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特許7191768コンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】コンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221212BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E01D22/00 A
E04G23/02 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019099551
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020193483
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】野村 敬之
(72)【発明者】
【氏名】萩野谷 学
(72)【発明者】
【氏名】村上 勝英
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 博昭
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036627(JP,A)
【文献】特開2004-060197(JP,A)
【文献】特開2017-040119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向において隣合う他の部材との間に隙間を有するよう支持されているコンクリート体に適用され、そのコンクリート体に形成されている樹脂塗膜によって同コンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制するコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造において、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体における地震による揺れに伴って前記他の部材に対し接触する部位の周辺に形成されており、
前記コンクリート体は、外方に露出する外表面を有しており、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体の前記部位における少なくとも外表面側に形成されており、
前記コンクリート体の前記部位は、前記他の部材と対向する対向面を有しており、前記対向面には前記樹脂塗膜が形成されていないことを特徴とするコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造。
【請求項2】
水平方向において隣合う他の部材との間に隙間を有するよう支持されているコンクリート体に適用され、そのコンクリート体に形成されている樹脂塗膜によって同コンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制するコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造において、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体における地震による揺れに伴って前記他の部材に対し接触する部位の周辺に形成されており、
前記コンクリート体は、外方に露出する外表面を有しており、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体の前記部位における前記外表面側のみに形成されていることを特徴とするコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造。
【請求項3】
前記コンクリート体は、水平方向及び鉛直方向に延びる四角板状に形成されて同コンクリート体の水平に延びる方向の端部が前記部位となっているとともに、その部位における端面が前記他の部材と対向する対向面となっており、且つ、前記コンクリート体の厚さ方向の一方側の面が外方に露出する前記外表面となっており、
前記樹脂塗膜は、少なくとも前記部位の外表面における前記対向面と繋がる部分に鉛直方向に延びるように形成されている請求項1又は2に記載のコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造。
【請求項4】
水平方向において隣合う他の部材との間に隙間を有するよう支持されているコンクリート体に適用され、そのコンクリート体に形成されている樹脂塗膜によって同コンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制するコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造において、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体における地震による揺れに伴って前記他の部材に対し接触する部位の周辺に形成されており、
前記コンクリート体は、外方に露出する外表面を有しており、
前記樹脂塗膜は、前記コンクリート体の前記部位における少なくとも外表面側に形成されており、
前記コンクリート体は、水平方向及び鉛直方向に延びる四角板状に形成されて同コンクリート体の水平に延びる方向の端部が前記部位となっているとともに、その部位における端面が前記他の部材と対向する対向面となっており、且つ、前記コンクリート体の厚さ方向の一方側の面が外方に露出する前記外表面となっており、
前記樹脂塗膜は、前記部位の外表面における前記対向面と繋がる部分の上端部及び下端部に形成されていることを特徴とするコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート体としては、建物の外壁として設けられるカーテンウォールなど、水平方向において隣合う他の部材との間に隙間を有するよう支持されたものが知られている。ちなみに、コンクリート体と他の部材との隙間は、予め想定された大きさの地震が生じたとき、その地震によるコンクリート体の揺れに伴って、同コンクリート体が上記他の部材と接触しないようにするためのものである。
【0003】
上述したようにコンクリート体と他の部材との間に上記隙間を形成したとしても、想定された大きさ以上の地震が生じた場合には、その地震によるコンクリート体の揺れが大きくなり、上記隙間ではコンクリート体の他の部材に対する接触を回避することができない。そして、上記接触による衝撃がコンクリート体に加わると、その衝撃によって同コンクリート体からコンクリートが剥落するおそれがある。
【0004】
なお、特許文献1にはコンクリート体に樹脂塗膜を形成することが開示されており、こうした樹脂塗膜によってコンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制することが一般的に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-60197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1には、コンクリート体に樹脂塗膜を形成することについて開示されてはいるものの、その樹脂塗膜をコンクリート体のいずれの部位に形成するかについては明示されていない。このため、特許文献1の技術を適用したとしても、地震によって揺れたコンクリート体が上記他の部材に接触したとき、同コンクリート体における上記接触時の衝撃が伝達される部分に必ずしも上記樹脂塗膜が形成されているとは限らない。従って、コンクリート体からのコンクリートの剥落を上記樹脂塗膜によって抑制できるとは言い切れず、地震による揺れに伴いコンクリート体が上記他の部材と接触したときに同コンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制する点で、更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、地震によって揺れたコンクリート体が他の部材に接触したとき、同コンクリート体からコンクリートが剥落することを抑制できるコンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するコンクリートの剥落抑制構造は、水平方向において隣合う他の部材との間に隙間を有するよう支持されているコンクリート体に適用され、そのコンクリート体に形成されている樹脂塗膜によって同コンクリート体からのコンクリートの剥落を抑制する。上記樹脂塗膜は、コンクリート体における地震による揺れに伴って上記他の部材に対し接触する部位の周辺に形成されている。
【0009】
地震によって揺れたコンクリート体が上記他の部材に接触したとき、同コンクリート体における上記接触時の衝撃が伝達される部分では、コンクリートの剥落が生じやすくなる。しかし、上記構成によれば、コンクリート体における上記部分に樹脂塗膜が形成されているため、その樹脂塗膜によって上記部分からのコンクリートの剥落を抑制することができる。
【0010】
上記剥落抑制構造において、上記コンクリート体は、外方に露出する外表面を有しており、上記樹脂塗膜は、コンクリート体の上記部位における少なくとも外表面側に形成されているものとすることが考えられる。
【0011】
この構成によれば、コンクリート体における上記他の部材との接触による衝撃が伝達される部分のうち、外方に露出する外表面側に樹脂塗膜が形成されているため、その外表面側に存在するコンクリートが、コンクリート体から剥落することを上記樹脂塗膜によって抑制することができる。
【0012】
上記剥落抑制構造において、コンクリート体の上記部位は、上記他の部材と対向する対向面を有しており、上記対向面に樹脂塗膜が形成されていないものとすることが考えられる。
【0013】
上記対向面はコンクリート体と上記他の部材との隙間に面しているため、仮にコンクリート体を上記他の部材の隣に設置した後に樹脂塗膜を形成しようとする場合、その形成が困難になるという問題がある。しかし、上記構成によれば、上記対向面には樹脂塗膜が形成されないため、上述した問題が生じることはない。
【0014】
上記剥落抑制構造において、上記コンクリート体は、水平方向及び鉛直方向に延びる四角板状に形成されて同コンクリート体の水平に延びる方向の端部が上記部位とされる。そして、その部位における端面が上記他の部材と対向する対向面とされ、且つ、コンクリート体の厚さ方向の一方側の面が外方に露出する外表面とされる。更に、上記樹脂塗膜は、少なくとも上記部位の外表面における上記対向面と繋がる部分に上下方向に延びるように形成されている。
【0015】
上述した形状のコンクリート体においては、水平に延びる方向の端部が地震による揺れに伴って上記他の部材に対し接触する部位となり、その部位で上記接触時の衝撃によってコンクリートの剥落が生じやすくなる。上記構成によれば、上記部位の外表面側における上記対向面と繋がる部分に上記樹脂塗膜が上下方向に延びるように形成されているため、上記部位の外表面側でコンクリートが剥落することを上記樹脂塗膜によって抑制することができる。
【0016】
上記剥落抑制構造において、上記コンクリート体は、水平方向及び鉛直方向に延びる四角板状に形成されて同コンクリート体の水平に延びる方向の端部が上記部位とされる。そして、その部位における端面が上記他の部材と対向する対向面とされ、且つ、コンクリート体の厚さ方向の一方側の面が外方に露出する外表面とされる。更に、上記樹脂塗膜は、少なくとも上記部位の外表面における上記対向面と繋がる部分の上端部及び下端部に形成されている。
【0017】
上述した形状のコンクリート体においては、水平に延びる方向の端部が地震による揺れに伴って上記他の部材に対し接触する部位となり、その部位における上端部及び下端部では特に上記接触が生じやすく、その接触時の衝撃によってコンクリートの剥落が生じやすくなる。上記構成によれば、上記部位の外表面側における上記対向面と繋がる部分の上端部及び下端部に上記樹脂塗膜が形成されているため、上記部位の外表面側でコンクリートが剥落することを上記樹脂塗膜によって抑制することができる。
【0018】
上記剥落抑制構造において、上記樹脂塗膜は、コンクリート体の上記部位における上記外表面側のみに形成されているものとすることが考えられる。
この構成によれば、コンクリート体における樹脂塗膜の形成場所を小さく抑えることができるため、その形成が容易になって形成のためのコストを低く抑えることができる。また、設置済みのコンクリート体に対し樹脂塗膜を形成する際、その形成が容易になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地震によって揺れたコンクリート体が他の部材に接触したとき、同コンクリート体からコンクリートが剥落することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】建物におけるプレキャスト板の支持態様を示す側面図。
図2】地震時のプレキャスト板の揺れ態様を示す側面図。
図3】(a)及び(b)は、隣合うプレキャスト板同士を上方から見た状態を示す平面図、及び、建物の外側から見た状態を示す側面図。
図4】建物におけるプレキャスト板の支持態様の他の例を示す側面図。
図5】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図6】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図7】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図8】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図9】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図10】プレキャスト板に対する樹脂塗膜の形成態様の他の例を示す平面図。
図11】コンクリート体の他の例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、コンクリート体におけるコンクリートの剥落抑制構造の一実施形態について、図1図3を参照して説明する。
図1に示されるように、高層建築物といった建物においては、工場で製造された壁材であるプレキャスト板1を複数並べて建物の梁2に支持されるようにし、それらプレキャスト板1によってカーテンウォールと呼ばれる外壁を形成するようにしたものが知られている。このプレキャスト板1は、水平方向及び鉛直方向に延びる四角板状のコンクリート体であって、例えば鉄筋コンクリートによって形成されている。なお、コンクリート体(この例ではプレキャスト板1)を形成するコンクリートとしては、セメントに対し砂利、砂、及び水を混合して凝固させたものが採用される。
【0022】
プレキャスト板1は、地震による建物の揺れに対し追従して揺れるように支持されており、そうした支持の方式として本実施形態ではロッキング方式が採用されている。このロッキング方式では、上記プレキャスト板1が、上側の梁2及び下側の梁2に対し接合金物3を介して支持されている。なお、上側の梁2と下側の梁2とは、上下方向に延びる連結部材4によって互いに連結されている。そして、プレキャスト板1は、水平方向(図1の左右方向)において別のプレキャスト板1や上記連結部材4といった他の部材と隣合っており、そうした隣合う他の部材との間に隙間Sを有するように梁2に支持されている。
【0023】
上記接合金物3は、プレキャスト板1の四隅にそれぞれ対応して設けられており、梁2と直交して水平方向に延びる軸3aを有している。更に、各接合金物3の構造に関しては、プレキャスト板1が軸3a周りに回動可能な構造、且つ、その軸3aの径方向についての所定量分の変位が可能な構造となっている。従って、地震によって建物が揺れることに伴って上側の梁2と下側の梁2とがそれらの延びる方向において互いに逆方向に変位したとき、その変位に応じてプレキャスト板1が梁2に対し傾く方向に揺れる。すなわち、プレキャスト板1が図2に矢印で示す方向に回動したり、同矢印と逆方向に回動したりするように揺れることとなる。
【0024】
こうしたプレキャスト板1の回動方向への揺れは、建物の揺れに応じて各プレキャスト板1毎に個別のタイミングで生じる。このため、回動方向に揺れるプレキャスト板1が隣合う他の部材に対し接近離間する。こうした接近離間に伴う接触が生じないよう上記隙間Sの大きさを設定したとしても、想定以上の大きさの地震が生じたときには、上記プレキャスト板1の揺れが大きくなり、プレキャスト板1が隣合う他の部材と接触することを上記隙間Sによっては回避できないおそれがある。そして、上記接触による衝撃がプレキャスト板1に加わると、その衝撃によって同プレキャスト板1からコンクリートが剥落するおそれがある。
【0025】
次に、プレキャスト板1における上述したコンクリートの剥落を抑制するための構造について説明する。
図3(a)及び図3(b)はそれぞれ、隣合うプレキャスト板1同士を上方から見た状態、及び、建物の外側から見た状態を概略的に示している。これらの図から分かるように、プレキャスト板1においては、コンクリートの剥落を抑制することを目的にポリウレア樹脂からなる樹脂塗膜5が形成されている。ただし、プレキャスト板1に樹脂塗膜5を形成するとしても、その樹脂塗膜5がプレキャスト板1の適切な部位に形成されていないと、同樹脂塗膜5によってコンクリートの剥落を効果的に抑制することはできない。このため、上記樹脂塗膜5は、プレキャスト板1における地震による揺れに伴って隣合う他の部材に対し接触する部位の周辺に形成されている。
【0026】
ちなみに、プレキャスト板1においては、水平方向(図3(a)及び図3(b)の左右方向)の端部6が、隣合う他の部材に対し接触する部位となっている。この部位(端部6)における水平方向の端面は、上記他の部材と対向する対向面6aとなっている。そして、プレキャスト板1は外方(図3(a)の下方)に露出する外表面7を有しており、同プレキャスト板1の端部6における外表面7側の部分であって上記対向面6aと繋がる部分に上記樹脂塗膜5が形成されている。詳しくは、上記樹脂塗膜5は、プレキャスト板1における端部6の外表面7側のみに同プレキャスト板1の上端と下端との間で上下方向に延びるように形成されている。このため、プレキャスト板1における対向面6a及び内側面8(図3(b)の上側の面)には、上記樹脂塗膜5が形成されていない。
【0027】
なお、上記樹脂塗膜5は、プレキャスト板1を建物に支持させる前、例えばプレキャスト板1の工場等での製造時、同プレキャスト板1に対しポリウレア樹脂を塗布することによって形成される。この樹脂塗膜5の水平方向についての幅は、対向面6aにおける図3(a)の上下方向の幅に対し、少なくとも倍の幅とされており、1.5倍以上の幅とすることが好ましく、2倍以上の幅とすることがより好ましい。
【0028】
次に、コンクリート体であるプレキャスト板1におけるコンクリートの剥落抑制構造の作用効果について説明する。
(1)想定以上の大きさの地震による建物の揺れに伴い、プレキャスト板1が図2に矢印で示す方向に回動したり、同矢印と逆方向に回動したりするように揺れると、プレキャスト板1が隣合う他の部材、すなわち隣のプレキャスト板1や連結部材4と接触するおそれがある。そして、プレキャスト板1が上記他の部材に接触したとき、同プレキャスト板1における上記接触時の衝撃が伝達される部分、すなわちプレキャスト板1の端部6では、コンクリートの剥落が生じやすくなる。しかし、プレキャスト板1の上記端部6には樹脂塗膜5が形成されているため、その樹脂塗膜5によって上記衝撃が伝達される部分からのコンクリートの剥落を抑制することができる。
【0029】
(2)上記樹脂塗膜5は、プレキャスト板1の端部6における外表面7側に形成されている。言い換えれば、プレキャスト板1における隣合う他の部材との接触による衝撃が伝達される部分(端部6)のうち、外方に露出する外表面7側に樹脂塗膜5が形成されている。このため、その外表面7側に存在するコンクリートが、プレキャスト板1から剥落することを上記樹脂塗膜5によって抑制することができる。
【0030】
(3)プレキャスト板1の端部6における対向面6aには樹脂塗膜が形成されていない。上記対向面6aはプレキャスト板1と上記他の部材との隙間Sに面しているため、仮にプレキャスト板1を上記他の部材の隣に設置した後、すなわち建物に対し各プレキャスト板1を支持させた後に樹脂塗膜5を形成しようとする場合、その形成が困難になるという問題がある。しかし、上記対向面6aには樹脂塗膜5が形成されないため、上述した問題が生じることはない。
【0031】
(4)四角形板状のプレキャスト板1においては水平方向の端部6が他の部材に対し接触する部位となり、その部位で上記接触時の衝撃によってコンクリートの剥落が生じやすくなる。しかし、上記部位(端部6)の外表面7側における上記対向面6aと繋がる部分に上記樹脂塗膜5が上下方向に延びるように形成されているため、端部6の外表面7側でコンクリートが剥落することを上記樹脂塗膜5によって抑制することができる。
【0032】
(5)上記樹脂塗膜5は、プレキャスト板1の上記部位(端部6)における外表面7側のみに形成されている。この場合、プレキャスト板1における樹脂塗膜5の形成場所を小さく抑えることができるため、その形成が容易になって形成のためのコストを低く抑えることができる。また、建物に対し設置済みのプレキャスト板1に対し樹脂塗膜5を形成する場合もあるが、その場合でも上記樹脂塗膜5の形成を容易に行うことができる。
【0033】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・プレキャスト板1を地震による建物の揺れに対し追従して揺れるように支持する方式としてロッキング方式を例示したが、それに代えてスウェイ方式を採用することも可能である。このスウェイ方式では、図4に示すように、プレキャスト板1の上端部が接合金物9によって上側の梁2に対し固定される一方、プレキャスト板1の下端部が接合金物10を介して下側の梁2に対し同梁2の延びる方向について相対移動可能に連結される。
【0034】
この場合、地震によって建物が揺れることに伴って上側の梁2と下側の梁2とがそれらの延びる方向において互いに逆方向に変位したとき、その変位に応じてプレキャスト板1が梁2の延びる方向(図4の左右方向)に揺れる。これに対し、上側の梁2と下側の梁2とを繋ぐ連結部材4は梁2に対し傾く方向に揺れるため、上記連結部材4と隣合うプレキャスト板1に関しては、同連結部材4の端部6と接触するおそれがある。しかし、こうした接触に伴うプレキャスト板1からのコンクリートの剥落は、樹脂塗膜5によって抑制されるようになる。
【0035】
なお、上記接合金物9と上記接合金物10との位置関係は逆でもよい。この場合、プレキャスト板1は、その下端部が接合金物9によって下側の梁2に対し固定される一方、上端部が接合金物10を介して上側の梁2に対し同梁2の延びる方向について相対移動可能に連結される。
【0036】
・プレキャスト板1において対向面6aと外表面7とが交差する部分を面取りしてもよい。この場合、上記面取りによって形成された面については、外表面7の一部とみなしてもよいし、対向面6aの一部とみなしてもよい。
【0037】
・プレキャスト板1において対向面6aと内側面8とが交差する部分を面取りしてもよい。この場合、上記面取りによって形成された面については、内側面8の一部とみなしてもよいし、対向面6aの一部とみなしてもよい。
【0038】
図5に示すように、樹脂塗膜5については、プレキャスト板1の端部6における外表面7であって、対向面6aと繋がる部分の上端部及び下端部に形成するようにしてもよい。また、上記樹脂塗膜5に関しては、図5に示されるプレキャスト板1の上端部に位置する樹脂塗膜5同士を繋ぐように水平方向に延びていたり、同プレキャスト板1の下端部に位置する樹脂塗膜5同士を繋ぐように水平方向に延びていたりしてもよい。
【0039】
・樹脂塗膜5をプレキャスト板1における内側面8側に形成してもよい。図6は、プレキャスト板1における内側面8側に樹脂塗膜5を形成する場合の例を示している。
・樹脂塗膜5をプレキャスト板1における対向面6aの一部を覆うように形成してもよい。図7は、樹脂塗膜5をプレキャスト板1における対向面6aの一部を覆うように形成する場合の例を示している。
【0040】
図8に示すように、樹脂塗膜5をプレキャスト板1における外表面7全体を覆うように形成してもよい。
図9に示すように、樹脂塗膜5をプレキャスト板1における内側面8全体を覆うように形成してもよい。
【0041】
・樹脂塗膜5は、ポリウレア樹脂以外の樹脂によって形成されていてもよい。
・プレキャスト板1(コンクリート体)を形成するコンクリートとして、セメントに対し砂利、砂、及び水を混合して凝固させた通常のコンクリート以外のもの、例えばセメントに対し砂、及び水を混合して凝固させたモルタルを採用してもよい。更に、軽量気泡コンクリート(ALC)や、押出成形セメント板(ECP)を採用したりすることも可能である。
【0042】
・コンクリ-ト体であるプレキャスト板1は、同板1を形成するコンクリートにタイルや石等の仕上げ材を打ち込んで一体化したものであってもよい。この場合、樹脂塗膜5によってプレキャスト板1からの上記仕上げ材の剥落についても抑制することができる。
【0043】
・樹脂塗膜5をプレキャスト板1における外表面7全体を覆うように形成したり、内側面8全体を覆うように形成したりする場合においても、プレキャスト板1における対向面6aの一部が図10に示すように樹脂塗膜5によって覆われていてもよい。
【0044】
・コンクリート体としてプレキャスト板1を例示したが、それ以外のコンクリート体、例えば橋梁の桁に本発明を適用してもよい。図11に示すように、橋梁においては、複数の橋脚12によって水平方向に延びる複数の桁13が支持されており、それら桁13同士の間に隙間Sが形成されている。そして、桁13における端部の外表面に樹脂塗膜を形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…プレキャスト板、2…梁、3…接合金物、3a…軸、4…連結部材、5…樹脂塗膜、6…端部、6a…対向面、7…外表面、8…内側面、9…接合金物、10…接合金物、12…橋脚、13…桁。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11