(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-09
(45)【発行日】2022-12-19
(54)【発明の名称】円筒形電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/152 20210101AFI20221212BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/167 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/179 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/184 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/186 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20221212BHJP
H01M 50/548 20210101ALI20221212BHJP
【FI】
H01M50/152
H01M50/107
H01M50/167
H01M50/179
H01M50/184 D
H01M50/186
H01M50/342 101
H01M50/548 201
(21)【出願番号】P 2019551010
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038240
(87)【国際公開番号】W WO2019082712
(87)【国際公開日】2019-05-02
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017204463
(32)【優先日】2017-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 心
(72)【発明者】
【氏名】宮田 恭介
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097586(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/157748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10
H01M 50/30
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板がセパレータを介して巻回された電極体と、電解液と、前記電極体及び電解液を収容する有底円筒状の外装缶と、前記外装缶の開口部にガスケットを介してかしめ固定された封口体と、を備える円筒
形電池であって、
前記封口体は、電池内方に突出する環状の突起部を有する弁体、前記突起部の内周部に嵌め合されるとともに外周部にスカート部を有する絶縁板、及び前記絶縁板のスカート部の内周部に固定されるとともに前記弁体の中央部に接続される金属板から構成され、
前記金属板は前記弁体側の第1面及びその反対側の第2面を有し、前記突起部の先端位置が、前記封口体の厚み方向において前記金属板の第2面に達しない位置
であって、前記金属板の第1面に対応する位置か又はそれに達しない位置に設定されている、
円筒形電池。
【請求項2】
前記弁体が電池外部に露出している、請求項
1に記載の円筒形電池。
【請求項3】
前記封口体が前記弁体上に配置された端子キャップを有する、請求項
1に記載の円筒形電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流遮断機構を有する封口体を備えた円筒形電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、弁体、絶縁部材、及び金属体から構成される電流遮断機構を含む封口体を備えた円筒形電池が開示されている。この円筒形電池の封口体では、弁体に環状の突起部が形成され、絶縁部材の外周部にスカート部が形成されている。金属板は絶縁部材のスカート部の内周部に嵌め合されて固定され、この状態で絶縁部材の外周部が弁体の突起部の内周部にかしめ固定される。そして、弁体と金属板の中央部同士が例えばレーザー溶接などによって接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される封口体を備えた円筒形電池では、弁体に形成された突起部の先端が金属板の端面を越えて下方に位置している。そのため、外的衝撃時に封口体が半径方向に押圧される荷重を受けたとき、金属板は弁体の突起部によって全板厚に相当する外周部分で衝撃荷重を受けて、中央部が電池内方へ凸状に屈曲して変形することがある。このように変形した金属板が電池内部の電極体と接触すると、内部短絡が発生するおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、弁体の突起部によって金属板が固定されている封口体を備えた円筒形電池において、封口体が半径方向の荷重を受けたときの金属板の変形を抑制して内部短絡を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る円筒形電池は、正極板と負極板がセパレータを介して巻回された電極体と、電解液と、電極体及び電解液を収容する有底円筒状の外装缶と、外装缶の開口部にガスケットを介してかしめ固定された封口体と、を備える円筒型電池である。封口体は、電池内方に突出する環状の突起部を有する弁体、突起部の内周部に嵌め合されるとともに外周部にスカート部を有する絶縁板、及び絶縁板のスカート部の内周部に固定されるとともに弁体の中央部に接続される金属板を有する。また、金属板は弁体側の第1面及びその反対側の第2面を有する。そして、突起部の先端位置が、封口体の厚み方向において金属板の第2面に達しない位置に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る円筒形電池によれば、突起部の先端位置が、封口体の厚み方向において突起部内周部に絶縁板を介して固定された金属板の第2面に達しない位置に設定されている。これにより、封口体が半径方向の荷重を受けたときでも、弁体が受けた荷重が突起部を介して金属板に伝わりにくくなるため、金属板の屈曲変形が抑制される。その結果、電池の内部短絡を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態である円筒形電池の断面図である。
【
図2】
図2は一部拡大図を含む封口体の断面図である。
【
図3】
図3は端子キャップを含む封口体を備えた別実施形態の円筒形電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態である円筒形電池10の断面図である。
図2は、一部拡大図を含む封口体20の断面図である。円筒形電池10は、例えば、非水電解質二次電池である。
【0011】
図1に示すように、円筒形電池10は、有底円筒状の外装缶12の内部に電極体14と図示しない電解液を収容して構成される。外装缶12の開口部にガスケット16を介して封口体20がかしめ固定されている。これにより電池内部が密封される。
【0012】
封口体20は、弁体22、絶縁板24、及び金属板26から構成されている。封口体20は、電流遮断機構を構成する。弁体22と金属板26は、それらの中心部同士が接続されており、それらの外周部の間に絶縁板24が介在している。本実施形態では、弁体22が電池外部に露出しており、外部端子(より詳しくは正極端子)として機能する。
【0013】
電流遮断機構は次のように作動する。金属板26には通気孔26aが設けられており、絶縁板24には通気孔24aが設けられている。そのため、電池内圧が上昇すると、弁体22が通気孔26a,24aを介して、その圧力を受ける。その結果、電池内圧の上昇に伴って、弁体22が金属板26との接続部25を電池外方へ引っ張るように作用する。そして電池内圧が所定値に達すると金属板26の弁体22との接続部25又は金属板26に設けられた薄肉部26b(
図2参照)が破断して、弁体22と金属板26との間の電流経路が遮断される。その後、電流遮断機構の作動後さらに電池内圧が上昇すると、弁体22に設けられた傾斜領域23の最薄肉部23aが起点となって弁体22が破断して、電池内部のガスが排出される。
【0014】
弁体22はアルミニウム又はアルミニウム合金の板材のプレス加工により作製することができる。アルミニウム及びアルミニウム合金は可撓性に優れているため弁体22の材料として好ましい。弁体22の電池内方側の面にその中心部と外周部にそれぞれ突出部22bと突起部22cが設けられている。中心部の突出部22bは金属板26との接続を容易にするとともに、弁体22と金属板26との間に絶縁板24が介在するためのスペースを与えることができる。
【0015】
外周部の突起部22cは、平面形状が環状となるように形成されている。突起部22cは絶縁板24を介して金属板26を固定している。なお、突起部22cは、周方向に連続した円環状に設けられてもよいし、あるいは、周方向に間隔を空けて断続的に設けられてもよい。
【0016】
弁体22の電池内方側の面には、内周部から外周部へ半径方向に沿って厚みが連続的に減少する傾斜領域23が形成されている。傾斜領域23の外周部は、厚みが最も薄い最薄肉部23aとなっている。傾斜領域23の下方には、断面三角状の空間が平面視で環状に形成され、この空間が絶縁板24の通気孔24a及び金属板26の通気孔26aと連通している。
【0017】
絶縁板24は絶縁性を確保することができ、電池特性に影響を与えない材料を用いることができる。絶縁板24に用いられる材料としてはポリマー樹脂が好ましく、ポリプロピレン(PP)樹脂やポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂が例示される。
【0018】
図1及び
図2に示すように、絶縁板24を介して弁体22の突起部22cが金属板26を固定できるように、絶縁板24は外周部に電池内方へ伸びるスカート部24bを有している。スカート部24bの内周部に金属板26が配置されるため、弁体22の突起部22cが絶縁板24を介して金属板26を固定することが可能となる。スカート部24bの先端は、弁体22の中央部側、すなわち、突出部22b側へ折り曲げられてもよい。これにより、金属板26の外周に設けたフランジ部26cにスカート部24bの先端が係合した状態で組み付けられ、絶縁板24に対する金属板26の位置ズレを確実に防止することができる。
【0019】
封口体20は、次のようにして組み立てられる。まず、封口体20を構成する弁体22、絶縁板24、及び金属板26を準備する。次に、絶縁板24のスカート部24bの内側に金属板26を嵌め合わせ、続いて、弁体22の突起部22cの内側に絶縁板24を嵌め合わせる。そして、弁体22の突起部22cが絶縁板24を介して金属板26を固定するように突起部22cを中心側へプレスする。このとき、突起部22cの内周側面が円筒形電池10の軸方向(電極体14の巻回軸方向)に対して所定角度(例えば20°程度)内側へ傾斜するようにプレスして、金属板26を固定するのが好ましい。なお、上記の部材を嵌め合わせる2つの手順は順序を入れ替えてもよい。
【0020】
弁体22と金属板26との接続は上記の手順を完了した後に行うことが好ましい。弁体22と金属板26が互いに固定された状態で接続することが可能になるため、接続強度のばらつきが低減される。なお、金属板26には弁体22と同様にアルミニウム又はアルミニウム合金を用いることが好ましい。これにより弁体22と金属板26の接続が容易になる。接続方法としてはレーザー溶接を用いることが好ましい。
【0021】
図2に示すように、金属板26は弁体22側の第1面27a及びその反対側の第2面27bを有している。そして、弁体22の突起部22cの先端28の位置が、封口体20の厚み方向において金属板26の第2面27bに達しない位置に設定されている。封口体20の厚み方向は円筒形電池10の軸方向に一致する。換言すれば、弁体22の凹部22dの底面から突起部22cの先端28までの高さ寸法をH、金属板26の厚みをT1、絶縁板24の厚みをT2としたとき、上記高さ寸法Hは金属板26の厚みT1と絶縁板24の厚みT2との和よりも小さく設定されている。さらに換言すれば、
図1に示す円筒形電池10において封口体20が配置されている側を「上」、電極体14が配置されている側を「下」としたとき、弁体22の突起部22cの先端28の位置は、金属板26の第2面27bより上方に位置している。なお、弁体22には薄肉部26bやフランジ部26cのように厚みの薄い部分が存在するが、第1面27a及び第2面27bは弁体22の最も厚みの厚い平板部分の表面から選択される。
【0022】
本実施形態では、突起部22cの先端28の位置が、封口体20の厚み方向において金属板26の第1面27aに達しない位置に設定されている例が示されている。すなわち、この場合には、突起部22cの高さ寸法Hは、絶縁板24の厚みT2(例えば、0.4mm)より小さく設定されている。ただし、これに限定されるものではなく、突起部22cの先端28の位置は、金属板26の第1面27aに対応する位置(すなわちH=T2)に設定されてもよい。あるいは、突起部22cの先端28の位置は、
図2中のA部拡大図において一点鎖線で示すように、金属板26の厚みT1(例えば、0.6mm)の範囲内に対応する位置(すなわちT2<H<(T1+T2))に設定されてもよい。
【0023】
このように本実施形態の円筒形電池10の封口体20では、絶縁板24を介して金属板26を固定する弁体22の突起部22cの先端28の位置が、封口体20の厚み方向において金属板26の第2面27bの位置に達しない位置に設定されている。この構成によれば、外的衝撃時に封口体20が半径方向の荷重を受けたとき、弁体22が受けた荷重が突起部22cを介して金属板26に伝わりにくくなるため、金属板26の屈曲変形が抑制される。その結果、変形した金属板26が電極体14に接触することに起因する内部短絡の発生を抑制することができる。
【0024】
次に、電極体14について説明する。本実施形態では
図1に示すように正極板30と負極板32をセパレータ34を介して巻回して形成した電極体14を用いている。
【0025】
正極板30は、例えば次のようにして作製することができる。まず、正極活物質と結着剤を分散媒中で均一になるように混練して、正極合剤スラリーを作製する。結着剤にはポリフッ化ビニリデンを分散媒にはN-メチルピロリドンを用いることが好ましい。正極合剤スラリーには黒鉛やカーボンブラックなどの導電剤を添加することが好ましい。この正極合剤スラリーを正極集電体上に塗布、乾燥して正極合剤層が形成される。その際、正極集電体の一部に正極合剤層が形成されていない正極集電体露出部が設けられる。次に、正極合剤層をローラーで所定厚みに圧縮し、圧縮後の極板を所定寸法に切断する。最後に、正極集電体露出部に正極リード31を接続して正極板30が得られる。
【0026】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出することができるリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、一般式LiMO2(MはCo、Ni、及びMnの少なくとも1つ)、LiMn2O4及びLiFePO4が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができ、Al、Ti、Mg、及びZrからなる群から選ばれる少なくとも1つを添加して、又は遷移金属元素と置換して用いることもできる。
【0027】
負極板32は、例えば次のようにして作製することができる。まず、負極活物質と結着剤を分散媒中で均一になるように混練して、負極合剤スラリーを作製する。結着剤にはスチレンブタジエン(SBR)共重合体を、分散媒には水を用いることが好ましい。負極合剤スラリーにはカルボキシメチルセルロースなどの増粘剤を添加することが好ましい。この負極合剤スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥して負極合剤層が形成される。その際、負極集電体の一部に負極合剤層が形成されていない負極集電体露出部が設けられる。次に、負極合剤層をローラーで所定厚みに圧縮し、圧縮後の極板を所定寸法に切断する。最後に、負極集電体露出部に負極リード33を接続して負極板32が得られる。
【0028】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出することができる炭素材料や金属材料を用いることができる。炭素材料としては、天然黒鉛及び人造黒鉛などの黒鉛が例示される。金属材料としては、ケイ素及びスズ並びにこれらの酸化物が挙げられる。炭素材料及び金属材料は単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
セパレータ34として、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)のようなポリオレフィンを主成分とする微多孔膜を用いることができる。微多孔膜は1層単独で又は2層以上を積層して用いることができる。2層以上の積層セパレータにおいては、融点が低いポリエチレン(PE)を主成分とする層を中間層に、耐酸化性に優れたポリプロピレン(PP)を表面層とすることが好ましい。さらに、セパレータ34には酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)及び酸化ケイ素(SiO2)のような無機粒子を添加することができる。このような無機粒子はセパレータ中に担持させることができ、セパレータ表面に結着剤とともに塗布することもできる。
【0030】
非水電解液として、非水溶媒中に電解質塩としてのリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0031】
非水溶媒として、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状カルボン酸エステルを用いることができ、これらは2種以上を混合して用いることが好ましい。環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネート(BC)が例示される。また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)のように、水素の一部をフッ素で置換した環状炭酸エステルを用いることもできる。鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)及びメチルプロピルカーボネート(MPC)などが例示される。環状カルボン酸エステルとしてはγ-ブチロラクトン(γ-BL)及びγ-バレロラクトン(γ-VL)が例示され、鎖状カルボン酸エステルとしてはピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、メチルイソブチレート及びメチルプロピオネートが例示される。
【0032】
リチウム塩として、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiAsF6、LiClO4、Li2B10Cl10及びLi2B12Cl12が例示される。これらの中でもLiPF6が特に好ましく、非水電解液中の濃度は0.5~2.0mol/Lであることが好ましい。LiPF6にLiBF4など他のリチウム塩を混合することもできる。
【0033】
以下、本実施形態に係る円筒形電池10の実施例について詳細に説明する。
【0034】
(実施例1)
(封口体の作製)
図2に示した封口体20を次のように作製した。弁体22及び金属板26はそれぞれ金属製の板材をプレス加工により所定の形状に成型した。弁体22及び金属板26には、アルミニウムを用いた。金属板26の厚みT1は、0.6mmとした。絶縁板24は、熱可塑性樹脂であるポリプロピレン製の板材を環状に打ち抜いた後、
図2に示す断面形状となるように熱成型するとともに通気孔24aを形成した。絶縁板24の厚みT2は0.4mmとした。
【0035】
弁体22の中央部と外周部にはそれぞれ突出部22bと突起部22cを形成した。この段階では突起部22cは弁体22の平面部に対して垂直方向に突出している。凹部22dの底面からの突起部22cの高さ寸法Hは0.8mmに形成した。突起部22cは、1つの円環状の突起から構成した。また、突出部22bの周囲に傾斜領域23を形成した。この傾斜領域23の外周部の最薄肉部23aが、電池内圧が上昇して弁体22が安全弁として機能する際に破断の起点となる。
【0036】
金属板26の中心部には厚みの薄い領域を形成し、その領域内に平面形状が環状で、断面形状がV字状の薄肉部26bを形成した。この薄肉部26bは電流遮断部として機能する。また、金属板26には通気孔26aを打ち抜き形成した。
【0037】
上記のように作製した金属板26を、絶縁板24が金属板26を保持するように絶縁板24のスカート部24bの内周部に嵌め合わせた。次に、弁体22の突起部22cの内周部に金属板26を保持した絶縁板24を嵌め合わせ、突起部22cを内周方向にプレスすることにより突起部22cで金属板26をかしめ固定した。かしめ固定後に弁体22の突出部22bと金属板26をレーザー溶接により接続した。このようにして封口体20を作製した。
【0038】
(正極板の作製)
正極活物質としてLiNi0.91Co0.06Al0.03で表されるリチウムニッケル複合酸化物を用いた。100質量部の正極活物質と、1質量部の導電剤としてのアセチレンブラック(AB)と、1質量部の結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を混合した。この混合物を分散媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混練して正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを厚み13μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し乾燥して正極合剤層を形成した。その際、正極集電体の一部に正極合剤層が形成されていない正極集電体露出部を設けた。次に、正極合剤層を充填密度が3.6g/cm3になるようにローラーで圧縮し、圧縮後の極板を所定寸法に切断した。最後に、正極集電体露出部にアルミニウム製の正極リード31を接続して正極板30を作製した。
【0039】
(負極板の作製)
負極活物質として93質量部の黒鉛と7質量部の酸化ケイ素(SiO)の混合物を用いた。100質量部の負極活物質と、1質量部の増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、1質量部の結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)を混合した。その混合物を分散媒としての水中で混練して負極合剤スラリーを調製した。この負極合剤スラリーを厚み6μmの銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し乾燥して負極合剤層を形成した。その際、負極集電体の一部に負極合剤層が形成されていない負極集電体露出部を設けた。次に、負極合剤層を充填密度が1.65g/cm3となるようにローラーで圧縮し、圧縮後の極板を所定寸法に切断した。最後に、負極集電体露出部にニッケル製の負極リード33を接続して負極板32を作製した。
【0040】
(電極体の作製)
正極板30と負極板32を、セパレータ34を介して巻回することにより電極体14を作製した。セパレータ34には、片面にポリアミドとアルミナ(Al2O3)のフィラーを含む耐熱層が形成されたポリエチレン製の微多孔膜を用いた。
【0041】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、及びエチルメチルカーボネート(EMC)を混合して非水溶媒を調製した。この非水溶媒に電解質塩としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/Lの濃度になるように溶解して非水電解液を調製した。
【0042】
(円筒形電池の組立)
図1に示すように、電極体14の下部に下部絶縁板36を配置し、電極体14を有底円筒状の外装缶12へ挿入した。負極リード33は外装缶12の底部に抵抗溶接により接続した。次に、電極体14の上部に上部絶縁板38を配置し、外装缶12の開口部の近傍にU字状の溝部13を円周方向に塑性加工によって形成した。そして、正極リード31を金属板26に接続し、外装缶12に形成された溝部13にガスケット16を介して封口体20をかしめ固定することにより、外径が21mm、高さが70mmの円筒形電池を作製した。
【0043】
(実施例2)
弁体22における突起部22cの高さ寸法Hを0.6mmとしたこと以外は実施例1と同様に実施例2に係る円筒形電池を作製した。
【0044】
(実施例3)
弁体22における突起部22cの高さ寸法Hを0.4mmとしたこと以外は実施例1と同様に実施例3に係る円筒形電池を作製した。
【0045】
(実施例4)
弁体22における突起部22cの高さ寸法Hを0.2mmとしたこと以外は実施例1と同様に実施例4に係る円筒形電池を作製した。
【0046】
(比較例1)
弁体22における突起部22cの高さ寸法Hを1.2mmとしたこと以外は実施例1と同様に比較例1に係る円筒形電池を作製した。この場合、金属板26の厚みT1が0.6mm、絶縁板24の厚みT2が0.4mm、合計1.0mmであるため、弁体22に絶縁板24を介して固定された金属板26の第2面27bよりも下方に突起部22cの先端28が約0.2mm程度飛び出した状態になった。
【0047】
(比較例2)
弁体22における突起部22cの高さ寸法Hを1.0mmとしたこと以外は実施例1と同様に比較例2に係る円筒形電池を作製した。この場合、金属板26の厚みT1が0.6mm、絶縁板24の厚みT2が0.4mm、合計1.0mmであるため、弁体22に絶縁板24を介して固定された金属板26の第2面27bと同じ高さ(または面一)に突起部22cの先端28が位置した状態になった。
(平板圧壊試験)
【0048】
実施例1~4及び比較例1~2に係る各電池10個ずつについて平板圧壊試験を行い、試験後の電池を分解して封口体20の金属板26の変形状態を確認した。具体的には、まず、25℃の環境下で、0.3It(=1050mA)の定電流で電池電圧が4.2Vになるまで円筒形電池を充電した。その充電した円筒形電池を20cm×20cmの正方形のステンレス板で、荷重20kN、スピード30mm/秒の条件で10秒圧壊して、試験後の電池の分解を行った。また、圧壊方向は円筒形電池の胴体部分(すなわち外装缶12の側面)の方向から加圧した。その結果を下記の表1に示す。
【0049】
【0050】
表1に示すように、実施例1~4及び比較例1~2の試験結果から、突起部22cの高さ寸法Hが低くなればなるほど圧壊試験後の金属板26の変形が発生しにくく電極体14と接触するリスクが小さくなっていることが分かる。特に、突起部22cの高さ寸法Hが0.8mm以下となり、弁体22の突起部22cの先端28が金属板26の第2面27bよりも上方に位置するように設定した場合に、金属板26の変形による電極体14との接触発生率が大きく減っていた。これは、突起部22cの高さ寸法Hを短くすることで、圧壊時における突起部22cによる金属板26の変形挙動を安定化できることで、電極体14との接触リスクを抑制できるためと考えられる。これらの結果から、突起部22cの先端28の位置は、金属板26の第2面27bに達しない位置に設定されるのが好ましく、金属板26の第1面27aに対応する位置か又はそれに達しない位置に設定されていることがより好ましいといえる。
【0051】
なお、本発明に係る円筒形電池は、上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、種々の変更や改良が可能である。
【0052】
例えば、上記においては弁体22が円筒形電池10の外部に露出して外部端子として機能する場合について説明したが、これに限定されない。
図3に示す円筒形電池10Aのように、弁体22上に端子キャップ29を配置して、この端子キャップ29を外部端子として用いるタイプの封口体20Aを備えてもよい。この場合、端子キャップ29は中央部が略円柱状に膨出して形成され、図示しない通気孔が設けられている。また、端子キャップ29は、外周部がガスケット16を介して外装缶12の上端部にかしめ固定されている。このように端子キャップ29を有する封口体20Aを備えた円筒形電池10Aによっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0053】
10,10A 円筒形電池、12 外装缶、13 溝部、14 電極体、16 ガスケット、20,20A 封口体、22 弁体、22b 突出部、22c 突起部、22d 凹部、23 傾斜領域、23a 最薄肉部、24 絶縁板、24a,26a 通気孔、24b スカート部、25 接続部、26 金属板、26b 薄肉部、26c フランジ部、27a 第1面、27b 第2面、28 先端、29 端子キャップ、30 正極板、31 正極リード、32 負極板、33 負極リード、34 セパレータ、36 下部絶縁板、38 上部絶縁板。