(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】偏光子、偏光板、および、画像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20221212BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G02B5/30
G02F1/1335 510
(21)【出願番号】P 2018145029
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2020-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】望月 政和
(72)【発明者】
【氏名】中田 美恵
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】関根 洋之
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-182017(JP,A)
【文献】特表2017-500606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二色性物質で染色された単一のポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、
該樹脂フィルムのうち二色性物質で染色された部分である染色部と、該樹脂フィルムの周縁部全体および該染色部内に形成された開口部の周縁部全体に形成されたバリア部と、を有し、
該バリア部は偏光機能を有さない
脱色部であり、
該バリア部の幅が1mm以上である、
偏光子。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光子を備える、偏光板。
【請求項3】
請求項2に記載の偏光板を備える、画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子、偏光板、および、画像表示装置に関する。より詳細には、切断部を有する場合であっても加湿耐久性に優れた偏光子、この偏光子を含む偏光板、および、この偏光板を含む画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は携帯電話およびノート型パーソナルコンピューター(PC)等の様々な画像表示装置に用いられている。偏光子は、通常、用途に応じた形状に切断されて用いられる。例えば、特許文献1には、ロール状の偏光部材からチップ状に偏光部材を切断する偏光部材の製造方法が開示されている。偏光子が切断部を有する場合、加湿環境下で切断端部からの水分により、偏光子に色抜けが発生するという問題がある。そのため、加湿耐久性に優れた偏光子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は切断部を有する場合であっても加湿耐久性に優れた偏光子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の偏光子は、染色部と、該染色部に形成された切断部と、該染色部と該切断部との間に形成されたバリア部と、を有する。このバリア部の幅は1mm以上である。
1つの実施形態においては、上記バリア部は脱色部である。
1つの実施形態においては、上記切断部は上記染色部の周縁部の少なくとも一部に形成されている。
1つの実施形態においては、上記切断部は上記染色部の周縁部全体に形成されている。
1つの実施形態においては、上記切断部は上記染色部内に形成されている。
本発明の別の局面においては、偏光板が提供される。本発明の偏光板は上記偏光子を備える。
本発明のさらに別の局面においては、画像表示装置が提供される。この画像表示装置は上記偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、切断部を有する場合であっても加湿耐久性に優れた偏光子を提供することができる。本発明の偏光子は染色部と、該染色部に形成された切断部と、該染色部と該切断部との間に形成されたバリア部と、を有する。このバリア部の幅は1mm以上である。偏光子の染色部と切断部との間にバリア部が形成されていることにより、切断端部から水分が侵入した場合であっても、水分がバリア部で留まり、染色部に到達することを防止し得る。その結果、偏光子が色抜けし、偏光特性が損なわれることを防止し得る。また、切断部が形成されていても加湿耐久性に優れるため、より複雑な形状に加工した場合であっても、所望の偏光特性を維持することができる。さらに、バリア部が脱色部である場合、偏光子の色に影響されることなく様々な色彩を適用することができる。そのため、偏光子が用いられる画像表示装置のデザインの多様化にも寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態における偏光子の概略平面図である。
【
図2】本発明の別の実施形態における偏光子の概略平面図である。
【
図3】本発明のさらに別の実施形態における偏光子の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.偏光子
本発明の偏光子は、染色部と、該染色部に形成された切断部と、該染色部と該切断部との間に形成されたバリア部とを有する。このバリア部の幅は1mm以上である。偏光子は、代表的には、樹脂フィルムを二色性物質で染色することにより、偏光特性が付与されている。すなわち、偏光子において、その機能を発揮する部分は二色性物質で染色された染色部である。また、この樹脂フィルムを構成する樹脂としては代表的にポリビニルアルコール系樹脂が用いられる。偏光子の染色部に切断部が形成されている場合、切断端部からの水分の侵入により偏光特性が損なわれること(色抜け)が問題となり得る。本発明の偏光子は、染色部と該染色部に形成された切断部との間に形成されたバリア部とを有する。このバリア部は二色性物質で染色されていない、または、二色性物質の含有量が染色部に比べて格段に低い部分である。そのため、バリア部は染色部のような偏光機能を有さない。切断端部から侵入した水分はこのバリア部に吸収され得る。そのため、偏光子の機能を発揮する部分である染色部にまで水分が到達することを防止し得る。本発明の偏光子において、このバリア部の幅は1mm以上である。染色部と切断部との間に幅1mm以上のバリア部が形成されていることにより、切断端部から水分が侵入した場合であっても水分がバリア部で留まり、染色部に到達することを防止し得る。そのため、偏光子が色抜けし、偏光特性が損なわれることを防止し得る。このバリア部は脱色部であることが好ましい。バリア部が脱色部であることにより、偏光子の色に影響されることなく、様々な色彩を適用することが可能となる。そのため、より多様なデザインの画像表示装置の提供が可能となる。
【0010】
図1は本発明の1つの実施形態における偏光子の概略平面図である。図示例の偏光子10は、染色部12の周縁部全体が切断された偏光子である。代表的には、チップカットされた枚葉の偏光子が挙げられる。図示例の偏光子10は矩形であり、染色部12の周縁端が切断部11である。図示例では、染色部12と切断部11の間にバリア部13が形成されている。このバリア部13の幅は1mm以上である。このようなバリア部13が形成されていることにより、切断端部(すなわち、偏光子の周縁部)から水分が侵入した場合であっても、水分がバリア部で留まり、染色部12に到達することを防止し得る。なお、図示例ではバリア部13は同じ幅で形成されているが、幅が1mm以上であれば異なる幅であってもよい。具体的には、短辺方向のバリア部13の幅と長辺方向のバリア部13の幅とが異なっていてもよい。
【0011】
図2は本発明の別の実施形態における偏光子の概略断面図である。図示例の偏光子10は染色部12の内部に切断部11が形成されている。図示例において、切断部11は円形の開口部である。図示例において、染色部12と円形の開口部(切断部11)との間に開口部と同心円状のバリア部13が形成されている。
【0012】
図3は本発明のさらに別の実施形態における偏光子の概略断面図である。図示例の偏光子10は切欠部(ノッチ)を有する偏光子である。図示例の偏光子10において、染色部12に形成された切欠部が切断部11である。この偏光子10において、切欠部(切断部11)と染色部12と間にバリア部13が形成されている。
【0013】
さらに別の実施形態においては、チップカットされた偏光子(例えば、
図1の偏光子)の染色部内にさらに開口部および/または切欠部が形成される。この実施形態では、偏光子の周縁部と染色部との間のバリア部と、開口部および/または切欠部と染色部と間のバリア部とが形成され得る。この実施形態のように、2以上の切断部を有する場合であっても、染色部と切断部との間にバリア部を形成することにより、切断端部から侵入した水分がバリア部に留まり、染色部に到達することを防止し得る。そのため、より複雑な形状およびデザインの偏光子とした場合であっても、加湿耐久性に優れた偏光子を提供することができる。
【0014】
偏光子10は用いられる用途等に応じて任意の適切な形状に設計され得る。偏光子10の形状としては、例えば、矩形、円形、ひし形、異形等が挙げられる。本発明の偏光子はバリア部が形成されていることにより、切断端部からの水分がバリア部で留まり、染色部12に侵入することを防止し得る。そのため、偏光子をより複雑な形状に切断した場合であっても、加湿耐久性に優れた偏光子を提供することができる。
【0015】
偏光子の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。厚みは、代表的には0.5μm以上80μm以下であり、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、さらに好ましくは18μm以下であり、特に好ましくは12μm以下であり、さらに特に好ましくは8μm未満である。厚みの下限値は好ましくは1μm以上である。厚みが薄いことにより、画像表示装置の薄型化に寄与し得る。また、バリア部が脱色部である場合、厚みが薄いほど、脱色部を良好に形成することができる。例えば、後述の塩基性溶液を接触させる際、より短時間で脱色部を形成することができる。また、塩基性溶液を接触させた部分の厚みが他の部分よりも薄くなる場合がある。厚みが薄いことにより、塩基性溶液に接触させた部分と他の部分との厚みの差を小さくすることができる。
【0016】
上記の通り、偏光子は代表的には樹脂フィルムをヨウ素等の二色性物質で染色することにより得られる。樹脂フィルムを形成する樹脂としては、任意の適切な樹脂が用いられ得る。好ましくは、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称する)が用いられる。PVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常、85モル%以上100モル%未満であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0017】
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択され得る。平均重合度は、通常1000~10000であり、好ましくは1200~4500、さらに好ましくは1500~4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。
【0018】
二色性物質としては、例えば、ヨウ素、有機染料等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくはヨウ素が用いられる。バリア部が脱色部である場合、後述する塩基性溶液との接触により、バリア部が良好に形成され得るからである。
【0019】
偏光子(染色部)は、好ましくは波長380nm~780nmの範囲で吸収二色性を示す。偏光子(染色部)の単体透過率(Ts)は、好ましくは39%以上、より好ましくは39.5%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは40.5%以上である。なお、単体透過率の理論上の上限は50%であり、実用的な上限は46%である。また、単体透過率(Ts)は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、顕微分光システム(ラムダビジョン製、LVmicro)を用いて測定することができる。偏光子(染色部)の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.95%以上である。
【0020】
上記の通り、バリア部は二色性物質を含有していない、または、二色性物質の含有量が染色部に比べて格段に低い部分である。すなわち、バリア部は染色処理が施されていない部分(非染色部)または脱色部である。バリア部は好ましくは脱色部である。脱色部であることにより、バリア部の耐久性が向上し得る。
【0021】
本発明の偏光子においてバリア部の幅は1mm以上であり、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは5mm以上である。バリア部の幅がこのような範囲であれば、切断端部から水分が侵入した場合であっても水分がバリア部で留まり、染色部に到達することを防止し得る。バリア部の幅は、染色部を確保するという観点からは、例えば、10mm以下である。デザイン性の観点からは、バリア部が10mm以上であってもよい。
【0022】
バリア部が脱色部である場合、脱色部の透過率(例えば、23℃における波長550nmの光で測定した透過率)は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは75%以上、特に好ましくは90%以上である。透過率がこのような範囲であることにより、偏光子の色に影響されることなく、様々な色彩を適用することが可能となる。そのため、より多様なデザインの画像表示装置の提供が可能となる。
【0023】
バリア部が脱色部である場合、脱色部の二色性物質の含有量は、好ましくは1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、さらに好ましくは0.2重量%以下である。脱色部の二色性物質の含有量がこのような範囲であれば、切断端部からの水分の侵入を適切に防止し得る。一方、脱色部の二色性物質の含有量の下限値は、通常、検出限界値以下である。なお、二色性物質としてヨウ素を用いる場合、ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析で測定したX線強度から、予め標準試料を用いて作成した検量線により求められる。
【0024】
B.偏光子の製造方法
本発明の偏光子は任意の適切な方法により製造することができる。本発明の偏光子の製造方法は、樹脂フィルムに偏光機能を付与する工程(染色部を形成する工程)、切断部を形成する工程、および、バリア部を形成する工程を含む。これらの工程は、任意の適切な順序で行うことができる。
【0025】
B-1.偏光機能を付与する工程
任意の適切な方法により、樹脂フィルムに偏光機能を付与することができる。代表的には、樹脂フィルムに膨潤処理、延伸処理、ヨウ素等の二色性物質による染色処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等の各種処理を施すことにより偏光機能を付与することができる。なお、樹脂フィルムに偏光機能を付与する処理を施す際、樹脂フィルムは、基材上に形成された樹脂層であってもよい。基材と樹脂層との積層体は、例えば、上記樹脂フィルムの形成材料を含む塗布液を基材に塗布する方法、基材に樹脂フィルムを積層する方法等により得ることができる。
【0026】
上記延伸処理において、樹脂フィルムは、代表的には3倍~7倍に一軸延伸される。なお、延伸方向は、得られる偏光子の吸収軸方向に対応し得る。
【0027】
染色処理は、代表的には二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液に樹脂フィルムを浸漬させる方法、樹脂フィルムに当該染色液を塗工する方法、当該染色液を樹脂フィルムに噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液に樹脂フィルムを浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。二色性物質については上記の通りである。
【0028】
二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色液としては、ヨウ素水溶液が好ましく用いられる。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.04重量部~5.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましく用いられる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~15重量部である。
【0029】
1つの実施形態においては、樹脂フィルムは切断部および/またはバリア部に相当する部分を任意の適切な保護材で保護した状態で、染色処理に供される。具体的には、保護材としては、例えば、保護フィルム、表面保護フィルムが挙げられる。保護フィルムは、偏光子の保護フィルムとしてそのまま利用され得るものである。表面保護フィルムは、偏光子の製造時に一時的に用いられるものである。表面保護フィルムは、任意の適切なタイミングで樹脂フィルムから取り除かれるため、代表的には、樹脂フィルムに粘着剤層を介して貼り合わされる。保護材の別の具体例としては、フォトレジスト等が挙げられる。
【0030】
B-2.切断部を形成する工程
切断部は任意の適切な切断方法で樹脂フィルムを切断することにより形成することができる。切断方法としては、レーザー、カッター、トムソン刃およびピクナル刃等の打ち抜き刃等が挙げられる。
【0031】
切断部は、偏光機能が付与された樹脂フィルム(染色部が形成された樹脂フィルム)に形成してもよく、偏光機能が付与されていない樹脂フィルムに形成してもよい。偏光機能が付与されていない樹脂フィルムに形成する場合、偏光機能を付与するための各種処理が施される前の樹脂フィルムに切断部を形成してもよく、樹脂フィルムの上記保護材で保護されていた部分に切断部を形成してもよい。
【0032】
B-3.バリア部の形成工程
バリア部は任意の適切な方法により形成することができる。上記の通り、バリア部は非染色部または脱色部である。バリア部が非染色部である場合、例えば、バリア部に相当する部分を上記保護材で保護した状態で染色処理を施すことにより、バリア部を形成することができる。また、上記切断部を形成する工程により、バリア部を形成してもよい。具体的には、切断部およびバリア部に相当する部分を保護材で保護した状態で樹脂フィルムに染色処理等の偏光機能を付与するための各種処理を施し、該樹脂フィルムの保護材で保護された部分にバリア部となる部分を残すよう切断部を形成することにより、切断部の形成と同時にバリア部を形成することができる。
【0033】
上記の通り、バリア部は脱色部であることが好ましい。脱色部は上記各種処理が施された樹脂フィルムに任意の適切な脱色処理を施すことにより形成することができる。例えば、レーザーによる脱色処理、または、塩基性化合物を含む塩基性溶液との接触による脱色処理等が挙げられる。好ましくは、塩基性溶液との接触である。塩基性溶液との接触により脱色部を形成することにより、脱色部の強度が向上し得る。また、経時的に脱色部の透明性を維持することができる。
【0034】
塩基性溶液の接触方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、樹脂フィルムに対し、塩基性溶液を滴下、塗工、スプレーする方法、樹脂フィルムを塩基性溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0035】
塩基性溶液の接触に際し、所望の部位以外に塩基性溶液が接触しないように(脱色されないように)、任意の適切な保護材で偏光子(樹脂フィルム)を保護してもよい。具体的には、保護材としては、上記のものを用いることができる。
【0036】
上記塩基性化合物としては、任意の適切な塩基性化合物を用いることができる。塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム等の有機アルカリ金属塩、アンモニア水等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物が用いられ、さらに好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが用いられる。二色性物質を効率良くイオン化することができ、より簡便に脱色部を形成することができる。これらの塩基性化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
塩基性溶液の溶媒としては、任意の適切な溶媒を用いることができる。具体的には、水、エタノール、メタノール等のアルコール、エーテル、ベンゼン、クロロホルム、および、これらの混合溶媒が挙げられる。これらの中でも、イオン化した二色性物質が良好に溶媒へと移行し得ることから、水、アルコールが好ましく用いられる。
【0038】
塩基性溶液の濃度は、例えば、0.01N~5Nであり、好ましくは0.05N~3Nであり、より好ましくは0.1N~2.5Nである。濃度がこのような範囲であれば、所望の脱色部が良好に形成され得る。
【0039】
塩基性溶液の液温は、例えば、20℃~50℃である。樹脂フィルムと塩基性溶液との接触時間は、樹脂フィルムの厚みや、塩基性化合物の種類、および、塩基性溶液の濃度に応じて設定することができ、例えば、5秒間~30分間である。
【0040】
塩基性溶液を接触させることにより脱色を行う場合、接触部にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物が残存し得る。また、樹脂フィルムに塩基性溶液を接触させることにより、接触部にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の金属塩が生成し得る。これらは水酸化物イオンを生成し得、生成した水酸化物イオンは、接触部周囲に存在する二色性物質(例えば、ヨウ素錯体)に作用(分解・還元)して、脱色領域を広げ得る。したがって、上記塩基性溶液との接触後、塩基性溶液を接触させた接触部において、樹脂フィルムに含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を低減させることが好ましい。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を低減させることにより、寸法安定性に優れた脱色部を得ることができる。
【0041】
上記低減方法としては、好ましくは、塩基性溶液との接触部に処理液を接触させる方法が用いられる。このような方法によれば、樹脂フィルムから処理液にアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を移行させて、その含有量を低減させることができる。
【0042】
処理液の接触方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、塩基性溶液との接触部に対し、処理液を滴下、塗工、スプレーする方法、塩基性溶液との接触部を処理液に浸漬する方法が挙げられる。
【0043】
塩基性溶液の接触時に、任意の適切な保護材で樹脂フィルムを保護した場合、そのままの状態で処理液を接触させることが好ましい(特に、処理液の温度が50℃以上の場合)。このような形態によれば、塩基性溶液との接触部以外の部位において、処理液による偏光特性の低下を防止することができる。
【0044】
上記処理液は、任意の適切な溶媒を含み得る。溶媒としては、例えば、水、エタノール、メタノール等のアルコール、エーテル、ベンゼン、クロロホルム、および、これらの混合溶媒が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を効率的に移行させる観点から、水、アルコールが好ましく用いられる。水としては、任意の適切な水を用いることができる。例えば、水道水、純水、脱イオン水等が挙げられる。
【0045】
接触時の処理液の温度は、例えば20℃以上であり、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。このような温度であれば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を処理液に効率的に移行させることができる。具体的には、樹脂フィルムの膨潤率を著しく向上させて、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を物理的に除去することができる。一方で、水の温度は、実質的には95℃以下である。
【0046】
接触時間は、接触方法、処理液(水)の温度、樹脂フィルムの厚み等に応じて、適宜調整され得る。例えば、温水に浸漬する場合、接触時間は、好ましくは10秒~30分、より好ましくは30秒~15分、さらに好ましくは60秒~10分である。
【0047】
1つの実施形態においては、上記処理液として酸性溶液が用いられる。酸性溶液を用いることにより、樹脂フィルムに残存するアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の水酸化物を中和して、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を化学的に除去することができる。
【0048】
酸性溶液に含まれる酸性化合物としては、任意の適切な酸性化合物を用いることができる。酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素、ホウ酸等の無機酸、ギ酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、安息香酸等の有機酸等が挙げられる。酸性溶液に含まれる酸性化合物は、好ましくは無機酸であり、さらに好ましくは塩酸、硫酸、硝酸である。これらの酸性化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
好ましくは、酸性化合物として、ホウ酸よりも酸性度の強い酸性化合物が好適に用いられる。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の金属塩(ホウ酸塩)にも作用し得るからである。具体的には、ホウ酸塩からホウ酸を遊離させて、樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を化学的に除去することができる。
【0050】
上記酸性度の指標としては、例えば、酸解離定数(pKa)が挙げられ、ホウ酸のpKa(9.2)よりもpKaの小さい酸性化合物が好ましく用いられる。具体的には、pKaは、好ましくは9.2未満であり、より好ましくは5以下である。pKaは任意の適切な測定装置を用いて測定してもよく、化学便覧 基礎編 改訂5版(日本化学会編、丸善出版)等の文献に記載の値を参照してもよい。また、多段解離する酸性化合物では、各段階でpKaの値が変わり得る。このような酸性化合物を用いる場合、各段階のpKaの値のいずれかが上記の範囲内であるものが用いられる。なお、本明細書において、pKaは25℃の水溶液における値をいう。
【0051】
酸性化合物のpKaとホウ酸のpKaとの差は、例えば2.0以上であり、好ましくは2.5~15であり、より好ましくは2.5~13である。このような範囲であれば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を処理液に効率的に移行させることができ、結果として、脱色部における所望のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属含有量を実現することができる。
【0052】
上記pKaを満足し得る酸性化合物としては、例えば、塩酸(pKa:-3.7)、硫酸(pK2:1.96)、硝酸(pKa:-1.8)、フッ化水素(pKa:3.17)、ホウ酸(pKa:9.2)等の無機酸、ギ酸(pKa:3.54)、シュウ酸(pK1:1.04、pK2:3.82)、クエン酸(pK1:3.09、pK2:4.75、pK3:6.41)、酢酸(pKa:4.8)、安息香酸(pKa:4.0)等の有機酸等が挙げられる。
【0053】
なお、酸性溶液(処理液)の溶媒は上述のとおりであり、処理液として酸性溶液を用いる本形態においても、上記樹脂フィルム内のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の物理的な除去は起こり得る。
【0054】
上記酸性溶液の濃度は、例えば、0.01N~5Nであり、好ましくは0.05N~3Nであり、より好ましくは0.1N~2.5Nである。
【0055】
上記酸性溶液の液温は、例えば20℃~50℃である。酸性溶液への接触時間は、樹脂フィルムの厚みや、酸性化合物の種類、および、酸性溶液の濃度に応じて設定することができ、例えば、5秒間~30分間である。
【0056】
B-4.その他の工程
本発明の偏光子の製造方法は、上記偏光機能を付与する工程、切断部を形成する工程、および、バリア部を形成する工程以外に、任意の適切な他の処理工程をさらに含んでいてもよい。他の処理工程としては、塩基性溶液および/または酸性溶液の除去、ならびに、洗浄等が挙げられる。
【0057】
塩基性溶液および/または酸性溶液の除去方法の具体例としては、ウエス等による拭き取り除去、吸引除去、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。上記乾燥温度は、例えば、20℃~100℃である。
【0058】
洗浄処理は任意の適切な方法により行われる。洗浄処理に使用する溶液は、例えば、純水、メタノール、エタノール等のアルコール、酸性水溶液、および、これらの混合溶媒等が挙げられる。洗浄処理は任意の適切な段階で行われ得る。洗浄処理は複数回行ってもよい。
【0059】
C.偏光板
本発明の偏光板は、上記偏光子を有する。本発明の偏光板は、代表的には、少なくともその片側に保護フィルムを積層させて使用される。保護フィルムの形成材料としては、例えば、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂等が挙げられる。
【0060】
保護フィルムの偏光子を積層させない面には、表面処理層として、ハードコート層、反射防止処理層、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理層が形成されていてもよい。
【0061】
保護フィルムの厚みは、好ましくは10μm~100μmである。保護フィルムは、代表的には、接着層(具体的には、接着剤層、粘着剤層)を介して偏光子に積層される。接着剤層は、代表的にはPVA系接着剤や活性化エネルギー線硬化型接着剤で形成される。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。
【0062】
D.画像表示装置
本発明の画像表示装置は、上記偏光板を備える。画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機ELデバイスが挙げられる。具体的には、液晶表示装置は、液晶セルと、この液晶セルの片側もしくは両側に配置された上記偏光子とを含む液晶パネルを備える。有機ELデバイスは、視認側に上記偏光子が配置された有機ELパネルを備える。上記の通り、本発明の偏光子は切断端部から水分が侵入した場合であっても、水分がバリア部で留まり、染色部に到達することを防止し得る。その結果、偏光子が色抜けし、偏光特性が損なわれることを防止し得る。また、切断部が形成されていても加湿耐久性に優れるため、より複雑な形状に加工した場合であっても、所望の偏光特性が維持され得る。また、バリア部が脱色部である場合、偏光子の色に影響されることなく様々な色彩を適用することができる。そのため、多様なデザインの画像表示装置を提供することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.0倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴に、偏光板が所定の透過率となるようにヨウ素濃度、浸漬時間を調整しながら浸漬させた。本実施例では、水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.5重量部配合して得られたヨウ素水溶液に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
続いて、積層体のPVA系樹脂層表面に、PVA系樹脂水溶液(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー(登録商標)Z-200」、樹脂濃度:3重量%)を塗布して保護フィルム(厚み25μm)を貼り合わせ、これを60℃に維持したオーブンで5分間加熱した。その後、基材をPVA系樹脂層から剥離し、偏光板(偏光子(透過率42.3%、厚み5μm)/保護フィルム)を得た。
【0065】
上記で得られた総厚30μmの偏光板から縦20cm、横30cmの試験片を切り出した。切り出した偏光板の偏光子表面に、脱色部(バリア部)の幅が10mmとなるように、偏光子の周縁部に常温の塩基性溶液(水酸化ナトリウム水溶液、1.0mol/L(1N))を塗布し、60秒間放置した。次いで、塗布した水酸化ナトリウム水溶液をウエスで除去した。水酸化ナトリウム水溶液を除去した後、1.0mol/L(1N)の塩酸を塗布し、30秒間放置した。次いで、ウエスで塩酸を除去し、切断部に沿って脱色部が形成された偏光子を得た。
【0066】
[実施例2]
実施例1と同様にして幅10mmの脱色部を有する偏光子を得た。偏光子の脱色部(バリア部)の幅が1mmとなるよう、偏光板の四辺に形成された脱色部を裁断機で切断し、染色部と切断部(偏光子周縁部)との間に幅1mmの脱色部(バリア部)が形成された偏光子を得た。
【0067】
(比較例1)
バリア部の幅が0mmとなるよう切断(すなわち、脱色部を全て切断)した以外は実施例2と同様にして偏光子を得た。
【0068】
(比較例2)
実施例1と同様に脱色部にして幅10mmの脱色部を有する偏光子を得た。得られた偏光子の脱色部(バリア部)の幅が-1mm(すなわち、脱色部と染色部との境界部分から1mm染色部側の部分)を切断し偏光子を得た。
【0069】
実施例1~2および比較例1~2で得られた偏光子を用いて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(加湿耐久性試験)
実施例および比較例で得られた偏光板を85℃、85%RHの条件下に置き、24時間後および48時間後に偏光子の短辺および長辺において色抜けの有無を光学顕微鏡で確認し、色抜け部分の長さを測定した。なお、色抜けした部分の長さの最も長い部分の長さを偏光子の色抜け部分の長さとした。
(グリセリン試験)
実施例および比較例で得られた偏光板の周縁部全体にグリセリンを塗布した。ついで、偏光板を65℃、90%RHの条件下に72時間置いた。次いで、偏光子の短辺および長辺において色抜けの有無を光学顕微鏡で確認し、色抜け部分の長さを測定した。なお、色抜けした部分の長さの最も長い部分の長さを偏光子の色抜け部分の長さとした。
【0070】
【0071】
染色部と切断部との間に幅1mm以上のバリア部(脱色部)が形成されている実施例1および実施例2の偏光子では、加湿試験後においても偏光子の色抜けが良好に防止された。より過酷なグリセリン試験においても加湿耐久性の向上効果がより顕著となった。他方、バリア部のない比較例1および染色部内を切断した比較例2では、偏光子の色抜けが大きく加湿耐久性に問題があった。特に、長辺において、色抜けが顕著になる傾向があった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の偏光子は、液晶表示装置、有機ELデバイス等の画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0073】
10 偏光子
11 切断部
12 染色部
13 バリア部