(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】両軸リールのドラグ機構
(51)【国際特許分類】
A01K 89/033 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
A01K89/033 501
(21)【出願番号】P 2019036003
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】513231661
【氏名又は名称】株式会社スタジオコンポジット
(74)【代理人】
【識別番号】100166132
【氏名又は名称】木船 英雄
(72)【発明者】
【氏名】関口 一成
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-69889(JP,A)
【文献】実開平8-667(JP,U)
【文献】特開2018-113917(JP,A)
【文献】特開2015-65840(JP,A)
【文献】特開2014-173636(JP,A)
【文献】特開平11-276034(JP,A)
【文献】特開平11-155442(JP,A)
【文献】特開2002-335835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/033
F16D 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にハンドルを連結すると共に他端にドライブギアを空回り可能に連結したドライブギアシャフトと、
前記ドライブギアシャフトと連動
して前記ドライブギアに圧着可能に取り付けられたドラグプレートと、
前記ドライブギアシャフトを貫通
させて一端が前記ドラグプレートに圧着可能に取り付けられたインナーチューブと、
当該インナーチューブを一方向にのみ回転可能に支持するローラークラッチと、
前記ドライブギアシャフトに螺合して前記インナーチューブを前記ドラグプレートに圧着するスタードラグとを備えると共に、
前記インナーチューブが前記ドライブギアシャフトに対して空回り状態となっていることを特徴とする両軸リールのドラグ機構。
【請求項2】
請求項1に記載の両軸リールのドラグ機構において、
前記インナーチューブの端部に、前記ドラグプレートと接するフランジを備えたことを特徴とする両軸リールのドラグ機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルアーフィッシングなどに用いられるベイトリールのような両軸リールに設けられているドラグ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にルアーフィッシングなどに用いられるベイトリールには、ルアーに食いついた魚の抵抗(引き)などによるライン切れ防止のためのドラグ機構が設けられている。このドラグ機構は、例えば以下の特許文献1などに示すように、ハンドルとメインギアを有するハンドル軸に、ドラグディスクとワンウェイクラッチを構成する内輪とスタードラグなどを備えたものである。そして、このハンドル軸に螺合するスタードラグを、例えば時計回りに回転させて内輪をドラグディスク側に移動させて押し付け、そのドラグディスクをメインギア側に圧着させることでその摩擦力(ドラグ力)を調節できるようになっている。
【0003】
従って、リトリーブ時、すなわちハンドルを手で回してラインを巻き取る際には、そのハンドル軸の回転力がメインギアに確実に伝わるようにスタードラグによってドラグディスクとメインギアとの圧着力を増大させる必要がある。一方、魚がかかった場合には、その抵抗(引き)によってラインが一気に繰り出さないようにワンウェイクラッチによってハンドル軸(内輪)が逆方向に回転しないように規制されているが、その抵抗(引き)が大きいとロッドが手から離れたり、ラインが切れたりするおそれがある。
【0004】
そのため、大きな引きが発生した場合にはそのスタードラグを反時計回りに回転させてドラグディスクとメインギアとの摩擦力(ドラグ力)が小さくなるように調節してラインがその引っ張り力に応じてある程度自然に繰り出すようにすることでライン切れなどを防止できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したように従来のドラグ機構は、釣り人がファイト中にルアーにかかった魚の大きさや抵抗(引き)に応じてラインが切れないようにスタードラグを的確に操作しなければならない。すなわち、ドラグ力が大きすぎるとラインが切れてたり、ロッドごと引っ張られてしまったり、反対にドラグ力が小さすぎるとラインが多量に繰り出されて魚を逃がしてしまうことがある。しかし、ファイト中にスタードラグを細かく操作してそのドラグ力を的確にコントロールするには、多くの経験や熟練度が必要となり、初心者ではこの機能を十分に使いこなすのが難しい。
【0007】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的はファイト中のドラグ力の調整をスタードラグを操作することなく的確に行うことができる新規な両軸リールのドラグ機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために第1の発明は、一端にハンドルを連結すると共に他端にドライブギアを空回り可能に連結したドライブギアシャフトと、前記ドライブギアシャフトと連動すると共にこれを貫通して前記ドライブギアに圧着可能に取り付けられたドラグプレートと、前記ドライブギアシャフトを貫通して一端が前記ドラグプレートに圧着可能に取り付けられたインナーチューブと、当該インナーチューブを一方向にのみ回転可能に支持するローラークラッチと、前記ドライブギアシャフトに螺合して前記インナーチューブを前記ドラグプレートに圧着するスタードラグとを備えると共に、前記インナーチューブが前記ドライブギアシャフトに対して空回り状態となっていることを特徴とする両軸リールのドラグ機構である。
【0009】
このように本発明のドラグ機構は、ローラークラッチのインナーチューブがメインギアシャフトに対して空回り状態となっているため、魚の抵抗(引き)によってスプールからラインが繰り出されてドライブギアが回転したときは、一定のドラグ力を維持しつつ、それと連動してドラグプレートとドライブギアシャフトが逆方向に回転し、これに伴ってハンドルも回転する。従って、ドラグ力を予めスタードラグを操作して必要最小値に設定しておき、ファイト中にそれを上回るドラグ力が必要になったときは、逆回転するハンドルを手でもってその回転を調整すれば、スタードラグを操作することなく、ドラグ力を簡単に増大することができる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記インナーチューブの端部に、前記ドラグプレートと接するフランジを備えたことを特徴とする両軸リールのドラグ機構である。このような構成によれば、ドライブギアシャフトと連動するドラグプレートとインナーチューブとの接触面積が増えるため、小さな締付力で大きなドラグ力を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のドラグ機構によれば、ドラグ力を予めスタードラグを操作して必要最小値に設定しておき、ファイト中にそれを上回るドラグ力が必要になったときは、逆回転するハンドルを手でもってその回転を規制すれば、いちいちスタードラグを操作することなく、ドラグ力を簡単に増大することができる、これによって、初心者であってもファイト中にドラグ力の調整を的確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る両軸リールのドラグ機構100の実施の一形態を示す構成図である。
【
図2】本発明に係る両軸リールのドラグ機構100を示す断面図である。
【
図3】本発明に係る両軸リールのドラグ機構100を示す分解図である。
【
図4】キャスティング時の作用を示す説明図である。
【
図7】ハンドル逆回転時の作用を示す説明図である。
【
図8】ハンドル200の逆回転時にハンドル200を抑えたときの作用を示す説明図である。
【
図9】インナーチューブの他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1乃至
図3は本発明に係る両軸リールのドラグ機構100の実施の一形態を示したものであり、
図1はその基本的な構成を示す説明図、
図2はその拡大図、
図3は
図2の分解図である。図示するようにこのドラグ機構100は、ハンドル200とドライブギア300とを連結するドライブギアシャフト110と、ドラグプレート120と、インナーチューブ130と、ローラークラッチ140と、スタードラグ150とから主に構成されている。
【0014】
先ず、ハンドル200は、
図1および
図2に示すようにドライブギアシャフト110を手動で回転駆動するものであり、短冊状をした金属またはカーボン等からなるハンドルプレート210の両端にそれぞれハンドルノブ220,220を回転自在に軸支した構造となっている。そして、このハンドルプレート210の中心部にこれを貫通するようにしてドライブギアシャフト110の一端が取り付けられ、ハンドル固定ナット230によって連結固定されている。なお、このハンドル200は、船用のリールやジギングリールのようなシングルハンドルのタイプもあり、また、ジギングリールのようなタイプのリールのようにセンター部分に穴が空いていないものであってもよい。また、このハンドル200はハンドル固定ナット230で固定する方式の他にボルトで固定する方式であってもよい。
【0015】
一方、ドライブギア300は、
図3に示すように断面コ字形をした金属製円板の周面にそって歯車が形成されており、
図1に示すようにスプール400側のピニオンギア420と噛み合った状態となっている。また、
図3に示すようにこのドライブギア300の中心の貫通穴301は円形となっており、ドライブギアシャフト110が空回り状態に貫通している。すなわち、このドライブギア300とドライブギアシャフト110とでは、直接回転力が伝達しない構造となっている。
【0016】
ピニオンギア420は、
図1に示すようにスプール400のスプール軸シャフト410の先端に設けられており、クラッチ500を介してスプール400と連動するようになっている。スプール400には、ラインLが巻き付けられており、このスプール400がスプール軸シャフト410を軸に正逆方向に回転することでラインLの巻取り、繰り出しがなされるようになっている。
【0017】
ドライブギアシャフト110は、
図3に示すように金属棒の両側面を面取りして断面がほぼ矩形状に形成されていると共に、ハンドル200が固定される端部側(図示上端側)には、所定の長さに亘ってネジ部111が形成されており、このネジ部111にスタードラグ150が回転自在に螺合するようになっている。
【0018】
また、
図2に示すようにこのドライブギアシャフト110の他端(図示下端)には、ストッパーギア112が取り付けられている。このストッパーギア112は、ドライブギアシャフト110と一体となって連動するようになっており、ハンドル200の操作に伴ってクラッチ500を解除できるようになっている。
【0019】
ドラグプレート120は、金属製の円板から構成されると共にその中心の貫通穴121が断面矩形状になっており、ドライブギアシャフト110がこの貫通穴121が貫通したときに相互に噛み合って連動するようになっている。そして、このドラグプレート120とドライブギア300との間、およびドライブギア300とストッパーギア112との間にはそれぞれカーボンやフェルトなどの滑り難い材料からなるドラグ座金310、320が設けられている。
【0020】
インナーチューブ130は、ローラークラッチ140の一部を構成する金属製の筒状体であり、ドライブギアシャフト110を貫通してドラグプレート120上に当接するようになっている。このインナーチューブ130の貫通孔131は、断面円形となっていてドライブギアシャフト110とは空回り状態となっており、ドライブギアシャフト110の回転力が伝達しないようになっている。なお、従来のドラグ機構は、このインナーチューブ130に対応する部材がドラグプレート120やドライブギアシャフト110と係合してこれらと供回り状態になっている。
【0021】
ローラークラッチ140は、いわゆるワンウェイクラッチなどと称される軸受けの1つであり、
図2に示すように両軸リールの筐体を構成する両軸リール本体600に埋め込まれるように固定されている。そして、このローラークラッチ140は、その内部を貫通するように位置するインナーチューブ130を介してドライブギアシャフト110の軸受けとして機能している。
【0022】
スタードラグ150は、
図3に示すようにドライブギアシャフト110のネジ部111に螺合するドラグ本体151
と、このドラグ本体151から放射線状に延びる複数本(5~6本)のダイアル152とから構成されている。そして、このダイアル152を指で回すことでネジ部111に沿ってドラグ本体151をドライブギアシャフト110の軸方向に往復移動できるようになっている。ドラグ本体151の下面は3つの座金161a,161b,161cを介してインナーチューブ130の一端(図中上端)に当接するようになっている。なお、この3つの座金161a,161b,161cのうち、図中上方の座金161aは、一般にスタードラグスペーサー、その下の2つの座金161b,161cは、対向するように湾曲したメインギア座金などと呼ばれており、スタードラグ150を抑え込むことにより、湾曲した2つの座金161b,161cが潰れるように変形しつつインナチューブ130を押し込むようになっている。
【0023】
このような構成をした本発明のドラグ機構100にあっては、
図2および
図3に示すようにスタードラグ150を時計方向に回転させてドライブギア300に移動させると、その下面に3つの座金161,161,161を介して当接しているインナーチューブ130が押されて、その他端(図中下端)がドラグプレート120側に当接する。
【0024】
さらにこの状態からスタードラグ150を締め付けると、インナーチューブ130に押されたドラグプレート120がドライブギア300に圧着してそのドライブギア300がドラグ座金310、320を介してこのドラグプレート120とストッパーギア112によってその両側から強く挟持されることになる。これによって、それらの圧着面で摩擦力が生じてドライブギア300とドライブギアシャフト110との間で回転力が伝達する。
【0025】
そして、この摩擦力はドライブギア300の圧着面の圧着力に比例するため、このスタードラグ150の締め付け量を増減することでドライブギア300とドライブギアシャフト110との間の伝達力であるドラグ力を強くしたり弱くしたりの調節を無段階に行うことができる。なお、この摩擦力をゼロにするとドラグ力もゼロとなり、ドライブギア300とドライブギアシャフト110との間で回転力が伝達することなく互いに空回り状態となる。
【0026】
次に、このような構成をした本発明のドラグ機構100の作用を説明する。先ず、前述したようにスタードラグ150を回してそのドラグ力を必要最小限に設定した後、
図4に示すようにドラグ機構100とスプール400とを結ぶクラッチ500をオフにしてスプール400をフリー状態にしてから竿を振るなどしてルアー(図示せず)を目標地点まで投げる(キャスティング)。すると、スプール400が殆ど抵抗なく時計回りに回転するため、そのルアーの勢いによってラインLがそのスプール400から連続して繰り出される。
【0027】
ルアーが目標地点に達したならば、クラッチ500を繋ぎ(オン)、そのまま魚が食いつくまで放置したり、適宜竿を動かしてルアーに魚を引き寄せるなどの所望の釣り動作を行う。なお、このクラッチ500を含めた一般的なクラッチは、ドライブギアシャフト110に連結されたストッパーギア112によって制御されているため、ハンドル200を巻き取る方向(時計回り)に回すと同時に自動的に作動(オン)する仕組みとなっている。
【0028】
そして、ルアーに魚がかかると
図5に示すようにラインLを巻き取るためにハンドル200を時計回りに回す。すると、その回転力がドライブギアシャフト110を介してドライブギア300に伝わり、これに噛み合っているピニオンギア420を介してスプール400が巻取り方向(反時計回り)に回転してラインLを巻き取る。このとき、魚の抵抗によって巻取る力を上回る引張り力がラインLにかかると、
図6に示すようにスプール400およびドライブギア300が逆方向(時計回り)に回転する。
【0029】
ドライブギア300にはドラグプレート120が圧着しているから、ドライブギア300が逆方向に回転すると、ドラグプレート120も回転すると共に、このドラグプレート120と噛み合ったドライブギアシャフト110も逆回転してハンドル200が巻き取る方向とは反対方向(反時計回り)に勝手に逆回転する。
【0030】
一方、ドラグ力を伝達するインナーチューブ130は、ローラークラッチ140によってその回転方向が一方向(巻取り方向)だけに規制されていることから、ドラグプレート120やドライブギアシャフト110と共に逆回転することはない。従って、このような逆回転が発生すると、
図7および
図8に示すようにこのインナーチューブ130とドラグプレート120の圧着面に滑りが発生し、その摩擦力が逆回転時のドラグ力になる。
【0031】
さらに、このようにドラグプレート120やドライブギアシャフト110が逆方向に回転している状態において逆回転しているハンドル200を手で抑えてその回転を抑制するように力を加えると、ドラグプレート120とドライブギア300との圧着面も滑り状態となってさらに新たな摩擦力が加わって大きなドラグ力が発生する。
【0032】
従って、キャスティング前にスタードラグ150の操作によるドラグ力を予め必要最小値に設定しておき、ファイト中にそれを上回るドラグ力が必要になったときは、逆回転しているハンドル200を手でもってその回転を抑えるように制御すれば、ファイト中にいちいちスタードラグ150を操作することなく、さらにドラグ力を増大させることができる。これによって、初心者であってもファイト中にドラグ力の調整を的確かつ簡単に行うことができる。
【0033】
また、
図9に示すようにインナーチューブ130の端部に、ドラグプレート120と接するフランジ132を設ければ、ドライブギアシャフト110と連動するドラグプレート120とインナーチューブ130との接触面積が増えるため、小さな締付力で大きなドラグ力を得ることができる。なお、本実施の形態では手巻き式の両軸リールの例で説明したが、ドライブギアシャフト110をモーターで駆動する電動式の両軸リールにもそのまま適用できる。
【0034】
また、本実施の形態では、左巻き方式の両軸リールの例で示したが、右巻き方式の両軸リールの場合は、その回転方向が逆になるだけで、同様の作用効果を得られることはもちろんである。また、本発明のドラグ機構100は、両軸リールを使用したルアーフィッシング(疑似餌)以外の餌を使用した対象魚、例えば大きく成長する鯉や海の大型魚のようなルアーの興味を示さない魚や、ルアーだと効率が悪い魚などを釣る場合も同様の効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0035】
100…ドラグ機構
110…ドライブギアシャフト
112…ストッパーギア
120…ドラグプレート
130…インナーチューブ
132…フランジ
140…ローラークラッチ
150…スタードラグ
200…ハンドル
300…ドライブギア
400…スプール
500…クラッチ
600…両軸リール本体
L…ライン