IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三星電子株式会社の特許一覧

特許7191590有機無機複合組成物、ならびにこれを含む成形品および光学部品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】有機無機複合組成物、ならびにこれを含む成形品および光学部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/02 20060101AFI20221212BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20221212BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20221212BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20221212BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K3/10
C08K5/3492
C08K9/04
G02B1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018157476
(22)【出願日】2018-08-24
(65)【公開番号】P2020029542
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菊地 智幸
(72)【発明者】
【氏名】大石 好行
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸香
(72)【発明者】
【氏名】神谷 亮介
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/168788(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/094663(WO,A1)
【文献】特開2004-224949(JP,A)
【文献】特開2017-116774(JP,A)
【文献】特開2007-134525(JP,A)
【文献】特開平07-252401(JP,A)
【文献】特開平02-282402(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0177128(US,A1)
【文献】特開2018-138625(JP,A)
【文献】特開2020-029544(JP,A)
【文献】米国特許第11312840(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子(A);
無機微粒子(B);および
下記一般式(2)または(3)で表される表面処理剤(C):
【化1】

一般式(2)中、R は、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示し、R およびR は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す;
【化2】

一般式(3)中、R は、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示し、R 、R 、R 、R は、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す;
を含み、
前記無機微粒子(B)の個数基準のメジアン径(Dn50)が1nm以上20nm以下である、有機無機複合組成物。
【請求項2】
前記表面処理剤(C)の分子量が、100以上20000未満である、請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【請求項3】
前記表面処理剤(C)の屈折率が、1.6以上2.0以下である、請求項1または2に記載の有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記高分子(A)の数平均分子量が、20000以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項5】
前記高分子(A)が、ガラス転移温度(Tg)を有している熱可塑性高分子である、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項6】
前記高分子(A)のガラス転移温度が、80℃以上200℃以下である、請求項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記無機微粒子(B)の屈折率が1.8以上3.5以下である、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項8】
前記無機微粒子(B)が酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、リン化ガリウム、酸化セリウム、及び酸化ニオブからなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項9】
前記無機微粒子(B)および前記表面処理剤(C)の合計の含有量が、前記高分子(A)、前記無機微粒子(B)および前記表面処理剤(C)の合計量100重量%に対して、5重量%以上80重量%未満である、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項10】
屈折率nd(587.6nm)が1.70以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物を含む、成形品。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の有機無機複合組成物を含む、光学部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機複合組成物、ならびにこれを含む成形品および光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、カメラ、ビデオカメラ等の各種カメラや、スマートフォン用レンズ等の光学系に使用される光学レンズ用の材料として、高い屈折率を有し、且つ耐熱性、光透過性(透明性)、易成形性にも優れた材料の開発が求められている。樹脂製レンズはガラス製のレンズに比べて軽量で割れにくく、材料コストが安く、レンズ成形に適した射出成形により様々な形状に加工できるという利点を持つ。しかしながら、近年、製品の薄型化やカメラの高画素化へのニーズにこたえるため、素材自体を高屈折率化することが求められている。
【0003】
樹脂素材である高分子を高屈折率化する方法として、芳香族環、ハロゲン原子、硫黄原子を導入する試みがなされている。このうち、硫黄原子を導入したエピスルフィド高分子化合物およびチオウレタン高分子は、屈折率1.7以上となるが、可塑性がないため、実用化範囲が限定されている。可塑性を有する高屈折な樹脂としてトリアジン環を有する高分子が多く検討されている。例えば、特許文献1には、トリアジン環を有する繰り返し単位構造を含むトリアジン環含有重合体からなる高屈折材料が記載されている。特許文献1に記載されるトリアジン環含有重合体は、単独で高耐熱性、高透明性、および高屈折率を達成しうるとされている。
【0004】
一方、屈折率の高い無機材料を樹脂中に分散させた高屈折率の有機無機複合組成物を製造する試みがなされている。これにより、高強度化も図ることができる。例えば、特許文献2には、トリアジン環を含有する繰り返し単位を含有するトリアジン環含有重合体に金属酸化物粒子を混合することにより、これを塗布して得られた膜の強度が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-169464号公報
【文献】国際公開2013/094663号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
無機酸化物微粒子のような無機材料を組成物中で透明に分散させるためにはレイリー散乱による透過光の減衰を抑制する必要があり、ナノメートルサイズの微粒子を用いて樹脂中に一次粒子の状態で均一に分散させる必要がある。しかしながら、無機微粒子は粒子サイズが小さくなるにつれて凝集しやすくなるため、均一に分散させることは非常に難しい。樹脂と無機微粒子とを混合しただけでは、これらが相分離を起こし、組成物が濁ってしまう。また、得られた成形品の強度が不十分になることがわかった。
【0007】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、高屈折率かつ高透明性を有し、高強度の成形品を与える有機無機複合組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子(A)、無機微粒子(B)、および所定のトリアジン環構造を有する表面処理剤(C)を含み、前記無機微粒子(B)の個数基準のメジアン径(Dn50)が1nm以上20nm以下である、有機無機複合組成物によって上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高屈折率かつ高透明性を有し、高強度の成形品を与える有機無機複合組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一側面は、下記成分(A)、成分(B)および成分(C)を含む、有機無機複合組成物に関する。なお、本明細書において、下記「成分(A)、成分(B)および成分(C)を含む、有機無機複合組成物」を、単に「本発明に係る組成物」とも称する。
【0011】
(1)成分(A):トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子;
(2)成分(B):無機微粒子;および
(3)成分(C):下記一般式(1)で示されるトリアジン環構造を有する表面処理剤:
【0012】
【化1】
【0013】
式中、Rは、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示す。
【0014】
このとき、前記無機微粒子(B)の個数基準のメジアン径(Dn50)が1nm以上20nm以下である。
【0015】
本発明に係る有機無機複合組成物は、高い屈折率を有する。本発明の技術的範囲を制限するものではないが、かような効果が得られるメカニズムは、以下のように推測される。
【0016】
本発明に係る組成物は、成分(A)としてトリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子(以下、トリアジン環含有高分子ともいう)を含む。トリアジン環含有高分子は、熱可塑性であるが、ビニルポリマーのような熱可塑性樹脂と比較して耐熱性に優れるだけでなく、屈折率も1.7以上と高いという利点がある。また、トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有することで熱可塑性とすることができ、硫黄原子を導入したエピスルフィド高分子化合物およびチオウレタン高分子のような屈折率1.7以上となるが可塑性がない材料と比較して、射出成形等で加工しやすい。
【0017】
ここで、高分子単体では、屈折率の上昇に伴い、ガラス転移温度が上昇することが課題になるが、本発明に係る組成物はかような高屈折率のトリアジン環含有高分子に加えて、更に成分(B)として無機微粒子を含むため、より一層屈折率が高く、射出成形に適したものとなり、成形品の強度も向上しうる。
【0018】
この際、無機微粒子を透明に分散させるためにはレイリー散乱による透過光の減衰を抑制する必要があり、可視光の範囲で無色透明を維持するためには粒子サイズを1nm以上20nm以下にし、樹脂中に一次粒子の状態で均一に分散させる必要がある。しかし、粒子サイズが小さくなるにつれて凝集しやすくなり、均一に分散させることは非常に難しい。上記の特許文献2には、金属酸化物粒子をシランカップリング剤などの有機ケイ素化合物で処理することが記載されているが、本発明者らの検討によれば、この方法によってもなお、十分な分散性が得られず、光学材料に適用するために必要な高い屈折率、透明性、および強度を得られないことが明らかになった。
【0019】
本発明によれば、所定のトリアジン環を有する表面処理剤を用いることによって、無機酸化物ナノ粒子などの無機微粒子の表面を修飾する。これによって、水や極性溶媒への分散体として調製されることの多い上記無機微粒子の表面の水酸基などが表面処理剤で被覆されるため、有機樹脂である高分子(A)への分散性が向上しうる。また、無機微粒子の表面がトリアジン環を有する化合物で被覆されるため、同じトリアジン環構造を有する高分子(A)との親和性が高くなる。その結果、無機微粒子が高分子(A)中に均一に分散されて高分子(A)と無機微粒子(B)との相分離が生じにくくなる。その結果、高い透明性が得られると同時に、高分子および無機微粒子の屈折率に応じた高い屈折率が得られうる。さらに、高分子(A)と表面処理剤(C)との相互作用によって、成形品の強度が向上しうる。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0021】
本明細書において、また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0022】
<成分(A)>
成分(A)は、トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子である。成分(A)は、トリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有するものであれば、特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、特開2014-162829号公報、特開2014-162830号公報、特開2015-227392号公報に記載される高分子などを用いることができる。
【0023】
本発明の有機無機複合組成物においては、成分(A)は、下記一般式(1)で示されるトリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子であることが好ましい;
【0024】
【化2】
【0025】
上記一般式(1)において、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基、置換もしくは非置換のアリールアミノ基、置換もしくは非置換のアルキルチオ基、または置換もしくは非置換のアリールチオ基を示す。
【0026】
好ましくは、Rは、それぞれ独立して、炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数6以上14以下のアリール基、炭素数7以上20以下のアラルキル基、アミノ基、炭素数6以上14以下のアリールアミノ基、炭素数1以上10以下のアルキルチオ基、および炭素数6以上14以下のアリールチオ基からなる群から選択される基であり、これらの基は置換基を有していてもよい。かような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1以上3以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基)、カルボキシル基、スルホ基[-SOH]、スルフィノ基、スルフィニル基、ホスホン酸基[-PO(OH)]、ホスホリル基、ホスフィニル基、ホスホノ基、チオール基、ホスホニル基、およびスルホニル基等が例示できる。なお、場合によって存在する置換基は、置換される基と同じになることはない。例えば、アルキル基がアルキル基で置換されることはない。
【0027】
アルキル基としては、直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基等が挙げられる。このうち、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がさらに好ましい。
【0028】
アリール基としては、炭素数6以上14以下のアリール基、例えばフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、インデニル基等が挙げられる。このうち、炭素数6以上12以下のアリール基がより好ましい。
【0029】
アラルキル基としては、炭素数7以上20以下のアラルキル基が好ましく、炭素数6以上14以下のアリール-炭素数1以上6以下のアルキル基がより好ましく、炭素数6以上12以下のアリール-炭素数1以上6以下のアルキル基がさらに好ましい。炭素数6以上14以下のアリール基としては、前記のアリール基が例示できる。炭素数6以上14以下アリール-炭素数1以上6以下のアルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基等が挙げられる。
【0030】
アリールアミノ基(芳香族アミノ基)としては、アニリノ基、p-カルボキシアニリノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等が挙げられる。
【0031】
アルキルチオ基(アルキルチオール基)としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピオチオ基、ブチルチオ基等が挙げられる。
【0032】
アリールチオ基(芳香族チオール基)としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0033】
好ましくは、Rは、酸性官能基を含む。すなわち、Rは、酸性官能基で置換されたアルキル基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アリールアミノ基、アルキルチオ基、またはアリールチオ基であることが好ましい。これによって無機微粒子表面への結合性が向上し、無機微粒子の樹脂内への分散性が向上しうる。特には、Rは、カルボキシル基を含むことが好ましい。Rの一部にカルボキシル基を有することで、トリアジン環含有高分子に無機微粒子を相分離することなく均一に分散させる効果がより向上しうる。
【0034】
より好ましくは、成分(A)は、前記トリアジン環構造が下記一般式(2)で表される高分子である。一般式(2)で表される高分子において、トリアジン環とRの結合はチオエーテル基である。
【0035】
【化3】
【0036】
式中、Rは、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基、置換もしくは非置換のアリールアミノ基、置換もしくは非置換のアルキルチオ基、または置換もしくは非置換のアリールチオ基を示し、Rは、それぞれ独立して、芳香環を有する二価の基(2価の芳香族基)を表す。
【0037】
一般式(2)において、Rの置換基としては、例えば、上記の成分(A)についての一般式(1)のRの置換基として例示したものと同様の置換基が用いられる。
【0038】
一般式(2)のように、トリアジン環とRとの結合としてチオエーテル構造をとることで、より高屈折率とすること、およびガラス転移温度を80℃以上200℃以下の範囲に収めることができる。ガラス転移温度を上記範囲に制御することで射出成形性が向上しうる。また、R基として芳香環を有する二価の基を導入することで分子間相互作用がより促進され高屈折率が得られうる。
【0039】
芳香環を有する二価の基としては、例えば炭素数6以上30以下の芳香族基が挙げられ、例えば、Rとしてはフェニレン基、ナフチレニン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテルまたはジフェニルスルフィドから誘導される二価の基、ビスフェノール類から由来する二価の基、等の芳香族基が例示できる。これらの芳香族基にアルキレン基が結合した基であってもよい。これらの基は置換基を有していてもよい。かような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1以上3以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基)、カルボキシル基、スルホ基[-SOH]、スルフィノ基、スルフィニル基、ホスホン酸基[-PO(OH)]、ホスホリル基、ホスフィニル基、ホスホノ基、チオール基、ホスホニル基、およびスルホニル基等が例示できる。
【0040】
好ましくは、上記Rは、下記式で表される少なくとも1つを含む。
【0041】
【化4】
【0042】
上記式中、Rはそれぞれ独立して、置換されていてもよいアルキレン基である。アルキレン基としては、炭素数1以上10以下のアルキレン基が好ましく、例えば、アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1,2-ジメチルエチレン基等が挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよく、置換基としては上記と同様のものが用いられうる。
【0043】
として上記の基を含むトリアジン環含有高分子であれば、より高い屈折率が得られうるため好ましい。また、高屈折率を維持したまま、有機溶媒への溶解度が向上し、さらにガラス転移温度を80℃以上200℃以下の範囲に収めることができるため、本発明に好適に用いられうる。
【0044】
好ましい一実施形態では、有機無機複合組成物は、下記のいずれかの繰り返し単位を高分子中の一部に含むトリアジン環含有高分子を含む。
【0045】
【化5】
【0046】
成分(A)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは20000以上であり、より好ましくは20000以上100000以下であり、さらに好ましくは20000以上70000以下である。上記数値範囲とすることにより、組成物の透過率(透明性)や耐熱性が特に優れたものとなり、また、組成物から成形品を得る工程(射出成形や圧縮成形などの金型を用いた成形工程)に適合し、得られた成形品の機械的強度が優れるという利点がある。なお、本明細書において、成分(A)の数平均分子量(Mn)は、実施例に記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。
【0047】
成分(A)の屈折率ndは、例えば1.65以上であり、好ましくは1.7以上である。上記範囲であれば、高屈折率の有機無機複合組成物が得られうる。トリアジン環含有高分子として、例えば、上記一般式(2)のようにトリアジン環に連結する硫黄原子を有する構造をとることでより高屈折率とすることができる。また、トリアジン環に連結する窒素原子を有する構造を含む高屈折率な樹脂が報告されている(例えば、特開2014-162830号公報)が、ガラス転移温度が200℃超となり、成形品を得る工程(射出成形や圧縮成形などの金型を用いた成形工程)に適用することができない。また、R基として芳香環を有する二価の基を導入することで分子間相互作用がより促進され高屈折率が得られうる。
【0048】
成分(A)は、ガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。すなわち、成分(A)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温して10分間保持したサンプルを、降温速度10℃/分で25℃まで冷却して10分間保持した後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温して測定した示差熱量曲線において変曲点が観察される。このようにガラス転移温度を有する樹脂は、熱可塑性を有し、射出成形により加工することができる。成分(A)のガラス転移温度(Tg)は、例えば80℃以上250℃以下であり、射出成形時のハンドリングと組成物の耐熱性とを考慮すると、成分(A)のTgは80℃以上200℃以下であることが好ましい。成分(A)のTgは、Rおよび一般式(2)のRの構造などを制御することで調整することができ、例えば、合成の原料モノマーとして用いるトリアジンジチオール化合物のR部位に嵩高い構造や剛直な構造を導入する割合を増加することで、成分(A)のTgを高くすることができる。なお、本明細書において、成分(A)のガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した値である。
【0049】
成分(A)の各繰り返し単位はいずれの形態であってもよく、例えば、ブロック状またはランダム状であり得る。
【0050】
成分(A)は、特に制限されず、公知の方法を用いて調製することができる。例えば、一般式(2)で表される構造を繰り返し単位として有するトリアジン環含有高分子は、トリアジンジチオール化合物と、ジハロゲン化された芳香族化合物とを、相間移動触媒の存在下に反応させることにより、製造することができる。
【0051】
【化6】
【0052】
(式中、Yはハロゲン原子を表し、Rは、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基、置換もしくは非置換のアリールアミノ基、置換もしくは非置換のアルキルチオ基、または置換もしくは非置換のアリールチオ基を示し;Rは、芳香環を有する二価の基を表す。)
ここで、Yのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0053】
トリアジンジチオール化合物としては、特に制限されないが、例えば2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-(p-カルボキシ)アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、2-フェニル-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール等が例示できる。ジハロゲン化された芳香族化合物としては、例えば、α,α’-ジブロモ-p-キシレン、α,α’-ジブロモ-o-キシレン、α,α’-ジブロモ-m-キシレン、4,4’-ビス(ブロモメチル)ビフェニルなどを用いることができる。これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
トリアジンジチオール化合物とジハロゲン化された芳香族化合物との反応に用いる相間移動触媒としては、界面重縮合に用いることができる長鎖アルキル第四級アンモニウム塩、クラウンエーテルなどが好ましく、例えば臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等をより好ましく用いることができる。
【0055】
反応系は、水と有機溶媒との二相系を用いることができ、クロロホルム、ジクロロメタン、ベンゾニトリル、ニトロベンゼン等の有機溶媒と水との二相系とするのが好ましい。反応に際しては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を添加して、-10℃以上100℃以下で2時間以上120時間で以下行うのが好ましい。
【0056】
上記によって得られたトリアジン環含有高分子は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法などの一般的な精製法により精製してもよい。
【0057】
<成分(B)>
成分(B)である無機微粒子としては、金属酸化物、金属硫化物、金属リン化物、金属セレン化物、金属テルル化物等が挙げられる。本発明の有機無機複合組成物において、無機微粒子(B)は、その表面の少なくとも一部が、表面処理剤(C)によって被覆されている。
【0058】
金属酸化物としては、特に限定されず、例えば、酸化ジルコニウム、イットリア添加酸化ジルコニウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸スズ、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ニオブ、酸化タンタル、タンタル酸カリウム、酸化タングステン、酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ガリウム、シリカ、酸化チタン、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0059】
これらの中でも、有機無機複合組成物を光学用途に用いる場合には、無機微粒子は、屈折率が高いことが好ましく、屈折率が1.8以上の無機微粒子を用いることが好ましい。屈折率の上限値は特に制限されないが、実質的に、3.5以下である。
【0060】
具体的には、無機微粒子は、酸化ジルコニウム(屈折率=約2.1)、酸化チタン、チタン酸バリウム(屈折率=約2.4)、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、リン化ガリウム、酸化セリウム、または酸化ニオブであることが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態は、無機微粒子として、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、リン化ガリウム、酸化セリウム、および酸化ニオブからなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含む。本発明のより好ましい一実施形態は、無機微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、およびチタン酸バリウムからなる群から選択される。酸化チタンは、主にルチル型(屈折率=約2.7)とアナターゼ型(屈折率=約2.5)の2種類の結晶構造を有するが、アナターゼ型の酸化チタンは光触媒活性が高く、光学的な用途への使用にはあまり適さないためルチル型の酸化チタンであることが好ましい。また、酸化チタンの光触媒活性を低下させるために表面がシリカなどでコーティングされた酸化チタン粒子を用いてもよい。
【0061】
無機微粒子は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
無機微粒子の個数基準のメジアン径(Dn50)は、1nm以上20nm以下である。無機微粒子の個数基準のメジアン径が20nmを超えると、得られる組成物の透明性が低下してしまう。一方、無機微粒子の個数基準のメジアン径が1nm未満であると、無機微粒子の二次凝集が生じやすくなる。無機微粒子の個数基準のメジアン径は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。なお、無機微粒子の個数基準のメジアン径(Dn50)は、動的光散乱法による個数基準のメジアン径である。
【0063】
無機微粒子は、特開2011-213505号公報、特開2012-180241号公報等に記載の公知の方法を用いて製造することができる。
【0064】
また、無機微粒子は市販品を用いてもよく、この際、溶媒分散体であってもよい。かような市販品としては、SZR-W、SZR-CW、SZR-M、SZR-CM(酸化ジルコニウム分散液、堺化学工業社製);タイノック(登録商標)RA-6、NRA-10M(酸化チタン分散液、多木化学社製)などが挙げられる。
【0065】
<成分(C)>
成分(C)である表面処理剤(表面修飾剤)は、無機微粒子を表面修飾するために用いられる。
【0066】
成分(C)は、下記一般式(1)で示されるトリアジン環構造を有する表面処理剤である:
【0067】
【化7】
【0068】
式中、Rは、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示す。
【0069】
好ましくは、Rは、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、置換もしくは非置換の炭素数1以上10以下のアルキル基、置換もしくは非置換の炭素数2以上10以下のアルケニル基、置換もしくは非置換の炭素数2以上10以下のアルキニル基、置換もしくは非置換の炭素数6以上14以下のアリール基、置換もしくは非置換の炭素数7以上20以下のアラルキル基、置換もしくは非置換のアミノ基からなる群から選択される基である。
【0070】
が置換基を有するアルキル基、置換基を有するアルケニル基、置換基を有するアルキニル基、置換基を有するアリール基、置換基を有するアラルキル基、または置換基を有するアミノ基である場合、かような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1以上6以下のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基)、炭素数2以上6以下のアルケニル基、炭素数2以上6以下のアルキニル基、カルボキシル基、スルホ基[-SOH]、スルフィノ基、スルフィニル基、ホスホン酸基[-PO(OH)]、ホスホリル基、ホスフィニル基、ホスホノ基、チオール基、ホスホニル基、およびスルホニル基等が例示できる。なお、場合によって存在する置換基は、置換される基と同じになることはない。例えば、アルキル基がアルキル基で置換されることはない。
【0071】
がアミノ基である場合は、アミノ基の水素原子の少なくとも1つが置換されていることが好ましく、アミノ基の2つの水素原子が置換されていることがより好ましい。特には、アミノ基の水素原子は、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数2以上6以下のアルケニル基、および炭素数2以上6以下のアルキニル基から選択される置換基で置換されていることが好ましい。
【0072】
成分(C)の表面処理剤は、酸性官能基を含んでもよい。表面処理剤中の酸性官能基は、例えば、カルボキシル基、スルホ基[-SOH]、スルフィノ基、ホスホン酸基[-PO(OH)]、ホスフィン酸基、リン酸基などの官能基;ならびにこれらの塩の基などが挙げられる。これらのうち、酸性官能基としては、カルボキシル基、ホスフィン酸基、スルホ基が好ましく、カルボキシル基であることが特に好ましい。カルボキシル基を有する表面処理剤を用いると、射出成形時に金型腐食が生じにくく、金型離型性に優れる。
【0073】
好ましくは、成分(C)は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0074】
【化8】
【0075】
式中、Rは、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。
【0076】
一般式(2)において、Rの置換基としては、例えば、上記の成分(C)についての一般式(1)のRの置換基として例示したものと同様の置換基が用いられる。
【0077】
およびRとしてのアルキル基、およびアリール基は置換されていてもよい。置換基としては、例えば、上記のRの置換基として例示したものと同様の置換基が用いられる。
【0078】
一般式(2)のように、トリアジン環とRおよびRとの結合として硫黄原子を含む構造をとることで、より高屈折率とすることができる。
【0079】
およびRは、粒子との相互作用の観点から、少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、両方が水素原子であることが好ましい。
【0080】
本発明において好適な一般式(2)で表される表面処理剤としては、具体的には、2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール、6-(ジメチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-(ジエチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-(メチルフェニルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、6-フェニル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールなどが挙げられる。
【0081】
他の好ましい実施形態において、成分(C)は、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0082】
【化9】
【0083】
式中、Rは、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、あるいは置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のアラルキル基、または置換もしくは非置換のアミノ基を示し、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、またはアリール基を示す。
【0084】
一般式(3)において、Rの置換基としては、例えば、上記の成分(C)についての一般式(1)のRの置換基として例示したものと同様の置換基が用いられる。
【0085】
、R、R、およびRとしてのアルキル基、およびアリール基は置換されていてもよい。R、R、R、およびRとしてのアルキル基、およびアリール基は置換されていてもよい。置換基としては、例えば、上記のRの置換基として例示したものと同様の置換基が用いられうる。
【0086】
一般式(3)のように、トリアジン環とR、R、R、およびRとの結合として窒素原子を含む構造をとることで、より高屈折率とすることができる。
【0087】
本発明において好適な一般式(3)で表される表面処理剤としては、具体的には、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン(ベンゾグアナミン)、2,4-ジアミノ-6-メチル-1,3,5-トリアジン(アセトグアナミン)、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、トルグアナミン、キシログアナミン、フェニルベンゾグアナミン、ナフトグアナミンなどが挙げられる。
【0088】
中でも、透明性、屈折率および透過率のバランスに優れ、金型成形性に優れることから、表面処理剤は、6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、またはベンゾグアナミンからなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0089】
なお、表面処理剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
表面処理剤(C)の分子量は、特に制限されないが、好ましくは100以上20000未満であり、より好ましくは100以上10000以下であり、さらに好ましくは100以上5000以下である。上記範囲とすることで、無機酸化物微粒子を相分離することなくより均一にトリアジン環構造をポリマー主鎖構造中に有する高分子(A)に分散させることができる。そのため、本発明の効果がより顕著に得られうる。なお、2種類以上の表面処理剤が用いられる場合、少なくとも1つの表面処理剤の分子量が上記範囲であることが好ましく、すべての表面処理剤の分子量が上記範囲であることがより好ましい。
【0091】
好ましくは、表面処理剤(C)の屈折率は、1.6以上2.0以下であり、より好ましくは1.7以上2.0以下である。このような表面処理剤を用いることにより、屈折率が高い有機無機複合組成物を得ることができる。例えば、トリアジン環に連結する硫黄原子を有する構造、またはトリアジン環に連結する窒素原子を有する構造を導入することで表面処理剤の屈折率を高くすることができる。なお、2種類以上の表面処理剤が用いられる場合、少なくとも1つの表面処理剤の屈折率が上記範囲であることが好ましく、すべての表面処理剤の屈折率が上記範囲であることがより好ましい。
【0092】
表面処理剤の無機微粒子への表面修飾方法は、特に限定されず、例えば、湿式法で修飾してもよいし、乾式法で修飾してもよい。無機微粒子をより効率よく修飾し、さらに、無機微粒子の二次凝集を防止する観点からは、湿式法を用いることが好ましい。無機微粒子を湿式法で修飾する場合には、例えば、無機微粒子の分散液に表面処理剤を添加・撹拌することにより、無機微粒子の表面を修飾することができる。かような手法により調製した表面処理剤と無機微粒子との混合物を、成分(A)と混合することが好ましい。
【0093】
無機微粒子の分散液に用いる溶媒は特に限定されないが、無機微粒子を良好に分散させる観点からは、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール;およびこれらの混合物が好ましく用いられる。また、分散液の安定化のために、例えば、ギ酸、酢酸、塩酸、硝酸などの酸やアルカリなどの他の成分を分散液に添加してもよい。これらの成分は、成分(A)と混合する前に、洗浄や乾燥によって除去してもよい。
【0094】
表面処理剤の添加量は表面修飾が適切に行われるように適宜設定されるが、表面処理剤:無機微粒子の比が、表面処理剤1重量部に対して無機微粒子が1重量部以上100重量部以下の範囲であることが好ましく、5重量部以上20重量部以下であることがより好ましい。なお、2種類以上の表面処理剤が用いられる場合、その合計量が上記範囲であることが好ましい。
【0095】
無機微粒子を表面処理剤を用いて表面修飾するための反応時間は、特に限定されず、通常、15分以上12時間以下、好ましくは、30分以上5時間以下である。また、反応温度も特に限定されず、通常、10℃以上100℃以下、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは10℃以上40℃以下である。
【0096】
上記反応後、得られた分散液を濃縮してもよい。また、洗浄や濾過により、過剰な表面処理剤や他の成分を除去してもよい。
【0097】
<組成物の調製方法>
本発明に係る組成物は、成分(A)、成分(B)、および成分(C)を同時に混合してもよいが、表面処理剤により無機微粒子が効果的に修飾されるという観点から、上述のように成分(B)と成分(C)との混合物を調製した後、当該混合物と成分(A)とを合一することが好ましい。組成物の調製には、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの溶媒を用いてもよい。
【0098】
組成物中における各成分の含有量は特に制限されないが、例えば、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計の含有量が、高分子(A)、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計量100重量%に対して、1重量%以上99重量%以下である。組成物から得られた成形品の屈折率が優れるという観点から、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計の含有量は、高分子(A)、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計量100重量%に対して、5重量%以上80重量%未満であることが好ましく、5重量%以上70重量%以下であることがより好ましい。成形品の透過率、機械的強度の観点から、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計の含有量は、10重量%以上50重量%以下であることがさらに好ましい。
【0099】
一実施形態では、高分子(A)の含有量は、組成物全体に対して、1重量%以上99重量%以下である。別の実施形態では、高分子(A)の含有量は、組成物全体に対して、20重量%超95重量%以下である。
【0100】
一実施形態では、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計量は、組成物全体に対して、1重量%以上99重量%以下である。別の実施形態では、無機微粒子(B)および表面処理剤(C)の合計量は、組成物全体に対して、5重量%以上80重量%未満である。
【0101】
本発明に係る組成物は、任意に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤、可塑剤、着色剤、ブルーイング剤、難燃剤、難燃助剤、離型剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、補強剤、分散剤、帯電防止剤、発泡剤、抗菌剤、その他の樹脂、エラストマー等の添加剤を含んでいてもよい。
【0102】
本発明の有機無機複合組成物の屈折率nd(587.6nm)は、好ましくは1.70以上であり、より好ましくは1.75以上である。有機無機複合組成物の屈折率は、トリアジン環含有高分子、無機微粒子、および表面処理剤の屈折率を選択することで調整することができる。また、トリアジン環含有高分子、無機微粒子、および表面処理剤の合計量に対する無機微粒子と表面処理剤の合計の含有量を調節することで調整することができる。有機無機複合組成物の屈折率は、実施例に記載の手法により測定された値である。
【0103】
本発明の有機無機複合組成物の全光線透過率は、好ましくは80%以上である。また、本発明の有機無機複合組成物のヘーズは、好ましくは3.0%以下である。有機無機複合組成物の全光線透過率およびヘーズは、トリアジン環含有高分子、無機微粒子、および表面処理剤の屈折率および混合比を選択することで調整することができる。有機無機複合組成物の全光線透過率およびヘーズは、実施例に記載の手法により測定された値である。
【0104】
<成形品、光学部品>
本発明の一実施形態は、上記の有機無機複合組成物を含む、成形品に関する。本発明の別の実施形態は、上記の有機無機複合組成物を含む、光学部品に関する。成形品の形状は、特に制限されず、例えば、レンズ状(球面レンズ、非球面レンズ、フレネルレンズ等)、フィルム状、シート状、板状、棒状、繊維状、プリズム状など任意の形態であってよい。成形品の製造に際しては、例えば、射出成形法、圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、塗布法(スピンコーティング法、ロールコーティング法、カーテンコーティング法、ディップコーティング法、キャスティング成形法等)などの公知の成形方法を利用できるが、本発明に係る組成物は、射出成形に特に適している。成形前に、ヘンシェルミキサー、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機などの混練機を用いて原料を混合してもよい。射出成形により成形を行う場合は、例えば、シリンダー温度が150℃以上300℃以下、金型温度が50℃以上100℃以下である。
【0105】
上記の光学部品は、ディスプレイ(例えば、スマートフォン用ディスプレイ、液晶ディスプレイおよびプラズマディスプレイ等)、撮影装置(例えば、カメラおよびビデオ等)、光ピックアップ、プロジェクタ、光ファイバー通信装置(例えば、光増幅器等)、自動車用ヘッドランプなどにおける、光を透過する光学部品(パッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かようなパッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、フィルム、光導波路、プリズム、プリズムシート、パネル、光ディスク、LEDの封止材等を挙げることができる。かような光学部品は、必要に応じて、反射防止層、光線吸収層、ハードコート層、アンチグレア層等の各種の機能層を有していてもよい。
【実施例
【0106】
以下、実施例により詳細に本発明を説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」はすべて「重量部」を意味する。
【0107】
<評価方法>
(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw))
高分子濃度が0.1重量%となるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターでろ過したものを測定試料とした。数平均分子量および重量平均分子量の測定は、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により行った。分子量の標準物質としては、単分散ポリスチレンを使用した。
【0108】
(ガラス転移温度(Tg))
示差走査熱量計(DSC)を用いて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温して10分間保持したサンプルを、降温速度10℃/分で25℃まで冷却して10分間保持した後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温して測定を行った。測定終了後は10℃/分で室温(25℃)まで冷却した。
【0109】
(屈折率の測定)
組成物の屈折率は以下の手法によって測定した。組成物にDMAcを加え、固形分濃度を10重量%にしたゾルをポリイミドフィルムにキャストした。その後、キャスト膜をホットプレート上で80℃で8時間乾燥させた後、真空下で80℃で24時間乾燥させてフィルム(膜厚200μm±10μm)を作製した。得られた透明フィルムをプリズムカプラ(Model2010、メトリコン社製)で波長473nm、594nm、657nmでの屈折率を測定した。測定した値からd線(587.6nm)での屈折率を計算により算出した。高分子の屈折率および表面処理剤の屈折率についても、組成物の場合に準じて測定および算出した。
【0110】
(全光線透過率およびヘーズの測定)
全光線透過率およびヘーズは、上記の屈折率の測定と同様の手法で作製したフィルムを用いて、スガ試験機株式会社製Haze Meter NDH5000を用いて測定した。
【0111】
(アイゾット衝撃強度の測定)
ASTM D256(ノッチ有り)に準拠し、V字型ノッチの有する試験片を垂直に固定し、ノッチと同じ側からハンマーによって打撃して破壊した。ハンマーの持上げ角度と打撃した後の振上がり角度から破壊エネルギーを求め試験片の幅で割りアイゾット衝撃強度(J/m)を算出した。
【0112】
<各成分の合成>
(合成例1 酸化ジルコニウム微粒子(Dn50=3nm)/ベンゾグアナミン/ジメチルアセトアミド分散液の調製)
撹拌機および温度計を装備したセパラブルフラスコに、酸化ジルコニウム/メタノール/酢酸分散液(堺化学工業株式会社製、SZR-M、一次粒子の個数基準のメジアン径(Dn50)3nm、酸化ジルコニウムの屈折率:2.1、固形分(酸化ジルコニウムとして)30重量%)100.00重量部と、表面処理剤としてベンゾグアナミン(屈折率1.700)4.00重量部とを加え、35℃で1時間撹拌した。その後、分散液をエバポレーターにより固形分が90重量%になるまで濃縮し、メタノールと酢酸とを留去して白色の粉末を得た。さらに、得られた粉末をヘキサンで洗浄し、ろ過することにより過剰の酢酸およびベンゾグアナミンを除去した白色の粉末を得た。得られた粉末をジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させ、酸化ジルコニウム微粒子/ベンゾグアナミンとの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を作製した。
【0113】
(合成例2 酸化ジルコニウム微粒子(Dn50=3nm)/6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール/ジメチルアセトアミド分散液の調製)
撹拌機および温度計を装備したセパラブルフラスコに、酸化ジルコニウム/メタノール/酢酸分散液(堺化学工業株式会社製、SZR-M、一次粒子の個数基準のメジアン径(Dn50)3nm、酸化ジルコニウムの屈折率:2.1、固形分(酸化ジルコニウムとして)30重量%)100.00重量部と、表面処理剤として6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール(DBA-triazine-dithiol、DBAトリアジンジチオール)(屈折率1.622)4.00重量部とを加え、35℃で1時間撹拌した。その後、分散液をエバポレーターにより固形分が90重量%になるまで濃縮し、メタノールと酢酸とを留去して白色の粉末を得た。さらに、得られた粉末をヘキサンで洗浄し、ろ過することにより過剰の酢酸および6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールを除去した白色の粉末を得た。得られた粉末をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させ、酸化ジルコニウム微粒子/6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールとの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を作製した。
【0114】
(合成例3 トリアジン環含有高分子[1]の合成)
100mLのフラスコに、2-アニリノ-1,3,5-トリアジン-4,6-ジチオール(三協化成株式会社製ジスネットAF)2.00g(8.46mmol)を入れ、純水を14mL添加後、10MのNaOH水溶液1.69mLを添加し70℃に加熱した。α,α’-ジブロモ-p-キシレン2.23g(8.46mmol)をニトロベンゼン15mLに溶解後、前記水溶液に添加した。臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム123mgを添加し、70℃で24時間激しく撹拌した。反応液をメタノール中に滴下し、沈殿させることで白色のトリアジン環含有高分子[1]を得た。得られたトリアジン環含有高分子[1]は数平均分子量:60000、重量平均分子量:125000、Tg:125℃、屈折率(nd、587.6nm):1.729であった。
【0115】
【化10】
【0116】
(合成例4 酸化ジルコニウム微粒子(Dn50=3nm)/N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン/ジメチルアセトアミド分散液の調製)
撹拌機および温度計を装備したセパラブルフラスコに、酸化ジルコニウム/メタノール/酢酸分散液(堺化学工業株式会社製、SZR-M、一次粒子の個数基準のメジアン径(Dn50)3nm、酸化ジルコニウムの屈折率:2.1、固形分(酸化ジルコニウムとして)30重量%)100.00重量部と、表面処理剤としてシランカップリング剤であるN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM-603)(屈折率1.441)4.00重量部とを加え、35℃で1時間撹拌した。その後、分散液をエバポレーターにより固形分が90重量%になるまで濃縮し、メタノールと酢酸とを留去して白色の粉末を得た。さらに、得られた粉末をヘキサンで洗浄し、ろ過することにより過剰の酢酸およびN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを除去した白色の粉末を得た。得られた粉末をN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)に分散させ、酸化ジルコニウム微粒子/N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランとの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を作製した。
【0117】
<実施例1>
合成例3で得たトリアジン環含有高分子[1]1.0重量部をDMAc9.0重量部に溶解させ、そこに合成例1で製造した酸化ジルコニウム微粒子/ベンゾグアナミンの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を3.0重量部加え、室温(25℃)で1時間撹拌し有機無機複合組成物のゾルを得た。ゾルのキャスト膜を乾燥させて得られたフィルムの屈折率ndは1.756であり、全光線透過率は85%であり、ヘーズ2.8%、アイゾッド衝撃強度33J/mであった。
【0118】
<実施例2>
合成例3で得たトリアジン環含有高分子[1]1.0重量部をDMAc9.0重量部に溶解させ、そこに合成例2で製造した酸化ジルコニウム微粒子/6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール(DBAトリアジンジチオール)の合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を3.0重量部加え、室温(25℃)で1時間撹拌し有機無機複合組成物のゾルを得た。ゾルのキャスト膜を乾燥させて得られたフィルムの屈折率ndは1.757であり、全光線透過率は86%であり、ヘーズは2.5%であり、アイゾッド衝撃強度は32J/mであった。
【0119】
<比較例1>
特許第6020468号で提案されている下記のHB-TmD-OH高分子1.0重量部をDMAc9.0重量部に溶解させ、そこに合成例4で製造した酸化ジルコニウム微粒子/N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を3.0重量部加え、室温で1時間撹拌し有機無機複合組成物のゾルを得た。フィルムを得るため、ポリイミドフィルム上にキャスト膜を作製したが、溶媒が揮発する過程で、濁りが生じ、得られたフィルムは白濁状態となって、光学特性測定ができなかった。またアイゾッド衝撃強度は5J/m以下であった。なお、下記HB-TmD-OH高分子は、特許第6020468号に記載の方法で合成した。得られた高分子の数平均分子量Mnは30000であった。また、得られた高分子はDSC測定でガラス転移温度が測定できなかった。
【0120】
【化11】
【0121】
<比較例2>
合成例3で得たトリアジン環含有高分子[1]1.0重量部をDMAc9.0重量部に溶解させ、そこに合成例4で製造した酸化ジルコニウム微粒子/N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランの合計量(固形分)が30重量%であるDMAc分散液を3.0重量部加え、室温で1時間撹拌し有機無機複合組成物のゾルを得た。ゾルのキャスト膜を乾燥させて得られたフィルムの屈折率ndは1.695であり、全光線透過率は69%であり、ヘーズは20.1%であり、アイゾッド衝撃強度は10J/m以下であった。
【0122】
【表1】
【0123】
上記のように、本発明に係る有機無機複合組成物は、屈折率が高く、透明性に優れ、成形品は高い強度を有する。そのため、スマートフォン用レンズ等の用途に特に適している。