(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】回転電機の冷却構造
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
H02K9/19 A
H02K9/19 B
(21)【出願番号】P 2018150811
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】森下 真臣
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093136(JP,A)
【文献】特開2013-243935(JP,A)
【文献】特開2010-252507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、各々の外側にコイルが巻回された複数のインシュレータを前記ロータの外周に前記ロータの径方向に空隙を存して環状に配設して成るステータとを備え、前記各インシュレータの内周側に該インシュレータの外方へ向けて突出するフランジが形成され、前記ロータの軸方向の少なくとも一方側から前記空隙へ冷却液が供給される回転電機において、
前記フランジが前記ロータの周方向において互いに対向する部分に前記冷却液を前記インシュレータ間に導入する導入部を形成し
、
前記導入部が、互いに密接する二つの前記フランジ間に形成され、当該密接する部分よりも前記フランジ間の開口面積を大きくする間隙で構成され、
前記間隙が、前記一方側とは反対側となる前記軸方向の他方側において前記軸方向に沿って所定長さだけ形成されている
ことを特徴とする回転電機の冷却構造
。
【請求項2】
前記間隙の前記周方向に沿う幅が、前記軸方向の前記一方側よりも前記一方側とは反対側となる前記軸方向の他方側の方が大きくなるように形成されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項3】
前記間隙が、前記ロータの主回転方向における手前側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面の縁部を面取りすることにより形成されている
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項4】
前記間隙が、前記ロータの前記主回転方向における後側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面と反対側の面の縁部を面取りすることにより形成されている
ことを特徴とする請求項
3に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項5】
前記間隙が形成された部分の前記フランジの肉厚を、前記間隙が形成されていない他部の肉厚よりも厚くした
ことを特徴とする請求項
1~4の何れか1項に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項6】
前記肉厚を厚くした前記フランジは、前記ロータの主回転方向における後側に位置する前記フランジである
ことを特徴とする請求項
5に記載の回転電機の冷却構造。
【請求項7】
前記肉厚を厚くした前記フランジの前記間隙を構成する面と、前記ロータの前記主回転方向における手前側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面に形成された前記間隙を構成する面とが略平行である
ことを特徴とする請求項
6に記載の回転電機の冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータジェネレータ等の回転電機に関し、特に油等の冷却液を内部に導入して冷却を行う回転電機の冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の駆動源として用いられるモータジェネレータ等の回転電機において、自動変速機の作動潤滑油(ATF)を、回転電機の内部となるロータとステータとの間の空隙に導入し、ロータの回転を利用して回転電機全体の冷却を図ろうとする技術が知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転電機において発熱量が多くなる部分は、ステータを構成する複数のコイルであり、回転電機を効率良く冷却するには、この複数のコイルの間により多くのATF等の冷却液を供給する必要がある。
しかしながら、各コイルのロータに対向する面側(コイルが巻回されるインシュレータのロータ側の部分)には、コイルとロータとの絶縁及びコイルの脱落を防止する目的で夫々フランジが形成されており、ロータの回転方向に沿う各フランジはその間隔が略0となるように極めて密接して配設されている。
このため、ロータ-ステータ間の空隙に冷却液を導入しても各コイル間には十分な冷却液を供給することができず、特に車両への搭載状態において上方となる回転電機の上側部分はさらに供給量が少なくなって冷却効果が期待できなくなる。なお、回転電機の下側部分は冷却液の自然落下と内部残留によってある程度の冷却効果を期待できる。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、冷却液を効率よく複数のコイル間(インシュレータ間)に供給することのできる回転電機の冷却構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の回転電機の冷却構造は、ロータと、各々の外側にコイルが巻回された複数のインシュレータを前記ロータの外周に前記ロータの径方向に空隙を存して環状に配設して成るステータとを備え、前記各インシュレータの内周側に該インシュレータの外方へ向けて突出するフランジが形成され、前記ロータの軸方向の少なくとも一方側から前記空隙へ冷却液が供給される回転電機において、前記フランジが前記ロータの周方向において互いに対向する部分に前記冷却液を前記インシュレータ間に導入する導入部を形成し、前記導入部が、互いに密接する二つの前記フランジ間に形成され、当該密接する部分よりも前記フランジ間の開口面積を大きくする間隙で構成され、前記間隙が、前記一方側とは反対側となる前記軸方向の他方側において前記軸方向に沿って所定長さだけ形成されていることを特徴としている。
【0007】
(2)前記間隙の前記周方向に沿う幅が、前記軸方向の前記一方側よりも前記一方側とは反対側となる前記軸方向の他方側の方が大きくなるように形成されていることが好ましい。
【0008】
(3)また、前記間隙が、前記ロータの主回転方向における手前側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面の縁部を面取りすることにより形成されていることが好ましい。
(4)前記間隙が、前記ロータの前記主回転方向における後側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面と反対側の面の縁部を面取りすることにより形成されていることが好ましい。
(5)さらに、前記間隙が形成された部分の前記フランジの肉厚を、前記間隙が形成されていない他部の肉厚よりも厚くすることが好ましい。
(6)前記肉厚を厚くした前記フランジは、前記ロータの主回転方向における後側に位置する前記フランジであることが好ましい。
(7)また、前記肉厚を厚くした前記フランジの前記間隙を構成する面と、前記ロータの前記主回転方向における手前側に位置する前記フランジの前記ロータに対向する面に形成された前記間隙を構成する面とが略平行であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、密接して配設されたインシュレータのフランジ間に、冷却液の導入部を形成したので、より多量の冷却液をインシュレータ間(コイル間)に供給することが可能となり、回転電機で最も大きな発熱源となるコイルを効率良く冷却することができる。
【0010】
また、本発明によれば、導入部を各フランジ間に形成された間隙で構成し、この間隙を、冷却液が導入される軸方向の一方側とは反対側となる他方側において、所定長さだけ形成、若しくはその幅を大きくするようにしたので、導入される一方側における冷却液の自然落下を抑制し、同一方側の近傍にある冷却液を、ロータの回転によって回転電機の上方へ掻き上げて上方にある間隙からインシュレータ間に供給することができ、回転電機全体を冷却することができる。
【0011】
さらに、前記間隙を、インシュレータの縁部を面取りすることにより形成したので、フランジ間の実施的距離を変えることなく間隙を形成することができ、インシュレータの絶縁機能の低下を抑制できる。またロータの回転で掻き上げられた冷却液の飛散方向に対向する間隙の開口面積を大きくすることができ、より多くの冷却液をコイル間に供給することができる。
【0012】
また、間隙が形成された部分のフランジの肉厚を、間隙が形成されていない他部の肉厚よりも厚くしたので、その分絶縁距離が長くなり、間隙が形成されることによりフランジのロータ回転方向における長さが他部よりも短くなった場合の絶縁機能の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明が適用される回転電機の模式的構成を示す一部断面図である。
【
図2】
図1のA-A線に沿う矢視一部断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態の構成を示す
図2のB-B線に沿う矢視断面図である。
【
図4】本発明の第一実施形態及びその変形例の構成を示す
図3のC-C線に沿う矢視断面図であって、(a)は第一実施形態を示す図、(b)は第一実施形態の第一変形例を示す図、(c)は第一実施形態の第二変形例を示す図、(d)は第一実施形態の第三変形例を示す図である。
【
図5】本発明の第二実施形態の構成を示す
図3と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0015】
車両の駆動源として搭載されるモータジェネレータ等の回転電機10は、
図1に示すように、ボルト等(図示略)で連結されたケース12とカバー14とに軸受16を介して回転自在に軸支されたロータ18と、ケース12内に固定されると共にロータ18の径方向に空隙20を存するように配設された環状のステータ22とを備えている。
また、ケース12にはATF等の冷却液を導入するための供給孔24が設けられ、ケース12の内面に形成されたガイド12aによって、前記ロータ18の回転軸18aの軸方向に沿う一方側(図中左方)から空隙20へ前記冷却液が供給されるように構成されている。
【0016】
ステータ22は、
図2に示すように、各々の外周にコイル26が巻回された複数の略角筒状のインシュレータ28をロータ18の周方向に沿って環状に連接することにより構成されている。なお、インシュレータ28は、図示しない周知のティース(ステータコア)によって支持されている。
そして、各インシュレータ28の内周側(
図2中の下側)には、インシュレータ28の外方(ロータ18の回転方向及び軸方向)に向けてフランジ30が突設されており、各インシュレータ28は、ロータ18の回転方向に沿う側に形成された各横フランジ部30a間の間隔が略0となるように密接して配設されている。(
図3参照。
図3はインシュレータ28のみの断面を示しており、コイル26、ティース等は省略している。)
【0017】
そして、
図3に示すように、各横フランジ部30aの互いに対向する部分である縁部30bに、各インシュレータ28間(各コイル26間でもある。)に冷却液を導入する導入部としての間隙32が形成されている。
図3における上方が、冷却液が供給されるロータ18の軸方向の一方側18bであり、各間隙32は、一方側18bと反対側となるロータ18の軸方向の他方側18cにロータ18の軸方向に沿って所定長さL1に亘って形成されている。なお、この所定長さL1は、フランジ30の軸方向に沿う全長L2の1/2~1/3程度とするのが好適である。
また、間隙32は、
図3及び
図4(a)に示すように、横フランジ部30aの縁部30bの一部を単純に切り欠いた切欠き30cにより形成されている。
【0018】
上記構成を備えた本発明の第一実施態様によれば、密着するように連接されたインシュレータ28の各フランジ30間に、冷却液を導入するための導入部としての間隙32を形成したので、空隙20に導入された冷却液を間隙32からインシュレータ28間(コイル26間)により多量に供給することが可能となり、回転電機10で最も大きな発熱源となるコイル26を効率良く冷却することができる。
【0019】
また、間隙32を、冷却液が供給される軸方向の一方側18bとは反対側となる他方側18cに形成したので、一方側18bから間隙32までの間での冷却液の自然落下(特に、回転電機10の下半部での自然落下)が抑制されてより多量の冷却液が空隙20に保持される。このため、保持されている冷却液を、ロータ18の回転によって回転電機10内の上方部へ掻き上げて、回転電機10上方側に配設されたインシュレータ28間(コイル26間)に間隙32からより多量に供給することができ、回転電機10全体をより効率的に冷却することが可能となる。
【0020】
間隙32は、
図3,
図4(a)に示す構成のみでなく、
図4(b)に示すように、ロータ18の主回転方向(車両の前進走行時における回転方向)Rにおける手前側(
図4(b)の左側)に位置する横フランジ部30aのロータ18に対向する面(
図4(b)の下側面)30adの縁部30bを面取りした面取り部30ccで形成しても良い。
この形状によれば、フランジ30間の実施的距離を変えることなく間隙32を形成することができ、インシュレータ28の絶縁機能の低下を抑制できる。またロータ18の回転で掻き上げられた冷却液の飛散方向(ロータ18外面の接線方向に近似する方向)に対向する間隙32の開口面積を、最小限の面取り部30ccのみでより大きく設定することができ、より多くの冷却液をコイル26間に供給することができる。
【0021】
なお、
図4(b)に破線30cdで示すように、面取り部30ccに加えて、ロータ18の主回転方向Rにおける後側(
図4(b)の右側)に位置する横フランジ部30aのロータ18に対向する面とは反対側の面(
図4(b)の上側面)30auの縁部30bを面取りすれば、上記と同様に絶縁機能の低下を抑制しつつ、間隙32の流通面積をより大きくでき、冷却液をより多量にコイル26間に供給できる。
【0022】
また、
図4(a)に示す単純な切欠き30cによる間隙32では、間隙32が形成された部分におけるフランジ30間(横フランジ部30a間)の距離が大きくなって絶縁機能が低下する可能性があるが、
図4(c)に示すように、間隙32が形成されている部分における横フランジ部30aの肉厚T1を、間隙32が形成されていない他部分における横フランジ部30aの肉厚T2よりも厚く(大きく)することで、絶縁距離を長くし絶縁機能の低下を抑制することができる。
【0023】
さらに、
図4(d)に示すように、ロータ18の主回転方向Rにおける手前側に位置する横フランジ部30aに
図4(b)と同様の面取り部30ccを形成し、主回転方向Rにおける後側に位置する横フランジ部30aに設けた切欠き30cの切欠き面30cnを面取り部30ccと略平行となるように形成し、且つ切欠き30c部分における横フランジ部30aの肉厚を
図4(c)と同様に他部の肉厚よりも厚くすることで、冷却液の飛散方向に対向する間隙32の開口面積をより大きくでき且つ厚肉による大きな切欠き面30cnが冷却液の受け口となってより多くの冷却液をコイル26間に供給することが可能となる。また、絶縁機能の低下も十分に抑制でき、
図4(a)~
図4(d)に示す4種類の間隙32の構成では、
図4(d)に示すものが最も大きな作用効果を発揮する構成と言える。
【0024】
次に、本発明の第二実施形態を
図5に従って説明する。但し、第一実施形態と同一または実質的に同一の部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0025】
第二実施形態は、各横フランジ部30aの互いに対向する部分である縁部30bに形成される間隙40の周方向(
図5の横方向)に沿う幅を、軸方向の一方側18bよりも他方側18cが大きくなるように構成したものである。なお、間隙40の断面形状は、
図4(a)~
図4(d)に示す構成の何れでも良い。
なお、間隙40の軸方向に沿う長さは、
図5に示した部分的なものに限らず、フランジ30の軸方向長さの略全長に亘るように形成しても良い。第二実施形態の構成によれば、冷却液が供給される一方側18bの間隙40の幅を狭くしているので、この一方側18b部分で、冷却液の空隙20内での滞留を確保しつつある程度の自然落下も促すことができる。
従って、この第二実施形態によっても第一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0026】
なお、上記各実施態様では、間隙32,40をステータ22の内周全周に亘って設けることを前提に説明したが、段落0004でも説明したように、回転電機10の下側部分はある程度の冷却機能を確保できるので、間隙32,40は回転電機10の上側部分のみに設けるようにしても良い。
【0027】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができる。
上記各実施態様では、冷却液の導入部を間隙32,40で構成する例を示したが、導入部の構成はこれに限られるものではなく、例えば、横フランジ部30aの縁部30b近傍において横フランジ部30aの肉厚を貫通する複数の孔で構成することもできる。
【符号の説明】
【0028】
10 回転電機
18 ロータ
20 空隙
22 ステータ
24 冷却液の供給孔
26 コイル
28 インシュレータ
30 フランジ
32,40 間隙(導入部)