(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221212BHJP
C11D 17/08 20060101ALN20221212BHJP
【FI】
H01L21/304 643A
C11D17/08
(21)【出願番号】P 2019056285
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 学
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】上田 大
(72)【発明者】
【氏名】張 松
(72)【発明者】
【氏名】安田 周一
(72)【発明者】
【氏名】柴山 宣之
(72)【発明者】
【氏名】金松 泰範
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/128093(WO,A1)
【文献】特開2015-119164(JP,A)
【文献】特開2012-216777(JP,A)
【文献】特許第6308910(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 17/08
B08B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に向けて供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記基板の表面に向けて除去液を液滴状態で供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記除去液の液滴の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを含
み、
前記除去工程が、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を含み、
前記溶質が、高溶解性物質と、前記高溶解性物質よりも前記除去液に対する溶解性が低い低溶解性物質とを有し、
前記処理膜形成工程が、固体状態の前記高溶解性物質および固体状態の前記低溶解性物質を有する前記処理膜を形成する工程を含み、
前記除去工程が、前記処理膜中の固体状態の前記高溶解性物質を前記除去液に選択的に溶解させる工程を含む、基板処理方法。
【請求項2】
前記溶質が、溶解力強化物質を有し、
前記除去工程が、前記基板の表面に供給された前記除去液に前記処理膜から前記溶解力強化物質を溶け出させることによって、前記基板の表面に供給された前記除去液が前記処理膜を溶解させる溶解力を強化し、前記溶解力が強化された前記除去液に前記処理膜を部分的に溶解させる工程を含む、請求項
1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に向けて供給する処理液供給工程と、
前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、
前記基板の表面に向けて除去液を液滴状態で供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記除去液の液滴の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを含み、
前記除去工程が、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を含み、
前記溶質が、溶解力強化物質を有し、
前記除去工程が、前記基板の表面に供給された前記除去液に前記処理膜から前記溶解力強化物質を溶け出させることによって、前記基板の表面に供給された前記除去液が前記処理膜を溶解させる溶解力を強化し、前記溶解力が強化された前記除去液に前記処理膜を部分的に溶解させる工程を含む、基板処理方法。
【請求項4】
前記除去工程が、前記除去液の液滴の物理力を前記処理膜に作用させることによって、前記除去対象物を保持した状態の前記処理膜を、前記基板の表面から剥離し分裂させ前記基板の表面から除去する処理膜除去工程と、前記除去液の液滴の物理力を前記除去対象物に作用させることによって、前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去対象物除去工程とを含む、請求項1
~3のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記処理膜形成工程が、前記処理膜に保持される前記除去対象物の半径よりも小さい膜厚を有する前記処理膜を形成する工程を含む、請求項1
~4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記除去液が、水またはアルカリ性液体である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記除去工程の開始前に、前記基板の表面に保護液を連続流で供給することによって、前記除去工程において前記除去液が液滴状態で供給される供給領域を覆う前記保護液の液膜を前記基板の表面に形成する保護液膜形成工程をさらに含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記除去工程において前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、前記基板の表面に保護液を連続流で供給する保護液並行供給工程をさらに含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記保護液が前記処理膜を部分的に溶解させる性質を有する、請求項
7または
8に記載の基板処理方法。
【請求項10】
前記保護液が、水またはアルカリ性液体である、請求項
7~
9のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
前記処理膜を溶解させる溶解液を前記基板の表面に供給して、前記除去工程後に前記基板の表面に残る前記処理膜の残渣を除去する残渣除去工程をさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に供給する処理液供給ユニットと、
前記処理液を固化または硬化させる固体形成ユニットと、
前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給する除去液供給ユニットと、
前記処理液供給ユニット、前記固体形成ユニットおよび前記除去液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に前記処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を前記固体形成ユニットに固化または硬化させることによって、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記除去液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記除去液を液滴状態で供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記除去液の液滴の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを実行するようにプログラムされて
おり、
前記コントローラが、前記除去工程において、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を実行し、
前記溶質が、高溶解性物質と、前記高溶解性物質よりも前記除去液に対する溶解性が低い低溶解性物質とを有し、
前記コントローラが、前記処理膜形成工程において、固体状態の前記高溶解性物質および固体状態の前記低溶解性物質を有する前記処理膜を形成する工程を実行し、
前記コントローラが、前記除去工程において、前記処理膜中の固体状態の前記高溶解性物質を前記除去液に選択的に溶解させる工程を実行する、基板処理装置。
【請求項13】
溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に供給する処理液供給ユニットと、
前記処理液を固化または硬化させる固体形成ユニットと、
前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給する除去液供給ユニットと、
前記処理液供給ユニット、前記固体形成ユニットおよび前記除去液供給ユニットを制御するコントローラとを含み、
前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に前記処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を前記固体形成ユニットに固化または硬化させることによって、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記除去液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記除去液を液滴状態で供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記除去液の液滴の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを実行するようにプログラムされており、
前記コントローラが、前記除去工程において、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を実行し、
前記溶質が、溶解力強化物質を有し、
前記コントローラが、前記除去工程において、前記基板の表面に供給された前記除去液に前記処理膜から前記溶解力強化物質を溶け出させることによって、前記基板の表面に供給された前記除去液が前記処理膜を溶解させる溶解力を強化し、前記溶解力が強化された前記除去液に前記処理膜を部分的に溶解させる工程を実行する、基板処理装置。
【請求項14】
前記コントローラが、前記除去工程において、前記除去液の液滴の物理力を前記処理膜に作用させることによって、前記除去対象物を保持した状態の前記処理膜を前記基板の表面から剥離し分裂させて前記基板の表面から除去する処理膜除去工程と、前記除去液の液滴の物理力を前記除去対象物に作用させることによって、前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去対象物除去工程とを実行するようにプログラムされている、請求項1
2または13に記載の基板処理装置。
【請求項15】
前記コントローラが、前記処理膜形成工程において、前記処理膜に保持される前記除去対象物の半径よりも小さい膜厚を有する前記処理膜を形成するようにプログラムされている、請求項
12~14
のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項16】
前記基板の表面に保護液の連続流で供給する第1保護液供給ユニットをさらに含み、
前記コントローラが、前記除去工程の開始前に、前記第1保護液供給ユニットから前記基板の表面に前記保護液の連続流で供給することによって、前記除去工程において前記除去液が液滴状態で供給される供給領域を覆う前記保護液の液膜を前記基板の表面に形成する保護液膜形成工程を実行するようにプログラムされている、請求項
12~15のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項17】
前記基板の表面に保護液の連続流で供給する第2保護液供給ユニットをさらに含み、
前記コントローラが、前記除去工程において前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、前記基板の表面に保護液を前記第2保護液供給ユニットから連続流で供給する保護液並行供給工程を実行するようにプログラムされている、請求項
12~16のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【請求項18】
前記保護液が前記処理膜を部分的に溶解させる性質を有する、請求項16または17に記載の基板処理装置。
【請求項19】
前記処理膜を溶解させる溶解液を前記基板の表面に供給する溶解液供給ユニットをさらに含み、
前記コントローラが、前記溶解液供給ユニットから前記溶解液を供給して、前記除去工程後に前記基板の表面に残る前記処理膜の残渣を除去する残渣除去工程を実行するようにプログラムされている、請求項
12~18のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を処理する基板処理方法および基板処理装置に関する。処理対象になる基板には、たとえば、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、有機EL(Electroluminescence)表示装置等のFPD(Flat Panel Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板等の基板が含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、基板に付着した各種汚染物、前工程で使用した処理液やレジスト等の残渣、あるいは各種パーティクル等(以下「除去対象物」と総称する場合がある。)を除去するために、洗浄工程が実施される。
洗浄工程では、脱イオン水(DIW:Deionized Water)等の洗浄液を基板に供給することにより、除去対象物を洗浄液の物理的作用によって除去したり、除去対象物と化学的に反応する薬液を基板に供給することにより、当該除去対象物を化学的に除去したりすることが一般的である。
【0003】
しかし、基板上に形成される凹凸パターンの微細化および複雑化が進んでいる。そのため、凹凸パターンの損傷を抑制しながら除去対象物を洗浄液または薬液によって除去することが容易でなくなりつつある。
そこで、基板の上面に、揮発成分を含む処理液を供給し、揮発成分の揮発によって処理膜を形成した後に、当該処理膜を除去する手法が提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
この手法では、処理液が固化または硬化して処理膜が形成されることによって、除去対象物が処理膜に覆われる。次いで、基板の上面に剥離処理液が供給される。剥離処理液は、処理膜に剥離処理液が浸透し基板と処理膜との間に進入する。剥離処理液が基板と処理膜との間に進入することによって、除去対象物が処理膜とともに基板の上面から剥離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
たとえば、基板上の除去対象物のサイズが大きく処理膜で除去対象物を適切な保持力で保持できないような場合には、特許文献1の方法を用いて処理膜を基板の上面から剥離した際に、除去対象物が基板上に残ることがある。これでは、除去対象物を基板から充分に除去できないおそれがある。
そこで、この発明の1つの目的は、基板の表面に存在する除去対象物を効率良く除去することができる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の一実施形態は、溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に向けて供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を固化または硬化させて、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記基板の表面に向けて液滴状態の除去液を供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記液滴状態の除去液の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを含む、基板処理方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、基板の表面に供給された処理液を固化または硬化させることによって、除去対象物を保持する処理膜が形成される。その後、基板の表面に向けて除去液が液滴状態で供給される。これにより、除去液の液滴の物理力が処理膜および除去対象物に作用する。
詳しくは、除去液の液滴の物理力が処理膜に作用することによって、除去対象物を保持した状態の処理膜が、分裂して基板の表面から剥離し、基板の表面から除去される。そして、除去液の液滴の物理力が除去対象物に作用することによって、除去対象物が基板の表面から除去される。
【0009】
そのため、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させて処理膜とともに大部分の除去対象物を基板の表面から除去できる。さらに、除去液の液滴の物理力を除去対象物に作用させることによって、処理膜とともに除去されない除去対象物を基板の表面から除去することもできる。
その結果、基板の表面に存在する除去対象物を効率良く除去することができる。
【0010】
この発明の一実施形態では、前記処理膜形成工程が、前記処理膜に保持される前記除去対象物の半径よりも小さい膜厚を有する前記処理膜を形成する工程を含む。
処理膜の膜厚が除去対象物の半径よりも小さい場合には、処理膜は、除去対象物と基板との間に入り込みにくい。そのため、そのような場合には、処理膜は、充分な保持力で除去対象物を保持できないおそれがある。したがって、除去対象物を保持した処理膜を基板の表面から剥離させる手法では、処理膜は除去対象物を基板の表面から引き離すことができないので、除去対象物が基板の表面に残りやすい。
【0011】
そこで、基板の表面に向けて除去液を液滴状態で供給すれば、除去液の液滴の物理力が処理膜だけでなく除去対象物にも作用する。それにより、処理膜の膜厚が除去対象物の半径よりも小さい場合であっても、基板の表面から除去対象物を充分に除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記除去液が、水またはアルカリ性液体である。除去液が水またはアルカリ性液体である場合、液滴の物理力を処理膜だけでなく除去対象物に作用させることができる。除去液がアルカリ性液体である場合、除去液が水である場合と比較して、処理膜を溶解させ易い。そのため、処理膜の強度を低下させた状態で、処理膜に物理力を作用させることができる。逆に、除去液が水である場合、除去液がアルカリ性液体である場合と比較して、処理膜を溶解させにくい。そのため、処理膜に保持される除去対象物の数を極力多くした状態で、処理膜に物理力を作用させることができる。
【0012】
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、前記除去工程の開始前に、前記基板の表面に保護液を連続流で供給することによって、前記除去工程において前記除去液が液滴状態で供給される供給領域を覆う前記保護液の液膜を前記基板の表面に形成する保護液膜形成工程をさらに含む。
除去液の液滴から基板の表面に作用する物理力は、供給領域において特に大きい。そこで、除去工程の開始前に供給領域を保護液の液膜で覆えば、除去液の液滴から供給領域に作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴の物理力を基板の表面の全体に分散させることができる。これにより、基板の表面を保護しつつ、処理膜および除去対象物を基板の表面から除去することができる。
【0013】
特に、基板の表面に凹凸パターンが形成されている場合には、除去液の液滴から基板の表面に作用する物理力によって、供給領域において凹凸パターンが倒壊するおそれがある。除去工程の開始前に供給領域を保護液の液膜で覆えば、供給領域において凹凸パターンに作用する物理力を適度に低減し、凹凸パターンを保護することができる。
連続流の液体が基板の表面に供給されるときに基板の表面に作用する物理力は、液滴が基板の表面に供給されるときに基板の表面に作用する物理力と比較して極めて小さい。したがって、保護液の供給に起因する基板の表面の損傷を抑制または防止することができる。特に、基板の表面に凹凸パターンが形成されている場合において、保護液を連続流で基板の表面に供給すれば、保護液の供給に起因する凹凸パターンの倒壊を抑制または防止できる。
【0014】
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、前記除去工程において前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、前記基板の表面に保護液を連続流で供給する保護液並行供給工程をさらに含む。
この方法によれば、除去工程において基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、基板の表面に保護液が連続流で供給される。そのため、除去工程において、基板の表面が保護液で覆われた状態を維持できる。これにより、基板の表面において除去液が液滴状態で供給される領域に作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴の物理力を基板の表面の全体に分散させることができる。これにより、基板の表面(特に基板の表面に形成された凹凸パターン)を保護しつつ、処理膜および除去対象物を基板の表面から除去することができる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記保護液が前記処理膜を部分的に溶解させる性質を有する。
この方法によれば、保護液によって処理膜が部分的に溶解される。そのため、保護液によって処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これによって、処理膜を効率良く分裂させ、処理膜を基板の表面から効率良く剥離させることができる。その結果、処理膜を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0016】
この発明の一実施形態では、前記保護液が、水またはアルカリ性液体である。保護液が水またはアルカリ性液体である場合、基板の表面に作用する除去液の液滴の物理力を適度に低減し、除去液の液滴の物理力を基板の表面の全体に分散させることができる。保護液がアルカリ性液体である場合、保護液が水である場合と比較して、処理膜を溶解させ易い。そのため、処理膜の強度を低下させ易い。逆に、保護液が水である場合、保護液がアルカリ性液体である場合と比較して、処理膜を溶解させにくいので、処理膜に除去対象物を保持させた状態を維持し易い。
【0017】
この発明の一実施形態では、前記基板処理方法が、前記処理膜を溶解させる溶解液を前記基板の表面に供給して、前記除去工程後に前記基板の表面に残る前記処理膜の残渣を除去する残渣除去工程をさらに含む。
除去工程において基板の表面から処理膜を除去した後に、基板の表面に処理膜の残渣が残る場合がある。そこで、処理膜を溶解させる溶解液を基板の表面に供給することによって、基板の表面に残った処理膜の残渣を除去することができる。これにより、基板の表面を良好に洗浄することができる。
【0018】
この発明の一実施形態では、前記除去工程が、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を含む。
この方法によれば、除去液によって処理膜が部分的に溶解される。そのため、処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これによって、処理膜を効率良く分裂させ、基板の表面から処理膜を効率良く剥離することができる。その結果、処理膜を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0019】
この発明の一実施形態では、前記溶質が、高溶解性物質と、前記高溶解性物質よりも前記除去液に対する溶解性が低い低溶解性物質とを有する。前記処理膜形成工程が、固体状態の前記高溶解性物質および固体状態の前記低溶解性物質を有する前記処理膜を形成する工程を含む。そして、前記除去工程が、前記除去液に前記処理膜中の固体状態の前記高溶解性物質を選択的に溶解させることによって、前記基板の表面からの前記処理膜の剥離および前記処理膜の分裂を促進する工程を含む。
【0020】
この方法によれば、処理膜中の固体状態の高溶解性物質が除去液で選択的に溶解される。「固体状態の高溶解性物質が選択的に溶解される」とは、固体状態の高溶解性物質のみが溶解されるという意味ではなく、固体状態の低溶解性物質も僅かに溶解されるが、大部分の固体状態の高溶解性物質が溶解されるという意味である。
そのため、処理膜の強度が低下する一方で、処理膜によって除去対象物が保持された状態が維持される。したがって、除去対象物を処理膜に保持させたまま、処理膜の強度を低下させた状態で、除去工程において除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これにより、処理膜が効率良く分裂し、処理膜が基板の表面から効率良く剥離することができる。
【0021】
この発明の一実施形態では、前記溶質が、溶解力強化物質を有する。そして、前記除去工程が、前記基板の表面に供給された前記除去液に前記処理膜から前記溶解力強化物質を溶け出させることによって、前記基板の表面に供給された前記除去液が前記処理膜を溶解させる溶解力を強化し、前記溶解力が強化された前記除去液に前記処理膜を部分的に溶解させる工程を含む。
【0022】
この方法によれば、処理膜から溶解力強化物質が除去液に溶け出させることによって、除去液が処理膜を溶解させる溶解力が強化されて、除去液によって処理膜が部分的に溶解される。そのため、溶解力が低い液体を除去液として用いた場合であっても、処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これによって、処理膜を効率良く分裂させ、処理膜を基板の表面から効率良く剥離することができる。その結果、処理膜を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0023】
この発明の他の実施形態は、溶質および溶媒を有する処理液を基板の表面に供給する処理液供給ユニットと、前記処理液を固化または硬化させる固体形成ユニットと、前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給する除去液供給ユニットと、前記処理液供給ユニット、前記固体形成ユニットおよび前記除去液供給ユニットを制御するコントローラとを含む、基板処理装置を提供する。
【0024】
そして、前記コントローラが、前記処理液供給ユニットから前記基板の表面に前記処理液を供給する処理液供給工程と、前記基板の表面に供給された前記処理液を前記固体形成ユニットに固化または硬化させることによって、前記基板の表面に存在する除去対象物を保持する処理膜を前記基板の表面に形成する処理膜形成工程と、前記除去液供給ユニットから前記基板の表面に向けて前記除去液を液滴状態で供給して前記処理膜および前記除去対象物に前記除去液の液滴の物理力を作用させることによって、前記処理膜および前記除去対象物を前記基板の表面から除去する除去工程とを実行するようにプログラムされている。
【0025】
この装置によれば、基板の表面に供給された処理液を固化または硬化させることによって、除去対象物を保持する処理膜が形成される。その後、基板の表面に向けて除去液が液滴状態で供給される。これにより、除去液の液滴の物理力が処理膜および除去対象物に作用する。
詳しくは、コントローラが、除去工程において、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることによって、除去対象物を保持した状態の処理膜を基板の表面から剥離し分裂させて基板の表面から除去する処理膜除去工程と、除去液の液滴の物理力を除去対象物に作用させることによって、除去対象物を前記基板の表面から除去する除去対象物除去工程とを実行するようにプログラムされている。
【0026】
そのため、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させて処理膜とともに大部分の除去対象物を基板の表面から除去できる。さらに、除去液の液滴の物理力を除去対象物に作用させることによって、処理膜とともに除去されない除去対象物を基板の表面から除去することもできる。
その結果、基板の表面に存在する除去対象物を効率良く除去することができる。
【0027】
この発明の他の実施形態では、前記コントローラが、前記処理膜形成工程において、前記処理膜に保持される前記除去対象物の半径よりも小さい膜厚を有する前記処理膜を形成するようにプログラムされている。
処理膜の膜厚が除去対象物の半径よりも小さい場合には、処理膜は、除去対象物と基板との間に入り込みにくい。そのため、そのような場合には、処理膜は、充分な保持力で除去対象物を保持できないおそれがある。したがって、除去対象物を保持した処理膜を基板の表面から剥離させる手法では、処理膜は除去対象物を基板の表面から引き離すことができないので、除去対象物が基板の表面に残りやすい。
【0028】
そこで、基板の表面に向けて除去液を液滴状態で供給すれば、除去液の液滴の物理力が処理膜だけでなく除去対象物にも作用する。それにより、処理膜の膜厚が除去対象物の半径よりも小さい場合であっても、基板の表面から除去対象物を充分に除去することができる。
この発明の他の実施形態では、前記基板処理装置が、前記基板の表面に保護液の連続流で供給する第1保護液供給ユニットをさらに含む。そして、前記コントローラが、前記除去工程の開始前に、前記第1保護液供給ユニットから前記基板の表面に前記保護液の連続流で供給することによって、前記除去工程において前記除去液が液滴状態で供給される供給領域を覆う前記保護液の液膜を前記基板の表面に形成する保護液膜形成工程を実行するようにプログラムされている。
【0029】
除去液の液滴から基板の表面に作用する物理力は、供給領域において特に大きい。そこで、除去工程の開始前に供給領域を保護液の液膜で覆えば、除去液の液滴から供給領域に作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴の物理力を基板の表面の全体に分散させることができる。これにより、基板の表面を保護しつつ、処理膜および除去対象物を基板の表面から除去することができる。
【0030】
特に、基板の表面に凹凸パターンが形成されている場合には、除去液の液滴から基板の表面に作用する物理力によって、供給領域において凹凸パターンが倒壊するおそれがある。除去工程の開始前に供給領域を保護液の液膜で覆えば、供給領域において凹凸パターンに作用する物理力を適度に低減し、凹凸パターンを保護することができる。
連続流の液体が基板の表面に供給されるときに基板の表面に作用する物理力は、液滴が基板の表面に供給されるときに基板の表面に作用する物理力と比較して極めて小さい。したがって、保護液の供給に起因する基板の表面の損傷を抑制または防止することができる。特に、基板の表面に凹凸パターンが形成されている場合において、保護液を連続流で基板の表面に供給すれば、保護液の供給に起因する凹凸パターンの倒壊を抑制または防止できる。
【0031】
この発明の他の実施形態では、前記基板処理装置が、前記基板の表面に保護液の連続流で供給する第2保護液供給ユニットをさらに含む。そして、前記コントローラが、前記除去工程において前記基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、前記基板の表面に保護液を前記第2保護液供給ユニットから連続流で供給する保護液並行供給工程を実行するようにプログラムされている。
【0032】
この装置によれば、除去工程において基板の表面に除去液を液滴状態で供給している間に、基板の表面に保護液が連続流で供給される。そのため、除去工程において、基板の表面が保護液で覆われた状態を維持できる。これにより、基板の表面において除去液が液滴状態で供給される領域に作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴の物理力を基板の表面の全体に分散させることができる。これにより、基板の表面(特に基板の表面に形成された凹凸パターン)を保護しつつ、処理膜および除去対象物を基板の表面から除去することができる。
【0033】
この発明の他の実施形態では、前記保護液が前記処理膜を部分的に溶解させる性質を有する。
この装置によれば、保護液によって処理膜が部分的に溶解される。そのため、保護液によって処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これによって、処理膜を効率良く分裂させ、処理膜を基板の表面から効率良く剥離させることができる。その結果、処理膜を基板の表面から効率良く除去することができる。
【0034】
この発明の他の実施形態では、前記基板処理装置が、前記処理膜を溶解させる溶解液を前記基板の表面に供給する溶解液供給ユニットをさらに含む。そして、前記コントローラが、前記溶解液供給ユニットから前記溶解液を供給して、前記除去工程後に前記基板の表面に残る前記処理膜の残渣を除去する残渣除去工程を実行するようにプログラムされている。
【0035】
除去工程において基板の表面から処理膜を除去した後に、基板の表面に処理膜の残渣が残る場合がある。そこで、処理膜を溶解させる溶解液を基板の表面に供給することによって、基板の表面に残った処理膜の残渣を除去することができる。これにより、基板の表面を良好に洗浄することができる。
この発明の他の実施形態では、前記コントローラが、前記除去工程において、前記除去液を液滴状態で前記基板の表面に供給することによって、前記処理膜を前記除去液に部分的に溶解させる工程を実行する。
【0036】
この装置によれば、除去液によって処理膜が部分的に溶解される。そのため、処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜に作用させることができる。これによって、処理膜を効率良く分裂させ、基板の表面から処理膜を効率良く剥離することができる。その結果、処理膜を基板の表面から効率良く除去することができる。
この発明の一実施形態では、前記溶質が、高溶解性物質と、前記高溶解性物質よりも前記除去液に対する溶解性が低い低溶解性物質とを有する。前記コントローラが、前記処理膜形成工程において、固体状態の前記高溶解性物質および固体状態の前記低溶解性物質を有する前記処理膜を形成する工程を実行する。そして、前記コントローラが、前記除去工程において、前記除去液に前記処理膜中の固体状態の前記高溶解性物質を選択的に溶解させることによって、前記基板の表面からの前記処理膜の剥離および前記処理膜の分裂を促進する工程を実行する。
この発明の一実施形態では、前記溶質が、溶解力強化物質を有する。そして、前記コントローラが、前記除去工程において、前記基板の表面に供給された前記除去液に前記処理膜から前記溶解力強化物質を溶け出させることによって、前記基板の表面に供給された前記除去液が前記処理膜を溶解させる溶解力を強化し、前記溶解力が強化された前記除去液に前記処理膜を部分的に溶解させる工程を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、この発明の第1実施形態に係る基板処理装置のレイアウトを示す模式的な平面図である。
【
図2】
図2は、前記基板処理装置に備えられる処理ユニットの概略構成を示す模式的な部分断面図である。
【
図3A】
図3Aは、前記基板処理装置に備えられた除去液供給ユニットおよび保護液供給ユニットの模式的な側面図である。
【
図3B】
図3Bは、前記除去液供給ユニットおよび前記保護液供給ユニットの模式的な平面図である。
【
図4】
図4は、前記基板処理装置の主要部の電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、前記基板処理装置による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
【
図6A】
図6Aは、前記基板処理の処理液供給工程(ステップS5)の様子を説明するための模式図である。
【
図6B】
図6Bは、前記基板処理の薄膜化工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
【
図6C】
図6Cは、前記基板処理の薄膜化工程(ステップS6)の様子を説明するための模式図である。
【
図6D】
図6Dは、前記基板処理の固体形成工程(ステップS7)の様子を説明するための模式図である。
【
図6E】
図6Eは、前記基板処理の保護液膜形成工程(ステップS8)の様子を説明するための模式図である。
【
図6F】
図6Fは、前記基板処理の除去工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
【
図6G】
図6Gは、前記基板処理の第2リンス工程(ステップS10)の様子を説明するための模式図である。
【
図6H】6Hは、前記基板処理の第2有機溶剤供給工程(ステップS11)の様子を説明するための模式図である。
【
図6I】
図6Iは、前記基板処理のスピンドライ工程(ステップS12)の様子を説明するための模式図である。
【
図7A】
図7Aは、前記基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図7B】
図7Bは、前記基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図7C】
図7Cは、前記基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、保護液としてアルカリ性水溶液を用いた場合において、基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図9A】
図9Aは、この発明の第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図9B】
図9Bは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図9C】
図9Cは、第2実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図10A】
図10Aは、この発明の第3実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図10B】
図10Bは、第3実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図10C】
図10Cは、第3実施形態に係る基板処理装置による基板処理において基板から処理膜が除去されるときの様子を説明するための模式図である。
【
図11】
図11は、前記基板処理において、前記保護液膜形成工程を省略した場合の前記除去工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
【
図12】
図12は、前記基板処理において、前記除去工程における保護液の供給を省略した場合の前記除去工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
【
図13】
図13は、前記基板処理において、前記除去工程における保護液の供給、および、前記保護液膜形成工程を省略した場合の前記除去工程(ステップS9)の様子を説明するための模式図である。
【
図14】
図14は、前記保護液供給ユニットとともに別の保護液供給ユニットがノズルホルダに保持されている構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、この発明の第1実施形態にかかる基板処理装置1のレイアウトを示す模式的な平面図である。
基板処理装置1は、シリコンウエハなどの基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。この実施形態では、基板Wは、円板状の基板である。
【0039】
基板処理装置1は、基板Wを流体で処理する複数の処理ユニット2と、処理ユニット2で処理される複数枚の基板Wを収容するキャリヤCが載置されるロードポートLPと、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する搬送ロボットIRおよびCRと、基板処理装置1を制御するコントローラ3とを含む。
搬送ロボットIRは、キャリヤCと搬送ロボットCRとの間で基板Wを搬送する。搬送ロボットCRは、搬送ロボットIRと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する。複数の処理ユニット2は、たとえば、同様の構成を有している。詳しくは後述するが、処理ユニット2内で基板Wに供給される処理流体には、薬液、リンス液、処理液、除去液、保護液、熱媒、溶解液、不活性ガス等が含まれる。
【0040】
各処理ユニット2は、チャンバ4と、チャンバ4内に配置された処理カップ7とを備えており、処理カップ7内で基板Wに対する処理を実行する。チャンバ4には、搬送ロボットCRによって、基板Wを搬入したり基板Wを搬出したりするための出入口(図示せず)が形成されている。チャンバ4には、この出入口を開閉するシャッタユニット(図示せず)が備えられている。
【0041】
図2は、処理ユニット2の構成例を説明するための模式図である。処理ユニット2は、スピンチャック5と、対向部材6と、処理カップ7と、第1移動ノズル8と、第2移動ノズル9と、第3移動ノズル10と、第4移動ノズル11と、中央ノズル14と、下面ノズル15とを含む。
スピンチャック5は、基板Wを水平に保持しながら、基板Wの中央部を通る鉛直な回転軸線A1(鉛直軸線)まわりに基板Wを回転させる。スピンチャック5は、複数のチャックピン20と、スピンベース21と、回転軸22と、スピンモータ23とを含む。
【0042】
スピンベース21は、水平方向に沿う円板形状を有している。スピンベース21の上面には、基板Wの周縁を把持する複数のチャックピン20が、スピンベース21の周方向に間隔を空けて配置されている。スピンベース21および複数のチャックピン20は、基板Wを水平に保持する基板保持ユニットを構成している。基板保持ユニットは、基板ホルダともいう。
【0043】
回転軸22は、回転軸線A1に沿って鉛直方向に延びている。回転軸22の上端部は、スピンベース21の下面中央に結合されている。スピンモータ23は、回転軸22に回転力を与える。スピンモータ23によって回転軸22が回転されることにより、スピンベース21が回転される。これにより、基板Wが回転軸線A1のまわりに回転される。スピンモータ23は、回転軸線A1まわりに基板Wを回転させる基板回転ユニットの一例である。
【0044】
対向部材6は、スピンチャック5に保持された基板Wに上方から対向する。対向部材6は、基板Wとほぼ同じ径またはそれ以上の径を有する円板状に形成されている。対向部材6は、基板Wの上面(上側の表面)に対向する対向面6aを有する。対向面6aは、スピンチャック5よりも上方でほぼ水平面に沿って配置されている。
対向部材6において対向面6aとは反対側には、中空軸60が固定されている。対向部材6において平面視で回転軸線A1と重なる部分には、対向部材6を上下に貫通し、中空軸60の内部空間60aと連通する連通孔6bが形成されている。
【0045】
対向部材6は、対向面6aと基板Wの上面との間の空間内の雰囲気を当該空間の外部の雰囲気から遮断する。そのため、対向部材6は、遮断板ともいう。
処理ユニット2は、対向部材6の昇降を駆動する対向部材昇降ユニット61をさらに含む。対向部材昇降ユニット61は、下位置から上位置までの任意の位置(高さ)に対向部材6を位置させることができる。下位置とは、対向部材6の可動範囲において、対向面6aが基板Wに最も近接する位置である。上位置とは、対向部材6の可動範囲において対向面6aが基板Wから最も離間する位置である。
【0046】
対向部材昇降ユニット61は、たとえば、中空軸60を支持する支持部材(図示せず)に結合されたボールねじ機構(図示せず)と、当該ボールねじ機構に駆動力を与える電動モータ(図示せず)とを含む。対向部材昇降ユニット61は、対向部材リフタ(遮断板リフタ)ともいう。
処理カップ7は、スピンチャック5に保持された基板Wから外方に飛散する液体を受け止める複数のガード71と、複数のガード71によって下方に案内された液体を受け止める複数のカップ72と、複数のガード71と複数のカップ72とを取り囲む円筒状の外壁部材73とを含む。
【0047】
この実施形態では、2つのガード71(第1ガード71Aおよび第2ガード71B)と、2つのカップ72(第1カップ72Aおよび第2カップ72B)とが設けられている例を示している。
第1カップ72Aおよび第2カップ72Bのそれぞれは、上向きに開放された環状溝の形態を有している。
【0048】
第1ガード71Aは、スピンベース21を取り囲むように配置されている。第2ガード71Bは、第1ガード71Aよりも基板Wの回転径方向外方でスピンベース21を取り囲むように配置されている。
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、それぞれ、ほぼ円筒形状を有しており、各ガード71A,71Bの上端部は、スピンベース21に向かうように内方に傾斜している。
【0049】
第1カップ72Aは、第1ガード71Aによって下方に案内された液体を受け止める。第2カップ72Bは、第1ガード71Aと一体に形成されており、第2ガード71Bによって下方に案内された液体を受け止める。
処理ユニット2は、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを別々に昇降させるガード昇降ユニット74を含む。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第1ガード71Aを昇降させる。ガード昇降ユニット74は、下位置と上位置との間で第2ガード71Bを昇降させる。
【0050】
第1ガード71Aおよび第2ガード71Bがともに上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第1ガード71Aによって受けられる。第1ガード71Aが下位置に位置し、第2ガード71Bが上位置に位置するとき、基板Wから飛散する液体は、第2ガード71Bによって受けられる。
ガード昇降ユニット74は、たとえば、第1ガード71Aに結合された第1ボールねじ機構(図示せず)と、第1ボールねじ機構に駆動力を与える第1モータ(図示せず)と、第2ガード71Bに結合された第2ボールねじ機構(図示せず)と、第2ボールねじ機構に駆動力を与える第2モータ(図示せず)とを含む。ガード昇降ユニット74は、ガードリフタともいう。
【0051】
第1移動ノズル8は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて薬液を供給(吐出)する薬液ノズル(薬液供給ユニット)の一例である。
第1移動ノズル8は、第1ノズル移動ユニット36によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第1移動ノズル8は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
【0052】
第1移動ノズル8は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。基板Wの上面の回転中心とは、基板Wの上面における回転軸線A1との交差位置である。第1移動ノズル8は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。
第1移動ノズル8は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0053】
第1ノズル移動ユニット36は、たとえば、鉛直方向に沿う回動軸(図示せず)と、回動軸に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
回動軸駆動ユニットは、回動軸を鉛直な回動軸線まわりに回動させることによってアームを揺動させる。さらに、回動軸駆動ユニットは、回動軸を鉛直方向に沿って昇降することにより、アームを上下動させる。第1移動ノズル8はアームに固定される。アームの揺動および昇降に応じて、第1移動ノズル8が水平方向および鉛直方向に移動する。
【0054】
第1移動ノズル8は、薬液を案内する薬液配管40に接続されている。薬液配管40に介装された薬液バルブ50が開かれると、薬液が、第1移動ノズル8から下方に連続的に吐出される。
第1移動ノズル8から吐出される薬液は、たとえば、硫酸、酢酸、硝酸、塩酸、フッ酸、アンモニア水、過酸化水素水、有機酸(たとえば、クエン酸、蓚酸等)、有機アルカリ(たとえば、TMAH:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等)、界面活性剤、腐食防止剤のうちの少なくとも1つを含む液である。これらを混合した薬液の例としては、SPM液(sulfuric acid/hydrogen peroxide mixture:硫酸過酸化水素水混合液)、SC1液(ammonia-hydrogen peroxide mixture:アンモニア過酸化水素水混合液)等が挙げられる。
【0055】
第2移動ノズル9は、スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて処理液を供給(吐出)する処理液ノズル(処理液供給ユニット)の一例である。
第2移動ノズル9は、第2ノズル移動ユニット37によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第2移動ノズル9は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。第2移動ノズル9は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。第2移動ノズル9は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第2移動ノズル9は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0056】
第2ノズル移動ユニット37は、第1ノズル移動ユニット36と同様の構成を有している。すなわち、第2ノズル移動ユニット37は、たとえば、鉛直方向に沿う回動軸(図示せず)と、回動軸および第2移動ノズル9に結合されて水平に延びるアーム(図示せず)と、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット(図示せず)とを含む。
第2移動ノズル9は、処理液を案内する処理液配管41に接続されている。処理液配管41に介装された処理液バルブ51が開かれると、処理液が、第2移動ノズル9から下方に連続的に吐出される。
【0057】
第2移動ノズル9から吐出される処理液は、溶質および溶媒を含んでいる。この処理液は、溶媒の少なくとも一部が揮発(蒸発)することによって固化または硬化する。この処理液は、基板W上で固化または硬化することによって、基板W上に存在するパーティクル等の除去対象物を保持する処理膜を形成する。除去対象物は、たとえば、ドライエッチング後またはアッシング後において、基板Wの表面に付着する異物である。
【0058】
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶質は、たとえば、ノボラックである。第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒は、溶質を溶解させる液体であればよく、たとえば、IPA等のアルコール類である。処理液に含まれる溶媒は、除去液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。
第1実施形態で用いられる処理液に含まれる溶媒としては、後述する第2実施形態で用いられる処理液に含まれる溶媒として挙げられているものを用いることができる。第1実施形態で用いられる処理液に含まれる溶質としては、後述する第2実施形態で用いられる処理液に含まれる低溶解性物質として挙げられているものを用いることができる。
【0059】
ここで、「固化」とは、たとえば、溶媒の揮発に伴い、分子間や原子間に作用する力等によって溶質が固まることを指す。「硬化」とは、たとえば、重合や架橋等の化学的な変化によって、溶質が固まることを指す。したがって、「固化または硬化」とは、様々な要因によって溶質が「固まる」ことを表している。
第3移動ノズル10は、多数の除去液の液滴を噴射するスプレーノズルである。スピンチャック5に保持された基板Wの上面に向けて純水等の除去液を液滴状態で供給(吐出)する除去液ノズル(除去液供給ユニット)の一例である。除去液は、基板Wの上面に形成された処理膜と基板Wの上面に存在する除去対象物とを基板Wの上面から除去するための液体である。
【0060】
第3移動ノズル10は、第3ノズル移動ユニット38によって、水平方向および鉛直方向に移動される。第3移動ノズル10は、水平方向において、中心位置と、ホーム位置(退避位置)との間で移動することができる。
第3移動ノズル10は、中心位置に位置するとき、基板Wの上面の回転中心に対向する。第3移動ノズル10は、ホーム位置に位置するとき、基板Wの上面には対向せず、平面視において、処理カップ7の外方に位置する。第3移動ノズル10は、鉛直方向への移動によって、基板Wの上面に接近したり、基板Wの上面から上方に退避したりできる。
【0061】
第3ノズル移動ユニット38は、たとえば、鉛直方向に沿う回動軸38Cと、回動軸および第3移動ノズル10に結合されて水平に延びるノズルアーム38Aと、回動軸を昇降させたり回動させたりする回動軸駆動ユニット38Dとを含む。
回動軸駆動ユニット38Dは、回動軸38Cを鉛直な回動軸線A2まわりに回動させることによってノズルアーム38Aを揺動させる。さらに、回動軸駆動ユニット38Dは、回動軸38Cを鉛直方向に沿って昇降することにより、ノズルアーム38Aを上下動させる。第3移動ノズル10はノズルアーム38Aの先端に固定される。ノズルアーム38Aの揺動および昇降に応じて、第3移動ノズル10が水平方向および鉛直方向に移動する。
【0062】
第3移動ノズル10は、除去液配管42を介して除去液供給源に接続されている。さらに、第3移動ノズル10は、排出バルブ53が介装された排出配管43に接続されている。除去液供給源と除去液配管42との間には、除去液バルブ52およびポンプ90が配置されている。
除去液は、ポンプ90によって除去液供給源から除去液配管42に送液される。除去液は、常時、所定圧力(たとえば、10MPa以下)で第3移動ノズル10に供給されている。ポンプ90は、第3移動ノズル10に供給される除去液の圧力を任意の圧力に変更することができる。
【0063】
第3移動ノズル10には、圧電素子(ピエゾ素子)91が内蔵されている。圧電素子91は、配線92を介して電圧印加ユニット93に接続されている。電圧印加ユニット93は、たとえば、インバータを含む。電圧印加ユニット93は、交流電圧を圧電素子91に印加する。交流電圧が圧電素子91に印加されると、印加された交流電圧の周波数に対応する周波数で圧電素子91が振動する。電圧印加ユニット93は、圧電素子91に印加される交流電圧の周波数を任意の周波数(たとえば、数百KHz~数MHz)に変更することができる。
【0064】
第3移動ノズル10から吐出される除去液は、たとえば、純水(好ましくはDIW)である。除去液は、純水に限られず、アルカリ性水溶液(アルカリ性液体)、中性および酸性のいずれかの水溶液(非アルカリ性水溶液)であってもよい。アルカリ性水溶液の具体例として、アンモニア水、SC1液、TMAH水溶液、および、コリン水溶液、ならびにこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0065】
第4移動ノズル11は、保護液を連続流で基板Wの上面に供給する保護液ノズル(保護液供給ユニット)の一例である。保護液は、基板Wの表面に形成された凹凸パターンを液滴状態の除去液から保護するための液体である。
第4移動ノズル11は、ノズルアーム38Aに取り付けられたノズルホルダ38Bに保持されている。そのため、第4移動ノズル11は、第3ノズル移動ユニット38によって、第3移動ノズル10と一体的に移動される。
【0066】
第4移動ノズル11は、保護液配管47に接続されている。保護液配管47には、保護液バルブ57Aおよび保護流量調整バルブ57Bが介装されている。
第4移動ノズル11から吐出される保護液は、たとえば、純水(好ましくはDIW)である。除去液は、純水に限られず、アルカリ性水溶液(アルカリ性液体)、中性および酸性のいずれかの水溶液(非アルカリ性水溶液)であってもよい。アルカリ性水溶液の具体例として、アンモニア水、SC1液、TMAH水溶液、および、コリン水溶液、ならびにこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
【0067】
中央ノズル14は、対向部材6の中空軸60の内部空間60aに収容されている。中央ノズル14の先端に設けられた吐出口14aは、基板Wの上面の中央領域に上方から対向する。基板Wの上面の中央領域とは、基板Wの上面において基板Wの回転中心およびその周囲を含む領域のことである。
中央ノズル14は、流体を下方に吐出する複数のチューブ(第1チューブ31、第2チューブ32および第3チューブ33)と、複数のチューブを取り囲む筒状のケーシング30とを含む。複数のチューブおよびケーシング30は、回転軸線A1に沿って上下方向に延びている。中央ノズル14の吐出口14aは、第1チューブ31の吐出口でもあり、第2チューブ32の吐出口でもあり、第3チューブ33の吐出口でもある。
【0068】
第1チューブ31(中央ノズル14)は、リンス液を連続流で基板Wの上面に供給するリンス液供給ユニットの一例である。第2チューブ32(中央ノズル14)は、気体を基板Wの上面と対向部材6の対向面6aとの間に供給する気体供給ユニットの一例である。第3チューブ33(中央ノズル14)は、IPA等の有機溶剤を連続流で基板Wの上面に供給する有機溶剤供給ユニットの一例である。
【0069】
第1チューブ31は、リンス液を第1チューブ31に案内する上側リンス液配管44に接続されている。上側リンス液配管44に介装された上側リンス液バルブ54が開かれると、リンス液が、第1チューブ31(中央ノズル14)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
リンス液の例としては、DIW、炭酸水、電解イオン水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)の塩酸水、希釈濃度(たとえば、1ppm~100ppm程度)のアンモニア水、還元水(水素水)等が挙げられる。
【0070】
第2チューブ32は、気体を第2チューブ32に案内する気体配管45に接続されている。気体配管45に介装された気体バルブ55が開かれると、気体が、第2チューブ32(中央ノズル14)から下方に連続的に吐出される。
第2チューブ32から吐出される気体は、たとえば、窒素ガス(N2)等の不活性ガスである。第2チューブ32から吐出される気体は、空気であってもよい。不活性ガスとは、窒素ガスに限られず、基板Wの上面や、基板Wの上面に形成されたパターンに対して不活性なガスのことである。不活性ガスの例としては、窒素ガスの他に、アルゴン等の希ガス類が挙げられる。
【0071】
第3チューブ33は、有機溶剤を第3チューブ33に案内する有機溶剤配管46に接続されている。有機溶剤配管46に介装された有機溶剤バルブ56が開かれると、有機溶剤が、第3チューブ33(中央ノズル14)から基板Wの上面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
第3チューブ33から吐出される有機溶剤は、除去液によって処理膜を除去した後の基板Wの上面に残る残渣を除去する残渣除去液である。第3チューブ33から吐出される有機溶剤は、処理液およびリンス液と相溶性を有することが好ましい。
【0072】
第3チューブ33から吐出される有機溶剤の例としては、IPA、HFE(ハイドロフルオロエーテル)、メタノール、エタノール、アセトンおよびTrans-1,2-ジクロロエチレンのうちの少なくとも1つを含む液等が挙げられる。
また、第3チューブ33から吐出される有機溶剤は、単体成分のみからなる必要はなく、他の成分と混合した液体であってもよい。たとえば、IPAとDIWとの混合液であってもよいし、IPAとHFEとの混合液であってもよい。
【0073】
下面ノズル15は、スピンベース21の上面中央部で開口する貫通孔21aに挿入されている。下面ノズル15の吐出口15aは、スピンベース21の上面から露出されている。下面ノズル15の吐出口15aは、基板Wの下面(下側の表面)の中央領域に下方から対向する。基板Wの下面の中央領域とは、基板Wの下面において基板Wの回転中心を含む領域のことである。
【0074】
下面ノズル15には、リンス液、除去液、および熱媒を下面ノズル15に共通に案内する共通配管80の一端が接続されている。共通配管80の他端には、共通配管80にリンス液を案内する下側リンス液配管81と、共通配管80に除去液を案内する下側除去液配管82と、共通配管80に熱媒を案内する熱媒配管83とが接続されている。
下側リンス液配管81に介装された下側リンス液バルブ86が開かれると、リンス液が、下面ノズル15から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。下側除去液配管82に介装された下側除去液バルブ87が開かれると、除去液が、下面ノズル15から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。熱媒配管83に介装された熱媒バルブ88が開かれると、熱媒が、下面ノズル15から基板Wの下面の中央領域に向けて連続流で吐出される。
【0075】
下面ノズル15は、基板Wの下面にリンス液を連続流で供給する下側リンス液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル15は、基板Wの下面に除去液を連続流で供給する下側除去液供給ユニットの一例である。また、下面ノズル15は、基板Wを加熱するための熱媒を基板Wに連続流で供給する熱媒供給ユニットの一例である。下面ノズル15は、基板Wを加熱する基板加熱ユニットでもある。
【0076】
下面ノズル15から吐出される熱媒は、たとえば、室温よりも高く、処理液に含まれる溶媒の沸点よりも低い温度の高温DIWである。処理液に含まれる溶媒がIPAである場合、熱媒としては、たとえば、60℃~80℃のDIWが用いられる。下面ノズル15から吐出される熱媒は、高温DIWには限られず、室温よりも高く、処理液に含有される溶媒の沸点よりも低い温度の高温不活性ガスや高温空気等の高温気体であってもよい。
【0077】
図3Aは、第3移動ノズル10および第4移動ノズル11の模式的な側面図である。
図3Bは、第3移動ノズル10および第4移動ノズル11の模式的な平面図である。
図3Aに示すように、第3移動ノズル10は、除去液の液滴を噴射する本体94と、本体94を覆うカバー95と、カバー95によって覆われた圧電素子91と、本体94とカバー95との間に介在するシール96とを含む。
【0078】
本体94およびカバー95は、いずれも耐薬性を有する材料によって形成されている。本体94は、たとえば、石英によって形成されている。カバー95は、たとえば、フッ素系の樹脂によって形成されている。
シール96は、たとえば、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)などの弾性材料によって形成されている。本体94は、耐圧性を有している。本体94の一部と圧電素子91とは、カバー95の内部に収容されている。配線92の一端は電圧印加ユニット93に接続されている。配線92の他端は、たとえば半田によって、カバー95の内部で圧電素子91に接続されている。カバー95の内部は、シール96によって密閉されている。
【0079】
本体94は、除去液が供給される供給口94aと、供給口94aに供給された除去液を排出する排出口94bと、供給口94aと排出口94bとを接続する除去液流通路94cと、除去液流通路94cに接続された複数の噴射口94d(吐出口)とを含む。
除去液流通路94cは、本体94の内部に設けられている。供給口94a、排出口94b、および噴射口94dは、本体94の表面で開口している。供給口94aおよび排出口94bは、噴射口94dよりも上方に位置している。本体94の下面は、たとえば、水平な平坦面であり、噴射口94dは、本体94の下面で開口している。噴射口94dは、たとえば数μm~数十μmの直径を有する微細孔である。除去液配管42および排出配管43は、それぞれ、供給口94aおよび排出口94bに接続されている。
【0080】
図3Bに示すように、複数の噴射口94dは、複数(たとえば、4つ)の列Lを構成している。各列Lは、等間隔で配列された多数(たとえば、10個以上)の噴射口94dによって構成されている。各列Lは、水平な長手方向D1に沿って直線状に延びている。各列Lは、直線状に限らず、曲線状であってもよい。4つの列Lは、平行である。4つの列Lのうちの2つの列Lは、長手方向D1に直交する水平な方向に隣接している。同様に、残り2つの列Lも、長手方向D1に直交する水平な方向に隣接している。
【0081】
隣接する2つの列Lは、対をなしている。対の2つの列Lにおいて、一方の列Lを構成する複数の噴射口94dと、他方の列Lを構成する複数の噴射口94dとは、長手方向D1にずれている。第3移動ノズル10は、鉛直方向から見たときに、たとえば、4つの列Lが第3移動ノズル10の移動軌跡に交差するようにノズルアーム38Aに保持されている。
【0082】
第3移動ノズル10には、常時、高圧で除去液が供給されている。供給口94aに供給された除去液は、除去液流通路94cに供給される。排出バルブ53が閉じられている状態では、除去液流通路94cにおける除去液の圧力(液圧)が高い。そのため、排出バルブ53が閉じられている状態では、液圧によって各噴射口94dから除去液が噴射される。さらに、排出バルブ53が閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子91に印加されると、除去液流通路94cを流れる除去液に圧電素子91の振動が付与され、各噴射口94dから噴射される除去液が、この振動によって分断される。そのため、排出バルブ53が閉じられている状態で、交流電圧が圧電素子91に印加されると、液滴状態の除去液が各噴射口94dから噴射される。これにより、粒径が均一な多数の除去液の液滴が均一な速度で同時に噴射される。
【0083】
一方、排出バルブ53が開かれている状態では、除去液流通路94cに供給された除去液が、排出口94bから排出配管43に排出される。すなわち、排出バルブ53が開かれている状態では、除去液流通路94cでの液圧が十分に上昇していないため、除去液流通路94cに供給された除去液は、微細孔である噴射口94dから噴射されずに、排出口94bから排出配管43に排出される。したがって、噴射口94dからの除去液の吐出は、排出バルブ53の開閉により制御される。
【0084】
基板Wの上面において液滴状態の除去液が供給される領域(除去液の液滴が吹き付けられる領域)のことを供給領域Sという。第4移動ノズル11は、基板W上の狙い位置P1に向かって保護液を吐出する。狙い位置P1は、基板Wの回転方向Drに関して、供給領域Sよりも上流側の位置である。
図4は、基板処理装置1の主要部の電気的構成を示すブロック図である。コントローラ3は、マイクロコンピュータを備え、所定の制御プログラムに従って基板処理装置1に備えられた制御対象を制御する。
【0085】
具体的には、コントローラ3は、プロセッサ(CPU)3Aと、制御プログラムが格納されたメモリ3Bとを含む。コントローラ3は、プロセッサ3Aが制御プログラムを実行することによって、基板処理のための様々な制御を実行するように構成されている。
特に、コントローラ3は、搬送ロボットIR,CR、スピンモータ23、第1ノズル移動ユニット36、第2ノズル移動ユニット37、第3ノズル移動ユニット38、対向部材昇降ユニット61、ガード昇降ユニット74、ポンプ90、電圧印加ユニット93、薬液バルブ50、処理液バルブ51、除去液バルブ52、排出バルブ53、上側リンス液バルブ54、気体バルブ55、有機溶剤バルブ56、保護液バルブ57A、保護流量調整バルブ57B、下側リンス液バルブ86、下側除去液バルブ87および熱媒バルブ88を制御するようにプログラムされている。コントローラ3によってバルブが制御されることによって、対応するノズルからの処理流体の吐出の有無や、対応するノズルからの処理流体の吐出流量が制御される。
【0086】
図5は、基板処理装置1による基板処理の一例を説明するための流れ図である。
図5には、主として、コントローラ3がプログラムを実行することによって実現される処理が示されている。
図6A~
図6Iは、前記基板処理の各工程の様子を説明するための模式図である。
基板処理装置1による基板処理では、たとえば、
図5に示すように、基板搬入工程(ステップS1)、薬液供給工程(ステップS2)、第1リンス工程(ステップS3)、第1有機溶剤供給工程(ステップS4)、処理液供給工程(ステップS5)、薄膜化工程(ステップS6)、固体形成工程(ステップS7)、保護液膜形成工程(ステップS8)、除去工程(ステップS9)、第2リンス工程(ステップS10)、第2有機溶剤供給工程(ステップS11)、スピンドライ工程(ステップS12)および基板搬出工程(ステップS13)がこの順番で実行される。
【0087】
まず、未処理の基板Wは、搬送ロボットIR,CR(
図1参照)によってキャリヤCから処理ユニット2に搬入され、スピンチャック5に渡される(ステップS1)。これにより、基板Wは、スピンチャック5によって水平に保持される(基板保持工程)。スピンチャック5による基板Wの保持は、スピンドライ工程(ステップS12)が終了するまで継続される。基板Wの搬入時には、対向部材6は、上位置に退避している。
【0088】
次に、搬送ロボットCRが処理ユニット2外に退避した後、薬液供給工程(ステップS2)が開始される。具体的には、スピンモータ23が、スピンベース21を回転させる。これにより、水平に保持された基板Wが回転される(基板回転工程)。ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを上位置に移動させる。
第1ノズル移動ユニット36が第1移動ノズル8を処理位置に移動させる。第1移動ノズル8の処理位置は、たとえば中央位置である。そして、薬液バルブ50が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第1移動ノズル8から薬液が供給(吐出)される。基板Wの上面に供給された薬液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板Wの上面が薬液によって処理される。第1移動ノズル8からの薬液の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。薬液供給工程において、基板Wは、所定の薬液回転数、たとえば、800rpmで回転される。
【0089】
次に、第1リンス工程(ステップS3)が開始される。第1リンス工程では、基板W上の薬液がリンス液によって洗い流される。
具体的には、薬液バルブ50が閉じられる。これにより、基板Wに対する薬液の供給が停止される。そして、第1ノズル移動ユニット36が第1移動ノズル8をホーム位置に移動させる。そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置と下位置との間の処理位置に移動させる。対向部材6が処理位置に位置するとき、基板Wの上面と対向面6aとの間の距離は、たとえば、30mmである。第1リンス工程において、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、上位置に維持されている。
【0090】
対向部材6が処理位置に位置する状態で、上側リンス液バルブ54が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル14からリンス液が供給(吐出)される。中央ノズル14から基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板Wの上面の薬液が基板W外に洗い流される。第1リンス工程において、基板Wは、所定の第1リンス回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0091】
上側リンス液バルブ54が開かれるのとほぼ同時に、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル15からリンス液が供給(吐出)される。下面ノズル15から基板Wの下面に供給されたリンス液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。薬液供給工程によって基板Wから飛散した薬液が下面に付着した場合であっても、下面ノズル15から供給されたリンス液によって、下面に付着した薬液が洗い流される。
【0092】
中央ノズル14および下面ノズル15からのリンス液の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。
次に、第1有機溶剤供給工程(ステップS4)が開始される。第1有機溶剤供給工程では、基板W上のリンス液が有機溶剤によって置換される。
具体的には、上側リンス液バルブ54および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。そして、ガード昇降ユニット74が、第2ガード71Bを上位置に維持した状態で、第1ガード71Aを下位置に移動させる。対向部材6は、処理位置に維持される。
【0093】
対向部材6が処理位置に維持された状態で、有機溶剤バルブ56が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル14から有機溶剤が供給(吐出)される。
中央ノズル14から基板Wの上面に供給された有機溶剤は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板W上のリンス液が有機溶剤によって置換される。中央ノズル14からの有機溶剤の吐出は、所定時間、たとえば、10秒間継続される。
【0094】
第1有機溶剤供給工程において、基板Wは、所定の第1有機溶剤回転速度で、たとえば、300rpm~1500rpmで回転される。基板Wは、第1有機溶剤供給工程において一定の回転速度で回転する必要はない。たとえば、スピンモータ23は、有機溶剤の供給開始時に基板Wを300rpmで回転させ、基板Wに有機溶剤を供給しながら基板Wの回転速度が1500rpmになるまで基板Wの回転を加速させてもよい。
【0095】
次に、処理液供給工程(ステップS5)が開始される。処理液供給工程では、基板W上の有機溶剤が処理液によって置換される。
具体的には、有機溶剤バルブ56が閉じられる。これにより、基板Wに対する有機溶剤の供給が停止される。そして、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を上位置に移動させる。そして、ガード昇降ユニット74が、第1ガード71Aを上位置に移動させる。処理液供給工程において、基板Wは、所定の処理液回転速度、たとえば、1500rpmで回転される。
【0096】
対向部材6が上位置に退避した状態で、
図6Aに示すように、第2ノズル移動ユニット37が、第2移動ノズル9を処理位置に移動させる。第2移動ノズル9の処理位置は、たとえば、中央位置である。
第2移動ノズル9が処理位置に位置する状態で、処理液バルブ51が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第2移動ノズル9から処理液が供給(吐出)される(処理液供給工程、処理液吐出工程)。これにより、基板W上の有機溶剤が処理液によって置換され、基板Wの上面の中央領域に処理液の液膜101が形成される(処理液膜形成工程、処理液コア形成工程)。基板Wの上面の中央領域に形成された処理液の液膜101を処理液コア102という。第2移動ノズル9からの処理液の供給は、所定時間、たとえば、2秒~4秒の間継続される。
【0097】
処理液バルブ51は、基板W上の有機溶剤の大部分が遠心力によって除去された後に開かれてもよい。この場合、基板W上に有機溶剤の液膜が残っている状態と比較して、基板Wの上面の中央領域に供給された処理液が基板Wの上面で広がりにくいため、処理液コア102が基板Wの上面の中央領域に形成されやすい。
次に、処理膜形成工程(ステップS6およびステップS7)が実行される。処理膜形成工程では、基板W上の処理液が固化または硬化されて、基板W上に存在する除去対象物を保持する処理膜100(
図6Dを参照)が基板Wの上面に形成される。
【0098】
処理膜形成工程では、まず、薄膜化工程(ステップS6)が実行される。薄膜化工程では、遠心力によって基板W上の処理液が排除されて基板Wの上面に形成された処理液の液膜101が薄くされる。
具体的には、薄膜化工程では、まず、処理液バルブ51が閉じられる。これにより、基板Wに対する処理液の供給が停止される。そして、第2ノズル移動ユニット37によって第2移動ノズル9がホーム位置に移動される。薄膜化工程では、対向部材6、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bが上位置に維持される。
【0099】
図6Bに示すように、薄膜化工程では、基板Wが所定の拡大速度で回転される。拡大速度は、たとえば、1500rpmであり、処理液回転速度と同じく高速度である。そのため、液膜101(処理液コア102)が基板Wの周縁まで速やかに広がって薄くなる(拡大薄膜化工程)。基板Wの周縁まで液膜101が広がると、
図6Cに示すように、処理液が基板Wの上面から基板Wの外方に排除され始める。
【0100】
拡大薄膜化工程における基板Wの回転速度(拡大速度)を高くする(たとえば1500rpmにする)ことによって、処理液が基板Wの上面に均等に広がりやすくなる。これにより、基板Wの上面が部分的に露出する現象(スパイク現象)が処理膜100に発生することを抑制できる。
処理液が基板Wの上面から基板Wの外方に排除され始めると、スピンモータ23は、基板Wの回転速度を所定の膜厚調整速度に変更する。これにより、処理液の液膜101が所望の厚みに調整される(膜厚調整工程)。膜厚調整速度は、たとえば、300rpmまたは1500rpmである。
【0101】
膜厚調整速度の値に依存して、薄膜化工程の終了後に基板Wの上面に残る液膜101の量(液膜101の厚み)が決定され、処理膜形成工程終了後の処理膜100の厚さ(膜厚)が決定される。膜厚調整速度が高いほど、処理膜100の膜厚が薄くされる。したがって、膜厚調整速度が1500rpmである場合、膜厚調整速度が300rpmである場合と比較して、処理膜形成工程により形成される処理膜100の膜厚が小さくなる。
【0102】
このように、スピンモータ23による基板回転速度の変更によって、処理液の液膜101が薄膜化され、処理膜100の膜厚が調整される。すなわち、スピンモータ23は、処理液の液膜101を薄膜化する薄膜化ユニットとして機能し、処理膜100の膜厚を調整する処理膜厚調整ユニットとして機能する。
処理膜形成工程では、薄膜化工程後(ステップS6)に、処理液の液膜101を固化または硬化させる固体形成工程(ステップS7)が実行される。固体形成工程では、基板W上の処理液の溶媒の一部を揮発(蒸発)させるために、基板W上の液膜101を加熱する。
【0103】
具体的には、固体形成工程では、
図6Dに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を、上位置と下位置との間の近接位置に移動させる。近接位置は、下位置であってもよい。近接位置は、基板Wの上面から対向面6aまでの距離がたとえば1mmの位置である。加熱工程では、第1ガード71Aおよび第2ガード71Bが上位置に維持される。
【0104】
そして、気体バルブ55が開かれる。これにより、基板Wの上面(液膜101の上面)と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される(気体供給工程)。
基板W上の液膜101に気体が吹き付けられることによって、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(溶媒蒸発工程、溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100の形成に必要な時間を短縮することができる。中央ノズル14は、処理液中の溶媒を蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0105】
また、熱媒バルブ88が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル15から熱媒が供給(吐出)される(熱媒供給工程、熱媒吐出工程)。下面ノズル15から基板Wの下面に供給された熱媒は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの下面の全体に行き渡る。基板Wに対する熱媒の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。固体形成工程において、基板Wは、所定の固体形成回転速度、たとえば、1000rpmで回転される。
【0106】
基板Wの下面に熱媒が供給されることによって、基板Wを介して、基板W上の液膜101が加熱される(加熱工程)。これにより、液膜101中の溶媒の蒸発(揮発)が促進される(溶媒蒸発工程、溶媒蒸発促進工程)。そのため、処理膜100の形成に必要な時間を短縮することができる。下面ノズル15は、処理液中の溶媒の蒸発させる蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0107】
薄膜化工程および固体形成工程が実行されることによって、処理液が固化または硬化されて、
図6Dに示すように、基板W上に処理膜100が形成される。このように、基板回転ユニット(スピンモータ23)、中央ノズル14および下面ノズル15は、処理液を固化または硬化させて固体(処理膜100)を形成する固体形成ユニットを構成している。
固体形成工程では、基板W上の処理液の温度が溶媒の沸点未満となるように、基板Wが加熱されることが好ましい。処理液を、溶媒の沸点未満の温度に加熱することにより、処理膜100中に溶媒を適度に残留させることができる。これにより、処理膜100内に溶媒が残留していない場合と比較して、その後の除去工程において、処理膜100中に残留した溶媒と、除去液との相互作用によって、除去液を処理膜100になじませやすい。したがって、除去液で処理膜100を除去し易くなる。
【0108】
遠心力によって基板W外に飛散した熱媒は、第1ガード71Aによって受けられる。第1ガード71Aによって受けられた熱媒は、第1ガード71Aから跳ね返る場合がある。しかしながら、対向部材6は、基板Wの上面に近接しているため、第1ガード71Aから跳ね返った熱媒から基板Wの上面を保護することができる。したがって、処理膜100の上面への熱媒の付着を抑制することができるので、第1ガード71Aからの熱媒の跳ね返りに起因するパーティクルの発生を抑制できる。
【0109】
さらに、
図6Dに示すように、中央ノズル14からの気体の供給によって、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の空間には、基板Wの上面の中央領域から基板Wの上面の周縁に向けて移動する気流Fが形成される。基板Wの上面の中央領域から基板Wの上面の周縁に向けて移動する気流Fを形成することによって、第1ガード71Aから跳ね返った熱媒を第1ガード71Aに向けて押し戻すことができる。したがって、処理膜100の上面への熱媒の付着を一層抑制することができる。
【0110】
この基板処理では、
図6Aに示す処理液供給工程(ステップS5)で基板Wの上面に供給された処理液は、基板Wの周縁を伝って基板Wの下面に回り込むことがある。また、基板Wから飛散した処理液が、第1ガード71Aから跳ね返って基板Wの下面に付着することがある。このような場合であっても、
図6Dに示すように、固体形成工程(ステップS7)において基板Wの下面に熱媒が供給されるので、その熱媒の流れによって、基板Wの下面から処理液を排除することができる。
【0111】
次に、保護液膜形成工程(ステップS8)が実行される。保護液膜形成工程では、基板Wの上面に保護液の液膜(保護液膜105)が形成される。
具体的には、熱媒バルブ88が閉じられる。これにより、基板Wの下面に対する熱媒の供給が停止される。また、気体バルブ55が閉じられる。これにより、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の空間への中央ノズル14からの気体の供給が停止される。
【0112】
中央ノズル14からの気体の供給が停止された状態で、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。そして、
図6Eに示すように、第3ノズル移動ユニット38が、第3移動ノズル10を処理位置に移動させる。
第3移動ノズル10の処理位置は、たとえば、中央位置である。このとき、第4移動ノズル11は、中央位置の側方に配置されている。
図3Bも参照して、第4移動ノズル11が保護液を吐出する基板W上の狙い位置P1を、基板Wの回転方向Drに関して供給領域Sよりも上流側の位置とするために、第3移動ノズル10を、中央位置よりも僅かに基板Wの周縁側にずれた位置に配置してもよい。
【0113】
そして、保護液バルブ57Aが開かれる。これにより、
図6Eに示すように、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、第4移動ノズル11から保護液が連続流で供給(吐出)される。基板Wの上面に供給された保護液は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に行き渡る。これにより、基板Wの上面に保護液膜105が形成される。このように、第4移動ノズル11は、第1保護液供給ユニットとして機能する。
【0114】
第4移動ノズル11からの保護液の吐出は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。保護液供給工程において、基板Wは、所定の保護液回転数、たとえば、800rpmで回転される。
次に、除去工程(ステップS9)が実行される。除去工程では、基板Wの上面から処理膜100が除去される。
【0115】
具体的には、除去液バルブ52が開かれ排出バルブ53が閉じられる。電圧印加ユニット93は、圧電素子91に交流電圧を印加する。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、
図6Fに示すように、第3移動ノズル10から除去液が液滴状態で供給(吐出)される(上側除去液供給工程、上側除去液吐出工程、液滴供給工程)。
基板Wの上面への除去液の供給は、所定時間、たとえば、60秒間継続される。除去工程において、基板Wは、所定の除去回転速度、たとえば、800rpmで回転される。
【0116】
基板Wの上面へ除去液が液滴状態で供給されている間、
図6Fに示すように、第4移動ノズル11からの保護液の供給は、継続されている(保護液並行供給工程)。このように、第4移動ノズル11は、第2保護液供給ユニットとして機能する。第4移動ノズル11から基板Wの上面への保護液の供給は、保護液膜形成工程から継続されている。
また、下側除去液バルブ87が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル15から除去液が連続流で供給(吐出)される(下側除去液供給工程、下側除去液吐出工程)。基板Wの下面に供給された除去液は、遠心力により、基板Wの下面の全体に広がる。
【0117】
基板Wの上面に除去液が液滴状態で供給されることによって、処理膜100に液滴106の物理力が作用する。除去液の液滴106の物理力とは、除去液の液滴106が保護液膜105に衝突する際の衝撃(運動エネルギー)である。
液滴106の物理力は、圧電素子91に印加される交流電圧の周波数を変更することによって、調整することができる。具体的には、圧電素子91に印加される交流電圧の周波数が大きいほど、液滴106のサイズが小さくなり、単位時間当たりに第3移動ノズル10の吐出される液滴106の数が増加する。そのため、基板Wの上面に作用する液滴106の物理力が大きくなる。
【0118】
液滴106の物理力は、ポンプ90の圧力を変更することによっても、調整することができる。具体的には、ポンプ90の圧力が大きいほど、第3移動ノズル10の噴射口94dから吐出される除去液の流量が大きくなり、かつ、液滴106の量が多くなる。そのため、基板Wの上面に作用する液滴106の物理力が大きくなる。
液滴106の物理力が、保護液膜105を介して処理膜100および除去対象物に伝達される。これにより、処理膜100および除去対象物が基板Wの上面から剥離される(剥離工程、処理膜剥離工程、除去対象物剥離工程)。さらに、処理膜100は、基板Wの上面から剥離される際に分裂して膜片となる(分裂工程)。
【0119】
基板Wの上面に除去液の液滴106を供給する際、第3ノズル移動ユニット38が中心位置と、基板Wの上面の周縁領域に対向する周縁位置との間で第3移動ノズル10を往復移動させてもよい。そうすることによって、基板Wの上面の全体に万遍なく液滴106を衝突させることができるので、液滴106の物理力が作用する箇所を処理膜100の全体に分散させることができる。
【0120】
供給領域Sが基板Wの上面の中央領域であるとき、基板Wの回転角度にかかわらず、基板Wの上面において常に同じ箇所に液滴106の物理力が作用する。一方、供給領域Sが基板Wの上面において中央領域以外の領域(たとえば、周縁領域)であるとき、基板Wの上面において液滴106の物理力を受ける箇所は、基板Wの回転に伴って変化する。そのため、供給領域Sを基板Wの上面の中央領域で固定する場合には、基板Wの上面の凹凸パターンがダメージを受けやすい。したがって、中心位置と周縁位置との間で第3移動ノズル10を往復移動させることによって、基板Wの上面の中心領域への物理力の集中を特に避けることができる。
【0121】
処理膜100の剥離および分裂後、基板Wの上面への除去液の供給が継続されることによって、分裂した処理膜100の膜片は、除去液とともに基板W外へ排除される。これにより、除去対象物および処理膜100の膜片が、基板Wの上面から除去される(除去工程)。
除去工程(ステップS9)の後、第2リンス工程(ステップS10)が実行される。具体的には、保護液バルブ57A、および下側除去液バルブ87が閉じられ、排出バルブ53が開かれる。これにより、基板Wの上面に対する保護液の供給と、基板Wの上面および下面に対する除去液の供給とが停止される。除去液バルブ52は、常時開かれていてもよい。そして、電圧印加ユニット93は、圧電素子91への交流電圧の印加を停止する。そして、第3ノズル移動ユニット38が、第3移動ノズル10および第4移動ノズル11をホーム位置に移動させる。
【0122】
第3移動ノズル10および第4移動ノズル11がホーム位置に移動した状態で、
図6Gに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置に移動させる。第2リンス工程において、基板Wは、所定の第2リンス回転速度、たとえば、800rpmで回転される。第1ガード71Aおよび第2ガード71Bは、上位置に維持される。
そして、上側リンス液バルブ54が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル14からリンス液が供給(吐出)される(第2上側リンス液供給工程、第2上側リンス液吐出工程)。基板Wの上面に供給されたリンス液は、遠心力により、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面に付着していた除去液がリンス液で洗い流される。
【0123】
また、下側リンス液バルブ86が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの下面の中央領域に向けて、下面ノズル15からリンス液が供給(吐出)される(第2下側リンス液供給工程、第2下側リンス液吐出工程)。これにより、基板Wの下面に付着していた除去液がリンス液で洗い流される。基板Wの上面および下面へのリンス液の供給は、所定時間、たとえば、35秒間継続される。
【0124】
次に、第2有機溶剤供給工程(ステップS11)が実行される。第2有機溶剤供給工程では、基板Wの上面に有機溶剤を供給することによって、基板Wの上面に残る処理膜100の残渣が有機溶剤に溶解されて除去される。
具体的には、上側リンス液バルブ54および下側リンス液バルブ86が閉じられる。これにより、基板Wの上面および下面に対するリンス液の供給が停止される。そして、
図6Hに示すように、ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aを下位置に移動させる。そして、対向部材6は、処理位置に維持される。第2有機溶剤供給工程において、基板Wは、所定の第2有機溶剤回転速度で、たとえば、300rpmで回転される。
【0125】
対向部材6が処理位置に維持されている状態で、有機溶剤バルブ56が開かれる。これにより、回転状態の基板Wの上面の中央領域に向けて、中央ノズル14から有機溶剤が供給(吐出)される(第2有機溶剤供給工程、第2有機溶剤吐出工程、残渣除去液供給工程)。基板Wの上面への有機溶剤の供給は、所定時間、たとえば、30秒間継続される。
基板Wの上面に供給された有機溶剤は、遠心力を受けて放射状に広がり、基板Wの上面の全体に広がる。これにより、基板Wの上面のリンス液が有機溶剤で置換される。基板Wの上面に供給された有機溶剤は、基板Wの上面に残る処理膜100の残渣を溶解したのち、基板Wの上面の周縁から排出される(残渣除去工程)。これにより、基板Wの上面から処理膜100の残渣を除去し、基板Wの上面を良好に洗浄することができる。
【0126】
このように、第2有機溶剤供給工程において、有機溶剤は、基板Wの上面上の処理膜100の残渣を溶解させる溶解液として機能する。また、中央ノズル14は、基板Wの上面に溶解液を供給する溶解液供給ユニットとして機能する。
次に、スピンドライ工程(ステップS12)が実行される。スピンドライ工程が実行されることによって、基板Wの上面および下面が乾燥される。
【0127】
具体的には、有機溶剤バルブ56が閉じられる。これにより、基板Wの上面への有機溶剤の供給が停止される。そして、
図6Iに示すように、対向部材昇降ユニット61が、対向部材6を処理位置よりも下方の乾燥位置に移動させる。対向部材6が乾燥位置に位置するとき、対向部材6の対向面6aと基板Wの上面との間の距離は、たとえば、1.5mmである。そして、気体バルブ55が開かれる。これにより、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間に気体が供給される。
【0128】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を加速し、基板Wを高速回転させる。スピンドライ工程における基板Wは、乾燥速度で、たとえば、1500rpmで回転される。スピンドライ工程は、所定時間、たとえば、30秒間実行される。それによって、大きな遠心力が基板W上の有機溶剤に作用し、基板W上の有機溶剤が基板Wの周囲に振り切られる。スピンドライ工程では、基板Wの上面と、対向部材6の対向面6aとの間の空間への気体の供給によって有機溶剤の蒸発が促進される。
【0129】
そして、スピンモータ23が基板Wの回転を停止させる。ガード昇降ユニット74が第1ガード71Aおよび第2ガード71Bを下位置に移動させる。気体バルブ55が閉じられる。そして、対向部材昇降ユニット61が対向部材6を上位置に移動させる。
搬送ロボットCRが、処理ユニット2に進入して、スピンチャック5のチャックピン20から処理済みの基板Wをすくい取って、処理ユニット2外へと搬出する(ステップS13)。その基板Wは、搬送ロボットCRから搬送ロボットIRへと渡され、搬送ロボットIRによって、キャリヤCに収納される。
【0130】
次に、
図7A~
図7Cを参照して、保護液および除去液がいずれも純水である場合において、処理膜100が基板Wから除去されるときの基板Wの上面付近の様子の変化について説明する。
図7Aは、固体形成工程(ステップS7)直後の基板Wの上面付近の様子を示している。
図7Bは、保護液膜形成工程(ステップS8)直後の基板Wの上面の様子を示している。
図7Cは、除去工程(ステップS9)実行中の基板Wの上面付近の様子を示している。
【0131】
処理膜形成工程において実行される固体形成工程(ステップS7)では、前述したように、基板Wの上面上の液膜101が基板Wを介して熱媒によって加熱される。溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、
図7Aに示すように、パーティクル等の除去対象物103を保持した処理膜100が形成される。
処理膜100の膜厚Tは、数十nm程度(たとえば、30nm)である。処理膜100の膜厚Tとは、除去対象物103が存在しない箇所における処理膜100の厚みのことである。基板Wの上面には、様々な大きさの除去対象物103が付着している。
図7Aでは、3種類の大きさの除去対象物103が図示されている。
【0132】
基板W上には、処理膜100の膜厚Tよりも大きい半径Rを有する第1除去対象物103Aと、処理膜100の膜厚Tよりも小さい半径を有する第2除去対象物103Bとが存在する場合がある。
第2除去対象物103Bと基板Wの上面との間には、前述の処理液供給工程において処理液が入り込む。そのため、第2除去対象物103Bと基板Wの上面との間には、溶質の固体が入り込んでいる。第2除去対象物103Bは、処理膜100によって強力に保持される。
【0133】
一方、前述の処理液供給工程において、第1除去対象物103Aと基板Wの上面との間において第1除去対象物103Aの中心の高さ位置よりも下側の空間には、処理液が上手く入り込まないことがある。
第1除去対象物103Aの中心の高さは、第1除去対象物103の半径に相当する。第1除去対象物103Aの中心の高さ位置よりも下側の空間とは、第1除去対象物103Aの中心を通る水平断面よりも下側の空間でもある。
【0134】
そのような場合には、第1除去対象物103Aと基板Wの上面との間に空洞104が形成されることがある。あるいは、処理液が第1除去対象物103Aと基板Wの上面との間において第1除去対象物103Aの中心の高さ位置よりも下側の空間に入り込んだとしても、処理液が固化される際に空洞104が形成されることもあり得る。いずれの場合であっても、処理膜100が第1除去対象物103Aを保持する保持力は、処理膜100が第2除去対象物103Bを保持する保持力よりも小さくなる。
【0135】
そして、保護液膜形成工程において基板Wの上面に保護液が供給されることによって、
図7Bに示すように、処理膜100を覆う保護液膜105が基板Wの上面に形成される。
その後、基板Wの上面に保護液膜105が形成された状態で、
図7Cに示すように除去工程において除去液の液滴106が供給されることによって、処理膜100および除去対象物103に液滴106の物理力が作用する。処理膜100に液滴106の物理力が作用することによって、処理膜100が分裂しながら膜片107となり、かつ、膜片107が基板Wの上面から剥離される(処理膜分裂工程、処理膜剥離工程)。
【0136】
第2除去対象物103Bは、処理膜100の膜片107によって強力に保持されている。そのため、第2除去対象物103Bは、処理膜100が剥離されると、処理膜100の膜片107に引っ張られて基板Wから剥離される。
第1除去対象物103Aは、処理膜100によって充分な保持力で保持されていないため、処理膜100による保持力よりも基板Wとの接着力の方が大きいことがある。このような場合、処理膜100は、除去対象物103Aを基板Wの上面から引き離すことができない。しかしながら、除去液の液滴106の物理力は、除去対象物103に直接作用する。そのため、第1除去対象物103Aを基板Wの上面から剥離することができる(除去対象物剥離工程)。
【0137】
処理膜100が分裂する際には、処理膜100に複数のクラック(ひび割れ)が形成される。クラックとは、細長い溝のことであり、クラックが処理膜100の分裂の基点となる。クラックの形成位置によっては、処理膜100の膜厚Tよりも半径が小さい第2除去対象物103Bが、処理膜100から離脱する場合も有り得る。このような場合であっても、第2除去対象物103Bに作用する除去液の液滴106の物理力によって、第2除去対象物103Bが基板Wの上面から剥離される。
【0138】
このように、処理膜100による除去対象物103の保持力の大小にかかわらず、除去対象物103を基板Wの上面から剥離することができる。
そして、除去液の供給を継続することによって、膜片107となった処理膜100が、第2除去対象物103Bを保持した状態で、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
【0139】
処理膜100によって充分に保持されていない第1除去対象物103Aや処理膜100から離脱した第2除去対象物103Bも、除去液の供給を継続することによって、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
第1実施形態によれば、基板Wの上面に供給された処理液を固化または硬化させることによって、除去対象物103を保持する処理膜100が基板の上面に形成される(処理膜形成工程)。その後、基板Wの上面に向けて除去液が液滴状態で供給される。これにより、除去液の液滴106の物理力が、処理膜100および除去対象物103に作用する。
【0140】
詳しくは、除去液の液滴106の物理力が処理膜100に作用することによって、除去対象物103を保持した状態の処理膜100が、分裂して基板Wの上面から剥離し、基板Wの上面から除去される(処理膜除去工程)。そして、除去液の液滴106の物理力が除去対象物103に作用することによって、除去対象物103が基板Wの上面から除去される(除去対象物除去工程)。
【0141】
そのため、除去液の液滴106の物理力を処理膜100に作用させて処理膜100とともに大部分の除去対象物103(第2除去対象物103B)を基板Wの上面から除去できる。
さらに、除去液の液滴106の物理力を除去対象物に作用させることによって、充分な保持力で処理膜100に保持されていない第1除去対象物103Aや、処理膜100から離脱した第2除去対象物103Bも基板Wの上面から除去することもできる。すなわち、処理膜100の膜厚Tが第1除去対象物103Aの半径Rよりも小さい場合であっても、基板Wの上面から第1除去対象物103Aを充分に除去することができる。
【0142】
その結果、基板Wの上面から除去対象物103を効率良く除去することができる。
除去液の液滴106から基板Wの上面に作用する物理力は、供給領域Sにおいて特に大きい。そのため、除去液の液滴106から基板Wの上面に作用する物理力によって、供給領域Sに形成された凹凸パターンが倒壊するおそれがある。
第1実施形態では、除去工程の開始前に供給領域Sが保護液膜105で覆われている。供給領域Sに除去液の液滴106から作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴106の物理力を基板Wの上面の全体に分散させることができる。これにより、基板Wの上面に形成された凹凸パターンを保護しつつ、処理膜100および除去対象物103を基板Wの上面から除去することができる。
【0143】
連続流の液体が基板Wの上面に供給されたときに基板Wの上面に作用する物理力は、液滴が基板Wの上面に供給されたときに基板Wの上面に作用する物理力と比較して極めて小さい。したがって、保護液を連続流で基板Wの上面に供給すれば、基板Wの上面に形成された凹凸パターンの、保護液の供給に起因する倒壊を抑制または防止できる。
第1実施形態では、除去工程において基板Wの上面に除去液を液滴状態で供給している間に、基板Wの上面に保護液が連続流で供給される(保護液並行供給工程)。そのため、除去工程の実行中においても、保護液膜105を維持できる。これにより、除去液の液滴106から供給領域Sに作用する物理力を適度に低減し、除去液の液滴106の物理力を基板Wの上面の全体に分散させることができる。これにより、基板Wの上面に形成された凹凸パターンを保護しつつ、処理膜100および除去対象物103を基板Wの上面から除去することができる。
【0144】
また、純水は、SC1等のアルカリ性水溶液よりも表面張力が高い。そのため、除去液として純水を用いる場合、除去液としてSC1等のアルカリ性水溶液と比較して、処理膜100に与えることができる物理力が大きい。
除去液が水である場合、除去液がアルカリ性液体である場合と比較して、処理膜100を溶解させにくい。そのため、処理膜100に保持された状態で維持される除去対象物103の数を極力多くした状態で、処理膜100に物理力を作用させることができる。保護液が水である場合、保護液がアルカリ性液体である場合と比較して、処理膜100を溶解させにくいので、処理膜100に除去対象物103を保持させた状態を維持し易い。
【0145】
保護液および除去液がいずれも純水である場合(
図7A~
図7Cを参照)とは異なり、除去液として純水を用い、かつ、保護液としてSC1液などのアルカリ性水溶液を用いた場合、保護液膜形成工程(ステップS8)において、基板Wの上面に供給される保護液によって処理膜100が部分的に溶解されて、処理膜100の強度が低下する。処理膜100が部分的に溶解されるとは、処理膜100にクラックが形成される程度に処理膜100が溶解されることをいう。
【0146】
具体的には、
図8に示すように、保護液膜形成工程において基板Wの上面に供給された保護液によって処理膜100の一部が溶解されることによって、処理膜100にクラック108が形成される。これにより、処理膜100が分裂されやすくなる。クラック108の形成により、保護液が基板Wの上面付近に到達しやすくなる。そのため、保護液は、処理膜100と基板Wとの間の隙間G1に進入し、処理膜100の表面を溶解させる。これにより、処理膜100が基板Wの上面から剥離されやすくなる。
【0147】
したがって、除去工程では、保護液によって処理膜の強度を低下させながら、除去液の液滴106の物理力を処理膜100に作用させることができる。これによって、処理膜100を効率良く分裂させ、処理膜100を基板Wの上面から効率良く剥離させることができる。その結果、処理膜100を基板Wの上面から効率良く除去することができる。
図8では、クラック108は、処理膜100を貫通しているが、クラック108は、処理膜100を貫通せずに、処理膜100を局所的に薄くする場合もある。
【0148】
保護液および除去液がいずれも純水である場合(
図7A~
図7Cを参照)とは異なり、除去液としてSC1液などのアルカリ性水溶液を用い、かつ、保護液として純水を用いた場合、基板Wの上面に液滴状態で供給される除去液によって処理膜100が部分的に溶解されて、処理膜100の強度が低下する。
したがって、除去工程では、除去液によって処理膜100の強度を低下させながら、除去液の液滴106の物理力を処理膜100に作用させることができる。これによって、処理膜100を効率良く分裂させ、処理膜100を基板Wの上面から効率良く剥離させることができる。その結果、処理膜100を基板Wの上面から効率良く除去することができる。さらに、保護液によって、除去液の液滴106の物理力を緩和することができる。
【0149】
保護液および除去液がいずれも純水である場合(
図7A~
図7Cを参照)とは異なり、除去液および保護液がいずれもSC1液等のアルカリ性水溶液である場合には、保護液膜形成工程および除去工程の両方において、処理膜100が部分的に溶解されて処理膜100の強度が低下する。
したがって、除去工程では、保護液および除去液によって処理膜100の強度を低下させながら、除去液の液滴106の物理力を処理膜100に作用させることができる。これによって、処理膜100を効率良く分裂させ、処理膜100を基板Wの上面から効率良く剥離させることができる。その結果、処理膜100を基板Wの上面から効率良く除去することができる。さらに、保護液によって、除去液の液滴106の物理力を緩和することができる。
【0150】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に係る基板処理装置1と同じ構成の基板処理装置が用いられ、第1実施形態で説明した基板処理と同様の基板処理を実行することができる。第2実施形態において第1実施形態と主に異なる点は、第2移動ノズル9から吐出される処理液中の溶質には、低溶解性物質および高溶解性物質が含まれている点である。
【0151】
低溶解性物質および高溶解性物質は、除去液や保護液に対する溶解性が互いに異なる物質を用いることができる。
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる低溶解性物質は、たとえば、ノボラックである。第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる高溶解性物質は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0152】
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒は、低溶解性物質および高溶解性物質を溶解させる液体であればよい。処理液に含まれる溶媒は、除去液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒、低溶解性物質および高溶解性物質の詳細については後述する。
【0153】
第2実施形態の基板処理と、第1実施形態の基板処理とは、基板Wの上面付近の様子が異なる。
図9A~
図9Cを参照して、第2実施形態の基板処理において、処理膜が基板Wから除去されるときの様子について説明する。
図9A~
図9Cでは、除去液および保護液がいずれもアルカリ性水溶液である場合を例にとって説明する。
図9Aは、固体形成工程(ステップS7)直後の基板Wの上面付近の様子を示している。
図9Bは、保護液膜形成工程(ステップS8)および除去工程(ステップS9)において処理膜200が部分的に溶解される際の基板Wの上面の様子を示している。
図9Cは、除去工程(ステップS9)において処理膜200に物理力が作用する際の基板Wの上面付近の様子を示している。
【0154】
固体形成工程では、前述したように、基板W上の処理液の液膜101が基板Wを介して熱媒によって加熱される。これにより、
図9Aに示すように、パーティクル等の除去対象物103を保持した処理膜200が形成される。
詳しくは、溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、処理液の溶質に含まれる高溶解性物質が高溶解性固体210(固体状態の高溶解性物質)を形成する。また、溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、処理液の溶質に含まれる低溶解性物質が低溶解性固体211(固体状態の低溶解性物質)を形成する。低溶解性物質および高溶解性物質は、共に膜化する。
【0155】
「共に膜化する」とは、低溶解性物質および高溶解性物質が別々の層を作ることではない。「膜化」の一態様が「固化」や「硬化」である。
処理膜200は、高溶解性固体210が偏在している部分と、低溶解性固体211が偏在している部分とに分けられる。処理膜200においても、第1除去対象物103Aと基板Wの上面との間に空洞104が形成されることがある。
【0156】
保護液膜形成工程(ステップS8)において基板Wの上面に供給される保護液と、除去工程(ステップS9)において基板Wの上面に供給される除去液とによって、
図9Bに示すように、高溶解性固体210が選択的に溶解される。すなわち、処理膜200が部分的に溶解される。高溶解性固体210が溶解されることによって、処理膜200において高溶解性固体210が偏在している部分に貫通孔202が形成される(貫通孔形成工程)。貫通孔202は、特に、基板Wの厚さ方向D(処理膜200の厚さ方向でもある)に高溶解性固体210が延びている部分に形成されやすい。貫通孔202は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである。
【0157】
保護液および除去液は、貫通孔202を介して基板Wの上面付近まで到達する。低溶解性固体211は、アルカリ性水溶液に僅かに溶解される。そのため、低溶解性固体211において基板Wの上面付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図9Bの拡大図に示すように、保護液および除去液が、基板Wの上面付近の低溶解性固体211を徐々に溶解させながら、処理膜200と基板Wの上面との間の隙間G2に進入していく(除去液進入工程、保護液進入工程)。
【0158】
そして、最終的に、除去液の液滴106の物理力によって、貫通孔202の周縁を起点として処理膜200が分裂して膜片207となる。そして、
図9Cに示すように、処理膜200の膜片207が除去対象物103を保持した状態で基板Wから剥離される(分裂工程、処理膜剥離工程)。同時に、除去液の液滴106の物理力によって、除去対象物103が基板Wの上面から剥離される(除去対象物剥離工程)。そのため、処理膜200の膜厚Tよりも大きい半径Rの第1除去対象物103Aが基板Wの上面に存在する場合であっても、第1除去対象物103Aが基板Wの上面から剥離される。
【0159】
処理膜200が部分的に溶解される際には、処理膜200において高溶解性固体210が偏在している部分で保持されていた第2除去対象物103Bが、処理膜200から離脱する場合も有り得る。このような場合であっても、第2除去対象物103Bに作用する除去液の液滴106の物理力によって、第2除去対象物103Bが基板Wの上面から剥離される。
【0160】
そして、除去液の供給を継続することによって、膜片207となった処理膜200が、第2除去対象物103Bを保持した状態で、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
処理膜200によって充分に保持されていない第1除去対象物103Aや処理膜200から離脱した第2除去対象物103Bも、除去液の供給を継続することによって、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
【0161】
保護液および除去液のいずれかが純水である場合において処理膜200が基板Wから除去される様子は、保護液および除去液の両方がアルカリ性水溶液である場合(
図9A~
図9Cを参照)とは若干異なる。
詳しくは、保護液がアルカリ性水溶液であり、除去液が純水である場合には、保護液には高溶解性固体210が溶解されるが、除去液には処理膜200が殆ど溶解されない。保護液が純水であり、かつ、除去液がアルカリ性水溶液である場合は、除去液には高溶解性固体210が溶解されるが、保護液には処理膜200が殆ど溶解されない。
【0162】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
さらに、第2実施形態によれば、処理膜200中の固体状態の高溶解性固体210が保護液および除去液の少なくともいずれかによって、選択的に溶解される。そのため、処理膜200の強度が低下する。その一方で、処理膜200中の低溶解性固体211は、除去対象物103を保持した固体状態のままで維持される。したがって、除去対象物103を処理膜200に保持させたまま、処理膜200の強度を低下させた状態で、除去工程において除去液の液滴106の物理力を処理膜200に作用させることができる。これにより、処理膜200が効率良く分裂し、処理膜200が基板の表面から効率良く剥離される。
【0163】
除去液および保護液がいずれも純水であってもよい。ただし、この場合は、処理膜200は、保護液および除去液に殆ど溶解されないため、ほぼ除去液の液滴106の物理力のみによって、分裂し、基板Wの上面から剥離される。
<第2実施形態に用いられる処理液の詳細>
以下では、第2実施形態に用いられる処理液中の各成分について説明する。
【0164】
以下では、「Cx~y」、「Cx~Cy」および「Cx」などの記載は、分子または置換基中の炭素の数を意味する。例えば、C1~6アルキルは、1以上6以下の炭素を有するアルキル鎖(メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等)を意味する。
ポリマーが複数種類の繰り返し単位を有する場合、これらの繰り返し単位は共重合する。特に限定されて言及されない限り、これら共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合、またはこれらの混在のいずれであってもよい。ポリマーや樹脂を構造式で示す際、括弧に併記されるnやm等は繰り返し数を示す。
【0165】
後述する第3実施形態における処理液中の各成分および、除去液および保護液についての説明においても同様である。
<低溶解性物質>
(A)低溶解性物質は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリマレイン酸誘導体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含む。好ましくは、(A)低溶解性物質は、ノボラック、ポリヒドロキシスチレン、ポリアクリル酸誘導体、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸誘導体、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに好ましくは、(A)低溶解性物質は、ノボラック、ポリヒドロスチレン、ポリカーボネート、およびこれらの組合せの共重合体、の少なくとも1つを含んでいてもよい。ノボラックはフェノールノボラックであってもよい。
【0166】
処理液は(A)低溶解性物質として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。たとえば、(A)低溶解性物質はノボラックとポリヒドロキシスチレンの双方を含んでもよい。
(A)低溶解性物質は乾燥されることで膜化し、前記膜は除去液で大部分が溶解されることなく除去対象物を保持したまま剥がされることが、好適な一態様である。なお、除去液によって(A)低溶解性物質のごく一部が溶解される態様は許容される。
【0167】
好ましくは、(A)低溶解性物質はフッ素および/またはケイ素を含有せず、より好ましくは双方を含有しない。
前記共重合はランダム共重合、ブロック共重合が好ましい。
権利範囲を限定する意図はないが、(A)低溶解性物質の具体例として、下記化学式1~化学式7に示す各化合物が挙げられる。
【0168】
【0169】
【0170】
【化3】
(アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0171】
【化4】
(RはC
1~4アルキル等の置換基を意味する。アスタリスク*は、隣接した構成単位への結合を示す。)
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
(A)低溶解性物質の重量平均分子量(Mw)は好ましくは150~500,000であり、より好ましくは300~300,000であり、さらに好ましくは500~100,000であり、よりさらに好ましくは1,000~50,000である。
(A)低溶解性物質は合成することで入手可能である。また、購入することもできる。購入する場合、例として供給先は以下が挙げられる。供給先が(A)ポリマーを合成することも可能である。
ノボラック:昭和化成(株)、旭有機材(株)、群栄化学工業(株)、住友ベークライト(株)
ポリヒドロキシスチレン:日本曹達(株)、丸善石油化学(株)、東邦化学工業(株)
ポリアクリル酸誘導体:(株)日本触媒
ポリカーボネート:シグマアルドリッチ
ポリメタクリル酸誘導体:シグマアルドリッチ
処理液の全質量と比較して、(A)低溶解性物質が0.1~50質量%であり、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは1~10質量%である。つまり、処理液の全質量を100質量%とし、これを基準として(A)低溶解性物質が0.1~50質量%である。すなわち、「と比較して」は「を基準として」と言い換えることが可能である。特に言及しない限り、以下においても同様である。
【0176】
溶解性は公知の方法で評価することができる。例えば、20℃~35℃(さらに好ましくは25±2℃)の条件において、フラスコに前記(A)または後述の(B)を5.0質量%アンモニア水に100ppm添加し、蓋をし、振とう器で3時間振とうすることで、(A)または(B)が溶解したかで求めることができる。振とうは攪拌であっても良い。溶解は目視で判断することもできる。溶解しなければ溶解性100ppm未満、溶解すれば溶解性100ppm以上とする。溶解性が100ppm未満は不溶または難溶、溶解性が100ppm以上は可溶とする。広義には、可溶は微溶を含む。不溶、難溶、可溶の順で溶解性が低い。狭義には、微溶は可溶よりも溶解性が低く、難溶よりも溶解性が高い。
【0177】
<高溶解性物質>
(B)高溶解性物質は(B’)クラック促進成分である。(B’)クラック促進成分は、炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基(-OH)および/またはカルボニル基(-C(=O)-)を含んでいる。(B’)クラック促進成分がポリマーである場合、構成単位の1種が1単位ごとに炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基および/またはカルボニル基を有する。カルボニル基とは、カルボン酸(-COOH)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、エノンが挙げられ、カルボン酸が好ましい。
【0178】
権利範囲を限定する意図はなく、理論に拘束されないが、処理液が乾燥され基板上に処理膜を形成し、除去液が処理膜を剥離する際に(B)高溶解性物質が、処理膜が剥がれるきっかけとなる部分を生むと考えられる。このために、(B)高溶解性物質は除去液に対する溶解性が、(A)低溶解性物質よりも高いものであることが好ましい。(B’)クラック促進成分がカルボニル基としてケトンを含む態様として環形の炭化水素が挙げられる。具体例として、1,2-シクロヘキサンジオンや1,3-シクロヘキサンジオンが挙げられる。
【0179】
より具体的な態様として、(B)高溶解性物質は、下記(B-1)、(B-2)および(B-3)の少なくともいずれか1つで表される。
(B-1)は下記化学式8を構成単位として1~6つ含んでなり(好適には1~4つ)、各構成単位が連結基L1で結合される化合物である。ここで、L1は単結合、およびC1~6アルキレンの少なくとも1つから選ばれる。前記C1~6アルキレンはリンカーとして構成単位を連結し、2価の基に限定されない。好ましくは2~4価である。前記C1~6アルキレンは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0180】
【0181】
Cy1はC5~30の炭化水素環であり、好ましくはフェニル、シクロヘキサンまたはナフチルであり、より好ましくはフェニルである。好適な態様として、リンカーL1は複数のCy1を連結する。
R1はそれぞれ独立にC1~5アルキルであり、好ましくはメチル、エチル、プロピル、またはブチルである。前記C1~5アルキルは直鎖、分岐のいずれであっても良い。
【0182】
nb1は1、2または3であり、好ましくは1または2であり、より好ましくは1である。nb1’は0、1、2、3または4であり、好ましくは0、1または2である。
下記化学式9は、化学式8に記載の構成単位を、リンカーL9を用いて表した化学式である。リンカーL9は単結合、メチレン、エチレン、またはプロピレンであることが好ましい。
【0183】
【0184】
権利範囲を限定する意図はないが、(B-1)の好適例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、1,3-シクロヘキサンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,6-ナフタレンジオール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、が挙げられる。これらは、重合や縮合によって得てもよい。
【0185】
一例として下記化学式10に示す2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノールを取り上げ説明する。同化合物は(B-1)において、化学式8の構成単位を3つ有し、構成単位はL1(メチレン)で結合される。nb1=nb1’=1であり、R1はメチルである。
【0186】
【0187】
(B-2)は下記化学式11で表される。
【0188】
【0189】
R21、R22、R23、およびR24は、それぞれ独立に水素またはC1~5のアルキルであり、好ましくは水素、メチル、エチル、t-ブチル、またはイソプロピルであり、より好ましくは水素、メチル、またはエチルであり、さらに好ましくはメチルまたはエチルである。
L21およびL22は、それぞれ独立に、C1~20のアルキレン、C1~20のシクロアルキレン、C2~4のアルケニレン、C2~4のアルキニレン、またはC6~20のアリーレンである。これらの基はC1~5のアルキルまたはヒドロキシで置換されていてもよい。ここで、アルケニレンとは、1以上の二重結合を有する二価の炭化水素を意味し、アルキニレンとは、1以上の三重結合を有する二価の炭化水素基を意味するものとする。L21およびL22は、好ましくはC2~4のアルキレン、アセチレン(C2のアルキニレン)またはフェニレンであり、より好ましくはC2~4のアルキレンまたはアセチレンであり、さらに好ましくはアセチレンである。
【0190】
nb2は0、1または2であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-2)の好適例として、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、が挙げられる。別の一形態として、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ブチンジオール、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール、1,4-ブタンジオール、シス-1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、1,4-ベンゼンジメタノールも(B-2)の好適例として挙げられる。
【0191】
(B-3)は下記化学式12で表される構成単位を含んでなり、重量平均分子量 (Mw)が500~10,000のポリマーである。Mwは、好ましくは600~5,000であり、より好ましくは700~3,000である。
【0192】
【0193】
ここで、R25は-H、-CH3、または-COOHであり、好ましくは-H、または-COOHである。1つの(B-3)ポリマーが、それぞれ化学式12で表される2種以上の構成単位を含んでなることも許容される。
権利範囲を限定する意図はないが、(B-3)ポリマーの好適例として、アクリル酸、マレイン酸、アクリル酸、またはこれらの組合せの重合体が挙げられる。ポリアクリル酸、マレイン酸アクリル酸コポリマーがさらに好適な例である。
【0194】
共重合の場合、好適にはランダム共重合またはブロック共重合であり、より好適にはランダム共重合である。
一例として、下記化学式13に示す、マレイン酸アクリル酸コポリマーを挙げて説明する。同コポリマーは(B-3)に含まれ、化学式12で表される2種の構成単位を有し、1の構成単位においてR25は-Hであり、別の構成単位においてR25は-COOHである。
【0195】
【0196】
言うまでもないが、処理液は(B)高溶解性物質として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。例えば、(B)高溶解性物質は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオールの双方を含んでも良い。
(B)高溶解性物質は、分子量80~10,000であってもよい。高溶解性物質は、好ましくは分子量90~5000であり、より好ましくは100~3000である。(B)高溶解性物質が樹脂、重合体またはポリマーの場合、分子量は重量平均分子量(Mw)で表す。
【0197】
(B)高溶解性物質は合成しても購入しても入手することが可能である。供給先としては、シグマアルドリッチ、東京化成工業、日本触媒が挙げられる。
処理液中において、(B)高溶解性物質は、(A)低溶解性物質の質量と比較して、好ましくは1~100質量%であり、より好ましくは1~50質量%である。処理液中において、(B)高溶解性物質は、(A)低溶解性物質の質量と比較して、さらに好ましくは1~30質量%である。
【0198】
<溶媒>
(C)溶媒は有機溶媒を含むことが好ましい。(C)溶媒は揮発性を有していてもよい。揮発性を有するとは水と比較して揮発性が高いことを意味する。例えば、(C)1気圧における溶媒の沸点は、50~250℃であることが好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、50~200℃であることがより好ましく、60~170℃であることがさらに好ましい。1気圧における溶媒の沸点は、70~150℃であることがよりさらに好ましい。(C)溶媒は、少量の純水を含むことも許容される。(C)溶媒に含まれる純水は、(C)溶媒全体と比較して、好ましくは30質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。溶媒に含まれる純水は、よりさらに好ましくは5質量%以下である。溶媒が純水を含まない(0質量%)ことも、好適な一形態である。純水とは、好適にはDIWである。
【0199】
有機溶媒としては、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0200】
好ましい一態様として、(C)溶媒が含む有機溶媒は、IPA、PGME、PGEE、EL、PGMEA、これらのいかなる組合せから選ばれる。有機溶媒が2種の組合せである場合、その体積比は、好ましくは20:80~80:20であり、より好ましくは30:70~70:30である。
処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、0.1~99.9質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは75~99.5質量%である。処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は、さらに好ましくは80~99質量%であり、よりさらに好ましくは85~99質量%である。
【0201】
<その他の添加物>
本発明の処理液は、(D)その他の添加物をさらに含んでいてもよい。本発明の一態様として、(D)その他の添加物は、界面活性剤、酸、塩基、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、または抗真菌剤を含んでなり(好ましくは、界面活性剤)、これらのいずれの組合せを含んでいてもよい。
【0202】
本発明の一態様として、処理液中の(A)低溶解性物質の質量と比較して、(D)その他の添加物(複数の場合、その和)は、0~100質量(好ましくは0~10質量%、より好ましくは0~5質量%、さらに好ましくは0~3質量%、よりさらに好ましくは0~1質量%)である。処理液が(D)その他の添加剤を含まない(0質量%)ことも、本発明の態様の一つである。
【0203】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1実施形態に係る基板処理装置1と同じ構成の基板処理装置が用いられ、第1実施形態で説明した基板処理と同様の基板処理を実行することができる。第3実施形態において第1実施形態と主に異なる点は、第2移動ノズル9から吐出される処理液中の溶質には、低溶解性物質、高溶解性物質および溶解力強化物質が含まれている点である。
【0204】
詳しくは後述するが、第3実施形態では、除去液および保護液は、たとえば、純水である。
溶解力強化物質は、除去液に溶けることによって、除去液が処理膜を溶解する溶解力を高める物質である。溶解力強化物質は、保護液に溶けることによって、保護液が処理膜を溶解する溶解力も高める。溶解力強化物質は、たとえば、除去液に溶解してアルカリ性(塩基性)を示す塩(アルカリ成分)である。
【0205】
詳しくは後述するが、溶解力強化物質は、たとえば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンおよび第四級アンモニウム塩等である。除去液が純水である場合、処理膜から溶解力強化物質が除去液に溶け出すことによって、除去液が、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンおよび第四級アンモニウム塩等の水溶液、すなわちアルカリ性水溶液(アルカリ性液体)になる。除去液がアルカリ性水溶液である場合、処理膜から溶解力強化物質が除去液に溶け出すことによって、除去液の塩基性が強められる。
【0206】
低溶解性物質および高溶解性物質は、除去液に対する溶解性が互いに異なる物質を用いることができる。第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる低溶解性物質は、たとえば、ノボラックであり、第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる高溶解性物質は、たとえば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンである。
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒は、低溶解性物質、高溶解性物質および溶解力強化物質を溶解させる液体であればよい。処理液に含まれる溶媒は、除去液と相溶性を有する(混和可能である)液体であることが好ましい。
【0207】
第2移動ノズル9から吐出される処理液に含まれる溶媒、低溶解性物質、高溶解性物質および溶解力強化物質の詳細については、第3移動ノズル10から吐出される除去液の詳細とともに後述する。
第3実施形態の基板処理と、第1実施形態の基板処理とは、基板Wの上面付近の様子が異なる。
図10A~
図10Cを参照して、第3実施形態の基板処理において、除去液および保護液がいずれも純水である場合の、処理膜300が基板Wから除去されるときの様子について説明する。
【0208】
図10Aは、固体形成工程(ステップS7)直後の基板Wの上面付近の様子を示している。
図10Bは、保護液膜形成工程(ステップS8)および除去工程(ステップS9)において処理膜300が部分的に溶解される際の基板Wの上面の様子を示している。
図10Cは、除去工程(ステップS9)において処理膜300に物理力が作用する際の基板Wの上面付近の様子を示している。
【0209】
処理膜形成工程において実行される固体形成工程では、前述したように、基板W上の液膜101が基板Wを介して熱媒によって加熱される。これにより、
図10Aに示すように、パーティクル等の除去対象物103を保持した処理膜300が形成される。
詳しくは、溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、処理液の溶質に含まれる高溶解性物質が高溶解性固体310(固体状態の高溶解性物質)を形成し、処理液の溶質に含まれる低溶解性物質が低溶解性固体311(固体状態の低溶解性物質)を形成する。溶媒の少なくとも一部が蒸発することによって、処理液の溶質に含まれる溶解力強化物質が溶解力強化固体312(固体状態の溶解力強化物質)を形成する。低溶解性物質、高溶解性物質および溶解力強化物質は、共に膜化する。
【0210】
処理膜300は、高溶解性固体310が偏在している部分と、低溶解性固体311が偏在している部分とに分けられる。溶解力強化固体312は、処理膜300の全体に万遍なく形成されている。処理膜300においても、第1除去対象物103Aと基板Wの上面との間に空洞104が形成されることがある。
保護液膜形成工程において基板Wの上面に供給される保護液と、除去工程において基板Wの上面に供給される除去液とには、
図10Bに示すように、処理膜300中の溶解力強化固体312が溶け出す。溶解力強化固体312が保護液および除去液に溶解されることによって、アルカリ性水溶液が形成される。保護液および除去液がアルカリ水溶液となることによって、保護液および除去液の処理膜300を溶解させる溶解力が強化され、処理膜300が部分的に溶解される。
【0211】
具体的には、溶解力が強化された保護液および除去液、つまりアルカリ性水溶液によって高溶解性固体310が溶解されることによって、処理膜300において高溶解性固体310が偏在している部分に貫通孔302が形成される(貫通孔形成工程)。貫通孔302は、特に、基板Wの厚さ方向D(処理膜300の厚さ方向でもある)に高溶解性固体310が延びている部分に形成されやすい。貫通孔302は、平面視で、たとえば、直径数nmの大きさである。
【0212】
アルカリ性水溶液は、貫通孔302を介して基板Wの上面付近まで到達する。低溶解性固体311は、アルカリ性水溶液に僅かに溶解される。そのため、低溶解性固体311において基板Wの上面付近の部分を僅かに溶解させる。これにより、
図10Bの拡大図に示すように、アルカリ性水溶液が、基板Wの上面付近の低溶解性固体311を徐々に溶解させながら、処理膜300と基板Wの上面との間の隙間G3に進入していく(除去液進入工程、保護液進入工程)。
【0213】
処理膜300において高溶解性固体310の偏在箇所が溶解される際、当該箇所に存在する溶解力強化固体312や、処理膜100において貫通孔302を取り囲む部分に存在する溶解力強化固体312がアルカリ性水溶液によって溶解される。同様に、保護液および除去液が隙間G3に進入することで、処理膜300における基板Wの上面付近の部分に存在する溶解力強化固体312が保護液によって溶解される。これにより、アルカリ水溶液中のアルカリ性成分の濃度がさらに向上される。そのため、処理膜300の低溶解性固体311の剥離が一層促進される。
【0214】
そして、最終的に、除去液の液滴106の物理力によって、貫通孔302の周縁を起点として処理膜300が分裂して膜片307となる。そして、
図10Cに示すように、処理膜300の膜片307が除去対象物103を保持した状態で基板Wから剥離される(分裂工程、処理膜剥離工程)。同時に、除去液の液滴106の物理力によって、除去対象物103が基板Wの上面から剥離される(除去対象物剥離工程)。そのため、処理膜300の膜厚Tよりも大きい半径Rの第1除去対象物103Aが基板Wの上面に存在する場合であっても、第1除去対象物103Aが基板Wの上面から剥離される。
【0215】
処理膜300が部分的に溶解される際には、処理膜300において高溶解性固体310が偏在している部分で保持されていた第2除去対象物103Bが、処理膜300から離脱する場合も有り得る。このような場合であっても、第2除去対象物103Bに作用する除去液の液滴106の物理力によって、第2除去対象物103Bが基板Wの上面から剥離される。
【0216】
そして、除去液の供給を継続することによって、膜片307となった処理膜300が、第2除去対象物103Bを保持した状態で、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
処理膜300によって充分に保持されていない第1除去対象物103Aや処理膜300から離脱した第2除去対象物103Bも、除去液の供給を継続することによって、洗い流されて(基板W外に押し出されて)基板Wの上面から除去される(除去工程)。
【0217】
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏する。
さらに、第3実施形態によれば、処理膜300中の固体状態の高溶解性固体310が除去液で選択的に溶解される。そのため、処理膜300の強度が低下する。その一方で、処理膜300中の低溶解性固体311は、除去対象物103を保持した固体状態のままで維持される。したがって、除去対象物103を処理膜300に保持させたまま、処理膜200の強度を低下させた状態で、除去工程において除去液の液滴106の物理力を処理膜300に作用させることができる。これにより、処理膜300が効率良く分裂し、処理膜300が基板の表面から効率良く剥離される。
【0218】
さらに、第3実施形態によれば、処理膜300から溶解力強化物質が保護液および除去液に溶け出させることによって、保護液および除去液が処理膜300を溶解させる溶解力が強化される。そのため、保護液および除去液によって処理膜300が部分的に溶解される。そのため、純水等の溶解力が低い液体を除去液として用いた場合であっても、処理膜300の強度を低下させながら、除去液の液滴の物理力を処理膜300に作用させることができる。これによって、処理膜300を効率良く分裂させ、処理膜300を基板Wの上面から効率良く剥離することができる。その結果、処理膜300を基板Wの上面から効率良く除去することができる。
【0219】
除去液としてアルカリ性水溶液を用いる場合、溶解力強化物質が除去液に溶け出したとしても、除去液の溶解力の強化度合は、除去液が非アルカリ性水溶液である場合と比較して低い。保護液としてアルカリ性水溶液を用いる場合も同様である。すなわち、溶解力強化物質が保護液に溶け出したとしても、保護液の溶解力の強化度合は、保護液が非アルカリ性水溶液である場合と比較して低い。
【0220】
<第3実施形態に用いられる処理液、除去液および保護液の詳細>
以下では、第3実施形態に用いられる処理液中の各成分および、除去液および保護液について説明する。
<低溶解性物質>
(A)低溶解性物質としては、第2実施形態で用いられる処理液に含有される低溶解性物質と同じ物質を用いることができる。第3実施形態で用いられる(A)低溶解性物質の重量平均分子量(Mw)は好ましくは150~500,000である。処理液の全質量と比較して、第3実施形態で用いられる(A)低溶解性物質が0.1~50質量%である。言い換えると、処理液の全質量を100質量%とし、これを基準として(第3実施形態で用いられるA)低溶解性物質が0.1~50質量%である。
【0221】
<溶解力強化物質>
(B)溶解力強化物質は第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンおよび第四級アンモニウム塩(好適には第一級アミン、第二級アミンおよび第三級アミン)の少なくとも1つを含んでおり、(B)溶解力強化物質は炭化水素を含んでいる。好適な一態様として、処理液から形成された処理膜100に(B)溶解力強化物質が残り、除去液が処理膜を剥離する際に(B)溶解力強化物質が(F)除去液に溶け出す。そのために、(B)のアルカリ成分の1気圧における沸点が、20~400℃であることが好適である。
【0222】
溶解力強化物質の種類を限定する意図はないが、(B)の好適例として、N-ベンジルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2-(ブチルアミノ)エタノール、2-アニリノエタノール、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミンが挙げられる。
【0223】
溶解力強化物質の種類を限定する意図はないが、(B)の好適例として、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミンが挙げられる。
溶解力強化物質の種類を限定する意図はないが、かご型の三次元構造を有する(B)の具体例として、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。本発明を限定する意図はないが、平面的な環構造を有する(B)の好適例として、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザシクロオクタデカンが挙げられる。
【0224】
言うまでもないが、本発明による処理液は(B)溶解力強化物質として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでも良い。たとえば、(B)溶解力強化物質はN-ベンジルエタノールアミンとジエタノールアミンの双方を含んでも良い。また、(B)溶解力強化物質はN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミンと1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンの双方を含んでも良い。
【0225】
(B)溶解力強化物質の分子量は、好適には50~500である。
(B)溶解力強化物質は合成することでも、購入することでも入手可能である。供給先として、シグマアルドリッチ、東京化成工業が挙げられる。
本発明の一態様として、処理液中の(A)低溶解性物質の質量と比較して、(B)溶解力強化物質は、好ましくは1~100質量%である。
【0226】
<溶媒>
(C)溶媒は有機溶媒を含んでいることが好ましい。(C)溶媒は揮発性を有する。揮発性を有するとは水と比較して揮発性が高いことを意味する。(C)溶媒は1気圧における沸点は、50~200℃であることが好ましい。(C)溶媒は、少量の純水を含むことも許容される。(C)溶媒に含まれる純水は、(C)溶媒全体と比較して、好ましくは30質量%以下である。純水を含まない(0質量%)ことも、好適な一形態である。純水とは、好適にはDIWである。
【0227】
本発明の好適な一態様として、処理液に含まれる成分(添加物を含む)は(C)溶媒に溶解する。この態様をとる処理液は、埋め込み性能または膜の均一性が良いと考えられる。
(C)に含まれる有機溶媒としては、イソプロパノール(IPA)等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエチレングリコールモノアルキルエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGEE)等のプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)等の乳酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、2-ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。これらの有機溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0228】
好ましい一態様として、(C)溶媒が含む有機溶媒は、IPA、PGME、PGEE、EL、PGMEA、これらのいかなる組合せから選ばれる。有機溶媒が2種の組合せである場合、その体積比は、好ましくは20:80~80:20である。
処理液の全質量と比較して、(C)溶媒は0.1~99.9質量%である。
<高溶解性物質>
(D)高溶解性物質は、炭化水素を含んでおり、さらにヒドロキシ基(-OH)および/またはカルボニル基(-C(=O)-)を含んでいる。(D)高溶解性物質がポリマーである場合、構成単位の1種が1単位ごとに炭化水素を含んでおり、さらに―ヒドロキシ基および/またはカルボニル基を含んでいる。カルボニル基とは、カルボン酸(-COOH)、アルデヒド、ケトン、エステル、アミド、エノンが挙げられ、カルボン酸が好ましい。
【0229】
前述したように、処理液が乾燥され基板上に形成された処理膜には、(D)高溶解性物質が残っている。(F)除去液が処理膜を剥離する際に(D)高溶解性物質は、処理膜が剥がれるきっかけとなる部分を生む。このためには、(D)高溶解性物質としては(F)除去液に対する溶解性が、(A)低溶解性物質よりも高いものが用いられることが好ましい。
【0230】
(D)高溶解性物質がカルボニル基としてケトンを含む態様として環形の炭化水素が挙げられる。具体例として、1,2-シクロヘキサンジオンや1,3-シクロヘキサンジオンが挙げられる。
権利範囲を限定する意図はないが、(D)の好適例として、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2’-メチレンビス(4-メチルフェノール)、2,6-ビス[(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェノール、1,3-シクロヘキサンジオール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,6-ナフタレンジオール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、が挙げられる。これらは、重合や縮合によって得てもよい。
【0231】
権利範囲を限定する意図はないが、(D)の好適例として、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、が挙げられる。別の一形態として、3-ヘキシン-2,5-ジオール、1,4-ブチンジオール、2,4-ヘキサジイン-1,6-ジオール、1,4-ブタンジオール、シス-1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、1,4-ベンゼンジメタノールも(D)の好適例として挙げられる。
【0232】
権利範囲を限定する意図はないが、(D)ポリマーの好適例として、アクリル酸、マレイン酸、アクリル酸、またはこれらの組合せの重合体が挙げられる。ポリアクリル酸、マレイン酸アクリル酸コポリマーがさらに好適な例である。
共重合の場合、好適にはランダム共重合またはブロック共重合であり、より好適にはランダム共重合である。
【0233】
言うまでもないが、処理液は(D)高溶解性物質として、上記の好適例を1または2以上組み合わせて含んでもよい。たとえば、(D)高溶解性物質は2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオールの双方を含んでも良い。
(D)高溶解性物質の分子量は、たとえば、80~10,000である。(D)高溶解性物質が樹脂、重合体またはポリマーの場合、分子量は重量平均分子量(Mw)で表す。
【0234】
(D)高溶解性物質は合成しても購入しても入手することが可能である。供給先としては、シグマアルドリッチ、東京化成工業、日本触媒が挙げられる。
本発明の一態様として、処理液中の(A)低溶解性物質の質量と比較して、(D)高溶解性物質は、好ましくは1~100質量%である。
<その他の添加物>
本発明の処理液は、(E)その他の添加物をさらに含んでもよい。(E)その他の添加物は、界面活性剤、抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、抗真菌剤、または塩基を含んでいてもよく(好ましくは、界面活性剤)、これらのいずれの組合せを含んでいてもよい。
【0235】
処理液中の(A)低溶解性物質の質量と比較して、(E)その他の添加物(複数の場合、その和)は、好ましくは0~10質量%である。処理液は、(E)その他の添加剤を含まなくてもよい(0質量%)。
<除去液、保護液>
(F)除去液および保護液は中性または弱酸性であることが好ましい。(F)除去液及び保護液のpHは4~7であることが好ましく、pH5~7であることがより好ましく、pH6~7であることがさらに好ましい。pHの測定は、空気中の炭酸ガスの溶解による影響を避けるために、脱ガスして測定することが好ましい。
【0236】
好ましくは、(F)除去液および保護液は純水を含む。先述のように本発明の処理液は(B)溶解力強化物質を含むため、(F)除去液および保護液に溶けだし、(F)除去液および保護液のpHを上げることによって除去液および保護液の溶解力を強化する。このため、(F)除去液および保護液は大部分が純水であってもよい。
(F)除去液の全質量と比較して、(F)に含まれる純水は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%であり、よりさらに好ましくは99~100質量%である。(F)除去液が純水のみからなる(100質量%)態様も、好適である。
【0237】
保護液の全質量と比較して、保護液に含まれる純水は、好ましくは80~100質量%であり、より好ましくは90~100質量%であり、さらに好ましくは95~100質量%であり、よりさらに好ましくは99~100質量%である。保護液が純水のみからなる(100質量%)態様も、好適である。
<その他の実施形態>
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、さらに他の形態で実施することができる。
【0238】
たとえば、上述の実施形態における基板処理とは異なり、保護液膜形成工程(ステップS8)は、省略されてもよい。この場合、除去工程(ステップS9)では、
図11に示すように、表面が保護されていない処理膜100に対して、第3移動ノズル10から除去液が供給され、第4移動ノズル11から保護液が供給される。この場合、液滴状態の除去液の供給に先立って保護液膜105の形成を行わないので、基板処理時間を短縮することができる。
【0239】
また、除去工程(ステップS9)では、保護液並行供給工程を省略することもできる。この場合、除去工程(ステップS9)では、
図12に示すように、表面が保護液膜105によって保護された処理膜100に対して、第3移動ノズル10から除去液が供給されるが、第4移動ノズル11からの保護液の供給は行われない。
除去工程の開始時には、基板Wの上面には、保護液膜105が充分に保持されている。そのため、除去工程の開始時には、供給領域Sへの物理力の作用が保護液膜105によって特に緩和される。特に、除去工程における第3移動ノズル10の移動が中央位置から開始される場合には、基板Wの上面の中央領域への物理力の作用を緩和することができる。
【0240】
また、保護液膜形成工程(ステップS8)を省略し、かつ、除去工程(ステップS9)における保護液並行供給工程を省略することも可能である。この場合、表面が保護されていない処理膜100に対して、
図13に示すように、第3移動ノズル10から除去液が供給され、第4移動ノズル11からは保護液が供給されない。
この場合、処理膜100の表面が保護液で保護されていない状態で処理膜100に除去液の液滴106が供給されるので、処理膜100に強い物理力が作用する。強い物理力で基板Wの上面から除去対象物103を効率良く除去することができるので、凹凸パターンが形成されていない基板Wを用いる場合に特に有用である。この場合であっても、第3移動ノズル10が、中央位置と周縁位置との間で移動しながら処理膜100に除去液を供給すれば、強い物理力を、処理膜100の全体に万遍なく作用させることができる。
【0241】
また、上述の実施形態における基板処理とは異なり、保護液膜形成工程(ステップS8)において保護液として基板Wの上面に供給される液体の種類と、除去工程(ステップS9)の保護液並行供給工程において保護液として基板Wの上面に供給される液体の種類とが異なっていてもよい。たとえば、保護液膜形成工程では、保護液として純水を用い、保護液並行供給工程では、保護液としてアルカリ水溶液を用いてもよい。
【0242】
そのためには、たとえば、
図14に示すように、基板処理装置1が、第4移動ノズル11とともにノズルホルダ38Bに保持され、保護液を吐出する第5移動ノズル12を含んでいればよい。
第5移動ノズル12は、ノズルホルダ38Bに保持されているため、第3ノズル移動ユニット38によって、第3移動ノズル10および第4移動ノズル11と一体的に移動される。第5移動ノズル12は、第2の保護液配管49に接続されている。第2の保護液配管49には、第2の保護液バルブ59Aおよび第2の保護流量調整バルブ59Bが介装されている。第2の保護液バルブ59Aおよび第2の保護流量調整バルブ59Bは、コントローラ3によって制御される(
図4参照)。
【0243】
また、上述の実施形態における基板処理とは異なり、薬液供給工程(ステップS2)、第1リンス工程(ステップS3)および第1有機溶剤供給工程(ステップS4)が省略されてもよい。
また、上述の実施形態における基板処理(
図5参照)では、処理膜形成工程(ステップS6およびステップS7)において、熱媒による基板Wの加熱によって処理液の溶媒が蒸発する。しかしながら、基板Wは、熱媒の供給に限られず、たとえば、スピンベース21や対向部材6に内蔵されたヒータ等(図示せず)によって加熱されてもよい。この場合、当該ヒータが、基板加熱ユニットおよび蒸発ユニット(蒸発促進ユニット)として機能する。
【0244】
また、薄膜化工程(ステップS6)において、処理液の液膜101が薄膜化される際に溶媒が蒸発することによって処理膜100が形成される場合がある。このような場合には、薄膜化工程(ステップS6)と固体形成工程(ステップS7)とが並行して実行されたことになる。その場合、固体形成ユニットには、中央ノズル14および下面ノズル15が含まれず、固体形成ユニットは、基板回転ユニット(スピンモータ23)および中央ノズル14によって構成される。また、固体形成工程(ステップS7)において、加熱工程のみを省略することも可能であるし、気体供給工程のみを省略することも可能である。
【0245】
また、上述の基板処理では、除去工程(ステップS9)の後に第2リンス工程(ステップS10)が実行される。しかしながら、第2リンス工程を省略することも可能である。詳しくは、除去工程において基板Wに供給される除去液と、第2リンス工程の後に実行される第2有機溶剤供給工程(ステップS10)において基板Wに供給される有機溶剤(残渣除去液)とが相溶性を有する場合には、第2リンス工程を実行する必要がない。
【0246】
上述の実施形態では、電圧を印加することによって、除去液を液滴状態で吐出するノズルを採用している。しかしながら、上述の実施形態とは異なり、窒素ガス等の不活性ガスと除去液とを吐出口付近で衝突(混合)させることによって除去液の液滴を形成し、除去液の液滴を基板Wの上面に向けて供給する二流体ノズルを用いてもよい。二流体ノズルでは、吐出口に向かう液体の流量と吐出口に向かう気体の流量とを調整することによって除去液の液滴の物理力を調整することができる。
【0247】
その他、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0248】
1 :基板処理装置
1P :基板処理装置
3 :コントローラ
9 :第2移動ノズル(処理液供給ユニット)
10 :第3移動ノズル(除去液供給ユニット)
11 :第4移動ノズル(第1保護液供給ユニット、第2保護液供給ユニット)
12 :第5移動ノズル(第1保護液供給ユニット、第2保護液供給ユニット)
14 :中央ノズル(固体形成ユニット、溶解液供給ユニット)
15 :下面ノズル(固体形成ユニット)
23 :スピンモータ(固体形成ユニット)
100 :処理膜
102 :貫通孔
103 :除去対象物
200 :処理膜
210 :高溶解性固体(固体状態の高溶解性物質)
211 :低溶解性固体(固体状態の低溶解性物質)
300 :処理膜
310 :高溶解性固体(固体状態の高溶解性物質)
311 :低溶解性固体(固体状態の低溶解性物質)
312 :溶解力強化固体(固体状態の溶解力強化物質)
R :半径
S :供給領域
T :膜厚
W :基板