(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、レンズ装置、プログラム、および、記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06T 9/00 20060101AFI20221212BHJP
G06T 5/00 20060101ALI20221212BHJP
G06T 5/50 20060101ALI20221212BHJP
H04N 5/232 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G06T9/00 200
G06T5/00 710
G06T5/50
H04N5/232 290
(21)【出願番号】P 2018155205
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】日浅 法人
【審査官】松永 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-084982(JP,A)
【文献】特表2014-515587(JP,A)
【文献】特開2018-107664(JP,A)
【文献】渡邉 拓也 ほか4名,能動絞りカメラ,情報処理学会研究報告 コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) ,2010年12月15日,No.174,p.1~8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00-19/20
H04N 5/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する工程と、
前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行う工程と、
多層のニューラルネットワークを用いて、
反転処理後の前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程と、を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
前記光学系の瞳に依存するぼけは、前記瞳の透過率分布に依存するぼけであることを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記第1の瞳の透過率分布は、前記第2の瞳の透過率分布と異なることを特徴とする請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記光学系の瞳に依存するぼけは、前記光学系の収差、回折、または、デフォーカスに依存するぼけであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記第2の瞳は、前記第1の瞳の一部であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記第1の画像および前記第2の画像は、前記光学系を介して前記被写体空間を同時に撮像して得られた画像であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記第1の画像および前記第2の画像は、同一の撮像素子により撮像された画像であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記第1の画像と前記第2の画像との明るさを合わせる処理を行う工程を更に有し、
前記鮮鋭化画像を生成する工程は、前記明るさを合わせる処理後の前記第1の画像および前記第2の画像に基づいて実行されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理方法
。
【請求項9】
前記明るさを合わせる処理を行う工程は、前記第1の瞳と前記第2の瞳の透過率分布に関する情報に基づいて実行されることを特徴とする請求項8に記載の画像処理方法。
【請求項10】
前記明るさを合わせる処理を行う工程は、前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの部分領域に関して算出された平均画素値に基づいて実行されることを特徴とする請求項8に記載の画像処理方法。
【請求項11】
前記多層のニューラルネットワークは、ウエイトに関する情報を用いて構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項12】
前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値に基づいて前記ウエイトに関する情報を取得する工程を更に有し、
前記鮮鋭化画像を生成する工程は、前記第1の画像と前記第2の画像と前記ウエイトに関する情報とに基づいて実行されることを特徴とする請求項11に記載の画像処理方法。
【請求項13】
光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する工程と、
前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値に基づいてウエイトに関する情報を取得する工程と、
前記ウエイトに関する情報を用いて構成された多層のニューラルネットワークを用いて、前記第1の画像と前記第2の画像と前記ウエイトに関する情報とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程と、を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項14】
前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値が所定のF値よりも大きい場合、前記鮮鋭化画像は、回折またはデフォーカスに依存するぼけが補正された画像であることを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項15】
前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値が所定のF値よりも小さい場合、前記第1の画像または前記第2の画像に鮮鋭化フィルタを作用させる処理を行う工程を更に有し、
前記鮮鋭化フィルタは、前記光学系の結像性能を表す光学特性に基づいて、前記第1の画像または前記第2の画像の鮮鋭化を行うフィルタであることを特徴とする請求項1乃至
14のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項16】
光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する工程と、
前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値が所定のF値よりも小さい場合、前記第1の画像または前記第2の画像に鮮鋭化フィルタを作用させる処理を行う工程と、
多層のニューラルネットワークを用いて、前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程と、を有し、
前記鮮鋭化フィルタは、前記光学系の結像性能を表す光学特性に基づいて、前記第1の画像または前記第2の画像の鮮鋭化を行うフィルタであることを特徴とする画像処理方法。
【請求項17】
光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する取得手段と、
多層のニューラルネットワークを用いて
、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する生成手段と、
を有し、
前記生成手段は、前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行い、反転処理後の前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて前記鮮鋭化画像を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項18】
光学系により形成された光学像を光電変換する撮像素子と、
請求項
17に記載の画像処理装置と、を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項19】
前記撮像素子は複数の画素を有し、
該複数の画素のそれぞれは、複数の光電変換部を有し、
前記複数の光電変換部のそれぞれは互いに異なる入射角で入射する光を受光して複数の信号を生成し、
前記撮像素子は、前記複数の信号を加算した加算信号に対応する前記第1の画像と、前記複数の信号の一つの信号または該複数の信号の一部を加算した加算信号に対応する前記第2の画像と、を出力することを特徴とする請求項
18に記載の撮像装置。
【請求項20】
撮像装置に着脱可能なレンズ装置であって、
光学系と、
多層のニューラルネットワークに入力されるウエイトに関する情報を記憶する記憶手段と、を有し、
前記撮像装置は、
前記光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する取得手段と、
前記多層のニューラルネットワークを用いて
、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する生成手段と、
を有し、
前記生成手段は、前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行い、反転処理後の前記第1の画像および前記第2の画像と前記ウエイトに関する情報とに基づいて前記鮮鋭化画像を生成することを特徴とするレンズ装置。
【請求項21】
請求項1乃至
16のいずれか1項に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項22】
請求項
21に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系の瞳を分割して撮像した画像に対して、瞳に依存するぼけを補正し、鮮鋭化する画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ウィナーフィルタに基づく処理によって、撮像画像から収差によるぼけを補正し、鮮鋭化画像を得る方法が開示されている。特許文献2には、畳み込みニューラルネットワークを用いて、撮像画像のフォーカスずれ(デフォーカス)によるぼけを補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-123589号公報
【文献】特開2017-199235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法は、ウィナーフィルタに基づく処理(線型処理)を用いるため、高精度なぼけ補正を行うことができない。例えば、ぼけによって空間周波数スペクトルがゼロ、またはノイズと同程度の強度まで低下した被写体の情報を復元することはできない。また、特許文献1に開示された方法では、ぼけの補正と共にノイズも増幅する。
【0005】
一方、特許文献2に開示された畳み込みニューラルネットワークでは、複数のフィルタとの畳込みと活性化関数に依る非線形変換が実行されるため、ゼロ近傍まで低下した被写体の空間周波数スペクトルを推定することができる。また、学習の際にノイズを考慮することで、ノイズの増幅を抑制したぼけ補正を行うことも可能である。しかし、ぼけ補正に畳込みニューラルネットワークを用いても、ぼけが大きく、画像の空間周波数スペクトルの劣化が激しい場合、充分な補正効果を得ることができない。
【0006】
そこで本発明は、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、レンズ装置、プログラム、および、記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての画像処理方法は、光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像とを取得する工程と、前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行う工程と、多層のニューラルネットワークを用いて、反転処理後の前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程とを有する。
また、本発明の他の側面としての画像処理方法は、光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する工程と、前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値に基づいてウエイトに関する情報を取得する工程と、前記ウエイトに関する情報を用いて構成された多層のニューラルネットワークを用いて、前記第1の画像と前記第2の画像と前記ウエイトに関する情報とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程と、を有する。
また、本発明の他の側面としての画像処理方法は、光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像と、を取得する工程と、前記第1の画像または前記第2の画像の撮影時の前記光学系のF値が所定のF値よりも小さい場合、前記第1の画像または前記第2の画像に鮮鋭化フィルタを作用させる処理を行う工程と、多層のニューラルネットワークを用いて、前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する工程と、を有し、前記鮮鋭化フィルタは、前記光学系の結像性能を表す光学特性に基づいて、前記第1の画像または前記第2の画像の鮮鋭化を行うフィルタである。
【0008】
本発明の他の側面としての画像処理装置は、光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像とを取得する取得手段と、多層のニューラルネットワークを用いて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する生成手段とを有し、前記生成手段は、前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行い、反転処理後の前記第1の画像と前記第2の画像とに基づいて前記鮮鋭化画像を生成する。
【0009】
本発明の他の側面としての撮像装置は、光学系により形成された光学像を光電変換する撮像素子と前記画像処理装置とを有する。
【0010】
本発明の他の側面としてのレンズ装置は、撮像装置に着脱可能なレンズ装置であって、光学系と、多層のニューラルネットワークに入力されるウエイトに関する情報を記憶する記憶手段とを有し、前記撮像装置は、前記光学系の第1の瞳を介して被写体空間を撮像することで得られた第1の画像と、前記光学系の前記第1の瞳とは異なる第2の瞳を介して前記被写体空間を撮像することで得られた第2の画像とを取得する取得手段と、前記多層のニューラルネットワークを用いて、前記光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を生成する生成手段とを有し、前記生成手段は、前記第2の瞳が線対称となる軸と平行かつ前記第1の画像および前記第2の画像のそれぞれの基準点を通過する直線で、前記第1の画像および前記第2の画像をそれぞれ分割し、分割された前記第1の画像および前記第2の画像に対して反転処理を行い、反転処理後の前記第1の画像および前記第2の画像と前記ウエイトに関する情報とに基づいて前記鮮鋭化画像を生成する。
【0011】
本発明の他の側面としてのプログラムは、前記画像処理方法をコンピュータに実行させる。
【0012】
本発明の他の側面としての記憶媒体は、前記プログラムを記憶している。
【0013】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、レンズ装置、プログラム、および、記憶媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】各実施例における鮮鋭化画像を生成するネットワーク構造を示す図である。
【
図2】実施例1における撮像装置のブロック図である。
【
図5】実施例1における鮮鋭化画像の生成処理を示すフローチャートである。
【
図6】実施例1における分割瞳と像高とヴィネッティングとの関係を示す図である。
【
図7】実施例1における各像高とアジムスでの瞳分割の説明図である。
【
図8】各実施例におけるウエイトの学習に関するフローチャートである。
【
図9】実施例2における画像処理システムのブロック図である。
【
図10】実施例2における画像処理システムの外観図である。
【
図11】実施例2における撮像素子の構成図である。
【
図12】実施例2における鮮鋭化画像の生成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
まず、本発明の補正対象である光学系の瞳に依存するぼけについて説明する。光学系の瞳に依存するぼけとは、光学系の瞳の大きさおよび形状(強度分布)に影響するぼけを指す。光学系の瞳に依存するぼけには、光学系の収差、回折によるぼけ、および、デフォーカスによるぼけが含まれる。収差は、光学系の絞りを絞る(瞳が小さくなる)と小さくなる。逆に、回折によるぼけは瞳が小さくなると大きくなる。デフォーカスによるぼけは、瞳の形状を反映した形状になり、瞳が大きいほどデフォーカス量に対して大きくなる。一方、その他の被写体または撮像装置のぶれによるぼけ等は、光学系の瞳と無関係であるため、本発明の補正対象ではない。また、ぼけの補正とは、ぼけにより劣化した空間周波数スペクトルを復元することであり、画像を鮮鋭化する(鮮鋭化画像を生成する)ことを指す。
【0018】
まず、各実施例にて具体的な説明を行う前に、本発明の要旨を述べる。本発明では、光学系の瞳(第1の瞳)で撮像された第1の画像と、前記瞳の一部(第2の瞳)で撮像された第2の画像から、ディープラーニングによって、光学系の瞳に依存するぼけが補正された鮮鋭化画像を得る。第1の画像は、瞳のサイズが大きいため、収差とデフォーカスによるぼけが大きいが、回折によるぼけは小さい。また、光量も多いため、ノイズも小さい。一方、第2の画像は、瞳のサイズが小さいため、収差とデフォーカスによるぼけは小さいが、回折によるぼけが大きく、またノイズも大きい。第1の画像および第2の画像の両方を用いることにより、互いの有用な情報をぼけ補正に利用し、鮮鋭かつノイズの小さい鮮鋭化画像を得ることができる。なお各実施例において、第2の瞳は第1の瞳の一部であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2の瞳の大きさや形状(透過率分布)が第1の瞳と異なればよい。
【実施例1】
【0019】
まず、
図2および
図3を参照して、本発明の実施例1における撮像装置について説明する。
図2は、撮像装置100のブロック図である。
図3は、撮像装置100の外観図である。なお、本実施例の撮像装置100は、カメラ本体とカメラ本体に一体的に構成されたレンズ装置とを備えて構成されるが、これに限定されるものではない。本発明は、カメラ本体(撮像装置本体)と、カメラ本体に着脱可能なレンズ装置(交換レンズ)とを備えて構成される撮像システムにも適用可能である。まず、撮像装置100の各部の概略を説明し、その詳細については後述する。
【0020】
図2に示されるように、撮像装置100は、被写体空間の像を画像(撮影画像)として取得する撮像部101を有する。撮像部101は、被写体空間からの入射光を集光する光学系(撮像光学系)101aと、複数の画素を有する撮像素子101bとを有する。撮像素子101bは、例えば、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)センサである。
【0021】
図4は、撮像部101の説明図である。
図4(A)は、撮像部101の断面図を示し、一点鎖線は軸上光束を表している。
図4(B)は、撮像素子101bの上面図である。撮像素子101bは、マイクロレンズアレイ122と複数の画素121とを有する。マイクロレンズアレイ122は、光学系101aを介して被写体面120と共役の位置に配置されている。
図4(B)に示されるように、マイクロレンズアレイ122を構成するマイクロレンズ122(マイクロレンズ122aのみ表記し、122b以降は省略)は、複数の画素121(画素121aのみ表記し、121b以降は省略)のそれぞれと対応している。ここで、複数の部位をまとめて指定する際は番号のみを付し、そのうちの1つを示す際は番号とaなどの記号を付す。
【0022】
複数の画素121のそれぞれは、光学系101aを介して形成された光学像を光電変換する第1の光電変換部123および第2の光電変換部124を有する。これにより、例えば画素121aに入射した光は、その入射角に依存して、第1の光電変換部123aと第2の光電変換部124aとに分離して受光される(第1の光電変換部123aと第2の光電変換部124aは、互いに異なる入射角で入射する光を受光する)。光の入射角は、その光が光学系101aにおける瞳のいずれの位置を通過したかにより決定される。このため、光学系101aの瞳は2つの光電変換部により2つの部分瞳に分割され、一つの画素内の2つの光電変換部は互いに異なる視点(瞳の位置)から被写体空間を観察した情報を取得する。なお本実施例において、瞳の分割方向は水平方向であるが、これに限定されるものではなく、垂直方向や斜め方向などの他の方向であってもよい。
【0023】
撮像素子101bは、第1の光電変換部123で取得された信号(第2の画像、A画像)と、この信号(A画像)と第2の光電変換部124で取得された信号(第3の画像、B画像)との加算信号(第1の画像、A+B画像)を出力する。このように本実施例において、第1の画像および第2の画像は、光学系101aを介して被写体空間を同時に撮像して得られた画像である。また本実施例において、第1の画像および第2の画像は、同一の撮像素子101bにより撮像された画像である。
【0024】
A画像およびA+B画像は、画像処理部102に出力される。画像処理部(画像処理装置)102は、情報取得部(取得手段)102aおよび画像生成部(生成手段)102bを有し、本実施例の画像処理方法(光学系101aの瞳に依存するぼけを補正する鮮鋭化処理)を実行する。この際、画像処理部102は、記憶部(記憶手段)103に記憶されたウエイト情報(ウエイトに関する情報)を取得し、画像生成部102bがウエイト情報を用いることで鮮鋭化画像を生成する。なお、この処理の詳細に関しては後述する。生成された鮮鋭化画像は、記録媒体105に保存される。ユーザから撮像画像の表示に関する指示が出された場合、保存された鮮鋭化画像が読み出され、表示部104に表示される。なお、記録媒体105に既に保存されたA画像とA+B画像とを読み出し、画像処理部102で鮮鋭化画像を生成してもよい。以上の一連の制御は、システムコントローラ106によって行われる。
【0025】
次に、
図5を参照して、画像処理部102で実行される鮮鋭化処理(鮮鋭化画像の生成)に関して説明する。画像処理部102は、鮮鋭化処理の際に、事前に学習されたウエイト情報を用いるが、この学習に関する詳細については後述する。
図5は、鮮鋭化画像の生成方法を示すフローチャートである。
図5の各ステップは、システムコントローラ106の指令に基づいて画像処理部102により実行される。
【0026】
まず、ステップS101において、情報取得部102aは、A+B画像(第1の画像)201とA画像(第2の画像)202とを取得する。A画像202は、光学系101aの瞳の一部である部分瞳(第2の瞳)を通過する光束に基づいて被写体空間を撮像して得られた画像である。A+B画像201は、光学系101aの瞳(第1の瞳)を通過する光束に基づいて被写体空間を撮像して得られた画像である。本実施例において、第2の瞳は、第1の瞳に含まれ、第1の瞳の一部である。第2の瞳は第1の瞳より小さいため、A画像はA+B画像よりも収差およびデフォーカスのそれぞれに起因するぼけが小さく、逆に回折に起因するぼけおよびノイズが大きい。本実施例によれば、A+B画像とA画像との両方を用いることで、互いの有用な情報を後述のぼけ補正に利用し、鮮鋭かつノイズの小さい鮮鋭化画像を生成することができる。また、
図4に示される撮像部101の構成を用いることで、互いに異なる瞳の大きさのA+B画像とA画像とを同時に撮像することができる。これによって、被写体の動きによる画像間のずれ等を回避することができる。
【0027】
続いてステップS102において、画像生成部102bは、A+B画像とA画像の明るさを合わせる処理を行う。A画像は、A+B画像に対して瞳が小さいため、暗い画像となっている。また、光軸上以外の像高ではヴィネッティングが発生するため、像高とアジムスとにより、A+B画像とA画像の明るさの比(光量比)は変化する。これに関し、
図6を参照して説明する。
【0028】
図6は、分割瞳と像高とヴィネッティングとの関係を示す図である。
図6(A)は、光学系101aの光軸上における瞳を示している。
図6中の破線は、2つの光電変換部により分割される瞳の分割線を表している。
図6(B)は、
図6(A)の場合とは異なる像高における瞳を示している。
図6(A)では2つの分割瞳の光量は均一だが、
図6(B)ではヴィネッティングにより両者の光量比に偏りが生じている。
図6(C)は、
図6(B)と同一像高(光軸に垂直な平面内で光軸から同一の距離の位置)でアジムス(光軸に垂直な平面内で光軸を回転軸とした方位角)が異なる場合である。この際も部分瞳の光量比が変化する。このため、A+B画像とA画像を後述の多層のニューラルネットワークへ入力すると、画像内の像高およびアジムスにより2つの画像の明るさの関係がばらつくことにより、生成される鮮鋭化画像の精度が低下する可能性がある。したがって、本実施例では、A+B画像とA画像の明るさを合わせる処理を実行することが好ましい。なお本実施例では、A画像の明るさをA+B画像に合わせるが、逆でも構わない。
【0029】
2つの画像の明るさを合わせる方法として、以下に2つの例を挙げる。1つ目は、第1の瞳および第2の瞳の光量比(第1の瞳と第2の瞳の透過率分布の比)に基づいて、明るさを合わせる方法である。A画像の各像高とアジムスの画素に対して、第2の瞳に対する第1の瞳の光量比を記憶部103から読み出して積をとり、A+B画像と明るさを合わせる。光量比は1以上の値であり、像高とアジムスによって異なる値を有する。また、各像高とアジムスに対して、第1の瞳と第2の瞳それぞれの透過率分布を積分した第1の積分値と第2の積分値を取得し、明るさ合わせに使用してもよい。第1の画像の各像高とアジムスの画素に対して、対応する第1の積分値の逆数をかけ、第2の画像の各像高とアジムスの画素に対して、対応する第2の積分値の逆数をかけることでも、明るさを合わせることができる。
【0030】
2つ目は、A+B画像とA画像の局所的な平均画素値を用いる方法である。A+B画像とA画像は、収差やノイズが異なり、また視差を有するが、同じ被写体を撮像しているため、部分領域における平均画素値の比は、前述の光量比におおよそ対応する。このため、例えば、A+B画像とA画像に平滑化フィルタをかけて各画素に対して平均画素値を求め、同一位置の画素における平均画素値の比から、この位置での光量比を求め、明るさを合わせることができる。ただし、平均画素値を求める際、輝度飽和している画素が含まれている場合、光量比から値が乖離する可能性がある。このため本実施例では、輝度飽和した画素を除いて平均画素値を求めることが好ましい。仮に、輝度飽和の面積が大きく、その位置での平均画素値が求められない場合、周辺で算出された光量比から補間を行い、その位置に対応する光量比を算出することができる。部分領域の大きさは、ぼけの大きさと、第1の瞳と第2の瞳の基線長(重心位置の間の長さ)に基づいて決定することが好ましい。なおステップS102は、ステップS101とステップS107との間であれば、いつ実行してもよい。
【0031】
続いて、
図5のステップS103において、画像生成部102bは、A+B画像またはA画像のF値(絞り値)が閾値以下(所定のF値以下)であるか否かを判定する。なお本実施例では、A+B画像を撮像した際の光学系101aのF値を判定基準として用いる。F値が閾値以下の場合、ステップS104へ進む。一方、F値が閾値よりも大きい場合、ステップS106へ進む。F値が閾値より小さい場合、ユーザはポートレート等のように、メインの被写体以外はデフォーカスでぼかすことを意図していたと考えられる。逆に、F値が閾値より大きい場合、ユーザは被写界深度を深くし、パンフォーカスに近い画像を撮像することを意図していたと考えられる。またF値が大きい場合、収差が充分に小さく、結像性能の劣化は主に回折に起因するぼけとなる。このため、F値が閾値より大きい場合には主に回折およびデフォーカスに起因するぼけを補正し、F値が閾値以下の場合には主に収差を補正するように、鮮鋭化の対象を切り替えることが好ましい。
【0032】
続いてステップS104において、画像生成部102bは、多層のニューラルネットワークを使用する前の前処理として、A+B画像またはA画像に対して、鮮鋭化フィルタを作用させる。ここで、鮮鋭化フィルタは、光学系101aの結像性能を表す光学特性(光学伝達関数または点像強度分布)に基づいて鮮鋭化を行うフィルタである。鮮鋭化フィルタとしては、ウィナーフィルタ等の逆フィルタが用いられる。本実施例では、A+B画像に対して鮮鋭化フィルタを作用させるが、A画像にも同様に鮮鋭化フィルタを作用させてもよい。この場合、第1の光電変換部123で取得される像の光学伝達関数または点像強度分布に基づいて生成された鮮鋭化フィルタを用いる。鮮鋭化フィルタは、記憶部103に記憶された光学伝達関数に関する情報を用いて、各像高とアジムスに対して生成される。なお、各像高とアジムスに対する鮮鋭化フィルタ自体を記憶部103に記憶しておいてもよい。鮮鋭化フィルタの補正対象は収差であるため、デフォーカスによるぼけの補正は含まない。近似的に、A+B画像全体に対して、結像面での光学特性から求められた鮮鋭化フィルタを作用させてもよい。
【0033】
本実施例の鮮鋭化フィルタは、ウィナーフィルタである。このため、ぼけによってゼロ近傍まで低下したA+B画像の空間周波数スペクトルは復元することができない。また、ノイズの増幅やリンギング等の弊害も発生している。しかし、撮像時のぼけたままのA+B画像ではなく、ウィナーフィルタを作用させたA+B画像を後述のニューラルネットワークへ入力することで、ぼけの形状変化に対するニューラルネットワークの補正効果(鮮鋭化と弊害の抑制)をロバストにできる。特に、収差によるぼけは、光学系101aのズーム、合焦距離、像高とアジムスによって大きく変化し得るため、ロバスト性を向上させることが好ましい。ロバスト性が低い場合、収差の形状ごとに個別でニューラルネットワークを学習する必要があり、記憶部103に保持するウエイト情報の容量が増大する。なお、回折によるぼけは、光学系101aのズーム、合焦距離、像高とアジムスによる変化がほぼなく、F値によってその大きさのみが変わる。また、F値が大きい場合、被写界深度が深いため、デフォーカスによるぼけも変化が小さい。このため本実施例では、F値が閾値(所定のF値)よりも大きい(回折とデフォーカスのぼけを補正する)場合、相対的にロバスト性の必要性は低いため、鮮鋭化フィルタを用いない。ただし、F値が大きい場合でも前処理として鮮鋭化フィルタを作用させてもよい。また本実施例において、ウィナーフィルタ以外の鮮鋭化フィルタを用いることもできる。
【0034】
続いてステップS105において、画像生成部102bは、光軸上の物点に対する第2の瞳が線対称となる軸と平行で、かつA+B画像とA画像のそれぞれの基準点(光軸、または光軸の近傍)を通過する直線で、A+B画像とA画像のそれぞれを分割する。また画像生成部102bは、分割されたA+B画像とA画像、またはウエイト情報に対して、反転を制御する前処理(反転処理)を施す。本実施例では、光学系101aの瞳は、
図6(A)に示されるように水平方向に2分割されている。このため、A+B画像とA画像をそれぞれ上下に2分割し、一方の画像(又はウエイト情報)を反転する。そして、反転処理後のA+B画像とA画像と(又は、反転処理後のウエイト情報)に基づいて鮮鋭化処理を行うことにより、ウエイト情報の容量を削減しつつ鮮鋭化画像を生成することができる。これに関して、
図7を参照して説明する。
【0035】
図7は、各像高とアジムスでの瞳分割の説明図である。
図7はA画像を示し、×印の像高およびアジムスにおける分割瞳を×印の横に描画している。
図7中の破線は瞳の分割線(分割直線)である。
図7に示されるように、本実施例では一点鎖線を軸としてA画像の上下いずれか一方を反転すると、他方の瞳分割と重なり、線対称になっている。このため、収差、回折、または、デフォーカスのぼけも同様に、一点鎖線に対して線対称となる。したがって、一点鎖線の上下いずれか一方の領域に関して、ぼけを補正するウエイト情報を保持しておけば、他方は画像またはウエイト情報を反転することで鮮鋭化画像を推定することができる。
【0036】
ここで、反転とは、画像とウエイト情報との積を取る際の参照の順序を逆にする場合を含む。また、A+B画像は瞳が円形のため、光軸を中心にして回転対称な収差を有する。このため、一点鎖線に対して線対称な収差でもある。したがって、A画像と同様にウエイト情報の削減が可能である。本実施例では、水平方向に瞳を分割しているため、対称軸は水平な直線である。仮に、垂直方向に瞳を分割すると、対称軸も垂直な直線になる。これをさらに一般的に表現すると、以下のようになる。分割した瞳の関係が画像全体に対して線対称となる軸は、光軸を通過し、かつ光軸上で第2の瞳が線対称になる軸と平行である。この軸で分割されたA+B画像とA画像に対し、一方の分割領域のみウエイト情報を保持しておけば、他方は反転を制御することで同じウエイト情報で鮮鋭化処理を行うことができる。なお、ステップS104と同様に、回折やデフォーカスのぼけに対しても、ステップS105を実行してもよい。また、ステップS104とステップS105は、順番が逆でもよい。
【0037】
続いてステップS106において、情報取得部102aは、第1の画像または第2の画像の撮影時の光学系のF値に基づいて、ウエイト情報を記憶部103から取得する。ステップS103にて説明したように、本実施例では、F値が閾値よりも小さい場合、収差に起因するぼけを補正するウエイトを取得する。一方、F値が閾値よりも大きい場合、回折とデフォーカスに起因するぼけを補正するウエイト情報を取得する。それぞれのウエイト情報は、異なる学習データにより学習されており、その詳細については後述する。なおステップS106は、ステップS103とステップS107との間であれば、いつ実行してもよい。
【0038】
続いてステップS107において、画像生成部102bは、多層のニューラルネットワークを用いて鮮鋭化画像を生成する。多層のニューラルネットワークには、(前処理後の)第1の画像および第2の画像とウエイト情報とを入力する。本実施例では、多層のニューラルネットワークとして、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)が用いられる。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、GAN(Generative Adversarial Network)等の他の方法を用いてもよい。
【0039】
ここで、
図1を参照して、CNNにより鮮鋭化画像213を生成する工程について詳述する。
図1は、鮮鋭化画像を生成するネットワーク構造を示す図である。CNNは、複数の畳み込み層を有する。本実施例において、入力画像201は、(前処理された)第1の画像と第2の画像がチャンネル方向に連結された画像である。第1の画像と第2の画像のそれぞれが複数のカラーチャンネルを有している場合、そのチャンネル数の2倍のチャンネル数を持つ画像となる。入力画像201は、第1畳み込み層202で複数のフィルタとの畳み込みとバイアスの和を算出される。各層におけるフィルタおよびバイアスの値は、ウエイト情報により決定される。第1の特徴マップ203は、各フィルタに対して算出された結果をまとめたものである。第1の特徴マップ203は、第2の畳み込み層204に入力され、同様に新たな複数のフィルタとの畳み込みとバイアスの和が算出される。これを繰り返し、第N-1の特徴マップ211を第Nの畳み込み層212に入力して得られた結果が、鮮鋭化画像213である。ここで、Nは3以上の自然数である。一般には3層以上の畳み込み層を有するCNNが、ディープラーニングに該当すると言われる。各畳み込み層では、畳み込みの他に活性化関数を用いた非線型変換が実行される。活性化関数の例としては、シグモイド関数やReLU(Rectified Linear Unit)等がある。実施例1では以下の式(1)で表されるReLUを用いる。
【0040】
【0041】
式(1)において、maxは、引数のうち最大値を出力するMAX関数を表す。ただし、最後の第N畳み込み層では、非線形変換を実行しなくてもよい。以上の処理により、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能になる。
【0042】
次に、
図8を参照して、ウエイト情報の学習に関して説明する。
図8は、ウエイト情報の学習に関するフローチャートである。本実施例において、学習は撮像装置100以外の画像処理装置で事前に実行され、その結果(複数のウエイト情報)が記憶部103に記憶されている。ただし本発明は、これに限定されるものではなく、撮像装置100内に学習を実行する部位が存在していてもよい。
【0043】
まず、ステップS201において、画像処理装置は、複数の学習ペアを取得する。学習ペアとは、CNNの入力画像としてのA+B画像およびA画像と、CNNの出力画像(鮮鋭化画像)として得たい画像(正解画像)である。学習ペアの入力画像と正解画像との関係によって、CNNが補正する対象は変化する。F値が閾値より小さい場合、補正する対象のぼけは収差である。また、ノイズも抑制したいため、入力画像と正解画像は、収差とノイズの有無が異なる画像である。デフォーカスによるぼけは補正しないため、正解画像の被写界深度は、A+B画像と同じになるようにする。F値が閾値より大きい場合、回折とデフォーカスによるぼけとノイズの有無が異なる画像となる。
【0044】
ここで、学習ペアの生成方法に関して説明する。まず、入力画像(A+B画像とA画像)と正解画像を生成する元となるソースデータを用意する。ソースデータは、充分に高い空間周波数までスペクトル強度を有する3次元モデル、または2次元画像である。3次元モデルは、CG(コンピュータ・グラフィクス)等で生成することができる。2次元画像は、充分に結像性能の良い光学系で撮像した画像、または、画像を縮小することで高周波成分を強めた画像であってもよい。A画像とB画像は、撮像部101でソースデータを撮像したシミュレーションを行うことで得られる。撮像シミュレーションでは、光学系101aと撮像素子101bで発生するぼけとノイズを付与する。
【0045】
A+B画像は、生成されたA画像とB画像とを加算して得られる。加算により生成することで、A+B画像とA画像のノイズが現実に即した関係(互いに独立なノイズではない)となる。正解画像は、補正したい対象が除かれた撮像シミュレーションを行うことで生成可能である。F値が閾値より小さい場合、無収差の光学系とノイズのない撮像素子を用いてソースデータを撮像した画像である。F値が閾値より大きい場合、回折とデフォーカスによるぼけとノイズがない状態で、ソースデータを撮像した画像である。ソースデータが2次元画像の場合、様々なデフォーカス距離に2次元画像を配置して撮像シミュレーションを行い、それらに対応した複数の学習ペアを作成することが好ましい。ただし、2次元画像を合焦距離のみに配置して学習ペアを作成しても、近似的に所望の対象を補正可能なCNNを生成することができる。F値が閾値より小さい場合、学習ペアにデフォーカスのぼけが存在せず、学習されたCNNもデフォーカスのぼけを補正しないためである(CNNは全ての被写体が合焦距離にいるとして収差を補正する)。
【0046】
F値が閾値より大きい場合、様々なF値の回折によるぼけに対して学習ペアを作成することで、ぼけの大小にロバストな補正が可能となるCNNが学習される。これにより、被写界深度の深い画像の小さなデフォーカスのぼけを同時に補正することが可能となる。また、
図5のステップS105のように、A+B画像とA画像をそれぞれ分割する場合、その分割された一部の画像の範囲(像高とアジムス)だけぼけを学習すればよい。このため、該当する像高とアジムスのぼけに対してのみ、学習ペアを作成すればよい。なお、
図5のステップS102のように、A+B画像とA画像の明るさ合わせを行う場合、学習ペアにも同様の明るさ合わせを実行する。
【0047】
続いて、
図8のステップS202において、画像処理装置は、複数の学習ペアから学習を行い、ウエイト情報を生成する。学習の際には、ステップS107の鮮鋭化画像の生成と同じネットワーク構造を用いる。本実施例では、
図1に示されるネットワーク構造に対してA+B画像とA画像を入力し、その出力結果(推定された鮮鋭化画像)と正解画像との誤差を算出する。この誤差が最小になるように、誤差逆伝播法(Backpropagation)等を用いて、各層で用いるフィルタとバイアス(ウエイト情報)を更新して最適化する。フィルタとバイアスの初期値はそれぞれ任意であり、例えば乱数から決定することができる。または、各層ごとに初期値を事前学習するAuto Encoder等のプレトレーニングを行ってもよい。
【0048】
学習ペアを全てネットワーク構造へ入力し、それら全ての情報を使って学習情報を更新する手法をバッチ学習と呼ぶ。ただし、この学習方法は学習ペアの数が増えるにつれて、計算負荷が膨大になる。逆に、学習情報の更新に1つの学習ペアのみを使用し、更新ごとに異なる学習ペアを使用する学習手法をオンライン学習と呼ぶ。この手法は、学習ペアが増えても計算量が増大しない利点があるが、その代わりに1つの学習ペアに存在するノイズの影響を大きく受ける。このため、これら2つの手法の中間に位置するミニバッチ法を用いて学習することが好ましい。ミニバッチ法は、全学習ペアの中から少数を抽出し、それらを用いて学習情報を更新する。次の更新では、異なる小数の学習ペアを抽出して使用する。これを繰り返すことにより、バッチ学習とオンライン学習の欠点を小さくすることができる。
【0049】
続いてステップS203において、画像処理装置は、学習されたウエイト情報を出力する。本実施例では、F値が閾値以下の場合と閾値よりも大きい場合の少なくとも2つのケースに対して、同様の学習を行い、複数のウエイト情報を出力する。また本実施例では、ウエイト情報は記憶部103に記憶される。
【0050】
なお、ウエイト情報の学習および鮮鋭化画像の生成を行う際に扱う画像は、RAW画像または現像後の画像のいずれでもよい。A+B画像とA画像が符号化されている場合、復号してから学習および生成を行う。学習に使用した画像と鮮鋭化画像生成時の入力画像でガンマ補正の有無や、ガンマ値が異なる場合、入力画像を処理して学習の画像に合わせることが好ましい。また、A+B画像とA画像(学習の際は正解画像も)は、ニューラルネットワークへ入力する前に信号値を規格化しておくことが好ましい。規格化しない場合、学習と鮮鋭化画像生成時にbit数が異なっていると、鮮鋭化画像を正しく推定することができない。また、bit数によってスケールが変化するため、学習時の最適化で収束に影響を及ぼす可能性もある。規格化には、信号が実際に取り得る最大値(輝度飽和値)を用いる。例えばA+B画像が16bitで保存されていたとしても、輝度飽和値は12bitの場合等があり、この際は12bitの最大値(4095)で規格化しなければ信号の範囲が0~1にならない。また、規格化の際にはオプティカルブラックの値を減算することが好ましい。これにより、実際に画像が取り得る信号の範囲をより0~1に近づけることができる。具体的には、以下の式(2)に従って規格化することが好ましい。
【0051】
【0052】
式(2)において、sはA+B画像(またはA画像もしくは正解画像)の信号、sOBはオプティカルブラックの信号値(画像が取り得る信号の最小値)、ssatuは信号の輝度飽和値、snorは規格化された信号を示す。
【0053】
本実施例によれば、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、および、レンズ装置を提供することができる。
【実施例2】
【0054】
次に、本発明の実施例2における画像処理システムについて説明する。本実施例では、鮮鋭化画像を推定する画像処理装置、撮像画像を取得する撮像装置、および、学習を行うサーバが個別に存在している。
【0055】
図9および
図10を参照して、本実施例における画像処理システムについて説明する。
図9は、画像処理システム300のブロック図である。
図10は、画像処理システム300の外観図である。
図9および
図10に示されるように、画像処理システム300は、撮像装置301、画像処理装置302、サーバ306、表示装置309、記録媒体310、および、出力装置311を備えて構成される。
【0056】
撮像装置301の基本構成は、鮮鋭化画像を生成する画像処理部、および撮像部を除いて、
図2に示される撮像装置100と同様である。なお、本実施例の撮像装置301は、レンズ装置(光学系)の交換が可能である。撮像装置301の撮像素子は、
図11に示されるように構成されている。
図11は、本実施例における撮像素子の構成図である。
図11において、破線はマイクロレンズを示す。画素320(a、b以降は省略)のそれぞれには4つの光電変換部321、322、323、324(a、b以降は省略)が設けられ、光学系の瞳を2×2の四つに分割している。光電変換部321~324で取得される画像を、順に、A画像、B画像、C画像、D画像とし、それらの加算結果をABCD画像とする。撮像素子からは撮像画像として、ABCD画像(第1の画像)とA画像(第2の画像)の2画像が出力される。
【0057】
撮像装置301と画像処理装置302とが接続されると、ABCD画像とA画像は記憶部303に記憶される。画像処理装置302は、画像生成部304にてABCD画像とA画像から鮮鋭化画像を生成する。この際、画像処理装置302は、ネットワーク305を介してサーバ306にアクセスし、生成に用いるウエイト情報を読み出す。ウエイト情報は、学習部308で予め学習され、記憶部307に記憶されている。ウエイト情報は、複数のレンズ、焦点距離、F値等により個別に学習されており、複数のウエイト情報が存在する。
【0058】
画像処理装置302は、入力されたABCD画像に合致する条件のウエイト情報を選択して記憶部303に取得し、鮮鋭化画像を生成する。生成された鮮鋭化画像は、表示装置309、記録媒体310、および、出力装置311の少なくとも一つに出力される。表示装置309は、例えば液晶ディスプレイやプロジェクタ等である。ユーザは、表示装置309を介して、処理途中の画像を確認しながら作業を行うことができる。記録媒体310は、例えば半導体メモリ、ハードディスク、ネットワーク上のサーバ等である。出力装置311は、プリンタ等である。画像処理装置302は、必要に応じて現像処理やその他の画像処理を行う機能を有する。また本実施例において、撮像装置301に接続されているレンズ装置内の記憶手段にウエイト情報を保持しておき、ぼけ補正の際に呼び出してもよい。
【0059】
次に、
図12を参照して、画像処理装置302の画像生成部304により実行される鮮鋭化処理(鮮鋭化画像の生成処理)について説明する。
図12は、鮮鋭化画像の生成処理を示すフローチャートである。
図12の各ステップは、主に、画像処理装置302(画像生成部304)により実行される。
【0060】
まずステップS301において、画像処理装置302は、ABCD画像とA画像を取得する。本実施例において、第1の画像はABCD画像であり、第2の画像はA画像である。ただし、第1の画像は光学系の瞳全体に対応する画像である必要はなく、A画像、B画像、C画像、D画像の少なくとも二つを加算した画像でもよい。続いてステップS302において、画像処理装置302は、ABCD画像のレンズ装置の種類、焦点距離、F値、または、合焦距離に基づいて、対応するウエイト情報を取得する。続いてステップS303において、画像処理装置302は、鮮鋭化画像を生成する。なお本実施例において、生成に用いるネットワークは、
図1を参照して実施例1で説明したネットワークと同様である。
【0061】
学習部308が行うウエイト情報の学習は、実施例1と同様に、
図8に示されるフローチャートに従って行われる。レンズ装置に応じて収差やヴィネッティングが異なるため、レンズ装置の種類ごとに学習ペアを作成し、ウエイト情報を学習する。また、撮像条件(焦点距離、F値、合焦距離)や像高、アジムスにより収差やヴィネッティングの変化が無視できない場合、複数の撮像条件、像高、または、アジムスごとに学習ペアを作成してウエイト情報を学習することが好ましい。なお本実施例では、第2の画像が1枚である例を挙げたが、第2の画像が複数(例えば、A画像、C画像、D画像の3枚)の画像であってもよい。
【0062】
本実施例によれば、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能な画像処理システムを提供することができる。
【0063】
(その他の実施例)
本発明は、上述の実施例の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0064】
各実施例によれば、画像から光学系の瞳に依存するぼけを高精度に補正し、鮮鋭化画像を得ることが可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、レンズ装置、プログラム、および、記憶媒体を提供することができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0066】
102 画像処理部(画像処理装置)
102a 情報取得部(取得手段)
102b 画像生成部(生成手段)