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特許7191656成型用基材不織布及びこれによって得られる成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】成型用基材不織布及びこれによって得られる成型体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20221212BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20221212BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20221212BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20221212BHJP
   D04H 3/009 20120101ALI20221212BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20221212BHJP
   B62D 29/04 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B27/36
B32B27/32 Z
D04H3/16
D04H3/009
D04H1/435
B62D29/04 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018219320
(22)【出願日】2018-11-22
(65)【公開番号】P2020055281
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2017226429
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018098959
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018186811
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 正樹
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-047628(JP,A)
【文献】特開2005-226178(JP,A)
【文献】特開平09-109307(JP,A)
【文献】特開2013-032609(JP,A)
【文献】特開2006-160237(JP,A)
【文献】特開2013-007138(JP,A)
【文献】特開2013-209659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
D04H1/00-18/04
D06M17/00-17/10
B62D17/00-29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱成型により所定形状に成型するための成型用基材不織布であって、前記成型用基材不織布は、少なくともポリエステル系樹脂からなる長繊維不織布層とポリエステル系樹脂からなる短繊維不織布層との2層構造を有し、前記長繊維不織布層と前記短繊維不織布層との界面近傍に流動固化した無延伸ポリプロピレン層が局在することを特徴とする成型用基材不織布であって、
前記無延伸ポリプロピレン層は、JIS K6921-2に準じて測定したMFR(メルトマスフローレイト)が20[g/10分]以上(230[℃],2.16[Kg])のポリプロピレン樹脂であることを特徴とする成型用基材不織布。
【請求項2】
請求項1に記載した前記成型用基材不織布を加熱成型することで調製した成型体であって、JIS K7171に規定された曲げ弾性率が110[MPa]以上で有ることを特徴とする成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体下部やタイヤハウスなどに装着されるアンダーボディーシールド材として好適な成型用基材不織布並びにその成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体下面の凹凸を減らして走行時の空気抵抗抑制を図る、或いはタイヤの飛び石による車体保護などのため、アンダーボディーシールド材が車体の随所に使用されている。
その一例として特開2012-245925号公報(特許文献1)には、自動車の車体下面に配置される自動車用ボディーアンダーカバー(以下、本明細書では包括的にアンダーボディーシールド材と称し、UBSと略す場合がある)が提案されている。この技術では、少なくとも、無機繊維であるガラス繊維等で構成された繊維補強材と第1の熱可塑性合成樹脂が混合された基材層と、熱可塑性合成繊維よりなる不織布層とが、積層された状態で前記両層の表面部が熱融着結合され圧縮成形により所定形状に成形された繊維成形体が開示されている。上述した基材層に採用された第1の熱可塑性合成樹脂は、成形時の加熱工程で溶融する融点を持ち、前述した不織布層は、成形時の加熱工程で溶融する融点の第2の熱可塑性合成繊維と、成形時の加熱工程で溶融しない融点の第3の熱可塑性合成繊維とが混合された構成を採る。
この技術では層間接着に第1及び第2の熱可塑性合成樹脂を利用しているため、接着フィルムを用いた場合よりも高い通気性を有し、吸音特性に優れたUBSを実現し得るとの開示がある。
【0003】
このような接着フィルムを使用しないUBS技術として、国際公開2016/160264号公報(特許文献2)には、少なくとも50[重量%]以上の芳香族カルボン酸エステルを含むポリエステルスパンボンドからなる第1不織布層及び第3不織布層と、ポリエステル短繊維をニードルパンチ法で絡合した第2不織布層とを準備し、上記第1不織布層と第3不織布層とで第2不織布層を挟み込んだ後、この積層物に対してニードルパンチ法を適用して絡合一体化したUBS用の複合基材技術が提案されている。この公報技術では、各々の層を構成するポリエステル繊維として芯鞘型などの複合繊維を接着に採用する態様が開示されている。この技術の適用でニードルパンチ法により界面で接した2層間に互いの繊維成分が厚さ方向に配向した状態で繊維間接着が可能なために剥離耐性を持たせることができ、接着成分としてフィルムを用いないために通気性が損なわれず、優れた吸音特性を示すと開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-245925号公報([特許請求の範囲]、[0015]~[0017]、[0020]、[0021]、[実施例]、[図1]など)
【文献】国際公開2016/160264号公報([特許請求の範囲]、公報の[要約]第2頁第15行~第4頁第12行、第5頁第1行~同頁第11行、図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した2つの背景技術では、積層構造を持ったUBS用の基材を構成する際、何れも層間接着にフィルムを用いていないことから、成型物の吸音性に寄与する通気性を十分に採ることが可能である。しかし、特許文献1並びに特許文献2では、異なる融点を持つ2種類の繊維のうちの1つが全溶融によって接着する手法や、不織布層内に均一に配合された複合型の接着繊維を利用するため、層間における接着成分の密度を十分に採ることができず、ニードルパンチ法などを併用しても剥離し易いという問題がある。
また、例えば特許文献1に言う第1及び第2の熱可塑性樹脂接着、或いは特許文献2の熱接着に利用されるポリエステル系の複合繊維は、不織布層内に広く分布するため、加熱成型後のUBSにおいて、層間剥離防止と、成型体への弾性付与との双方をバランスさせることが難しい場合が有った。
【0006】
従って、本発明は、当該基材の積層構成成分間の剥離防止を図ることで素材としての取扱性に優れると共に、当該基材を再度加熱処理して成型した後であっても飛び石などの外力に対して耐性の有る弾性に優れ、しかも剥離耐性を維持しつつ、接着成分による通気性阻害を抑制して優れた吸音特性をも実現し得る成型体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願に係る発明者は、これら従来技術が有する問題点に鑑み、鋭意検討した結果、積層構造を調製するための原材料として、シート状の無延伸ポリプロピレン樹脂を層間に挟持して加熱接着を行うことで当該樹脂シートが流動化し、各々の不織布層に局在化した成型用基材不織布を実現し得ることを見出した。
そして、目的の達成を図るため本発明の構成によれば、加熱成型により所定の形状に成型するための成型用基材不織布であって、この成型用基材不織布は、少なくともポリエステル系樹脂からなる長繊維不織布層とポリエステル系樹脂からなる短繊維不織布層との2層構造を有し、上述の長繊維不織布層と上述の短繊維不織布層との界面に流動固化した無延伸ポリプロピレン層が局在することを特徴としている。この「局在する」とは、接着しようとする2つの不織布層の層間に、シート状の無延伸ポリプロピレン樹脂を配置し、加熱することで当該樹脂を流動化させ、これら不織布層の構成繊維間に後段に詳述する態様をなして無延伸ポリプロピレン樹脂が付着固化した状態を表している。
【0008】
また、この発明の実施に当たり、上述した無延伸ポリプロピレン層を構成する樹脂は、JIS K6921-2に準じて測定したMFR(メルトフローレイト)が20[g/10分]以上(230[℃],2.16[Kg])のポリプロピレン樹脂とするのが好適である。
【0009】
さらに、本発明に係る上述の基材によって得られる成型体は、JIS K7171に規定された曲げ弾性率が110[MPa]以上で有る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成では、層間接着に使用した原材料としてのシート状の無延伸ポリプロピレン樹脂が加熱流動することで層間に局在化し、通気可能な無延伸ポリプロピレン層として存在している。このため、本発明に係る成型用基材不織布を所望の形状に加熱成型することで、優れた吸音性、高い剥離強度、並びに外力への弾性に優れたUBSなどの成型体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好適形態を説明するため、成型用基材不織布の模式的な概略断面によって示す説明図である。
図2】実施例2の成型用基材不織布の断面を、光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
図3】実施例2の成型用基材不織布を用いて調製した成型体の断面を、光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
図4】実施例2の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
図5】比較例3の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
図6】比較例4の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡を用いて撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る成型用基材不織布の製造手順に従って好適形態について説明する。尚、以下の説明では、本発明を理解し得る程度の具体的な形状、数値的条件、配置関係などの特定条件に基づくが、本発明は、これら例示条件にのみ限定されるものではない。
【0013】
まず、図1は、本発明の好適形態例を模式的な概略断面により示す説明図である。図示の好適態様では、ポリエステル系樹脂からなる長繊維不織布層11とポリエステル系樹脂からなる短繊維不織布層13との2層構造を主たる構成成分とし、この長繊維不織布層11と短繊維不織布層13との界面に点線で示す加熱融着した無延伸ポリプロピレン層15が局在する構成を採用するものである。
ここでいう短繊維とは繊維長が100mm以下の繊維を指す。また、ここでいう長繊維とは繊維長が100mmよりも長い繊維を指す。なお、繊維長が100mmよりも長く繊維長を特定するのが困難な繊維も、長繊維とみなす。
なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c 直接法(C法)に則って測定された繊維長をいう。
始めに、ポリエステル系樹脂からなる長繊維不織布層11とポリエステル系樹脂からなる短繊維不織布層13を準備する。
【0014】
特許文献1に開示されているように、ガラス繊維などの無機繊維を含む繊維層を備えた成型用基材不織布を加熱成型することで、剛性や耐熱性に優れるUBSを提供可能であると考えられる。しかし、有機樹脂繊維で構成された繊維層を備える成型用基材不織布と比べ、比重が重い無機繊維で構成された同重量の繊維層を備える成型用基材不織布では、繊維層を構成する繊維の本数が少ないため繊維同士の接着点が少ない。その結果、有機樹脂繊維で構成された繊維層を備える成型用基材不織布と比べ、無機繊維を含む同重量の繊維層を備える成型用基材不織布は取扱性に劣ると共に、弾性や剥離耐性に優れる成型体を提供するのが困難である。
そのため、自動車素材の分野で要求される耐熱性を満足し得るものであると共に、取扱性に優れる成型用基材不織布を提供し、弾性や剥離耐性に優れる成型体を実現できることから、本発明にかかる長繊維不織布層11および短繊維不織布層13の構成繊維は、ポリエステル系樹脂を含み構成されているのが好ましく、ポリエステル系樹脂のみで構成されているのがより好ましい。
【0015】
まず、当該樹脂としては本発明にかかる成型用基材不織布や成型体が自動車素材の分野で要求される耐熱性を有するように、少なくとも230℃以上の融点をもつ樹脂を含む繊維であるのが好ましく、双方の構成成分が同一のポリエステル系樹脂、または、双方が異なるものであっても良い。その一例として、前述の特許文献2と同様に芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合によって得られる線状ポリエステルや、この線状ポリエステルと少なくとも3個のエステル生成基(例えば、水酸基、カルボキシル基など)を有する分岐生成性成分との共重合によって得られる分岐状コポリエステルなどを使用できる。この線状ポリエステルの一方の重縮合成分である芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸などを単独で、又はこれら2種類以上を混合して使用することができる。他方の重縮合成分であるジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、トリシクロデカンジメチロール、2、2-ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、4、4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ジフェニルスルホンなどを単独で、又はこれら2種類以上を混合して使用することができる。また、分岐生成性成分としては、例えば、トリ又はテトラカルボン酸類(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸など)やこの低級アルキルエステル、トリ又はテトラオール類(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなど)、ヒドロキシカルボン酸類(例えば、ジヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸など)、或いはこれらの誘導体などを使用することができ、これらを単独で、又はこれら2種類以上を混合して使用することができる。
【0016】
上述したポリエステル系樹脂からなる長繊維不織布層11は、UBSとした際の最外層になり得る構成部材であり、引裂抵抗性や耐スクラッチ性などに優れているのが好ましいことから、スパンボンド法などによって調製された長繊維不織布であるのが好ましい。好適な目付範囲として、無延伸ポリプロピレン層15による短繊維不織布層13との接着を図り、しかも、表皮として地合いを良好とするため、30[g/m]以上、より好ましくは90[g/m]以上とするのが好適であり、目付が高すぎると伸びに乏しく成型性が低下するため、200[g/m]以下とするのが良い。
【0017】
また、ポリエステル系樹脂からなる短繊維不織布層13は、UBS成型時、またはUBS使用時の追従性や弾性などが要求される構成部材である。従って、繊維間が緩やかに結合した不織布が望ましく、カード法を利用したウエブ形成の後、ニードルパンチ法を適用した短繊維不織布が望ましい。係る短繊維不織布として好適な目付範囲は500[g/m]以上、より好ましくは900[g/m]以上とするのが好適であって、過度の目付は成型時の加熱時間延長を要しコスト上昇につながるため、2000[g/m]以下が好ましい。
【0018】
本発明に係る無延伸ポリプロピレン層15は、長繊維不織布層11および短繊維不織布層13の両層を接着する役割を担う。
両層を接着する成分がポリプロピレン樹脂である理由は、第一に、ポリプロピレン樹脂は熱可塑性樹脂であり加熱時に流動して不織布層の内部に浸透し易いことで、長繊維不織布層11と短繊維不織布層13を強固に接着して、両層間の剥離強度を向上できるためである。そして、第二に、ポリプロピレン樹脂の融点は100℃よりも高く自動車素材の分野で要求される耐熱性(例えば、100℃雰囲気下において両層を接着している成分の融解に起因した層間剥離が発生しない)を満足した成型体を提供できるためである。例えば、100℃以下の融点を有するEVA樹脂などにより両層が接着されてなる成型体は、100℃雰囲気下において両層を接着するEVA樹脂が融解して、層間剥離が発生し易い。
【0019】
また、両層を接着するポリプロピン樹脂が無延伸のポリプロピン樹脂である理由は、後述するように、本発明にかかる成型用基材不織布を実現すると共に弾性に優れる成型体を提供するためである。
上述した効果がより効果的に発揮されるよう、無延伸ポリプロピレン層15における長繊維不織布層11および短繊維不織布層13の両層の接着を担う成分は、無延伸ポリプロピレン樹脂のみであるのが好ましい。
【0020】
一方、本願出願人が検討した結果、後述するように、長繊維不織布層11と短繊維不織布層13との間に延伸したポリプロピン樹脂を介在させ調製した成型用基材不織布では、延伸したポリプロピン樹脂が加熱時に収縮して、表面にシワが発生することを見出した。特に、延伸したシート状のポリプロピン樹脂を介在させ調製した成型用基材不織布では、成型体を調製できないほどの大きなシワが発生する。また、ポリプロピン樹脂を延伸して調製した繊維シート(例えば、スパンボンド不織布など)を介在させ調製した成型用基材不織布においても、シワが発生する。
そして、表面にシワが発生した成型用基材不織布を用いて成型体を調製すると、調製した成型体の主面にもまたシワが存在しているものであった。シワを有する成型体は曲げ弾性率が低く、厚さ方向へ作用する力に対する耐性に劣ることから、延伸したポリプロピン樹脂を介在させ調製した成型用基材不織布を用いる限り、弾性に優れる成型体を提供するのが困難である。
【0021】
次いで、市販のポリプロピレン樹脂を準備し、例えばTダイなど、周知のラミネート技術を用い、上述した長繊維不織布層11と短繊維不織布層13との間に無延伸状態でシート状に供給する。
無延伸状態で供給されるポリプロピレン樹脂の態様は適宜選択できるが、加熱流動化した無延伸ポリプロピレン層15が特定範囲の幅を有し均一的に分布した、局在している成型用基材不織布を提供できるよう、また、長繊維不織布層の主面面積に占める局在するポリプロピレン樹脂の面積の百分率が高くなるよう(具体的には、60%よりも高くなるよう)、フィルム状に供給するのが好ましい。このような態様の成型用基材不織布を加熱成型することで、層間に存在していた無延伸ポリプロピレン層が再び流動する際、無延伸ポリプロピレン樹脂が不織布層同士の界面から不織布層の内部へ均等に浸透し易くなる。その結果、より剥離強度と弾性に優れる成型体を提供でき好ましい。
【0022】
長繊維不織布層の主面面積に占める局在するポリプロピレン樹脂の面積の百分率は、適宜調整するが、60%よりも高いのが好ましく、65%以上であるのが好ましく、70%以上であるのが好ましく、75%以上であるのが好ましく、80%以上であるのが好ましく、85%以上であるのが好ましく、90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのが好ましい。
【0023】
なお、供給されるポリプロピレン樹脂の態様がパウダー状であったり、例えばスパンボンド不織布などの繊維シート状やウェブ状である場合には、加熱接着の工程により流動固化したポリプロピレン樹脂が特定範囲の幅を有し均一的に分布させることができず、そして、長繊維不織布層の主面面積に占める局在するポリプロピレン樹脂の面積の百分率が高い態様(具体的には、60%よりも高い態様)の成型用基材不織布を提供するのが困難である。その結果、より剥離強度と弾性に優れる成型体を提供するのが困難となる。
【0024】
なお、本発明に係る無延伸ポリプロピレン層は、上述したポリプロピレン樹脂以外にも、例えば、難燃剤や酸化防止剤などの添加剤を含有していてもよい。
本願出願人は、UBSの構成成分(例えば、積層構造を有するUBSにおいて、UBSの層間を接着している構成樹脂など)が耐熱性に劣っていると、真夏日など高温条件下において、UBSに層間剥離が発生するなどUBSの一部が剥離するという問題が生じることを見出した。このように、一部に剥離が発生したUBSは、自動車の車体下面の凹凸を減らして走行時の空気抵抗抑制を図る効果、タイヤの飛び石からの車体保護、吸音性能などの諸機能が低下したものとなる。
本願出願人が検討を続けた結果、本発明の構成を備える成型用基材不織布において、無延伸ポリプロピレン樹脂層が酸化防止剤を配合したポリプロピレン樹脂を含有していることで、耐熱性に優れ層間剥離の発生が防止されたUBSを提供できることを見出した。
酸化防止剤の種類は、上述の目的を達成できるよう適宜選択するが、フェノール系の酸化防止剤、リン系の酸化防止剤、リンとフェノールの複合系の酸化防止剤などを採用できる。
ポリプロピレン樹脂に配合されている酸化防止剤の量は、上述の目的を達成できるよう適宜調整するが、ポリプロピレン樹脂の固形分質量に占める酸化防止剤の固形分質量の百分率は0.1%~5%であることができ、0.5%~4%であることができ、1%~3%であることができる。
【0025】
本発明に係る無延伸ポリプロピレン層に含まれている、酸化防止剤を配合したポリプロピレン樹脂の割合は適宜調整できるが、上述の目的が効果的に達成できるよう、酸化防止剤を配合したポリプロピレン樹脂のみで本発明に係る無延伸ポリプロピレン層が構成されているのが好ましい。
【0026】
この後、周知のカレンダー機などにより、無延伸状態でシート状に供給したポリプロピレン樹脂を加熱加圧し、上記2つの不織布層間に無延伸ポリプロピレン層を局在させ、成型に先立つ仮接着を行う。この無延伸ポリプロピレン層の局在化状態は、加熱時間、温度、加圧の有無、並びにポリプロピレン樹脂のMFRによって種々に異なる。本発明の構成では、JIS K6921-2に準じて測定した場合に、MFRが20[g/10分]以上(230[℃],2.16[Kg]:以下、測定条件の併記を省略する)のポリプロピレン樹脂である様に選択するのが好ましい。このMFRが高すぎる場合には、無延伸ポリプロピレン層の流動性が著しく高くなることから成型用基材不織布としての通気性は高くなり、低周波数域での吸音特性が低下し、長繊維不織布層と短繊維不織布層との間の剥離強度も低下する傾向にある。このため、剥離強度と吸音特性とを考慮した無延伸ポリプロピレン層を構成する樹脂のMFRは40[g/10分]以下とするのが良い。この局在化状態については、後の実施例欄で光学顕微鏡撮影した結果に基づいて説明する。
【0027】
この様に仮接着が施された成型用基材不織布に対し加熱の後に冷却するなど、従来行われている成型技術を適用して成型体を調製できる。本発明にかかる成型体は、JIS K7171に規定された曲げ弾性率を求めた場合、110[MPa]以上、より好ましくは120[MPa]以上で有ることが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る成型用基材不織布を用いて得られる成型体としては、UBSの形状設計に応じて凹凸を設けるなどの成型が施される。従って、成型用基材不織布の厚さ方向で対称な積層とすることにより、凸形状並びに凹形状の形態安定性を図る上で、長繊維不織布層を表裏に備え、この間に無延伸ポリプロピレン層を挟んで短繊維不織布層を配置した対称な積層構造とするのが好適である。これら、数値的条件、配置関係およびその他の条件は、上述した特定条件に限定されるものではなく、この発明の目的の範囲内で任意好適に設計の変更または変形を行うことができる。
【実施例
【0029】
以下、本発明の好適形態による実施例の評価結果について説明する。
尚、以下の実施例および比較例では、成型時の対称性から表裏のない5層構造の成型用基材不織布、即ち、ポリプロピレン層によって短繊維不織布層13の両面に長繊維不織布層11が接着されてなる成型用基材不織布と、これを用いて調製した成型体との評価結果を各々示す。
【0030】
(実施例1~3、比較例1~2)
始めに市販のポリエチレンテレフタレート樹脂(融点:255℃、以下、PET樹脂)からなる目付90[g/m]のスパンボンド不織布(長繊維不織布)を用意した。そして、その一方の主面に、Tダイから表1に記載した種々のMFRを有するポリプロピレン樹脂(以下、PP樹脂、融点:160℃)40[g/m]を直接ラミネートして、無延伸PP樹脂層をフィルム状に設けた。
ついでPET樹脂からなる繊度6.6[dtex]、繊維長51[mm]の短繊維および芯鞘型の芯がPET樹脂、鞘が低融点PET樹脂(融点:180℃)からなる繊度4.4[dtex]、繊維長51[mm]の短繊維をカード機によってウエブ形成し、ニードルパンチ絡合を施して、目付900[g/m]の繊維ウエブを調製した。調製した繊維ウェブを200℃の加熱炉で加熱した後に冷却し、20[g/cm]荷重時の厚さが7[mm]の短繊維不織布を準備した。
次いで、長繊維不織布にラミネートされたPP樹脂層を間に介して、短繊維不織布の両主面に長繊維不織布を積層し、クリアランスを6.5[mm]とした熱ロール機によって180[℃]の温度で加熱圧着し、無延伸PP樹脂によって短繊維不織布層の両面に長繊維不織布層が接着されてなる成型用基材不織布を得た。
【0031】
(比較例3)
実施例1~3および比較例1~2で採用した長繊維不織布の一方の主面に、延伸したPP樹脂フィルム(目付:40g/m、MFR:9[g/10分]、融点:160℃)を積層した。
ついで、フィルムを間に介して、実施例1~3および比較例1~2で採用した短繊維不織布を積層し、実施例1~3および比較例1~2と同様に加熱圧着し、延伸したPP樹脂フィルム由来のPP樹脂によって短繊維不織布層の両面に長繊維不織布層が接着されてなる成型用基材不織布を得た。
【0032】
(比較例4)
実施例1~3および比較例1~2で採用した長繊維不織布の一方の主面に、PP樹脂を細径化すると共に延伸して調製したスパンボンド不織布(目付:40g/m、MFR:20以上100以下であると推測される、融点:160℃)を積層した。
ついで、スパンボンド不織布を間に介して、実施例1~3および比較例1~2で採用した短繊維不織布を積層し、実施例1~3および比較例1~2と同様に加熱圧着し、PP樹脂スパンボンド不織布由来のPP樹脂によって短繊維不織布層の両面に長繊維不織布層が接着されてなる成型用基材不織布を得た。
【0033】
実施例1~3で調製した成型用基材不織布はいずれも、前記長繊維不織布層と前記短繊維不織布層との界面近傍に流動固化した無延伸ポリプロピレン層が局在するものであった。本構成について、実施例2で調製した成型用基材不織布を挙げ説明する。
図2として、上述した実施例2の成型用基材不織布の断面を、光学顕微鏡を用いて撮影した写真を示す。図2は、得られた成型用基材不織布の両面にインクジェット印刷用光沢紙を当て、さらに厚さが潰れないようにガラス板で挟んで保持固定した状態で、断面を30倍の光学顕微鏡で撮影したものであり、図1と同様の構成成分には、同一の符号を示す。
当該図から理解できるように、無延伸PP樹脂が長繊維不織布層11にラミネートされた後、短繊維不織布層13に無延伸PP樹脂が接触配置した状態で加熱加圧されたことにより、シート状の無延伸PP樹脂は部分的に断裂して局在化する。この加熱流動化した無延伸PP樹脂は、主として長繊維不織布層11側に浸透した状態で互いの不織布層同士を仮接着する状態が図2から理解できる。係る状態では、取扱に十分な剥離強度となった。
尚、本明細書では、このように一部が流動固化した無延伸ポリプロピレン層15の状態を「局在する」と表現している。また、バースケールを省略したが、撮影に用いた前述の光沢紙の厚さ(長繊維不織布層11に接する比較的輝度の高い部分)が約250μmであることから、実施例2の成型用基材不織布における長繊維不織布層11の見かけ上の厚さは約200[μm]、短繊維不織布層13は約5000[μm]程度の厚さで仮接着されていた。この際、加熱流動化した無延伸ポリプロピレン層15は、50~80[μm]の幅を以て層間に分布し局在化している(換言すれば、特定範囲の幅を有し均一的に分布している)、ことが理解できる。
【0034】
更に、調製した実施例1~3の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、長繊維不織布層上に確認される無延伸PP樹脂の層を厚さ方向から光学顕微鏡で観察した結果、無延伸PP樹脂は長繊維不織布層上に均一的に分布し存在していた。また、長繊維不織布層の主面面積に占める無延伸PP樹脂の面積の百分率は、いずれの実施例とも95%以上であった。図4として、実施例2の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡で撮影した結果を示す。
【0035】
一方、上述した実施例2で説明した方法と同様にして、比較例1~2で調製した成型用基材不織布の断面を、光学顕微鏡を用いて撮影した写真を確認した結果、比較例1~2で調製した成型用基材不織布はいずれも、無延伸PP樹脂が各実施例のように不織布層同士の界面から不織布層の内部に浸透することなく、また、シート状の無延伸PP樹脂は部分的に断裂しておらず局在化することなく両繊維層間に存在していた。
そのため、比較例1~2で調製した成型用基材不織布は、前記長繊維不織布層と前記短繊維不織布層との界面近傍に流動固化した無延伸ポリプロピレン層が局在するものではなかった。
【0036】
また、比較例3で調製した成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、長繊維不織布層上に確認されるPP樹脂の層を厚さ方向から光学顕微鏡で観察した結果、PP樹脂は流動化しておらず部分的な切目を有するフィルムの態様で存在しており、長繊維不織布層上に均一的に分布することなく存在していた。図5として、比較例3の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡で撮影した結果を示す。
なお、比較例3では、加熱圧着時にPP樹脂の延伸フィルムが大きく収縮したため、調製した成型用基材不織布の主面に大きくシワが発生した。そのため、比較例3で調製した成型用基材不織布を、後述する剥離強度の測定へ供することができず、剥離強度を測定できなかった。更に、比較例3で調製した成型用基材不織布を用いて成型体を調製することができなかった。
【0037】
そして、比較例4では、加熱圧着時にPP樹脂スパンボンド不織布が収縮したため、調製した成型用基材不織布の主面にシワが発生した。
なお、調製した比較例4の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、長繊維不織布層上に確認されるPP樹脂の層を厚さ方向から光学顕微鏡で観察した結果、PP樹脂は部分的に断裂した部分の大きさや間隔がランダムな態様をなして、長繊維不織布層上に不均一に分布し存在していた(換言すれば、特定範囲の幅を有し均一的に分布していない)。また、長繊維不織布層の主面面積に占めるPP樹脂の面積の百分率は、60%以下であった。図6として、比較例4の成型用基材不織布から短繊維不織布層を剥がし、ポピプロピレン樹脂の層を厚さ方向から、光学顕微鏡で撮影した結果を示す。
【0038】
調製した各成型用基材不織布の主面を目視にて観察し、シワの発生を確認した。観察の結果、表1における「シワの有無」の欄に、主面にシワが認められなかったものには「無」を記載し、主面にシワが認められたものには「有」を記載した。
続いて、これら成型用基材不織布について、上述した短繊維不織布層と長繊維不織布層との剥離強度を測定し、仮接着の度合いを確認した。上述したMFRの異なる成型用基材不織布の構成と共に、下記表1に示す。
【0039】
剥離強度の測定方法は以下のようにして行った。
測定対象物から短冊状の試験片(短辺:50mm、長辺:130mm、長辺方向が測定対象物の生産方向と一致)を3枚採取し、各試験片の一方の短辺からもう一方の短辺へ向かう80mmの範囲において、短繊維不織布層と長繊維不織布層を分離した。そして、このようにして調製した各試験片をインストロン社製の引張試験機(チャック間距離100[mm])へ供し、一方のチャックに分離した短繊維不織布層の端部を固定し、もう一方のチャックに分離した長繊維不織布層の端部を固定した。そして、引張速度200[mm/min])の条件でチャックを引き離していき、短繊維不織布層と長繊維不織布層が完全に分離するまでに測定された、応力の最大値を求めた。
各試験片の測定において得られた応力の最大値の平均値を算出し、測定対象物の剥離強度とした。
なお、得られなかった項目については、「―」を記載した。
【0040】
【表1】
【0041】
この表1では、各基材に関して剥離強度の評価結果を「○」と「×」とで表記しているが、PP樹脂のMFRが比較的高い実施例1~実施例3の方が、比較的低いMFRで仮接着した比較例1及び比較例2に比べて高い剥離強度が得られた。
実用上、取扱に十分な仮接着強度は、1[N/50mm]以上とされることから、実施例1~3および比較例1~2を比較した結果、PP樹脂のMFR下限を少なくとも20[g/10分]以上とすれば実用に十分であることが理解できる。これは前述した仮接着を施すための加熱加圧時に、実施例で採用したPP樹脂の流動性を高く採ったことから、層間の接着に好ましい流動固化が生じ、有効な仮接着を図り得たと考えられる。
なお、実施例1~3の方が比較例4に比べて1.2倍よりも高い剥離強度が得られ、より取扱性に優れているものであった。この理由として、実施例1~3の成型用基材不織布において、無延伸PP樹脂が特定範囲の幅を有し均一的に分布し局在化していると共に、長繊維不織布層の主面面積に占めるPP樹脂の面積が大きいためだと考えられる。
【0042】
次に、上述した実施例1~3並びに比較例1~2および比較例4の成型用基材不織布を、一般的な熱成型条件である前述のインフラスタインヒーター(日本ガイシ(株)、「インフラスタイン」は日本碍子株式会社の日本国登録商標)によって210[℃]に加熱後、30℃にまで冷却し得る平板プレス機によって、クリアランス5.0mm、30kg/cmの統一成型条件で平板状の成型体とした。
調製した各成型体の主面を目視にて観察し、シワの発生を確認した。観察の結果、表2における「シワの有無」の欄に、主面にシワが認められなかったものには「無」を記載し、主面にシワが認められたものには「有」を記載した。
これら成型体に関し、剥離強度と曲げ弾性率とを評価した結果を表2に示す。剥離強度は前述と同一の手法で行い、曲げ弾性率はJIS K7171の9.3項に規定された式に基づいて算出した。ここで、曲げ弾性率が高い成型体は、厚さ方向へ作用する力に対する耐性が高い成型体であることを意味する。そのため、曲げ弾性率が高いほど外力に対して耐性を有した弾性に優れる成型体である。
【0043】
【表2】
【0044】
この表2から理解できるように、仮接着段階での作業性を実現し得るMFRが20[g/10分]以上のPP樹脂で層間接着した実施例1~3では、比較例1~2に比べて高い曲げ弾性率を示し、何れも110[MPa]以上となった。また、成型体における長繊維不織布層と短繊維不織布層との剥離強度を比較すると、比較例1~2では実施例1~3の10分の1以下の低い値しか実現し得なかった。これは、成型用基材不織布で加えられた加熱に続いてより高温の熱処理が成型時に加えられ、層間に存在していた無延伸ポリプロピレン層が再び流動する際、低MFR採用の比較例1~2では、不織布層同士の界面から不織布層の内部に浸透し難く、剥離強度向上に寄与し難かったためと考えられる。
これに対し、本発明を適用した実施例1~3では、前述した成型用基材不織布に関する表1の結果に較べ、成型処理によって約10倍程度にまで剥離強度が向上した。
【0045】
また、比較例4の成型用基材不織布を用いて調製した成型体は、剥離強度が実施例1~3よりも低かった。これは、比較例4ではPP樹脂が、部分的に断裂した部分の大きさや間隔がランダムな態様をなして不均一に分布し存在していたと共に、長繊維不織布層の主面面積に占めるPP樹脂の面積が小さかったため、剥離強度の向上に十分寄与しなかったためだと考えられる。
また、比較例4の成型用基材不織布を用いて調製した成型体は、曲げ弾性率が比較例1~2と同等と低く、弾性に劣る成型体であった。これは、シワを有する成型用基材不織布を用いて調製したため、その主面にシワを有する成型体であったと共に、長繊維不織布層と短繊維不織布層間に存在するPP樹脂層がランダムな態様をなして、不均一に分布し存在していたため、層間接着が不均一となったためだと考えられる。
【0046】
続いて、図2について説明した方法と同様にして、実施例2の成型用基材不織布を用いて調製した成型体断面を観察した結果を図3に示す。この撮影では、前述のとおり無圧状態にて挟持し、約50倍の倍率で行った。この図3と前述した図2との対比から理解できるように、仮接着した場合に較べて高温の加熱成型条件を経ているため、成型体の厚さは基材に較べて薄くなっている。また、熱成型によって、層間を仮接着していた無延伸ポリプロピレン層15は流動固化が進んでおり、200~300[μm]の幅を以て均一的に分布することで局在化し、界面を構成する長繊維不織布層11及び短繊維不織布層13の双方にPP樹脂が浸透していることを確認した。これら図における無延伸ポリプロピレン層の局在化の度合いは、前述した表1並びに表2で示すとおり、剥離強度の向上と明らかな相関を認めた。
【0047】
(実施例4)
実施例3で採用したPP樹脂にリンとフェノールの複合系の酸化防止剤を、PP樹脂の固形分質量に占める酸化防止剤の固形分質量の百分率が3質量%となるように配合した。PP樹脂として、このようにして調製した酸化防止剤を配合したPP樹脂を用いたこと以外は、実施例3と同様にして成型用基材不織布を得た。
実施例4で調製した成型用基材不織布は実施例3と同様に、前記長繊維不織布層と前記短繊維不織布層との界面近傍に流動固化した無延伸ポリプロピレン層が局在するものであった。
また、実施例4の成型用基材不織布を用いて、実施例1~3において説明した方法と同様にして、平板状の成型体を調製した。
【0048】
上述のようにして調製した、実施例3および実施例4の成型用基材不織布の各種物性を評価し、表3にまとめた。
【0049】
【表3】
【0050】
また、実施例3および実施例4の成型用基材不織布を用いて調製した平板状の成型体の各種物性を評価し、表4にまとめた。
なお、表4において記載している「成型体の耐熱性」の欄には、平板状の成型体を以下の評価方法へ供した結果を記載した。
(成型体の耐熱性の評価方法)
1.平板状の成型体を恒温槽へ入れ、160℃雰囲気下に168時間静置した。
2.160℃雰囲気下に晒した平板状の成型体を恒温槽から取り出し、室温雰囲気下に静置した。そして、室温(23℃)になるまで自然冷却した。
3.自然冷却した平板状の成型体における、長繊維不織布層と短繊維不織布層の層間剥離の発生を目視にて確認した。
なお、層間剥離の発生が認められなかった成型体は耐熱性に優れるものであると評価し、表4に「○」と表記した。また、層間剥離の発生が認められた成型体は耐熱性に劣るものであると評価し、表4に「×」と表記した。
【0051】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、自動車の車体下部やタイヤハウスなどに装着されるアンダーボディーシールド材として好適な成型用基材不織布並びにその成型体として使用できる。
【符号の説明】
【0053】
11:(ポリエステル系樹脂からなる)長繊維不織布層
13:(ポリエステル系樹脂からなる)短繊維不織布層
15:(局在化した)無延伸ポリプロピレン層
図1
図2
図3
図4
図5
図6