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特許7191644付加造形用の材料粉末、構造物、半導体製造装置部品、および半導体製造装置
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  • 特許-付加造形用の材料粉末、構造物、半導体製造装置部品、および半導体製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】付加造形用の材料粉末、構造物、半導体製造装置部品、および半導体製造装置
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20221212BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20221212BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20221212BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20221212BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20221212BHJP
   C04B 35/653 20060101ALI20221212BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20221212BHJP
   C04B 35/582 20060101ALI20221212BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
C04B35/64
C04B35/653
C04B35/117
C04B35/582
H01L21/68 N
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018205584
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2019084823
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2017216031
(32)【優先日】2017-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】安居 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】薮田 久人
(72)【発明者】
【氏名】大志万 香菜子
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-501701(JP,A)
【文献】特開2006-290729(JP,A)
【文献】特表2015-514661(JP,A)
【文献】特開2011-225446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
C04B 35/581-35/582
B33Y 10/00
B33Y 70/00-70/10
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の製造方法であって、
晶系酸化物と、前記共晶系酸化物の平均密度より低い密度を有し、かつ前記共晶系酸化物の融点よりも高い分解温度を有する窒化物と、を含む粉末を準備する工程と、
前記粉末を所定の厚さに敷き均す工程と、
所定の厚さに敷き均した前記粉末に、三次元モデルの形状データに応じてエネルギービームを照射する工程と、を有し、
前記エネルギービームの照射部の温度が、前記共晶系酸化物の融点以上かつ前記窒化物の分解温度以下となるように、前記粉末に前記エネルギービームを照射することを特徴とする構造物の製造方法。
【請求項2】
前記共晶系酸化物が、構成材料としてB、Mg、Al,Si,Ca、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,Hf,Ya,W,Pb,Bi,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luそれぞれの酸化物からなる群より選択される酸化物を1種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項3】
前記粉末が、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムと希土類酸化物との複合酸化物と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のセラミックス製の構造物の製造方法。
【請求項4】
前記粉末が、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウムと酸化ガドリニウムとの複合酸化物を含むことを特徴とする請求項3に記載の構造物の製造方法。
【請求項5】
前記共晶系酸化物が、Al -Gd 系またはAl -Y 系であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項6】
前記共晶系酸化物が前記Al -Gd 系であり、前記窒化物がh-BN、AlN、Si 、TiNのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の構造物の製造方法。
【請求項7】
前記共晶系酸化物の重量/前記窒化物の重量が0.3以上10以下であることを特徴とする請求項6に記載の構造物の製造方法。
【請求項8】
前記共晶系酸化物が前記Al -Y 系であり、前記窒化物がh-BN、AlN、Si のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の構造物の製造方法。
【請求項9】
前記粉末が、Tb からなる粒子またはPr 11 からなる粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項10】
前記Tb からなる粒子またはPr 11 からなる粒子の平均粒子径が、1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の構造物の製造方法。
【請求項11】
前記粉末が、前記窒化物の粒子を含んでおり、前記窒化物の粒子の平均粒子径が5μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項12】
前記粉末の平均粒子径が、1μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項13】
前記エネルギービームが、レーザー光であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項14】
前記エネルギービームを照射する工程により、前記構造物に、前記窒化物を含む窒化物領域と、前記共晶系酸化物から生成される共晶組織を含む酸化物領域と、が形成されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項15】
前記窒化物領域は、前記酸化物領域によって囲まれることを特徴とする請求項14に記載の構造物の製造方法。
【請求項16】
前記窒化物領域の平均直径が5μm以上500μm以下であることを特徴とする請求項14に記載の構造物の製造方法。
【請求項17】
前記窒化物領域および前記酸化物領域の少なくともいずれか一方に、酸窒化物が含まれることを特徴とする請求項14に記載の構造物の製造方法。
【請求項18】
前記三次元モデルの形状データが、中空部分を有することを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【請求項19】
前記三次元モデルが、半導体製造装置の部品であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加造形法を用いてセラミックス製の構造物を作製するための付加造形用の材料粉末、それを用いた構造物、半導体製造装置部品、その部品を用いた半導体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、付加造形技術が伸展しており、特に金属粉末を用いた粉末床熔融結合法(粉末ベッドレーザー直接造形方式)により、種々の構造物が作製されている。粉末床熔融結合法では、材料の粉末が効果的に熔融して凝固組織群となるため、緻密な構造物を得ることができる。このような状況において、粉末床熔融結合法の、セラミックス造形への展開性が議論され、多くの取り組みが報告されている。セラミックス粉末を金属粉末と同様に熔融させるためには、相応のエネルギーを投入する必要がある。また、セラミックス粉末は金属とは異なり、粉末内での光拡散も伴って均一な熔融が達せられず、造形精度を得ることが難しい。
【0003】
非特許文献1では、Al-ZrO共晶系を用いることで融点を下げることと、熔融、凝固時に共晶系特有の微細構造を形成させることで、緻密で機械的強度に優れた構造物を実現する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Physics Procedia 5(2010)587-594
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
付加造形技術が得意とする造形形状の1つに、中空形状がある。駆動機構を有する半導体露光装置には、Al製の真空チャックなどの中空構造を有するセラミックス製のステージ部品が用いられている。従って、これらのステージ部品の造形には、セラミックス粉末を用いた付加造形技術が好適である。これらステージ部品は高速に駆動されるため、高い比剛性(ヤング率[GPa]/比重)が求められている。
【0006】
非特許文献1のように、Al-ZrO共晶系の粉末を用いて粉末床熔融結合法による造形を行うと、得られる造形物はAlよりも密度の大きいZrOを含有することになる。そのため、得られる造形物の密度(以後、比重を密度として記述する)は、Al単体からなる造形物よりも大きくなる。ステージ部品に求められる高い比剛性(ヤング率/密度)の実現には、密度の増加は課題となる。そこで、造形物の密度を低減する手段、ないし従来と同等の造形物の密度(Alの場合3.96g/cm)を実現する手段が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、付加造形用の材料粉末であって、窒化物と共晶系酸化物とを含有し、前記窒化物の平均密度が前記共晶系酸化物の平均密度より低いことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の別の態様は、構造物であって、平均直径5μm以上の窒化物領域と、前記窒化物領域を包含する共晶組織をなす酸化物領域から構成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の別の態様は、構造物の製造方法であって、窒化物粒子と、共晶系酸化物を含有する粒子とを含む粉末を準備する工程と、前記粉末からなる粉末層を形成する工程と、三次元モデルの形状データに応じて前記粉末層にエネルギービームを照射する工程と、を有し、前記エネルギービームの照射部の温度が前記窒化物粒子の分解温度以下となるように、前記粉末層に前記エネルギービームを照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉末は、共晶系酸化物と、共晶系酸化物の平均密度より低い平均密度を有する窒化物と、を含有しているため、系全体として密度を低減することができる。これにより、この粉末を用いて造形される造形物は、駆動系部品で求められる高い比剛性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の粉末が適用できる造形手法の一例を示す図である。
図2】本発明の粉末が適用できる造形手法の一例を示す図である。
図3】本発明の窒化物を添加した共晶系酸化物の組織を示す画像である。
図4】本発明の粉末を用いて造形可能な部品の一例を示す上面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。
本発明の第一の態様は、セラミックス製の構造物(造形物)の製造に用いられる付加造形用の材料粉末であり、エネルギービーム(レーザー光、電子線等)を照射して造形を行う、粉末床熔融結合法やクラッディング法に用いることが可能である。以下、一例としてレーザー光を用いたプロセスについて、図面を参照して説明する。
【0013】
造形に用いるレーザー光は、造形用の粉末に含まれる組成が吸収能を有する波長の光を含んでいるものが好ましく、レンズやファイバーによって10μm~2mmなど所望の焦点サイズに調整したものを用いることが好ましい。焦点サイズは、造形精度に影響するパラメータのうちの一つであり、構造物表面の面粗さRaが0.1mm以下の造形精度を満たすためには、状況によるが、100μm以下の焦点サイズであることが好ましい。構造物のRaが0.1mm以下であると、複雑な三次元構造物を造形することが可能になる。また、連続・パルス状のいかんは問わない。一例としては、Nd:YAGレーザーであり、波長が1070nm付近である。
【0014】
粉末床熔融結合法に用いられる造形装置の例を図1に示す。造形装置は、粉末升11と造形ステージ部12、リコーター部13、スキャナ部14、レーザー15を備えている。造形動作としては、粉末升11と造形ステージ部12が適宜上下しながらリコーター部13で粉末を操作し、想定している構造物よりも広い領域に粉末を薄く敷き均す。さらに、構造物のある一断面形状をレーザー15とスキャナ部14により粉末層に直接プロセスを施すことで焼結、ないし熔融、凝固が生じ、この繰り返しにより積層され構造物(造形物)が作製される。
【0015】
クラッディング法に用いられる造形装置の一部を図2に示す。レーザー23の焦点位置に、クラッディングノズル21にある複数の粉末供給孔22から粉末を噴出して供給し、粉末を熔融させながら所望の場所に熔融物を付着させて構造物を作製する。クラッディング法は、曲面等への造形も可能な点が特徴となる。
【0016】
次に、本発明の付加造形用の粉末に係わる組成物と粉末、および、本発明の付加造形用の粉末を用いて得られる構造物に関して説明する。
【0017】
ここで、粉末とは、孤立した粒と認識できる粒子の集合体を指す。組成物とは、粉末全体を構成する素材の基本要素であり、粒という形ではなく元素や化合物として単一状態のものを指し、粉末は組成物群からなる。
【0018】
(組成物)
本発明の付加造形用の材料粉末は、共晶系酸化物と、共晶系酸化物の平均密度よりも低い密度を有する窒化物を含む。そして、造形上の必要に応じて、さらにレーザー光の吸収を担う組成物(吸収体)を含むことが好ましい。前記窒化物は、密度が共晶系酸化物の平均密度よりも低ければ、種類は限定されない。例えば窒化ホウ素(h-BN、密度:2.27g/cm)、窒化アルミニウム(AlN、密度:3.26g/cm)、窒化ケイ素(Si、密度:3.44g/cm)、窒化チタン(TiN、密度:5.22g/cm)、窒化バナジウム(VN、密度:6.13g/cm)、窒化クロム(CrN、密度6.51g/cm)、窒化ジルコニウム(ZrN、密度:7.09g/cm)、窒化ニオブ(NbN、密度8.47g/cm)、窒化タンタル(TaN、密度14.36g/cm)などが挙げられる。ここで記述する数値は、概算であり、算出法の違いによる多少の数値の差異は問題とはならない。また、金属元素に対する窒素の比率についても、厳密な分子式の比率のみである必要はなく、物質として窒素の過剰・空孔などが存在していても良い。また、いわゆる不純物として、他元素が含まれていることを排除しない。
【0019】
共晶系酸化物も、共晶系であれば、種類は制限されない。ここで、共晶について、説明する。共晶系とは、無機材料X、Yの2元系(材料X、Y等は化合物であっても良い)の平衡状態図において、XとYの中間的な組成において化合物が存在せず、ある一定の組成比において融点がそれぞれの材料の融点よりも低くなる材料系である。その時、融点が最も低くなる時の材料比率を共晶組成、その融点を共晶温度という。また、2元系のみならず、多元系においても共晶系が存在する。
【0020】
また、一般的には、2つの物質間における共晶点の組成を共晶組成と呼ぶが、本発明のようにレーザー光を用いて焼結ないし熔融を行う場合には、凝固時の速度が非常に速いため、共晶組織を呈する組成範囲が広がることが知られている。従って、本発明における共晶組成とは、共晶点を中心にある程度の幅を持って定義することができ、共晶点から±10%の組成範囲が含まれる。
【0021】
共晶系酸化物の構成材料には、B、Mg、Al,Si,Ca、Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Ba,Hf,Ya,W,Pb,Bi,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luそれぞれの酸化物からなる群より選択される酸化物を含有していることが好ましい。また、これら2種以上の元素で構成される複合酸化物が含有されていることも好ましい。さらには、汎用的なセラミックスを用いるという観点で酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムのいずれかを含有していることがより好ましい。
【0022】
構造物の機械的強度を向上させるという観点からは、複合酸化物を添加することが好ましく、共晶系酸化物の場合は材料の安定性の点で希土類酸化物を含んでいることが好ましい。共晶系酸化物として酸化アルミニウムを含んでいる場合、酸化アルミニウムの他に、酸化アルミニウムと希土類酸化物との複合酸化物(化合物)を含むことが好ましい。複合化合物の添加による効果は、2成分の共晶系のみならず、3成分以上の共晶系においても同様に得られる。具体例としては、酸化アルミニウムと、酸化ガドリニウムと酸化アルミニウムとの複合酸化物(GdAlO)とを含む系、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウムと、酸化ガドリニウムと酸化アルミニウムとの複合酸化物とを含む系が挙げられる。
【0023】
また、造形性の観点から、レーザー光に対して吸収能のある吸収体がさらに含まれていることが好ましく、吸収体の組成として、共晶系を構成する材料の一つとしても成立する、TbやPr11等が挙げられる。ただし、共晶系を構成せずとも、吸収能を有する材料であれば、有機、無機材料の制限なく添加されていてもよい。
【0024】
吸収体として好適な金属酸化物の一例である、テルビウム酸化物について詳細に説明する。テルビウム酸化物は多様な状態をとる酸化物であり、代表的な状態としてTbとTbとがある。分子式では、Tbという表記であるが、厳密に4:7であることに限定されない。このとき、TbはTb4+とTb3+が半数ずつで構成される物質であるが、TbではTb3+のみから構成される。このTbの高い赤外吸収率は、Nd:YAGレーザーの1070nm付近で顕著であり、60%を超え70%に達する場合もある。一方で、Tb4+が少しずつ減少していくと吸収率は低下していき、Tb3+のみで構成されるTb状態では7%程度となり、価数4+のテルビウムの減少と吸収率の低下との相関は明らかである。従って、4価のテルビウムを含む酸化テルビウム(Tb)は本発明を実現する吸収体として好ましく、本発明にかかる付加造形用の無機材料粉末の一組成物として好適である。
【0025】
次に、組成物の具体例について記述する。最も汎用的なセラミックスとしてアルミナ(Al)が知られている。そして三次元造形に適した粉末として、アルミナ共晶系酸化物があげられる。そこで、アルミナ共晶系酸化物である、Al-Gd系(組成比は、Al:49.1wt%、Gd:50.9wt%)とAl-Y系(組成比は、Al:62.7wt%、Y:37.3wt%)のそれぞれについて、本発明の成立要件を確認した。
【0026】
図3に示すように、本発明で得られる構造物は、窒化物領域31と共晶系酸化物領域32とから構成される。ここでの具体例では、共晶系酸化物領域32として、Al-Gd系ではAlとGdAlOが析出し、Al-Y系ではAlとYAlOが析出している。Al-Y系は、AlとYAl12が析出する組成に調整することもできる。
【0027】
なお、共晶系酸化物領域(酸化物領域)32の共晶組織といえば、一般的には結晶状態を指すが、本発明においてはアモルファス状態が一部または全部を占めている状態を含む。必要であれば、造形後に熱処理を行い、所望の組織形態になるよう再結晶化させることもできる。
【0028】
上記の組成に対して、Al-Gd系の平均密度は約5.72g/cmで、Al-Y系の平均密度は約4.28g/cmと算出される。ただし、ここで記述する数値は、概算であり算出法の違いによる多少の数値の差異は問題とはならない。Alの密度は約3.96g/cmであるから、各共晶系酸化物の密度は相対的に大きくなっていることが明らかである。
【0029】
Al-Gd系において、窒化物の添加により構造物の密度が低減するのは、前述した窒化物のうち、Al-Gd系よりも密度の低いh-BN、AlN、Si、TiNのいずれかで窒化物領域31が構成される場合である。また、Al-Y系では、Al-Y系よりも密度の低いh-BN、AlN、Siのいずれかで窒化物領域31が構成される場合である。さらに、これらの共晶系酸化物の系において、構造物の密度をAlの密度に近づけるためには、いずれの系の場合も、Alより密度が小さいh-BN、AlN、Siのいずれかを添加するとよい。
【0030】
このような観点から、窒化物の添加においては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素の少なくとも1種を用いることが好ましい。共晶系酸化物に対する窒化物の添加濃度については後述する。
【0031】
(粉末)
粉末を構成する粒子の種類は複数あるため、順に説明する。
まず、粉末が各組成物単体からなる粒子を含んでいる場合がある。例えば、粉末がAl、Gd、Tb(吸収体)、AlNの4種類の組成物で構成されている場合、Al粒子、Gd粒子、Tb粒子、AlN粒子がそれぞれ存在し、それらの混合物として粉末が構成されている場合である。
【0032】
また、粉末が複数の組成物からなる粒子を含んでいる場合がある。例えば、粉末が、Al、Gd、Tb、AlNの4種類の組成物で構成されている場合、Al-Gd-Tb-AlNからなる1種類の粒子のみで構成されていてもよい。あるいは、Al-Gd粒子とTb粒子とAlN粒子とから構成されている場合のように、Al-Gdが同一粒子を構成しているような状態であってもよい。この場合、Al-Gd粒子の一部または全部が、AlとGdとが反応した、Al-GdAlO粒子で構成されていることも好ましい。
【0033】
吸収体を他の組成物と同じ粒子に含有させて構成しようとすると、吸収能を失った状態になってしまう場合がある。具体的には、吸収体の一例であるTbを、他の組成物と同じ粒子に含有させようとすると、Tb状態を維持することができずTbへ変化してしまう場合がある。従って、吸収体である組成物は、他の組成物がどのような状態であっても、単独で粒子を構成している状況が好ましい。
【0034】
同様に、窒化物も他の酸化物材料と同一粒を構成しようとすると、製造過程で分解・反応する可能性があるため、単独で構成することが好ましい。ただし、窒化物の粒子には、製造過程で焼結助剤として、微量のAlやY等が添加されている場合もある。窒化物単一で粒子を構成する場合であっても、わずかに焼結助剤を含有している状態は許容される。
【0035】
一方で、粉末は、どのような組成物から構成されるかという点以外に、粉末床熔融結合法でリコーターを用いて粉末ベッド層を構成する場面や、クラッディング法におけるノズルから粉末を噴出する場面では、その流動性が重要である。粒子が球形であると、十分な流動性を確保しやすくなるため、好ましい。よって、粉末全体における球形の粉末割合が60%を超えるように各粒子の形状を調整するのが好ましい。ただし、上記流動性指標を満たせば、球形であることは必須ではない
【0036】
また、粉末は、平均粒子径が1μm以上、500μm以下の範囲の各種粉末から選択されるとよく、好ましくは、1μm以上、100μm以下の範囲から選択されるとよい。平均粒子径が1μm以上500μm以下であることで、粉末層形成時の粒子の凝集が抑えられ、欠陥の少ない層形成が容易になり、レーザー光の照射によって効率よく熔融することが可能となる。
【0037】
以上の観点に加え、窒化物の添加によって構造物の密度を低減させるためには、構造物内の窒化物領域が、窒化物としての特性を維持していることが重要である。そのため、構造物内の窒化物領域の平均直径は5μm以上であることが好ましい。造形は、窒化物の分解温度以下で行われるので、窒化物粒子がほぼそのままの状態で構造物内に存在することになるため、窒化物粒子の平均粒子径が5μm以上であることが好ましく、球形であることも好ましい。ただしh-BN等の層状物質の場合には、薄片状でもすべりがよいため、そのままの状態で用いても良い。以上の理由から、窒化物粒子の平均粒子径は、5μm以上500μm以下が好ましく、5μm以上100μm以下がより好ましい。
【0038】
このような窒化物を含む粉末を用いて造形し、共晶系酸化物の中に窒化物が介在する構造物が得られれば、構造物の密度が低下し、本発明が成立する。特に、構造物の窒化物領域の平均直径が5μm程度の多結晶体として残存していることが好ましい。これにより、窒化物固有の物性が維持されやすくなる。ここで、構造物の窒化物領域の平均直径は、構造物の断面の画像を100μm×100μm以上の面積で取得し、取得した画像に対して、MathWorks社製の画像処理ソフト(商品名:MATLAB)を用いて解析することによって算出することができる。
【0039】
窒化物は、酸化物に比べて熱伝導率が高く、熱膨張率が低いという物性的特徴を有する。酸化物系のみからなる構造物は、熱応力によって欠けたり、マイクロクラックが発生したりする場合があり得るが、構造物が窒化物を含有することによって、耐熱衝撃性が良好となり、構造物の強度や出来上がり品質が向上する。したがって、本発明では、密度低下に寄与しない窒化物であっても、これらの効果を期待して添加することも好ましい。
【0040】
レーザー照射部の粉末を均一に熔融するためには、レーザー焦点サイズ内に少なくとも吸収体粒子が2つ以上含まれる状態がより好ましい。吸収体の粒子間隔は100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。また、このような状況が実現できるように、レーザー焦点サイズを調整することも好ましい。造形精度の観点から、レーザー焦点サイズの上限を100μmと想定すると、吸収体の粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、粉末中の吸収体の分散性や、高充填密度の観点から、吸収体の粒径は、相対的に細かい粒径であることが好ましい。したがって、吸収体を構成する組成物の粒子径(particle size)は、その他の組成物群を構成する最も大きな平均粒子径を有する組成物の平均粒子径の1/5以下であることが好ましい。前述したように吸収体の粒子径は1μm以上10μm以下であることが好ましいから、吸収体以外の組成物の粒径は、5μm以上で、かつ上記条件を満たすことが重要である。
【0041】
本発明における、セラミックス造形用の無機材料粉末に関しては、共晶系酸化物、窒化物、吸収体について、その組成や粒子構成について記述してきたが、それら粉末の結晶性については問わない。粉末は、全部が結晶であっても、全部が非晶質であってもよく、結晶と非晶質の混合であってもよい。また、粉末と構造物の間で組成が完全に一致する必要もなく、特に酸化状態や窒化状態などの違いがあってもよい。したがって、本発明ではレーザープロセス中の雰囲気を制御することも許容される。
【0042】
特に、大気雰囲気状態のみならず、窒素やその他希ガス雰囲気という不活性状態や、一部水素含有や減圧等で還元されやすい状態、さらに酸素雰囲気とすることも好ましい。このような雰囲気制御によって、原料の無機材料粉末として一部金属状態の組成物を含むことも排除しない。
【0043】
構造物の構成として、共晶系酸化物が共晶組織を形成している中に、窒化物が介在している状態が好ましいが、アモルファス状態を含む酸化物に窒化物が介在している状態であっても良い。また、窒化物と酸化物との界面に酸窒化物が形成されていても良く、酸窒化物が単独で窒化物領域内、または共晶酸化物領域内に発生しても良い。
【0044】
(窒化物の添加による構造物の密度の低減)
Al-Gd系(組成比は、Al:49.1wt%、Gd:50.9wt%)、および、Al-Y系(組成比は、Al:62.7wt%、Y:37.3wt%)について、本発明の効果を得るための要件を確認した。これら共晶系粉末は、造形後の共晶組織としてAl-Gd系ではAlとGdAlOが析出し、Al-Y系ではAlとYAlOが析出する系となっている。
【0045】
上記の組成に対して、Al-Gd系の平均密度は約5.72g/cmで、Al-Y系の平均密度は約4.28g/cmと算出される。ただし、ここで記述する数値は概算であり、多少の数値の差異は許容される。
【0046】
ここで、アルミナ(Al)の密度は約3.96g/cmであるから、共晶系酸化物の密度は相対的に大きくなっていることが明らかである。
【0047】
本発明では、共晶系粉末から得られる構造物の密度を低減する効果を奏する窒化物を添加する。Al-Gd系では、h-BN、AlN、Si、TiNからなる群より選択される少なくとも1種の窒化物、Al-Y系に対しては、h-BN、AlN、Siからなる群より選択される少なくとも1種の窒化物を添加すればよい。Alの密度により近づけるためには、いずれの系もAlの密度よりも小さい、h-BN、AlN、Siからなる群より選択される1種以上の窒化物を添加するとよい。
【0048】
前述したような組合せで、共晶系酸化物の粉末と窒化物の粉末とを所望の割合で調整して得られる混合粉末は、粉末床熔融結合法における粉末層の形成(粉末敷き均し)が可能であることが確認できた。これは、粉末全体における球形状の粉末割合が60%を超えるように調整し、良好な流動性が得られたことにもよる。
【0049】
以上から、本発明の効果を得るためには、共晶系酸化物の平均密度より低い密度の窒化物の添加が必要である。また、好ましくはAlよりも密度の小さな窒化物、具体的には、h-BN、AlN、Siが好ましい。これらの窒化物を混合しても、粉末床熔融結合法に適した流動性を呈する粉末の調合は可能である。
【0050】
(構造物の密度)
共晶系酸化物と、共晶系酸化物の平均密度より小さい密度を有する窒化物とを含有する付加造形用の粉末を用いて造形した構造物の密度と、粉末が含有する窒化物の割合との関係について確認した。
【0051】
具体的には、Al-Gd系(組成比は、Al:49.1wt%、Gd:50.9wt%)と、h-BN、AlN、Siのいずれかとの混合比率を変えた粉末から得られる構造物の密度を算出した。構造物の密度は、粉末と構造物との間で組成の変化がないという前提で、共晶系酸化物と窒化物との重量比から算出した。結果を表1に示す。
【0052】
吸収体としてTbが一部添加された場合、得られる構造物において、Gdサイトが一部Tbで置換された状態となるが、GdとTbは原子番号が隣り合う元素であり、密度変化は軽微である。したがって、Tbを添加しない粉末から得られる構造物と、密度は同等とみなすことができる。
【0053】
【0054】
表1より、酸化アルミニウム(密度3.96g/cm)に対して、h-BN添加では10:3で密度が比較的近い値になり、1:1以上の比率のときには、より軽量化に対応できる。AlN添加では、10:3では酸化アルミニウムに対して2割程度密度が大きいが、付加造形における肉抜き、ラティス構造の適用で、重量ベースで同等にできる可能性がある。また、1:1で同等、3:10ではより軽量化に対応できる。SiはAlNと同等の挙動であり、同様の効果を得ることができる。表1の相対密度は、共晶系酸化物のみの場合(窒化物を含有しない場合)に対応するもので、軽量化度合いの指標となる。
【0055】
このように、窒化物の添加量で構造物の密度を制御することが可能である。なお、AlNについて3:10を超える添加量では、ポーラス化が促進する状況に達する場合がある。また、ポーラス構造を得る場合においても、立体構造を維持するためには少なくとも体積で10%程度の共晶系酸化物が必要であるから、0.8:5程度の比率での共晶系酸化物の存在が必要である。共晶系酸化物/窒化物の体積比で、好ましくは0.15以上6.01以下、より好ましくは0.2以上2.0以下である。
【0056】
(共晶温度と窒化物の分解の関係)
レーザー光の照射部の温度が1900℃を越えると、h-BN、AlN、Si等の窒化物の分解が造形に影響を与える場合がある。また、窒化物固有の物性を維持するためには、添加する窒化物の分解温度以下の融点を有する共晶系酸化物を用いることが好ましく、構造物中に、粉末に添加した窒化物粒子とほぼ同じ状態で存在していることが好ましい。例えば、Al-Gd共晶系の融点は約1720℃、Al-Y共晶系の融点は約1820℃であり、いずれも前述の窒化物の分解温度を下回っているため、好ましい。窒化物の分解をより抑制するためには、共晶系酸化物をさらに低融点化することが好ましい。例えば、Al-Gd-ZrOという3元共晶系(共晶組織としてはAl、GdAlO、ZrOの3種類などが可能)を用いれば、1700℃以下の融点に低下させることが可能である。
【0057】
(構造物およびその製造方法)
本発明によって得られる無機材料からなる構造物は、平均直径5μm以上100μm以下の多結晶の窒化物領域と、前記窒化物粒子間を埋める(窒化物を取り囲む)共晶組織を為す酸化物領域(以下、マトリックス部分とも記述する)から構成される。窒化物粒子は、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素のうち少なくとも1種を含み、前記酸化物領域は、酸化アルミニウムと、希土類酸化物と酸化アルミニウムの化合物とを含む共晶組織である。なお、前記窒化物粒子と前記酸化物領域のいずれかに、酸窒化物が含まれていてもよい。
【0058】
次に、構造物の製造方法の具体例について説明する。かかる製造方法は、共晶系酸化物の粒子と平均直径(平均粒子径)が5μm以上の窒化物粒子とを含む粉末を準備する工程と、粉末床熔融結合法が適用できる付加造形装置によって、厚さ5μm以上の粉末層を形成する工程と、その粉末層の少なくとも一部をレーザー光の照射により窒化物の分解温度以下で、熔融、凝固させる工程を有することを特徴としている。所望の構造物が得られるまで、粉末層を構成する工程と、三次元モデルの形状に応じてレーザーを照射して粉末を熔融し凝固させる工程とを繰り返し、造形を行う。
【0059】
(本発明の構造物を用いた半導体製造装置部品や半導体製造装置)
本発明の構造物を用いた半導体製造装置部品の一例として、中空構造を有する半導体露光装置におけるウェハチャックの支持台が挙げられる。ウェハチャックの支持台は、温度安定性を維持するための水冷流路と、ウェハチャック機構のためのエアー流路が内在したセラミックス部品であり、SiC製やAl製のものが多い。
【0060】
図4にウェハチャックの支持台の三次元モデルの概略形状を示す。図4に示すように、構造物中に中空部分を有している。このような中空流路として、水冷流路41やエアー流路42など複数系統路を含んだ複雑な部品の造形性に関しては、付加造形技術は、三次元モデルの形状データがあれば、複雑さに関係せず作製することができ、設計変更も容易であることから、最も有力な手段と言える。流路の配置は自由であるが、中空部分の断面形状に関しては、造形安定性を考慮した形状を採用することが好ましい。例えば、縦長の菱型であることも好ましい。なお、ウェハチャックの支持台には、エアー流路42と吸着面とを連通する孔を備えているが、図4では省略している。
【0061】
このような中空流路を有するウェハチャック支持台を搭載した半導体製造装置の一例としての半導体露光装置は、ウェハチャック、スライダー、スライダー駆動系(ガス・電気系統)、光源、光学系、制御システム等を組み合わせて実現することができる。
【0062】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によりなんら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
本実施例では、共晶系酸化物と、共晶系酸化物よりも密度の小さい窒化物と、を含む粉末を用い、造形条件を変えて構造物を作製した。
【0064】
まず、共晶系酸化物の粉末として、Al-Gd共晶系のGdの一部をTbとした組成物からなる粉末を用意した。具体的には、粉末の組成比は、Al:49.1wt%、Gd:46.7wt%、Tb:4.2wt%とし、Al-Gd系粉末は中央値約30μm、Tb粉末は中央値約3μmのものを用いた。TbはYAGレーザーの波長に対して高い吸収能を有するため、Tbを添加することにより、レーザー光を効率良く吸収し、レーザープロセスによる造形精度を保つことができる。組成比は、上記のようにAl:49.1wt%、Gd:46.7wt%、Tb:4.2wt%とした。ここで、GdとTbは周期律表で隣同士であり、本発明の実施例の密度や融点の値に大きな変化を与えることはない。
【0065】
上記共晶系酸化物の組成物10gに対して、AlN1gを混合した粉末を用いて、実施例1にかかる構造物を造形した。AlNの粉末は、焼結粒径の中央値が約30μmのものを用いた。造形には、3D systems社のProX DMP 100(商品名)を用いて、粉末層厚20μm、レーザーパワー20W、スキャン速度100mm/sとした。スキャンピッチ70、100、130、160μmのそれぞれにおいて、6x6mmサイズで、厚み約0.5mmの構造物を製造した。
【0066】
70μmピッチの場合は投入熱量が大きく構造物が崩れてしまったが、その他100、160μmピッチの場合には、ほぼ寸法通りの構造物が得られ、AlNの追加により吸収体の効果が阻害されることなく、表面の凹凸が少ない良好な外観であった。
【0067】
この結果から、スキャンピッチ70μmの条件では、窒化物が分解点に達したものと推測される。また、設計寸法通りに作製できた構造物の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察したところ、熔解した共晶系酸化物の内部に球形のAlNが存在していることが確認できた。
【0068】
以上の結果から、共晶系酸化物と、共晶系酸化物よりも密度の小さい窒化物と、を含む粉末を用い、レーザー光の照射部の温度が窒化物の分解温度以下となるように粉末床熔融結合法により造形を行うと共晶系酸化物と窒化物とからなる構造物が精度良く得られることが確認できた。
【0069】
[実施例2]
本実施例では、本発明の窒化物が共晶系酸化物に介在している状態について、その窒化物の種類による差異の有無の確認と、詳細な構造観察を行った。
【0070】
共晶系酸化物は、実施例1と同様のものを用い、共晶系酸化物と窒化物の混合比率を表2のように変化させた試料を作製した。実施例1で用いたのと同様の装置によって、同じ条件下で造形し、形状を保った試料を評価した。また、粉末に窒化物を添加しないで造形した試料を比較例1とした。
【0071】
【0072】
表2における、本発明1は、実施例1と同様の共晶系酸化物粉末を用い、本発明2も、実施例1と同様の共晶系酸化物粉末を用いた。本発明3は、Al(中央値が約20μm)とGd(中央値が約30μm)とTb(中央値が3μm)の3種混合状態の粉末を用い、本発明4は、Al(中央値が約3μm)とGd(中央値が約3μm)とTb(中央値が3μm)の3種混合状態の粉末を用いた。AlNは、本発明1~本発明4のいずれも、本発明1と同様の粉末(中央値が約30μm)を用いた。いずれの粉末も、流動性のある球形粒子の割合を実施例1のように粉末層が構成できるように考慮している。また、表2における「対添加前密度比率」とは、本発明1~本発明4のそれぞれについて、共晶系酸化物粉末に窒化物を添加しないで造形した試料の密度に対する、窒化物を添加して造形した試料の密度の比率をパーセントで表したものである。従って、比較例1については100%となる。
【0073】
得られた構造物は、いずれの混合比率においても、AlN粒子が共晶系酸化物に取り囲まれるように残存しており、本発明の効果が得られる状況になっていることが、光学顕微鏡によって観察することができた。また、上記のように、共晶系酸化物の粉末の状態を3種類に亘って変化させたが、いずれの場合もAlNが残存する状態を得ることができた。
【0074】
さらに、本発明4の組織を詳細に観察するために、試料断面方向から走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。試料断面のSEM像を図3に示す。図3に示すように共晶系酸化物領域32がAlとGdAlOの共晶組織領域(ライトグレーで示される)で、窒化物領域31がAlN粒子で、特に多結晶粒子(ダークグレーで示される)が点在している状況(いわゆる海島構造)を確認した。このAlN多結晶粒子は、SEM像の平均から5μm以上の粒子として介在していることが明らかになった。本発明の効果を得るためには、多結晶粒子として介在することが必ずしも必須ではないが、好ましい状態の一例として示すことができた。
【0075】
以上から、窒化物の添加量によらず、また、共晶系酸化物の粉末状態にもよらず、相対的に低密度化された構造物が得られ、所望の密度に調整することが可能であることが確認できた。
【0076】
[実施例3]
本実施例は、本発明の窒化物を添加して低密度化した構造物が部品、装置を構成することができることに関する。
【0077】
上記の実施例2における本発明2の条件において、一例として半導体露光装置におけるウェハチャックの支持台を模した造形を試みた。
【0078】
正式には300mmウェハーに対応するのであれば、Φ400mm程度のサイズであるが、造形に用いた装置(実施例2と同様の造形装置)の制約上、縮小モデルの造形を行った。図4に示すように、Φ46mm径に水冷流路41とエアー流路42の2系統の流路を内在した部品形状を得た。流路断面形状は、いずれも縦長の菱型とした。図4の上面図には、水冷流路41の系統のみ図示している。また、図4に示していないチャック面とエアー流路42との連通孔は、造形の困難さがないため、造形を省略した。
【0079】
また、本発明2の条件で得られる構造物の密度は4.87g/cm程度であり、アルミナ製の同形状の構造物よりは密度が大きい。このような場合、構造物に必要な強度を維持しつつ、三次元造形の特徴である、機械加工では難しい積極的な肉抜きやラティス構造を採用するなどの手法により、従来比で体積を低減することができる。従って、構造物全体としての部品重量を軽量化し、従来のAl製部品(密度約3.96g/cm)と同等の重量を実現することも可能である。
【0080】
このような中空流路を有するウェハチャック支持台を搭載した半導体露光装置は、ウェハチャック、スライダー、スライダー駆動系(機械・電気系統)、光源、光学系、制御システム等を組み合わせて、実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る付加造形用の粉末は、粉末床熔融結合法や、クラッディング法などの付加造形法による造形において良好な造形性が得られ、構造物の密度を低下させる特徴を活かし、軽量化が望まれる分野におけるセラミックス部品の製造に適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
11 粉末升
12 造形ステージ部
13 リコーター部
14 スキャナ部
15 レーザー
21 クラッディングノズル
22 粉末供給孔
23 レーザー
31 窒化物部分
32 共晶系酸化物部分
41 水冷流路
42 エアー流路
図1
図2
図3
図4