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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】黒鉛材料の製造支援方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20221212BHJP
   G05B 19/418 20060101ALI20221212BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20221212BHJP
【FI】
C01B32/205
G05B19/418 Z
G06N20/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019048202
(22)【出願日】2019-03-15
(65)【公開番号】P2020147473
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加納 規生
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 照富
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-281444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/205
G05B 19/418
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化し、黒鉛材料を得る黒鉛化工程の黒鉛材料の製造支援方法であって、
前記黒鉛材料の製造支援方法は、形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料の前記アチェソン炉内の配置図及び通電パターン、当該配置図及び通電パターンに従って黒鉛化処理を行った際の黒鉛材料のクラックの発生場所を示す情報の組を学習済みの学習器に、形状、材質または大きさの異なる前記複数の炭素質材料の配置図及び通電パターンからなる黒鉛化工程の条件を入力するステップと、
前記学習器が演算処理を実施し、前記黒鉛化工程の条件によって得られるクラックの発生場所を予測するステップと、からなることを特徴とする黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項2】
前記配置図は、2次元配置図であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項3】
前記配置図は、3次元配置図であることを特徴とする請求項1に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項4】
前記黒鉛材料の製造支援方法は、前記3次元配置図を2次元化するステップをさらに有することを特徴とする請求項3に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項5】
前記黒鉛材料の製造支援方法は、前記複数の炭素質材料を材質ごとに色分けして配置図に表示することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項6】
前記黒鉛材料の製造支援方法は、前記学習器が、前記黒鉛化工程におけるクラックの発生場所の予測に基づいて、可否判断するステップをさらに有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項7】
前記黒鉛材料の製造支援方法は、前記黒鉛化工程の条件で操炉して得られたクラックの発生場所の情報を前記学習器に学習させる蓄積ステップをさらに有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【請求項8】
前記学習器は、ニューラルネットワークで構成されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の黒鉛材料の製造支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料の製造支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛材料等に対し、目的の特性を得るために3000℃前後の高温での黒鉛化処理が行われる。黒鉛材料からなる成形体は一定の大きさを有しているため、成形体をパッキングコークス中に埋設して、直接通電するアチェソン炉などの黒鉛化炉が用いられている。このような電力で加熱する黒鉛化炉は、材料そのものや、材料の周りを覆うパッキングコークスの抵抗によって加熱する。
【0003】
特許文献1には、アチェソン炉により円柱状素材を黒鉛化する工程において、素材間に炭素質部材を設置し、パッキングコークス層の厚さを略均一にすることを特徴とする黒鉛材の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-281444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された黒鉛材料の製造方法は、同一形状の成形体(炭素質材料)を繰り返し配置する場合には適用が容易であるが、様々な形状の成形体を混載する場合には適用が困難であり、適切な配置はこれまで経験的に決定されていた。しかし、近年は、黒鉛材料の用途、生産量とも増加し、製品のグレードや形状が多岐にわたるようになり、限られた経験則のみで成形体(炭素質材料)の配置を決めることが難しくなる傾向にある。
【0006】
本発明は、こうした事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、経験者の経験則のみに頼ることなく、黒鉛化する炭素質材料の配置が適切であるか否かを判断することができる黒鉛材料の製造支援方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための黒鉛材料の製造支援方法は、形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化し、黒鉛材料を得る黒鉛化工程の黒鉛材料の製造支援方法であって、前記黒鉛材料の製造支援方法は、形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料の前記アチェソン炉内の配置図及び通電パターン、当該配置図及び通電パターンに従って黒鉛化処理を行った際の黒鉛材料のクラックの発生場所を示す情報の組を学習済みの学習器に、形状、材質または大きさの異なる前記複数の炭素質材料の配置図及び通電パターンからなる黒鉛化工程の条件を入力するステップと、前記学習器が演算処理を実施し、前記黒鉛化工程の条件によって得られるクラックの発生場所を予測するステップと、からなることを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、経験者の経験則のみに頼ることなく、炭素質材料の配置が適切であるか否かを判断することができる。また、予測を受けて修正でき黒鉛化処理におけるクラックの発生を抑制できるため、黒鉛材料の好適な製造を支援することができる。
【0009】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記配置図は、2次元配置図であることが好ましい。上記構成によれば、電子化されていない紙ベースのデータも利用でき、多くの配置図とその結果を取得し蓄積することができる。
【0010】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記配置図は、3次元配置図であることが好ましい。上記構成によれば、炭素質材料の3次元配置図を用いて、クラックの発生場所を予測するステップを精度良く行うことができる。
【0011】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法は、前記3次元配置図を2次元化するステップをさらに有することが好ましい。上記構成によれば、3次元配置図を2次元化することにより、3次元配置図のデータと、2次元配置図のデータを組み合わせ、より精度を高めることができる。
【0012】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法は、上記複数の炭素質材料を材質ごとに色分けして配置図に表示することが好ましい。材質ごとに色分けして配置図に表示することにより、学習器及び人が、材質の異なることを容易に識別することができる。
【0013】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記学習器が、上記黒鉛化工程におけるクラックの発生場所の予測に基づいて、可否判断するステップをさらに有することが好ましい。上記構成によれば、配置図の可否判断をより客観的に行うことができるため、可否判断の誤差を少なくすることができる。
【0014】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記黒鉛化工程の条件で得られたクラックの発生場所の情報を上記学習器に学習させる蓄積ステップをさらに有することが好ましい。上記構成によれば、クラックの発生を推定する精度を向上させることができる。
【0015】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記学習器は、ニューラルネットワークで構成されることが好ましい。上記構成によれば、黒鉛化工程に影響すると考えられる因子以外にも予測に反映させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の黒鉛材料の製造支援方法によれば、経験則のみに頼ることなく、炭素質材料の配置が適切であるか否かを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アチェソン炉による黒鉛化工程の一例を説明する図。
図2】アチェソン炉内に配置される炭素質材料の一例を説明する斜視図。
図3】(a)~(e)は、図2に記載された炭素質材料の配置の6面図である2次元配置図。
図4】学習装置のハードウェア構成を示す図。
図5】黒鉛材料の製造支援方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、黒鉛材料の製造支援方法の一実施形態を説明する。
黒鉛材料は、放電加工用電極や耐熱材料、半導体製造装置用部品の素材として用いられる。このため、用途に対応して、円柱状、角柱状、平板状等の様々な形状のブロックが製造される。様々な形状の黒鉛材料は、以下に示す製造工程を経ることによって製造される。
【0019】
黒鉛材料の製造工程は、原材料である粉砕されたコークスと、バインダを混練したのち再度粉砕し原料粉を製造する原料工程、原料工程で得られた原料粉を所定の形状の成形体に成形する成形工程、上記成形体を焼成し炭素質材料を得る焼成工程、上記炭素質材料を2000~3000℃程度の高温で黒鉛化する黒鉛化工程とからなる。
【0020】
原料工程では、使用するコークスの硬さ、仮焼温度、成分、コークスの粒度分布、粉砕後の粒度分布、バインダの軟化点、成分、混練の程度を設定し様々なグレードの黒鉛材料を作り分けることができる。グレードに応じて、この後の好ましい製造条件は異なる。このため、グレードごとに異なる条件で製造することが望ましい。
【0021】
成形工程では、所定の形状の黒鉛材料を得るためにプレス成形を実施する。プレス成形の方法は特に限定されないが、型押し成形、押出し成形、冷間等方加圧成形(以下、「CIP」ともいう。)などが利用できる。中でもCIP成形では、ゴムバックを使用して成形し、高い圧力が得られるので、緻密で様々なサイズ、形状の等方性黒鉛材料を得ることができる。
【0022】
焼成工程を行う焼成炉は特に限定されず、公知の焼成炉を適宜採用することができる。焼成工程では、成形工程で得られた成形体を焼成し、揮発分を除去し、硬い炭素質材料を得ることができる。焼成の温度は、特に限定されないが600~1500℃まで加熱することにより成形体に含まれる有機成分、水素などを揮発させ、セラミック化する。また、焼成後の炭素質材料にピッチ等を含浸して、再度焼成を行う再焼成工程を有していてもよい。
【0023】
黒鉛化工程では、焼成工程で得られた炭素質材料に熱を加え、黒鉛の結晶発達を促進させる。黒鉛化工程では焼成工程の温度より高い温度まで加熱させる。黒鉛化工程は、クラックの発生しやすい工程であり、昇温速度が速すぎると、素材の内部に温度差、熱歪みが生じクラックの原因となる。
【0024】
図1に示すように、黒鉛化工程は、アチェソン炉10を用いて行われる。アチェソン炉10は、耐火煉瓦壁に囲われたプール状の炉壁11と、炉壁11の一端に取り付けられた電極13とを備える。炉壁11の内側には、カーボンブラックなどのライニング12が設けられている。炭素質材料20を、アチェソン炉10内に複数配置し、炭素質材料20の周りにパッキングコークス14を充填する。電極13間を通電して、炭素質材料20及びパッキングコークス14を発熱させることにより、複数の炭素質材料20を同時に黒鉛化することができる。黒鉛化の温度は特に限定されないが、例えば、2000~3000℃で行うことができる。2000~3000℃に加熱することにより、炭素質材料20中の黒鉛結晶を成長させて黒鉛材料を製造することができる。なお、図1では、便宜上、炭素質材料20がパッキングコークス14から露出した状態を示している。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の黒鉛化工程では、形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料を、アチェソン炉内に配置して同時に焼成して黒鉛化する。炭素質材料の形状としては、例えば、円柱状20a、角柱状20b、平板状等の形状が挙げられる。炭素質材料の材質とは、例えば、黒鉛材料のグレードを作り分けるため、原材料であるコークス、コークスの粒子径、混練方法、配合比をグレードに応じて作り分けた製造段階における炭素質材料の特徴である。材質が異なるとは、気孔率、かさ密度、硬度、固有抵抗などが異なることを示し、黒鉛化工程を経て最終的にそれぞれの材質に対応する黒鉛材料のグレードとなる。
【0026】
ここで、アチェソン炉の高さ方向に沿う方向を上下方向DZ、アチェソン炉の長手方向に沿う方向を前後方向DY、アチェソン炉の幅方向に沿う方向を左右方向DXとする。
本実施形態の黒鉛材料の製造支援方法は、黒鉛化工程を行う際のアチェソン炉内の炭素質材料について、配置が適切であるか否かを判断する。具体的には、黒鉛化を行った際に、炭素質材料にクラックが発生するか否か及びその場所を推定する。
【0027】
黒鉛材料の製造支援方法は、学習器が、以下に示す黒鉛化工程の条件を入力するステップと、クラックの発生場所を予測するステップと、を実行することによって行われる。以下、各ステップについて説明する。
【0028】
(黒鉛化工程の条件を入力するステップ)
黒鉛化工程の条件を入力するステップは、学習器が、形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料のアチェソン炉における配置図、通電パターンを取得するステップである。
【0029】
図3(a)~(e)に示すように、配置図は、炭素質材料の配置を複数の方向から見た2次元配置図21で構成される。複数の方向としては、例えば、アチェソン炉の上下方向DZ、前後方向DY、左右方向DXの3方向が挙げられ、3方向の両側から見た合計6種類の2次元配置図21で構成される。これらの中でも、特にクラックの発生場所の予測に関しては、上下方向DZ、前後方向DYが重要である。
【0030】
具体的には、図3(a)は、上下方向DZの上方から見た2次元配置図21aを示す。図3(b)は、上下方向DZの下方から見た2次元配置図21bを示す。図3(c)は、左右方向DXの左方から見た2次元配置図21cを示す。図3(d)は、前後方向DYの後方から見た2次元配置図21dを示す。図3(e)は、前後方向DYの前方から見た2次元配置図21dを示す。ここで、本実施形態のように、左右方向DXにおいて2次元配置図が対称になる場合、片方の2次元配置図を兼用してもよい。
【0031】
また、当該2次元配置図に基づいて炭素質材料が炉詰めされたアチェソン炉に対応する通電パターンも同時に取得する。通電パターンとは、アチェソン炉に与えられるスタートからの電力変化であり、横軸が通電開始からの時間、縦軸が電力である。また電力を時間で積分すると、アチェソン炉に投入された電力量となる。また、横軸は温度であってもよい。
【0032】
判断の必要な2次元配置図は、アチェソン炉内において局所的に電流密度が高くなり、局所的に発熱することがないように、各炭素質材料がバランス良く配置されるように考慮して作成される。また、炉詰め効率がより高くなるように考慮して作成する。2次元配置図は、複数の炭素質材料の形状を厳密に再現したものである必要はなく、ある程度簡略化して作成することができる。また、各炭素質材料を材質ごとに着色して表示したり、部材名称や品番を記載したりして、各炭素質材料の視認性を向上させてもよい。2次元配置図は、紙面上に作成してもよいし、学習器内で作成してもよい。2次元配置図を紙面上に作成した場合、学習器は、紙面を読み取ることによって、2次元配置図を取得することができる。2次元配置図を学習器内で作成した場合、学習器は、2次元配置図を直接取得することができる。
【0033】
図2に示すように、2次元配置図は、事前に配置構成の3次元モデル図をもとに作成されてもよい。すなわち、一旦配置構成の3次元モデル図を作成したうえで、この3次元モデル図を平面に投影し、2次元配置図を作成してもよい。3次元モデル図は、例えば、3D描画ソフトを用いて作成することができ、3D描画データを用いて2次元配置図を作成してもよい。3次元モデル図は、あくまで、2次元配置図の参考に用いられるため、各炭素質材料の形状が簡略化されていてもよい。3次元モデル図を参考にすることにより、2次元配置図を作成することが容易になる。3次元モデル図を作成することなく、直接2次元配置図を作成してもよい。
【0034】
(クラックの発生場所を予測するステップ)
クラックの発生場所を予測するステップは、炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化した際のクラック発生の有無及びその場所を推定するための学習済みの学習器に、炭素質材料の2次元配置図を入力し、学習器の演算処理を実行することで、2次元配置図及び通電パターンに従って黒鉛化した際のクラックの発生場所を予測するステップである。
【0035】
ここで学習済みの学習器とは、どのようなアルゴリズムに基づいて予測するものであってもよい。たとえば、多変量解析や、ニューラルネットワークによる統計解析などが利用できる。
【0036】
学習済みの学習器は、機械学習により学習してもよい。ここで、「機械学習」とは、学習データに潜むパターンを学習器により見つけ出すことを意味するものとする。「学習器」は、そのような機械学習により所定のパターンを識別する能力を獲得可能な学習モデルにより構築される。この学習器の種類は、2次元配置図に基づいて、炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化した際のクラック発生の発生場所を予測する能力を学習可能であれば、特に限定されない。「学習済みの学習器」は、「識別器」又は「分類器」と称してもよい。
【0037】
学習器は、炭素質材料の2次元配置図を基に3次元配置図を作成し3次元配置図で演算処理してもよいし、3次元配置図を基に2次元配置図を作成し2次元配置図で演算処理してもよい。例えば、学習装置は、炭素質材料の2次元配置図と、この2次元配置図に従って対応する通電パターンで黒鉛化した際のクラック発生の有無を示す情報とに基づいて機械学習を行ったものである。クラック推定ステップによる結果は、例えば、学習器の出力装置に出力される。
【0038】
(可否判断ステップ)
可否判断ステップは、コンピュータが、クラックの発生場所の予測ステップの結果に基づいて、2次元配置図の可否を判断するステップである。言い換えれば、2次元配置図に基づいて黒鉛化工程を行うことが可能か否かの可否を判定するステップである。
【0039】
(蓄積ステップ)
蓄積ステップは、クラック推定ステップを経た配置構成で黒鉛化した黒鉛材料について、クラック発生場所の結果を確認し、その結果を、学習器が学習するステップである。クラック発生場所は、例えば画像データとして確認することができる。クラック発生の有無を確認する方法は特に限定されず、目視確認し、二次元配置図に転記することでも実施することができる。
【0040】
学習器について説明する。
学習器のハードウェア構成について説明する。
図4に示すように、学習器30は、演算装置31、記憶装置32、入力装置34、出力装置35、及び、モニタ36が、電気的に接続されて構成されている。
【0041】
演算装置31は、ハードプロセッサであるCPU、RAM、ROM等を含み、プログラム及びデータに基づいて各種情報処理を実行するように構成される。記憶装置32は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等で構成される。記憶装置32は、演算装置31で実行される学習プログラム、学習器の機械学習に利用する学習データ、学習プログラムを実行して作成した学習結果データ等を記憶する。
【0042】
学習プログラムとしては、後述する機械学習の処理を学習器30に実行させ、当該機械学習の結果として学習結果データを生成させるための命令を含むプログラムである。学習データは、2次元配置図に従って黒鉛化した際のクラック発生場所を予測する能力を獲得するように学習器の機械学習を行うためのデータである。
【0043】
学習器30を構成する機器は、専用ケーブルを用いて相互に接続されていてもよいし、通信インタフェースを用いて接続されていてもよい。通信インタフェースは、例えば、有線LANモジュール、無線LANモジュール等であり、ネットワークを介した有線又は無線通信を行うためのインタフェースである。
【0044】
本発明において入力装置34は、例えば、スキャナ、カメラ等の配置図を入力可能な装置である。また、出力装置35は、例えば、プリンタ等の結果の出力を行うための装置である。なお、モニタ36でも出力することができる。作業者は、出力装置35またはモニタ36、及び入力装置34を介して、学習器30を操作することができる。
【0045】
なお、学習器30の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、演算装置31は、複数のハードウェアプロセッサを含んでもよい。ハードウェアプロセッサは、マイクロプロセッサ、FPGA(field-programmable gate array)等で構成されてもよい。学習器30は、複数台の情報処理装置で構成されてもよい。また、学習器30は、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置、コンピュータ等であってもよい。学習器30を構成する各装置は、内部に他の装置を含んでいてもよい。例えば演算装置31が記憶装置32を内蔵していてもよい。
【0046】
学習器30の演算装置31は、記憶装置32に記憶された学習プログラムを実行する。
入力装置34は、アチェソン炉内の複数の炭素質材料の配置図及び通電パターン、当該配置図、通電パターンに従って黒鉛化処理を行った際の炭素質材料のクラックの発生場所を示す情報の組を学習データとして取得する。具体的には、学習器30は、2次元配置図を入力データとして利用する。また、クラックの発生場所が教師データ(正解データ)として利用される。すなわち、学習器30は、入力データである2次元配置図と、正解データである2次元配置図に従って黒鉛化した際のクラック発生場所の情報とに基づいて機械学習を行ったものである。演算装置31は、2次元配置図を入力するとクラック発生場所に対応する出力値を出力するように構成されている。
【0047】
本実施形態において、機械学習の対象となる学習器は、例えばニューラルネットワークで構成される。特に画像の場合、コンボリューションニューラルネットワークで構成される。構成要素は大きく分けて2つのパートに分けることができる。1つ目は、画像を読み込み、畳み込みやプーリングによって特徴マップを作成する特徴量抽出パートであり、2つ目は、全結合層を繰り返すことで最終的な出力を得る識別パートである。畳み込みとは、ウィンドウの数値データとカーネルの積の和により1つの数値を計算する処理を、ウィンドウを少しずつずらしながら全ての要素に対して行い、最終的にテンソルに変換する処理のことである。プーリングとは、ウィンドウの数値データから1つの数値を作り出す処理であり、画像の縮小が行える。全結合層とは、特徴が抽出された画像データを一つのノードに結合し、活性化関数によって変換された特徴変数を出力する。
【0048】
黒鉛材料の製造支援方法の手順について説明する。
図5に、フローチャートを示す。
(ステップS101)
ステップS101は、配置図及び通電パターンを入力するステップである。学習器は、アチェソン炉内に配置する炭素質材料の配置図を取得する。配置図は、例えば、3次元配置図で構成され、あるいはアチェソン炉の上下方向、前後方向、左右方向の各両側から見た合計6種類の2次元配置図21を基に作成される。
【0049】
(ステップS102)
ステップS102は、配置図を3次元から2次元化し、2次元配置図を用いて演算処理を実行することで、黒鉛化した際のクラック発生場所を予測するステップである。具体的には、ニューラルネットワークの演算処理により、黒鉛化した際のクラック発生場所を予測する。
【0050】
(ステップS103)
ステップS103は、可否判断ステップである。学習器が、クラックの予測ステップの結果に基づいて黒鉛化工程を行うことが可能か否かの可否を判定する。なおステップS103は省略してもよい。
【0051】
可否判断ステップが、黒鉛化工程を行うことができないという「NG」の判定をした場合、作業者は改めて別の配置図を作成し、学習器は、ステップS101に戻って、再度、別の配置図を取得する。
【0052】
可否判断ステップが、黒鉛化工程を行うことができるという「OK」の判定をした場合、配置図及び通電パターンに基づいて操炉し、黒鉛化工程を行う。
(ステップS104)
ステップS104は、学習器に学習させるステップである。操炉の終了したアチェソン炉内の黒鉛材料のクラックが発生場所を学習器にさらに学習させる。学習の方法は、配置図にクラックの発生場所をマーキングし入力してもよいし、アチェソン炉内部のパッキング材を取り除いた後、写真を撮影し画像認識させてもよい。
【0053】
本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)形状、材質または大きさの異なる複数の炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化し、黒鉛材料を得る黒鉛化工程の黒鉛材料の製造支援方法である。黒鉛材料の製造支援方法は、学習済みの学習器に複数の炭素質材料の配置図及び通電パターンからなる黒鉛化工程の条件を入力するステップと、学習器が演算処理を実施し、黒鉛化工程の条件によって得られるクラックの発生場所を予測するステップと、からなる。
【0054】
したがって、経験者の経験則のみに頼ることなく、炭素質材料の配置が適切であるか否かを判断することができる。また、予測を受けて修正でき黒鉛化処理におけるクラックの発生を抑制できるため、黒鉛材料の好適な製造を支援することができる。
【0055】
(2)上記配置図は、2次元配置図である。したがって、3次元化されていないデータも扱うことができ、多くの配置図を取得することができる。
(3)上記配置図は、3次元配置図である。したがって、炭素質材料の3次元配置図を用いて、クラックの発生場所を予測するステップを精度良く行うことができる。
【0056】
(4)学習器は、クラック推定ステップにおいて、3次元配置図を2次元化する。したがって、2次元配置図を3次元化することにより、3次元配置図のデータと、2次元配置図のデータを組み合わせよりクラック発生場所の予測をより精度良く推定することができる。
【0057】
(5)本発明の黒鉛材料の製造支援方法は、上記複数の炭素質材料を材質ごとに色分けして配置図に表示する。したがって、材質ごとに色分けして配置図に表示することにより、学習器及び人が、材質の異なることを容易に識別することができる。
【0058】
(6)学習器が、上記黒鉛化工程におけるクラックの発生場所の予測に基づいて、可否判断するステップをさらに有する。したがって、配置図の可否判断をより客観的に行うことができるため、可否判断の誤差を少なくすることができる。
【0059】
(7)学習器は、通電パターン、配置図で操炉して得られた黒鉛材料におけるクラック発生場所を示す情報を学習器に学習させる蓄積ステップを実行する。したがって、クラック発生の有無を推定する精度を向上させることができる。
【0060】
(8)本発明の黒鉛材料の製造支援方法について、上記学習器は、ニューラルネットワークを備える。したがって、上記構成によれば、黒鉛化工程に影響すると考えられる因子以外にも予測に反映させることができる。
【0061】
本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。また、上記実施形態の構成や以下の変更例に示す構成を適宜組み合わせて実施することも可能である。
本実施形態では、配置図取得ステップにおいて、上下方向、前後方向、左右方向の3方向の両側から見た6種類の2次元配置図を取得していたが、この態様に限定されない。クラック推定ステップにおける精度を考慮して、取得する2次元配置図の種類を7種類以上にしてもよいし、6種類未満にしてもよい。
【0062】
本実施形態では、機械学習を行った学習済みの学習器を用いて、クラック発生の有無を推定していたが、クラック発生以外の不具合の有無を推定してもよい。クラック発生以外の不具合としては、例えば、変形や物性不良等が挙げられる。変形や物性不良等の有無を推定する場合には、炭素質材料をアチェソン炉で黒鉛化した際の変形や物性不良等の有無を推定するための機械学習を行った学習済みの学習器を用いればよい。また、クラック発生の有無を推定することに代えて、クラックの数や長さを推定してもよい。黒鉛材料において物性不良の発生原因の1つに黒鉛化の処理温度がある。このため、黒鉛化工程の条件からクラックを予測する学習器を用い、得られた黒鉛材料の物性を同様に入力することにより処理温度に由来する物性不良の発生を予測することができる。
【0063】
蓄積ステップは、省略されていてもよい。すなわち、クラック発生の有無を確認した結果を、学習器にさらに学習させて蓄積するステップを行わなくてもよい。
本実施形態では、可否判断ステップにおける可否判断をコンピュータが行っていたが、この態様に限定されない。例えば、クラック推定ステップの結果を基に、作業者が可否判断を行ってもよい。
【0064】
また、本発明の製造支援方法は焼成工程にも適用することができ、クラックの発生場所を予測することも可能である。
【符号の説明】
【0065】
10…アチェソン炉、20…炭素質材料。
図1
図2
図3
図4
図5