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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ゴム組成物、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20221212BHJP
   C08L 57/00 20060101ALI20221212BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20221212BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20221212BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20221212BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221212BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L57/00
B60C1/00 A
C08L9/06
C08L7/00
C08K3/04
C08K3/36
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018540303
(86)(22)【出願日】2017-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2017034173
(87)【国際公開番号】W WO2018056382
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2016187622
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝典
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263587(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0289647(US,A1)
【文献】特開2013-227375(JP,A)
【文献】国際公開第2014/178336(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム(A1)と、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)と、を含むゴム成分(A)と、
熱可塑性樹脂(B)と、
シリカと、カーボンブラックと、を含む充填剤と、を含み、
前記ゴム成分(A)中の、前記天然ゴム(A1)の割合が30質量%以上60質量%以下で且つ前記変性ジエン系ゴム(A2)の割合が40質量%以上70質量%以下であり、
前記変性ジエン系ゴム(A2)が、含窒素官能基、含ケイ素官能基及び含酸素官能基の少なくとも1つを有する変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムであり、
前記熱可塑性樹脂(B)が、C-C系樹脂、C系樹脂、及びジシクロペンタジエン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の配合量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して10~50質量部であり、
前記充填剤の配合量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、30質量部以上100質量部以下であり、
前記充填剤中の、前記シリカの割合が70質量%以上で且つ前記カーボンブラックの割合が5~30質量%であり、
30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上であり、且つ、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)が16.7MPa以下であることを特徴とする、ゴム組成物。
【請求項2】
請求項に記載のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今の環境問題への関心の高まりに伴う世界的な二酸化炭素排出規制の動きに関連して、自動車の低燃費化に対する要求が強まりつつある。このような要求に対応するため、タイヤ性能についても、転がり抵抗の低減が求められている。ここで、タイヤの転がり抵抗に寄与するタイヤのトレッド用ゴム組成物の開発にあたっては、通常走行時のタイヤの温度が60℃程度になることに鑑み、60℃付近での損失正接(tanδ)を指標とすることが一般に有効であり、具体的には、60℃付近でのtanδが低いゴム組成物をトレッドゴムに用いることで、タイヤの発熱を抑制して転がり抵抗を低減し、結果として、タイヤの燃費性能を向上させることができる(特許文献1)。
また、自動車走行の安全性を高める見地から、湿潤路面でのグリップ性能(以下、「ウェット性能」と略称する。)を確保することも重要であり、タイヤの転がり抵抗を低減すると共にウェット性能を向上させることも求められている。これに対して、特許文献2には、タイヤトレッド用ゴム組成物の0℃におけるtanδを0.95以上にして、ウェット性能を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-92179号公報
【文献】特開2014-9324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、タイヤのウェット性能を向上させるために、単純に0℃におけるtanδが高いゴム組成物をトレッドゴムに用いると、タイヤの転がり抵抗と関連する60℃でのtanδも高くなるため、タイヤの転がり抵抗が増大してしまう。また、逆に、タイヤの転がり抵抗を低減するために、単純に60℃でのtanδが低いゴム組成物をトレッドゴムに用いると、タイヤのウェット性能と関連する0℃でのtanδも低くなるため、タイヤのウェット性能が悪化してしまう。従って、タイヤの転がり抵抗の低減と、ウェット性能の向上とを両立するには限界があった。
【0005】
これに対して、本発明者らは、トレッドゴムの変形を大きくして、湿潤路面に対するグリップ力を向上させることで、ウェット性能を向上させることを検討したが、トレッドゴムの変形を大きくするために、トレッドゴムを単純に柔らかくすると、タイヤの操縦安定性が低下してしまうことが分かった。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、操縦安定性及びウェット性能を向上させることが可能なゴム組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、転がり抵抗が低く、操縦安定性及びウェット性能に優れたタイヤを提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0008】
本発明のゴム組成物は、天然ゴム(A1)と、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)と、を含むゴム成分(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含み、
30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上であり、且つ、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)が16.7MPa以下であることを特徴とする。
かかる本発明のゴム組成物によれば、タイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、操縦安定性及びウェット性能を向上させることができる。
【0009】
ここで、本発明において、変性ジエン系ゴム(A2)のガラス転移温度(Tg)は、tanδの温度分散曲線により測定することができ、例えば、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計を用いて、5~10℃/minの掃引速度の条件で測定することができる。
【0010】
本発明のゴム組成物の好適例においては、前記ゴム成分(A)中の前記変性ジエン系ゴム(A2)の割合が40質量%以上である。この場合、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を更に低減しつつ、ウェット性能を更に向上させることができる。
【0011】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記熱可塑性樹脂(B)の配合量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して10~50質量部である。この場合、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤのウェット性能を更に向上させることができる。
【0012】
本発明のゴム組成物の他の好適例においては、前記熱可塑性樹脂(B)が、C-C系樹脂、C系樹脂、C系樹脂、及びジシクロペンタジエン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。この場合、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤのウェット性能を更に向上させることができる。
【0013】
また、本発明のタイヤは、上記のゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする。本発明のタイヤは、前記ゴム組成物がトレッドゴムに用いられているため、転がり抵抗が低く、操縦安定性及びウェット性能に優れる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、操縦安定性及びウェット性能を向上させることが可能なゴム組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、転がり抵抗が低く、操縦安定性及びウェット性能に優れたタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】シリカの粒子における内心方向断面概略図(部分拡大図)である。
図2】水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定による、シリカの水銀の圧入排出曲線(概略図)であり、縦軸は、水銀の圧入曲線Cでは微分水銀圧入量(-dV/d(log d))を示し、水銀の排出曲線Dでは微分水銀排出量(-dV/d(log d))を示し、なおVは、水銀の圧入曲線Cでは水銀圧入量(cc)、水銀の排出曲線Dでは水銀排出量(cc)を意味し、dはシリカの細孔における開口部の直径(nm)を意味し、横軸はこのd(nm)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のゴム組成物、及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0017】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、天然ゴム(A1)とガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)とを含むゴム成分(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、を含み、30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上であり、且つ、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)が16.7MPa以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明のゴム組成物においては、ゴム成分(A)として、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)を含むことで、一般にゴム組成物に配合される充填剤の分散性が向上し、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、ウェット性能を向上させることができる。
また、本発明のゴム組成物においては、ゴム成分(A)として、天然ゴム(A1)を含むことで、tanδが低下し、該ゴム組成物を適用したタイヤの転がり抵抗を更に低減することができる。
【0019】
更に、本発明のゴム組成物においては、熱可塑性樹脂(B)を配合することで、低歪領域での弾性率、特には、30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)を高くしつつ、高歪領域での弾性率、特には、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)を低下させることができる。そのため、本発明のゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、走行時の歪が大きい路面との接地面近傍のトレッドゴムの変形体積を大きくしつつ、走行時の操縦安定性に必要な剛性を確保することができる。
そして、湿潤路面での摩擦係数(μ)は、トレッドゴム全体の剛性と、トレッドゴムの変形量と、tanδ(損失正接)との積に比例するため、本発明のゴム組成物をトレッドゴムに適用したタイヤは、前記ゴム成分(A)の採用によりtanδを低下させても、前記熱可塑性樹脂(B)の適用により、トレッドゴム全体の剛性を確保しつつ、トレッドゴムの変形量を増加させることができるため、湿潤路面での摩擦係数(μ)を十分に向上させることができ、湿潤路面での摩擦係数(μ)が大きくなることで、ウェット性能が更に向上する。
【0020】
また、本発明のゴム組成物においては、30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上であることで、本発明のゴム組成物をトレッドゴムに適用したタイヤのトレッドの硬さを確保できるため、タイヤの操縦安定性を向上させることができる。
【0021】
従って、本発明のゴム組成物によれば、タイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を低減しつつ、操縦安定性及びウェット性能を向上させることができる。
【0022】
前記ゴム成分(A)は、天然ゴム(NR)(A1)を含む。ゴム成分(A)中の天然ゴム(A1)の割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。ゴム成分(A)中の天然ゴム(A1)の割合を30質量%以上とすることで、tanδ、特には0℃でのtanδが低下し、該ゴム組成物を適用したタイヤの低温での転がり抵抗を更に低減できる。また、ゴム成分(A)中の天然ゴム(A1)の割合が60質量%以下であれば、後述するガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)の割合を増やすことができる。
【0023】
また、前記ゴム成分(A)は、更に、ガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)[以下、「変性ジエン系ゴム(A2)」と略記することがある。]を含む。ゴム成分(A)中の該変性ジエン系ゴム(A2)の割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。ゴム成分(A)中の変性ジエン系ゴム(A2)の割合が40質量%以上の場合、ゴム組成物中での充填剤の分散性が向上し、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を更に低減しつつ、ウェット性能を更に向上させることができる。また、ゴム成分(A)中の変性ジエン系ゴム(A2)の割合が70質量%以下の場合、前述の天然ゴム(A1)の割合を増やすことができる。
なお、ガラス転移温度(Tg)が-50℃を超える変性ジエン系ゴムでは、ゴム組成物中での充填剤の分散性を向上させる効果が小さい。また、変性ジエン系ゴム(A2)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-55℃以下、より好ましくは-60℃以下であり、また、好ましくは-120℃以上、より好ましくは-100℃以上である。
【0024】
前記変性ジエン系ゴム(A2)における変性官能基としては、例えば、含窒素官能基、含ケイ素官能基、含酸素官能基等が挙げられる。
前記変性ジエン系ゴム(A2)としては、モノマーとして共役ジエン化合物、或いは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を使用し、該共役ジエン化合物の重合体又は共重合体、或いは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体の分子末端及び/又は主鎖を変性剤で変性して得たポリマーや、モノマーとして共役ジエン化合物、或いは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物を使用し、変性官能基を有する重合開始剤を用いて、これらのモノマーを重合又は共重合させて得たポリマーを使用することができる。
【0025】
前記変性ジエン系ゴム(A2)の合成に用いるモノマーに関し、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられ、また、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン等が挙げられる。
また、前記変性ジエン系ゴム(A2)としては、変性合成イソプレンゴム(IR)、変性ポリブタジエンゴム(BR)、変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、変性スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)等が挙げられる。
【0026】
前記変性剤としては、ヒドロカルビルオキシシラン化合物が好ましい。
前記ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、下記一般式(I):
-Si-(OR4-a ・・・ (I)
で表される化合物が好ましい。
一般式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して炭素数1~20の一価の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基を示し、aは0~2の整数であり、ORが複数ある場合、各ORは互いに同一でも異なっていてもよく、また、分子中には活性プロトンは含まれない。
【0027】
前記ヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、下記一般式(II):
【化1】
で表される化合物も好ましい。
一般式(II)中、n1+n2+n3+n4は4であり(但し、n2は1~4の整数であり、n1、n3及びn4は0~3の整数である)、Aは、飽和環状3級アミン化合物残基、不飽和環状3級アミン化合物残基、ケチミン残基、ニトリル基、イソシアナート基、チオイソシアナート基、エポキシ基、チオエポキシ基、イソシアヌル酸トリヒドロカルビルエステル基、炭酸ジヒドロカルビルエステル基、ピリジン基、ケトン基、チオケトン基、アルデヒド基、チオアルデヒド基、アミド基、カルボン酸エステル基、チオカルボン酸エステル基、カルボン酸エステルの金属塩、チオカルボン酸エステルの金属塩、カルボン酸無水物残基、カルボン酸ハロゲン化合物残基、並びに加水分解性基を有する第一若しくは第二アミノ基又は加水分解性基を有するメルカプト基の中から選択される少なくとも1種の官能基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、Aは、Siと結合して環状構造を形成する二価の基であってもよく、R21は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、n1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R23は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子であり、n3が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R22は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、n2が2以上の場合には、互いに同一若しくは異なっていてもよく、或いは、一緒になって環を形成していてもよく、R24は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、n4が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。前記加水分解性基を有する第一若しくは第二アミノ基又は加水分解性基を有するメルカプト基における加水分解性基としては、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0028】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(III):
【化2】
で表される化合物が好ましい。
一般式(III)中、p1+p2+p3は2であり(但し、p2は1~2の整数であり、p1及びp3は0~1の整数である)、Aは、NRa(Raは、一価の炭化水素基、加水分解性基又は含窒素有機基である)、或いは、硫黄であり、R25は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R27は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又はハロゲン原子であり、R26は、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基、炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基又は含窒素有機基であり、いずれも窒素原子及び/又はケイ素原子を含有していてもよく、p2が2の場合には、互いに同一でも異なっていてもよく、或いは、一緒になって環を形成していてもよく、R28は、炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。前記加水分解性基として、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0029】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(IV):
【化3】
で表される化合物も好ましい。
一般式(IV)中、q1+q2は3であり(但し、q1は0~2の整数であり、q2は1~3の整数である)、R31は炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R32及びR33はそれぞれ独立して加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R34は炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q1が2の場合には同一でも異なっていてもよく、R35は炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、q2が2以上の場合には同一でも異なっていてもよい。前記加水分解性基としては、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0030】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(V):
【化4】
で表される化合物も好ましい。
一般式(V)中、r1+r2は3であり(但し、r1は1~3の整数であり、r2は0~2の整数である)、R36は炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R37はジメチルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノメチル基、ジエチルアミノエチル基、メチルシリル(メチル)アミノメチル基、メチルシリル(メチル)アミノエチル基、メチルシリル(エチル)アミノメチル基、メチルシリル(エチル)アミノエチル基、ジメチルシリルアミノメチル基、ジメチルシリルアミノエチル基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r1が2以上の場合には同一でも異なっていてもよく、R38は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、r2が2の場合には同一でも異なっていてもよい。
【0031】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(VI):
【化5】
で表される化合物も好ましい。
一般式(VI)中、R40はトリメチルシリル基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R41は炭素数1~20のヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、R42は炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基である。ここで、TMSは、トリメチルシリル基を示す(以下、同じ。)。
【0032】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(VII):
【化6】
で表される化合物も好ましい。
一般式(VII)中、R43及びR44はそれぞれ独立して炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R45は炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であり、各R45は、同一でも異なっていてもよい。
【0033】
一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(VIII):
【化7】
で表される化合物も好ましい。
一般式(VIII)中、r1+r2は3であり(但し、r1は0~2の整数であり、r2は1~3の整数である)、R46は炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R47およびR48はそれぞれ独立して炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。複数のR47又はR48は、同一でも異なっていてもよい。
【0034】
上記一般式(II)で表される化合物としては、下記一般式(IX):
【化8】
で表される化合物も好ましい。
一般式(IX)中、Xはハロゲン原子であり、R49は炭素数1~20の二価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の二価の芳香族炭化水素基であり、R50及びR51はそれぞれ独立して加水分解性基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基であるか、或いは、R50及びR51は結合して二価の有機基を形成しており、R52及びR53はそれぞれ独立してハロゲン原子、ヒドロカルビルオキシ基、炭素数1~20の一価の脂肪族若しくは脂環式炭化水素基又は炭素数6~18の一価の芳香族炭化水素基である。R50及びR51としては、加水分解性基であることが好ましく、加水分解性基として、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基が好ましく、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0035】
上記一般式(II)で表されるヒドロカルビルオキシシラン化合物としては、下記一般式(X)~(XIII):
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
で表される化合物も好ましい。
一般式(X)~(XIII)中、記号U、Vはそれぞれ0~2且つU+V=2を満たす整数である。一般式(X)~(XIII)中のR5492は同一でも異なっていてもよく、炭素数1~20の一価若しくは二価の脂肪族又は脂環式炭化水素基、或いは炭素数6~18の一価若しくは二価の芳香族炭化水素基である。一般式(XIII)中のα及びβは0~5の整数である。
【0036】
前記変性官能基を有する重合開始剤としては、リチウムアミド化合物が好ましい。該リチウムアミド化合物としては、例えば、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムへプタメチレンイミド、リチウムドデカメチレンイミド、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジへキシルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウムジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウム-N-メチルピペラジド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド等が挙げられる。
【0037】
前記ゴム成分(A)は、上述した天然ゴム(A1)及びガラス転移温度(Tg)が-50℃以下の変性ジエン系ゴム(A2)の他、他のゴム成分を含んでもよい。かかる他のゴム成分としては、未変性の、合成イソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)等の、未変性合成ジエン系ゴムや、ガラス転移温度(Tg)が-50℃を超える変性ジエン系ゴムが挙げられる。
【0038】
本発明のゴム組成物は、熱可塑性樹脂(B)を含む。ゴム組成物に熱可塑性樹脂(B)を配合することで、低歪領域での弾性率を高くしつつ、高歪領域での弾性率を低下させることができる。そのため、該熱可塑性樹脂(B)を配合したゴム組成物をタイヤのトレッドに適用することで、走行時の歪が大きい路面との接地面近傍のトレッドゴムの変形体積を大きくしつつ、走行時の操縦安定性に必要な剛性を確保することができ、その結果として、湿潤路面での摩擦係数(μ)が高くなり、タイヤのウェット性能を向上させることができる。
【0039】
前記熱可塑性樹脂(B)の配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、好ましくは10~50質量部であり、より好ましくは12.5質量部以上、また、より好ましくは40質量部以下、より一層好ましくは30質量部以下である。熱可塑性樹脂(B)の配合量がゴム成分(A)100質量部に対して10質量部以上であれば、ゴム組成物の高歪領域での弾性率を低下させる効果が更に大きくなり、また、50質量部以下であれば、ゴム組成物の低歪領域での弾性率の低下をより抑制し易くなる。そのため、熱可塑性樹脂(B)の配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して10~50質量部の場合、タイヤのウェット性能を更に向上させることができる。
【0040】
前記熱可塑性樹脂(B)としては、C系樹脂、C系樹脂、C-C系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ロジン樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂等が挙げられ、これらの中でも、C-C系樹脂、C系樹脂、C系樹脂、及びジシクロペンタジエン樹脂が好ましく、C-C系樹脂が特に好ましい。C-C系樹脂、C系樹脂、C系樹脂、及びジシクロペンタジエン樹脂は、天然ゴム(A1)との相溶性が高く、ゴム組成物の低歪領域での弾性率を高くする効果、並びにゴム組成物の高歪領域での弾性率を低下させる効果が更に大きくなり、タイヤのウェット性能を更に向上させることができる。前記熱可塑性樹脂(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記C-C系樹脂とは、C-C系合成石油樹脂を指し、該C-C系樹脂としては、例えば、石油由来のC留分とC留分とを、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる固体重合体が挙げられ、より具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン等を主成分とする共重合体等が挙げられる。該C-C系樹脂としては、C以上の成分の少ない樹脂が、ゴム成分(A)との相溶性の観点から好ましい。ここで、「C以上の成分が少ない」とは、樹脂全量中のC以上の成分が50質量%未満、好ましくは40質量%以下であることを言うものとする。前記C-C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、商品名「クイントン(登録商標)G100B」(日本ゼオン株式会社製)、商品名「ECR213」(エクソンモービルケミカル社製)、商品名「T-REZ RD104」(東燃化学社製)等が挙げられる。
【0042】
前記C系樹脂とは、C系合成石油樹脂を指し、該C系樹脂としては、例えば、石油化学工業のナフサの熱分解によって得られるC留分を、AlCl、BF等のフリーデルクラフツ型触媒を用いて重合して得られる脂肪族系石油樹脂が挙げられる。前記C留分には、通常1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、3-メチル-1-ブテン等のオレフィン系炭化水素、2-メチル-1,3-ブタジエン、1,2-ペンタジエン、1,3-ペンタジエン、3-メチル-1,2-ブタジエン等のジオレフィン系炭化水素等が含まれる。なお、前記C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、エクソンモービルケミカル社製脂肪族系石油樹脂である「エスコレッツ(登録商標)1000シリーズ」、日本ゼオン株式会社製脂肪族系石油樹脂である「クイントン(登録商標)100シリーズ」の内「A100、B170、M100、R100」、東燃化学社製「T-REZ RA100」等が挙げられる。
【0043】
前記C系樹脂は、例えば、石油化学工業のナフサの熱分解により、エチレン、プロピレン等の石油化学基礎原料と共に副生するC留分である、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンを主要なモノマーとする炭素数9の芳香族を重合した樹脂である。ここで、ナフサの熱分解によって得られるC留分の具体例としては、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、γ-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、インデン等が挙げられる。該C系樹脂は、C留分と共に、C留分であるスチレン等、C10留分であるメチルインデン、1,3-ジメチルスチレン等、更にはナフタレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、p-tert-ブチルスチレン等をも原料として用い、これらのC~C10留分等を混合物のまま、例えばフリーデルクラフツ型触媒により共重合して得ることができる。また、前記C系樹脂は、水酸基を有する化合物、不飽和カルボン酸化合物等で変性された変性石油樹脂であってもよい。なお、前記C系樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、未変性C系石油樹脂としては、商品名「日石ネオポリマー(登録商標)L-90」、「日石ネオポリマー(登録商標)120」、「日石ネオポリマー(登録商標)130」、「日石ネオポリマー(登録商標)140」(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)等が挙げられる。
【0044】
前記ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)は、シクロペンタジエンを二量体化して得られるジシクロペンタジエン(DCPD)を主原料に製造された石油樹脂である。前記ジシクロペンタジエン樹脂としては、市販品を利用することができ、例えば、日本ゼオン株式会社製脂環式系石油樹脂である商品名「クイントン(登録商標)1000シリーズ」の内「1105、1325、1340」等が挙げられる。
【0045】
本発明のゴム組成物は、上述した熱可塑性樹脂(B)の他に、更に充填剤を含むことが好ましい。また、本発明のゴム組成物は、該充填剤として、シリカを含むことが好ましく、充填剤中のシリカの割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、より一層好ましくは90質量%以上であり、充填剤の全量がシリカであってもよい。充填剤中のシリカの割合が70質量%以上であれば、ゴム組成物のtanδが更に低下し、該ゴム組成物を適用したタイヤの転がり抵抗を更に低減できる。
【0046】
前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらの中でも、湿式シリカが好ましい。これらシリカは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
本発明のゴム組成物は、前記シリカとして、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)とインクボトル状細孔指数(IB)とが、下記式(Y):
IB≦-0.36×CTAB+86.8 ・・・ (Y)
の関係を満たすシリカを使用しても良い。
【0048】
ここで、式(Y)において、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)(m/g)とは、ASTM D3765-92に準拠して測定された値を意味する。ただし、ASTM D3765-92はカーボンブラックのCTABを測定する方法であるため、本発明では、標準品であるIRB#3(83.0m/g)の代わりに、別途セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、CE-TRABと略記する)標準液を調製し、これによってシリカOT(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、上記シリカ表面に対するCE-TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとして、CE-TRABの吸着量から算出される比表面積(m/g)をCTABの値とする。これは、カーボンブラックとシリカとでは表面が異なるので、同一表面積でもCE-TRABの吸着量に違いがあると考えられるためである。
【0049】
また、式(Y)において、インクボトル状細孔指数(IB)とは、直径1.2×10nm~6nmの範囲にある開口部を外表面に具えた細孔を有するシリカに対し、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において、圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際における水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)(nm)、及び圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)(nm)により、下記式(Z):
IB=M2-M1 ・・・ (Z)
で求められる値を意味する。水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定は、従来より細孔の形態を評価するのに多く採用される電子顕微鏡を用いた測定よりも簡便であり、かつ定量性に優れるので、有用な方法である。
【0050】
一般に、シリカの粒子は、その外表面に開口部を具えた凹状を呈した細孔を多数有している。図1に、シリカの粒子における内心方向断面でのこれら細孔の形状を模した概略図を示す。粒子における内心方向断面でかかる凹状を呈した細孔は、様々な形状を呈しており、粒子の外表面における開口部の直径Mと粒子内部における細孔径(内径)Rとが略同一の形状、すなわち粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔Aもあれば、粒子内部における細孔径(内径)Rよりも粒子の外表面における開口部の直径Mの方が狭小である形状、すなわち粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bもある。しかしながら、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔Bであると、粒子の外表面から内部へとゴム分子鎖が侵入しにくいため、シリカをゴム成分に配合した際にゴム分子鎖がシリカを充分に吸着することができない。したがって、かかるインクボトル状を呈する細孔B数を低減し、粒子の内心方向断面において略円筒状を呈する細孔A数を増大させれば、ゴム分子鎖の侵入を効率的に促進することができ、tanδを増大させることなく、充分な補強性を発揮して、タイヤの操縦安定性の向上に寄与することが可能となる。
【0051】
上記観点から、本発明では、ゴム成分に配合するシリカに関し、粒子の内心方向断面においてインクボトル状を呈する細孔B数を低減すべく、上記インクボトル状細孔指数(IB)を規定する。上述のように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を上昇させた際、略円筒状を呈する細孔Aは外表面の開口部が開放的であるために細孔内部に水銀が圧入されやすいが、インクボトル状を呈する細孔Bは外表面の開口部が閉鎖的であるために細孔内部に水銀が圧入されにくい。一方、圧力を下降させた際には、同様の理由により、略円筒状を呈する細孔Aは細孔内部から細孔外部へ水銀が排出されやすいが、インクボトル状を呈する細孔Bは細孔内部から細孔外部へ水銀がほとんど排出されない。
【0052】
したがって、図2に示すように、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定では、水銀の圧入排出曲線C-Dにヒステリシスが生じる。すなわち、比較的低圧力下では略円筒状を呈する細孔A内に徐々に水銀が圧入されるが、ある圧力に達した時点で、それまで水銀が侵入しにくかったインクボトル状を呈する細孔Bを含む、略円筒状を呈する細孔以外の細孔内にも一気に水銀が圧入され、急激に圧入量が増大して、縦軸を微分水銀圧入量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径M(nm)とした場合に水銀の圧入曲線Cを描くこととなる。一方、圧力を充分に上昇させた後に圧力を下降させていくと、比較的高圧力下では水銀が排出されにくい状態が継続するものの、ある圧力に達した時点で、細孔内に圧入されていた水銀が細孔外に一気に排出され、急激に排出量が増大して、縦軸を微分水銀排出量(-dV/d(log d))、横軸をシリカの細孔における開口部の直径M(nm)とした場合に水銀の排出曲線Dを描くこととなる。一旦細孔内に圧入された水銀は、圧力の下降時には細孔外に排出されにくい傾向にあるため、圧力の下降時では上昇時における圧入量の増大を示す直径(M1)の位置よりも大きい値を示す直径(M2)の位置で排出量の増大が見られ、これらの直径の差(M2-M1)が図2のIBに相当する。特にインクボトル状を呈する細孔Bにおいては、圧入された水銀が排出されにくい傾向が顕著であり、圧力上昇時には細孔B内に水銀が圧入されるものの、圧力下降時には細孔B外に水銀がほとんど排出されない。
【0053】
こうした測定方法を採用し、細孔の性質に起因して描かれる水銀圧入排出曲線C-Dを活用して、上記式(Z)に従い、水銀圧入法に基づく水銀ポロシメータを用いた測定において圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させた際に水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)(nm)と、圧力を32000PSIから1PSIまで下降させた際における水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)(nm)との差IBを求めれば、かかる値が見かけ上はこれらの直径の差(長さ:nm)を示すものの、実質的にはシリカに存在するインクボトル状を呈する細孔Bの存在割合を示す細孔指数を意味することとなる。すなわち、充分に狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が小さいほど、水銀圧入量と水銀排出量とがほぼ同量に近づき、水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)と水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)との差が短縮してIB値が小さくなる。一方、インクボトル状を呈する細孔Bの占める存在割合が大きいほど、水銀圧入量よりも水銀排出量が減少し、水銀圧入量の最大値を示す開口部の直径(M1)と水銀排出量の最大値を示す開口部の直径(M2)との差が拡大してIB値が大きくなる。
【0054】
こうしたIBは、上記CTABの値によっても変動し得る性質を有しており、CTABが増大するにつれ、IB値が低下する傾向にある。したがって、本発明で用いるシリカは、下記式(Y):
IB≦-0.36×CTAB+86.8 ・・・ (Y)
を満たすのが好ましい。IB及びCTABが上記式(Y)を満たすシリカであると、狭小な開口部を有するインクボトル状を呈する細孔B数が有効に低減され、略円筒状を呈する細孔Aが占める存在割合が増大するため、ゴム分子鎖を充分に侵入させて吸着させることができ、充分な補強性を発揮して、タイヤの転がり抵抗を増大させることなく、操縦安定性の向上を図ることが可能となる。
【0055】
上記シリカは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着比表面積(CTAB)が好ましくは150m/g以上であり、より好ましくは150~300m/g、より一層好ましくは150~250m/g、特に好ましくは150~220m/gである。CTABが150m/g以上であれば、ゴム組成物の貯蔵弾性率が更に向上し、該ゴム組成物を適用したタイヤの操縦安定性を更に向上させることができる。また、CTABが300m/g以下であれば、シリカをゴム成分(A)中で良好に分散させることができ、ゴム組成物の加工性が向上する。
【0056】
前記シリカの配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して50~75質量部の範囲が好ましい。シリカの配合量が、ゴム成分(A)100質量部に対して50質量部以上であれば、ゴム組成物の貯蔵弾性率が更に向上し、該ゴム組成物を適用したタイヤの操縦安定性を更に向上させることができ、また、75質量部以下であれば、ゴム組成物の加工性が良好である。
【0057】
本発明のゴム組成物は、前記充填剤として、更に、カーボンブラックを含んでもよい。該カーボンブラックの充填剤中の割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、より一層好ましくは5~10質量%である。カーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の剛性が向上する。
ここで、カーボンブラックとシリカの合計配合量に占める、シリカの割合[シリカ/(カーボンブラック+シリカ)]は、90質量%以上であることが好ましい。
また、カーボンブラックとシリカの合計配合量(カーボンブラック+シリカ)は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して55~100質量部の範囲が好ましく、57~85質量部の範囲が更に好ましい。
【0058】
前記カーボンブラックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが挙げられる。これらの中でも、タイヤのウェット性能を向上させる観点から、ISAF、SAFグレードのカーボンブラックが好ましい。これらカーボンブラックは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
また、本発明のゴム組成物は、前記充填剤として、上述したシリカ、カーボンブラックの他、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等を含んでもよい。
【0060】
本発明のゴム組成物において、前記充填剤の配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上であり、また、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下である。ゴム組成物中の充填剤の配合量が30質量部以上であれば、該ゴム組成物をタイヤのトレッドゴムに適用することで、タイヤの転がり抵抗を更に低減しつつ、ウェット性能を更に向上させることができ、また、100質量部以下であれば、ゴム組成物の加工性が良好である。
【0061】
本発明のゴム組成物は、前記シリカの配合効果を向上させるために、更に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。該シランカップリング剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3-ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられる。これらシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記シランカップリング剤の配合量は、前記シリカ100質量部に対して2~20質量部の範囲が好ましく、5~15質量部の範囲が更に好ましい。シランカップリング剤の配合量がシリカ100質量部に対して2質量部以上であれば、シリカの配合効果が十分に向上し、また、シランカップリング剤の配合量がシリカ100質量部に対して20質量部以下であれば、ゴム成分(A)のゲル化の可能性が低い。
【0062】
本発明のゴム組成物は、加工性、作業性の観点から、更に、軟化剤を含んでもよい。該軟化剤の配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して1~5質量部の範囲が好ましく、1.5~3質量部の範囲が更に好ましい。軟化剤を1質量部以上配合することで、ゴム組成物の混練が容易となり、また、軟化剤を5質量部以下配合することで、ゴム組成物の剛性の低下を抑制できる。
ここで、前記軟化剤としては、鉱物由来のミネラルオイル、石油由来のアロマチックオイル、パラフィンオイル、ナフテンオイル、天然物由来のパームオイル等が挙げられるが、これらの中でも、タイヤのウェット性能の観点から、鉱物由来の軟化剤及び石油由来の軟化剤が好ましい。
【0063】
本発明のゴム組成物は、更に、脂肪酸金属塩を含んでもよい。該脂肪酸金属塩に用いられる金属としては、Zn、K、Ca、Na、Mg、Co、Ni、Ba、Fe、Al、Cu、Mn等が挙げられ、Znが好ましい。一方、前記脂肪酸金属塩に用いられる脂肪酸としては、炭素数4~30の飽和又は不飽和の直鎖、分岐もしくは環状構造を有する脂肪酸、あるいはそれらの混合物が挙げられ、これらの中でも、炭素数10~22の飽和又は不飽和の直鎖脂肪酸が好ましい。炭素数10~22の飽和直鎖脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられ、また、炭素数10~22の不飽和直鎖脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。前記脂肪酸金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記脂肪酸金属塩の配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して0.1~10質量部の範囲が好ましく、0.5~5質量部の範囲が更に好ましい。
【0064】
本発明のゴム組成物には、前記ゴム成分(A)、熱可塑性樹脂(B)、充填剤、シランカップリング剤、軟化剤、脂肪酸金属塩の他、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、ステアリン酸、老化防止剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0065】
本発明のゴム組成物は、30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上であり、好ましくは5.0MPa以上、より好ましくは5.5MPa以上であり、また、好ましくは7.0MPa以下、より好ましくは6.5MPa以下である。30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)が4.5MPa以上の場合、ゴム組成物をタイヤのトレッドに適用することで、タイヤの操縦安定性を向上させることができる。
【0066】
本発明のゴム組成物は、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)が16.7MPa以下であり、好ましくは13.8MPa以下、より好ましくは11.5MPa以下、更に好ましくは11.0MPa以下、より一層好ましくは10.5MPa以下、更により一層好ましくは8.7MPa以下、更により一層好ましくは8.0MPa以下、特に好ましくは7.5MPa以下であり、また、好ましくは3.5MPa以上、より好ましくは4.0MPa以上である。0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)が16.7MPa以下の場合、ゴム組成物をタイヤのトレッドに適用することで、タイヤのウェット性能を向上させることができる。
また、本発明のゴム組成物は、0℃におけるtanδが0.7以下であることが好ましく、0.6以下が更に好ましく、0.5以下がより一層好ましい。
【0067】
上述した本発明のゴム組成物は、加硫剤及び加硫促進剤を含む加硫系配合剤を除いて、前記ゴム成分(A)と、前記熱可塑性樹脂(B)とを150~165℃で混練する工程を経て製造されることが好ましい。
前記加硫系配合剤を除いて、150~165℃で混練することで、早期加硫(スコーチ)を避けつつ、加硫系配合剤以外の配合剤をゴム成分(A)に均一に分散させることができ、各配合剤の配合効果が十分に発揮されて、ゴム組成物の30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)を大きくしつつ、ゴム組成物の0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)を小さくすることができる。
なお、ゴム組成物の貯蔵弾性率(E’)は、上述の混練温度の他、ゴム成分(A)の種類やブレンド比、熱可塑性樹脂(B)の種類や配合量、充填剤の種類や割合等、更には他の配合剤の種類及び量を調整することでも、変化させることができる。
【0068】
また、前記ゴム組成物は、150~165℃で混練した後、更に150℃未満の別の温度で加硫系配合剤を加えて混練されることが好ましい。ここで、該ゴム組成物は、加硫系配合剤以外の配合剤をゴム成分(A)に十分均一に分散させた後、加硫剤及び加硫促進剤を含む加硫系配合剤を配合して、早期加硫(スコーチ)を防止できる温度、例えば、90~120℃で混練されることが好ましい。
なお、ゴム組成物の製造において、各温度での混練は、混練時間に制限はなく、混練装置の大きさ、原料の体積、原料の種類や状態等を勘案して、適宜設定することができる。
【0069】
前記加硫剤としては、硫黄等が挙げられる。該加硫剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対し、硫黄分として0.1~10質量部の範囲が好ましく、1~4質量部の範囲が更に好ましい。加硫剤の配合量が硫黄分として0.1質量部以上であれば、加硫ゴムの破壊強度、耐摩耗性等を確保でき、また、10質量部以下であれば、ゴム弾性を十分に確保できる。特に、加硫剤の配合量を硫黄分として4質量部以下とすることで、タイヤのウェット性能を更に向上させることができる。
【0070】
また、前記加硫促進剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)等のチアゾール系加硫促進剤、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)等のグアニジン系加硫促進剤等が挙げられる。なお、本発明のゴム組成物は、3種の加硫促進剤を含むことが好ましい。前記加硫促進剤の配合量は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して0.1~5質量部の範囲が好ましく、0.2~3質量部の範囲が更に好ましい。
【0071】
なお、本発明のゴム組成物は、例えば、バンバリーミキサーやロール等を用いて、上述のように、ゴム成分(A)に、熱可塑性樹脂(B)と、必要に応じて適宜選択した各種配合剤とを配合して混練した後、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0072】
本発明のゴム組成物は、タイヤを始めとする種々のゴム製品に利用できる。特には、本発明のゴム組成物は、タイヤのトレッドゴムとして好適である。
【0073】
<タイヤ>
本発明のタイヤは、上述したゴム組成物をトレッドゴムに用いたことを特徴とする。本発明のタイヤは、前記ゴム組成物がトレッドゴムに用いられているため、転がり抵抗が低く、操縦安定性及びウェット性能に優れる。また、本発明のタイヤは、各種車輌向けのタイヤとして利用できるが、乗用車用タイヤとして好ましい。
【0074】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤは、好ましくは空気入りタイヤであり、空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<ゴム組成物の調製及び評価>
表1~表2に示す配合処方に従い、通常のバンバリーミキサーを用いて、ゴム組成物を製造した。得られたゴム組成物に対して、下記の方法で貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)を測定した。結果を表1~表2に示す。
【0077】
(1)貯蔵弾性率(E’)及び損失正接(tanδ)
ゴム組成物を145℃で33分間加硫して得られた加硫ゴムに対して、株式会社上島製作所製スペクトロメーターを用いて、初期荷重160mg、周波数52Hzの条件下で、30℃における歪1%時の貯蔵弾性率(E’30℃,1%)と、0℃における歪4%時の貯蔵弾性率(E’0℃,4%)と、0℃における歪1%時の損失正接(tanδ0℃,1%)を測定した。
【0078】
<タイヤの作製及び評価>
上記のようにして得られたゴム組成物をトレッドゴムに用いて、サイズ195/65R15の乗用車用空気入りラジアルタイヤを作製し、該タイヤに対して、下記の方法で、ウェット性能(Wet Grip Index)、転がり抵抗、及び操縦安定性を評価した。結果を表1~2に示す。
【0079】
(2)ウェット性能(Wet Grip Index)
ISO23671に従い、トレーラ試験タイヤ軸に供試タイヤ1本を装着し、タイヤ軸に制動力を加えピークμ(Peakμ)を測定し、基準タイヤ(比較例1のタイヤ)に対するWet Grip Indexを算出した。指数値(Index)が大きい程、ウェット性能に優れることを示す。
【0080】
(3)転がり抵抗
供試タイヤを、回転ドラムにより80km/hrの速度で回転させ、荷重を4.82kNとして、転がり抵抗を測定し、比較例1のタイヤの転がり抵抗の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、転がり抵抗が低いことを示す。
【0081】
(4)操縦安定性
供試タイヤを試験車に装着し、乾燥路面での実車試験にて、操縦安定性をドライバーのフィーリング評点で表し、比較例1のタイヤのフィーリング評点を100として指数表示した。指数値が大きい程、操縦安定性に優れることを示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
*1 NR:天然ゴム、インドネシア製「SIR20」
*2 変性SBR-1:変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)-3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルアミンを使用して、下記の方法で製造した変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、Tg=-60℃
*3 シリカ-1:下記の方法で合成したシリカ、CTAB=180m/g、-0.36×CTAB+86.8=22.0、IB=20.0
*4 シリカ-2:東ソー・シリカ工業株式会社製、商品名「ニップシールAQ」、CTAB=165m/g、-0.36×CTAB+86.8=27.4、IB=34.1
*5 カーボンブラック:旭カーボン株式会社製、商品名「旭#78」
*6 老化防止剤TMDQ:精工化学株式会社製、商品名「ノンフレックスRD-S」
*7 老化防止剤6PPD:住友化学株式会社製、商品名「アンチゲン6C」
*8 C-C系樹脂:東燃化学社製、商品名「T-REZ RD104」
*9 C系樹脂:JX日鉱日石エネルギー株式会社製、商品名「日石ネオポリマー(登録商標)140」
*10 DCPD樹脂:ジシクロペンタジエン樹脂、日本ゼオン株式会社製、商品名「クイントン(登録商標)1105」
*11 C系樹脂:東燃化学社製、商品名「T-REZ RA100」
*12 硫黄:細井化学工業株式会社製、商品名「HK200-5」
*13 加硫促進剤:三新化学工業株式会社製、商品名「サンセラーCM-G」
*14 亜鉛華:ハクスイテック株式会社製、酸化亜鉛
【0085】
*15 変性SBR-2:変性剤としてN-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-トリエトキシシリル-1-プロパンアミンを使用して、変性SBR-1(*2)と同様に重合反応及び変性反応を行って製造した変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、Tg=-60℃
*16 SBR:スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、JSR株式会社製、乳化重合SBR、スチレン量45%
【0086】
<変性SBR-1の製造方法>
乾燥し、窒素置換した800mLの耐圧ガラス容器に、1,3-ブタジエンのシクロヘキサン溶液およびスチレンのシクロヘキサン溶液を、1,3-ブタジエン67.5gおよびスチレン7.5gになるように加え、2,2-ジテトラヒドロフリルプロパン0.6mmolを加え、0.8mmolのn-ブチルリチウムを加えた後、50℃で1.5時間重合を行った。この際の重合転化率がほぼ100%となった重合反応系に対し、変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)-3-[ジエトキシ(メチル)シリル]プロピルアミンを0.72mmol添加し、50℃で30分間変性反応を行った。その後、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)のイソプロパノール5質量%溶液2mLを加えて反応を停止させ、常法に従い乾燥して、変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムを得た。
【0087】
<シリカ-1の製造方法>
撹拌機を備えた180リットルのジャケット付きステンレス反応槽に、水89リットルとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO160g/リットル、SiO/NaOモル比3.3)1.70リットルを入れ、75℃に加熱した。生成した溶液中のNaO濃度は0.015mol/リットルであった。
この溶液の温度を75℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を流量520ミリリットル/分で、硫酸(18mol/リットル)を流量23ミリリットル/分で、同時に滴下した。流量を調整しつつ、反応溶液中のNaO濃度を0.005~0.035mol/リットルの範囲に維持しながら中和反応を行った。反応途中から反応溶液は白濁をはじめ、45分目に粘度が上昇してゲル状溶液となった。さらに、添加を続けて100分で反応を停止した。生じた溶液中のシリカ濃度は60g/リットルであった。引き続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加してケイ酸スラリーを得た。得られたケイ酸スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行って湿潤ケーキを得た。次いで湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し、シリカ-1を得た。
得られたシリカ-1の物性は、下記の方法で評価した。また、上記のシリカ-2の物性も同様に評価した。
【0088】
(5)インクボトル状細孔指数(IB)の測定
水銀ポロシメータPOREMASTER-33(Quantachrome社製)を用いて、上述したように、水銀圧入法に基づき、まず圧力を1PSIから32000PSIまで上昇させて、シリカの外表面において開口部の直径1.2×10nm~6nmである細孔について水銀圧入量を測定し、図2に示したように圧入量のピークに位置する直径(M1)を求めた。次に、圧力を32000PSIから1PSIまで下降させて、水銀を細孔内から排出した。このときの排出曲線から得られた排出量のピークに位置する直径(M2)を求めた。これらM1及びM2の値から上記式(Z)によりIBを算出した。
【0089】
(6)CTABの測定
ASTM D3765-92記載の方法に準拠して実施した。この際、上述したように、カーボンブラックの標準品であるIRB#3(83.0m/g)を使用せず、別途セチルトリメチルアンモニウムブロミド(以下、CE-TRABと略記する)標準液を調製し、これによってシリカOT(ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)溶液の標定を行い、シリカ表面に対するCE-TRAB1分子当たりの吸着断面積を0.35nmとして、CE-TRABの吸着量から比表面積(m/g)を算出した。
【0090】
表1~表2から、本発明に従う実施例のゴム組成物を適用したタイヤは、転がり抵抗が低く、操縦安定性及びウェット性能に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のゴム組成物は、タイヤのトレッドゴムに利用できる。また、本発明のタイヤは、各種車輌向けのタイヤとして利用できる。
【符号の説明】
【0092】
A 略円筒状を呈する細孔、 B インクボトル状を呈する細孔、 M,M 粒子の外表面における開口部の直径、 R,R 粒子内部における細孔径(内径)、 C 水銀の圧入曲線、 D 水銀の排出曲線
図1
図2