(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】振動型駆動装置、振動型アクチュエータの駆動制御装置と駆動制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/14 20060101AFI20221212BHJP
H02N 2/06 20060101ALI20221212BHJP
B06B 1/06 20060101ALI20221212BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20221212BHJP
H01L 41/04 20060101ALI20221212BHJP
H01L 41/053 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
H02N2/14
H02N2/06
B06B1/06 A
H01L41/09
H01L41/04
H01L41/053
(21)【出願番号】P 2018194399
(22)【出願日】2018-10-15
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(72)【発明者】
【氏名】島田 亮
(72)【発明者】
【氏名】熱田 暁生
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特許第5791343(JP,B2)
【文献】特開平9-163770(JP,A)
【文献】国際公開第2005/088823(WO,A1)
【文献】特開2014-233166(JP,A)
【文献】特開2005-102431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/14
H02N 2/06
B06B 1/06
H01L 41/09
H01L 41/04
H01L 41/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相対移動する振動体と接触体を備えた振動型アクチュエータと、
前記振動型アクチュエータに印加される駆動電圧および前記駆動電圧の周波数を制御する駆動制御装置と、を備える振動型駆動装置であって、
前記駆動制御装置は、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは前記駆動電圧を大きくして加速を行い、前記振動体に供給される電力が第1の電力値を超えた場合に前記駆動電圧を変えずに前記駆動電圧の周波数を下げ、前記周波数を下げる動作中に前記電力が前記第1の電力値よりも小さい第2の電力値を下回った場合に前記駆動電圧を大きくすることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項2】
前記駆動制御装置は、パルス信号を発振する発振手段を更に備え、直流の電源電圧を前記パルス信号でスイッチングすることによって前記駆動電圧を生成し、前記パルス信号のパルス幅を変更することによって前記駆動電圧を変更し、前記パルス信号の周波数を変更することにより前記駆動電圧の周波数を変更することを特徴とする請求項1に記載の振動型駆動装置。
【請求項3】
前記電源電圧の電圧値に応じて前記パルス幅の最大値が設定されており、
前記駆動制御装置は、前記パルス幅が前記最大値に達した場合には、前記電力が前記第2の電力値を下回った場合でも前記パルス幅を増加させないことを特徴とする請求項2に記載の振動型駆動装置。
【請求項4】
前記駆動制御装置は、前記電力が前記第1の電力値よりも小さい第2の電力値を下回った後に前記パルス幅を増加させることで前記駆動電圧を大きくする動作において前記パルス幅が前記最大値に達するまでの間は、前記電力のばらつきが前記第2の電力値の10%以下となるように前記パルス信号のパルス幅と周波数を変更することを特徴とする請求項3に記載の振動型駆動装置。
【請求項5】
互いに相対移動する振動体と接触体を備えた振動型アクチュエータと、
前記振動型アクチュエータに印加される駆動電圧および前記駆動電圧の周波数を制御する駆動制御装置と、を備える振動型駆動装置であって、
前記駆動制御装置は、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは前記駆動電圧を大きくして加速を行い、前記振動体に供給される電力が所定の電力値を超えた場合に、前記駆動電圧の周波数を下げると共に前記駆動電圧を大きくすることを特徴とする振動型駆動装置。
【請求項6】
前記駆動制御装置は、パルス信号を発振する発振手段を更に備え、
直流の電源電圧を前記パルス信号でスイッチングすることによって前記駆動電圧を生成し、
前記パルス信号のパルス幅を変更することによって前記駆動電圧を変更し、前記パルス信号の周波数を変更することにより前記駆動電圧の周波数を変更することを特徴とする請求項5に記載の振動型駆動装置。
【請求項7】
前記電源電圧の電圧値に応じて前記パルス幅の最大値が設定されており、
前記駆動制御装置は、前記パルス幅が前記最大値に達した場合には、前記電力が前記所定の電力値を下回った場合でも前記パルス幅を増加させないことを特徴とする請求項6に記載の振動型駆動装置。
【請求項8】
前記駆動制御装置は、前記電力が前記所定の電力値を下回った後に前記パルス幅を増加させることで前記駆動電圧を大きくする動作において前記パルス幅が前記最大値に達するまでの間は、前記電力のばらつきが前記所定の電力値の10%以下となるように前記パルス信号のパルス幅と周波数を変更することを特徴とする請求項7に記載の振動型駆動装置。
【請求項9】
前記駆動制御装置は、前記駆動電圧の周波数を下げる動作では、前記周波数を単調に減少させることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項10】
前記駆動制御装置は、前記駆動電圧の周波数を下げる動作では、予め定められた速度指令値に基づき前記周波数を制御することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項11】
前記駆動制御装置の共振周波数と前記振動体の共振周波数との差が8kHz~30kHzの範囲にあることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の振動型駆動装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の振動型駆動装置と、
前記振動型駆動装置の前記駆動制御装置によって制御される前記振動型アクチュエータの駆動によって位置決めされる部材と、を備えることを特徴とする装置。
【請求項13】
互いに相対移動する振動体と接触体とを備える振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、
電源電圧を増幅することにより前記振動体に印加する駆動電圧を生成する増幅手段と、
前記増幅手段による前記駆動電圧の生成を制御する制御手段と、を有し、
前記駆動制御装置は、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは前記駆動電圧を大きくして加速を行い、前記振動体に供給される電力が第1の電力値を超えた場合に前記駆動電圧を変えずに前記駆動電圧の周波数を下げ、前記周波数を下げる動作中に前記電力が前記第1の電力値よりも小さい第2の電力値を下回った場合に前記駆動電圧を大きくすることを特徴とする振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項14】
互いに相対移動する振動体と接触体とを備える振動型アクチュエータの駆動制御装置であって、
電源電圧を増幅することにより前記振動体に印加する交流の駆動電圧を生成する増幅手段と、
前記増幅手段による前記駆動電圧の生成を制御する制御手段と、を有し、
前記駆動制御装置は、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは前記駆動電圧を大きくして加速を行い、前記振動体に供給される電力が所定の電力値を超えた場合に、前記駆動電圧の周波数を下げると共に前記駆動電圧を大きくすることを特徴とする振動型アクチュエータの駆動制御装置。
【請求項15】
互いに相対移動する振動体と接触体を備えた振動型アクチュエータの駆動制御方法であって、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは駆動電圧を大きくして加速を行うステップと、
前記振動体に供給される電力が第1の電力値を超えた場合に、前記駆動電圧を変えずに前記駆動電圧の周波数を下げるステップと、
前記周波数を下げる動作中に、前記電力が前記第1の電力値よりも小さい第2の電力値を下回った場合に前記駆動電圧を大きくするステップと、を有し、ことを特徴とする振動型アクチュエータの駆動制御方法。
【請求項16】
互いに相対移動する振動体と接触体を備えた振動型アクチュエータの駆動制御方法であって、
前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは駆動電圧を大きくして加速を行うステップと、
前記振動体に供給される電力が所定の電力値を超えた場合に前記駆動電圧の周波数を下げると共に前記駆動電圧を大きくするステップと、を有することを特徴とする振動型アクチュエータの駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータの駆動制御装置と駆動制御方法、振動型アクチュエータを備える振動型駆動装置及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非電磁駆動式アクチュエータとして、振動体と接触体とを接触させ、振動体に振動を励起することにより振動体と接触体を相対移動させる振動型アクチュエータが知られている。振動体は、例えば、弾性体に圧電素子等の電気-機械エネルギ変換素子が接合された構造を有する。振動型アクチュエータでは、電気-機械エネルギ変換素子に交流電圧を印加することにより振動体に高周波振動を発生させ、高周波振動の振動エネルギを振動体と接触体との相対移動という機械運動として取り出す。
【0003】
振動型アクチュエータは、各種の電子機器に応用されており、例えば、撮像装置における撮像レンズの駆動に用いられている。一般的に撮像装置では電源に電池が用いられており、例えば電池電圧をDC/DCコンバータで昇圧し、更にLC共振回路により所定の電圧値まで昇圧する技術が知られている。この場合のLC共振回路の電気共振周波数は1/{2π×(L×C)1/2}で定義される。
【0004】
特許文献1は、ある周波数領域でパルス幅を増加させて振動型アクチュエータを起動する際に、電流値が所定の値を超えた場合にパルス幅の増加を停止することにより、電流値がそれ以上増加しないようにすることで、電池からの限られた供給電力を有効に活用する技術を提案している。また、特許文献1では、目標速度以下の場合に、目標速度に達するまでパルス幅を固定したままで駆動周波数を低周波数側へシフトさせることによって速度を増加させる制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器を構成する回路のさらなる簡素化と低コスト化の要求にこたえるため、振動型アクチュエータの駆動方法として、DC/DCコンバータを用いずに電池の電圧をLC共振回路によって直接昇圧し、電気共振周波数を振動体の機械的共振周波数に近付けて昇圧率を稼ぐことで大きな出力を得る駆動方法が考えられる。しかし、電気共振周波数を機械的共振周波数に近付けた場合には、駆動周波数範囲において出力の変動が大きくなるという新たな問題が生じる。
【0007】
この問題について
図10を参照して説明する。
図10は、振動型アクチュエータの駆動周波数と駆動電圧(電気-機械エネルギ変換素子に印加する電圧)との関係を示す図である。破線は機械的共振周波数fr´と電気共振周波数fe´とが離れている場合を示しており、実線は機械的共振周波数frと電気共振周波数feとが近い場合を示している。破線の(2つの共振周波数が離れている)場合、駆動周波数範囲における電圧変化量ΔV´が小さいため、出力と電力の変動は小さくなるが、電圧レベルが低いため、例えばDC/DCコンバータ等の昇圧するための機構を用いて電源電圧を昇圧する必要がある場合が多い。一方、実線の(2つの共振周波数が近い)場合、電圧のレベルそのものは高いものの駆動周波数範囲における電圧変化量ΔVが大きくなるため、駆動周波数範囲において出力と電力の変動が大きくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、機械的共振周波数と電気共振周波数とが近いために駆動周波数範囲にわたって電圧変化量が大きな場合であっても、振動型アクチュエータから安定した出力を得ることが可能な簡素な振動型駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る振動型駆動装置は、互いに相対移動する振動体と接触体を備えた振動型アクチュエータと、前記振動型アクチュエータに印加される駆動電圧および前記駆動電圧の周波数を制御する駆動制御装置と、を備える振動型駆動装置であって、前記駆動制御装置は、前記振動型アクチュエータの起動から前記相対移動の目標速度までは前記駆動電圧を大きくして加速を行い、前記振動体に供給される電力が第1の電力値を超えた場合に前記駆動電圧を変えずに前記駆動電圧の周波数を下げ、前記周波数を下げる動作中に前記電力が前記第1の電力値よりも小さい第2の電力値を下回った場合に前記駆動電圧を大きくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的共振周波数と電気共振周波数とが近いために駆動周波数範囲にわたって電圧変化量が大きな場合であっても、簡素な回路構成で振動型アクチュエータから安定した出力を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】振動型アクチュエータの概略構成を示す断面図である。
【
図2】駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】駆動信号と増幅回路の回路構成を説明する図である。
【
図4】振動型アクチュエータの共振周波数と駆動電圧との関係を示す図である。
【
図5】実施例1と比較例の各駆動シーケンスでの特性比較図である。
【
図6】振動型アクチュエータの実施例1の駆動シーケンスのフローチャートである。
【
図7】駆動信号のパルス幅と電圧比との関係、電源電圧に対して設定される駆動信号のパルス幅を説明するグラフである。
【
図8】実施例2と比較例の各駆動シーケンスでの特性比較図である。
【
図9】振動型駆動装置を備えるデジタルカメラの外観斜視図である。
【
図10】振動型アクチュエータの駆動周波数と駆動電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。以下の説明において、振動型駆動装置とは、振動型アクチュエータと、振動型アクチュエータの制御を行う駆動制御装置を含むものとする。
【0013】
<第1実施形態>
図1は、振動型駆動装置を構成する振動型アクチュエータ200の概略構成を示す断面図である。振動型アクチュエータ200は、全体が略円柱状の形状を有する。振動型アクチュエータ200は、第1の弾性体201、第2の弾性体202、圧電素子203、フレキシブルプリント基板204、下ナット205及びシャフト206を備える。第1の弾性体201、第2の弾性体202、圧電素子203及びフレキシブルプリント基板204は、シャフト206及び下ナット205によって所定の挟持力が付与されるように、シャフト206の軸方向(スラスト方向)締め付けられている。第1の弾性体201、第2の弾性体202及び圧電素子203は振動体214を形成しており、振動体214はシャフト206の所定位置に固定された状態となる。
【0014】
第1の弾性体201には、振動損失が少なく、耐摩耗性と耐食性に優れた材料が用いられ、例えば、金属やセラミックスが選択可能であるが、特にマルテンサイト系ステンレス(例えば、SUS440C等の高硬度材)が好適である。ここでは、第1の弾性体201には、SUS440Cを切削加工した後、耐摩耗性を向上するために焼入れ、窒化を行ったものを用いている。
【0015】
電気-機械エネルギ変換素子である圧電素子203には、ここでは、表裏面に電極が形成されたリング状の複数の圧電体がシャフト206の軸方向に積層された構造を有するものが用いられている。圧電素子203は、複数の薄板状の圧電セラミックスと電極層を交互に積層して同時焼成したもの(一体焼成型)であってもよいし、表裏面に電極が形成された単板の圧電体を複数積層し、積層方向で締め付けたもの(ランジュバン型)であってもよい。
【0016】
圧電素子203の各電極層は、A相電極、B相電極、A´相電極、B´相電極を有する。このような圧電素子203の構造は、例えば、特開2013-123335号公報に開示されているため、図示と詳細な説明を省略する。フレキシブルプリント基板204を介してA相電極、B相電極、A´相電極、B´相電極に所定の位相差を有する交流電圧(以下「駆動電圧」という)を印加することで、互いに直交する2つの曲げ振動を振動体214に励起することができる。これらの2つの曲げ振動モードは、軸まわりの空間的な位相が90度(°)ずれており、駆動電圧の位相を変更することで2つの曲げ振動に90度の時間的な位相差を与えることができる。その結果、振動体214の曲げ振動がシャフト306まわり回転し、第1の弾性体201上(後述のロータ207の接触部207aとの接触面)に楕円運動が発生する。
【0017】
振動体214の曲げ振動によって圧電素子203には正圧電効果により電荷が発生するため、この電荷を検出することによって振動体214の振動状態をモニタすることができる。そこで、圧電素子203には、例えば、複数のA相電極の1つを分割することにより形成される2つの電極のうち1つを、振動状態をモニタするためのセンサ電極として用いる。この場合、A相電極へ印加する駆動電圧とセンサ電極からの出力信号の位相差は、共振周波数において90度となり、共振周波数より高周波数側で徐々にずれていく。よって、振動体214に振動が励起されている状態で、A相電極へ印加する駆動電圧とセンサ電極からの出力信号の位相差を検出することにより、圧電素子203に入力される駆動電圧の周波数と振動体214の共振周波数との関係をモニタすることができる。そして、このモニタ結果に基づいて後述の制御を行うことにより、振動型アクチュエータ200を安定して駆動することができる。
【0018】
振動型アクチュエータ200は、ロータ207(接触体)、ロータゴム208、加圧バネ209、出力伝達部材であるギア210、軸受211、フランジ212及び上ナット213を備える。シャフト206の上端側に配置されたフランジ212は、上ナット213をシャフト206に螺合することによって、シャフト206に固定されている。フランジ212は、振動型アクチュエータ200が実装される装置(機器)の所定位置に振動型アクチュエータ200を固定するための部材である。
【0019】
ロータ207は、ロータ本環207bと接触部207aを有する。接触部207aは、ロータ本環207bに接着剤により固定されている。接触部207aは、下方端(振動体214側の端)の面が第1の弾性体201に接触しており、且つ、下端側の面の直径が上方端の面の直径よりも短くなるように屈曲しており、これにより適度なバネ性を有する構造となっている。接触部207aは、耐摩耗性、機械的強度及び耐食性を兼ね備えた材料からなることが望ましく、例えば、SUS420J2等のステンレス鋼が好適に用いられる。振動型アクチュエータ200では、接触部207aには、生産コストと寸法精度に優れたプレス加工により成形され、耐摩耗性を高めるために焼入れ処理を行ったものを用いている。なお、接触部207aのロータ本環207bに対する固定方法は、接着剤を用いる方法に限らず、ハンダ付け等の金属ろう付け、レーザ溶接や抵抗溶接等の溶接、圧入やカシメ等の機械的接合等、別の方法を用いてもよい。
【0020】
ロータ207は、ロータゴム208を介して加圧バネ209により振動体214に対して加圧され、振動体214と接触している。振動体214に前述の楕円運動を生じさせることによって、ロータ207に摩擦駆動力を与えてロータ207を回転させることができる。なおロータゴム208には、加圧力を均一化させ、また、ロータ207からギア210へ伝わる振動を減衰させる機能がある。
【0021】
シャフト206の軸方向において、軸受211を介してフランジ212と第1の弾性体201との間にギア210が配置されている。また、ロータ本環207bの上面に形成された凹部とギア210に形成された凸部とが係合している。ギア210は、加圧バネ209の力を受けて軸受211に対して摺動しながらロータ207と一体的に回転することで、回転駆動力を外部へ出力する。
【0022】
図2は、振動型駆動装置を構成する駆動制御装置100の概略構成を示すブロック図である。駆動制御装置100は、マイコン部1、発振器部2、電流検出回路3、速度検出回路4、電源部5、増幅回路11,12及びインピーダンス素子21,22を備える。
【0023】
マイコン部1は、振動型アクチュエータ200の駆動を統括的に制御する制御部である。発振器部2は、振動体214上に上述した振動を励起するためにマイコン部1からの指令値に応じて、駆動信号であるパルス信号として、A相パルス、A相´パルス、B相パルス及びB相´パルスの4つのパルス信号を発生させる。
【0024】
増幅回路11,12及びインピーダンス素子21,22は、駆動制御装置100内ではドライバとして位置づけられる。増幅回路11は、A相パルスとA相´パルスで電源部5の電圧(電源電圧)をスイッチングし、インピーダンス素子21との組み合わせによって電源電圧を昇圧し、圧電素子203に印加する駆動電圧を生成する。増幅回路12は、B相パルスとB相´パルスで電源電圧をスイッチングし、インピーダンス素子22との組み合わせによって電源電圧を昇圧し、圧電素子203に印加する駆動電圧を生成する。詳細は
図3を参照して後述するが、A相パルスにより増幅回路11で生成された位相の異なる2相の駆動電圧は、圧電素子203のA相電極とA´相電極に印加される。また、B相パルスにより増幅回路12で生成された駆動電圧は圧電素子203のB相電極とB´相電極に印加される。
【0025】
電源部5は、増幅回路11,12へ直流電圧を供給する電池等の電源である。電流検出回路3は、電源部5からの供給電流を検出する電流検出手段である。電流検出回路3で検出された電流と増幅回路11,12に与えた電圧指令値との積を計算することにより、消費電力(以下「電力」と記す)を求めることができる。求められた電力は、マイコン部1に入力され、後述する駆動シーケンスを実行するための情報として用いられる。
【0026】
速度検出回路4は、ロータ207の速度(回転速度)及び位置(回転角度)を検出し、検出したロータ207の速度及び位置の情報をマイコン部1へ送信する。マイコン部1は、受信したロータ207の速度及び位置の情報に基づいて、圧電素子203へ印加する駆動電圧を生成するためのA相パルスとB相パルスを制御することによりロータ207の回転を制御する。
【0027】
図3(a)は、駆動信号(A相パルス、B相パルス、A´相パルス、B´相パルス)を説明する図である。
図3(b)は、増幅回路11,12の回路図である。
図3(a)に示すように、A相パルスとA相´パルスとは位相が180度ずれており、B相パルスとB相´パルスとは位相が180度ずれており、各駆動信号のパルス幅(デューティ)は等しい。A相パルスとB相パルスとは、ここでは、位相が90度ずれている。
【0028】
増幅回路11,12を構成するスイッチング素子には、FET31~38が用いられている。FET31,34はA相パルスでスイッチングされ、FET32,33はA相´パルスによりスイッチングされる。電源電圧をFET31~34でスイッチングすることにより生成される駆動電圧がA相電極とA´相電極へ印加される。同様に、FET35,38はB相パルスでスイッチングされ、FET36,37はB相´パルスによりスイッチングされる。電源電圧をFET35~38でスイッチングすることにより生成される駆動電圧がB相電極とB´相電極へ印加される。
【0029】
インピーダンス素子21,22は、振動型アクチュエータ200とのインピーダンスを整合させる役割を担い、ここではインダクタンス素子を用いている。インピーダンス素子21,22を
図2及び
図3に示す所定の位置に組み込むことにより、振動型アクチュエータ200をより低い電源電圧で、且つ、高効率で、駆動することが可能になる。なお、不図示であるが、インピーダンスを整合させるために容量素子を、振動体214と並列に設けた構成としてもよい。
【0030】
増幅回路11,12とインピーダンス素子21,22からなるドライバによる昇圧率は、ドライバの共振周波数である電気共振周波数feで極大値を取る。インピーダンス素子21,22のインダクタンスをL、圧電素子203の静電容量をCとすると、fe=1/{2π×(L×C)1/2}となる。駆動制御装置100では、駆動周波数(駆動信号の周波数)の範囲を電気共振周波数feに近付けて圧電素子203に印加する駆動電圧を大きくすることにより、昇圧手段であるDC/DCコンバータを用いない回路構成を実現している。なお、駆動電圧を大きくするとは、実効的な駆動電圧の電圧値を大きくすることをいう実効的な駆動電圧の電圧値を変化させる方法として駆動電圧の振幅やパルス幅を変更する方法がある。
【0031】
また、振動型アクチュエータ200では、振動体214の機械的な共振現象を利用して振動振幅を拡大させることにより、ロータ207を高速駆動することができる。そのため、駆動周波数範囲を電気共振周波数feに近付けるということは、機械的共振周波数frを電気共振周波数feに近付けることと等価である。しかし、
図10を参照して前述した通り、機械的共振周波数frを電気共振周波数feに近付け過ぎると、出力が不安定になってしまう。これに対して、機械的共振周波数frを電気共振周波数feから離してしまうと、DC/DCコンバータなどの昇圧手段が無い場合は出力が不足する。これらの問題のバランスを考えると、機械的共振周波数frと電気共振周波数feとの差(fe-fr)は、8kHz~30kHzとすることが望ましい。
【0032】
次に、駆動制御装置100による振動型アクチュエータ200の駆動制御方法について説明する。先ず、
図4と
図5を参照して、振動型アクチュエータ200の制御の概要について説明する。
図4は、振動型アクチュエータ200の各種の共振周波数と駆動電圧との関係を示す図である。
図5は、実施例1と比較例のそれぞれに係る振動型アクチュエータ200の駆動シーケンスでの特性比較図である。
図5上段は駆動周波数と電力との関係を、
図5中段は駆動周波数とパルス幅との関係を、
図5下段は駆動周波数と速度との関係(下段)をそれぞれ示している。
【0033】
マイコン部1は、周波数fs(起動周波数)において駆動信号(A相パルス、A相´パルス、B相パルス、B相´パルス)のパルス幅(デューティ比)を徐々に増加させて、振動型アクチュエータ200を起動する。パルス幅を増加させると、実効的な駆動電圧が大きくなって電力も大きくなる。
図5上段に示されるように、予め定められた第1の電力リミットP-Lim
1(第1の電力値)に達したところでパルス幅を固定する。ここでは、
図4及び
図5中段に示すように、パルス幅がデューティ比で22%となった時点でパルス幅を固定している。ここから駆動周波数を下げて(低周波数側へシフトさせて)いくと、駆動周波数が振動体214の機械的共振周波数frに近付くことで振動体214に励起される振動の振幅が大きくなり、
図5下段に示されるようにロータ207の速度が増加する。
【0034】
従来の駆動方法である比較例では、
図4に示すようにパルス幅を22%に固定したまま駆動周波数を下げていくために、機械的共振周波数frと電気共振周波数feが近い場合は、駆動電圧は小さくなっていき、周波数fs~fxの間でΔV´だけ電圧が低下してしまう。その結果、
図5上段に示すように、電力は定格電力P-Lim
0を超えることはないが、
図5下段に示すように駆動周波数を機械的共振周波数frまで下げても定格速度に到達することができていない。なお、定格電力P-Lim
0は、振動型アクチュエータ200の定格電力である。定格電力を超えない範囲において大きな出力で振動型アクチュエータ200を駆動することにより、ギア210からの出力により駆動される部品を安定して駆動することができる。
【0035】
これに対して実施例1では、駆動周波数を下げる動作中に電力が予め定められた第2の電力リミットP-Lim
2(第2の電力値)を下回った時点でパルス幅を増加させることで、械的共振周波数frと電気共振周波数feが近い場合であっても電圧不足に陥ることを防止している。但し、実施例1では、パルス幅の最大値をデューティ比で50%に設定しており、その理由については後述する。その結果、
図5下段に示すように、定格速度を大きく超える速度でロータ207を駆動することが可能となっており、余裕のある駆動が可能となっている。このような実施例1に係る駆動シーケンスについて、
図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0036】
図6は、駆動制御装置100による振動型アクチュエータ200の実施例1に係る駆動シーケンスを説明するフローチャートである。
図6のフローチャートにS番号で示す各処理(ステップ)は、マイコン部1が所定のプログラムを実行して、駆動制御装置100を構成する各部の動作を制御することによって実現される。なお、
図6のフローチャートは、ロータ207の回転開始から停止動作に入るまでの制御を表している。
【0037】
S1でマイコン部1は、周波数fsで駆動信号をオンにして、駆動信号のパルス幅(
図6では「PW」と記す)をゼロ(0)から徐々に増加させていく。増加させる割合は、時間に対して一律としてもよいし、予め定められた速度指令値に従うようにしてもよい。S2でマイコン部1は、ロータ207の速度が目標速度に到達したか否かを判定する。マイコン部1は、ロータ207の速度が目標速度に到達したと判定した場合(S2でYES)、処理をS3へ進め、ロータ207の速度が目標速度に到達していない判定した場合(S2でNO)、処理を後述のS7へ進める。
【0038】
S3でマイコン部1は、周波数制御又はパルス幅制御(
図6では「F/PW制御」と記す)により、ロータ207の速度制御を行う。ここでの速度制御では、ロータ207の速度が目標速度よりも小さい場合には、駆動信号のパルス幅を増加させて速度を増加させ、ロータ207の速度が目標速度よりも大きい場合には、駆動信号のパルス幅を減少させることにより速度を低下させる。なお、駆動中に外部負荷の増加等が原因でロータ207の速度が低下し、パルス幅が最大パルス幅PW-max(具体的には、初期値の50%)に達することが考えられる。この場合には、フローチャートへの記載は省いているが、駆動周波数を下げて速度を増加させた後、必要に応じて駆動周波数を調整することで速度制御を行えばよい。
【0039】
S4でマイコン部1は、ロータ207の回転角度が停止動作の開始位置に到達したか否かを判定する。なお、停止動作の開始位置は、ロータ207が最終的に停止する位置と、現在のロータ207の速度を考慮して決められている。マイコン部1は、停止動作の開始位置に到達したと判定した場合(S4でYES)、本処理を終了させて停止動作を開始し、停止動作の開始位置に到達していないと判定した場合(S4でNO)、処理をS5へ進める。S5でマイコン部1は、電力が第1の電力リミットP-Lim1以上か否かを判定する。マイコン部1は、電力が第1の電力リミットP-Lim1未満であると判定した場合(S5でNO)、S3へ処理を戻し、電力が第1の電力リミットP-Lim1以上であると判定した場合(S5でYES)、処理をS6へ進める。
【0040】
S6でマイコン部1は、最大パルス幅PW-maxを、電力が第1の電力リミットP-Lim1を超える直前又は超えた時点でのパルス幅から一定値を減じたパルス幅に変更する。なお、最大パルス幅PW-maxの初期値はPW-max0となっている。ここで、第1の電力リミットP-Lim1は、外乱等で電力がオーバーシュートしても、電力が定格電力P-Lim0を超えない値に設定されており、好ましくは定格電力P-Lim0の80~95%の値に設定されている。一方、第2の電力リミットP-Lim2は、第1の電力リミットP-Lim1より小さく、且つ、定格電力内で十分な出力が得られる値に設定されており、好ましくは定格電力P-Lim0の70~90%の値に設定されている。マイコン部1は、S6の処理後にS12へ処理を進める。
【0041】
さて、マイコン部1は、S2でロータ207の速度が目標速度に到達していないと判定した場合(S2でNO)、処理をS7へ進める。S7でマイコン部1は、電力が第1の電力リミットP-Lim1以上か否かを判定する。マイコン部1は、電力が第1の電力リミットP-Lim1以上であると判定した場合(S7でYES)、処理をS9へ進め、電力が第1の電力リミットP-Lim1未満であると判定した場合(S7でNO)、処理をS8へ進める。
【0042】
S8でマイコン部1は、駆動信号のパルス幅がPW-max0未満であるか否かを判定する。マイコン部1は、パルス幅がPW-max0未満であると判定した場合(S8でYES)、S1へ処理を戻し、パルス幅がPW-max0以上であると判定した場合(S8でNO)、処理をS10へ進める。
【0043】
なお、最大パルス幅の初期値であるPW-max0は、電源電圧に応じて設定される固定値である。通常、電池は充電が100%完了した状態で電圧が最も高く、電力を使い切る前で最も電圧が低くなる。駆動制御装置100ではDC/DCコンバータを使用していないため、そのままでは駆動電圧が小さくなって出力が低下してしまう。
【0044】
ここで、最大パルス幅の初期値PW-max
0の設定手法について、
図7を参照して説明する。
図7(a)は、駆動信号のパルス幅と電圧比との関係を示すグラフである。パルス幅50%時の基本波成分の電圧比を1としている。ここでいう基本波成分とは駆動信号と同じ周波数の電圧成分のことである。矩形波の電圧は異なるサイン波(基本波及びその高調波)の合成で構成されており、その構成比がパルス幅によって異なっている。言い換えると、パルス幅を変更することにより基本波成分の電圧をコントロールすることが可能である。
図7(b)は、電源電圧に対して設定される駆動信号のパルス幅を説明するグラフである。前述のように電池の状態により電源電圧が変動するため、電源電圧の値に応じて、駆動信号のパルス幅を定めることにより、基本波成分の電圧を一定にすることが可能である。実施例1に係る駆動シーケンスでは、
図7(b)に示すように電源電圧が最も降下した状態に合わせて駆動信号の最大パルス幅の初期値PW-max
0を50%に設定している。そして、これと同じ基本波成分の電圧となるように、最大パルス幅PW-maxを変更することで、駆動電圧が変動することを防いでいる。
【0045】
図6のフローチャートの説明に戻る。S8の次のS9でマイコン部1は、最大パルス幅PW-maxを電力が第1の電力リミットP-Lim
1を超える直前の又は超えた瞬間のパルス幅から一定値を減じた値に変更する。なお、最大パルス幅の初期値はPW-max
0に設定されている。これにより、電力が定格電力P-Lim
0をオーバーすることを防止することができる。ここまでのS1~S2,S7~S9の制御は、
図5において周波数fsで電力が第1の電力リミットP-Lim
1に達するまでの制御に相当する。
【0046】
S10でマイコン部1は、駆動信号のパルス幅を維持した状態で駆動周波数を下げていくことでロータ207の速度を増加させる。S10の処理は、オープン駆動で行ってもよいし、速度指令値に従って行っても構わない。目標速度までオープン駆動で加速させる場合には、駆動周波数を単調に下げればよい。一方、速度指令値に追従させる場合には、基本的には駆動周波数を下げていくが、実速度が速度指令値を上回ることが起こり得るため、駆動周波数を上下させることが必要となる場合がある。
【0047】
S11でマイコン部1は、ロータ207の速度が目標速度に到達したか否かを判定する。マイコン部1は、ロータ207の速度が目標速度に到達したと判定した場合(S11でYES)、処理をS12へ進め、ロータ207の速度が目標速度に到達していないと判定した場合(S11でNO)、処理を後述のS15へ進める。S12でマイコン部1は、周波数制御又はパルス幅制御により、ロータ207の速度を制御する。ここでの速度制御では、ロータ207の速度が目標速度に達していなければ駆動周波数を下げることにより速度を増加させ、ロータ207の速度が目標速度を超えていれば、駆動周波数を上げる(高周波数側にシフトさせる)ことにより速度を低下させる。
【0048】
なお、不図示であるが、駆動中に外部負荷の減少等が原因で、ロータ207の速度が増大して駆動周波数が周波数fsに到達した場合には、パルス幅を調整して速度制御を行う。このように周波数fsより低周波数側では駆動周波数の変更(調整)で速度制御を行い、周波数fsではパルス幅の増減(調整)により速度制御を行う。
【0049】
S13でマイコン部1は、停止動作の開始位置に到達したか否かを判定する。S13の処理は、S4の処理と同等である。マイコン部1は、停止動作の開始位置に到達したと判定した場合(S13でYES)、本処理を終了させて停止動作を開始し、停止動作の開始位置に到達していないと判定した場合(S13でNO)、処理をS14へ進める。S14でマイコン部1は、電力が定格電力P-Lim0以上か否かを判定する。マイコン部1は、電力が定格電力P-Lim0未満であると判定した場合(S14でNO)、処理をS12へ戻し、電力が定格電力P-Lim0以上であると判定した場合(S14でYES)、処理を後述のS19へ進める。
【0050】
マイコン部1は、S11でロータ207の速度が目標速度に到達していないと判定した場合の次の処理であるS15で、電力が定格電力P-Lim0以上か否かを判定する。マイコン部1は、電力が定格電力P-Lim0未満であると判定した場合(S15でNO)、処理をS16へ進め、電力が定格電力P-Lim0以上であると判定した場合(S15でYES)、処理を後述のS19へ進める。
【0051】
S16~S18の処理は、実施例1に係る駆動シーケンスでの特徴的な処理である。S16でマイコン部1は、電力が第2の電力リミットP-Lim2以下か否かを判定する。マイコン部1は、電力が第2の電力リミットP-Lim2以下であると判定した場合(S16でYES)、処理をS17へ進め、電力が第2の電力リミットP-Lim2を超えていると判定した場合(S16でNO)、処理をS10へ戻す。S17でマイコン部1は、駆動信号の最大パルス幅がPW-max0未満か否かを判定する。マイコン部1は、パルス幅がPW-max0未満であると判定した場合(S17でYES)、処理をS18へ進め、パルス幅がPW-max0以上であると判定した場合(S17でNO)、処理をS10へ戻す。S18でマイコン部1は、駆動信号のパルス幅を増加させ、その後、処理をS10へ戻す。
【0052】
このようなS10,S11,S15~S18のルーチンは、
図5において、電力が第1の電力リミットP-Lim
1に達してから、駆動周波数を周波数fsから周波数fxへ下げている制御に対応する。なお、
図7を参照して前述したように、電源電圧を考慮して、実施例1に係る駆動シーケンスでは、駆動信号のパルス幅の最大値をデューティ比で50%に設定している。そのため、パルス幅を50%に固定した後には電力が第2の電力リミットP-Lim
2を下回ってもパルス幅を増加させないようにしているが、駆動周波数を下げることで速度を増加させることが可能である。
【0053】
上述のS10,S11,S15~S18のループが実行されている間は、
図5中段及び上段に実施例1で示すように、周波数fs~fx間でパルス幅が増加し、且つ、電力は略一定となる。換言すると、比較例では駆動電圧が小さくなることによって電力の低下及び速度不足が生じるが、実施例1では、パルス幅を増加させることで駆動電圧の低下が防止され、その結果として電力が略一定になると共に速度不足になることもない。なお、安定して駆動するために、電力が一定の区間(第2の電力リミットP-Lim
2で維持する区間)の電力のばらつきは、第2の電力リミットP-Lim
2の値の10%以下であることが望ましい。
【0054】
マイコン部1は、S14で電力が定格電力P-Lim0以上であると判定した場合(S14でYES)とS15で電力が定格電力P-Lim0以上であると判定した場合(S15でYES)には、処理をS19へ進める。S19でマイコン部1は、駆動周波数を上げるか又はパルス幅を減少させることによって電力を低減させ、その後、処理をS13へ戻す。以上が実施例1に係る駆動シーケンスである。
【0055】
なお、
図6のフローチャートでは、電力の値に基づいて各種の判定を行っているが、電流検出回路3で検出された電流を判定基準に用いても構わない。また、停止動作の各処理については
図6のフローチャートに記載していないが、停止動作は基本的に、起動時とは逆の電力、パルス幅、速度の経路を辿る。つまり、停止動作の開始位置に到達すると、駆動周波数を上げることで減速を開始する。そして、電力が第1の電力リミットP-Lim
1以上であれば、パルス幅を減少させることで電力を低減させる。これらを繰り返して駆動周波数が周波数fsに達したところで、電力に関係なくパルス幅を減少させていき、停止位置でロータ207を停止させる。
【0056】
以上の説明の通り、機械的共振周波数frと電気共振周波数feとが近いために、駆動周波数範囲にわたって電圧変化量ΔVが大きな場合であっても、回路構成が簡素な駆動制御装置100に
図6の駆動シーケンスを適用することにより、振動型アクチュエータ200を駆動周波数の全域にわたって安定した出力で駆動することが可能になる。
【0057】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第2の電力リミットP-Lim2と第1の電力リミットP-Lim1が同じ値の場合の駆動シーケンスについて説明する。第1実施形態と第2実施形態との相違点は、マイコン部1が実行する制御のみであり、以下、この相違点についてのみ説明することとする。
【0058】
図8は、振動型アクチュエータ200の実施例2と比較例のそれぞれに係る駆動シーケンスでの特性比較図である。
図8上段は駆動周波数と電力との関係(上段)を、
図8中段は駆動周波数とパルス幅との関係を、
図8下段は駆動周波数と速度との関係をそれぞれ示している。実施例2でも、実施例1と同様に、周波数fsで駆動信号のパルス幅を徐々に増加させていくことで振動型アクチュエータ200を起動する。パルス幅が増加するに従って徐々に速度が増加し、電力も増大する。電力が第1の電力リミットP-Lim
1に達したところで、パルス幅を固定する(
図9中段では22%)。
【0059】
ここから駆動周波数を下げていくと振動体214の機械的共振周波数frに近付いていくため、振動体214の振動振幅が大きくなり、ロータ207の速度が増加していく。その際、比較例に係る従来の駆動方法では、駆動信号のパルス幅を22%に固定した状態で駆動周波数を下げていくため、
図4に示したように電圧は降下していき、周波数fs~fxの間でΔV´だけ電圧が低下してしまう。その結果、比較例では、
図8上段に示すように電力は定格電力P-Lim
0を超えることはないが、
図8下段に示すように駆動信号の周波数を機械的共振周波数frまで下げても、ロータ207の速度は定格速度を超えていない。
【0060】
これに対して実施例2では、電力が第1の電力リミットP-Lim1以下になると、駆動信号のパルス幅を大きくすることで電圧不足に陥ることを防いでおり、これにより、定格速度を大きく超えた余裕のある駆動が可能となっている。また、第1の電力リミットP-Lim1を、外乱等で電力がオーバーシュートしても定格電力P-Lim0を超えない値に設定することで、消費電力は大きくなるが駆動電圧も大きくなるため、定格電力内でより大きく、安定した出力を得ることが可能になる。
【0061】
<第3実施形態>
第3実施形態では、振動型駆動装置を備える装置の一例としてのデジタルカメラ(撮像装置)について説明する。
図10は、デジタルカメラ300の外観斜視図である。デジタルカメラ300は、カメラ本体301と、カメラ本体301の前面に配置されたレンズ鏡筒302を有する。レンズ鏡筒302内には、レンズ鏡筒302の光軸方向に移動可能なフォーカスレンズを含む複数のレンズ群(不図示)が配置されている。そして、レンズ鏡筒302内で、振動型アクチュエータ200のギア210は、レンズ鏡筒302内に配置されたフォーカスレンズを光軸方向に移動させるためのギア(回転伝達部材)と噛み合っている。
【0062】
振動型アクチュエータ200は実施例1又は実施例2に係る駆動制御方法により駆動され、フォーカスレンズの高速に安定して光軸方向に移動させることで、被写体に対するスムーズな合焦動作を実現することができる。また、駆動制御装置100は、回路構成が簡素であるため、カメラ本体301に実装しても、カメラ本体301を大型化させ難い。なお、振動型アクチュエータ200は、レンズ鏡筒302が備えるズームレンズの光軸方向での駆動に用いることもできる。
【0063】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。更に、上述した各実施形態は本発明の一実施形態を示すものにすぎず、各実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態では、駆動制御装置100により制御される振動型アクチュエータとして、振動体と接触体との相対移動が回転運動として現れる構造のものを取り上げたが、振動型アクチュエータの構成はこれに限定されるものではない。例えば、振動体と接触体との相対移動が直進運動として現れるリニア駆動型の振動型アクチュエータの駆動にも実施例1,2の駆動制御方法を適用することができる。
【0065】
また、第3実施形態では、振動型駆動装置を適用したデジタルカメラについて説明したが、振動型駆動装置の具体的な適用例はこれらに制限されるものではない。振動型駆動装置は、振動型アクチュエータ200の駆動による位置決めが必要とされる部品を備える装置(機器)に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 マイコン部
2 発振器部
5 電源部
11,12 増幅回路
100 駆動制御装置
200 振動型アクチュエータ
203 圧電素子
207 ロータ
214 振動体
300 デジタルカメラ