(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】顔料水分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20221212BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20221212BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/326
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2018226713
(22)【出願日】2018-12-03
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2017234649
(32)【優先日】2017-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 澄広
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101170(JP,A)
【文献】特開2004-306441(JP,A)
【文献】特開2008-069355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料水分散体の製造方法
であって、
工程1:ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物を混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が
58/42以上95/5以下である顔料混合物を得る工
程、
工程2:工程1で得られた顔料混合物を撹拌しながら、水を添加し、顔料分散液を得る工程
、及び、
工程3:工程2で得られた顔料分散液から有機溶媒を除去する工程
を有し、
工程2の水添加時の撹拌速度が、先端周速で5m/sec以上であり、
工程2における水の添加速度が、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量
部に対して、50質量部/min以下である、顔料水分散体の製造方法。
【請求項2】
前記顔料混合物が、ポリエステルが有機溶媒に溶解してなる混合物である、請求項1に記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項3】
工程1が、ポリエステルが有機溶媒に溶解してなる溶液に、顔料と塩基性化合物を添加して混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が
58/42以上95/5以下である顔料混合物を得る工程である、請求項1又は2に記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項4】
工程2における水の添加速度が、ポリエステル100質量部に対して、0.1質量部/min以
上である、請求項1~3のいずれかに記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項5】
工程2における水の添加量が、有機溶媒100質量部に対して、100質量部以上5,000質量部以下である、請求項1~4のいずれかに記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項6】
工程1の混合時に分散処理を行う、請求項1~5のいずれかに記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項7】
工程2の水添加時の撹拌速度が、先端周速
で55m/sec以下
である、請求項1~6のいずれかに記載の顔料水分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の製造方法によって得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料水分散体の製造方法、及び該製造方法で得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能という数多くの利点があるため普及が著しい。その中でも、印刷物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが主流となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インクの吐出性と、印刷物の画像濃度及び耐光性に優れるインクジェット記録用水系インクの製造方法として、顔料混合物の有機溶媒系スラリーに、水を添加して、得られた分散液から、有機溶媒を除去する、インクジェット記録用水系インクの製造方法が開示されている。
特許文献2には、インクの吐出性と、記録媒体への画像の定着性と、印刷物の光沢性とに優れるインクジェット記録用水系インク及びその製造方法として、顔料粒子及びポリエステル樹脂粒子を含有するインクジェット記録用水系インクであって、顔料粒子が、顔料とポリエステル樹脂(A)とを、質量比[顔料/ポリエステル樹脂(A)]55/45~90/10で含有し、顔料粒子中の顔料と、顔料粒子中のポリエステル樹脂(A)及びポリエステル樹脂粒子を構成するポリエステル樹脂(B)の合計量との質量比[顔料/ポリエステル樹脂(A+B)]が、10/90~40/60である、インクジェット記録用水系インク及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-27078号公報
【文献】特開2015-28114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、食品や医療の現場では、除菌や殺菌のためにアルコールを用いる場面がある。これらの現場で用いられる容器の樹脂フィルム等には、パッケージデザインの他、能書等の製品情報、使用方法、賞味期限、ロット番号などが印刷され、これらの印刷物はアルコールといった溶剤に対する耐性、すなわち耐溶剤性が求められる。
特許文献1及び2の技術では、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際の耐溶剤性の更なる改善が求められている。また、インク粘度が高いとインクジェットプリンターで印刷する際の吐出不良等の原因となるため、インクジェット記録に用いるインクは低粘度であることが求められる。
本発明は、水系インクに用いることにより、該水系インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性に優れる、顔料水分散体の製造方法、及び該製造方法で得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することを課題とする。
なお、本明細書において、「非吸水性」とは、低吸水性、非吸水性を含む概念であり、記録媒体と純水との接触時間100m秒における該記録媒体の表面積あたりの吸水量が、0g/m2以上2.5g/m2以下であることを意味する。前記吸水量は、自動走査吸液計を用いて、実施例に記載の方法により測定される。以下の吸水量も同様である。
なお、「水系インク」とは、インクに含まれる媒体中で、水が最大割合を占めているインクを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]下記工程1~3を有する、顔料水分散体の製造方法。
工程1:ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物を混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が50/50以上95/5以下である顔料混合物を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料混合物を撹拌しながら、水を添加し、顔料分散液を得る工程
工程3:工程2で得られた顔料分散液から有機溶媒を除去する工程
[2]前記[1]に記載の製造方法によって得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、水系インクに用いることにより、該水系インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性に優れる、顔料水分散体の製造方法、及び該製造方法で得られる顔料水分散体を含有するインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[顔料水分散体の製造方法]
本発明の顔料水分散体(以下、単に「水分散体」ともいう)の製造方法は、下記工程1~3を有する。
工程1:ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物を混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が50/50以上95/5以下である顔料混合物を得る工程
工程2:工程1で得られた顔料混合物を撹拌しながら、水を添加し、顔料分散液を得る工程
工程3:工程2で得られた顔料分散液から有機溶媒を除去する工程
【0009】
本発明によれば、得られる顔料水分散体を水系インクに用いることにより、該水系インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性を向上させることができる。その理由は、必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
PETフィルム等の非吸水性記録媒体は、紙媒体と異なり平滑なため、非吸水性記録媒体に吐出された水系インク中に含まれる顔料粒子は、非吸水性記録媒体の表面上に残留する。そのため、エタノール等のアルコール溶剤を含浸させた不織布で印刷物を擦過すると、印刷面が消失してしまうことがある。これは、非吸水性記録媒体の表面上の、ポリエステルに包含されていない顔料粒子又はポリエステルが十分に吸着していない顔料粒子が、容易に除去されるためと考えられる。
一方、本発明は、ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物を混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が特定の範囲である顔料混合物を得た後、該顔料混合物を撹拌しながら、水を添加することにより、ポリエステルの溶解性が低下し、ポリエステルが顔料に均一に吸着し易くなり、その結果、ポリエステルによる顔料の分散安定性が向上し、得られる顔料水分散体を水系インクに用いることにより、該インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性を向上させることができると考えられる。
【0010】
<ポリエステル>
本発明に用いるポリエステルは、アルコール成分由来の構成単位とカルボン酸成分由来の構成単位を含有し、少なくとも、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合して得られる。
【0011】
(アルコール成分)
ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分は、顔料分散性及び耐溶剤性の観点から、芳香族含有ジオールを含むことが好ましい。
芳香族含有ジオールは、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物であることが好ましい。
なお、本発明において、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物とは、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンにオキシアルキレン基を付加した構造全体を意味するものである。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、具体的には下記一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0012】
【0013】
一般式(I)において、OR1、R2Oはいずれもオキシアルキレン基であり、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1以上4以下のオキシアルキレン基であり、より好ましくはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基である。
x及びyは、アルキレンオキシドの平均付加モル数に相当し、それぞれ独立に、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは16以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは5以下、より更に好ましくは3以下である。更に、カルボン酸成分との反応性の観点から、xとyの和の平均値は、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
また、x個のOR1とy個のR2Oは、各々同一であっても異なっていてもよいが、耐溶剤性の観点から、同一であることが好ましい。ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、単独で又は2種以上を併用してもよい。このビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物及びビスフェノールAのエチレンオキシド付加物が好ましく、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物がより好ましい。
ポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分中におけるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物の含有量は、顔料分散性及び耐溶剤性の観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0014】
ポリエステルの原料モノマーのアルコール成分には、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物以外の他のアルコール成分が含まれてもよい。
他のアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール(「1,2-プロパンジオール」と同じ)、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、水素添加ビスフェノールA、ソルビトール、又はこれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキシド付加物(平均付加モル数1以上16以下)等が挙げられる。
前記の他のアルコール成分は、単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0015】
(カルボン酸成分)
ポリエステルの原料モノマーとして、前記アルコール成分以外にカルボン酸成分が用いられる。
該カルボン酸成分には、カルボン酸並びに該カルボン酸の無水物及び該カルボン酸のアルキル(炭素数1以上3以下)エステル等が含まれる。
該カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸及び3価以上の多価カルボン酸が好ましく、カルボン酸成分とアルコール成分との反応性の観点、並びにインクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、不飽和脂肪族ジカルボン酸及び飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、カルボン酸成分とアルコール成分との反応性の観点、並びにインクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、不飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸がより好ましく、フマル酸が更に好ましい。
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸(コハク酸は、アルキル基及び/又はアルケニル基で置換されていてもよい)が好ましい。
脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸が好ましい。
3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸が好ましい。
前記カルボン酸成分は、単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。
【0016】
〔ポリエステルの製造方法〕
ポリエステルは、少なくとも、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを縮重合して得られる。該アルコール成分及び該カルボン酸成分の好適な態様及び好適な含有量は、それぞれ、前述のとおりである。
ポリエステルは、例えば、前記アルコール成分と前記カルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒を用いて、180℃以上250℃以下の温度で縮重合することにより製造することができる。
エステル化触媒としては、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物等が挙げられる。中でも、ポリエステルの製造におけるエステル化反応の反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)、又はこれらの塩等が好ましく、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)がより好ましい。
必要に応じて、前記エステル化触媒に加えて、更に3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸(「没食子酸」と同じ)等のエステル化助触媒を用いてもよい。
また、4-tert-ブチルカテコール、ヒドロキノン等のラジカル重合禁止剤を併用してもよい。
【0017】
ポリエステルの軟化点は、インクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは170℃以下、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは125℃以下である。
ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は、インクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下、より更に好ましくは80℃以下である。
ポリエステルの酸価は、非吸水性記録媒体への密着性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは15mgKOH/g以上、更に好ましくは20mgKOH/g以上であり、そして、耐溶剤性の観点から、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは40mgKOH/g以下、更に好ましくは35mgKOH/g以下である。
また、ポリエステルの重量平均分子量(Mw)は、耐溶剤性の観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,500以上、更に好ましくは10,000以上、より更に好ましくは12,500以上であり、そして、顔料水分散体の分散安定性の観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは75,000以下、更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。
ポリエステルの軟化点、ガラス転移温度、酸価、及び重量平均分子量(Mw)は、いずれも実施例に記載の方法で測定することができ、用いるモノマーの種類、配合比率、縮重合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
【0018】
<有機溶媒>
有機溶媒は、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させる観点から、ポリエステルを溶解することができ、かつ水の添加によりポリエステルの溶解性が低下してポリエステルが析出する有機溶媒が好ましい。
該有機溶媒としては、例えばエタノール等のアルコール系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;エーテル系溶媒;芳香族炭化水素系溶媒;脂肪族炭化水素系溶媒;ハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
これらの有機溶媒の中では、ポリエステルの溶解性の観点、並びに安全性及び後処理における溶媒除去の操作性の観点から、炭素数1以上3以下のアルコール系溶媒、炭素数4以上8以下のケトン系溶媒が好ましく、エタノール、メチルエチルケトンがより好ましい。前記有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
<顔料>
本発明に用いられる顔料は、特に限定されず、有機顔料、無機顔料、又はこれらの混合物であってもよい。
有機顔料は、アントラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサジン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、フタロシアニン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料等の縮合多環系顔料;ジスアゾ系顔料、縮合アゾ系顔料等のアゾ系顔料などが挙げられる。
有機顔料には、顔料誘導体が含まれる。該顔料誘導体は、水酸基、カルボキシ基、カルバモイル基、スルホ基、スルホンアミド基、フタルイミドメチル基等の官能基を有機顔料表面に結合する処理を行うことにより調製することができる。
無機顔料は、カーボンブラック、アルミナ、二酸化チタン等の金属酸化物が挙げられる。これらの無機顔料は、チタンカップリング剤、シランカップリング剤、高級脂肪酸金属塩等の公知の疎水化処理剤で処理されたものであってもよい。
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
なお、これらの顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
<塩基性化合物>
塩基性化合物は、ポリエステルのアニオン性基の中和に用いられる。ポリエステル中の塩基で中和されたアニオン性基は、顔料混合物中で解離して、アニオン同士の静電的な反発により、顔料水分散体及びインクの分散安定性に寄与すると考えられる。
該塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物;アンモニア;各種アミンなどが挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアである。
ポリエステル中のアニオン性基に対する塩基性化合物の使用当量(モル%)は、ポリエステルの顔料水分散体中及びインク中での分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは300モル%以下、より好ましくは200モル%以下、更に好ましくは150モル%以下である。
なお、塩基性化合物の使用当量(モル%)は、次式によって求めることができる。塩基性化合物の使用当量は、100モル%以下の場合、中和度と同義であり、次式で塩基性化合物の使用当量が100モル%を超える場合には、塩基性化合物がポリエステルのアニオン性基に対して過剰であることを意味し、この時のポリエステルの中和度は100モル%とみなす。
塩基性化合物の使用当量(モル%)=〔{塩基性化合物の添加質量(g)/塩基性化合物の当量}/[{ポリエステルの酸価(mgKOH/g)×ポリエステルの質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
【0021】
(工程1)
工程1は、ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物を混合し、顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]が50/50以上95/5以下である顔料混合物を得る工程である。
工程1で得られる顔料混合物は、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させる観点から、ポリエステルが有機溶媒に溶解してなる混合物であることが好ましい。
工程1において、ポリエステル、有機溶媒、顔料及び塩基性化合物の混合順序に特に制限はない。予めポリエステルと顔料を混練した後、有機溶媒及び塩基性化合物と混合してもよい。
工程1は、顔料を十分に分散させる観点、及びポリエステルの顔料への吸着率を向上させる観点から、まず、ポリエステルを有機溶媒に溶解させ、ポリエステルが有機溶媒に溶解してなる溶液(以下、「ポリエステルの有機溶媒溶液」ともいう)を調製し、該溶液に顔料、塩基性化合物、及び必要に応じて界面活性剤等を添加して混合し、顔料混合物を得る工程が好ましい。ポリエステルの有機溶媒溶液に前記各成分を加える順序に制限はないが、塩基性化合物、顔料の順に加えることが好ましい。該塩基性化合物は水溶液として用いることが好ましく、塩基性化合物水溶液の濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0022】
工程1で得られる顔料混合物中の顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は、インクの低粘度化の観点から、50/50以上であり、好ましくは55/45以上、より好ましくは58/42以上であり、そして、耐溶剤性の観点から、95/5以下であり、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下、更に好ましくは80/20以下である。
【0023】
ポリエステルの含有量は、工程1で得られる顔料混合物中、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
有機溶媒の含有量は、工程1で得られる顔料混合物中、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
顔料の含有量は、工程1で得られる顔料混合物中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0024】
工程1における混合方法に特に制限はないが、撹拌部を有する撹拌装置を用いて、撹拌部を回転することによって混合することが好ましい。撹拌部としては、例えば、軸に1つ又は複数の撹拌羽根を備える撹拌翼、単軸又は二軸以上のスクリュー、磁気により回転可能な金属を含む撹拌子等が挙げられる。
工程1において、顔料を十分に分散させ、インクの低粘度化及び耐溶剤性を向上させる観点から、混合時に分散処理を行うことが好ましい。分散処理に用いる装置としては、アンカー翼、ディスパー翼等の混合撹拌装置;ロールミル、ニーダー等の混練機;マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)等の高圧ホモジナイザー;ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機などが挙げられる。これらの装置は2種以上を組み合わせることもできる。中でも、顔料を十分に分散させる観点から、混合撹拌装置が好ましく、高速撹拌型混合機がより好ましい。
高速撹拌型混合機の中でも、多段式チョッパー翼を備えた垂直軸回転型混合機が好ましい。このような市販品としては、ホモミキサー(プライミクス株式会社)、ホモディスパー(プライミクス株式会社)、マイルダー(太平洋機工株式会社)、キャビトロン(株式会社ユーロテック)、ハイシェアミキサー(プライミクス株式会社)、クレアミックス(エム・テクニック株式会社)、マジックラボ(株式会社シンマルエンタープライゼス)、ゼロミル(淺田鉄工株式会社)、アペックスディスパーサーゼロ(株式会社広島メタル&マシナリー)等が挙げられ、中でもホモミキサーが好ましい。高速撹拌型混合機はバッチ式のものを用いてもよく、循環式のものを用いてもよい。
【0025】
工程1の混合時の撹拌速度は、顔料を十分に分散させ、インクの低粘度化及び耐溶剤性を向上させる観点から、先端周速で、好ましくは0.5m/sec以上、より好ましくは1m/sec以上、更に好ましくは2m/sec以上、より更に好ましくは5m/sec以上であり、そして、撹拌エネルギーによる温度上昇を抑制する観点から、好ましくは55m/sec以下、より好ましくは40m/sec以下、更に好ましくは30m/sec以下、より更に好ましくは25m/sec以下である。
本発明における先端周速とは、撹拌部の先端周速を意味し、例えば撹拌部として撹拌翼を用いる場合には、撹拌装置内の最も大きな撹拌翼(主撹拌翼)の外周部の周速を意味する。
【0026】
工程1の混合時の温度は、製造安定性及び顔料混合物の低粘度化の観点から、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは25℃以下である。
工程1の混合時間は、撹拌速度や温度条件にもよるが、好ましくは0.3時間以上、より好ましくは0.5時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下である。
【0027】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた顔料混合物を撹拌しながら、水を添加し、顔料分散液を得る工程である。工程2では、前記顔料混合物に水を添加してポリエステルの溶解性を低下させ、ポリエステルを顔料へ吸着させる。
工程2の撹拌は、前述の工程1で挙げられた撹拌部を有する撹拌装置を用いることができる。中でも、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させる観点から、高速撹拌型混合機が好ましい。該高速撹拌型混合機として前述の工程1で挙げられたものと同様のものが挙げられる。
工程2の水添加時の撹拌速度は、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させ、耐溶剤性を向上させる観点、及びインクの低粘度化の観点から、先端周速で、好ましくは0.3m/sec以上、より好ましくは0.5m/sec以上、更に好ましくは1m/sec以上、より更に好ましくは2m/sec以上、より更に好ましくは5m/sec以上であり、そして、製造の容易性の観点及び撹拌エネルギーによる温度上昇を抑制する観点から、好ましくは55m/sec以下、より好ましくは45m/sec以下、更に好ましくは35m/sec以下、より更に好ましくは30m/sec以下、より更に好ましくは25m/sec以下である。
また、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させる観点から、水は、撹拌部の先端部から撹拌装置内の壁面までの間に添加することが好ましく、撹拌翼を用いる場合には、撹拌翼の先端部から撹拌装置内の壁面までの間に添加することがより好ましい。添加方法としては、液面上部より滴下する方法が好ましい。
工程2における水の添加速度は、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対して、製造時間を短縮し生産効率を高める観点から、好ましくは0.1質量部/min以上、より好ましくは0.3質量部/min以上、更に好ましくは0.5質量部/min以上であり、そして、ポリエステルの顔料への吸着率を向上させ、耐溶剤性を向上させる観点、及びインクの低粘度化の観点から、好ましくは500質量部/min以下、より好ましくは300質量部/min以下、更に好ましくは100質量部/min以下、より更に好ましくは50質量部/min以下、より更に好ましくは20質量部/min以下、より更に好ましくは10質量部/min以下である。
【0028】
工程2における水の添加量は、工程1の顔料混合物に用いた有機溶媒100質量部に対して、耐溶剤性の観点から、好ましくは100質量部以上、より好ましくは300質量部以上、更に好ましくは500質量部以上、より更に好ましくは700質量部以上であり、そして、生産効率を高める観点から、好ましくは5,000質量部以下、より好ましくは4,000質量部以下、更に好ましくは3,000質量部以下、より更に好ましくは2,000質量部以下である。
工程2における水の添加量は、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対して、耐溶剤性の観点から、好ましくは300質量部以上、より好ましくは500質量部以上、更に好ましくは1,000質量部以上であり、そして、生産効率を高める観点から、好ましくは10,000質量部以下、より好ましくは8,000質量部以下、更に好ましくは5,000質量部以下である。
工程2の水添加時の温度は、製造安定性及び顔料混合物の低粘度化の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは33℃以下である。
【0029】
(工程3)
工程3は、工程2で得られた顔料分散液から有機溶媒を除去する工程である。
工程3により、工程2で得られた顔料分散液から、公知の方法で有機溶媒を除去することで、水分散体を得ることができる。得られた水分散体中の有機溶媒は、実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残留していてもよい。残留有機溶媒の量は、水分散体中、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また必要に応じて、有機溶媒を留去する前に工程2で得られた顔料分散液を加熱撹拌処理してもよい。
有機溶媒の除去装置は、回分単蒸留装置、減圧蒸留装置、フラッシュエバポレーター等の薄膜式蒸留装置、回転式蒸留装置、撹拌式蒸発装置等が挙げられる。
有機溶媒を除去する際の圧力は、用いる有機溶媒の種類によって適宜選択できるが、液温度の上昇を抑制する観点から、好ましくは30kPa以下、より好ましくは20kPa以下、更に好ましくは15kPa以下である。
有機溶媒を除去する際の熱媒の温度は、用いる有機溶媒の種類によって適宜選択できるが、減圧下、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは30℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下である。
有機溶媒の除去は、有機溶媒を除去した水分散体の不揮発成分(固形分)濃度が、好ましくは18質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは22質量%以上になるまで行うことが好ましく、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下になるまで行うことが好ましい。不揮発成分(固形分)濃度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
また、粗大粒子等を除去する目的で、該有機溶媒を除去した水分散体を、更に、遠心分離した後、液層部分をフィルター等で濾過し、該フィルター等を通過してくる水分散体を、顔料水分散体として得ることが好ましい。
【0030】
本発明の製造方法により得られる顔料水分散体は、該水分散体の腐敗を抑制する観点から、更に防腐剤、防黴剤及び滅菌剤から選ばれる1種以上を添加し、混合することが好ましい。該混合の方法は、例えば、前記顔料水分散体と、防腐剤、防黴剤及び滅菌剤から選ばれる1種以上とを、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上で撹拌しながら混合する方法が挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法により得られる顔料水分散体は、顔料を含有するポリエステル系樹脂粒子A(以下、「顔料含有樹脂粒子A」ともいう)が、水を主媒体とする水系媒体中に分散しているものである。
ここで、顔料含有樹脂粒子Aの形態は特に制限はなく、少なくとも顔料とポリエステルにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリエステルに顔料の少なくとも一部が内包された粒子形態、ポリエステル中に顔料が分散された粒子形態、顔料含有樹脂粒子Aの表面に顔料の一部が露出した粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。中でも、インクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、ポリエステルに顔料の少なくとも一部が内包された粒子形態、換言すると、ポリエステルによって顔料の少なくとも一部が被覆された粒子形態であることが好ましい。
本発明により得られる顔料水分散体における顔料に対するポリエステルの吸着率は、耐溶剤性の観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは63質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、より更に好ましくは67質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、そして、顔料水分散体の分散安定性の観点から、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
前記吸着率は、実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明により得られる顔料水分散体中の顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径は、印字濃度の観点から、好ましくは50nm以上、より更に好ましくは70nm以上、更に好ましくは100nm以上、より更に好ましくは150nm以上であり、そして、インクの低粘度化及び耐溶剤性の観点から、好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
[インクジェット記録用水系インク]
本発明のインクジェット記録用水系インク(以下、単に「水系インク」又は「インク」ともいう)は、前記顔料水分散体を含有する。
前記顔料水分散体の含有量は、水系インク中、印字濃度の観点から、固形分換算で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、耐溶剤性の観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は、インクの低粘度化の観点から、水系インク中、好ましくは50/50以上、より好ましくは55/45以上、更に好ましくは58/42以上であり、そして、耐溶剤性の観点から、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、更に好ましくは85/15以下、より更に好ましくは80/20以下である。
【0033】
水系インク中の顔料含有樹脂粒子Aは、該粒子の膨潤や収縮、該粒子間の凝集が生じないことが好ましく、水系インク中の顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径は、前記顔料水分散体中の平均粒径と同じであることが好ましい。水系インク中の顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径の好ましい態様は、前記顔料水分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。水系インク中の顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径も、実施例に記載の方法により測定される。
【0034】
<有機溶媒B>
本発明の水系インクは、有機溶媒Bを含有することが好ましい。該インクが有機溶媒Bを含有することにより、インクの保湿性が高まり、ノズルの閉塞を抑制することによってインクの吐出安定性を向上させる効果が得られる。有機溶媒Bとしては、水系インクに用いる観点から、エーテル類、アルコール類、エステル類、ラクトン類、ラクタム類、アミン類等の極性溶媒が挙げられる。
有機溶媒Bは、25℃環境下で液状であるものが好ましい。25℃環境下で液状である有機溶媒Bを用いると、記録媒体上にインクを吐出した後、該有機溶媒Bが蒸発によって除去され易く、インクを乾燥して得られる画像のベタつきを抑制すると共に、耐溶剤性を向上させることができる。
有機溶媒Bの含有量は、インクの記録媒体に対する濡れ性の観点から、水と該有機溶媒Bとの合計量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、水系インクの保存安定性の観点から、好ましくは50質量%未満、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0035】
(有機溶媒b)
有機溶媒Bは、沸点が235℃以下である有機溶媒b(以下、単に「有機溶媒b」ともいう)を90質量%以上含有することが好ましい。
有機溶媒bの沸点は、インクの保湿性及び吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは165℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、耐溶剤性の観点から、好ましくは225℃以下、より好ましくは215℃以下、更に好ましくは205℃以下である。
有機溶媒bは、単独で又は2種以上を併用して用いてもよく、2種以上の有機溶媒を用いる場合は、有機溶媒bの沸点は各有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
【0036】
有機溶媒bとしては、水系インクに用いる観点から、エーテル類、アルコール類、エステル類、ラクトン類、ラクタム類、アミン類等の極性溶媒が挙げられ、好ましくはエーテル類、アルコール類である。中でも、有機溶媒bは、ジオール及びグリコールエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。
前記ジオールは、耐溶剤性の観点から、好ましくは第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数2以上6以下の脂肪族ジオール、より好ましくは第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3以上5以下の脂肪族ジオール、更に好ましくは第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3又は4の脂肪族ジオールである。該脂肪族ジオールの中では、1,2-アルカンジオール、1,3-アルカンジオールがより更に好ましく、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール、沸点187℃)、1,2-ブタンジオール(沸点190℃)、及び1,3-ブタンジオール(沸点207℃)から選ばれる1種以上がより更に好ましい。
前記グリコールエーテルは、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びジアルキレングリコールモノアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)が挙げられる。該グリコールエーテルの中では、インクの記録媒体に対する濡れ性及び耐溶剤性の点から、好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル及びジエチレングリコールモノイソブチルエーテルから選ばれる1種以上であり、より好ましくはジエチレングリコールモノイソブチルエーテルである。
【0037】
有機溶媒Bは、有機溶媒bに加え、その他の有機溶媒を併用してもよいが、沸点が235℃以下である有機溶媒bの含有量は、インクに含まれる有機溶媒B総量中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上、より更に好ましくは100質量%である。沸点が235℃以下である有機溶媒bを90質量%以上含有することでインクを乾燥して得られる画像と記録媒体との間に溶剤が残留しにくくなり、耐溶剤性が向上する。
【0038】
<水>
本発明の水系インクは、水を含有する。該インクに含まれる水としては、イオン交換水及び蒸留水等の純水、超純水が好ましい。
水の含有量は、有機溶媒Bの使用量を低減するとともに、インクの吐出性を向上させる観点から、水系インク中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0039】
<界面活性剤C>
本発明の水系インクは、インクの吐出安定性を向上させる観点から、表面張力調整剤として界面活性剤Cを含有することが好ましい。界面活性剤Cは、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられるが、非イオン性界面活性剤が好ましい。界面活性剤Cは、例えば、水系インクの界面活性剤として用いられているものが挙げられ、界面活性剤として市販されているものを用いることができる。
非イオン性界面活性剤は、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、多価アルコール型界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤がより好ましい。
界面活性剤Cの含有量は、水系インク中、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上、更に好ましくは0.50質量%以上であり、そして、好ましくは5.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、更に好ましくは1.00質量%以下である。
【0040】
本発明の水系インクは、必要に応じて、前述した各成分の他、アミン類等のpH調整剤、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤、防錆剤、酸化防止剤等の任意成分を含有してもよい。
本発明の水系インクの25℃における粘度は、顔料を含有する観点から、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは1.3mPa・s以上であり、吐出性の観点から、好ましくは1.8mPa・s以下、より好ましくは1.7mPa・s以下である。前記粘度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0041】
〔インクジェット記録用水系インクの製造方法〕
本発明の水系インクは、前記顔料水分散体と前記有機溶媒Bとを混合することによって製造することが好ましい。本発明の水系インクは、必要に応じて、更に水及び前述した各任意成分を添加及び混合してもよい。
更に、本発明の水系インクは、必要に応じて、これらの成分を混合して得られる混合液を、フィルター等で濾過する工程を有する製造方法により得ることができる。
【0042】
〔インクジェット記録方法〕
本発明の水系インクは、インクジェット記録方式で画像を形成するインクジェット記録方法に用いることができる。該インクジェット記録方法は、本発明の水系インクを用いれば、特に制限はないが、更に以下の方法を用いることで本発明の効果をより高めることができる。
前記インクジェット記録方法に用いる記録媒体としては、高吸水性の普通紙、非吸水性のコート紙及び樹脂フィルム等が挙げられる。本発明の水系インクは、非吸水性記録媒体上に印刷を行っても耐溶剤性に優れる観点から、非吸水性の記録媒体に記録するインクジェット記録方法に用いることが好ましい。
【0043】
用いる記録媒体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、及びナイロンフィルムから選ばれる1種以上の樹脂フィルム等が挙げられる。これらの樹脂フィルムは、必要に応じてコロナ処理等の表面処理がされていてもよい。該記録媒体は、耐溶剤性の観点から、ポリエステルフィルムが好ましい。
一般的に入手できる樹脂フィルムとしては、例えば、ルミラー(登録商標)T60(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート、吸水量2.3g/m2)、PVC80B P(リンテック株式会社製、ポリ塩化ビニル、吸水量1.4g/m2)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0044】
前記インクジェット記録方法に用いるインクジェット記録装置は、サーマル方式及びピエゾ方式があるが、前記水系インクはピエゾ方式のインクジェット記録装置を用いて記録媒体に記録することが好ましい。ピエゾ方式は、印刷時にインクの加熱や揮発が少なく、前記水系インクの性能を損なうことなく、印刷することが可能である。
前記インクジェット記録方法では、記録媒体を加熱した後に前記水系インクを用いてインクジェット記録方式で画像を形成してもよい。画像形成前の加熱温度は、耐溶剤性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、記録媒体の変性を抑制する観点及びエネルギー抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
また、画像形成後のインクの乾燥を促進する観点から、画像形成後に更に加熱してもよい。画像形成後の加熱温度は、耐溶剤性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、記録媒体の変性を抑制する観点及びエネルギー抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
画像形成後の加熱時間は、インクの乾燥を促進する観点から、好ましくは10秒以上、より好ましくは60秒以上、更に好ましくは120秒以上であり、そして、記録媒体の変性を抑制する観点及びエネルギー抑制の観点から、好ましくは300秒以下、より好ましくは200秒以下である。
【実施例】
【0045】
以下の製造例、実施例及び比較例において、各種の物性並びに特性の測定及び評価は、以下の方法で行った。
【0046】
[ポリエステルの軟化点]
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0047】
[ポリエステルのガラス転移温度]
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製、商品名:Pyris 6 DSC)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0048】
[ポリエステルの酸価]
測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、アセトンとトルエンとの混合溶媒〔アセトン:トルエン=1:1(容量比)〕に変更したこと以外は、JIS K0070-1992に記載の中和滴定法に従って測定した。
【0049】
[ポリエステルの重量平均分子量(Mw)]
(1)試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、樹脂をクロロホルムに溶解させた。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター「FP-200」(住友電気工業株式会社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とした。
(2)分子量測定
溶解液としてテトラヒドロフランを毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行った。試料の重量平均分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出した。検量線は、数種類の単分散ポリスチレン〔東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン;2.63×103、2.06×104、1.02×105(重量平均分子量(Mw))、ジーエルサイエンス株式会社製の単分散ポリスチレン;2.10×103、7.00×103、5.04×104(重量平均分子量(Mw))〕を標準試料として用いて作成した。
測定装置:「CO-8010」(東ソー株式会社製)
分析カラム:「GMHXL」+「G3000HXL」(東ソー株式会社製)
【0050】
[不揮発成分(固形分)濃度]
30mlのポリプロピレン製容器(内径40mm、高さ30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへ試料1.0gを添加して、混合させて混合物を得た。その後、該混合物を秤量し、105℃で2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で15分間放置し、揮発分除去後の該混合物の質量を測定した。揮発分除去後の混合物の質量から硫酸ナトリウムの質量を差し引いた質量を揮発分除去後の試料の固形分として、揮発分除去前の試料の質量で除して不揮発成分(固形分)濃度(質量%)とした。
【0051】
[顔料を含有するポリエステル系樹脂粒子A(顔料含有樹脂粒子A)の平均粒径]
大塚電子株式会社製のレーザー粒子解析システム「ELS-8000」(キュムラント解析)を用いて測定されるキュムラント平均粒径を、顔料含有樹脂粒子Aの平均粒径とした。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定濃度は、5×10-3質量%で行った。
【0052】
[吸着率の測定]
顔料水分散体における顔料に対するポリエステルの吸着率は、下記式より求めた。
吸着率(質量%)=顔料に吸着したポリエスエルの質量[g]/工程1で添加したポリエステルの質量[g]×100
前記顔料に吸着したポリエステルの質量は、以下の方法により求めた。
まず、顔料水分散体9gを遠心管「11PAアツチューブ」(日立工機株式会社製)に仕込み、遠心分離機「himac CR22」(日立工機株式会社製、設定温度25℃)及びロータ「R21」(日立工機株式会社製)を用い、回転数18,000r/minで遠心加速度39,120Gの条件下、180分間遠心分離処理を行った。次いで遠心分離処理後の液層部分を回収し、該液層中に含まれる固形分の質量を顔料に吸着していない未吸着ポリエステルの質量とし、工程1で添加したポリエステルの質量から該未吸着ポリエステルの質量を差し引いた質量を顔料に吸着したポリエスエルの質量として算出した。
【0053】
[記録媒体と純水との接触時間100m秒における記録媒体の吸水量]
自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、「KM500win」)を用いて、23℃、相対湿度50質量%の条件下にて、純水の接触時間100m秒における転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time(秒):0.010~1.0
Pitch(mm):7
Length Per Sampling(degree):86.29
Start Radius(mm):20
End Radius(mm):60
Min Contact Time(m秒):10
Max Contact Time(m秒):1,000
Sampling Pattern(1~50):50
Number of Sampling Points(>0):19
「Square Head」
Slit Span(mm):1
Slit Width(mm):5
【0054】
以下の製造例、実施例及び比較例において用いた顔料、有機溶媒B及び界面活性剤Cは、以下のとおりである。
【0055】
[顔料]
・イエロー顔料;C.I.ピグメントイエロー155(以下、「PY155」ともいう)(INK JET YELLOW 4GC、CLARIANT社製)
・シアン顔料;C.I.ピグメントブルー15:3(以下、「PB15:3」ともいう)
(CHROMOFINE BLUE、大日精化工業株式会社製)
【0056】
[有機溶媒B]
・iBDG:ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、沸点220℃(和光純薬工業株式会社製)
・PG:プロピレングリコール、沸点187℃(和光純薬工業株式会社製)
【0057】
[界面活性剤C]
・アセチレングリコール系界面活性剤のプロピレングリコール(50質量%)溶液(商品名「サーフィノール(登録商標)104PG-50」、エアープロダクツ社製、非イオン性界面活性剤)
【0058】
(ポリエステルPA-1の製造)
製造例1
表1に示す各原料モノマー(アルコール成分及びカルボン酸成分)及びエステル化触媒を、表1に示す配合量で配合し、温度計、撹拌装置、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した内容積10Lの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、210℃で10時間反応を行った後、更に-8.3kPa(G)で軟化点が表1に示す温度に到達するまで反応させて、ポリエステルPA-1を得た。
原料として用いたアルコール成分及びカルボン酸成分の種類及び配合量、得られたポリエステルPA-1の物性等を表1に示す。
【0059】
【0060】
(顔料水分散体の製造)
実施例1
(1)工程1
内容積5Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)295gにポリエステルPA-1を100g溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を10.5g、イエロー顔料(PY155)を150g加え、容器内温度25℃で、ホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secで1時間分散し、顔料混合物1を得た。このときの顔料とポリエステルの質量比[顔料/ポリエステル]は60/40であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物1を、容器内温度25℃で、ホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secの撹拌速度で撹拌しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を15.6質量部/minの速度で147g、ホモディスパー翼の先端部付近に添加した。この時、溶液の外観が透明色から白色に変化したため、溶解していたポリエステルが析出したと判断した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部となるように残りのイオン交換水2,803gを上記と同じ態様で添加して、顔料分散液1を得た。
(3)工程3
工程2で得られた顔料分散液1を、回転式蒸留装置「ロータリーエバポレーター N-1000S」(東京理化器械株式会社製)を用いて、回転数50r/minで、60℃に調整した温浴中、15KPaの圧力で3時間保持して、有機溶媒を除去した。更に、固形分濃度24.0質量%になるまで濃縮して濃縮物を得た。
得られた濃縮物を500mlアングルローターに投入し、高速冷却遠心機「himac CR22G」(日立工機株式会社製、設定温度20℃)を用いて3,660r/minで20分間遠心分離した後、液層部分を孔径5μmのメンブランフィルター「Minisart」(Sartorius社製)で濾過し、顔料含有樹脂粒子A-1の水分散体を得た。
該顔料含有樹脂粒子A-1の水分散体695gにイオン交換水62.4gを添加し、更に「プロキセル(登録商標)LV(S)」(ロンザジャパン株式会社製:防腐剤、有効分20質量%)0.76gを添加し、70℃で2時間撹拌した。25℃に冷却後、前記孔径5μmフィルターで濾過し、更に固形分濃度が22.0質量%になるようにイオン交換水を加えて、顔料含有樹脂粒子A-1を含む顔料水分散体A-Iを得た。
【0061】
実施例2、3
実施例1において工程2のイオン交換水の添加速度を、実施例2では30.7質量部/min、実施例3では123.3質量部/minとした以外は実施例1と同様にして、それぞれ顔料含有樹脂粒子A-2を含む顔料水分散体A-II及び顔料含有樹脂粒子A-3を含む顔料水分散体A-IIIを得た。
【0062】
実施例4、5
(1)工程1
内容積5Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)295gにポリエステルPA-1を100g溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を10.5g、イエロー顔料(PY155)を150g加え、容器内温度25℃で、ホモミキサー「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速20.0m/sec、クリアランス0.5mmで1時間分散し、それぞれ顔料混合物4及び5を得た。このときの顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は60/40であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物4及び5を、それぞれ容器内温度25℃でホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secの撹拌速度で撹拌しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、実施例4ではイオン交換水を1.9質量部/min、実施例5では370.4質量部/minの速度で147g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水2,803gを添加して、顔料分散液4及び5を得た。
(3)工程3は実施例1と同様に行い、顔料含有樹脂粒子A-4を含む顔料水分散体A-IV及び顔料含有樹脂粒子A-5を含む顔料水分散体A-Vを得た。
【0063】
実施例6、7
(1)工程1
内容積5Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)295gにポリエステルPA-1を100g溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を10.5g、イエロー顔料(PY155)を150g加え、容器内温度25℃で、ホモミキサー「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速20.0m/secで1時間分散し、それぞれ顔料混合物6及び7を得た。このときの顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は60/40であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物6及び7を、それぞれ容器内温度25℃でホモミキサー「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて、実施例6では先端周速2.4m/sec、実施例7では先端周速20.0m/secの撹拌速度で撹拌しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を15.6質量部/minの速度で147g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水2,803gを添加して、顔料分散液6及び7を得た。
(3)工程3は実施例1と同様に行い、顔料含有樹脂粒子A-6を含む顔料水分散体A-VI及び顔料含有樹脂粒子A-7を含む顔料水分散体A-VIIを得た。
【0064】
実施例8、9
(1)工程1
工程1は実施例1と同様に行い、それぞれ顔料混合物8及び9を得た。このときの顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は60/40であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物8及び9を、それぞれインライン式の乳化分散機「キャビトロンCD1000」(株式会社ユーロテック)に容器底排弁から供給し、実施例8では30.0m/sec、実施例9では40.0m/secの撹拌速度で循環運転しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を15.6質量部/minの速度で147g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水2,803gを添加して、顔料分散液8及び9を得た。
(3)工程3
工程3は実施例1と同様に行い、顔料含有樹脂粒子A-8を含む顔料水分散体A-VIII及び顔料含有樹脂粒子A-9を含む顔料水分散体A-IXを得た。
【0065】
実施例10
(1)工程1
内容積5Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)295gにポリエステルPA-1を100g溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を10.5g、シアン顔料(PB15:3)を150g加え、容器内温度25℃で、ホモミキサー「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速22.0m/secで1時間分散し、顔料混合物10を得た。このときの顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は60/40であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物10を、容器内温度25℃で、ホモミキサー「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速22.0m/secの撹拌速度で撹拌しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を6.0質量部/minの速度で147g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水2,803gを添加して、顔料分散液10を得た。
(3)工程3は実施例1と同様に行い、顔料含有樹脂粒子A-10を含む顔料水分散体A-Xを得た。
【0066】
比較例1
(1)工程1
内容積5Lの容器内で、メチルエチルケトン(MEK)443gにポリエステルPA-1を225g溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液を23.7g、イエロー顔料(PY155)を150g加え、容器内温度25℃で、ホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secで1時間分散し、顔料混合物C1を得た。このときの顔料とポリエステルとの質量比[顔料/ポリエステル]は40/60であった。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物C1を、容器内温度25℃でホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secの撹拌速度で撹拌しながら、工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を15.6質量部/minの速度で331g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水4,099gを添加した。
(3)工程3は実施例1と同様に行い、顔料含有樹脂粒子AC-1を含む顔料水分散体AC-Iを得た。
【0067】
比較例2
(1)工程1
工程1は実施例1と同様に行った。
(2)工程2
工程1で得られた顔料混合物を、撹拌せずに、該顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対し、イオン交換水を15.6質量部/minの速度で331g添加した。次に、工程1の顔料混合物に用いたMEK100質量部に対してイオン交換水の添加量が1,000質量部になるように残りのイオン交換水4,099gを添加した。
その後、容器内温度25℃でホモディスパー翼「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて先端周速9.4m/secの撹拌速度で撹拌したところ、ゲル形成部と水相部が不均一に存在した。これはポリエステルが顔料に上手く吸着していないと考えられたため、工程3を中止した。
【0068】
(インクジェット記録用水系インクの製造)
以下の表2に示す配合量にて混合液を調製し、得られた混合液を孔径1.2μmのメンブランフィルター「Minisart」(Sartorius社製)で濾過し、水系インク1~10及びC1を得た。得られた水系インクを以下の方法により評価した。結果を表2に示す。
【0069】
(インクジェット記録用水系インクの評価)
[耐溶剤(エタノール)性]
各実施例及び比較例で得られた水系インクを、株式会社リコー製「IPSIO SG 2010L」にラバーヒーターを搭載したインクジェットプリンターに充填し、60℃に加熱したポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミラー(登録商標)T60 #75」(東レ株式会社製、吸水量2.3g/m2)にベタ画像の印刷を行った。次いで得られた印刷物を60℃に加熱したホットプレートに乗せて3分間乾燥させ、記録媒体がポリエチレンテレフタレートである評価用印刷物を得た。
100質量%のエタノールを2.0cm×2.0cmのセルロース製不織布「ベンコットM-3II」(旭化成株式会社製)に含浸させ、前記評価用印刷物に対して、該不織布に錘の底面(底面の面積78.5cm2)を用いて22.5gの荷重を加えて印刷面を30往復擦過し、目視にて以下に示す5段階評価を行った。下記評価基準で3以上であれば実用に供することができる。
(評価基準)
5:印刷面表面に傷はなく、該表面に変化は確認されなかった。
4:印刷面表面に傷はあるものの、記録媒体表面の露出はなかった。
3:印刷面表面が剥離して記録媒体表面が露出したが、印画部の消失面積は50%未満であった。
2:印刷面表面が剥離して記録媒体表面が露出し、印画部の消失面積は50%以上100%未満であった。
1:印刷面表面が剥離して記録媒体表面が露出し、印画部のすべてが消失した。
【0070】
[インク粘度の測定]
各実施例及び比較例で得られた水系インクの粘度を、E型粘度計(東機産業株式会社製「RE80型」)で測定した。測定条件は、温度25℃、回転数は100r/minである。インク粘度が低いほど、インクジェットプリンターで印刷する際に吐出不良等を抑制することができる。
【0071】
【0072】
表2中の各表記は以下のとおりである。
*1:水系インク全量に対する各成分の配合量を示す。プロピレングリコールの配合量にはサーフィノール104PG-50からの持ち込み分を含む。
*2:サーフィノール104PG-50の配合量は有効分を示す。
*3:顔料水分散体における吸着率(%)=顔料に吸着したポリエステルの質量[g]/工程1で添加したポリエステルの質量[g]×100
*4:工程1の顔料混合物に用いたポリエステル100質量部に対する単位分当たりの水の添加量(質量部/min)
*5:工程1の顔料混合物に用いた有機溶媒100質量部に対する水の添加量(質量部)
【0073】
表2から、実施例1~10の水系インク1~10は、比較例1の水系インクC1と比べて、インクの粘度が低くても、耐溶剤性に優れる。これは、実施例1~10は、顔料に対してポリエステルが効率よく吸着し、ポリエステルの量が過剰ではないためと考えられる。
また、実施例1~10の水系インク1~10は、工程2における水の添加を撹拌時に行っているため、ポリエステルが顔料に十分に吸着し、インクの低粘度を維持しつつ、耐溶剤性が向上していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の顔料水分散体の製造方法によれば、水系インクに用いることにより、該水系インクの低粘度を維持しつつ、非吸水性記録媒体上に印刷を行った際においても耐溶剤性に優れる、顔料水分散体を得ることができる。