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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ズームレンズ装置及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/08 20210101AFI20221212BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20221212BHJP
   G03B 17/02 20210101ALI20221212BHJP
   G03B 17/12 20210101ALI20221212BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
G02B7/08 C
G02B7/02 F
G03B17/02
G03B17/12 Z
H04N5/225 400
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018222450
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020086228
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和史
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-170292(JP,A)
【文献】特開2017-181577(JP,A)
【文献】特開2017-167417(JP,A)
【文献】特開2000-039642(JP,A)
【文献】特開平06-051176(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/08
G02B 7/02
G03B 17/02
G03B 17/12
H04N 5/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に移動するズームレンズ群を有するズームレンズ装置であって、
水平に対する前記ズームレンズ装置の角度を検出する角度検出部と、
前記ズームレンズ装置の焦点位置の変動を補正するために前記光軸方向に移動する補正レンズ群と、
前記角度に対する前記焦点位置の補正量に関する情報を記憶する記憶部と、
前記角度と前記情報とに基づいて、前記補正レンズ群を前記光軸方向に移動するための制御を行う制御部と有し、
前記角度の変化1°あたりの前記補正量の変化をΔmbとし、Δmbが最大となる角度θbにおけるΔmbをMAXΔmbとし、イメージサークルの直径をICとして、条件式
0<|MAXΔmb|/IC<4.50×10-3
を満足し、
前記角度の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとし、Δmaが最大となる角度θaにおけるΔmaをMAXΔmaとし、前記角度θaにおける前記角度の変化1°あたりの前記補正量の変化をmbとして、
|MAXΔma|≧3.0×10-3(mm)の場合は、
0.01<|mb/MAXΔma|<1.0
なる条件式を満足し、
|MAXΔma|<3.0×10-3(mm)の場合は、
0.01<|mb/MAXΔma|<10.0
なる条件式を満足するとを特徴とするズームレンズ装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記補正レンズ群を駆動する駆動部を含むことを特徴とする請求項1に記載のズームレンズ装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ズームレンズ群の位置と温度とのうちの少なくとも一方にも基づいて、前記制御を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のズームレンズ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ズームレンズ群の位置と温度とのうちの少なくとも一方にも基づいて、前記ズームレンズ装置の焦点位置の補正量を得ることを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置。
【請求項5】
合焦のために前記光軸方向に移動するフォーカスレンズ群と、開口絞りと、光路に挿抜されることにより前記ズームレンズ装置の焦点距離の範囲を変更するエクステンダーレンズ群と有し、
前記情報は、前記フォーカスレンズ群の位置と、前記ズームレンズ群の位置と、前記開口絞りの開度と、前記エクステンダーレンズ群の挿抜と、温度とのうち少なくとも1つと、前記角度とに対する前記焦点位置の補正量に関する情報を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置。
【請求項6】
前記フォーカスレンズ群の位置を検出する検出部と、前記ズームレンズ群の位置を検出する検出部と、前記開口絞りの開度を検出する検出部と、前記エクステンダーレンズ群の挿抜に関する状態を検出する検出部と、温度を検出する検出部とのうち少なくとも1つを有することを特徴とする請求項5に記載のズームレンズ装置。
【請求項7】
最も像側に配置され、変倍のためには移動しないリレーレンズ群を有し、
前記補正レンズ群は、前記リレーレンズ群に含まれているとを特徴とする請求項1ないし請求項6のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置。
【請求項8】
前記角度検出部は、前記ズームレンズ装置の角速度を検出するセンサーを含み、
前記記憶部は、前記情報として、前記角度と前記角速度とに対する前記補正量に関する情報を記憶し、
前記制御部は、該情報と前記角度と前記角速度とに基づいて、前記制御を行うとを特徴とした請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置。
【請求項9】
前記制御部による前記制御を行うか否かを切換える切換部を有することを特徴とする請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項のうちいずれか1項に記載のズームレンズ装置と、
前記ズームレンズ装置の像面に配された撮像素子と有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズームレンズ装置及び撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラ用ズームレンズ装置は、一般に、物体側から像側へ順に、フォーカスレンズ群と、変倍のためのバリエータ及び変倍に伴う像面の変動を補正するためのコンペンセータを含む変倍レンズ群と、並びに結像レンズ群とを有する。そのようなズームレンズ装置においては、水平(面)に対する(光軸の)角度(姿勢)により焦点位置が変動する(ピントズレが起こる)という課題がある。当該ズームレンズ装置は、例えば、スポーツ中継においては、やぐらの上やスタジアム上部といった高所から、また、報道等においては、ヘリコプターの中から、地上を撮影するなど、それを傾けて使用する場合がある。そのため、そのような場合の姿勢(差)により発生するピントズレが問題となりうる。
【0003】
特許文献1は、ピントズレ対策として、ズームレンズ装置の姿勢(角度)ごとのピントズレ量を予め計測して補正量として記憶し、当該姿勢に整合する当該補正量に基づき補正レンズ群を光軸方向に移動して姿勢によるピントズレを補正(補償)する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-170292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
姿勢によるピントズレは、鏡筒のたわみの変化や、機構内に存在する遊びに起因したフォーカスレンズ群や変倍レンズ群の倒れが原因である。特に、レンズ群の倒れによるピントズレは、水平からの姿勢(角度)の変化がある程度大きくなった場合に急峻に現れうる。また、急峻なピントズレが発生する姿勢(角度)は、温度等の使用環境によるズームレンズ装置の部品の変化(伸縮等)によっても変化しうる。そのため、図9に示すように、急峻なピントズレが発生する角度は、補正量を記憶した時点とズームレンズ装置を使用する時点との間で異なる場合があり、その場合は、補正量と実際のピントズレ量との間に過度の乖離が生じ、使用者に違和感を与えうる。
【0006】
本発明は、例えば、姿勢によるピントズレの低減に有利なレンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるズームレンズ装置は、光軸方向に移動するズームレンズ群を有するズームレンズ装置であって、水平に対する前記ズームレンズ装置の角度を検出する角度検出部と、前記ズームレンズ装置の焦点位置の変動を補正するために前記光軸方向に移動する補正レンズ群と、前記角度に対する前記焦点位置の補正量に関する情報を記憶する記憶部と、前記角度と前記情報とに基づいて、前記補正レンズ群を前記光軸方向に移動するための制御を行う制御部と、を有し、前記角度の変化1°あたりの前記補正量の変化をΔmbとし、Δmbが最大となる角度θbにおけるΔmbをMAXΔmbとし、イメージサークルの直径をICとして、条件式
0<|MAXΔmb|/IC<4.50×10-3
を満足し、前記角度の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとし、Δmaが最大となる角度θaにおけるΔmaをMAXΔmaとし、前記角度θaにおける前記角度の変化1°あたりの前記補正量の変化をmbとして、
|MAXΔma|≧3.0×10-3(mm)の場合は、
0.01<|mb/MAXΔma|<1.0
なる条件式を満足し、
|MAXΔma|<3.0×10-3(mm)の場合は、
0.01<|mb/MAXΔma|<10.0
なる条件式を満足するとを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、姿勢によるピントズレの低減に有利なレンズ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1である撮像システムの構成を示す概略図である。
図2】実施例1における処理の例を示すフローチャートである。
図3】実施例1における変倍レンズ群の構造の概略図である。
図4】実施例1において、姿勢差がついた場合に変倍レンズ群の一部が倒れる様子を示した概略図である。
図5】実施例1における広角端での姿勢差によるピントズレ量と補正量の関係を示した図であり、(A)は急峻なピントズレが発生した場合の図、(B)は急峻なピントズレが発生しない場合の図である。
図6】本発明の実施例2である撮像システムの構成を示す概略図である。
図7】実施例2における処理の例を示すフローチャートである。
図8】実施例2における広角端での姿勢差によるピントズレ量と補正量の関係を示した例であり、(A)は急峻なピントズレが発生した場合の図、(B)はエクステンダーにより焦点距離が倍加された際の図、(C)望遠端の図、(D)温度が変化した場合の図である。
図9】姿勢差による急峻なピントズレ発生角度の変化による影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
本発明のズームレンズ装置はフォーカシング(合焦)のために移動するフォーカスレンズ群と、変倍のために移動する変倍レンズ群と、絞りと、ズーミングのために移動しないリレーレンズ群を有する。ズームレンズ装置が、光軸方向が水平方向から角度を有して使用された際、水平状態に対する角度を検出する姿勢差検出部(角度検出部)を有している。本明細書ではズームレンズ装置の光軸方向が水平方向に対する角度(仰俯角)を「姿勢差」とも記載する。本発明のズームレンズ装置は、姿勢差によって発生するピントズレを補正するために光軸方向に移動する補正レンズ群を有する。該補正レンズ群はリレーレンズ群内に配置される。本発明において、姿勢差によるピントズレを補正するため、補正レンズ群を光軸方向に移動させることによる、像面位置の光軸方向の補正量は下記の条件式(1)を満足する。
0<|MAXΔmb|/IC<4.50×10-3 ・・・(1)
ここで、MAXΔmbは、姿勢差によるピントズレを補正するための、ズームレンズ装置の姿勢(仰俯角)の変化1°あたりの補正量の変化Δmbの絶対値の最大値であり、ICはイメージサークルのサイズである。尚、補正レンズ群の位置の補正量の符合は、物体側へ移動した場合を負とし、像側へ移動した場合を正とするものとする。
【0011】
仰俯角のある角度で急峻に発生するピントズレは、可動レンズ群の機構上存在するガタに起因するレンズの倒れが原因である。そのため、温度など使用環境の条件によりズームレンズ装置の構成部品の伸縮や、潤滑剤や耐摩耗剤の物性の変化により、急峻なピントズレが発生する角度が変化する。
【0012】
そのため、例えば組立調整時で測定した姿勢ごとのピントズレ量を補正量として記憶し使用時の姿勢差によるピントズレを補正する場合、図9に示すように事前に記憶された補正量と使用時点でのピントズレ量との間に乖離が生じ、ピンボケが発生する場合がある。
【0013】
本発明では、姿勢差による急峻なピントズレを防止するように補正するため、予め測定して得られた急峻なピントズレが発生した仰俯角の前後にかけて徐々に補正を行うよう補正量を適切に設定する。
【0014】
条件式(1)の下限を0とすることにより、姿勢差により発生したピントズレを補正することを条件としている。条件式(1)の上限を超えると、補正量の変化が大きくなりすぎて諸条件により急峻なピントズレが発生する角度が変化した場合に違和感のある映像となってしまう。


【0015】
更に好ましくは条件式(1)を次のように設定することが好ましい。
1.00×10-5<|MAXΔmb|/IC<3.60×10-3 ・・・(1a)
【0016】
更に本発明において、ズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとし、Δmaの絶対値が最大となる角度θaにおけるズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの焦点位置の変化をMAXΔmaとし、ズームレンズ装置の使用時において検出された角度θaにおけるズームレンズ装置の姿勢1°変化あたりの補正量の変化をmbとして、
|MAXΔma|≧3.0×10-3(mm)の場合
0.01<|mb/MAXΔma|<1.0 ・・・(2)
|MAXΔma|<3.0×10-3(mm)の場合
0.01<|mb/MAXΔma|<10.0 ・・・(3)
を満足する。
【0017】
条件式(2)及び(3)は、ズームレンズ装置の姿勢が1°変化した際の焦点位置の変化をΔmaとしたときΔmaが最大となる角度θaにおける焦点位置の変化に対する、前記角度θaにおける補正量の変化の比の範囲を規定している。より具体的には、姿勢差に起因するピントズレが姿勢差に対して急峻な発生を含む場合は、条件式(2)で規定し、姿勢差に起因するピントズレが姿勢差に対して急峻な発生を含まない場合は、条件式(3)で規定する。
【0018】
姿勢差よるピントズレが姿勢差に対して急峻な発生を含む場合、条件式(2)の下限を超えると、姿勢差により発生したピントズレ量(焦点位置の変動量)に対して補正量が不足し、急峻なピントズレ発生角度の変化によって違和感を与える像が形成されてしまう。一方、条件式(2)の上限を超えると、姿勢差により発生したピントズレ量に対して補正量が過度に大きくなることを意味し、温度変化、経時劣化などの理由による急峻なピントズレ発生角度の変化によって違和感を与える像が形成されてしまう。予め取得した急峻なピントズレが発生した仰俯角を含む所定の領域では、予め取得された急峻なピントズレが発生した仰俯角における、仰俯角の変化に対する補正量の変化よりも小さく補正量を変化させる。
【0019】
姿勢差に起因するピントズレが姿勢差に対して急峻な発生を含まない場合、条件式(3)の下限を超えると、補正量が不足し姿勢差により発生したピントズレ量を十分に補正できない。一方、条件式(3)の上限を超えると、姿勢差により発生したピントズレ量を対して補正量が過度に大きくなり違和感を与える像が形成されてしまう。
【0020】
更に好ましくは条件式(2)を次のように設定することが好ましい。
0.1<|mb/MAXΔma|<1.0・・・(2a)
更に好ましくは条件式(3)を次のように設定することが好ましい。
0.1<|mb/MAXΔma|<5.0・・・(3a)
【実施例1】
【0021】
実施例1に示すズームレンズ装置について図1を用いて具体的に説明する。
図1は本発明の実施例1である撮像装置の構成を示している。
【0022】
実施例1である撮像装置は、ズームレンズ装置0と、ズームレンズ装置0の像面に配された撮像素子7と、撮像素子7からの信号に基づいて映像信号を得る映像信号処理回路8とを有する。ズームレンズ装置0は、フォーカスレンズ群1と、変倍レンズ群2と、開口絞り3と、前リレーレンズ群4と、エクステンダー部5と、後リレーレンズ群6とを有する。
【0023】
変倍レンズ群2は、光軸上を移動して変倍を行うレンズ群(バリエータ2a)と変倍に伴って変動する像面を補正するレンズ群(コンペンセータ2b)とで構成される。5はエクステンダー部は、等倍レンズ群5aと焦点距離の範囲を望遠側にシフトするエクステンダーレンズ群5bで構成され、いずれか一方のレンズ群が光軸上に選択的に挿抜して配置される。実施例1においては、後リレーレンズ群6が補正レンズ群として機能し、ピントズレを補正するために光軸方向に移動する。
【0024】
9はフォーカスレンズ群1を駆動するフォーカス駆動部であり、ヘリコイドやカム等の機構によりフォーカスレンズ群1を光軸方向に駆動する。10は変倍レンズ群2を駆動するズーム駆動部であり、カム機構により変倍レンズ群2を光軸方向に駆動する。11は開口絞り3の開口径を調整する絞り駆動部である。12は補正レンズ群を駆動する補正レンズ群駆動部(制御部)である。13はエクステンダー部5の切換え部である。14はレンズの光軸方向の水平方向に対する角度(俯仰角)を検出する姿勢検出部である。15は補正レンズ群検出部である。16は演算部(制御部)であり、ズームレンズ装置全体の各種の駆動を制御するための演算を行っている。17は記憶部であり、姿勢の変化によるピントズレ量に基づいた焦点位置補正量を記憶している。
【0025】
実施例1では、姿勢の変化に起因するピントズレ量は製品組立調整時に測定し、測定結果に応じた補正量が記憶部17に記憶されている。そして、演算部16は姿勢検出部14からの信号により記憶部17に記憶されている焦点位置補正量を選択し、補正レンズ群の駆動部12に入力する。そして、補正レンズ群の駆動部12は演算部16からの信号に基づいて補正レンズ群6を光軸方向に移動させて姿勢差によるピントズレを補正する。
【0026】
図2は実施例1の形態における処理例を示すフローチャートである。処理のステップの符号にSを付して示す以下の処理は、演算部16のCPUが制御プログラムを実行することにより実現される。
【0027】
S1では図1で示されるズームレンズ装置の電源を投入する。S2では姿勢検出部14である角度センサーがズームレンズ装置の光軸方向の水平方向に対する角度(仰俯角)を検出する処理が行われる。S3ではS2で検出した角度が水平状態であるか判定する処理が行われる。検出した角度が水平状態ではない場合、角度に対応した補正データを記憶部17から読み出す処理S4が行われる。検出した角度が水平状態の場合、S6に進む。S5では読み出した補正データに基づいて補正レンズ群を移動し、姿勢差によるピントズレを補正する処理が行われる。S6では補正レンズ位置検出部15によって移動後の補正レンズ群の位置を確認する処理が行われる。
【0028】
図3は実施例1の形態における水平状態でのズームカム構造を示した図である。2aは光軸上を移動し変倍を行うためのバリエータであり、2bは変倍に伴う像面の位置変動を補正するコンペンセータである。101は鏡筒である。102は直線溝である。103はカム筒であり、104はカム溝である。105はバリエータ2a、コンペンセータ2bをカム溝に合わせ移動させるための位置決めコロである。106はバリエータ2a及びコンペンセータ2bを直線溝102に沿って移動させるためのコロである。
【0029】
実施例1におけるズームレンズ装置においては、カム筒103を回転させることにより、カム溝104の軌跡に沿ってバリエータ2a及びコンペンセータ2bを光軸方向に移動させることでズーミングを実現している。
【0030】
尚、直線溝102は鏡筒101の光軸を中心とする周方向で等間隔に鏡筒101に3本加工され、バリエータ2a及びコンペンセータ2bを支えるコロ106も光軸を中心とする周方向で等間隔に3つが存在し、それぞれ対応する直線溝に摺動可能に係合するように配置されている。
【0031】
図4図3に示したズームカム構造のうち、コンペンセータ2b部分が水平状態からある角度θだけ傾いた際の様子を示した例である。カム溝104へは位置決めコロ105の1点のみで連結されていて、直線溝102とコロ106との3箇所の係合部では光軸方向に対する拘束力はないため、姿勢差として角度θがついた際に突然、コンペンセータ2bがある角度θ’だけ倒れることがある。コンペンセータ2bの倒れθ’によって焦点位置が急激に変化しピンボケが発生してしまう。また、先述したとおりコンペンセータ2bの倒れ角度θ’と、その倒れが発生する角度θはその特性上、温度等の使用環境の変化による構成部品の伸縮や、潤滑剤や耐摩耗剤の物性の変化などの理由によって変化する。バリエータ2aについても同様である。
【0032】
そのため、温度等の使用環境の変化があっても、補正後の映像に大きな違和感を与えることない。姿勢差によりレンズ群が倒れることにより発生する急峻なピントズレを補正するためには、予め測定した急峻なピントズレが発生した角度を含む所定の範囲で徐々に補正を行うよう補正量を適切に設定する必要がある。
【0033】
図5(A)及び(B)は、実施例1における、ズームレンズ装置の姿勢差によるピントズレ量(実線)と、補正レンズ群による補正量(破線)との関係を示したものである。図5(A)は製造誤差等によるガタが大きい(|MAXΔma|≧3.0×10-3(mm))場合を示しており、図5(b)は製造誤差等によるガタが小さい(|MAXΔma|<3.0×10-3(mm))場合を示している。尚、ピントズレ量は25℃において絞り開放、物体距離無限、広角端、等倍の条件で測定した値である。また、実施例1におけるズームレンズ装置のイメージサークルのサイズ(直径)は1.12×10mmである。
【0034】
図5(A)の条件において、事前の測定などに基づき得られたズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとしたとき、Δmaが最大となる角度(仰俯角)θaは22°である。また、その角度θaおける焦点位置の変化MAXΔmaは4.40×10-3mmである。この場合、姿勢差による急峻なピントズレが発生した角度(予め測定して確認されていた角度)22°を含む所定の角度の範囲において、事前に計測された単位仰俯角あたりの焦点位置の変化量より小さい変化量となるような補正量を設定する。それにより、急峻なピントズレが発生する角度が変化した場合にも違和感の少ない補正をすることが可能になる。図5(A)において、ズームレンズ装置の姿勢が1°変化した際の補正量の変化をΔmbとしたとき、Δmbが最大となる角度θbは22°であり、その角度θbにおける補正量の変化をMAXΔmbは2.40×10-3mmとするように補正量が設定されている。
【0035】
図5(A)の各条件式対応値を表1に示す。図5(A)における条件はいずれの条件式も満足している。この構成により、温度など使用環境の条件によりズームレンズ装置の構成部品の伸縮や、潤滑剤や耐摩耗剤の物性の変化により、急峻なピントズレが発生する角度が変化しても、姿勢差によるピントズレに起因する違和感の少ない補正を実現することができる。
【0036】
図5(B)は前述した条件において、事前の測定などに基づき得られた前記ズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとしたとき、Δmaが最大となる角度θaは24°である。その角度θa(=24°)おける焦点位置の変化MAXΔmaは8.00×10-4mmである。このような場合、Δmaの絶対値の最大値(|MAXΔma|)は大きくない(急峻なピントズレがない)ため、角度毎の予め測定して確認されたピントズレ量を実際の撮影で使用される補正量として設定しても問題はない。図5(B)において、ズームレンズ装置の使用時において検出された前記ズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの補正量の変化をΔmbとしたとき、Δmbが最大となる角度θbは24°である。その角度θbにおける補正量の変化をMAXΔmbは8.00×10-4mmである。
【0037】
図5(B)の各条件式対応値を表1に示す。図5(B)における条件はいずれの条件式も満足しており、姿勢差によるピントズレの違和感の少ない補正を実現している。
【0038】
尚、実施例1における姿勢検出部は角速度も検出でき、上述の仰俯角に加えて水平状態から傾ける速度(仰俯角方向の角速度)に基づいてピントズレの補正を行うようにしてもよい。
【実施例2】
【0039】
図6は本発明の実施例2である撮像システムの構成を示している。
実施例2の撮像システムは実施例1に比べ、フォーカスレンズ群1の位置を検出するフォーカス位置検出部18と、ズーム位置検出部19と、絞り検出部20と、等倍レンズ群5aとエクステンダーレンズ群5bの切り替えを検出するエクステンダー検出部21と、温度検出部22と、を有していることが異なる。その他の構成は同じである。
【0040】
実施例2のズームレンズ装置においては、姿勢の変化、フォーカスレンズ群の位置の変化、ズーム位置の変化、絞りの変化、温度変化、エクステンダーの切り替えに起因する、ピントズレを補正するための補正値を、あらかじめ記憶部17に記憶している。よって演算部16は、姿勢検出部14、フォーカス位置検出部18、ズーム位置検出部19、絞り検出部20、エクステンダー検出部21、温度検出部22で検出された信号(姿勢、ズーム位置、絞り開度、エクステンダーの状態、温度)に基づき、記憶部17に記憶されている補正量を読出し或いは演算して、補正レンズ群の駆動部12に入力する。そして補正レンズ群の駆動部12は演算部16からの信号に基づいて補正レンズ群6を光軸方向に移動させてピントズレを補正する。
【0041】
尚、記憶部17に記憶されているピントズレの補正情報は、テーブル形式の情報でもよいし、諸要因に対するズレ量を演算式化した情報でもよい。
【0042】
尚、本実施例の異なる形態として、記憶部17には姿勢の変化による補正量に加えて、フォーカスレンズ群の位置、ズームレンズ群の位置、絞りの状態、温度、エクステンダーの状態によるピントズレを補正するための補正値の少なくとも1つの補正量に関する補正情報が記憶されている構成でもよい。また、姿勢を検出する手段に加えて、フォーカスレンズの位置、ズームレンズ群の位置、絞りの状態、温度、エクステンダーの状態を検出する少なくとも1つの検出部を有していればよい。
【0043】
図7は実施例2の形態における処理例を示すフローチャートである。処理のステップの符号にSを付して示す以下の処理は、演算部16のCPUが制御プログラムを実行することにより実現される。
【0044】
S1では図6で示されるズームレンズの電源を投入し、S11に進む。
S11では姿勢差によるピントズレの補正の実行有無を切換える不図示のスイッチ(切換部)の状態を判定する。姿勢差によるピントズレ補正機能がONの場合はS2に進み、姿勢差によるピントズレ補正機能がOFFの場合はS21に進む。
【0045】
S2では姿勢検出部14である角度センサーがズームレンズ装置の姿勢を検出する処理を行い、S21に進む。
【0046】
S21ではフォーカス位置検出部18がフォーカスレンズ群の位置を検出する処理が行われ、S22に進む。
S22ではズーム位置検出部19がズームレンズ群の位置を検出し、S23に進む。
S23では絞り検出部20が絞り開度を検出し、S24に進む。
S24では温度検出部22が温度を検出し、S25に進む。
S25ではエクステンダー検出部21が光路に挿入されているエクステンダーの光学系を検出する処理が行われ、S4に進む。
【0047】
S4ではS2及びS21からS25で検出した、ズームレンズ装置の姿勢、フォーカスレンズ群の位置、ズームレンズ群の位置、絞りの開度、温度、エクステンダーの状態をもとに補正データを記憶部17から読み出す処理が行われる。S5では読み出した補正データに基づいて補正レンズ群を移動し、姿勢差によるピントズレを補正する処理が行われる。S6では補正レンズ位置検出部15によって移動後の補正レンズ群の位置を確認する処理が行われる。
【0048】
尚、本実施例の異なる形態として、S2及びS21からS25までの処理の順番が入れ替わっても良い。また、S2及びS21からS25のうちいずれかの処理が実行されない場合でも良い。
【0049】
図8(A)乃至(D)は、実施例2における、事前の測定などに基づき得られたズームレンズ装置の姿勢差によるピントズレ量(実線)と、実際の撮影で使用される補正レンズ群による補正量(破線)との関係を示したものである。
【0050】
図8(A)及び(B)は25℃、絞り開放、物体距離無限、広角端の条件で測定された値である。また、図8(A)は等倍時、図8(B)はエクステンダーレンズ群により倍加された場合である。
【0051】
図8(C)は望遠端の場合の補正を示したものである。図8(D)は温度の変化によってピントズレ量が変化したため、補正量に対してピントズレ量が小さくなった場合を示したものである。
【0052】
図8(A)におけるズームレンズ装置のイメージサークルのサイズは1.12×10mmである。このような場合、姿勢差による急峻なピントズレが発生した角度の前後の角度に対して徐々に補正をすることで、発生角度の変化が起きた場合にも違和感の少ない補正が可能となる。
【0053】
図8(A)において、前記ズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの補正量の変化をΔmbとしたとき、Δmbが最大となる角度θbは22.5°であり、その角度θbにおける補正量の変化をMAXΔmbは6.00×10-4mmである。前記ズームレンズ装置の姿勢の変化1°あたりの焦点位置の変化をΔmaとしたとき、Δmaが最大となる角度θaは22.5°である。その角度θaおける焦点位置の変化MAXΔmaは1.60×10-3mmで、前記角度θaにおける補正量の変化mbは6.00×10-4mmである。
【0054】
図8(A)の各条件式対応値を表2に示す。図8(A)における条件はいずれの条件式も満足している。この構成により、温度など使用環境の条件によりズームレンズ装置の構成部品の伸縮や、潤滑剤や耐摩耗剤の物性の変化により、急峻なピントズレが発生する角度が変化しても、姿勢差によるピントズレに起因する違和感の少ない補正を実現することができる。
【0055】
図8(B)は図8(A)に対して、エクステンダーレンズ群によって焦点距離が倍加している。実施例2におけるズームレンズ装置において姿勢差による急峻なピントズレが発生する原因となる可動レンズ群はエクステンダーユニットよりも物体側に存在するため、等倍時よりもピントズレ量が大きくなる。また、本例におけるイメージサークルのサイズは2.24×10mmである。このような場合でも、急峻にピントズレが発生する角度の前後の角度に対して徐々に補正をすれば良い。
【0056】
図8(B)において、前記ズームレンズ装置の姿勢が1°変化した際の補正量の変化をΔmbとしたとき、Δmbが最大となる角度θbは22.5°であり、その角度θbにおける補正量の変化をMAXΔmbは3.00×10-3mmである。前記ズームレンズ装置の姿勢が1°変化した際の焦点位置の変化をΔmaとしたとき、Δmaが最大となる角度θaは22.5°であり、その角度θaおける焦点位置の変化MAXΔmaは7.20×10-3mmである。前記角度θaにおける補正量の変化mbは3.00×10-3mmである。
【0057】
図8(B)の各条件式対応値を表2に示す。図8(B)における条件はいずれの条件式も満足しており、姿勢差によるピントズレの違和感の少ない補正を実現している。
【0058】
図8(C)は実施例2のズームレンズ装置において、25℃、絞り開放、物体距離無限、等倍時で、望遠端の場合を示したものである。実施例2のようなズームレンズ装置は、可動レンズ群の位置変動による焦点位置の変動が広角端に対して非常に大きくなる。尚、Δmbが最大となる角度θbは12°、Δmaが最大となる角度θaは12°である。このような場合、補正量を大きくしても急峻なピントズレ発生角度の変化に対応することができない。そのため図8(C)のように、急峻なピントズレが発生しない水平状態に近い角度のピントズレを補正するように補正する。
【0059】
図8(D)は図8(A)に対して使用温度が異なっている。尚、Δmbが最大となる角度θbは26°、Δmaが最大となる角度θaは22°である。このような場合でも、条件式(2)の範囲で補正量を適切に設定することで、温度変化によるピントズレ量の変化に対応できる。
【0060】
尚、実施例1及び実施例2において姿勢差によるピントズレ量とその補正量の一例を示したが、条件式の満たす範囲でピントズレ量と補正量が限定されるものではない。
【0061】
例示した実施例では、補正レンズ群をリレーレンズ群内に構成したが本発明はこれに限定されることはなく、他の位置に構成してもよい。
【0062】
また、実施例1及び実施例2において本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で変形及び変更が可能であることとする。
【0063】
【表1】
【符号の説明】
【0064】
0・・・ズームレンズ装置
2・・・変倍レンズ群
10・・・ズーム駆動部
12・・・補正レンズ群駆動部
14・・・姿勢差検出部
16・・・演算部
17・・・補正データ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9