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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】回転電機の固定子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
H02K1/18 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018216640
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020088957
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 史晃
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 圭史
(72)【発明者】
【氏名】小番 拓也
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-327157(JP,A)
【文献】特開2018-093704(JP,A)
【文献】特開2016-086555(JP,A)
【文献】実開平04-000151(JP,U)
【文献】特開2007-236067(JP,A)
【文献】特開2011-234554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心片を複数積層させて構成され、積層方向の一端に位置する第1端面、及び、積層方向の他端に位置する第2端面を有する固定子鉄心と、
前記固定子鉄心を積層方向の両側から押える押え機構と、を具備し、
前記押え機構は、前記第1端面に当接した第1押え部材と、前記第2端面に当接した第2押え部材と、前記固定子鉄心を前記積層方向に貫通させた複数の挿通孔に1つずつ挿通され、前記第1押え部材及び前記第2押え部材を相互に締結させる複数の締結部材と、を備え、
前記第1押え部材は、互いに接触すること無く配置された複数の押え具を有し
隣り合う前記押え具の相互間には、絶縁性部材が隙間なく介在されている回転電機の固定子。
【請求項2】
鉄心片を複数積層させて構成され、積層方向の一端に位置する第1端面、及び、積層方向の他端に位置する第2端面を有する固定子鉄心と、
前記固定子鉄心を積層方向の両側から押える押え機構と、を具備し、
前記押え機構は、前記第1端面に当接した第1押え部材と、前記第2端面に当接した第2押え部材と、前記固定子鉄心を前記積層方向に貫通させた複数の挿通孔に1つずつ挿通され、前記第1押え部材及び前記第2押え部材を相互に締結させる複数の締結部材と、を備え、
前記第1押え部材は、互いに接触すること無く配置された複数の押え具を有し、
前記押え具には、単数の前記締結部材が連結され
隣り合う前記押え具の相互間には、絶縁性部材が隙間なく介在されている回転電機の固定子。
【請求項3】
前記押え具の少なくとも1つには、複数の前記締結部材が連結され、
前記積層方向と直交する前記固定子鉄心の横断面において、前記押え具に連結された複数の前記締結部材のうち隣り合う2つの前記締結部材の断面中心と前記固定子鉄心の中心軸線とを結んで構成される中心角は、一方の前記締結部材の前記断面中心と前記固定子鉄心の前記中心軸線とを結ぶ第1辺と、他方の前記締結部材の前記断面中心と前記固定子鉄心の前記中心軸線とを結ぶ第2辺との間に、前記中心軸線の周りに配置された偶数個の永久磁石が介在されるように設定されている請求項1に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
前記押え具は、
前記固定子鉄心の前記第1端面に当接する当接部と、
前記固定子鉄心の外周面に対向しつつ前記積層方向に延出された延出部と、を有している請求項1又は2に記載の回転電機の固定子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機の固定子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の固定子は、永久磁石を備えた回転子を回転可能に囲繞する固定子鉄心を有している。固定子鉄心は、薄板状を有する複数の鉄心片を積層させ、その積層方向両側に配置させた押え板をボルト(締結部材)で相互に締結させて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4220324号公報
【文献】特開2007-236067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄心片は、磁性鋼板を打ち抜いて形成され、その表面には絶縁処理が施されている。一方、押え板及びボルトは、導電性を有する導体で形成されている。このため、回転子の回転に際し、ボルトと押え板とから成る閉回路に磁束が鎖交すると、当該閉回路に起電力が誘起されて誘導電流、即ち、渦電流が流れる。渦電流が流れると、導体の持つ抵抗によってジュール熱が生じ、その結果、渦電流損が発生する。
【0005】
そこで、ボルトと押え板とから成る閉回路に対する鎖交磁束をゼロにする方法が提案されている。しかし、この方法では、ボルトの配置の自由度が制限されるため、積層させた鉄心片を締結させる際の締結強度を一定に維持することが困難になってしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、締結部材の配置の自由度を確保しつつ、渦電流の発生を防止する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の固定子は、固定子鉄心と、固定子鉄心を積層方向の両側から押える押え機構(第1押え部材、第2押え部材)と、を具備し、第1押え部材は、互いに接触すること無く配置された複数の押え具を有している。隣り合う押え具の相互間には、絶縁性部材が隙間なく介在されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る回転電機の固定子の斜視図。
図2図1のF2側から見た平面図。
図3図1のF3側から見た平面図。
図4】従来技術に係る渦電流損の特性を示す図。
図5】本実施形態に係る渦電流損の特性を示す図。
図6】第2実施形態に係る回転電機の固定子の平面図。
図7】第3実施形態に係る回転電機の固定子の斜視図。
図8】第4実施形態に係る回転電機の固定子の平面図。
図9】第5実施形態に係る回転電機の固定子の平面図。
図10】第6実施形態に係る回転電機の固定子の平面図。
図11】第7実施形態に係る回転電機の固定子の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態に係る回転電機の固定子1の斜視図である。本実施形態の回転電機の種類には、インナーロータ式、或いは、アウターロータ式が含まれる。インナーロータ式回転電機は、固定子1の内側に回転子2が回転可能に配置されている。一方、アウターロータ式回転電機は、固定子の外側に回転子が回転可能に配置されている。以下では一例として、インナーロータ式回転電機について説明する。
【0010】
図1に示すように、インナーロータ式回転電機において、固定子1は、中心軸線3に対して同心円状に構成され、その直径が一定に設定された円筒形の外周面を有している。回回転子2は、その直径が一定に設定された円筒形を有している。図1の例において、回転子2は、その回転中心を中心軸線3に一致させて配置され、12個の永久磁石4を備えている。これらの永久磁石4は、S極とN極が交互に固定子1の内周に対向するように、中心軸線3の周りに等間隔で配置されている。
【0011】
固定子1は、固定子鉄心5と、コイル6と、押え機構と、を有している。固定子鉄心5は、複数のティース7と、複数のスロット8と、を備えている。ティース7は、固定子1の内周に沿って等間隔に構成されている。スロット8は、ティース7の相互間に構成されている。図1の例において、ティース7並びにスロット8は、それぞれ、周方向に沿って等間隔で12個配置されている。これらティース7及びスロット8に、コイル6が装着されている。コイル6は、絶縁被覆された電線であり、スロット8を通してティース7に巻き付けられている。
【0012】
固定子鉄心5は、複数の鉄心片5pを積層させて構成されている。固定子鉄心5は、積層方向の一端に位置する第1端面M1と、積層方向の他端に位置する第2端面M2と、を有する。また、押え機構は、固定子鉄心5を積層方向の両側から押えるために、第1押え部材と、第2押え部材と、複数の締結部材11と、を有している。この場合、第1押え部材は、固定子鉄心5の第1端面M1に当接されている。第2押え部材は、固定子鉄心5の第2端面M2に当接される。かくして、固定子鉄心5は、積層方向両端M1,M2に配置させた第1押え部材及び第2押え部材を締結部材11で相互に締結させて一体化されている。なお、第1押え部材及び第2押え部材、並びに、締結部材11は、導電性を有する導体(例えば、鉄)で形成されている。
【0013】
鉄心片5pは、薄板状の電磁鋼板を打ち抜いて形成されている。打ち抜き形成された各鉄心片5pには、その表面全体に亘って絶縁処理が施されている。図1の例において、鉄心片5pの外形輪郭は、円形を有している。このため、かかる鉄心片5pを複数積層させた固定子鉄心5は、円筒形の外周輪郭を有している。なお、鉄心片5pの積層方向は、上記した中心軸線3方向に一致している。
【0014】
締結部材11は、その両端部(一端部、他端部)が第1押え部材及び第2押え部材に連結されている。ここでは連結方法の一例として、固定子鉄心5に設けられた挿通孔5hに締結部材11を1つずつ挿通し、当該締結部材11の両端部を第1押え部材及び第2押え部材に連結させる。挿通孔5hは、固定子鉄心5(複数の鉄心片5p)の外縁(例えば、ヨーク部5a)を積層方向(中心軸線3方向)に貫通させて形成されている。挿通孔5hの内径は、締結部材11の外径よりも大きく設定されている。これにより、締結部材11を、挿通孔5hに接触させること無く挿通させることが可能となる。
【0015】
図1の例において、締結部材11として、両端部にネジ(図示しない)が切られたボルトが適用されている。挿通孔5hに挿通した締結部材(ボルト)11が、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿って等間隔に4本配置されている。各締結部材(ボルト)11は、その両端部が第1押え部材及び第2押え部材に連結されている。これにより、第1押え部材及び第2押え部材が相互に締結される。かくして、複数の鉄心片5pが積層方向に締め付けられて一体化された固定子鉄心5が構成される。
【0016】
固定子鉄心5の第1端面M1に当接された第1押え部材は、複数の第1押え具9を有している。これらの第1押え具9は、互いに接触すること無く、互いに間隔を存して配置されている。一方、固定子鉄心5の第2端面M2に当接された第2押え部材は、1つの第2押え具10を有している。当該第2押え具10は、単体のものとして、連続させて一体的に構成されている。この場合、固定子鉄心5の積層方向の両端(第1端面M1、第2端面M2)の双方に、第1押え具9と同様の配置構成を適用してもよい。
【0017】
図2は、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における第1押え具9の配置構成図である。図2に示すように、第1押え具9は、同一の形状及び大きさを有し、4本の締結部材(ボルト)11と同数配置されている。図2では一例として、第1押え具9は、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿った曲率を有する円弧形ないしアーチ形を成している。かかる第1押え具9には、第1貫通孔(図示しない)が1つ設けられている。第1貫通孔は、第1押え具9を中心軸線3方向に沿って貫通させて形成されている。第1貫通孔は、締結部材(ボルト)11の一端部を挿通させることが可能に構成されている。
【0018】
ここで、例えば、締結部材(ボルト)11を挿通孔5h(図1参照)に通す。更に、締結部材(ボルト)11の一端部を第1貫通孔に通す。この状態において、締結部材(ボルト)11の一端部(例えば、ネジが切られたネジ部)が、第1貫通孔を超えて第1押え具9から突出する。その突出したネジ部(即ち、締結部材(ボルト)11の一端部)に第1ナット12を螺合させて締め込む。これにより、1つ(単数)の締結部材(ボルト)11の一端部(ネジ部)が、1つの第1押え具9に連結される。
【0019】
図3は、固定子鉄心5(固定子1)の第2端面M2における第2押え具10の配置構成図である。図3に示すように、第2押え具10は、4本の締結部材(ボルト)11の他端部が一括して連結されるように構成されている。図3では一例として、第2押え具10は、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿った曲率を有する中空円形ないしリング形を成している。かかる第2押え具10には、第2貫通孔(図示しない)が4つ設けられている。第2貫通孔は、第2押え具10に沿って等間隔で配置されている。第2貫通孔は、第2押え具10を中心軸線3方向に沿って貫通させて形成されている。第2貫通孔は、締結部材(ボルト)11の他端部を挿通させることが可能に構成されている。
【0020】
ここで、例えば、締結部材(ボルト)11を挿通孔5h(図1参照)に通す。更に、締結部材(ボルト)11の他端部を第2貫通孔に通す。この状態において、締結部材(ボルト)11の他端部(例えば、ネジが切られたネジ部)が、第2貫通孔を超えて第2押え具10から突出する。その突出したネジ部(即ち、締結部材(ボルト)11の他端部)に第2ナット13を螺合させて締め込む。これにより、4つの締結部材(ボルト)11の他端部(ネジ部)が、一括して、第2押え具10に連結される。
【0021】
更に、上記した連結方法において、第1ナット12及び第2ナット13を締め込む。このとき、第1押え具9が、固定子鉄心5の第1端面M1に向けて押圧される。第2押え具10が、固定子鉄心5の第2端面M2に向けて押圧される。換言すると、第1押え具9と第2押え具10とが、互いに接近する方向に押圧される。これにより、押え具(第1押え具9、第2押え具10)が締結部材(ボルト)11で相互に締結される。この結果、複数の鉄心片5pが、積層方向に締め付けられて一体化される。かくして、図1に示すような固定子鉄心5(固定子1)が実現される。
【0022】
図4及び図5は、回転電機の動作において、単位時間(S)あたりの渦電流損(W)の評価試験の結果を示す図である。評価試験では、本実施形態の固定子1を備えた回転電機、並びに、従来の固定子を備えた回転電機を用意する。そして、互いに同一の環境及び条件にて、双方の回転電機を動作させた。例えば、常温の環境下において、回転電機を毎分200回転させる。そのときに生じるジュール熱を測定する。その測定結果から渦電流損を演算する。
【0023】
図4には、従来の構成に係る渦電流損(W)と時間(S)との関係が示されている。従来の構成の場合、締結部材(ボルト)14a並びに押え具14bの双方について、渦電流損が発生していることが分かる。一方、図5には、本実施形態の構成に係る渦電流損(W)と時間(S)との関係が示されている。本実施形態の構成の場合、締結部材(ボルト)15aについて、僅かな渦電流損が発生しているものの、押え具15bについては、まったく渦電流損が発生していないことが分かる。
【0024】
以上、第1実施形態によれば、固定子鉄心5の第1端面M1において、複数の第1押え具9を、互いに接触させること無く配置させる。更に、各第1押え具9に、1つ(単数)の締結部材(ボルト)11を連結させる。これにより、隣り合う締結部材(ボルト)11と、押え部材(第1押え具9、第2押え具10)とで構成される回路の一部が分断された状態となる。この場合、回転電機の動作に際し、当該回路に渦電流が流れることは無い。このため、渦電流損の発生が抑制される。この結果、定格運転した場合の効率を0.1%程度向上させることができる。かくして、締結部材(ボルト)11の配置の自由度を向上させることができる。よって、押え具9,10を相互に締結させる際の締結強度を一定に維持することができる。
【0025】
「第2実施形態」
図6は、第2実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。図6に示すように、第1端面M1には、第1押え具9と、絶縁性部材16と、が配置されている。第1押え具9は、第1端面M1の周方向に等間隔で4つ配置されている。絶縁性部材16は、隣り合う第1押え具9の相互間に隙間なく介在されている。絶縁性部材16は、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿った曲率を有する円弧形ないしアーチ形を成している。なお、絶縁性部材16は、例えば、絶縁性ないし非導電性の材料(例えば、樹脂材料)で成形可能である。
【0026】
以上、第2実施形態によれば、各第1押え具9は、その両側から絶縁性部材16で支持されている。これにより、当該第1押え具9が、締結部材(ボルト)11の一端部を中心に回動しようとした際、第1押え具9は、絶縁性部材16によって常に挟持される。このため、第1押え具9が、締結部材(ボルト)11の一端部を中心に回動することは無い。即ち、第1押え具9は、その姿勢が常に一定に維持される。この結果、押え具9,10による締結強度を一定に維持することができる。なお、その他の構成・効果は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9及び絶縁性部材16と同様の配置構成を適用してもよい。
【0027】
「第3実施形態」
図7は、第3実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。図7に示すように、第1端面M1には、第1押え具9が周方向に沿って等間隔で4つ配置されている。第1押え具9は、当接部17aと、延出部17bと、を有している。当接部17aは、固定子鉄心5の第1端面M1に当接している。延出部17bは、当接部17aから連続し、固定子鉄心5の外周面に対向しつつ積層方向(中心軸線3方向)に延出されている。ここで、延出部17bと固定子鉄心5とは、その間に隙間を持たせてもよいし、相互に接触させてもよい。
【0028】
以上、第3実施形態によれば、当接部17aから連続した延出部17bが、固定子鉄心5の外周面に対向しつつ積層方向(中心軸線3方向)に延出されている。これにより、第1押え具9が、締結部材(ボルト)11の一端部を中心に回動しようとした際、延出部17bは、その回動を阻止するストッパとしての機能を発揮する。このため、第1押え具9が、締結部材(ボルト)11の一端部を中心に回動することは無い。
【0029】
更に、第3実施形態によれば、当接部17aから延出部17bを延在させたことで、第1押え具9の剛性(強度)を向上させることができる。なお、その他の構成・効果は、上記した第1及び第2実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9(即ち、当接部17a、延出部17b)と同様の配置構成を適用してもよい。
【0030】
「第4実施形態」
図8は、第4実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。図8に示すように、第1端面M1には、第1押え具9が周方向に沿って等間隔で3つ配置されている。各第1押え具9には、複数の締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。図8では一例として、挿通孔5h(図1参照)に挿通された締結部材(ボルト)11が、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿って等間隔に6本配置されている。各第1押え具9は、同一の形状及び大きさを有し、1つの第1押え具9に対して2つの締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。
【0031】
この場合、第1押え具9は、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿った曲率を有する円弧形ないしアーチ形を成している。かかる第1押え具9には、第1貫通孔(図示しない)が2つ設けられている。第1貫通孔は、第1押え具9を中心軸線3方向に沿って貫通させて形成されている。第1貫通孔は、締結部材(ボルト)11の一端部を挿通させることが可能に構成されている。なお、第1押え具9に対する締結部材(ボルト)11の連結方法は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0032】
ところで、各々の第1押え具9に着目すると、当該第1押え具9と第2押え具10とが2つの締結部材(ボルト)11で連結された閉回路が構成される。そうすると、回転子2の回転に際し、当該閉回路に磁束が鎖交すると、当該閉回路に起電力が誘起されて誘導電流、即ち、渦電流が流れる虞がある。そこで、本実施形態において、当該閉回路には、渦電流の発生を防止する構造が施されている。
【0033】
即ち、積層方向(中心軸線3方向)と直交する固定子鉄心5及び2つの締結部材(ボルト)11の横断面を想定する。更に、この横断面において、第1押え具9に連結された2つの締結部材(ボルト)11の断面中心と、固定子鉄心5の中心軸線3とを結んで構成される中心角θnを想定する。ここで、一方の締結部材(ボルト)11の断面中心と固定子鉄心5の中心軸線3とを結んだ第1辺、並びに、他方の締結部材(ボルト)11の断面中心と固定子鉄心5の中心軸線3とを結んだ第2辺を規定する。この場合、中心角θnは、第1辺と第2辺との間に、中心軸線3の周りに配置された偶数個の永久磁石4が介在されるように設定されている。
【0034】
別の捉え方をすると、第1押え具9に連結された2つの締結部材(ボルト)11において、中心軸線3を中心に、締結部材(ボルト)11の相互間の成す中心角θnは、永久磁石4の2個分(2極分)の成す中心角の整数倍に設定されている。図8の例において、中心角θnは、永久磁石4の2個分(2極分)の中心角に一致させている。このような構造によれば、当該閉回路に渦電流が流れることは無い。
【0035】
ここで、上記した閉回路に渦電流が流れないこと、即ち、鎖交磁束量Ψc(t)がゼロになることについて説明する。なお、鎖交磁束量とは、回転磁界により生じる磁束が磁束鎖交面を鎖交する量を指す。回転磁界は、上記したコイル6に通電することで発生する。磁束鎖交面は、例えば、上記した2つの締結部材(ボルト)11の相互間に構成される円弧状曲面を指す。更に、上記した挿通孔5h(図1参照)に1つの締結部材(ボルト)11が挿通された状態において、当該締結部材(ボルト)11の断面中心と、挿通孔5hの断面中心は、互いに一致しているものとする。
【0036】
鎖交磁束量は、以下の(1)式で演算される。
【数1】

(1)式において、Dは、中心軸線3から挿通孔5h(締結部材(ボルト)11)の断面中心までの距離を指す。θnは、隣り合う挿通孔5h(締結部材(ボルト)11)の断面中心相互間の成す中心角を指す。Lは、中心軸線3方向における全長を指す。
【0037】
ここで、B(θ、t)は、簡易的に以下の関係式で表すことができる。
【数2】
【0038】
(2)式において、ωは、回転磁界の回転角速度を指す。pは、回転電機の極対数を指す。ここで、(2)式を(1)式に代入して整理する。以下の(3)式が得られる。
【数3】
【0039】
この(3)式を用いて、鎖交磁束量Ψc(t)がゼロになるθnの条件を求める。条件は、θn=(2π/p)×nとなる。これは、θnが、永久磁石4の2個分(2極分)の成す中心角θnの整数倍であるときに、鎖交磁束量Ψc(t)がゼロになることを意味する。なお、鎖交磁束量Ψc(t)がゼロにならない場合、ファラデーの電磁誘導の法則により、d×Ψc(t)/dtに相当する誘導電流、即ち、渦電流が流れる。
【0040】
以上、第4実施形態によれば、第1押え具9に連結された複数の締結部材(ボルト)11において、隣り合う締結部材(ボルト)11の相互間の成す中心角θnを、永久磁石4の2個分(2極分)の成す中心角の整数倍に設定する。このとき、鎖交磁束量Ψc(t)がゼロになる。これにより、第1押え具9と第2押え具10を2つの締結部材(ボルト)11で連結した閉回路に渦電流が流れることは無い。
【0041】
更に、互いに接触すること無く配置された第1押え具9同士において、締結部材(ボルト)11の相互の間隔が問題になることも無い。この結果、締結部材(ボルト)11の配置の自由度を向上させることができる。かくして、押え具9,10を相互に締結させる際の締結強度を一定に維持することができる。
【0042】
更に、第4実施形態によれば、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1において、第1押え具9を、複数の締結部材(ボルト)11で連結させることができる。この場合、第1押え具9は、その両側が常に支持された状態となる。これにより、第1押え具9が、回動することは無い。なお、その他の構成・効果は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9と同様の配置構成を適用してもよい。
【0043】
「第5実施形態」
図9は、第5実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。上記した第1実施形態(図1図2)では、円筒形の外周輪郭を有する固定子鉄心5(固定子1)を想定したが、これに代えて、複数の曲率を有する多角形の固定子鉄心5(固定子1)としてもよい。図9では一例として、四角形の外周輪郭となる曲率を有する固定子鉄心5(固定子1)が示されている。
【0044】
以上、第5実施形態によれば、固定子鉄心5(固定子1)の各辺が、直線状に延在される。このため、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿って配置させる第1押え具9の輪郭を、シンプルな矩形の直方体ないし立方体とすることができる。これにより、第1押え具9の製造に要する手間や費用を削減することができる。この結果、固定子鉄心5(固定子1)のコストを低減させることができる。
【0045】
なお、第5実施形態の第1押え具9に対して、上記した第3実施形態(図7参照)と同様の構成(即ち、当接部17a、延出部17b)を適用してもよい。その他の構成・効果は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9と同様の配置構成を適用してもよい。
【0046】
「第6実施形態」
図10は、第6実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。第6実施形態の固定子鉄心5(固定子1)の外周輪郭は、上記した第5実施形態(図9参照)と同様に、複数の曲率を有する多角形を成している。図10では一例として、四角形の外周輪郭となる曲率を有する固定子鉄心5(固定子1)が示されている。
【0047】
更に、本実施形態の第1押え具9も、上記した第5実施形態と同様に、互いに接触すること無く配置されている。各第1押え具9には、複数の締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。この場合、本実施形態の第1押え具9は、その輪郭がシンプルな矩形の直方体ないし立方体として構成されている。
【0048】
図10の例において、挿通孔5h(図1参照)に挿通された締結部材(ボルト)11が、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿って8本配置されている。第1押え具9は、同一の形状及び大きさを有し、四角形を成す第1端面M1の各辺に沿って1つずつ配置されている。1つの第1押え具9には、2つの締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。なお、第1押え具9に対する締結部材(ボルト)11の連結方法は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0049】
以上、第6実施形態によれば、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1において、第1押え具9を、複数の締結部材(ボルト)11で連結させることができる。この場合、第1押え具9は、その両側が常に支持された状態となる。これにより、第1押え具9が、回動することは無い。なお、その他の構成・効果は、上記した第1及び第8実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9と同様の配置構成を適用してもよい。
【0050】
「第7実施形態」
図11は、第7実施形態において、固定子鉄心5(固定子1)の第1端面M1における配置構成図である。第7実施形態では、上記した第1実施形態(図1図2)と第4実施形態(図8)の組み合わせに係る第1押え具9の配置構成を想定する。即ち、第1端面M1において、複数の第1押え具9は、互いに接触すること無く配置されている。
【0051】
これら複数の第1押え具9のうち、一部の押え具9には、1つ(単数)の締結部材(ボルト)11が連結され、残りの押え具9には、複数の締結部材(ボルト)11が連結されている。この場合、残りの第1押え具9に連結された複数の締結部材(ボルト)11において、上記した中心角θnは、永久磁石4の2個分(2極分)の成す中心角の整数倍に設定されている。
【0052】
図11では一例として、挿通孔5h(図1参照)に挿通された締結部材(ボルト)11が、固定子鉄心5の外縁(ヨーク部5a)に沿って5本配置されている。第1押え具9は、周方向に沿って4つ配置されている。これら4つの第1押え具9のうち、3つは同一の形状及び大きさを有し、残りの1つは比較的長尺に成形されている。長尺の第1押え具9には、2つの締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。そして、他の3つの第1押え具9には、1つ(単数)の締結部材(ボルト)11の一端部が連結されている。なお、第1押え具9に対する締結部材(ボルト)11の連結方法は、上記した第1実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0053】
以上、第7実施形態によれば、上記した第1及び第4実施形態と同様に、締結部材(ボルト)11の配置の自由度を向上させることができる。これにより、押え具9,10を相互に締結させる際の締結強度を一定に維持することができる。なお、その他の構成・効果は、上記した第1及び第4実施形態と同様であるため、その説明は省略する。この場合、固定子鉄心5(固定子1)の積層方向両端M1,M2の双方に、上記した第1押え具9と同様の配置構成を適用してもよい。
【0054】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1…固定子、2…回転子、3…回転軸、4…永久磁石、5…固定子鉄心、5p…鉄心片、
6…コイル、7…ティース、8…スロット、9…第1押え具、10…第2押え具、
11…締結部材、12…第1ナット、13…第2ナット、16…絶縁性部材、
17a…当接部、17b…延出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11