(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20221212BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221212BHJP
C08J 5/14 20060101ALI20221212BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20221212BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20221212BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20221212BHJP
C08G 18/76 20060101ALI20221212BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
C08J5/14 CFF
C08G18/10
C08G18/32 090
C08G18/48 054
C08G18/76 014
C08G18/00 H
(21)【出願番号】P 2019058664
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034385(JP,A)
【文献】特開2006-321834(JP,A)
【文献】特開2009-090397(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0089093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
C08J 5/14
C08G 18/10
C08G 18/32
C08G 18/48
C08G 18/76
C08G 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記硬化剤は、
3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるアミン系硬化剤を含む、前記研磨パッド。
【請求項2】
前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCOのモル数に対する、前記硬化剤のNH
2のモル数の比率(NH
2のモル数/NCOのモル数)が0.6~1.2である、請求項
1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応生成物である、請求項1
又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネートを含む、請求項
3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記ポリオール成分がポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む、請求項
3又は
4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記硬化性樹脂組成物が微小中空球体をさらに含む、請求項1~
5のいずれか1つに記載の研磨パッド。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1つに記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層を成形する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、請求項1~
6のいずれか1つに記載の研磨パッドを使用する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法に関する。本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
光学材料、半導体ウエハ、ハードディスク基板、液晶用ガラス基板、半導体デバイスは非常に精密な平坦性が要求される。このような各種材料の表面を平坦に研磨するために、硬質研磨パッドが一般的に用いられている。
【0003】
硬質研磨パッドを用いた研磨においては、研磨パッド上にスラリー(砥液)を供給し、被研磨物と研磨パッドとの間にスラリーが存在する状態において研磨が行われる。スラリーは、砥粒を純水に分散させ用途に応じて薬液を添加したものである。研磨パッドとスラリーとの馴染みが良く研磨パッドがスラリーを速やかに保持することができると、研磨の立ち上がり時間(スラリーの供給開始から研磨レートが高い水準において安定化するまでの時間)が短くなり、より効率的な研磨が可能となる。しかし、従来の研磨パッドにおいては、研磨パッドとスラリーとの馴染みが悪く研磨の立ち上がり時間が長くなってしまうことがあった。
【0004】
また、現在、多くの硬質研磨パッドは、ポリオール成分とイソシアネート成分との反応物であるウレタンプレポリマーに、硬化剤としてポリアミン類又はポリオール類、添加剤として発泡剤・触媒等を混合してポリウレタン組成物を製造し、当該ポリウレタン組成物を硬化させる、いわゆるプレポリマー法により製造されている。上記硬化剤としては、取扱い性が良好で得られるポリウレタン組成物の動的性能に優れている点から、芳香族ジアミンである3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)が最もよく用いられている。
【0005】
しかし、上記のMOCAは、発ガン性物質の疑いが持たれているとともに、塩素化合物であるため、焼却時に猛毒であるダイオキシンの発生を誘発し、また、酸性ガスを発生させる虞がある。このため、MOCAは人体及び環境に有害な物質として指摘されている。このような状況から、MOCAの代替となる硬化剤を用いることが要望されている。
【0006】
特許文献1には、非MOCA系の硬化剤として、ビス-(アルキルチオ)芳香族ジアミン等を脂肪族トリオールと併せて用いて製造された研磨パッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、非MOCA系の硬化剤を使用して製造され、かつ従来の研磨パッドよりも研磨の立ち上がり時間が短い研磨パッドが望まれている。
【0009】
本発明は、非MOCA系の硬化剤を使用して製造され、かつ従来の研磨パッドよりも研磨の立ち上がり時間(スラリーの供給開始から研磨レートが高い水準において安定化するまでの時間)が短い研磨パッド、当該研磨パッドの製造方法、及び当該研磨パッドを使用した光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、硬化剤としてMOCAの代わりに特定のアミン系硬化剤を用いることで上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の具体的態様は以下のとおりである。
なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値
を含むものとする。
【0011】
[1] ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドであって、
前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記硬化剤は、下記式(I)で表されるアミン系硬化剤を含む、前記研磨パッド。
【化1】
(上記式(I)中、
Aは、直接結合又は2価の基であり、
R
1及びR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアラルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、又は置換されていてもよいヘテロシクロアルキルであり、
nは0以上の整数である。)
[2] Aが直接結合、置換されていてもよいアルキレン、置換されていてもよいオキシアルキレン、置換されていてもよいアリーレン、スルホニル、スルフィニル、カルボニル、オキシカルボニル、酸素原子、又は硫黄原子である、[1]に記載の研磨パッド。
[3] Aが直接結合、ジメチルメチレン、又はスルホニルであり、
R
1が水素原子又はメチル基であり、R
2が水素原子であり、
nが0又は1である、
[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
[4] 前記式(I)で表されるアミン系硬化剤が、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[5] 前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCOのモル数に対する、前記硬化剤のNH
2のモル数の比率(NH
2のモル数/NCOのモル数)が0.6~1.2である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[6] 前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応生成物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[7] 前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネートを含む、[6]に記載の研磨パッド。
[8] 前記ポリオール成分がポリテトラメチレンエーテルグリコールを含む、[6]又は[7]に記載の研磨パッド。
[9] 前記硬化性樹脂組成物が微小中空球体をさらに含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の研磨パッド。
[10] [1]~[9]のいずれか1つに記載の研磨パッドの製造方法であって、
前記研磨層を成形する工程を含む、前記方法。
[11] 光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法であって、[1]~[9]のいずれか1つに記載の研磨パッドを使用する、前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の研磨パッドは、非MOCA系の硬化剤を使用して製造されているため人体や環境への影響が少なく、かつ従来の研磨パッドよりも研磨の立ち上がり時間が短い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(作用)
本発明では、硬化剤として、従来使用されていたMOCAの代わりに上記式(I)で表されるアミン系硬化剤を使用する。
【0014】
本発明者らは、予想外にも、上記式(I)で表されるアミン系硬化剤を用いることにより、MOCAを用いた従来の研磨パッドよりも研磨の立ち上がり時間が短い研磨パッドが得られることを見出した。このような特性が得られる理由の詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
【0015】
当該アミン系硬化剤は、分子中に2つ以上のアミノ基及び1つ以上のヒドロキシル基を有する。一般的に、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーが有するイソシアネート基との反応に関して、アミノ基の方がヒドロキシル基よりも反応性が非常に高い。そのため、当該アミン系硬化剤とイソシアネート末端ウレタンプレポリマーのイソシアネート基との反応においても、アミノ基が優先的に反応し、硬化物である研磨層においてはヒドロキシル基が未反応の状態のまま残ると考えられる。
【0016】
一方、スラリーの主成分は純水であるため、親水性を有する材料にスラリーは引き寄せられ馴染みやすい傾向があると考えられる。上述のヒドロキシル基は親水性が高いため、当該アミン系硬化剤を使用して製造され未反応のヒドロキシル基を有する研磨パッド(研磨層)は、未反応のヒドロキシル基を有しない従来の研磨パッド(研磨層)に比べてスラリーとの馴染みが良くなり、その結果、研磨の立ち上がり時間が短くなるものと思われる。
【0017】
以下、本発明の研磨パッド、研磨パッドの製造方法、及び光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法について、説明する。
【0018】
(研磨パッド、研磨パッドの製造方法)
本発明の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する研磨パッドであって、前記ポリウレタン樹脂が、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物の硬化物であり、前記硬化剤は、上述の式(I)で表されるアミン系硬化剤を含む。
【0019】
本発明の研磨パッドは、ポリウレタン樹脂を含む研磨層を有する。研磨層は被研磨材料に直接接する位置に配置され、研磨パッドのその他の部分は、研磨パッドを支持するための材料、例えば、ゴムなどの弾性に富む材料で構成されてもよい。研磨パッドの剛性によっては、研磨層を研磨パッドとすることができる。
【0020】
本発明の研磨パッドは、スラリーとの馴染みが良いために研磨の立ち上がり時間が短いことを除けば、一般的な研磨パッドと形状に大きな差異は無く、一般的な研磨パッドと同様に使用することができ、例えば、研磨パッドを回転させながら研磨層を被研磨材料に押し当てて研磨することもできるし、被研磨材料を回転させながら研磨層に押し当てて研磨することもできる。
【0021】
本発明の研磨パッドは、一般に知られたモールド成形、スラブ成形等の製造法より作成できる。まずは、それら製造法によりポリウレタンのブロックを形成し、ブロックをスライス等によりシート状とし、ポリウレタン樹脂から形成される研磨層を成形し、支持体などに貼り合わせることによって製造される。あるいは支持体上に直接研磨層を成形することもできる。
【0022】
より具体的には、研磨層は、研磨層の研磨面とは反対の面側に両面テープが貼り付けられ、所定形状にカットされて、本発明の研磨パッドとなる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。また、本発明の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層構造であってもよく、研磨層の研磨面とは反対の面側に他の層(下層、支持層)を貼り合わせた複層からなっていてもよい。
【0023】
研磨層は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー及び硬化剤を含む硬化性樹脂組成物を調製し、当該硬化性樹脂組成物を硬化させることによって成形される。
研磨層は発泡ポリウレタン樹脂から構成することができるが、発泡は微小中空球体を含む発泡剤をポリウレタン樹脂中に分散させて行うことができる。この場合、イソシアネート末端ウレタンプレポリマー、硬化剤、及び発泡剤を含む硬化性樹脂組成物を調製し、当該硬化性樹脂組成物を発泡硬化させることによって成形することができる。
硬化性樹脂組成物は、例えば、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを含むA液と、硬化剤成分を含むB液とを混合して調製する2液型の組成物とすることもできる。それ以外の成分はA液に入れても、B液に入れてもよいが、不具合が生じる場合はさらに複数の液に分割して3液以上の液を混合して構成される組成物とすることができる。
【0024】
(硬化剤)
式(I)で表されるアミン系硬化剤中のAは直接結合又は2価の基であり、Aが2価の基である場合、好ましくは、置換されていてもよいアルキレン、置換されていてもよいオキシアルキレン、置換されていてもよいアリーレン、スルホニル、スルフィニル、カルボニル、オキシカルボニル、酸素原子、又は硫黄原子である。Aが置換されていてもよいアルキレンの場合、好ましくは置換されていてもよいC1~C10のアルキレンであり、より好ましくは2つ以上のC1~C3のアルキルにより置換されているC1~C8のアルキレンである。この中でも、Aが、直接結合、ジメチルメチレン、又はスルホニルであるものが最も好ましい。
【0025】
式(I)中のR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、置換されていてもよいアルキル、置換されていてもよいアラルキル、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリール、置換されていてもよいシクロアルキル、又は置換されていてもよいヘテロシクロアルキルである。Aが置換されていてもよいアルキルの場合、好ましくは(無置換の)C1~C5のアルキルであり、より好ましくは(無置換の)C1~C3のアルキルである。この中でも、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であるものが最も好ましい。
【0026】
式(I)中のnは、0以上の整数であり、好ましくは0~5の整数であり、より好ましくは0~3の整数であり、最も好ましくは0又は1である。
【0027】
式(I)で表されるアミン系硬化剤が示す具体的な化合物は、特に限定されないが、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(下記の式(II)で表される化合物)、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(下記の式(III)で表される化合物)、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(下記の式(IV)で表される化合物)、2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール(下記の式(V)で表される化合物)、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることが好ましい。
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
硬化剤は、式(I)で表されるアミン系硬化剤のみから構成されていてもよい。
また、硬化剤全体に対する式(I)で表されるアミン系硬化剤の含有量は、50~100重量%が好ましく、70~100重量%がより好ましく、80~100重量%が最も好ましい。アミン系硬化剤の含有量が上記数値範囲内であることにより、研磨の立ち上がり時間が短い研磨パッドが得られる。
【0033】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCOのモル数に対する、硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は、0.6~1.2が好ましく、0.7~1.0がより好ましく、0.80~0.95が最も好ましい。NH2のモル数/NCOのモル数の値が上記範囲内であることにより、硬化剤中のヒドロキシル基の一部又は全部が未反応基として研磨パッドの研磨層内に残りやすくなる。これにより、研磨層の親水性が高くなってスラリーとの馴染みが良くなり、研磨の立ち上がり時間が短くなる。
【0034】
硬化剤は、式(I)で表されるアミン系硬化剤以外の硬化剤をさらに含んでいてもよく、このような硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、ポリオール系硬化剤が挙げられる。
アミン系硬化剤を構成するポリアミンとしては、例えば、ジアミンが挙げられ、これには、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;等が挙げられる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
ポリオール硬化剤としては、例えば、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのポリオール成分として後述する化合物が挙げられる。
【0035】
硬化剤は、上述のMOCAを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
硬化剤がMOCAを含む場合、硬化剤全体に対するその含有量は、0重量%を超え50重量%未満が好ましく、0重量%を超え30重量%未満がより好ましく、0重量%を超え20重量%未満が最も好ましい。また、ここで、「3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)を含まない」とは意図的な添加物として含有しないことを意味し、不純物として含まれる場合であっても、硬化剤全体に対して0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下が最も好ましい。MOCAの含有量が上記数値範囲内であることにより、人体や環境への影響が少ない研磨パッドが得られる。
【0036】
(イソシアネート末端ウレタンプレポリマー)
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーは、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させることにより得られる生成物であることが好ましい。
【0037】
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーのNCO当量(g/eq)としては、600未満が好ましく、350~550がより好ましく、400~500が最も好ましい。NCO当量(g/eq)が上記数値範囲内であることにより、適度な研磨性能の研磨パッドが得られ、NCO当量(g/eq)が350を下回ると得られる研磨パッドの硬度が大きくなりディフェクト性能が低下してしまい好ましくない。また、NCO当量(g/eq)が500を上回ると得られる研磨パッドの硬度が小さくなり平坦化性能が低下してしまう傾向になり好ましくない。なお、NCO当量は、“(ポリイソシアネート化合物の質量部+ポリオール化合物の質量部)/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量部/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量部/ポリオール化合物の分子量)]”で求められ、NCO基1個当たりのPP(プレポリマー)の分子量を示す数値である。
【0038】
(ポリオール成分)
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに含まれるポリオール成分としては、
例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;
エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;
ポリカーボネートポリオール;
ポリカプロラクトンポリオール;等が挙げられる。
この中でも、プレポリマーの取扱い性や得られる研磨パッドの機械的強度等の観点から、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを使用することが好ましい。また、ポリオキシテトラメチレングリコールの数平均分子量としては、500~2000が好ましく、600~1000がより好ましく、650~850が最も好ましい。
【0039】
(ポリイソシアネート成分)
イソシアネート末端ウレタンプレポリマーに含まれるポリイソシアネート成分としては、
例えば、m-フェニレンジイソシアネート、
p-フェニレンジイソシアネート、
2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、
2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、
ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、
ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、
3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、
3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソシアネート、
4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、
トリメチレンジイソシアネート、
ヘキサメチレンジイソシアネート、
プロピレン-1,2-ジイソシアネート、
ブチレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、
p-フェニレンジイソチオシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、
エチリジンジイソチオシアネート等が挙げられる。
この中でも、得られる研磨パッドの研磨特性や機械的強度等の観点から、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)等のトリレンジイソシアネートを使用することが好ましい。
【0040】
(微小中空球体)
本発明において、硬化性樹脂組成物は微小中空球体をさらに含むことができる。
微小中空球体をポリウレタン樹脂に混合することによって発泡体を形成することができる。微小中空球体とは、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものをいう。前記ポリマー殻としては、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
【0041】
(その他の成分)
その他に当業界で一般的に使用される触媒などを硬化性樹脂組成物に添加しても良い。
また、上述したポリイソシアネート成分を硬化性樹脂組成物に後から追加で添加することもでき、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーと追加のポリイソシアネート成分との合計重量に対する追加のポリイソシアネート成分の重量割合は、0.1~10重量%が好ましく、0.5~8重量%がより好ましく、1~5重量%が特に好ましい。
ポリウレタン樹脂硬化性組成物に追加で添加するポリイソシアネート成分としては、上述のポリイソシアネート成分を特に限定なく使用することができるが、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)が好ましい。
【0042】
(光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法)
本発明においては、上述の研磨パッドを使用して、光学材料又は半導体材料の表面を研磨する。
本発明の光学材料又は半導体材料の表面を研磨する方法は、研磨パッドの表面、光学材料若しくは半導体材料の表面、又はそれらの両方にスラリーを供給する工程を更に含むことができる。
【0043】
(スラリー)
スラリーに含まれる液体成分としては、特に限定されないが、水(純水)、酸、アルカリ、有機溶剤等が挙げられ、被研磨物の材質や所望の研磨条件等によって選択される。スラリーは、水(純水)を主成分とすることが好ましく、スラリー全体に対して、水を80重量%以上含むことが好ましい。スラリーに含まれる砥粒成分としては、特に限定されないが、シリカ、珪酸ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マンガン等が挙げられる。スラリーは、液体成分に可溶な有機物やpH調整剤等、その他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0044】
本発明を以下の例により実験的に説明するが、以下の説明は、本発明の範囲が以下の例に限定して解釈されることを意図するものではない。
【0045】
(材料)
以下の例で使用した材料を列挙する。
【0046】
・イソシアネート末端ウレタンプレポリマー:
プレポリマー(1)・・・ポリイソシアネート成分としてトリレンジイソシアネート、ポリオール成分として数平均分子量650のポリテトラメチレンエーテルグリコール及びジエチレングリコールを含むNCO当量454のウレタンプレポリマー
【0047】
・硬化剤:
アミン系硬化剤(1)・・・3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(上記の式((II)で表される化合物)(NH2当量=108.1)
アミン系硬化剤(2)・・・2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(上記の式((III)で表される化合物)(NH2当量=129.2)
アミン系硬化剤(3)・・・3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(上記の式((IV)で表される化合物)(NH2当量=140.2)
アミン系硬化剤(4)・・・2,6-ジアミノ-4-メチルフェノール(上記の式((V)で表される化合物)(NH2当量=69.1)
MOCA・・・3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(NH2当量=133.5)
【0048】
・微小中空球体:
EXPANCEL 551DE40d42(日本フィライト株式会社製)
【0049】
(実施例1)
A成分としてプレポリマー(1)を100g、B成分として硬化剤であるアミン系硬化剤(1)を21.4g、C成分として微小中空球体(EXPANCEL 551DE40d42)2gをそれぞれ準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は0.9である。また、比率を示すためg表示として記載しており、ブロックの大きさに応じて必要な重量(部)を準備する。以下同様にg(部)表記で記載する。
アミン系硬化剤(1)のNH2はほぼ全てプレポリマーのNCOと反応していると考えられる一方、アミン系硬化剤(1)のOHは一部プレポリマーのNCOと反応しているがほぼ未反応のまま存在していると考えられる。アミン系硬化剤(1)一分子あたりのOHが2個のため、未反応のOHは約0.099×2×アボガドロ定数(個)と考えられる。
A成分とC成分とを混合し、A成分とC成分の混合物を減圧脱泡した後、A成分とC成分の混合物及びB成分を混合機に供給した。
得られた混合液を80℃に加熱した型枠に注型し、1時間加熱し硬化させた後、形成された樹脂発泡体を型枠から抜き出し、その後120℃で5時間キュアリングした。この発泡体を1.3mm厚にスライスしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1のB成分のアミン系硬化剤(1)21.4gに代えて、アミン系硬化剤(2)を25.6g準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は0.9である。実施例1と同様に、アミン系硬化剤(2)のOHはほぼ未反応のまま存在していると考えられる。アミン系硬化剤(2)の未反応のOHは、アミン系硬化剤(2)一分子あたりのOHが2個のため、約0.099×2×アボガドロ定数(個)と考えられる。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0051】
(実施例3)
実施例1のB成分のアミン系硬化剤(1)21.4gに代えて、アミン系硬化剤(3)を27.8g準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は0.9である。実施例1と同様に、アミン系硬化剤(3)のOHはほぼ未反応のまま存在していると考えられる。アミン系硬化剤(3)の未反応のOHは、アミン系硬化剤(3)一分子あたりのOHが2個のため、約0.099×2×アボガドロ定数(個)と考えられる。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0052】
(実施例4)
実施例1のB成分のアミン系硬化剤(1)21.4gに代えて、アミン系硬化剤(4)を13.7g準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は0.9である。実施例1と同様に、アミン系硬化剤(4)のOHはほぼ未反応のまま存在していると考えられる。アミン系硬化剤(4)の未反応のOHは、アミン系硬化剤(4)一分子あたりのOHが1個のため、約0.099×アボガドロ定数(個)と考えられる。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。
【0053】
(比較例1)
実施例1のB成分のアミン系硬化剤(1)21.4gに代えて、MOCAを26.5g準備した。なお、A成分のプレポリマーのNCOのモル数に対する、B成分のアミン系硬化剤のNH2のモル数の比率(NH2のモル数/NCOのモル数)は0.9である。
以降、実施例1と同様にしてウレタンシートを作成し、研磨パッドを得た。MOCAにはOHが無いため、実施例1~4とは異なり未反応のOHは0個である。
【0054】
(評価方法)
実施例1~4及び比較例1それぞれの研磨パッドについて、以下の研磨の立ち上がり性能の評価を行った。
【0055】
(研磨の立ち上がり性能の評価)
研磨の立ち上がり性能の評価は、以下の研磨試験の条件に基づいて、50枚の基板を研磨し、10枚目、25枚目及び50枚目の基板の研磨レートの変化率を求めることで、立ち上がり性能を評価した。
具体的には、まず、10枚目、25枚目及び50枚目の基板の研磨レート(単位:Å)(それぞれ、R10、R25及びR50とする)を測定した。そして、得られた研磨レートからR10/R50及びR25/R50の値(%)を算出し、以下の表1の基準に基づいて立ち上がり性能を評価した。
【0056】
【0057】
<研磨試験の条件>
・使用研磨機:荏原製作所社製、F-REX300X
・Disk:3MA188(#100)
・回転数:(定盤)70rpm、(トツプリング)71rpm
・研磨圧力:3.5psi
・研磨剤:キャボット社製、品番:SS25(SS25原液:純粋=重量比1:1の混合液を使用)
・研磨剤温度:20℃
・研磨剤吐出量:200ml/min
・使用ワーク(被研磨物):12インチシリコンウエハ上にテトラエトキシシランをPE-CVDで絶縁膜1μmの厚さになるように形成した基板
・パッドブレーク:35N 10分
・コンディショニング:Ex-situ、35N、4スキャン
【0058】
結果を以下の表2に示す。
【0059】
【0060】
表2の結果より未反応のヒドロキシル基を有する実施例1~4はいずれも比較例1に比べて、立ち上がり性能が優れており、十分な立ち上がり性能を備えていた。実施例1~4の結果から、未反応の水酸基の個数や凝集しやすい分子構造などが立ち上がり性能に関係しているものと考えられ、未反応の水酸基が多く、より凝集しやすい構造の実施例3が最も立ち上がり性能が良いことが分かった。
【0061】
以上の結果より、硬化剤として非MOCA系の材料を使用しながら、従来の研磨パッドよりも研磨の立ち上がり時間が短いことが確認できた。