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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】住宅
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/02 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
E04H1/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018246659
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105840
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 晃一
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-260596(JP,A)
【文献】特開2000-129934(JP,A)
【文献】特開2002-054311(JP,A)
【文献】特開2010-150804(JP,A)
【文献】特開2001-049878(JP,A)
【文献】特開平08-232479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/02-1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
居住空間が形成された複数階建ての建物と、車を駐車可能な駐車スペースと、が隣接して配置された住宅であって、
一階の前記居住空間には、
前記駐車スペースに隣り合う玄関と、
前記玄関に隣接して配置され、一階と二階を接続する階段が設けられた階段室と、
前記玄関から死角に入る位置関係で配置された、住人のためのプライベートエリアと、
前記玄関と前記プライベートエリアとの間に設けられた部屋と、
が配置され、
前記玄関と前記プライベートエリアと前記部屋は同一の床高に設定されており、
前記駐車スペースには、
前記玄関の屋外側に位置する玄関ポーチが含まれているとともに、前記玄関ポーチから道路に向かって下り勾配となる傾斜面が形成されており、
前記玄関と前記玄関ポーチとの間の高さの差は、車いすによって通行可能な範囲に設定されており、
前記玄関は、
前記玄関ポーチの屋内側に位置する第一玄関土間と、
前記第一玄関土間に隣接して配置されるとともに、前記第一玄関土間よりも床レベルが一段高い第二玄関土間と、
前記第一玄関土間及び前記第二玄関土間に隣接して配置されるとともに前記階段室の前記階段に隣接し、前記第二玄関土間よりも床レベルが一段高い玄関ホールと、を備えていることを特徴とする住宅。
【請求項2】
前記玄関ポーチは平坦面とされており、
前記玄関ポーチを除く前記駐車スペースの全体に前記傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の住宅。
【請求項3】
前記玄関は、前記部屋の一側辺における一方側に位置し、
前記プライベートエリアは、前記部屋の一側辺における他方側に位置し、
前記玄関と前記プライベートエリアは、互いに隣り合って配置されているとともに、壁によって隔てられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の住宅。
【請求項4】
前記部屋に設けられた水回り設備と、前記プライベートエリアに設けられた水回り設備と、が同一直線上に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の住宅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車いすでの生活に対応した住宅に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、居住空間と駐車スペースとが並んで配置され、駐車スペース内に、居住空間に連なる車いす用のスロープが設けられた住宅が記載されている。このようなスロープは、居住空間に寄せて配置され、傾斜部分と、この傾斜部分に連続する平坦部分とを有している。そして、平坦部分は居住空間に連続し、かつ平坦部分の表面と居住空間の床面とが略同一レベルに設定されている。つまり、この住宅は、玄関を通じて出入りするルートとは別に、スロープの平坦部分と居住空間との間に設けられた開口部を通じて出入りするルートが形成された状態となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-49878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このように二つのルートが形成されてしまうと、例えば来訪者があったときに、玄関ではなく、スロープを通じて居住空間の開口部側にいきなり回り込んでくることも考えられるため、プライバシーを確保しにくい場合があった。さらに、二つのルートが形成されてしまうため防犯性の面で好ましくない。また、このような事情を考慮すれば、玄関に向かってスロープを形成することが望まれるが、例えば都市部や市街地における狭小住宅では、そもそもスロープ専用のスペースを確保することが難しい場合もある。
【0005】
しかも、特許文献1に記載された住宅は、スロープ側の上記開口部から居住空間内に入ってすぐの部屋が和室とされ、この和室には床畳が敷かれているため、車いすでの走行が難しい場合がある。すなわち、居住空間においても、車いすでの生活が十分に考慮されることが望まれていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、車いすで生活を送る上での快適性を向上させることが可能な住宅を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、居住空間が形成された複数階建ての建物と、車を駐車可能な駐車スペースと、が隣接して配置された住宅であって、一階の前記居住空間には、前記駐車スペースに隣り合う玄関と、前記玄関に隣接して配置され、一階と二階を接続する階段が設けられた階段室と、前記玄関から死角に入る位置関係で配置された、住人のためのプライベートエリアと、前記玄関と前記プライベートエリアとの間に設けられた部屋と、が配置され、前記玄関と前記プライベートエリアと前記部屋は同一の床高に設定されており、前記駐車スペースには、前記玄関の屋外側に位置する玄関ポーチが含まれているとともに、前記玄関ポーチから道路に向かって下り勾配となる傾斜面が形成されており、前記玄関と前記玄関ポーチとの間の高さの差は、車いすによって通行可能な範囲に設定されており、前記玄関は、前記玄関ポーチの屋内側に位置する第一玄関土間(玄関土間12a)と、前記第一玄関土間に隣接して配置されるとともに、前記第一玄関土間よりも床レベルが一段高い第二玄関土間(上階用玄関土間12c)と、前記第一玄関土間及び前記第二玄関土間に隣接して配置されるとともに前記階段室の前記階段に隣接し、前記第二玄関土間よりも床レベルが一段高い玄関ホールと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、道路と住宅とを結ぶルートが、道路から駐車スペースを通過し、玄関を経由して居住空間へと至る一つのルートに絞られるので、従来とは異なり、プライバシーの確保や防犯性の向上を図ることができる。また、駐車スペースに、玄関ポーチから道路に向かって下り勾配となる傾斜面が形成されているので、道路から玄関ポーチの間の車いすによる通行が容易となる。さらに、玄関とプライベートエリアと部屋が同一の床高に設定されているので、居住空間における車いすでの生活がしやすい。しかも、玄関と玄関ポーチとの間の高さの差は、車いすによって通行可能な範囲に設定されているので、玄関と駐車スペースとの間の通行にも支障が出ない。その上、住人のためのプライベートエリアは、玄関から死角に入る位置関係で配置されているので、玄関からの視線がプライベートエリアに向けられることを防ぎ、プライベートエリアにおけるプライバシーを確保できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の住宅において、前記玄関ポーチは平坦面とされており、前記玄関ポーチを除く前記駐車スペースの全体に前記傾斜面が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、玄関ポーチが平坦面とされているので、車いすに乗った状態のまま、玄関ポーチにおける戸の開閉や錠の開け閉めを安定的に行うことができる。また、玄関ポーチを除く駐車スペースの全体に傾斜面が形成されているので、車が駐車されていない場合には、駐車スペース全体を車いすの通行スペースとすることができ、車が駐車されている場合には、空いているスペースを車いすの通行スペースとすることができる。よって、車いす用のスロープを駐車スペースとは別に設ける必要がない。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の住宅において、前記玄関は、前記部屋の一側辺における一方側に位置し、前記プライベートエリアは、前記部屋の一側辺における他方側に位置し、前記玄関と前記プライベートエリアは、互いに隣り合って配置されているとともに、壁によって隔てられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、玄関とプライベートエリアとが、部屋を介して回り込んだ位置関係となり、かつ壁によって隔てられているので、玄関からの視線がプライベートエリアに向けられることを確実に防ぎ、プライベートエリアにおけるプライバシーを確保できる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の住宅において、前記部屋に設けられた水回り設備と、前記プライベートエリアに設けられた水回り設備と、が同一直線上に配置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、部屋に設けられた水回り設備と、プライベートエリアに設けられた水回り設備と、が同一直線上に配置されているので、給排水設備を設ける位置を床下に集約することが可能となり、施工手間の軽減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車いすで生活を送る上での快適性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】住宅における駐車スペース及び建物を示す平面図である。
図2】駐車スペースの構成を説明するための平面図である。
図3】住宅の各部における高さ関係について説明するための図である。
図4】駐車スペースの変形例を示す平面図である。
図5】駐車スペースの変形例を示す平面図である。
図6】駐車スペースの変形例を示す平面図である。
図7】駐車スペースの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。なお、以下の実施形態及び図示例における方角は、あくまでも説明の便宜上設定したものである。
【0018】
図1において符号1は、住宅が建築された敷地を示す。敷地1は、平面視において南北方向よりも東西方向がやや長い矩形になっており、その一画に、車3を駐車できる駐車スペース2がある。また、図示はしないが、敷地1の東側には道路Rがあり、敷地1の北側、西側、南側には隣地がある。
【0019】
道路Rは、図1中の双方向矢印A1で示すように、南北方向に続く状態となっている。一方、駐車スペース2は、道路Rの続く方向(道路を車が進行する方向)に対して直交する方向、すなわち東西方向に長く形成されており、道路Rに対して直交した状態となっている。そして、車3は、図1中の双方向矢印A2で示すように、駐車スペース2に対して東西方向に出し入れされる。このような駐車の方法は、所謂直角駐車と呼ばれる。
【0020】
駐車スペース2は、車3を駐車した場合に、その車3の脇を車いすが通行できるスペース(以下、通行スペース2a)を確保できる程度の幅に設定されている。より詳細に説明すると、車3の幅は、道路法(道路法第47条1項、車両制限令第3条)において限度が2.5メートルとされ、車いすの幅は、道路交通法(道路交通法施行規則第1条の4)において限度が70センチメートルとされている。車3の助手席側における乗降スペースを考慮したとしても、上記の通行スペース2aを確保できる程度の幅とは、本実施形態においては4メートルを超えないものとする。ただし、車を複数台分駐車できる駐車スペースにおいては、これに限定されない。
【0021】
通行スペース2aは、駐車スペース2内において幅70センチメートル以内の車いすが通行できるスペースを指すものである。したがって、例えば車3が駐車されていない場合や、車3をそもそも所有していない場合は、駐車スペース2全体を指して通行スペース2aと称してもよいものとする。
【0022】
平面視矩形の敷地1のうち北東側に駐車スペース2があり、駐車スペース2以外の箇所に、居住空間Lが形成される建物10が建築されている。本実施形態においては、駐車スペース2のうち駐車された車3と建物10との間が通行スペース2aとされている。なお、符号A3で示す双方向矢印は、車3が駐車スペース2に駐車されている場合における車いすの通行可能方向を表している。
【0023】
上記の双方向矢印A3における建物10側(敷地1の中央側)は、玄関ポーチ2bとされている。建物10の外壁には、この玄関ポーチ2bに面して玄関開口部が形成されるとともに、玄関開口部を開閉する戸11が設けられている。なお、戸11は、車いすが玄関開口部を通行しやすいように引戸とされている。
【0024】
建物10は、駐車スペース2を囲むようにして、平面視において略L字状に形成されており、更に複数階建てとされている。そして、その一階部分が、車いすでの生活に対応した居住空間Lとなっている。また、建物10の、敷地1中央よりも南側部分のうち玄関ポーチ2bに面する位置に玄関12が設けられており、玄関12の東側には、一階と二階とを接続する階段が設けられた階段室13がある。
【0025】
玄関12は、南北方向よりも東西方向が長く形成されており、玄関土間12aの北側に玄関開口部及び戸11が設けられている。玄関土間12aの東側には、折戸を介して玄関収納部12bがある。玄関土間12aの西側端部における南側には、玄関土間12aよりも床レベルが一段高い上階用玄関土間12cが設けられている。
【0026】
上階用玄関土間12cの東側には、上階用玄関土間12cよりも床レベルが一段高い玄関ホール12dがあり、この玄関ホール12dの東側に上記の階段室13における階段が設けられている。上階用玄関土間12cは、玄関土間12a側と玄関ホール12d側に開口し、後述する部屋15側とプライベートエリアP側は壁Wによって隔てられている。玄関ホール12dは、プライベートエリアP側が壁Wによって隔てられている。つまり、玄関ホール12dと玄関土間12aとの間は行き来が可能となっている。
【0027】
玄関12の西側には、ダイニングルームとキッチンルームの機能を一室に併存させた部屋15が設けられている。玄関12と部屋15との間には、出入り用の開口部が形成されるとともに、この開口部を開閉する戸14が設けられている。なお、戸14は、車いすが開口部を通行しやすいように引戸とされている。
【0028】
部屋15には、ダイニングテーブルと、部屋15における南側の壁に沿ってコンロ付き流し台15aが設置されている。このコンロ付き流し台15aは、車いすに乗ったままで作業を行うことができるような高さに設定されているものとする。
【0029】
また、部屋15の北側には、部屋15よりも床レベルが高い和室16が設けられており、この和室16の北側には押し入れ式の収納部16aが設けられている。なお、この和室16は、寝室として利用することができる。
【0030】
部屋15の東側であって、かつ玄関12及び階段室13の南側には、図1において一点鎖線(細線)によって囲まれた、プライベートエリアPが設けられている。このプライベートエリアPは、居住空間Lの中でもプライベート性の高いスペースを指し、例えば、トイレ17、洗面脱衣所18、浴室19が含まれ、それらは東西方向に並んで設けられている。
【0031】
部屋15とトイレ17との間には、出入り用の開口部が形成されるとともに、この開口部を開閉する引戸20が設けられている。トイレ17と洗面脱衣所18との間には、出入り用の開口部が形成されるとともに、この開口部を開閉する引戸21が設けられている。洗面脱衣所18と浴室19との間には、出入り用の開口部が形成されるとともに、この開口部を開閉する折戸22が設けられている。折戸22には、開閉のために要するスペースが開閉扉よりも小さくて済み、かつ、引戸のように戸袋を必要としないため浴槽19aを壁に沿って設けられる等の利点があるが、開口部の開口幅を広く取れる引戸を適宜採用してもよい。
【0032】
プライベートエリアPにおける引戸20、引戸21、折戸22は、隣り合う戸同士が対向し合うように配置されている。したがって、各戸20,21,22を全て開けると、部屋15から浴室19までが真っすぐに見通せる状態となる。換言すれば、プライベートエリアPは、このプライベートエリアPの長さ方向に沿って直線状に形成された廊下を備える。そして、トイレ17、洗面脱衣所18、浴室19には、この廊下を避けるようにして各室用の専用設備(便器17a、洗面台18a、浴槽19a)が設けられた状態となっている。なお、各戸20,21,22を全て開けた場合の各開口部における開口幅は略等しい。
【0033】
また、プライベートエリアPにおける各室(トイレ17、洗面脱衣所18、浴室19)専用の設備である便器17a、洗面台18a、浴槽19aも、建物10の南側の外壁に沿って一直線上に配置されている。さらに、部屋15におけるコンロ付き流し台15aもこれらの設備と同一直線上に配置されている。そのため、給水管(図示省略)や排水管36等の給排水設備を床下に効率よく配置することができ、施工時やメンテナンス時の配管作業が行いやすくなる。
【0034】
プライベートエリアPは、玄関12における玄関土間12a及び玄関開口部との間に、上階用玄関土間12c及び玄関ホール12dを介在させた配置となっている。上階用玄関土間12c及び玄関ホール12dは、プライベートエリアPとの間が壁Wによって隔てられている。そのため、プライベートエリアPは、玄関土間12a及び玄関開口部からの死角に入った状態となっている。
【0035】
なお、図示はしないが、建物10の上階には、一階の居住空間Lに居住する車いすの住人とは異なる他の住人(例えば家族)が居住していてもよい。他の住人は、玄関ホール12d及び階段室13を通じて上階に行くことができる。要するに、一階の住人も、上階の他の住人も、共通の玄関12を使用して住宅の出入りを行うことになる。
【0036】
〔住宅の各部における高さ関係について〕
次に、住宅の各部における高さ関係について、図面を参照して説明する。
【0037】
建物は通常、基礎の上に構築され、道路からある程度の高さに配置された状態となる。そのため、駐車スペースから玄関ポーチにかけて複数段の段差が生じたり、玄関土間と部屋との間に段差が生じたりする場合があり、車いすでの移動は困難となる。このような問題を解決するため、本実施形態における建物10は、駐車スペース2から居住空間Lにかけて、ほとんど段差が生じないように構成されている。
【0038】
なお、建物10は、図3に示すように、基礎30,31の上に構築されている。一方の基礎30は、立ち上がり部の高さ寸法が短く設定され、居住空間Lのうち車いすで自走可能な範囲の床下に位置し、居住空間Lにおける床構造を支持している。また、他方の基礎31は、立ち上がり部の高さ寸法が長く設定され、居住空間Lのうち車いすでの自走が困難な範囲の床下に位置し、居住空間Lにおける床構造を支持している。
【0039】
また、居住空間Lのうち玄関12における土間部分(上記の玄関土間12aなど)を除く部分(玄関ホール12d、部屋15、和室16、トイレ17、洗面脱衣所18、浴室19)の床下には、地面からの湿気を遮る防湿土間コンクリート32が打設されている。
【0040】
さらに、居住空間Lのうち車いすで自走可能な範囲の床構造として、玄関12の土間部分においては土間用床33が敷かれている。玄関12の土間部分を除く部分においては、重量衝撃音遮断性能の高いALC(Autoclaved Light-weight Concrete)床34が敷かれている。また、ALC床34の上には、断熱気密シート、硬質ウレタンフォーム、パーチクルボードが適宜敷かれ、車いすのタイヤが接する表層として土足用フローリング35が敷かれて構成されている。この土足用フローリング35の上面と土間用床33の上面は面一の状態となっている。
【0041】
また、居住空間Lのうち部屋15及びプライベートエリアPにおける床構造の床下は、給水管や排水管36を点検することが可能なスペースとなっている。特に、排水管36の場合は、排水勾配を形成するように配管する必要があるため、床下における給排水設備の点検は適宜行われるものとする。
【0042】
ここで、道路Rは高さが「±0mm」の地点となっている。この高さを基準とし、駐車スペース2における玄関ポーチ2bの高さは「+181mm」とされている。そして、玄関ポーチ2bから道路Rまでの間には、道路Rに向かって下がる傾斜面(下り勾配ともいう。)が形成されている。この傾斜面は、車いすでの移動を可能とするとともに、雨水などを道路Rに向かって流す水勾配としても機能する。
【0043】
なお、本実施形態においては、玄関ポーチ2bから道路Rまでの間に形成された傾斜面が一定の勾配(角度)に設定されているものとするが、例えば、道路R付近は、道路Rに連続して平坦に形成されてもよいし、途中部分で勾配が変化してもよい。また、道路Rにおける駐車スペース2側の縁部には側溝が設けられる場合があるが、例えば落ち蓋式道路側溝などが用いられるなどして、平坦(±0mm)又は平坦に近くなるように設定されているものとする。
【0044】
玄関ポーチ2bは、水勾配が形成されていないか、若しくは極僅かに形成されている平坦面とされている。つまり、平坦面である玄関ポーチ2bは、車いすで建物10への出入りを行う際に、戸11を開閉したり、戸11の錠を開け閉めしたりするために一時的に停止する場所であり、その状態を維持できる程度に略平坦に形成されている必要がある。
【0045】
平坦面である玄関ポーチ2bは、図2に示すように、駐車スペース2のうち最も高い位置にあり、駐車スペース2における傾斜面は、図2中の矢印A4で示すように、玄関ポーチ2bから道路Rに向かって下がるように形成されている。より具体的には、図2に示す傾斜面(矢印A4)は、玄関ポーチ2bを中心にして略放射状に形成されている。
【0046】
そして、このような駐車スペース2は、上記のように、車3が駐車されていない場合、車3をそもそも所有していない場合は、駐車スペース2全体が通行スペース2aとなる。一方、車3が駐車されている場合は、車3の脇の空いたスペースが通行スペース2aとなる。
【0047】
なお、駐車スペース2は、隣地に対して隣接することになるため、隣地との間には、図示はしないが、隣地への雨水の流出を防ぐ塀又は排水溝が設けられているものとする。
【0048】
続いて、玄関12における玄関土間12aの高さは、道路Rの高さに対して「+199mm」とされている。すなわち、玄関ポーチ2bの高さとの差は「18mm」となっており、図3に示すように、僅かに段差が生じることになるが、この段差は、玄関ポーチ2bから居住空間L側への雨水の浸入を防ぐ利点がある。なお、国土交通省によって策定された「道路の移動円滑化整備ガイドライン」に基づけば、2cm(20mm)の段差は一般の道路でも許容される範囲であると考えられる。そのため、2cm(20mm)よりも低い段差である、玄関ポーチ2bと玄関土間12aとの間の段差は、車いすでの通行は可能となっている。なお、玄関ポーチ2bと玄関土間12aと境界に、排水溝等の排水手段を適宜設けるなどして居住空間L側への雨水の浸入を防ぐようにしてもよい。
【0049】
なお、本実施形態においては、玄関12における玄関土間12aと、玄関ポーチ2bとの間の高さの差は、上記のように20mmよりも低いとしたが、これに限られるものではなく、車いすによって通行可能な範囲に設定されているものとする。すなわち、当該高さの差は、20mmを超えていてもこれを除外するものではないが、より好ましくは、例えば、0~20mm以下の範囲に設定されているものとする。換言すれば、本実施形態においては、玄関ポーチ2bにおける上面の高さは、玄関12における玄関土間12aの床面と略同一とされており、ここでいう略同一とは、上記の0~20mm以下の範囲である。そして、このように設定された高さの段差であれば、玄関土間12aと玄関ポーチ2bとの間を、車いすで自走する場合であっても容易に通行できる(20mm以下の段差であれば容易に乗り越えられる)ようになっている。
【0050】
また、玄関土間12aの高さが道路Rに対して約200mmであることも、床上浸水のリスクを軽減する上で好ましい。
【0051】
玄関土間12aと玄関収納部12bは、同一床レベルとされている。また、玄関土間12aに隣接する上階用玄関土間12cは、上記のように、玄関土間12aよりも床レベルが一段高くなっている。具体的には、上階用玄関土間12cの高さは「+379mm」とされている。すなわち、玄関土間12aの高さとの差は「180mm」となっている。
【0052】
上階用玄関土間12cに隣接する玄関ホール12dは、上記のように、上階用玄関土間12cよりも床レベルが一段高くなっている。具体的には、玄関ホール12dの高さは「+547mm」とされている。すなわち、上階用玄関土間12cの高さとの差は「168mm」となっており、玄関土間12aの高さとの差は「348mm」となっている。
【0053】
玄関ホール12dは、玄関土間12aからの高さが約35cmとされており、例えば椅子などの座面の高さに近いものとなっている。そのため、玄関ホール12dは、玄関12における一時的な腰掛けとして利用することができる。これにより、玄関ホール12dにおいて、例えば出かける際の身支度(例えば靴の着用)や車いすからの移乗を行うことができる。
【0054】
玄関土間12aと部屋15は、同一床レベルとされている。つまり、部屋15の高さは「+199mm」とされている。さらに、プライベートエリアPにおけるトイレ17、洗面脱衣所18、浴室19も玄関土間12aと同一床レベルで、高さが「+199mm」とされている。すなわち、居住空間Lのうち、図1における一点鎖線(太線)によって囲まれた、平面視において略コ字状の領域L1は床レベルが同一とされた同一床レベル領域L1とされている。なお、浴室19における洗面脱衣所18側の縁部に、排水溝等の排水手段を適宜設けるなどして洗面脱衣所18への水の流出を防ぐようにしてもよい。また、浴室19の上面には、洗面脱衣所18とは反対側に傾斜する水勾配が形成されてもよい。
【0055】
同一床レベル領域L1は、上記のように死角に入る位置関係で配置された玄関土間12a及び玄関開口部と、プライベートエリアPと、が含まれており、更に部屋15が含まれているため、図1に示すように、平面視において略コ字状に形成されている。なお、本実施形態においては、このように同一床レベル領域L1が平面視において略コ字状であるとしたが、これに限定されない。つまり、玄関土間12a及び玄関開口部と、プライベートエリアPとが互いに死角に入る位置関係で配置されれば、同一床レベル領域L1の形状は、平面視において略ロ字状でもよいし、その他の形状を模るように形成されてもよい。
【0056】
部屋15に隣接する和室16は、上記のように、部屋15よりも床レベルが高くなっている。具体的には、和室16の高さは「+547mm」とされている。すなわち、この和室16における床畳面の高さと、玄関ホール12dの上面の高さは同一になっている。そのため、和室16における部屋15側の縁部は、腰掛けとして利用することができる。これにより、部屋15又は和室16において、例えば出かける際の身支度(例えば衣服の着用)や車いすからの移乗を行うことができる。また、車いすから移乗した後に、和室16を寝室として利用しやすい。
【0057】
〔車いすによる移動について〕
次に、以上のように構成された住宅を車いすによって移動(自走)する流れについて説明する。
【0058】
居住空間Lのうち同一床レベル領域L1は、上記のように、床レベルが同一であるため車いすによる自走が可能となっている。プライベートエリアPも、戸20,21,22を開けば容易に行き来することができる。また、和室16は、部屋15の和室側まで車いすで移動した後に移乗して、縁部を腰掛けとして利用できる。
【0059】
居住空間Lから屋外へと出る際は、戸14を開けて玄関12へと移動する。玄関12では、車いす上で身支度を行ってもよいし、必要に応じて、玄関ホール12dに腰掛けて身支度を行ってもよい。身支度が整ったら戸11を開け、玄関開口部を通じて、まず平坦面である玄関ポーチ2bへと移動し、玄関ポーチ2b上で戸締りを行う。
【0060】
屋外に出た後は、駐車スペース2における通行スペース2aを通行して道路Rに出る。車3が駐車されていない場合は、駐車スペース2全体が通行スペース2aとなるため、比較的スムーズに道路Rに出ることができる。
【0061】
屋外から居住空間Lへと入る際の流れは、居住空間Lから屋外へと出る際の流れの説明と真逆であるため、説明を省略する。要するに、車いすによって住宅への出入りを行う際は、大きな段差がなく、支障なく自走することができるようになっている。さらに、居住空間L内においては、上階に上がることはできないものの、車いすで自由に移動することが可能となっている。
【0062】
本実施の形態によれば、道路Rと住宅とを結ぶルートが、道路Rから駐車スペース2を通過し、玄関12を経由して居住空間Lへと至る一つのルートに絞られるので、従来とは異なり、プライバシーの確保や防犯性の向上を図ることができる。また、駐車スペース2に、玄関ポーチ2bから道路Rに向かって下り勾配となる傾斜面が形成されているので、道路Rから玄関ポーチ2bの間の車いすによる通行が容易となる。さらに、玄関12とプライベートエリアPと部屋15が同一の床高に設定されているので、居住空間Lにおける車いすでの生活がしやすい。その上、住人のためのプライベートエリアPは、玄関12から死角に入る位置関係で配置されているので、玄関12からの視線がプライベートエリアPに向けられることを防ぎ、プライベートエリアPにおけるプライバシーを確保できる。これにより、車いすによる居住空間Lへの出入り、居住空間L内における車いすでの生活について包括的に計画され、車いすで生活を送る上での快適性を向上させることが可能となる。
【0063】
また、玄関ポーチ2bが平坦面とされているので、車いすに乗った状態のまま、玄関ポーチ2bにおける戸11の開閉や錠の開け閉めを安定的に行うことができる。また、玄関ポーチ2bを除く駐車スペース2の全体に傾斜面が形成されているので、車3が駐車されていない場合には、駐車スペース2全体を車いすの通行スペース2aとすることができ、車3が駐車されている場合には、空いているスペースを車いすの通行スペース2aとすることができる。
【0064】
また、玄関12とプライベートエリアPとが、部屋15を介して回り込んだ位置関係となり、かつ壁Wによって隔てられているので、玄関12からの視線がプライベートエリアPに向けられることを確実に防ぎ、プライベートエリアPにおけるプライバシーを確保できる。
【0065】
また、部屋15に設けられた水回り設備(コンロ付き流し台15a)と、プライベートエリアPに設けられた水回り設備(便器17a、洗面台18a、浴槽19a)と、が同一直線上に配置されているので、給排水設備を設ける位置を床下に集約することが可能となり、施工手間の軽減を図ることができる。
【0066】
〔変形例〕
住宅における建物と駐車スペースとの位置関係や、駐車スペースにおける駐車の形態については、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、その変形例について説明する。以下の各変形例において、上記の実施形態と共通する要素については、共通の符号を付し、説明を省略又は簡略する。
【0067】
〔変形例1〕
本変形例における駐車スペース2は、図4に示すように、上記の実施形態と同様に道路Rに対して直交した状態となっており、車3は、直角駐車によって駐車スペース2に駐車される。
【0068】
この駐車スペース2における平坦面である玄関ポーチ40は、駐車スペース2の奥側における短辺に沿って長尺に形成されている。玄関ポーチ40は、駐車スペース2のうち最も高い位置にあり、駐車スペース2における傾斜面は、図4中の矢印A5で示すように、玄関ポーチ40から道路Rに向かって真っすぐ下がるように形成されている。
【0069】
車いすで道路Rから平坦な玄関ポーチ40まで上がる場合には、駐車スペース2における短辺方向のどの位置(車3が駐車されている場合は車3を避けた位置)からスタートしても、真っすぐに上がれば玄関ポーチ40まで到達することになる。また、傾斜面が、駐車スペース2の長辺方向に沿った下り勾配となっているので、緩やかな勾配とすることができる。
【0070】
〔変形例2〕
本変形例における道路は、図5に示すように、双方向矢印A1で示す方向に続く道路Rと、双方向矢印A1’で示す方向に続く道路R1(高さは「±0mm」)によって構成されたものであり、交差点を形成している。本変形例における駐車スペース2はその交差点に面している。
【0071】
車3’は、軽自動車とされており、普通自動車や小型自動車に比して全長が短い。このような車3’は、双方向矢印A2で示すように直角駐車によって駐車スペース2に駐車されるか、若しくは交差点の中心から駐車される場合がある。そして、駐車スペース2の奥まで入れずに、通行スペース2aを確保する。
【0072】
この駐車スペース2における平坦面である玄関ポーチ41は、駐車スペース2における奥側の長辺に沿って長尺に形成されている。玄関ポーチ41は、駐車スペース2のうち最も高い位置にあり、駐車スペース2における傾斜面は、図5中の矢印A6で示すように、玄関ポーチ41から道路R1に向かって真っすぐ下がるように形成されている。
【0073】
なお、本変形例における駐車スペース2は、玄関ポーチ41の位置が最も高く、矢印A6の方向に向かって徐々に下がるように形成されているため、双方向矢印A1で示す方向に続く道路Rとの間には段差が生じる。そこで、この駐車スペース2における道路R側の縁部は道路Rに向かって切り下げられており、切り下げ部2cが形成されている。
【0074】
車いすで道路R1から玄関ポーチ41まで上がる場合には、駐車スペース2における長辺方向のどの位置(車3’が駐車されている場合は車3’を避けた位置)からスタートしても、真っすぐに上がれば玄関ポーチ41まで到達することになる。また、傾斜面が、駐車スペース2の短辺方向に沿った下り勾配となっているので、移動距離が短くなる。
【0075】
なお、本変形例においては、玄関ポーチ41が玄関12側に配置されて長尺に形成されているので、建物10に設けられた玄関開口部及び戸11の位置は、この玄関ポーチ41の長さ方向に沿った位置であれば、設計段階で適宜変更可能である。
【0076】
〔変形例3〕
本変形例における駐車スペース2’は、図6に示すように、道路R1の続く方向に対して平行する方向に長く形成されており、車3は、図6中の双方向矢印A2’で示すように出し入れされる。このような駐車の方法は、所謂並列駐車と呼ばれる。
【0077】
平坦面である玄関ポーチ42は、駐車スペース2’のうち最も高い位置にあり、駐車スペース2’における傾斜面は、図6中の矢印A7で示すように、玄関ポーチ42を中心にして略放射状に、かつ道路R1に向かって下がるように形成されている。
【0078】
車いすで道路R1から玄関ポーチ42まで上がる場合には、玄関開口部及び戸11のある方向へと上がっていくようにする。本変形例においては、どのようにルート取りしても大差ない労力で玄関ポーチ42まで上がることができる。
【0079】
〔変形例4〕
本変形例における駐車スペース2’は、道路Rと道路R1からなる交差点に面している。この駐車スペース2’における平坦面である玄関ポーチ43は、駐車スペース2’における戸11側の隅部に形成されている。
【0080】
平坦面である玄関ポーチ43は、駐車スペース2’のうち最も高い位置にあり、駐車スペース2’における傾斜面は、図7中の矢印A8で示すように、玄関ポーチ43を中心にして略放射状に、かつ道路Rと道路R1(上記の交差点も含む)に向かって下がるように形成されている。
【0081】
車いすで道路R1から玄関ポーチ43まで上がる場合には、玄関開口部及び戸11のある方向へと上がっていくようにする。本変形例においては、道路Rから上がる場合には、傾斜面が、駐車スペース2の長辺方向に沿った下り勾配となっているので、緩やかな勾配となる。一方、道路R1から上がる場合には、傾斜面が、駐車スペース2の短辺方向に沿った下り勾配となっているので、移動距離が短くなる。交差点側から上がる場合には、道路Rから上がる場合と道路R1から上がる場合の中間の労力で玄関ポーチ43まで上がることができる。
【符号の説明】
【0082】
1 敷地
2 駐車スペース
2a 通行スペース
2b 玄関ポーチ
2c 切り下げ部
3 車
10 建物
11 戸
12 玄関
12a 玄関土間
12b 玄関収納部
12c 上階用玄関土間
12d 玄関ホール
13 階段室
14 戸
15 部屋
15a コンロ付き流し台
16 和室
16a 収納部
17 トイレ
18 洗面脱衣所
19 浴室
20 戸
21 戸
22 折戸
L 居住空間
L1 同一床レベル領域
P プライベートエリア
W 壁
R 道路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7