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特許7191669液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/16 20060101AFI20221212BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B41J2/16 517
B41J2/16 101
B41J2/14 613
B41J2/14 611
B41J2/14 201
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018235022
(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公開番号】P2020097118
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】竹内 創太
(72)【発明者】
【氏名】安田 建
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和昭
(72)【発明者】
【氏名】米本 太地
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198908(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0114580(US,A1)
【文献】特開2008-207543(JP,A)
【文献】特開2014-141040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上の液体吐出エネルギーを発生する液体吐出素子と、バリアメタル層および該バリアメタル層上のボンディング層を備え、前記液体吐出素子に電気的に接続された電極パッドと、を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、
前記液体吐出素子に電力を供給する第1の配線層を形成する工程と、
前記第1の配線層に接するように、前記第1の配線層上に前記バリアメタル層を形成する工程と、
前記バリアメタル層の端部側面を、カーボンを含むシリコン系膜により被覆する工程と、を有し、
前記被覆する工程を、前記バリアメタル層の形成後に、前記カーボンを含むシリコン系膜により少なくとも前記バリアメタル層を被覆するように行い、
前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、前記バリアメタル層の上面の一部を露出させる工程と、
前記露出したバリアメタル層の上面に、前記バリアメタル層上の前記カーボンを含むシリコン系膜上に延在して前記ボンディング層を形成する工程と、
をさらに有することを特徴とする、液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項2】
前記液体吐出素子は電気熱変換素子であり、
前記被覆する工程では、前記カーボンを含むシリコン系膜の一部により前記電気熱変換素子を被覆する保護膜を形成する、請求項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項3】
前記被覆する工程では、前記カーボンを含むシリコン系膜を250℃以上で成膜する、請求項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項4】
前記被覆する工程では、前記カーボンを含むシリコン系膜を、前記液体吐出素子の駆動によるカーボンを含むシリコン系膜表面の到達温度以上で成膜する、請求項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【請求項5】
前記被覆する工程では、前記カーボンを含むシリコン系膜を300℃以上で成膜する、請求項に記載の液体吐出ヘッド用基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置等の液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドを有する。液体吐出ヘッドは、一般的に、基板と、基板上の液体を吐出するエネルギーを発生する液体吐出素子と、オリフィスプレートとを有し、該オリフィスプレートには、液体を吐出する液体吐出口が形成される。また、液体吐出ヘッドには、液体吐出素子を駆動するための電気的な接続を行う外部接続電極(以下、「電極パッド」ともいう)が設けられており、リードやワイヤー等の実装部品を用いて電気接続を実施する。
【0003】
特許文献1に開示されるように、基板上の電極パッドは、金で形成された形態が一般的である。また、単純に電極を形成するだけでなく、電気信頼性を高めるために、電極パッドを樹脂部材で保護した形態が提案されている。具体的に、特許文献1では、オリフィスプレートと基板との密着性を向上させる樹脂製の密着向上層をスピンコート塗布することにより、電極パッドを保護している。
【0004】
インクジェット記録装置は、近年の高画質化により液体吐出の小滴化が益々進み、それに伴ってオリフィスプレートの高さが低くなり、要求される平坦性の精度も高くなっている。そのため、液体吐出装置は、基板の平坦化、オリフィスプレートの薄化、密着向上層を用いない製法に進化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-141040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オリフィスプレートの薄化が進むと、要求される平坦化精度の観点から、樹脂製の密着向上層のスピンコート塗布は極少量にせざるを得ず、特許文献1に開示されるような樹脂製の密着向上層による電極パッドの保護は困難になる。また、そもそも密着向上層を用いない製法においては、密着向上層を用いた電極パッドの保護は行うことはできない。
【0007】
従来の電極パッドは、バリアメタル層の端部が露出しているため、密着向上層による保護が行えない場合、製造工程中のレジスト現像やレジスト剥離等の様々なウエット処理によるサイドエッチングに耐え得る工程の設定が必要である。そのため、製造工程中のウエット処理によるサイドエッチングに対応できる電極パッドが望まれている。
【0008】
本発明は、電極パッド部のバリアメタル層のサイドエッチングを抑制し、電気信頼性を向上させた液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明によって解決される。
【0010】
すなわち本発明は、基板と、該基板上の液体吐出エネルギーを発生する液体吐出素子と、バリアメタル層および該バリアメタル層上のボンディング層を備え、前記液体吐出素子に電気的に接続された電極パッドと、を有する液体吐出ヘッド用基板の製造方法であって、前記液体吐出素子に電力を供給する第1の配線層を形成する工程と、前記第1の配線層に接するように、前記第1の配線層上に前記バリアメタル層を形成する工程と、前記バリアメタル層の端部側面を、カーボンを含むシリコン系膜により被覆する工程と、を有し、前記被覆する工程を、前記バリアメタル層の形成後に、前記カーボンを含むシリコン系膜により少なくとも前記バリアメタル層を被覆するように行い、前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、前記バリアメタル層の上面の一部を露出させる工程と、前記露出したバリアメタル層の上面に、前記バリアメタル層上の前記カーボンを含むシリコン系膜上に延在して前記ボンディング層を形成する工程と、をさらに有することを特徴とする、液体吐出ヘッド用基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電極パッド部のバリアメタル層のサイドエッチングを抑制し、電気信頼性を向上させた液体吐出ヘッド用基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のインクジェット記録ヘッド用基板の模式的斜視図である。
図2】第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
図3】第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
図4】第3の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
図5】第4の実施形態に係るインクジェット記録ヘッド用基板の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、液体吐出ヘッドの一例として、インクジェット記録ヘッドを例示して説明を行う。
図1は、本発明のインクジェット記録ヘッド用基板の斜視図である。図1では、液体吐出口006を上向きに示している。なお、特に説明のない限り、本明細書における「上」とは、液体吐出口006の側を称する。インクジェット記録ヘッド用基板は、液体吐出エネルギーを発生する液体吐出素子003(本実施形態では電気熱変換素子(ヒータ))を備えた基板001と、液体吐出口006が形成されたオリフィスプレート005とを有している。このインクジェット記録ヘッドにおいては、基板001に形成された液体供給口007から流路004にインクが供給される。そして、液体吐出素子003から発生したエネルギーによってインクが液体吐出口006から吐出され、記録媒体にインクが着弾して印字が行われる。インクジェット記録ヘッド用基板には、液体吐出素子003を駆動するために、液体吐出素子003に電気的に接続された電極パッド002が設けられており、該電極パッドにリード配線を実装することによって、インクジェット記録ヘッドが得られる。
【0014】
以下、実施形態を掲げて本発明のインクジェット記録ヘッド用基板およびその製造方法を説明するが、本発明は、これらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0015】
[第1の実施形態]
以下、図2を参照して、本実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法を説明する。なお、図2は、模式的な断面図であり、電極パッドと液体吐出素子との位置関係および方向を限定するものではない。図3図5についても同様である。
【0016】
まず、基板001に設けた絶縁膜層10上に、液体吐出素子003の発熱部となる厚さ30nm程度のヒータ層12、ヒータ配線層33(第1の配線層)となる200nm厚のアルミニウム膜を成膜する。さらに、ヒータ層を保護するヒータ保護膜層22となる200nm厚のSiN膜を成膜する。基板001としては、例えば、シリコン基板を用いることができる。絶縁膜層10に用いる材料は、絶縁できる材料であれば特に限定されるものではなく、例えばSiO2やSiN等のシリコン系材料を用いることができる。ヒータ層12に用いる材料としては、例えばハフニウムボライド、窒化タンタル、タンタル窒化シリコン等を挙げることができる。ヒータ配線層33に用いる材料としては、例えばアルミニウム、Al-Si、Al-Cu、銅等を挙げることができる。ヒータ保護膜層22に用いる材料としては、例えば酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン等を挙げることができる。次いで、フォトリソグラフィーによりパターニングを実施して、図2(a)に示す形態となる。なお、ヒータ保護膜層22はスルーホール22aを有しており、次層との電気的な接続を可能にしている。このように、本実施形態においては、発熱部となるヒータ層が第1の配線層の下層に延在してなり、該発熱部は、第1の配線層で覆われていない領域に形成される。すなわち、第1の配線層を介して液体吐出素子003に電力が供給されて、ヒータである液体吐出素子003が発熱する。また、発熱部のヒータ層上および第1の配線層上にヒータ保護膜層が形成される。
【0017】
次に、配線層13(第2の配線層)となる200nm厚のアルミニウム膜と、バリアメタル層14となる200nm厚のチタンタングステン膜と、ボンディング層15となる200nm厚の金膜とを、連続でスパッタリング成膜する。すなわち、配線層13は、積層方向におけるヒータ配線層33とバリアメタル層14との間に設けられ、ヒータ配線層33とバリアメタル層14とを電気的に接続する。配線層13に用いる材料としては、例えばアルミニウム、Al-Si、Al-Cu、銅等を挙げることができる。本実施形態において、ヒータ配線層33と配線層13とは、独立した層から構成されていれば、同一の材料を用いて構成されていても異なる材料を用いて構成されていてもよい。バリアメタル層14を構成する材料は、チタン系金属またはタンタル系金属であることが好ましい。具体的には、チタンタングステン、窒化チタン、窒化タンタル等が挙げられる。ボンディング層15を構成する材料としては、金、ニッケル、銅等を挙げることができるが、ボンディング性の観点から、金が好ましい。次いで、フォトリソグラフィーによるレジストワークを実施し、RIE法によるボンディング層15、バリアメタル層14および配線層13の連続エッチングによってパターニングを行う(図2(b))。
【0018】
ボンディング層の形成後、全面にカーボンを含むシリコン系膜層21となる500nm厚のSiCN膜を、150℃の低温プラズマCVDで成膜する。カーボンを含むシリコン系膜層を構成するカーボンを含むシリコン系膜は、耐アルカリ性を有するSiCN膜またはSiC膜であることが好ましい。また、カーボンを含むシリコン系膜の成膜温度は、ボンディング層を構成する材料の粒界が成長する温度未満であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜層21は、ボンディング層15を十分に被覆して保護できる膜厚とする(図2(c))。
【0019】
次に、フォトリソグラフィーにより、前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、ボンディング層の上面の一部を露出させる。これにより、カーボンを含むシリコン系膜層21に開口部21aを形成して、第2の配線層13とバリアメタル層14とボンディング層15とを備える電極パッド002が完成する。該電極パッドにおいて、バリアメタル層の端部側面は、露出部を形成しないように、第2の配線層とボンディング層を含めてカーボンを含むシリコン系膜により被覆されている。このとき同時に、少なくとも液体吐出素子003の発熱部上の不要なカーボンを含むシリコン系膜も除去される(図2(d))。
【0020】
本実施形態では、液体吐出口を高精度に形成するために、高精度に形成した薄膜ドライフィルムを基板001上にテンティング接合する。そして、該薄膜ドライフィルムをフォトリソグラフィーによってパターニングすることにより、膜厚5μmのオリフィスプレート(吐出口形成部材)および液体吐出口を形成する。このように、本実施形態では、従来は一般的であったスピンコート塗布による密着向上層を設けなくてもよい。
【0021】
液体供給口に関しても、高精度に形成するため、基板をドライエッチングする方法を用いる。具体的には、基板001に対して、エッチングガスとしてSF6およびC48を用いて、エッチングと成膜を交互に行うDeep-RIE法によりエッチングを行い、液体供給口を形成する。ドライエッチングの副生成物として得られるエッチング保護膜は、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液(レジスト剥離液)を用いて除去することができる。
【0022】
以上によって、基板001内に、液体供給口007から液体吐出口006に連通するインクの通り道が形成されたインクジェット記録ヘッド用基板が得られる。また、電極パッド002からリード配線を実装することにより、インクジェット記録ヘッドの電気回路が完成する。
【0023】
本実施形態において、基板表面(ヒータ保護膜層22表面)から電極パッド部のボンディング層15の端部上面の一部にかけては、カーボンを含むシリコン系膜であるSiCN膜により被覆されている。そして、このSiCN膜により、バリアメタル層14の端部側面は露出部がない状態で保護されている。SiCN膜は、耐アルカリ性が高いことから、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液に対して耐性を有している。そのため、インクジェット記録ヘッド用基板の製造工程において、バリアメタル層を構成するチタンタングステン膜が、サイドエッチングにより溶解することを抑制することができる。また、バリアメタル層の端部が、耐アルカリ性の高いSiCN膜に被覆され保護されている。そのため、製造工程中のサイドエッチングを抑えることに加え、インクジェット記録ヘッドの完成後において、記録に用いるインクに対しても耐性が向上し、インクジェット記録ヘッド全体の信頼性が向上する。
【0024】
また、本実施形態では、カーボンを含むシリコン系膜層21の成膜はボンディング層15となる金膜の成膜後に実施しているものの、金膜の粒界が成長する200℃前後未満の低温で成膜を行っている。そのため、ボンディング層のボンディング性が変化または低下することを抑制することができる。
【0025】
本実施形態において、電極パッド002を構成する膜層は、液体吐出素子003を構成する膜層と層的に独立である。すなわち、電極パッド002の配線層13(第2の配線層)は、液体吐出素子003のヒータ配線層33(第1の配線層)とスルーホール22aを介して電気的に接続されているものの、同一層では接続されていない。仮に、液体吐出素子内部のヒータ層および配線層にインクが侵入し腐食が発生する場合、インク侵入による腐食は、最初に同一面上の膜層を伝わって広がりやすい。一方、スルーホール部は開口部の面積が小さく、上下に段差があることから、同一面内の膜層の腐食の進行より遅れて、スルーホール部から上下の配線層に腐食が広がっていく。このことから、同一面上の膜層よりも、層的に独立した構成(複数の配線層を積層する構成)の方が、腐食の進行に対して有利な構成となっている。したがって、本実施形態のように、電極パッド002を構成する膜層と液体吐出素子003を構成する膜層とを独立した層から構成することによって、インクジェット記録ヘッドの電極パッド部の信頼性をより高くできる効果が得られる。
【0026】
[第2の実施形態]
以下、図3を参照して、本実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法を説明する。なお、基板や、絶縁膜層、ヒータ層、配線層等の液体吐出ヘッド用基板を構成する層に用いる材料について、特に記載のない場合には、第1の実施形態において例示したものと同じ材料を用いることができる。
【0027】
まず、基板001に設けた絶縁膜層10上に、液体吐出素子003の発熱部となる厚さ30nm程度のヒータ層12、液体吐出素子に電力を供給する配線層13(第1の配線層)となる200nm厚のアルミニウム膜を成膜する。さらに、ヒータ保護膜層22となる200nm厚のSiN膜を成膜する。次いで、フォトリソグラフィーによりパターニングを実施して、図3(a)に示す形態となる。なお、ヒータ保護膜層22はスルーホール22aを有しており、次層との電気的な接続を可能にしている。このように、本実施形態においては、発熱部となるヒータ層が第1の配線層の下層に延在してなり、該発熱部は、第1の配線層で覆われていない領域に形成される。また、発熱部のヒータ層上および第1の配線層上にヒータ保護膜層が形成される。
【0028】
次に、バリアメタル層14となる200nm厚のチタンタングステン膜と、ボンディング層15となる200nm厚の金膜とを、連続でスパッタリング成膜する。次いで、フォトリソグラフィーによるレジストワークを実施し、RIE法によるボンディング層15、バリアメタル層14の連続エッチングによってパターニングを行う(図3(b))。このように、本実施形態において、バリアメタル層14は、配線層13に接するように、配線層13上に形成される。
【0029】
ボンディング層の形成後、全面にカーボンを含むシリコン系膜層24となる300nm厚のSiC膜を、100℃の低温プラズマCVDで成膜する。カーボンを含むシリコン系膜層を構成するカーボンを含むシリコン系膜は、耐アルカリ性を有するSiCN膜またはSiC膜であることが好ましい。また、カーボンを含むシリコン系膜の成膜温度は、ボンディング層を構成する材料の粒界が成長する温度未満であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜層24は、ボンディング層15を十分に被覆して保護できる膜厚とする。
【0030】
次に、フォトリソグラフィーにより、前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、ボンディング層の上面の一部を露出させる。これにより、カーボンを含むシリコン系膜層24に開口部24aを形成して、配線層13とバリアメタル層14とボンディング層15とを備える電極パッド002が完成する。該電極パッドにおいて、バリアメタル層の端部側面は、露出部を形成しないように、ボンディング層を含めてカーボンを含むシリコン系膜により被覆されている。このとき同時に、少なくとも液体吐出素子003の発熱部上の不要なカーボンを含むシリコン系膜も除去される(図3(c))。
【0031】
本実施形態では、液体吐出口を高精度に形成するために、高精度に形成した薄膜ドライフィルムを基板001上にテンティング接合する。そして、該薄膜ドライフィルムをフォトリソグラフィーによってパターニングすることにより、膜厚5μmのオリフィスプレートおよび液体吐出口を形成する。このように、本実施形態では、従来は一般的であったスピンコート塗布による密着向上層を設けなくてもよい。
【0032】
液体供給口に関しても、高精度に形成するため、基板をドライエッチングする方法を用いる。具体的には、基板001に対して、エッチングガスとしてSF6およびC48を用いて、エッチングと成膜を交互に行うDeep-RIE法によりエッチングを行い、液体供給口を形成する。ドライエッチングの副生成物として得られるエッチング保護膜は、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液(レジスト剥離液)を用いて除去することができる。
【0033】
以上によって、基板001内に、液体供給口007から液体吐出口006に連通するインクの通り道が形成されたインクジェット記録ヘッド用基板が得られる。また、電極パッド002からリード配線を実装することにより、インクジェット記録ヘッドの電気回路が完成する。
【0034】
本実施形態において、基板表面(ヒータ保護膜層22表面)から電極パッド部のボンディング層15の端部上面の一部にかけては、カーボンを含むシリコン系膜であるSiC膜により被覆されている。そして、このSiC膜により、バリアメタル層14の端部側面は露出部がない状態で保護されている。SiC膜は、耐アルカリ性が高いことから、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液に対して耐性を有している。そのため、インクジェット記録ヘッド用基板の製造工程において、バリアメタル層を構成するチタンタングステン膜が、サイドエッチングにより溶解することを抑制することができる。また、バリアメタル層の端部が、耐アルカリ性の高いSiC膜に被覆され保護されている。そのため、製造工程中のサイドエッチングを抑えることに加え、インクジェット記録ヘッドの完成後において、記録に用いるインクに対しても耐性が向上し、インクジェット記録ヘッド全体の信頼性が向上する。
【0035】
また、本実施形態では、カーボンを含むシリコン系膜層24の成膜はボンディング層15となる金膜の成膜後に実施しているものの、金膜の粒界が成長する200℃前後未満の低温で成膜を行っている。そのため、ボンディング層のボンディング性が変化または低下することを抑制することができる。
【0036】
本実施形態において、配線層13は、従来のヒータ保護膜22により被覆され保護されているため、電気的な絶縁性とヒータ耐久保護性は既に確保されている。その上で、電極パッド部のバリアメタル層14とボンディング層15の保護のみを行うカーボンを含むシリコン系膜層24を形成すればよい。したがって、絶縁性を考慮する必要がないため、SiC膜の耐アルカリ性能に着目して、低温成膜ながらも耐アルカリ性能を高めた膜にすることが可能である。これによって、より薄い膜厚でもインクジェット記録ヘッドの電極パッド部の信頼性をより高くできる効果が得られる。
【0037】
[第3の実施形態]
以下、図4を参照して、本実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法を説明する。なお、基板や、絶縁膜層、ヒータ層、配線層等の液体吐出ヘッド用基板を構成する層に用いる材料について、特に記載のない場合には、第1の実施形態において例示したものと同じ材料を用いることができる。
【0038】
まず、基板001に設けた絶縁膜層10上に、液体吐出素子003の発熱部となる厚さ30nm程度のヒータ層12、液体吐出素子に電力を供給する配線層13(第1の配線層)となる200nm厚のアルミニウム膜を成膜する。さらに、ヒータ保護膜層22となる200nm厚のSiN膜を成膜する。次いで、フォトリソグラフィーによりパターニングを実施して、図4(a)に示す形態となる。なお、ヒータ保護膜層22はスルーホール22aを有しており、次層との電気的な接続を可能にしている。このように、本実施形態においては、発熱部となるヒータ層が第1の配線層の下層に延在してなり、該発熱部は、第1の配線層で覆われていない領域に形成される。また、発熱部のヒータ層上および第1の配線層上にヒータ保護膜層が形成される。
【0039】
次に、配線層13に接するように、配線層13上にバリアメタル層14となる200nm厚のチタンタングステン膜をスパッタリング成膜し、パターニングを行う(図4(b))。
【0040】
バリアメタル層の形成後、全面にカーボンを含むシリコン系膜層23となる150nm厚のSiC膜を、250℃の高温プラズマCVDで成膜する。カーボンを含むシリコン系膜層を構成するカーボンを含むシリコン系膜は、耐アルカリ性を有するSiCN膜またはSiC膜であることが好ましい。本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜の成膜温度は特に限定されない。ただし、カーボンを含むシリコン系膜の耐久性の観点から、250℃以上であることが好ましい。なお、本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜層23は、バリアメタル層14を十分に被覆して保護できる膜厚とする。
【0041】
次に、フォトリソグラフィーにより、前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、バリアメタル層の上面の一部を露出させる。これにより、電極パッド002となるカーボンを含むシリコン系膜層23の開口部23aを形成する。このとき同時に、少なくとも液体吐出素子003の発熱部上の不要なカーボンを含むシリコン系膜も除去される(図4(c))。
【0042】
その後、前記露出したバリアメタル層の上面に、バリアメタル層上のカーボンを含むシリコン系膜上に延在してボンディング層15となる200nm厚の金膜をスパッタリング成膜し、パターニングを行う。これにより、配線層13とバリアメタル層14とボンディング層15とを備える電極パッド002が完成する(図4(d))。該電極パッドにおいて、バリアメタル層の端部側面は、露出部を形成しないように、カーボンを含むシリコン系膜により被覆されている。
【0043】
本実施形態では、液体吐出口を高精度に形成するために、高精度に形成した薄膜ドライフィルムを基板001上にテンティング接合する。そして、該薄膜ドライフィルムをフォトリソグラフィーによってパターニングすることにより、膜厚5μmのオリフィスプレートおよび液体吐出口を形成する。このように、本実施形態では、従来は一般的であったスピンコート塗布による密着向上層を設けなくてもよい。
【0044】
液体供給口に関しても、高精度に形成するため、基板をドライエッチングする方法を用いる。具体的には、基板001に対して、エッチングガスとしてSF6およびC48を用いて、エッチングと成膜を交互に行うDeep-RIE法によりエッチングを行い、液体供給口を形成する。ドライエッチングの副生成物として得られるエッチング保護膜は、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液(レジスト剥離液)を用いて除去することができる。
【0045】
以上によって、基板001内に、液体供給口007から液体吐出口006に連通するインクの通り道が形成されたインクジェット記録ヘッド用基板が得られる。また、電極パッド002からリード配線を実装することにより、インクジェット記録ヘッドの電気回路が完成する。
【0046】
本実施形態において、基板表面(ヒータ保護膜層22表面)から電極パッド部のバリアメタル層14の端部上面の一部にかけては、カーボンを含むシリコン系膜であるSiC膜により被覆されている。そして、このSiC膜により、バリアメタル層14の端部側面は露出部がない状態で保護されている。SiC膜は、耐アルカリ性が高いことから、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液に対して耐性を有している。そのため、インクジェット記録ヘッド用基板の製造工程において、バリアメタル層を構成するチタンタングステン膜がサイドエッチングにより溶解することを抑制することができる。また、バリアメタル層の端部が、耐アルカリ性が高いSiC膜に被覆され保護されている。そのため、製造工程中のサイドエッチングを抑えることに加え、インクジェット記録ヘッドの完成後において、記録に用いるインクに対しても耐性が向上し、インクジェット記録ヘッド全体の信頼性が向上する。
【0047】
本実施形態では、カーボンを含むシリコン系膜層23の成膜は、ボンディング層15となる金膜の成膜前に実施している。したがって、金膜の粒界が成長する200℃前後以上の高温で成膜を行っても、ボンディング層のボンディング性が変化または低下することはない。
【0048】
本実施形態において、配線層13は、従来のヒータ保護膜22により被覆され保護されているため、電気的な絶縁性とヒータ耐久保護性は既に確保されている。その上で、電極パッド部のバリアメタル層14の保護のみを行うカーボンを含むシリコン系膜層23を形成すればよい。したがって、絶縁性を考慮する必要がないため、SiC膜の耐アルカリ性能に着目して、成膜温度の制約なしに耐アルカリ性能を高めた膜にすることが可能である。これによって、より薄い膜厚でもインクジェット記録ヘッドの電極パッド部の信頼性をより高くできる効果が得られる。
【0049】
[第4の実施形態]
以下、図5を参照して、本実施形態に係る液体吐出ヘッド用基板およびその製造方法を説明する。なお、基板や、絶縁膜層、ヒータ層、配線層等の液体吐出ヘッド用基板を構成する層に用いる材料について、特に記載のない場合には、第1の実施形態において例示したものと同じ材料を用いることができる。
【0050】
まず、基板001に設けた絶縁膜層10上に、以下の層を連続でスパッタリング成膜する(図5(a))。すなわち、液体吐出素子003の発熱部となる厚さ30nm程度のヒータ層12と、配線層13(第1の配線層)となる200nm厚のアルミニウム膜と、バリアメタル層14となる200nm厚のチタンタングステン膜とを、成膜する。このように、本実施形態において、バリアメタル層14は、液体吐出素子に電力を供給する配線層13に接するように、配線層13上に形成される。
【0051】
次いで、RIE法により、ヒータ層12、配線層13、およびバリアメタル層14の連続エッチングを行い、配線パターンを形成する(図5(b))。
【0052】
次に、過酸化水素を用いたウエットエッチングにより、電極パッド002となるバリアメタル層14のパターンを形成する(図5(c))。
【0053】
続いて、リン酸・硝酸・酢酸混合液を用いたウエットエッチングにより、液体吐出素子003となる領域の配線層13を除去し、ヒータ層12を露出させる(図5(d))。このように、本実施形態においては、発熱部となるヒータ層が第1の配線層の下層に延在してなり、該発熱部は、第1の配線層で覆われていない領域に形成される。
【0054】
バリアメタル層の形成後、全面にカーボンを含むシリコン系膜層20となる300nm厚のSiCN膜を、300℃の高温プラズマCVDで成膜する。なお、本実施形態において、該SiCN膜は、発熱部のヒータ層に接してヒータ層を被覆する。すなわち、該SiCN膜は、液体吐出素子003となる領域でヒータ層12上にも形成されており、液体吐出素子を被覆して保護するヒータ保護膜を兼ねている。カーボンを含むシリコン系膜層を構成するカーボンを含むシリコン系膜は、耐アルカリ性を有するSiCN膜またはSiC膜であることが好ましい。本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜の成膜温度は特に限定されない。ただし、ヒータ保護膜(カーボンを含むシリコン系膜)の耐久性の観点から、250℃以上であることがより好ましい。また、液体吐出素子の駆動によるカーボンを含むシリコン系膜表面の到達温度以上であることがさらに好ましく、300℃以上であることが特に好ましい。なお、カーボンを含むシリコン系膜層20は、バリアメタル層14を十分に被覆し保護できる膜厚とする。次いで、フォトリソグラフィーにより、前記被覆したカーボンを含むシリコン系膜の一部を除去して、バリアメタル層の上面の一部を露出させ、電極パッド002となるカーボンを含むシリコン系膜層20の開口部20aを形成する(図5(e))。この際、ヒータ層に接して被覆されたカーボンを含むシリコン系膜は、ヒータ保護膜層として残る。
【0055】
その後、前記露出したバリアメタル層の上面に、バリアメタル層上のカーボンを含むシリコン系膜上に延在してボンディング層15となる200nm厚の金膜をスパッタリング成膜し、パターニングを行う。これにより、配線層13とバリアメタル層14とボンディング層15とを備える電極パッド002が完成する(図5(f))。該電極パッドにおいて、バリアメタル層の端部側面は、露出部を形成しないように、配線層を含めてカーボンを含むシリコン系膜により被覆されている。
【0056】
本実施形態では、液体吐出口を高精度に形成するために、高精度に形成した薄膜ドライフィルムを基板001上にテンティング接合する。そして、該薄膜ドライフィルムをフォトリソグラフィーによってパターニングすることにより、膜厚5μmのオリフィスプレートおよび液体吐出口を形成する。このように、本実施形態では、従来は一般的であったスピンコート塗布によるノズル密着向上層を設けなくてもよい。
【0057】
液体供給口に関しても、高精度に形成するため、基板をドライエッチングする方法を用いる。具体的には、基板001に対して、エッチングガスとしてSF6およびC48を用いて、エッチングと成膜を交互に行うDeep-RIE法によりエッチングを行い、液体供給口を形成する。ドライエッチングの副生成物として得られるエッチング保護膜は、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液(レジスト剥離液)を用いて除去することができる。
【0058】
以上によって、基板001内に、液体供給口007から液体吐出口006に連通するインクの通り道が形成されたインクジェット記録ヘッド用基板が得られる。また、電極パッド002からリード配線を実装することにより、インクジェット記録ヘッドの電気回路が完成する。
【0059】
本実施形態において、基板表面から電極パッド部のバリアメタル層14の端部上面の一部にかけては、カーボンを含むシリコン系膜であるSiCN膜により被覆され、バリアメタル層14の端部側面は、露出部がない状態で保護されている。SiCN膜は、耐アルカリ性が高いことから、ヒドロキシアミンを含むポリマー除去液に対して耐性を有している。そのため、インクジェット記録ヘッド用基板の製造工程において、バリアメタル層を構成するチタンタングステン膜がサイドエッチングにより溶解することを抑制することができる。また、バリアメタル層の端部が、耐アルカリ性が高いSiCN膜に被覆されて保護されている。そのため、製造工程中のサイドエッチングを抑えることに加え、インクジェット記録ヘッドの完成後において、記録に用いるインクに対しても耐性が向上し、インクジェット記録ヘッド全体の信頼性が向上する。
【0060】
本実施形態では、カーボンを含むシリコン系膜層20の成膜は、ボンディング層15となる金膜の成膜前に実施している。したがって、金膜の粒界が成長する200℃前後以上の高温で成膜を行っても、ボンディング層のボンディング性が変化または低下することはない。そのため、本実施形態では、成膜温度の制約なしにカーボンを含むシリコン系膜層20となるSiCN膜を成膜することが可能である。これにより、両立の難しい、電気的な絶縁性とヒータ耐久保護性とバリアメタル層の保護性とを兼ねることが可能になる。特に、液体吐出素子003は、瞬間的に300℃以上の高温になることから、300℃以上の高温でカーボンを含むシリコン系膜を成膜することが、ヒータ保護膜の耐久性の観点から特に好ましい。
【0061】
本実施形態において、カーボンを含むシリコン系膜は、ヒータ層の露出する上面を保護するヒータ保護膜を兼ねている。すなわち、ヒータ部と電極パッド部を同一のカーボンを含むシリコン系膜により保護することができる。そのため、本実施形態では、製造工程を簡素化し、安価にインクジェット記録ヘッドの電極パッド部の信頼性をより高めることができる効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
001 基板
002 電極パッド
003 液体吐出素子
004 流路
005 オリフィスプレート(吐出口形成部材)
006 液体吐出口
007 液体供給口
10 絶縁膜層
12 ヒータ層
13 配線層
14 バリアメタル(拡散防止)層
15 ボンディング層
20 カーボンを含むシリコン系膜層(高温SiCN膜)
21 カーボンを含むシリコン系膜層(低温SiCN膜)
22 ヒータ保護膜層
23 カーボンを含むシリコン系膜層(高温SiC膜)
24 カーボンを含むシリコン系膜層(低温SiC膜)
33 ヒータ配線層
図1
図2
図3
図4
図5