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特許7191719二重管構造のシースを有するPCaPC床版
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】二重管構造のシースを有するPCaPC床版
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20221212BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019030882
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020133325
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 幸治
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082496(JP,A)
【文献】特開2004-353241(JP,A)
【文献】特許第6117898(JP,B1)
【文献】特開2015-151768(JP,A)
【文献】特開2003-147902(JP,A)
【文献】特開昭63-236849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート部分に緊張材を挿通するシースを有し、このシースに前記緊張材が挿通されて緊張され、プレストレスが導入されたPCaPC床版であって、
前記緊張材の端部が掛け止められる定着部を備え、この定着部に設けられた前記シースは、前記プレキャストコンクリート部分に埋設された外シースの内側に別の内シースが挿入された二重管構造となっており、
前記内シースには、グラウトが充填され、前記グラウトが硬化した状態で前記内シースが前記外シースから抜くことのできる構造とすることにより、損傷した他のPCaPC床版や前記緊張材のみを取り替え可能に構成されていること
を特徴とする二重管構造のシースを有するPCaPC床版。
【請求項2】
前記シースの二重管構造は、曲率が一定の単円部分又は直線部分の端部付近の一部のみであること
を特徴とする請求項1に記載の二重管構造のシースを有するPCaPC床版。
【請求項3】
前記定着部を有しない中間PC床版と隣接し、この中間PC床版と同一の前記緊張材で橋軸方向に沿ってプレストレスが導入された連結部PC床版であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の二重管構造のシースを有するPCaPC床版。
【請求項4】
橋梁の床版の橋軸直角方向の半断面を構成し、他の半断面を構成するプレキャスト製の半断面PCa床版と同一の前記緊張材で橋軸直角方向に沿ってプレストレスが導入されたプレキャスト製の半断面PCa床版であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の二重管構造のシースを有するPCaPC床版。
【請求項5】
PC連続合成桁を構成し、隣接する他の床版と同一の前記緊張材で橋軸方向に沿ってプレストレスが導入された支点上に位置する一次床版であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の二重管構造のシースを有するPCaPC床版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC鋼材などの緊張材によりプレストレスが付与された鉄筋コンクリート床版(以下、PC床版という)に関し、詳しくは、二重管構造のシースを有するPCaPC床版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め工場等でコンクリートが打設されて硬化した複数のプレキャスト製の床版(以下、PCa床版という)を鋼桁上に並べて載置して、PC鋼材でこれらの床版(セグメント)同士を橋梁の橋軸方向又は橋軸直角方向にプレストレスを付与して連結一体化したプレキャストプレストレスコンクリート床版(以下、PCaPC床版という)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、両端部に配置される定着プレキャスト床版130と、その中間に配置される中間プレキャスト床版110が、橋軸方向に連結されてなるセグメントを備え、セグメントはセグメントごとに用意されるセグメント緊張材によってそれぞれ独立しては緊張されているPCaPC床版が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0035]~[0068]、図面の図7図8等参照)。
【0004】
特許文献1に記載のPCaPC床版は、部分的にPCa床版が損傷した場合であっても、橋梁床版全体でプレストレス力を解除・再緊張する必要がなく、PC鋼より線により導入されたプレストレス力の監視及び再導入が容易であり、中間支点部など特定の箇所に対して他よりも大きなプレストレス力を導入することができるとされている。
【0005】
しかし、特許文献1に記載のPCaPC床版は、損傷したPCa床版のみを取替可能とするには、PCa床版の挿通孔にグラウトを注入しないでPC鋼材をアンボンドPC鋼より線とする必要があった。しかし、PC鋼材の周りにグラウトを注入する目的は、防錆目的に加え、PC鋼材が振動しにくくすることによる定着部付近の疲労破壊に対する耐久性を向上させることにある。このため、特許文献1に記載のPCaPC床版は、経年的には、PC鋼材の定着部付近において疲労破壊するおそれがあり、耐久性が低いという問題があった。
【0006】
また、特許文献2には、交通規制を極力少なくするために、橋梁を半断面ずつPCa床版に架け替えて、これらのPCa床版を横締めPC鋼材で緊張してプレストレスを付与し、一体化する構造物緊結一体化工法が開示されている(特許文献2の図面の図17等参照)。
【0007】
しかし、特許文献2に記載の構造物緊結一体化工法は、PCa床版の半断面のいずれか一方が損傷した場合は、PC鋼材を引き抜くことから、損傷していな半断面部分のPCa床版も取り替えなければならないという問題があった。
【0008】
そして、従来、PC連続合成桁も知られている。このPC連続合成桁の支点上に位置する一次床版内のPC鋼材も同様であり、一次床版内の一部のPC鋼材にのみ損傷が発生した場合、その損傷したPC鋼材のみを取り替えたいという要請が強いものである。しかし、PC鋼材の周りをグラウトやコンクリートで埋めてしまった場合、損傷したPC鋼材のみを取り替えることができないという問題があった。
【0009】
また、従来、PC橋の外ケーブルの定着部においては、二重管構造が採用されていた。例えば、特許文献3には、内外二重シースにPC鋼材を挿通する橋梁構造において、内側シースとPC鋼材のすき間を簡易な構造で止水し、止水部からのグラウト漏出を回避し、確実にグラウトを充填できる真空ポンプ併用グラウト注入工法が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献3に記載の二重管構造は、外ケーブルの定着部において露出しているため、錆びるなど損傷するおそれの高い外ケーブルの取替や、再緊張を考慮したものであった。このため、コンクリート床版の一部やケーブルが損傷した場合に、損傷していない床版を存置するために、グラウトで被覆されているため頻繁に取り替える必要のない内ケーブルが挿通されている床版内の全部のシースを二重管構造とするという発想はないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2017-82496号公報
【文献】特許第6117898号公報
【文献】特開2004-353241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、シースにグラウトが充填されて耐久性が高く、且つ、損傷したPCaPC床版や緊張材のみを取替可能な二重管構造のシースを有するPCaPC床版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版は、プレキャストコンクリート部分に緊張材を挿通するシースを有し、このシースに前記緊張材が挿通されて緊張され、プレストレスが導入されたPCaPC床版であって、前記緊張材の端部が掛け止められる定着部を備え、この定着部に設けられた前記シースは、前記プレキャストコンクリート部分に埋設された外シースの内側に別の内シースが挿入された二重管構造となっており、前記内シースには、グラウトが充填され、前記グラウトが硬化した状態で前記内シースが前記外シースから抜くことのできる構造とすることにより、損傷した他のPCaPC床版や前記緊張材のみを取り替え可能に構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版は、請求項1に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版において、前記シースの二重管構造は、曲率が一定の単円部分又は直線部分の端部付近の一部のみであることを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版は、請求項1又は2に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版において、前記定着部を有しない中間PC床版と隣接し、この中間PC床版と同一の前記緊張材で橋軸方向に沿ってプレストレスが導入された連結部PC床版であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版は、請求項1又は2に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版において、橋梁の床版の橋軸直角方向の半断面を構成し、他の半断面を構成するプレキャスト製の半断面PCa床版と同一の前記緊張材で橋軸直角方向に沿ってプレストレスが導入されたプレキャスト製の半断面PCa床版であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版は、請求項1又は2に係る二重管構造のシースを有するPCaPC床版において、PC連続合成桁を構成し、隣接する他の床版と同一の前記緊張材で橋軸方向に沿ってプレストレスが導入された支点上に位置する一次床版であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1~4に係る発明によれば、事故等で損傷したPC床版や緊張材のみを取り替えて、隣接する健全なPC床版をそのまま存置して使用することができる。このため、請求項1~4に係る発明によれば、橋梁の維持コスト(ランニングコスト)を大幅に低減することができる。
【0020】
それに加え、請求項1~4に係る発明によれば、少なくとも定着部の内シースには、グラウトが充填されているので、アンボンドPC鋼材のように樹脂等で被覆するなど特殊で高価な防錆処理をしなくても確実に防錆することができる。また、請求項1~4に係る発明によれば、少なくとも定着部の内シースには、グラウトが充填されているので、緊張材を振動しにくくすることができ、緊張材の定着部付近の疲労破壊を防ぎ、耐久性を向上させることができる。このため、請求項1~4に係る発明によれば、PC床版を安価で耐久性が高いものとすることができる。
【0021】
特に、請求項2に係る発明によれば、シースの二重管構造が曲率が一定の単円部分又は直線部分の端部付近の一部のみであるので、グラウトが硬化してるため二重管構造の外シースから内シースが抜けなくなるという事態を防止することができる。
【0022】
特に、請求項3に係る発明によれば、定着部のあるPC床版のシースが二重管構造となっているので、中間PC床版が損傷した場合、容易に既存の緊張材を引き抜くことができ、損傷した中間PC床版だけを取り替えて、定着部のあるPC床版をそのまま存置させることができる。
【0023】
特に、請求項4に係る発明によれば、緊張材で連結された橋梁の半断面を構成する半断面PCaPC床版において、損傷した半断面PCaPC床版だけを取り替えることが容易となり、橋梁の維持コストを大幅に低減することができる。
【0024】
特に、請求項5に係る発明によれば、PC連続合成桁の支点上に位置する一次床版のシースが二重管構造となっているので、内ケーブル部分も容易に取り替えることが可能となり、橋梁の維持コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(A)は、本発明の第1実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版を示す橋軸方向に沿った鉛直断面図であり、(B)は、シースの二重管構造を示す部分拡大図、(C)は、シースの二重管構造の別例を示す部分拡大図である。
図2】PCaPC床版の中間床版と連結部床版との連結状態を示す橋軸方向に沿った鉛直断面図である。
図3】本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法の損傷部撤去工程を示す工程説明図である。
図4】本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法のPC床版新設工程を示す工程説明図である。
図5】本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法のプレストレス再導入工程を示す工程説明図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版を示す橋軸直角方向に沿った鉛直断面図である。
図7】PC連続合成桁の橋梁を橋軸直角方向に見た側面図である。
図8】同上のPC連続合成桁の橋梁の橋軸直角方向Yに沿った標準断面を示す鉛直断面図である。
図9】同上の橋梁の二次床版部分の外ケーブの配置を示す図8のA-A線断面図である。
図10】同上の橋梁の一次床版の定着部の緊張材の配置を示す図8のB-B線断面図である。
図11】同上の橋梁の一次床版の一般部の緊張材の配置を示す図8のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る二重管構造のシースを有するPC床版及びPC床版の更新方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
<二重管構造のシースを有するPC床版>
[第1実施形態]
図1を用いて、本発明の第1実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版について説明する。図1(A)は、本発明の第1実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版1を示す橋軸方向Xに沿った鉛直断面図である。
【0029】
図1(A)に示すように、本発明の第1実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版1(以下、単にPC床版1ともいう)は、所定の鉄筋(図示せず)が配筋された鉄筋コンクリート製のプレキャスト床版(PCaPC床版)である。
【0030】
図1(A)に示すように、このPC床版1は、シース2が橋軸方向Xに沿って埋設され、このシース2に挿通されたPC鋼より線、PC鋼棒、連続繊維(カーボンファイバー)より線などの緊張材3によりプレストレスがかけられたポストテンション方式のPCaPC床版である。また、PC床版1は、定着具4で緊張材3の一端部を掛け止める定着部5を有したPCaPC床版である。
【0031】
そして、このPC床版1は、特許文献1と同様に、橋軸方向Xに沿って一定領域の全部のPC床版に一斉にプレストレスが付与されたものではなく、一定の領域(セクション:特許文献1でいうセグメント)毎に区分けしてプレストレスが付与されたPCaPC床版である。
【0032】
つまり、PC床版1は、図1(A)に示すように、定着部5を有しない他のPC床版である中間PC床版S1と隣接し、この中間PC床版S1と同一の緊張材3で橋軸方向に沿ってプレストレスが導入された連結部PC床版である。
【0033】
また、図1(B)の部分拡大図に示すように、PC床版1のシース2は、外シース21の内側に別の内シース22が挿入された二重管構造となっており、内シース22に緊張材3が挿通されて、その周りにセメントグラウトなどの充填材が充填されている。このため、定着具4の周りの緊張材3を振動しにくくすることができ、損傷しやすい緊張材3の定着部5付近の疲労破壊を防ぐことができる。このため、PC床版1によれば、特許文献1に記載の発明と相違して、アンボンド緊張材のように樹脂等で被覆するなど特殊で高価な防錆処理をしなくても確実に防錆することができる。
【0034】
なお、図1(B)の部分拡大図に示すように、第1実施形態に係るPC床版1では、シース2は、曲率が一定の単円部分2aと、直線部分2bとからなり、二重管構造となっている部分は、PC床版1の端部付近である単円部分2aのみである。即ち、外シース21は、シース2の全長に亘って設けられているが、内シース22は、そのうちPC床版1の端面に接続する単円部分2aのみに設けられている。
【0035】
但し、図1(C)の部分拡大図に示すように、外シース21を単円部分2aのみに設け、内シース22をシース2の全長に亘って設けることも可能である。要するに、シース2の二重管構造が、単円部分2a又は直線部分2bの端部付近の一部のみであり、グラウトが硬化した状態で内シースが外シースから抜くことのできる構造であればよい。
【0036】
また、図1(B),(C)の部分拡大図に示すように、シース2内には、グラウトが充填されるため、内シース22の終端部分と外シース21との間等には、リングシールRSを施すなど、コンクリートの侵入やグラウトの漏出を防ぐ手段を設ける必要がある。
【0037】
<PC床版の更新方法>
次に、図2図5を用いて、本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法について説明する。前述の第1実施形態に係るPC床版1と連結する既存のPCaPC床版が損傷して、新しいPCa床版に取り替える場合を例示して説明する。図2は、PCaPC床版の中間床版と連結部床版との連結状態を示す橋軸方向Xに沿った鉛直断面図である。
【0038】
図2に示すように、定着部5を有した前述のPC床版1と、定着部5を有しない中間PC床版S1とが、同一の緊張材3で緊張されて連結されている床版において、その一部の中間PC床版S1が事故等で損傷した場合を想定している。
【0039】
(1)損傷部撤去工程
先ず、図3に示すように、本実施形態に係るPC床版の更新方法では、損傷した中間PC床版S1及びその中間PC床版S1と同一の緊張材3で連結されている中間PC床版S1を、その緊張材3とともに撤去する損傷部撤去工程を行う。図3は、図2と同様に橋軸方向Xに沿った鉛直断面図で表した本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法の損傷部撤去工程を示す工程説明図である。
【0040】
本工程では、グラウトが充填されて緊張材3と一体化している内シース22も外シース21から引き抜いて、緊張材3とともに一緒に撤去し、外シース21は存置する。このとき、シース2の直線部分2bは、外シース21内にもグラウトが充填されているため、緊張材3を挿通するための孔をコアドリルやエアーピックなどを用いて削孔又は斫って穿孔する。また、内シース22が挿置されている部分は、外シース21とグラウトで一体化されておらず、且つ、曲率が一定の単円部分2aであるため、容易に内シース22及び緊張材3を引き抜くことができ、連結部床版であるPC床版1を損傷するおそれもない。
【0041】
(2)PC床版新設工程
次に、図4に示すように、本実施形態に係るPC床版の更新方法では、前工程で撤去した中間PC床版S1部分に新たなPCa床版である中間PC床版S1を設置するPC床版新設工程を行う。図4は、本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法のPC床版新設工程を示す工程説明図である。
【0042】
(3)内シース挿置工程
また、図4に示すように、PCa床版新設工程と並行して、連結部床版であるPC床版1に、存置した外シース21の内側に再度内シース22をシース2の一部である単円部分2aに配管して挿置する内シース挿置工程も実行する。このように、部分的に二重管構造のシース2としておくことより、再度、中間PC床版S1が損傷した場合の取替が容易となるからである。
【0043】
(4)プレストレス再導入工程
次に、図5に示すように、本実施形態に係るPC床版の更新方法では、前工程で新設した中間PC床版S1及びPC床版1の内シース22に新しい緊張材3を配置して緊張するプレストレス再導入工程を行う。図5は、本発明の実施形態に係るPC床版の更新方法のプレストレス再導入工程を示す工程説明図である。
【0044】
本工程では、新設した緊張材3をジャッキ等で緊張し、定着具4を装着して定着部5で掛け止めてプレストレスを中間PC床版S1及びPC床版1に再度付与してこれらの床版を連結する。
【0045】
(5)グラウト充填工程
その後、本実施形態に係るPC床版の更新方法では、新設した中間PC床版S1のシース内及び連結部床版であるPC床版1の内シース22内にグラウトを充填するグラウト充填工程を行う。これにより本実施形態に係るPC床版の更新方法が終了する。なお、中間PC床版S1のシース内には、必ずしもグラウトを充填しなくてもよい。
【0046】
以上説明した本発明の第1実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版1及びPC床版1の更新方法によれば、事故等で損傷した中間PC床版S1や緊張材3のみを取り替えて、隣接する健全な連結部床版であるPC床版1をそのまま存置して使用することができる。このため、橋梁の維持コスト(ランニングコスト)を大幅に低減することができる。
【0047】
また、PC床版1及びPC床版1の更新方法によれば、内シース22にグラウトを充填するので、アンボンド緊張材のように樹脂等で被覆するなど特殊で高価な防錆処理をしなくても確実に防錆することができる。また、内シース22にグラウトを充填することにより、緊張材3を振動しにくくすることができ、緊張材3の定着部5付近の疲労破壊を防ぎ、耐久性を向上させることができる。このため、PC床版1を安価で耐久性が高いものとすることができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、図6を用いて、本発明の第2実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版について説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版を示す橋軸直角方向に沿った鉛直断面図である。
【0049】
本発明の第2実施形態は、橋梁を共用しつつ床版の更新を可能とするために、プレキャスト製の半断面PCa床版に本発明を適用した場合である。図6に示すように、第2実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版1-2は、橋梁の床版の橋軸直角方向Yの半断面を構成し、他の半断面を構成するプレキャスト製の半断面PCa床版と同一の横締め緊張材3-1で橋軸直角方向Yに沿ってプレストレスが導入されたプレキャスト製の半断面PCa床版である。
【0050】
このPC床版1-2は、シース2-2が橋軸直角方向Yに沿って埋設された鉄筋コンクリート製のプレキャスト床版であり、定着具4-2で緊張材3-2の一端部を掛け止める定着部5-2を有したPCaPC床版である。
【0051】
また、このPC床版1-2のシース2-2も、前述のシース2と同様に、外シース23の内側に別の内シース24が挿入された二重管構造となっており、内シース24に緊張材3-2が挿通されて、その周りにセメントグラウトなどの充填材が充填されている。
【0052】
なお、第2実施形態に係るPC床版1-2も、シース2-2は、曲率が一定の単円部分2a-2と、直線部分2b-2とからなり、二重管構造となっている部分は、PC床版1-2の端部付近である単円部分2a-2のみである。即ち、外シース23は、シース2-2の全長に亘って設けられているが、内シース24は、そのうちPC床版1-2の端面に接続する単円部分2a-2のみに設けられている。なお、第1実施形態と同様に、外シース23を単円部分2a-2のみに設け、内シース24をシース2-2の全長に亘って設けてもよい。
【0053】
また、シース2-2内には、グラウトが充填されるため、内シース24の終端部分と外シース23との間には、リングシールを施すなど、コンクリートの侵入やグラウトの漏出を防ぐ手段を設ける必要がある。なお、緊張材3-2を引き抜く場合は、第1実施形態に係るPC床版1と同様に、シース2-2の直線部分2b-2は、外シース23内にもグラウトが充填されているため、緊張材3-1を挿通するための孔をコアドリルやエアーピックなどを用いて削孔又は斫って穿孔する。
【0054】
第2実施形態に係るPC床版1-2によれば、損傷又は老朽化した半断面PCaPC床版を取り替える際に、緊張材3-2を引き抜くことが容易となり、短時間で更新作業を完了することができる。このため、PC床版1-2によれば、通行止めなどの交通規制の期間を短縮することができるだけでなく、橋梁の維持コストを大幅に低減することができる。
【0055】
[第3実施形態]
次に、図7図11を用いて、本発明の第3実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版について説明する。図7は、本発明の第3実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版1-3を備えたPC連続合成桁の橋梁6を橋軸直角方向Yに見た側面図であり、図8は、橋梁6の橋軸直角方向Yに沿った標準断面を示す鉛直断面図である。また、図9は、二次床版部分の外ケーブの配置を示す図7のA-A線断面図、図10は、一次床版の定着部の緊張材の配置を示す図7のB-B線断面図、図11は、一次床版の一般部の緊張材の配置を示す図7のC-C線断面図である。
【0056】
本発明の第3実施形態は、PC連続合成桁の支点上に位置する一次床版に本発明を適用した場合である。図7図8に示すように、PC連続合成桁の橋梁6は、鉄筋コンクリート製の橋桁60と、その橋桁60の上に載置された現場打ちの鉄筋コンクリート製のRC床版61と、鉄筋コンクリート製の地覆部62及び壁高欄63など、から構成されている。また、符号64は、RC床版61の上に舗装するアスファルト舗装64である。
【0057】
図7図9図11に示すように、PC連続合成桁の橋梁6は、緊張材であるPC鋼材からなる第1外ケーブル7と、第2外ケーブル8と、内ケーブル9とで、橋軸方向Xに沿ってプレストレスが導入されている。第1外ケーブル7と第2外ケーブル8は、床版61の外部に配置され、内ケーブル9は、床版61の支点上に位置する一次床版であるPC床版1-3に埋設されている。
【0058】
本実施形態では、この一次床版であるPC床版1-3に本発明を適用して、内ケーブル9を挿通しているシース(図示せず)を外シースと内シースからなる二重管構造としている。また、この内シースには、セメント系のグラウトが充填されて緊張材である内ケーブル9の周りが固化されている。勿論、PC床版1-3のシースもその一部が二重管構造となってるものでも構わない。例えば、PC床版1-3のシースは、直線部分のみ二重管構造し、その他を従来通り一重管としてもよい。
【0059】
図9に示すように、橋梁6は、図7のA-A線断面で示す床版61の二次床版部分では、第1外ケーブル7が外部に露出して橋桁60の下部に固定されている。
【0060】
また、図10に示すように、図7のB-B線断面で示す一次床版であるPC床版1-3の定着部では、第2外ケーブル8及び内ケーブル9の端部が定着部で一体化されて固定、定着されている。
【0061】
そして、図11に示すように、図7のC-C線断面で示す一次床版であるPC床版1-3の一般部では、PC床版1-3の内部に緊張材である内ケーブル9が配置され緊張されてプレストレスがPC床版1-3に導入されている。
【0062】
以上説明した第3実施形態に係るPC床版1-3によれば、内ケーブル9が挿通されているシースが第1実施形態と同様に二重管構造となっているので、内ケーブル9が損傷した場合に容易に交換することができる。
【0063】
また、第3実施形態に係るPC床版1-3によれば、内ケーブル9の周りには、グラウトが充填されているので、アンボンド緊張材のように樹脂等で被覆するなど特殊で高価な防錆処理をしなくても確実に防錆することができる。また、内ケーブル9を振動しにくくすることができ、緊張材である内ケーブル9の定着部付近の疲労破壊を防ぎ、耐久性を向上させることができる。このため、PC床版1-3を安価で耐久性が高いものとすることができる。
【0064】
以上、本発明の第1~第3実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版及びPC床版の更新方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0065】
特に、第1,第2実施形態に係る二重管構造のシースを有するPC床版として、新設するPC床版としてPCa床版を例示して説明したが、第3実施形態に係るPC床版のように、現場打ちのRC床版にも適用することは可能である。但し、床版を取り替える際には、橋梁の交通規制が必要なことから、PCa床版とした方が交通規制の期間を短縮することができて好ましい。
【0066】
なお、実施形態に係るPC床版として、シースを二重管構造として内シースにのみグラウトを充填し、外シースと内シースとの間に付着を取らない構成を例示して説明したが、道路橋示方書の要請により、一定の割合、内シースを設けないでPC床版との付着を確保する構造としても構わない。例えば、シースを基本二重管構造とするとともに、シースの全数の三割程度を二重管構造とせず、通常のシースとしても構わない。その場合でも、大部分のシースでは、緊張材の引き抜きが容易であり、前記作用効果を奏することは明らかである。
【符号の説明】
【0067】
1,1-2,1-3:PC床版(二重管構造のシースを有するPC床版)
S1:中間PC床版(定着部を有していないPC床版)
2,2-2:シース(二重管構造のシース)
2a,2a-2:単円部分(シース)
2b,2b-2:直線部分(シース)
21,23:外シース
22,24:内シース
RS:リングシール
3,3-1,3-2:緊張材
3-1:横締め緊張材(緊張材)
4,4-2:定着具
5,5-2:定着部
6:PC連続合成桁の橋梁
60:橋桁
61:RC床版(床版)
62:地覆部
63:壁高欄
64:アスファルト舗装
7:第1外ケーブル(外ケーブル:緊張材)
8:第2外ケーブル(外ケーブル:緊張材)
9:内ケーブル(緊張材)
X:橋軸方向
Y:橋軸直角方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11