(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】難黒鉛化性炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20221212BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221212BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2019097429
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】古谷 アトム
(72)【発明者】
【氏名】松本 新一郎
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058350(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111595(WO,A1)
【文献】特開平07-299356(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132993(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116947(WO,A1)
【文献】特開昭63-139051(JP,A)
【文献】特開昭52-153893(JP,A)
【文献】特開平09-153359(JP,A)
【文献】国際公開第2014/129487(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難黒鉛化性炭素材料の原料が液相状態で酸化性ガスを吹き込み、280~420℃で反応させて、該難黒鉛化性炭素材料の原料を架橋処理する架橋工程と、
該架橋工程で得られた架橋処理品
が固相状態で酸化性ガスを吹き込み、酸素を取り込ませて、該架橋処理品を不融化処理する不融化工程と、
該不融化工程で得られた不融化処理品と溶媒とを混合して溶媒抽出処理する溶媒抽出工程と、
150~300℃で圧縮空気を流通させながら、該溶媒抽出工程で得られた溶媒抽出処理品を再び不融化処理する再不融化工程と、
該再不融化工程で得られた再不融化処理品を
900~1300℃、不活性ガス雰囲気中において焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る焼成工程とを有する難黒鉛化性炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難黒鉛化性炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護に対する世界的な意識の高まりにより、化石燃料の使用削減およびCO2排出量低減を実現できるハイブリッド車(HEV,PHEV)や電気自動車(EV)に注目が集まっている。ハイブリッド車や電気自動車の駆動用電源としては体積および質量あたりのエネルギー密度が高く、小型化が可能なリチウムイオン二次電池(LIB)の研究開発が活発化している。現在、リチウムイオン二次電池の負極材として炭素材料が一般的に使用されている。炭素以外に、高エネルギー密度を有するSi,Sn,Ti,Vなどの金属または金属酸化物のリチウム塩や、炭素と金属とのハイブリッド材等が研究段階にあるとされている。
【0003】
炭素材料の中でも、黒鉛系の材料は一般に高容量を有することからモバイル用電子機器等に広く使用されてきた。車載用電池の負極材としては高エネルギー密度である黒鉛材料が主流であるが、高い入出力特性とサイクル特性とを有する難黒鉛化性炭素材料が注目を集めている。特に、ハイブリッド車用電池では車を発進させたり回生エネルギーをとったりするための高い入出力特性と長期間の繰返し充放電が可能な寿命特性とが必要であり、難黒鉛化性炭素材料が適している。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極材料としての難黒鉛化性炭素材料については、石油系ピッチまたは石炭系ピッチを原料としたものが報告されている(例えば、特許文献1~4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-252053号公報
【文献】特開平6-89721号公報
【文献】特開平8-115723号公報
【文献】特開平9-153359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
石油系ピッチまたは石炭系ピッチを原料として難黒鉛化性炭素材料を製造する際の工程は、ピッチの架橋(酸化)処理工程、不融化処理工程、焼成工程などに大別でき、さらに、架橋処理工程と不融化処理工程との間に有機溶剤による溶剤抽出工程を含むことがある。
【0007】
本発明者らは、このような難黒鉛化性炭素材料の製造方法について検討を行なった。その結果、不融化処理後に溶剤抽出処理および再不融化処理を施した後に、焼成工程を施した場合においては、得ようとする炭素材料の、充放電容量が増加する場合があることが明らかとなった。
【0008】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、得られる難黒鉛化性炭素材料の充放電容量を増加させる、難黒鉛化性炭素材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、不融化処理品に対して、溶剤抽出処理および再不融化処理を施した後、焼成工程を施すことにより、充放電容量を増加させることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、次の[1]である。
[1] 難黒鉛化性炭素材料の原料を架橋処理する架橋工程と、
該架橋工程で得られた架橋処理品を不融化処理する不融化工程と、
該不融化工程で得られた不融化処理品と溶媒とを混合して溶媒抽出処理する溶媒抽出工程と、
該溶媒抽出工程で得られた溶媒抽出処理品を再び不融化処理する再不融化工程と、
該再不融化工程で得られた再不融化処理品を焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る焼成工程とを有する難黒鉛化性炭素材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、得られる難黒鉛化性炭素材料の充放電容量を増加させる、難黒鉛化性炭素材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】評価用のコイン型二次電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、範囲を「~」を用いて表示した場合、その範囲には「~」の両端を含むものとする。例えば、A~Bという範囲には、AおよびBを含む。
【0014】
[難黒鉛化性炭素材料の製造方法]
本発明の難黒鉛化性炭素材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)は、難黒鉛化性炭素材料の原料に架橋処理する架橋工程と、該架橋工程で得られた架橋処理品を不融化処理する不融化工程と、該不融化工程で得られた不融化処理品と溶媒とを混合して溶媒抽出処理する溶媒抽出工程と、該溶媒抽出工程で得られた溶媒抽出処理品を再び不融化処理する再不融化工程と、該再不融化工程で得られた再不融化処理品を焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る焼成工程とを有する。
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
〔架橋工程〕
架橋工程では、難黒鉛化性炭素材料の原料(以下、単に「原料」ともいう。)を架橋処理する。これにより架橋処理品を得る。
【0016】
ここで、本発明の製造方法に用いられる原料としては、特に限定されず、従来公知の原料を用いることができ、例えば、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチ;フェノール樹脂、フラン樹脂などの樹脂;ピッチと樹脂との混合物;等が挙げられ、なかでも、経済性等の観点から、石炭系ピッチ、石油系ピッチなどのピッチが好ましい。
【0017】
上述した原料に架橋処理する方法としては、例えば、エアーブローイング反応による方法;酸化性ガス(空気、酸素、オゾン)による乾式法;硝酸、硫酸、次亜塩素酸、混酸等の水溶液による湿式法;等が挙げられ、なかでも、エアーブローイング反応による方法が好ましい。
【0018】
エアーブローイング反応は、上述した原料を加熱し、酸化性ガス(例えば、空気、酸素、オゾン、これらの混合物)を吹き込むことにより、軟化点を上昇させる反応である。エアーブローイング反応によれば、例えば200℃以上の高軟化点を有する架橋処理品(例えば、エアーブロンピッチ)を得ることができる。
【0019】
なお、特許文献4によれば、エアーブローイング反応は、液相状態での反応であり、固相状態での架橋処理と比較して炭素材料中への酸素原子の取り込みがほとんどないことが知られている。
エアーブローイング反応においては、酸化的脱水反応を主体とする反応が進行し、ビフェニル型の架橋結合により重合が進む。そして、その後の不融化工程、および焼成工程によって、この架橋部分が支配的になった配向性のない三次元構造を有し、リチウムが吸蔵される空隙を数多く残存させた難黒鉛化性炭素材料が得られる、とされている。
【0020】
エアーブローイング反応の条件は、特に限定されないが、温度が高すぎるとメソフェーズが発生し、低いと反応速度が遅くなるという理由から、反応温度としては、280~420℃が好ましく、320~380℃がより好ましい。また、酸化性ガスの吹き込み量としては、圧縮空気としてピッチ1000gあたり0.5~15L/分が好ましく、1.0~10L/分がより好ましい。反応圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0021】
このような架橋処理によって得られるエアーブロンピッチ等の架橋処理品の軟化点としては、次に実施する不融化工程における不融化処理のしやすさから、200~400℃が好ましく、250~350℃がより好ましい。
【0022】
なお、得られた架橋処理品については、不融化工程を実施する前に、アトマイザー等を用いて粗粉砕してもよい。
【0023】
〔不融化工程〕
不融化工程では、架橋工程で得られた、エアーブロンピッチ等の架橋処理品を不融化処理する。これにより、不融化処理品(例えば、不融化ピッチ)を得る。不融化処理は、固相状態で行われる一種の架橋処理(酸化処理)であり、これにより、架橋処理品の構造の中に酸素が取り込まれ、さらに架橋が進行することにより高温で溶融し難くなる。
【0024】
不融化処理の方法としては、特に限定されず、例えば、酸化性ガス(空気、酸素)による乾式法;硝酸、硫酸、次亜塩素酸、混酸等の水溶液による湿式法;等が挙げられ、なかでも、酸化性ガスによる乾式法が好ましい。
【0025】
不融化処理の処理温度としては、架橋処理品の軟化点以下を選択する必要がある。また、バッチ式で行う場合の昇温速度は、融着をより防止する観点から、5~100℃/時間が好ましく、10~50℃/時間がより好ましい。
【0026】
不融化処理におけるその他の処理条件は特に限定されないが、例えば、酸化性ガスの吹き込み量としては、1000gあたりの圧縮空気として1.0~20L/分が好ましく、2.0~10L/分がより好ましい。反応圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0027】
〔溶媒抽出工程〕
溶媒抽出工程では、不融化工程で得られた、不融化ピッチ等の不融化処理品と溶媒とを混合して溶媒抽出処理する。これにより、揮発分の除去を行う。このため、最終的に得られる難黒鉛化性炭素材料の細孔容積を広げ、放電容量を向上させやすい。
これは、再不融化工程および焼成工程の実施前の不融化処理品から予め揮発分を除去することで、焼成工程実施時に揮発分によって細孔を塞ぐことを防止するためと推測される。
【0028】
溶媒抽出処理に用いる有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、洗浄油、ベンゼン、エタノール、トルエン等が挙げられる。ピッチに対する有機溶剤量は特に限定されないが、1~5等量が好ましい。抽出到達温度は特に限定されないが、20~300℃であり、200~250℃が好ましい。抽出時間は特に限定されないが、2時間以上であり、4時間以上が好ましい。圧力は、常圧、減圧、加圧のいずれであってもよく、特に限定されない。
【0029】
〔再不融化工程〕
再不融化工程では、溶媒抽出工程で得られた抽出処理品を再び不融化処理する。具体的には、圧縮空気を流通させながら焼成することにより、再不融化処理品(例えば、再不融化ピッチ)を得る。再不融化における到達温度は特に限定されないが、150~300℃であり、200~250℃が好ましい。
【0030】
再不融化処理によって得られる再不融化処理品の酸素量としては、焼成時の融着を防止するという理由から、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
再不融化処理品の酸素量は、例えば、元素分析装置(FLASH2000,Thermo Fisher Scientific社製)を用いた定量分析により測定できる。
【0031】
〔焼成工程〕
焼成工程では、再不融化工程で得られた再不融化処理品を焼成して難黒鉛化性炭素材料を得る。具体的には、減圧または窒素等の不活性ガス雰囲気中において焼成することにより、難黒鉛化性炭素材料を得る。焼成工程における到達温度(焼成温度)は、900~1300℃であり、1000~1200℃が好ましい。このとき、昇温速度としては、50~150℃/時間が好ましく、80~120℃/時間がより好ましい。
【0032】
[難黒鉛化性炭素材料]
以上説明したような本発明の製造方法によって得られる難黒鉛化性炭素材料(以下、「本発明の難黒鉛化性炭素材料」ともいう。)は、リチウムイオン二次電池用負極材料として好適に使用できる。
【0033】
本発明の難黒鉛化性炭素材料において、窒素ガスの吸着によるBET法により求めた比表面積(BET)は、粒子径により異なるため一概には言えないが、電解液との反応性を抑制するという理由から、2m2/g以下であるのが好ましく、1.5m2/g以下であるのがより好ましい。
【0034】
次に、本発明の難黒鉛化性炭素材料を用いた負極材料として用いたリチウムイオン二次電池(以下、「本発明のリチウムイオン二次電池」ともいう。)について説明する。
【0035】
[リチウムイオン二次電池]
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解液を主たる電池構成要素とし、正・負極はそれぞれリチウムイオンの吸蔵可能な物質(層状化合物として)または化合物やクラスターからなり、充放電過程におけるリチウムイオンの出入は層間で行われる。充電時にはリチウムイオンが負極中にドープされ、放電時には負極から脱ドープする電池機構である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極材料として本発明の難黒鉛化性炭素材料を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準ずる。
【0036】
〔負極〕
本発明の難黒鉛化性炭素材料から負極を製造する方法は、特に限定されず、通常の製造方法に準じて行うことができる。負極製造時には、本発明の難黒鉛化性炭素材料に結合剤を加えた負極合剤を用いることができる。結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものを用いるのが好ましく、通常、負極合剤全量中1~20質量%程度の量で用いるのが好ましい。結合剤としてポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等を用いることができる。
【0037】
具体的には、例えば、本発明の難黒鉛化性炭素材料を、結合剤と混合することによってペースト状の負極合剤塗料を調製し、この負極合剤塗料を、通常、集電体の片面または両面に塗布することで負極合剤層を形成する。この際、塗料調製には、通常の溶媒を用いることができる。負極に用いる集電体の形状としては、特に限定されず、例えば、箔状;メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状;等が挙げられる。集電体としては、例えば、銅、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
【0038】
〔正極〕
正極の材料(正極活物質)としては、充分量のリチウムイオンをドープ/脱ドープし得るものを選択するのが好ましい。そのような正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそれらのリチウム含有化合物、一般式MXMo6S8-y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは遷移金属などの金属を表す)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウムなどの炭酸塩を添加することもできる。
【0039】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM(1)1-pM(2)pO2(式中Pは0≦P≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)、または、LiM(1)2-qM(2)qO4(式中Qは0≦Q≦1の範囲の数値であり、M(1)、M(2)は少なくとも一種の遷移金属元素からなる)で示される。ここで、Mで示される遷移金属元素としては、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどが挙げられ、Co、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alが好ましい。
このようなリチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Li、遷移金属の酸化物または塩類を出発原料とし、これら出発原料を組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600~1000℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。なお、出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などからも合成可能である。
【0040】
このような正極材料を用いて正極を形成する方法としては、例えば、正極材料、結合剤および導電剤からなるペースト状の正極合剤塗料を集電体の片面または両面に塗布することで正極合剤層を形成する。結合剤としては、負極で例示したものを使用できる。導電剤としては、例えば、微粒の炭素材料、繊維状の炭素材料、黒鉛、カーボンブラック、VGCF(気相成長炭素繊維)を使用できる。集電体の形状は特に限定されず、負極と同様の形状のものが用いられる。集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ニッケル、ステンレス箔などを使用することができる。
【0041】
上述した負極および正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を、適宜使用することができる。
【0042】
〔電解質〕
電解質としては、LiPF6、LiBF4などのリチウム塩を電解質塩として含む通常の非水電解質が用いられる。
非水電解質は、液系の非水電解液であってもよいし、固体電解質やゲル電解質などの高分子電解質であってもよい。
【0043】
液系の非水電解質液とする場合には、非水溶媒として、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの非プロトン性有機溶媒を使用できる。
【0044】
高分子電解質とする場合には、可塑剤(非水電解液)でゲル化されたマトリクス高分子を含む。このマトリクス高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子、ポリメタクリレート系、ポリアクリレート系、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子などを単独または混合して用いることができ、なかでも、酸化還元安定性等の観点から、フッ素系高分子が好ましい。
高分子電解質に含有される可塑剤(非水電解液)を構成する電解質塩や非水溶媒としては、液系の電解液に使用できるものを使用できる。
【0045】
本発明のリチウムイオン二次電池においては、通常、ポリプロピレン、ポリエチレンの微多孔体またはそれらを層構造としたもの;不織布;などのセパレータを使用する。ゲル電解質を用いることも可能である。この場合、例えば、本発明の難黒鉛化性炭素材料を含有する負極、ゲル電解質、正極をこの順で積層し、電池外装材内に収容することで構成される。
本発明のリチウムイオン二次電池の構造は任意であり、その形状、形態について特に限定されるものではなく、例えば、円筒型、角型、コイン型から任意に選択することができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(架橋工程)
石炭系QIレスピッチ(QI:0.1~0.5質量%、軟化点:82.5℃)を原料とし、架橋処理して架橋処理品を得た。具体的には、到達温度340℃、減圧条件下でエアーブローイング反応し、架橋処理品を得た。
(不融化工程)
架橋処理品を平均粒子径20~25μmに粉砕した後、ロータリーキルンにて、到達温度350℃で不融化処理して不融化ピッチ(不融化処理品)を得た。
(溶媒抽出工程)
得られた不融化ピッチ(不融化処理品)300gに対し、有機溶剤として洗浄油900g(3等量)を混合し、オートクレーブで常圧条件下、到達温度240℃で6時間溶媒抽出処理し、ろ過を施し、抽出ピッチ(溶媒抽出処理品)を得た。
(再不融化工程)
得られた抽出ピッチ(溶媒抽出処理品)を再び不融化処理した。具体的には、得られた抽出ピッチ(溶媒抽出処理品)100gに対し、圧縮空気を5L/分・1000gで流通させながら25℃/時間で昇温させ、250℃で6時間保持して再び不融化処理(再不融化処理)を施すことにより、再不融化ピッチ(再不融化処理品)を得た。
(焼成工程)
得られた再不融化ピッチ(再不融化処理品)を、黒鉛製の容器に入れ、窒素気流下で、140℃/時間の昇温速度で1100℃まで昇温させ、1100℃で2時間の焼成を行い、難黒鉛化性炭素材料を得た。
【0048】
<比較例1>
実施例1において、不融化工程で得た不融化ピッチ(不融化処理品)に対し、溶媒抽出工程および再不融化工程を実施せず、実施例1と同じ条件で焼成工程を実施して、難黒鉛化性炭素材料を得た。
【0049】
<比較例2>
実施例1において、溶媒抽出工程で得た抽出ピッチ(溶媒抽出処理品)に対し、再不融化工程を実施せず、実施例1と同じ条件で焼成工程を実施して、難黒鉛化性炭素材料を得た。
【0050】
<比較例3>
実施例1において、不融化工程で得た不融化ピッチ(不融化処理品)に対し、溶媒抽出工程を実施せず、再不融化工程を実施した。具体的には、不融化ピッチ(不融化処理品)を回転式の炉に入れ、圧縮空気を5L/分・1000gで流通させながら600℃/時間で昇温させ、300℃で10時間保持して再び不融化処理(再不融化処理)を施すことにより、再不融化ピッチ(再不融化処理品)を得た。得られた再不融化ピッチ(再不融化処理品)に対し、実施例1と同じ条件で焼成工程を実施して、難黒鉛化性炭素材料を得た。
【0051】
<評価>
(難黒鉛化性炭素材料の評価)
まず、実施例1および比較例1~3において得られた難黒鉛化性炭素材料について、下記手順で平均粒子径(単位:μm)、比表面積(単位:m2/g)を測定した。結果を下記表1に示す。
また、実施例1および比較例1~3において焼成原料(実施例1および比較例3は再不融化処理品、比較例1は不融化処理品、比較例2が溶媒抽出品)の酸素量(単位:質量%)を下記手順で測定した。結果を下記表1に示す。
【0052】
〈平均粒子径〉
レーザー回折式粒度分布計(LMS-2000e,セイシン企業社製)により測定した粒度分布の累積度数が、体積百分率で50%となる粒子径(メジアン径、50%粒子径)とした。
【0053】
〈比表面積〉
粉体分析装置(MONOSORB(登録商標),カンタクローム社製)を用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法で求めた。
【0054】
〈酸素量〉
元素分析装置(FLASH2000,Thermo Fisher Scientific社製)を用いた定量分析により測定した。
【0055】
次に、実施例1および比較例1~3で得られた難黒鉛化性炭素材料を負極材料として用いて評価用のコイン型二次電池(
図1参照)を作製し、各種の評価を行なった。
【0056】
(負極合剤ペーストの調製)
まず、得られた難黒鉛化性炭素材料を負極材料として、負極合剤ペーストを調製した。具体的には、プラネタリーミキサーに、炭素粉末(96質量部)と、ポリビニリデンジフルオライドの12%N-メチルピロリジノン溶液(固形分で4質量部)とを入れ、100rpmで15分間攪拌し、さらに、N-メチルピロリジノンを追加して固形分比が60質量%となるように調整して引き続き15分間攪拌を行い、負極合剤ペーストを調製した。
【0057】
(作用電極(負極)の作製)
調製した負極合剤ペーストを、銅箔上に均一な厚さになるように塗布し、さらに送風乾燥機内に入れて120℃で溶媒を揮発させ、負極合剤層を形成した。次に、負極合剤層をハンドプレスによって加圧し、さらに直径15.5mmの円形状に打ち抜くことで、銅箔からなる集電体に密着した負極合剤層を有する作用電極(負極)を作製した。なお、評価を行う前に、真空中100℃で5時間以上の乾燥を行なった。
作製した作用電極(負極)の電極密度を下記手順で測定した。
【0058】
〈電極密度〉
乾燥後電極質量と厚みを測定し、銅箔質量を除いた質量と厚みから求めた負極合材層体積により電極密度(単位:g/cm3)を求めた。
【0059】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(33体積%)とメチルエチルカーボネート(67体積%)とを混合して得られた混合溶媒に、LiPF6を1mol/dm3となる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0060】
(評価電池の作製)
次に、作製した作用電極(負極)を用いて、
図1に示す評価用のコイン型二次電池(単に「評価電池」ともいう。)を作製した。
図1は、評価用のコイン型二次電池を示す断面図である。
まず、リチウム金属箔をニッケルネットに押し付け、直径15.5mmの円形状に打ち抜くことにより、ニッケルネットからなる集電体7aに密着した、リチウム箔からなる円盤状の対極4を作製した。
次に、電解質溶液が含浸されたセパレータ5を、集電体7bに密着した作用電極(負極)2と、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、外装カップ1と外装缶3との周縁部を、絶縁ガスケット6を介してかしめ、密閉することにより、評価電池を作製した。
作製された評価電池においては、外装カップ1と外装缶3との周縁部が絶縁ガスケット6を介してかしめられ、密閉構造が形成されている。密閉構造の内部には、
図1に示すように、外装缶3の内面から外装カップ1の内面に向けて順に、集電体7a、対極4、セパレータ5、作用電極(負極)2、および、集電体7bが積層されている。
【0061】
(充放電試験)
作製した評価電池について、25℃で以下の充放電試験を行なった。なお、本試験では、リチウムイオンを炭素粉末中にドープする過程を「充電」、炭素粉末から脱ドープする過程を「放電」とした。
まず、0.39mAの電流値で回路電圧が0mVに達するまで定電流充電を行い、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切り替え、さらに、電流値が20μAになるまで充電を続けた。その間の通電量から1回目の充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、120分間休止した。次に、0.39mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から1回目の放電容量(単位:mAh/g)を求めた。
【0062】
〈初期効率〉
上記充放電試験の結果から、下記式に基づいて初期効率(単位:%)を求めた。
初期効率=(1回目の放電容量/1回目の充電容量)×100
【0063】
〈不可逆容量〉
上記充放電試験の結果から、下記式に基づいて不可逆容量(単位:mAh/g)を求めた。
不可逆容量=(1回目の放電容量)-(1回目の充電容量)
【0064】
【0065】
【0066】
上記表1に示す結果から明らかなように、実施例1では比較例1の通常焼成品に比べ、溶剤抽出工程を経ることで、充電容量、放電容量が増加している。比較例2では再不融化工程を経ずに、溶剤抽出工程後焼成を行ったが、充電容量、放電容量の増加は確認されなかった。比較例3では溶剤抽出工程を経ずに、再不融化工程のみ行い、焼成原料酸素濃度を増加させたが、実施例1より低い充電容量、放電容量を示した。よって不融化工程後、溶媒抽出工程および再不融化工程を経ることで、充放電容量を増加させることが分かった。
【符号の説明】
【0067】
1 外装カップ
2 作用電極
3 外装缶
4 対極
5 セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a 集電体
7b 集電体