(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ゲル状組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20221212BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K5/00
(21)【出願番号】P 2018180292
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北野 結花
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/066193(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)化学修飾セルロース繊維と、(B)保湿剤と、(C)水とを含み、
前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、
前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である、ゲル状組成物。
【化1】
ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【請求項2】
前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は3nm~5000nmである、請求項1に記載のゲル状組成物。
【請求項3】
前記(B)保湿剤は、炭素数10以上の飽和炭化水素、炭素数10以上の不飽和炭化水素、炭素数6~50の飽和炭化水素を有する化合物、炭素数6~50の不飽和炭化水素を有する化合物、および、アリール基を有する炭素数6~50の化合物からなる群から選択される1種以上である、請求項1または2に記載のゲル状組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を化学修飾することにより、セルロース繊維の水等への分散が容易となる。このような化学修飾セルロース繊維は、水等に分散させると、高いチキソ性および粘性等の特徴的な機能を発現させるため、様々な用途に応用可能である。
【0003】
セルロースを化学修飾したものとして、硫酸エステル化セルロースが挙げられる。たとえば、特許文献1では、無水硫酸を硫酸エステル化試薬として用いて、セルロースを硫酸エステル化した粒子状の硫酸エステル化セルロースが開示されている。また、特許文献2では、硫酸水溶液を硫酸エステル化試薬として用いて、重合度が60以下のセルロースII型結晶構造を有する硫酸エステル化セルロースを製造する技術が開示されている。
【0004】
ここで、特許文献3には、TEMPO酸化セルロースを用いた、保湿剤を含有可能なゲル状組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-92034号公報
【文献】特表2012-526156号公報
【文献】特開2010-37348号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cellulose (2017) 24: 1295-1305 “Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複雑な反応工程を用いる特許文献3の技術では、反応時のpHの微調整等が必要であり、製造工程が複雑化するという問題があった。また、無水硫酸および高濃度硫酸水溶液をそれぞれ用いる特許文献1および特許文献2の技術では、セルロースにおけるグルコースの重合度が低くなる傾向がある。このような重合度が低いセルロース繊維を用いると、ゲル状組成物中で成分が分離しやすいという問題があった。
【0008】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、成分の分散安定性が高く、かつ保湿性が優れたゲル状組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係るゲル状組成物は、(A)化学修飾セルロース繊維と、(B)保湿剤と、(C)水とを含み、前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成分の分散安定性が高く、かつ保湿性が優れたゲル状組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0012】
(1)本発明の実施の形態に係るゲル状組成物は、(A)化学修飾セルロース繊維と、(B)保湿剤と、(C)水とを含み、前記(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有し、セルロースの一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換され、前記(A)化学修飾セルロース繊維1gあたり0.01mmol~3.0mmolの前記置換基を有し、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は、100~3000である。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【化2】
【0013】
このような構成により、成分の分散安定性が高く、かつ保湿性が優れたゲル状組成物を得ることができる。
【0014】
(2)好ましくは、前記(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は3nm~5000nmである。
【0015】
このような構成により、成分の分散安定性がより高いゲル状組成物を得ることができる。
【0016】
(3)好ましくは、前記(B)保湿剤は、炭素数10以上の飽和炭化水素、炭素数10以上の不飽和炭化水素、炭素数6~50の飽和炭化水素を有する化合物、炭素数6~50の不飽和炭化水素を有する化合物、および、アリール基を有する炭素数6~50の化合物からなる群から選択される1種以上である。
【0017】
このような構成により、保湿性がより優れたゲル状組成物を得ることができる。
【0018】
以下に、本願発明の実施形態に係る背景および従来技術と比較した効果等についてさらに詳細に説明する。
【0019】
従来のセルロース繊維への硫酸基(たとえば一般式(1)に示す官能基)の導入方法においては、酸性度の高い無水硫酸等を硫酸化試薬として用いていた。しかし、この方法では、セルロースの重合度の低下や製造面での危険性が懸念される。
【0020】
一方、セルロース繊維の他の化学修飾方法としては、TEMPO触媒を使用し繊維表面にカルボキシ基を導入する方法(例えば特許文献3)や、繊維表面にリン酸基を導入する方法(例えば非特許文献1)などが知られている。
【0021】
しかし、特許文献3に記載の方法では用いる触媒が高価であり、さらに反応工程も複雑である。また、非特許文献1に記載の方法では、165℃という高温で、かつ数秒~600秒の短時間で処理する必要があるため、反応条件の制御が困難であり、目的とする物性のセルロース繊維が得られにくいといった問題がある。
【0022】
それに対して、本発明の実施形態に係る化学修飾セルロース繊維の調製方法では、安価なスルファミン酸を用いており、反応条件も温和であるために危険性も低く、かつ物性の制御も容易である。さらに、温和な反応条件によって重合度の低下も抑制できるため、高重合度のセルロース繊維を得ることができる。また、導入される官能基は硫酸エステルであるため、他の手法で導入されるカルボキシ基やリン酸基に比べて酸解離定数が小さく、水中においてpH、ならびにイオン性物質の影響を受けにくいために安定性が高いといった特徴もある。
【0023】
以下、本発明の実施形態についてより具体的に説明する。
【0024】
[(A)化学修飾セルロース繊維]
(セルロースI型結晶化度)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有する。具体的には、たとえば、(A)化学修飾セルロース繊維のセルロースI型結晶化度は50%以上であることが好ましい。セルロースI型結晶化度が50%以上であることにより、ゲル状組成物の分散安定性、具体的には、たとえば、ゲル状組成物中の(A)化学修飾セルロース繊維自体の分散安定性、およびゲル状組成物の保湿性を向上させることができる。セルロースI型結晶化度は、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。セルロースI型結晶化度の上限は特に限定されないが、硫酸エステル化の際に反応効率を向上させる観点から、セルロースI型結晶化度は、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
本開示において、セルロースI型結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したセルロースI型結晶化度であり、下記式(2)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 …(2)
式(2)において、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。
【0026】
(置換基)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、たとえば後述のようにスルファミン酸を用いて、セルロース繊維を硫酸エステル化したものある。具体的には、(A)化学修飾セルロース繊維は、セルロースの有する一部の水酸基が下記の一般式(1)で表される置換基によって置換されている。言い換えれば、(A)化学修飾セルロース繊維は、たとえばセルロースが有する水酸基の酸素原子に水素原子に代わって-SO3
-Mが結合した構造を有している。すわなち、(A)化学修飾セルロース繊維には、硫酸基が導入されている。ただし、一般式(1)において、Mは1~3価の陽イオンを表す。
【0027】
【0028】
一般式(1)においてMで表される1~3価の陽イオンとしては、たとえば、水素イオン、金属イオン、アンモニウムイオンが挙げられる。なお、当該Mが2価または3価の陽イオンである場合、当該陽イオンは、たとえば、2つまたは3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。
【0029】
金属イオンとしては、たとえば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。遷移金属としては、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、銀が挙げられる。その他の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどが挙げられる。
【0030】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンが挙げられる。具体的には、アンモニウムイオンとしては、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)においてMで表される陽イオンとしては、特に限定されないが、ゲル状組成物の分散安定性、および保湿性を向上させる観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等の金属イオン、または第四級アンモニウムカチオンが好ましい。当該陽イオンは、いずれか1種でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
(置換基の量)
(A)化学修飾セルロース繊維1gあたりが有する一般式(1)の置換基の量(以下、「導入量」とも称する。)は、0.01mmol~3.0mmolであることが好ましい。導入量が3.0mmol/g以下であることにより、セルロース結晶構造を維持することができるため、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させることができる。導入量は、2.8mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましい。また、セルロース繊維の表面を全体的に置換基で覆うと、セルロース繊維の水中での分散性が向上し、これにより保湿性も向上させることができるため、導入量は、0.01mmol以上/gであることが好ましく、0.05mmol/g以上であることがより好ましく、0.1mmol/g以上であることがさらに好ましい。
【0033】
本開示において、置換基の導入量は、電位差測定により算出される値である。たとえば、原料の未反応物や、それらの加水分解物等の副生成物を洗浄により除去した後、電位差測定の分析を行って算出することができる。具体的には後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
(平均重合度)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度(すなわちグルコースユニットの繰り返し数の平均値)は、100以上である。平均重合度が100以上であることにより、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させることができる。平均重合度は、好ましくは200以上であり、より好ましくは300以上であり、より好ましくは400以上である。なお、(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度が高いほど、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長が大きくなる傾向がある。
【0035】
平均重合度の上限は特に限定されないが、平均重合度は、3000以下であることが好ましく、2500以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本開示において、平均重合度は、粘度法により測定される値である。具体的には、平均重合度は、JIS-P8215に準じて測定された極限粘度数[η]を用いて、下記式(3)により得られる。
平均重合度=(1/Km)×[η] …(3)
ただし、式(3)において、Kmは係数であり、セルロース固有の値である(1/Km=156)。
【0037】
(平均繊維長)
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また。上限は特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下でもよく、200μm以下でもよい。
【0038】
なお、本開示において、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維長は、50本のセルロース繊維について顕微鏡観察により測定される各繊維長の平均値である。
【0039】
(平均繊維幅)
(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、平均繊維幅は、ゲル状組成物の透明性を向上させる観点から、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μmであることがより好ましく、0.3μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
なお、本開示において、(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅は、50本のセルロース繊維について顕微鏡観察により測定される各繊維幅の平均値である。
【0041】
[(A)化学修飾セルロース繊維の製造方法]
本実施形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、セルロース原料とスルファミン酸とを反応させて、セルロース繊維を硫酸エステル化する工程(化学修飾工程)を含む。
【0042】
(セルロース原料)
化学修飾工程で用いるセルロース原料の具体例としては、植物(たとえば木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(たとえばホヤ類)、藻類、微生物(たとえば酢酸菌)、微生物産生物等を起源とするものが挙げられる。セルロース原料としては、植物由来のパルプが好ましい原材料として挙げられる。
【0043】
植物由来のパルプとしては、たとえば、木材チップ等を原料として得られるケミカルパルプ(クラフトパルプ(KP)、亜硫酸パルプ(SP))、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドパルプ(CGP)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)が好ましいものとして挙げられる。
【0044】
また、セルロース原料として、本実施形態の目的を阻害しない範囲内で化学修飾された化学変性パルプを使用してもよい。具体的には、たとえば、使用するセルロース原料は、セルロース繊維表面に存在する一部の水酸基が、酢酸、硝酸エステル等のオキソ酸によりエステル化されたものであってもよいし、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のようにエーテル化されたものであってもよい。また、使用するセルロース原料は、TEMPO酸化処理されたものであってもよい。
【0045】
セルロース原料としては、セルロースI型結晶を有し、セルロースI型結晶化度が50%以上であるものを用いることが好ましい。セルロース原料のセルロースI型結晶化度の値は、より好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。セルロース原料のセルロースI型結晶化度の上限は、特に限定されないが、たとえば98%以下でもよく、95%以下でもよく、90%以下でもよい。
【0046】
セルロース原料の形状は、特に限定されないが、取扱性を高める観点から繊維状、シート状、綿状、粉末状、チップ状、フレーク状が望ましい。
【0047】
(前処理工程)
嵩密度が高いセルロース原料を用いる場合は、化学修飾工程に先立って前処理を行うことにより、嵩密度を低下させてもよい。このような前処理を行うことにより、化学修飾工程において、より効率的に硫酸エステル化を行うことができる。
【0048】
前処理方法としては、特に限定されないが、たとえば機械処理を行うことにより、セルロース原料を適度な嵩密度にすることができる。使用する機械の種類や処理条件については特に限定されないが、使用する機械としては、たとえば、シュレッダー、ボールミル、振動ミル、石臼、グラインダー、ブレンダー、高速回転ミキサー等が挙げられる。嵩密度は、特に限定されないが、たとえば、0.1~5.0kg/m3であることが好ましく、0.1~3.0kg/m3であることがより好ましく、0.1~1.0kg/m3であることがさらに好ましい。
【0049】
(化学修飾工程)
化学修飾工程においては、セルロース原料をスルファミン酸で処理することにより、当該セルロース原料に含まれるセルロース繊維を硫酸エステル化する。具体的には、たとえば、スルファミン酸を含む薬液にセルロース原料を浸漬してセルロース繊維とスルファミン酸とを反応させることにより、セルロース繊維を硫酸エステル化することができる。
【0050】
硫酸エステル化反応を行う薬液は、たとえばスルファミン酸と溶媒とを含む。当該溶媒としては、特に限定されないが、水のほか、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール等の炭素数1~12の直鎖あるいは分岐のアルコール; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の炭素数3~6のケトン; 直鎖または分岐状の炭素数1~6の飽和炭化水素または不飽和炭化水素; ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素; 塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素; 炭素数2~5の低級アルキルエーテル; ジオキサン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジン等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
ここで、溶媒として極性有機溶媒を用いると、セルロース原料の膨潤が促進されて硫酸エステル化の反応速度を高めることができ、また、局所的な反応進行を抑制し繊維表面に均一に硫酸基を導入することができるため、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させることができる。極性有機溶媒としては、たとえば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジオキサン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ピリジン等を上げることができる。
【0052】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、セルロース原料の乾燥質量に対して10~10000質量%であることが好ましく、20~5000質量%であることがより好ましく、50~2000質量%であることがさらに好ましい。
【0053】
上記薬液は、さらに触媒を含んでもよい。触媒としては、尿素,アミド類,三級アミン類等が挙げられるが、安価で取扱いが簡便という観点から尿素を用いることが好ましい。触媒の使用量は、特に限定されないが、たとえば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり0.001~5モルが好ましく、0.005~2.5モルがより好ましく、0.01~2.0モルがさらに好ましい。触媒は、高濃度のものをそのまま用いてもよく、溶媒で希釈して用いてもよい。塩基性触媒の添加方法は、一括添加、分割添加、連続的添加、またはこれらの組合せで行うことができる。
【0054】
セルロース繊維を硫酸エステル化する際の薬液の温度は、0~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましく、20~70℃がさらに好ましい。薬液の温度が高すぎるとセルロース分子内のグリコシド結合が切断してしまうことにより(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度が低下してしまう。一方、薬液の温度が低すぎると、反応に時間を要してしまう。硫酸エステル化に要する時間は、通常30分~5時間程度である。
【0055】
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸は、たとえば、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり、0.01~50モル使用することが好ましく、0.1~30モル使用することがより好ましい。
【0056】
着色の少ない製品を得るために、硫酸エステル化反応の際に、窒素ガス、ネオンガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスや炭酸ガスを導入してもよい。これらの不活性ガス等の導入方法としては、不活性ガス等を反応槽に吹き込みながら反応を行う方法、反応前に反応槽内を不活性ガス等で置換した後、反応槽を密閉して反応を行う方法、およびその他の方法のいずれでもよい。
【0057】
スルファミン酸は、無水硫酸や硫酸水溶液等に比べて、酸解離定数(pKa)が大きく反応溶液中に存在する水素イオンが少ないため、セルロース中のグリコシド結合を切断することなくグルコースの重合状態を維持することが可能である。つまり、スルファミン酸を用いてセルロース繊維を硫酸エステル化することにより、平均重合度が高いままの(A)化学修飾セルロース繊維を得ることができる。
【0058】
また、スルファミン酸は、
強酸性かつ高腐食性のある無水硫酸や硫酸水溶液等と異なり、取り扱いに関して制限がなく、また、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないことからも分かるように、環境に対する負荷が小さい。すなわち、スルファミン酸を用いてセルロース繊維を硫酸エステル化することにより、各種の管理コストを含む製造コストを抑制することができる。
【0059】
なお、化学修飾工程の後、必要に応じて別の化学修飾工程を設けてもよい。当該別の化学修飾工程としては、たとえば、硫酸エステル化されなかったセルロース繊維表面に存在する一部の水酸基を、酢酸、硝酸等のオキソ酸によりエステル化する工程であってもよいし、当該一部の水酸基をメチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のようにエーテル化する工程であってもよいし、セルロース繊維をTEMPO酸化処理する工程であってもよい。
【0060】
(中和工程)
たとえば、化学修飾工程の後、ろ過等により、化学修飾セルロース繊維を溶媒から分離し、得られた膨潤状態の化学修飾セルロース繊維を水に分散させる。そして、セルロース繊維の分散液に塩基性化合物を添加することにより、当該分散液を中和する。これにより、化学修飾セルロース繊維の有する-OSO3
-と塩基性化合物に由来する陽イオンとがイオン結合を形成する。
【0061】
このように分散液に塩基性化合物を添加してpH値を中性あるいはアルカリ性に調整することにより、化学修飾セルロース繊維自体の保存安定性を向上させることができる。具体的には、中和工程を行うことにより、(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度を高いまま維持することができる。
【0062】
中和に用いる塩基性化合物としては、特に限定されないが、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、その他の無機塩、アミン類等が挙げられる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、塩基性乳酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、アンモニア,メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミンが挙げられる。なお、中和には、一種類の塩基性化合物を単独で用いてもよいし、二種類以上の塩基性化合を併用してもよい。
【0063】
(洗浄工程)
たとえば、硫酸エステル化試薬残渣、残留触媒、溶媒などの除去の目的、あるいは反応停止の目的で、化学修飾セルロース繊維を洗浄する工程を設けてもよい。洗浄工程においては、化学修飾セルロース繊維を、水を用いて洗浄することが好ましい。
【0064】
洗浄方法は、特に限定されないが、化学修飾セルロース繊維を分散媒である水からろ過等により分離し、得られた膨潤状態の化学修飾セルロース繊維を、別途用意した水に再度分散させる。このような工程を1回または複数回行うことにより、化学修飾セルロース繊維を洗浄することができる。なお、化学修飾セルロース繊維は、遠心沈降法、プレス処理等により分散媒から分離させてもよい。なお、ここでは、一例として化学修飾セルロース繊維を水で洗浄する方法について説明したが、有機溶媒等の他の液体で洗浄しても良い。
【0065】
(微細化処理工程)
セルロース原料は、セルロース繊維の繊維長が比較的小さい場合、化学修飾工程等を経ることにより、機械的な解繊処理を行わなくてもある程度解繊する。一方、セルロース原料は、セルロース繊維の繊維長が比較的大きい場合には、化学修飾工程等を経るだけではほとんど解繊しない。このような場合、たとえば、中和工程および洗浄工程を経たセルロース原料を脱水して水の量を調整した後、機械的な解繊処理(微細化処理工程)を行うことにより、解繊した化学修飾セルロース繊維を得ることができる。なお、本実施の形態に係る(A)化学修飾セルロース繊維は、微細化処理工程を経たものであってもよいし、経ていないものであってもよい。
【0066】
微細化処理工程に用いる装置としては、たとえば、マイクロフルイタイザー、リファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル(具体的には、ロッキングミル、ボールミル、ビーズミル等)、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー、パルパー、カッターミル、ディスクリファイナー等が挙げられる。
【0067】
本実施の形態に係るゲル状組成物における(A)化学修飾セルロース繊維の含有率は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、0.01~3%が好ましく、0.05~1%がより好ましく、0.08~0.5%がさらに好ましい。
【0068】
[(B)保湿剤]
本実施の形態に係る(B)保湿剤としては、塗布面からの水分の蒸発を抑えることが可能な液体(すなわち保湿性のある液体)であれば特に限定されないが、たとえば、炭化水素、脂肪酸、アルコール、エステル、シリコーン油等を挙げることができる。
【0069】
具体的には、(B)保湿剤は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、炭素数10以上の飽和炭化水素、炭素数10以上の不飽和炭化水素、炭素数6~50の飽和炭化水素を有する化合物(l)、炭素数6~50の不飽和炭化水素を有する化合物(m)、およびアリール基を有する炭素数6~50の化合物(n)からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0070】
炭素数10以上の飽和炭化水素としては、流動パラフィン、スクワラン等を挙げることができる。また、炭素数10以上の不飽和炭化水素としては、スクワレン等を挙げることができる。
【0071】
炭素数6~50の飽和炭化水素を有する化合物(l)あるいは炭素数6~50の不飽和炭化水素を有する化合物(m)としては、高級アルコール、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0072】
高級アルコールとしては、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール等を挙げることができる。
【0073】
高級脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸等を挙げることができる。また、高級脂肪酸としては、ココナッツ油、ヤシ油、パーム油等に由来する脂肪酸を挙げることができる。
【0074】
このうち、ゲル状組成物の保湿性を向上させる観点から、流動パラフィン、スクワランが好ましい。
【0075】
アリール基を有する炭素数6~50の化合物(n)としては、たとえば、パラベン類、フェノキシエタノール、リモネン、安息香酸等を挙げることができる。
【0076】
また、上記の飽和炭化水素を有する化合物(l)が有する当該飽和炭化水素の炭素数は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、6~40であることがより好ましい。
【0077】
また、上記の不飽和炭化水素を有する化合物(m)が有する当該不飽和炭化水素の炭素数は、ゲル状組成物の分散安定性および保湿性を向上させる観点から、6~40であることがより好ましい。
【0078】
上記のアリール基を有する化合物(n)の炭素数は、成分の分散安定性および保湿性等のゲル状組成物の特性を向上させる観点から、6~40であることがより好ましい。
【0079】
(B)保湿剤としては、1種類の化合物を用いてもよいし、2種以上の化合物を用いてもよい。
【0080】
本実施の形態に係るゲル状組成物における(B)保湿剤の含有率は、ゲル状組成物の分散安定性を好適にする観点から、0.1~40質量%であることが好ましく、0.5~30質量%であることがより好ましく、0.5~25質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
[(C)水]
本実施の形態に係る(C)水としては、イオン交換水、蒸留水等を用いることができる。また、本実施の形態に係るゲル状組成物における(C)水の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0082】
本実施の形態に係るゲル状組成物は、無機塩類、界面活性剤等の機能性添加剤との配合性にも富んでいることから、化粧品基材や、芳香剤等のトイレタリー用品ゲル基材として広く好適に利用することができる。本実施の形態に係るゲル状組成物は、エタノール、香料、防腐剤等、(A)化学修飾セルロース繊維および(B)保湿剤以外の成分を含んでもよい。また、本実施の形態に係るゲル状組成物は、保湿性をさらに高める成分として、ポリエチレングリコール、1,3‐ブチレングリコール、1,2‐ペンタンジオール、イソプレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、およびジグリセリン等の多価アルコールを含んでもよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
[(A)化学修飾セルロース繊維の調製]
まず、実施例に用いる各(A)化学修飾セルロース繊維を下記の製造例1~3に従って調製する。
【0085】
(製造例1)
セパラブルフラスコにスルファミン酸52.8g、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)620gを投入し、30分間攪拌を行った。その後、室温下、セルロース原料として針葉樹クラフトパルプ(結晶化度85%)20.0gを投入した。ここで、硫酸エステル化試薬であるスルファミン酸の使用量は、セルロース分子中のアンヒドログルコース単位1モル当たり4.4モルとした。55℃で4時間反応させた後、室温まで冷却した。次に繊維を取り出し水で洗浄した後、中和剤として2N水酸化ナトリウム水溶液に投入してpHを7.6にし、脱水を行った後、固形分濃度が1.0%になるように水で希釈した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、化学修飾セルロース繊維A1(表中では「A1」と表記する)の水分散体を得た。
【0086】
(製造例2)
スルファミン酸の仕込量を26.4gとしたこと以外は、製造例1と同様の手順により、化学修飾セルロース繊維A2(表中では「A2」と表記する)の水分散体を得た。
【0087】
(製造例3)
微細化処理工程を行わないこと以外は、製造例2と同様の手順により、固形分濃度が1.0%の水分散体を得た。この水分散体150gをセパラブルフラスコに移し、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え攪拌した。pHが10-11となるよう0.5N水酸化ナトリウム水溶液を適量投入しながら、13%次亜塩素酸ナトリウム6.6gを滴下した。45分間酸化反応させ、pHに変化が見られなくなったことを確認した後、0.1N塩酸を加えてpH=7.0とした。脱水を行った後、固形分濃度が1.0%になるように水で希釈した。その後、微細化処理工程としてマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことで、化学修飾セルロース繊維A3(表中では「A3」と表記する)の水分散体を得た。
【0088】
製造例1~3により得られた各(A)化学修飾セルロース繊維について、
(1)(A)化学修飾セルロース繊維1gが有する硫酸基量、
(2)(A)化学修飾セルロース繊維1gが有するカルボキシ基量、
(3)平均重合度、
(4)平均繊維幅、および
(5)結晶化度を測定した。
測定結果を表1に示す。各測定の詳細については、以下に示す。
【0089】
(1)硫酸基量(mmol/g)
硫酸基量は電位差測定により算出した。詳細には、乾燥重量を精秤した硫酸エステル化セルロース繊維試料から固形分率0.5質量%に調製した硫酸エステル化セルロース繊維の水分散体を60ml調製し、0.1N塩酸水溶液によってpHを約1.5とした後、ろ過、水洗浄し、繊維を再び固形分率0.5質量%となるよう水に再分散させ、0.1N水酸化カリウム水溶液を滴下して電位差滴定を行った。0.1N水酸化カリウムの滴下量から硫酸基量を算出した。
【0090】
(2)カルボキシ基量(mmol/g)
カルボキシ基量は電位差測定により算出した。詳細は(1)硫酸基量の測定と同様の手法で行った。カルボキシ基量の算出は、TEMPO酸化を行った試料の0.1N水酸化カリウムの滴下量と、TEMPO酸化を行う前の試料(硫酸エステル化後)の0.1N水酸化カリウムの滴下量の差分で算出した。
【0091】
(3)平均重合度
(A)化学修飾セルロース繊維の平均重合度は粘度法により算出した。詳細には、JIS-P8215に準じて極限粘度数[η]を測定し、下記式(3)より平均重合度(DP)を求めた。ただし、式(3)において、Kmは係数であり、セルロース固有の値である(1/Km=156)。
DP=(1/Km)×[η] …(3)
【0092】
(4)平均繊維幅(nm)
(A)化学修飾セルロース繊維の平均繊維幅の測定は、電子顕微鏡(TEM)で行った。詳細には、親水化処理済みのカーボン膜被覆をグリット状にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:1000~10000倍)で観察した繊維50本の繊維幅の各平均値を算出し、平均繊維幅とした。
【0093】
(5)結晶化度(セルロースI型結晶化度)(%)
(A)化学修飾セルロース繊維のX線回折強度をX線回折法にて測定し、その測定結果からSegal法を用いて下記式(2)により算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100 …(2)
式(2)において、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。また、サンプルのX線回折強度の測定は、株式会社リガク製の「RINT2200」を用いて以下の条件にて実施した。
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40Kv
管電流:30mA
測定範囲:回折角2θ=5~35°
X線のスキャンスピード:10°/min
なお、上記のセルロース原料の結晶化度についても同様に測定した。
【0094】
【0095】
(組成物の調製)
製造例1~3により得られた(A)化学修飾セルロース繊維の水分散体等を用いて、ゲル状組成物を調製した。具体的には、表2に示す配合割合となるように、(A)化学修飾セルロース繊維の水分散体またはセルロースナノクリスタル(CNC)の水分散体と、(B)保湿剤と、(C)水とを混合し、ホモミキサーを用いて3000rpmで5分間分散処理を行うことにより、表2の各実施例および各比較例に係るゲル状組成物を調製した。なお、CNCは、(A)化学修飾セルロース繊維の比較用材料である。
【0096】
表2の各比較例で使用したCNCについては、次の手順で調製した。すなわち、セパラブルフラスコに64%硫酸100mL、針葉樹クラフトパルプ2gを投入し、50℃で1時間加熱した。十分に冷却した後、別の水1000mLの入ったセパラブルフラスコに反応液を少量ずつ投入した。遠心分離した後、1N水酸化ナトリウムで中和し、脱水した。粗大繊維を金属メッシュでろ過により取り除くことでセルロースナノクリスタルを得た。当該CNCのセルロースの平均重合度は90であり、平均繊維幅は40nmであった。当該平均重合度および当該平均繊維幅は、(A)化学修飾セルロース繊維と同様に測定した。
【0097】
表2は、ゲル状組成物における各含有成分の比率およびゲル状組成物の評価結果も示す。具体的には、表2は、当該比率として、ゲル状組成物における(A)化学修飾セルロース繊維またはCNCの固形分量、およびゲル状組成物における(B)保湿剤の含有量を示す。また、表2は、当該評価結果として、ゲル状組成物の粘度、ゲル状組成物の分散安定性、ゲル状組成物の塩添加後の分散安定性、ゲル状組成物の界面活性剤添加後の分散安定性、およびゲル状組成物の保湿性の評価結果を示す。
【0098】
(評価)
[粘度]
各実施例および各比較例に係るゲル状組成物を25℃環境下で24時間静置した後、BH型粘度計を用いて回転数6.0rpm、25℃、3分の条件で測定した。
【0099】
[分散安定性]
各実施例および各比較例に係るゲル状組成物を、直径3cm×高さ30cmの試験管に、液面が25cmの高さになるように投入し、25℃環境下で3日間静置した。その後、分離層の体積%を測定することにより、ゲル状組成物の分散安定性を評価した。評価基準を下記に示す。
++:分離層が10体積%未満
+:分離層が10体積%以上20体積%未満
-:分離層が20体積%以上
【0100】
[分散安定性(塩添加)]
各実施例および各比較例に係るゲル状組成物に、塩化ナトリウムを0.1質量%となるように添加し、ホモミキサーで4000rpm、5分間攪拌して試料を得た。得られた試料を直径3cm×高さ30cmの試験管に、液面が25cmの高さになるように投入し、25℃環境下で3日間静置した。その後、分離層の体積%を測定することにより、塩添加に対するゲル状組成物の安定性を評価した。評価基準を下記に示す。
++:分離層が10体積%未満
+:分離層が10体積%以上20体積%未満
-:分離層が20%以上
【0101】
[分散安定性(界面活性剤添加)]
各実施例および各比較例に係るゲル状組成物に、界面活性剤(非イオン界面活性剤:ポリオキシエチレントリデシルエーテル)を0.1質量%になるように添加し、ホモミキサーで4000rpm、5分間攪拌して試料を得た。得られた試料を直径3cm×高さ30cmの試験管に、液面が25cmの高さになるように投入し、25℃で3日間静置した。その後、分離層の体積%を測定することにより、界面活性剤添加に対するゲル状組成物の安定性を評価した。評価基準を下記に示す。
++:分離層が10体積%未満
+:分離層が10体積%以上20体積%未満
-:分離層が20体積%以上
【0102】
[保湿性]
容量20mlのガラス瓶に純水を17.0g加えた後、上部に親水性メンブレンフィルター(孔径0.45μm)を乗せ、その上から上部に直径1.5cmの穴の開いたキャップで蓋をした。メンブレンフィルター上に調製したゲル状組成物を50μg塗布した。その後恒温恒湿室(20℃、65%RH)、で24時間静置した。この上部に水分蒸散量測定装置(TewameterTM300、Courage+Khazaka社製)を密着させ、水分蒸散量を20分間測定した。測定開始後5分から20分までの測定値の平均値を算出し、水分蒸散量(g/m2・h)とした。そして、水分蒸散量を用いて、下記の基準でゲル状組成物の保湿性を評価した。
++:水分蒸散量が15(g/m2・h)未満
+:水分蒸散量が15(g/m2・h)以上20(g/m2・h)未満
-:水分蒸散量が20(g/m2・h)以上
【0103】
【0104】
表2を参照して、比較例1および2に係るゲル状組成物と各実施例に係るゲル状組成物との比較より、各実施例に係るゲル状組成物の方が、各種分散安定性が優れていることが分かる。つまり、(A)化学修飾セルロース繊維を用いると、CNCを用いた場合に比べて各種分散安定性が優れている。
【0105】
また、比較例1に係るゲル状組成物と実施例4に係るゲル状組成物との比較より、実施例4に係るゲル状組成物の方が、保湿性が優れていることが分かる。また、比較例2に係るゲル状組成物と実施例13に係るゲル状組成物との比較より、実施例13に係るゲル状組成物の方が、保湿性が優れていることが分かる。つまり、(A)化学修飾セルロース繊維を用いると、CNCを用いた場合に比べて保湿性が優れている。
【0106】
また、比較例3,4に係るゲル状組成物と実施例1~3に係るゲル状組成物との比較より、実施例1~3に係るゲル状組成物の方が、保湿性が優れていることが分かる。つまり、(A)化学修飾セルロース繊維を用いると、用いない場合に比べて保湿性が優れている。なお、表2における比較例3,4の粘度は、使用した粘度計による測定可能範囲の下限値(10mPa・s)を下回ったため「10以下」と記載した。