣服を着ている状態であっても、生体信号を計測することができる。よって、生体信号計測装置10は、運転者が人体(例えば、皮膚)に計測用電極20を取り付けるなどの手間を低減することができるので、利便性が向上する。
【0086】
また、複数の計測用電極20のそれぞれは、電極を有し、複数の計測用電極20の少なくとも1つは、運転者の生体信号を非接触で検出する容量結合型電極を有する。
【0087】
これにより、運転者がステアリングホイール100から両手を離した状態であっても、当該運転者の生体信号を計測することができる。
【0088】
また、ステアリングホイール100に配置される計測用電極20のそれぞれは、容量結合型電極を有する。
【0089】
これにより、ステアリングホイール100に設けられる計測用電極20を絶縁膜などで覆った場合であっても、運転者の生体信号を計測することができる。計測用電極20を絶縁膜で覆うことで、計測用電極20に酸化及び傷が生じることを抑制することができる。よって、生体信号計測装置10は、より安定して生体信号を計測することができる。また、生体信号計測装置10は、運転者が手にグローブなどを装着している場合であっても、当該運転者の生体信号を計測することができる。
【0090】
また、以上説明したように、生体信号計測装置10の制御方法は、車両の搭乗者の生体信号を計測する生体信号計測装置10の制御方法であって、複数の計測用電極20のそれぞれにおいて、搭乗者の生体信号を検出する生体信号検出ステップと、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一で接続された複数の接触状態検出部30のそれぞれにおいて、当該接触状態検出部30が接続された計測用電極20と搭乗者との接触状態を検出する接触状態検出ステップと、複数の計測用電極20のそれぞれと一対一に接続された複数の生体信号生成部40のそれぞれにおいて、当該生体信号生成部40が接続された計測用電極20が検出した生体信号を前処理することで出力信号を生成する生成ステップと、接触状態検出ステップで検出された接触状態に応じて、複数の生体信号生成部40の出力信号から少なくとも2つの有効な出力信号を選定する選定ステップと、選定された有効な出力信号に対して差分又は加算を行う演算ステップとを含む。
【0091】
これにより、生体信号計測装置10と同様の効果を奏する。すなわち、選定ステップで用いられる複数の出力信号は、複数の生体信号生成部40のそれぞれから取得されるので、スイッチングによるノイズの影響を受けていない。よって、本実施の形態に係る生体信号計測装置10の制御方法によれば、安定して高精度に生体信号を計測することができる。
【0092】
(実施の形態の変形例)
以下、本変形例に係る生体信号計測装置について、
図9を参照しながら説明する。なお、本変形例では、実施の形態との相違点を中心に説明する。本変形例に係る生体信号計測装置は、第二バッファ部50が計測用電極20の直近に配置されることに特徴を有する。
図9は、本変形例に係るアクティブ電極120の外観を示す図である。
【0093】
図9に示すように、第二バッファ部50は、例えば、一つの基板140を介して計測用電極20上に配置されることによりアクティブ電極120として実現されてもよい。具体的には、計測用電極20の一方の主面20aに基板140の一方の面が貼り付けられ、基板140の他方の面に、第二バッファ部50が実装される。すなわち、第二バッファ部50は、計測用電極20上に配置される。なお、計測用電極20の一方の主面20aは、板状の計測用電極20のうち、運転者と接触しない側の面である。計測用電極20の他方の面20bは、運転者と接触する側の面である。一方の主面20aと他方の主面20bとは、互いに背向する。また、生体信号計測装置が備える複数の計測用電極20のそれぞれにおいて、
図9に示す基板140が配置される。
【0094】
このように、第二バッファ部50が一つの基板140を介して計測用電極20に固定されることで、計測用電極20及び第二バッファ部50を電気的に接続する配線の配線長を短くすることができる。なお、計測用電極20の一方の主面20aに、さらに第一バッファ部32が実装されていてもよい。すなわち、基板140の一方に主面20aに、第一バッファ部32及び第二バッファ部50が実装されていてもよい。
【0095】
なお、計測用電極20に基板140を固定する方法は、特に限定されないが、例えば、粘着材などにより固定されてもよい。
【0096】
以上説明したように、生体信号計測装置は、複数の生体信号生成部40のそれぞれは、当該生体信号生成部40と接続された計測用電極20(信号検出部の一例)が検出した生体信号をバッファする第二バッファ部50(バッファ部の一例)と、第二バッファ部50から出力された信号を前処理する生体信号処理部60と、を有する。そして、第二バッファ部50は、計測用電極20に固定されている。
【0097】
これにより、生体信号計測装置は、計測用電極20及び第二バッファ部50を電気的に接続する配線の配線長を短くすることにより、不要ノイズの発生を抑制することができる。よって、本変形例に係る生体信号計測装置は、より高精度に生体信号を計測することができる。
【0098】
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態について説明したが、本開示は、上記実施の形態及び変形例(以降において、実施の形態等とも記載する)に限定されるものではない。
【0099】
例えば、上記実施の形態等では、接触状態検出部30のADC33のサンプリング周波数は、電流DAC31の電流印加の周波数と同期している例について説明したが、これに限定されない。第一バッファ部32が復調用のチョッパ回路を有し、チョッパ回路は、電流DAC31から出力されるパルス電流の周波数に応じてチョッパ制御を行う。これにより、ADC33のサンプリング周波数を、電流DAC31の電流印加の周波数に関係なく自由に設定することができる。また、第一バッファ部32とADC33との間に、復調回路(例えば、電流DAC31の電流印加の周波数と同期してチョッピングするチョッパ回路)を設けてもよい。
【0100】
また、上記実施の形態等では、接触インピーダンス計測のための信号アンプ系(例えば、第一バッファ部32)と生体信号計測のためのアンプ系(例えば、第2バッファ部50)とは、別の回路である例について説明したが、これに限定されない。例えば、接触インピーダンスの計測と、生体信号の計測とを時系列で行う場合(
図8参照)、接触インピーダンス計測のための信号アンプ系、及び、生体信号計測のためのアンプ系の少なくとも一部の構成要素は、共通化されてもよい。これにより、生体信号計測装置10を小型化することができる。
【0101】
また、上記実施の形態等では、演算部80は、デジタル信号を処理するデジタル演算器(例えば、マイコン)である例について説明したが、これに限定されない。演算部80は、アナログ信号を処理する回路であってもよい。演算部80は、例えば、オペアンプを含んで構成されてもよい。
【0102】
また、上記実施の形態等では、計測用電極20と搭乗者とが接触しているか否かを判定するための所定閾値は、1つである例について説明したが、これに限定されない。所定閾値は、複数設けられてもよい。例えば、所定閾値は、複数の計測用電極20のうち、容量結合型電極である計測用電極20と容量結合型電極でない計測用電極20とで、異なる値が設定されてもよい。
【0103】
また、上記実施の形態等で説明された回路構成は、一例であり、本開示は上記回路構成に限定されない。つまり、上記回路構成と同様に、本開示の特徴的な機能を実現できる回路も本開示に含まれる。例えば、上記回路構成と同様の機能を実現できる範囲で、ある素子に対して、直列又は並列に、抵抗素子、又は容量素子等の素子が接続されたものも本開示に含まれる。
【0104】
また、上記実施の形態等において、生体信号計測装置10に含まれる構成要素は、ハードウェアによって実現された。しかしながら、生体信号計測装置10に含まれる構成要素の一部(例えば、信号判定部70)は、当該構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。生体信号計測装置10に含まれる構成要素の一部は、CPU(Central Processing Unit)またはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0105】
また、上記実施の形態等では、生体信号計測装置10は、車両に搭載される例について説明したが、これに限定されない。生体信号計測装置10は、人が座る又は寝るときに使用される物体に搭載されてもよい。生体信号計測装置10は、例えば、マッサージ装置などの家電機器、及び、介護用ベッドなどの介護用品などに搭載されてもよい。また、生体信号計測装置10は、人の頭部に取り付けられて脳波を計測する脳波計などに用いられてもよい。
【0106】
また、信号検出部は、計測用電極20である例について説明したが、これに限定されない。例えば、取得する生体信号が呼吸数などである場合、信号検出部は、圧力センサであってもよい。圧力センサは、例えば、抵抗式のセンサであり、人が座席シートに触れた状態において、人から圧力を受けて変形する。信号判定部70は、この変形に伴う抵抗値の変化から呼吸を検出してもよい。また、この場合、接触状態検出部30は、圧力センサの圧力値により接触状態を検出してもよい。また、圧力センサは、圧電素子(例えば、ピエゾ素子)を有していてもよい。
【0107】
また、本開示の全般的または具体的な態様は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムまたはコンピュータ読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよい。また、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0108】
また、上記実施の形態等で説明された生体信号計測装置10は、単一の装置として実現されてもよいし、複数の装置によって実現されてもよい。生体信号計測装置10が複数の装置によって実現される場合、上記実施の形態等で説明された生体信号計測装置10が備える各構成要素は、複数の装置にどのように振り分けられてもよい。
【0109】
また、上記実施の形態等において、特定の処理部が実行する処理を別の処理部が実行してもよい。また、上記実施の形態等において説明された動作において、複数の処理の順序が変更されてもよいし、複数の処理が並行して行われてもよい。生体信号計測装置10は、例えば、接触インピーダンス計測のためのパルス電圧信号の計測と、生体信号の計測とを並行して行ってもよい。ADC33のサンプリング周波数が電流DAC31の電流印加の周波数と同じであり、かつフィルタ63が生体信号から電流DAC31の電流印加によるパルス電圧の成分を除去でれば、可能である。これにより、生体信号の計測を高速化することができる。
【0110】
その他、上記実施の形態等に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、または、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、人の生体信号を検出する生体信号計測装置に用いることができる。特に、車両の搭乗者の生体信号を計測するために当該車両に搭載される生体信号計測装置において有効である。
【符号の説明】
【0112】
10 生体信号計測装置
20 計測用電極(信号検出部)
20a、20b 主面
30 接触状態検出部
31 電流DAC
32 第一バッファ部
32a、51 オペアンプ
33、64 ADC
40 生体信号生成部
50 第二バッファ部(バッファ部)
60 生体信号処理部
61 LNA
62 VGA
63 フィルタ
70 信号判定部
80 演算部
100 ステアリングホイール
110 座席シート
110a ヘッドレスト
110b 背面部
110c 座面部
120 アクティブ電極
140 基板